特許第5700036号(P5700036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5700036高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700036
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20150326BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20150326BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   C02F1/58 K
   C02F1/58 M
   C02F1/58 R
   C02F1/58 Q
   C02F1/62 B
   C02F1/62 C
   C02F1/62 Z
   C02F1/52 J
   C02F1/52 K
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-505755(P2012-505755)
(86)(22)【出願日】2011年3月17日
(86)【国際出願番号】JP2011056477
(87)【国際公開番号】WO2011115230
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2014年3月10日
(31)【優先権主張番号】特願2010-63284(P2010-63284)
(32)【優先日】2010年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】林 一樹
(72)【発明者】
【氏名】長井 悟
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−241572(JP,A)
【文献】 特開平10−000479(JP,A)
【文献】 特開2006−272121(JP,A)
【文献】 特許第3256606(JP,B2)
【文献】 特許第3954391(JP,B2)
【文献】 特許第3463493(JP,B2)
【文献】 特開2002−126782(JP,A)
【文献】 特許第2910346(JP,B2)
【文献】 特開平04−267994(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/120704(WO,A1)
【文献】 特開2010−089047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58
C02F 1/62
C02F 1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入される無機系イオン含有排水中の無機系イオンを不溶化する不溶化処理槽と、
前記不溶化処理槽から導入された排出水を処理水と分離汚泥とに沈降分離する沈殿槽と、
前記沈殿槽と前記不溶化処理槽とを接続する分離汚泥供給ラインと、
前記分離汚泥供給ライン上に設置され、前記沈殿槽から前記分離汚泥供給ラインを経て導入された分離汚泥の表面に、前記無機系イオンと不溶化物を形成する対イオンを含む対イオン含有物質を吸着させ、得られた吸着汚泥を前記不溶化処理槽に供給する汚泥改質槽と、
前記汚泥改質槽に前記対イオン含有物質を供給する対イオン含有物質供給手段と
を備え、
前記不溶化処理槽に導入された無機系イオン含有排水を、前記汚泥改質槽から供給された前記吸着汚泥と接触させ、前記無機系イオン含有排水中の無機系イオンを前記吸着汚泥の前記対イオンと反応させて不溶化する不溶化工程と、
前記不溶化処理槽から導入された排出水を前記沈殿槽にて処理水と分離汚泥とに沈降分離する沈降分離工程と、
前記沈殿槽から排出される前記分離汚泥の少なくとも一部を、前記分離汚泥供給ラインを経て前記汚泥改質槽に供給する分離汚泥供給工程と、
前記汚泥改質槽に導入された前記分離汚泥の表面に前記対イオン含有物質を吸着させて吸着汚泥を生成する吸着汚泥生成工程と
を含む一連の工程を繰り返すことによって高密度汚泥を生成し、本運転を行う高密度汚泥生成型水処理装置
の前記本運転の前に行われる高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法において、
前記一連の工程を繰り返すことによって前記装置内の低密度汚泥から高密度汚泥を生成する高密度汚泥生成工程を含み、
該高密度汚泥生成工程中に前記沈殿槽の槽内液の液面より下方の領域(槽内液領域)の体積に対する前記沈殿槽内の汚泥界面より下方の領域(分離汚泥領域)の体積の割合である汚泥体積割合が30vol%以下となるように制御する制御工程を含む
ことを特徴とする高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法。
【請求項2】
請求項1において、前記汚泥体積割合が4〜30vol%となるように制御する
ことを特徴とする高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記不溶化処理槽に前記無機系イオン含有排水を導入する排水導入工程と、
前記沈殿槽における沈降分離により得られた処理水を排出する処理水排出工程と、
をさらに含み、
前記無機系イオン含有排水が工場排水である、
ことを特徴とする高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法。
【請求項4】
請求項1又は2において、前記高密度汚泥生成工程の前に、
前記不溶化処理槽に前記無機系イオン含有排水を導入し、前記不溶化処理槽から導入された排出水を前記沈殿槽にて処理水と分離汚泥とに沈降分離して、前記沈殿槽に汚泥を蓄積させる汚泥蓄積工程をさらに含み、
前記汚泥蓄積工程の開始時において、前記汚泥体積割合が0vol%である、
ことを特徴とする高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法。
【請求項5】
請求項4において、
予め5〜15%の範囲内で所定値を決定し、
前記汚泥体積割合の制御目標値が前記所定値未満である場合には、前記汚泥蓄積工程において前記汚泥体積割合を所定値に到達させ、前記高密度汚泥生成工程において、前記沈殿槽にて排泥を行うことによって前記沈殿槽における前記汚泥体積割合を減少させ、前記汚泥体積割合を前記制御目標値に到達させた後、前記沈殿槽にて排泥を行いながら前記汚泥体積割合を前記制御目標値となるように制御し、
前記汚泥体積割合の制御目標値が前記所定値と同等である場合には、前記高密度汚泥生成工程において、前記沈殿槽にて排泥を行いながら前記汚泥体積割合を前記制御目標値となるように制御し、
前記汚泥体積割合の制御目標値が前記所定値より大きい場合には、前記汚泥蓄積工程において前記汚泥体積割合を前記所定値に到達させ、さらに前記高密度汚泥生成工程において、前記沈殿槽にて排泥を行わずに前記沈殿槽における前記汚泥体積割合を増加させて、前記汚泥体積割合を前記制御目標値に到達させた後、前記沈殿槽にて排泥を行いながら前記汚泥体積割合を制御目標値となるように制御する、
ことを特徴とする高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、
無機系イオンがAl3+、Fe2+、Fe3+、Cr2+、F、PO2−又はSO2−であり、汚泥濃度が150〜350g/Lの範囲内で設定した所定値に到達した時点で立上げ工程が終了したものと判定する
ことを特徴とする高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項において、
無機系イオンがCu2+、Mn2+、Ni2+又はZn2+であり、汚泥濃度が50〜150g/Lの範囲内で設定した所定値に到達した時点で立上げ工程が終了したものと判定する
ことを特徴とする高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中和反応による金属水酸化物析出反応等により生成される高密度汚泥(HDS(High Density Solids)汚泥)が注目されている。高密度汚泥は、沈降性と脱水性に富み、汚泥の減容化に有用とされている。高密度汚泥は一般に次のような方法で生成される。即ちアルミニウムイオン等の無機系イオンを含む原水を不溶化処理槽及び凝集沈殿槽で順次処理し、凝集沈殿槽で得られた分離汚泥を汚泥改質槽に供給する。そして、汚泥改質槽で、分離汚泥にアルカリを吸着させて吸着汚泥を生成した後、この吸着汚泥と無機性排水中の無機系イオンとを接触させ、吸着汚泥表面に不溶化物を形成させる。このようにして原水を処理する間に高密度汚泥が生成される。
【0003】
このような高密度汚泥を生成するには、高密度汚泥を生成することが可能な水処理装置(以下、「高密度汚泥生成型水処理装置」と呼ぶ)を新設することはもちろん、凝集沈殿槽を含む既設の水処理装置を、改造によって高密度汚泥生成型水処理装置に切り替えることも考えられる。この際、高密度汚泥生成型水処理装置に原水の供給が開始されると、特に既設の水処理装置を高密度汚泥生成型水処理装置に切り替える場合には、原水を排出する工場がフル稼働の状態にあるため原水の流量や無機系イオン濃度が高くなっていることが多い。そのため、高密度汚泥生成型水処理装置を短期間で立ち上げること、即ち、高密度汚泥生成型水処理装置において、高密度汚泥の濃度を短期間で高めることが極めて重要となる。
【0004】
高密度汚泥生成型水処理装置において高密度汚泥の濃度を短期間で高める方法として、下記特許文献1に記載されたものが知られている。下記特許文献1では、原水を反応槽(不溶化処理槽に相当)に供給する前に、無機系イオン源を含む化合物と不溶化剤とを反応槽に添加し、汚泥の排泥を実施せず固液分離槽に汚泥を蓄積させ、種晶となる汚泥を十分に確保してから原水を反応槽に供給することにより水処理装置の立上げを短期間で行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−272121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1記載の方法には、高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ期間短縮の観点からは未だ改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを短期間で行うことができる高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。まず特許文献1の立上げ方法では、固液分離槽内の分離汚泥を排泥せずに蓄積させるため、槽内の汚泥量が非常に多い。このため、立上げの初期の段階では、固液分離槽内に過剰に存在する凝集フロックの高密度汚泥への改質が分散されるため、系内を循環する高密度汚泥の割合がなかなか大きくならず、その高密度汚泥の濃度を短期間で高めることができないのではないかと本発明者らは考えた。そこで、本発明者らは更に鋭意研究を重ねた結果、立上げの初期の段階において、固液分離槽の槽内の分離汚泥の領域の体積割合が一定値以下になるよう制御することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、導入される無機系イオン含有排水中の無機系イオンを不溶化する不溶化処理槽と、前記不溶化処理槽から導入された排出水を処理水と分離汚泥とに沈降分離する沈殿槽と、前記沈殿槽と前記不溶化処理槽とを接続する分離汚泥供給ラインと、前記分離汚泥供給ライン上に設置され、前記沈殿槽から前記分離汚泥供給ラインを経て導入された分離汚泥の表面に、前記無機系イオンと不溶化物を形成する対イオンを含む対イオン含有物質を吸着させ、得られた吸着汚泥を前記不溶化処理槽に供給する汚泥改質槽と、前記汚泥改質槽に前記対イオン含有物質を供給する対イオン含有物質供給手段とを備え、前記不溶化処理槽に導入された無機系イオン含有排水を、前記汚泥改質槽から供給された前記吸着汚泥と接触させ、前記無機系イオン含有排水中の無機系イオンを前記吸着汚泥の前記対イオンと反応させて不溶化する不溶化工程と、前記不溶化処理槽から導入された排出水を前記沈殿槽にて処理水と分離汚泥とに沈降分離する沈降分離工程と、前記沈殿槽から排出される前記分離汚泥の少なくとも一部を、前記分離汚泥供給ラインを経て前記汚泥改質槽に供給する分離汚泥供給工程と、前記汚泥改質槽に導入された前記分離汚泥の表面に前記対イオン含有物質を吸着させて吸着汚泥を生成する吸着汚泥生成工程とを含む一連の工程を繰り返すことによって高密度汚泥を生成し、本運転を行う高密度汚泥生成型水処理装置の前記本運転の前に行われる高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法において、前記一連の工程を繰り返すことによって前記装置内の低密度汚泥から高密度汚泥を生成する高密度汚泥生成工程を含み、該高密度汚泥生成工程中に、前記沈殿槽内の前記沈殿槽の槽内液の液面より下方の領域(槽内液領域)の体積に対する汚泥界面より下方の領域(分離汚泥領域)の体積の割合である汚泥体積割合が、30vol%以下となるように制御する制御工程を含むことを特徴とする高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法である。
【0010】
この高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法によれば、無機系イオン含有排水が不溶化処理槽に導入される。一方、対イオン含有物質供給手段により汚泥改質槽に対イオン含有物質が供給されると、分離汚泥の表面に対イオン含有物質が吸着して吸着汚泥が生成され、この吸着汚泥は、汚泥改質槽から不溶化処理槽に供給される。このとき、不溶化処理槽にて無機系イオン含有排水と吸着汚泥とが接触することにより、無機系イオン含有排水中の無機系イオンが吸着汚泥の対イオンと反応して不溶化される。そして、不溶化処理槽からの排出水は沈殿槽に導入され、分離汚泥と処理水とに沈降分離される。そして、分離汚泥の少なくとも一部が沈殿槽から分離汚泥供給ラインを経て汚泥改質槽に供給され、上記のように汚泥改質槽にて吸着汚泥が生成され、この吸着汚泥が汚泥改質槽から不溶化処理槽に供給される。こうして上記の一連の工程が繰り返し行われることによって高密度汚泥が生成される。そして、この一連の工程を繰り返し行って高密度汚泥を生成・成長させながら、槽内液領域の体積に対する分離汚泥領域の体積の割合である汚泥体積割合が30vol%以下となるように制御される。これにより、沈殿槽において、分離汚泥中における高密度汚泥の比率が低くなることを抑制することができ、過剰量の凝集フロックによる高密度汚泥の生成の遅れを抑制することが可能となる。このため、本発明の高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法によれば、高密度汚泥を短期間で十分に生成することが可能となり、その結果、高密度汚泥の濃度を短期間で高めることが可能となる。即ち高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを短期間で行うことができる。その結果、立上げ後の本運転を早期に行うことができる。
【0011】
上記立上げ方法においては、前記汚泥体積割合が4〜30vol%となるように制御することが好ましい。
【0012】
この場合、高密度汚泥生成型水処理装置の立上げに際し、高密度汚泥をより短期間で十分に生成することが可能となり、高密度汚泥の濃度をより短期間で高めることができる。即ち、高密度汚泥生成型水処理装置の立上げをより短期間で行うことができる。
【0013】
上記立上げ方法は、前記不溶化処理槽に前記無機系イオン含有排水を導入する排水導入工程と、前記沈殿槽における沈降分離により得られた処理水を排出する処理水排出工程とをさらに含み、前記無機系イオン含有排水が工場排水である場合に特に有用である。
【0014】
これは、高密度汚泥生成型水処理装置に工場排水の供給が開始される際に、工場排水を排出する工場がフル稼働の状態にあって、工場排水の流量や無機系イオン濃度が高くなっている場合には、沈殿槽における沈降分離により得られた処理水の水質が悪化しやすくなるため、高密度汚泥生成型水処理装置を短期間で立ち上げることの重要性がより高まるためである。
【0015】
沈殿槽の汚泥濃度C1(g/L)の分離汚泥を採取してメスシリンダーに入れ、24時間静置して汚泥を沈降分離した後の汚泥の濃縮割合をRとし、24時間静置後の沈降汚泥領域中の汚泥濃度をC2(g/L)とすると、C2=C1/Rで表される。ここで、濃縮割合Rは、メスシリンダーにおける汚泥領域の容量の比(24時間静置後の汚泥領域の容量/24時間静置前の汚泥領域の容量)として算出される割合である。本発明における高密度汚泥とは、無機系イオンがAl3+、Fe2+、Fe3+、Cr2+、F、PO2−又はSO2−である場合にはC2が150g/L以上となるような汚泥を指し、無機系イオンがCu2+、Mn2+、Ni2+又はZn2+である場合にはC2が50g/L以上となるような汚泥を指す。なお、汚泥濃度の単位はg/Lでなくwt%でもよい。この場合、本発明における高密度汚泥とは、無機系イオンがAl3+、Fe2+、Fe3+、Cr2+、F、PO2−又はSO2−である場合にはC2が15wt%以上となるような汚泥を指し、無機系イオンがCu2+、Mn2+、Ni2+又はZn2+である場合にはC2が5wt%以上となるような汚泥を指す。また上記条件を満たさない汚泥を低密度汚泥とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法によれば、高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを短期間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法の対象となる高密度汚泥生成型水処理装置の一例を示すフロー図である。
図2】沈殿槽における分離汚泥領域及び槽内液領域を示す模式図である。
図3】実施例4及び比較例1に係る立上げ方法の実施に際して得られる汚泥の濃度と経過日数との関係を示すグラフである。
図4】実施例9及び比較例3に係る立上げ方法の実施に際して得られる汚泥の濃度と経過日数との関係を示すグラフである。
図5】実施例10及び比較例4に係る立上げ方法の実施に際して得られる汚泥の濃度と経過日数との関係を示すグラフである。
図6】実施例11及び比較例5に係る立上げ方法の実施に際して得られる汚泥の濃度と経過日数との関係を示すグラフである。
図7】実施例12及び比較例6に係る立上げ方法の実施に際して得られる汚泥の濃度と経過日数との関係を示すグラフである。
図8】実施例13及び比較例7に係る立上げ方法の実施に際して得られる汚泥の濃度と経過日数との関係を示すグラフである。
図9】実施例14及び比較例8に係る立上げ方法の実施に際して得られる汚泥の濃度と経過日数との関係を示すグラフである。
図10】実施例15及び比較例9に係る立上げ方法の実施に際して得られる汚泥の濃度と経過日数との関係を示すグラフである。
図11】実施例16及び比較例10に係る立上げ方法の実施に際して得られる汚泥の濃度と経過日数との関係を示すグラフである。
図12】実施例17及び比較例11に係る立上げ方法の実施に際して得られる汚泥の濃度と経過日数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1及び第2実施形態について詳細に説明する。
【0019】
<第1実施形態>
はじめに本発明に係る高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法の第1実施形態について詳細に説明する。
【0020】
まず立上げ方法の説明に先立ち、本発明に係る高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法を実施するための高密度汚泥生成型水処理装置について図1を用いて説明する。図1は本発明に係る高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法を実施するための高密度汚泥生成型水処理装置の一例を示すフロー図である。
【0021】
図1に示すように、高密度汚泥生成型水処理装置は、第1不溶化処理槽1と、第2不溶化処理槽2と、凝集処理槽3と、沈殿槽4と、汚泥改質槽5とを備えている。
【0022】
第1不溶化処理槽1には、無機系イオンを含有する無機系イオン含有排水を導入する導入ラインL1が接続され、第1不溶化処理槽1と第2不溶化処理槽2とは中間ラインL2によって接続され、第2不溶化処理槽2と凝集処理槽3とは中間ラインL3によって接続され、凝集処理槽3と沈殿槽4とは中間ラインL4によって接続されている。
【0023】
沈殿槽4と汚泥改質槽5とは、沈殿槽4で得られた分離汚泥11を汚泥改質槽5に供給する分離汚泥供給ラインL5によって接続され、汚泥改質槽5と第1不溶化処理槽1とは、汚泥改質槽5で得られた吸着汚泥を第1不溶化処理槽1に供給する吸着汚泥供給ラインL11によって接続されている。
【0024】
沈殿槽4には、処理水を排出する処理水排出ラインL7が接続され、分離汚泥供給ラインL5からは、沈殿槽4で得られた分離汚泥11を排出する汚泥排出ラインL6が分岐している。分離汚泥供給ラインL5には、汚泥供給ポンプP2、流量計6及び汚泥濃度計7が設置され、汚泥排出ラインL6には排泥ポンプP1が設置されている。ここで、汚泥供給ポンプP2と汚泥濃度計7とは電気的に接続され、汚泥濃度計7で測定された汚泥濃度に基づいて、汚泥供給ポンプP2により汚泥改質槽5への分離汚泥11の供給量を制御することが可能となっている。
【0025】
第1不溶化処理槽1には、ラインL8を介してpH調整剤供給槽8が接続され、第2不溶化処理槽2には、ラインL9を介してpH調整剤供給槽9が接続され、凝集処理槽3には、ラインL10を介して凝集剤供給槽10が接続されている。
【0026】
汚泥改質槽5には、バルブV1が設置されたラインL12を経て、無機系イオンと不溶化物を形成する対イオンを含む対イオン含有物質を導入することが可能となっている。なお、本実施形態では、バルブV1及びラインL12によって対イオン含有物質供給手段が構成されている。
【0027】
次に、高密度汚泥生成型水処理装置の運転方法について説明する。運転方法は、本運転工程と、その前に行われる立上げ工程とを含むものである。
【0028】
まず高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ工程について説明する。本実施形態では、高密度汚泥生成型水処理装置が、無機系イオン含有排水を排出する工場の新設に伴って新設されたものである場合を例にして説明する。
【0029】
高密度汚泥生成型水処理装置が、無機系イオン含有排水を排出する工場の新設に伴って新設されたものである場合、立上げ工程の開始時には、沈殿槽4における汚泥濃度は0g/Lとなっている。このため、立上げ工程は、立上げ開始後に行われる汚泥蓄積工程と、その後に行われる高密度汚泥を生成する高密度汚泥生成工程とを含む。
【0030】
まず汚泥蓄積工程について説明する。汚泥蓄積工程においては、無機系イオン含有排水(例えば工場排水)を、導入ラインL1を経て第1不溶化処理槽1に導入する(排水導入工程)。ここで、無機系イオン含有排水中の無機系イオンは、例えば金属イオン、フッ素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、炭酸イオンのいずれであってもよい。金属イオンとしては、例えばFe2+,Fe3+、Cu2+,Mn2+,Cr2+,Co2+,Ni2+,Zn2+,Cd2+などの重金属イオンや、Mg3+、Al3+などの軽金属イオンなどが挙げられる。このとき、第1不溶化処理槽1には、凝集処理槽3において汚泥を凝集させるため、pH調整剤供給槽8からラインL8を経てpH調整剤を供給する。第1不溶化処理槽1の槽内液のpHは、通常、pH4〜12の範囲に適宜調整される。このときのpHは生成する不溶化物によって異なる。pH調整剤としては、例えば苛性ソーダ、硫酸や塩酸などが用いられる。
【0031】
第1不溶化処理槽1からの排出水は、中間ラインL2を経て第2不溶化処理槽2に導入する。第2不溶化処理槽2には、凝集処理槽3において汚泥を凝集させるため、pH調整剤供給槽9からラインL9を経てpH調整剤を供給する。このとき、第2不溶化処理槽2の槽内液のpHは通常、第1不溶化処理槽1と同じく、pH4〜12の所定の範囲に適宜調整される。このときのpHは生成する不溶化物によって異なる。例えば、Al3+、Fe3+,F,SO2−はpH6.0〜8.0、Cr2+,Cu2+,Mn2+,Ni2+,Zn2+はpH9.5〜11.0、POはpH9.0〜10.0の範囲で調整される。pH調整剤としては、第1不溶化処理槽1と同じく、苛性ソーダ、硫酸などを用いることができる。
【0032】
第2不溶化処理槽2からの排出水は、中間ラインL3を経て凝集処理槽3に導入する。凝集処理槽3には、凝集剤供給槽10からラインL10を経て凝集剤が供給される。凝集剤は、凝集機能を有するものであれば特に制限されないが、一般には高分子凝集剤が用いられる。高分子凝集剤は、ノニオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤のいずれも適用可能であるが、例えば無機系イオン含有排水がアルミニウムイオン含有排水である場合は、ノニオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤が上記高分子凝集剤として効果的である。
【0033】
凝集処理槽3からの排出水は、中間ラインL4を経て沈殿槽4に導入し、沈殿槽4にて処理水と分離汚泥11とに沈降分離する(沈降分離工程)。処理水は、処理水排出ラインL7を経て沈殿槽4から排出される(処理水排出工程)。
【0034】
本実施形態では、高密度汚泥生成型水処理装置が、無機系イオン含有排水を排出する工場の新設に伴って新設されたものである。このため、高密度汚泥生成を開始してしばらくは、工場が新設されたばかりの段階であり、工場から排出される無機系イオン含有排水の流量及び無機系イオンの濃度も小さい。このため、沈殿槽4においては分離汚泥11がほとんどない状態にある。このため、しばらくは排泥ポンプP1を作動させず、分離汚泥11を蓄積させる。
【0035】
やがて、工場がフル稼働の状態となり、工場から排出される無機系イオン含有排水の流量及び無機系イオンの濃度が大きくなると、沈殿槽4における分離汚泥11の量が徐々に増えてくる。
【0036】
上記汚泥蓄積工程においては、沈殿槽4の槽内液の液面より下方の領域(槽内液領域)R1の体積に対する沈殿槽4内の汚泥界面Sより下方の領域(分離汚泥領域)R2の体積の割合(以下、「汚泥体積割合」と呼ぶ)を測定する(図2参照)。なお、汚泥界面Sとは、分離汚泥領域R2の最上面のことを言い、分離汚泥領域R2には分離汚泥11が含まれている。
【0037】
ここで、上記汚泥体積割合は以下のようにして判定することができる。即ち、まず沈殿槽4の槽内液領域R1の体積と、沈殿槽4の内壁面における槽内液の水面の位置との関係を予め確認しておく。この関係を確認しておけば、槽内液中の分離汚泥領域R2の汚泥界面Sの位置、及び、槽内液の液面Lの位置を確認することで、上記汚泥体積割合を判定することができる。分離汚泥領域R2の汚泥界面Sの位置は、例えば沈殿槽4に設置された汚泥界面計(図示せず)によって確認することができる。
【0038】
そして、上記汚泥体積割合が5〜15vol%の所定値に達したら、汚泥循環工程、即ち高密度汚泥生成工程を開始する。
【0039】
具体的には、沈殿槽4から分離汚泥11の少なくとも一部は、汚泥供給ポンプP2により、分離汚泥供給ラインL5を経て汚泥改質槽5に供給する(分離汚泥供給工程)。分離汚泥11は、その少なくとも一部を汚泥改質槽5に供給すればよく、必要に応じて一部のみ供給してもよいし、全部を供給してもよい。
【0040】
汚泥改質槽5には、対イオン含有物質供給槽(図示せず)から、ラインL12を経て対イオン含有物質を導入する。これにより、汚泥改質槽5に導入された分離汚泥11の表面に、対イオン含有物質中の対イオンが吸着して吸着汚泥が生成する(吸着汚泥生成工程)。対イオン含有物質は、無機系イオンと不溶化物を形成可能な対イオンを含むものであればよい。無機系イオンが例えば金属イオンである場合には、対イオンとしては水酸化物イオンが用いられる。この場合、対イオン含有物質としては、水酸化物イオンを含む物質、例えばCa(OH)又はNaOHなどを用いることができる。また対イオン含有物質としては、塩化物イオンを含む物質、例えばCaClを用いることも可能である。無機系イオンがフッ素イオンである場合には、対イオンとしては、水酸化物イオンのほか、Ca2+なども用いることができる。無機系イオンがリン酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオンである場合には、Fe2+,Fe3+又はCa2+などを用いることができる。こうして生成された吸着汚泥は、汚泥改質槽5から、吸着汚泥供給ラインL11を経て第1不溶化処理槽1に供給する。そして、第1不溶化処理槽1にて、無機系イオン含有排水と吸着汚泥とを接触させる。これにより、無機系イオン含有排水中の無機系イオンを吸着汚泥の対イオンと反応させて不溶化する(不溶化工程)。このとき、無機系イオンを対イオンと反応させて不溶化させるために、第1不溶化処理槽1の槽内液のpHは、生成する不溶化物によって異なり、通常、pH4〜12の所定の範囲に適宜調整される。このとき、pHは、上述したように、pH調整剤供給槽8からラインL8を経てpH調整剤を供給することによって調整することができる。pH調整剤としては、上述した苛性ソーダ、硫酸や塩酸などが用いられる。
【0041】
第1不溶化処理槽1からの排出水は、中間ラインL2を経て第2不溶化処理槽2に導入する。第2不溶化処理槽2には、pH調整剤供給槽9からラインL9を経てpH調整剤を供給する。このとき、第2不溶化処理槽2の槽内液のpHは通常、第1不溶化処理槽1と同じく、生成する不溶化処理物に応じてpH4〜12の所定の範囲に適宜調整される。pH調整剤としては、上述した苛性ソーダ、硫酸などを用いることができる。
【0042】
第2不溶化処理槽2からの排出水は、中間ラインL3を経て凝集処理槽3に導入する。凝集処理槽3には、凝集剤供給槽10からラインL10を経て凝集剤が供給される。凝集剤としては、上述した凝集剤が用いられる。
【0043】
凝集処理槽3からの排出水は、中間ラインL4を経て沈殿槽4に導入し、沈殿槽4にて処理水と分離汚泥11とに沈降分離する(沈降分離工程)。処理水は、処理水排出ラインL7を経て沈殿槽4から排出される(処理水排出工程)。
【0044】
そして、上述したように、沈殿槽4から分離汚泥11の少なくとも一部は、汚泥供給ポンプP2により、分離汚泥供給ラインL5を経て汚泥改質槽5に供給する(分離汚泥供給工程)。
【0045】
上記の一連の工程が繰り返し行われることによって高密度汚泥が生成される。
【0046】
次に、高密度汚泥の生成・成長は継続させつつ、上記汚泥体積割合が30vol%以下となるように制御目標値を設定して制御を開始する(図2参照)。
【0047】
このとき、予め5〜15vol%の範囲内で所定値を決定し、上記汚泥体積割合の制御目標値が上記所定値より小さいか、同等か、大きいかによってその後の工程が異なる。
【0048】
(1)上記汚泥体積割合の制御目標値が上記所定値未満である場合
高密度汚泥生成工程の開始後、排泥ポンプP1を作動し、汚泥排出ラインL6を経て排泥を開始し、沈殿槽4における汚泥量を減少させる。そして、上記汚泥体積割合が制御目標値に達したら、排泥ポンプP1の出力を調整することによって排泥量を制限し、汚泥体積割合が制御目標値となるように制御する。
【0049】
(2)上記汚泥体積割合の制御目標値が上記所定値と同等である場合
高密度汚泥生成工程の開始後、排泥ポンプP1を作動し、汚泥排出ラインL6を経て排泥を開始し、排泥ポンプP1の出力を調整することによって排泥量を制限し、汚泥体積割合が制御目標値となるように制御する。
【0050】
(3)上記汚泥体積割合の制御目標値が上記所定値より大きい場合
高密度汚泥生成工程の開始後は、排泥ポンプP1を作動せず、汚泥排出ラインL6を経て排泥を開始しないでおく。すると、汚泥量が増えて、上記汚泥体積割合が制御目標値に達する。この段階で、排泥ポンプP1を作動し、汚泥排出ラインL6を経て排泥を開始し、沈殿槽4において少量ずつ排泥を行う。そして、排泥ポンプP1の出力を調整することによって排泥量を制限し、上記汚泥体積割合が制御目標値となるように制御する。
【0051】
このとき、排泥量は、作業者が汚泥界面計(図示せず)や汚泥濃度計7等をモニタしながらポンプP1を出力することによって調整する。なお、排泥量は、立上げ工程中における単位時間当たりの排泥量(排泥速度)を経験的に予め確認しておき、その排泥速度と排泥時間とに基づいて決定してもよい。
【0052】
上記汚泥体積割合を30vol%以下となるように制御するためには、具体的には、沈殿槽4に設置された汚泥界面計によって汚泥界面Sの位置をモニタし、汚泥界面Sの位置が所定の位置に達したら、排泥ポンプP1により分離汚泥供給ラインL5及び汚泥排出ラインL6を経て分離汚泥11を排出させるようにすればよい。
【0053】
上記のように汚泥体積割合を制御することで、沈殿槽4において、分離汚泥11中における高密度汚泥の比率が低くなることを抑制することができ、過剰量の凝集フロックによる高密度汚泥の生成の遅れを抑制することが可能となる。このため、高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法によれば、高密度汚泥を短期間で十分に生成することが可能となり、その結果、高密度汚泥の濃度を短期間で高めることが可能となる。即ち高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを短期間で行うことができる。その結果、立上げ後の本運転を早期に行うことができる。なお、沈殿槽4内の汚泥体積割合が体積の30vol%を超えるように制御すると、高密度汚泥を短期間で十分に生成することができなくなり、高密度汚泥の濃度を高めるのに顕著に時間がかかる。
【0054】
また本実施形態では、立上げ工程のうち初期に行われる汚泥蓄積工程において、一旦まとまった汚泥量(例えば5〜15vol%)まで汚泥を増やしてから高密度汚泥生成工程を行う。これにより、高密度汚泥生成工程で汚泥を循環する過程で汚泥改質槽5、第1不溶化処理槽1、第2不溶化処理槽2及び凝集処理槽3に汚泥が取られて最終的に沈殿槽4に戻る汚泥量が減っても高密度汚泥の生成に必要な汚泥量を確保することができる。
【0055】
汚泥体積割合は4〜30vol%となるように制御することが好ましく、10〜20vol%となるように制御することがより好ましい。この場合、高密度汚泥生成型水処理装置の立上げに際し、高密度汚泥濃度をより短期間で十分に高めることができる。即ち、高密度汚泥生成型水処理装置の立上げをより短期間で行うことができる。その結果、立上げ後の本運転をより早期に行うことができる。
【0056】
以上のようにして立上げ工程が終了する。ここで、立上げ工程が終了するか否かは、高密度汚泥の生成が十分にされたか否かによる。そして、高密度汚泥の生成が十分になされたか否かの判定基準は、処理対象となる排水中の無機系イオンの種類によって異なる。即ち、無機系イオンがAl3+、Fe2+、Fe3+、Cr2+、F、PO2−又はSO2−である場合、これらは汚泥濃度を上昇させやすい。このため、汚泥濃度が、150〜350g/L(好適には200〜300g/L)の範囲内で任意に設定した数値に到達した時点で立上げ工程が終了したものと判定する。一方、無機系イオンがCu2+、Mn2+、Ni2+、Zn2+である場合、これらは汚泥濃度を上昇させにくい。このため、汚泥濃度が、50〜150g/L(好適には80〜120g/L)の範囲内で任意に設定した数値に到達した時点で立上げ工程が終了したものと判定する。なお、無機系イオンの種類によって高密度汚泥が十分に生成されたかどうかの判定基準が異なるのは、無機系イオンによって高密度化のしやすさ、つまり改質のしやすさが異なることによるものである。また高密度汚泥が生成されたかどうかの判定を汚泥濃度に基づいて行う理由は以下の通りである。即ち、現場では汚泥の結晶構造の確認や汚泥の乾燥などが困難であるため、汚泥密度を直接測定するのではなく、汚泥濃度を測定し、汚泥濃度に基づいて汚泥の十分な高密度化を推定する方が、立上げ工程の終了の判定が容易になるためである。
【0057】
以上のようにして立上げ工程が終了したら、本運転工程を行う。本運転工程では、沈殿槽4の分離汚泥11中に十分に高密度汚泥が生成されている。このため、沈殿槽4内の上記汚泥体積割合が30vol%以下となるように制御する必要はないので、30vol%を超える汚泥体積割合で制御してもよい。この場合、立上げ工程終了後、沈殿槽4における汚泥量を増やすことが必要となる。但し、本運転工程においては、沈殿槽4における汚泥体積割合は通常50vol%以下である。なお、立ち上げ後も30vol%以下の汚泥体積割合で制御してもよいが、この場合の汚泥体積割合は、立上げ工程の際の汚泥体積割合と同じにする。
【0058】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る高密度汚泥生成型水処理装置の立上げ方法の第2実施形態について詳細に説明する。本実施形態では、高密度汚泥生成型水処理装置が、汚泥改質槽5を有しない水処理装置(以下、「既設水処理装置」と呼ぶ)に汚泥改質槽5を設置したものである場合、即ち既設水処理装置を改造したものである場合について説明する。なお、本実施形態において、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0059】
既設水処理装置を高密度汚泥生成型水処理装置に改造する場合、既設水処理装置での水処理運転を続けながら、分離汚泥供給ラインL5上に汚泥改質槽5の設置が行われ、設置が完了したら、沈殿槽4からの分離汚泥11が汚泥改質槽5に供給され、汚泥の高密度化が開始される。即ち立上げ工程が開始される。このとき、既設水処理装置に排水を供給していた工場は通常、フル稼働の状態にある。このため、高密度汚泥の生成が開始されると同時に、工場から排出される無機系イオン含有排水の流量及び無機系イオンの濃度が大きくなっており、沈殿槽4においても十分な量の分離汚泥11が存在していることが多い。具体的には分離汚泥11は、20〜50vol%の汚泥体積割合で存在していることが多い。
【0060】
従って、本実施形態は、立上げ工程が、汚泥蓄積工程を含まない点で第1実施形態と異なる。即ち、本実施形態では、沈殿槽4に汚泥を蓄積させることなく、沈殿槽4における上記汚泥体積割合が30vol%以下となるように制御が開始される。ここで、立上げ工程開始時において、沈殿槽4における上記汚泥体積割合が30vol%よりも大きい場合には、排泥ポンプP1を作動して汚泥量を減少させる。そして、上記汚泥体積割合が、30vol%以下の制御目標値に達した後は、上記汚泥体積割合が制御目標値となるように制御される。一方、立上げ工程開始時において、沈殿槽4における上記汚泥体積割合が30vol%以下である場合には、必要に応じて排泥ポンプP1を作動して汚泥量を増加又は減少させる。そして、上記汚泥体積割合が、30vol%以下の制御目標値に達した後は、上記汚泥体積割合が制御目標値となるように制御される。
【0061】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では凝集処理槽3が設けられているが、凝集処理槽3は省略することも可能である。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0063】
<Al排水>
(実施例1)
以下のようにして、図1に示す高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。なお、高密度汚泥生成型水処理装置としては、沈殿槽4に分離汚泥11が存在していないもの、即ち沈殿槽4における汚泥体積割合が0%のものを用いた。
【0064】
まず、処理対象となる無機系イオン含有排水として、アルミニウムイオン濃度が1000mg/Lのアルミニウム排水(以下、「Al排水」と呼ぶ)を、導入ラインL1を経て第1不溶化処理槽1に導入した。
【0065】
このとき、第1不溶化処理槽1の槽内液中のpH値が6.5程度となるように硫酸を適宜供給してpH値を調整した。ただし第1不溶化処理槽1ではpHが大きく変動する。そして、第1不溶化処理槽1からの排出水は、中間ラインL2を経て第2不溶化処理槽2に導入した。第2不溶化処理槽2には、pH調整剤供給槽9からラインL9を経て、適宜pH調整剤である苛性ソーダ、硫酸を供給し、第2不溶化処理槽2の槽内液中のpH値が7.0となるように調整した。
【0066】
第2不溶化処理槽2からの排出水は、中間ラインL3を経て凝集処理槽3に導入した。凝集処理槽3には、凝集剤供給槽10からラインL10を経て、高分子凝集剤を供給した。
【0067】
凝集処理槽3からの排出水は、中間ラインL4を経て沈殿槽4に導入し、沈殿槽4にて処理水と分離汚泥とに沈降分離した。処理水は、処理水排出ラインL7を経て沈殿槽4から排出した。こうして沈殿槽4に汚泥を蓄積させた。
【0068】
そして、汚泥を蓄積させている間、沈殿槽4における汚泥体積割合を測定した。
【0069】
ここで、汚泥体積割合は以下のようにして判定した。即ち、まず沈殿槽4の槽内液領域R1の体積と、沈殿槽4の内壁面における槽内液の水面の位置との関係を予め確認しておき、槽内液中の分離汚泥領域R2の汚泥界面Sの位置、及び、槽内液の液面Lの位置を確認することで、上記汚泥体積割合を判定した。分離汚泥領域R2の汚泥界面Sの位置は、沈殿槽4に設置された汚泥界面計(図示せず)によって確認した。
【0070】
そして、本実施例ではまず汚泥を10vol%まで蓄積し、上記汚泥体積割合が10vol%に達したら、汚泥循環工程、即ち高密度汚泥生成工程を開始した。
【0071】
具体的にはまず沈殿槽4から分離汚泥の一部を、汚泥供給ポンプP2により、分離汚泥供給ラインL5を経て汚泥改質槽5に供給した。一方、汚泥改質槽5には、ラインL12を経て対イオン含有物質である水酸化カルシウムを導入した。そして、導入した水酸化カルシウムを分離汚泥11の表面に吸着させ、吸着汚泥を生成した。
【0072】
そして、吸着汚泥を、汚泥改質槽5から吸着汚泥供給ラインL11を経て第1不溶化処理槽1に供給し、第1不溶化処理槽1にて、Al排水と吸着汚泥とを接触させた。これにより、Al排水中のアルミニウムイオンを吸着汚泥の対イオンである水酸化物イオンと反応させて不溶化させた。このとき、pHは、pH調整剤供給槽8からラインL8を経てpH調整剤である硫酸を供給することによって調整した。
【0073】
第1不溶化処理槽1からの排出水は、中間ラインL2を経て第2不溶化処理槽2に導入した。第2不溶化処理槽2には、pH調整剤供給槽9からラインL9を経てpH調整剤である苛性ソーダ及び硫酸を供給した。
【0074】
第2不溶化処理槽2からの排出水は、中間ラインL3を経て凝集処理槽3に導入した。凝集処理槽3には、凝集剤供給槽10から高分子凝集剤を供給した。
【0075】
凝集処理槽3からの排出水は、中間ラインL4を経て沈殿槽4に導入し、沈殿槽4にて処理水と分離汚泥11とに沈降分離させた。処理水は、処理水排出ラインL7を経て沈殿槽4から排出した。
【0076】
上記の一連の工程を繰り返し行うことによって高密度汚泥を生成した。一方、汚泥体積割合が10vol%に達した後に、沈殿槽4にて排泥を行い、沈殿槽4における汚泥体積割合を3vol%まで減少させた。
【0077】
その後は、沈殿槽4において排泥を行い、上記汚泥体積割合が3vol%となるように制御しながら汚泥を高密度化させた。
【0078】
ここで、沈殿槽4内の上記汚泥体積割合は、以下のようにして判定した。即ち、沈殿槽4に導入した槽内液の体積と、沈殿槽4の内壁面における槽内液の水面の位置との関係を予め確認し、この関係に基づき、槽内液中の分離汚泥領域R2の汚泥界面Sの位置、及び、槽内液領域R1の液面Lの位置を確認することで、槽内液領域R1中の分離汚泥領域R2の体積の割合である汚泥体積割合を判定した。
【0079】
沈殿槽4内の上記汚泥体積割合の制御は、具体的には以下のようにして行った。即ち、排泥ポンプP1の出力を調整することによって排泥量を制限し、汚泥体積割合が制御目標値となるようにして行った。また、沈殿槽4に設置された汚泥界面計を用いて、汚泥界面Sの位置をモニタし、汚泥界面Sの位置が、上記汚泥体積割合が3vol%となる位置を大きく外れたことを確認した場合には、適宜人手で汚泥の排出量を調整するようにした。
【0080】
以上のようにして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0081】
(実施例2)
汚泥体積割合が4vol%となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0082】
(実施例3)
汚泥体積割合が6vol%となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0083】
(実施例4)
汚泥体積割合が10vol%に達した後に、沈殿槽4における汚泥体積割合が10vol%となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0084】
(実施例5)
汚泥体積割合が10vol%に達した後も引き続き沈殿槽4にて汚泥の量を増やし、沈殿槽4における汚泥体積割合が15vol%に達した後、汚泥体積割合が15vol%となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0085】
(実施例6)
汚泥体積割合が10vol%に達した後も引き続き沈殿槽4にて汚泥の量を増やし、汚泥体積割合が20vol%に達した後、沈殿槽4における汚泥体積割合が20vol%となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0086】
(実施例7)
汚泥体積割合が10vol%に達した後も引き続き沈殿槽4にて汚泥の量を増やし、汚泥体積割合が25vol%に達した後、沈殿槽4における汚泥体積割合が25vol%となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0087】
(実施例8)
汚泥体積割合が10vol%に達した後も引き続き沈殿槽4にて汚泥の量を増やし、汚泥体積割合が30vol%に達した後、沈殿槽4における汚泥体積割合が30vol%となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0088】
(比較例1)
汚泥体積割合が10vol%に達した後も引き続き沈殿槽4において汚泥の量を増やし、汚泥体積割合が32vol%に達した後、沈殿槽4における汚泥体積割合が32vol%となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0089】
(比較例2)
汚泥体積割合が10vol%に達した後も引き続き沈殿槽4において汚泥の量を増やし、汚泥体積割合が50vol%に達した後、沈殿槽4における汚泥体積割合が50vol%となるように制御したこと以外は実施例1と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0090】
実施例1〜8及び比較例1、2の立上げ方法のそれぞれについて、沈殿槽4中の分離汚泥11(汚泥濃度C1)を1日おきに取り出してメスシリンダに入れ、24時間静置した後の汚泥の濃縮割合Rをメスシリンダにおける汚泥領域の容量の比(24時間静置後の汚泥領域の容量/24時間静置前の汚泥領域の容量)として計測し、24時間静置後の汚泥濃度C2(=C1/R)を算出した。このとき、汚泥濃度C1は汚泥濃度計7で測定した。そして、実施例1〜8及び比較例1,2のそれぞれにおいて、汚泥濃度C2が300g/Lに到達するまでの時間を測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0091】
また図3は、実施例4及び比較例1について、沈殿槽4における汚泥濃度の経時変化の結果を示すグラフである。
【0092】
表1に示すように、実施例1〜8の立上げ方法は、比較例1〜2の立上げ方法に比べて、汚泥濃度が300g/Lまでに到達する時間が顕著に短縮されることが分かった。このことは、図3を見ても明らかである。即ち、実施例4のプロットと、比較例1のプロットとを比較すると、測定開始から、経時的に実施例4のプロットと、比較例1のプロットとが大きく離間していくことが分かる。このことから、実施例4の方が、比較例1に比べて、汚泥濃度が短期間で300g/Lに達することが明らかである。また150g/L、200g/Lに達する期間についても上記と同様の傾向がみられた。ここで、汚泥濃度150g/Lは、高密度汚泥が十分に生成された目安となる汚泥濃度である。
【0093】
表1に示す結果より、特に、沈澱槽4の汚泥体積割合を5vol%〜25vol%とすることで、汚泥濃度が300g/Lまでに到達する時間がより顕著に短縮されることが分かった。
【0094】
従って、本発明によれば、Al排水を処理対象とする高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを短期間で行うことができることが確認された。
【0095】
<Fe排水>
(実施例9)
処理対象となる無機系イオン含有排水を、アルミニウム排水から鉄イオン含有排水(鉄イオン(Fe3+)濃度:1000mg/L)に変更し、汚泥改質槽5に供給される対イオン含有物質、鉄イオンと不溶化物を形成する対イオン、第1不溶化処理槽1におけるpH及び第2不溶化処理槽2におけるpHを表2に示す通りとし、沈殿槽4における汚泥体積割合が15vol%となるように制御したこと以外は実施例5と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0096】
(比較例3)
沈殿槽4における汚泥体積割合が35vol%となるように制御したこと以外は実施例9と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0097】
<Cr排水>
(実施例10)
処理対象となる無機系イオン含有排水を、アルミニウム排水からクロムイオン含有排水(クロムイオン(Cr2+)濃度:1000mg/L)に変更し、汚泥改質槽5に供給される対イオン含有物質、クロムイオンと不溶化物を形成する対イオン、第1不溶化処理槽1におけるpH及び第2不溶化処理槽2におけるpHを表2に示す通りとし、沈殿槽4における汚泥体積割合が13vol%となるように制御したこと以外は実施例5と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0098】
(比較例4)
沈殿槽4における汚泥体積割合が33vol%となるように制御したこと以外は実施例10と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0099】
<F排水>
(実施例11)
処理対象となる無機系イオン含有排水を、アルミニウム排水からフッ素イオン含有排水(フッ素イオン(F)濃度:1000mg/L)に変更し、汚泥改質槽5に供給される対イオン含有物質、フッ素イオンと不溶化物を形成する対イオン、第1不溶化処理槽1におけるpH及び第2不溶化処理槽2におけるpHを表2に示す通りとし、沈殿槽4における汚泥体積割合が10vol%となるように制御したこと以外は実施例4と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0100】
(比較例5)
沈殿槽4における汚泥体積割合が32vol%となるように制御したこと以外は実施例11と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0101】
<PO排水>
(実施例12)
処理対象となる無機系イオン含有排水を、アルミニウム排水からリン酸イオン含有排水(リン酸イオン(PO2−)濃度:1000mg/L)に変更し、汚泥改質槽5に供給される対イオン含有物質、リン酸イオンと不溶化物を形成する対イオン、第1不溶化処理槽1におけるpH及び第2不溶化処理槽2におけるpHを表2に示す通りとし、沈殿槽4における汚泥体積割合が10vol%となるように制御したこと以外は実施例4と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0102】
(比較例6)
沈殿槽4における汚泥体積割合が33vol%となるように制御したこと以外は実施例12と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0103】
<SO排水>
(実施例13)
処理対象となる無機系イオン含有排水を、アルミニウム排水から硫酸イオン含有排水(硫酸イオン(SO2−)濃度:1000mg/L)に変更し、汚泥改質槽5に供給される対イオン含有物質、硫酸イオンと不溶化物を形成する対イオン、第1不溶化処理槽1におけるpH及び第2不溶化処理槽2におけるpHを表2に示す通りとし、沈殿槽4における汚泥体積割合が10vol%となるように制御したこと以外は実施例4と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0104】
(比較例7)
沈殿槽4における汚泥体積割合が33vol%となるように制御したこと以外は実施例13と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0105】
実施例9〜13及び比較例3〜7の立上げ方法のそれぞれについて、沈殿槽4中の分離汚泥11(汚泥濃度C1)を1日おきに取り出してメスシリンダに入れ、24時間静置した後の汚泥の濃縮割合Rをメスシリンダにおける汚泥領域の容量の比(24時間静置後の汚泥領域の容量/24時間静置前の汚泥領域の容量)として計測し、24時間静置後の汚泥濃度C2(=C1/R)を算出した。このとき、汚泥濃度C1は汚泥濃度計7で測定した。そして、実施例9〜13及び比較例3〜7のそれぞれにおいて、汚泥濃度C2が300g/Lに到達するまでの時間を測定した。結果を表2に示す。
【表2】
【0106】
また図4は、実施例9及び比較例3について、沈殿槽4における汚泥濃度の経時変化の結果を示すグラフ、図5は、実施例10及び比較例4について、沈殿槽4における汚泥濃度の経時変化の結果を示すグラフ、図6は、実施例11及び比較例5について、沈殿槽4における汚泥濃度の経時変化の結果を示すグラフ、図7は、実施例12及び比較例6について、沈殿槽4における汚泥濃度の経時変化の結果を示すグラフ、図8は、実施例13及び比較例7について、沈殿槽4における汚泥濃度の経時変化の結果を示すグラフである。
【0107】
表2に示すように、実施例9〜13の立上げ方法は、比較例3〜7の立上げ方法に比べて、汚泥濃度が300g/Lまでに到達する時間が顕著に短縮されることが分かった。このことは、図4図8を見ても明らかである。即ち、例えば実施例9のプロットと、比較例3のプロットとを比較すると、測定開始から、経時的に実施例9のプロットと、比較例3のプロットとが大きく離間していくことが分かる。このことから、実施例9の方が、比較例3に比べて、汚泥濃度が短期間で300g/Lに達することが明らかである。また150g/L、200g/Lに達する期間についても上記と同様の傾向がみられた。この結果は、実施例10〜13の立上げ方法でも同様であった。
【0108】
従って、本発明によれば、Fe排水、Cr排水、F排水、PO排水、SO排水を処理対象とする高密度汚泥生成型水処理装置の立上げについても短期間で行うことができることが確認された。
【0109】
<Cu排水>
(実施例14)
処理対象となる無機系イオン含有排水を、アルミニウム排水から銅イオン含有排水(銅イオン(Cu2+)濃度:1000mg/L)に変更し、汚泥改質槽5に供給される対イオン含有物質、銅イオンと不溶化物を形成する対イオン、第1不溶化処理槽1におけるpH及び第2不溶化処理槽2におけるpHを表3に示す通りとし、上記汚泥体積割合が12vol%となるように制御したこと以外は実施例5と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0110】
(比較例8)
汚泥体積割合が33vol%となるように制御したこと以外は実施例14と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0111】
<Mn排水>
(実施例15)
処理対象となる無機系イオン含有排水を、アルミニウム排水からマンガンイオン含有排水(マンガンイオン(Mn2+)濃度:1000mg/L)に変更し、汚泥改質槽5に供給される対イオン含有物質、マンガンイオンと不溶化物を形成する対イオン、第1不溶化処理槽1におけるpH及び第2不溶化処理槽2におけるpHを表3に示す通りとし、上記汚泥体積割合が12vol%となるように制御したこと以外は実施例5と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0112】
(比較例9)
汚泥体積割合が32vol%となるように制御したこと以外は実施例15と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0113】
<Ni排水>
(実施例16)
処理対象となる無機系イオン含有排水を、アルミニウム排水からニッケルイオン含有排水(ニッケルイオン(Ni2+)濃度:1000mg/L)に変更し、汚泥改質槽5に供給される対イオン含有物質、ニッケルイオンと不溶化物を形成する対イオン、第1不溶化処理槽1におけるpH及び第2不溶化処理槽2におけるpHを表3に示す通りとし、沈殿槽4における汚泥体積割合が12vol%となるように制御したこと以外は実施例5と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0114】
(比較例10)
沈殿槽4における汚泥体積割合が33vol%となるように制御したこと以外は実施例16と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0115】
<Zn排水>
(実施例17)
処理対象となる無機系イオン含有排水を、アルミニウム排水から亜鉛イオン含有排水(亜鉛イオン(Zn2+)濃度:1000mg/L)に変更し、汚泥改質槽5に供給される対イオン含有物質、亜鉛イオンと不溶化物を形成する対イオン、第1不溶化処理槽1におけるpH及び第2不溶化処理槽2におけるpHを表3に示す通りとし、沈殿槽4における汚泥体積割合が12vol%となるように制御したこと以外は実施例5と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0116】
(比較例11)
沈殿槽4における汚泥体積割合が33vol%となるように制御したこと以外は実施例17と同様にして高密度汚泥生成型水処理装置の立上げを行った。
【0117】
実施例14〜17及び比較例8〜11の立上げ方法のそれぞれについて、沈殿槽4中の分離汚泥11(汚泥濃度C1)を1日おきに取り出してメスシリンダに入れ、24時間静置した後の汚泥の濃縮割合Rをメスシリンダにおける汚泥領域の容量の比(24時間静置後の領域の容量/24時間静置前の汚泥領域の容量)として計測し、24時間静置後の汚泥濃度C2(=C1/R)を算出した。このとき、汚泥濃度C1は汚泥濃度計7で測定したそして、実施例14〜17及び比較例8〜11のそれぞれにおいて、汚泥濃度C2が100g/Lに到達するまでの時間を測定した。結果を表3に示す。
【表3】
【0118】
また図10は、実施例14及び比較例9について、沈殿槽4における汚泥濃度の経時変化の結果を示すグラフ、図11は、実施例15及び比較例10について、沈殿槽4における汚泥濃度の経時変化の結果を示すグラフ、図12は、実施例17及び比較例11について、沈殿槽4における汚泥濃度の経時変化の結果を示すグラフである。
【0119】
表3に示すように、実施例14〜17の立上げ方法は、比較例8〜11の立上げ方法に比べて、汚泥濃度が100g/Lまでに到達する時間が顕著に短縮されることが分かった。このことは、図9図12を見ても明らかである。即ち、例えば実施例14のプロットと、比較例8のプロットとを比較すると、測定開始から、経時的に実施例14のプロットと、比較例8のプロットとが大きく離間していくことが分かる。このことから、実施例14の方が、比較例8に比べて、汚泥濃度が短期間で100g/Lに達することが明らかである。また50g/L、80g/Lに達する期間についても上記と同様の傾向がみられた。この結果は、実施例14〜17の立上げ方法でも同様であった。
【0120】
従って、本発明によれば、Cu排水、Mn排水、Ni排水及びZn排水を処理対象とする高密度汚泥生成型水処理装置の立上げについても短期間で行うことができることが確認された。
【符号の説明】
【0121】
1…第1不溶化処理槽
2…第2不溶化処理槽
3…凝集処理槽
4…沈殿槽
5…汚泥改質槽
L5…分離汚泥供給ライン
L12…ライン(対イオン含有物質供給手段)
V1…バルブ(対イオン含有物質供給手段)
R1…槽内液領域
R2…分離汚泥領域
S…汚泥界面
L…液面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12