(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数本の素線を撚り合わせてなる複合電線であって、前記複合電線には、アルミニウム材料中にカーボンナノチューブが分散してなる複合材料を用いた線材からなる、カーボンナノチューブを含むアルミニウム素線を含み、
前記カーボンナノチューブを含むアルミニウム素線が、カーボンナノチューブを含む隔壁部と、前記隔壁部に覆われ、アルミニウム材料と不可避不純物からなる隔壁内部と、を有するセルレーション構造を有し、
前記カーボンナノチューブを含むアルミニウム素線において、前記カーボンナノチューブの前記アルミニウム材料に対する配合比が0.2重量%以上5重量%以下の範囲であり、
前記カーボンナノチューブを含むアルミニウム素線の前記隔壁内部の少なくとも一部が、複数の結晶粒を持つ多結晶状であり、
前記カーボンナノチューブを含むアルミニウム素線の引張強さが、150MPa以上であり、
前記カーボンナノチューブを含むアルミニウム素線の293Kでの線膨張係数が、10X10-6/K以下であり、
前記複合電線が全て前記カーボンナノチューブを含むアルミニウム素線で構成されるか、または前記複合電線の中心部に1本または複数本の鋼線を有することを特徴とする複合電線。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、線材でない。また、そのために組織に異方性がない。一般に、電気伝導線では長手方向と長手方向に垂直な方向とでは求められる機械強度が異なる。少ない添加量で長手方向と長手方向に垂直な方向とに対して、必要な強度、特に耐屈曲性を得るためには組織に異方性を持たせることが効果的である。特許文献1に記載の発明は、組織に異方性を付与することが容易ではない。
【0012】
また、特許文献2に記載の発明では、最終生成物における材料組織は、金属組織とカーボンナノチューブ組織とは別の組織であり、それらの別組織が単純に隣接して複合された構造となっている。そのため、カーボンナノチューブと金属との電気的接続や熱的接続が十分に確保できないという問題を抱えている。すなわち、特許文献2に記載の発明では、カーボンナノチューブの持つ優れた電気伝導性や熱伝導性を十分に生かすことができていなかった。
【0013】
さらに、特許文献1に記載の発明においては、金属組織に取り込まれたカーボンナノチューブ組織が複数のカーボンナノチューブが互いに絡まった状態となっている。そのため、カーボンナノチューブ自体は直径が細いものであっても、カーボンナノチューブ組織は数μmのオーダーとなる。このオーダーの組織は、金属材料中で異物とみなされる。一般に金属に異物が存在すると、異物と金属材料の界面に応力集中が起こり異物を起点に割れが進行してしまう。すなわち、特許文献1に記載の発明は内部に多量の異物を含む組織構造となっている。そのため、塑性加工には不向きとなり、結果、特許文献1の手法ではカーボンナノチューブと金属と最適な構造に複合化することが困難となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることはカーボンナノチューブが分散されたアルミニウム材料であって、高い機械強度と優れた導電性を有する複合材料を用いた線材を撚り合わせてなる、低弛度増容量の複合電線を提供することである。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
(1)複数本の素線を撚り合わせてなる複合電線であって、前記素線には、アルミニウム材料中にカーボンナノチューブが分散してなる複合材料を用いた線材を含み、前記線材が、カーボンナノチューブを含む隔壁部と、前記隔壁部に覆われ、アルミニウム材料と不可避不純物からなる隔壁内部と、を有するセルレーション構造を有し、前記線材において、前記カーボンナノチューブの前記アルミニウム材料に対する配合比が0.2重量%以上5重量%以下の範囲であり、前記線材の引張強さが、150MPa以上であり、前記線材の293Kでの線膨張係数が、10×10
−6/K以下であり、前記複合電線を構成する素線の全てが前記線材であるか、または前記複合電線の中心部に1本または複数本の鋼線を有することを特徴とする複合電線。
(2)前記線材において、前記線材の長手方向に垂直な断面では、類似のセルレーション構造が繰り返す構造を有しており、前記線材の前記隔壁内部の形状が、前記線材の長手方向に長く、前記線材の長手方向に垂直な方向には短い構造を有しており、少なくとも一部の前記隔壁部が、前記隔壁部の長手方向が前記複合線材の長手方向と略並行である略筒形状であることを特徴とする(1)に記載の複合電線。
(3)前記線材において、前記線材の前記隔壁内部の少なくとも一部が、複数の結晶粒を持つ多結晶状であることを特徴とする(1)または(2)に記載の複合電線。
(4)前記線材において、前記線材の前記隔壁部が、複数のカーボンナノチューブからなる織物状構造を有しており、前記織物状構造が前記隔壁内部由来のアルミニウム材料を内包しており、前記隔壁部を構成する各カーボンナノチューブが、前記隔壁内部の表面のアルミニウム材料に接すると同時に、別のカーボンナノチューブに接した状態であって、かつ、前記線材の長手方向に平行な断面と垂直な断面の双方に前記セルレーション構造を有することを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の複合電線。
(5)前記線材が、カーボンナノチューブを含み、前記セルレーション構造を有する芯部と、前記芯部よりもカーボンナノチューブの濃度が低いか、カーボンナノチューブを含まず、前記セルレーション構造を有しない外装部とを有することを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の複合電線。
(6)前記線材が、アルミニウム材料と不可避不純物からなり、前記セルレーション構造を有しない領域と、カーボンナノチューブを含み、前記セルレーション構造を有する領域と、を交互に同心円状に有することを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の複合電線。
(7)前記線材において、前記線材の前記隔壁部は、前記隔壁内部よりもカーボンナノチューブを多く含むことを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載の複合電線。
(8)前記線材において、前記線材の前記隔壁部の酸化アルミニウム濃度が前記隔壁内部の酸化アルミニウム濃度よりも高いことを特徴とする(1)から(7)のいずれかに記載の複合電線。
(9)前記線材において、前記線材の長手方向と垂直な断面において、前記セルレーション構造の複数の前記隔壁部が互いに接しており、前記線材の前記隔壁部の構造が、一部に直線を有する円または楕円形状、または複数の直線で構成される略多角形状を有し、前記線材の長手方向に垂直な断面では、類似のセルレーション構造が繰り返す構造を有することを特徴とする(1)から(8)のいずれかに記載の複合電線。
(10)前記線材において、前記カーボンナノチューブに、前記カーボンナノチューブの長手方向に垂直な方向に応力が加えられ、前記カーボンナノチューブの長手方向に垂直な断面が変形しているか、前記カーボンナノチューブが折れ曲がるか、のいずれかまたは両方が引き起こされていることを特徴とする(1)から(9)のいずれかに記載の複合電線。
(11)前記線材において、前記線材の前記隔壁部が、長さ1μm以下のカーボンナノチューブを含み、前記線材の複数の前記隔壁内部が、長さ10μm以上のカーボンナノチューブで連結されていることを特徴とする(1)から(10)のいずれかに記載の複合電線。
(12)前記線材において、前記カーボンナノチューブが、長さ1μm以下のカーボンナノチューブと長さ10μm以上のカーボンナノチューブを含み、長さ分布に1μm以下と、10μm以上の二つのピークを持つことを特徴とする(1)から(11)のいずれかに記載の複合電線。
(13)前記素線が、アルミニウム線またはアルミニウム合金線のいずれか一方または両方と、前記線材との組み合わせであることを特徴とする(1)から(12)のいずれかに記載の複合電線。
(14)前記線材の引張り強度がアルミニウム以上であって、前記線材の電気伝導度がアルミニウムの電気伝導度の90%以上であることを特徴とする(1)から(13)のいずれかに記載の複合電線。
(15)前記線材の線膨張係数が、アルミニウム以下であって、前記線材の電気伝導度がアルミニウムの電気伝導度の90%以上であることを特徴とする(1)から(14)のいずれかに記載の複合電線。
(16)前記線材の溶融温度が、アルミニウム以上であって、前記線材の電気伝導度がアルミニウムの電気伝導度の90%以上であることを特徴とする(1)から(15)のいずれかに記載の複合電線。
(17)(1)から(16)のいずれかに記載の複合電線を樹脂で被覆したことを特徴とする複合電線。
(18)エラストマーと、アルミニウム材料の粒子と、カーボンナノチューブと、を混合して混合物を得る工程(a)と、前記混合物を熱処理し、前記エラストマーを分解気化させて原材料を得る工程(b)と、前記原材料を焼結し、ビレットを得る工程(c)と、前記ビレットをダイスより引抜き、複合材料を用いた線材を得る工程(d)と、前記線材を含む素線を撚り合わせる工程(e)と、を含む、複合電線の製造方法。
(19)エラストマーと、アルミニウム材料の粒子と、カーボンナノチューブと、を混合して混合物を得る工程(a)と、前記混合物を熱処理し、前記エラストマーを分解気化させて原材料を得る工程(b)と、前記原材料を焼結し、ビレットを得る工程(c)と、前記ビレットを熱間押出しし、複合材料を用いた線材を得る工程(d)と、前記線材を含む素線を撚り合わせる工程(e)と、を含む、複合電線の製造方法。
(20)エラストマーと、アルミニウム材料の粒子と、カーボンナノチューブと、を混合して混合物を得る工程(a)と、前記混合物を熱処理し、前記エラストマーを分解気化させて原材料を得る工程(b)と、前記原材料を焼結し、ビレットを得る工程(c)と、前記ビレットを熱間押出しし、押出材を得る工程(d)と、前記押出材をダイスより引抜き、複合材料を用いた線材を得る工程(e)と、前記線材を含む素線を撚り合わせる工程(f)と、を含む、複合電線の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることはカーボンナノチューブが分散されたアルミニウム材料であって、高い機械強度と優れた導電性を有する複合材料を用いた線材を撚り合わせてなる、低弛度増容量の複合電線を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、それぞれの図面は模式図であり、各構成要素の大きさを正確に表したものではない。
【0019】
(本発明に係る複合電線の構造)
本発明に係る複合電線61について説明する。
図1(a)に示す複合電線61は、アルミニウム材料中にカーボンナノチューブが分散してなる複合材料を用いた線材1を撚り合わせてなる。なお、複合電線61は、37本の線材1のみを撚り合わせているが、撚り合わせる数は、用途に応じて適宜調整できる。
【0020】
このような複合電線61によれば、従来のACSRよりも軽量となり、また、最小引張荷重も従来のACSRとほぼ同等以上の強度となる。強度が同等で電線が軽量であるため、低弛度で架線することができる。これにより、鉄塔高さを高くせずに電流容量を増加させることが可能となる。
【0021】
また、
図1(b)に示すように、亜鉛めっき鋼線65を中心にし、複合材料を用いた線材1を36本撚り合わせた複合電線63として用いることもできる。
このような複合電線63によれば、送電線の線下で山火事などが発生した場合は、送電線の温度が上昇した場合においても、撚り線の中心素線に亜鉛めっき鋼線を使用することで、線下火災においても撚り線が断線することを防止する。中心素線に亜鉛めっき鋼線を使用した場合においても電線質量の増加は小さく、既設ACSRよりも低弛度で架線することが可能となる。なお、
図1(c)に示す複合電線67のように、中心部に、撚り合わされた7本の亜鉛めっき鋼線65を有してもよい。
【0022】
さらに、
図1(d)に示すように、複合材料を用いた線材1と、カーボンナノチューブを含まないアルミニウム合金線71とを寄り合わせた複合電線69として用いることもできる。
複合電線69は、ACARのアルミ合金線および硬アルミ線の代わりまたは、アルミ合金線の代わりに複合材料を用いた線材1を用いることにより、ACARよりも低弛度、増容量を可能にすることができる。
【0023】
(本発明に係る複合材料を用いた線材)
線材1は、アルミニウム材料中にカーボンナノチューブが分散してなる複合材料を用いた線材であり、セルレーション構造7を有する。
【0024】
(セルレーション構造)
図2(a)に示すとおり、セルレーション構造7は、隔壁部5と隔壁内部3とを有する構造であり、隔壁部5はカーボンナノチューブを含み、隔壁内部3はアルミニウム材料と不可避不純物よりなる。なお、
図2(a)中の矢印は、
図2(a)の上半分の図が、
図2(a)下半分の図に描かれた線材1の断面の一部を拡大した模式図であることを意味する。また、隔壁内部3の、線材1の長手方向に垂直な方向の大きさが5μm以下であり、おおむね0.3〜3μm程度である。なお、図面中では隔壁内部3の大きさを同一としているが、実際には様々な大きさの隔壁内部3を有していてもよい。また、図面中では7つの隔壁内部3のみを図示しているが、実際には多数の隔壁内部3と隔壁部5が存在し、長大なセルレーション構造7を形成している。セルレーション構造の隔壁部は結晶粒界と対応することがあるが、必ずしも全ての結晶粒界が隔壁部と対応しなくても良い。また、隔壁部を跨いで結晶粒界が構成されても良い。さらに、セルレーション構造の内部あるいは外部に、結晶粒界が存在していても良い。また、
図2(b)に示すセルレーション構造7aのように、一部の隔壁内部3が複数の結晶粒8で構成されてもよい。隔壁内部3の結晶粒8は、焼結前のアルミニウム材料粒子が多結晶の粒子である場合に、その結晶構造に由来して生じたり、加工中に生じたりする。結晶粒8の間の粒界には、カーボンナノチューブがほとんど含まれない。
【0025】
セルレーション構造7は、直径1〜100μmで、表面にカーボンナノチューブが付着したアルミニウム材料粒子を、焼結することにより得られる。各隔壁内部3は、焼結前のアルミニウム材料粒子に由来し、隔壁部5は、焼結前のアルミニウム材料粒子の表面に由来する。
【0026】
線材1の長手方向に垂直な断面では、類似のセルレーション構造7が繰り返す構造を有していることが好ましい。また、隔壁内部3が、長手方向に長く、長手方向に垂直な方向には短い、高いアスペクト比を有していることが好ましい。例えば、隔壁内部3の長手方向の長さは、長手方向に垂直な方向の長さより長いことが望ましく、さらに100倍程度長いことが好ましい。なお、隔壁部5が、前記隔壁部の長手方向が前記線材の長手方向と略並行である略筒形状であることが好ましく、さらに、隔壁部5が、線材1の長手方向に開口部を有していてもよい。線材1の線引きなどの加工時に、隔壁部5も引き伸ばされ、開口部が生じる可能性があるためである。また、セルレーション構造の内部あるいは外部に、結晶粒界が存在していても良い。線材1の線引きなどの加工時に、結晶粒の微細化が起こるためである。また,隔壁部を跨いで結晶粒界が構成されても良い。線材1の焼きなましなどの加工時に、結晶が成長して、隔壁部を結晶粒界が跨ぐことがあるためである。
【0027】
(織物状構造)
隔壁部5は、複数のカーボンナノチューブからなる織物状構造を有しており、織物状構造が隔壁内部3に由来するアルミニウム材料を内包しており、隔壁部5を構成する各カーボンナノチューブがアルミニウム材料と接すると同時に、別のカーボンナノチューブと接した状態であって、かつ、線材の長手方向に平行な断面と垂直な断面の双方に前記セルレーション構造を有する3次元のセルレーション構造を形成する。また、前記線材の長手方向に平行な断面を観察すると、アルミニウム材料中の不可避不純物の、線引き時に生じた流動跡が残存することがある。
【0028】
また、隔壁部5を構成するカーボンナノチューブに、長手方向に垂直な方向(短手方向とも呼ばれる)に応力が加えられ、カーボンナノチューブの長手方向に垂直な断面が変形しているか、カーボンナノチューブが折れ曲がるか、のいずれかまたは両方が引き起こされていることが好ましい。カーボンナノチューブに、長手方向のみに引張応力が加えられる状態では、カーボンナノチューブが多層である場合、最外層のカーボンナノチューブのみが引っ張りに抗するだけである。一方、カーボンナノチューブの短手方向に応力が加えられ、さらに短手方向の断面が変形したり、カーボンナノチューブが折れ曲がっている場合、カーボンナノチューブの長手方向に引張応力が加えられると、最外層より内側の層のカーボンナノチューブにも応力が加えられているため、これらのカーボンナノチューブが引っ張りに抗することとなり、線材の引張強度が上昇する。
【0029】
(隔壁部の酸化アルミニウム)
隔壁部5の酸化アルミニウム濃度は、隔壁内部3の酸化アルミニウム濃度よりも高い。これは、隔壁部5は、焼結前にはアルミニウム材料粒子の表面であったため、アルミニウム材料の酸化膜に由来する酸化アルミニウムが含まれるためである。
【0030】
線材1の長手方向と垂直な断面において、セルレーション構造7の複数の隔壁部5が互いに接しており、隔壁部5の構造が、一部に直線を有する円または楕円形状、長さの異なる複数の直線で構成される略多角形状、または長さがほぼ同一の直線で構成される略多角形状を有することが観察される。これは、アルミニウム材料粒子の焼結時に、アルミニウム材料が軟化し、接する粒子同士の隙間を埋めるようにアルミニウム材料粒子が変形したことに由来する。
また、線材1の長手方向に垂直な断面は、類似のセルレーション構造が繰り返す構造であるフラクタル的な特徴を有する。
【0031】
(セルレーション構造を含むビレットの製造方法)
本発明に係る線材1は、セルレーション構造を含むビレットを線材に加工することで得られる。ビレットの製造方法には、エラストマーと、アルミニウム材料の粒子と、カーボンナノチューブと、を混合して混合物を得る工程(a)と、前記混合物を熱処理し、前記エラストマーを分解気化させて原材料を得る工程(b)と、前記原材料を焼結し、ビレットを得る工程(c)と、を有する。
【0032】
まずエラストマーと、アルミニウム材料の粒子と、カーボンナノチューブと、を混合して混合物を得る工程(a)では、エラストマーに、アルミニウム材料の粒子とカーボンナノチューブを混ぜ合わせる。エラストマーに混合する方法は、特に限定されないが、カレンダーロール混合、バンバリーミキサー混合などを使用することができる。エラストマー100質量部あたり、アルミニウム材料を200〜1000質量部、カーボンナノチューブを0.4〜50質量部加えることが好ましく、特に、エラストマー100質量部あたり、アルミニウム材料を500質量部、カーボンナノチューブを25質量部加えることが好ましい。なお、カーボンナノチューブの量は、アルミニウム材料の量に対して0.2〜5重量%の範囲にあることが好ましい。なお、カーボンナノチューブの量が、アルミニウム材料の量に対して1重量%であるとは、アルミニウム材料100質量部に対して、加えられたカーボンナノチューブの量が1質量部であることをいう。
【0033】
次にエラストマーを分解気化させて原材料を得る工程(b)では、この混合物をアルゴンガス雰囲気の炉内で熱処理を行い、原材料を得る。熱処理の温度と時間は、使用するエラストマーが分解される温度と時間であればよい。例えば、エラストマーとして天然ゴムを使用した場合は、500℃〜550℃で2〜3時間程度が好ましい。また、ここでは不活性ガスとしてアルゴンガスを使用したが、窒素ガスや他の希ガスであってもよい。
【0034】
さらに、原材料を焼結し、ビレットを得る工程(c)では、プラズマによって焼結し、ビレットを得る。原材料を、アルミニウム製の容器に入れ、アルミニウム製の容器と原材料に一緒にプラズマを発生させ、両者ともに焼結することが好ましい。また、焼結は、スパークプラズマ焼結法を使用することが好ましく、最高温度600℃、焼結時間20分、圧力50MPa、昇温レート40℃/minのプラズマ焼結を行なうことが好ましい。
【0035】
(エラストマー)
まず、エラストマーについて説明する。エラストマーは、室温でゴム弾性を有する、天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性エラストマーから選択することができ、工程(b)において熱処理によりエラストマーを分解気化するためには未架橋のまま用いることが好ましい。エラストマーは、重量分子量が好ましくは5000〜500万、さらに好ましくは2万〜300万であり、エラストマーの分子量の範囲は狭いほうがカーボンナノチューブの均一な分散状態が得られるためにより好ましい。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、カーボンナノチューブを分散させるために良好な弾性を有している。エラストマーは、粘性を有しているので凝集したカーボンナノチューブの間に侵入しやすく、さらに弾性を有することによってカーボンナノチューブ同士を分離することができるため好ましい。
【0036】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類、オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー、およびこれらの混合物を用いることができる。
【0037】
(アルミニウム材料の粒子)
アルミニウム材料の粒子は、カーボンナノチューブの少なくとも一部がアルミニウム材料中に入り込むことでカーボンナノチューブの移動を制限することができる。また、アルミニウム材料の粒子を工程(a)においてエラストマー中に混合し分散させておくことで、カーボンナノチューブを混合するときにカーボンナノチューブをさらに良好に分散させることができる。アルミニウム材料の粒子は、使用するカーボンナノチューブの平均直径よりも大きい平均粒径であることが好ましい。例えば、アルミニウム材料の粒子の平均粒径は1μm〜100μm、好ましくは10μm〜50μmであることができる。なお、アルミニウム材料の粒子の平均粒径は、市販の場合はメーカの公表する粒径であってもよいし、光学顕微鏡や電子顕微鏡による粒径の実測値の個数平均径でもよい。
【0038】
アルミニウム材料としては、純アルミニウムまたはアルミニウム合金を使用する。特に、強度と導電性をともに向上させるには、アルミニウム材料としては、純アルミニウム系のJIS A1070合金、JIS A1050合金またはAl−Mg−Si系のJIS A6101合金であることが好ましい。また、通常、原料アルミニウム地金中には、不可避的不純物としてFeとSiが含まれているが、アルミニウム材料中には、製造工程上不可避的に混入するその他の不可避不純物が含まれていてもよい。その他の不可避不純物には、製造工程時にアルミニウム材料が自然に酸化して生成される酸化アルミニウムが含まれる。
【0039】
(カーボンナノチューブ)
カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。
【0040】
カーボンナノチューブは、平均直径が0.5〜50nmであることが好ましい。さらに、カーボンナノチューブは、直線状であっても、湾曲状であってもよく、平均直径は電子顕微鏡による径の実測値を平均して求めることができる。カーボンナノチューブの配合量は、特に限定されず、用途に応じて設定できる。本発明に係る線材は、カーボンナノチューブをアルミニウム材料に対して0.2〜5重量%の割合で含む。
【0041】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するススから得られる。レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。カーボンナノチューブは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0042】
また、カーボンナノチューブが、長さ1μm以下のカーボンナノチューブと長さ10μm以上のカーボンナノチューブを含み、長さ分布に1μm以下の領域と10μm以上の領域の両方にピークを持つことが好ましい。長さ1μm以下のカーボンナノチューブは、隔壁部5の内部に取り込まれやすく、隔壁部5の形成に使用される。一方、長さ10μm以上のカーボンナノチューブは、隔壁部5の厚さより長く、隣接する隔壁内部3の間にわたって存在し、複数の隔壁内部3同士を連結し、セルレーション構造7の引張強さをはじめとする機械強度を高めることができる。
【0043】
つまり、本発明におけるセルレーション構造7では、隔壁部5が短尺のカーボンナノチューブを含み、複数の隔壁内部3が長尺のカーボンナノチューブで連結されていることが好ましい。
【0044】
また、カーボンナノチューブが、断面が同心円状のダブルウオールカーボンナノチューブまたは、断面が押しつぶされたように変形したダブルウオールカーボンナノチューブを含んでもよい。ダブルウオールカーボンナノチューブとは、二層カーボンナノチューブ(DWNT)のことである。
【0045】
(ビレットから線材への加工方法)
一般的な線引き加工には、固体状態での加工(塑性加工)を行うことができる。さらに、塑性加工としては、押出加工、圧延加工、引抜き加工などが適用でき、必要に応じてこれらの加工方法を組み合わせることができる。
【0046】
本発明に係る線材は、セルレーション構造を有するため、引張り試験を行うと、隔壁内部3の間にクラックが生じても、隔壁部5に存在するカーボンナノチューブが隔壁内部3同士を連結しているため、カーボンナノチューブが隔壁内部3より引き抜かれるまでは、材料の破断とはならないと考えられる。つまり、材料を破断させるためには、カーボンナノチューブを引き抜く余分な力が必要になり、この余分な力が見かけの引張り強度の増大としてあらわれると考えられる。また、カーボンナノチューブ自体は塑性変形をしにくいので、ビレットの変形に伴い、カーボンナノチューブは弾性変形を伴いながら、アルミニウム材料中を移動する。
【0047】
(押出加工による線材の製造方法)
押出加工による線材の製造方法は、
図3に示すように、ビレット13をコンテナ15の中に入れ、押棒17によってビレット13に圧力を加えてダイス19から押し出すことにより、線材1を得る方法である。ダイス19には、入口が太く、出口が細いオープニングと称する開口部を持ち、ダイス19の出口側の寸法が線材1の寸法に等しくなる。また、ビレット13に大きな張力がかかるため、線材1を破断させないために一回の加工で可能な断面積減少は小さいものとすることができる。そのため、細い線材を得るに際しては1回から数回に渡り繰り返し押出を行い、太いビレットを徐々に細く加工していく方法をとることが好ましい。また、ビレット13を500℃程度まで加熱して熱間による押出加工を行ってもよい。通常は、変形抵抗を低下させ、ビレットを加熱して材料の変形能を向上させることが可能な熱間押出を行う。
【0048】
ここで、押出加工に使用するビレットは、
図4(b)に示すように、ビレット13の外周部をアルミニウム材料製の被覆部21で被覆するだけでなく、
図4(a)に示すように、ビレット13の先後端面に、アルミニウム材料製の蓋部23を溶接により設けたものが望ましい。このように、押出加工用のビレット13の先後端にアルミニウム材料からなる蓋部23を設けることで、押出材の先端がダイスのオープニングから出るときに、線材のメタルフローの不均一が原因で発生する隔壁部とアルミニウム材料の界面に作用する付加的せん断応力による割れを防止することができる。
【0049】
なお、押出ビレットは、JIS A6101合金を用いて、押出加工前にビレットの組織を均一にするための均質化処理を行なった後に、押出加工を行なう。JIS A6101合金などの材料の場合には均質化処理を行なう必要がある。均質化処理条件としては、530〜560℃×6時間程度のものを行なう必要がある。又は、比較的メタルフローが安定しやすい間接押出法などを用いることができる。
【0050】
また、押出加工に代えて熱間鍛造加工を行なうこともできる。熱間鍛造加工を行なう時のビレットの加熱温度は、押出温度とほぼ同様であるが、鍛造加工の場合の1回の加工度を大きくすると割れが発生するので、繰り返して鍛造を行い、ビレット断面積を小さくする。
【0051】
(引抜き加工による線材の製造方法)
引抜き加工による線材の製造方法は、
図5に示すように、ダイス19にビレット13を押し当て、ダイス19の穴からビレット13を引き抜くことで線材1を得る方法である。線材1をドラム(図示せず)などに巻き取ることで、ビレット13を引き抜く。押出加工と同様、一回の引抜き加工での断面積減少には限界があるため、細い線材を得るには、引抜きの加工度を低く抑えて、引抜き加工を繰り返し行うことが好ましい。引抜き加工を繰り返して行うには、引抜き加工と引抜き加工の間に中間焼鈍と呼ばれる熱処理を行なって加工歪を除去することが望ましい。引抜きに際しては、例えば、ダイス19に超鋼ダイスを用いると同時に、粘度数千から20000cst(40℃)の高粘度の鉱物油を潤滑剤として使用して引抜きを行なうことができるが、さらに、これに二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤やオレイン酸やステアリン酸などの油性向上剤を加えて潤滑性を向上させることができる。また、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸を使用することも可能である。
【0052】
(各種加工を組み合わせた線材の製造法)
線材の製造においては、押出し、圧延、引抜きなどの加工を組み合わせて行うこともできる。一般的には、当初ビレットからの加工は、熱間押出が加工度を大きく取れることから最も望ましく、熱間押出で、小径化した後、その後に圧延、引抜きによる加工を行うのが望ましいが、場合によっては、押出を行わずに、熱間圧延又は冷間圧延を行った後に、引抜き加工を行っても良い。熱間押出後に、圧延を行う場合には既に線材の外周部はアルミニウム材料により被覆されているので、そのまま圧延を行うことができる。このとき、熱間押出により、十分加工組織が発達していれば、熱間圧延の代わりに冷間圧延を行なうことができる場合もある。熱間押出後の材料は、その後の圧延、引抜き工程に回すに際して、ビレットの先後端の蓋部とメタルフローの不安定な先端の蓋部近傍を切断して、線材断面が均一な部分のみを用いて、圧延、引抜を行なう必要がある。
なお、熱間押出の変わりに、熱間鍛造を複数回行なった後、圧延、引抜を行なうこともできる。
【0053】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
図6は、第2の実施形態にかかる、線材41を示す図である。以下の実施形態で第1の実施形態と同一の様態を果たす要素には同一の番号を付し、重複した説明は避ける。なお、
図6中の矢印は、
図6の下半分に描かれた芯部43の断面の一部を拡大した模式図が
図6の上半分であることを意味する。
【0054】
線材41は、カーボンナノチューブを含み、セルレーション構造7を有する芯部43と、芯部43よりはカーボンナノチューブの濃度が低いか、カーボンナノチューブを全く含まず、前記セルレーション構造7を有しない外装部45とを有する。
【0055】
線材41において、芯部43は、セルレーション構造を有するため、線引きされにくく、外装部45は、セルレーション構造を有しないため、線引きされやすい。加工工具との摩擦力を受ける外装部にはセルレーション構造を有さない加工性に優れるアルミニウム材料で覆うほうが望ましい。そのため、線引き時には線材断面の外側から内側へ向かう中心方向の圧縮応力だけでなくせん断応力の成分が生じる。そのため、線材に線材の軸方向の力を加えた場合でも、局部的には線材の軸方向と垂直な方向の成分の力やせん断応力が生じる。そのため、線材41は、塑性加工に適している。
【0056】
線材41は、外側にアルミの領域を持つ焼結体を塑性加工して得られる。このような焼結体は、カーボンナノチューブに包まれたアルミ粒子である、熱処理後の原材料を、アルミニウム材料粒子が既に入っているアルミ製の容器に加え、アルミ製の容器ごと焼結を行うことで得ることができる。アルミ製の容器内のアルミニウム材料粒子は、原材料の周囲を覆うように、アルミ製の容器の内壁に沿うように詰められている。このようにすることで、カーボンナノチューブを含む領域の周囲を、カーボンナノチューブをほとんど含まない領域で覆った構造を有するビレットを得ることができる。この様なビレットを、特に、圧延加工による線材の製造方法を用いることで、線材41の製造をすることができる。さらに作製したビレットに対して熱処理又は加工熱処理を加えることができる。
【0057】
また、第2の実施形態の他の例として、線材41を、カーボンナノチューブを含み、セルレーション構造を有するアルミニウム材料でさらに被覆してもよい。これにより、セルレーション構造7を有する領域と、セルレーション構造7を有しない領域とを、交互に同心円状に有する線材を得ることができる。
【0058】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
図7は、第3の実施形態に係る線材47を示す図である。なお、
図7中の矢印は、
図7の下半分に描かれた外装部51の断面の一部を拡大した模式図が
図7の上半分であることを意味する。
線材47は、カーボンナノチューブを含み、セルレーション構造7を有する外装部51と、外装部51よりもカーボンナノチューブの濃度が低いかカーボンナノチューブを含まず、セルレーション構造7を有しない芯部49と、を有する。
【0059】
また、第3の実施形態の他の例として、
図8に示す線材53のように、外装部51の周囲をさらに被覆部55で被覆してもよい。被覆部55はセルレーション構造を有しないアルミニウム材料である。これにより、線材53は、セルレーション構造7を有しない領域と、セルレーション構造7を有する領域とを、交互に同心円状に有する。被覆部55はアルミニウムの蒸着により作製することができる。さらに作製した同心円構造体に対して熱処理又は加工熱処理を加える鍛造処理を加えてもよい。
【0060】
(本発明に係る線材の特徴)
本発明に係る線材は、基材となるアルミニウムが純アルミニウムの場合は、破断強度、圧縮強度、引張強度、線膨脹係数、溶融温度、屈曲強度が純アルミニウム以上であり、電気伝導度が純アルミニウムの電気伝導度の90%以上であることが好ましい。つまり、線材は、引張り強度が70MPa以上であり、線膨脹係数が、24×10
−6/℃(20℃〜100℃)以下、溶融温度が650℃以上であることが好ましい。また、線材の電気伝導度は、56IACS%以上であることが好ましい。基材となるアルミニウムがSiやMgを含むアルミニウム合金の場合は、比較対象はこれらのアルミニウム合金となるが、その他の条件は同様である。
【0061】
さらに、電線としての用途を考えると、本発明にかかる線材の引張強さが150MPa以上であり、293Kでの線膨張係数が、10×10
−6/K以下であることが好ましく、引張り強度が200〜600MPaであることがより好ましい。
【0062】
また、本発明に係る線材に含まれるカーボンナノチューブの長手方向長さが、線材の直径の1000分の1以下であることが好ましい。
【0063】
また、隔壁内部3の長手方向長さが、線材の直径の1000分の1以下であることが好ましい。隔壁内部3の大きさが大きすぎると、線材の長手方向に垂直な方向に、十分な数の隔壁内部3を配置することができず、セルレーション構造を形成できないからである。
【0064】
また、線材1の直径が50μm以上1cm以下であって、長さ/直径の比が100以上であることが好ましい。
【0065】
なお、線材1の表面をアルミニウム以外の金属でめっきしてもよい。線材1の表面に施すめっきは、溶融めっき、電解めっき法、蒸着などのいずれの方法で行われても良い。
【0066】
また、線材1を素線として用いた複合電線61、63、67、69を、更に樹脂で被覆してもよい。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)セルレーション構造を有するビレットの作製
工程(a):ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、100gの天然ゴム(100質量部)を投入して、ロールに巻き付かせた。ロールに巻きついた天然ゴムに対して金属粒子としてのアルミニウム粒子(500質量部)を投入し、混練した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。さらに、25質量部(アルミニウム材料に対して5重量%)のカーボンナノチューブをオープンロールに投入した。混合物をロールから取り出し、エラストマーとアルミニウム材料粉末とカーボンナノチューブの混合物を得た。
【0069】
なお、実施例1において、エラストマーとして天然ゴムを、アルミニウム材料粉末として平均粒径50μmの純アルミニウム(JIS A1050)の粒子を、カーボンナノチューブとしてILJIN社製の平均直径が13nmの多層カーボンナノチューブを用いた。
【0070】
工程(b):工程(a)で得られた混合物を窒素雰囲気の炉内に配置し、エラストマーの分解気化温度以上(500℃)で2時間熱処理して、エラストマーを分解気化させ、多孔質体の原材料を得た。
【0071】
工程(c):工程(b)で得られた原材料を直径40mmの円筒形状のアルミニウム製の缶に入れ、缶ごとスパークプラズマ焼結を行った。焼結は、最高温度が600℃、焼結時間20分、圧力50MPa、昇温レートは40℃/minとした。焼結により、直径40mmの円柱状のビレットを得た。
【0072】
こうして得られたビレットの断面を、機械研磨を行い、さらに400Vのアルゴンプラズマで20分間エッチングした表面を、電子顕微鏡(SEM)で観察した像を
図9に示す。エッチングにおいて、カーボンナノチューブを含む硬い部分が残り、カーボンナノチューブを含まない柔らかい部分が削られるため、
図9において、色の薄い部分(凸部)が隔壁部5に対応し、色の濃い部分が隔壁内部3に対応する。実施例1に係るビレットが、セルレーション構造7を有することがわかる。
【0073】
また、得られた直径40mmの円柱状のビレットを押出して、直径10mmの線材を得た後、これをV溝ロールにて圧延を行い、500℃×120分で焼鈍を行い、5mmの線材を得た後、引抜きにより所定寸法(2mm)の線材を得た。
【0074】
(実施例2)
さらに、アルミニウム材料粉末として平均粒径50μmのアルミニウム合金(JIS A6101相当)の粒子を用いる以外は、実施例1と同じ工程で、線材を得た。
【0075】
(線材の評価)
線材の引張強度は、線径2mmの線材の引張強度をJIS Z2241に準じてn=3で測定し、その平均値を求めた。
【0076】
線材の導電性については、線径2mmの線材を20℃(±0.5℃)に保った恒温漕中で、四端子法を用い、その比抵抗を計測して導電率を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。
【0077】
線材の特性を、表1にまとめた。また、比較例1,2として、JIS A 1050−OとJIS A 6101−T6の引張り強度と導電率を、アルミニウム材料特性データベース(社団法人日本アルミニウム協会提供 http://metal.matdb.jp/JAA-DB/AL00S0001.cfm)より引用した。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示すように、実施例1については、比較例1のJIS A 1050−Oよりも、引張り強度と導電性が高い。
また、実施例2については、比較例2のJIS A 6101−T6よりも、引張り強度と導電性が高い。
これらのことより、本発明に係る線材は、高い引張り強度と高い導電率を実現する材料であることがわかる。
【0080】
(実施例3)
工程(a):ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、100gの天然ゴム(100質量部)を投入して、ロールに巻き付かせた。ロールに巻きついた天然ゴムに対して金属粒子としてのアルミニウム粒子(500質量部)を投入し、混練した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。さらに、5質量部(アルミニウム材料に対して1重量%)のカーボンナノチューブをオープンロールに投入した。混合物をロールから取り出し、エラストマーとアルミニウム材料粉末とカーボンナノチューブの混合物を得た。
【0081】
なお、実施例1において、エラストマーとして天然ゴムを、アルミニウム材料粉末としてアトマイズ法で作製した粒子を、カーボンナノチューブとして保土谷化学社製の平均直径が55nm、長さが20μmの多層カーボンナノチューブを用いた。
【0082】
工程(b):工程(a)で得られた混合物を窒素雰囲気の炉内に配置し、エラストマーの分解気化温度以上(500℃)で2時間熱処理して、エラストマーを分解気化させ、多孔質体の原材料を得た。
【0083】
工程(c):工程(b)で得られた原材料を直径40mmの円筒形状のアルミニウム製の缶に入れ、缶ごとスパークプラズマ焼結を行った。焼結は、最高温度が600℃、焼結時間20分、圧力50MPa、昇温レートは40℃/minとした。焼結により、直径40mmの円柱状のビレットを得た。
【0084】
また、得られた直径40mmの円柱状のビレットを押出して、直径10mmの線材を得た後、これをV溝ロールにて圧延を行い、500℃×120分で焼鈍を行ない、5mmの線材を得た後、冷間引抜きにより所定寸法(2mm)の線材を得た。
【0085】
その後、実施例1と同様に線材の引張強度を求めた。
【0086】
(実施例4、5)
カーボンナノチューブを15質量部(アルミニウム材料に対して3重量%)、25質量部(アルミニウム材料に対して5重量%)を加える以外は実施例3と同様にして、線材を得た。
【0087】
(実施例6)
カーボンナノチューブとして、トーマススワン社製の平均直径が2nm、長さが1.9μmの多層カーボンナノチューブを用いた以外は実施例3と同様にして線材を得た。なお、カーボンナノチューブは工程(a)の前に、分散処理が施されている。
【0088】
(実施例7、8)
カーボンナノチューブを15質量部、25質量部を加える以外は実施例6と同様にして、線材を得た。
【0089】
(実施例9)
カーボンナノチューブを工程(a)の前に、分散処理を施さない点を除いて、実施例6と同様にして線材を得た。
【0090】
(実施例10、11)
カーボンナノチューブを15質量部、25質量部を加える以外は実施例9と同様にして、線材を得た。
【0091】
線材の特性を、表2にまとめた。また、比較例3として、電気用硬アルミニウム線(JIS C 3108)の引張り強度を引用した。
【0092】
【表2】
【0093】
表2に示すように、従来の硬アルミニウム線の1.5〜3倍の引張り強度の線材を得ることができた。
【0094】
また、実施例11に係る線材の293Kでの線膨張係数を求めると、2.2×10
−6/Kであり、アルミニウムの線膨張係数の10分の1であった。
【0095】
実施例3に係る線材を、収束イオンビームにより一部を切削加工し、断面をSEMにて観察した像を
図10〜
図12に示す。観察傾斜は55°、加速電圧は3kVである。
図10(a)は、低倍率での像であり、
図10(b)は、線材の長手方向に垂直な断面を高倍率で観察した像である。また、
図10(c)は、低倍率での像であり、
図10(d)は、線材の長手方向と平行な断面を高倍率で観察した像である。
【0096】
さらに、
図10(b)を拡大した像を、
図11(a)に示し、
図11(a)において四角で囲った箇所を拡大して観察した像を
図11(b)、(c)に示す。
図11(a)において、直径約0.3〜3μmの結晶粒が多数集まっていることが分かり、セルレーション構造が観察された。
図11(b)、(c)において、黒く見える箇所は、カーボンナノチューブが凝集している箇所である。
【0097】
また、
図10(d)を拡大した像を、
図12(a)に示し、
図12(a)において四角で囲った箇所を拡大して観察した像を
図12(b)、(c)に示す。
図12(a)において、長さ10〜30μmの結晶粒が観察され、
図10(a)の観察結果と合わせて、直径0.3〜3μm、長さ10〜30μm程度の円柱状のアルミ合金が多数集まって線材を形成していることがわかる。
図12(b)、(c)において、黒く見える箇所は、カーボンナノチューブが凝集している箇所である。
【0098】
実施例3に係る線材の、
図10と同一の観察箇所の、走査イオン顕微鏡(SIM: Scanning Ion Microscopy)像を
図13と
図14に示す。
図13(a)は低倍率の像であり、
図13(b)は、線材の長手方向に垂直な断面を高倍率で観察した像である。また、
図14(a)は低倍率の像であり、
図14(b)は、線材の長手方向に平行な断面を高倍率で観察した像である。SEMに比べて、SIMはごく表面の構造のみを観察できる(表面から数十nmの厚さの構造由来の二次電子を観測している)ため、線材の断面の表面のセルレーション構造がよく観察される。
【0099】
実施例3に係る線材を、TEMにて観察した結果を
図15と
図16に示す。
図15(b)において、本来は円状であるCNTの断面が、
図15(c)に示すような三角形状に変形していることが観察される。また、
図16(a)の一部を拡大した像が
図16(b)であり、さらに拡大した像が
図16(c)である。
図16(c)において、折れ曲がったカーボンナノチューブが観察される。
図16(d)は、カーボンナノチューブの折れ曲がりの模式図である。このように、断面が三角形状に変形したり、折れ曲がったりするほど、カーボンナノチューブの短手方向に応力が加えられる場合、カーボンナノチューブの長手方向に引張応力が加えられると、最外層より内側の層のカーボンナノチューブが引っ張りに抗することとなり、線材の引張強度が上昇する。
【0100】
(実施例12)
実施例11と同様の方法で得た直径2.6mmの複合材料を用いた線材を、37本撚り合わせ、電線を作製した。実施の形態における複合電線61に対応する。
【0101】
(実施例13)
1本の亜鉛めっき鋼線を中心として、実施例11と同様の方法で得た直径2.6mmの複合材料を用いた線材を36本撚り合せ、電線を作製した。実施の形態における複合電線63に対応する。
【0102】
実施例12と13にかかる電線の最小引張荷重、質量と電気抵抗と弾性係数と線膨張係数を測定した。測定結果を表3に示す。なお、比較例4と5として一般的なACSRとZTACIRを用いた。また、各電線の弛度特性を
図17に示す。
【0103】
【表3】
【0104】
表3に示すとおり、複合材料を用いた線材を37本用いた実施例12に係る複合電線は、比較例4に係る従来のACSRよりも軽量となり、最小引張荷重もほぼ同等以上の強度となる。強度が同等で電線が軽量となるため、低弛度で架線することができる。これにより、鉄塔高さを高くせずに電流容量を増加させることが可能となる。弛度特性を見ると、線膨張係数が通常のアルミ線の1/10であるため、温度上昇時の弛度増加が小さく、比較例4の従来のACSRや、比較例5のインバ電線(ZTACIR)と比較して、高温度域でも60%程度の弛度となる。
【0105】
送電線の線下で山火事などが発生した場合は、送電線の温度が上昇し、アルミ線は断線する可能性がある。このため、実施例13に係る複合電線は、撚り線の中心素線に亜鉛めっき鋼線を使用することで、線下火災においても撚り線が断線することを防止することができる。表3に示すとおり、電線質量は、比較例4の従来のACSRよりも軽く、引張荷重は強い。弛度特性は、実施例12よりは若干劣るものの、ACSRやインバ電線(ZTACIR)の60%近くの低弛度で架線することが可能となる。