特許第5698810号(P5698810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5698810
(24)【登録日】2015年2月20日
(45)【発行日】2015年4月8日
(54)【発明の名称】冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20150319BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20150319BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20150319BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20150319BHJP
   F25D 23/00 20060101ALI20150319BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   B01J23/30 M
   A61L9/00 C
   A61L9/01 B
   F25D23/00 302M
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-181141(P2013-181141)
(22)【出願日】2013年9月2日
(62)【分割の表示】特願2009-531135(P2009-531135)の分割
【原出願日】2008年9月5日
(65)【公開番号】特開2014-50831(P2014-50831A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2013年9月2日
(31)【優先権主張番号】特願2007-229698(P2007-229698)
(32)【優先日】2007年9月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 佳代
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光
(72)【発明者】
【氏名】白川 康博
(72)【発明者】
【氏名】布施 圭一
(72)【発明者】
【氏名】岡村 正巳
(72)【発明者】
【氏名】笠松 伸矢
【審査官】 後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−249542(JP,A)
【文献】 特開2005−172390(JP,A)
【文献】 特開平11−323192(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/077839(WO,A1)
【文献】 特開平09−000947(JP,A)
【文献】 特開2001−070800(JP,A)
【文献】 特開2009−056398(JP,A)
【文献】 特開平02−006339(JP,A)
【文献】 特開昭61−242902(JP,A)
【文献】 特開2008−006429(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/117655(WO,A1)
【文献】 KURUMADA M et al.,Structure of WO3 ultrafine particles and their characteristic solid states ,Journal of Crystal Growth,2005年,Vol.275,page.1673-1678
【文献】 BAMWENDA G R et al.,The visible light induced photocatalytic activity of tungsten trioxide powders ,Applied Catalysis A:General,2001年,Vol.210,Nos.1,2,page.181-191
【文献】 Zhixiang Lu et al.,Synthesis of high surface area monoclinic WO3 particles using organic ligands and emulsion based methods,J. Mater. Chem.,2002年,Vol.12,No.4,page.983-989
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
F25D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光応答型光触媒粉末を1質量%以上100質量%以下の範囲で含有する光触媒材料が設けられた部材を備える貯蔵室を具備する冷蔵庫であって、
前記可視光応答型光触媒粉末は、粉末の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有し、かつ11〜820m/gの範囲のBET比表面積を有する酸化タングステン粉末を具備することを特徴とする冷蔵庫。
【請求項2】
可視光応答型光触媒粉末を1質量%以上100質量%以下の範囲で含有する光触媒材料が設けられた部材を備える貯蔵室を具備する冷蔵庫であって、
前記可視光応答型光触媒粉末は、粉末の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有し、かつ1〜75nmの範囲の画像解析による平均粒径(D50)を有する酸化タングステン粉末を具備することを特徴とする冷蔵庫。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の冷蔵庫において、
前記部材は、前記光触媒材料の塗布層、または前記光触媒材料を0.1質量%以上90質量%以下の範囲で含有する光触媒塗料の塗布層を有することを特徴とする冷蔵庫。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の冷蔵庫において、
前記酸化タングステン粉末はX線回折法で測定したとき、2θが22.5〜25°の範囲に最強ピークを有し、かつ2θが33〜35°の範囲にピークを有することを特徴とする冷蔵庫。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の冷蔵庫において、
前記酸化タングステン粉末は、前記L*a*b*表色系におけるa*が−8以下、b*が3以上、L*が65以上の色を有することを特徴とする冷蔵庫。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の冷蔵庫において、
前記酸化タングステン粉末は20〜820m/gの範囲のBET比表面積を有することを特徴とする冷蔵庫。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の冷蔵庫において、
前記酸化タングステン粉末は1〜41nmの範囲の画像解析による平均粒径(D50)を有することを特徴とする冷蔵庫。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の冷蔵庫において、
前記酸化タングステン粉末は不純物元素としての金属元素の含有量が10質量%以下であることを特徴とする冷蔵庫。
【請求項9】
請求項1ないし請求項のいずれか1項記載の冷蔵庫において、
前記酸化タングステン粉末は50質量%以下の範囲の遷移金属元素を含むことを特徴とする冷蔵庫。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項記載の冷蔵庫において、
前記酸化タングステン粉末の窒素含有量が300ppm以下であることを特徴とする冷蔵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可視光応答型光触媒粉末を用いた冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚や消臭の用途に用いられる光触媒材料としては酸化チタンが知られている。光触媒材料は屋外や屋内の建材、照明装置、冷蔵庫、エアコン、トイレのような家電機器等、様々な分野で用いられている。しかし、酸化チタンは励起が紫外線領域で起きるため、紫外線の少ない屋内では十分な光触媒性能が得られない。そこで、可視光でも光触媒性能を示す可視光応答型光触媒の研究、開発が進められている。
【0003】
可視光応答型光触媒としては酸化タングステンが知られている。特許文献1には酸化タングステンを基材上にスパッタ成膜した光触媒材料が記載されており、主に三斜晶系の結晶構造を有する酸化タングステンが用いられている。スパッタ成膜は基材を高温に晒すため、基材の耐熱温度によっては適用できない場合がある。スパッタ成膜は高真空のチャンバ内で行われることが多いために工程管理が複雑であり、基材の形状や大きさによってはコスト高になるだけでなく、建材のように広範囲への成膜は困難となる。さらに、スパッタ成膜した酸化タングステンからなる可視光応答型光触媒層は親水性に優れるものの、アセトアルデヒドのような有害ガスの分解性能が十分ではないという問題を有している。
【0004】
酸化タングステン粉末を光触媒として用いることも検討されている。粉末であれば有機バインダと混合して基材に塗布することができるため、基材を高温に晒す必要がなく、また建材のように広い範囲にも塗膜を形成することができる。酸化タングステン粉末の製造方法としては、パラタングステン酸アンモニウム(APT)を空気中で加熱して三酸化タングステン粉末(WO)を得る方法が知られている(特許文献2参照)。APTを空気中で加熱する方法によって、粒径が0.01μm(BET比表面積=82m/g)程度の三斜晶系の三酸化タングステン粉末が得られている。
【0005】
APTを空気中で加熱して生成した三酸化タングステン(WO)粉末は、光触媒性能を向上させるために微粒子とする必要がある。解砕処理を適用することである程度まで微細化できるものの、粒径を例えば100nm以下にするのは困難である。さらに、解砕処理を適用して微粉末化すると、三酸化タングステン(WO)微粉末の結晶構造が解砕処理の応力で変化してしまう。解砕処理の応力で電子と正孔が再結合を起こす欠陥が生じるため、光触媒性能の低下を招くと考えられる。一方、特許文献2に記載された製造方法ではBET比表面積を安定させるために20時間以上の混錬が必要であり、三酸化タングステン粉末の製造効率が低いという問題がある。
【0006】
微粉末を効率的に得る方法としては、例えば特許文献3に熱プラズマ処理が記載されている。熱プラズマ処理を適用することによって、粒径が1〜200nmの微粉末が得られている。熱プラズマ処理によれば微粉末を効率的に得ることができるものの、特許文献3に記載された方法を適用して作製した酸化タングステン微粉末をそのまま光触媒として用いても、必ずしも十分な光触媒特性を得ることはできない。これは熱プラズマ法では酸化タングステン微粉末の光学特性や結晶構造が最適ではない場合があるためと考えられる。
【0007】
酸化タングステンには、WO(三酸化タングステン)、WO(二酸化タングステン)、WO、W、W、W11等の種類がある。これらのうち、三酸化タングステン(WO)は光触媒性能に優れ、常温大気中で安定であるため、主に光触媒材料として用いられている。しかし、三酸化タングステン(WO)は光触媒性能が安定しないという難点を有する。また、表面積が小さいと十分な光触媒性能を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−152130号公報
【特許文献2】特開2002−293544号公報
【特許文献3】特開2006−102737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、酸化タングステン粉末の可視光による光触媒性能の向上と安定化を図ることによって、光触媒性能やその再現性に優れる可視光応答型光触媒粉末を用いた冷蔵庫を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る冷蔵庫は、可視光応答型光触媒粉末を1質量%以上100質量%以下の範囲で含有する光触媒材料が設けられた部材を備える貯蔵室を具備する冷蔵庫であって、前記可視光応答型光触媒粉末は、粉末の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有し、かつ11〜820m/gの範囲のBET比表面積を有する酸化タングステン粉末を具備することを特徴としている。
【0011】
本発明の他の態様に係る冷蔵庫は、可視光応答型光触媒粉末を1質量%以上100質量%以下の範囲で含有する光触媒材料が設けられた部材を備える貯蔵室を具備する冷蔵庫であって、前記可視光応答型光触媒粉末は、粉末の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有し、かつ1〜75nmの範囲の画像解析による平均粒径(D50)を有する酸化タングステン粉末を具備することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1による酸化タングステン粉末のX線回折結果を示す図である。
図2】比較例3による酸化タングステン粉末のX線回折結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明の実施形態による可視光応答型光触媒粉末は酸化タングステン粉末を具備する。可視光応答型光触媒粉末を構成する酸化タングステン粉末は、粉末の色をL*a*b*表色系(エルスター・エースター・ビースター表色系)で表したとき、a*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有し、かつ11〜820m/gの範囲のBET比表面積を有している。あるいは、酸化タングステン粉末は、粉末の色をL*a*b*表色系(エルスター・エースター・ビースター表色系)で表したとき、a*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有し、かつ画像解析による平均粒径(D50)が1〜75nmの範囲である。
【0014】
L*a*b*表色系は物体色を表すのに用いられる方法で、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本ではJIS Z−8729に規定がある。L*は明度を表し、a*とb*とで色相と彩度を表すものである。L*が大きいほど明るいことを示す。a*とb*は色の方向を示しており、a*は赤方向、−a*は緑方向、b*は黄方向、−b*は青方向を示す。彩度(c*)=((a*)+(b*)1/2で示される。
【0015】
この実施形態の酸化タングステン粉末はa*が−5以下、b*が−5以上、L*が50以上の色を有している。これは酸化タングステン粉末が黄色から緑色付近の色相を有し、かつ彩度や明度が高いことを示しており、このような光学特性を持つ場合に可視光励起による光触媒性能を向上させることが可能となる。酸化タングステン粉末の色調は酸素欠損による組成変動や光の照射等に基づいて変化するものと考えられ、上記したような色相、彩度、明度を有する場合に良好な光触媒性能が得られる。
【0016】
青色付近の色相を有する場合には酸素欠損が多いと考えられ、そのような色相を有する酸化タングステン粉末では十分な光触媒性能を得ることができない。つまり、a*が−5を超えたり、b*が−5未満の場合には、十分な光触媒性能を得ることができない。これは酸素欠損等に基づいて酸化タングステン(WO)に組成変動が生じているためと考えられる。同様に、L*が50未満の場合にも十分な光触媒性能を得ることができない。
【0017】
従って、酸化タングステン粉末の色相を示すa*が−5以下、b*が−5以上で、明度を示すL*で50以上の場合に、良好な光触媒性能を再現性よく得ることが可能となる。酸化タングステン粉末はa*が−8以下、b*が3以上、L*が65以上の色を有することが好ましく、このような場合に光触媒性能がさらに向上する。a*は−20〜−10の範囲、b*は5〜35の範囲、L*は80以上であることが望ましい。
【0018】
酸化タングステン粉末の光触媒性能は、上述した色調(a*≦−5、b*≧−5、L*≧50)のみで高めることができるものではない。すなわち、L*a*b*表色系で表される粉末色を満足し、かつBET比表面積が11〜820m/gの範囲の酸化タングステン粉末を可視光応答型光触媒粉末として用いることによって、優れた光触媒性能を安定して得ることが可能となる。このBET比表面積から換算した平均粒径は、酸化タングステンの比重を7.3とすると1〜75nmの範囲となる。
【0019】
L*a*b*表色系で表される粉末色を満足し、かつ平均粒径が1〜75nmの範囲の酸化タングステン粉末を可視光応答型光触媒粉末として用いることによって、優れた光触媒性能を安定して得ることが可能となる。ここで、平均粒径はSEMやTEM等の写真の画像解析から、n=50個以上の粒子の平均粒径(D50)により求めるものとする。平均粒径(D50)は比表面積から換算した平均粒径と一致していてもよい。
【0020】
光触媒粉末の性能は比表面積が大きく、粒径が小さい方が高くなる。従って、BET比表面積が11m/g未満(平均粒径が75nmを超える)の場合には、酸化タングステン粉末が上述した色調を満足していても、十分な光触媒性能を得ることはできない。酸化タングステンのBET比表面積が820m/gを超える(平均粒径が1nm未満)場合には、粉末としての取扱い性が劣ることから実用性が低下する。
【0021】
酸化タングステン粉末のBET比表面積は20〜820m/gの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは55〜250m/gの範囲である。画像解析による平均粒径(D50)は1〜41nmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは3.3〜15nmの範囲である。酸化タングステン粉末の光触媒性能を高める上で、比表面積が大きく、平均粒径が小さい方が好ましいが、酸化タングステン粉末の粒径が小さすぎると粒子の分散性が低下して塗料化が難しくなるため、分散方法に注意が必要である。
【0022】
可視光応答型光触媒粉末は、L*a*b*表色系で表される色調(a*≦−5、b*≧−5、L*≧50)と、11〜820m/gの範囲のBET比表面積、および/または1〜75nmの範囲の平均粒径(D50)とを有する酸化タングステン粉末を具備する。このような条件を満足する酸化タングステン粉末を使用することによって、可視光励起による光触媒性能を向上させた可視光応答型光触媒粉末を提供することが可能となる。
【0023】
さらに、可視光応答型光触媒粉末を構成する酸化タングステン粉末は、単斜晶、三斜晶および斜方晶から選ばれる1種または2種以上の混晶からなる結晶構造を有することが好ましい。このような結晶構造を有する酸化タングステン粉末を使用することで、優れた光触媒性能を安定して発揮させることができる。酸化タングステン粉末の結晶構造はX線回折により同定され、一般的には2θが22.5〜25°の範囲にピークがいくつか存在する。ただし、粒径が小さい場合にはX線回折のピークはブロードになり、分離が困難となる。図1は後述する実施例1の酸化タングステン粉末のX線回折結果を示している。
【0024】
図1から明らかなように、2θが22.5〜25°の範囲にピークが存在していることは認められるものの、明確にはピークが分離していない。2θが33〜35°の範囲にもピークが存在しているものの、ブロードになっている。粒径が小さい酸化タングステン粉末の結晶構造はX線回折で明確に特定することが困難であるが、2θが22.5〜25°の範囲に最強ピークを有し、かつ2θが33〜35°の範囲にピークを有する場合に、良好な光触媒性能を安定して発揮させることが可能となる。
【0025】
酸化タングステンには単斜晶、斜方晶、三斜晶、立方晶等の結晶系が存在し、必ずしも単独では存在しない。ピークのパターンが似ている結晶系が混在する場合にも、ピークはブロードになって分離が困難になる。酸化タングステン粉末の粒径が小さい場合に加えて、ピークのパターンが似ている結晶系が混在する場合にもピークはブロードとなり、その分離が困難になる。そして、2θが22.5〜25°の範囲に最強ピークを有し、かつ2θが33〜35°の範囲にピークを有する場合に、単斜晶、三斜晶および斜方晶から選ばれる1種または2種以上を主とするものと推定することができる。
【0026】
光触媒粉末を構成する酸化タングステン粉末は、主としてWO(三酸化タングステン)からなることが好ましい。酸化タングステン粉末は実質的にWOからなることが望ましいが、他の種類の酸化物(WO、WO、W、W、W11等)を含んでいてもよい。酸化タングステン粉末は、実質的にWOからなるもの、あるいは主成分としてのWOと他の酸化物(WO)との混合物のいずれであってもよいが、上述したX線回折結果のピーク条件に基づく結晶構造を満足していることが好ましい。
【0027】
可視光応答型光触媒粉末を構成する酸化タングステン粉末は、微量の不純物として金属元素を含有していてもよい。不純物元素としての金属元素の含有量は10質量%以下であることが好ましい。さらに、酸化タングステン粉末の色調の変化を抑制する上で、不純物金属元素の含有量は2質量%以下とすることが望ましい。不純物金属元素としては、タングステン鉱石中に一般的に含まれる元素や原料として使用するタングステン化合物等を製造する際に混入する汚染元素が挙げられる。不純物金属元素の具体例としては、Fe、Mo、Mn、Cu、Ti、Al、Ca、Ni、Cr、Mg等が挙げられる。
【0028】
可視光応答型光触媒粉末を構成する酸化タングステン粉末は、窒素含有量が300ppm以下(質量比)であることが好ましい。酸化タングステン粉末は不純物量が少ない方がよい。特に、窒素は酸化タングステン粉末の結晶性を低下させる要因となるため、その含有量は300ppm以下とすることが好ましい。窒素含有量が300ppm以下の場合には結晶性が向上するため、電子と正孔の再結合が起こりにくいと考えられる。酸化タングステン粉末の窒素含有量は150ppm以下であることがより好ましい。
【0029】
この実施形態の可視光応答型光触媒粉末においては、比表面積が大きい(平均粒径が小さい)ことに加えて、粉末色の色調を適切化した酸化タングステン粉末を使用しているため、可視光励起による光触媒性能の向上並びに安定化を図ることが可能となる。さらに、酸化タングステン粉末の結晶構造や窒素等の不純物元素量を制御することで、光触媒性能をより一層向上させることができる。さらに、この実施形態の酸化タングステン粉末はpH1〜7の水溶液中でのゼータ電位がマイナスであるために分散性に優れ、これにより基材に薄くむらなく塗布することができる。
【0030】
光触媒性能としては、例えばアセトアルデヒドやホルムアルデヒド等の有機ガスを分解する性能、親水性や抗菌・除菌性能等が挙げられる。ここで、可視光とは波長が390〜830nmの領域の光を示す。この実施形態の酸化タングステン粉末は430〜500nmの光を照射したときの光触媒性能に優れている。波長430〜500nmの光を発する励起源としては、太陽光、蛍光灯、青色発光ダイオード、青色レーザ等が挙げられる。特に、青色発光ダイオードや青色レーザは波長430〜500nmの光のみを放出することができるために好ましい。
【0031】
上述した実施形態の可視光応答型光触媒粉末を構成する酸化タングステン粉末は、例えば以下のようにして作製される。酸化タングステン粉末は昇華工程を適用して作製される。昇華工程に熱処理工程を組合せることも有効である。昇華工程もしくは昇華工程と熱処理工程との組合せを適用して作製した酸化タングステン粉末によれば、上述した色調やBET比表面積を安定して実現することができる。さらに、SEMやTEMで粉末を評価した際に、一次粒子の平均粒径がBET比表面積から換算した値に近似し、粒径ばらつきが小さい粉末を安定して提供することができる。
【0032】
まず、昇華工程について述べる。昇華工程は、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、酸素雰囲気中で昇華させることによって、酸化タングステン粉末を得る工程である。昇華とは固相から気相、あるいは気相から固相への状態変化が、液相を経ずに起こる現象である。原料としての金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、昇華させながら酸化させることによって、微粉末状態の酸化タングステン粉末を得ることができる。
【0033】
昇華工程の原料(タングステン原料)には、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液のいずれを使用してもよい。原料として使用するタングステン化合物としては、例えば三酸化タングステン(WO)、二酸化タングステン(WO)、低級酸化物等の酸化タングステン、炭化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸等が挙げられる。
【0034】
上述したようなタングステン原料の昇華工程を酸素雰囲気中で行うことで、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を瞬時に固相から気相とし、さらに気相となった金属タングステン蒸気を酸化することにより酸化タングステン粉末が得られる。溶液を使用した場合でも、タングステン酸化物あるいは化合物を経て気相となる。このように、気相での酸化反応を利用することによって、酸化タングステン微粉末を得ることができる。さらに、酸化タングステン微粉末の色調や結晶構造を制御することができる。
【0035】
昇華工程の原料としては、酸素雰囲気中で昇華して得られる酸化タングステン粉末に不純物が含まれにくいことから、金属タングステン粉末、酸化タングステン粉末、炭化タングステン粉末、およびタングステン酸アンモニウム粉末から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。金属タングステン粉末や酸化タングステン粉末は、昇華工程で形成される副生成物(酸化タングステン以外の物質)として有害なものが含まれないことから、特に昇華工程の原料として好ましい。
【0036】
原料に用いるタングステン化合物としては、その構成元素としてタングステン(W)と酸素(O)を含む化合物が好ましい。構成成分としてWおよびOを含んでいると、昇華工程で後述する誘導結合型プラズマ処理を適用した際に瞬時に昇華されやすくなる。このようなタングステン化合物としては、WO、W2058、W1849、WO等が挙げられる。タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウムの溶液あるいは塩等も有効である。
【0037】
タングステン原料としての金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は0.1〜100μmの範囲の平均粒径を有することが好ましい。タングステン原料の平均粒径は0.3μm〜10μmの範囲がより好ましく、さらに好ましくは0.3μm〜3μmの範囲、望ましくは0.3μm〜1.5μmの範囲である。上記範囲内の平均粒径を有する金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を用いると、昇華が生じやすい。
【0038】
タングステン原料の平均粒径が0.1μm未満の場合には原料粉が微細すぎるため、原料粉の事前調整が必要になったり、取扱い性が低下することに加えて、高価になるために工業的に好ましくない。タングステン原料の平均粒径が100μmを超えると均一な昇華反応が起きにくくなる。平均粒径が大きくても大きなエネルギー量で処理すれば均一な昇華反応を生じさせることができるが、工業的には好ましくない。
【0039】
昇華工程でタングステン原料を酸素雰囲気中で昇華させる方法としては、誘導結合型プラズマ処理、アーク放電処理、レーザ処理、電子線処理、およびガスバーナー処理から選ばれる少なくとも1種の処理が挙げられる。これらのうち、レーザ処理や電子線処理ではレーザ光または電子線を照射して昇華工程を行う。レーザ光や電子線は照射スポット径が小さいため、一度に大量の原料を処理するためには時間がかかるものの、原料粉の粒径や供給量の安定性を厳しく制御する必要がないという長所がある。
【0040】
誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理は、プラズマやアーク放電の発生領域の調整が必要であるものの、一度に大量の原料粉を酸素雰囲気中で酸化反応させることができる。さらに、一度に処理できる原料の量を制御することができる。ガスバーナー処理は動力費が比較的安いものの、原料粉や原料溶液を多量に処理することが難しい。このため、ガスバーナー処理は生産性の点で劣る。なお、ガスバーナーは昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるものではない。プロパンガスバーナーやアセチレンガスバーナー等が用いられる。
【0041】
昇華工程に誘導結合型プラズマ処理を適用する場合、通常アルゴンガスや酸素ガスを用いてプラズマを発生させ、このプラズマ中に金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を供給する方法が用いられる。プラズマ中にタングステン原料を供給する方法としては、例えば金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を所定の液状分散媒中に分散させた分散液を吹き込む方法等が挙げられる。
【0042】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をプラズマ中に吹き込む場合に用いられるキャリアガスとしては、例えば空気、酸素、酸素を含有した不活性ガス等が挙げられる。これらのうち、空気は低コストであるために好ましく用いられる。キャリアガスの他に酸素を含む反応ガスを流入する場合や、タングステン化合物粉末が三酸化タングステンの場合のように、反応場中に酸素が十分に含まれているときには、キャリアガスとしてアルゴンやヘリウム等の不活性ガスを用いてもよい。反応ガスには酸素や酸素を含む不活性ガスを用いることが好ましい。酸素を含む不活性ガスを用いる場合、酸化反応に必要な酸素量を十分に供給することが可能なように、酸素量を設定することが好ましい。
【0043】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法を適用すると共に、ガス流量や反応容器内の圧力を調整することによって、三酸化タングステン粉末の色調や結晶構造が制御しやすい。具体的には、上述したL*a*b*表色系で表される色調と単斜晶、三斜晶および斜方晶から選ばれる1種または2種以上の混晶からなる結晶構造とを有する三酸化タングステン粉末が得られやすい。三酸化タングステン粉末の比表面積(粒径)と色調を同時に制御するためには、プラズマの出力、ガスの種類、ガスバランス、ガス流量、反応容器内の圧力、原料粉末の供給量等を調整する必要がある。これらのパラメータの組合せで特性が変化するため、一律に値を決めることはできない。
【0044】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末の分散液の作製に用いられる分散媒としては、分子中に酸素原子を有する液状分散媒が挙げられる。分散液を用いると原料粉の取扱いが容易になる。分子中に酸素原子を有する液状分散媒としては、例えば水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種を20容量%以上含むものが用いられる。液状分散媒として用いるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。水やアルコールはプラズマの熱で揮発しやすいため、原料粉の昇華反応や酸化反応を妨害することはなく、分子中に酸素を含有していることから酸化反応を促進しやすい。
【0045】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散媒に分散させて分散液を作製する場合、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は分散液中に10〜95質量%の範囲で含ませることが好ましく、さらに好ましくは40〜80質量%の範囲である。このような範囲で分散液中に分散させることで、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散液中に均一に分散させることができる。均一に分散していると原料粉の昇華反応が均一に生じやすい。分散液中の含有量が10質量%未満では原料粉の量が少なすぎて効率よく製造ができない。95質量%を超えると分散液が少なく、原料粉の粘性が増大することで、容器にこびりつき易くなるために取扱い性が低下する。
【0046】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散液にしてプラズマ中に吹き込む方法を適用することによって、三酸化タングステン粉末の色調や結晶構造が制御しやすい。さらに、タングステン化合物溶液を原料として用いることによっても、昇華反応を均一に行うことができ、さらに三酸化タングステン粉末の色調や結晶構造の制御性が向上する。分散液を用いる方法は、アーク放電処理にも適用することが可能である。
【0047】
レーザ光や電子線を照射して昇華工程を実施する場合は、金属タングステンやタングステン化合物をペレット状にしたものを原料として使用することが好ましい。レーザ光や電子線は照射スポット径が小さいため、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を用いると供給が困難になるが、ペレット状にした金属タングステンやタングステン化合物を用いることで効率よく昇華させることができる。レーザは金属タングステンやタングステン化合物を昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるものではないが、COレーザが高エネルギーであるために好ましい。
【0048】
レーザ光や電子線をペレットに照射する際に、レーザ光や電子線の照射源またはペレットの少なくとも一方を移動させると、ある程度の大きさを有するペレットの全面を有効に昇華することができる。これによって、所定の色調や結晶構造を有する三酸化タングステン粉末が得られやくなる。金属タングステンやタングステン化合物のペレットは誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理にも適用することができる。
【0049】
三酸化タングステン粉末の比表面積(粒径)と色調を同時に制御するためには、レーザ光や電子線の出力、雰囲気ガスの種類、ガスバランス、ガス流量、反応容器内の圧力、ペレットの密度、照射スポットの移動速等を調整する必要がある。これらのパラメータの組合せで特性が変化するため、一律に値を決めることはできない。ガスバーナー処理を適用する場合においても、ガスバーナーの出力、雰囲気ガスの種類、ガスバランス、ガス流量、反応容器内の圧力、原料の投入速度等を調整する必要がある。これらのパラメータの組合せで特性が変化するため、一律に値を決めることはできない。
【0050】
この実施形態の可視光応答型光触媒粉末を構成する酸化タングステン粉末は、昇華工程のみによっても得ることができるが、昇華工程で作製した酸化タングステン粉末に熱処理工程を施すことも有効である。熱処理工程は、昇華工程で得られた三酸化タングステン粉末を、酸化雰囲気中にて所定の温度と時間で熱処理するものである。昇華工程の条件制御で三酸化タングステン微粉末を十分に形成することができない場合でも、熱処理を施すことで酸化タングステン粉末中の三酸化タングステン微粉末の割合を99%以上、実質的には100%にすることができる。さらに、熱処理工程で三酸化タングステン微粉末の色調や結晶構造を所定の状態に調整することができる。
【0051】
熱処理工程で用いられる酸化雰囲気としては、例えば空気や酸素含有ガスが挙げられる。酸素含有ガスとは、酸素を含有した不活性ガスを意味する。熱処理温度は300〜1000℃の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは500〜700℃の範囲である。熱処理時間は10分〜2時間とすることが好ましく、さらに好ましくは30分〜1.5時間である。熱処理工程の温度および時間を上記範囲内にすることによって、三酸化タングステン以外の酸化タングステンから三酸化タングステンを形成しやすい。
【0052】
熱処理温度が300℃未満の場合には、昇華工程で三酸化タングステンにならなかった粉末を三酸化タングステンにするための酸化効果を十分に得ることができないおそれがある。熱処理温度が1000℃を超えると酸化タングステン微粒子が急激に粒成長するため、得られる酸化タングステン微粉末の比表面積が低下しやすい。さらに、上記したような温度と時間で熱処理工程を行うことによって、三酸化タングステン微粉末の色調や結晶構造を調整することができる。
【0053】
酸化タングステン粉末は光触媒性能や製品特性、例えばガス分解性能や抗菌性の向上のために、遷移金属元素を含んでいてもよい。遷移金属元素の含有量は50質量%以下とすることが好ましい。遷移金属元素の含有量が50質量%を超えると、可視光応答型光触媒粉末としての特性が低下するおそれがある。遷移金属元素の含有量は10質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0054】
遷移金属元素とは原子番号が21〜29、39〜47、57〜79、89〜109の各元素である。これらのうちでも、Ti、Fe、Cu、Zr、AgおよびPtから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。遷移金属元素は酸化タングステン粉末と混合してもよいし、あるいは遷移金属元素で酸化タングステン粉末を担持させてもよい。遷移金属元素はタングステンと化合物を形成していてもよい。
【0055】
この実施形態の可視光応答型光触媒粉末は、そのままで可視光応答型光触媒として用いることができる。あるいは、可視光応答型光触媒粉末を他の材料と混合、担持、含浸させて得られる粉末(もしくは粉末以外の形態の物質)を、可視光応答型光触媒として用いることも可能である。この実施形態の可視光応答型光触媒材料は、可視光応答型光触媒粉末を1〜100質量%の範囲で含有する。
【0056】
可視光応答型光触媒材料における光触媒粉末の含有量は、所望の特性に応じて適宜に選択されるが、1質量%未満では光触媒性能を十分に得ることができない。可視光応答型光触媒粉末(酸化タングステン粉末)は、例えばSiO、ZrO、Al、TiO等の粒子と混合したり、あるいはそれらの粒子に担持させてもよい。さらに、ゼオライト等に酸化タングステンを含浸させてもよい。
【0057】
この実施形態の可視光応答型光触媒粉末は溶媒や添加物等と混合することによって、可視光応答型光触媒塗料として用いられる。光触媒塗料の主成分は可視光応答型光触媒粉末に代えて、上記した可視光応答型光触媒材料を使用してもよい。可視光応答型光触媒塗料中における光触媒粉末や光触媒材料の含有量は0.1〜90質量%の範囲とする。光触媒粉末や光触媒材料の含有量が0.1質量%未満であると光触媒性能を十分に得ることができず、90質量%を超えると塗料としての特性が低下する。
【0058】
可視光応答型光触媒塗料に配合する溶媒や添加物としては、水、アルコール、分散剤、バインダ等が挙げられる。バインダは無機バインダ、有機バインダ、有機無機複合バインダのいずれであってもよい。無機バインダとしては、例えばコロイダルシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾル等が挙げられる。有機無機複合バインダとはSi等の金属元素を構成成分として含んだ有機物を示すものである。有機バインダもしくは有機無機複合バインダの有機成分としては、シリコーン樹脂等が用いられる。
【0059】
可視光応答型光触媒塗料は各種の製品に用いられる。可視光応答型光触媒塗料の具体例としては、自動車ガラス用コーティング剤や浴室ガラス用コーティング剤等の各種のガラス用コーティング剤、浴室用コーティング剤、トイレおよび洗面所用コーティング剤、内装用塗料、電化製品用塗料等が挙げられる。光触媒塗料はこれら以外にもガス分解能や抗菌性能等が求められる各種の製品用として有効である。
【0060】
本発明の実施形態による可視光応答型光触媒製品は、上述した可視光応答型の光触媒粉末や光触媒材料を具備する。もしくは、光触媒製品は光触媒塗料の塗布層を具備する。光触媒製品は、例えば基材に光触媒粉末や光触媒材料を付着もしくは含浸させた製品、基材に光触媒塗料を塗布した製品である。光触媒製品には光触媒粉末を含浸させたゼオライト、活性炭、多孔質セラミックス等を内臓した製品も含まれる。
【0061】
可視光応答型光触媒製品の具体例としては、エアコン、空気清浄機、扇風機、冷蔵庫、電子レンジ、食器洗浄乾燥機、炊飯器、ポット、IHヒータ、洗濯機、掃除機、照明器具(ランプ、器具本体、シェード等)、衛生用品、便器、洗面台、鏡、浴室(壁、天井、床等)、建材(室内壁、天井材、床、外壁)、インテリア用品(カーテン、絨毯、テーブル、椅子、ソファー、棚、ベッド、寝具等)、ガラス、サッシ、手すり、ドア、ノブ、衣服、家電製品等に使用されるフィルタ等が挙げられる。
【0062】
可視光応答型光触媒製品の基材としては、例えばガラス、プラスチック、アクリル等の樹脂、紙、繊維、金属、木材が挙げられる。特に、ガラスに光触媒塗料を塗布した場合、波長550nmの光透過率が50%以上の透明性の高いガラスが得られる。波長550nmの光を選択した理由は、酸化タングステン粉末による吸収が少なく、光触媒被覆層自体の透過率を測定することができるからである。
【0063】
この実施形態による可視光応答型光触媒製品は、居住空間や自動車の室内空間で使用される部品として使用することができる。特に、自動車は紫外線をほとんど通さないガラスが使用されているため、可視光応答型光触媒製品を使用することによって、紫外線がほとんどない空間の有機ガスの分解や親水性、防汚等に効果を発揮する。光触媒粉末や光触媒材料は自動車用の消臭抗菌シート、日よけカバー等にも有効に用いられる。また、浴室ガラス、水槽、花瓶等に対しても、光触媒粉末や光触媒材料の塗布層は有効である。
【0064】
次に、可視光応答型光触媒製品の具体例について述べる。加熱調理装置(電子レンジ等)は、キャビネットの内部に設けられた収容部と、収容部の前面に設けられた扉とを備えている。収容部と扉は加熱室を構成している。扉の内面側には透明なガラスからなる内バリアが設けられている。可視光応答型の光触媒粉末や光触媒材料の塗布層は内バリアの内面(加熱室の内側)を含む加熱室の少なくとも一部に設けられる。光触媒粉末や光触媒材料の塗布層は庫内灯の光が照射された際に脱臭や菌分解効果等を示す。
【0065】
冷蔵庫においては、貯蔵室内壁、棚、給水タンク、貯氷ボックス等の貯蔵室内で用いられる部材の少なくとも一部に可視光応答型の光触媒粉末や光触媒材料が設けられる。例えば、自動製氷装置を備える冷蔵庫の場合、給水タンクは透明あるいは半透明の合成樹脂からなる。光触媒粉末や光触媒材料の塗布層は給水タンクの内面に設けられる。光触媒粉末や光触媒材料の塗布層は庫内灯の光が照射された際に、給水タンク表面の除菌やタンク内の製氷水中の有機化合物を分解して水質を浄化する効果等を示す。これによって、臭いのない美味しい氷を製氷することができる。
【0066】
エアコンにおいては、フィン、フィルタ(特に光源を備えるエアコン用フィルタ)、外装材等の少なくとも一部に可視光応答型の光触媒粉末や光触媒材料が用いられる。例えば、フィン、フィルタ、外装材等の表面に光触媒粉末や光触媒材料の塗布層が設けられる。光触媒粉末や光触媒材料の塗布層は太陽光や光源から照射された可視光により励起し、エアコンに付着した油分等の汚れ物質や臭気を分解、除去する効果を示す。
【0067】
空気清浄機や除湿器においては、フィルタ(特に光源を備えるフィルタ)や外装材等の少なくとも一部に可視光応答型の光触媒粉末や光触媒材料が用いられる。例えば、フィルタや外装材の表面に光触媒粉末や光触媒材料の塗布層が設けられる。光触媒粉末や光触媒材料の塗布層は太陽光や光源から照射された可視光により励起し、空気清浄機や除湿器に付着した油分等の汚れ物質や臭気を分解、除去する効果を示す。扇風機においては、ファンに可視光応答型の光触媒粉末や光触媒材料の塗布層が設けられる。光触媒粉末や光触媒材料の塗布層は扇風機に付着した汚れ物質や臭気を分解、除去する効果を示す。
【0068】
蛍光灯や電気スタンドおいては、シェードの少なくとも一部に可視光応答型の光触媒粉末や光触媒材料が用いられる。例えば、シェードの内面や外面に光触媒粉末や光触媒材料の塗布層が設けられる。光触媒粉末や光触媒材料の塗布層は、蛍光灯や電気スタンドから照射された可視光により励起し、蛍光灯や電気スタンドに付着した油分等の汚れ物質や臭気を分解、除去する効果を示す。さらに、光触媒粉末や光触媒材料による防汚効果によって、光触媒を塗布したシェードは汚れにくく、いつまでも綺麗に保つことができる。
【0069】
可視光応答型光触媒製品としての内壁材、天井材、パーテション、ブラインド、ふすま、障子等の建材は、それぞれ光触媒粉末や光触媒材料の塗布層を有する。光触媒粉末や光触媒材料の塗布層は、太陽光や各種光源から照射された可視光により励起し、内壁材、天井材、パーテション、ブラインド、ふすま、障子等に付着した油分等の汚れ物質や臭気を分解、除去する効果を示す。さらに、光触媒粉末や光触媒材料による防汚効果によって、光触媒を塗布した建材は汚れにくいという効果を示す。可視光応答型光触媒はスリッパやその収納棚、クリスマスツリー等にも有効である。
【0070】
可視光応答型光触媒を使用した繊維製品としては、カーテン、のれん、制服等が挙げられる。これら繊維製品の表面に光触媒粉末や光触媒材料の塗布層が設けられる。あるいは、光触媒粉末を練り込んだ繊維を用いて、カーテン、のれん、制服等の繊維製品を作製する。光触媒粉末や光触媒材料は太陽光や各種光源から照射された可視光により励起し、カーテン、のれん、制服等の繊維製品に付着した油分等の汚れ物質や臭気を分解、除去する効果を示す。可視光応答型光触媒はこれら以外の繊維製品に対しても有効である。
【実施例】
【0071】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0072】
(実施例1)
原料粉末として平均粒径が0.5μmの三酸化タングステン粉末を用意した。この原料粉末をキャリアガス(Ar)と共にRFプラズマに噴霧し、さらに反応ガスとして酸素を75L/minの流量で流した。このようにして、原料粉末を昇華させながら酸化反応させる昇華工程を経て酸化タングステン粉末を作製した。粉末の製造条件を表1に示す。
【0073】
得られた酸化タングステン粉末のL*a*b*表色系の各数値、BET比表面積、TEM写真の画像解析による平均粒径、窒素含有量、金属元素の含有量を測定した。L*a*b*の測定はコニカミノルタ社製分光測色計CM−2500dを用いて行った。BET比表面積の測定は、マウンテック社製比表面積測定装置Macsorb1201を用いて行った。この際の前処理としては窒素中にて200℃×20分の条件で実施した。TEM観察は日立社製H−7100FAを使用し、拡大写真を画像解析にかけて粒子50個以上を抽出し、体積基準の積算径を求めてD50を算出した。
【0074】
L*a*b*表色系による色の測定結果は、a*が−10.9、b*が9.8、L*が85.1であった。BET比表面積は117m/gで、平均粒径(D50)は7.8nmであった。平均粒径(D50)は比表面積から換算した平均粒径と同等であった。酸化タングステン粉末の窒素含有量は20ppm、金属含有量は10ppm以下であった。
【0075】
得られた酸化タングステン粉末のX線回折を実施した。X線回折はリガク社製X線回折装置RINT−2000を用いて、Cuターゲット、Niフィルタ、グラファイト(002)モノクロメータを使用して行った。測定条件は、管球電圧:40kV、管球電流:40mA、発散スリット:1/2°、散乱スリット:自動、受光スリット:0.15mm、2θ測定範囲:20〜70°、走査速度:0.5°/min、サンプリング幅:0.004°である。X線回折結果を図1に示す。
【0076】
図1から明らかなように、各ピークがブロードとなり、その分離が困難であることが分かる。ただし、2θが22.5〜25°の範囲に最強ピークが存在し、かつ2θが33〜35°の範囲にもピークが存在することが分かる。このことから、得られた酸化タングステン粉末は単斜晶、三斜晶および斜方晶から選ばれる1種または2種以上の混晶からなる結晶構造を有するものと推定される。
【0077】
次に、得られた酸化タングステン粉末の光触媒性能を評価するために、アセトアルデヒドの分解能力を測定、評価した。アセトアルデヒドガスの分解性能は、JIS−R−1701−1(2004)の窒素酸化物の除去性能(分解能力)評価と同様の流通式の装置を用いて、以下に示す条件で行った。ガス分析装置としてはINOVA社製マルチガスモニタ1412を使用した。測定結果を表2に示す。ガス残存率は10%であり、ガス分解性能が高いことが確認された。
【0078】
アセトアルデヒドガスの分解性能評価において、アセトアルデヒドガスの初期濃度は10ppm、ガス流量は140mL/min、試料量は0.2gとした。試料の調整は5×10cmのガラス板に塗布して乾燥させた。粉末試料の場合、水で広げて乾燥させた。前処理はブラックライトで12時間照射した。光源に蛍光灯(東芝ライテック社製FL20SS・W/18)を使用し、アクリル板で400nm以下の波長をカットした。照度は6000lxとした。初めに光を照射せずにガス吸着がなくなり安定するまで待つ。安定した後に光照射を開始する。このような条件下で光を照射し、15分後のガス濃度を測定してガス残存率を求める。ただし、15分経過後もガス濃度が安定しない場合には、安定するまで継続して濃度を測定する。
【0079】
(比較例1)
反応ガスとしてアルゴンを80L/min、空気を5L/minの流量で流し、反応容器内の圧力を30kPaと減圧側に調整する以外は、実施例1と同様の昇華工程を経て酸化タングステン粉末を作製した。得られた酸化タングステン粉末について、実施例1と同様の測定、評価を行った。酸化タングステン粉末の作製条件を表1に、測定、評価結果を表2に示す。比較例1の酸化タングステン粉末はb*およびL*の値が小さく、これによってガス分解性能(ガス残存率)が85%と劣っていることが確認された。
【0080】
(実施例2、3)
反応ガスとしてアルゴンを80L/min、空気を5L/minの流量で流す以外は、実施例1と同様の昇華工程を実施して酸化タングステン粉末を作製した。実施例2では酸化タングステン粉末を大気中にて450℃×0.25hの条件で熱処理した。実施例3では酸化タングステン粉末を大気中にて550℃×0.5hの条件で熱処理した。得られた酸化タングステン粉末について、実施例1と同様の測定、評価を行った。酸化タングステン粉末の作製条件を表1に、測定、評価結果を表2に示す。実施例2および実施例3による酸化タングステン粉末は、いずれも優れたガス分解性能を示すことが確認された。X線回折結果はいずれも実施例1と同様にピーク分離が困難なパターンであった。
【0081】
(実施例4)
ここでは実施例1と同様の昇華工程を実施した。ただし、プラズマに投入する原料として、FeやMo等の不純物量が多い酸化タングステン粉末を用いた。得られた酸化タングステン粉末について、実施例1と同様の測定、評価を行った。酸化タングステン粉末の作製条件を表1に、測定、評価結果を表2に示す。酸化タングステン粉末は良好なガス分解性能を示すことが確認された。このことから、微量の金属元素を不純物として含んでいても問題がないことが確認された。なお、X線回折結果は実施例1と同様にピーク分離が困難なパターンであった。
【0082】
(実施例5)
反応ガスとしてアルゴンを80L/min、酸素を10L/min、窒素を40L/minの流量で流す以外は、実施例1と同様の昇華工程を実施して酸化タングステン粉末を作製した。このようにして得た酸化タングステン粉末について、実施例1と同様の測定、評価を行った。酸化タングステン粉末の作製条件を表1に、測定、評価結果を表2に示す。L*a*b*表色系による色調やBET比表面積は所定の値を満足していたものの、窒素含有量が500ppmと高いことから、ガス分解性能(ガス残存率)が52%と実施例1に比べて若干低いことが確認された。なお、X線回折結果は実施例1と同様にピーク分離が困難なパターンであった。
【0083】
(比較例2)
実施例2と同様の昇華工程を経て作製した酸化タングステン粉末に、大気中にて1100℃×0.2hの条件で熱処理を施した。このようにして得た酸化タングステン粉末について、実施例1と同様の測定、評価を行った。酸化タングステン粉末の作製条件を表1に、測定、評価結果を表2に示す。酸化タングステン粉末のBET比表面積が5m2/gと小さく、平均粒径が198nmと大きく、その結果としてガス分解性能が低いことが確認された。これは高温での熱処理で粒成長が起こったためと考えられる。
【0084】
(比較例3)
試薬等として市販されている酸化タングステン粉末(レアメタリック社製)を用いて、実施例1と同様の測定、評価を行った。測定評価結果を表2に示す。また、比較例3の酸化タングステン粉末のX線回折結果を図2に示す。L*a*b*表色系による色調を満たしていたものの、BET比表面積が0.7m/gと小さく、このためにガス分解性能(ガス残存率)は97%と低いことが確認された。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
(実施例6)
実施例1で得られた酸化タングステン粉末に酸化銅(CuO)粉末の割合が0.5質量%となるように混合した。このようにして得た酸化タングステン粉末について、実施例1と同様のガス分解性能評価を行った。ガス分解性能(ガス残存率)は20%であり、実施例1と同等の高い性能を有することが確認された。このことから、一般的に光触媒性能の向上のために添加される元素(酸化物でもよい)を、不純物の範囲を超えるような量で含んでいても問題がないことが確認された。
【0088】
(実施例7)
実施例1で作製した酸化タングステン粉末を5質量%、コロイダルシリカを0.05質量%の割合で含む水系塗料を作製した。これをガラスに塗布して乾燥させることによって、光触媒被覆層を有するガラスを作製した。このガラスのガス分解性能を前述した方法にしたがって評価したところ、ガス残存率が15%と優れていることが確認された。次に、光触媒被覆層を有するガラスについて、波長550nmの光を照射したときの透過率を測定した。光透過率の測定は島津製作所製UV−Vis分光光度計UV−2550を用いて行った。その結果、膜厚が0.25μmのときに光の透過率は95%であった。
【0089】
さらに、上記した塗料を自動車の室内空間のガラスに塗布したところ、タバコの臭いが低減し、またガラスが汚れにくくなった。ちなみに、塗料を塗布したガラスについて、親水性を評価したところ接触角が1°以下であり、超親水性を発現した。さらに、黄色ブドウ球菌、大腸菌やカビを用いて抗菌性の評価したところ、いずれも優れた抗菌性を示すことが確認された。実施例の可視光応答型光触媒粉末はアセトアルデヒドの分解性能に優れ、また光触媒被覆層は透過率が高く、視覚的に色ムラ等の問題が生じにくい。そのため、自動車の室内空間で使用される部材や建材等に好適に用いられる。
【0090】
(実施例8)
実施例7と同様にして作製した塗料を、冷蔵庫の樹脂部品の表面に塗布した。この樹脂部品について、アセトアルデヒドガスの分解性能と抗菌性能を評価した。アセトアルデヒドガスの分解性能は実施例1と同様にして評価した。抗菌性能は黄色ブドウ球菌を用いて評価した。塗料の塗布面に黄色ブドウ球菌を付着させ、光照射後の菌のコロニー数を測定した。実施例8による樹脂部品は、ガス残存率が18%、48時間後の菌のコロニー数が1200個と良好な結果を示した。これに対し、比較例1の酸化タングステン粉末を用いた塗料を塗布した樹脂部品では、ガス残存率が85%、48時間後の菌のコロニー数が100000個という値しか得られなかった。
【0091】
可視光応答型光触媒塗料を冷蔵庫の少なくとも一部に塗布することによって、食品への悪影響が懸念される紫外線照射手段を設置せずとも、可視光を点灯することにより光触媒が励起され、庫内の脱臭、除菌、汚れ防止等の効果を得ると共に、野菜や果物自体から放出される、植物の成長を促進させるエチレン、アセトアルデヒド等のガス成分を分解することにより、野菜や果物の長期保存が可能となる。
【0092】
(実施例9)
実施例7と同様にして作製した塗料を、内装材(コンクリートおよび木材)の表面に塗布した。このような内装材について、アセトアルデヒドガスの分解性能と抗菌性能を評価した。アセトアルデヒドガスの分解性能は実施例1と同様にして評価した。抗菌性能については、黄色ブドウ球菌を入れた水を試料に塗布し、48時間後の菌のコロニー数を調べた。実施例9による内装材は、ガス残存率が18%、48時間後の菌のコロニー数が1200個と良好な結果を示した。これに対し、比較例1の酸化タングステン粉末を用いた塗料を塗布した内装材では、ガス残存率が85%、48時間後の菌のコロニー数が100000個という値しか得られなかった。
【0093】
可視光応答型光触媒塗料を内装材の少なくとも一部に塗布することによって、室内の脱臭、除菌、汚れ防止等の効果を得ることができる。なお、セラミックス、プラスチック、ゴム等の基材を用いた内装材についても、同様な効果を示すことが確認された。さらに、他の製品に関しても、各種基材に可視光応答型光触媒塗料を塗布することによって、同様なガス分解能や抗菌性能が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の態様に係る可視光応答型光触媒粉末は、体色や比表面積に基づいて光触媒性能やその安定性に優れる。従って、そのような可視光応答型光触媒粉末を適用することによって、可視光による光触媒性能やその再現性に優れる可視光応答型の光触媒製品としての冷蔵庫を提供することが可能となる。
図1
図2