(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
種類が異なる第1粒子と第2粒子を含む混合物を、前記混合物を含む常磁性の支持液体に勾配磁場を印加して粒子の種類別に分離する、又は、種類が異なる第1粒子と第2粒子を含む混合物を含む常磁性の支持液体に勾配磁場を印加して、前記混合物から前記第1粒子若しくは前記第2粒子を分離する混合物の分離方法であって、
前記第1粒子の磁化率は、前記支持液体の磁化率よりも低く、
前記第2粒子の磁化率は、前記支持液体の磁化率よりも高く、
磁気フィルタ手段が設けられた分離槽内の前記支持液体に前記勾配磁場を印加すると共に前記支持液体を攪拌し、
前記勾配磁場は、少なくとも前記磁気フィルタ手段の上方にて、磁気アルキメデス効果によって前記第1粒子が前記支持液体中に又はその液面に浮遊するように印加され、
前記勾配磁場により励磁された前記磁気フィルタ手段で、前記支持液体中の前記第2粒子を捕集する混合物の分離方法。
前記勾配磁場によって、前記第1粒子には水平な磁気力が作用し、前記第1粒子は、前記磁気力によって前記磁気フィルタ手段の側方又は外方の領域に移動し、前記領域にて収集される、請求項1に記載の混合物の分離方法。
前記勾配磁場は、鉛直方向に沿った中心軸に対して軸対称であって、前記勾配磁場の磁場勾配は、鉛直方向成分及び径方向成分を有しており、前記支持液体に前記勾配磁場を印加することで、前記第1粒子には前記中心軸から離れるように径方向に沿った磁気力が加わる、請求項1、3及び4の何れかに記載の混合物の分離方法。
前記第1粒子は、反磁性体又は常磁性体で形成されており、前記第2粒子は、常磁性体又は反強磁性体で形成されており、前記支持液体は、常磁性無機塩の水溶液である、請求項1、3乃至5の何れかに記載の混合物の分離方法。
前記磁気フィルタ手段は、強磁性体で形成された網板を含んでおり、前記勾配磁場は、前記網板に略垂直に印加される、請求項1、3乃至6の何れかに記載の混合物の分離方法。
種類が異なる第1粒子と第2粒子を含む混合物を、前記混合物を含む常磁性の支持液体に勾配磁場を印加して粒子の種類別に分離する、又は、種類が異なる第1粒子と第2粒子を含む混合物を含む常磁性の支持液体に勾配磁場を印加して、前記混合物から前記第1粒子若しくは前記第2粒子を分離する混合物の分離装置であって、
前記第1粒子の磁化率は、前記支持液体の磁化率よりも低く、
前記第2粒子の磁化率は、前記支持液体の磁化率よりも高く、
前記支持液体が貯められる又は送られる分離槽と、
前記勾配磁場を生成する磁場生成手段と、
前記分離槽内に設けられた磁気フィルタ手段と、
前記分離槽内の前記支持液体を攪拌する攪拌手段とを備えており、
前記分離槽内の前記支持液体に前記勾配磁場が印加されると共に、前記支持液体が攪拌され、
前記勾配磁場は、少なくとも前記磁気フィルタ手段の上方にて、磁気アルキメデス効果によって前記第1粒子が前記支持液体中に又はその液面に浮遊するように印加され、
前記勾配磁場により励磁された前記磁気フィルタ手段に、前記支持液体中の前記第2粒子が捕集される混合物の分離装置。
前記勾配磁場によって、前記第1粒子には水平な磁気力が作用し、前記第1粒子は、前記磁気力によって、前記磁気フィルタ手段の側方又は外方の領域に移動し、前記領域にて収集される、請求項8に記載の混合物の分離装置。
前記勾配磁場は、鉛直方向に沿った中心軸に対して軸対称であり、前記勾配磁場の磁場勾配は、鉛直方向成分及び径方向成分を有しており、前記支持液体に前記勾配磁場を印加することで、前記第1粒子には前記中心軸から離れるように径方向に沿った磁気力が加わる、請求項8、10及び11の何れかに記載の混合物の分離装置。
前記第1粒子は、反磁性体又は常磁性体で形成されており、前記第2粒子は、常磁性体又は反強磁性体で形成されており、前記支持液体は、常磁性無機塩の水溶液である、請求項8、10乃至12の何れかに記載の混合物の分離装置。
前記磁気フィルタ手段は、強磁性体で形成された網板を含んでおり、前記勾配磁場は、前記網板に略垂直に印加される、請求項8、10乃至13の何れかに記載の混合物の分離装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の混合物の分離方法及び分離装置で処理される混合物は、種類が異なる(より具体的には、形成する物質が異なる)第1粒子と第2粒子を含んでおり、支持液体に懸濁した状態で分離処理される。第1粒子の磁化率(より具体的には、体積磁化率。以下同様)は、本発明に使用される支持液体の磁化率よりも低く、第2粒子の磁化率は、支持液体の磁化率よりも高い。
【0022】
本発明では、支持液体は常磁性を有しており、例えば、常磁性無機塩の水溶液が、本発明の支持液体として使用される。本発明の支持液体に使用される常磁性無機塩としては、塩化マンガン、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化第一鉄、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸ガドリニウム、硝酸ジスプロシウムや硝酸テルビウムなどがある。本発明の作用効果が得られる限りにおいて、支持液体における常磁性無機塩の濃度は、限定又は制限されない。
【0023】
本発明で処理される混合物の第1粒子は、反磁性体で形成されてよい。例えば、第1粒子は、ガラス(シリカ)やプラスチック(ナイロンやポリエチレンテレフタレートなど)で形成されてよい。また、第1粒子は、アルミニウムなどの常磁性体で形成されてもよい。
【0024】
本発明で処理される混合物の第2粒子は、常磁性体又は反強磁性体で形成されてよい。例えば、第2粒子は、チタン(常磁性体)又は酸化ニッケル(反強磁性体)で形成されてよい。また、第2粒子は、鉄、ニッケルやマグへマイトなどの強磁性体で形成されてもよい。
【0025】
本発明において留意すべきは、第1粒子の磁化率が支持液体の磁化率よりも低く、第2粒子の磁化率が支持液体の磁化率よりも高ければ(さらには、第1粒子及び第2粒子の密度が共に支持液体の密度よりも大きい又は小さいならば)、第1粒子及び第2粒子を形成する物質は限定されないことである。後述する第1乃至5実施例では、第1粒子は反磁性体で形成されており、第2粒子は常磁性体又は反強磁性体で形成されているが、本発明は、例えば、第1粒子は常磁性体(例えば、チタン)で形成されており、第2粒子は強磁性体(例えば、マグへマイト)で形成されている場合にも適用可能である。また、第1粒子の磁化率が支持液体の磁化率よりも低く、第2粒子の磁化率が支持液体の磁化率よりも高ければ、第1粒子及び第2粒子が共に常磁性体で形成されてもよい。
【0026】
本発明において、第1粒子及び第2粒子の粒径又は平均粒子径は限定されないが、これら粒子の粒径又は平均粒子径は、数ミクロン〜数センチ程度にされるであろう。また、本発明において、粒子の形状も限定されない。混合物は、例えば、複数の物質で構成された塊状物を破砕又は粉砕することで生成されてよく、混合物に含まれる粒子の形状は均一又は同一でなくともよい。
【0027】
第1粒子及び第2粒子を含む混合物が懸濁した支持液体に勾配磁場を印加すると、これら粒子の単位体積当たりの見かけの重さは、以下の式で与えられる。
(ρ
i−ρ)g+(χ
i−χ)/μ
0・B∂B/∂z
ここで、ρ
iは第1粒子又は第2粒子の密度(i=1 or 2)、χ
iは第1粒子又は第2粒子の磁化率(体積磁化率)(i=1 or 2)、ρは支持液体の密度、χは支持液体の磁化率(体積磁化率)、gは重力加速度、μ
0は真空中の透磁率、Bは磁場(磁束密度)、∂B/∂zは磁場勾配、zは鉛直方向の座標である(下向きを正とする)。
【0028】
(ρ
1−ρ)>0の場合(勾配磁場がないと第1粒子は支持液体中にて沈降する場合)、(χ
1−χ)<0となるように支持液体の磁化率を与えると共に、磁場と磁場勾配の積を正で大きくすることで、上式の見かけの重さが負になって、第1粒子は支持液体中にて浮揚又は浮遊する。例えば、支持液体を貯めた槽の下方に磁石を配置して、鉛直下向きに磁場が大きくなる勾配磁場を支持液体に印加すると、第1粒子は支持液体中にて浮揚する。上式の見かけの重さがゼロとなる釣り合い高さ又は位置で、第1粒子は、磁気アルキメデス効果によって(つまり、勾配磁場に起因した鉛直方向の磁気力(上式の第2項)が支持液体中の第1粒子に作用することで)、安定に浮遊する。釣り合い高さは、第1粒子の密度と磁化率に依存する。支持液体の液面の高さが、上式の見かけの重さがゼロとなる釣り合い高さよりも低い場合には、第1粒子は、支持液体の液面に配置される。
【0029】
(ρ
1−ρ)<0の場合(勾配磁場がないと第1粒子は支持液体の液面に浮遊する場合)、(χ
1−χ)<0となるように支持液体の磁化率を与えると共に、磁場と磁場勾配の積を負で大きくすることで、上式の見かけの重さが正になって、第1粒子は支持液体中にて沈降する。例えば、支持液体を貯めた槽の上方に磁石を配置して、鉛直上向きに磁場が大きくなる勾配磁場を支持液体に印加すると、第1粒子は支持液体中にて沈降する。上式の見かけの重さがゼロとなる釣り合い高さ又は位置で、第1粒子は、磁気アルキメデス効果によって、安定に浮遊する。支持液体が貯蔵される分離槽の底面の高さが、上式の見かけの重さがゼロとなる釣り合い高さよりも高い場合には、第1粒子は、分離槽の底面に配置される。
【0030】
第2粒子の磁化率は、支持液体の磁化率よりも高いので、上述の見かけの重さの式にて、(χ
2−χ)>0となる。その結果、(ρ
2−ρ)>0の場合にて上述したように勾配磁場を与える((ρ
1−ρ)>0の場合にて第1粒子が浮揚するように勾配磁場を与える)と、粒子の見かけの重さは(正のままで)ゼロになることなく、第2粒子は支持液体中にて沈降する。また、(ρ
2−ρ)<0の場合にて上述したように勾配磁場を与える((ρ
1−ρ)<0の場合にて第1粒子が沈降するように勾配磁場を与える)と、粒子の見かけの重さは(負のままで)ゼロになることなく、第2粒子は支持液体の液面にて浮遊する。このようにして、支持液体中の第1粒子と第2粒子は、上下に分離される。
【0031】
本発明では、磁気フィルタ手段を使用して、支持液体中の第2粒子を捕集する。磁気フィルタ手段は、従来より、HGMS法にて常磁性体や強磁性体を吸着するのに使用されている。本発明の磁気フィルタ手段としては、強磁性体の細線で形成された1又は複数枚の網板、エキスパンドメタル又はパンチングメタル、或いは、強磁性体で形成された多数の角柱や球体などが利用でき、本発明を実施する装置に適した形状が選択されてよい。勾配磁場が第2粒子を沈降させるように作用する場合、磁気フィルタ手段は、分離槽の底面又はその付近に設けられる。勾配磁場が第2粒子を支持液体の液面に浮遊させるように作用する場合、磁気フィルタ手段は、支持液体の液面又はその付近に設けられる。
【0032】
本発明では、分離槽内の支持液体に勾配磁場を印加することで、上述したように磁気アルキメデス効果によって支持液体中(若しくは支持液体の液面)にて第1粒子を浮遊させる、又は、磁気アルキメデス効果によって分離槽の底面に第1粒子を沈降させて、鉛直方向について略一定の高さに第1粒子を配置する。さらに、以下に述べるように、勾配磁場により横向き又は水平方向の磁気力を与えることで、磁気フィルタ手段から側方又は外方に離間した分離槽内の領域に第1粒子が収集されてよい。第2粒子は、上述したように、磁気フィルタ手段に捕集される。
【0033】
本発明では、勾配磁場の磁場勾配は、鉛直方向成分(∂B/∂z)に加えて、水平方向成分(∂B/∂x及び/又は∂B/∂y)を有していてよい(xとyは、互いに直交する水平方向の座標である)。また、本発明では、勾配磁場が水平方向成分を有してよい。勾配磁場の磁場勾配が鉛直方向成分に加えて水平方向成分を有すると、或いは、勾配磁場が水平方向成分を有すると、上記の見かけの重さの式の第2項と似たように表現される水平方向の磁気力が第1粒子に働いて、第1粒子は水平方向に移動する。水平方向への移動に伴い、第1粒子の浮遊高さは変化してよい。例えば、勾配磁場の磁場勾配が、鉛直成分(∂B/∂z)に加えて水平成分(∂B/∂x)を有する場合、第1粒子は、磁気アルキメデス効果により浮遊又は沈降すると共に、x軸に沿って移動し、最終的に分離槽の壁面にて、鉛直方向について略一定の高さに、つまり、見かけの重さがゼロとなる釣り合い高さ、支持液体の液面
は、分離槽の底面に集められる(分離槽に設けられた棚などの上又は下に集められてもよい)。例えば、分離槽内にて、当該壁面の反対側に磁気フィルタ手段を配置することで、第1粒子は、磁気フィルタ手段から離れるように横に移動する。勾配磁場を印加することで、第2粒子に(第2粒子と同じに位置にある)第1粒子に加わる力と逆向きの磁気力が加わることから、第2粒子は、第1粒子と反対向きに移動して磁気フィルタ手段に近づき、捕集される。これにより、第1粒子と第2粒子は水平方向について分離される。
【0034】
例えば、勾配磁場が鉛直方向に沿った中心軸に対して軸対称であって、磁場勾配又は
勾配磁場が、鉛直成分に加えて径方向成分を有している場合、第1粒子は、磁気アルキメデス効果により支持液体中にて浮遊又は沈降すると共に、径方向の磁気力によって径方向に(中心軸から放射されるように)移動し、最終的に分離槽の壁面に集められてよい。当該壁面にて、第1粒子は、釣り合い高さ、支持液体の液面又は分離槽の底面などに配置される。第1粒子の収集領域と第2粒子が捕集される磁気フィルタ手段との離間距離を長くして(さらには、勾配磁場による磁気フィルタ手段の励磁を強くして)分離精度を向上させるためには、勾配磁場の中心軸付近に、又は、中心軸と交差若しくは直交するように、磁気フィルタ手段を配置するのが望ましい。
【0035】
本発明にて、勾配磁場を生成する磁場生成手段としては、ソレノイド型超伝導電磁石や超伝導バルク磁石、常伝導電磁石や永久磁石が使用されてよく、本発明の作用効果が得られる限りにおいて限定されない。磁気フィルタ手段は、磁場生成手段の磁極に近接して配置される又は勾配磁場が大きい領域に配置されるのが好ましい。磁場生成手段は、複数の磁石を含んでいてよく、勾配磁場は、これら磁石が生成する磁場が合成されたものであってよい。例えば、磁場生成手段は、磁気アルキメデス効果により第1粒子を浮遊又は沈降させ、磁気フィルタ手段を励磁する鉛直方向の勾配磁場を与える第1磁石と、第1粒子を横に移動させる水平方向の勾配磁場を与える第2磁石とを含んでいてよい。さらに、第2磁石は、間欠的に又は所定の周期で勾配磁場を生じてもよい。
【0036】
第2粒子の磁化率χ
2と支持液体の磁化率χの差が小さいと(例えば、第2粒子は常磁性体又は反強磁性体である)、上式の見かけの重さにおける勾配磁場に依存した項の影響は小さい。また、第2粒子を横に移動させる水平方向又は径方向の磁気力も小さい。さらに、第2粒子の粒径が小さいと、支持液体中における第2粒子の運動は、流体力学的な効果の影響を受けやすくなる。強い磁気力が第2粒子に作用するのは、磁気フィルタ手段の付近に限られることから、勾配磁場を印加しても、粒径の小さい第2粒子の中には、磁気フィルタ手段に捕集されずに、支持液体中にて懸濁した状態を維持するものが存在することが起こり得る。さらに、磁気フィルタ手段から離れた場所にて分離槽の底面に沈殿した第2粒子の中には、そのまま動かないものが存在する事態も起こり得る。
【0037】
本発明では、勾配磁場を印加した状態にて支持液体を攪拌することで、磁気フィルタ手段から離れた場所にて懸濁又は沈殿している第2粒子が磁気フィルタ手段に誘導されてよい。これにより、分離処理に要する時間が短縮され、又は、支持液体中にて第2粒子が分布する領域をより狭くできる。支持液体を攪拌する手法としては、機械的撹拌、振動攪拌、噴流撹拌、ガス吹き込み撹拌や超音波撹拌などが用いられてよく、複数の攪拌手法が併用されてもよい。攪拌により、磁気フィルタ手段に向かう流れが支持液体に生じるのが好ましい。本発明では、勾配磁場に加えて、分離槽内における支持液体の流れが第1粒子と第2粒子の分離や回収に利用されてもよい。例えば
、鉛直方向に沿った中心軸に対して軸対称な勾配磁場が用いられて、円筒状の分離槽内の内壁に第1粒子が集められる場合(後述する第1実施形態等を参照)、分離槽内の支持液体にて底面中央から液面に至り、内壁に沿って底面に至るような循環流を(収集した粒子が拡散されない程度に)生じさせることで、第1粒子の収集が流れにより補助されてもよい。また、収集された第1粒子に作用する水平方向の磁気力に対して直交するような支持液体の流れを、又は収集された第1粒子に作用する径方向の磁気力に直交する周方向の流れを支持液体に生じさせることで、分離槽から第1粒子が回収されてもよい(後述する第5実施形態を参照)。
【0038】
本発明の作用効果が得られる限りにおいて、分離槽内における支持液体の深さ(分離槽の底面から支持液体の
液面までの距離)は限定されない。勾配磁場による水平方向の磁気力によって、磁気フィルタ手段の側方又は外方の領域に第1粒子を移動させて収集する場合には(例えば、後述する第1乃至5実施形態)、第1粒子の収集領域と第2粒子の捕集領域とを、横に、或いは、水平方向又は径方向に大きく離すことができる。故に、この場合、鉛直方向について、第1粒子と第2粒子を引き離す必要がないことから、分離槽内における支持液体の深さを比較的浅くしてよい(例えば、第1粒子は、支持液体の液面に浮遊したまま水平に移動してもよい)。さらに、勾配磁場による水平方向の磁気力によって、磁気フィルタ手段の側方又は外方の領域に第1粒子を移動させて収集する場合、磁気アルキメデス効果によって、第1粒子を高く浮揚又は低く沈降させる必要がないので、従来方法と比較して、支持液体の体積磁化率を大きくする必要がない。故に、本発明によれば、支持液体における常磁性無機塩の濃度、ひいては支持液体の粘性を低下させて、混合物の分離処理に要する時間を短縮できる。
【0039】
本発明の混合物の分離方法は、連続処理又はバッチ処理で行われてよく、本発明の混合物の分離装置は、連続式でもバッチ式でもよい。
図1は、本発明の第1実施形態に係る混合物の分離装置の概要を示す説明図である。分離装置は、混合物が入れられた支持液体が貯留される貯槽(1)と、第1バルブ(3)及び第1ポンプ(5)が設けられた流路を介して貯槽(1)と接続された有底筒状の分離槽(7)とを備えている。分離槽(7)は、円筒状の形状を有しており、非磁性(磁化率が小さい)材料、例えば、ガラス、プラスチックや非磁性金属(アルミニウムや非磁性ステンレス鋼)で形成されている。第1ポンプ(5)は、貯槽(1)から分離槽(7)に支持液体を押し流すのに使用され、第1バルブ(3)は、分離装置で行われる工程に応じて適宜開閉される。貯槽(1)では、分離処理される混合物が支持液体に適宜投入される。また、支持液体は、必要に応じて貯槽(1)に適宜補充される。
【0040】
図1では、混合物に含まれる第1粒子が黒三角(▲)で、第2粒子が白丸(○)で示されている(
図1では、分離槽(7)内の第1粒子と第2粒子の図示は省略されている)。支持液体には、常磁性無機塩の水溶液(例えば5wt%塩化マンガン水溶液)が使用される。例えば、第1粒子は反磁性体、例えばガラス(シリカ)で形成されており、第2粒子は、例えばチタンなどの常磁性体、又酸化ニッケルなどの反強磁性体で形成されている。
【0041】
本実施形態では、第1粒子と第2粒子が懸濁した支持液体は、分離槽(7)の底面の中心付近に設けられた放出口から分離槽(7)内に放出される。支持液体の放出口の上方には、磁気フィルタ手段(9)が水平に配置されている。本実施形態では、磁気フィルタ手段(9)として、強磁性体の細線で形成された2枚の矩形の網板が使用されている。これら網板は上下に重ねられた状態で、例えば、分離槽(7)の底面に配置されている。網板の数は、適宜変更されてよい。
【0042】
分離槽(7)の下側には、勾配磁場を発生する磁場生成手段(11)が設けられている。本実施形態では、磁場生成手段(11)としてソレノイド型超伝導磁石が使用されており、そのコイル中心軸A(
図1にて1点鎖線で示す)は、鉛直に配置される。磁場生成手段(11)が生成する勾配磁場は、コイル中心軸Aに対して軸対称であり、その磁場勾配は、鉛直方向成分と径方向成分(コイル中心軸A上を除く)とを有している。例えば、磁場生成手段(11)は、コイル中心軸A上にて鉛直下向きになるように磁場を生成し、コイル中心軸Aから離れた場所で、磁場は径方向成分を有する。本実施形態では、分離槽(7)の円状の底面の直径は、磁場生成手段(11)のボア径よりも十分に大きくされており、分離槽(7)内の支持液体に印加される勾配磁場は、径方向に沿って変化する。大きな勾配磁場で励磁されるように、磁気フィルタ手段(9)を構成する2枚の矩形の網板は、その中心にて、磁場生成手段(11)のコイル中心軸Aと略直交するように配置されている。また、本実施形態では、円筒状の分離槽(7)は、磁場生成手段(11)のコイルと同軸状に配置されている。
【0043】
本実施形態では、分離槽(7)に、支持液体を攪拌する攪拌手段(13)が設けられている。攪拌手段(13)としては、分離槽(7)に貯まっている支持液体に浸漬される攪拌翼が使用される。攪拌翼は、図示を省略した駆動手段により回転し、磁気フィルタ手段(9)に向かう流れを分離槽(7)の支持液体に発生させる。攪拌手段(13)としては、例えば、超音波生成装置が使用されて、超音波により支持液体が攪拌されてもよい。
【0044】
分離槽(7)内の支持液体には、支持液体を回収する流路の一端が浸漬されており、当該流路は、分離装置で行われる工程に応じて適宜開閉される第2バルブ(15)と、支持液体を押し流す第2ポンプ(17)とを有しており、分離槽(7)から貯槽(1)へと繋がっている。この流路は、第1粒子と第2粒子が(ある程度まで又はほぼ)除去された支持液体を貯槽(1)に戻すのに使用される。貯槽(1)と分離槽(7)の間で支持液体が循環している間、分離槽(7)内における支持液体の量がほぼ一定になるように、分離槽(7)への支持液体の流入量と流出量が調整される。
【0045】
図2に示すように、貯槽(1)から分離槽(7)に送られた支持液体に含まれる第1粒子は、磁気アルキメデス効果により、磁気フィルタ手段(9)を通ってその上方に浮遊し、さらには、径方向に移動する。分離槽(7)に送られた第1粒子の軌跡は、コイル中心軸Aを中心とした放射状になる。コイル中心軸Aから離れるにつれて、勾配磁場が低下することから第1粒子の高さも低くなる。第1粒子の見かけの重さがゼロになる釣り合い高さが分離槽(7)の底面よりも低くなると、第1粒子は分離槽(7)の底面に至って、その上を径方向に移動し、分離槽(7)の壁面又は底面の縁に至る。第1粒子は、分離槽(7)の液面に浮遊したま
ま径方向に移動して、分離槽(7)の内壁に至ってもよく、分離槽(7)の中心付近にて、分離槽(7)の液面に浮遊し、径方向に移動するにつれてその高さが低くなってよい。また、第1粒子は、分離槽(7)の内壁に至って、釣り合い高さにて安定に浮遊してもよい。さらに、分離槽(7)の内壁に棚が設けられて(例えば、分離槽(7)の内壁から内向きに延出するような円環帯状の部材)、分離槽(7)の内壁に向かう第1粒子の釣り合い高さが棚の上面に至ると、第1粒子が棚上を移動するように構成されてもよい。
【0046】
分離槽(7)の内壁には、第1粒子を回収する流路の吸入口が設けられている。当該流路は、分離装置で行われる工程に応じて適宜開閉される第3バルブ(19)と、第1粒子を吸引するための第3ポンプ(21)とを備えており、 第1粒子を吸引して図示を省略した貯槽に送るのに使用される。第1バルブ(3)と第2バルブ(15)とが開状態にされて、貯槽(1)と分離槽(7)の間を支持液体が循環している間、第3バルブ(19)は閉じられている。貯槽(1)と分離槽(7)の間を支持液体が循環すると、分離槽(7)の底面の縁に集積される第1粒子は、時間の経過と共に増加する。
【0047】
本実施形態では、貯槽(1)から分離槽(7)に送られた支持液体が磁気フィルタ手段(9)に向けて流れるように構成されている。貯槽(1)から分離槽(7)に送られた支持液体に含まれる第2粒子の多くは、磁気フィルタ手段(9)により捕捉される。その際に、磁気フィルタ手段(9)に捕捉されなかった第2粒子は、攪拌手段(13)が磁気フィルタ手段(9)に向かう流れを生じるように支持液体を攪拌することで磁気フィルタ手段(9)に戻されて捕捉されるか、或いは、支持液体と共に貯槽(1)に戻される。攪拌手段(13)による支持液体の攪拌は、捕集された第2粒子が磁気フィルタ手段(9)から離れず、集められた第1粒子が分離槽(7)の底面の縁から離れない程度にされる。貯槽(1)と分離槽(7)の間を支持液体が循環すると、磁気フィルタ手段(9)に捕集された第2粒子は、時間の経過と共に増加する。また、攪拌手段(13)が磁気フィルタ手段(9)に向かう流れを生じるように支持液体を攪拌することで、分離槽(7)の底面に沈殿した第2粒子が磁気フィルタ手段(9)に捕捉される。本実施形態では、支持液体の放出口の上に磁気フィルタ手段(9)が配置されているが、本発明の実施形態において、分離槽(7)に放出される支持液体の流れの磁気フィルタ手段(9)に対する向きは限定されない。例えば、第1バルブ(3)及び第1ポンプ(5)を介して貯槽(1)と繋がる流路を、磁気フィルタ手段(9)の上方から磁気フィルタ手段(9)に向けて支持液体を放出するように構成してもよい。
【0048】
所定の時間、上記の処理が実行されると、例えば、第1バルブ(3)及び第2バルブ(15)が閉じられて、貯槽(1)と分離槽(7)の間の支持液体の循環が停止する。その後、
図3に示すように、所定の時間、分離槽(7)に貯まっている支持液体が引き続き攪拌されることで、磁気フィルタ手段(9)から離れた領域で懸濁している第2粒子が、磁気フィルタ手段(9)に捕集又は集積される。支持液体の循環が停止した後に支持液体が所定の時間攪拌されると、攪拌手段(13)は停止する。
図4は、分離槽(7)の上面図であって、第2粒子(○)が磁気フィルタ手段(9)に捕捉されると共に、径方向の磁気力Fが作用する第1粒子(▲)が分離槽(7)の底面の縁に沿って、円環状に集積した状態を示している。
【0049】
攪拌手段(13)を停止させた後、
図5に示すように、第3バルブ(19)を開けて、第1粒子を吸引して、回収する工程が実行される。
図6に示すように、第1粒子の工程の後、第2粒子を回収する工程が実行される。分離槽(7)にて、磁気フィルタ手段(9)の上方には、第2粒子を回収する流路の一端が支持液体に浸漬されている。当該流路は、分離装置で行われる工程に応じて適宜開閉される第4バルブ(23)と、支持液体を分離槽(7)の外へ押し流す第4ポンプ(25)とを備えており、第2粒子の回収工程では、第3バルブ(19)が閉じられて、磁場生成手段(11)が消磁又は減磁されると共に、閉状態の第4バルブ(23)が開状態にされて、磁気フィルタ手段(9)から遊離した第2粒子が支持液体と共に図示を省略した貯槽へ吸引される。なお、攪拌手段(13)の攪拌翼を高速で回転させることで、磁気フィルタ手段(9)から第2粒子が引き剥がされてもよい。
【0050】
第2粒子の回収工程が行われた後、第4バルブ(23)が閉じられると共に、第1バルブ(3)、さらには、第2バルブ(15)が開けられて、上述した分離工程が繰り返し行われる。第1粒子の回収工程が所定の回数だけ行われると、第2粒子の回収工程が行われるように本実施形態の分離装置が構成されてもよい。
【0051】
図7は、本発明の第2実施形態に係る混合物の分離装置の概要を示す説明図である。上述した第1実施形態と異なり、第2実施形態の装置では、第1粒子を吸引するための吸引管(27)が、その一端が分離槽(7)の底面の縁付近に位置するように、分離槽(7)の内壁に近接して鉛直に配置されている。当該吸引管(27)は、図示を省略した駆動機構により分離槽(7)の内壁に沿って円を描くように移動可能に構成されている。吸引管(27)を移動させつつ、分離槽(7)の縁に集積した第1粒子を回収することで、第1粒子の回収に要する時間が短縮される。なお、吸引管(27)の位置固定し、分離槽(7)を中心軸回りで回転させて、第1粒子が回収されてもよい。第2実施形態の分離装置は、第1粒子の回収に吸引管(27)を用いている点を除いて第1実施形態の装置と同様に構成されているので、第2実施形態に関するさらなる説明を省略する。
【0052】
図8は、本発明の第3実施形態に係る混合物の分離装置の概要を示す説明図である。第3実施形態の装置では、第1粒子を回収する手段として円筒状の回収部材(31)が用いられている。回収部材(31)の底は開放しているが、回収部材(31)の下端部からは、円錘台状に形成された上向きのテーパー面部(33)が内側に延出しており、回収部材(31)の内壁とテーパー面部(33)とによる窪みが形成されている。回収部材(31)は、分離槽(7)に嵌まるように配置されており、図示を省略した昇降手段によって上昇又は下降する。
【0053】
分離工程では、回収部材(31)は、分離槽(7)の底面に載置されており、第1粒子は、
図9に示すように、回収部材(31)の内壁とテーパー面部(33)とで形成される円環状の窪みに向かって移動し、集積される。
図10は、分離工程が終了した後における分離槽(7)及び回収部材(31)を示す上面図である。
図10に示すように、径方向の磁気力Fの作用により移動した第1粒子が窪みに集積し、第2粒子が磁気フィルタ手段(9)に捕捉されると、
図11に示すように、回収部材(31)が上昇して、集積された第1粒子が分離槽(7)から取り出される。第3実施形態の分離装置は、第1粒子の回収に回収部材(31)を用いている点を除いて第1実施形態の装置と同様に構成されているので、第3実施形態に関するさらなる説明を省略する。
【0054】
図12は、本発明の第4実施形態に係る混合物の分離装置の概要を示す説明図である。第4実施形態の装置では、矩形の分離槽(7)が使用されており、磁場生成手段(11)は、分離槽(7)内の支持液体に鉛直方向(z方向)の勾配磁場B
1を印加して第1粒子に磁気アルキメデス効果を作用させる第1磁石(41)と、分離槽(7)内の支持液体に水平方向(x方向)の勾配磁場B
2を印加して第1粒子を水平方向に移動させる第2磁石(43)とを備えている。例えば、第1磁石(41)は円柱状又は円盤状に形成された超伝導バルク磁石であって、その円状の磁極面は、分離槽(7)の底面よりもかなり大きくされる。第2磁石(43)は、ソレノイド型超伝導電磁石であって、そのコイル中心軸が水平になるように配置される。
【0055】
分離工程にて、第2粒子(○)は磁気フィルタ手段(9)に捕捉され、第1粒子(▲)は、水平方向の磁気力Fにより分離槽(7)の右側壁面に向かって移動し、当該壁面にて、釣り合い高さで又は支持液体の液面に浮遊するか、又は、当該壁面の下端にて分離槽(7)の底面の縁に集められる。
図13は、分離工程が行われた後の分離槽(7)の上面図である。これらの点を除いて、第4実施形態の装置は第1実施形態の装置と同様に構成されており、同様に動作することから、第4実施形態の装置に関するさらなる説明を省略する。
【0056】
図14は、本発明の第5実施形態に係る混合物の分離装置の分離槽の上面図であり、
図15は、
図14のC−C線に沿う矢視断面図である。第5実施形態の装置が備える分離槽(7)は、円環帯状の底部(71)と、底部(71)の内縁と繋がる円筒状の内壁(73)と、内壁(73)に対して同軸状に配置され、底部(71)の外縁と繋がる円筒状の外壁(75)とを備えている。分離槽(7)の底部(71)の下方には、磁場生成手段(11)が配置される。本実施形態では、円柱状又は円盤状に形成された超伝導バルク磁石が用いられており、磁場生成手段(11)の中心軸A'は鉛直に配置される。分離槽(7)は、内壁(73)又は外壁(75)の中心軸が磁場生成手段(11)の中心軸A'と重なるように磁場生成手段(11)に対して位置決めされる。磁場生成手段(11)としては、超伝導バルク磁石に代えて、例えば、ソレノイド型超伝導電磁石が使用されてもよい。その場合、分離槽(7)の底部(71)の内径は、当該電磁石のコイルのボア径よりも大きくされるのが好ましい。
【0057】
底部(71)には、内壁(73)に嵌まるように配置された円環状の磁気フィルタ手段(9)が置かれる。例えば、磁気フィルタ手段(9)には、円環状の外形を有する強磁性体の帯状の網やパンチングメタルが使用され、その幅は、円環帯状の底部(71)の幅よりも短くされる。磁気フィルタ手段(9)を円筒状に形成して、内壁(73)に嵌まるように配置してもよい。
【0058】
分離槽(7)は、その内部に、第1粒子(▲)と第2粒子(○)とを含む混合物が懸濁した支持液体を導入するための流入管(61)と、分離槽(7)から支持液体を排出するための流出管(63)とを備えている。支持液体は、分離槽(7)の内壁(73)と外壁(75)の間に貯められる。流入管(61)の上流側には、図示を省略した(混合物を含む)支持液体の貯槽と、支持液体を送り出すポンプなどが設けられている。分離槽(7)内に貯められる支持液体の量は、例えば、流入管(61)から送られる支持液体の流量を調節することで一定に維持される。
【0059】
本実施形態では、流入管(61)及び流出管(63)は共に、分離槽(7)の外壁(75)を貫通すると共に外壁(75)の内面と接するように配置されており、さらに、流入管(61)は、底部(71)に近接して配置されており、流出管(63)は、流入管(61)の上方に配置されている。流入管(61)と流出管(63)は、分離槽(7)内に支持液体の環状の流れを生じさせるように、さらに、流入管(61)から出た支持液体が、直ちに流出管(63)に入らないように配置される。
【0060】
磁場生成手段(11)は、第1実施形態に説明したような勾配磁場を分離槽(7)内の支持液体に印加する。当該勾配磁場により、流入管(61)から出た支持液体中の第1粒子は、分離槽(7)内にて、磁気アルキメデス効果により、見かけの重さがゼロとなる釣り合い高さに浮揚すると共に、径方向の磁気力Fが作用することで、外壁(75)の内面に配置又は集められる(
図15では、内壁(73)の背後にある第1粒子は白三角(△)で示されている
)。外壁(75)の内面にて釣り合い高さに浮遊した第1粒子は、分離槽(7)内の支持液体の流れ(旋回流)により周方向に移動する。流出管(63)は、第1粒子の釣り合い高さに合わせて配置されており、釣り合い高さに浮遊した第1粒子は、支持液体と共に流出管(63)から分離槽(7)の外部に排出され、図示を省略した回収手段により支持液体から回収される。本実施形態では、
図14に示すように、流入管(61)から出た第1粒子は、外壁(75)に沿って、その周長の4分の3程度移動して流出管(63)に送られる。
【0061】
分離槽(7)内の支持液体中の第2粒子は、磁気フィルタ手段(9)により捕集される。磁気フィルタ手段(9)で捕集された第2粒子は、例えば、図示を省略した吸引管により吸引することで回収される。第2粒子を回収する際には、分離槽(7)への支持液体の供給を停止し(又は混合物を含まない支持液体を分離槽(7)に導入して)、第1粒子を分離槽(7)から回収した後、例えば、磁気フィルタ手段(9)を上昇させて磁気フィルタ手段(9)を減磁するのが好ましい。
【0062】
分離槽(7)に送られた第1粒子が釣り合い高さではなく、分離槽(7)の底部(71)上に配置される場合には、流出管(63)から支持液体を分離槽(7)に導入して、流入管(61)から第1粒子と共に支持液体を排出することで(流入管(61)と流出管(63)の役割を相互に交替させることで)、第1粒子は分離回収される。
【0063】
上述した第1乃至第5実施形態は、第1粒子と第2粒子の密度が、支持液体の密度よりも大きいケースに対応している。第1粒子と第2粒子の密度が支持液体の密度よりも小さいケースでは、第1乃至第5実施形態の分離装置は適宜変更される。例えば、第1乃至5実施形態では、磁場生成手段(11)は、分離槽(7)に貯められた支持液体の液面の上に設けられて、第1粒子が沈降するように勾配磁場を支持液体に印加し、磁気フィルタ手段(9)は、分離槽(7)の支持液体内にて磁場生成手段(11)の下端近くに配置される。第1乃至第4実施形態では、攪拌手段(13)は分離槽(7)の底面付近に配置される。第1粒子と第2粒子を回収する流路、吸引管(27)や回収部材(31)の配置や形状は適宜変更される。第5実施形態では、流出管(63)から支持液体を分離槽(7)に導入して、流入管(61)から支持液体が排出されるであろう。
【0064】
上記の第1乃至第5実施形態では、分離槽(7)内の支持液体に印加される勾配磁場は、少なくとも磁気フィルタ手段(9)の上方にて、磁気アルキメデス効果によって第1粒子が支持液体中に又はその液面に浮遊するように印加される。さらには、第1粒子が収集される領域(さらには、その付近の領域)にて、磁気アルキメデス効果によって第1粒子が支持液体中に又はその液面に浮遊するように印加されるのが好ましい。第1粒子及び第2粒子の密度が、支持液体の密度よりも軽い場合には、少なくとも磁気フィルタ手段(9)の下方にて、磁気アルキメデス効果によって第1粒子が支持液体中に浮遊する又は分離槽の底面に配置されるように、これら実施形態の装置の構成は変更される。さらには、第1粒子が収集される領域(さらには、その付近の領域)にて、磁気アルキメデス効果によって第1粒子が支持液体中に浮遊する又は分離槽の底面に沈降するように印加されるのが好ましい。
【0065】
本発明の第1乃至5実施形態では、第1粒子は、水平方向又は径方向の磁気力によって磁気フィルタ手段(9)の側方又は外方の領域に移動し、当該領域にて収集されているが、第1粒子は、磁気フィルタ手段(9)の上方にて浮遊した状態で収集されてもよい。
図16は、本発明の第6実施形態に係る混合物の分離装置の概要を示す説明図である。先の実施形態と同様に、第6実施形態の分離装置は、混合物が入れられた支持液体が貯留される貯槽(1)と、第1バルブ(3)及び第1ポンプ(5)が設けられた流路を介して貯槽(1)と接続された分離槽(7)とを備えている。第1ポンプ(5)は、貯槽(1)から分離槽(7)に支持液体を導入するのに使用され、第1バルブ(3)は、分離装置で行われる工程に応じて適宜開閉される。貯槽(1)では、分離処理される混合物が支持液体に適宜投入される。また、支持液体が必要に応じて貯槽(1)に適宜補充される。
【0066】
図16では、混合物に含まれる第1粒子が黒三角(▲)で、第2粒子が白丸(○)で示されている(
図16では、分離槽(7)内の第1粒子と第2粒子の図示は省略されている)。支持液体には、常磁性無機塩の水溶液(例えば10wt%塩化マンガン水溶液)が使用される。例えば、第1粒子は反磁性体、例えばガラス(シリカ)で形成されており、第2粒子は常磁性体又は反強磁性体、例えばチタン又は酸化ニッケルで形成されている。第6実施形態では、第1乃至5実施形態と比較して、常磁性無機塩の水溶液の濃度が高くされる(支持液体の磁化率が高くされる)ことが好ましいであろう。
【0067】
先述した実施形態と同様に、第1粒子と第2粒子が懸濁した支持液体が、分離槽(7)の底面付近にてその側壁に設けられた放出口から分離槽(7)内に放出される。支持液体の放出口の上方には、分離槽(7)の底面を覆うように、且つ分離槽(7)の底面に近接して、先述した実施形態と同じく、2枚の網板で構成された磁気フィルタ手段(9)が水平に配置されている。
【0068】
分離槽(7)の下側には、勾配磁場を発生する磁場生成手段(11)が設けられている。本実施例では、磁場生成手段(11)として円柱状又は円盤状の超伝導バルク磁石が使用されており、例えば、鉛直上向きに大きさが単調減少する下向きの勾配磁場が分離槽(7)内の支持液体に印加される。分離槽(7)は、非磁性材料で形成されており、磁気フィルタ手段(9)である2枚の網板が成す面は、勾配磁場に略垂直に配置されている。
【0069】
先述の実施形態とは異なり、本実施形態では、勾配磁場による水平方向又は径方向の磁気力を第1粒子に作用させる必要がない。故に、磁場の水平又は径方向成分と、その磁場勾配の水平又は径方向成分とは、分離槽(7)内にてゼロ又は極めて微小にされてよい。しかしながら、第6実施形態でも、水平又は径方向の磁気力が第1粒子に作用してもよく、この場合、第1粒子は、分離槽(7)の内壁に沿って円環状に収集されるであろう。
【0070】
先述した実施形態と同様に、分離槽(7)に貯まっている支持液体に浸漬された攪拌翼が、攪拌手段(13)として使用される。攪拌翼は、図示を省略した駆動手段により回転し、磁気フィルタ手段(9)に向かう流れを発生させる。攪拌翼は、第1粒子の浮遊又は釣り合い位置から鉛直方向に離れた場所に設けられるのが好ましく、本実施形態では、攪拌翼は、分離槽(7)に貯められた支持液体の液面と、後述する第1粒子の釣り合い位置との間に配置されている。攪拌翼により分離槽中の支持液体に旋回流を生じさせることで、支持液体が攪拌されてもよい。
【0071】
分離槽(7)の側壁上部には、支持液体を回収する流路の吸入口が設けられている。当該流路は、分離装置で行われる工程に応じて適宜開閉される第2バルブ(15)と、分離槽(7)から貯槽(1)へと支持液体を押し流す第2ポンプ(17)とを備えており、第1粒子と第2粒子が(ある程度まで又はほぼ)除去された支持液体を貯槽(1)に戻すのに使用される。貯槽(1)と分離槽(7)の間で支持液体が循環している間、分離槽(7)内における支持液体の量がほぼ一定になるように、分離槽(7)への支持液体の流入量と流出量が調整される。
【0072】
図17に示すように、貯槽(1)から分離槽(7)に送られた支持液体に含まれる第1粒子は、磁気フィルタ手段(9)を通って上方に移動する。そして、第1粒子は、磁気アルキメデス効果により、分離槽(7)内の支持液体中にてほぼ釣り合い高さ(見かけの重さがゼロとなる高さ)に浮遊し集められる。第1粒子の浮遊高さ又は位置に対応して、分離槽(7)の側壁には、第1粒子を回収する流路の吸入口が設けられている。当該流路は、分離装置で行われる工程に応じて適宜開閉される第3バルブ(19)と、第1粒子を吸引するための第3ポンプ(21)とを備えており、 第1粒子を吸引して図示を省略した貯槽に送るのに使用される。第1バルブ(3)と第2バルブ(15)とが開状態にされて、貯槽(1)と分離槽(7)の間を支持液体が循環している間、第3バルブ(19)は閉じられる。
【0073】
貯槽(1)と分離槽(7)の間を支持液体が循環すると、分離槽(7)内に貯められた支持液体中にて釣り合い高さに集められた第1粒子は、時間の経過と共に増加する。攪拌手段(13)が支持液体を攪拌することで、釣り合い高さからかなり離れた領域にある第1粒子が釣り合い高さに誘導されて収集される。第1粒子の中には、支持液体と共に貯槽(1)に戻されるものも存在する。攪拌手段(13)による支持液体の攪拌の度合いは、釣り合い高さに誘導された第1粒子がほぼ当該高さに維持されるように、又は当該高さ付近に拘束されるように調整される。
【0074】
第6実施形態では、支持液体中の第1粒子は、磁気アルキメデス効果によって、支持液体中にて第1粒子の磁化率と密度に応じた釣り合い高さ又は位置に浮遊し、集められる。第1粒子の粒径が小さい又は支持液体の粘性が高いと、分離槽(7)の支持液体中における第1粒子の運動は、流体力学的な効果の影響を受けやすくなる。故に、第1粒子の粒径が小さい又は支持液体の粘性が高いと、見かけの重さがゼロとなる釣り合い高さからかなり離れた領域にある第1粒子は、支持液体に懸濁した状態を維持する傾向がある。そのような領域にある第1粒子が、自然沈降などによって釣り合い高さ付近に移動し、磁気アルキメデス効果を得るまでには、非常に長い時間が掛かることになる。
【0075】
第6実施形態では、勾配磁場が印加された状態で分離槽(7)の支持液体を攪拌手段(13)で攪拌することで、見かけの重さがゼロとなる釣り合い位置から離れた場所にて懸濁している第1粒子が、(釣り合い高さを含む)アルキメデス効果が有効に働く高さ領域又は範囲に誘導されて拘束される。これにより、分離処理に要する時間が短縮される。さらに、支持液体の攪拌は、第1粒子と第2粒子の凝集を抑制する点でも効果的である。
【0076】
支持液体を強く又は激しく攪拌すると、釣り合い高さ付近に移動した第1粒子が釣り合い高さから離れてしまう。従って、攪拌手段(13)による支持液体の攪拌は、磁気アルキメデス効果による第1粒子の収集を妨げないように行われる。攪拌を停止すると、収集された第1粒子は、支持液体中にてほぼ釣り合い高さに定置される(実際には、粒子の接触等やその他の要因により、各粒子の高さに僅かなずれが生じる)。攪拌の強さ、例えば、攪拌翼の回転数などを調整することで、攪拌中であっても、第1粒子を、支持液体中にてほぼ同じ釣り合い高さに収集すること、或いは、釣り合い高さを含む一定の高さ領域に拘束することは可能である。
【0077】
先述した実施形態と同様に、貯槽(1)から分離槽(7)に送られた支持液体が磁気フィルタ手段(9)を通ることで、貯槽(1)から分離槽(7)に送られた支持液体に含まれる第2粒子の多くは、磁気フィルタ手段(9)により捕捉される。その際に、磁気フィルタ手段(9)に捕捉されなかった第2粒子は、攪拌手段(13)が支持液体を攪拌することで、磁気フィルタ手段(9)に戻されて捕捉されるか、支持液体と共に貯槽(1)に戻される。貯槽(1)と分離槽(7)の間を支持液体が循環すると、磁気フィルタ手段(9)に捕集された第2粒子は、時間の経過と共に増加する。
【0078】
所定の時間、上記の処理が実行されると、第1バルブ(3)及び第2バルブ(15)が閉じられて、貯槽(1)と分離槽(7)の間の支持液体の循環が停止する。その後、
図18に示すように、所定の時間、分離槽(7)に貯まっている支持液体が引き続き攪拌されることで、釣り合い高さから離れた領域で懸濁している第1粒子の収集と、磁気フィルタ手段(9)から離れた領域で懸濁している第2粒子の捕集とがなされる。支持液体の循環が停止した後に支持液体が所定の時間攪拌されると、攪拌手段(13)は停止する。攪拌手段(13)が停止することで、収集された第1粒子の鉛直方向の分布は、釣り合い高さに収斂するように狭くなる。その後、
図19に示すように、第3バルブ(19)を開けて、磁気アルキメデス効果によって略同じ釣り合い高さに浮遊した第1粒子を回収する工程が実行される。
【0079】
第1粒子を回収する工程の後、第2粒子を回収する工程が実行される。第3バルブ(19)が閉じられた後、
図20に示すように、攪拌手段(13)の攪拌翼を高速で回転させることで、磁気フィルタ手段(9)から第2粒子が引き剥がされる。分離槽(7)の側壁には、第2粒子を回収する流路の吸入口が設けられている。当該流路は、分離装置で行われる工程に応じて適宜開閉される第4バルブ(23)と、支持液体を分離槽(7)の外へ押し流す第4ポンプ(25)とを備えており、第2粒子の回収工程では、閉状態の第4バルブ(23)が開状態にされて、磁気フィルタ手段(9)から引き剥がされた第2粒子が支持液体と共に図示を省略した貯槽に送られる。
【0080】
また、
図21に示すように、磁気フィルタ手段(9)を減磁又は消磁することで、磁気フィルタ手段(9)から第2粒子を引き剥がして、支持液体と共に回収してもよい。例えば、磁場生成手段(11)を下方に移動させることで、磁気フィルタ手段(9)に印加させる勾配磁場が弱められる。磁場生成手段(11)に電磁石が用いられている場合には、電流が調整されて、磁気フィルタ手段(9)の減磁又は消磁がなされてもよい。
【0081】
図20又は
図21に示す第2粒子の回収工程が行われた後、第4バルブ(23)が閉じられると共に、第1バルブ(3)、さらには、第2バルブ(15)が開けられて、
図18に示した分離工程及びそれ以後の工程が繰り返し行われる。なお、第1粒子の回収工程が所定の回数だけ行われると、第2粒子の回収工程が行われるように第6実施形態の分離装置が構成されてもよい。
【0082】
第6実施形態は、第1粒子と第2粒子の密度が、支持液体の密度よりも大きいケースに対応している。第1粒子と第2粒子の密度が支持液体の密度よりも小さいケースでは、
図16に示した分離装置の構成は変更される。例えば、磁場生成手段(11)は、分離槽(7)に貯められた支持液体の液面付近に設けられて、大きさが鉛直下向きに単調に減少する上向きの勾配磁場を支持液体に印加するであろう。磁気フィルタ手段(9)は、分離槽(7)の支持液体内にて磁場生成手段(11)の近くに勾配磁場に略垂直に配置され、攪拌手段(13)は分離槽(7)の底面付近に配置されるであろう。また、分離槽(7)の側壁の上部から支持液体が供給され、分離槽(7)の側壁の下部から支持液体が排出されて、貯槽(1)に戻されるであろう。
【0083】
上記の第1乃至第6実施形態では、混合物には第1粒子と第2粒子が含まれていたが、本発明の混合物の分離装置では、これらの粒子とは異なる種類の粒子、つまり第3粒子が混合物に含まれてもよい。第3粒子は、例えば、反磁性体で形成されており、磁気アルキメデス効果によって、第1粒子の上方又は下方に配置されて第1粒子と別個に収集されてもよい。また、第3粒子は、例えば強磁性体であって、第2粒子と共に磁気フィルタ手段(9)に捕捉されてもよい。
【0084】
第1粒子と第2粒子を含む混合物を種類別に分離する実施形態について説明したが、上記の説明から、本発明は、当該混合物から第1粒子又は第2粒子のみを分離回収する場合にも適用できることは明らかである。第1粒子と第2粒子と種類が異なる1又は複数種類の粒子が混合物に含まれている場合でも、上述した手法で、第1粒子又は第2粒子をその他の粒子と別個に収集若しくは捕集して、当該混合物から第1粒子又は第2粒子のみを分離回収可能であることは明らかである。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の混合物の分離方法を用いて混合物を分離した実施例について説明する。
【0086】
[第1実施例:チタン粒子(常磁性体)及びガラス粒子(反磁性体)からなる混合物の分離]
各粒子の粒径が45μm以下であるチタン粉体0.1g(和光純薬工業株式会社製、磁化率(SI単位系):+1.80×10
−4、密度:4.5g/cm
3)と、各粒子の粒径が1乃至2μmであるガラス(シリカ)粉体0.05g(株式会社レアメタリック製、磁化率(SI単位系):−1.66×10
−4、密度:2.2g/cm
3)とを混合することで、チタン粒子及びガラス粒子からなる混合物を調
製した。
【0087】
内径60mm、高さ5mmのガラス製のシャーレの底に、磁気フィルタ手段として、強磁性体であるSUS430で形成された2枚の正方形状の金網(10mm×10mm、30mesh、線径:0.6mm)を上下に重ねて設置し、支持液体として使用する5wt%塩化マンガン水溶液(磁化率(SI単位系):+3.94×10
−5)をシャーレの中央に入れた。その後、調
製した上記混合物をシャーレの中に投入して、支持液体を攪拌した。これにより、
図22に示すように、チタン粒子及びガラス粒子が懸濁して、支持液体が黒色に濁った状態が得られた。なお、支持液体の液面の高さは、シャーレの高さから若干低くされた。
【0088】
次に、
図22に示すようにチタン粒子及びガラス粒子が懸濁した支持液体と、2枚の金網とを含むシャーレを、円柱状の超伝導バルク磁石(φ60mm×h20mm)を収納した円筒状の真空容器の上側端面に載置した(なお、
図23に示されているように、写真撮影用に真空容器の上側端面には、茶色の布テープが貼られた)。真空容器の円状の上側端面の中心とシャーレの底面中心とが重なるように、シャーレは配置された。これにより、鉛直方向に沿った(磁石の)中心軸に対して軸対称な勾配磁場をシャーレ内の支持液体に印加した。勾配磁場の大きさは、径方向に沿って外向きに小さくなり、磁場勾配と磁場は、鉛直方向成分に加えて径方向成分を有していた。なお、印加した勾配磁場の大きさの最大値は、真空容器の上側端面の中心にて約5T(テスラ)であった。また、印加した磁場勾配の鉛直成分の大きさは、当該端面の中心にて約300T/mであった。
【0089】
シャーレ内の支持液体に勾配磁場を印加すると、ガラス粒子は、シャーレの内壁面に向けて移動し、シャーレの底面の縁に即座に(1秒未満で)環状に集積した。さらに、攪拌棒を用いてシャーレ内の支持液体を5〜10秒程度攪拌すると、
図23に示すように、支持液体に懸濁していたチタン粒子が金網に吸着し、チタン粒子とガラス粒子に種類別に分離されて、支持液体は透明になった。僅かな量のチタン粒子が金網の周囲にてシャーレの底面に堆積したが、混合物に含まれたチタン粒子とガラス粒子とは、良好に種類別に分離された。なお、例えば、金網の枚数を増やすことにより、又は、勾配磁場を大きくすることで、シャーレの底面に堆積したチタン粒子は金網で捕捉され得る。
【0090】
このように、本発明に基づいて、反磁性体粒子(ガラス粒子)と常磁性体粒子(チタン粒子)混合物が懸濁した常磁性の支持液体中に勾配磁場を印加することで、磁気フィルタ手段(金網)から離れた領域にて反磁性体粒子を収集し、印加した勾配磁場で励磁された磁気フィルタ手段にて常磁性体粒子を捕集できることが確認された。さらには、本発明に基づいて、このような混合物から反磁性体粒子又は常磁性体粒子を分離できることが確認された。また、5wt%という比較的低濃度の塩化マンガン水溶液を支持液体として使用し、略5mmという非常に浅い深さで支持液体を分離槽内に貯めても、本発明により、反磁性体粒子と常磁性体粒子を種類別に分離できることが、又は、反磁性体粒子若しくは常磁性体粒子を混合物から分離できることが確認された。
【0091】
[第2実施例:チタン粒子(常磁性体)及びガラス粒子(反磁性体)からなる混合物の分離]
内径20mm、高さ50mmのガラス製のバイアル瓶の底に、第1実施例で使用した2枚の金網を重ねた状態で設置し、支持液体として使用する10wt%塩化マンガン水溶液25ml(磁化率(SI単位系):+8.57×10
−5)をバイアル瓶の中に入れた。第1実施例と同じ混合物をバイアル瓶の中に投入して、支持液体を攪拌した。これにより、
図24に示すように、チタン粒子及びガラス粒子が懸濁して、支持液体が黒色に濁った状態が得られた。
【0092】
次に、
図24に示すようにチタン粒子及びガラス粒子が懸濁した支持液体と、2枚の網とを含むバイアル瓶を、超伝導バルク磁石を収納した上述の真空容器の上側端面に載置した。これ
により、磁場勾配が鉛直成分を有する鉛直上向きの勾配磁場をバイアル瓶内の支持液体に印加した。バイアル瓶は、その底面の中心が、真空容器の上側端面の中央に位置するように配置された。
【0093】
バイアル瓶内の支持液体に勾配磁場を印加すると、真空容器の上側端面からほぼ20mm上方(磁場の大きさ:約1.2T、磁場勾配の大きさ:約70T/m)の位置に、支持液体中に浮遊したガラス粒子の集まりが確認された。そして、攪拌棒を用いてバイアル瓶内の支持液体を3分間攪拌したところ(攪拌中も、上述した位置にてガラス(シリカ)粒子の集まりが確認された)、
図25に示すように、支持液体中に懸濁していたチタン粒子は、金網に吸着し、チタン粒子とガラス粒子とが良好に分離された。僅かなチタン粒子がバイアル瓶の内壁に付着したものの、透明な状態の支持液体が目視により確認された。
【0094】
図25に示すように、ガラス粒子は、支持液体中にて、磁気フィルタ手段として使用した2枚の金網の上方に浮遊している。バイアル瓶内の支持液体の量を減らして、支持液体の液面を
図25に示された位置よりも下げると、
ガラス粒子は、支持液体の液面に浮遊する。このことから、上述した第1実施例では、勾配磁場が印加されると、ガラス粒子は、2枚の金網の上方にて、磁気アルキメデス効果により支持液体の液面に浮遊し、さらには、シャーレの内壁面に向かって移動することが理解できるであろう。
【0095】
[第3実施例:チタン粒子(常磁性体)及びガラス粒子(反磁性体)からなる混合物の分離]
上述したチタン粉体0.1gと、各粒子の粒径が略2mmであるガラス(シリカ)ビーズ0.15g(ア
ズワン株式会社製、磁化率(SI単位系):−1.66×10
−4、密度:2.2g/cm
3)とを混合することで、チタン粒子及びガラス粒子からなる混合物を調
製した。そして、支持液体の攪拌時間を2分間とした点を除いて、第2実施例と同様な処理を行った。
【0096】
バイアル瓶に勾配磁場を印加する前は、
図24に示す第2実施例の初期状態と同様に、チタン粒子及びガラス粒子が懸濁して、第3実施例でも支持液体は黒色に濁っていた。バイアル瓶内の支持液体に勾配磁場を印加すると、真空容器の平坦表面からほぼ20mm上方にて、支持液体中に浮遊したガラス粒子(カラスビーズ)の集まりが確認された。そして、攪拌棒を用いてバイアル瓶内の支持液体を2分間攪拌したところ(攪拌中も、上述した位置にてガラス粒子の集まりが確認された)、支持液体中に懸濁していたチタン粒子は、金網に吸着し、チタン粒子とガラス粒子とが良好に分離された。僅かなチタン粒子がバイアル瓶の内壁に付着したものの、透明な状態の支持液体が目視により確認された。
【0097】
[第4実施例:酸化ニッケル粒子(反強磁性体)及びガラス粒子(反磁性体)からなる混合物の分離]
各粒子の粒径が20μm以下である酸化ニッケル粉体0.1g(和光純薬工業株式会社製、磁化率(SI単位系):+4.50×10
−4、密度:6.7g/cm
3)と、第1実施例で使用したガラス(シリカ)粒体0.05gとを混合して、酸化ニッケル粒子及びガラス粒子からなる混合物を調
製した。そして、超伝導バルク磁石を含む上述した真空容器の上側端面に、厚さ2mmのアクリル板を介してバイアル瓶を載置した点を除いて、第2実施例と同様な処理を行った。
【0098】
バイアル瓶に勾配磁場を印加する前は、
図26に示すように、酸化ニッケル粒子及びガラス粒子が懸濁して、支持液体が緑色に濁っていた。バイアル瓶に勾配磁場を印加すると、真空容器の上側端面から20mm上方付近にて、支持液体中にて浮遊したガラス粒子の集まりが確認された。そして、攪拌棒を用いてバイアル瓶内の支持液体を2分間攪拌したところ(攪拌中も、上述した位置にてガラス粒子の集まりが確認された)、
図27に示すように、支持液体中に懸濁していた酸化ニッケル粒子は、金網に吸着し、酸化ニッケル粒子とガラス粒子とが良好に分離された。僅かな酸化ニッケル粒子がバイアル瓶の内壁に付着したものの、透明な状態の支持液体が目視により確認された。
【0099】
[第5実施例:酸化ニッケル粒子(反強磁性体)及びガラス粒子(反磁性体)からなる混合物の分離]
上述した酸化ニッケル粉体0.1gと、第3実施例で用いたガラス(シリカ)ビーズ0.15gとを混合することで、酸化ニッケル粒子及びガラス粒子からなる混合物を調
製した。そして、支持液体の攪拌時間を1分間とした点を除いて、第4実施例と同様な処理を行った。
【0100】
バイアル瓶に勾配磁場を印加する前は、
図26に示す第4実施例の初期状態と同様に、酸化ニッケル粒子及びガラス粒子が懸濁して、第5実施例でも支持液体は緑色に濁っていた。バイアル瓶内の支持液体に勾配磁場を印加すると、真空容器の上側端面から20mm上方付近に、支持液体中にて浮遊したガラス粒子(ガラスビーズ)の集まりが確認された。そして、攪拌棒を用いてバイアル瓶内の支持液体を1分間攪拌したところ(攪拌中も、上述した位置にてガラス粒子の集まりが確認された)、支持液体中に懸濁していた酸化ニッケル粒子は、金網に吸着し、酸化ニッケル粒子とガラス粒子とが良好に分離された。僅かな酸化ニッケル粒子がバイアル瓶の内壁に付着したものの、透明な状態の支持液体が目視により確認された。
【0101】
第2実施例により、第2粒子が常磁性体で形成されており、第1粒子が反磁性体で形成されている場合において、これら第1及び第2粒子を含む混合物を、本発明を用いて種類別に分離できることが実際に確認された。さらに、第4実施例により、第2粒子が反強磁性体で形成されており、第1粒子が反磁性体で形成されている場合において、これら第1及び第2粒子を含む混合物を、本発明を用いて種類別に分離できることが実際に確認された。また、第2及び4実施例に加えて第3及び第5実施例を参照することで、様々な大きさの粒子に、又は粒子混合物に本発明が適用できることが理解できる。
【0102】
以下、従来技術と本発明を比較するために、従来技術を用いて行われた比較例について説明する。
【0103】
[第1比較例:チタン粒子及びガラス粒子からなる混合物の磁気アルキメデス分離]
第2実施例と同様にして、チタン粒子及びガラス粒子からなる混合物を調
製し、支持液体である10wt%塩化マンガン水溶液25mlを含むバイアル瓶に投入して、攪拌した。なお、バイアル瓶内には上述した金網は配置されなかった。攪拌後、チタン粒子及びガラス粒子が懸濁したバイアル瓶内の支持液体に第2実施例と同様に勾配磁場を印加して、3分間放置した。すると、真空容器の上側端面から20mm上方にガラス粒子の集まりが確認された。しかしながら、粒径の大きな一部のチタン粒子はバイアル瓶の底面まで沈降したものの、大半のチタン粒子(と一部のガラス粒子)は支持液体中に懸濁したままで、支持液体は、
図24に示した初期状態と同様に黒色に濁ったままであった。このように、磁気アルキメデス法のみを用いた第1比較例では、常磁性体粒子と反磁性体粒子を含む混合物を、第2実施例のように分離することはできなかった。
【0104】
[第2比較例:チタン粒子及びガラス粒子からなる混合物の磁気アルキメデス分離+HGMS分離]
第2実施例と同様にして、チタン粒子及びガラス粒子からなる混合物を調
製し、支持液体である10wt%塩化マンガン水溶液25mlを含んでおり、上述した2枚の金網が底部に配置されたバイアル瓶に投入して、攪拌した。その後、チタン粒子及びガラス粒子が懸濁したバイアル瓶内の支持液体に第2実施例と同様に勾配磁場を印加して、5分間放置した。すると、
図28に示すように、真空容器の上側端面から20mm上方にガラス粒子の集まりが確認された。しかしながら、ある程度の量のチタン粒子は金網に吸着されたものの、かなりの量のチタン粒子(と一部のガラス粒子)が支持液体中に懸濁したままで、支持液体に濁りが見られた。このように、磁気アルキメデス法とHGMS法とを用いた第2比較例では、常磁性体粒子と反磁性体粒子を含む混合物を、第2実施例のように短時間で良好に分離することはできなかった。
【0105】
[第3比較例:酸化ニッケル粒子及びガラス粒子からなる混合物の磁気アルキメデス分離]
第4実施例と同様にして、酸化ニッケル粒子及びガラス粒子からなる混合物を調
製し、支持液体である10wt%塩化マンガン水溶液25mlを含むバイアル瓶に投入して、攪拌した。なお、バイアル瓶内には上述した金網は配置されなかった。攪拌後、酸化ニッケル粒子及びガラス粒子が懸濁したバイアル瓶内の支持液体に第4実施例と同様に勾配磁場を印加して、2分間放置した。すると、真空容器の上側端面から20mm上方にガラス粒子の集まりが確認された。しかしながら、粒径の大きな一部の酸化ニッケル粒子はバイアル瓶の底面まで沈降したものの、大半の酸化ニッケル粒子は支持液体中に懸濁したままで、支持液体は、
図26に示した初期状態のように緑色に濁ったままであった。このように、磁気アルキメデス法のみを用いた第3比較例では、反強磁性体粒子と反磁性体粒子を含む混合物を、第4実施例のように分離することはできなかった。
【0106】
[第4比較例:酸化ニッケル粒子及びガラス粒子からなる混合物の磁気アルキメデス分離+HGMS分離]
第4実施例と同様にして、酸化ニッケル粒子及びガラス粒子からなる混合物を調
製し、支持液体である10wt%塩化マンガン水溶液25mlを含んでおり、上述した2枚の金網が底部に配置されたバイアル瓶に投入して、攪拌した。その後、酸化ニッケル粒子及びガラス粒子が懸濁したバイアル瓶内の支持液体に第4実施例と同様に勾配磁場を印加して、5分間放置した。すると、真空容器の上側端面から20mm上方にガラス粒子の集まりが確認された。しかしながら、ある程度の量の酸化ニッケル粒子は金網に吸着されたものの、かなりの量の酸化ニッケル粒子(と一部のガラス粒子)が支持液体中に懸濁したままで、支持液体に濁りが見られた。このように、磁気アルキメデス法とHGMS法を用いた第4比較例では、反強磁性体粒子と反磁性体粒子を含む混合物を、第4実施例のように短時間で良好に分離することはできなかった。
【0107】
第1比較例から、第2実施例と同じ支持液体及び勾配磁場を用いては、第2実施例と同じ混合物を磁気アルキメデス効果で分離するのが困難であること、つまり、本発明によれば、従来技術よりも支持液体の磁化率を上げることなく、又は勾配磁場を大きくすることなく、常磁性体粒子と反磁性体粒子とを含む混合物の分離ができることが分かる。また、第3比較例から、第4実施例と同じ支持液体及び勾配磁場を用いては、第4実施例と同じ混合物を磁気アルキメデス効果で分離できないこと、つまり、本発明によれば、従来技術よりも支持液体の磁化率を上げることなく、又は勾配磁場を大きくすることなく、反強磁性体粒子と反磁性体粒子とを含む混合物の分離ができることが分かる。また、第2及び4比較例より、支持液体を攪拌することで、混合物の分離処理に要する時間が大幅に短縮される、又は混合物が良好に分離できることが理解できる。