特許第5697595号(P5697595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697595
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】脂肪族ポリカーボネートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/32 20060101AFI20150319BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   C08G64/32
   C08G64/02
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-514373(P2011-514373)
(86)(22)【出願日】2010年5月6日
(86)【国際出願番号】JP2010057749
(87)【国際公開番号】WO2010134425
(87)【国際公開日】20101125
【審査請求日】2013年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2009-124391(P2009-124391)
(32)【優先日】2009年5月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 信貴
(72)【発明者】
【氏名】岡本 匡史
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−530021(JP,A)
【文献】 特開2006−002063(JP,A)
【文献】 特開平03−028227(JP,A)
【文献】 特開平02−292328(JP,A)
【文献】 特開2007−302731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/00 − 64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素とエポキシドとを有機亜鉛触媒の存在下で反応させる重合工程と、前記重合工程で得られた該重合物にアニオン性界面活性剤を添加して処理する工程とを含むことを特徴とする脂肪族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項2】
有機亜鉛触媒が、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒であることを特徴とする請求項に記載の脂肪族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項3】
脂肪族モノカルボン酸の使用割合が、脂肪族ジカルボン酸1モルに対して、0.0001〜0.1モルであることを特徴とする請求項に記載の脂肪族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項4】
アニオン性界面活性剤が、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジメチルスルホコハク酸アンモニウムおよびジメチルスルホコハク酸ナトリウムからなる群より選ばれた1種以上の化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカーボネートの製造方法。
【請求項5】
界面活性剤の使用量が、エポキシド100質量部に対して、0.001〜20質量部であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカーボネートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素とエポキシドとを用いて、金属触媒が低含有量の脂肪族ポリカーボネートを容易に製造する脂肪族ポリカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業革命以降、人類は化石燃料を大量消費することによって、現代社会を築いてきたが、一方で大気中における二酸化炭素濃度を増加させ、さらに、森林破壊等の環境破壊によって二酸化炭素濃度の増加を助長させている。
【0003】
地球温暖化は、大気中の二酸化炭素、フロン、メタン等の温室効果ガスが増加したことが原因とされることから、地球温暖化への寄与率の高い二酸化炭素の大気中濃度を減少させることは極めて重要であり、二酸化炭素の排出規制、固定化等の様々な研究が世界規模で行われている。
【0004】
中でも、井上らによって見出された二酸化炭素とエポキシドとの重合反応は、地球温暖化問題の解決を担う反応として期待されており、化学的な二酸化炭素の固定という観点だけでなく、炭素資源としての二酸化炭素の利用という観点からも盛んに研究されている(非特許文献1参照)。
【0005】
二酸化炭素とエポキシドとの重合反応には、通常、金属触媒が使用され、ジエチル亜鉛と複数の活性水素を持つ化合物との反応生成物(非特許文献2参照)、酸化亜鉛と脂肪族ジカルボン酸とを有機溶媒の存在下に機械的粉砕処理手段により接触させて得られる亜鉛含有固体触媒(特許文献1参照)、酸化亜鉛等の金属酸化物または水酸化カルシウム等の金属水酸化物等と、イソフタル酸等のジカルボン酸と、プロピオン酸等のモノカルボン酸とを反応させて得られる金属有機酸塩(特許文献2参照)、亜鉛化合物と脂肪族ジカルボン酸と特定量の脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる亜鉛含有固体触媒(特許文献3参照)等が提案されている。
【0006】
しかしながら、このようにして二酸化炭素とエポキシドとを重合反応させて脂肪族ポリカーボネートを製造する場合、得られた脂肪族ポリカーボネート内に前記金属触媒が残留し、このような残留金属触媒を含む脂肪族ポリカーボネートを原料として製造した二次製品の経時安定性または耐候性が損なわれるおそれがある。そこで、金属触媒の残留を未然に防ぐ脂肪族ポリカーボネートの製造方法として、例えば、無機酸を用いて残留金属触媒を除去する方法(非特許文献3参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−47134号公報
【特許文献2】特開昭52−151116号公報
【特許文献3】特開2007−302731号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Macromolecular Syntheses,Vol.7,p.87(1969)
【非特許文献2】高分子論文集、Vol.62,p.131(2005)
【非特許文献3】Polymer Engineering and Science,Vol.40,p.1542(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献3に記載の無機酸を用いて残留金属触媒を除去する方法によると、非水溶性の溶媒に溶解させた脂肪族ポリカーボネート溶液と無機酸の水溶液を用いて分液精製するため、操作が煩雑となるばかりでなく、多量の廃液が発生し、その廃液処理に膨大な費用を要する等の問題がある。また、製造設備の点でも、無機酸を使用しうる設備への変換等の対応が必要である。
【0010】
本発明の目的は、二酸化炭素とエポキシドとを用いて、金属触媒が低含有量の脂肪族ポリカーボネートを容易に製造する脂肪族ポリカーボネートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、二酸化炭素とエポキシドとを有機亜鉛触媒の存在下で反応させる重合工程と、前記重合工程で得られた該重合物にアニオン性界面活性剤を添加して処理する工程とを含む脂肪族ポリカーボネートの製造方法である。
【0012】
本発明者らは、二酸化炭素とエポキシドとの重合工程以降において、界面活性剤で処理する工程を行うことにより、二酸化炭素とエポキシドとを用いて、金属触媒が低含有量の脂肪族ポリカーボネートを容易に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明の脂肪族ポリカーボネートの製造方法は、二酸化炭素とエポキシドとを金属触媒の存在下で反応させる重合工程を含む。
前記重合工程において用いられるエポキシドとしては、二酸化炭素と重合反応して主鎖に脂肪族を含む構造を有する脂肪族ポリカーボネートとなるエポキシドであれば特に限定されず、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、3−ナフチルプロピレンオキシド、3−フェノキシプロピレンオキシド、3−ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3−ビニルオキシプロピレンオキシドおよび3−トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド等が挙げられる。これらのエポキシドの中でも、二酸化炭素との高い重合反応性を有する観点から、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドが好適に用いられる。なお、これらのエポキシドは、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
前記重合工程において用いられる金属触媒としては、例えば、アルミニウム触媒、亜鉛触媒等が挙げられる。これらの中でも、二酸化炭素とエポキシドとの重合反応において、高い重合活性を有することから、亜鉛触媒が好ましく用いられ、亜鉛触媒の中でも、有機亜鉛触媒が好ましく用いられる。
【0015】
前記有機亜鉛触媒としては、例えば、酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛触媒;一級アミン、2価のフェノール、2価の芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシ酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸等の化合物と亜鉛化合物とを反応させることにより得られる有機亜鉛触媒等が挙げられる。これらの有機亜鉛触媒の中でも、より高い重合活性を有することから、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒が好ましい。
【0016】
本明細書においては、有機亜鉛触媒の実施形態の一例として、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒についてより詳しく説明する。
【0017】
前記亜鉛化合物の具体例としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛等の無機亜鉛化合物;酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛化合物等が挙げられる。これらの亜鉛化合物の中でも、高い触媒活性を有する有機亜鉛触媒が得られる観点から、酸化亜鉛および水酸化亜鉛が好適に用いられる。なお、これらの亜鉛化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。これらの脂肪族ジカルボン酸の中でも、高い活性を有する有機亜鉛触媒が得られる観点から、グルタル酸およびアジピン酸が好適に用いられる。なお、これらの脂肪族ジカルボン酸は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
前記脂肪族ジカルボン酸の使用割合は、通常、前記亜鉛化合物1モルに対して、0.1〜1.5モルであることが好ましく、0.5〜1.0モルであることがより好ましい。脂肪族ジカルボン酸の使用割合が0.1モル未満の場合、亜鉛化合物との反応が進行しにくくなるおそれがある。また、脂肪族ジカルボン酸の使用割合が1.5モルを超える場合、得られる有機亜鉛触媒の活性において、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0020】
前記脂肪族モノカルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等が挙げられる。これらの脂肪族モノカルボン酸の中でも、高い活性を有する有機亜鉛触媒が得られる観点から、ギ酸および酢酸が好適に用いられる。なお、これらの脂肪族モノカルボン酸は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
前記脂肪族モノカルボン酸の使用割合は、脂肪族ジカルボン酸1モルに対して、0.0001〜0.1モルであることが好ましく、0.001〜0.05モルであることがより好ましい。脂肪族モノカルボン酸の使用割合が0.0001モル未満の場合、得られる有機亜鉛触媒は、末端にカルボン酸基が含まれた構造を有しているため、活性の低い有機亜鉛触媒になるおそれがある。また、脂肪族モノカルボン酸の使用割合が0.1モルを超える場合、得られる有機亜鉛触媒の活性において、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0022】
前記亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させる方法としては、特に限定されず、これらを同時に反応させてもよいし、脂肪族ジカルボン酸または脂肪族モノカルボン酸のどちらか一方と亜鉛化合物とを先に反応させた後、その反応生成物と他のもう一方とを引き続いて反応させてもよい。
【0023】
また、前記亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させる際に、反応を円滑に行う観点から、溶媒を用いてもよい。
前記溶媒としては、反応を阻害する溶媒でなければ特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホトリアミド等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、溶媒のリサイクル使用が容易である観点から、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒が好適に用いられる。
【0024】
前記溶媒の使用量は、反応を円滑に行う観点から、亜鉛化合物100質量部に対して500〜10000質量部であることが好ましい。
【0025】
前記亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させる際の反応温度は、特に限定されないが、20〜110℃であることが好ましく、50〜100℃であることがより好ましい。また、前記亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させる際の反応時間は、反応温度により異なるために一概にはいえないが、通常1〜20時間であることが好ましい。
【0026】
かくして得られる有機亜鉛触媒は、前記反応終了後にろ過等の常法により単離して、または、単離せずに当該反応液に含まれたままで、二酸化炭素とエポキシドとを反応させる重合工程に用いることができる。
なお、例えば、前記有機亜鉛触媒の使用において、単離せずに前記反応液に含まれた状態で使用する際には、二酸化炭素とエポキシドとの反応に悪影響を及ぼすおそれのある水分を充分に除去しておくことが好ましい。
【0027】
前記重合工程において用いられる金属触媒の使用量は、エポキシド100質量部に対して、0.001〜20質量部であることが好ましく、0.01〜10質量部であることがより好ましい。金属触媒の使用量が0.001質量部未満の場合、重合反応が進行しにくくなるおそれがある。また、金属触媒の使用量が20質量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0028】
前記重合工程においては、必要に応じて、反応溶媒を用いてもよい。
前記反応溶媒としては、特に限定されず、種々の有機溶媒を用いることができる。前記有機溶媒としては、具体的には、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロメタン、メチレンジクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロルベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。
【0029】
前記反応溶媒の使用量は、反応を円滑にさせる観点から、エポキシド100質量部に対して、500〜10000質量部であることが好ましい。
【0030】
前記重合工程において、二酸化炭素とエポキシドとを金属触媒の存在下で反応させる方法としては、特に限定されず、例えば、オートクレーブに、前記エポキシド、金属触媒、および必要により反応溶媒を仕込み、混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が挙げられる。
【0031】
前記重合工程において用いられる二酸化炭素の使用圧力は、特に限定されないが、通常、0.1〜20MPaであることが好ましく、0.1〜10MPaであることがより好ましく、0.1〜5MPaであることがさらに好ましい。二酸化炭素の使用圧力が20MPaを超える場合、使用圧力に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0032】
前記重合工程における重合反応温度は、特に限定されないが、20〜100℃であることが好ましく、40〜80℃であることがより好ましい。重合反応温度が20℃未満の場合、重合反応に長時間を要するおそれがある。また、重合反応温度が100℃を超える場合、副反応が起こり、収率が低下するおそれがある。また、前記重合工程における重合反応時間は、重合反応温度により異なるために一概にはいえないが、通常、2〜40時間であることが好ましい。
【0033】
重合反応終了後は、ろ過、乾燥等の単位操作を組み合わせて、重合反応液から該重合物を単離してもよい。
【0034】
本発明は、二酸化炭素とエポキシドとの重合工程以降において、界面活性剤で処理する工程を行うことを特徴とする。
本発明の脂肪族ポリカーボネートの製造方法は、前記重合工程と当該工程で得られた該重合物を界面活性剤で処理する工程とを含む。
【0035】
前記界面活性剤で処理する工程の具体的方法としては、例えば、重合工程後の反応液に界面活性剤を添加して混合する方法;重合工程後にろ過、乾燥等によって得た該重合物に、界面活性剤を添加して混合する方法等が挙げられる。
【0036】
前記界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも用いることができる。
前記アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、アルキルリン酸ナトリウム、アシロイルメチルタウレート、N−メチル−N−アシルアミドプロピオン酸ナトリウム、モノアルキルビフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ナフタリンスルホン酸ナトリウム−ホルマリン縮合物、アシルグルタミン酸ナトリウム、ジメチルスルホコハク酸アンモニウム、ジメチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルメチルカルボン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルエタンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0037】
前記カチオン性界面活性剤としては、例えば、モノアルキルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、カチオン化セルロース、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、アルキルピリジニウムクロライド等が挙げられる。
【0038】
前記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンラノリンアルコールエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸モノエステル、ポリエチレングリコール脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレン脂肪アミン、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル、ビス(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン、アルキルジメチルアミンオキシド、脂肪酸アルキロールアミド、ω−メトキシポリオキシエチレン−α−アルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアセチレングリコール、シュガー脂肪酸部分エステル等が挙げられる。
【0039】
前記両性界面活性剤としては、例えば、N−アシルアミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニオベタイン、N−アシルアミドプロピル−N’,N’−ジメチル−N’−β−ヒドロキシプロピルアンモニオスルホベタイン、N−アシルアミドエチル−N’−ヒドロキシエチル−N’−カルボキシメチルアンモニオベタイン、N−アルキル−N−ジメチル−N−カルボキシメチルアンモニオベタイン、アルキルジアミノエチルグリシン、アシル化ポリペプタイド等が挙げられる。
【0040】
これらの界面活性剤の中でも、工業的に入手が容易で安価である観点、得られる脂肪族ポリカーボネートに含まれる金属触媒を効率よく減少させる観点から、アニオン性界面活性剤が好ましく用いられ、アニオン性界面活性剤の中でも、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジメチルスルホコハク酸アンモニウム、ジメチルスルホコハク酸ナトリウムが好適に用いられ、とりわけ、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸ナトリウムがより好適に用いられる。なお、これらの界面活性剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
前記界面活性剤の使用量は、得られる脂肪族ポリカーボネートに含まれる金属触媒を減少させる観点から、前記重合工程において使用したエポキシド100質量部に対して、0.001〜20質量部であることが好ましく、0.01〜10質量部であることがより好ましい。界面活性剤の使用量が0.001質量部未満の場合、得られる脂肪族ポリカーボネートに含まれる金属触媒が充分に減少しないおそれがある。また、界面活性剤の使用量が20質量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0042】
前記界面活性剤で処理する工程において、金属触媒が低含有量の脂肪族ポリカーボネートをより効率的に得るために溶媒を用いることが好ましい。
【0043】
前記溶媒としては、脂肪族ポリカーボネートを溶解する溶媒であれば特に限定されず、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;クロロメタン、メチレンジクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロルベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、使用する溶媒の安全性の観点、脂肪族ポリカーボネートが溶解した状態での溶液粘度が低く、界面活性剤で処理する工程における取り扱いが容易である観点から、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒が好適に用いられる。なお、これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
前記溶媒の使用量としては、前記重合工程において使用したエポキシド100質量部に対して、200〜10000質量部であることが好ましく、250〜2500質量部であることがより好ましい。
【0045】
界面活性剤で処理する温度は、特に限定されないが、0〜80℃であることが好ましく、10〜50℃であることがより好ましい。また、界面活性剤で処理する時間は、処理する温度により異なるために一概にはいえないが、通常、0.1〜20時間である。
【0046】
前記界面活性剤で処理する工程を経た後、所望により撹拌を行い、界面活性剤を該重合物に充分に接触させた後、静置、ろ過等によりろ別し、必要により溶媒等で洗浄後、乾燥させることにより、脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、二酸化炭素とエポキシドとを用いて、金属触媒が低含有量の脂肪族ポリカーボネートを容易に製造する脂肪族ポリカーボネートの製造方法を提供することができる。
本発明の脂肪族ポリカーボネートの製造方法によれば、容易に金属触媒の含有量が少ない高純度の脂肪族ポリカーボネートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
[製造例1](有機亜鉛触媒の製造)
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管を備えた300mL容の四つ口フラスコに、酸化亜鉛8.1g(100ミリモル)、グルタル酸12.7g(96ミリモル)、酢酸0.1g(2ミリモル)およびトルエン130g(150mL)を仕込んだ。次に、反応系内を窒素雰囲気に置換した後、55℃まで昇温し、同温度で4時間攪拌して反応させた。その後、110℃まで昇温し、さらに同温度で4時間攪拌して共沸脱水させ、水分のみを除去した後、室温まで冷却して、有機亜鉛触媒を含む反応液を得た。
【0050】
この反応液の一部を分取し、ろ過して得た有機亜鉛触媒について、IRを測定(サーモニコレージャパン社製、商品名:AVATAR360)した結果、カルボン酸基に基づくピークは認められなかった。
【0051】
[実施例1]
攪拌機、ガス導入管、温度計を備えた1L容のオートクレーブの系内をあらかじめ窒素雰囲気に置換した後、製造例1により得られた有機亜鉛触媒を含む反応液8.0mL(有機亜鉛触媒を1.0g含む)、ヘキサン131g(200mL)、エチレンオキシド35.2g(0.80モル)を仕込んだ。次に、攪拌下、二酸化炭素を加え、反応系内を二酸化炭素雰囲気に置換し、反応系内が1.5MPaとなるまで二酸化炭素を充填した。その後、60℃に昇温し、反応により消費される二酸化炭素を補給しながら6時間重合反応を行なった。反応終了後、オートクレーブを冷却して脱圧し、ろ過した後、減圧乾燥して重合物68.4gを得た。
【0052】
次に、得られた重合物50g(当該重合物50gを得るために使用したエチレンオキシドの理論量:24.6g)およびジメチルカーボネート250gを、攪拌機、温度計を備えた500mL容の4つ口フラスコに仕込み、攪拌下、25℃にて、ラウリル硫酸アンモニウム0.25gを加え、同温度にて1時間攪拌した後、10時間静置した。静置後、ろ過し、ジメチルカーボネートを留去した後、減圧乾燥してポリエチレンカーボネート48.7gを得た。
【0053】
得られたポリエチレンカーボネートは、下記の物性を有することから同定することができた。
IR(KBr):1740、1447、1386、1217、1029、785(cm−1
【0054】
得られたポリエチレンカーボネートに含まれる亜鉛含有量を、ICP−AES法(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:IRIS advantage)により測定したところ、3.5ppmであった。
【0055】
[実施例2]
実施例1において、ラウリル硫酸アンモニウムの使用量を0.25gから1.0gに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンカーボネート48.2gを得た。
【0056】
得られたポリエチレンカーボネートに含まれる亜鉛含有量を、ICP−AES法(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:IRIS advantage)により測定したところ、0.5ppmであった。
【0057】
[実施例3]
実施例1において、ラウリル硫酸アンモニウムの使用量を0.25gから0.01gに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンカーボネート48.3gを得た。
【0058】
得られたポリエチレンカーボネートに含まれる亜鉛含有量を、ICP−AES法(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:IRIS advantage)により測定したところ、9.0ppmであった。
【0059】
[実施例4]
実施例1において、ラウリル硫酸アンモニウムの使用量を0.25gから4.0gに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンカーボネート47.6gを得た。
【0060】
得られたポリエチレンカーボネートに含まれる亜鉛含有量を、ICP−AES法(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:IRIS advantage)により測定したところ、0.2ppmであった。
【0061】
[実施例5]
実施例1において、ラウリル硫酸アンモニウム0.25gをラウリル硫酸ナトリウム0.25gに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンカーボネート47.9gを得た。
【0062】
得られたポリエチレンカーボネートに含まれる亜鉛含有量を、ICP−AES法(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:IRIS advantage)により測定したところ、3.7ppmであった。
【0063】
[実施例6]
実施例1において、エチレンオキシド35.2g(0.80モル)に代えて、プロピレンオキシド46.4g(0.80モル)を用いた以外は実施例1と同様にして、重合物80.8gを得た。
【0064】
次に、得られた重合物50g(当該重合物50gを得るために使用したプロピレンオキシドの理論量:28.1g)を用いて実施例1と同様にして、ポリプロピレンカーボネート47.5gを得た。
【0065】
得られたポリプロピレンカーボネートは、下記の物性を有することから同定することができた。
IR(KBr):1742、1456、1381、1229、1069、787(cm−1
【0066】
得られたポリプロピレンカーボネートに含まれる亜鉛含有量を、ICP−AES法(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:IRIS advantage)により測定したところ、4.2ppmであった。
【0067】
[実施例7]
攪拌機、ガス導入管、温度計を備えた1L容のオートクレーブの系内をあらかじめ窒素雰囲気下にした後、製造例1により得られた有機亜鉛触媒を含む反応液8.0mL(有機亜鉛触媒を1.0g含む)、プロピレンカーボネート241g(200mL)、エチレンオキシド35.2g(0.80モル)を仕込んだ。次に、攪拌下、二酸化炭素を加え、反応系内を二酸化炭素雰囲気に置換し、反応系内が1.5MPaとなるまで二酸化炭素を充填した。その後、60℃に昇温し、反応により消費される二酸化炭素を補給しながら6時間重合反応を行なった。反応終了後、オートクレーブを冷却して脱圧し、重合物を含むスラリー312gを得た。
【0068】
次に、得られた重合物を含むスラリー250g(当該スラリー250gを得るために使用したエチレンオキシドの理論量:28.2g)を、攪拌機、温度計を備えた500mL容の4つ口フラスコに仕込み、攪拌下、25℃にて、ラウリル硫酸アンモニウム0.25gを加え、同温度にて1時間攪拌した後、10時間静置した。静置後、ろ過し、プロピレンカーボネートを留去した後、減圧乾燥してポリエチレンカーボネート58.7gを得た。
【0069】
得られたポリエチレンカーボネートは、下記の物性を有することから同定することができた。
IR(KBr):1741、1447、1386、1218、1029、785(cm−1
【0070】
得られたポリエチレンカーボネートに含まれる亜鉛含有量を、ICP−AES法(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:IRIS advantage)により測定したところ、3.2ppmであった。
【0071】
[比較例1]
実施例1において、ラウリル硫酸アンモニウム0.25gを使用しないこと以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンカーボネート47.8gを得た。
【0072】
得られたポリエチレンカーボネートに含まれる亜鉛含有量を、ICP−AES法(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:IRIS advantage)により測定したところ、13700ppmであった。
【0073】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、二酸化炭素とエポキシドとを用いて、金属触媒が低含有量の脂肪族ポリカーボネートを容易に製造する脂肪族ポリカーボネートの製造方法を提供することができる。