【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、二酸化炭素とエポキシドとを
有機亜鉛触媒の存在下で反応させる重合工程と、前記重合工程で得られた該重合物
にアニオン性界面活性剤
を添加して処理する工程とを含む脂肪族ポリカーボネートの製造方法である。
【0012】
本発明者らは、二酸化炭素とエポキシドとの重合工程以降において、界面活性剤で処理する工程を行うことにより、二酸化炭素とエポキシドとを用いて、金属触媒が低含有量の脂肪族ポリカーボネートを容易に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明の脂肪族ポリカーボネートの製造方法は、二酸化炭素とエポキシドとを金属触媒の存在下で反応させる重合工程を含む。
前記重合工程において用いられるエポキシドとしては、二酸化炭素と重合反応して主鎖に脂肪族を含む構造を有する脂肪族ポリカーボネートとなるエポキシドであれば特に限定されず、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、3−ナフチルプロピレンオキシド、3−フェノキシプロピレンオキシド、3−ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3−ビニルオキシプロピレンオキシドおよび3−トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド等が挙げられる。これらのエポキシドの中でも、二酸化炭素との高い重合反応性を有する観点から、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドが好適に用いられる。なお、これらのエポキシドは、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
前記重合工程において用いられる金属触媒としては、例えば、アルミニウム触媒、亜鉛触媒等が挙げられる。これらの中でも、二酸化炭素とエポキシドとの重合反応において、高い重合活性を有することから、亜鉛触媒が好ましく用いられ、亜鉛触媒の中でも、有機亜鉛触媒が好ましく用いられる。
【0015】
前記有機亜鉛触媒としては、例えば、酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛触媒;一級アミン、2価のフェノール、2価の芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシ酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸等の化合物と亜鉛化合物とを反応させることにより得られる有機亜鉛触媒等が挙げられる。これらの有機亜鉛触媒の中でも、より高い重合活性を有することから、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒が好ましい。
【0016】
本明細書においては、有機亜鉛触媒の実施形態の一例として、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒についてより詳しく説明する。
【0017】
前記亜鉛化合物の具体例としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛等の無機亜鉛化合物;酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛化合物等が挙げられる。これらの亜鉛化合物の中でも、高い触媒活性を有する有機亜鉛触媒が得られる観点から、酸化亜鉛および水酸化亜鉛が好適に用いられる。なお、これらの亜鉛化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。これらの脂肪族ジカルボン酸の中でも、高い活性を有する有機亜鉛触媒が得られる観点から、グルタル酸およびアジピン酸が好適に用いられる。なお、これらの脂肪族ジカルボン酸は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
前記脂肪族ジカルボン酸の使用割合は、通常、前記亜鉛化合物1モルに対して、0.1〜1.5モルであることが好ましく、0.5〜1.0モルであることがより好ましい。脂肪族ジカルボン酸の使用割合が0.1モル未満の場合、亜鉛化合物との反応が進行しにくくなるおそれがある。また、脂肪族ジカルボン酸の使用割合が1.5モルを超える場合、得られる有機亜鉛触媒の活性において、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0020】
前記脂肪族モノカルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等が挙げられる。これらの脂肪族モノカルボン酸の中でも、高い活性を有する有機亜鉛触媒が得られる観点から、ギ酸および酢酸が好適に用いられる。なお、これらの脂肪族モノカルボン酸は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
前記脂肪族モノカルボン酸の使用割合は、脂肪族ジカルボン酸1モルに対して、0.0001〜0.1モルであることが好ましく、0.001〜0.05モルであることがより好ましい。脂肪族モノカルボン酸の使用割合が0.0001モル未満の場合、得られる有機亜鉛触媒は、末端にカルボン酸基が含まれた構造を有しているため、活性の低い有機亜鉛触媒になるおそれがある。また、脂肪族モノカルボン酸の使用割合が0.1モルを超える場合、得られる有機亜鉛触媒の活性において、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0022】
前記亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させる方法としては、特に限定されず、これらを同時に反応させてもよいし、脂肪族ジカルボン酸または脂肪族モノカルボン酸のどちらか一方と亜鉛化合物とを先に反応させた後、その反応生成物と他のもう一方とを引き続いて反応させてもよい。
【0023】
また、前記亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させる際に、反応を円滑に行う観点から、溶媒を用いてもよい。
前記溶媒としては、反応を阻害する溶媒でなければ特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホトリアミド等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、溶媒のリサイクル使用が容易である観点から、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒が好適に用いられる。
【0024】
前記溶媒の使用量は、反応を円滑に行う観点から、亜鉛化合物100質量部に対して500〜10000質量部であることが好ましい。
【0025】
前記亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させる際の反応温度は、特に限定されないが、20〜110℃であることが好ましく、50〜100℃であることがより好ましい。また、前記亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させる際の反応時間は、反応温度により異なるために一概にはいえないが、通常1〜20時間であることが好ましい。
【0026】
かくして得られる有機亜鉛触媒は、前記反応終了後にろ過等の常法により単離して、または、単離せずに当該反応液に含まれたままで、二酸化炭素とエポキシドとを反応させる重合工程に用いることができる。
なお、例えば、前記有機亜鉛触媒の使用において、単離せずに前記反応液に含まれた状態で使用する際には、二酸化炭素とエポキシドとの反応に悪影響を及ぼすおそれのある水分を充分に除去しておくことが好ましい。
【0027】
前記重合工程において用いられる金属触媒の使用量は、エポキシド100質量部に対して、0.001〜20質量部であることが好ましく、0.01〜10質量部であることがより好ましい。金属触媒の使用量が0.001質量部未満の場合、重合反応が進行しにくくなるおそれがある。また、金属触媒の使用量が20質量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0028】
前記重合工程においては、必要に応じて、反応溶媒を用いてもよい。
前記反応溶媒としては、特に限定されず、種々の有機溶媒を用いることができる。前記有機溶媒としては、具体的には、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロメタン、メチレンジクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロルベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。
【0029】
前記反応溶媒の使用量は、反応を円滑にさせる観点から、エポキシド100質量部に対して、500〜10000質量部であることが好ましい。
【0030】
前記重合工程において、二酸化炭素とエポキシドとを金属触媒の存在下で反応させる方法としては、特に限定されず、例えば、オートクレーブに、前記エポキシド、金属触媒、および必要により反応溶媒を仕込み、混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が挙げられる。
【0031】
前記重合工程において用いられる二酸化炭素の使用圧力は、特に限定されないが、通常、0.1〜20MPaであることが好ましく、0.1〜10MPaであることがより好ましく、0.1〜5MPaであることがさらに好ましい。二酸化炭素の使用圧力が20MPaを超える場合、使用圧力に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0032】
前記重合工程における重合反応温度は、特に限定されないが、20〜100℃であることが好ましく、40〜80℃であることがより好ましい。重合反応温度が20℃未満の場合、重合反応に長時間を要するおそれがある。また、重合反応温度が100℃を超える場合、副反応が起こり、収率が低下するおそれがある。また、前記重合工程における重合反応時間は、重合反応温度により異なるために一概にはいえないが、通常、2〜40時間であることが好ましい。
【0033】
重合反応終了後は、ろ過、乾燥等の単位操作を組み合わせて、重合反応液から該重合物を単離してもよい。
【0034】
本発明は、二酸化炭素とエポキシドとの重合工程以降において、界面活性剤で処理する工程を行うことを特徴とする。
本発明の脂肪族ポリカーボネートの製造方法は、前記重合工程と当該工程で得られた該重合物を界面活性剤で処理する工程とを含む。
【0035】
前記界面活性剤で処理する工程の具体的方法としては、例えば、重合工程後の反応液に界面活性剤を添加して混合する方法;重合工程後にろ過、乾燥等によって得た該重合物に、界面活性剤を添加して混合する方法等が挙げられる。
【0036】
前記界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも用いることができる。
前記アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、アルキルリン酸ナトリウム、アシロイルメチルタウレート、N−メチル−N−アシルアミドプロピオン酸ナトリウム、モノアルキルビフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ナフタリンスルホン酸ナトリウム−ホルマリン縮合物、アシルグルタミン酸ナトリウム、ジメチルスルホコハク酸アンモニウム、ジメチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルメチルカルボン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルエタンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0037】
前記カチオン性界面活性剤としては、例えば、モノアルキルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、カチオン化セルロース、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、アルキルピリジニウムクロライド等が挙げられる。
【0038】
前記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンラノリンアルコールエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸モノエステル、ポリエチレングリコール脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレン脂肪アミン、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル、ビス(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン、アルキルジメチルアミンオキシド、脂肪酸アルキロールアミド、ω−メトキシポリオキシエチレン−α−アルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアセチレングリコール、シュガー脂肪酸部分エステル等が挙げられる。
【0039】
前記両性界面活性剤としては、例えば、N−アシルアミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニオベタイン、N−アシルアミドプロピル−N’,N’−ジメチル−N’−β−ヒドロキシプロピルアンモニオスルホベタイン、N−アシルアミドエチル−N’−ヒドロキシエチル−N’−カルボキシメチルアンモニオベタイン、N−アルキル−N−ジメチル−N−カルボキシメチルアンモニオベタイン、アルキルジアミノエチルグリシン、アシル化ポリペプタイド等が挙げられる。
【0040】
これらの界面活性剤の中でも、工業的に入手が容易で安価である観点、得られる脂肪族ポリカーボネートに含まれる金属触媒を効率よく減少させる観点から、アニオン性界面活性剤が好ましく用いられ、アニオン性界面活性剤の中でも、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジメチルスルホコハク酸アンモニウム、ジメチルスルホコハク酸ナトリウムが好適に用いられ、とりわけ、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸ナトリウムがより好適に用いられる。なお、これらの界面活性剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
前記界面活性剤の使用量は、得られる脂肪族ポリカーボネートに含まれる金属触媒を減少させる観点から、前記重合工程において使用したエポキシド100質量部に対して、0.001〜20質量部であることが好ましく、0.01〜10質量部であることがより好ましい。界面活性剤の使用量が0.001質量部未満の場合、得られる脂肪族ポリカーボネートに含まれる金属触媒が充分に減少しないおそれがある。また、界面活性剤の使用量が20質量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0042】
前記界面活性剤で処理する工程において、金属触媒が低含有量の脂肪族ポリカーボネートをより効率的に得るために溶媒を用いることが好ましい。
【0043】
前記溶媒としては、脂肪族ポリカーボネートを溶解する溶媒であれば特に限定されず、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;クロロメタン、メチレンジクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロルベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、使用する溶媒の安全性の観点、脂肪族ポリカーボネートが溶解した状態での溶液粘度が低く、界面活性剤で処理する工程における取り扱いが容易である観点から、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒が好適に用いられる。なお、これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
前記溶媒の使用量としては、前記重合工程において使用したエポキシド100質量部に対して、200〜10000質量部であることが好ましく、250〜2500質量部であることがより好ましい。
【0045】
界面活性剤で処理する温度は、特に限定されないが、0〜80℃であることが好ましく、10〜50℃であることがより好ましい。また、界面活性剤で処理する時間は、処理する温度により異なるために一概にはいえないが、通常、0.1〜20時間である。
【0046】
前記界面活性剤で処理する工程を経た後、所望により撹拌を行い、界面活性剤を該重合物に充分に接触させた後、静置、ろ過等によりろ別し、必要により溶媒等で洗浄後、乾燥させることにより、脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。