【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(アクリル繊維および繊維紙の電気抵抗値測定方法)
繊維の抵抗値を測定するために、繊維を長さ方向に3cmの長さに切断してから、絶縁性の試料台に両端を固定し、さらに導電性ペースト(藤倉化成株式会社製、製品名:ドータイト)をペースト間が1cmとなるように塗布して、絶縁計のテストピンで接地点を作成した。その後、導電性ペーストで被覆されていない部分の繊維を切り取り、超絶縁計(日置電機製、製品名: SM−8216)を用いて、10Vの印加電圧で導電性ペースト間の抵抗値を測定した。なお、抵抗値が測定範囲以上に高く、抵抗値が表示されない場合を絶縁体とみなした。
【0024】
(アクリル繊維紙の厚さ方向の電気抵抗値測定方法)
アクリル繊維紙を横2cm、縦5cm、厚さ0.5mmの鉄板二枚で挟み、デジタルマルチメータ(三和電気計器株式会社製、製品名:PM11)を用いて、鉄板間の抵抗値を測定した。本測定器による抵抗値の測定上限は40MΩであり、本測定器で測定して抵抗値が測定上限以上となった場合、アクリル繊維紙を絶縁体とみなした。
【0025】
(耐油性評価方法)
ネジ口ビン(内容量:20cm
3)に長さ2cmに切断したアクリル繊維を0.5g投入した。また、アクリル繊維紙は、長さ1cm、幅1cmに切断にして同様にネジ口ビンに投入した。さらに有機溶剤(プロピレンカーボネート)を2cm
3投入して、ネジ口ビンを密封し、乾熱乾燥機にて150℃、1時間保持した後のアクリル繊維またはアクリル繊維紙の様子を目視にて確認した。アクリル繊維またはアクリル繊維紙が完全に溶解しておらず、一部残存している場合は耐油性ありとした。
【0026】
(耐熱性評価方法)
ネジ口ビン(内容量:20cm
3)に長さ2cmに切断したアクリル繊維を0.5g投入した。また、アクリル繊維紙は、長さ1cm、幅1cmに切断にして同様にネジ口ビンに投入した。さらに有機溶剤(プロピレンカーボネート)を2cm
3投入して、ネジ口ビンを密封し、乾熱乾燥機にて150℃、1時間保持した後のアクリル繊維またはアクリル繊維紙の様子を目視にて確認した。アクリル繊維またはアクリル繊維紙に収縮が起こらず寸法が維持された場合は耐熱性ありとした。
(実施例1)
【0027】
アクリロニトリル93質量%、酢酸ビニル7質量%を水系懸濁重合して得たポリアクリロニトリル共重合体を、ジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液を得た。紡糸原液中のポリアクリロニトリル共重合体の含有量は、20質量%とした。紡糸原液を口径60μm、口数400個の紡糸ノズルから、ジメチルアセトアミド水溶液を入れた紡浴(ジメチルアセトアミドの濃度:30質量%、温度:41℃)中へ押出して凝固し繊維化した。凝固した糸条は、連続で熱水槽へ供給し、糸条に残存した溶媒を90℃の熱水と置換しながら5.5倍の延伸を行った。延伸が終了した繊維糸条に紡糸油剤を付与した後、乾熱ローラーにより乾燥することによって、単繊維繊度0.5dtex、強度2.34cN/dtex、伸度15%のアクリル繊維を得た。
【0028】
得られたアクリル繊維を長さ方向に寸法を固定した状態で、240℃、30分間の熱処理を行った。熱処理後のアクリル繊維の電気抵抗値を測定したところ、絶縁体であることが確認された。また、前記アクリル繊維を耐油性評価した結果、形状を維持した状態で残っていることが確認でき、耐油性を付与できていることがわかった。
【0029】
上記の熱処理を行ったアクリル繊維を3mmの長さに切断し、32g/m
2で抄紙を作成し、プレス乾燥(110℃、5分間)し、次いで電動式加熱ロール延伸機(株式会社井元製作所製)を使用し、上熱ローラー、下熱ローラー共に設定値175℃に加熱した状態で、上下熱ローラー間のクリアランスを20μmとし、速度0.5m/minでカレンダー加工を行い、厚さ52μmのアクリル繊維紙を得た。
【0030】
得られたアクリル繊維紙についてシートの厚さ方向の電気抵抗値を測定した結果、絶縁体であることが確認された。さらに、前記アクリル繊維紙の耐油性および耐熱性を確認した結果、プロピレンカーボネート中で150℃まで昇温してもアクリル繊維紙は変形せず、耐油性および耐熱性を有するアクリル繊維紙が得られたことが確認された。
【0031】
(実施例2)
ポリアクリロニトリル共重合体の組成をアクリロニトリル95質量%、酢酸ビニル5質量%とした以外は、実施例1と同様の方法により、単繊維強度0.5dtex、強度2.43cN/dtex、伸度13%のアクリル繊維を得た。
得られたアクリル繊維の電気抵抗値を測定したところ、絶縁体であることが確認された。
前記アクリル繊維を長さ3mmに切断し、32g/m
2で抄紙を作成し、プレス乾燥(110℃、5分間)を行った後、実施例1と同様の方法によりカレンダー加工を行い厚さ45μmのアクリル繊維紙を得た。
【0032】
得られたアクリル繊維紙についてシートの厚さ方向の電気抵抗値を測定したところ、絶縁体であることが確認できた。さらに前記アクリル繊維紙の耐油性を確認したところ、プロピレンカーバイト中で溶解し、耐油性がないことが確認された。
該アクリル繊維紙を縦横方向に寸法を固定した状態で、220℃で30分熱処理を行ったところ、繊維紙には波状の変形が見られ、実用上使用に耐えうるが、やや均質性が劣るものであった。熱処理を行ったアクリル繊維紙の耐油性および耐熱性を確認したところ、繊維シートの変形が見られなかった。
(実施例3)
【0033】
実施例1と同様の方法により紡糸を行い、単繊維繊度1.0dtex、強度1.98cN/dtex、伸度15%のアクリル繊維を得た。前記アクリル繊維を長さ方向に寸法を固定した状態で熱処理(230℃、30分間)を行うことにより、耐熱性および耐油性を有するアクリル繊維を得ることができた。
【0034】
上記のように熱処理を行ったアクリル繊維を長さ3mmに切断し、ポリビニルアルコール繊維(3dtex、3mm)とアクリル繊維95質量部、ポリビニルアルコール繊維5質量部の割合で混合し、32g/m
2で抄紙を行い、次いで実施例1同様の方法によりカレンダー加工を行い、厚さ50μm、シート厚さ方向に絶縁体であるアクリル繊維紙を得ることができた。該アクリル繊維紙の耐油性を確認したところ、プロピレンカーバイト中へポリビニルアルコール繊維が溶出していることが確認されたが、繊維紙は形状を保っており、耐熱性が得られていることが確認された。
(比較例1)
【0035】
ポリアクリロニトリル共重合体の組成をアクリロニトリル92質量%、酢酸ビニル7質量%とした以外は、実施例1と同様の方法により、単繊維強度1.0dtex、強度2.22cN/dtex、伸度19%のアクリル繊維を得た。得られたアクリル繊維を長さ方向に寸法を固定した状態で、240℃、30分加熱したところ繊維が融解収縮し、分繊可能なアクリル繊維を得ることができなかった。
(比較例2)
【0036】
実施例1と同様の方法によって、単繊維繊度2.0dtex、強度1.93cN/dtex、伸度15%のアクリル繊維を得た。前記アクリル繊維を長さ方向に固定した状態で熱処理(230℃、30分間)を行うことにより、耐熱性および耐油性を有するアクリル繊維を得た。さらに前記アクリル繊維を長さ3mmに切断し、32g/m
2で抄紙を行ったところ、抄紙は繊維の粗密があり不均一となった。
(比較例3)
【0037】
実施例1と同様の方法により、単繊維強度1.0dtex、強度2.22cN/dtex、伸度19%のアクリル繊維を得た。得られたアクリル繊維を長さ方向に固定した状態で、240℃、30分間、加熱した後、長さ3mmに切断し、ポリビニルアルコール繊維(3dtex、3mm)とアクリル繊維85質量部、ポリビニルアルコール繊維15質量部の割合で混合して、32g/m
2で抄紙を行い、アクリル繊維紙を得た。前記アクリル繊維紙の耐油性を確認したところ、プロピレンカーバイト中へポリビニルアルコール繊維が溶出し、アクリル繊維がほぐれアクリル繊維紙の形状を保つことができなかった。
(比較例4)
【0038】
実施例1と同様の方法により得られたアクリル繊維を、長さ方向に固定した状態で、熱処理(280℃、30分間)を行ったところ、アクリル繊維に柔軟性がなくなり、アクリル繊維紙に加工することができない状態となった。また、繊維の電気抵抗値を測定したところ、通電があることが確認され、絶縁体となっていないことがわかった。