(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5697926
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/861 20060101AFI20150319BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20150319BHJP
H01L 31/08 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
H01L29/91 C
H01L31/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-196075(P2010-196075)
(22)【出願日】2010年9月1日
(65)【公開番号】特開2012-54421(P2012-54421A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2013年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】308033711
【氏名又は名称】ラピスセミコンダクタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 知彦
【審査官】
大橋 達也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−111112(JP,A)
【文献】
特開平11−118934(JP,A)
【文献】
特開昭57−201085(JP,A)
【文献】
特開平11−004012(JP,A)
【文献】
特開平08−236799(JP,A)
【文献】
特開2006−196582(JP,A)
【文献】
特開平07−162025(JP,A)
【文献】
特開昭62−293680(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/138745(WO,A1)
【文献】
米国特許第6683360(US,B1)
【文献】
特開2008−072136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/861
H01L 29/868
H01L 31/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一導電型の半導体層と、
前記半導体層に設けられた前記一導電型とは反対導電型の他の導電型の第1の半導体領域と、
前記第1の半導体領域内に設けられた前記他の導電型であって、前記の第1の半導体領域よりも高不純物濃度の第2の半導体領域と、を備え、
前記半導体層と前記第2の半導体領域との間に逆バイアスを印加して動作させる際に前記半導体層と前記第1の半導体領域との間に広がる空乏層内に、前記第2の半導体領域に生じる結晶欠陥が含まれないよう、前記第1の半導体領域内に前記第2の半導体領域を配置した放射線検出用半導体装置。
【請求項2】
前記第2の半導体領域は、前記半導体層の一主面側から前記他の導電型の不純物を注入して設けられ、前記第1の半導体領域は、前記半導体層の一主面側から前記他の導電型の不純物を、前記第2の半導体領域を形成する場合よりも低いドーズ量かつ高い加速エネルギーで注入して設けられる請求項1記載の放射線検出用半導体装置。
【請求項3】
前記第1の半導体領域の不純物濃度は、結晶欠陥を発生させない不純物濃度である請求項2記載の放射線検出用半導体装置。
【請求項4】
前記第1の半導体領域は、前記半導体層の一主面に設けられ、前記第2の半導体領域は前記第1の半導体領域の前記一主面側に設けられている請求項1記載の放射線検出用半導体装置。
【請求項5】
前記第1の半導体領域の不純物濃度は1×1013〜1×1018/cm3、前記第2の半導体領域の不純物濃度は1×1019〜1×1021/cm3、前記半導体層の不純物濃度は1×1011〜1×1014/cm3である請求項1〜4のいずれか一項に記載の放射線検出用半導体装置。
【請求項6】
前記第2の半導体領域の深さは0.1〜1μm、前記第1の半導体領域の深さは0.5〜2μmである請求項5記載の放射線検出用半導体装置。
【請求項7】
前記放射線検出用半導体装置はダイオードである請求項1〜6のいずれか一項に記載の放射線検出用半導体装置。
【請求項8】
前記半導体層、前記第1の半導体領域、第2の半導体領域はSiから構成されている請求項1〜6のいずれか一項に記載の放射線検出用半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特に、放射線センサに使用され、放射線を検出するための素子であるダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を検出するダイオードは、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−124657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射線を検出するダイオードとして、半導体シリコン基板を用いたものがある。
図3に示すように、従来の放射線検出用のダイオード2は、N型半導体基板10と、N型半導体基板10の主面12側に設けられたP型半導体領域20とを備えている。N型半導体基板10の主面12にはコンタクト64が接触して設けられ、P型半導体領域20の主面12側にはコンタクト62が接触して設けられている。
【0005】
まず、放射線に対するシリコン中の電子の性質について説明する。放射線がダイオードに照射されると、シリコン基板中のシリコン原子に束縛されている電子が、放射線のエネルギーを吸収して、束縛を逃れシリコン基板中を自由に動き回るようになる。しかしながら、自由に動き回っている電子は、僅かな時間(通常1×10
−6秒以下)で再びシリコン原子に束縛されるので、シリコン基板中の状態は放射線を当てる前の状態に戻るという性質がある。
【0006】
いま、N型半導体基板10とP型半導体領域20との間に逆バイアスを印加、すなわち、P型半導体領域20よりN型半導体基板10の方が高い電圧を印加すると、
図4に示すようにP型半導体領域20とN型半導体基板10の界面(PNジャンクション52)を中心として、空乏層40と呼ばれる電界の強い領域が形成される。逆バイアスを印加することで空乏層40が形成されている状態では、放射線が照射された際、放射線によって束縛を解かれた電子は、強い空乏層領域の電界によって加速され、再びシリコン原子に束縛されるより先にシリコン基板10の端まで到達することが出来る。シリコン基板10の端には金属のコンタクト64が形成されており、
コンタクト64の先には電子の量を測定するための回路60が存在する。放射線が照射されていない時は、このシリコン基板10中を自由に動き回る電子はほとんどないが、放射線が照射されると、多数の電子がシリコン基板10の端に形成されているコンタクト64に到達し、電子の量を測る回路60によってカウントされる。このように放射線照射の有無を、シリコン基板10からコンタクト64を介して回路に流れる電流量によって判定することで、放射線を検知することができる。
【0007】
ダイオード2はN型シリコン基板10とP型半導体領域20とから成るが、これは異なる2種類の不純物をシリコン基板に注入することで実現される。また一般に、電圧を印加するためのコンタクト62、64には金属(例えばタングステン)が用いられる。コンタクトの材料と半導体シリコンとを接合すると、2つの材料の電気的性質の違いから、金属半導体接合界面に高い抵抗が発生し、ダイオードとしての電気的特性を満足できなくなる。そこで、金属半導体接合界面の抵抗を極力低くするために、P型半導体領域20及びN型半導体基板10の不純物濃度を高濃度に設定している。
【0008】
しかしながら、従来のダイオードの構造では、P型半導体領域20及びN型半導体基板10の不純物濃度が高いため、不純物注入時にシリコン基板10中に、不純物とシリコン原子との衝突によって結晶欠陥30が発生する。ダイオード2に逆バイアスを印加すると、P型半導体領域20とN型半導体基板の界面(PNジャンクション52)付近に空乏層40と呼ばれるほとんど伝導キャリアが存在しない領域が発生するが、この空乏層領域に結晶欠陥30が存在すると、それが電子を発生させる元になってしまう。本センサはダイオード2に電流が流れていない状態を放射線が照射されていない状態と判断するため、本来、放射線が照射されていない状態ではシリコン基板10中に流れる電流量はほぼゼロであることが要求される。しかし、放射線が照射されていない状態において、結晶欠陥30によってシリコン基板10中に電子が発生し、その電子が電流として流れてしまうと、放射線が照射されているものと判断するといった誤動作等の問題を引き起こす。
【0009】
本発明の主な目的は、放射線が照射されていないときに流れる電流の少ない半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、
一導電型の半導体層と、
前記半導体層に設けられた前記一導電型とは反対導電型の他の導電型の第1の半導体領域と、
前記第1の半導体領域内に設けられた前記他の導電型であって、前記の第1の半導体領域よりも高不純物濃度の第2の半導体領域と、を備え、
前記半導体層と前記第2の半導体領域との間に逆バイアスを印加して動作させる際に前記半導体層と前記第1の半導体領域との間に広がる空乏層
内に、前記第2の半導体領域に生じる結晶欠陥が含まれないよう、前記第1の半導体領域内
に前記第2の半導体領域を配置
した
放射線検出用半導体装置が提供される。
【0011】
好ましくは、前記第2の半導体領域は、前記半導体層の一主面側から前記他の導電型の不純物を注入して設けられ、前記第1の半導体領域は、前記半導体層の一主面側から前記他の導電型の不純物を、前記第2の半導体領域を形成する場合よりも低いドーズ量かつ高い加速エネルギーで注入して設けられる。
【0012】
好ましくは、前記第1の半導体領域の不純物濃度は、結晶欠陥を発生させない不純物濃度である。
【0013】
好ましくは、前記第1の半導体領域は、前記半導体層の一主面に設けられ、前記第2の半導体領域は前記第1の半導体領域の前記一主面側に設けられている。
【0014】
好ましくは、前記第1の半導体領域の不純物濃度は1×10
13〜1×10
18/cm
3、前記第2の半導体領域の不純物濃度は1×10
19〜1×10
21/cm
3、前記半導体層の不純物濃度は1×10
11〜1×10
14/cm
3である。
【0015】
好ましくは、前記第2の半導体領域の深さは0.1〜1μm、前記第1の半導体領域の深さは0.5〜2μmである。
【0016】
好ましくは、前記
放射線検出用半導体装置は
ダイオードである。
【0017】
好ましくは、前記半導体層、前記第1の半導体領域、第2の半導体領域はSiから構成されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、放射線が照射されていないときに流れる電流の少ない半導体装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施の形態の放射線検出用のダイオードを説明するための概略縦断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の好ましい実施の形態の放射線検出用のダイオードを説明するための概略縦断面図である。
【
図3】従来の放射線検出用のダイオードを説明するための概略縦断面図である。
【
図4】従来の放射線検出用のダイオードを説明するための概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1を参照すれば、本発明の好ましい実施の形態の放射線(X線、粒子線)検出用のダイオード1は、N型半導体基板10と、N型半導体基板10の主面12に設けられたP型半導体領域22と、P型半導体領域22の主面12側に設けられたP型半導体領域22よりも高不純物濃度のP型半導体領域20とを備えている。N型半導体基板10の主面12にはコンタクト64が接触して設けられ、P型半導体領域20の主面12側にはコンタクト62が接触して設けられている。コンタクト62、64には金属、例えばタングステンが用いられる。コンタクト64とコンタクト62との間には、電子の量を測る回路60が接続されている。
【0022】
N型半導体基板10、P型半導体領域20およびP型半導体領域22は、単結晶シリコンからなっている。N型半導体基板10の不純物濃度は1×10
11〜1×10
14/cm
3であり、P型半導体領域22の不純物濃度は1×10
13〜1×10
18/cm
3であり、P型半導体領域20の不純物濃度は1×10
19〜1×10
21/cm
3である。P型半導体領域20の深さは0.1〜1μmであり、P型半導体領域22の深さは0.5〜2μmである。P型半導体領域20は、P型半導体領域22内に設けられており、P型半導体領域20はP型半導体領域22によって完全に覆われている。
【0023】
P型半導体領域20は、N型半導体基板10の主面12側からP型の不純物を注入することによって形成されている。P型半導体領域22は、N型半導体基板10の主面12側からP型の不純物を、P型半導体領域20を形成する場合よりも低いドーズ量かつ高い加速エネルギーで注入することによって形成されている。
【0024】
本実施の形態では、P型半導体領域20の不純物濃度は1×10
19〜1×10
21/cm
3の範囲の、例えば5×10
20/cm
3の高濃度であり、このような高濃度の不純物を注入することにより、
図2に示すように、P型半導体領域20内に結晶欠陥30が発生する。高不純物濃度のP型半導体領域20に存在する結晶欠陥30を完全に覆って、結晶欠陥を発生させないような1×10
13〜1×10
18/cm
3の範囲内の、例えば1×10
l8/cm
3といった低濃度のP型半導体領域22を形成する。この構造は、結晶欠陥30を発生させるような高濃度の不純物を注入してP型半導体領域20を形成するのとは別に、結晶欠陥を発生させる不純物の注入時より高エネルギーで低濃度の不純物を注入することによってP型半導体領域22を形成することによって実現できる。
【0025】
上記のようにして形成したダイオード1に、逆バイアス(N型半導体基板10よりP型半導体領域20、22の方が電圧が高い状態)を印加すると、P型半導体領域22とN型半導体基板10の界面(PNジャンクション50)付近に空乏層40(伝導キャリアがほとんど存在しない領域)が発生する。
【0026】
低濃度(例えばシリコン中で1×10
13〜1×10
18/cm
3)の不純物を注入した場合、結晶欠陥はほとんど発生しないことが期待できる。よって、本実施の形態では、高不純物濃度のP型半導体領域20の周囲にある低不純物濃度のP型半導体領域22には、結晶欠陥が存在しない。ダイオード1に逆バイアスを印加した時、低濃度のP型半導体領域22とN型半導体基板10の界面(PNジャンクション50)を中心として空乏層40が形成されるが、本実施の形態では、この空乏層40が高不純物濃度のP型半導体領域20に到達しないような、N型半導体基板10とP型半導体領域22の不純物濃度およびP型半導体領域22内のP型半導体領域20の配置としている(N型半導体基板10の不純物濃度は1×10
11〜1×10
14/cm
3であり、P型半導体領域22の不純物濃度は1×10
13〜1×10
18/cm
3であり、P型半導体領域20の深さは0.1〜1μmであり、P型半導体領域22の深さは0.5〜2μmであり、P型半導体領域20は、P型半導体領域22内に設けられており、P型半導体領域20はP型半導体領域22によって完全に覆われている)。従って、結晶欠陥30は空乏層40に存在しないので、ダイオード1に放射線が照射されていない場合の電流の発生源にはならず、ダイオード1に放射線が照射されていない状態において、ダイオード1に流れる電流はほぼゼロであることが期待できる。
【0027】
なお、放射線が照射されると、多数の電子と正孔が発生し、電子はシリコン基板10に接触して形成されているコンタクト64に到達し、正孔はP型半導体領域20に接触して形成されているコンタクト62に到達し、発生した電子の量は電子の量を測る回路60によってカウントされる。このように放射線照射の有無を、回路
60に流れる電流量によって判定することで、放射線を検出することができる。
【0028】
なお、上記の実施の形態において、P型とN型とし、N型をP型とした構造としてもよい。
【0029】
以上、本発明の種々の典型的な実施の形態を説明してきたが、本発明はそれらの実施の形態に限定されない。従って、本発明の範囲は、次の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0030】
1 放射線検出用のダイオード
10 N型半導体基板
12 主面
20、22 P型半導体領域
30 結晶欠陥
40 空乏層
50 PNジャンクション
62、64 コンタクト