(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現在、加速度センサには、加速度の印加によって変位する可動電極と、基板に固定される固定電極とを対向させて配置し、両者の間の静電容量の変化を使って加速度を検出する静電容量型加速度センサがある。
図10は、従来の加速度センサを説明するための上面図である。
図11は、
図10中に示した一点鎖線D−Dに沿う断面図である。図示した加速度センサは、図中に示したZ方向に印加される加速度を検出するためのセンサである。そして、シリコン基板1上に固定された第1の固定電極2と、第2の固定電極3と、を備えている。
【0003】
また、
図10、11に示した静電容量型加速度センサでは、可動電極5がアンカ部7によって揺動自在に支持されている。アンカ部7は、ねじれ梁6によって可動電極5と接続されており、ねじれ梁と接続しているアンカ上層部7aと、アンカ上層部7aと基板1とを接続するアンカ下層部7bからなる。可動電極5は、第1の固定電極2に対向する可動電極部5aと、第2の固定電極3に対向する可動電極部5bと、を備えている。
【0004】
図10、11に示した静電容量型加速度センサにZ方向の加速度が印加されると、質量体8が下側に変位する。可動電極5が
図10に示した一点鎖線C−Cよりも左側でリンク梁11によって質量体8と接続しているため、質量体8の下方への変位に伴って可動電極部5aも下方に変位する。
可動電極部5aの変位により、
図11中に示した可動電極部5a下に生じる静電容量C1と可動電極部5b下に生じる静電容量C2との間に差異が生じる。
図10、11に示した静電容量型加速度センサは、静電容量C1と静電容量C2との相違によって静電容量型加速度センサに印加された加速度を検出している。
なお、このような静電容量型加速度センサは、例えば、特許文献1に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の静電容量型加速度センサでは、静電容量型加速度センサが落下する等して通常よりも大きな加速度が印加されたとき、ねじれ梁6とアンカ上層部7aとの結合部分のアンカ上層部7aとアンカ下層部7bとの境界に過大な応力が加わる。過大な応力により、アンカ上層部7aアンカ下層部7bとの境界に剥離、亀裂等の損傷が加わると、静電容量型加速度センサの感度やオフセット値が変動し、静電容量型加速度センサの信頼性を損なうことになる。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、通常使用時に印加される加速度よりも大きな加速度が加わった場合にも、可動電極の支持部と梁部との間が損傷を受けることがなく、信頼性の高い静電容量型加速度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、本発明の静電容量型加速度センサは、基板(例えば
図3に示した基板101)と、前記基板上に固定された固定電極(例えば
図3に示した固定電極123、124)と、前記固定電極の上面に対向するように配置された可動電極(例えば
図3に示した可動電極105)と、前記可動電極を前記基板上面に直交する方向に変位可能に前記基板上に弾性支持する弾性支持部(例えば
図3に示した弾性支持部180)と、を備え、前記弾性支持部は、前記基板上に固定された絶縁体からなる下層支持部(例えば
図3に示した下層支持部121、122)と、前記下層支持部上に固定された上層支持部(例えば
図3に示した上層支持部117)と、前記基板上面に沿って長い形状を有し、且つ一端部が前記上層支持部に結合され他端部が前記可動電極に結合された梁部(例えば
図3に示した梁部106)と、を有し、前記下層支持部は、前記梁部と前記上層支持部との結合部分の直下に位置する部分に空隙部(例えば
図3に示した空隙部130)を有
し、前記上層支持部が、前記梁部の長手方向に沿って長い形状を有する2つの長部(例えば図3に示した長部155a、155b)と、2つの前記長部の間を接続する短部(例えば図3に示した短部107)とを含む平面形状を有し、前記下層支持部は、前記短部の直下に位置する部分の全てに空隙部を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の静電容量型加速度センサは、上記した発明において、前記下層支持部は、さらに、前記長部の直下に位置する部分の一部に空隙部(例えば
図7に示した空隙部140)を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
上記した発明によれば、上層支持部のうちの梁部との結合部分が下層支持部を介して基板に固定されていない。このため、大きな加速度が印加されたときに過大な応力が生じる上層支持部と梁部との結合部分において、上層支持部と下層支持部との境界が存在しない。このため、本発明は、上層支持部と下層支持部との境界部分が損傷を受けることがなく、信頼性の高い静電容量型加速度センサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態1、実施形態2について説明する。
(実施形態1)
[全体の構成]
図1は、実施形態1の静電容量型加速度センサの全体を説明するための上面図である。実施形態1の静電容量型加速度センサは、可動電極105と、可動電極105に上層支持部117を接続する梁部106と、を有している。上層支持部117は、梁部106の長手方向(図中に示したY方向)に沿って長い形状を有する2つの長部155a、155bと、2つの長部155a、155bの間を接続する短部107とを含む「H」型の平面形状を有している。また、可動電極105の周囲には、枠110が設けられている。
図2は、実施形態1の静電容量型加速度センサを、
図1中に破線で示した範囲Pで切り出した部分の斜視図である。
【0012】
[弾性支持部に関する構成]
以下、実施形態1の静電容量型加速度センサについて説明する。
図3は、実施形態1の静電容量型加速度センサ100を説明するための図である。
図3(a)は静電容量型加速度センサ100の上面図、
図3(b)は
図3(a)中に示した破線A−Aに沿う断面図、
図3(c)は
図3(a)中に示した線B−Bに沿う断面図である。
図3中には
図3における方向を示すX軸、Y軸、Z軸を示し、以降の説明を、図示したX軸、Y軸、Z軸が示す方向を使って行うものとする。実施形態1の静電容量型加速度センサ100は、Z方向に印加される加速度を検出するセンサである。
【0013】
図3(a)〜(c)に示すように、静電容量型加速度センサ100は、基板101と、基板101上に固定された固定電極123、124と、固定電極123、124の上面に対向するように配置された可動電極105と、可動電極105を基板101の上面101aに直交する方向(図中に示したZ方向)に変位可能に基板101上に弾性支持する弾性支持部180と、を備えている。
【0014】
弾性支持部180は、基板101上に固定された絶縁体からなる下層支持部と、下層支持部上に固定された上層支持部117と、基板上面101aに沿って(図中に示したY方向)長い形状を有し、且つ一端部が上層支持部117に結合され、他端部が可動電極105に結合された梁部106と、を有している。なお、実施形態1では、下層支持部が2つの下層支持部121、122によって構成されている。
そして、下層支持部121、122は、梁部106と上層支持部117との結合部分の直下に位置する部分に空隙部130を有している。
【0015】
また、実施形態1では、
図3(c)に示したように、下層支持部121、122が、短部107の直下に位置する部分の全てに空隙部130を有するように設けられている。
図1に示したように、上層支持部117は可動電極部105aを可動電極105の中央よりも−X方向に偏った位置で可動電極105を支持している。このため、可動電極105にZ方向の加速度が印加されると、可動電極部105bが下側に変位するとともに、可動電極部105aが上側に変位する。このとき、可動電極部105aと基板101との間の静電容量と可動電極部105bと基板101との間の静電容量とに差が生じる。実施形態1の静電容量型加速度センサは、差分を検出することによってZ方向に印加された加速度を検出している。
【0016】
実施形態1では、上層支持部のうちの梁部との結合部分が下層支持部を介して基板に固定されていない。このため、大きな加速度が印加されたときに過大な応力が生じる上層支持部と梁部との結合部分において、上層支持部と下層支持部との境界が存在しない。
このことにより、
図3に示した静電容量型加速度センサ100は、上層支持部と下層支持部との境界部分において損傷を受けることがない。
【0017】
[効果]
次に、実施形態1によって得られる応力緩和の効果を説明する。
実施形態1によって得られる効果に先立って、先ず、実施形態1の構成と比較される静電容量型加速度センサの構成(参考例)と、参考例の静電容量型加速度センサにかかる応力について説明する。
図4は、参考例の静電容量型加速度センサ400を説明するための図である。
図4(a)は静電容量型加速度センサ400の上面図、
図4(b)は
図4(a)中の線A−Aに沿う断面図、
図4(c)は
図4(a)中の線B−Bに沿う断面図である。
図4において、
図3に示した構成と同様の構成については同様の符号を付し、その説明を一部略すものとする。
【0018】
図5は、
図4に示した静電容量型加速度センサ400の上層支持部117と下層支持部420との間にかかる応力をシミュレーションして得た結果を示す図である。
図5(a)は、シミュレーションに使った解析モデルを示している。
図5(a)は、
図4に示した下層支持部420の底面を模式的に示していて、符号106、117、155a、155bは、図示した底面の上にあるそれぞれが示す構成の位置を仮想的に示している。
図5(a)中に網かけで示した範囲Qは、下層支持部420が上層支持部117と接する範囲を示している。
【0019】
図5(b)は上層支持部117と下層支持部420との間にかかる応力を等高線で示した応力分布図である。シミュレーションでは、静電容量型加速度センサ400に対し、X方向に10000Gの加速度を0.1ms加えたときに発生する応力を求めている。
図4に示したように、静電容量型加速度センサ400は、
図3に示した静電容量型加速度センサ100と比較して、上層支持部117の底面のうち、短部107直下にある面が全て下層支持部420によって支持されている点が静電容量型加速度センサ100と相違する。
【0020】
このような静電容量型加速度センサ400では、図中に示すX方向に過大な加速度を受けたとき、上層支持部117と下層支持部420との境界部のうち、上層支持部117と梁部106との結合部分において、比較的強い応力が印加される。
図5に示したシミュレーションでは、最大39.9MPaの応力が観測された。
上層支持部117と下層支持部106との境界部は、他の部分に比較して剥離等による損傷を受けやすい。このため、
図5のように、境界部にかかった応力が境界部に損傷を与えることがある。
【0021】
次に、実施形態1の静電容量型加速度センサ100によって得られる効果を、上記した参考例の静電容量型加速度センサ400と比較して説明する。
図6は、
図3に示した実施形態1の静電容量型加速度センサ100の上層支持部117と下層支持部121及び122との間にかかる応力をシミュレーションして得た結果を示す図である。
図6(a)は、シミュレーションに使った解析モデルを示している。
図6(a)は、弾性支持部の底面を模式的に示していて、符号106、117、155a、155bは、図示した底面の上にあるそれぞれが示す構成の位置を仮想的に示している。
図6(a)中に網かけで示した範囲Qは、
図3に示した下層支持部121、122が上層指示部117と接する範囲を示している。
【0022】
図6(b)は上層支持部117と下層支持部121及び122との間にかかる応力を等高線で示した応力分布図である。シミュレーションでは、静電容量型加速度センサ100に対し、X方向に10000Gの加速度を0.1ms加えたときに発生する応力を求めている。
図6に示したように、実施形態1の静電容量型加速度センサ100では、X方向に過大な加速度が加わった場合にも、上層支持部117と下層支持部121及び122との境界部に加わる応力が
図5に示した例よりも小さくなっている。具体的には、
図6に示したシミュレーションにおいて、最大応力が8.89Mpaであることが観測された。したがって、実施形態1は、参考例に比べて上層支持部117と下層支持部121及び122との境界部に加わる応力を低減できることが明らかである。このような実施形態1によれば、静電容量型加速度センサを内蔵する機器が床面に落ちる等した場合であっても加速度の測定に関する精度の低下を抑え、信頼性の高い静電容量型加速度センサを提供することができる。
【0023】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2について説明する。なお、実施形態2の静電容量型加速度センサの上面図や斜視図は実施形態1と同様のものであるので、図示及び説明を省くものとする。
[弾性支持部に関する構成]
図7は、実施形態2の静電容量型加速度センサ200を説明するための図である。
図7(a)は静電容量型加速度センサ200の上面図、
図7(b)は
図7(a)中の線A−Aに沿う断面図、
図7(c)は
図7(a)中の線B−Bに沿う断面図である。
図7において、
図3に示した構成と同様の構成については同様の符号を付し、その説明を一部略すものとする。
【0024】
静電容量型加速度センサ200は、
図3に示した静電容量型加速度センサ100と下層支持部141、142の位置が異なっている。つまり、実施形態2では、弾性支持部190を構成する上層支持部117の底面のうち、短部107直下にある全面と、長部155a、155bの底面の一部とが支持部141、142によって支持されておらず、上面101aとの間に空隙部140が設けられる点が静電容量型加速度センサ100と相違する。静電容量型加速度センサ200の空隙部140は、短部107直下の全面のみならず、長部155a、155b直下の領域にも広がっている。このため、静電容量型加速度センサ200の空隙部140は、静電容量型加速度センサ100の空隙部130よりも大きいものとなる。
【0025】
[効果]
図8は、
図7に示した静電容量型加速度センサ200の上層支持部117と下層支持部141及び142との間にかかる応力をシミュレーションして得た結果を示す図である。
図8(a)は、シミュレーションに使った解析モデルを示し、
図8(b)は上層支持部117と下層支持部141及び142との間にかかる応力を等高線で示した応力分布図である。シミュレーションでは、静電容量型加速度センサ200に対し、X方向に10000Gの加速度を0.1ms加えたときに発生する応力を求めている。
【0026】
図8に示したように、実施形態2の静電容量型加速度センサ200では、X方向に過大な加速度が加わった場合にも、上層支持部117と下層支持部141及び142との境界部に加わる応力が
図5、
図6に示した例よりも小さくなっている。具体的には、
図8に示したシミュレーションにおいて、最大応力が5.44Mpaであることが観測された。したがって、実施形態2は、参考例及び実施形態1に比べて上層支持部117と下層支持部141及び142との境界部に加わる応力を低減できることが明らかである。このような実施形態2によれば、静電容量型加速度センサを内蔵する機器が床面に落ちる等した場合であっても加速度の測定に関する精度の低下をいっそう抑え、より信頼性の高い静電容量型加速度センサを提供することができる。
【0027】
(変形例)
さらに、本発明の静電容量型加速度センサは、以上説明した実施形態1、実施形態2に限定されるものではない。すなわち、実施形態1、実施形態2は、いずれも上層支持部117の底面のうち短部107直下の全面に接する空隙部130、140が設けられていて、2つの長部155a、155bの底面は互いに接続されていなかった。
しかし、本発明の静電容量型加速度センサは、梁部106と上層支持部117との結合部分の直下に位置する部分に空隙部を有すればよく、長部155a、155bの底面が互いに接続されていてもよい。
【0028】
図9は、以上説明した実施形態1、実施形態2の変形例について説明するための図である。
図9は、弾性支持部の底面のうちの、長部155a、155bの底面が互いに接続されて、かつ基板101の上面101aに固定された静電容量型加速度センサ300を模式的に示している。網かけで示した範囲Qは下層支持部が上層支持部と接する範囲を示す。図中に示した符号105、106、117、155a、155bは、図示した底面の上にあるそれぞれが示す構成の位置を仮想的に示している。
【0029】
図示したように、静電容量型加速度センサ300では、上層支持部の底面のうち短部107直下の一部と長部155a、155bの一部とが基板に固定されていない。上層支持部底面のうち基板に固定されていない部分901a、901bと基板との間には空隙部が設けられることになる。
このような静電容量型加速度センサ300によっても、実施形態1、実施形態2の静電容量型加速度センサ100、200と同様の理由により、上層支持部と下層支持部との境界部で発生する応力を静電容量型加速度センサ400よりも小さくすることができる。
【0030】
[その他]
以上説明した静電容量型加速度センサは、いずれも基板101にシリコン基板が用いられる。また、下層支持部はSiO2等の絶縁物で、上層支持部(長部及び短部)、梁部、可動電極はSiであり、固定電極はAl等の導体である。可動電極には不純物が注入されていて、この注入濃度は静電容量型加速度センサに要求される特性や性能に応じて決定される。また、上層支持部と基板との間に設けられる空隙部の大きさも静電容量型加速度センサのサイズや強度、精度に応じて決定される。ただし、空隙部の大きさは小さいよりも大きい方が応力緩和の効果が高く、小さいよりも大きい方が弾性支持部の基板に対する固定の強度が高まる。このため、空隙部の大きさは、固定の強度の許容範囲内であって、なるべく大きいことが望ましい。
【0031】
さらに、以上説明した実施形態1、実施形態2、変形例の静電容量型加速度センサは、犠牲酸化膜エッチングの工程によっても、貼り合わせの工程によっても実現することができる。このため、実施形態1、実施形態2、変形例は、製造プロセスの精度等に応じて犠牲酸化膜エッチング、貼り合わせのいずれか、または両者を組み合わせて製造することができる。