特許第5700142号(P5700142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5700142繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグおよびその成形体、並びに繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700142
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグおよびその成形体、並びに繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20150326BHJP
【FI】
   C08J5/24CFG
【請求項の数】15
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-556440(P2013-556440)
(86)(22)【出願日】2013年11月26日
(86)【国際出願番号】JP2013081718
(87)【国際公開番号】WO2014084194
(87)【国際公開日】20140605
【審査請求日】2013年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-258443(P2012-258443)
(32)【優先日】2012年11月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-164310(P2013-164310)
(32)【優先日】2013年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】藤田 沙紀
(72)【発明者】
【氏名】大谷 忠
(72)【発明者】
【氏名】高橋 厚
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 清利
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−097383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08〜15/14
C08J 5/04〜 5/10
5/24
B29C70/00〜70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維[A]、サイジング剤[B]、ポリアミド系樹脂[C]を含む繊維強化ポリアミドプリプレグであって、前記強化繊維[A]の目付(g/m)が50〜300であり、前記ポリアミド系樹脂[C]の融点が250℃以下であり、前記サイジング剤[B]と前記ポリアミド系樹脂[C]が以下の条件を満たす繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
/N≦ 2.0
:ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにポリアミド樹脂[C]のみを前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときのポリアミド系樹脂[C]の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値。
:ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにサイジング剤[B]とポリアミド系樹脂[C]を3:100(質量比)で混合した混合物を前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときの前記混合物の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値。
【請求項2】
前記Nが2.08以下である請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項3】
前記ポリアミド系樹脂[C]の下記測定条件での複素粘性率が、30〜250Pa・sである請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
<測定条件>
パラレルプレートを用いた回転式粘度計を用いた動的粘弾性測定にて、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃、角周波数0.1rad/s、歪量20%にて測定した際の複素粘性率を溶融粘度として規定。
【請求項4】
前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグに含まれる強化繊維[A]が、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、15〜80質量%、サイジング剤[B]が、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、0.01〜2質量%、ポリアミド系樹脂[C]が、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、18〜85質量%であり、前記各成分の合計量が100質量%を超えない、請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項5】
前記ポリアミド系樹脂[C]が、脂肪族ポリアミドおよび芳香族ポリアミドからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂である請求項1〜4のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項6】
前記ポリアミド系樹脂[C]が、ポリアミド6およびMXD6からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂である請求項1〜4のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項7】
前記サイジング剤[B]が、下記式(1)で表わされる化合物(A1)および下記式(2)で表わされる化合物(B1)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む請求項1〜6のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
【化1】
[式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基であって、RおよびRは同一であってもよく、異なっていてもよく;またjおよびkは、それぞれ独立して1以上の整数であり、jとkの合計が14〜40の整数である。]
【化2】
[式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基であって、RおよびRは同一であってもよく、異なっていてもよく;またmおよびnは、それぞれ独立して1以上の整数であり、mとnの合計が54〜100の整数である。]
【請求項8】
前記サイジング剤[B]が、前記式(1)で表わされる化合物(A1)と前記式(2)で表わされる化合物(B1)との混合物からなり、その質量比(A1)/(B1)が2/1〜1/2の範囲内である請求項7に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項9】
前記サイジング剤[B]が、
分子中に1個以上、3個以下のエポキシ基を有するエポキシ化合物と不飽和一塩基酸とのエステルであって、分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(A)と、
2官能タイプのウレタンアクリレートオリゴマー(B)と、
ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物とジカルボン酸化合物とのエステルであって、その酸価が50以上であるエステル化合物(C)と、を含有し、
前記化合物(A)と前記ウレタンアクリレートオリゴマー(B)との含有量の質量比が、ウレタンアクリレートオリゴマー(B)/化合物(A)=1/3〜2/1の範囲内であり、
前記エステル化合物(C)の含有量が、前記化合物(A)および前記ウレタンアクリレートオリゴマー(B)の合計量の2.0質量倍以下であるサイジング剤である請求項1〜7のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項10】
繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグは切込を有しており、前記切込は、
一方向に配向した強化繊維[A]を横切る方向に強化繊維[A]を切断する深さの切込である、請求項1〜9のいずれか1つに記載繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項11】
強化繊維[A]が炭素繊維であり、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグが炭素繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグである請求項1〜10のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを複数枚積層してなる樹脂成形体。
【請求項13】
強化繊維[A]、サイジング剤[B]、及びポリアミド系樹脂[C]を含む繊維強化熱可塑性プリプレグを複数枚積層してなる樹脂成形体あって、前記強化繊維[A]の目付(g/m)が50〜300であり、前記ポリアミド系樹脂[C]の融点が250℃以下であり、前記サイジング剤[B]と前記ポリアミド系樹脂[C]とが以下の条件を満たし、かつ任意の断面における空隙面積率が、0.1%以上、10%以下である樹脂成形体。
/N≦ 2.0
:ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにポリアミド樹脂[C]のみを前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときのポリアミド系樹脂[C]の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値。
:ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにサイジング剤[B]とポリアミド系樹脂[C]を3:100(質量比)で混合した混合物を前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときの前記混合物の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値。
【請求項14】
繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、
前記製造方法は、サイジング剤[B]を付着させた複数の強化繊維[A]に、溶融したポリアミド系樹脂[C]を加えて、ポリアミド系樹脂[C]の融点+10〜+60℃の温度、0.1〜5.0MPaで加圧する繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であり、前記強化繊維[A]の目付(g/m)が50〜300であり、前記ポリアミド系樹脂[C]の融点が250℃以下であり、前記サイジング剤[B]と前記ポリアミド系樹脂[C]が以下の条件を満たす繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。
/N≦ 2.0
:ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにポリアミド樹脂[C]のみを前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときのポリアミド系樹脂[C]の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値。
:ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにサイジング剤[B]とポリアミド系樹脂[C]を3:100(質量比)で混合した混合物を前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときの前記混合物の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値。
【請求項15】
下記工程(1)〜(4)を含む成形体の製造方法。
工程(1):請求項1〜11のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを、2枚以上積層してプリプレグ積層体を得る。
工程(2):工程(1)で得られたプリプレグ積層体を、ポリアミド系樹脂[C]の融点+10〜+60℃の温度にて予熱する。
工程(3):余熱されたプリプレグ積層体を、ポリアミド系樹脂[C]の融点+10〜+60℃の温度、圧力0.1〜5.0MPaにて、加熱加圧する。
工程(4):加熱加圧されたプリプレグ成形体を0.1〜5.0MPaにて冷却加圧して成形体を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で強度と剛性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを積層してなる成形体、および繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法に関する。
本願は、2012年11月27日に、日本に出願された特願2012−258443号、および2013年8月7日に、日本に出願された特願2013−164310号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、強化繊維材料は、各種のマトリックス樹脂と複合化され、これにより得られる繊維強化プラスチックは種々の分野・用途に広く利用されるようになってきた。特に、高度の機械的特性や耐熱性等が要求される航空・宇宙分野や、一般産業分野では、従来、マトリックス樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が使用されてきた。しかし、特に航空・宇宙分野では、これらのマトリックス樹脂は、脆く、耐衝撃性に劣るという欠点を有するため、その改善が求められている。また、熱硬化性樹脂の場合、これを用いてプリプレグとしたとき、樹脂のライフタイムが短いために保存管理上に問題があること、製品形状に対して追従性が乏しいこと、成形時間が長く生産性が低いこと等の問題もある。
これに対して、熱可塑性樹脂を用いてプリプレグとした場合は、複合材料としたときの耐衝撃性が優れ、プリプレグの保存管理が容易で、かつ成形時間が短く、成形コストが低減する可能性もある。
熱可塑性樹脂プリプレグを用いた成形品の機械的特性を高めるには、成形材料を製造する過程で、熱可塑性樹脂を連続した強化繊維束に含浸させる際に、強化繊維と熱可塑性樹脂との界面接着を高め、結果的に成形品の力学特性を向上させる方法がある。例えば、強化繊維に表面酸化処理を施して反応性官能基を付与し、強化繊維と熱可塑性樹脂との接着性を向上させる方法がある。しかしながら、この場合、強化繊維における表面処理量を多くすると強化繊維自体の強度が低下し、成形品の力学特性に影響を及ぼすという問題がある。そこで、強化繊維と熱可塑性樹脂以外に、接着性向上成分を添加する方法が試みられている。接着性向上成分としては、例えば、強化繊維との親和性が高く、熱可塑性樹脂と反応するエポキシ化合物を使用する方法が提案されている(特許文献1参照)。またエポキシ化合物と水酸基含有アミン化合物との反応生成物をサイジング剤として用いることにより、ポリアミド樹脂との接着性を向上する試みがある(特許文献2参照)。しかしながら、この場合、上記サイジング剤は、強化繊維との親和性は良好であるが、熱可塑性樹脂と反応性があるため、マトリックス樹脂の粘度上昇により連続繊維中への熱可塑性樹脂の含浸性が不十分である。そのため、プリプレグ製造時に微小ボイドが残ってしまう可能性が高い。またプリプレグを用いた成形品は通常プレス成形等により成形されるが、樹脂の流れや繊維の蛇行を抑制できる圧力には限界がある。そのため、そのような圧力で成形した成形体にはプリプレグ由来の微小ボイドが残る可能性があり、力学特性に優れた成形品が得られないという問題がある。また含浸性に優れるサイジング剤を添加した例はあるが、粘度の小さい熱硬化性樹脂を対象とした例であり、粘度の高い熱可塑性樹脂に対しては検討されていない(特許文献3参照)。このように、強化繊維と熱可塑性樹脂の両者に対して親和性を持ちつつ、強化繊維中への熱可塑性樹脂の含浸性も十分に満足するサイジング剤は見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特許4894982号公報
【特許文献2】特開2012−97383号公報
【特許文献3】特開平1−272867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、強化繊維中への熱可塑性樹脂の含浸性が優れることにより力学特性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを積層してなる成形体、および前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグにおいて、特定の条件を満たす強化繊維、サイジング剤、及びポリアミド系樹脂の組み合わせを用いることにより、強化繊維中への熱可塑性樹脂の含浸性を高め、力学特性に優れた成形体を与える組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]強化繊維[A]、サイジング剤[B]、ポリアミド系樹脂[C]を含む繊維強化ポリアミドプリプレグであって、前記強化繊維[A]の目付(g/m)が50〜300であり、前記ポリアミド系樹脂[C]の融点が250℃以下であり、前記サイジング剤[B]と前記ポリアミド系樹脂[C]が以下の条件を満たす繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
/N≦ 2.0
は、ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにポリアミド樹脂[C]のみを前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときのポリアミド系樹脂[C]の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値であり;Nは、ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにサイジング剤[B]とポリアミド系樹脂[C]を3:100(質量比)で混合した混合物を前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときの前記混合物の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値である。
[2]前記Nが2.08以下である[1]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
]前記ポリアミド系樹脂[C]の下記測定条件での複素粘性率が、30〜250Pa・sである[1]または[2]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
<測定条件>
パラレルプレートを用いた回転式粘度計を用いた動的粘弾性測定にて、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃、角周波数0.1rad/s、歪量20%にて測定した際の複素粘性率を溶融粘度として規定。
]前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグに含まれる強化繊維[A]が、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、15〜80質量%、サイジング剤[B]が、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、0.01〜2質量%、ポリアミド系樹脂[C]が、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、18〜85質量%であり、前記各成分の合計量が100質量%を超えない、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ
5]前記ポリアミド系樹脂[C]が、脂肪族ポリアミドおよび芳香族ポリアミドからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂である[1]〜[4]のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
[6]前記ポリアミド系樹脂[C]が、ポリアミド6およびMXD6からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂である[1]〜[4]のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
[7]前記サイジング剤[B]が、下記式(1)で表わされる化合物(A1)および下記式(2)で表わされる化合物(B1)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む[1]〜[6]のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
【化1】
[式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基であって、RおよびRは同一であってもよく、異なっていてもよく;またjおよびkは、それぞれ独立して1以上の整数であり、jとkの合計が14〜40の整数である。]
【化2】
[式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基であって、RおよびRは同一であってもよく、異なっていてもよく;またmおよびnは、それぞれ独立して1以上の整数であり、mとnの合計が54〜100の整数である。]
[8]前記サイジング剤[B]が、前記式(1)で表わされる化合物(A1)と前記式(2)で表わされる化合物(B1)との混合物からなり、その質量比(A1)/(B1)が2/1〜1/2の範囲内である[7]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
[9]前記サイジング剤[B]が、
分子中に1個以上、3個以下のエポキシ基を有するエポキシ化合物と不飽和一塩基酸とのエステルであって、分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(A)と、
2官能タイプのウレタンアクリレートオリゴマー(B)と、
ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物とジカルボン酸化合物とのエステルであって、その酸価が50以上であるエステル化合物(C)と、を含有し、
前記化合物(A)と前記ウレタンアクリレートオリゴマー(B)との含有量の質量比が、ウレタンアクリレートオリゴマー(B)/化合物(A)=1/3〜2/1の範囲内であり、
前記エステル化合物(C)の含有量が、前記化合物(A)および前記ウレタンアクリレートオリゴマー(B)の合計量の2.0質量倍以下であるサイジング剤である[1]〜[7]のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
[10]繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグは切込を有しており、前記切込は、
一方向に配向した強化繊維[A]を横切る方向に強化繊維[A]を切断する深さの切込である、[1]〜[9]のいずれか1つに記載繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
[11]強化繊維[A]が炭素繊維であり、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグが炭素繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグである[1]〜[10]のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
[12][1]〜[11]のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを複数枚積層してなる樹脂成形体。
[13]強化繊維[A]、サイジング剤[B]、及びポリアミド系樹脂[C]を含む繊維強化熱可塑性プリプレグを複数枚積層してなる樹脂成形体あって、前記強化繊維[A]の目付(g/m)が50〜300であり、前記ポリアミド系樹脂[C]の融点が250℃以下であり、前記サイジング剤[B]と前記ポリアミド系樹脂[C]とが以下の条件を満たし、かつ任意の断面における空隙面積率が、0.1%以上、10%以下である樹脂成形体。
/N≦ 2.0
は、ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにポリアミド樹脂[C]のみを前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときのポリアミド系樹脂[C]の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値であり;Nは、ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにサイジング剤[B]とポリアミド系樹脂[C]を3:100(質量比)で混合した混合物を前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときの前記混合物の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値である。
[14]繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であって、
前記製造方法は、サイジング剤[B]を付着させた複数の強化繊維[A]に、溶融したポリアミド系樹脂[C]を加えて、ポリアミド系樹脂[C]の融点+10〜+60℃の温度、0.1〜5.0MPaで加圧する繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法であり、前記強化繊維[A]の目付(g/m)が50〜300であり、前記ポリアミド系樹脂[C]の融点が250℃以下であり、前記サイジング剤[B]と前記ポリアミド系樹脂[C]が以下の条件を満たす繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法。
/N≦ 2.0
は、ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにポリアミド樹脂[C]のみを前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときのポリアミド系樹脂[C]の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値であり;Nは、ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにサイジング剤[B]とポリアミド系樹脂[C]を3:100(質量比)で混合した混合物を前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときの前記混合物の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値である。
[15]下記工程(1)〜(4)を含む成形体の製造方法。
工程(1):[1]〜[11]のいずれか1つに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを、2枚以上積層してプリプレグ積層体を得る。
工程(2):工程(1)で得られたプリプレグ積層体を、ポリアミド系樹脂[C]の融点+10〜+60℃の温度にて予熱する。
工程(3):余熱されたプリプレグ積層体を、ポリアミド系樹脂[C]の融点+10〜+60℃の温度、圧力0.1〜5.0MPaにて、加熱加圧する。
工程(4):加熱加圧されたプリプレグ成形体を0.1〜5.0MPaにて冷却加圧して成形体を得る。
また、以下も発明の実施形態の1つである。
[16]N/N
0.8<N/N≦ 2.0
である上記[1]〜[11]のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ。
[17]N/N
0.8<N/N≦ 2.0
である上記[12]または[13]に記載の樹脂成形体。
[18]断面における空隙面積率が10%以下である上記[13]に記載の樹脂成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の条件を満たす強化繊維、サイジング剤、及びポリアミド系樹脂の組み合わせを用いることにより、強化繊維束にポリアミド系樹脂が良好に含浸し、力学特性の高いプリプレグおよび成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(強化繊維)
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグに用いる強化繊維としては、特に制限はないが、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、有機繊維等を用いることができるが、比強度、及び剛性向上の観点からガラス繊維、炭素繊維が好ましく、炭素繊維が特に好ましい。
【0009】
(炭素繊維)
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグに用いることができる強化繊維としての炭素繊維は、炭素繊維の分野で公知の炭素繊維束を用いることができ、特に限定されない。通常の炭素繊維束は単繊維繊度が0.4〜2.4dtexの単繊維を、1000本以上、60000本以下束ねた形態を有している。この炭素繊維束を構成する単繊維は、例えば、アクリロニトリル系重合体(以下、PAN系重合体ということがある。)や、石油、石炭から得られるピッチ、レイヨン、リグニン等を繊維化し、炭素化することで得られる。特に、PAN系重合体を原料としたPAN系炭素繊維が、工業規模における生産性および機械的特性に優れており好ましい。なお、PAN系重合体としては、分子構造中にアクリロニトリル単位を有していればよく、アクリロニトリルの単独重合体や、アクリロニトリルと他のモノマー(例えば、メタクリル酸等)との共重合体が挙げられる。アクリロニトリルと他のモノマーとの共重合体中のアクリロニトリル単位と他のモノマー単位との含有割合は、作製する炭素繊維束の性質に応じて適宜設定することができる。
【0010】
また、炭素繊維の表面状態については、電気化学的測定法(サイクリック・ボルタ・メトリー)により求められるipa値が、0.05〜0.45μA/cmであることが好ましい。このipa値は、炭素繊維の酸素含有官能基数量、電気二重層形成に関与する表面凹凸度、及び微細構造の影響を受ける。特に、ipa値は、表層のエッチングを大きく受けた炭素繊維や、アニオンイオンが黒鉛結晶の層間に入り込んだ層間化合物を形成している炭素繊維の場合、大きな値となる。
【0011】
優れた機械的性能を発現する複合材料においては、炭素繊維とポリアミド系樹脂との界面は重要である。特に適当な酸素含有官能基の存在と、小さな電気二重層を形成するような表面を有する炭素繊維が、最適な界面を形成することができ、好ましい。
【0012】
ipa値が0.05μA/cm 未満の場合、基本的に酸素含有官能基の数量は少なく、十分な界面接着性を有しない炭素繊維となる。一方、ipa値が0.45μA/cmを超える場合、炭素繊維の表面のエッチングが過剰に生じているか、あるいは層間化合物が形成されている。このような炭素繊維の表面は、表面脆弱層に移行し易く、その結果、ポリアミド系樹脂との十分な界面接着性を有する炭素繊維とはならない。
ipa値としては、より好ましくは、0.07〜0.36μA/cmである。
【0013】
さらに、本発明においては、ポリアミド系樹脂との適度な界面接着性を有することが重要であることから、X線光電子分光法により求められる炭素繊維表面の酸素含有官能基量(O1S/C1S)が、0.05〜0.16の範囲にある炭素繊維であることが望ましい。
【0014】
(サイジング剤)
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグに用いることができるサイジング剤としては、以下の式で表される条件を満たすサイジング剤が挙げられる。
/N< 4.0
上記式中、Nは、加熱溶融したポリアミド樹脂[C]の流動性を、これを撹拌するブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ブレードのトルク値の平均値で表した値であり;
は、サイジング剤[B]とポリアミド系樹脂[C]を質量比3:100で混合した混合物において、加熱溶融した前記混合物の流動性を、これを撹拌するブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ブレードのトルク値の平均値で表した値である。
【0015】
は、具体的には、ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサ(例えば、ラボプラストミル:50C150型、R60型のローラミキサ、ブレード形状:ローラ型、株式会社東洋精機製作所製)を用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにポリアミド樹脂[C]のみをミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときのポリアミド系樹脂[C]の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値であることが好ましい。
【0016】
は、具体的には、ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサ(例えば、ラボプラストミル:50C150型、R60型のローラミキサ、ブレード形状:ローラ型、株式会社東洋精機製作所製)を用い、前記ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにサイジング剤[B]とポリアミド系樹脂[C]を3:100(質量比)で混合した混合物を前記ミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で前記混合物を加熱溶融したときの前記混合物の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値であることが好ましい。
【0017】
/Nの値が低すぎると、サイジング剤[B]とポリアミド系樹脂[C]との親和性が悪くなり、得られる繊維強化熱可塑性樹脂の物性が低下してしまうことがある。N/Nの値が高すぎるとポリアミド系樹脂[C]とサイジング剤[B]との反応により粘度が上昇し、強化繊維[A]中へのポリアミド系樹脂[C]の含浸性が悪くなることで物性が低下してしまうことがある。
/Nの下限値は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上であり、上限値は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
即ち、N/Nの値は、好ましくは0.5以上、3以下であり、より好ましくは、0.8以上、2以下である。
【0018】
流動性評価には一般的にミキサによる混練等を用いることができ、例えば、ラボプラストミルによる混練が好ましい。ポリアミド系樹脂[C]と、水分を除去したサイジング剤[B]の成分をラボプラストミルに投入、混練し、トルク値を測定することで、混練物の粘度を評価することが可能となる。
なお、投入するサイジング剤[B]とポリアミド系樹脂[C]との比(質量比)は3:100であるとは限らず、本発明の効果を有する限り、1:100〜5:100程度であってもよい。
投入するポリアミド系樹脂[C]の質量に対するサイジング剤[B]の質量が、5質量%以上であると、サイジング剤[B]が過剰となり、精度良い測定が難しい。
【0019】
混練により、ポリアミド系樹脂[C]とサイジング剤[B]成分が反応し、トルク値が変化する。混練の時間は特に限定はされないが、混練時のトルク値が一定となる時間まで行なう必要がある。その為、混練の時間としては、5分〜20分であればよく、15分程度の時間が好ましい。
この際、トルク値が上昇しないサイジング剤[B]は、ポリアミド系樹脂[C]との架橋反応が進まず、粘度上昇が起こらないため、プリプレグ作製時に溶融樹脂の連続繊維への含浸性が良好となる。
【0020】
ラボプラストミルを用いた混練評価においては、ミキサ容量やブレード(スクリュー形状)等もトルク値に影響を与える。
なお、ミキサ容量は60ccに限られず、本発明に用いる熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂[C])の場合、好ましいミキサ容量は30〜100ccであってもよい。最も好ましい容量としては、60ccである。
またブレード形状はローラ型に限られず、本発明の効果を有する限り、デルタ型、カム型、シグマ型、バンバリ型等であってもよい。なお、ブレード形状としては、ローラ型を用いることが好ましい。
ミキサに投入するポリアミド系樹脂[C]量としては、ミキサ容量に対して60容量%に限らず、本発明の効果を有する限り、ミキサ容量に対して50容量%以上、95容量%以下であってもよい。
50容量%未満となると、精度良いトルク評価が不可能となる。
【0021】
本発明においては、ポリアミド系樹脂[C]単体のトルク平均値(N)とポリアミド系樹脂[C]とサイジング剤[B]との混合物のトルク平均値(N)の比、即ち、N/N が4.0未満となれば、サイジング剤[B]の種類としては特に限定されないが、分子内に水酸基、カルボキシル基、ウレタン基、アミド基、オキサゾリン基、ポリエステル、無水マレイン酸基、アジリジン基等をもつ化合物や、分子内に1つのエポキシ基、1つのアミン等を持つ化合物が好ましい。
その中でも分子内に水酸基、カルボキシル基を持つ化合物が特に好ましい。
【0022】
分子内にカルボキシル基を持つ化合物としては、直鎖状または枝状に分岐した分子鎖末端にカルボキシル基を持てば特に限定されないが、フマル酸エステル、マレイン酸エステル、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸等が挙げられる。
飽和脂肪酸としては、例えば、プロピオン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸等が挙げられる。
不飽和脂肪酸としては、例えば、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸等が挙げられる。
【0023】
分子内に水酸基を持つ化合物としては、ポリエステルポリオール;ポリカーボネートポリオール;多糖類;エチレングリコールおよびプロピレングリコール;メチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、ヘキシル、および2−エチルヘキシル等の脂肪族基;二重結合を有するアリル基;フェニル基;並びにベンジル基等の各基をベースとするエチレングリコール系(E.O.系)エーテルまたはプロピレングリコール系(P.O.系)エーテル、等のポリヒドロキシ化合物が挙げられる。
その中で特にエーテルまたはプロピレングリコール系(P.O.系)エーテルが好ましい。
【0024】
ポリヒドロキシ化合物中にある水酸基が有する極性により、サイジング剤[B]と、強化繊維[A]の表面またはポリアミド系樹脂[C]との強い相互作用、及び水素結合の付与が可能となる。この水素結合は、化学反応ではなく分子間の相互作用のため、高温である180℃以上の環境においてポリアミド系樹脂[C]の強化繊維[A]への含浸を妨げることがなく、含浸終了後150℃以下において相互作用を発現し、強化繊維[A]とポリアミド系樹脂[C]との接着性を付与する。
【0025】
サイジング剤[B]は、本発明のプリプレグに用いることができる強化繊維[A]の表面に付着する。
サイジング剤[B]を構成するポリヒドロキシ化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物(A1)および下記一般式(2)で示される化合物(B1)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物が好ましく用いられる。化合物(A1)および化合物(B1)は、いずれもビスフェノール型骨格からなる中心部の両端にエチレンオキサイドが付加した構造(即ち、ビスフェノール型骨格における2つのベンゼン環のそれぞれにエチレンオキサイドが付加した構造)の化合物であり、化合物(A1)と化合物(B1)との相違は、ビスフェノール型骨格における2つのベンゼン環それぞれに付加するエチレンオキサイドの付加量である。
【0026】
【化3】
[式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜2のアルキル基であり、RおよびRは同一であってもよく、異なっていてもよく;jおよびkは、それぞれ独立して1以上の整数であり、jとkの合計は14〜40である。]
【0027】
【化4】

[式中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基であって、RおよびRは同一であってもよく、異なっていてもよく;またmおよびnは、それぞれ独立して1以上の整数であり、mとnの合計が54〜100の整数である。]
【0028】
上記一般式(1)で表示される化合物(A1)および上記一般式(2)で表示される化合物(B1)において、R、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。また、化合物(A1)や化合物(B1)は、それぞれが混合物であってもよい。
【0029】
上記の式(1)で表示される化合物(A1)と上記の式(2)で表示される化合物(B1)において、特にビスフェノールA型或いはビスフェノールF型骨格からなる中心部を有する化合物は、その構造が比較的剛直であるために、強化繊維[A]に対して良好な力学的特性を付与することができる。また、このビスフェノールA型或いはビスフェノールF型骨格からなる中心部を有する化合物は、π共役系を有しているために、微小なグラファイト結晶で構成されている炭素繊維に対して良好な親和性を有している。これによって、化合物(A1)および化合物(B1)としては、特にビスフェノールA型或いはビスフェノールF型骨格からなる中心部を有する化合物であることが好ましい。
【0030】
化合物(A1)或いは化合物(B1)におけるビスフェノール型骨格からなる中心部の両端に付加しているエチレンオキサイドの付加量(即ち、ビスフェノール型骨格の2つのベンゼン環それぞれに付加しているエチレンオキサイドの付加量)においては、ビスフェノール型骨格の2つのベンゼン環それぞれにおいて一致している必要はないが、上記の化合物(A1)や化合物(B1)が、一般的にビスフェノール化合物にエチレンオキサイドを付加して得られる化合物であるために、ビスフェノール型骨格の2つのベンゼン環それぞれに付加しているエチレンオキサイドの付加量は、ビスフェノール型骨格の2つのベンゼン環それぞれにおいてあまり相違するものではない場合が多い。
なお、ビスフェノール型骨格の2つのベンゼン環それぞれに結合するエチレンオキサイドの結合位置は、ベンゼン環の2、3、4、5、6位のいずれであってもよく、4位が好ましい。また、ビスフェノール型骨格の2つのベンゼン環に結合するエチレンオキサイドの位置は、それぞれ同じであってもよく、異なっていてもよく、同じであることが好ましい。
【0031】
上記の一般式(1)で表わされる化合物(A1)は、jおよびkは、それぞれ独立して1以上の整数であり、jとkの合計が14〜40であることが必要である。ここで、jとkの合計が41〜53の化合物は、室温(23℃)〜30℃付近の融点を有しており、強化繊維[A]を取り扱う際の雰囲気温度によって液体から固体に変化する。このために、サイジング剤[B]としての特性の発現が不安定になる。また、jとkの合計が13以下の化合物は、室温で安定な液状を呈するものの、粘度が小さくなりすぎるためにサイジング剤[B]に必要な特性を発現し得なく、しかも空気中の水分の吸着によって著しく粘着性が増加する。そのために、サイジング剤[B]としての性状が不安定であり、さらに水溶性が不足するために、これを水に溶解させた水溶液の安定性が悪い。
以上の理由により、上記の式(1)で表わされる化合物(A1)としては、j+kが20〜35である化合物がより好ましい。
【0032】
上記の一般式(2)で表わされる化合物(B1)は、mおよびnは、それぞれ独立して1以上の整数であり、mとnの合計が54〜100であることが必要である。ここで、mとnの合計が41〜53の化合物は、先に説明した通り室温(23℃)〜30℃付近の融点を有しており、強化繊維[A]を取り扱う際の雰囲気温度によって液体から固体に変化するために、サイジング剤[B]としての特性の発現に対しての安定性に欠ける。また、mとnの合計が100を超える化合物は、分子量の増加によって固着性が増す。このために、強化繊維[A]束の収束性が強くなり、強化繊維[A]束の柔軟性とポリアミド系樹脂[C]の含浸工程での強化繊維[A]束の開繊性とを著しく阻害するようになる。
以上の理由により、上記一般式(2)で表わされる化合物(B1)としては、mとnの合計が60〜90である化合物がより好ましい。
上記のように、上記一般式(1)で表わされる化合物(A1)は、多くの場合室温(23℃)において粘調な液状を呈する。また、上記一般式(2)で表わされる化合物(B1)は、室温(23℃)において多少粘着性を有する化合物もあるが、多くの場合固形状を呈する。
つまり、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグに用いるサイジング剤[B]は、化合物(A1)または化合物(B1)を単独で使用することもでき、また室温において液状を呈する化合物(A1)と室温において固形状をなす化合物(B1)との混合物として使用することもできる。その質量比(A1):(B1)は0:100〜100:0の範囲内であればどの範囲でもよいが、より好ましい範囲は100:50〜50:100である(即ち、化合物(A1)と化合物(B1)のより好ましい質量比((A1)/(B1))としては、2/1〜1/2である。)。この範囲で強化繊維[A]を処理することにより、安定した擦過性と開繊性とを有し、良好な樹脂含浸性を具備することが可能となる。
【0033】
また、サイジング剤[B]は、分子中に1個以上、3個以下のエポキシ基を有するエポキシ化合物と、不飽和一塩基酸とのエステルであって、分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(A2)と;2官能タイプのウレタンアクリレートオリゴマー(B2)と;ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物とジカルボン酸化合物とのエステルであって、その酸価が50以上であるエステル化合物(C2)とを含み、前記化合物(A2)と前記ウレタンアクリレートオリゴマー(B2)との含有量の比(質量比)(即ち、ウレタンアクリレートオリゴマー(B2)/化合物(A2))が、1/3〜2/1の範囲内であり、前記エステル化合物(C2)の含有量が、前記化合物(A2)および前記ウレタンアクリレートオリゴマー(B2)の合計量の2.0質量倍以下であるサイジング剤であってもよい。
【0034】
(A2)成分において、エポキシ化合物とエステルを構成する「不飽和一塩基酸」としては、特に限定はなく、一つの不飽和基と一つのカルボキシル基とを有する化合物であれば良い。
不飽和基としては、特に限定はないが、嵩高くないこと、および形成される、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸とのエステルの主鎖の剛直性を低下させないことから、ビニル基あるいはプロペニル基が好ましく、ビニル基がより好ましい。
不飽和一塩基酸として、特に好ましいのは、アクリル酸またはメタクリル酸である。すなわち、(A2)成分は、前記エポキシ化合物とアクリル酸またはメタクリル酸とのエステルであることが好ましい。
【0035】
(B2)成分はポリアミド系樹脂[C]と強化繊維[A]との界面に、柔軟性に優れた界面相を形成する効果を有する。ポリアミド系樹脂[C]と強化繊維[A]との界面に柔軟性に優れた界面相が形成されることにより、ポリアミド系樹脂[C]と強化繊維[A]との間の界面接着性が向上する。
【0036】
また、サイジング剤[B]が付着した強化繊維[A]と、ポリアミド系樹脂[C]との複合化の際、強化繊維[A]の表面のサイジング剤[B]成分が、ポリアミド系樹脂[C]へと拡散するため、特に界面付近のポリアミド系樹脂[C]中に、サイジング剤[B]成分を高濃度に含む領域が形成される。この領域は、複合材料の機械特性に影響を及ぼす。
(B2)成分は、ウレタンアクリレートオリゴマーであることから、繊維強化複合材料を形成する際、ポリアミド系樹脂[C]との親和性が向上することにより、界面相とポリアミド系樹脂[C]相との一体化が図られる。そのため、この(B2)成分を含むことにより、ポリアミド系樹脂[C]をマトリックス樹脂とする場合であっても、繊維強化複合材料の機械的特性を向上することができる。
ここで、本発明において、「ウレタンアクリレートオリゴマー」とは、分子内にウレタン結合とアクリロイル基(CH2=CH−CO−)とを有する化合物を意味する。ウレタンアクリレートオリゴマーは、その構造中に芳香族基を有する芳香族系の化合物と、芳香族基を有さない脂肪族系の化合物とに大別できる。
ウレタンアクリレートオリゴマー成分としては、市販のウレタンアクリレートオリゴマーを利用してもよく、かかるウレタンアクリレートオリゴマーとしては、たとえばサートマー社製のCN−965、CN−981、CN−9178、CN−9788、CN−9893、CN−971、CN−973、CN−9782;共栄社化学製のUF−8001;新中村化学工業社製のUA−122P等が挙げられる。
本発明において、(B)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明に用いるウレタンアクリレートオリゴマーの構造は特に限定されず、芳香族系の化合物であってもよく、脂肪族系の化合物であってもよい。硬化物の引張伸び率と引張強度のバランスが良好であることから、脂肪族系の化合物であることが好ましい。
【0037】
前記サイジング剤[B]は、上記(A2)成分および(B2)成分に加えて、さらに、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物とジカルボン酸化合物とのエステルで、その酸価が50以上であるエステル化合物(C2)(以下、(C2)成分という。)を含有する。
ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物とジカルボン酸化合物とのエステルは、酸価が50以上、100以下である場合、分子量が1000程度(例えば、500〜3000)で、分子の一方の末端にカルボキシル基を有する化合物を主要構成成分としている。このような(C2)成分は、ポリアミド系樹脂[C]と優れた相溶性を示す。そのため、サイジング処理された強化繊維[A]の樹脂に対する濡れ性が向上し、樹脂含浸性がさらに向上する。
【0038】
(C2)成分を形成する「ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物」としては、ビスフェノール類に、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを2〜4モル付加した化合物であるのが好ましい。ビスフェノール類にエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを5モル以上付加した化合物では、ビスフェノール類が本来有する分子鎖の剛直性が失われ、ポリアミド系樹脂[C]との親和性が悪化するおそれがある。
より好ましくは、ビスフェノール類にエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを2モル付加した化合物である。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物は、1種類の化合物を単独で用いてもよく、また複数の化合物を混合して用いてもよい。
【0039】
ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物とエステルを形成する「ジカルボン酸化合物」は、炭素数が4〜6の脂肪族化合物が好ましい。ジカルボン酸化合物として芳香族化合物を用いると、得られるエステル化合物の融点が高く、ポリアミド系樹脂[C]との溶解性が悪くなるおそれがあり、それによって、良好な濡れ性を発現させることができないおそれがある。
一方、炭素数が7個以上の脂肪族化合物をジカルボン酸化合物として用いると、得られるエステル化合物の剛直性が失われ、ポリアミド系樹脂[C]との親和性が低下するおそれがある。
【0040】
ジカルボン酸化合物としては、たとえばフマル酸、マレイン酸、メチルフマル酸、メチルマレイン酸、エチルフマル酸、エチルマレイン酸、グルタコン酸、イタコン酸、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸等が挙げられる。
【0041】
一方、サイジング剤として、ポリアミド系樹脂との反応性が高く、ポリアミド系樹脂との架橋反応を促進するサイジング剤を用いた場合には、ミキサーでの混練時のブレード回転数を維持するトルク値が上昇する。即ち、粘度が上昇することになる。このようなサイジング剤を用いると、一方向に並べた連続繊維へ溶融樹脂が含浸する際に、サイジング剤の界面との間で反応が促進するため、含浸性が悪くなる。
【0042】
サイジング剤[B]の強化繊維[A]に対する付着量は、特に限定しないが、強化繊維[A]のみの質量に対して、0.01〜5.00質量%であることが好ましく、0.05〜3.00質量%であることがより好ましく、0.10〜2.00質量%であることがさらに好ましい。サイジング剤[B]の強化繊維[A]に対する付着量が、0.01質量%未満では接着性向上効果が現れにくく、5.00質量%を越える付着量では、未反応のサイジング剤[B]が樹脂組成物(繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ)の機械物性に悪影響を与えることがある。
なお、ここでいう「付着」とは、炭素繊維束にサイジング剤が接触することを意味する。
サイジング剤の付着方法としては、特に限定されないが、例えば、サイジング剤を水分散液または溶液(以降、サイジング液と称することがある。)にし、炭素繊維束に接触させる方法が好ましい。具体的には、後述するタッチロール方式や浸漬方式等により付着させることができる。
また、付着量は、サイジング剤が付着した炭素繊維束を、TGA分析機等を用いて重量変化により測定することが可能である。
【0043】
[ポリアミド系樹脂[C]]
本発明におけるポリアミド系樹脂[C]としては、脂肪族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドが挙げられる。
【0044】
脂肪族ポリアミドとしては、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ナイロン612、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン69)やそれらの共重合体であるナイロン6/66コポリマー、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンセバカミドコポリマー(ナイロン6/610コポリマー)、ナイロン6/66/610コポリマー、ナイロン6/12コポリマー、ナイロン6/66/610/12コポリマー、等が挙げられる。
【0045】
また芳香族ポリアミド(芳香族ナイロン)としては、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ナイロン9T、ナイロンMXD6、ナイロンMXD10、ナイロン6/6Tコポリマー、ナイロン6T/12コポリマー、ナイロン6T/66コポリマー、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6Iコポリマー)、ナイロン66/6I/6コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/6I/66コポリマー、ナイロン6T/M−5Tコポリマー等が挙げられる。
【0046】
含浸性や成型性の観点から、融点が250℃以下であるナイロン6、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロンMXD6が好ましく、成形性や汎用性からナイロン6、高い力学物性と低吸水性を兼ね備える材料としてMXD6が、特に好ましい。また、これらの2種類以上のポリアミド系樹脂を混練して使用することも可能である。
【0047】
本発明に用いるポリアミド系樹脂[C]の溶融粘度は、動的粘弾性測定による複素粘性率により評価することができる。本発明に用いるポリアミド系樹脂[C]は、複素粘性率が30〜250Pa・sであることが好ましい。
特に、本発明においては、回転式粘度計を用いパラレルプレートを用いて評価することができる。
【0048】
測定温度は、ポリアミド系樹脂[C]の融点+20〜50℃であることが好ましく、より好ましくは、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃である。
ポリアミド系樹脂[C]の融点+20℃より低いと、十分に溶融できない可能性があり、ポリアミド系樹脂[C]の融点+50℃より高いと、樹脂が分解する可能性がある。
【0049】
また測定時の角周波数は、100rad/s〜0.1rad/sであり、0.1rad/sにおける値を溶融粘度値とする。
【0050】
本発明に用いるポリアミド系樹脂[C]の複素粘性率は、例えば、パラレルプレートを用いた回転式粘度計を用いた動的粘弾性測定にて、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃、歪量20%、角周波数0.1rad/sにて測定した溶融粘度として表すことができる。
上記条件にて測定した溶融粘度(即ち、複素粘性率)としては、30〜250Pa・sであることが好ましい。上記条件にて測定した溶融粘度が250Pa・sより高すぎるとポリアミド系樹脂[C]の粘度が高い為、プリプレグ作製時の強化繊維[A]へのポリアミド系樹脂[C]の含浸性が悪くなる。また、上記条件にて測定した溶融粘度が30Pa・sより低すぎると、製造過程でのポリアミド系樹脂[C]の吐出安定性の低下やフィルム製造が困難になる等の影響がでる。また、上記範囲の粘度であっても、ポリアミド系樹脂[C]とサイジング剤[B]とを混合して流動性を評価した際に、ポリアミド系樹脂[C]単体とサイジング剤[B]との混合物のトルクの値の平均値の比(N/N)が4.0以上であると、プリプレグ作製中にポリアミド系樹脂[C]とサイジング剤[B]との接する界面での反応が進み、ポリアミド系樹脂[C]の粘度が上昇すると考えられ、プリプレグ作製時の強化繊維[A]へのポリアミド系樹脂[C]の含浸性が悪くなる。
そのため、本発明においては上記条件にて測定した溶融粘度が30〜250Pa・sであるポリアミド系樹脂[C]、及び前記ポリアミド系樹脂[C]とサイジング剤[B]とを混合して流動性を評価した際に、前記樹脂単体と前記サイジング剤[B]との混合物のトルクの値の平均値の比(N/N)が4.0より小さくなるサイジング剤[B]、を選択することが好ましい。
上記条件にて測定したポリアミド系樹脂[C]の溶融粘度は、好ましくは50〜200Pa・sである。
【0051】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグに含まれる強化繊維[A]の量は、樹脂組成物(繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ)の機械物性と経済性の観点から、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、15〜80質量%が好ましい。前述の通り、強化繊維[A]に対するサイジング剤[B]の付着量は0.1〜2質量%が最も好ましいので、サイジング剤[B]の含有量は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、0.02〜2質量%が好ましい。残りがマトリクス樹脂であるポリアミド系樹脂[C]であるので、ポリアミド系樹脂[C]の好ましい含有量は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、18〜85質量%である。強化繊維[A]が少なすぎると高い物性が得られない場合があり、多すぎるとポリアミド系樹脂[C]の含浸が困難となる場合がある。また、サイジング剤[B]が少なすぎるとポリアミド系樹脂[C]との接着性が現れにくく、かつ収束性が困難となり、多すぎるとプリプレグ作製時の開繊性が困難となる。また、未反応のサイジング剤[B]が樹脂組成物の機械物性に悪影響を与えることがある。更に、ポリアミド系樹脂[C]が少なすぎると強化繊維[A]量が多くなるため、ポリアミド系樹脂[C]の含浸性が困難となり、多すぎると強化繊維[A]の補強効果が得られず、高い物性が得られない。より好ましい強化繊維[A]の含有量は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、30〜65質量%、サイジング剤[B]の含有量は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、0.1〜1.5質量%、ポリアミド系樹脂[C]の含有量は、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの総質量に対して、30〜65質量%である。
【0052】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグにおける強化繊維[A]の目付(g/m)は特に限定されないが、一方向性の連続繊維として、好ましい範囲は50〜300g/mである。この範囲とすることで含浸性のより優れたプリプレグを作製することが可能となる。目付が低すぎると繊維の開繊維性が困難となる場合があり、目付が高すぎると、含浸性が不良となる場合がある。本発明において、更に好ましい目付の範囲は、70〜200g/mである。
【0053】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグは、強化繊維[A]束にサイジング剤[B]を付着させた後に、ポリアミド樹脂[C]と組み合わせることで製造することができる。
強化繊維[A]束にサイジング剤[B]を付着させる方法としては、特に限定されないが、例えば、サイジング剤[B]を水分散液または溶液(以降、サイジング液と称することがある。)にし、強化繊維[A]束に接触させる方法を好ましく用いることができる。具体的には、このサイジング液にロールの一部を浸漬させ表面転写した後、このロールに 強化繊維[A]束を接触させてサイジング液を付与するタッチロール方式や、 強化繊維[A]束を直接サイジング液中に浸漬させる浸漬方式等を用いることができる。 強化繊維[A]束へのサイジング剤[B]の付着量の調節は、サイジング液中のサイジング剤[B]の濃度調整や絞り量調整によって行うことができる。サイジング液は、工程管理の容易さや安全性等の観点から、水分散液であることがより好ましい。なお、サイジング剤[B]の製造方法は限定されないが、例えば、水分散液として用いる場合は、水中にサイジング剤[B]を添加した状態で、このサイジング剤[B]の融点以上の温度に加熱し、高せん断の条件下で攪拌して、さらに冷却する等の方法が挙げられる。
【0054】
[プリプレグ]
以下、本発明でのプリプレグの製造方法に関して説明するが、本発明はこれによって特に制限されるものではない。
本発明におけるプリプレグの製造方法は、サイジング剤[B]を付着させた複数の強化繊維[A]に、溶融したポリアミド系樹脂[C]を加えて、ポリアミド系樹脂[C]の融点+10〜+60℃の温度にて、0.1〜5.0MPaで加圧する繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法である。
なお、本願明細書及び請求の範囲における「ポリアミド系樹脂[C]の融点+10〜+60℃の温度」とは、樹脂の内温を意味する。
溶融したポリアミド系樹脂[C]を複数の強化繊維[A]に加える方法としては、ポリアミド系樹脂[C]のフィルムを形成した後に溶融含浸させる方法;ポリアミド系樹脂[C]を押出し機にて溶融した状態で強化繊維[A]に塗布して含浸させる方法;ポリアミド系樹脂[C]の樹脂パウダーを強化繊維[A]に分散した後に溶融含浸させる方法;ポリアミド系樹脂[C]を溶媒に溶かした状態で強化繊維[A]に含浸し、その後溶媒を除去する方法;ポリアミド系樹脂[C]を繊維状に賦形した後、強化繊維[A]と混繊し、溶融含浸させる方法等が挙げられるが、安定生産等から、ポリアミド系樹脂[C]のフィルムを形成した後に溶融含浸させる方法や押出し機にて溶融した状態で強化繊維[A]に塗布し含浸させる方法が好ましい。
【0055】
ポリアミド系樹脂[C]をフィルムを形成した後に溶融含浸させる方法としては、まず、上述したポリアミド系樹脂[C]を用いてフィルムを形成する。フィルムの形成方法は特に制限されないが、ポリアミド系樹脂[C]のペレットを溶融してTダイから押出す方法等が挙げられる。ポリアミド系樹脂[C]のフィルムの厚さは特に制限せれないが、10〜100μmが好ましく、より好ましくは25〜50μmである。
【0056】
上述した熱可塑性樹脂(ポリアミド系樹脂[C])の形態として、例えば、前述したフィルム状のポリアミド系樹脂[C]を二層分準備し、強化繊維[A]シートを一方向に連続的に送り出し、公知の方法にて開繊した強化繊維[A]シートに両側から挟み込み、加熱および加圧を行う工程を経てプリプレグとする製造方法が挙げられる。より具体的には、対を形成する熱可塑性樹脂フィルム(ポリアミド系樹脂[C]フィルム)を送り出す2つのロールから二層分のフィルムを送り出すとともに、強化繊維シートのロールから供給される強化繊維シートをその層間に挟み込ませ、熱可塑性樹脂フィルム−強化繊維シート−熱可塑性樹脂フィルムの三層構造、いわゆるサンドイッチ構造が構成された後に、加熱および加圧する。加熱および加圧する手段としては、公知の方法を用いることができ、1個以上の熱ロールを利用したり、予熱装置と熱ロールの対を複数使用したりする等の多段階の工程を要する方法であってもよい。またダブルベルトプレス機のような2枚のベルトに挟みこみ、連続的に成形する方法も挙げられる。
またフィルムを片側のみを使用し、片側から含浸させる方法でも良い。
【0057】
上記加熱温度は、ポリアミドの種類にもよるが、通常、200〜400℃が好ましく、ナイロン6やMXD6ナイロンの場合は、240℃〜280℃が好ましい。一方、加圧時の圧力は、通常0.1〜5.0MPaが好ましく、0.1〜5.0MPaとすることで繊維の蛇行や樹脂の流れを抑えながら効率よい含浸が可能となる。
また含浸が悪い場合は複数回加圧を繰り返すことで含浸を促進させることもできる。
【0058】
他のプリプレグの製造方法としては、例えば、強化繊維束を一方向に連続的に送り出した強化繊維シートに、押出機から押し出された溶融樹脂を溶こうし、ロール等により加圧して含浸させる方法が挙げられる。
さらに開繊した強化繊維シートを溶融押出機のダイヘッドに供給し、樹脂を含浸させる方法でプリプレグを作製することも可能である。
【0059】
本発明のプリプレグの好ましい形態は、一方向に並べた連続繊維強化プリプレグである。しかしながらプリプレグの形態は上記に限らず、横糸で一方向繊維を止めた一方向の簾材や連続繊維織物、ノンクリンプファブリックを使用してプリプレグを作成しても良い。連続繊維強化プリプレグシートは、成形時にテープ状にスリットした形態や、テープ状のシートをさらに切断してばら撒いたランダムシートの形態で用いても良い。
【0060】
本発明のプリプレグは、切込みを有していてもよく、前記切込は一方向に配向した強化繊維[A]を横切る方向に強化繊維[A]を切断する深さの切込である。
切断された強化繊維[A]の長さLは、特に制限されるものではないが、力学特性と流動性の観点から、5mm以上、100mm以下が好ましい。特に十分な力学物性とスタンピング成形時のリブ等の薄肉部への流動を両立させるためには、10mm以上50mm以下がさらに好ましい。
【0061】
本発明における切込を有するプリプレグは、レーザーマーカー、カッティングプロッタや抜型等を利用して切込を入れることにより得ることができるが、前記切込がレーザーマーカーを用いて施された切込であると、曲線やジグザグ線等複雑な切込を高速に加工できるという効果があるので好ましい。また、前記切込がカッティングプロッタを用いて施された切込であると、2m以上の大判のプリプレグ層を加工できるという効果があるので好ましい。さらに、前記切込が抜型を用いて施された切込であると、高速に加工が可能であるという効果があるので好ましい。
【0062】
本発明の成形体に用いることができる繊維強化熱可塑樹脂プリプレグは、以下の各工程を経て、熱可塑性成形板となる。
工程(1):本発明の一態様である繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを、2枚以上積層してプリプレグ積層体を得る。
工程(2):工程(1)で得られたプリプレグ積層体を、ポリアミド系樹脂[C]の融点+10〜+60℃の温度にて予熱する。
工程(3):余熱されたプリプレグ積層体を、ポリアミド系樹脂[C]の融点+10〜+60℃の温度、圧力0〜5.0MPaにて、加熱加圧する。
工程(4):加熱加圧されたプリプレグ成形体を0.1〜5.0MPaにて冷却加圧して成形体を得る。
【0063】
成形体の製造方法が、回分式工程である場合、用いるポリアミド系熱可塑性樹脂により各種温度は異なるが、例えば、成形機加熱部温度を200℃〜350℃の範囲内に昇温させておき、熱可塑性プリプレグを2枚以上積層した積層体を成形機加熱部に導入して、前記積層体の温度が融点の+10〜60℃の範囲内になる程度まで予熱を行う。この範囲とすることで含浸に最適な粘度範囲が得られる。+60℃以上となるとポリアミド系樹脂[C]の分解の影響があり、好ましくない。
なお、熱可塑性プリプレグの積層枚数は、熱可塑性プリプレグの厚さと最終成形板の厚さによって適宜調整することができ、例えば2〜50枚であればよく、4〜20枚が好ましい。
その後、加熱加圧工程として、成形機加熱部温度を保持したまま圧力0〜5.0MPaにて熱可塑性プリプレグを1分間〜10分間加圧を行う。5.0MPa以上となると繊維の蛇行が生じやすくなる。また余熱後に圧力を印加しない方法も可能である。その後、冷却加圧工程として、熱可塑性プリプレグを成形機冷却部に移し加圧を行う。この際冷却温度は用いるポリアミド系樹脂[C]の融点や結晶化挙動によって異なるが、冷却部の板面温度を30℃〜120℃で、樹脂温度が30〜150℃となるまで、1分間〜10分間冷却を行ことが好ましい。
【0064】
一方連続式工程である場合、熱可塑性プリプレグを2枚以上積層させた積層体をスチールベルトに乗せ、用いる熱可塑性樹脂により温度は異なるが、150℃〜300℃まで予熱を行った後、予め180℃〜350℃まで昇温させておいた熱ロール間を通すことによって加熱・加圧し、その後冷却加圧させることで熱可塑性成形板を得る方法がある。その他、例えば、加熱加圧・冷却加圧をベルトプレスで行ったり、予熱を遠赤外線ヒータ方式や電磁誘導方式やジュール加熱方式によって行う等、適宜材料によって工程を選択することができる。
【0065】
加熱加圧工程での加圧時間は、用いる成形型の材質や大きさ等により異なるが、例えば、1分間以上10分間以下であることが好ましい。加圧時間が1分間未満の場合、加熱加圧工程後の成形機加熱部温度と熱可塑性プリプレグの積層体の温度との乖離が著しく、加熱不十分となる傾向にある。一方、加圧時間が10分間を超えると、加熱加圧工程後の成形機加熱部温度と熱可塑性プリプレグの積層体の温度との乖離がなく加熱十分となるが、トータルでの成形時間が長くなるため生産性の悪化を招く傾向にある。
【0066】
本発明の熱可塑性成形体の製造方法の冷却加圧工程での加圧圧力は、得られる熱可塑性成形体の加熱面辺りの圧力が、0.1MPa以上、5.0MPaであることが好ましい。圧力が小さすぎると、冷却時に生じる熱可塑性樹脂の熱収縮に追従することができず、系内に微小ボイドが新たに生成される傾向があり、そのような成形条件で得られた熱可塑性成形板は機械物性が低下する傾向にある。一方、圧力が高すぎると加熱加圧工程中に生じるバリの量が増加してしまい、結果仕込みに対して得られる熱可塑性成形板の繊維体積含有率等がずれてしまう傾向にある。冷却加圧時間は、1分間〜10分間が好ましい。
【0067】
本発明における成形体は空隙面積率が10%以下であることが好ましい。空隙面積率は、得られた成形体の任意の断面の面積に対する、空洞部分(ボイド)の断面の面積の比率であり、断面はSEMや光学顕微鏡によって観察することができる。本発明においては空隙面積率が10%以下であることが好ましく、さらに好ましくは8%以下である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
また、本発明の炭素繊維束について、より具体的に実施例に基づいて説明するが、これは本発明の内容を限定するものではない。
【0069】
[製造例1:サイジング液A]
ミキサー(特殊機化工業(株)製、商品名:ハイビスディスパーミックス、ホモミキサー仕様:型式3D−5型)を用い、以下の手順で、転相乳化することでサイジング液を調製した。
エポキシ樹脂jER(登録商標)828(商品名、ジャパンエポキシレジン株式会社製)40質量部、エポキシ樹脂jER(登録商標)1001(商品名、ジャパンエポキシレジン株式会社製)40質量部、ノニオン系界面活性剤プルロニックF88(商品名、BASF製)20質量部の混合物を、90℃にてプラネタリーミキサーとホモミキサーで混練、混合し、樹脂組成物(II)(サイジング剤)を得た。次に、この樹脂組成物(II)に脱イオン水を少量ずつ滴下して転相点を通過した後、滴下する水量を増加した。最終的に樹脂組成物濃度40質量%のサイジング液Aを得た。
【0070】
[製造例2:サイジング液B]
ビスフェノールAエチレンオキサイド60モル付加物(松本油脂製薬株式会社製)50質量部、ビスフェノールAエチレンオキサイド30モル付加物(松本油脂製薬株式会社製)50質量部の混合物を脱イオン水に投入して攪拌し、最終的に樹脂組成物濃度が70質量%のサイジング液Bを得た。
【0071】
[製造例3:サイジング液C]
下記の種類と配合量の(A2)成分、(B2)成分、(C2)成分およびその他の成分を、80〜100℃にてプラネタリーミキサーとホモミキサーで混練、混合した。その後、混練を維持した状態で80℃に降温し、引き続き、下記(D)成分の水溶液を少量ずつ添加した。この工程で、内容物の粘度は徐々に上昇した。(D)成分の水溶液を全て投入した後、10分間、充分に混練しながら60℃まで降温した。次に、脱イオン水を少量ずつ滴下して転相点を通過した後、滴下する水量を増加した。最終的に有効成分含量40質量%程度のサイジング剤水分散液Cを得た。
(A2)片末端アクリル変性ビスフェノールAエポキシ樹脂(35質量部)(EP828ベース)三菱レイヨン(株)
(B2)脂肪族系ウレタンアクリレートオリゴマー(30質量部)CN−9788 サートマー社製
(C2)ビスフェノールAのエチレンオキシド2モル付加物無水フマル酸エステル(20質量部)(酸化55)三菱レイヨン(株)
(D)日本乳化材(株) ニューコール723SF(15質量部)
【0072】
[ポリアミド系樹脂]
ナイロン6(宇部興産(株)製 1013B)
ナイロン6(宇部興産(株)製 1022B)
MXD6(三菱ガス化学(株)製 S6001)
【0073】
(溶融粘度測定)
ポリアミド系樹脂を厚さ1mmにプレス成型し、打ち抜き刃で直径25mmφの粘弾性測定用試験片を作成した。この試験片をナイロン6においては255℃、MXD6に関しては270℃にて回転式粘度計に装填し、動的粘弾性を角周波数ω=100(rad/sec)から0.1(rad/sec)まで、歪量=5〜20%で測定した。測定装置には、ARES100FRTN1(TAインスツルメント・ジャパン(株)製)を用い、測定治具には直径25mmφのパラレルプレートを使用した。得られた動的粘弾性データの角周波数ω=0.1(rad/sec)における溶融粘度を複素粘性率とした。測定時に試料に印加する歪量は、測定トルクが装置トランスデューサーのダイナミックレンジに入るように、適宜調整した。
【0074】
(流動性評価)
株式会社東洋精機製作所製、ラボプラストミル(50C150)、ミキサ容量60cc、ブレード(R60)を用いて評価した。
ポリアミド系樹脂を充填率が約60%になるように秤量した(ナイロン6:41g、MXD6:44g)。次にあらかじめ融点+30℃(ナイロン6は255℃、MXD6は270℃)に加熱したミキサに投入し、スクリューを100rpmで回転させて15分間混練した。混練中のスクリューを100rpmに維持するために必要なスクリューのトルクの15分間の平均値をNとした。
さらにポリアミド系樹脂に対して、80℃で質量変化がなくなるまで加熱して水分を除去したサイジング液A〜Cを樹脂組成物が3wt%となる量で混合した。
ナイロン6:樹脂40g、 サイジング組成物1.2g
MXD6:樹脂42g、 サイジング組成物1.3g
得られた混合物を、上記と同様の方法にてトルク平均値(N)を求めた。
トルクの比(N)を以下の式にて求めた。
N=N/N
:ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにポリアミド樹脂[C]のみをミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときのポリアミド系樹脂[C]の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値。
:ローラ型ブレードを有する容量60ccのミキサを用い、ミキサの容量に対して60%の充填率になるようにサイジング剤[B]とポリアミド系樹脂[C]を3:100(質量比)で混合した混合物をミキサに充填し、ポリアミド系樹脂[C]の融点+30℃の温度で加熱溶融したときの前記混合物の流動性を、前記ローラ型ブレードの回転数を15分間100rpmに維持するのに必要な前記ローラ型ブレードのトルクの値の平均値で表した値。
結果を表1に示した。
【0075】
[実施例1]
(強化繊維(炭素繊維)束の製造)
樹脂組成物等が付着していない炭素繊維束(三菱レイヨン社製、商品名:パイロフィル(登録商標)TR 50S15L)を、固形分濃度2.0質量%に調製したサイジング液Bの水分散液に浸漬させ、ニップロールを通過させた後に、表面の温度を140℃とした加熱ロールに10秒間接触させることにより乾燥し、ポリアミド系樹脂組成物が付着した炭素繊維束を得た。
【0076】
(炭素繊維シートおよびプリプレグの作製)
製造した炭素繊維束をドラムワインドにて巻き付け、炭素繊維の目付(FAW:単位面積当たりの質量)が145g/mの一方向の炭素繊維シートを作製した。なお、PAN系炭素繊維1は、繊維束(トウ)の状態で取り扱い、各繊維束を構成するPAN系炭素繊維1の本数は、15000本であった。
【0077】
(一方向性熱可塑樹脂プリプレグの作製)
炭素繊維を一方向に配向した炭素繊維のシート状物(目付145.0g/m2)の両面にナイロン6樹脂フィルムまたはMXD6フィルムを積層させて積層体を得た。この積層体をナイロン6では255℃、MXD6では270℃に加熱して、熱可塑性樹脂フィルムを炭素繊維のシート状物に溶融含浸させ、熱可塑性UDプリプレグを得た。得られた熱可塑性プリプレグの厚みは159μm、目付けは145.0g/m2、繊維堆積含有率は50.0%であった。
【0078】
(一方向炭素繊維複合材料成形板(12ply)の成形)
前記UDプリプレグを、繊維軸方向が一致するようにして、12枚積層させ、その積層体を成形型に入れた。さらに、予め加熱盤を300℃とした加熱冷却二段プレス機(神藤金属工業所社製、製品名:F−37)に投入し金型の内温がナイロン6では240℃、MXD6では260℃になるまで予熱を行った。続いて、圧力2MPaで1分間加熱加圧プレスを行った後、圧力2MPaで冷却プレスを行い、成形板を得た。
【0079】
(断面観察)
得られた成形板の周りをポリエステル樹脂(クルツァー社製、商品名:テクノビット4000)で包埋し、炭素繊維の繊維軸方向に対して垂直な任意の切断面を研磨して測定試料を作製した。この測定試料を、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、商品名:VHX−100)を用いて観察した。
【0080】
(空隙面積率)
成形体をポリエステル樹脂(クルツァー社製、製品名:テクノビット4000)に包埋し、炭素繊維の繊維軸方向に対して垂直な任意の断面を耐水ペーパーの番手#200、400、600、800、1000の順に、各番手で5分間研磨後、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、製品名:VHX−100)を用いて150倍で断面の撮影を行った。撮影した断面の面積とボイド面の面積を測定し、断面積に対するボイドの面積の比率を計算することで空隙面積率を測定した。
【0081】
(90°曲げ試験)
上記で得られた一方向炭素繊維複合材料成形板を湿式ダイヤモンドカッターにより長さ(90°方向の長さ)60mm×幅(10°方向の長さ)12.7mmの寸法に切断して試験片を作製した。万能試験機(Instron社製、商品名:Instron5565)と、解析ソフト(商品名:Bluehill)とを用いて、ASTM D790に準拠(圧子R=5.0、L/D=16)した方法で得られた試験片に対して3点曲げ試験を行い、90°曲げ強度を算出した。
結果を表1に示す。
【0082】
総合評価では90°曲げ物性、含浸率、N/N評価のうち、全てよい物をA、2つの項目がよいものをB、1つの項目がよいものをC、全て悪いものをDとした。
【0083】
[実施例2]
サイジング剤としてサイジング液Cを用いた以外は実施例1と同様の方法にて評価を実施した。結果を表1に示す。
【0084】
[実施例3]
サイジング剤としてサイジング液Bを、樹脂にMXD6を用いた以外は実施例1と同様の方法にて評価を実施した。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例4]
サイジング剤としてサイジング液Cを、樹脂にMXD6を用いた以外は実施例1と同様の方法にて評価を実施した。結果を表1に示す。
【0086】
[実施例5]
ナイロン6(1013B)を使用した熱可塑性UDプリプレグを上記実施例1と同様の製作方法で得た。得られた熱可塑性プリプレグの厚みは149μm、目付けは125.0g/m2、繊維堆積含有率は42.0%であった。得られたプリプレグを、300mm角に切り出し、カッティングプロッタ(レザック製、製品名:L−2500)を用いて一定間隔で切込を入れた。その際、シートの端部より5mm内側部分を除き、強化繊維の長さL=25.0mm一定、平均切込長l=42.4mmになるよう、繊維を切断する切込と強化繊維のなす角度θ=45°の切込加工を施した。
【0087】
(積層板の成形)
前記切込熱可塑性UDプリプレグ16層を疑似等方([0/45/90/−45]s2)に積層し、その積層体を成形型に入れた。さらに、予め加熱盤を300℃とした加熱冷却二段プレス機(神藤金属工業所社製、製品名:SFA−50HH0)に投入し金型の内温が250℃になるまで予熱を行った。続いて、圧力0.3MPaで11分間加熱加圧プレスを行った後、圧力1.0MPaで冷却プレスを行い、成形板を得た。得られた成形板の曲げ強度、空隙面積率を表1に示す。
【0088】
[実施例6]
樹脂としてMXD6を用いた以外は実施例5と同様の方法にて積層板を作成し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0089】
[比較例1]
サイジング剤としてサイジング液Aを、ポリアミド系樹脂にナイロン6(1013B)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて評価を実施した。結果を表1に示す。
【0090】
[比較例2]
サイジング剤としてサイジング液Aを、ポリアミド系樹脂にMXD6を用いた以外は実施例1と同様の方法にて評価を実施した。結果を表1に示す。
【0091】
[比較例3]
サイジング剤としてサイジング液Aを、ポリアミド系樹脂にナイロン6(1022B)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて評価を実施した。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、軽量で強度と剛性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを積層してなる成形体、および繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの製造方法を提供することができるので、産業上極めて有用である。