(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698221
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】金属チタン製造装置および金属チタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/12 20060101AFI20150319BHJP
C22B 5/16 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
C22B34/12 102
C22B5/16
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-509358(P2012-509358)
(86)(22)【出願日】2011年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2011055184
(87)【国際公開番号】WO2011125402
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年2月26日
(31)【優先権主張番号】特願2010-88568(P2010-88568)
(32)【優先日】2010年4月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503389611
【氏名又は名称】テクナ・プラズマ・システムズ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100123180
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 克則
(74)【代理人】
【識別番号】100159525
【弁理士】
【氏名又は名称】大日方 和幸
(72)【発明者】
【氏名】韓 剛
(72)【発明者】
【氏名】庄司 辰也
(72)【発明者】
【氏名】上坂 修治郎
(72)【発明者】
【氏名】福丸 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】ブーロス マハー アイ.
(72)【発明者】
【氏名】グォ ジャイーン
(72)【発明者】
【氏名】ジュリヴィックズ ジャージー
【審査官】
越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/137688(WO,A1)
【文献】
特公昭33−003004(JP,B1)
【文献】
国際公開第2008/091773(WO,A1)
【文献】
特開平03−150326(JP,A)
【文献】
特開平03−150327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属チタン製造装置において、該装置が、
(a)固体マグネシウムを蒸発させるマグネシウム蒸発部及び該マグネシウム蒸発部に連結された気体状のマグネシウムを供給する第一流路と、
(b)気体状の四塩化チタンを供給する第二流路と、
(c)前記第一流路および前記第二流路に連通するガス混合部であって、該ガス混合部内で気体状のマグネシウムと四塩化チタンとが混合されるようになっており、前記ガス混合部内が絶対圧で50kPa〜500kPa、温度が1600℃以上に制御された、ガス混合部と、
(d)前記ガス混合部に連通する金属チタン析出部であって、少なくとも一部が715〜1500℃の温度範囲にある析出用基材が配置され、絶対圧で50kPa〜500kPaの金属チタン析出部と、
(e)前記金属チタン析出部に連通する混合ガスの排出部と
を含むことを特徴とする金属チタン製造装置。
【請求項2】
前記マグネシウム蒸発部が、固体マグネシウムを蒸発させるための蒸発熱源としてDCプラズマトーチを有することを特徴とする請求項1に記載の金属チタン製造装置。
【請求項3】
前記金属チタン析出部の絶対圧が90kPa〜200kPaである請求項1又は請求項2に記載の金属チタン製造装置。
【請求項4】
前記第一流路、前記第二流路、前記ガス混合部、および前記金属チタン析出部のうちの少なくとも1つが黒鉛壁を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の金属チタン製造装置。
【請求項5】
誘導加熱によって前記黒鉛壁の一部または全てを加熱できるようになっていることを特徴とする請求項4に記載の金属チタン製造装置。
【請求項6】
前記析出用基材が、回転軸線に対して垂直方向に径の異なる凹凸を有するロール形状を有し、前記回転軸線を中心に回転するようになっており、
前記析出用基材が、前記析出用基材の表面に析出した金属チタンを掻き落とすためのスクレーパを更に有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の金属チタン製造装置。
【請求項7】
前記析出用基材の少なくとも一部が900〜1200℃の温度範囲にあることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の金属チタン製造装置。
【請求項8】
前記析出用基材がチタンまたはチタン合金でできていることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の金属チタン製造装置。
【請求項9】
金属チタンの製造方法において、該方法が、
(a)固体マグネシウムを蒸発させる工程と、
(b)前記工程(a)で蒸発させた気体状のマグネシウムと、気体状の四塩化チタンとを絶対圧で50kPa〜500kPa、温度が1600℃以上の混合空間に供給して混合ガスを形成する工程と、
(c)前記混合ガスを金属チタン析出空間に導入する工程であって、前記金属チタン析出空間は50kPa〜500kPaの絶対圧を有し、前記金属チタン析出空間には析出用基材が配置され、該析出用基材の少なくとも一部が715〜1500℃の温度範囲にある、前記混合ガスを析出空間に導入する工程と、
(d)前記析出用基材上に金属チタンを析出成長させる工程と、
(e)前記工程(d)を経た前記混合ガスを排出する工程と
を含むことを特徴とする金属チタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く言えば、金属チタンを製造する方法および装置に関するものである。具体的には、本発明は、四塩化チタンおよびマグネシウムの混合ガスから金属チタンを析出成長させる金属チタンの製造方法および装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
チタンは、軽量で比強度が大きく耐食性に優れており、航空機、医療、自動車など様々な分野にわたって広く利用され、その使用量は増加しつつある。チタンの地殻の埋蔵量は、実用金属元素の中ではアルミニウム、鉄、マグネシウムに次いで4番目に多く、資源として豊富な元素である。このようにチタン資源は豊富にも関わらず、チタンは鉄鋼材料よりも1桁以上も高価であり、供給が不足する現状に直面している。
【0003】
現行の金属チタンの製造の主流はクロール法である。クロール法は、原料であるチタン鉱石(主成分TiO
2)に塩素ガスおよびコークス(C)を添加して四塩化チタン(TiCl
4)を製造し、さらに蒸留分離を経て高純度四塩化チタンを製造する。純化した四塩化チタンとマグネシウム(Mg)との熱還元反応により金属チタンを製造する。クロール法の熱還元工程は、ステンレス鋼製還元反応容器内に予め800℃以上の溶融マグネシウムを満たし、容器上部から四塩化チタン液を滴下し、容器内のマグネシウムと反応させることによりチタンを生成させる。生成されたチタンはマグネシウム液中に沈下してスポンジ状のチタンを形成する。一方、反応の副生成物である塩化マグネシウムおよび残留マグネシウムは液相としてスポンジ状チタンとの混合物になる。上記反応の終了後、1000℃以上の高温真空分離プロセスを経て、多孔質のスポンジケーキが得られ、このスポンジケーキを切断、粉砕してスポンジチタンを製造する。
クロール法は実用レベルのチタン素材を製造できるが、熱還元反応と真空分離は別工程で行なわれるために製造に長時間を要する。また、製造はバッチ式であるため、製造能率が低い。クロール法のこれらの課題を克服するために、様々な技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特公昭33−3004号公報)に開示された方法は、四塩化チタンガスとマグネシウム蒸気を反応容器に供給し、反応容器を800〜1100℃の温度範囲、かつ10
−4mmHg(1.3×10
−2Pa)の真空に保った状態で気相反応を起こさせ、反応容器内に設置された網状回収材にチタンを析出させて回収する方法である。
【0005】
特許文献2(米国特許第2997385号明細書)に開示された方法は、金属元素のハロゲン化物蒸気と還元剤であるアルカリ金属又はアルカリ土類金属蒸気を反応容器に導入し、反応容器を750〜1200℃の温度範囲、かつ0.01〜300mmHg(1.3Pa〜40kPa)の真空減圧状態で気相反応により、金属を製造する方法である。
文献2には、Example IIにチタンをTiCl
4ガス+Mgガスにより生成する方法が示されており、具体的には、反応温度として約850℃、圧力として10〜200microns(1.3〜26.7Pa)が適用されている。
【0006】
非特許文献1(ハンゼンおよびゲルデマン、JOM、 1998年、 No.11、第56頁)には、気相反応を通じてチタン超微細粉末を製造する方法が開示されている。この方法は、四塩化チタンガスとマグネシウムガスを反応器に導入し、850℃以上の温度で反応させて、生成物としてチタン微細粉末と副生成物のMgCl
2粉末を下部に設けたサイクロンで分離する。その後、得られたチタン微細粉末からマグネシウムとMgCl
2を分離するために、真空蒸留かあるいは濾過が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭33−3004号公報
【特許文献2】米国特許第2997385号明細書
【特許文献3】特開2009−242946号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ハンゼン、ゲルデマン(D.A.Hansen and S.J.Gerdemann)、JOM、 1998年、 No.11、 第56頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らの検討によると、特許文献1の方法は少量のチタンの回収は可能であるが、反応容器を10
−4mmHgの真空に維持するには、反応物の供給速度を制限する必要がある。真空排気ポンプの大型化、排気能力の増強により処理能力を増強する可能性があるが、工業的な大量処理は困難である。
【0010】
特許文献2の方法も、特許文献1とほぼ同様に、純チタンを回収できるが、低圧状態での製造は製造速度が小さいという問題は残している。
【0011】
非特許文献1の方法で生成した粉末はサブミクロン程度の細かさであり、マグネシウムやMgCl
2との効率的な分離を実現できず、不純物混入量が多い。そのため、真空蒸留といった別の分離手段が必要である。
【0012】
以上のように、上記のクロール法の問題を解決するために提案された先行技術文献は、四塩化チタンガスとマグネシウムガスとの気相反応を通じてチタンを製造する方法である。しかし、いずれの方法も、基本的には高レベルの真空状態を適用して副生成物のMgCl
2あるいは未反応物のマグネシウムを分離する必要があり、大量処理が困難であるという問題があった。
【0013】
本発明者らは、RF熱プラズマフレーム中に四塩化チタンおよびマグネシウムを供給して、RF熱プラズマフレーム中で四塩化チタンおよびマグネシウムが蒸発してマグネシウムにより四塩化チタンを還元して、還元された金属チタンを堆積させる方法及び装置を提案した(特開2009−242946号公報)。
この方法では、四塩化チタンガスとマグネシウムガスとの反応の効率を上げるためには均一に混合させる必要がある。
本発明の目的は、四塩化チタンおよびマグネシウムを出発原料として、金属チタンを効率よく製造できる金属チタンの製造方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る金属チタン製造装置は、(a)固体マグネシウムを蒸発させるマグネシウム蒸発部と蒸発部及び該マグネシウム蒸発部に連結された気体状のマグネシウムを供給する第一流路と、(b)気体状の四塩化チタンを供給する第二流路と、(c)第一流路および第二流路に連通するガス混合部であって、該ガス混合部内で気体状のマグネシウムと四塩化チタンとが混合されるようになっており、ガス混合部内が絶対圧で50kPa〜500kPa、温度が1600℃以上に制御されたガス混合部と、(d)前記ガス混合部に連通する金属チタン析出部であって、少なくとも一部が715〜1500℃の温度範囲にある析出用基材が配置され、絶対圧で50kPa〜500kPaの金属チタン析出部と、(e)金属チタン析出部に連通する混合ガスの排出部とを含むものである。
【0015】
固体マグネシウム蒸発部が、蒸発熱源としてDCプラズマトーチを有することが好ましい。
【0016】
金属チタン析出部の絶対圧が90kPa〜200kPaであることが好ましい。
【0017】
また、第一流路、第二流路、ガス混合部、および金属チタン析出部のうちの少なくとも1つが黒鉛壁を有することが好ましい。この黒鉛壁の一部または全てが、誘導加熱によって加熱できるようになっていることがさらに好ましい。
【0018】
析出用基材は、回転軸線に対して垂直方向に径の異なる凹凸を有するロール形状を有し、前記中心軸線を中心に回転するようになっていることが好ましい。さらに、析出用基材の表面に析出した金属チタンを掻き落とすためのスクレーパを有することが好ましい。
【0019】
前記析出用基材の少なくとも一部が900〜1200℃の温度範囲にあることが好ましい。
【0020】
析出用基材は、チタンまたはチタン合金でできていることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る金属チタンの製造方法は、(a)固体マグネシウムを蒸発させる工程と、(b)工程(a)で蒸発させた気体状のマグネシウムと、気体状の四塩化チタンとを絶対圧で50kPa〜500kPa、温度が1600℃以上の混合空間に供給して混合ガスを形成する工程と、(c)混合ガスを析出空間に導入する工程であって、析出空間は50kPa〜500kPaの絶対圧を有し、析出空間には析出用基材が配置され、該析出用基材の少なくとも一部が715〜1500℃の温度範囲にある、混合ガスを析出空間に導入する工程と、(d)析出用基材上に金属チタンを析出成長させる工程と、(e)工程(d)を経た混合ガスを排出する工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の金属チタンの製造装置および製造方法によれば、四塩化チタンとマグネシウムとの気相反応により直接的にチタンを製造でき、高純度チタンの高生産性製造が可能になる。また、チタンが析出用基材に析出するので、反応の副生成物である四塩化チタンおよび残留マグネシウムを別工程により分離する必要がない。さらに、析出用基材を金属チタンの析出成長に応じて引き抜くことにより連続製造も可能となる。
【0023】
以上に記載された、およびその他の目的、効果および構成は、添付の図面を参照するうえ以下の例示の実施例の非限定的説明により、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】金属チタン製造装置の一例を示す側面略断面図。
【
図2】マグネシウム蒸発部の一例を示す側面略断面図。
【
図3】金属チタン析出部の一例を示す側面略断面図。
【
図4】金属チタン析出部の析出用基材およびスクレーパの構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、金属チタンを製造するための新規な装置および方法を開示するものである。
【0026】
本発明では、室温状態では固体のマグネシウムを蒸発させた気体状のマグネシウムと、気体状の四塩化チタンとを、絶対圧で50kPa〜500kPa、温度が1600℃以上の混合空間に供給して混合ガスを形成する。気体状の四塩化チタンと蒸発させて気体状としたマグネシウムとを事前に混合して、混合ガスを形成することにより、反応器中で連続的に均一反応を実現できる。四塩化チタンとマグネシウムの反応の駆動力は温度の上昇に伴って減少するため、1600℃以上では四塩化チタンとマグネシウムの反応を実質的に抑制でき、反応物ガス同士の混合だけが実現できる。本発明において四塩化チタンとマグネシウムの均一な混合ガスを形成する点は、重要な特徴の一つである。
【0027】
次に、混合ガスを金属チタン析出空間に導入する。金属チタン析出空間は50kPa〜500kPaの絶対圧を有し、金属チタン析出空間には析出用基材が配置され、析出用基材の少なくとも一部が715〜1500℃の温度範囲に制御される。混合ガスの温度が低下することに伴って、チタンの生成反応の駆動力が増大する。金属チタン析出空間に設置した析出用基材の表面が、チタンの不均一核生成を促し、チタンの生成および析出を促進する。
【0028】
ここで、金属チタン析出空間の絶対圧を50kPa〜500kPaとした点は、本発明のもう一つの重要な特徴である。金属チタン析出空間の圧力が低いほどマグネシウムやMgCl
2の蒸発分離に有利である。反応が不均一な場合でも真空、減圧により蒸発を促進し、副生成物や中間化合物を蒸発分離することが可能である。実際にクロール法では1000℃の温度で、チタンとマグネシウムおよびMgCl
2の液相での混合物を形成し、その後、0.1〜1Paの真空分離によりチタンを製造している。
これに対して、本発明で規定する絶対圧50kPa〜500kPaというのは、ほぼ大気圧であり、従来技術として紹介した文献を参照すると、マグネシウムやMgCl
2を生成したチタンから分離できない環境である。本発明者は、このような従来では考えられない圧力下であっても、析出用基材上にチタンが結晶化して成長することを確認し、さらに驚くべきことに、その純度も極めて高いものであることを確認したのである。
【0029】
通常、単位反応器容積の処理能力は容器圧力の増加に比例して増加する。例えば、圧力が一桁増加すると処理速度も一桁増加する。本発明は、この様な従来では考えられない圧力を適用できたことにより、処理速度を飛躍的に高めることができるのである。
なお、50kPa未満でも原理的にはチタンを回収できるが、圧力低下に伴って製造速度が低くなると同時に、装置内への空気漏れの可能性が大きくなる。チタンは酸素、窒素との反応活性が高い金属であるから、製造プロセスを空気から保護することも必要である。真空度が高いほど、プロセス上および装置上の真空漏れ対策のコストが高くなる。50kPa以上では空気漏れという課題は工業製造レベルで容易に解決でき、実用上好ましい範囲となる。
【0030】
他方、圧力の上昇に伴って、単位反応器容積の処理能力が上昇するが、MgCl
2の蒸発効果が低下する。そのため、500kPaを超えると高純度のチタンの製造が困難になる。なお、工業設備では高圧対応には製造コストが上昇することも含めて、500kPa以下が有効である。
処理能力、分離効率、工業設備の経済合理性を考慮すると、絶対圧90kPa〜200kPaの範囲がより好ましい。
【0031】
析出基材表面に、50kPa〜500kPa圧力状態下でチタンが粒子として析出できる温度範囲は715〜1500℃である。温度低下と共に、反応駆動力が増加するが、マグネシウムおよびMgCl
2の蒸発効果が低減する。他方、温度が上昇すると、MgCl
2等の蒸発に有利であるが、反応駆動力が低下する。1500℃以上では、チタンの還元反応が進行しにくくなり、715℃以下では反応ガスの均一核生成が行なわれ、析出基材表面に析出しにくくなる。したがって、析出用基材の少なくとも一部が715〜1500℃の温度範囲とすることが有効である。
【0032】
より低い温度でチタン析出が安定になるうえに、反応容器用構造材料の選択の観点からも、低温操業が望ましい。しかし、より低温では反応生成物であるMgCl
2などが同時混入する可能性があるので、工業的な製造安定性を実現するためには、900℃〜1300℃が好ましく、さらに900〜1200℃が好ましい。
【0033】
本発明では、金属チタン析出空間には、混合ガスとの接触面積を確保するための析出用基材を配置する。金属チタン析出空間に析出用基材を配置すると、導入された混合ガスの析出サイトとなり、金属チタンを基材上に析出成長させることができる。
【0034】
析出用基材の表面は、反応で生成したチタンの不均一核形成の場所を提供し、析出を促進する。析出用基材は、混合ガスがもれなく均等に析出基材を通過、接触できる形状が望ましい。そのため、析出用基材は、混合ガスの十分に流れる空間を形成するとともに、表面積が大きいことが望ましい。析出用基材の比表面積を確保するためには、多孔体構造が好ましい。また、析出用基材は、混合ガスの流れる方向に伸張した形状を有し、混合ガスの流路を形成するようになっていることが好ましい。
【0035】
析出したチタンを連続的に回収しようとする場合、析出用基材を金属チタンの析出成長に応じて掻き落とす機構を設ける事が望ましい。本発明者の観察によれば、特に析出用基材の先端(混合ガスの流れに対向する先端面)の析出量が多く、これを掻き落とすことにより、先端面に析出させたチタンを持続的に成長させることができる。
なお、析出用基材の表面上に析出させたチタンを掻き落とすスクレーパ機能を別途付加したり、析出用基材を複数配置して、析出部分を相互に摺動運動させることで、析出したチタンを掻き落とすようにしてもよい。あるいは析出用基材に振動を加えることにより、析出基材表面に形成したチタン粒子を連続的に回収することも可能である。
また、反応熱を奪い、反応領域の温度を制御する目的で、析出用基材を冷却することもできる。
【0036】
本発明において使用する析出用基材は、特に材質の制限はない。例えばセラミックスでも金属でもよい。析出用基材は、700〜1500℃の温度範囲に制御されるので、この温度範囲で溶解して変質しない高融点金属とすることが望ましい。なお、効率よく析出させるためにはチタンと結晶構造が近似することが好ましく、特に純チタンやチタン合金が好ましい。
特に、回収されるチタンの純度を維持し、不純物の混入を防止するため、析出用基材は純チタンが望ましい。
【0037】
本発明の金属チタン製造装置の一例である側面略断面図を
図1に示す。この装置は固体マグネシウムを蒸発させる機構を有するマグネシウム蒸発部1と蒸発部と連通する気体状のマグネシウムを供給する第一流路5、気体状の四塩化チタンを供給する第二流路7、第一流路および第二流路が連通する気体状のマグネシウムと四塩化チタンが混合されるガス混合部8と、ガス混合部と連通する金属チタン析出部9と、金属チタン析出部に連通する混合ガスの排気部16とで構成されている。
【0038】
蒸発部1は、固体マグネシウムを挿入する坩堝2と、固体マグネシウムを蒸発させるための熱源とで構成されている。蒸発熱源の一例として、
図1では坩堝2の側壁の少なくとも一部の周りに加熱ヒータ3を設ける構成を示しており、このヒータにより坩堝内の温度をマグネシウムの蒸発可能温度に加熱し、固体マグネシウムを蒸発させる。蒸発熱源の他の例としては、坩堝外部に設けられたコイルを有するヒータを使って、坩堝の黒鉛壁を誘導加熱することにより加熱することができる。また、蒸発熱源の他の一例としては、
図2の蒸発部の側面略断面図に示すように固体マグネシウムを蒸発させる機構としてDCプラズマトーチ4を蒸発熱源として有するものがあげられる。DCプラズマトーチを適用する場合には、プラズマアークでマグネシウムの液面を集中的に加熱することが可能なため、マグネシウムの蒸発速度の調整に有利であり、安定的にマグネシウムの蒸発を行えるという利点がある。
【0039】
マグネシウム蒸発部1には、ガス混合部8へ気体状のマグネシウムを供給する第一流路5が連結されている。本発明の一例によれば、第一流路5の側壁の少なくとも一部の周りに加熱ヒータ6を設けることができ、このヒータにより流路内の温度をマグネシウムの蒸発可能温度に加熱し、マグネシウムの流路中への堆積を抑制することができる。他の例としては、流路外部に設けられたコイルを有するヒータを使って、流路の黒鉛壁を誘導加熱することにより加熱することができる。
【0040】
本発明のチタン製造装置は、ガス混合部8へ気体状の四塩化チタンを供給する第二流路7を有している。
本発明の一例によれば、気体状の四塩化チタンを供給する第二流路7の側壁の少なくとも一部の周りに加熱ヒータ10を設けることができ、このヒータにより第二流路内を所定温度まで加熱することができる。なお、第二流路7は、塩化物蒸気への耐食性を有する材料により形成することができる。塩化物蒸気への耐食性を有する材料の一例としては、黒鉛を使用できる。他の例としては、第二流路7は、コイルを有するヒータを使って加熱できる。加熱は第二流路7の黒鉛壁を誘導加熱することにより行うことができる。
【0041】
気体状のマグネシウムを供給する第一流路5と気体状の四塩化チタンを供給する第二流路7とが連結されたガス混合部8は、絶対圧で50KPa〜500KPa、温度が1600℃以上に制御される。この絶対圧と温度が維持されていれば、四塩化チタンとマグネシウムは、まだ還元反応を起こさないためである。なお、ガス混合部の側壁の少なくとも一部の周りに加熱ヒータ11を設けることで、ガス混合部を上記の温度域に制御する。また、ガス混合部の内壁は、塩化物蒸気への耐食性を有する材料により形成することが望ましく、材料の一例として黒鉛があげられる。本発明の一例としては、ガス混合部の側壁の外側にコイルを有するヒータを使って誘導加熱して温度制御を行うこともできる。
【0042】
ガス混合部8に連結された金属チタン析出部9は、50kPa〜500kPaの絶対圧に維持され、少なくとも一部が、715〜1500℃の温度範囲にある析出用基材13が配置される。好ましくは析出用基材の少なくとも一部が、900〜1200℃の温度範囲に制御される。四塩化チタンとマグネシウムの混合ガスは、上記温度範囲で、マグネシウムによる四塩化チタンの還元反応を起こす。そして、生成されたチタンは析出用基材の表面に析出して成長する。なお、析出部の側壁の少なくとも一部の周りに加熱ヒータ12を設けることで、金属チタン析出部内を所定温度まで加熱し、内部に配置された析出用基材を上記の温度域に制御する。また、金属チタン析出部の内壁は、塩化物蒸気への耐食性を有する材料により設けることが望ましく、材料の一例として黒鉛があげられる。他の例としては、金属チタン析出部の側壁の外側にコイルを有するヒータを使って誘導加熱して温度制御を行うこともできる。
【0043】
析出用基材としては、混合ガスの十分な流路を確保しながら、混合ガスが均等に析出用基材を通過、接触できる形状であり、かつ析出できる表面積が大きい形状が好ましい。
析出用基材に析出した金属チタンを連続的に回収する場合の機構の一具体例として、
図3の金属チタン析出部の側面略断面図や
図4の析出用基材およびスクレーパの構造を示す模式図に示すように、析出用基材13は回転軸線に対して垂直方向に径の異なる凹凸を有するロール形状のものを、モータで中心軸を回転させる構成が挙げられる。この構成の一例として、(これに限定されないが)複数のディスク状の金属板が同一中心軸によって連結されて形成されたものが挙げられる。このロール形状の析出用基材13の下部には、析出用基材の表面に析出した金属チタンを掻き落とすようにスクレーパ14が設置されている。掻き落としたチタンは、金属チタン析出部の下部に連結された回収器15で回収することで、連続的に回収できる。
【0044】
前記金属チタン析出部9で析出成長するチタン以外の気体状のマグネシウムと気体状の四塩化チタンの混合ガスは、析出部と連結された排出部へ、副生成物の塩化マグネシウムを含んで排出され、フィルター等により回収される。
【0045】
実験例1
本発明に係る金属チタンの製造方法の有効性を示す実験例を以下説明する。実験に使用した装置は
図1に示した基本構造を有し、マグネシウム蒸発部は
図2に示す構造、金属チタン析出部は
図3に示す構造のものである。マグネシウム蒸発部は、固体マグネシウムを挿入する黒鉛坩堝2を設置され、蒸発熱源として最大出力50kWのDCプラズマトーチ4で黒鉛坩堝に挿入した固体マグネシウムを溶融蒸発させる構造とした。
金属チタン析出部には、連続的にチタンを回収するための構成として、
図4に示すようにチタン製のロール形状の析出用基材13と析出用基材表面に析出成長したチタンを掻き落とすためのモリブデン製のスクレーパを配置した。なお、モータで回転させるロール形状の析出用基材13は凹凸形状とすることで表面積を大きくし、基材の表面部に混合ガスが接触するよう配置した。金属チタン析出部には排気部を接続する構造とした。第一流路の外周に誘導加熱コイル6、第二流路の外周に誘導加熱コイル10、混合ガス部の外周に誘導加熱コイル11を設置し、誘導加熱により、それぞれの温度制御を行った。
【0046】
マグネシウム蒸発部に設置したDCプラズマトーチでは、出力20kW、プラズマ動作ガスとしてAr:Heを60slpm(毎分標準リットル):10slpmでプラズマ炎を発生させ、黒鉛坩堝に挿入した固体マグネシウムを蒸発させた。四塩化チタン液20ml/分(毎分ミリリットル)、マグネシウム9.7g/分の割合で各流路からガス混合部へ供給し、混合ガスを金属チタン析出部に12分間供給した結果、析出用基材には樹枝状晶に成長した金属チタンが形成された。なお、誘導加熱コイル11の電力を14.7kWとし、ガス混合部の外周温度を1700℃に制御した。温度勾配よりガス混合部内は1600℃以上であると推定される。またガス混合部内の圧力は105kPaであった。金属チタン析出部の析出用基材の温度は950〜1050℃、圧力を105kPaに制御した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の方法により、連続的にチタンを製造することが可能であり、溶解原料や粉末冶金原料として好適である。電子材料、航空機部品、電力・化学プラント用の溶製材の製造が不可欠な用途に適用できる。
【0048】
以上述べたように、本発明による金属チタン製造方法の構成を一例として説明したが、この構成に限定されるものではなく、請求の範囲から離脱することなく種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1 マグネシウム蒸発部
2 坩堝
3 加熱ヒータ
4 DCプラズマトーチ
5 第一流路
6 加熱ヒータ
7 第二流路
8 ガス混合部
9 金属チタン析出部
10、11、12 加熱ヒータ
13 析出用基材
14 スクレーパ
15 回収器
16 排出部