(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のIII族窒化物半導体エピタキシャル基板の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、
図1,
図2,
図3および
図4では説明の便宜上、実際の厚さの割合とは異なり、各層の厚さを基板に対して誇張して示す。また、
図1,
図2および
図4では、超格子積層体120,220の積層構造の一部を省略している。さらに、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0022】
ここで、本明細書において単に「AlGaN」と表記する場合は、III族元素(Al,Gaの合計)とNとの化学組成比が1:1であり、III族元素AlとGaとの比率は不定の任意の化合物を意味するものとする。「AlGaN」と表記することによって、AlNまたはGaNであることを排除するものではない。また、この化合物におけるIII族元素中のAl組成の割合が結晶成長方向に変化しない場合に、特に「Al含有率」と称する。なお、本発明におけるAlNからなる層および表面部分とはいずれも単結晶のAlN層であり、例えば900℃以下の低温で成長された多結晶やアモルファスを主体とするAlN層ではない。
【0023】
図1に示すように、本発明の一実施形態であるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100は、少なくとも表面部分がAlNからなる基板112と、この基板112上に形成されるアンドープAlN層114と、このアンドープAlN層114上に形成されるSiドープAlNバッファ層116と、このSiドープAlNバッファ層116上に形成される超格子積層体120と、を有する。ここで、SiドープAlNバッファ層116は、2.0×10
19/cm
3以上のSi濃度を有し、かつ、その厚み(「膜厚」、とも言う)が4〜10nmであることが肝要である。
【0024】
少なくとも表面部分がAlNからなる基板112は、サファイア、SiC、Si、ダイヤモンド、Alなどの金属からなる基板の上にAlN単結晶が形成されたAlNテンプレート基板と、基板全体がAlNであるAlN単結晶基板とが挙げられる。基板112の厚みは、各層のエピタキシャル成長後の反り量などを勘案して適宜設定されるが、例えば400〜2000μmの範囲内である。
なお、本発明に使用する基板112の表面部分のAlNは結晶性が良く、例えばX線ロッキングカーブ回折法(XRC;X-ray Rocking Curve)によるAlNの(102)面における半値幅が600秒以下の基板であることが好ましい。転位密度としては、1.0×10
9/cm
2以下であることが好ましい。転位の少ない基板を用いることで、後述するSiドープAlNバッファ層116を用いる場合の、転位発生が過剰になることによるクラック発生を抑制することができるためである。
【0025】
少なくとも表面部分がAlNからなる基板112上には、アンドープAlN層114が形成される。このアンドープAlN層114は、結晶性の良い基板のAlNの結晶性を引き継ぐことを目的としており、厚さは10〜50nmの範囲内である。なお、ここで言う「アンドープ」とは、意図的に不純物をドープしないことを意味し、装置起因や拡散等による不可避的不純物の排除まで意図するものではない。具体的には、アンドープにおいて、不可避的不純物ではないp型またはn型になりうる不純物の不純物濃度は、5.0×10
16/cm
3以下として定義することができる。これは、LED等の発光デバイスにおいて、電気伝導に寄与しないレベルの濃度である。
【0026】
アンドープAlN層114上には、AlN組成からなり、2.0×10
19/cm
3以上のSi濃度を有するSiドープAlNバッファ層116が形成される。本明細書において、Si濃度はSIMS(二次イオン質量分析計:Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer)により得られた不純物の検出強度のピーク値を濃度換算した値を意味する。また、SiドープAlNバッファ層116の厚みは、4〜10nmである。SiドープAlNバッファ層116が2.0×10
19/cm
3以上のSi濃度を有する理由および厚みを4〜10nmとする理由については、後述する。
【0027】
SiドープAlNバッファ層116上に、超格子積層体120が形成される。この超格子積層体120は、ド・ブロイ波長程度の膜厚を有する第1の層と、この第1の層とは異なる組成であって、ド・ブロイ波長程度の膜厚を有する第2の層とを複数層交互に積層することにより形成される。この超格子積層体120は、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の最表面への転位を抑制することができる。
【0028】
例えば、SiドープAlNバッファ層116上に、第1Al含有層120Aを形成し、さらにその上にAl組成が異なる第2Al含有層120Bと、第1Al含有層120Aとを交互に複数層積層して超格子積層体120を形成することができる。この場合、超格子積層体120の最下層および最上層は、第1Al含有層120Aとなる。なお、本実施形態において、超格子積層体120には導電性が求められないので、第1Al含有層120Aと第2Al含有層120Bとの少なくとも一方はアンドープ層である。例えば、一方がアンドープ層で、一方がMgなどの不純物をドープした層とすることができる。また、第1Al含有層120Aと第2Al含有層120Bとの両方がアンドープであってもよい。本実施形態の超格子積層体120の限定を意図しないが、例えば、第1Al含有層120Aおよび第2Al含有層120Bは、互いにAlの平均組成が異なるAlGaN組成とすることができる。例えば、第1Al含有層120AのAl含有率を第2Al含有層120BのAlの平均組成よりも高くすることができる。なお、この超格子積層体120は、SiドープAlNバッファ層116の全面上に形成される。
【0029】
SiドープAlNバッファ層116は、2.0×10
19/cm
3以上のSi濃度を有し、かつ、その厚みが4〜10nmであることが、本発明の一実施形態に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100の特に特徴となる構成である。このような構成を採用することにより、表面平坦性がより優れたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を提供することが可能となる。
【0030】
このような構成を採用することの技術的意義を、作用効果を含めて以下に説明する。本発明者らは、表面平坦性に優れたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を得るために、少なくとも表面部分がAlNからなる基板112上のバッファ層を種々検討した。ここで、既述のとおり、GaN層へのSiドープに比べて、AlN層へのSiドープは、AlN層表面により急峻な凹凸面が生じるため、従来は避けられていた。しかしながら本発明者らの検討によると、基板112とアンドープAlN層114と、SiドープAlN層116と、超格子積層体120とにより、表面平坦性に優れたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100を得ることができることを見出し、検討を行った。すなわち、基板112上にAlNからなるバッファ層(アンドープAlN層114およびSiドープAlNバッファ層116に相当)を形成し、このバッファ層の超格子積層体に近い側の表層部(SiドープAlNバッファ層116に相当)を2.0×10
19/cm
3以上のSi濃度でSiドープし、かつ、その厚みを4nm以上とし、さらに超格子積層体120を形成したときに、表面平坦性に優れたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板が得られることを見出したのである。
【0031】
実施例において後述するように、本発明者らのより詳細な検討によると、SiドープAlNバッファ層116のSi濃度が2.0×10
19/cm
3未満であるとしても、III族窒化物半導体エピタキシャル基板が優れた表面平坦性を有することができる。しかしながら、Si濃度が2.0×10
19/cm
3未満、例えば1.0×10
19/cm
3であると、III族窒化物半導体エピタキシャル基板上に素子形成層を形成してなるIII族窒化物半導体発光素子を作製した場合に、ELスペクトル形状がダブルピークになってしまう傾向にあることが判明した。このため、SiドープAlNバッファ層116のSi濃度は2.0×10
19/cm
3以上であることが必要である。
【0032】
一方、SiドープAlNバッファ層116のSi濃度が2.0×10
19/cm
3以上であっても、SiドープAlNバッファ層116の厚みによっては、高濃度Siドープに起因するクラックが発生してしまう場合や、ELスペクトルがダブルピークになってしまう場合があることも判明した。本発明者らのより詳細な検討によると、SiドープAlNバッファ層116が2.0×10
19/cm
3以上のSi濃度を有していても、厚みが10nmを超えると、SiドープAlNバッファ層116全体としてのSiドープ量が過剰となり、格子緩和が進みすぎて引っ張り歪みによりクラックが発生してしまう傾向にある。また、厚みが4nm未満となると、SiドープAlNバッファ層116全体としてのSiドープ量が不足するためにSiドープAlNバッファ層上に発生する欠陥が互いに合体消失しきれずに、ELスペクトル形状がダブルピークになってしまう傾向にある。また、SiドープAlNバッファ層116が2.0×10
19/cm
3以上のSi濃度を有することで、基板112と、SiドープAlNバッファ層上に成長させるIII族窒化物層からなる素子形成層との間の歪みの緩和効果を生じるため、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の反りを低減できることも判明した。
【0033】
このように、アンドープAlN層114と、超格子積層体120の間のSiドープAlNバッファ層116が2.0×10
19/cm
3以上のSi濃度を有し、かつ、その厚みが4〜10nmである場合に、本発明目的を達成することができることを本発明者らは見出し、本発明は完成するに至ったのである。また、本発明に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板は、これを用いたIII族窒化物半導体発光素子のクラック発生を抑制でき、ELスペクトルを正常なシングル(ピークが一つ)とすることができる。
【0034】
上記の効果が得られる理由は、理論的に明らかとなったわけではないが、本発明者らは以下のように考えている。AlNからなるバッファ層へのSiドープは、バッファ層表面に凹凸を形成して、表面を荒らす作用があるために、半導体エピタキシャル基板を得るためには、従来避けられていた。転位が多い基板を使用した場合、SiドープAlNバッファ層を用いると、転位が多くなりすぎてクラックが発生することも、従来避けられてきた理由と考えられる。
転位が多い基板を使用した場合には、基板から貫通する転位が多いために面欠陥の合体消失も多く、そのため反って大きな凸が出来ず、結果的に平坦となる場合があった。一方、転位が少ない基板を使用した場合、基板から貫通する転位は僅かであり、面欠陥が発生しても、その面欠陥は消失せずに残り、大きな凸部を形成してしまうことが判明した。そこで、Si濃度を2.0×10
19/cm
3以上と、むしろ高濃度の層を適切な厚さで挿入することで、大きな凸部を形成する前に面欠陥を消失させて、優れた表面平坦性を得ることができると共に、さらに反りを低減できることを見出したのである。
【0035】
本発明は理論に縛られるものではないが、本実施形態のIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100は、上記のような作用により、優れた表面平坦性を実現することができ、このIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100を用いてIII族窒化物半導体発光素子を作製しても、クラックの発生を抑制でき、かつ、ELスペクトル形状を正常にすることが可能となるものと考えられる。さらに、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の反りを低減することができる。
【0036】
本発明の好適実施形態に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板200において、超格子積層体220は、AlNバッファ層216上に、結晶成長方向の平均組成xが0.9<x≦1からなる高Al含有層(Al
xGa
1−xN)と、結晶成長方向の平均組成yが0<y<xからなる低Al含有層(Al
yGa
1−yN)との2種類のAl平均組成のAlGaN層を交互に積層してなることが好ましい。この場合、AlNバッファ層側から数えて1番目から(n−2)番目までの低Al含有層が、第1の厚みを有し、(n−1)番目の低Al含有層が、第1の厚みよりも厚い第2の厚みを有し、n番目の低Al含有層が、第2の厚み以上の第3の厚みを有することが好ましい。nを10以下とすることで、超格子積層体220の積層数を減らして、III族窒化物半導体エピタキシャル基板200の反り量をさらに低減することができる。
【0037】
ここに、超格子積層体220において、AlNバッファ層216直上の高Al含有層から、AlNバッファ層216側から数えて(n−2)番目の高Al含有層までの層からなる積層体を「第1積層体221」と称す。この第1積層体221における高Al含有層を高Al含有層221Aと表し、低Al含有層を低Al含有層221Bと表す。また、第1積層体221直上の低Al含有層を低Al含有層222Bと表し、この低Al含有層222B上の高Al含有層を高Al含有層222Aと表し、低Al含有層222Bおよび高Al含有層222Aからなる積層体を「第2積層体222」と称す。さらに、第2積層体222直上の低Al含有層を低Al含有層223Bと表し、この低Al含有層223B上の高Al含有層を高Al含有層223Aと表し、低Al含有層223Bおよび高Al含有層223Aからなる積層体を「第3積層体223」と称す。すなわち、低Al含有層222Bは、AlNバッファ層側から数えて(n−1)番目の低Al含有層であり、第2の厚みを有する。また、低Al含有層223Bは、AlNバッファ層側から数えてn番目の低Al含有層であり、第3の厚みを有する。
【0038】
以下、
図2および
図3を用いて、本発明の好適実施形態に従う超格子積層体220の詳細を説明する。
AlNバッファ層216上には、既述の第1積層体221と、第2積層体222と、第3積層体223とから構成される超格子積層体220が形成されることが好ましい。この超格子積層体220は、既述のとおり、結晶成長方向の平均組成xが0.9<x≦1からなる高Al含有層(Al
xGa
1−xN)と、結晶成長方向の平均組成yが0<y<xからなる低Al含有層(Al
yGa
1−yN)との2種類のAl平均組成のAlGaN層を交互に積層してなることが好ましい。ここで、高Al含有層のAlの平均組成xに関し、「Al
xGa
1−xN(0.9<x≦1)」であるとは、Al組成が高Al含有層内において、一定であっても、連続的または不連続に変化してよく、結晶成長方向のAl平均組成xが0.9<x≦1であることを意味する。低Al含有層のAl平均組成yが「Al
yGa
1−yN(0<y<x≦1)」と表されることも、同様の意味である。また、高Al含有層221A〜223Aは、同じAl平均組成xを有することが好ましい。同様に、低Al含有層221B〜223Bは、同じAl平均組成yを有することが好ましい。
【0039】
ここで、超格子積層体220の積層数に関して、AlNバッファ層216上の高Al含有層を除く、交互に順次形成される低Al含有層と高Al含有層の積層数をn組(但し、nは4≦n≦10を満たす整数である)と表す。上記nを用いると、第1積層体221は、AlNバッファ層216上に高Al含有層221Aを1層積層し、さらに低Al含有層221Bおよび高Al含有層221Aをこの順に交互に(n−2)組積層することで形成される。高Al含有層221Aの膜厚は、1〜10nm程度とすることができる。第1積層体221におけるそれぞれの高Al含有層221Aは、この範囲内で任意の値をそれぞれ取ることができる。一方、低Al含有層221Bの膜厚である第1の厚みは、0.5〜1.5nm程度とすることができるが、第1の厚みは、第1積層体221において一定とすることが好ましい。第1積層体221の総膜厚は、3〜92nm程度とすることができる。
【0040】
第1積層体221上の第2積層体222では、第1の厚みよりも厚い第2の厚みを有する低Al含有層222Bと、高Al含有層222Aとをこの順に1層ずつ積層されることが好ましい。高Al含有層222Aの膜厚は、1〜10nm程度とすることができ、第1積層体221の高Al含有層221Aの膜厚と同じ膜厚としてもよいし、異なっていてもよい。一方、低Al含有層222Bの膜厚(第2の厚み)は、第1積層体221の低Al含有層221Bの第1の厚みよりも膜厚が厚いという条件の下、1.5〜2.5nm程度とすることができる。第2積層体222の総膜厚は、2.5〜12.5nm程度とすることができる。
【0041】
第2積層体222上には、第2の厚み以上である第3の厚みを有する低Al含有層223Bと、高Al含有層223Aとをこの順に1層ずつ積層してなる第3積層体223が形成される。高Al含有層223Aの膜厚は、1〜10nm程度とすることができ、第1積層体221の高Al含有層221Aの膜厚および/または第2積層体の高Al含有層222Aと同じ膜厚としてもよいし、異なっていてもよい。一方、低Al含有層223Bの膜厚(第3の厚み)は、第2積層体222の低Al含有層222Bの膜厚(第2の厚み)以上であるという条件の下、1.5〜3.5nm程度とすることができる。換言すれば、前述した第1の厚みと第2の厚みとの関係とは異なり、第2の厚みと第3の厚みとは、同一の厚みであってもよいが、後述するように、第3の厚みが第2の厚みより厚くなることがより好ましい。
【0042】
ここで、既述のとおり、低Al含有層および高Al含有層を交互に積層する組数nの上限を、10以下とすることが好ましく、総厚を減らすことで欠陥の発生位置を揃え、かつ、欠陥同士を繋げて消滅させ、その結果、III族窒化物半導体エピタキシャル基板200の平坦化を促進することができる。この交互に積層する組数nは、好ましくは5以上7以下(5≦n≦7)であり、最も好ましくは6(n=6)である。nを5以上とすることで、応力を緩和することができ、nを7以下とすることで、欠陥をより低減することができる。また、nを6とすることで、これらの効果が最も得られる。なお、AlNバッファ層216上に形成される高Al含有層221A以降の、低Al含有層および高Al含有層が、例えば交互に6組(n=6)積層されて超格子積層体220が形成されるときに、超格子積層体220の積層組数は「6.5組」である、と言う。すなわち、既述のnを用いれば、超格子積層体220の積層組数を、(n+0.5)組と表すことができる。
【0043】
超格子積層体220が第1積層体221,第2積層体222および第3積層体223を有し、かつ、交互に積層する組数nが既述の数値範囲であることが好適である理由の詳細を以下に説明する。
本発明者らは、III族窒化物半導体エピタキシャル基板200の反りをより低減するために、AlNバッファ層216上に形成する超格子積層体220の積層組数を、従来公知の積層組数(例えば、40.5組)よりも相当数減らして形成した場合の表面平坦性を種々検討した。AlNバッファ層216へのSiドープする不純物濃度を2.0×10
19/cm
3未満とし、超格子積層体220の積層組数が4.5組であり、かつ、第2および第3積層体を形成しなかった場合、超格子積層体220の上に形成されるn型コンタクト層の表面にはランダムな高さの凹凸が形成されていた。これに対して、Siドープする不純物濃度を変えずに、第2および第3積層体をさらに設けて超格子積層体220の積層組数を6.5組としたときに、超格子積層体220の上に形成されるn型コンタクト層の表面には、凹凸は発生するものの、その凸面の高さが揃っていた。これは、第2および第3積層体をさらに設けたことにより、同一面での核発生のみが残存したためだと考えられる。また、SiドープAlNバッファ層のSi濃度を2.0×10
19/cm
3以上とし、第1積層体の積層組数を4.5組として、さらに第2および第3積層体を超格子積層体220に設けて積層組数を6.5組としたときに、超格子積層体220の上に形成されるn型コンタクト層の表面には凹凸がなくなり、最上面での高さが揃っていた。これは、Siドープを多量とすることによって、面欠陥の発生源が増加して飽和し、その結果、同一面を発生起源とする面欠陥が成長方向に伸びる際に、ほぼ全ての隣り合う面欠陥同士が合体消滅したためであると本発明者らは考えている。
【0044】
ここで、既述のとおり、AlNからなるバッファ層へのSiドープは、バッファ層表面に凹凸を形成して、表面を荒らす作用があるために、表面平坦性に優れた半導体エピタキシャル基板を得るためには、従来避けられていた。しかしながら、上述のように、第2および第3積層体を設けることで、超格子積層体220の最上面には同一の高さの凹凸面のみが形成されることに本発明者らは着目した。AlNバッファ層216にあえてSiを多量にドープすることにより、高さの揃った凸面を増加させて飽和させることによって、積層組数が10.5組以下であるような場合であっても、超格子積層体220の最上面の平坦性を向上することを本発明者らは見出したのである。また、平坦性の向上と同時に、AlNバッファ層216にSiを多量にドープすることにより、欠陥が多く導入され、応力が低減し、その結果、反りが低減していると考えられる。なお、このように、超格子積層体220の最上面の平坦性が揃うのは、超格子積層体220として第1積層体のみを形成していたときには、転位がランダムに残っていたところ、第1積層体とは低Al含有層の厚みが異なる第2積層体および第3積層体の形成により、一定方向の転位のみ残るようになり、面欠陥の形成により歪みが緩和されたためであると本発明者らは考えている。
【0045】
このように、第1,第2および第3の厚みをそれぞれ有する低Al含有層221B〜223Bを含む超格子積層体220を設けることにより、より優れた表面平坦性およびより低減した反りを実現したIII族窒化物半導体エピタキシャル基板およびIII族窒化物半導体発光素子を得ることができ、好ましい。
【0046】
なお、本発明者らの検討によると、nが10以下の場合、超格子積層体220には、第2積層体222および第3積層体223の両方が含まれることが好ましい。これは、従来公知の積層組数(例えば、40.5組)よりも積層組数が相当数少ない場合(すなわち、nが10以下の場合)においては、低Al含有層221Bの第1の厚みよりも膜厚が厚い低Al含有層を2層以上設けることで、転位を一定方向のみとしやすくなると考えられるためである。
【0047】
ここで、上記好適実施形態において、低Al含有層223Bの第3の厚みは、低Al含有層222Bの第2の厚みよりも厚いことが、より好ましい。第2積層体とは異なる応力を発生させることにより、転位の方向を変化させ、転位の消滅作用がより期待でき、表面平坦性がより優れたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板10を得ることができる。
【0048】
また、高Al含有層221A〜223Aは、等しい厚みを有することで、応力緩和効果をさらに得ることができ、好ましい。
【0049】
また、結晶成長方向の平均組成が0<y<xであるAl
yGa
1−yNからなる低Al含有層221B〜223Bは、Al組成を結晶成長方向に沿って減少させる組成傾斜層とすることが好ましい。この組成傾斜層に対して、Al組成が結晶成長方向に一定である層を、「組成矩形層」と称することとする。低Al含有層221B〜223Bは、組成傾斜層および組成矩形層のいずれであっても、本発明の効果を得られるものである。しかしながら、以下の理由のために、低Al含有層221B〜223Bは組成傾斜層であることがより好ましい。
【0050】
既述のとおり、組成傾斜層は、AlGaN中のAl組成が結晶成長方向に連続又は不連続に減少するように組成を傾斜させた層である。結晶成長方向に減少するように組成傾斜層のAl組成を傾斜させることで、低Al含有層の熱膨張率が、組成傾斜層の基板212側の面では比較的高いAl組成となり基板の膨張率に近づく。一方、上記組成傾斜層の結晶成長方向側の面では、比較的低いAl組成となり、III族窒化物半導体エピタキシャル基板210上に素子形成層を形成した場合に、素子形成層の熱膨張率に近づくため、反り量を低減し、かつ、クラック発生を抑制することができる。
【0051】
組成傾斜層の組成としては、AlGaN中のAl組成の値が、少なくとも表面部分がAlNからなる基板212に近い側をy1、結晶成長方向側の面をy2とすると、基板212に近い側では好ましくは0.7≦y1≦xの範囲であり、より好ましくは0.9≦y1≦xの範囲である、また、結晶成長方向側の面では、好ましくは0≦y2<0.3の範囲であり、より好ましくは0≦y2<0.1の範囲である。yの値を上記範囲としてy1からy2に組成傾斜すれば、基板と、組成傾斜層との格子定数の差を低減する結果、素子形成層を形成した場合の結晶性を向上させることができるためである。
【0052】
なお、組成傾斜層のAl
yGa
1−yNのAl組成は、結晶成長方向に減少すれば、連続的でも不連続的でもよい。また、Al組成が減少する割合は、一定であっても、不規則であっても構わない。なお、y1からy2に連続的に組成を変化させた場合、平均組成y=(y1+y2)/2として表すことができる。
【0053】
高Al含有層は組成傾斜層、組成矩形層のいずれであっても良いが、Al組成が結晶成長方向に一定である組成矩形層の方が好ましい。また、高Al含有層221A〜223Aは、全てAlN層(すなわち、x=1)であることが好ましい。これにより、隣接する低Al含有層とのAl平均組成の差が最大となり、歪緩衝効果が最大となるためである。
【0054】
なお、SiドープAlNバッファ層114,214のSi濃度は、2.0×10
19/cm
3以上であれば、本発明の効果を得られものであることは既述のとおりである。しかしながら、この不純物濃度は8×10
19/cm
3未満であることがより好ましい。8×10
19/cm
3以上では、AlNバッファ層を起因とする転位が過剰となり、クラックが発生する場合が生ずるためである。
【0055】
本発明の一実施形態に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100は、例えば発光素子、レーザーダイオード、トランジスタなど、任意の半導体素子に用いることができる。
図4は、本発明に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100を用いて形成したIII族窒化物半導体発光素子150である。
【0056】
III族窒化物半導体発光素子150は、III族窒化物半導体エピタキシャル基板100上にn型クラッド層133と、活性層134と、p型クラッド層135とをこの順に有することを特徴とする。
【0057】
例えば、MOCVD法など既知の手法を用いてエピタキシャル成長させることにより、超格子積層体120の上に、さらに接続層131と、n型コンタクト層132と、n型クラッド層133と、活性層としての多重量子井戸層(MQW層)134と、p型クラッド層135と、p型コンタクト層136とを含む素子形成層130を順次形成する。この素子形成層130の形成後、例えばドライエッチング法によりn型コンタクト層132の一部を露出させ、この露出させたn型コンタクト層132およびp型コンタクト層136の上に、n側電極141およびp側電極142をそれぞれ配置することで、横型構造のIII族窒化物発光素子150を形成することができる。
【0058】
III族窒化物半導体発光素子150は、III族窒化物半導体発光素子150が優れた表面平坦性を有しているので、結晶性が高く、また、クラックの発生を抑制でき、かつ、ELスペクトルは正常となる。
【0059】
なお、本明細書において、高Al含有層および低Al含有層を構成する「AlGaN」は、他のIII族元素であるBおよび/またはInを合計1%以下含んでいてもよい。また、例えばSi,H,O,C,Mg,As,Pなどの微量の不純物を含んでいてもよく、部分的にMg不純物を意図して添加しても良い。なお、III族窒化物積層体を構成するAlNなども同様に他のIII族元素を合計1%以下含んでいてもよい。
【0060】
また、本明細書において、「一定」、「等しい」、「同じ」、「同一」などの表現は、厳密に数学的な意味での等しさを意味するものではなく、製造工程上不可避な誤差をはじめ、本発明の作用効果を奏する範囲で許容される誤差を含むものであることは勿論であり、この点は他の実施形態においても同様である。このような誤差としては、3%以内を「一定」、「等しい」、「同じ」、「同一」に含めることとする。
【0061】
(III族窒化物半導体エピタキシャル基板の製造方法)
本発明のIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100の製造方法は、少なくとも表面部分がAlNからなる基板112上にアンドープAlN層114を形成する工程と、該アンドープAlN層114上にAlNバッファ層116を形成する工程と、該AlNバッファ層116上に、超格子積層体120を形成する工程と、を有する。ここで、AlNバッファ層116を形成する工程では、2.0×10
19/cm
3以上のSi濃度となるようにSiドープし、かつ、AlNバッファ層116の厚みを4〜10nmとすることを特徴とする。
【0062】
また、本発明に従うIII族窒化物半導体発光素子150の製造方法は、このIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100上に、さらにn型クラッド層133と、活性層134と、p型クラッド層135とを順次形成する工程とを有する。
【0063】
さらに、超格子積層体120に替えて、既述の超格子積層体220を形成してもよい。超格子積層体220を形成する工程では、結晶成長方向の平均組成xが0.9<x≦1からなる高Al含有層(Al
xGa
1−xN)を積層し、さらに結晶成長方向の平均組成yが0<y<xからなる低Al含有層(Al
yGa
1−yN)と前記高Al含有層とをとを交互にn組(但し、nは4≦n≦10を満たす整数である)積層するにあたり、AlNバッファ層216側から数えて1番目から(n−2)番目までの前記低Al含有層の厚みを第1の厚みとし、(n−1)番目の前記低Al含有層の厚みを、前記第1の厚みよりも厚い第2の厚みとし、n番目の前記低Al含有層の厚みを、前記第2の厚み以上の第3の厚みとすることが好ましい。
【0064】
本発明における各層のエピタキシャル成長方法としては、MOCVD法、MBE法など既知の手法を用いることができる。AlGaNを形成する場合の原料ガスとしては、TMA(トリメチルアルミニウム)、TMG(トリメチルガリウム)、アンモニアを挙げることができ、膜中のAl組成の制御は、TMAとTMGとの混合比を各層の成長段階に応じて制御することにより行うことができる。
【0065】
すなわち、各層において、組成矩形層としてAl組成を一定とする場合には、
図5に示すように、TMAとTMGとの混合比を各層の成長段階に応じて経時変化させることで、Al組成を制御することができる。また、エピタキシャル成長時間を制御すれば、各層の膜厚を任意に制御することができる。
【0066】
また、組成傾斜層を形成する場合にも、TMGおよびTMAの混合比を、各層のエピタキシャル成長時間に応じて経時変化させることで、組成傾斜層を形成することができる。
図6を用いて、低Al含有層のAl組成を結晶成長方向に1から0.02に連続的に減少させるときの実施形態を説明する。
【0067】
まず、TMGガスを流さずTMAの割合を100%として、AlN層(高Al含有層)を形成する。その後、TMAガス流量を変化させずに、TMGガスを流し始め、TMGガスの流量を0sccmから、理論上、Al組成が0.02(Ga組成が0.98)となるTMG流量まで一定時間の間に流量を連続的に増加させることで、Al組成を結晶成長方向に1から0.02に連続的に減少するAlGaN組成傾斜層(低Al含有層)を形成する(Alの平均組成は0.51である)。ここで、「理論上、Al組成が0.02となるTMG流量」とは、使用する装置の結晶成長条件下において、所定のTMA流量およびTMG流量を流すことで、所定のAl組成となることが、実験的に予め確認される流量のことである。この際、SIMSによるAl組成の定量分析を可能とする十分な厚みの層を形成して、TMA流量およびTMG流量を確認すればよい。なお、組成傾斜層を形成するにあたってTMAガス流量は必ずしも一定である必要はなく、目的とするAl組成にあわせて変化させても構わない。これを繰り返して、第1積層体221として、高Al含有層と低Al含有層とが交互に積層された積層体(5層のAlN層および4層のAlGaN組成傾斜層)を形成する。ここで、低Al含有層の厚み(第1の厚み)は、エピタキシャル成長時間が等ければ、全て等しい。次に第2積層体222としてのAlGaN組成傾斜層およびAlN層の形成が行われる。第1積層体のときよりもTMG流量の時間当たりの流量増加率を減らし、これに対応してTMG流量の時間当たりの流量増加率を増加させながら、Al組成を0.02まで減少させることで、第1積層体よりも厚いAlGaN組成傾斜層(低Al含有層)を形成する。その後、TMG流量を0として、AlN層(高Al含有層)を形成する。例えば、第2積層体222の形成にあたり、TMG流量を増加させる間のエピタキシャル成長時間を第1積層体の2倍とした場合、第2積層体222における低Al含有層222Bの膜厚(第2の厚み)は、第1積層体221における低Al含有層221Bの膜厚(第1の厚み)の2倍となる。さらに、第3積層体223として、第2積層体のときよりもTMG流量の時間当たりの流量増加率をさらに減らし、これに対応してTMG流量の時間当たりの流量増加率を増加させながらAl組成を0.02まで減少させることで、第2積層体よりも厚いAlGaN組成傾斜層(低Al含有層)を形成する。その後、TMG流量を0として、AlN層(高Al含有層)を形成する。例えば、第3積層体223でのTMG流量を増加させる間のエピタキシャル成長時間を第1積層体221の3倍とした場合、第3積層体223における低Al含有層223Bの膜厚(第3の厚み)は、第1積層体221における低Al含有層21Bの膜厚(第1の厚み)の3倍となる。なお、
図5および
図6を用いて説明した、組成矩形層および組成傾斜層の形成にあたり、TMAおよびTMGに対するアンモニアのV/III比は適宜定めればよい。
【0068】
なお、エピタキシャル成長後のAl組成や膜厚の評価は、光学反射率法、TEM−EDS、フォトルミネッセンスなど既知の手法を用いることができる。なお、超格子構造の数nm〜数十nmの膜厚については、TEM測定結果による値を用いることとする。なお、TEMとSIMS分析はEAG(Evans Analytical Group)に依頼した。
【0069】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
(試行例1)
サファイア基板(厚さ:430μm)上にアンドープのAlN層(厚さ:600nm、XRC(; X-ray Rocking Curve)によるAlN(102)面の半値幅:242秒)を形成したAlNテンプレート基板を用意した。このAlNテンプレート基板上に、MOCVD法を用いて、圧力10kPa、温度1150℃にてTMA:11.5sccm、NH
3:575sccmを流して厚さ21.6nmのアンドープのAlN層を形成したのち、TMA:11.5sccm、NH
3:575sccm、SiH
4:50sccmを流して不純物濃度2.0×10
19/cm
3のSiがドープされた厚さ5.4nmのSiドープのAlNバッファ層を形成した。すなわち、AlNテンプレート基板上に、アンドープのAlN層と、SiドープされたAlNバッファ層が形成されている。すなわち、AlNテンプレート基板上の、アンドープのAlN層とSiドープされたAlNバッファ層の層厚の和は27nmであるうち、Siがドープされた厚さは5.4nmである。次に、SiドープされたAlNバッファ層上に、超格子積層体を構成する第1積層体、第2積層体および第3積層体を順次エピタキシャル成長させた。
【0071】
第1積層体では、高Al含有層(Al
xGa
1−xN)として膜厚8nmの組成一定のAlN層(平均組成x=1)を用いた。この高Al含有層(Al
xGa
1−xN)の形成にあたり、TMA:11.5sccm、NH
3:575sccmを300秒間流した。また、低Al含有層(Al
yGa
1−yN)として、膜厚1nm、平均組成y=0.51の組成傾斜層を用いた。この低Al含有層(Al
yGa
1−yN)の形成にあたり、TMA:11.5sccm、NH
3:575sccmを流しつつ、TMGの流量を10秒のエピタキシャル成長時間の間に、0sccmから45sccmまで一定割合で増加させた。低Al含有層は理論上、結晶成長方向に沿ってAl組成が1〜0.02まで連続的に減少していると考えられる。第1積層体では、AlNバッファ層の上に高Al含有層から形成し、その後、低Al含有層と高Al含有層とを交互に4組積層した。最初の高Al含有層を0.5組として数えて4.5組となる。第1積層体に続く第2積層体の形成にあたり、TMGの流量を、20秒のエピタキシャル成長時間の間に0sccmから45sccmまで一定割合で増加させた以外は第1積層体と同様にして、低Al含有層(膜厚2nm,平均組成y=0.51の組成傾斜層)および高Al含有層(膜厚8nm,平均組成x=1)を順次形成した。さらに、第2積層体に続く第3積層体として、TMGの流量を、30秒のエピタキシャル成長時間の間に0sccmから45sccmまで一定割合で増加させた以外は第1積層体と同様にして、低Al含有層(膜厚3nm,平均組成y=0.51の組成傾斜層)および高Al含有層(膜厚8nm,平均組成x=1)を順次形成した。すなわち、本試行例においては第1積層体が4.5組、第2積層体が1組、第3積層体が1組で超格子積層体の積層組数は計6.5組であり、n=6である。
【0072】
その後、超格子積層体上に、さらに接続層としてのアンドープのAlGaN層(Al含有率:0.7、厚さ:2400nm)およびn型コンタクト層としてのn型AlGaN層(Al含有率:0.6、厚さ:1200nm)を順次エピタキシャル成長させて、実施例1にかかるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を作製した。
【0073】
このIII族窒化物半導体エピタキシャル基板に対して、さらに、n型クラッド層としてのn型AlGaN層(Al含有率:61%、膜厚:1200nm、ドーパント:Si)、活性層(AlGaN系MQW層、膜厚:74nm、井戸層のAl含有率:41%)、p型クラッド層としてのp型AlGaN層(Al含有率:75%、膜厚:20nm、ドーパント:Mg)、p型GaNコンタクト層(膜厚:35nm、ドーパント:Mg)を順次エピタキシャル成長させて、試行例1のIII族窒化物エピタキシャル基板を用いたフリップチップ型構造のIII族窒化物半導体発光素子を作製した。実施例1にかかるIII族窒化物半導体発光素子を、かように作製した。なお、このIII族窒化物半導体発光素子を作製するにあたり、ドライエッチング法によりn型コンタクト層の一部を露出させ、この露出させたn型コンタクト層およびp型コンタクト層の上に、n側電極およびp側電極をそれぞれ配置している。
【0074】
なお、上記各層の成長方法としては、原料としてTMA(トリメチルアルミニウム)、TMG(トリメチルガリウム)、アンモニアを用いたMOCVD法を用いた。キャリアガスとしては、窒素・水素を用いた。また、SiドープにはSiH
4(モノシラン)を用いた。各層の成長条件は、いずれも圧力10kPa、温度1150℃とした。また、TMAとTMGとの供給比率を、
図5および
図6を用いて既述したように制御することで、各層ごとのAl組成比を制御した。
【0075】
以下の試行例2〜7では、AlNテンプレート基板上の、アンドープのAlN層とSiドープされたAlNバッファ層の層厚の和は27nmであり、この層厚の和を一定としつつ、SiドープされるAlN層の厚さおよびSi濃度を変化させる試験を行うものである。
【0076】
(試行例2)
SiドープAlNバッファ層のSi濃度を4.0×10
19/cm
3に変えた以外は、試行例1と同様の方法により、実施例2にかかるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板およびIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0077】
(試行例3)
SiドープAlNバッファ層のSi濃度を1.2×10
19/cm
3に変えた以外は、試行例1と同様の方法により、比較例1にかかるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板およびIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0078】
(試行例4)
アンドープのAlN層を18.9nmとし、SiドープAlNバッファ層の膜厚を8.1nmに変えた以外は、試行例2と同様の方法により、実施例3にかかるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板およびIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0079】
(試行例5)
アンドープのAlN層を14.3nmとし、SiドープAlNバッファ層の膜厚を2.7nmに変えた以外は、試行例2と同様の方法により、比較例2にかかるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板およびIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0080】
(試行例6)
アンドープのAlN層を形成せず、SiドープAlNバッファ層の膜厚を27nmに変えた以外は、試行例1と同様の方法により、比較例3にかかるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を作製した。
【0081】
(試行例7)
アンドープのAlN層を形成せず、SiドープAlNバッファ層の膜厚を27nmに変えた以外は、試行例3と同様の方法により、比較例4にかかるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板およびIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0082】
以上の試行例1〜7にかかるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板の、基板形成条件を表1にまとめて表記した。
【0083】
【表1】
【0084】
(評価1:表面平坦性)
各試行例のIII族窒化物半導体エピタキシャル基板について、金属顕微鏡装置(Nikon社製)を用い、n型コンタクト層表面の表面写真を取得し、表面凹凸の有無を判定した。表面凹凸がなければ、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の表面平坦性が優れていることを意味する。結果を表1に示す。なお、表1中、表面凹凸があったものを×とし、表面凹凸がなかったものを○と評価している。
【0085】
(評価2:基板の反りの測定)
各試行例のIII族窒化物半導体エピタキシャル基板について、光学干渉方式による反り測定装置(Nidek社製、FT−900)を用いて、超格子積層体上の、中間層およびn型コンタクト層の形成後の基板の反り量をSEMI規格に準じて測定した。結果を表1に示す。本発明における「反り量」は、SEMI M1−0302に準じて測定したものを意味するものとする。すなわち、非強制状態で測定を行い、反り量は非吸着での全測定点データの最大値と最小値との差の値である。
図7に示すように、基準面を最小二乗法により求められた仮想平面とすると、反り量(SORI)は最大値Aと最小値Bの絶対値の和で示される。なお、従来公知のIII族窒化物半導体エピタキシャル基板は140μm程度である。そこで、反り量が100μm未満の試行例を○と評価し、100μm以上である試行例を×と評価した。
【0086】
(評価3:クラック)
各試行例のIII族窒化物半導体発光素子について、金属顕微鏡(Nikon社製)を用い、素子表面の表面写真を取得し、表面凹凸の有無に加えて、クラック発生の有無を判定した。結果を表1に示す。なお、表1中、クラックの発生について、下記のとおり評価した。
◎:クラックの発生が表面写真では確認できない。
○:クラックの発生が表面写真では一部確認できるが、実用上許容できる。
×:クラックが明確に発生しており、許容できない。
ここで、基板外周から5mm以内にあるクラック、および、基板外周から5mmより内側にあるクラックであって直線の本数が5本以内である場合に、実用上許容できるクラックと判定する。
【0087】
クラック発生についてより詳細に説明するために、代表例として、試行例1(実施例1)および試行例6(比較例3)にかかるIII族窒化物半導体発光素子の、逆格子空間マッピングを測定した結果を
図8および
図9にそれぞれ示す。なお、逆格子空間マッピング測定は次のように行った。10°の開口角と、0.006°の角度分解能を持った1次元検出器を用い、ωステージを指定角度に動かし、1次元検出器で2θのピーク強度分布を10°幅で測定する。次に、ωステージを0.1°動かして、1次元検出器で、再び2θのピーク強度分布を10°幅で測定する。これを繰り返すことでマッピングデータを得た。なお、ωの測定角度範囲は、31.5°〜35.7°を0.01°間隔で行い、2θの測定角度範囲は、104.5°〜111.5°で行った。ここで、
図8および
図9において、「1」の目印をつけた部分がAlNのピークを示し、「2」の目印をつけた部分がアンドープのAlGaN層(接続層)のピークを示し、「3」の目印をつけた部分がn型AlGaN層(n型クラッド層)のピークを示す。なお、GaN組成のピークは「9」の目印をつけた部位に現れる。なお、
図8,
図9には、AlNのa軸にコヒーレントなラインおよび、AlNとGaNとのピークに相当する部位を直線で結んだ理想的なAlGaNのラインを加えている。
試行例1(実施例1)にかかるIII族窒化物半導体発光素子では、
図8に示されるように、格子定数が回復して、n型AlGaN層(「3」の部位)のピークがAlGaNのラインに近づき、引っ張り歪み量が低減する結果、n型AlGaN層(n型クラッド層)でのクラック発生が抑制されると考えられる。一方、
図9からわかるように、試行例6(比較例3)にかかるIII族窒化物半導体発光素子では、n型AlGaN層(「3」の部位)のピークがAlGaNのラインから大きく外れる。このことは、a軸が伸び、c軸が縮むために、引っ張り歪み量が増加したからだと考えられ、n型クラッド層でのクラック発生の原因となる。
【0088】
(評価4:ELスペクトル形状)
各試行例のIII族窒化物半導体発光素子について、結晶成長面をダイヤペンで罫書き、n型クラッド層(n型AlGaN層)を露出させた点と、この露出させた点から1.5mm離れた点とに、ドット状のインジウムを物理的に押圧して2点を成形した。そして、この2点をそれぞれn型およびp型電極とする簡易的な窒化物半導体素子を作製した。この発光素子の電極にプローバーを接触させ、直流電流10mAを通電した後の光出力を基板の裏面より射出させ、光ファイバを通じてマルチ・チャンネル型分光器へ導光し、ELスペクトルを測定した。結果を表1に示す。表1中、ELスペクトルにおける発光ピークが、活性層(発光層)の組成から想定されるピーク波長に位置するピーク(凸部)が1つであり、他の波長にピークがあったとしても発光強度が弱く、無視できるほどであったものを「シングル」と表記する。また、発光ピークのスペクトルにおいて、活性層(発光層)の組成から想定されるピーク波長に位置するピークと、そのピーク波長から10nm以上離れた波長に位置にし、かつ発光強度が無視できない程度(例えば想定されるピーク波長の強度の1/3以上)のピークとの2つが現れたものを「ダブル」と表記する。ここで、試行例1(実施例1),試行例5(比較例2)にかかるIII族窒化物半導体発光素子のELスペクトルを、代表例として
図10,
図11にそれぞれ示す。試行例1(実施例1)ではELスペクトルがシングルであり、
図10に示すように、活性層の組成から想定されるピーク波長285nmにピークが1つ現れた。一方、試行例5(比較例2)ではELスペクトルがダブルであり、
図11に示すように、波長285nmのピークの他に、長波長側に波長339nmのピークが現れた。なお、発光強度については、
図10および
図11から明らかなように、シングルの方がダブルの場合よりも強度が優れる。
【0089】
本発明条件を満足する試行例1,2,4(すなわち、実施例1〜3)にかかるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板はいずれも、優れた表面平坦性を有していた。また、III族窒化物半導体発光素子のクラックの発生を抑制でき、かつ、ELスペクトル形状もシングルを示していた。さらに、試行例1,2,4にかかるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板は、従来公知のIII族窒化物半導体エピタキシャル基板に比べて、低減した反り量を示していた。
【0090】
一方、本発明条件を少なくとも1つ以上満足しない試行例3,5〜7(すなわち、比較例1〜4)にかかるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板およびIII族窒化物半導体発光素子は、表面平坦性、反り、クラックまたはELスペクトルのうち、少なくとも1つ以上の条件を満足することができなかった。
【0091】
これらの結果から、以下のことがわかった。
SiドープAlN層のSi濃度のみが異なる試行例1〜3を比較すると、Si濃度が2.0×10
19/cm
3未満であると、ELスペクトルのピークがダブルになっていた。また、試行例1〜3とは厚みは異なるが、やはりSiドープAlN層のSi濃度のみが異なる試行例6,7を比較しても、Si濃度が2.0×10
19/cm
3未満であると、ELスペクトルのピークがダブルになっていた。したがって、Si濃度が2.0×10
19/cm
3未満であると、ELスペクトルのピークがダブルになってしまう傾向にあることがわかる。
【0092】
また、SiドープAlN層の厚みのみが異なる試行例2,4,5を比較すると、優れた表面平坦性を実現するためには、SiドープAlN層の厚みは4nm以上であることが必要であることがわかる。さらに、SiドープAlN層の厚みのみが異なる試行例1,6を比較すると、クラックの発生を抑制するためには、SiドープAlN層の厚みは4nm以上10nm以下であることが必要であることがわかる。