(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
石炭系及び/又は石油系(以下、石炭系等という)生コークス及び前記石炭系等か焼コークスが、質量比で90:10〜10:90に配合され、該コークスの合計量100質量部に対して、リン化合物を、リン換算で0.1質量部〜6.0質量部の割合で添加したコークス材料を、800℃〜1400℃の温度で焼成してなることを特徴とするリチウム二次電池負極活物質。
前記石炭系等生コークスと前記石炭系等か焼コークスとの配合比が、質量比で70:30〜30:70であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池負極活物質。
前記コークスの合計量100質量部に対して、前記リン化合物をリン換算で0.5質量部〜5.0質量部の割合で添加させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載のリチウム二次電池負極活物質。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、他の二次電池と比較して高いエネルギー密度を有することから、小型化・軽量化が可能であるため、携帯電話、パソコン、携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistant)およびハンディビデオカメラ等の移動電子機器の電源として多く利用されており、今後もその需要は益々高くなると予想されている。
【0003】
また、エネルギー問題や環境問題に対応するために、電気自動車やニッケル水素電池駆動のモーターとガソリンエンジンとを組み合わせたハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)やモーターのみで走行する電気自動車(EV:Electric Vehicle)が開発され、その普及台数を伸ばしている。また、この他にも電力貯蔵用蓄電池としての需要が高まっている。これらの用途では、使用する電池のさらなる高性能化が要求されており、この要求に応えるものとしてもリチウム二次電池が注目を集めている。
【0004】
リチウム二次電池は、負極材(負極活物質)として、安全性および寿命の面で優れる炭素材料が一般に用いられる。炭素材料のなかでも黒鉛材料は、少なくとも2,000℃程度以上、通常は2,600〜3,000℃程度の高温で得られる、高エネルギー密度を持つ優れた材料であるが、高入出力特性やサイクル特性に課題を有している。このため、例えば電気自動車や電力貯蔵用等の高入出力用途には、黒鉛材料よりも低い温度で焼成され、黒鉛化度の低い低結晶炭素材料の利用が主に研究されている。
【0005】
近年においては、電気自動車のさらなる高性能化の観点から、リチウム二次電池に対してもさらなる高性能化が求められており、その性能の向上が急務となっている。特にリチウム二次電池の特性としては、負電極側の電位を十分に低減して実電池電圧を向上させ、十分に高い出力特性を呈することが要求される。
【0006】
また、電気自動車のエネルギー源である電流を十分に供給できるように、リチウム二次電池の放電容量が重要な特性として上げられる。加えて、充電電流量に比較して放電電流量が十分に高くなるように、放電容量に対する充電容量の割合、すなわち初期効率が高いことも要求される。
【0007】
さらに、短時間での充電を可能とすべく、リチウム二次電池は高電流密度まで高い充電容量を維持することが好ましく、容量維持率が高いことも要求されている。
【0008】
すなわち、この様な出力特性、放電容量、初期効率、容量維持率等の特性をバランス良く高めることが要求される。
【0009】
このようなリチウム二次電池を目的として、負極材としてコークスや黒鉛等の炭素材料が多く検討されているが、上述した放電容量を増大させることはできるものの、初期効率は十分でない。また、実電池電圧が不十分であって、近年の高出力特性やサイクル経過時の容量維持率の要件を満足することができない。
【0010】
例えば、特許文献1には、インターカレーション又はドーピングを利用した負極材として、有機化合物の熱分解又は焼成炭化により得られる特定の比表面積及びX線回折結晶厚み等を規定した炭素質材料が開示されているが、EV用などの車載用途においては未だ不十分であった。
【0011】
また、特許文献2には、負極材としてか焼されたコークスを原料として不活性雰囲気下、熱処理をすることにより不純物を除去することで、サイクル特性に優れた比較的高い放電容量を有する炭素材料が開示されているが、EV用などの車載用途において出力特性等の面で十分でなかった。
【0012】
特許文献3には、黒鉛類似構造を有する炭素質などに特定の被覆層を設けて熱処理して得られる炭素質材料を負極材として用いることが開示され、特許文献4には、負極材として低温で熱処理されたコークスを原料として不活性雰囲気下、熱処理をすることにより、より高度に不純物を除去することで、比較的高い放電容量を有する炭素材料が開示されているが、いずれもやはりEV用などの車載用途において十分な電池特性を有するものではなかった。
【0013】
また、特許文献5には、石油又は石炭の生コークスを500〜850℃にて熱処理した熱処理コークスを負極材とすることで、充・放電容量の大きなリチウム二次電池を供給しうることが開示されているが、EV用などの車載用途において出力特性の面で十分でなかった。
【0014】
以上のようなコークス等を原料とした低結晶炭素材料のリチウム二次電池用負極材の研究は殆んどが小型携帯機器用電源としての二次電池用負極材の特性改善に向けられていて、EV用二次電池に代表される大電流入出力リチウム二次電池用に適した充分な特性を有する負極材が開発されていなかったのが実情である。
【0015】
他方、有機材料又は炭素質材料に、各種化合物を添加して電池特性を向上させることも検討されている。
【0016】
例えば、特許文献6には、有機材料又は炭素質材料にリン化合物を添加して炭素化することにより得られる負極材が開示され、上記と同様に、EV用などの車載用途において出力特性等の面で実用化には未だ十分ではない。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を、リチウム二次電池用負極活物質の実施の形態に基づいて、より詳細に説明する。
【0026】
本発明のリチウム二次電池用負極活物質は、最初に、石炭系等重質油を例えばディレードコーカー等のそれぞれ適宜のコークス化設備を用い、最高到達温度が400℃〜800℃程度の温度で24時間程度、熱分解・重縮合反応を進めることによって石炭系等生コークスを得る。その後、得られた石炭系等生コークスの塊を所定の大きさに粉砕する。粉砕には、工業的に用いられる粉砕機を使用することができる。具体的にはアトマイザー、レイモンドミル、インペラーミル、ボールミル、カッターミル、ジェットミル、ハイブリダイザー等を挙げることができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0027】
ここで使用される石炭系等重質油は、石油系重質油であっても石炭系重質油であっても構わないが、石炭系重質油の方が芳香族性に富んでおり、かつリチウムとの不可逆反応を生じるN,S等の不純物が少なく、揮発分も少ないため、石炭系重質油を使用する方が好ましい。
【0028】
また、上記のようにして得た石炭系等生コークスを最高到達温度800℃〜1500℃でか焼して石炭系等か焼コークスを製造する。好ましくは1000℃〜1500℃、より好ましくは1200℃〜1500℃の範囲である。石炭系等生コークスの焼成には、大量熱処理が可能なリードハンマー炉、シャトル炉、トンネル炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルンあるいはマイクロウェーブ等の設備を用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。また、これらの焼成設備は、連続式およびバッチ式のどちらでもよい。次いで、得られた石炭系等か焼コークスの塊を、上記同様に、工業的に用いられるアトマイザー等の粉砕機を用いて所定の大きさに粉砕する。
【0029】
なお、粉砕後の石炭系等生コークス粉及び石炭系等か焼コークス粉の大きさは特に限定されるものではないが、メジアン径として求められる平均粒子径が5〜15μmであるとより好ましく、このとき、BET比表面積が5m
2/g以下であるとより好ましい。平均粒子径が5μmを下回ると比表面積が過度に増加するおそれがあり、一方、平均粒子径が15μmを上回ると充放電特性が低下するおそれがある。BET比表面積は、5m
2/gを上回ると、二次電池に用いたときのエネルギー効率が低下するおそれがある。BET比表面積は微細細孔を形成する観点からは1m
2/g以上程度であることが望ましい。
【0030】
次いで、上述のようにして得た石炭系等生コークス粉及び石炭系等か焼コークス粉をそれぞれ所定量の割合で配合する。なお、石炭系等生コークス粉及び石炭系等か焼コークス粉の配合量は、例えば質量比で90:10〜10:90とすることが好ましく、さらには70:30〜30:70とすることが好ましい。石炭系等か焼コークスの割合を増大させると出力特性が向上し、石炭系等生コークスの割合を増大させると放電容量や初期特性が向上する。どの特性が高く要求されるかによって異なるが、例えば、出力特性の面からは、石炭系等か焼コークスの含有量を50%以上含有させることが良い。
【0031】
石炭系等生コークス粉及び石炭系等か焼コークス粉の割合が上記範囲外になると、リチウム二次電池負極活物質からなる負電極の電位を十分に低減することができず、実電池電圧を向上させることができなくなり、十分に高い出力特性が得られない場合がある。また、充放電末期におけるリチウム二次電池の抵抗値が増大してしまい、安定した充放電特性を呈することができなくなってしまう場合がある。
【0032】
上述したコークス粉には、リン化合物を添加する。添加は、上述した石炭系等生コークス粉及び石炭系等か焼コークス粉と、以下に示すような量のリン化合物とを配合して所定の型に入れることによって行う(第1の添加法)。
【0033】
リン化合物の添加は、石炭系等生コークス粉及び石炭系等か焼コークス粉を得た後に行なう代わりに、石炭系等生コークスの塊及び石炭系等か焼コークスの塊を得た時点で行なうこともできる(第2の添加法)。この場合は、石炭系等生コークスの塊及び石炭系等か焼コークスの塊を粉砕機に入れるととともに、同時に上述したリン化合物を前記粉砕機に入れて前記塊の粉砕を行なうことによって、前記リン化合物が添加してなる石炭系等生コークス粉及び石炭系等か焼コークス粉を得ることができる。
【0034】
したがって、石炭系等生コークスの塊及び石炭系等か焼コークスの塊の粉砕と同時にリン化合物を添加させることができるので、焼成の際に別途リン化合物等を添加させる操作を省略することができ、リチウム二次電池用負極活物質の製造工程の全体を簡略化することができる。
【0035】
但し、上記第1の添加法及び第2の添加法のいずれも、添加の具体的な手法が異なることによって、リチウム二次電池負極活物質の製造工程が異なるのみであって、リチウム二次電池用負極活物質自体の出力特性や放電容量、初期効率及び容量維持率にはほとんど変化がない。
【0036】
上記リン化合物の添加量は、石炭系等生コークスと石炭系等か焼コークスの合計量100質量部に対してリン換算で0.1〜6.0質量部であることが好ましく、さらには0.5〜5.0質量部であることが好ましい。添加量が下限未満ではリン化合物を添加した際の、放電容量と初期効率とのトレードオフの関係を向上させることができないおそれがあり、一方、添加量が上限質量部を超えるとコークスの表面の低結晶化が進み、出力特性が低下するおそれがあるためである。
【0037】
上述したリン化合物としては、容易に水溶液を調製でき、かつ高い安全性を有する等の観点からリン酸類が好ましい。リン酸類としては、リン酸(オルトリン酸)を用いることがより好ましいが、これに限らず直鎖状ポリリン酸や環状ポリリン酸、あるいは各種リン酸エステル化合物等から適宜選択して用いることができる。これらのリン酸類は、いずれか1つを単独で使用してよく、また、2以上を配合して使用してもよい。
【0038】
こうしたコークスについて、焼成を行う。この焼成温度は、最高到達温度で800℃以上1400℃以下とすることがよい。さらに好ましくは900℃〜1400℃の範囲である。焼成温度が上限を超えると、コークス材料の結晶成長が過剰に促進され電池特性バランスに悪影響を及ぼし、例えば初期効率が低下するなどの問題が生じて量産性の観点からも好ましくない。一方、焼成温度が下限よりも低いと、十分な結晶成長ができないのみならず、コークスの炭化過程でリン化合物の添加効果が十分でなく、放電容量の低下や放電容量と初期効率とのトレードオフの関係を向上させることができず、電池特性バランスにやはり悪影響を及ぼす傾向となる。
【0039】
また、最高到達温度での保持時間は特に限定しないが30分以上が好ましい。また、焼成雰囲気は、特に限定されないが、アルゴンあるいは窒素等の不活性ガス雰囲気でもよく、ロータリーキルンの様な非密閉状態での非酸化雰囲気でもよいし、リードハンマー炉の様な密閉状態での非酸化雰囲気でもよい。
【0040】
なお、上述のようにして得たリチウム二次電池用負極活物質は、アルゴンレーザを用いたラマン分光法により求められる1,360cm
-1近傍の回折ピークの1,580cm
-1近傍の回折ピークに対する強度比(R=I
1360/I
1580)は、約1.1〜1.4である。1,360cm
-1近傍の回折ピークは負極活物質の乱層構造に起因するものであり、1,580cm
-1近傍の回折ピークは黒鉛構造に起因するものである。
【0041】
一般に、上述のような900℃〜1400℃の温度で焼成してリチウム二次電池用負極活物質を製造すると、その結晶性が向上するため、R値は1より小さくなる場合が多い。しかしながら、本発明では、上述のような高温で焼成しているにも拘わらず、R値は1.1〜1.4と大きな値を示す。これはリン化合物の添加によって、その添加された近傍の結晶成長が抑制され、乱層構造の割合が増大していることに起因する。
【0042】
なお、以下の実施例でも示すように、リン化合物の添加によってリチウム二次電池用負極活物質の内部の結晶成長が抑制されると、このリチウム二次電池用負極活物質の出力特性が劣化するが、本発明では逆に出力特性が増大する。したがって、上記リチウム化合物は、主としてリチウム二次電池用負極活物質の表面近傍に偏在し、出力特性に影響を与えないような表面近傍における結晶成長の抑制に寄与し、これによって放電容量と初期効率とのトレードオフの関係を向上させていることが分かる。
【0043】
さらに、上述のようにして得たリチウム二次電池用負極活物質は、リン化合物を添加することによって、その内部に含まれる水素含有量を低減することができる。この結果、充放電時における電解液と反応する水素イオンの割合を低減することができ、充放電に関する不可逆特性の改善に寄与することができる。例えば、リン化合物を添加することにより、リチウム二次電池用負極活物質中の水素含有量を3000ppm以下とすることができる。
【0044】
こうした本発明の負極活物質を負極材に用いてリチウム二次電池を構成する場合、相対する正極としては、リチウム含有遷移金属酸化物LiM(1)
XO
2(式中、xは0≦x≦1の範囲の数値であり、式中M(1)は遷移金属を表し、Co、Ni、Mn、Ti、Cr、V、Fe、Zn、Al、Sn、Inの少なくとも1種類からなる)、あるいはLiM(1)
yM(2)
2−yO
4(式中、yは0≦y≦1の範囲の数値であり、式中、M(1)、M(2)は遷移金属を表し、Co、Ni、Mn、Ti、Cr、V、Fe、Zn、Al、Sn、Inの少なくとも1種類からなる)、遷移金属カルコゲン化物(Ti、S
2、NbSe、等)、バナジウム酸化物(V
2O
5、V
6O
13、V
2O
4、V
3O
6、等)およびリチウム化合物、一般式M
xMo
6CH
6−y(式中、xは0≦x≦4、yは0≦y≦1の範囲の数値であり、式中Mは遷移金属をはじめとする金属、Chはカルコゲン金属を表す)で表されるシュブレル相化合物、あるいは活性炭、活性炭素繊維等の正極活物質を用いることができる。
【0045】
また、上記正極と負極との間を満たす電解質としては、従来公知のものをいずれも使用することができ、例えばLiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiB(C
6H
5)、LiCl、LiBr、Li
3SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、Li(CF
3SO
2)
3C、Li)CF
3CH
2OSO
2)
2N、Li(CF
3CF
2CH
2OSO
2)
2N、Li(HCF
2CF
2CH
2OSO
2)
2N、Li((CF
3)
2CHOSO
2)
2N、LiB[C
6H
3(CF
3)
2]
4等の1種または2種以上の混合物を挙げることができる。
【0046】
また、非水系電解質としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,1−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3−メチル−2−オキサゾリドン、エチレングリコール、サルファイト、ジメチルサルファイト等の単独溶媒もしくは2種類以上の混合溶媒を使用できる。
【0047】
なお、上記負極活物質を用いて負極を構成する場合は、一般には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂粉末、ポリイミド、ポリアミドイミド、シロキサンポリイミドあるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の水溶性粘結剤を炭素質バインダーにして、このバインダーと、上記負極活物質とを、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドあるいは水、アルコール等の溶媒を用いて混合することによりスラリーを作製し、集電体上に塗布、乾燥することによって行う。
【0048】
上述のようにして得たリチウム二次電池用負極活物質は、任意の用途に使用することができるが、特には車載用途及び電力貯蔵用蓄電池の用途に対して好ましく用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例(リチウム二次電池用負極活物質)、参考例および比較例を述べる。但し、これら実施例によって、本発明の内容が制限されるものではない。
【0050】
(実施例1)
石炭系重質油よりキノリン不溶分を除去した精製ピッチを用い、ディレードコーキング法によって500℃の温度で24時間熱処理して製造した塊状コークス(生コークス)を得、ジェットミルにて微粉砕及び整粒し、平均粒径が9.9μmの生コークス粉を得た。
【0051】
上述のようにして得た塊状の生コークスを、ロータリーキルンによって入口付近温度700℃から出口付近温度1500℃(最高到達温度)の温度で1時間以上熱処理して塊状のか焼コークスを得、同じくジェットミルにて微粉砕及び整粒し、平均粒径が9.5μmのか焼コークス粉を得た。
【0052】
上述のようにして得た生コークス粉の70質量部とか焼コークス粉の30質量部(コークス材料100質量部)とに対して、リン酸エステル(14質量%活性リン固形樹脂:三光社製商品名HCA、化学名:9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−オスファフェナントレン−10−オキサイド )17.9質量部(リン換算:2.5質量部)を添加した。
【0053】
次いで、リン酸エステルを添加してなる上記コークス材料を、室温から400℃/時間の速度で昇温して、1000℃に到達(最高到達温度)後、さらに2時間保持して炭化処理(焼成)を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0054】
(実施例2)
実施例1において、生コークス粉及びか焼コークス粉の配合比を質量で70:30からそれぞれ50:50に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行いリチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0055】
(参考例1)
生コークス粉100質量部(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0056】
(比較例1)
生コークス粉100質量部(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステルを添加せずに、実施例1と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0057】
(比較例2)
か焼コークス粉100質量部(生コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステルを添加せずに、実施例1と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0058】
(実施例3〜4)
実施例1、2において、コークス材料の焼成温度(最高到達温度)を1000℃から1200℃に変更した以外は、それぞれ実施例1、2と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0059】
(参考例2)
生コークス粉(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、実施例3と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0060】
(比較例3)
生コークス粉100質量部(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステルを添加せずに、実施例3と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0061】
(比較例4)
か焼コークス粉100質量部(生コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステルを添加せずに、実施例3と同様の操作を行い、負極材用炭素材料(リチウム二次電池用負極活物質)を得た。
【0062】
(実施例5〜6)
実施例1、2において、コークス材料の焼成温度(最高到達温度)を1000℃から1350℃に変更した以外は、それぞれ実施例1、2と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0063】
(参考例3)
生コークス粉100質量部(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用した以外は、実施例5と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0064】
(比較例5)
生コークス粉100質量部(か焼コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステルを添加せずに、実施例5と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0065】
(比較例6)
か焼コークス粉100質量部(生コークス粉を配合しない)のコークス材料を使用し、リン酸エステル素を添加せずに、実施例5と同様の操作を行い、リチウム二次電池用負極活物質を得た。
【0066】
次に、実施例1〜6、比較例1〜6及び参考例1〜3で得たリチウム二次電池用負極活物質を用いて以下の要領で二次電池を作製し性能を評価した。
【0067】
リチウム二次電池用負極活物質にバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を5質量%となるように加え、N-メチルピロリドン(NMP)を溶媒として混練してスラリーを作製し、これを厚さ18μmの銅箔に均一となるように塗布して負極電極箔を得た。この負極電極箔を乾燥し所定の電極密度にプレスすることにより電極シートを作製し、このシートから直径15mmΦの円形に切り出すことにより負極電極を作製した。この負極電極単極での電極特性を評価するために、対極には約15.5mmΦに切り出した金属リチウムを用いた。
【0068】
電解液としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:1混合)にLiPF
6を1mol/lの濃度で溶解したものを用い、セパレーターにプロピレンの多孔質膜を用いてコインセルを作製し、25℃の恒温下、端子電圧の上限電圧を1.5Vとした電圧範囲で、30mA/gの定電流放電、0Vでの定電圧放電を実施した際の、放電特性を調べた。
【0069】
これらの評価結果を、上記リチウム二次電池用負極活物質の特性と併せて表1に示す。
【表1】
【0070】
また、実施例1〜2及び4,6、参考例1、並びに比較例1及び2に対して組成分析を行い、その分析結果と主要な特性とを表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表1から明らかなように、本発明に従って生コークス粉及びか焼コークス粉を配合しリン酸エステルを添加したコークス材料を焼成することにより得た、実施例に係わるリチウム二次電池用負極活物質においては、比較例に係わるリチウム二次電池用負極活物質に比較して、生コークスに対するか焼コークスの配合比が増大するにつれて、DOD(放電深度:Depth of Discharge):50%が減少し、出力特性が増大していることが分かる。すなわち、上記負極材用炭素材料からなる上記負極電極の実質的な電位が低下して上記二次電池の実電池電圧が上昇し、これによって出力特性が増大していることが分かる。
【0073】
一方、生コークスに対するか焼コークスの配合比が増大するにつれて、放電容量(mAh/g)は減少しているが、リン化合物の添加によってその減少度合いが抑制され、本実施例においては、250(mAh/g)以上の高い値を示すことが分かる。また、初期効率(%)についても、放電容量が250(mAh/g)以上の高い値を示すにも拘わらず、約80(%)以上の高い値を示すことが分かる。したがって、リン化合物の添加によって、放電容量と初期効率とのトレードオフの関係を大幅に改善することができ、放電容量が増大しても初期効率を高く保持することができ、逆に初期効率が増大しても放電容量を高く保持できることが分かる。
【0074】
また、実施例に係わるリチウム二次電池用負極活物質においては、生コークス及びか焼コークスに対してリン化合物を添加することによって、1Cレートの標準的な放電電流の場合のみならず、2Cレートから5Cレートの高放電電流の場合においても高い容量維持率を示すことが分かる。
【0075】
結果として、本実施例で示すように、生コークス粉及びか焼コークス粉を配合し、リン化合物することにより、出力特性、放電容量、初期効率及び容量維持率の性能バランスが良いリチウム二次電池用負極活物質が得られることが分かる。
【0076】
さらに、実施例で得たリチウム二次電池用負極活物質は、リン化合物を添加していない比較例に対して、ラマン分光法により求められる1,360cm
-1近傍の回折ピークの1,580cm
-1近傍の回折ピークに対する強度比(R=I
1360/I
1580)が増大し、約1.2〜1.4となっている。一般に、上述のような900℃〜1400℃の温度で焼成してリチウム二次電池用負極活物質を製造すると、その結晶性が向上するため、R値は1より小さくなる場合が多い。しかしながら、本発明では、上述のような高温で焼成しているにも拘わらず、R値は1.1〜1.4と大きな値を示す。これはリン化合物の添加によって、その添加された近傍の結晶成長が抑制され、乱層構造の割合が増大していることに起因する。
【0077】
但し、上述したように、リン化合物の添加によっても高い出力特性を有していることから、上述した高いR値は、リチウム二次電池用負極活物質の内部の結晶成長が抑制されたことに起因するものではなく、主としてリチウム二次電池用負極活物質の表面近傍に偏在し、出力特性に影響を与えないような表面近傍における結晶成長の抑制が寄与したためであることが分かる。
【0078】
次に、表2から明らかなように、上述のようにして得たリチウム二次電池用負極活物質は、リン化合物を添加することによって、その内部に含まれる水素含有量が減少している。したがって、充放電時における電解液と反応する水素イオンの割合を低減することができ、充放電に関する不可逆特性を改善することができる。本実施例では、リン化合物を添加することにより、リチウム二次電池用負極活物質中の水素含有量を3000ppm以下とすることができる。
【0079】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。