(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
紫外光又は近紫外光又は可視光又は赤外光を発する発光素子と、この発光素子を支持固定する基板と、この基板上に直接又は間接的に取設され前記発光素子を囲繞する光反射体と、を有する発光素子収納用パッケージにおいて、
前記基板と前記光反射体のうちの少なくとも一方は請求項1又は請求項2に記載のセラミック焼結体により構成されることを特徴とする発光素子収納用パッケージ。
【背景技術】
【0002】
発光装置用基板に用いられる基板は、高い機械的強度を備えかつ熱伝導性や光の反射特性に優れている必要があり、このような条件を満たす絶縁体としてセラミック基板が用いられている。
セラミックスは、合成樹脂とは異なり紫外線に長期間晒された場合でも劣化による変色が生じにくく、かつ、従来、高反射金属材料として知られる銀のように空気中の硫化物と化学反応を起こして変色することもないので高反射材料として有望ではあるものの、銀薄膜と同程度の高反射性を発揮させることが難しいという課題があった。
また、発光素子収納用パッケージを製造する場合、絶縁体として使用されるセラミック焼結体の熱膨張係数と、そのリフレクター材の熱膨張係数を整合させることは、製品の信頼性を向上させるために不可欠であり、絶縁基板を構成するセラミック焼結体と、リフレクターを構成するセラミック焼結体は同じ材質により構成されることが望ましかった。
本願発明と同一の「解決すべき課題」を有する発明は現時点では発見されていないが、関連する先行技術としては以下に示すような文献が開示されている。
【0003】
特許文献1には「半導体装置用基板」という名称で、パワートランジスタモジュールなどに適用する半導体装置用基板に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明は、セラミック基板に銅板を直接接合した半導体装置用基板において、セラミック基板が、アルミナを主成分としてこれにジルコニアを添加した焼結体よりなることを特徴とするものである。
上記構成の特許文献1に開示される発明によれば、DBOC(Direct Bonding of Copper Substrate)基板のセラミック基板として、アルミナにジルコニアを添加して高温焼成したセラミックスを用いることにより、従来のアルミナ単体のセラミック基板と比べて機械的強度を大幅に増強できる。したがって、実用上でセラミック基板の薄形化が可能となり、これにより半導体装置用の基板として放熱性の高いDBOC基板が得られ、特にパワートランジスタモジュールなどの基板に適用することで、半導体装置の小形化,並びに電流容量の増大化に大きく寄与できるという効果を有する。
【0004】
特許文献2には「発光ダイオード用パッケージ及び発光ダイオード」という名称でアルミナセラミックスを用いた発光ダイオード用パッケージ及び発光ダイオードに関する発明が開示されている。
特許文献2に開示される発明である発光ダイオード用パッケージは、発光ダイオード素子を実装するためのベース体の上部に、反射面を有する開口を形成したカバー体を貼着した発光ダイオード用パッケージにおいて、ベース体及びカバー体を気孔直径が0.10〜1.25μmのアルミナセラミックスを用いて形成したことを特徴とするものである。
このような特許文献2に開示される発明によれば、アルミナセラミックスの反射率を大幅に向上させることができる。
【0005】
特許文献3には「セラミックス焼結体およびそれを用いた反射体およびそれを用いた発光素子搭載用パッケージおよびそれを用いた発光装置」という名称で、表面における可視光領域の光の反射率が高く、アルミナのみから成るセラミックス焼結体の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有し、しかも、金属を主成分とする接合材とともに還元雰囲気中において焼成することで絶縁性を有する基体の上面に接合することができる白色系セラミックス焼結体、及びそれを用いた反射体及びそれを用いた発光素子搭載用パッケージ及びそれを用いた発光装置に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示される発明であるセラミックス焼結体は、本願発明と同じ発明者によるものであり、セラミックス原料と、このセラミックス原料に添加されセラミックス焼結体の内部において可視光領域の光の散乱を促進する散乱体と、焼結助剤と、有機質バインダーとを混合したものを加圧成形した後、焼成して成るセラミックス焼結体において、セラミックス原料は、ムライト、アルミナを含有し、散乱体はジルコニアであり、焼結助剤は、マグネシア、又は、マグネシア及びイットリアであり、セラミックス原料及び前記焼結助剤の総重量を100wt%とした場合に、前記アルミナの含有量は50wt%以下であることを特徴とするものである。
特許文献3に開示される発明によれば、表層部において可視光領域の光の拡散反射を促進することができるという効果を有する。
【0006】
特許文献4には「反射材およびそれを用いた反射体」という名称で、紫外光から赤外光(200〜2500nmにピーク波長を有する光)を高効率で反射することのできる光反射体に関する発明が開示されている。
特許文献4に開示される発明も、本願発明と同じ発明者によるものであり、ホウ珪酸ガラス原料と、アルミナ,五酸化ニオビウム,酸化ジルコニウム(ジルコニア),五酸化タンタル,酸化亜鉛の少なくとも1種類からなる散乱体と、からなる原料粉体を焼成してなるセラミック焼結体である。
特許文献4に開示される発明は、アルミナセラミックスではなくガラスセラミックスであり、ガラスセラミックスの表面における反射性を大幅に向上できるという効果を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される発明によれば、セラミック基板の機械的強度,撓み性を高め、基板自身の薄形化と併せて放熱性の改善が期待できるものの、この基板を構成するセラミックスを、例えば、発光素子収納用パッケージにおいて光線を反射させる光反射体として使用することについては示唆や言及はなく、そのための必須な構成についても何ら開示されていない。従って、特許文献1に開示される発明は、その機械的強度や撓み性等の向上と、その表面における光線の反射率の向上とを同時に実現するものではなかった。
【0009】
特許文献2に開示される発明によれば、アルミナセラミックスの表面における光線の反射率を大幅に向上することができると考えられるものの、セラミック焼結体中の気孔率を高めると、その強度や熱伝導性が低下し、実用上の問題が生じる恐れがあった。また、気孔率の高い焼成前のセラミック成形体は、成形する際の押圧力が変動すると、内部における粒子同士の空隙の大きさや絶対数が変動し易いため、出来上がったセラミック焼結体の表面における光線の反射率が一定にならないという課題もあった。従って、高品質で均質な高反射性セラミックスを提供することは困難であった。
【0010】
特許文献3に開示されるセラミック焼結体は、その主成分がムライトであるため強度が低く、しかも、熱伝導率も低い。このため、発光素子収納用パッケージ等のリフレクターとしては問題なく利用することができるものの、発光素子を搭載するための基板としての利用には適さないという課題があった。
【0011】
特許文献4に開示される発明の場合、散乱体である、五酸化ニオビウム、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、酸化亜鉛は、酸化雰囲気中において1000℃程度まで加熱した場合でも白色が維持されるものの、これらを一般的なアルミナセラミックスの焼結温度と同程度にまで、すなわち、1500℃を超えて加熱した場合、散乱体自体が変色してしまい、出来上がった光反射体の白色度が低下して、高反射性が失われてしまうおそれがあった。その反面、原料粉体の主成分をホウ珪酸ガラス原料とすることで、1000℃以下の温度で焼成できるので、特許文献4に開示される発明においては光反射体の白色度を維持することができる。
しかしながら、特許文献4に開示される,ホウ珪酸ガラスとアルミナからなる低温焼成セラミック焼結体は、アルミナを主成分とするアルミナセラミックスに比べて熱伝導率が低いので(アルミナの熱伝導率≒17W/m・k、低温焼成セラミックスの熱伝導率≒2W/m・k)、発光素子の発する熱を効率よく放散することができないという課題があった。つまり、発光素子を搭載するための基板には適さないという課題があった。
【0012】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、機械的強度が高く放熱性に優れて発光装置用基板に適し、しかも、高反射性を有し、劣化などによる変色が生じることがなく、光反射体としても使用することができるセラミック焼結体及び
その製造方法及び光反射体及び発光素子収納用パッケージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため請求項1記載の発明であるセラミック焼結体は、粉体材料を混合したものを成形した後焼成して成るセラミック焼結体であって、セラミック焼結体を製造する際に用いる粉体材料は、主成分のアルミナと、部分安定化ジルコニアと、シリカと、マグネシアと
、からなり、部分安定化ジルコニアの含有量は、粉体材料の全重量に対して5〜30wt%の範囲内であり、シリカの含有量は、粉体材料の全重量に対して1.0〜10wt%の範囲内であり、マグネシアの含有量は、粉体材料の全重量に対して0.05〜1.00wt%の範囲内であり、部分安定化ジルコニアの安定化剤はイットリアであり、かつ、部分安定化ジルコニアにおけるイットリアのモル分率は0.015〜0.035の範囲内であり、部分安定化ジルコニア中の不純物であるFeおよびTiの含有量を、FeをFe
2O
3に,TiをTiO
2にそれぞれ換算して示した場合,Fe
2O
3,TiO
2のそれぞれの含有量は,部分安定化ジルコニアの全重量に対して0.05wt%以下であ
り、セラミック焼結体は、アルミナ粒子と、ジルコニア粒子と、シリカを主成分とする粒界層と、これら粒子又は粒界層の境界からなる反射面と、粒子径が0.1〜1.0μmの範囲内であるジルコニア粒子と、を具備していることを特徴とするものである。
上記構成の発明において、粉体材料の主成分をアルミナとすることで、請求項1記載のセラミック焼結体の機械的強度を向上させるという作用を有する。
また、副成分である部分安定化ジルコニア(部分安定化酸化ジルコニウム)は、請求項1記載のセラミック焼結体中において散乱体として作用する。つまり、請求項1記載のセラミック焼結体中においてジルコニア粒子はアルミナ粒子と比較して屈折率が非常に高いため、光線を散乱させて請求項1記載のセラミック焼結体表面における反射性を向上させるという作用を有する。
また、部分安定化ジルコニアの含有量を、粉体材料の全重量に対して5〜30wt%の範囲内とすることで、請求項1記載のセラミック焼結体の熱伝導性の低下が生じるのを妨げるという作用を有する。
なお、粉体材料として用いる部分安定化ジルコニアは、イットリアを安定化剤として固溶させた部分安定化ジルコニア(Partially Stabilized Zirconia)である。安定化剤を固溶させてもジルコニアは高屈折率を保持する。特にイットリアを3mol%程度(より具体的には、部分安定化ジルコニアにおけるイットリアのモル分率は0.015〜0.035の範囲内)固溶させた部分安定化ジルコニアを用いた場合、セラミック焼結体の強度や靭性が著しく向上するという作用を有する。
加えて、粉体材料がシリカを含有することで、請求項1記載のセラミック焼結体中において、結晶粒子同士の境界である粒界にシリカを主成分とする粒界層が形成される。
一般に、屈折率の異なる2種類の物質の境界面は、光線の反射面として機能する。つまり、請求項1記載のセラミック焼結体を製造する際に、粉体材料にシリカを添加した場合、結晶粒子と粒界層の界面による光線の反射が生じるため、請求項1記載のセラミック焼結体内部における光線の拡散反射を促進するという作用を有する。そして、この作用により、請求項1記載のセラミック焼結体表面における光線の反射率が向上される。
また、シリカは、粉体材料の全重量に対して1wt%添加するだけでも、請求項1記載のセラミック焼結体の表面における光線の反射率を確実に向上させるという作用を有する。なお、シリカの添加量が、粉体材料の全重量に対して2〜6wt%の範囲内の場合、請求項1に記載のセラミック焼結体の表面における光線の反射率は最も高くなる。他方、シリカの添加量が、粉体材料の全重量に対して10wt%を超えると、請求項1記載のセラミック焼結体の熱伝導率が低下して発光素子を搭載するための基板として適さなくなってしまう。このため、シリカの含有量を粉体材料の全重量に対して1.0〜10wt%の範囲内としている。
さらに、シリカは、ジルコニア(部分安定化ジルコニアを含む)を含有する粉体材料を焼成してなるセラミック焼結体の絶縁抵抗を高めるという作用を有する。ジルコニアは、ジルコニア結晶格子中に酸素欠陥が存在し、酸素イオンがこうした欠陥を介して移動することで電気伝導が生ずる。このため、ジルコニアを含有する粉体材料から製造されるセラミック焼結体は、この酸素欠陥による電気伝導性のために、絶縁抵抗が小さくなってしまうという課題があるが、シリカは酸素イオンの移動を阻害する性質を有しているので、粉体材料とは別にシリカを添加することで、請求項1記載のセラミック焼結体の絶縁性を向上させるという作用を有する。
さらに、粉体材料中に含有されるマグネシアは、請求項1記載の発明の焼成温度を低温化するという作用を有する。より具体的には、請求項1記載の発明の焼成温度を1650℃よりも低くするという作用を有する。
他方、セラミック焼結体中におけるマグネシアの含有量が多いと、その熱伝導性が損なわれてしまう。従って、粉体材料中におけるマグネシアの含有量を0.05〜1.00wt%の範囲内とすることで、請求項1記載のセラミック焼結体の熱伝導率が大幅に低下するのを抑制している。
また、ジルコニア及びマグネシアの添加により請求項1記載のセラミック焼結体の焼成温度が低温化するので、請求項1記載のセラミック焼結体を緻密にするという作用を有する。これにより、請求項1記載のセラミック焼結体の熱伝導率を高めるという作用を有する。
さらに、請求項1記載のセラミック焼結体の焼成温度が低温化することで、焼成済みセラミック焼結体中のジルコニア結晶粒子の肥大成長が抑制される。この結果、ジルコニア粒子の粒子径を光の波長に近づけることができるため、光線の散乱が促進される。
加えて、ジルコニア中の不純物であるFeおよびTiの含有量を、FeをFe
2O
3に,TiをTiO
2にそれぞれ換算して示した場合,Fe
2O
3,TiO
2のそれぞれの含有量をジルコニアの全重量に対して0.05wt%以下と規定することで、請求項1記載のセラミック焼結体がこれらの不純物(着色物質)により着色されて、その内部及び表面における光線の拡散反射が抑制されるのを妨げるという作用を有する。
【0014】
請求項2記載の発明であるセラミック焼結体は、請求項1記載のセラミック焼結体であって、焼成済みセラミック焼結体中において、不純物であるFeおよびTiの含有量を、FeをFe
2O
3に,TiをTiO
2にそれぞれ換算して示した場合,Fe
2O
3,TiO
2のそれぞれの含有量は,セラミック焼結体の全重量に対して0.05wt%以下であることを特徴とするものである。
上記請求項1記載の発明では、セラミック焼結体を製造する際に用いる粉体材料中の不純物(着色物質)の含有量を規定しているのに対して、請求項2記載の発明では、製造されたセラミック焼結体中に含有される不純物の含有量を規定したものである。
このような請求項2記載の発明は、焼成済みセラミック焼結体中に不純物(着色物質)がほとんどない状態にするという作用を有する。これにより、セラミック焼結体が不純物(着色物質)により着色されてその内部及び表面における光線の拡散反射が抑制されるのを妨げるという作用を有する。
【0015】
請求項
3記載の発明である光反射体は、波長200〜2500nmにピークを有する光線を拡散反射させるための光反射体であって、この光反射体は、請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体からなることを特徴とするものである。
上記構成の光反射体は、波長200〜2500nmにピークを有する光線を高効率で拡散反射させるという作用を有する。また、請求項
3記載の発明は、上述の請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体からなるものであり、その作用及び、請求項
3記載の光反射体の表層部において光線が効率良く散乱される仕組みについては、上述の請求項1
又は請求項
2記載の発明の場合と同じである。
また、請求項
3記載の光反射体がリフレクターとして、アルミナを主成分とするセラミック製の基板上に接合される場合、アルミナを主成分とするセラミック製の基板と請求項
3に係る光反射体の熱膨張係数が近似するので、熱サイクルが繰り返された際に、これらの熱膨張係数差に起因する熱応力により、基板から光反射体が剥離するのを抑制するという作用を有する。
【0016】
請求項
4記載の発明である発光素子収納用パッケージは、紫外光又は近紫外光又は可視光又は赤外光を発する発光素子と、この発光素子を支持固定する基板と、を有する発光素子収納用パッケージにおいて、基板は、請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体により構成されることを特徴とするものである。
上記構成の発明において、発光素子は紫外光又は近紫外光又は可視光又は赤外光を発するという作用を有する。また、基板は、発光素子を支持固定するという作用を有する。
そして、特に請求項
4記載の発明において、基板を請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体により構成することで、基板を構成するセラミック焼結体は、請求項1
又は請求項
2に記載のそれぞれの発明と同じ作用を有する。つまり、請求項5記載の発明においては、発光素子から発せられる波長200〜2500nmにピークを有する光線(紫外光から赤外光)、あるいは, 発光素子から発せられた紫外光又は近紫外光が波長変換材により波長変換されて生じる光線を、この基板の表面において高効率で反射するという作用を有する。
また、請求項
4記載の発明である基板を、請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体により構成することで、基板の機械的強度と熱伝導性を向上するという作用も同時に発揮される。
【0017】
請求項
5記載の発明である発光素子収納用パッケージは、紫外光又は近紫外光又は可視光又は赤外光を発する発光素子と、この発光素子を支持固定する基板と、この基板上に直接又は間接的に取設され発光素子を囲繞する光反射体(リフレクター)と、を有する発光素子収納用パッケージにおいて、基板と光反射体のうちの少なくとも一方は請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体により構成されることを特徴とするものである。
上記構成の発明において、基板及び発光素子は請求項
4記載の発明における基板及び発光素子と同じ作用を有する。また、光反射体は、発光素子から発せられる光線(紫外光又は近紫外光又は可視光又は赤外光),あるいは, 発光素子から発せられた紫外光又は近紫外光が波長変換材により波長変換されて生じる光線が、光反射体の中空部と基板の表面により形成されるキャビティから周囲に拡散して減衰するのを妨げるという作用を有する。
(1)請求項
5記載の発明において、基板のみを請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体により構成した場合、請求項
4記載の発明と同じ作用を有する。
(2)請求項
5記載の発明において、光反射体を請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体で構成した場合、光反射体が長期間にわたって紫外線に晒された場合であっても、光反射体が劣化し、変色して表面における光線の反射率が低下したり、大気中の硫化物と化学反応を起こして表面が変色して光線の反射率が低下するようなことは起こらない。このため、長期間に亘り光反射体の表面における高反射性を維持させるという作用を有する。そして、この場合、光反射体を支持する基板として、特にアルミナセラミックスを用いた場合、基板と光反射体を構成する材料の熱膨張係数を整合(近似)させることができるので、熱サイクルが繰り返された場合でも、基板から光反射体が剥離するなどの現象を起こり難くするという作用を有する。
(3)請求項
5記載の発明において、光反射体と基板の両方を、請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結により構成した場合(基板を請求項1記載のセラミック焼結体で構成し, 光反射体を請求項
1又は請求項
2記載のセラミック焼結体で構成した場合、又は、基板を請求項2記載のセラミック焼結体で構成し, 光反射体を請求項1又は請求項
2記載のセラミック焼結体で構成した場
合を含む概念である)、これらはいずれも高反射材であり,かつ,機械的強度や熱伝導性に優れた発光装置に適した材料であるため、発光出力が高く、十分な機械的強度と放熱性を有する発光素子収納用パッケージを提供するという作用を有する。加えて、光反射体と基板の熱膨張係数が整合することから、基板上に金属ろう材、ガラス材、樹脂などを介して光反射体を接合した際に、熱サイクルが繰り返された場合でも光反射体の剥離が生じにくくなる。
【0018】
請求項6記載の発明であるセラミック焼結体の製造方法は、アルミナと、部分安定化ジルコニアと、シリカと、マグネシアとからなる粉体材料を粉砕混合して混合
体とする粉砕混合工程と、この粉砕混合工程の後に、混合
体に有機質バインダー及び溶剤を添加して所望の形状に成形してセラミック成形体とする成形工程と、この成形工程の後に、セラミック成形体を1560〜1600℃の温度条件下において焼成してセラミック焼結体とする焼成工程とを有し、混合体中における部分安定化ジルコニアの含有量は5〜30wt%の範囲内であり、混合体中におけるシリカの含有量は1.0〜10wt%の範囲内であり、混合体中におけるマグネシアの含有量は0.05〜1.00wt%の範囲内であり、部分安定化ジルコニアの安定化剤はイットリアであり、かつ、部分安定化ジルコニアにおけるイットリアのモル分率は0.015〜0.035の範囲内であり、部分安定化ジルコニア中の不純物であるFeおよびTiの含有量を、FeをFe
2O
3に,TiをTiO
2にそれぞれ換算して示した場合,Fe
2O
3,TiO
2のそれぞれの含有量は,部分安定化ジルコニアの全重量に対して0.05wt%以下であり、部分安定化ジルコニアの粒度分布から求めた97%粒径は1.5μm以下であることを特徴とするものである。
上記構成の請求項6に記載の発明は、上述の請求項1記載の発明を方法の発明として表現したものである。請求項6記載の発明では、粉砕混合工程と、成形工程と、焼成工程とを有することで、請求項1記載の発明が作製される。
また、請求項6に記載の発明により作製されるセラミック焼結体を構成する粉体材料の各成分並びにその含有量を特定することによる作用は、請求項1に記載の発明の場合と同じである。
請求項6に記載の発明において、特に焼成温度と、マグネシアの含有量と、部分安定化ジルコニアの粒度分布から求めた97%粒径を特定することで、セラミック焼結体中の部分安定化ジルコニア結晶粒子径を光の波長に近づけることができ、これにより光線の散乱を促進するという作用を有する。
【発明の効果】
【0019】
このような請求項1記載の発明によれば、緻密で熱伝導性に優れ、かつ、発光装置に適した絶縁性や機械的強度を有し、しかも、それのみで高反射材としても使用可能な光線(波長200〜2500nmにピークを有する紫外光から赤外光)の反射率の高いセラミック焼結体を提供することができるという効果を有する。
つまり、発光装置用基板に適し、かつ、高反射材としても使用可能な汎用性の高いアルミナセラミックスを提供することができるという効果を有する。
加えて、請求項1記載の発明がシリカを含有することで、セラミック焼結体の反射性と絶縁性が一層高められる。
すなわち、発光装置基板として特に好ましい特性と、高反射材として特に好ましい特性を同時に備えたセラミック焼結体を提供することができる。
【0020】
請求項2記載の発明は、焼成済みのセラミック焼結体中の不純物(着色物質)の含有量を規定したものである。このような請求項2記載の発明によれば、着色物質(不純物)の含有量が極めて少なくて完全な白色に近いセラミック焼結体を提供することができる。そして、その当然の結果として、その表面及び内部における光線の拡散反射を促進することができ、高反射性のセラミック焼結体を提供することができるという効果を有する。
この結果、請求項1に記載のセラミック焼結体と同等以上の光線の反射率を有するセラミック焼結体を提供することができる。
【0021】
請求項
3記載の発明は、請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体からなる光反射体であり、その効果は、請求項1
又は請求項
2に記載の発明と同じである。
【0022】
請求項
4記載の発明は、熱伝導性に優れ,発光装置に適した絶縁性や機械的強度を有し、その表面において光線(波長200〜2500nmにピークを有する紫外光から赤外光)を高効率で拡散反射させることができる発光素子収納用パッケージを提供することができる。
つまり、請求項
4記載の発明によれば、基板の表面における光線の減衰が生じにくいので、基板の表面における光線の反射率を高めるための構成を何ら備える必要がない。このため、基板の表面における光線の反射率を高めるための特殊な製造工程や、製造装置が何ら必要ないので、高性能でかつ信頼性の高い製品を廉価に提供することができるという効果を有する。
【0023】
(1)請求項
5記載の発明において、基板のみを請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体により構成した場合、請求項
4記載の発明と同じ効果を有する。
(2)請求項
5記載の発明において、光反射体(リフレクター)のみを請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体により構成した場合、機械的強度及び熱伝導率が高く、紫外線により劣化して変色することなく、大気中の硫化物と反応して変色することもなく、しかも、その表面における光線(波長200〜2500nmにピークを有する紫外光から赤外光)の反射率が高い光反射体を備えた発光素子収納用パッケージを提供することができる。このような請求項
5記載の発明によれば、発光装置とした場合に経年変化による発光出力の低下が生じにくい高品質な発光素子収納用パッケージを提供することができる。
そして、上述のような光反射体を支持固定するための基板としてアルミナを主成分とするアルミナセラミックスを用いた場合、光反射体と基板とを構成するセラミック焼結体の熱膨張係数が整合するので、熱サイクルが繰り返された場合でも、基板から光反射体の剥離が生じ難い高い信頼性を有する発光素子収納用パッケージを提供することができる。
(3)請求項
5記載の発明において、光反射体及び基板の両者を請求項1
又は請求項
2に記載のセラミック焼結体で構成した場合、上述の(1)に記載した効果と、(2)に記載した効果を併せた効果を期待できる。
しかも、この場合、基板と光反射体の熱膨張係数が整合するので、熱サイクルが繰り返された場合でも、これらの接合境界において熱膨張係数差に起因して生じる熱応力は極めて小さくなるので、製品としての信頼性を大幅に向上できる。加えて、基板も光反射体も共に高反射材料であるため、請求項
5記載の発光素子収納用パッケージを発光装置に用いた場合に、その発光出力を容易に高めることができる。そして、基板も光反射体も、紫外線による劣化や、大気中の硫化物との化学反応による変色が生じないので、高い発光出力を長期間に亘り持続させることができる。
【0024】
請求項6記載の発明は、請求項1記載の発明を方法の発明として表現したものであり、その効果は請求項1記載の発明による効果と同じである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態に係るセラミック焼結体およびそれを用いた発光装置用基板及び発光素子収納用パッケージについて実施例1乃至4を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
本発明に係るセラミック焼結体は、アルミナを主成分するアルミナセラミックスであり、具体的には、粉体材料とバインダーとを混合したものを成形した後焼成して成るセラミック焼結体である。より具体的には、このセラミック焼結体を製造する際に用いる粉体材料として、アルミナ、ジルコニア、マグネシア粉末を用い、ジルコニアの含有量の上限を、粉体材料の全重量に対して30wt%とし、マグネシアの含有量を、粉体材料の全重量に対して0.05〜1.00wt%の範囲内としたものである。
上記構成の本発明に係るセラミック焼結体は、機械的強度と,熱伝導性と,絶縁性が高いことから、発光装置用基板として特に適している。
また、上記構成のセラミック焼結体は、白色度が極めて高く、発光装置用基板としてだけではなく、高反射材としても使用可能である。
そこで、本実施の形態では、本発明に係るセラミック焼結体の製造方法を、実施例1を参照しながら説明し、その後に、今度は、上述のような本発明に係るセラミック焼結体を、主に高反射材料として使用するにあたり、より好ましい特性が発揮されるよう構成した発明について実施例2乃至実施例4として説明することにする。
【実施例1】
【0028】
以下に、本発明の実施例1に係るセラミック焼結体について説明する。
まず、
図1を参照しながら実施例1に係るセラミック焼結体の製造方法について詳細に説明する。
図1は実施例1に係るセラミック焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、実施例1に係るセラミック焼結体1を製造するには、まず、粉体材料としてアルミナ、部分安定化ジルコニア(もちろん、部分安定化されていないジルコニアも使用可能である)、マグネシアを、例えば、以下の表1に示すような割合で調合してから(ステップS1)、例えば、ボールミル等によりステップS1において調合された粉体材料を粉砕混合し(ステップS2)、次に、この混合
体に、有機質バインダー(バインダー)として、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)等を、また、溶剤として、例えば、トルエンやエタノールなどを添加してスラリー状物質を形成させる(ステップS3)。
【0029】
【表1】
【0030】
図2は実施例1に係るセラミック焼結体製造時の部分安定化ジルコニアの添加量を変化させた際の抗折強度及び熱伝導率の変化を示すグラフである。図中、黒四角の印は抗折強度の変化を示し、白丸の印は熱伝導率の変化を示している。
図2に示すように、実施例1に係るセラミック焼結体1を製造する場合、部分安定化ジルコニアの含有量を増加させると、焼成済みセラミック焼結体1の抗折強度(機械的強度)が向上するものの、発光素子収納用基板として用いた際の放熱性の指標となる熱伝導率が低下する。このため、実施例1に係るセラミック焼結体1を製造する際には、部分安定化ジルコニアの含有量の上限値を粉体材料の全重量に対して30wt%としている。また、部分安定化ジルコニアの含有量を粉体材料の全重量に対して5wt%より少なくすると、十分な機械的強度の向上効果が発揮されないため、部分安定化ジルコニアは粉体材料の全重量に対して5wt%以上添加することが望ましい。
【0031】
図3は実施例1に係るセラミック焼結体の製造時の部分安定化ジルコニアの含有量を変化させた際の焼成温度と焼結密度の関係を示すグラフである。なお、ここではアルキメデス法により焼結密度(見掛け密度:apparent density)の測定を行った。
図3に示すように、焼成温度の高温化に伴い焼結密度は一旦大幅に低下して再度上昇するという傾向を示す。すなわち、焼結密度が大幅に低下している温度領域は、セラミック焼結体の焼結が活性化している状態であり、その後、焼結密度の大きな変化が生じない温度領域が、焼結が安定する適性焼成温度である。
また、
図3から明らかなように、粉体材料に含有させる部分安定化ジルコニアの含有量を増加させることで、適性焼成温度を低温化することができる。
なお、実施例1に係るセラミック焼結体1の製造時に粉体材料として用いる部分安定化ジルコニアは、中和共沈法、加水分解法、アルコキシド法などにより作製された均質性の高く、かつ、粉体の平均粒径の小さい粉体を用いることが望ましい。
【0032】
図4は実施例1に係るセラミック焼結体製造時のマグネシアの添加量を変化させた際の焼成温度と焼結密度の関係を示すグラフである。なお、ここでも焼結密度(見掛け密度)の測定にはアルキメデス法を用いた。
図4に示すように、粉体材料にマグネシアを添加しない場合、焼結密度の増大が停滞して焼結密度が安定化する温度領域は1600℃以上であるのに対して、粉体材料にマグネシアを含有させた場合にはいずれも1560℃程度で焼結密度が安定化している。
従って、粉体材料にマグネシアを含有させることで、セラミック焼結体1の焼成温度を低温化することができる。より具体的には、実施例1に係るセラミック焼結体1の焼成温度を1650℃よりも低くすることができる。また、マグネシアは粉体材料の全重量に対して0.05wt%含有させるだけでも焼成温度を低温化させるという効果が発揮される。
その一方で、粉体材料の全重量に対するマグネシアの添加量が1.00wt%を超えると、焼成温度に関わらず焼結密度が低下する傾向が認められた。この焼結密度の低下は、比重の小さいスピネル結晶(MgAl
2O
4)の割合の増加によるものと考えられる(比重の参考値:アルミナ4.0、ジルコニア6.1、スピネル結晶3.6)。スピネル結晶が過剰に生成されるとセラミック焼結体の放熱性が低下して好ましくないので、実施例1に係るセラミック焼結体1の製造時における、マグネシアの含有量を粉体材料の全重量に対して0.05〜1.00wt%の範囲内としている。
【0033】
再び
図1の説明に戻るが、ステップS3において調整されたスラリー状物質を、所望の成形手段、例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、射出成形、ドクターブレード法、押し出し成型法等により所望の形状に成形する(ステップS4)。なお、実施例1に係るセラミック焼結体1の製造には、特にドクターブレード法を用いた。
この工程の後に、上述のような工程を経て作製したセラミック成形体を、例えば、大気中において、1650℃よりも低い温度条件下において焼成する(ステップS5)。
【実施例2】
【0034】
続いて、本発明に係るセラミック焼結体を光反射体(リフレクター)、又は、高反射性基板として使用する場合について実施例2乃至実施例4を参照しながら詳細に説明する。
ここでは、高反射性を有するセラミック焼結体について、実施例2及び実施例3を参照しながら説明し、このような高反射性を有するセラミック焼結体を用いた発光素子収納用パッケージを、実施例4を参照しながら説明する。
【0035】
実施例2又は実施例3に係るセラミック焼結体は、その製造時に使用する粉体材料であるジルコニアを、不純物の少ない高純度なものとし,かつ,その粒度を細かくすることで高反射性を実現している。
より具体的には、実施例2又は実施例3に係るセラミック焼結体はともに、その粉体材料を構成するジルコニア中に含有される不純物であるFeおよびTiの含有量を、FeをFe
2O
3に,TiをTiO
2にそれぞれ換算して示した場合に,Fe
2O
3,TiO
2のそれぞれの含有量を、ジルコニアの全重量に対して0.05wt%以下と規定し、かつ、ジルコニアの粒度分布から求めた97%粒径を1.5μm以下とした点に特徴を有するものである。
上記構成を有することで、本願発明に係るセラミック焼結体中において、光線(波長200〜2500nmにピークを有する紫外光から赤外光)の拡散反射を妨げる着色物質(Fe
2O
3や、TiO
2)を可能な限り排除し、かつ、セラミック焼結体中において光線の散乱体として作用するジルコニア粒子の焼成後の粒子径を光線の波長に近づけることで、セラミック焼結体の内部における光線の散乱を促進して、その表面における光線の反射率を向上させたものである。
【0036】
以下に、本発明の実施例2に係るセラミック焼結体について説明する。
実施例2に係るセラミック焼結体は、例えば、発光素子収納用パッケージに用いられる光反射体(リフレクター)、又は、発光素子収納用パッケージにおいて絶縁体又は高反射材としても機能する基板として用いられるものである。
このような実施例2に係るセラミック焼結体は、主成分のアルミナと、副成分のジルコニアと、焼結助剤であるマグネシアからなる粉体材料を、先の実施例1に係るセラミック焼結体1の製造方法と同じ手順(ステップS1〜S5)に従って、混合、成形、焼成して製造したものである。
より具体的には、実施例2に係るセラミック焼結体の作製に使用する粉体材料におけるジルコニアの含有量の上限を、粉体材料の全重量に対して30wt%とし、かつ、粉体材料中におけるマグネシアの含有量を粉体材料の全重量に対して0.05〜1.00wt%の範囲内とし、さらに、ジルコニア中の不純物であるFeおよびTiの含有量を、FeをFe
2O
3に,TiをTiO
2にそれぞれ換算して示した場合,Fe
2O
3,TiO
2のそれぞれの含有量を、ジルコニアの全重量に対して0.05wt%以下と規定し、加えて、ジルコニアについてその粒度分布から求めた97%粒径を1.5μm以下のものを用いると規定したものである。なお、実施例2に係るセラミック焼結体の焼成温度は1560〜1600℃の範囲内である。
【0037】
また、実施例2に係るセラミック焼結体の製造時に、粉体材料中におけるジルコニアの含有量の上限値を粉体材料に対して30%とするのは、実施例1に係るセラミック焼結体1の製造方法において、粉体材料中における部分安定化ジルコニアの含有量の上限値を粉体材料に対して30%と規定しているのと同じ理由によるものである(
図2を参照)。
つまり、実施例2に係るセラミック焼結体を発光装置用基板やそれに実装される部品として用いた際に、十分な熱伝導率を得るためである。
また、実施例2に係るセラミック焼結体の製造時に、粉体材料中におけるマグネシアの添加量を粉体材料に対して0.05〜1.00wt%とするのは、実施例1においても説明したように、アルミナやジルコニアの焼結反応を活性化させて焼成温度を低下させながら、セラミック焼結体の熱伝導性の低下を抑制するためである。
【0038】
ここで、実施例2に係るセラミック焼結体の表面において光線(波長200〜2500nmにピークを有する紫外光から赤外光)の反射率が向上する仕組みについて、
図5及び
図6を参照しながら説明する。
図5は実施例2に係るセラミック焼結体の断面の概念図である。
図5に示すように、実施例2に係るセラミック焼結体12aは、その主成分を構成するアルミナ粒子(図示せず)中に、光線を散乱させる散乱体35であるジルコニア粒子18が分散した状態で内包されるものである。
このような実施例2に係るセラミック焼結体12aでは、セラミック焼結体12aに照射された光線の一部が、その表面において反射光14として反射される一方、他の光線はセラミック焼結体12aの内部に透過光15として侵入する。
続いて、セラミック焼結体12aの内部において、透過光15が散乱体35であるジルコニア粒子18に到達すると、その粒界において散乱光16が散乱し、この現象がセラミック焼結体12aの内部のいたるところで起こって、セラミック焼結体12a内において光線の拡散反射が生じる。
そして、入射光13の大部分が、セラミック焼結体12aの表面(
図5における上面)から外部に散乱光16として放射されることで、セラミック焼結体12aの表面における光線の反射率が高くなるのである。
従って、
図5において、セラミック焼結体12aの下面から外部に放出される透過光15の量が多いほど、また、セラミック焼結体12aの内部に透過光15を吸収して減衰させる有色物質である不純物(FeやTi)の量が多いほど、セラミック焼結体12aの表面における光線の反射性は低下することになる。
【0039】
このような事情に鑑み、発明者らは鋭意研究の結果、セラミックを構成する主成分である骨材粒子中に散乱体35として機能する高屈折率を有する物質を分散させた状態で内包するとともに、この散乱体35となる粉体材料中の有色物質である不純物を可能な限り排除することで、セラミック焼結体12aに高反射性を付与できることを見出した。
しかも、セラミック焼結体12aを構成する骨材の主成分としてアルミナを用いることで、セラミック焼結体12aを高反射材料として特に適した純白色に近づけるとともに、セラミック焼結体12aを発光装置用基板として使用する際に十分な機械的強度や熱伝導性も発揮させることができる(効果A)。
しかも、一般的なアルミナセラミックスを焼成するのに必要な、1500〜1600℃の温度に晒した場合でもその高反射性を維持することができる(効果B)。
【0040】
また、実施例2に係るセラミック焼結体12aを構成する粉体材料の副成分としてジルコニアを用いることで、セラミック焼結体12aの内部における光線の散乱をジルコニア粒子により促進してセラミック焼結体12aの表面における光線の拡散反射率を向上させることができる(効果C)。これはジルコニアの屈折率がアルミナの屈折率よりも非常に大きいために(Al
2O
3の屈折率;1.8、ZrO
2の屈折率;2.2)、光線の散乱効果が非常に大きくなるためである。
そして、特に、セラミック焼結体12aの製造時に使用するジルコニアについて、ジルコニア中の不純物(着色物質)であるFeおよびTiの含有量を、FeをFe
2O
3に,TiをTiO
2にそれぞれ換算して示した場合に,Fe
2O
3,TiO
2のそれぞれの含有量を、粉体材料として添加するジルコニアの全重量に対して0.05wt%以下と規定することで、実施例2に係る高反射性のセラミック焼結体12aを工業的に生産可能なものにすることができる。つまり、高反射材料であるセラミック焼結体12aを作製するにあたり、従来法と著しく異なるような製造方法を採用したり、特殊な材料を調達する必要がないので、高品質な高反射材料を廉価に提供できるという効果を有する(効果D)。
なお、粉体材料として添加するジルコニアとして特に部分安定化ジルコニア(Partially Stabilized Zirconia)を用いた場合には、セラミック焼結体の強度や
靭性を著しく向上することができる(効果E)。
【0041】
さらに、実施例2に係るセラミック焼結体12aの製造時に粉体原料として添加されるマグネシアは、焼結助剤としてジルコニアやアルミナの焼結反応を促進して、焼成温度の低温化させる(効果F)。また、このような焼成温度の低温化に伴って、セラミック焼結体12aの焼成時に、アルミナ粒子やジルコニア粒子の過剰な肥大成長が抑制されて、セラミック焼結体12aの表面における光線の反射率向上効果を促進することができる(効果G)。この理由については後段において詳細に説明する。
【0042】
ここで、
図6を参照しながら、実施例2に係るセラミック焼結体12aの表面における光線の拡散反射率が向上される仕組みについて詳細に説明する。
図6は実施例2に係るセラミック焼結体の内部断面の概念図である。なお、
図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
実施例2に係る焼成済みセラミック焼結体12aは、
図6に示すように、主成分であるアルミナ粒子17の中にジルコニア粒子18が分散した状態で内包されるものである。
【0043】
このような実施例2に係るセラミック焼結体12a中において、異なる屈折率を有する2種類の物質の境界面は全て光線の反射面として作用する。つまり、セラミック焼結体12aの内部において、空気と,アルミナ粒子17又はジルコニア粒子18の境界である気孔19の表面20、及び、アルミナ粒子とジルコニア粒子18の境界である粒界21は、いずれも光線の反射面として作用する。
すなわち、セラミック焼結体12a中における光線の反射面の表面積の積算値が増加することで、実施例2に係るセラミック焼結体12aの表面における光線の反射率が向上する。
【0044】
そして、セラミック焼結体12a中における光線の反射面の表面積の積算値を上昇させる方法としては、(i)セラミック焼結体12a中における気孔19の数を増加させる、(ii)セラミック焼結体12a中に分散混合される散乱体35(ジルコニア粒子18)の数を増加させる、(iii)セラミック焼結体12aを構成する結晶粒子である,アルミナ粒子17及びジルコニア粒子18の粒径を小さくする等が考えられる。
方法(i)の場合、セラミック焼結体12aの反射性の向上効果が期待できるものの、気孔19の増加はセラミック焼結体12aの焼結密度の低下を招いて機械的強度の低下や、熱伝導性の低下の原因となり好ましくない。さらに、焼成済みセラミック焼結体12aの外形寸法を調整することが極めて困難になる。また、セラミック焼結体12aの表面における反射率が一定しないので、製品とした場合の品質のばらつきになってしまい、この点からも好ましくない。
また、方法(ii)の場合、ジルコニアはアルミナよりも熱伝導率が低いため、セラミック焼結体の熱伝導率が下がってしまい好ましくない。さらに、ジルコニアはアルミナより高価な原料であるため、製造コストの上昇が否めず、この点からも好ましくない。
これに対して、方法(iii)は、焼成温度を低くすること、及び、粉体材料を構成するアルミナとジルコニアの粒子径を小さくすることは工業的に十分実現可能である。しかも、方法(iii)の場合、マグネシアの添加により焼結温度の低温化が可能になり、これによりセラミック焼結体12aを構成する結晶粒子の肥大成長が抑制されて相対的に結晶粒子径が小さくなる。この結果、セラミック焼結体12aの表面における光線の反射率向上効果が発揮されるだけでなく、セラミック焼結体12aが緻密化するので、その機械的強度及び熱伝導性が向上する(効果H、効果I)という2つの利点を同時に得ることができる。
【0045】
なお、実施例2に係るセラミック焼結体12aにおいては、アルミナ粒子17同士の境界における粒界では光線の反射効果が非常に弱いので、粉体材料の主成分であるアルミナの平均粒径の肥大成長を抑制することによる、セラミック焼結体12aの反射率の向上効果はあまり期待できない。このため、実施例2に係るセラミック焼結体12aにおいては、焼成済のセラミック焼結体12a中におけるジルコニア粒子18の粒子径を小さくすることで、セラミック焼結体12a中で光線の反射体として作用するアルミナ粒子17とジルコニア粒子18の粒界21の表面積の積算値を増大させることが可能となり、その結果として、セラミック焼結体12aの表面における光線の反射率を向上させることができると考えられる。
従って、実施例2に係るセラミック焼結体12aにおいては、粉体材料を構成するジルコニアの粒度分布から求めた97%粒径を1.5μm以下としている。
【0046】
また、特開2009−46326号公報や特開2009−162950号公報(いずれも本願発明と同じ発明者による)にも記載されるように、セラミック焼結体12a内において散乱体35として作用する結晶粒子の径が、光線の波長に近いほどセラミック焼結体12a中における光線の拡散反射は促進される。
このため、実施例2に係るセラミック焼結体12aにおいては、粉体材料を構成するジルコニアの、粒度分布から求めた97%粒径を1.5μm以下と規定し、かつ、セラミック焼結体12aの焼成温度を1650℃以下にすることで、より具体的にはセラミック焼結体12aの焼成温度を1560〜1600℃とすることで、焼成済みセラミック焼結体12a中のジルコニア粒子18の粒径を0.1〜1.0μm程度(可視光線の波長程度)に近づけることができ、この点からもセラミック焼結体12aの表面における、特に可視光線の反射率を向上することができる(効果J)。
従って、実施例2に係るセラミック焼結体12aによれば、上述のような効果A〜D及びF〜Jを全て有する、高反射材料としても発光装置用基板にも適したセラミック焼結体を提供することができる。
また、特に粉体材料として使用するジルコニアとして、部分安定化ジルコニアを用いた場合には、上述の効果A〜Jの全てを有するセラミック焼結体を提供することができる。
【実施例3】
【0047】
以下に実施例3に係るセラミック焼結体について
図7を参照しながら説明する。
図7は実施例3に係るセラミック焼結体の内部断面の概念図である。
実施例3に係るセラミック焼結体12bは、実施例2に係るセラミック焼結体12aを作製する際に、アルミナとジルコニアとマグネシアからなる粉体材料に、別途シリカを添加したものであり、このシリカの添加量の上限値を粉体材料の全重量に対して10wt%以下としたものである。
このような実施例3に係るセラミック焼結体12bの製造方法及び焼成温度は、実施例2に係るセラミック焼結体12aと同じであるためその詳細な説明は省略する。
そして、実施例3に係るセラミック焼結体12bの内部断面の様子は、
図7に示すように、アルミナ粒子17とジルコニア粒子18に加えて、シリカを主成分する粒界層22により構成される。
この場合、粒界層22とアルミナ粒子17の境界21b、及び、ジルコニア粒子18と粒界層22の境界21cはともに新たな反射面として作用する。これは、アルミナとシリカ、および、ジルコニアとシリカの屈折率が異なるためである(アルミナの屈折率;1.8、ジルコニアの屈折率;2.2、シリカガラスの屈折率1.5)。
このため、実施例2に係るセラミック焼結体12aよりも、実施例3に係るセラミック焼結体12bの表面における光線の反射率を高くすることができる。
【0048】
また、後述するように、セラミック焼結体12bを作製する際に用いるアルミナとジルコニアとマグネシアからなる粉体材料に、別途シリカを添加することで、高温条件下においても高い絶縁性を発揮させることが可能となり、発光装置用基板により適したセラミック焼結体を提供することが可能となる(効果K)。
このように、実施例3に係るセラミック焼結体12bによれば、実施例2において述べたような効果A〜Jに加えて、効果Kを有し、かつ、実施例2に係るセラミック焼結体12aよりも表面における光線の反射率が高いセラミック焼結体12bを提供することができる。
つまり、実施例2に係るセラミック焼結体12aよりも、より高反射材料に適した、また、より発光装置用基板に適したセラミック焼結体12bを提供することができる。
【0049】
なお、上述のような実施例2,3に係るセラミック焼結体12を製造する際に、粉体材料を構成するジルコニア以外の全ての材料について、不純物(着色物質)の含有量の少ない高純度のものを使用した場合、実施例2,3に係る焼成済みのセラミック焼結体12a,12b中における不純物(着色物質)であるFeおよびTiの含有量を、FeをFe
2O
3に,TiをTiO
2にそれぞれ換算して示した場合に,Fe
2O
3,TiO
2のそれぞれの含有量は、セラミック焼結体12a,12bの全重量に対して0.05wt%以下となる。
この場合、実施例2,3に係る焼成済みのセラミック焼結体12a,12bは、完全な白色に限りなく近づくので、その当然の結果として、その表面における光線の反射率を高めることができる。
従って、セラミックス焼結体からなり、銀薄膜に匹敵するほどの高反射性を有する高反射材を提供することができるという効果を有する。
しかも、本発明に係る高反射性のセラミック焼結体は、発光素子を搭載するための基板に適した特性も備えているので、絶縁基板としても好適に利用することができる。このため、高反射性の基板を提供することができるという効果も有する。
【0050】
また、上述のような本発明に係る高反射性を有するセラミック焼結体を、例えば、プレス成形法により所望の形状に成形することで、波長200〜2500nmにピークを有する紫外光から赤外光を光効率で拡散反射させることのできる光反射体(リフレクター)を提供することができる(図示せず)。
上述のような光反射体によれば、例えば、アルミナを主成分とするセラミックス焼結体上に搭載した際に十分な機械的強度を備え、かつ、長期間紫外光に晒された場合でも劣化して変色することがなく、また、大気中の硫化物に長期間晒された場合でも化学変化を起こして変色することがなく、しかも、絶縁性と熱伝導性に優れた光反射体を提供することができる。
つまり、銀薄膜を有する従来の光反射体に匹敵するほどの高反射性を有しながら、経時変化に伴う変色が生じないセラミック製の光反射体を提供することができるという効果を有する。
【実施例4】
【0051】
以下に、実施例4に係る発光素子収納用パッケージについて
図8を参照しながら詳細に説明する。
実施例4に係る発光素子収納用パッケージは、本発明に係るセラミック焼結体を、絶縁性基板として又は、光反射体(リフレクター)として、あるいはこれらの両方に用いた発光素子収納用パッケージである。なお、実施例4に係る発光素子収納用パッケージにおいて、上述の本発明に係るセラミック焼結体(例えば、実施例2,3に係るセラミック焼結体等)のいずれをも区別なく使用できる場合は、単にセラミック焼結体12と記載している。
図8(a)〜(d)はいずれも実施例4に係る発光素子収納用パッケージの一例を示す断面図である。なお、
図5乃至
図7に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図8(a)に示すように、実施例4に係る発光素子収納用パッケージ23aは、例えば、セラミック焼結体12の間に、図示しない導体配線を収容しながら積層された積層基板24a上に、接合用バンプ25を介して、光線を発光する発光素子26を搭載したものである。
この場合、積層基板24aの下面に設けられる図示しない電極から、積層基板24a内に収容される図示しない導体配線,及び,接合用バンプ25を通じて発光素子26に電力が供給されるよう構成するとよい。
このような発光素子収納用パッケージ23aによれば、発光素子26から発光される光線を、積層基板24aの表面において高効率で拡散反射することができるので、発光素子26から発せられる光線の減衰が少ない高出力の発光装置を提供することができる。
【0052】
また、積層基板24aは、高反射性を有しながらも機械的強度及び熱伝導性が高く、熱サイクルが作用した場合でも絶縁性が維持されるので、実施例4に係る発光素子収納用パッケージ23aを用いた製品の信頼性を高めることができる。
さらに、上述のような発光素子収納用パッケージ23aを製造する際に、積層基板24aの表面に高反射性を付与したり、あるいは、積層基板24aを構成するセラミック焼結体12の機械的強度及び熱伝導性を高めるために、特殊な製造工程を実施したり、特殊な設備を設ける必要が何らないので、高品質な製品を廉価に提供することができる。
また、上記発光素子収納用パッケージ23aにおいては、積層基板24aに代えて、セラミック焼結体12からなりその内部に導体配線を有さない平板状の基板24c(
図8(c))を参照)を使用してもよい。この場合、基板24cの表面に発光素子26に電力を供給するための導体配線を形成する必要がある。
【0053】
表示用途や照明用途として使用できる可視光の発光装置に上記発光素子収納用パッケージ23aを採用する場合、発光素子26として直接可視光線を発光するもののほかに、紫外光又は近紫外光又は青色光を発光するものを用いてもよい。この場合、発光素子26を,波長変換材を包含した封止用樹脂で封止してもよいし(図示せず)、波長変換材を包含した,又は,波長変換材が塗布されたレンズを発光素子26上に覆設してもよい(図示せず)。
この場合、発光素子26から発せられた紫外光や近紫外光や青色光が波長変換材により波長変換されてなる可視光線を、積層基板24aや基板24cの表面において高効率に反射することができるので、
図8(a)に示す発光素子収納用パッケージ23aと同じ効果が発揮される。しかも、この場合、積層基板24aや基板24cを構成するセラミック焼結体12は、長期間、紫外光や近紫外光に晒されても変色しないので、発光装置として用いた場合の発光出力の低下が生じない。このため、高品質で耐久性のある製品を廉価に提供できるという効果も有する。
なお、以下に示す実施例4に係る発光素子収納用パッケージ23b〜23dにおいても発光素子26として、直接可視光線を発光するもののほかに紫外光又は近紫外光又は青色光を発光するものを使用することができる。この場合、発光素子26を,波長変換材を包含した封止用樹脂で封止するか、波長変換材を包含した,又は,波長変換材が塗布されたレンズを発光素子26上に覆設する必要があり、その際の、作用・効果は上述のものと同じである。
また、殺菌や樹脂硬化などの用途として使用できる紫外光の発光装置や、赤外通信などの用途に使用できる赤外光の発光装置に、実施例4に係る発光素子収納用パッケージ23a〜23dを採用した場合でも、上述の可視光の発光装置に適用した場合と全く同様の効果が得られる。
【0054】
また、
図8(a)に示す発光素子収納用パッケージ23aにおける、積層基板24aに代えて、その上面に発光素子26を収容するための凹部27を有する積層基板24bを用いて、この凹部27に発光素子26を搭載した、
図8(b)に示す発光素子収納用パッケージ23bとしてもよい。この場合、発光素子26の周囲が、セラミック焼結体12により囲まれるので、発光素子26から発光される可視光線又は紫外光又は近紫外光又は赤外光,又は,発光素子26から発光された紫外光又は近紫外光又は青色光が波長変換材により波長変換されてなる可視光線が、積層基板24bの平面方向に拡散して減衰するのを抑制することができる。従って、
図8(a)に示す発光素子収納用パッケージ23aよりも、より高い発光出力を有する発光装置を提供することができる。
また、
図8(a)に示す積層基板24aに代えて、本発明に係るセラミック焼結体12製のプレス基板(図示せず)を用いてもよい。この場合、積層基板よりも簡単な工程で基板を製造することができるので、廉価に製品を提供することができるという効果を有する。
【0055】
さらに、
図8(a)に示す発光素子収納用パッケージ23aにおける積層基板24aを、内部に導体配線を収容しない平板状の基板24cとし、さらに、この基板24c上に搭載される発光素子26を囲繞するセラミック焼結体12から成る光反射体30aを設けて、
図8(c)に示すような発光素子収納用パッケージ23cとしてもよい。
この場合、
図8(b)に示す発光素子収納用パッケージ23bの場合のように、発光素子26から発光される可視光線又は紫外光又は近紫外光又は赤外光,又は,発光素子26から発光された紫外光又は近紫外光又は青色光が波長変換材により波長変換されてなる可視光線が、積層基板24bの平面方向に拡散して減衰するのを防止することができる。従って、
図8(a)に示す発光素子収納用パッケージ23aよりも、より発光出力の高い発光装置を提供することができる。
また、
図8(c)に示す発光素子収納用パッケージ23cにおいては、基板24cをセラミック焼結体12からなる平板材とし、かつ、基板24cとは別に構成される光反射体30aを、接合材31を介して接合することで、発光素子収納用パッケージ23cの製造コストを下げることができる。このような、発光素子収納用パッケージ23cにおいては、例えば、基板24cの表面に発光素子26に電力を供給するための配線28を形成しておき、この配線28と,接合用バンプ25上に搭載される発光素子26とをボンディングワイヤ29により接続してもよい。
【0056】
さらに、
図8(c)に示す発光素子収納用パッケージ23cでは、基板24cと光反射体30aを構成するセラミック焼結体12を、本発明に係るセラミック焼結体12a又はセラミック焼結体12b等のいずれかに統一してもよいし、互いに異なる本発明に係るセラミック焼結体12を用いてもよい。いずれの場合も、基板24cと光反射体30aを構成するセラミック焼結体12の熱膨張係数はほぼ整合するので、熱サイクルがかかった場合に、基板24cから光反射体30aが剥離する等の不具合の発生を防止することができる。
つまり、
図8(c)に示す発光素子収納用パッケージ23cによれば、発光出力が高く,かつ,信頼性の高い発光装置を廉価に提供できる。
【0057】
なお、
図8(c)に示す発光素子収納用パッケージ23cにおいて、基板24cに代えて
図8(a)に示す積層基板24aを用いてもよい。この場合、基板24c上に形成される配線28を積層基板24a内に収容することができ、しかも、ボンディングワイヤ29を設ける必要がないので、発光素子収納用パッケージ23cの構成をより簡素化することができ、同一面積内において基板24cよりも多数の発光素子26を搭載することができる。この結果、発光装置の発光出力を大きくすることができる。
【0058】
先の
図8(c)に示す発光素子収納用パッケージ23cにおける、配線28を、例えば、銅、鉄−ニッケル−コバルト合金や、鉄−ニッケル合金などの金属部材で構成される配線板32とし、それを介して基板24c上に光反射体30bを接合したものが、
図8(d)に示す発光素子収納用パッケージ23dである。なお、
図8(c)において、光反射体30bと配線板32、および、配線板32と基板24cはいずれも接合材31により接合されている。この発光素子収納用パッケージ23dでは、配線板32と発光素子26とをボンディングワイヤ29により電気的に接続している。
このような発光素子収納用パッケージ23dは、上述の発光素子収納用パッケージ23cとほぼ同じ作用・効果を有しながらも、その構成は一層シンプルになっている。従って、発光素子収納用パッケージ23dによれば、上述の発光素子収納用パッケージ23cと同程度の機能を有するものをより廉価に供給することができる。
なお、
図8(d)に示す発光素子収納用パッケージ23dでは、基板24cと光反射体30bを構成するセラミック焼結体12を、本発明に係るセラミック焼結体12a又はセラミック焼結体12b等のいずれかに統一してもよいし、互いに異なる本発明に係るセラミック焼結体12を用いてもよい。いずれの場合も、基板24cと光反射体30bを構成するセラミック焼結体12の熱膨張係数がほぼ整合するので、熱サイクルがかかった場合に基板24cから光反射体30bが剥離する等の不具合の発生を防止することができる。
【0059】
なお、上述のような実施例4に係る発光素子収納用パッケージ23a〜23dにおいて、発光素子26を囲繞する光反射体30a,30bは、必ずしも切れ目のない環状体により構成する必要はなく、複数のパーツにより発光素子26を囲繞するよう構成してもよい。なお、ここでいう「環状」とは、必ずしも「円形」のみを意味しているのではなく、多角形などの角を有するものでもよく、端部を備えることなく連続してつながっている状態を示すものである。
また、
図8においては、積層基板24a,24b又は基板24c上に1つの発光素子26を搭載する場合を例に挙げて説明しているが、積層基板24a,24b又は基板24c上に搭載される発光素子26の数は必ずしも1つである必要はなく複数でもよい。また、光反射体30a,光反射体30bをセラミック焼結体12に少なくとも1つの貫通孔を備えた形態とする場合、この貫通孔内に収容される発光素子26の数は、1つでもよいし複数でもよい。さらに、積層基板24a,24b又は基板24c上に1つ以上の発光素子26を搭載する場合、発光素子26を個別に光反射体30a,30bで囲繞してもよいし、複数の発光素子26を1つの光反射体30a,30bで囲繞してもよい。
【0060】
なお、
図8(c),(d)に示す発光素子収納用パッケージ23c,23dにおける光反射体30a,30bと、基板24cのうちのいずれか一方のみを本発明に係るセラミック焼結体12により構成し、他方を,例えば,アルミナのみからなるアルミナセラミックスにより構成してもよい。この場合、光反射体30a,30bと、基板24cを構成するそれぞれのセラミック焼結体の熱膨張係数が近似するので、熱サイクルが作用した際に、光反射体30a,30bの基板24cからの剥離を生じ難くすることができる。また、実施例2,3に係るセラミック焼結体12にと比較して、アルミナのみからなるアルミナセラミックスは本発明に係るセラミック焼結体12よりも安価に供給できるので、発光装置として必要かつ十分な機能を有する製品を廉価に供給できるという効果を有する。
【0061】
以上述べたような実施例4に係る発光素子収納用パッケージ23a〜23dによれば、発光出力が高く,かつ,発光装置用基板として用いた場合に、アルミナのみからなるセラミックスよりも高い信頼性を有する発光装置を提供することができる。
【0062】
以下に、実施例2及び実施例3に係るセラミック焼結体12a,12bの効果を立証する目的で行った試験結果について
図9乃至
図12、及び、表2乃至表5を参照しながら説明する。
まず、本試験に使用した供試サンプルの作製方法について表2及び表3を参照しながら説明する。
本試験に用いる供試サンプルとして、実施例2に係るセラミック焼結体、シリカを添加した実施例3(:シリカの添加量を変えてそれぞれ実施例3A〜3Cとした)に係るセラミック焼結体、純度が低く(不純物の含有量が多く)粒度の粗いジルコニアを粉体材料として使用した比較例1に係るセラミック焼結体、アルミナのみからなる比較例2に係るセラミック焼結体の6種類をそれぞれ準備した。
なお、実施例2、実施例3A〜3C、比較例1,2に係るセラミック焼結体の作製に使用した材料粉体等の各成分の配合割合は下表2に示すとおりである。
【0063】
【表2】
【0064】
また、上表2中におけるジルコニアA,Bのそれぞれの組成は、下表3に示すとおりである。下表3おいて、ジルコニア(ZrO
2)Aは、不純物が少なく粒度の細かいジルコニア粉末であり、ジルコニア(ZrO
2)Bは、不純物が多く粒度の粗いジルコニア粉末である。
【0065】
【表3】
【0066】
さらに、上表2に示すような割合で配合された粉体材料,又は,粉体材料及びシリカを、先の実施例1に係るセラミック焼結体1の製造方法と同じ手順(ステップS1〜S5)に従って、混合、成形、焼成して供試サンプルを製造した。また、上記供試サンプルはいずれもプレス成形法により焼成後の厚さが1.0〜1.2mmになるように調整して成形した後、1560〜1600℃の温度条件下において焼成した。
【0067】
また、本願発明に係るセラミック焼結体の他の実施例(請求項2に対応)として、先に述べた実施例2に係るセラミック焼結体の粉体材料を構成するジルコニア以外の材料についても高純度なものを使用したサンプルを作製し、このサンプルの焼結体成分をICP発光分析により分析した際の分析結果を示したものが以下に示す表4である。
下表4から明らかなように、他の実施例に係るサンプル中に含有される不純物(着色物質)であるFeおよびTiの含有量を、FeをFe
2O
3に,TiをTiO
2にそれぞれ換算して示した場合、この他の実施例に係るサンプル中に含有されるFe
2O
3及びTiO
2の量は、いずれも0.05wt%以下であった。
【0068】
【表4】
【0069】
図9を参照しながら実施例2及び実施例3に係るセラミック焼結体の内部構造の違いについて説明する。
図9(a)は実施例2に係るセラミック焼結体の内部断面の走査電子顕微鏡写真であり、(b)は実施例3Bに係るセラミック焼結体(シリカ5.0wt%添加)の内部断面の走査電子顕微鏡写真である。
図9(a),(b)中において、白い粒子はジルコニア粒子18である。特に図示していないが、粉体材料の全重量に対するシリカの添加量が増加するにつれジルコニア粒子18の粒子径が大きくなる傾向が認められた。
図9(b)においては、先の
図7中に示す粒界層22の存在を確認することができた。
【0070】
図10乃至
図12を参照しながら実施例2及び実施例3に係るセラミック焼結体の表面における可視光線の反射率の測定結果について説明する。
図10は実施例2及び実施例3に係る供試サンプルに可視光線の波長を10nmずつ変えながら照射した際の表面における反射率の測定結果を示したグラフである。また、比較対象として上表2に示す比較例1,2に係るサンプルと、銀めっき被膜(銀薄膜)を有する比較例3に係るサンプルの表面における可視光線の反射率についても測定して併せて
図10に示した。
図10から明らかなように、散乱体35として作用するジルコニアを含有する実施例2及び3Aでは、全ての波長において、また、不純物の含有量が大きいが同じくジルコニアを含有する比較例1では、波長470nm以上において、アルミナのみからなる比較例2よりも反射率が高くなっている。不純物の含有量が低く(純度が高く)粒度の細かいジルコニアA(上表3を参照)を使用した実施例2に係る供試サンプルは、不純物の含有量が高く(純度が低く)粒度の粗いジルコニアB(上表3を参照)を使用した比較例1に係る供試サンプルよりも、その表面における可視光線の反射率が高いことが確認された。
また、シリカを添加しなかった実施例2に係る供試サンプルと、シリカを添加した実施例3に係る供試サンプルでは、実施例3に係る供試サンプルの表面における可視光線の反射率の方が高かった。これは、シリカを添加した場合、セラミック焼結体中に反射面として作用する、シリカを主成分とする粒界層22が新たに形成されることにより、セラミック焼結体中の反射面の面積の積算値が増大するためであると考えられる。
そして、
図10より、本発明に係るセラミック焼結体(実施例2,3A)が、銀めっき被膜に相当する程の高い反射率を有していることが確認された。
【0071】
図11は実施例3A〜3Cに係る供試サンプルに可視光線の波長を10nmずつ変えながら照射した際の表面における反射率の測定結果を示したグラフである。なお、上表2にも示すように、実施例3A〜3Cのそれぞれの供試サンプルにおけるシリカの添加量は、粉体材料の全重量に対してそれぞれ1.5wt%, 5.00wt%, 10.00wt%である。また、
図11のグラフ中には比較対象として、実施例2に係る供試サンプルの反射率の測定結果も併せて記載した。
図11から明らかなように、シリカを添加した実施例3A〜3C(実施例3)に係る供試サンプルでは、可視光線の波長が短い場合に反射率が高くなる傾向が認められ、可視光線の波長が長い場合は、実施例2に係る供試サンプルと同程度の反射性を有することが確認された。
よって、セラミック焼結体12の製造時に、粉体材料にシリカを添加することで、その表面における可視光線の反射率を、シリカを加えない場合と比較して同等以上にすることができることが確認できた。
【0072】
図12は実施例3A〜3Cに係る供試サンプルにおける波長450nmにおける反射率をシリカの添加量に対してプロットしたグラフである。なお、基準となる波長を450nmとしたのは、実施例2及び実施例3に係るセラミック焼結体12が、青色光(発光波長450nm程度)を発光する発光素子と、青色光を黄色光に変換する波長変換材とを用いた白色光源として利用される可能性が高いからである。
図12から明らかなように、実施例3に係るセラミック焼結体12bを製造する際に、粉体材料の全重量に対してシリカを約3wt%の添加したときにその表面における可視光線の反射率が最大となり、その後、シリカの添加量が増加するにつれ可視光線の反射率は低下する傾向が認められた。
先の
図9(b)からも明らかなように、シリカの添加量の増加に伴いジルコニア粒子18の粒子径が肥大して可視光の波長(0.1〜1.0μm程度)よりも大きくなる方向にずれてしまう傾向が認められた。そして、シリカの添加量に伴うジルコニア粒子18の肥大化は、ジルコニア粒子18による可視光線の散乱効果を低下させるため不利に働くものの、シリカを添加することによってセラミック焼結体12b中に粒界層22が生成され、この粒界層22の形成に伴って反射面として作用する境界21b,21cが新たに生成されるという効果が発揮され、この効果により先の不利な要因が相殺されて、さらに反射性の向上に一層有利に働いたと考えられる。
よって、これらの試験結果から、セラミック焼結体12bの作製時に、シリカを添加することで、セラミック焼結体12bの表面における可視光線の反射率を向上させることができることが確認された。なお、本試験においては可視光線の反射率の測定にコニカミノルタ社製分光測色計(型番;CM−3600d)を使用した。
【0073】
最後に、実施例3に係るセラミック焼結体の絶縁性の向上効果を確認するために行った試験結果について説明する。
実施例2及び実施例3Aに係るそれぞれの供試サンプルにおける体積抵抗の測定値を下表5に示した。なお、体積抵抗の測定には、JIS C2141 電気絶縁用セラミック材料試験方法を採用した。
【0074】
【表5】
【0075】
上表5から明らかなように、粉体材料の全重量に対してシリカを1.5wt%添加した実施例3Aに係る供試サンプルでは、実施例2に係る供試サンプルに比べて、絶縁性が向上する傾向が認められた。従って、シリカを添加することで実施例3に係るセラミック焼結体12bを、発光装置用基板としての利用に特に適したものにすることができることが確認された。