特許第5697046号(P5697046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697046
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】高移動度電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/47 20060101AFI20150319BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20150319BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20150319BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20150319BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   H01L29/48 F
   H01L29/80 H
   H01L29/48 D
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-93279(P2012-93279)
(22)【出願日】2012年4月16日
(65)【公開番号】特開2013-222808(P2013-222808A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2013年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】上野 勝典
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−045416(JP,A)
【文献】 特開2009−176929(JP,A)
【文献】 特開2006−269586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/47
H01L 21/338
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、III族窒化物系化合物半導体で構成されたバッファ層と、
前記バッファ層上に形成され、III族窒化物系化合物半導体で構成された電子走行層と、
前記電子走行層上に形成され、該電子走行層よりもバンドギャップエネルギーが高いIII族窒化物系化合物半導体で構成された電子供給層と、
前記電子供給層上に形成されたドレイン電極と、
前記電子供給層上に形成され、電流阻止状態において前記ドレイン電極に対して負のバイアス電圧が印加され、電流伝導状態において前記ドレイン電極と前記電子走行層に生じる2次元電子ガスを通じて導通するとともに、前記電子供給層との接触面積が、前記ドレイン電極の前記電子供給層との接触面積よりも大きいソース電極と、
を備え、
前記バッファ層は、内部または前記電子走行層との界面に、積層面方向に電気伝導性のある電気伝導層を有する
ことを特徴とする高移動度電界効果トランジスタ
【請求項2】
前記ソース電極は、前記電子供給層との接触面積が、前記ドレイン電極の前記電子供給層との接触面積よりも20%以上大きいことを特徴とする請求項1に記載の高移動度電界効果トランジスタ
【請求項3】
前記電気伝導層は2次元電子ガス層であることを特徴とする請求項1または2に記載の高移動度電界効果トランジスタ
【請求項4】
前記電気伝導層は2次元ホールガス層であることを特徴とする請求項1または2に記載の高移動度電界効果トランジスタ
【請求項5】
前記電気伝導層はドーパントが導入された低抵抗層であることを特徴とする請求項1または2に記載の高移動度電界効果トランジスタ
【請求項6】
前記基板はシリコン基板であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の高移動度電界効果トランジスタ
【請求項7】
前記ドレイン電極と前記ソース電極との間の電流阻止状態における耐圧が200V以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の高移動度電界効果トランジスタ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高周波デバイス用半導体素子には、半導体材料としてワイドバンドギャップ型のIII族窒化物系化合物半導体、特に窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体が用いられている(以下、GaN系半導体素子とする)。GaN系半導体素子では、半導体基板の表面に、例えば有機金属化学気相蒸着(MOCVD:Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成されたバッファ層やGaNドープ層が設けられている。最近では、ワイドバンドギャップ型半導体素子は、高周波用途に加え、電力装置用のパワーデバイスにも適用可能であるという認識から、高耐圧、大電流を扱うデバイスとしての検討も行われている。
【0003】
公知のショットキーバリアダイオードは、基板の上に、GaN層を積層するためのバッファ層、GaN層および窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層が順次積層されている。AlGaN層はAlNとGaNの混晶であり、その構成比によってバンドギャップや自発分極、ピエゾ分極の特性が変化する。GaN層とAlGaN層の界面には、AlGaN層のAl組成比と厚さとを制御することによってその濃度が制御された2次元電子ガス(2DEG:Two Dimensional Electron Gas)層が形成されている。この2DEG層が電子を流す通路となる。
【0004】
この2DEG層は、電子の不純物散乱が小さいため、高移動度で低抵抗の電気伝導層となり、AlGaN層上に形成された電極間の電流経路を提供する。ショットキーバリアダイオードには主たる電極が2つある。アノード電極はAlGaN層とショットキー接触して、電子のトンネル電流によって2DEG層と電気的に接続している。カソード電極はAlGaN層とオーミック接触している。
【0005】
ここで、カソード電極側に正のバイアス電圧を印加すると、アノード電極側は逆バイア
ス状態となり、アノード電極下の2DEG層が空乏化して高耐圧を維持する。一方、アノ
ード電極側正のバイアス電圧を印加すると、アノード電極側から電子が2DEG層へと
トンネルして、大きな電流が流れ、いわゆる整流特性をもったダイオードとしての働きを
する。これによって、ショットキーバリアダイオードは、パワーデバイスに使用すること
が可能となる。ショットキーバリアダイオードは、2DEG層の抵抗が低いことと併せて
、GaN材料のバンドギャップが広いことから、絶縁電界強度がシリコンよりも一桁以上
大きく、高耐圧を実現できるため、パワーデバイスへ期待されている。そのほか、GaN
系半導体を用いた半導体装置として、トランジスタ動作をするHEMT(High Electron
Mobility Transistor)や、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effe
ct Transistor)などの検討がさかんに行われている。
【0006】
また、ショットキーバリアダイオードは、少数キャリアの蓄積が無いため、高速でスイッチングできるという特徴を有している。基板の上に形成されているバッファ層は、その上のGaN層やAlGaN層を形成するために挿入されるもので、GaNとは異なる材料からなる異種基板、たとえばシリコンやサファイア、SiCなどとの熱膨張係数や格子定数の違いを吸収して、結晶性のよいGaN層やAlGaN層を積むためのものである。一般的には、このバッファ層は高抵抗または絶縁性の特性を有し、高耐圧素子において耐圧を維持するために利用される。また、基板としては、最近では高品質で、安価で、大口径が利用可能なシリコン基板を用いることが多い。
【0007】
また、従来、バッファ層としては、シリコン基板上にAlN層とGaN層とが繰り返し形成された構造が知られている。このバッファ層は、シリコン基板と窒化物系半導体領域との間の格子定数差および熱膨張係数差を緩和し、クラックの発生や転位を低減させる機能を有する。しかし、バッファ層内のAlN層とGaN層とのヘテロ界面においても電気伝導層である2DEG層が形成され、AlN層を挟んだ2DEGの発生している反対側のAlN/GaN界面には反対の分極が発生し、2次元ホールガス(2DHG)が発生する(例えば、非特許文献1参照)ことがあるので、これらを電流経路として半導体装置にリーク電流が流れる。このリーク電流を低減するために、AlN層とGaN層の間にAlGaN層を設ける方法が提案された(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
なお、上記の2DEGは、AlN/GaN界面の格子定数差によるひずみに由来するピエゾ分極及び自発分極に起因して発生するため、例えば、ひずみが緩和されてしまうと2DEGが発生しないなど、単純な膜構成のみで2DEG濃度は決まらない。2DEG濃度の理論計算は、例えば非特許文献2などに記載されている。
【0009】
ところで、電力装置に使用する半導体素子としては、上記のように高速で動作し、導通抵抗(オン抵抗)が低いということは大きなメリットであるが、オフ状態で高耐圧を維持するときに、電極間に大きな電圧が印加された場合に、電圧印加後に、2DEG層の抵抗が上昇して、オン抵抗が上昇するという現象が一般に知られている。
【0010】
この現象は、大きな電圧が印加されると、陰極側の電極近傍では大きな電界が印加されるため、その電界によって電極から半導体界面や基板半導体側で高エネルギーの電子が注入され、その電子が界面や半導体中の深いトラップに捕獲され、捕獲された電子の負電荷によって2DEG層の電子濃度が減少する、というメカニズムによって説明されている。このような現象は電流コラプス、または単にコラプスと呼ばれる。
【0011】
コラプスを抑制するための一般的な対策としては、界面や半導体中の深い準位を減らしたり、陰極付近の電界を緩和する構造を工夫したりするなどがある。電極付近の電界緩和方法としてもっとも一般的なのが、フィールドプレートと呼ばれる構造である。フィールドプレートは、陰極から陽極へ向かって絶縁膜の上にひさし状に電極を伸ばした構造を有し、陰極側の電位を段階的に陽極側へ伸ばすことで電界緩和を行うものである(たとえば非特許文献3参照)。
【0012】
図5は、フィールドプレートを有する公知のショットキーバリアダイオードの模式的な断面図である。ショットキーバリアダイオード100は、基板101の上に、バッファ層102、GaN層およびAlGaN層104が順次積層されている。GaN層とAlGaN層の界面には2DEG層103aが形成されている。AlGaN層104上には、AlGaN層104とオーミック接触するカソード電極105、AlGaN層104とショットキー接触するアノード電極106、およびカソード電極105とアノード電極106との間に配置されたSiNなどの絶縁膜107、が形成されている。
【0013】
さらに、アノード電極106の一部108がフィールドプレートとして絶縁膜107上を一部覆うようにカソード電極105側へと延びた構造となっており、ショットキー接合端での電界集中を緩和している。
【0014】
また、基板が導電性基板の場合、それが裏面側から電位を与えることによって、陰極での電界に影響を与える。これを利用して電界の緩和を行う技術がある。たとえば、基板としてサファイアのような絶縁体ではなく、シリコンやSiCなどの導電性の材料を用い、基板側の電位を陰極と同じ電位にすることによって、陰極側での電界が緩和され、抵抗増大を抑制することができることが知られている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第4525894号公報
【特許文献2】特開2008−235738号公報
【特許文献3】国際公開第2008/096521号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】A.Nakajima, et al., “High Density Two-Dimensional Hole Gas Induced by Negative Polarization at GaN/AlGaN Heterointerface”, Applied Physics Express 3(2010), 121004.
【非特許文献2】O.Ambacher, et al., “Two-dimensional electron gases induced by spontaneous and piezoelectric polarization charges in N- and Ga-face AlGaN/GaN heterostructures”, Journal of Applied Physics Vol.85, No.6, pp.3222-3233, 1999.
【非特許文献3】W.Saito et al., “Influence of Electric Field upon Current Collapse Phenomena and Reliability in High Voltage GaN-HEMTs”, Proceedings of The 22nd International Symposium on Power Semiconductor Device & ICs, Hiroshima, 2010, pp.137-140.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、200Vを超える高耐圧の半導体装置に対しては、上記の手法だけでは、コラプスを十分に抑えきれることができないという問題があった。
【0018】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高い耐圧を確保しながらコラプスが抑制された移動度電界効果トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る半導体装置は、基板上に形成され、III族窒化物系化合物半導体で構成されたバッファ層と、前記バッファ層上に形成され、III族窒化物系化合物半導体で構成された電子走行層と、前記電子走行層上に形成され、該電子走行層よりもバンドギャップエネルギーが高いIII族窒化物系化合物半導体で構成された電子供給層と、前記電子供給層上に形成された第1電極と、前記電子供給層上に形成され、電流阻止状態において前記第1電極に対して負のバイアス電圧が印加されるとともに、前記電子供給層との接触面積が、前記第1電極の前記電子供給層との接触面積よりも大きい第2電極と、を備え、前記バッファ層は、内部または前記電子走行層との界面に、積層面方向に電気伝導性のある電気伝導層を有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る半導体装置は、上記の発明において、前記第2電極は、前記電子供給層との接触面積が、前記第1電極の前記電子供給層との接触面積よりも20%以上大きいことを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る半導体装置は、上記の発明において、前記電気伝導層は2次元電子ガス層であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る半導体装置は、上記の発明において、前記電気伝導層は2次元ホールガス層であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る半導体装置は、上記の発明において、前記電気伝導層はドーパントが導入された低抵抗層であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る半導体装置は、上記の発明において、前記基板はシリコン基板であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る半導体装置は、上記の発明において、前記第1電極と前記第2電極との間の電流阻止状態における耐圧が200V以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高い耐圧を確保しながらコラプスが抑制された移動度電界効果トランジスタを実現できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施の形態1に係る半導体装置の模式的な断面図である。
図2図2は、図1に示す半導体装置の平面図である。
図3図3は、図1に示す半導体装置の動作を説明する図である。
図4図4は、実施の形態2に係る半導体装置の模式的な断面図である。
図5図5は、フィールドプレートを有する公知のショットキーバリアダイオードの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、図面を参照して本発明に係る半導体装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付し、重複した説明を適宜省略する。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る半導体装置であるショットキーバリアダイオード
の模式的な断面図である。図2は、図1に示す半導体装置の平面図である。ショットキー
バリアダイオード10は、シリコンで構成された基板1上に、AlN/GaN構造が複数
積層されたバッファ層2と、バッファ層2上に形成され、ノンドープのi−GaNで構成
された電子走行層3と、電子走行層3上に形成され、電子走行層3よりもバンドギャップ
エネルギーが高いAlGaNで構成された電子供給層4と、電子供給層4上に形成された
、第1電極としてのカソード電極5および第2電極としてのアノード電極とを備えてい
る。電子走行層3の電子供給層4との界面には2DEG層3aが形成されている。また、
バッファ層2の内部には、電子走行層3の電子供給層4との界面に2DEG層3aが形成
されるのと同じメカニズムで、積層面方向に電気伝導性のある電気伝導層としての2DE
G層2aが形成されている。なお、層構成よっては、正孔の蓄積する2次元ホールガス
(2DHG)による電気伝導層となる場合もある。
【0030】
ショットキーバリアダイオード10では、カソード電極5側に正のバイアス電圧を印加すると、アノード電極6側は負のバイアス電圧が印加された逆バイアス状態となり、アノード電極下の2DEG層3aが空乏化して電流が流れない電流阻止状態となって、高耐圧を維持する。
【0031】
ここで、図2にも示すように、カソード電極5の電子供給層4との接触面積S1と、アノード電極6の電子供給層4との接触面積S2とを比較すると、接触面積S2の方が接触面積S1よりも大きい。これによって、ショットキーバリアダイオード10のコラプスは抑制される。
【0032】
以下、図3を参照して具体的に説明する。バッファ層2は、基板1が導電性、特にSi基板のときに、基板とGaN系半導体との間の熱膨張係数差と格子定数差とを緩和するために、AlN/GaN構造の複合的な積層体となっており、これによってエピタキシャルウェハのそりを抑えている。例えば、AlN層が50nm、GaN層が300nm〜800nmの複合層を4層以上繰り返した積層体などであってよい。バッファ層2は、基板1と、電子走行層3との間には絶縁性を示すが、内部に面方向の電気伝導性のある2DEG層2aが形成されていることがこれまでの調査で判明している。
【0033】
このような2DEG層2aは、バッファ層2中に同電位層があるように電気的に振舞う。そのため、2DEG層2aと、カソード電極5、アノード電極6のそれぞれとの間に静電容量がそれぞれCc、Caのキャパシタ7、8が形成される。カソード電極5、アノード電極6の下面から2DEG層2aまでの距離をdとした場合、Cc、Caは以下の式(1)、(2)で表される。
【0034】
Cc=εSc/d ・・・ (1)
Ca=εSa/d ・・・ (2)
ここで、εは半導体の誘電率、Sc、Saはそれぞれカソード電極5、アノード電極6の電子供給層4との接触面積である。電流阻止状態でカソード電極5に印加する電圧をVacとした場合、2DEG層2aの電位Viは以下の式(3)で表される。
【0035】
Vi=Vac×Cc/(Ca+Cc)=Vac×Sc/(Sa+Sc) ・・・ (3)
【0036】
2DEG層2aの電位Viは、負のバイアス電圧が印加されるアノード電極6側の電位に近いことが、アノード電極6側での電界集中を緩和してコラプスを抑制する点で好ましい。ここで、上述したように、このショットキーバリアダイオード10ではSa>Scであるから、電位Viはアノード電極6側の電位に近くなるので、コラプスが抑制される。
【0037】
表面電極であるアノード電極6での電界強度は、コラプスを決める重要なパラメータであり、その電界を低く抑える必要がある。アノード電極6での電界強度Eaは以下の式(4)で求められる。
【0038】
Ea=Vi/d ・・・ (4)
【0039】
ここで、カソード電極5、アノード電極6の下面から2DEG層2aまでの距離d(すなわち半導体層の厚さ)には制約がある。耐圧の高い素子を形成するためには、基板1と表面電極間の距離、すなわちバッファ層2、電子走行層3および電子供給層4の層厚も厚くする必要があるので、これらの層厚は、耐圧に比例するように設定される。したがって、距離dは設定耐圧とともに厚くなる。しかしながら、必要以上に厚くすると半導体層の成長時間が長くなるとともに、成長が技術的に困難になり、製造コストが高くなってしまう。そのため、半導体層は、所望の耐圧が維持できる範囲内でできるだけ薄くすることが望まれる。本発明者らのこれまでの実測から、距離dは、600Vの耐圧を実現するためには1.8μm程度、200Vの耐圧を実現するためには0.6μm程度であり、耐圧と比例関係にある。
【0040】
さて、Eaを1.5MV/cm以下に抑えれば、コラプスが発生しないことがすでに報告されている(非特許文献1参照)。そこで、アノード電極とカソード電極の電極面積比の差分をΔとすると
Sa/Sc=1+Δ ・・・ (5)
として、上記距離dの値(0.6μm)を用いて、式(1)〜(5)からΔを求めると、式(6)のようになる。
【0041】
Δ=0.2 ・・・ (6)
すなわち、200Vの耐圧を実現する際に、アノード電極6での電界を1.5MV/cm以下にするためには、アノード電極6の接触面積Saをカソード電極5の接触面積Scよりも約20%以上大きくすれば良い。耐圧と距離dがおよそ比例関係にあることから、耐圧にかかわらず、接触面積比を上記のようにすることで、電界を1.5MV/cm以下にすることができる。これによって、コラプスが発生しないようにできる。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態1に係るショットキーバリアダイオード10は、高い耐圧を確保しながらコラプスが抑制されたものとなる。
【0043】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係る半導体装置であるHEMTの模式的な断面図である。HEMT20は、シリコンで構成された基板1上に、AlN/GaN構造が複数積層されたバッファ層9と、バッファ層9上に形成され、n型にドーピングされたGaNで構成された電子走行層11と、電子走行層11上に形成され、電子走行層11よりもバンドギャップエネルギーが高いAlGaNで構成された電子供給層12と、電子供給層12上に形成された、第1電極としてのドレイン電極13、第2電極としてのソース電極14、およびゲート電極15とを備えている。電子走行層11の電子供給層12との界面には2DEG層11aが形成されている。また、バッファ層9の内部には、積層面方向に電気伝導性のある電気伝導層としての2DEG層9aが形成されている。
【0044】
このHEMT20では、ゲートがオフの状態において、ドレイン電極13側に正のバイアス電圧を印加すると、ソース電極14側は負のバイアス電圧が印加された逆バイアス状態となり、ソース電極下の2DEG層11aが空乏化して電流阻止状態となって、高耐圧を維持する。
【0045】
ここで、ソース電極14の電子供給層12との接触面積は、ドレイン電極13の電子供給層12との接触面積よりも大きい。これによって、ショットキーバリアダイオード10の場合と同様に、HEMT20のコラプスが抑制される。
【0046】
なお、上記実施の形態において、基板1はシリコンで構成されているが、基板1がSiC基板やサファイア基板、GaN基板であっても同様の効果を奏する。
【0047】
また、バッファ層に形成される電気伝導層は、2DEG層に限られず、積層面方向に電気伝導性のある層であればよい。例えば、2次元ホールガス層やSiなどのドーパントを導入した低抵抗層であっても良い。低抵抗層は例えば、1E12cm−2以上、1E1014cm−2以下にSiがドーピングされたGaN層などであれば良い。また、電気伝導層は、バッファ層の内部に限らず、電子走行層との界面に形成されてもよい。
【0048】
また、本発明にかかる半導体装置は、高耐圧が必要なインバータなどの電力変換装置やモーター駆動装置や、種々の電源装置や無停電電源などに使用されるパワーデバイスに有用である。
【0049】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 基板
2、9 バッファ層
2a、3a、9a、11a 2DEG層
3、11 電子走行層
4、12 電子供給層
5 カソード電極
6 アノード電極
7、8 キャパシタ
10 ショットキーバリアダイオード
13 ドレイン電極
14 ソース電極
15 ゲート電極
S1、S2 接触面積
図1
図2
図3
図4
図5