(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
養殖海水を貯留して、海藻類を養殖する複数の養殖槽からなり、前段の養殖槽の、後段の養殖槽に対する面積比、もしくは容積比が、養殖する海藻類の生長率の関数で規定される比率で順次拡大する前記複数の養殖槽で構成され、第1槽から最終養殖槽までの各養殖槽の設置レベルが段階的に下げられた多段式養殖槽と、
各養殖槽の底面部と後段の養殖槽との間を連結する開閉弁付きの移送配管とを備え、
前後段の養殖槽間の海藻類の移し変えを、その間を連結する前記移送配管の弁の開閉により、重力による養殖海水の自然流下を利用して行うように構成してなり、
前段の養殖槽の底面レベルを前段の養殖槽内の海藻類の移し変えを行った時の後段の養殖槽の水面レベルと等しくし、又は前記水面レベルより所定高さだけ高くするように前後段の養殖槽間の段差を設けた時の前記多段式養殖槽全体の設備高さがより小さくなるように、前後段の養殖槽間の面積比及び各養殖槽の底面から満水面までの高さを調整してなることを特徴とする海藻類の多段式連続養殖装置。
前記複数の養殖槽の設置レベルは、前記前段の養殖槽の底面レベルを前記後段の養殖槽の水面レベル以上とし、前記前段の養殖槽の底面レベルが前記後段の養殖槽の水面レベルである場合の前後段の養殖槽間の段差を必要最小段差とする時、前記前後段の養殖槽間の段差が、前記必要最小段差より前記所定高さだけ高くなり、この所定高さを前記前段の養殖槽の底面に設けられた養殖海水の排水方向に対する水勾配が2%になる段差以下とし
て、前記多段式養殖槽全体の設備高さを低減してなることを特徴とする請求項1に記載の海藻類の多段式連続養殖装置。
後段の1槽の養殖槽に対して、前段の養殖槽をn(nは整数)槽の養殖槽、又は仕切られたn室で構成し、後段の養殖槽と前段の養殖槽の各槽との間、又は後段の養殖槽と前段の養殖槽の各室との間を開閉弁付きの前記移送配管で連結し、前段の養殖槽における海藻類の移し変えまでの養殖日数と、後段の養殖槽における海藻類の移し変えまでの養殖日数の比率とがn:1となるように、前段の養殖槽の各槽、又は前段の養殖槽の各室から、後段の養殖槽における海藻類の移し変えを、前段の養殖槽の養殖日数に応じて、前記移送配管の開閉弁の開閉を順次切り換えて、順次行うことにより、異なる養殖日数の複数の養殖槽間を移し変えて運転することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の海藻類の多段式連続養殖装置。
前記複数の養殖槽の各槽の容量を、前記複数の養殖槽の少なくとも最初の養殖槽における海藻類の養殖日数を2日以上6日以下となるように調整してなることを特徴とする請求項4に記載の海藻類の多段式連続養殖装置。
前記複数の養殖槽の各槽の容量を、前記複数の養殖槽の少なくとも最初の養殖槽における海藻類の養殖日数が2日となり、少なくとも最後の養殖槽における海藻類の養殖日数が1日となるように調整してなることを特徴とする請求項4又は5に記載の海藻類の多段式連続養殖装置。
前記複数の養殖槽の各槽の底面を養殖海水の排水方向に対して水勾配を設け、前後の養殖槽間の移し変え時の海藻類の移送を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の海藻類の多段式連続養殖装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る海藻類の多段式連続養殖装置を、添付の図面に示す好適実施形態を参照して詳細に説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る海藻類の多段式連続養殖装置の一例の概略構成を示す断面図である。
同図に示す海藻類の多段式連続養殖装置(以下、単に、連続養殖装置という)10は、前段から後段に向かって3つの養殖槽12a、12b、及び12cからなる3段式養殖槽12と、養殖槽12aの底面と養殖槽12bとを連結する移送配管14a及び養殖槽12bの底面と養殖槽12cとを連結する移送配管14bと、移送配管14a及び14bにそれぞれ設けられる電動バルブ16と、養殖槽12a、12b、及び12cのそれぞれに新鮮な海水を供給する電動バルブ16付き給水配管18a、18b及び18cと、最下段の最終養殖槽12cの後段に設けられる回収槽20と、最終養殖槽12cに下流側に設けられる電動バルブ16付き回収配管22と、排水配管24とを有する。
【0020】
3段式養殖槽12の養殖槽12a、12b及び12cは、それぞれ海水を貯留して生育度合いの異なる海藻類をそれぞれ順次養殖するものである。
海藻類は、種苗が最初(第1段目)の第1槽の養殖槽12aに投入され、所要日数育成された後、バッチ操作又は自動操作にて、次槽の第2槽(第2段目)の養殖槽12bに、この養殖槽12bから次槽の第3槽の最終(最終段目の)養殖槽12cに、順次、移し変えられて生育され、この繰り返しにより、最終養殖槽12cで生育が完了し、収穫される。海藻類の収穫は、第3槽の最終養殖槽12cの回収配管22の電動バルブ16の開放により、回収配管22から海水を海藻類と共に、回収槽20に設置した回収カゴ26に排出することにより、回収される。最終養殖槽12c内の海藻類が全て回収カゴ26に回収されると、回収カゴ26は、図示しない起重機のワイヤ28の先端のフック28aに吊り下げられて、所定の回収場所に運ばれる。
なお、回収カゴ26から流下した海水は、排水配管24から外部に排水される。
【0021】
各養殖槽12a及び12bでそれぞれ所要日数育成された海藻類は、それぞれ養殖槽12b及び12cに移し替えられるが、前後段の養殖槽間、即ち、養殖槽12aと12bとの間、及び養殖槽12bと12cとの間の海藻類の移し変えは、それぞれ前段の養殖槽底部、即ち、養殖槽12a及び12bの底部にそれぞれ接続された移送配管14a及び14bの電動バルブ16の開放により行うことができる。
まず、回収配管22の電動バルブ16を開放して最終養殖槽12cから回収槽20に排水し、最終養殖槽12cを空にした後、前段の養殖槽12bの電動バルブ16を開放し、前段の養殖槽12b内の海水と海藻類を後段の養殖槽12cに移し入れる。次に、後段の養殖槽12bを空にした後、前段の養殖槽12aの電動バルブ16を開放し、前段の養殖槽12a内の海水と海藻類を後段の養殖槽12bに移し入れる。このようにして、前後段の養殖槽の移し替えを繰り返す。
【0022】
ここで、本実施形態において、前段の養殖槽内の海水と海藻類を後段の養殖槽に略完全又は完全に移し入れるには、移送後の水面レベルを前段の養殖槽の槽底面と同じにする、又は該槽底面より低くする必要があるので前後段の養殖槽間の段差hは、この条件より決定される。即ち、段差hは、前段の養殖槽内の海水の貯留容量(以下、単に容量という)が、後段の養殖槽の段差部分の容量以下となるように決定される。例えば、養殖槽12aの容量をV
1、面積をA
1とし、養殖槽12bの容量をV
2、面積をA
2、養殖槽12bの段差h以下(1点鎖線以下)の部分の容量V
20とし、養殖槽12cの容量をV
3、面積をA
3、養殖槽12cの段差h以下(1点鎖線以下)の部分の容量V
30とする時、V
20≧V
1、V
30≧V
2となるので、段差hとしては、下記式(1)を満たす必要がある。
h=V
20/A
2≧V
1/A
2、又は
h=V
30/A
3≧V
2/A
3 ……(1)
【0023】
なお、この段差hは、設備の全高に影響し、ひいては設備費に影響するので、段差hはできるだけ、移送後の水面レベルが前段の養殖槽の槽底面と等しくなる値、即ち前段の養殖槽内の海水の貯留容量が、後段の養殖槽の段差部分の容積と等しくなる値に近づけるのが望ましい。即ち、段差hは、下記式(2)を満たすのが好ましい。
h=V
1/A
2=V
2/A
3 ……(2)
また、前段の養殖槽内の海水及び海藻類が確実かつ完全に後段の養殖槽に移送されるように、前後段の養殖槽間の段差hを、上記式(2)で求まる段差hよりもやや大きくしておくのが最も好ましい。
【0024】
なお、移送後の各養殖槽、即ち移送後の各養殖槽12a、12b及び12cの海水レベルの不足分は、それぞれ給水配管18a、18b及び18cより、新たな海水を補給して充当する。また、養殖中の必要な栄養分も、この給水配管18a、18b及び18cから新たな海水に溶解して供給する。最終養殖槽12cの回収槽20への移し変えが完了したら、同様にして順次、前の養殖槽12b、12aの移し変えを行い、第1槽の養殖槽12aの移し変えの完了によって、3段式養殖槽12全体の移し変えを完了する。
【0025】
多段式養殖槽の各養殖槽、即ち3段式養殖槽12の各養殖槽12a、12b及び12cの容量は、海藻類の生長率(平均増殖率)が低下し始める養殖期間の最終日の海藻類の限界密度にて決定される。例えば、スジアオノリの場合、養殖槽容量1t(1m
3)に対して、スジアオノリの湿重量で1kgである。この揚合、例えば養殖槽の深さを1mとすると、養殖槽の槽面積1m
2に対しても1kgとなる。即ち、養殖槽の限界容量は、スジアオノリの湿重量で1kgに対して、1m
3、乃至は、槽面積で1m
2となる。この値は、第1槽の養殖槽12aに限らず、第2槽以降の養殖槽12b、12cも、各段共通の限界値である。なお、養殖槽の深さ1mは、種々のタイプの公知の養殖方式において、海藻類の生育に必要な量の日光が到達する深さであるので、海藻類の養殖では、常用的な深さであり、他の方式の商用生産でも採用されている深さである。したがって、本発明においては、養殖槽の深さを1m以下とするのが好ましい。
【0026】
これより、第2槽の養殖槽12bの容量V
2(m
3)は、第1槽の養殖槽12aの容量V
1(m
3)に対して、下記式(3)で求められる。
V
2=V
1・g
k ……(3)
ここで、g:海藻の日間生長率(スジアオノリの場合、1.4)
k:当該養殖槽(この場合、第2槽)における養殖日数
また、上記式(3)では、養殖槽の容量Vを基準としたが、面積A(m
2)を基準にしても、同様に生長率g
kを乗じて求められる。なお、この場合には、第1及び2槽の養殖槽12a及び12bの底面から各槽の容量がそれぞれV
1及びV
2となる水面(満水面)までの高さ(槽高さ)は等しくする必要がある。
即ち、第2槽の養殖槽12bの槽面積A
2(m
2)は、第1槽の養殖槽12aの槽面積A
2(m
2)に対して、下記式(4)で求められる。
A
2=A
1・g
k ……(4)
なお、第3槽の養殖槽以降の容量及び槽面積も同様に、前段の養殖槽の容量及び槽面積に海藻の生長率g
kを乗じて求められる。
【0027】
本実施形態の連続養殖装置10においては、養殖槽12a、12b及び12cの前後の養殖槽間の移送配管14a及び14b、並びに回収配管16の各電動バルブ16を制御することにより、各槽間の海藻類の移し変え、回収槽20への海藻類の移送を自動操作として行うことができるので、これらの移し変えや移送の自動運転が可能である。また、給水配管18a,18b及び18cの各電動バルブ16を制御することにより、各養殖槽12a、12b及び12cへの給水を自動的に行うことができるので、給水の自動運転も可能である。
【0028】
なお、移送配管14a及び14b、回収配管16、並びに給水配管18a,18b及び18cの各電動バルブ16を手動スイッチで制御して、バッチ操作として行っても良い。
さらに、各電動バルブ16の代わりに手動バルブを用い、各槽間の移し変え、回収槽20への移送、各槽への給水を手動によるバッチ操作で行っても良い。
図1に示す連続養殖装置10は、3段式養殖槽12からなるが、各槽間の段差や、各槽の容積や槽面積が、上述した条件を満たせば、2段式養殖槽からなるものであっても良いし、4段以上の多段式からなるものであっても良い。
【0029】
即ち、本発明の連続養殖装置が、前段の養殖槽の、後段の養殖槽に対する面積比又は容積比が養殖する海藻類の生長率の関数で規定される比率で順次拡大する複数の養殖槽で構成され、第1槽から最終養殖槽までの各養殖槽の設置レベルが段階的に下げられた多段式養殖槽から成る場合、この多段式養殖槽の接地レベルが、前段の養殖槽の底面レベルを、前段の養殖槽内の海藻類の移し変えを行った時の後段の養殖槽の水面レベルと等しくし、又はこの水面レベルより所定高さだけ高く、すなわちこの水面レベル以上とするように前後段の養殖槽間の段差を設けた時の多段式養殖槽全体の設備高さがより小さくなる、好ましくは最小となるように、前後段の養殖槽間の面積比及び各養殖槽の底面から満水面までの高さ(槽高さ)を調整しておく必要がある。
【0030】
例えば、本発明の連続養殖装置が、m(2以上の整数)段の養殖槽を備えるm段式養殖槽からなる時、第i槽(i段目)の養殖槽の底面から満水面までの槽高さをH
iとし、海藻の日間生長率をg、第i+1槽(i+1段目)の養殖槽における養殖日数をk
i+1とし、i段目の養殖槽の底面レベルを(i+1)段目の養殖槽の水面レベルより高い所定高さをδ
i+1(0≦δ
i+1)とし、多段式養殖槽全体の設備高さをTHとする時、下記式(5)で与えられる設備高さTHがより小さくなる、好ましくは、最小となるように、前後段の養殖槽間の面積比及び各養殖槽の高さを調整しておく必要がある。
即ち、前段の養殖槽の養殖海水及び海藻類を後段の養殖槽に移し替えた時の前段の養殖槽の底面レベルが後段の養殖槽の水面レベルである場合の前後段の養殖槽間の段差を必要最小段差h
0i+1とする時、i段目の養殖槽と(i+1)段目の養殖槽との底面レベル差を、必要最小段差h
0i+1より、余裕分として所定高さδ
i+1(0≦δ
i+1)だけ高い段差とする場合であっても、下記式(5)を設備高さTHがより小さくなるように、前後段の養殖槽間の面積比及び各養殖槽の高さを調整しておく必要がある。
【0032】
ここで、余裕分である所定高さδ
i+1は、前段の養殖槽の槽底面と、前段の養殖槽内の養殖海水と海藻類を全て移した時の後段の養殖槽の水面との差であって、予め設定される0以上の所定の値であり、各養殖槽において異なる値、例えば、各養殖槽の面積や容量(容積)に応じた異なる値であっても良いし、各養殖槽において一定の値であっても良い。なお、所定高δ
i+1を0にすることができる場合には、設備高さTHをより小さく、好ましくは、最小にすることができる。
なお、所定高さδ
i+1としては、例えば、前段の養殖槽からの排水促進のために前段の養殖槽の底面に設けられた養殖海水の排水方向に対する水勾配が2%になる段差以下とするのが好ましい。
【0033】
上述したように、本発明の連続養殖装置においては、前段の養殖槽内の海水と海藻類を後段の養殖槽に略完全又は完全に移し入れるには、移送後の水面レベルを前段の養殖槽の槽底面と同じに、又は該槽底面より低くする必要があるので、
図1に示す連続養殖装置10の3段式養殖槽12において前後段の養殖槽間の段差hを表す上記式(1)及び(2)は、上述のm段式養殖槽の場合、i段目の養殖槽の容量をV
i、底面積をA
i、i段目の養殖槽とi+1段目の養殖槽との段差をh
i+1とすると、下記式(6)を満たす必要があるので、上記所定高さδ
i+1を用いて、下記式(7)で表すことができる。
h
i+1≧V
i/A
i+1=(A
i/A
i+1)・H
i ……(6)
h
i+1=(A
i/A
i+1)・H
i+δ
i+1 ……(7)
なお、i段目の養殖槽とi+1段目の養殖槽の必要最小段差h
0i+1は、上記式(7)において、δ
i+1=0の場合であるので、下記式(7’)で表すことができる。
h
i+1=h
0i+1=(A
i/A
i+1)・H
i ……(7’)
【0034】
この場合、海藻の日間生長率をg、第i+1槽(i+1段目)の養殖槽における養殖日数をki+1とすると、上記式(3))は、下記式(8)で表される。
g
ki+1 =V
i+1/V
i=A
i+1・H
i+1/(A
i・H
i) ……(8)
このため、上記式(7)及び(7’)は、それぞれ、下記式(9)及び(9’)でも表すことができる。
h
i+1=(H
i+1/g
ki+1)+δ
i+1 ……(9)
h
i+1=h
0i+1=H
i+1/g
ki+1 ……(9’)
したがって、多段式養殖槽全体の設備高さTHは、第1段目の養殖槽の槽高さH
1と、第2段目から第m段目までの養殖槽の各槽の、前段の養殖槽との段差の総和との和であるので、上記式(5)で表すことができ、また、余裕分δ
i+1を考慮しない場合には、多段式養殖槽全体の必要最小設備高さTH
0は、下記式(5’)で表すことができる。
【0036】
なお、上記式(5)及び(5’)で表される多段式養殖槽全体の設備高さTH、TH
0は、第1段目の養殖槽の槽高さH
1と、第2段目から第m段目までの養殖槽の各槽の、前段の養殖槽との段差の総和との和であるので、上記式(7)及び(7’)を用いて、上記式(10)及び(10’)で表すことができる。
【0038】
なお、m段の養殖槽の各養殖槽の槽高さH
iが等しく、H
i=Hで表される場合には、上記式(8)は、下記式(11)で表すことができる。
g
ki+1 =A
i+1/A
i ……(11)
したがって、多段式養殖槽全体の設備高さTHを表す上記式(5)及び(10)は、下記式(12)で表すことができる。
【0040】
以上のように、上記式(5)、(10)又は(12)で表すことができる多段式養殖槽全体の設備高さTHを、本発明の連続養殖装置が設置される環境に応じてより低く、好ましくは最小となるように前後段の養殖槽間の段差h
i+1(=(H
i+1/g
ki+1)+δ
i+1)、もしくは前後段の養殖槽間の面積比(例えば、A
i+1/A
i;従って、各養殖槽の養殖日数kも含む)及び各養殖槽の底面から満水面までの槽高さ(例えば、H
i)を調整することにより、多段式養殖槽全体の設備高さを設置環境に対してより低くでき、設備のコンパクト化を図ることができ、設備費、その建設費のコストダウンを図ることができる。なお、本発明では、上記所定高さδ
i+1は、0にすることができる場合には、全体の設備高さTHをより小さくできるが、設置環境や養殖槽の構造によって0にできない場合にも、できるだけ小さくするのが好ましいのはもちろんである。
【0041】
ところで、多段式養殖槽全体の設備高さTHを低減するためには、上記式(6)、(7)及び(9)で表される前後段の養殖槽間の段差h
iを小さくするのが良いのはもちろんであるので、この段差h
iは、必要最小段差h
0iと余裕分δ
iとの和として表すことができるので、この段差h
iを必要最小限の所定範囲として、例えば、必要最小段差h
0iと、これに加える余裕分としてδ
iを、例えば前段の養殖槽の底面に設けられた養殖海水の排水方向に対する水勾配が2%になる段差以下とすることにより、全体の設備高さを低減するのが好ましい。
ここで、前後段の養殖槽間の段差を所定範囲、即ち、必要最小段差h
0iに加える余裕分δ
iを、前段の養殖槽の底面に設けられた養殖海水の排水方向に対する水勾配が2%になる段差以下に制限するのは、コストアップさせることなく、前段の養殖槽からの養殖海水及び海藻類の排水若しくは排出を促進するためである。
【0042】
なお、水勾配は、水自体の排水には、1〜2%で十分である。本発明では、海藻類が混じるため、実際には2%以上のかなりの勾配をつけても自然流下だけでは、一部の海藻類は残る懸念が無いとは言えないが、少量であるので許容しても実用上、問題はない。もちろん、海藻類の完全排出には、人手、もしくは介入装置が必要であるが、介入装置まではコストアップを招くために、不要である。
即ち、水勾配が2%超になる段差を付けると、全体の設備高さを低減するのが困難となり、水勾配が0%となる必要最小段差h
0にすると、前段の養殖槽の底面に残った、海藻類の完全排出に多くの人手がかかり、又は介入装置等が必要となり、コストアップを招くからである。
【0043】
なお、本発明者は、各養殖槽の槽高さH
iについて、種々の実験を行った結果、通常の太陽光での養殖の場合、水深約1m程度が限界であること、即ち、各養殖槽の槽高さH
iを1m以下とするのが好ましいことを知見した。これは、海藻類が高生長率となる海藻類密度において、水深1mを越す領域では、光合成に必要な光量以下となり、生長率が大幅に低下することが原因であると考えられるからである。
従って、本発明においては、所定の容積を得るのに、水深を深くして、即ち各養殖槽の槽高さH
iを高くして、底面積を小さくすることもできるが、上記知見から、水深(槽高さ)を約1mに固定し、生長率に応じて各養殖槽の槽面積を大きくしていくことが好ましく、効果的である。本発明では、各養殖槽のサイズの相互関係式を容積基準としても良いが、水深(槽高さ)を固定し、面積基準にすることが好ましいと言える。
【0044】
以上から、本発明の連続養殖装置において、養殖効率向上には、下記の養殖槽形状が好ましい。
各養殖槽高さは一定にし(例えば、上述の1m程度)、海藻類の種類、従ってその生長率、及び養殖日数を決めることにより、各養殖槽の面積及び槽間段差(槽高さ)を求め、設備全高を決めるのが好ましい。
本発明の第1の実施形態の連続養殖装置は、基本的に以上のように構成される。
【0045】
(第2の実施形態)
図2(a)及び(b)は、それぞれ本発明の第2の実施形態に係る海藻類の多段式連続養殖装置の概略構成を模式的に示す断面図及び上面図である。
図2(a)及び(b)に示す海藻類の多段式連続養殖装置30は、前段から後段に向かって、第1槽の2つの並列に配置された養殖槽12a1、12a2、第2槽の2つの並列に配置された養殖槽12b1,12b2、第3槽の養殖槽12c、及び第4槽の養殖槽12dの4段からなる4段式養殖槽32と、第1槽の養殖槽12a1の底面と第2槽の養殖槽12b1とを連結する移送配管14a1、養殖槽12a2の底面と養殖槽12b2とを連結する移送配管14a2、第2槽の養殖槽12b1の底面と第3槽の養殖槽12cとを連結する移送配管14b1と、養殖槽12b2の底面と養殖槽12cとを連結する移送配管14b2、及び養殖槽12cの底面と養殖槽12dとを連結する移送配管14cとを有する。
【0046】
なお、移送配管14a1、移送配管14a2、移送配管14b1、移送配管14b2、及び移送配管14cには、それぞれ電動バルブ16が設けられている。
なお、
図2(a)及び(b)においては、
図1と同様に、各養殖槽への給水配管と、最後段の最終養殖槽12dの後段に設けられる回収槽と、最終養殖槽12dに下流側に設けられる回収配管と、排水配管とを有するが、説明を簡略化するために省略されている。
【0047】
図2(a)及び(b)に示す連続養殖装置30は、4段式養殖槽32からなり、
図1に示す3段式養殖槽12からなる連続養殖装置10に対して、段数の点でも異なるが、最上段の第1槽の養殖日数が2日であり、2つの養殖槽12a1、12a2を有し、第2槽の養殖日数が2日であり、2つの養殖槽12b1、12b2を有する点が特徴である。
図2(a)及び(b)に示すように、第1槽と第2槽との養殖日数が2日で、第3槽と第4槽との養殖日数が1日である場合には、収穫(回収)まで全6日の養殖日数が必要であるため、
図1に示す連続養殖装置10を4段式養殖槽として使用すると、第3槽と第4槽とが1日ずつ空くことになり、生産量の向上が図れない。
【0048】
これに対し、連続養殖装置30では、この特徴を有しているため、第1槽及び第2槽にそれぞれ2つの養殖槽12a1、12a2と、2つの養殖槽12b1、12b2とを有しているため、養殖槽12a1及び12a2の養殖開始を1日ずらしておけば、養殖槽12a1と12b1との間の移送、及び養殖槽12a2と12b2との間の移送は、2日毎に順次行うことができ、又、養殖槽12b1と12cとの間の移送及び養殖槽12b2と12cとの間の移送を1日毎に交互に行うことができる。
このため、連続養殖装置30では、第1槽の養殖槽12a1、12a2と第2槽の養殖槽12b1、12b2とはもちろん、第3槽と第4槽とにおいて養殖ができない日がなくなり、生産量の向上を図ることができる。
【0049】
(第3の実施形態)
図3は、本発明の第3の実施形態に係る海藻類の多段式連続養殖装置の概略構成を模式的に示す断面図である。
図3に示す海藻類の多段式連続養殖装置40は、前段から後段に向かって第1槽の2つに仕切られた養殖槽12a3、12a4、第2槽の2つに仕切られた養殖槽12b3,12b4、第3槽の養殖槽12c、及び第4槽の養殖槽12dの4段からなる4段式養殖槽42と、第1槽の養殖槽12a1の底面と第2槽の養殖槽12b3とを連結する移送配管14a3、養殖槽12a4の底面と養殖槽12b4とを連結する移送配管14a4、第2槽の養殖槽12b3の底面と第3槽の養殖槽12cとを連結する移送配管14b3と、養殖槽12b4の底面と養殖槽12cとを連結する移送配管14b4、及び養殖槽12cの底面と養殖槽12dとを連結する移送配管14cとを有する。
【0050】
図3に示す連続養殖装置40は、
図2(a)及び(b)に示す連続養殖装置30が、第1槽が2つの並列に配置された養殖槽12a1、12a2と、第2槽が2つの並列に配置された養殖槽12b1,12b2とを有しているのに対して、第1槽が2つに仕切られた養殖槽12a3、12a4と、第2槽の2つに仕切られた養殖槽12b3,12b4とを有している点で異なる以外は、全く同様の構成を有するものであるので、全く同様に養殖をおこなうことができ、全く同様に、生産量の向上を図ることができる。
図3に示す連続養殖装置40は、
図2(a)及び(b)に示す連続養殖装置30の変形例であって、第1槽、第2槽を1槽にし、仕切りにより2槽に分けたものということができ、全槽を直列に配置できる。連続養殖装置40の生産性は、連続養殖装置30と同じであるので、設置場所の敷地形状の制約に合わせて選択することができる。
【0051】
図2及び
図3では、4段式養殖槽において、第3段目の養殖槽12cの前段の第2段目の養殖槽を2つの養殖槽12b1及び12b2、又は12b3及び12b4で構成しているが、本発明は、これに限定されず、多段式養殖槽において、後段の1槽の養殖槽に対して、前段の養殖槽をn(nは整数)槽の養殖槽、又は仕切られたn室で構成し、後段の養殖槽と前段の養殖槽の各槽との間、又は後段の養殖槽と前段の養殖槽の各室との間を開閉弁付きの前記移送配管で連結し、前段の養殖槽における海藻類の移し変えまでの養殖日数と、後段の養殖槽における海藻類の移し変えまでの養殖日数の比率とがn:1となるように多段式養殖槽の各槽の容積を調整して構成しても良い。
こうすることにより、前段の養殖槽の各槽、又は前段の養殖槽の各室から、後段の養殖槽における海藻類の移し変えを、前段の養殖槽の養殖日数に応じて、移送配管の開閉弁の開閉を順次切り換えて、順次行うことにより、異なる養殖日数の複数の養殖槽間を移し変えて運転することができるので、後段の養殖槽の利用効率を上げることができ、連続養殖装置1台あたりの養殖海藻類の生産性を向上させることができるし、少なくとも最終段の養殖槽における海藻類の養殖日数が1日となるように調整することができ、毎日連続して海藻類を生産することができる。
【0052】
特に、多段式養殖槽の複数の養殖槽の各槽の容積を、複数の養殖槽の少なくとも最初の養殖槽における海藻類の養殖日数を2日以上、6日以下となるように、調整するのが好ましく、特に、少なくとも最初の養殖槽における海藻類の養殖日数が2日となり、少なくとも最後の養殖槽における海藻類の養殖日数が1日となるように、調整するのがより好ましい。
こうすることにより、同一養殖槽内での養殖日数をより短くすることができ、かつ、面積当たりの収穫量、即ち生産量を向上させることができ、かつ、毎日連続して海藻類を収穫、生産することができる。
【0053】
本発明の連続養殖装置で養殖される海藻類の種類は特に制限されないが、例えば、養殖槽内の海水に浮遊させて養殖可能な海苔類が好ましく、例えば、特許文献1及び2に開示の非着床型海藻類が好ましく、中でも、例えばスジアオノリまたはホソエダアオノリが挙げられる。
なお、本発明の連続養殖装置では、海藻類の複数の胞子が連結した胞子集塊、もしくはそれら胞子が発芽した発芽体が絡みあった発芽体集塊を供給してもよいし、もしくは、それらの発芽体集塊を別の小型水槽で養殖し、適正なサイズに生育させた後に供給してもよい。該胞子集塊および発芽体集塊は、直径5mm以下の小集塊に粉砕して使用されることが好ましい。なお、該胞子集塊および発芽体集塊は、例えば、特許文献1に記載の方法で製造される。
【0054】
また、本発明の連続養殖装置で使用される養殖用海水としては、海藻類の養殖に使用できる海水であれば特にその海水の種類は制限されないが、例えば、地下海水、海洋深層水などが使用される。なお、一般海水も使用することができるが、不純物が多く含まれている場合が多く、海藻類の生長が阻害されるおそれがある。このため、一般海水を使用する場合には、含まれる不純物をろ過して用いるのが好ましい。
また、本発明の連続養殖装置の多段式養殖槽の各養殖槽内の海水を、各槽の給水配管から流下する海水の噴流やエアや炭酸ガスや炭酸ガス入りエア等の気体によるバブリング(エアレーション)などによって流動化し、攪拌し、旋回させるのが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明に係る海藻類の多段式連続養殖装置を、実施例に基づいて具体的に説明する。
(実施例1)
図1に示す3段式養殖槽12において、スジアオノリを用い、各槽2日ずつ、合計6日のサイクルにて養殖を行った。スジアオノリの日間生長率は1.4なので、2日間での生長率は1.4
2=1.96となり、槽間の容積比を1.96とした。なお、第2槽と第1槽との面積比を1.96、第3槽と第2槽との面積比を1.96、各養殖槽の槽高さをそれぞれ1mとし、3段式養殖槽12の全体の設備高さTHを、従来方式の3mに対して、2.02m(各養殖槽の余裕分δを加えても2.14m)として、低く抑えた。
【0056】
即ち、実施例1では、段差h
2及びh
3は、h
2=h
3=1/1.4
2=0.510mとなり、全体の設備高さTHは、TH=1+0.510×2=2.02mとなる。
従来方式では、全体の設備高さTHは、TH=1×3=3mとなる。
したがって、全体の設備高さTHの削減率は、1−2.02/3=0.327となり、33%の削減効果である。
なお、余裕分である段差の増加分(段差増分)δ
2、及びδ
3としては、水勾配2%とすると、1.96×0.02=0.039m、及び3.84×0.02=0.077mとすることができ、合計増加分として、0.116mとすることができる。
第1槽に投入する種苗を1kg(湿重量)とすると、2日後の海藻重量は、1.96kgになるので、第1槽の容量を1.96m
3とし、第2槽、第3槽の容:量をそれぞれ、1.96×1.96=3.84m
3、3.84×1.96=7.53m
3とした。また、各養殖槽の高さ(水深)を1mとし、各槽の面積を、それぞれ、1.96、3.84、7.53m
2とした。
【0057】
本条件にて、2日間ごとの移し変えで6日間養殖を行った結果、ほぼ、目標通りの7.53kg(湿重量)のスジアオノリを収穫できた。
本例での養殖槽における単位面積、1日あたりの生産量は、(7.53−1)/2/(1.96+3.84+7.53)=0.245kg/m
2/日となった。
上記の実施例1の各養殖槽のサイズと配置構成並びに結果について、表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
比較のため、従来方式例として1槽のみでの養殖も行った。収穫量を同レベルにするため、容積を7.35m
3とし、6日間、同一水槽で養殖したが、海藻の投入重量1kgに対し、収穫重量は、上例とほぼ同じ7.53kgを得た。これにより単位面積、1日当たりの生産量を求めると、(7.53−1)/6/7.53=0.145kg/m
2/日となった。
実施例1の生産性を単位面積、1日当たりの生産量で従来方式と比較すると、0.245/0.145=1.69となり、本発明により従来比で、約1.7倍、生産性が向上することが判明した。
【0060】
(実施例2)
図2(a)及び(b)に示す4段式養殖槽において、スジアオノリを用い、第1、第2槽で2日ずつ、第3、第4槽で1日ずつの合計6日のサイクルにて養殖を行った。スジアオノリの生長率は1日では1.4、2日間では1.96なので、槽間の容積比を第1、第2槽間は1.96、第2、第3槽間、及び第3、第4槽間は、共に1.4とした。
なお、第2槽と第1槽、第3槽と第2槽、及び第4槽と第3槽との面積比を1.96、1.4、及び1.4とし、各養殖槽の槽高さを、全て1mとし、4段式養殖槽の全体の設備高さTHを、従来方式の4mに対して、2.94m、(各養殖槽の余裕分δを加えても3.05m)として、低く抑えた。
移し変えピッチが前段と後段で異なるので、1日ごとの移し変えに対応できるよう、第1槽と第2槽は、それぞれ2個設置し、第2槽と第3槽間は、第2槽から交互に移し変えるようにした。
【0061】
実施例2では、段差h
2は、h
2=1/1.4
2=0.51m、h
3及びh
4は、h
3=h
4=1/1.4=0.714mとなり、全体の設備高さTHは、TH=1+0.510+0.714×2=2.94mとなる。
従来方式では、全体の設備高さTHは、TH=1×4=4mとなる。
したがって、全体の設備高さTHの削減率は、1−2.94/4=0.265となり、27%の削減効果である。
なお、余裕分である段差の増加分(段差増分)δ
2、δ
3及びδ
4としては、水勾配2%とすると、0.98×0.02=0.020m、1.92×0.02=0.038m、及び2.69×0.02=0.054mとすることができ、合計増加分として、0.112mとすることができる。
【0062】
第1槽に投入する種苗を1kg(湿重量)とすると、実施例1と同様の考え方から、各養殖槽の高さ(水深)を1mとし、槽容量は、第1槽:0.98m
3(×2槽)、第2槽:0.98×1.96=1.92m
3(×2槽)、第3槽:1.92×1.4=2.69m
3、第4槽:2.69×1.4=3.76m
3とした。
本条件にて、1日、及び2日毎に移し変えし、6日間養殖を行った結果、ほぼ、目標通りの7.53kg(湿重量)のスジアオノリを収穫できた。
本例での養殖槽における単位容積、1日あたりの生産量は、(7.53−1)/(0.98×2+1.92×2+2.69+3.76)=0.533kg/m
3/日となった。
この生産性を単位容積、1日当たりの生産量で,従来方式と比較すると、0.533/0.145=3.68となり、約3.7倍、生産性が向上することが確認できた。
上記の実施例2の各養殖槽のサイズと配置構成並びに結果について、表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表1及び表2に示される上記の実施例1及び2から、本発明の効果は、明らかである。
以上、本発明に係る海藻類の多段式連続養殖装置について種々の実施形態及び実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明は以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのはもちろんである。