特許第5698750号(P5698750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

特許5698750ポリビニルアセタール樹脂、そのスラリー組成物、セラミックグリーンシート及び積層セラミックコンデンサ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698750
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】ポリビニルアセタール樹脂、そのスラリー組成物、セラミックグリーンシート及び積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   C08F 16/38 20060101AFI20150319BHJP
   C08F 8/28 20060101ALI20150319BHJP
   C08L 29/14 20060101ALI20150319BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20150319BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20150319BHJP
   H01G 4/232 20060101ALI20150319BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   C08F16/38
   C08F8/28
   C08L29/14
   C08K3/00
   H01G4/12 358
   H01G4/12 361
   H01G4/30 301C
   H01G4/30 301E
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-529589(P2012-529589)
(86)(22)【出願日】2011年8月12日
(86)【国際出願番号】JP2011068459
(87)【国際公開番号】WO2012023517
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2014年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-183815(P2010-183815)
(32)【優先日】2010年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001782
【氏名又は名称】特許業務法人ライトハウス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島住 夕陽
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−108305(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/101465(WO,A1)
【文献】 特開平08−328242(JP,A)
【文献】 特開2006−058430(JP,A)
【文献】 特開2001−089245(JP,A)
【文献】 特開2006−089354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 16/38
C08L 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度が200以上6000以下であり、ビニルエステル単位の含有率が0.01〜30モル%であり、アセタール化度が55〜83モル%であり、分子中に化学式(1):
【化1】
で表される構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂。
【請求項2】
重合度が1500を超え、4500以下である請求項1に記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項3】
3−メチルブタナールを含むアルデヒドを用いてポリビニルアルコール樹脂をアセタール化することにより得られる請求項1又は2記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項4】
分子中に、さらに、化学式(2):
【化2】
及び/又は、化学式(3):
【化3】
で表される構造単位を有する請求項1〜3のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項5】
化学式(1)で表される構造単位が、全てのアセタール化された構造単位の総モル量に対して、30モル%以上含まれる請求項1〜4のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂、セラミック粉末及び有機溶剤を含有するスラリー組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のスラリー組成物を用いて得られるセラミックグリーンシート。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリビニルアセタール樹脂、及び導電性粉末を含有する導電ペースト。
【請求項9】
請求項7に記載のセラミックグリーンシートを用いて得られる積層セラミックコンデンサ。
【請求項10】
請求項8に記載の導電ペーストを用いて得られる積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートのバインダーとして好適に用いられるポリビニルアセタール樹脂、並びに当該ポリビニルアセタール樹脂を用いたスラリー組成物、セラミックグリーンシート、導電ペースト及び積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサを製造する場合には、一般に次のような製造方法が採用される。まず、セラミック粉末を分散させた有機溶剤中に、ポリビニルブチラール樹脂等のバインダー樹脂と可塑剤とを添加し、ボールミル等により均一に混合することでスラリー組成物を調製する。調製したスラリー組成物をポリエチレンテレフタレートフィルム等の剥離性の支持体上にて流延成形し、加熱等により溶剤等を留去させた後、支持体から剥離することでセラミックグリーンシートが得られる。
【0003】
次に、セラミックグリーンシートの表面に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗布したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着等により積層体とした後、所定形状に切断する。続いて、積層体中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する工程を経ることにより、積層セラミックコンデンサが得られる。従って、上記セラミックグリーンシートは、スラリー組成物の調製作業の良好な作業性及びこれらの加工の諸工程に耐え得る強度の更なる向上が要求されている。
【0004】
近年、電子機器の多機能化及び小型化に伴い、積層セラミックコンデンサには大容量化及び小型化が求められている。これに対応して、セラミックグリーンシートに用いられるセラミック粉末としては、0.5μm以下の微細な粒子径のものが用いられ、上記スラリー組成物が5μm以下程度の薄膜状となるように、剥離性の支持体上に塗工する試みがなされている。
【0005】
しかしながら、微細な粒子径のセラミック粉末を用いると、充填密度や表面積が増加するため、使用するバインダー樹脂量が増加し、これに伴って、スラリー組成物の粘度も増大することから、塗工が困難となったり、セラミック粉末自体の分散不良が発生したりすることがあった。一方、セラミックグリーンシート作製時の諸工程においては、引張りや曲げ等の応力が負荷されることから、このような応力に耐え得るように、バインダー樹脂として重合度の高いものが好適に用いられている。
【0006】
特許文献1(特開2006−089354号公報)では、重合度が2400を超え4500以下、ビニルエステル単位の含有率が1〜20モル%、アセタール化度が55〜80モル%であるポリビニルアセタール樹脂、セラミック粉末及び有機溶剤を含有する、スラリー組成物から得られるセラミックグリーンシートが、機械強度に優れることが開示されている。
【0007】
しかしながら、最近ではセラミックグリーンシートの更なる薄層化が求められており、上記セラミック粉末を含有するスラリー組成物によって、超薄層のセラミックグリーンシートを作製した場合、その厚みが2μm以下になると、シートアタック現象が起こりやすいという問題が生じた。
【0008】
ここで、シートアタック現象とは、得られたセラミックグリーンシート上に内部電極層となる導電ペーストを印刷した際に、導電ペースト中の有機溶剤により、セラミックグリーンシートに含有されているバインダー樹脂が溶解して、セラミックグリーンシートに破れなどの欠陥が生じる現象であり、このシートアタック現象が発生すると、積層セラミックコンデンサの電気性能や信頼性が低下し、歩留まりが著しく低下してしまう。
【0009】
特許文献2(特開2008−133371号公報)では、けん化度が80モル%以上で且つ数平均重合度が1000〜4000のポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であって、アセタール化度が60〜75モル%で、且つ、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによりアセタール化された部分との比(ブチルアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数/アセトアルデヒドによりアセタール化されて消失した水酸基のモル数)が0.1〜2であることを特徴とするポリビニルアセタール樹脂が開示されている。
【0010】
しかしながら、積層セラミックコンデンサの小型化には限界があり、チップを大容量化、もしくは容量を保って小型化するためには、セラミックグリーンシートの薄層化に加え、多層化も求められている。このような多層化及び小型化に伴い、セラミックグリーンシートの保管時における吸湿性が課題となっている。すなわち、セラミックグリーンシートの保管中にバインダー樹脂が吸湿することにより、寸法変化を起こしたり、薄膜を多層に積層するため、1層あたりの水分量が多いと、脱脂時に水分が一気に蒸発しデラミネーションと呼ばれる層間剥離を生じる場合がある。そのため、セラミックグリーンシート保管時の調湿や、脱脂条件の調整が非常に重要となる。
【0011】
例えば、アセトアルデヒドによる変性ポリビニルアセタールはガラス転移温度が高くなるため機械的強度が向上し得るが、アセトアルデヒドの疎水性が低いためブチルアルデヒドとの混合アセタール化物においても吸湿性が高く、上記課題を満足するものではなかった。また、ブチルアルデヒドのみによるアセタール化物においても、十分な低吸湿性を満足するものではなかった。
【0012】
このように特許文献1及び特許文献2ではセラミックグリーンシート保管時の寸法変化が少なく、脱脂時にデラミネーションが生じにくいという性質を兼ね備えたポリビニルアセタール樹脂は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−089354号公報
【特許文献2】特開2008−133371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記現状に鑑み、セラミックグリーンシートのバインダー樹脂として用いた場合に、十分な機械的強度を有し、保管時の寸法変化が少なく、さらに脱脂時にデラミネーションが生じにくいセラミックグリーンシートを得ることが可能なポリビニルアセタール樹脂を提供することを目的とする。また、当該ポリビニルアセタール樹脂を用いたスラリー組成物、セラミックグリーンシート、導電ペースト及び積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意検討の結果、重合度が200以上6000以下であり、ビニルエステル単位の含有率が0.01〜30モル%であり、アセタール化度が55〜83モル%であり、分子中に化学式(1)で表される構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂が、ガラス転移温度が高く且つ低吸水性を示すことを突き止めた。そして、特にセラミックグリーンシートに用いられるスラリー組成物のバインダー樹脂として、このポリビニルアセタール樹脂を用いた場合、厚さを薄くしたセラミックグリーンシートにおいても、十分な機械的強度を有し、保管時の寸法変化が少なく、さらに脱脂時にデラミネーションが生じにくいことを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
【化1】
【0017】
すなわち、本発明は、重合度が200以上6000以下であり、ビニルエステル単位の含有率が0.01〜30モル%であり、アセタール化度が55〜83モル%であり、分子中に化学式(1)で表される構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂に関する。
【0018】
【化2】
【0019】
ポリビニルアセタール樹脂の重合度は1500を超え、4500以下であることが好ましい。
【0020】
ポリビニルアセタール樹脂は、3−メチルブタナールを含むアルデヒドを用いてポリビニルアルコール樹脂をアセタール化することにより得られることが好ましい。
【0021】
ポリビニルアセタール樹脂は、分子中に、さらに、化学式(2)及び/又は化学式(3)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0022】
【化3】
【0023】
【化4】
【0024】
前記ポリビニルアセタール樹脂中において、化学式(1)で表される構造単位は、全てのアセタール化された構造単位の総モル量に対して、30モル%以上含まれることが好ましい。
【0025】
本発明は、前記ポリビニルアセタール樹脂、セラミック粉末及び有機溶剤を含有するスラリー組成物に関する。
【0026】
本発明は、前記スラリー組成物を用いて得られるセラミックグリーンシートに関する。
【0027】
本発明は、前記ポリビニルアセタール樹脂及び導電性粉末を含有する導電ペーストに関する。
【0028】
本発明は、前記セラミックグリーンシートを用いて得られる積層セラミックコンデンサに関する。
【0029】
本発明は、前記導電ペーストを用いて得られる積層セラミックコンデンサに関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、セラミックグリーンシートのバインダー樹脂として用いた場合に、十分な機械的強度を有し、保管時の寸法変化が少なく、さらに脱脂時にデラミネーションが生じにくいセラミックグリーンシートを得ることが可能なポリビニルアセタール樹脂が提供される。さらには、本発明のポリビニルアセタール樹脂を、内部電極となる導電ペーストのバインダー樹脂として使用することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明を詳述する。
【0032】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の重合度は200以上6000以下である。ポリビニルアセタール樹脂の重合度が200未満であると、薄膜セラミックグリーンシートを作製する場合に、機械的強度が不十分となり、一方、重合度が6000を超えると、有機溶剤に十分に溶解しなかったり、溶液粘度が高くなりすぎて、塗工性や分散性が低下したりする。ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、好ましくは800以上であり、より好ましくは1000以上であり、さらに好ましくは1500を超え、特に好ましくは1700以上であり、最も好ましくは2000を超える。また、ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、好ましくは4500以下であり、より好ましくは3500以下である。
【0033】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、例えば、重合度が200以上6000以下のポリビニルアルコール樹脂を、少なくとも3−メチルブタナールを含むアルデヒドを用いてアセタール化することにより製造することができる。上記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、好ましくは800以上であり、より好ましくは1000以上であり、さらに好ましくは1500を超え、特に好ましくは1700以上である。また、上記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、好ましくは4500以下であり、より好ましくは3500以下である。
【0034】
なお、上記重合度はポリビニルアセタール樹脂の製造に用いられるポリビニルアルコール樹脂の粘度平均重合度、及びポリビニルアセタール樹脂の粘度平均重合度の双方から求められる。つまり、アセタール化により重合度が変化することはないため、ポリビニルアルコール樹脂と、そのポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂の重合度は同じである。ここで、ポリビニルアルコール樹脂の粘度平均重合度は、JIS K6726:1994年に基づき求められる平均重合度をいう。また、ポリビニルアルコール樹脂として2種以上のポリビニルアルコール樹脂を混合して用いる場合は、混合後のポリビニルアルコール樹脂全体の見掛け上の粘度平均重合度をいう。一方、ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、JIS K6728:1977年に記載の方法に基づいて測定した粘度平均重合度をいう。ここでも、ポリビニルアセタール樹脂が2種以上のポリビニルアセタール樹脂の混合物である場合は、混合後のポリビニルアセタール樹脂全体の見掛け上の粘度平均重合度をいう。
【0035】
上記ポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル単位の含有率の下限は0.01モル%、上限は30モル%である。ポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル単位の含有率が0.01モル%未満であると、ポリビニルアセタール樹脂中の水酸基の分子内及び分子間の水素結合が増加してスラリー組成物の粘度が高くなり過ぎ、また、導電ペーストに用いられている有機溶剤への溶解性が高くなり過ぎて、シートアタック現象を生じる。一方、ポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル単位の含有率が30モル%を超えると、ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度が低下し、柔軟性が強くなり過ぎるため、セラミックグリーンシートにおいてハンドリング性、機械的強度及び保管時の寸法安定性が低下する。上記ビニルエステル単位の含有率の好ましい下限は0.5モル%であり、好ましい上限は23モル%、より好ましい上限は20モル%である。
【0036】
ビニルエステル単位の含有率が0.01〜30モル%のポリビニルアセタール樹脂は、例えば、ビニルエステル単位の含有率が0.01〜30モル%であるポリビニルアルコール樹脂、代表的には、けん化度が70〜99.99モル%であるポリビニルアルコール樹脂をアセタール化することにより得ることができる。ポリビニルアルコール樹脂のけん化度の好ましい下限は77モル%、より好ましい下限は80モル%であり、好ましい上限は99.5モル%である。ここで、本明細書におけるビニルエステル単位の含有率とは、ビニルエステル単位、ビニルアルコール単位及びアセタール化されたビニルアルコール単位のモル量の合計値に対する、ビニルエステル単位のモル量の含有割合を意味する。
【0037】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の下限は55モル%、上限は83モル%である。ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が55モル%未満であると、ポリビニルアセタール樹脂の親水性が高まって有機溶剤に溶けにくくなり、さらには、セラミックグリーンシートの保管時に吸水による寸法変化が起こったり、脱脂時にデラミネーションが生じる。一方、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が83モル%を超えると、残存水酸基が少なくなることでポリビニルアセタール樹脂の強靭性が損なわれるだけでなく、生産性も低下する。従って、上記アセタール化度の好ましい下限は60モル%、より好ましい下限は65モル%であり、好ましい上限は80モル%である。ここで、本明細書におけるアセタール化度は、アセタール化された構造単位ではなく、アセタール化されたビニルアルコール単位のモル量に基づいて算出するものとする。すなわち、アセタール化度は、ビニルエステル単位、ビニルアルコール単位及びアセタール化されたビニルアルコール単位のモル量の合計値に対する、アセタール化されたビニルアルコール単位のモル量の含有割合を意味する。
【0038】
本発明のポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度を55〜83モル%に調整する方法としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂に対するアルデヒドの添加量やアルデヒドと酸触媒を添加した後の反応時間等を適宜調整する方法が挙げられる。例えば、ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対し、30〜150質量部のアルデヒドを添加することが好ましい。
【0039】
なお、上記ポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル単位の含有率、ビニルアルコール単位の含有率及びアセタール化度は、ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d(ジメチルスルホキシド)に溶解させて、H−NMR又は13C−NMRスペクトルを測定し、算出することができる。
【0040】
本発明のポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂に後述のアルデヒドを反応(アセタール化)させてなるものを用いることができる。このようなポリビニルアルコール樹脂は、従来公知の手法、すなわちビニルエステル系単量体を重合し、得られた重合体をけん化することによって得ることができる。ビニルエステル系単量体を重合する方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法など、従来公知の方法を採用することができる。重合開始剤としては、重合方法に応じて、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などが適宜選ばれる。けん化反応は、従来公知のアルカリ触媒又は酸触媒を用いる加アルコール分解、加水分解などが適用でき、この中でもメタノールを溶剤とし苛性ソーダ(NaOH)触媒を用いるけん化反応が簡便であり最も好ましい。
【0041】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられるが、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
【0042】
また、前記ビニルエステル系単量体を重合する場合、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体と共重合させることもできる。したがって、本発明におけるポリビニルアルコール樹脂は、ビニルアルコール単位と他の単量体単位で構成される重合体も含む概念である。他の単量体の例としては、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレンなどのα−オレフィン;アクリル酸及びその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその酸塩若しくは4級塩、N−メチロールアクリルアミド及びその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその酸塩若しくは4級塩、N−メチロールメタクリルアミド又はその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸及びその塩、エステル若しくは酸無水物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。これらの単量体は通常ビニルエステル系単量体に対して20モル%以下、より好ましくは10モル%未満の割合で用いられる。
【0043】
アセタール化に用いる酸触媒としては特に限定されず、有機酸及び無機酸のいずれでも使用可能であり、例えば、酢酸、p−トルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。これらの中でも塩酸、硫酸、硝酸が好ましく用いられ、とりわけ塩酸、硝酸が好ましく用いられる。
【0044】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は次のような方法によって得ることができる。まず、3〜15質量%濃度のポリビニルアルコール樹脂の水溶液を、80〜100℃の温度範囲に調整し、その温度を10〜60分かけて徐々に冷却する。温度が−10〜40℃まで低下したところで、アルデヒド及び酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら、10〜300分間アセタール化反応を行う。その後、反応液を30〜200分かけて、15〜80℃の温度まで昇温し、その温度を0〜360分間保持する熟成工程を含むことが好ましい。次に、反応液を、好適には室温まで冷却し、水洗した後、アルカリなどの中和剤を添加し、洗浄、乾燥することにより、目的とするポリビニルアセタール樹脂が得られる。
【0045】
本発明のポリビニルアセタール樹脂においては、上記化学式(1)で表される構造単位を有することが重要である。このようなポリビニルアセタール樹脂を得る方法として、例えば、ポリビニルアルコール樹脂に対し、3−メチルブタナールを含むアルデヒドを用いてアセタール化する方法が挙げられる。このように、3−メチルブタナールをアセタール化に用いた場合、分子中の炭素原子数が2〜6の範囲内であるため、ポリビニルアセタール樹脂の生産性にも優れ、さらに、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール構造単位中の2つの酸素原子と結合した炭素原子に、さらにイソプロピル基が結合する構造となるため、特性のバランスも良く、優れた耐湿熱性を有する塗膜が得られる。
【0046】
また、ポリビニルアルコール樹脂のアセタール化に用いるアルデヒドとして、本発明の主旨を損なわない範囲で、以下のアルデヒドを併用してもよい。すなわち、アルキル基又はアリール基などを置換基として有するアルデヒドとして、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、ピバルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド、ドデシルアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド及びそのアルキルアセタール、シクロペンタンアルデヒド、メチルシクロペンタンアルデヒド、ジメチルシクロペンタンアルデヒド、シクロヘキサンアルデヒド、メチルシクロヘキサンアルデヒド、ジメチルシクロヘキサンアルデヒド、シクロヘキサンアセトアルデヒドなどの脂環式アルデヒド及びそのアルキルアセタール、シクロペンテンアルデヒド、シクロヘキセンアルデヒドなどの環式不飽和アルデヒド及びそのアルキルアセタール、ベンズアルデヒド、メチルベンズアルデヒド、ジメチルベンズアルデヒド、メトキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピルアルデヒド、クミンアルデヒド、ナフチルアルデヒド、アントラアルデヒド、シンナムアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、7−オクテン−1−アールなどの芳香族あるいは不飽和結合含有アルデヒド及びそのアルキルアセタール、フルフラール、メチルフルフラールなどの複素環アルデヒド及びそのアルキルアセタールなどがある。
【0047】
また、本発明においてポリビニルアルコール樹脂をアセタール化するのに併用することが可能な、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基を官能基として有するアルデヒドとして、ヒドロキシアセトアルデヒド、ヒドロキシプロピオンアルデヒド、ヒドロキシブチルアルデヒド、ヒドロキシペンチルアルデヒド、サリチルアルデヒド、ジヒドロキシベンズアルデヒドなどの水酸基含有アルデヒド及びそのアルキルアセタール、グリオキシル酸及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、2−ホルミル酢酸及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、3−ホルミルプロピオン酸及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、5−ホルミルペンタン酸及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、4−ホルミルフェノキシ酢酸及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、2−カルボキシベンズアルデヒド及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、4−カルボキシベンズアルデヒド及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、2,4−ジカルボキシベンズアルデヒド及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、ベンズアルデヒド−2−スルホン酸及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、ベンズアルデヒド−2,4−ジスルホン酸及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、4−ホルミルフェノキシスルホン酸及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、3−ホルミル−1−プロパンスルホン酸及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、7−ホルミル−1−ヘプタンスルホン酸及びその金属塩あるいはアンモニウム塩、4−ホルミルフェノキシホスホン酸及びその金属塩あるいはアンモニウム塩などの酸含有アルデヒド及びそのアルキルアセタールなどがある。
【0048】
さらに、ポリビニルアルコール樹脂をアセタール化するのに併用することが可能な、アミノ基、シアノ基、ニトロ基又は4級アンモニウム塩を官能基として有するアルデヒドとして、アミノアセトアルデヒド、ジメチルアミノアセトアルデヒド、ジエチルアミノアセトアルデヒド、アミノプロピオンアルデヒド、ジメチルアミノプロピオンアルデヒド、アミノブチルアルデヒド、アミノペンチルアルデヒド、アミノベンズアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、エチルメチルアミノベンズアルデヒド、ジエチルアミノベンズアルデヒド、ピロリジルアセトアルデヒド、ピペリジルアセトアルデヒド、ピリジルアセトアルデヒド、シアノアセトアルデヒド、α−シアノプロピオンアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、トリメチル−p−ホルミルフェニルアンモニウムアイオダイン、トリエチル−p−ホルミルフェニルアンモニウムアイオダイン、トリメチル−2−ホルミルエチルアンモニウムアイオダイン及びそのアルキルアセタールなどがある。
【0049】
ポリビニルアルコール樹脂をアセタール化するのに併用することが可能な、ハロゲンを官能基として有するアルデヒドとして、クロロアセトアルデヒド、ブロモアセトアルデヒド、フルオロアセトアルデヒド、クロロプロピオンアルデヒド、ブロモプロピオンアルデヒド、フルオロプロピオンアルデヒド、クロロブチルアルデヒド、ブロモブチルアルデヒド、フルオロブチルアルデヒド、クロロペンチルアルデヒド、ブロモペンチルアルデヒド、フルオロペンチルアルデヒド、クロロベンズアルデヒド、ジクロロベンズアルデヒド、トリクロロベンズアルデヒド、ブロモベンズアルデヒド、ジブロモベンズアルデヒド、トリブロモベンズアルデヒド、フルオロベンズアルデヒド、ジフルオロベンズアルデヒド、トリフルオロベンズアルデヒド、トリクロロメチルベンズアルデヒド、トリブロモメチルベンズアルデヒド、トリフルオロメチルベンズアルデヒド及びそのアルキルアセタールなどがある。例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等を併用してもよい。
【0050】
これらの中でも、3−メチルブタナール以外のアルデヒドを併用してポリビニルアルコール樹脂のアセタール化を行う場合は、得られるポリビニルアセタール樹脂の機械的強度が優れる点でアセトアルデヒドが好ましく、低吸湿性に優れる点でブチルアルデヒドが好ましい。また、3−メチルブタナール、アセトアルデヒド及びブチルアルデヒドのように3種のアルデヒドを併用することも可能である。アセトアルデヒドを用いてアセタール化することで、上記化学式(2)で表される構造単位がポリビニルアセタール樹脂に導入され、ブチルアルデヒドを用いてアセタール化することで、上記化学式(3)で表される構造単位がポリビニルアセタール樹脂に導入される。
【0051】
ブチルアルデヒド及び/又はアセトアルデヒドと3−メチルブタナールとを併用する場合のように、得られるポリビニルアセタール樹脂がアセタール化された構造単位として、上記化学式(1)で表される構造単位以外の構造単位を有する場合には、3−メチルブタナールによりアセタール化された構造単位に相当する上記化学式(1)で表される構造単位の比率が、全てのアセタール化された構造単位の総モル量に対して30モル%以上であることが好ましい。具体的には、例えば、ポリビニルアセタール樹脂がアセタール化された構造単位として化学式(4):
【0052】
【化5】
【0053】
(化学式(4)中、Rは水素原子又は任意の炭素数を有する炭化水素基(例えば、メチル基又はプロピル基)であり、炭化水素基中の水素は任意の原子又は任意の官能基で置換されていてもよい)で表される構造単位のみを含む場合、当該化学式(4)で表される構造単位(全てのアセタール化された構造単位)の総モル量に対して、ポリビニルアセタール樹脂中の化学式(1)で表される構造単位が、30モル%以上であることが好ましい。
【0054】
ポリビニルアセタール樹脂中の全てのアセタール化された構造単位の総モル量に対する、3−メチルブタナールによりアセタール化された構造単位に相当する上記化学式(1)で表される構造単位の比率が30モル%より低くなると、ポリビニルアセタール樹脂の吸湿性が高くなり、セラミックグリーンシートにおける保管時の寸法変化及び脱脂時のデラミネ−ションが生じやすくなる。3−メチルブタナールによりアセタール化された構造単位に相当する上記化学式(1)で表される構造単位の比率は、好ましくは40モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上である。上記比率は以下の計算式より求められる。
【0055】
【数1】
【0056】
上記ポリビニルアセタール樹脂に使用されるアルデヒドはモノアルデヒド(アルデヒド基が一分子内に1つ)が好ましい。2つ以上のアルデヒド基を有する化合物でアセタール化した場合、架橋部位と未架橋部位の応力緩和力が異なるため、乾燥後にポリエチレンテレフタレートから剥離した後に反りが生じることがある。従って、使用するアルデヒドはモノアルデヒドのみであることが好ましく、2つ以上のアルデヒド基を有する化合物を用いる場合であっても、ポリビニルアルコール樹脂のビニルアルコール単位に対して、2つ以上のアルデヒド基を有する化合物の添加量を0.005モル%未満とすることが好ましく、0.003モル%以下とすることがより好ましい。
【0057】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、α−オレフィン単位を含むものであってもよい。このようなポリビニルアセタール樹脂においてα−オレフィン単位の含有量は、好ましい下限が1モル%、好ましい上限が20モル%である。1モル%未満であると、α−オレフィン単位を含有する効果が不十分となり、20モル%を超えると、疎水性が強くなりすぎてセラミック粉末の分散性が低下したり、原料となるポリビニルアルコール樹脂の溶解性が低下するため、ポリビニルアセタール樹脂の製造が困難になるおそれがある。本明細書において、ポリビニルアセタール樹脂におけるα−オレフィン単位の含有率とは、ポリビニルアセタール樹脂を構成する全ての構造単位の総モル量に対するα−オレフィン単位のモル量の含有割合を意味する。ここで、アセタール化された構造単位は、アセタール化されたビニルアルコール単位のモル量(通常、アセタール化された構造単位のモル量の2倍となる)として、上記総モル量を算出することとする。
【0058】
本発明のポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度は、72〜100℃であることが好ましく、75〜95℃であることがより好ましい。ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度が72℃より低くなると、機械的強度が不十分となり、一方、100℃を超えると、加熱圧着性が悪くなり、デラミネーションが生じやすくなる傾向にある。
【0059】
本発明のスラリー組成物は、上記ポリビニルアセタール樹脂、セラミック粉末及び有機溶剤を含有する。なお、スラリー組成物において、ポリビニルアセタール樹脂は通常バインダー樹脂として用いられる。本発明のポリビニルアセタール樹脂は、セラミックグリーンシートの製造工程において一般に用いられるエタノールとトルエンとの1:1混合溶剤に溶解した場合においても溶液粘度が高くなりすぎないことから、本発明のポビリニルアセタール樹脂を含む上記スラリー組成物は、十分な塗工性を有している。また、上記スラリー組成物によれば、機械的強度に優れ、且つ良好な充填性を有するセラミックグリーンシートを効率よく得ることができる。
【0060】
また、本発明のスラリー組成物は、バインダー樹脂として上記ポリビニルアセタール樹脂の他にアクリル系樹脂、セルロース系樹脂等を含有してもよい。バインダー樹脂としてアクリル系樹脂、セルロース系樹脂等、上記のポリビニルアセタール樹脂以外の他の樹脂を含有する場合、バインダー樹脂全体に占める上記ポリビニルアセタール樹脂の含有率の好ましい下限は30質量%である。ポリビニルアセタール樹脂の含有率が30質量%未満であると、得られるセラミックグリーンシートの機械的強度及び加熱圧着性が不十分となるおそれがある。
【0061】
上記セラミック粉末としては特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の粉末が挙げられる。これらのセラミック粉末は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。本発明のスラリー組成物の全量に対するセラミック粉末の含有率の好ましい上限は80質量%であり、好ましい下限は30質量%である。セラミック粉末の含有率が30質量%より少なくなると、得られるスラリー組成物の粘度が低くなり過ぎてセラミックグリーンシートを成形する際のハンドリング性が悪くなり、一方、80質量%より多くなると、スラリー組成物の粘度が高くなり過ぎて混練性が低下する傾向にある。
【0062】
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシル等のエステル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、α−テルピネオール、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のグリコール類;テンピネオール等のテルペン類などが挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。とりわけ、トルエンとエタノールの混合溶剤が好ましく用いられる。本発明のスラリー組成物の全量に対する有機溶剤の含有率は、好ましくは20質量%以上70質量%未満である。上記範囲内であれば、本発明のスラリー組成物に適度な混練性を与えることができる。有機溶剤の含有率が70質量%以上であると、粘度が低くなり過ぎてセラミックグリーンシートを成形する際のハンドリング性が悪くなり、一方、20質量%より少なくなると、スラリー組成物の粘度が高くなり過ぎて混練性が低下する傾向にある。
【0063】
本発明のスラリー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で可塑剤、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤、酸化防止剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0064】
上記可塑剤の種類は特に限定されないが、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOP)、フタル酸ジ(2−エチルブチル)などのフタル酸系可塑剤、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOA)などのアジピン酸系可塑剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール系可塑剤、トリエチレングリコールジブチレート、トリエチレングリコールジ(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)などのグリコールエステル系可塑剤などが挙げられ、これらは2種以上組み合わせて用いることも可能である。可塑剤の含有率は特に限定されないが、スラリー組成物の全量に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがより好ましい。なかでも、揮発性が低く、セラミックグリーンシートとした場合に柔軟性を保ちやすいことから、DOP、DOA及びトリエチレングリコール(2−エチルヘキサノエート)が好適である。
【0065】
本発明のポリビニルアセタール樹脂を用いたスラリー組成物を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂を含有するバインダー樹脂、セラミック粉末、有機溶剤及び必要に応じて添加する各種添加剤をボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法が採用される。
【0066】
本発明のスラリー組成物は、上述のような構成を有することから、十分な機械的強度を有する薄膜セラミックグリーンシートを製造することができる。本発明は、このようなスラリー組成物を用いて得られるセラミックグリーンシートを包含する。
【0067】
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法により製造することができ、例えば、本発明のスラリー組成物をポリエチレンテレフタレートフィルム等の剥離性の支持体上に流延成形し、加熱等により溶剤等を留去させた後、支持体から剥離する方法等が挙げられる。
【0068】
本発明の導電ペーストは、上記ポリビニルアセタール樹脂、及び導電性粉末を含有し、好ましくは、上記ポリビニルアセタール樹脂、導電性粉末、及び有機溶剤を含有する。
【0069】
本発明の導電ペーストは、バインダー樹脂として上記ポリビニルアセタール樹脂の他にアクリル系樹脂、セルロース系樹脂等、上記のポリビニルアセタール樹脂以外の他の樹脂を含有してもよい。バインダー樹脂としてアクリル系樹脂、セルロース系樹脂等を含有する場合、バインダー樹脂全体に占める上記ポリビニルアセタール樹脂の含有率の好ましい下限は30質量%である。ポリビニルアセタールの含有率が30質量%未満であると、層間の接着性が低下する傾向にある。
【0070】
本発明の導電ペーストに用いられる導電性粉末としては、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、銅、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀等が挙げられる。導電ペーストの全量に対する導電性粉末の含有率の好ましい上限は70質量%であり、好ましい下限は30質量%である。導電性粉末の含有率が30質量%未満であると、導電成分が少なく有機成分が多いことから、焼成後の収縮率変化が大きく、またカーボン成分が残留しやすくなることがある。一方、導電性粉末の含有率が70質量%を超えると、導電ペーストの粘度が高くなりすぎて、塗工性及び印刷性が低下する傾向にある。
【0071】
本発明の導電ペーストに用いられる有機溶剤としては、特に限定されず、本発明のスラリー組成物に用いられる有機溶剤として、上で例示されたものと同じものを用いることができる。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。本発明の導電ペーストの全量に対する有機溶剤の含有率の好ましい上限は70質量%であり、好ましい下限は20質量%である。有機溶剤の含有率が20質量%より少なくなると、粘度が高くなり過ぎて混練性が低下する傾向にあり、一方、70質量%より多くなると、粘度が低くなり過ぎて導電ペーストを塗布する際のハンドリング性が悪くなる傾向にある。
【0072】
本発明の導電ペーストは、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0073】
本発明の導電ペーストを製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂と、導電性粉末、有機溶剤、可塑剤、分散剤等とを混合する方法が挙げられ、より具体的には、上記ポリビニルアセタール樹脂を含有するバインダー樹脂、導電性粉末、有機溶剤及び必要に応じて添加する各種添加剤をボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0074】
セラミックグリーンシートに導電ペーストを塗布したものを積層することにより、積層セラミックコンデンサを作製することができる。ここで、セラミックグリーンシート及び導電ペーストのうちの少なくとも一方が本発明のセラミックグリーンシート又は本発明の導電ペーストであればよく、本発明のセラミックグリーンシートに本発明の導電ペーストでない導電ペーストを塗布したものを積層してもよいし、本発明のセラミックグリーンシートでないセラミックグリーンシートに本発明の導電ペーストを塗布したものを積層してもよいし、本発明のセラミックグリーンシートに本発明の導電ペーストを塗布したものを積層してもよい。このように、本発明のセラミックグリーンシート及び本発明の導電ペーストの少なくとも一方を用いて得られる積層セラミックコンデンサもまた、本発明に包含される。
【0075】
本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法としては特に限定されず、従来公知の製造方法を採用することができる。例えば、セラミックグリーンシート(本発明のセラミックグリーンシートなど)の表面に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗布したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体とし、この積層体中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去した後(脱脂処理)、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する方法等が挙げられる。
【0076】
本発明のポリビニルアセタール樹脂が用いられる用途は特に限定されないが、セラミックグリーンシートや内部電極のバインダーの他、例えば、塗料の材料、熱現像性感光材料が挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例において「%」及び「部」は特に断りのない限り、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0078】
ポリビニルアセタール樹脂の諸物性の測定は以下の方法に従って行った。
【0079】
(ポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル単位の含有率、ビニルアルコール単位の含有率及びアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率)
ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d(ジメチルスルホキシド)に溶解させて、H−NMRスペクトルを測定し、算出した。
【0080】
(ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移点)
DSC(示差走査熱量計)として、セイコーインスツル株式会社製 EXTAR6000(RD220)を用い、ポリビニルアセタール樹脂を、窒素中で30℃から昇温速度10℃/分で150℃まで昇温させた後、30℃まで冷却し、再度、昇温速度10℃/分で150℃まで昇温させた。再昇温後の測定値をガラス転移点とした。
【0081】
(ポリビニルアセタール樹脂の吸水率)
厚さ0.2mm×10cm×10cmの測定用試料を50℃で減圧下に6日間乾燥し、次いで、乾燥後の試料を20℃の純水中に24時間浸漬したときの質量を測定し、下記式にしたがって吸水率を求めた。
【0082】
【数2】
【0083】
(実施例1)
(ポリビニルアセタール樹脂の調製)
還流冷却器、温度計及びイカリ型撹拌翼を備えた内容積2Lのガラス製容器に、イオン交換水1295gと、ポリビニルアルコール(PVA−1:重合度1700、けん化度99.0モル%)105gとを仕込み、全体を95℃に昇温してポリビニルアルコールを完全に溶解させ、ポリビニルアルコール水溶液(濃度7.5質量%)を作製した。作製したポリビニルアルコール水溶液を、回転速度120rpmにて撹拌し続けながら、約30分かけて13℃まで徐々に冷却した後、当該水溶液に、3−メチルブタナール70.5gを添加し、さらにアセタール化触媒である酸触媒として濃度20質量%の塩酸100mLを添加して、ポリビニルアルコールのアセタール化を開始した。アセタール化を15分間行った後、120分かけて全体を47℃まで昇温し、47℃にて180分間保持した後に、室温まで冷却した。冷却によって析出した樹脂をろ過後、イオン交換水(樹脂に対して100倍量のイオン交換水)で10回洗浄した後、中和のために0.3質量%水酸化ナトリウム水溶液を加え、50℃で5時間保持した後、さらに100倍量のイオン交換水で再洗浄を10回繰り返し、脱水したのち、40℃、減圧下で18時間乾燥し、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−1)を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂(PVIV−1)は、3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率が69.0モル%(アセタール化度は69.0モル%)、ビニルエステル単位の含有率が1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率が30.0モル%であった。
【0084】
(スラリー組成物の調製)
得られたポリビニルアセタール樹脂10質量部を、トルエン20質量部とエタノール20質量部との混合溶剤に加え、撹拌溶解し、更に、可塑剤としてDOP8質量部を加え、撹拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(堺化学工業株式会社製、BT−03(平均粒径0.3μm))100質量部を加え、ボールミルで48時間混合することによりスラリー組成物を得た。
【0085】
(実施例2)
PVA−1に代えてポリビニルアルコール(PVA−2:重合度800、けん化度99.0モル%)を用い、3−メチルブタナールを73.5g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−2)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は71.2モル%(アセタール化度は71.2モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は27.8モル%であった。次いで、PVIV−2を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0086】
(実施例3)
PVA−1に代えてポリビニルアルコール(PVA−3:重合度2400、けん化度99.0モル%)を用い、3−メチルブタナールを70.5g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−3)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は68.4モル%(アセタール化度は68.4モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は30.6モル%であった。次いで、PVIV−3を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0087】
(実施例4)
PVA−1に代えてポリビニルアルコール(PVA−4:重合度4300、けん化度99.0モル%)を用い、3−メチルブタナールを75.6g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−4)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は73.8モル%(アセタール化度は73.8モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は25.2モル%であった。次いで、PVIV−4を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0088】
(実施例5)
PVA−1に代えてポリビニルアルコール(PVA−5:重合度1700、けん化度88.0モル%)を用い、3−メチルブタナールを64.6g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−5)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は71.2モル%(アセタール化度は71.2モル%)、ビニルエステル単位の含有率は12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は16.8モル%であった。次いで、PVIV−5を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0089】
(実施例6)
PVA−1に代えてポリビニルアルコール(PVA−6:重合度3500、けん化度88.0モル%)を用い、3−メチルブタナールを62.5g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−6)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は69.7モル%(アセタール化度は69.7モル%)、ビニルエステル単位の含有率は12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は18.3モル%であった。次いで、PVIV−6を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0090】
(実施例7)
3−メチルブタナールを81.6g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−7)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は79.0モル%(アセタール化度は79.0モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は20.0モル%であった。次いで、PVIV−7を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0091】
(実施例8)
3−メチルブタナールを66.6g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−8)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は65.0モル%(アセタール化度は65.0モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は34.0モル%であった。次いで、PVIV−8を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0092】
(実施例9)
PVA−1に代えてポリビニルアルコール(PVA−7:重合度500、けん化度99.0モル%)を用い、3−メチルブタナールを70.5g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−9)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は69.0モル%(アセタール化度は69.0モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は30.0モル%であった。次いで、PVIV−9を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0093】
(実施例10)
PVA−1に代えてポリビニルアルコール(PVA−8:重合度5000、けん化度99.0モル%)を用い、3−メチルブタナールを71.5g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−10)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は70.0モル%(アセタール化度は70.0モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は29.0モル%であった。次いで、PVIV−10を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0094】
(実施例11)
アルデヒドとして、3−メチルブタナールを44.6g及びブチルアルデヒドを30.5g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−11)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は42.9モル%、ブチルアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は36.1モル%(アセタール化度は79.0モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は20.0モル%であった。次いで、PVIV−11を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0095】
(実施例12)
アルデヒドとして、3−メチルブタナールを42.6g及びアセトアルデヒドを20.2g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−12)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は41.0モル%、アセトアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は38.0モル%(アセタール化度は79.0モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は20.0モル%であった。次いで、PVIV−12を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0096】
(比較例1)
アルデヒドとしてブチルアルデヒドを65.0g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVB−A)を得た。ブチルアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は68.8モル%(アセタール化度は68.8モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は30.2モル%であった。次いで、PVB−Aを用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0097】
(比較例2)
PVA−1に代えてポリビニルアルコール(PVA−9:重合度3500、けん化度99.0モル%)を用い、アルデヒドとして、アセトアルデヒドを25.1g及びブチルアルデヒドを31.0g用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリビニルアセトアセタール樹脂(PVB−B)を得た。ブチルアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は36.0モル%、アセトアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は44.4モル%(アセタール化度は80.4モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は18.6モル%であった。次いで、PVB−Bを用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0098】
(比較例3)
PVA−1に代えてポリビニルアルコール(PVA−10:重合度6500、けん化度88.0モル%)を用い、アルデヒドとして3−メチルブタナールを69.0g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−13)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は73.9モル%(アセタール化度は73.9モル%)、ビニルエステル単位の含有率は12.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は14.1モル%であった。次いで、PVIV−13を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を作製しようとしたが、分散不良のため、スラリー組成物を得ることが出来なかった。
【0099】
(比較例4)
PVA−1に代えてポリビニルアルコール(PVA−11:重合度150、けん化度99.0モル%)を用い、アルデヒドとして3−メチルブタナールを69.0g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−14)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は66.8モル%(アセタール化度は66.8モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は32.2モル%であった。次いで、PVIV−14を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0100】
(比較例5)
PVA−1に代えてポリビニルアルコール(PVA−12:重合度1700、けん化度69.0モル%)を用い、アルデヒドとして3−メチルブタナールを39.0g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−15)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は50.0モル%(アセタール化度は50.0モル%)、ビニルエステル単位の含有率は31.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は19.0モル%であった。次いで、PVIV−15を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0101】
(比較例6)
アルデヒドとして3−メチルブタナールを54.0g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVIV−16)を得た。3−メチルブタナールでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は53.6モル%(アセタール化度は53.6モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は45.4モル%であった。次いで、PVIV−16を用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0102】
(比較例7)
アルデヒドとしてブチルアルデヒドを45.0g用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアセタール樹脂(PVB−C)を得た。ブチルアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の含有率は78.0モル%(アセタール化度は78.0モル%)、ビニルエステル単位の含有率は1.0モル%、ビニルアルコール単位の含有率は21.0モル%であった。次いで、PVB−Cを用いて実施例1と同様にしてスラリー組成物を得た。
【0103】
(セラミックグリーンシートの作製)
離形処理したポリエステルフィルム上に実施例1〜12又は比較例1〜7で作製したスラリー組成物を、コーターバーを用いて、乾燥後の厚みが1μmとなるように塗工し、常温で1時間風乾した後、熱風乾燥機にて80℃にて3時間、続いて120℃で2時間乾燥させてセラミックグリーンシートを得た。
【0104】
(導電ペーストの作製)
導電粉末としてのニッケル粉末(三井金属鉱業株式会社製 2020SS)100質量部、エチルセルロース(ダウケミカルカンパニー社製 STD−100)5質量部、及び溶剤としてテルピネオール−C(日本テルペン株式会社製)60質量部を混合した後、3本ロールで混練して導電ペーストを得た。
【0105】
(セラミック焼成体の作製)
上記で得られたセラミックグリーンシートの片面に、上記で得られた導電ペーストを、乾燥後の厚みが約1.0μmとなるようにスクリーン印刷法により塗工し、乾燥させて導電層を形成した。この導電層を有するセラミックグリーンシートを5cm角に切断し、100枚積重ねて、温度70℃、圧力150kg/cmで10分間加熱及び圧着して、積層体を得た。得られた積層体を、窒素雰囲気下、昇温速度3℃/分で400℃まで昇温し、5時間保持した後、昇温速度5℃/分で1350℃まで昇温し、10時間保持することにより、セラミック焼成体を得た。
【0106】
(評価)
(機械的強度の評価)
得られたセラミックグリーンシートをポリエステルフィルムから剥離し、シートの状態を観察し、以下に示す3段階で評価した。結果を表1に示す。
A:セラミックグリーンシートに切れや破れが観察されなかったもの。
B:切れや破れがわずかに観察されたもの。
C:切れや破れが観察されたもの。
【0107】
(保管時の寸法安定性評価)
30cm×30cmのセラミックグリーンシートを23℃、65%RHの恒温恒湿下に静置し、製膜後と10日後の寸法変化率を測定し、以下に示す2段階で評価した。結果を表1に示す。
A:セラミックグリーンシートの寸法変化率が0.1%未満であって、且つ反りが認められないもの。
B:セラミックグリーンシートの寸法変化率が0.1%以上である、及び/又は反りが認められるもの。
【0108】
(焼結体のデラミネ−ションの評価)
得られたセラミック焼成体(常温まで冷却した後のもの)を半分に割り、電子顕微鏡で観察し、セラミック層と導電層とのデラミネーションの有無を観察し、以下に示す3段階で評価した。結果を表1に示す。
A:デラミネーションなし。
B:デラミネーションが僅かに見られる。
C:デラミネーションあり。
【0109】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、十分な機械的強度を有するセラミックグリーンシートを得ることが可能であり、セラミックグリーンシート保管時の寸法変化が少なく、脱脂時にデラミネーションが生じにくいポリビニルアセタール樹脂を提供することができる。