特許第5698196号(P5698196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5698196電解銅箔、並びにこれを用いた二次電池集電体及び二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698196
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】電解銅箔、並びにこれを用いた二次電池集電体及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20150319BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20150319BHJP
   C25D 1/00 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   C25D1/04 311
   H01M4/66 A
   C25D1/00 311
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-181019(P2012-181019)
(22)【出願日】2012年8月17日
(65)【公開番号】特開2014-37583(P2014-37583A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2013年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】古曳 倫也
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−188969(JP,A)
【文献】 特開2008−101267(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/002526(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00
H01M 4/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下の式で求められる変化率の最大値が30%以下である電解銅箔。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
【請求項2】
銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下の式で求められる変化率の最大値が10%以下である電解銅箔。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
【請求項3】
銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下の式で求められる変化率の最大値が5%以下である電解銅箔。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
【請求項4】
銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下で定義される変化率の絶対値の最大値が30%以下である電解銅箔。
ここで、変化率の絶対値の最大値は、以下の式で求められる変化率の最大値の絶対値の値または変化率の最小値の絶対値の値の内大きい値である。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
変化率の最小値=((加熱後の回折強度比最小値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
【請求項5】
銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下で定義される変化率の絶対値の最大値が10%以下である電解銅箔。
ここで、変化率の絶対値の最大値は、以下の式で求められる変化率の最大値の絶対値の値または変化率の最小値の絶対値の値の内大きい値である。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
変化率の最小値=((加熱後の回折強度比最小値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
【請求項6】
銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下で定義される変化率の絶対値の最大値が5%以下である電解銅箔。
ここで、変化率の絶対値の最大値は、以下の式で求められる変化率の最大値の絶対値の値または変化率の最小値の絶対値の値の内大きい値である。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
変化率の最小値=((加熱後の回折強度比最小値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
【請求項7】
200℃で1時間加熱後の前記(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)が0.25〜5.00である請求項1〜6のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項8】
前記回折強度比(200)/(111)について、以下の式で求められる変化率の最小値が負の値である請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解銅箔。
変化率の最小値=((加熱後の回折強度比最小値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電解銅箔の製造方法であって、
少なくとも銅源を含む電解用水溶液に、ニカワを電解用水溶液に対して質量割合で2ppm以上添加し、対限界電流密度比が0.170以下となるように調整した製箔条件にて電解を行うことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電解銅箔を用いた二次電池集電体。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電解銅箔を集電体に用いた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池をはじめとする二次電池の負極集電体材料として好適な電解銅箔、並びにそれを用いた二次電池集電体、および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型パソコン等のポータブル機器の普及に伴い、小型で高容量の二次電池の需要が伸びている。また、電気自動車やハイブリッド車等に用いられる中・大型の二次電池の需要も急増している。二次電池のなかでも、リチウムイオン二次電池は、軽量でエネルギー密度が高いことから多くの分野で使用されている。
リチウムイオン二次電池としては、アルミニウム箔にLiCoO2、LiNiO2、LiMn24等の化合物をコーティングしたものを正極として用い、銅箔に炭素質材料等を活物質としてコーティングしたものを負極に用いるものが知られている。
【0003】
一般的に、銅箔負極板は、電解銅箔や圧延銅箔を用いて次のプロセスで製造される。
(1)活物質と結着剤とを溶剤に混練分散したペーストを、集電体となる銅箔の片面もしくは両面に塗布して負極板材とする。
(2)150〜300℃の温度で数時間から数十時間加熱し乾燥する。
(3)必要に応じ、負極板材に加圧する。
(4)せん断加工を施し、所定形状の負極板へ成型する。
【0004】
特許文献1には、集電体の薄肉化を行うと、集電体の強度が脆弱なものとなってしまい高温で保存した場合や充放電を繰り返した場合、集電体からの活物質の剥離、脱落が生じ、時には充放電中に集電体の破断による容量低下を促すといった問題に対して、集電体の強度を向上させることで、電池の充放電サイクル特性を改善する技術が開示されている。具体的には、集電体の引張り強度及び延び等の機械的特性が(200)と(100)面のピーク強度比の影響を受けること、およびさらに前記ピーク強度比に適切な範囲が存在することを知見し、非酸素雰囲気下で銅または銅合金を加熱処理することにより、この(200)と(100)面のピーク強度比を特定の範囲内に収める技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、炭素などの電極活物質が銅などの一般に金属表面との親和力が乏しいこと、そのために電極活物質にバインダーとして樹脂を加えたコーティング層を銅箔表面に設けたとしても依然としてコーティング層は銅箔表面との密着性が低いことから、銅箔を陰極用に巻回しなどの加工を施すなどした際に、活物質と銅箔表面との密着不良が起こることにより、集電体である活物質と銅箔との抵抗の増加、陰極としての耐久性や寿命にも問題が残るという事情に対して、銅箔表面との親和力が元々乏しいコーティングと銅箔表面との密着性を向上させた銅箔に関する技術が開示されている。具体的には、銅箔側の特定の結晶方位の存在比率が、銅箔表面の酸化物皮膜の炭素などのコーティング層との密着性を大きく左右し、この特定の結晶方位の存在比率が特定の範囲の際に、コーティング層との密着性が著しく改善されることを知見し、特定の結晶方位として、銅箔の200面と220面との結晶方位の積分強度比率(200)/(220)に着目し、この積分強度比を最終焼鈍後の冷間圧延率を調整することにより、特定の範囲内に収める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−142106号公報
【特許文献2】特開平11−310864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1、2ともに銅または銅合金の特定の結晶方位を制御してサイクル特性あるいは耐久性などの物性の向上を試みる技術が開示されているものの、当該物性は活物質を塗布する前の状態の銅または銅合金にて評価している。
【0008】
一方で、たとえ特定の結晶方位の制御を実現することができても、充放電サイクル特性の観点から不十分なものもあり、実際にはばらつきが存在していた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このばらつきにつき、その原因を検討した結果、活物質の銅または銅合金への塗布後の乾燥工程で通常行われる150℃〜200℃で1時間程度の加熱処理において、乾燥工程での熱量のばらつきにより、銅または銅合金の結晶方位が変化した結果、充放電サイクル特性が安定しない結果となっているという知見を得た。そこで、特定の結晶方位の加熱処理前後での変化幅を一定範囲以内とすることによりこの課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下の式で求められる変化率の最大値が30%以下である電解銅箔。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
(2)銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下の式で求められる変化率の最大値が10%以下である電解銅箔。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
(3)銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下の式で求められる変化率の最大値が5%以下である電解銅箔。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
(4)銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下で定義される変化率の絶対値の最大値が30%以下である電解銅箔。
ここで、変化率の絶対値の最大値は、以下の式で求められる変化率の最大値の絶対値の値または変化率の最小値の絶対値の値の内大きい値である。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
変化率の最小値=((加熱後の回折強度比最小値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
(5)銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下で定義される変化率の絶対値の最大値が10%以下である電解銅箔。
ここで、変化率の絶対値の最大値は、以下の式で求められる変化率の最大値の絶対値の値または変化率の最小値の絶対値の値の内大きい値である。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
変化率の最小値=((加熱後の回折強度比最小値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
(6)銅あるいは銅合金からなる電解銅箔において、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金の表面におけるCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下で定義される変化率の絶対値の最大値が5%以下である電解銅箔。
ここで、変化率の絶対値の最大値は、以下の式で求められる変化率の最大値の絶対値の値または変化率の最小値の絶対値の値の内大きい値である。
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
変化率の最小値=((加熱後の回折強度比最小値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
(7)200℃で1時間加熱後の前記(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)が0.25〜5.00である(1)〜(6)のいずれかに記載の電解銅箔。
(8)前記回折強度比(200)/(111)について、以下の式で求められる変化率の最小値が負の値である(1)〜(7)のいずれかに記載の電解銅箔。
変化率の最小値=((加熱後の回折強度比最小値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の電解銅箔の製造方法であって、
少なくとも銅源を含む電解用水溶液に、ニカワを電解用水溶液に対して質量割合で2ppm以上添加し、対限界電流密度比が0.170以下となるように調整した製箔条件にて電解を行うことを特徴とする方法。
(10)(1)〜(8)のいずれかに記載の電解銅箔を用いた二次電池集電体。
(11)(1)〜(8)のいずれかに記載の電解銅箔を集電体に用いた二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池をはじめとする二次電池の負極集電体材料として好適な、充放電サイクル寿命に優れる電解銅箔、並びにこれを用いた二次電池集電体二次電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一般的な二次電池の構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(電解銅箔)
本実施形態における電解銅箔は、銅あるいは銅合金からなる電解銅箔であり、120℃、130℃、150℃および200℃のいずれかの温度で1時間の加熱の前後にて、前記銅あるいは銅合金のCuKα線を線源とするX線回折における(200)面と(111)面との回折強度比(200)/(111)について、以下の式で求められる変化率の絶対値の最大値が30%以下である。ここで、(200)、(111)の各面における回折強度は、XRDにおけるピーク強度、あるいはピークの積分強度から測定され、回折強度比はこれらの強度の比率から算出される指数である。
【0014】
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
【0015】
また、本実施形態の電解銅箔においては、200℃で1時間加熱後の回折強度比(200)/(111)の値が、0.25〜5.00の範囲にあることが好ましく、特に好ましくは0.25〜4.00の範囲にあることである。さらに、前記回折強度比(200)/(111)について、以下のように求められる変化率の絶対値の最大値が30%以下になることが、加熱を加えても結晶性が安定している為、サイクル特性のバラツキが抑制される観点から好ましい。また、回折強度比(200)/(111)の値の変化率の最小値が負の値をとらない場合、変化率の最大値が30%以下になることが好ましい。
【0016】
ここで、変化率の絶対値の最大値は、以下の式で求められる変化率の最大値の絶対値の値および変化率の最小値の絶対値の値の内、大きい方の値とする。
変化率の最小値=((加熱後の回折強度比最小値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
【0017】
別の側面から、本発明は、上述した回折強度比(200)/(111)の値の変化率の絶対値の最大値、あるいは当該変化率の最大値が10%以下である電解銅箔を提供する。
さらに、別の側面から、本発明は、上述した回折強度比(200)/(111)の値の変化率の絶対値の最大値、あるいは当該変化率の最大値が5%以下である電解銅箔を提供する。
【0018】
本実施形態に電解銅箔の厚みは、引張り強度を高めることにより活物質脱落を抑制できることから、その値が大きいほど好ましい。しかし、集電体厚みが大きくなると電池内部の空隙体積が少なくなり、エネルギー密度が低下するので15μm以下が好ましく、6〜12μmの範囲が最適である。
【0019】
また、電解銅箔に使用する銅合金としては、銅に亜鉛、銀、スズを0.01〜30重量%添加した銅合金が好ましい。また、純度の高い銅を用いてもよい。これらの銅あるいは銅合金は、非水電解質二次電池への適用において必要となる耐力、耐熱性、可撓性、導電率等の特性を満たすものであれば良く、特にリン(P)や鉄(Fe)、銀(Ag)といった銅に微量添加される元素の添加量を制御することで、電池性能に悪影響を及ぼさない範囲で前記特性を向上させることができる。また、不可避不純物として含まれるニッケル(Ni)、スズ(Sn)等についても電池性能に悪影響を及ぼさない範囲であれば許容されるものである。
【0020】
このような電解銅箔は、少なくとも銅源、および必要に応じてその他の金属成分を含む電解用水溶液に、ニカワを添加し、対限界電流密度比が一定範囲となるように調整した製箔条件にて電解を行うことで得ることができる。
【0021】
ここで、電解用水溶液に添加するニカワの量は、電解用水溶液に対して重量割合で2ppm以上、好ましくは6ppm以上である。
また、電流密度を、対限界電流密度比が0.170以下、好ましくは0.160以下となるように調整する。
本発明において、対限界電流密度比は、次式により算出する。
対限界電流密度比=実際の電流密度/限界電流密度
限界電流密度は、銅濃度、硫酸濃度、給液速度、極間距離、電解液温度によって変化するが、本発明では、正常めっき(銅が層状に析出している状態)と粗化めっき(焼けメッキ、銅が結晶状(球状や針状や樹氷状等)に析出している状態、凹凸がある。)との境界となる製箔条件である電流密度を限界電流密度と定義し、ハルセル試験にて正常めっきとなる限界(焼けメッキとなる直前)の電流密度(目視判断)を限界電流密度とした。
【0022】
具体的にはハルセル試験において、銅濃度、硫酸濃度、電解液温度を銅箔の製造条件に設定し、ハルセル試験を行う。そして、当該電解液組成、電解液温度における銅層形成状態(銅が層状に析出しているか結晶状に形成しているか)を調査する。そして、株式会社山本鍍金試験器製の電流密度早見表に基づいて、テストピースの正常めっきと粗化めっきとの境界が存在する箇所のテストピースの位置から、当該境界の位置における電流密度を求めた。そして、当該境界の位置における電流密度を限界電流密度と規定した。これにより、当該電解液組成、電解液温度での限界電流密度が分かる。一般的には極間距離が短いと、限界電流密度が高くなる傾向にある。実施例において、ハルセル試験に使用したテストピースは株式会社山本鍍金試験器製のハルセル試験用横銅板とした。
【0023】
なお、従来は銅箔粒子の形状を整えるため対限界電流密度比を0.17より大きくして電解銅箔を製造するのが通例であった。ハルセル試験の方法は例えば「めっき実務読本」 丸山 清 著 日刊工業新聞社 1983年6月30日の157ページから160ページに記載されている。
【0024】
このようにして得られる電解銅箔では、金属組織が微細になり、ニカワが平均的に銅箔内に取り込まれた状態となる。また、平均的にニカワが取り込まれた電解銅箔は、熱処理を経ても金属組織が変化しにくくなり、結晶方位も安定することになる。その結果、この銅箔を用いて集電体とし、負極を作製し電池としたときに、その電池の充放電サイクル特性も向上する。
【0025】
(電池の構成)
本実施形態における負極板及び二次電池は、上記銅箔を負極集電体として用いることを特徴とするものであり、これ以外の構成については限定されず、一般に用いられている公知のものを用いることができる。また、典型的な二次電池は、例えば、負極板がリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質の主成分とする正極板とセパレータを介して絶縁配置された極板群と、非水電解液と、この極板群及び非水電解質を収容する電池ケースとを備える。
【0026】
(負極)
負極は、上記負極集電体と、負極集電体の片面もしくは両面に形成される負極活物質より構成される。負極活物質としては、リチウムの吸蔵放出が可能な炭素質物、金属、金属化合物(金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物)、リチウム合金などが挙げられる。
【0027】
前記炭素質物としては、黒鉛、コークス、炭素繊維、球状炭素、熱分解気相炭素質物、樹脂焼成体などの黒鉛質材料もしくは炭素質材料;熱硬化性樹脂、等方性ピッチ、メソフェーズピッチ系炭素、メソフェーズピッチ系炭素繊維、メソフェーズ小球体などに500〜3000℃で熱処理を施すことにより得られる黒鉛質材料又は炭素質材料等が挙げられる。
前記金属としては、リチウム、アルミニウム、マグネシウム、すず、けい素等が挙げられる。
前記金属酸化物としては、スズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物等が挙げられる。前記金属硫化物としては、スズ硫化物、チタン硫化物等が挙げられる。前記金属窒化物としては、リチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等が挙げられる。
リチウム合金としては、リチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等が挙げられる。
【0028】
負極活物質含有層には結着剤を含有させることができる。結着剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びスチレンブタジエン(SBR)を含む混合物が挙げられる。CMC及びSBRを含む結着剤を使用することによって、負極活物質と集電体との密着性をより高くすることができる。
負極活物質含有層には、導電剤を含有させることができる。導電剤としては、アセチレンブラック、粉末状膨張黒鉛などのグラファイト類、炭素繊維粉砕物、黒鉛化炭素繊維粉砕物、等が挙げられる。
本発明は、このようにして得られる二次電池集電体を提供する。
【0029】
(正極)
正極は、正極集電体と、前記正極集電体の片面もしくは両面に形成される正極活物質含有層より構成される。
正極集電体としては、アルミニウム板、アルミニウムメッシュ材等が挙げられる。
正極活物質含有層は、例えば、活物質と結着剤とを含有する。正極活物質としては、二酸化マンガン、二硫化モリブデン、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24等のカルコゲン化合物が挙げられる。これらのカルコゲン化合物は、2種以上の混合物で用いても良い。結着剤としては、フッ素系樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂のような熱可塑性エラストマー系樹脂、又はフッ素ゴムのようなゴム系樹脂を用いることができる。
活物質含有層には、導電補助材としてアセチレンブラック、粉末状膨張黒鉛などのグラファイト類、炭素繊維粉砕物、黒鉛化炭素繊維粉砕物、等をさらに含有することができる。
【0030】
(セパレータ)
正極と負極の間には、セパレータか、固体もしくはゲル状の電解質層を配置することができる。セパレータとしては、例えば20〜30μmの厚さを有するポリエチレン多孔質フィルム、ポリプロピレン多孔質フィルム等を用いることができる。
【0031】
(非水電解質)
非水電解質には、液状、ゲル状もしくは固体状の形態を有するものを使用することができる。また、非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解される電解質とを含むことが望ましい。
非水溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。使用する非水溶媒の種類は、1種類もしくは2種類以上にすることが可能である。
電解質としては、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化硼酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)等が挙げられる。電解質は、単独でも混合物の形態でも使用することができる。
【0032】
本発明は、二次電池集電体から構成される負極、並びにこれらの部材を含み、後述するようにして構成される二次電池を提供する。
【実施例】
【0033】
(製造例1)
電解槽の中に、直径約3133mm、幅2476.5mmのチタン製の回転ドラムと、ドラムの周囲に5mm程度の極間距離を置いて電極を配置した。この電解槽の中に、表1に記載濃度の添加剤を含有した硫酸銅水溶液を導入した。そして、表1に記載の対限界電流密度比に調節し、回転ドラムの表面に銅を析出させ、回転ドラムの表面に析出した銅を剥ぎ取り、続いて、後述する発明例1の電解銅箔を製造した。銅箔の厚みは10μmとした。
【0034】
(製造例2〜9)
表1に示した添加量、および対限界電流密度比とした以外は、製造例1と同様の条件で、電解銅箔を製造した。なお、製造例2、3、4、5の板厚はそれぞれ12μm、8μm、18μm、10μmとした。また、製造例6〜9の板厚は10μmとした。また、製造例2〜9についても、剥ぎ取った銅箔を、続いて後述する発明例又は比較例の電解銅箔の製造に供した。
【0035】
【表1】
【0036】
(発明例1〜5)
製造例1〜5の電解銅箔につき、加熱処理を行った。なお、それぞれの電解銅箔について、加熱処理を、120℃で1時間、130℃で1時間、150℃で1時間、200℃で1時間行った。それぞれの加熱後の(200)面および(111)面のCuKα線を線源とするXRDによる回折強度を測定した。
さらに、(200)面、(111)面の結晶方位における回折強度比(200)/(111)の変化率の最大値、最小値および変化率の絶対値の最大値、ならびに変化値の最大値、最小値および変化値の絶対値の最大値を以下の式にて求めた。
結果を表2に示す。
【0037】
※1 変化率の最小値=((加熱後の回折強度比最小値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
※2 変化率の最大値=((加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比))/(加熱前の回折強度比) × 100
変化率の絶対値の最大値は、上述の変化率の最大値の絶対値の値および変化率の最小値の絶対値の値の内、大きい方の値とした。
※3 変化値の最小値=(加熱後の回折強度比最小値)−(加熱前の回折強度比)
※4 変化値の最大値=(加熱後の回折強度比最大値)−(加熱前の回折強度比)
変化値の絶対値の最大値は、上述の変化値の最大値の絶対値の値および変化値の最小値の絶対値の値の内、大きい方の値とした。
【0038】
(比較例1〜4)
それぞれ製造例6〜9で得られた電解銅箔について、発明例1と同様の手順で加熱処理を行った。また、(200)面、(111)面の結晶方位における回折強度比(200)/(111)の変化率の最大値および最小値、ならびに変化値の最大値および最小値を求めた。
結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
(充放電サイクル特性の評価)
上述の実施例、比較例で得られた銅箔につき、図1に示す円筒型のリチウムイオン二次電池を以下の手順で作製し、サイクル寿命を測定した。
(1)負極活物質として鱗片状黒鉛粉末50重量部、結着剤としてスチレンブタジエンゴム5重量部、そして増粘剤としてカルボキシルメチルセルロース1重量部に対して水99重量部に溶解した増粘剤水溶液23重量部を、混錬分散して負極用ペーストを得た。この負極用ペーストを圧延銅箔試料表面にドクターブレード方式で厚さ200μmに両面塗布し、200℃で30分間加熱し乾燥した。加圧して厚さを160μmに調整した後、せん断加工により成型し負極板6を得た。
(2)正極活物質としてLiCoO2粉末50重量部、導電剤としてアセチレンブラック1.5重量部、結着剤としてPTFE50%水性ディスパージョン7重量部、増粘剤としてカルボキシルメチルセルロース1%水溶液41.5重量部を、混練分散して正極用ペーストを得た。この正極用ペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔からなる集電体上にドクターブレード方式で厚さ約230μmに両面塗布して200℃で1時間加熱し乾燥した。加圧して厚さを180μmに調整した後、せん断加工により成型し正極板5を得た。
(3)正極板5と負極板6とを、厚さ20μmのポリプロピレン樹脂製の微多孔膜からなるセパレータ7を介して絶縁した状態で渦巻状に巻回した電極群を電池ケース8に収容した。
(4)負極板6から連接する負極リード9を、前記ケース8と下部絶縁板10を介して電気的に接続した。同様に正極板5から連接する正極リード3を、封口板1の内部端子に上部絶縁板4を介して電気的に接続した。これらの後、非水電解液を注液し、封口板1と電池ケース8とを絶縁ガスケット2を介してかしめ封口して、直径17mm、高さ50mmサイズで電池容量が780mAhの円筒型リチウムイオン二次電池を作製した。
(5)電解液は、エチレンカーボネート30体積%、エチルメチルカーボネート50体積%、プロピオン酸メチル20体積%の混合溶媒中に、電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.0モル溶かした電解液を所定量注液した。この電解液を正極活物質層及び負極活物質層内に含浸させた。
【0041】
次に、上記の実施例及び比較例で得られた電池について、各20個の電池を用いて、充放電サイクル特性を評価した。
【0042】
そこで、充放電サイクル特性は、20℃の環境下において、以下の充電条件および放電条件からなる充放電サイクルを繰り返して、評価した。
−充電条件:4.2Vで2時間の定電流−定電圧充電を行い、電池電圧が4.2Vに達するまでは550mA(0.7CmA)の定電流充電を行った後、さらに電流値が減衰して40mA(0.05CmA)になるまで充電する事とした
−放電条件:780mA(1CmA)の定電流で3.0Vの放電終止電圧まで放電した
この時、3サイクル目における容量を初期容量とし、初期容量に対して放電容量が80%に低下するまでサイクル数を計数した。充放電サイクル数の平均値の結果を表3に示す。
【0043】
【表3】
【符号の説明】
【0044】
1:封口板
2:絶縁ガスケット
3:正極リード
4:上部絶縁板
5:正極板
6:負極板
7:セパレータ
8:電池ケース
9:負極リード
10:下部絶縁板
図1