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特許5701511気象レーダ信号処理装置及びそのグランドクラッタ除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5701511
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】気象レーダ信号処理装置及びそのグランドクラッタ除去方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/95 20060101AFI20150326BHJP
   G01W 1/14 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   G01S13/95
   G01W1/14 E
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-82879(P2010-82879)
(22)【出願日】2010年3月31日
(65)【公開番号】特開2011-214972(P2011-214972A)
(43)【公開日】2011年10月27日
【審査請求日】2012年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 文彦
(72)【発明者】
【氏名】石澤 寛
(72)【発明者】
【氏名】和田 将一
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡久
(72)【発明者】
【氏名】大矢 孟
(72)【発明者】
【氏名】丸井 英樹
【審査官】 目黒 大地
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−298406(JP,A)
【文献】 特開平06−214016(JP,A)
【文献】 実開昭61−050283(JP,U)
【文献】 特開2006−234580(JP,A)
【文献】 特開2006−226954(JP,A)
【文献】 特公平03−002433(JP,B2)
【文献】 特開平09−257910(JP,A)
【文献】 特開昭62−129774(JP,A)
【文献】 特開2001−091633(JP,A)
【文献】 特開昭62−231185(JP,A)
【文献】 吉田孝,第9章 気象レーダ,改訂 レーダ技術,日本,1996年10月 1日,238-253頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S7/00−7/42
13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定周期で繰り返し得られるレーダパルス反射波の受信信号のIQデータから地形エコーによるグランドクラッタ成分を演算し除去することで気象エコー成分のIQデータを抽出するMTI処理手段と、
前記MTI処理手段で繰り返し得られる気象エコー成分IQデータを順次入力して平均速度を算出し、この平均速度に基づいて入力IQデータの速度を0に位相変換して正規化する正規化手段と、
前記正規化された気象エコー成分IQデータを順次入力して、時系列において隣り合うIQデータ相互間のベクトル成分の総和の絶対値である正規化パルスペア合成ベクトルを求めるパルスペア合成ベクトル算出手段と、
前記正規化パルスペア合成ベクトルからスペクトルの平坦さを評価する指標を算出する評価指標算出手段と、
前記評価指標算出手段で得られた評価指標を予め決められた閾値と比較して閾値未満であるときは、スペクトルが平坦であってそのメッシュには気象エコーが存在しないと判断してその時系列データを前記グランドクラッタ成分の消え残りとして除去し、閾値以上であるときは、そのメッシュには気象エコーが存在すると判断してそのまま時系列データを出力するグランドクラッタ除去手段と
を具備することを特徴とする気象レーダ信号処理装置。
【請求項2】
前記グランドクラッタ除去手段は、標準正規分布に従うIチャンネル信号とQチャンネル信号との和をIQデータとして生成し、このIQデータをフーリエ変換して周波数領域に変換し、この周波数領域のIQデータに対して、平均値と標準偏差が速度、速度幅に対応するガウス関数を乗じて、逆フーリエ変換を施して時間領域の速度幅一定、降水量一定を条件とする模擬気象エコーを得る模擬気象エコー生成手段と、
前記模擬気象エコー生成手段で生成された模擬気象エコーにMTI処理を行い、正規化パルスペア合成ベクトルの算出を行い、スペクトルの平坦さを評価する指標を算出する模擬気象エコー評価指標算出手段と、
前記模擬気象エコー生成手段で生成される複数回の模擬気象エコーについて前記模擬気象エコー評価指標算出手段によりそれぞれの評価指標を算出し、保持したい気象エコーの指標の分布を求め、それを保持できるように分布の下限値に閾値を設定する閾値設定手段とを備え、
前記閾値設定手段で設定される閾値に基づいて前記MTI処理手段で得られた気象エコー成分IQデータからグランドクラッタ成分を除去することを特徴とする請求項記載の気象レーダ信号処理装置。
【請求項3】
一定周期で繰り返し得られるレーダパルス反射波の受信信号のIQデータから地形エコーによるグランドクラッタ成分を演算し除去することで気象エコー成分のIQデータを抽出し、
前記繰り返し得られる気象エコー成分IQデータを順次入力して平均速度を算出し、この平均速度に基づいて入力IQデータの速度を0に位相変換して正規化し、
前記正規化された気象エコー成分IQデータを順次入力して、時系列において隣り合うIQデータ相互間のベクトル成分の総和の絶対値である正規化パルスペア合成ベクトルを求め、
この正規化パルスペア合成ベクトルからスペクトルの平坦さを評価する指標を算出し、
前記評価指標を予め決められた閾値と比較して閾値未満であるときは、スペクトルが平坦であってそのメッシュには気象エコーが存在しないと判断してその時系列データを前記グランドクラッタ成分の消え残りとして除去し、閾値以上であるときは、そのメッシュには気象エコーが存在すると判断してそのまま時系列データを出力することを特徴とする気象レーダ信号処理装置のグランドクラッタ除去方法。
【請求項4】
前記グランドクラッタの除去処理は、
標準正規分布に従うIチャンネル信号とQチャンネル信号との和をIQデータとして生成し、このIQデータをフーリエ変換して周波数領域に変換し、この周波数領域のIQデータに対して、平均値と標準偏差が速度、速度幅に対応するガウス関数を乗じて、逆フーリエ変換を施して時間領域の速度幅一定、降水量一定を条件とする模擬気象エコーを複数回取得し、
前記模擬気象エコーにMTI処理を行い、正規化パルスペア合成ベクトルの算出を行い、スペクトルの平坦さを評価する指標を算出し、
前記複数回の模擬気象エコーについてそれぞれの評価指標を算出し、保持したい気象エコーの指標の分布を求め、それを保持できるように分布の下限値に閾値を設定し、
前記閾値に基づいて前記気象エコー成分IQデータからグランドクラッタ成分を除去することを特徴とする請求項記載の気象レーダ信号処理装置のグランドクラッタ除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気象レーダにおいて、レーダ受信信号からグランドクラッタ(地形エコー)成分を除去して気象エコーを的確に検出する気象レーダ信号処理装置とその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、気象レーダは、雲や雨で反射された電波を受信してその電力値を解析することにより地域別の降水量を観測している。また、電波のドップラー効果を利用し、受信電波のドップラー周波数を解析することで風力も観測している。
【0003】
但し、電波の受信信号には、気象物体からの反射波である気象エコーだけでなく、山や建物などからの反射波であるグランドクラッタ成分(地形エコー)が含まれる。グランドクラッタは気象観測の妨げとなるため、気象レーダの信号処理装置には、そのグランドクラッタ成分を除去するために移動目標指示装置(Moving Target Indicator:MTI)が用いられる。
【0004】
ここで、MTI処理後のデータがグランドクラッタ成分を含むかどうかを判断するために、受信信号から得られたIQデータの解析指標である速度幅に対する閾値処理(いわゆる速度幅フィルタ)が用いられるが、この速度幅フィルタには速度幅の大きい気象エコーまで除去してしまうことがある。これは、速度幅がIQデータのスペクトル形状を正確に評価できていないためである。例えば、MTI処理後のグランドクラッタの消え残りを含むデータ成分と同じ速度幅をもつ気象エコー成分があった場合に、両者を的確に区別することができず、その気象エコーを保持または除去してしまうことになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】石原正仁,ドップラー気象レーダの原理と基礎,気象研究ノート第200号,日本気象協会,pp.1-38,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の如く、従来の気象レーダ信号処理装置にあっては、MTI処理後のグランドクラッタの消え残りがあった場合に、速度幅フィルタにてその消え残りのデータ成分と気象エコー成分を的確に区別することができず、気象エコー成分まで除去してしまうことがあった。
【0007】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、MTI処理後のグランドクラッタの消え残りと気象エコーとを高精度に区別することができ、的確にグランドクラッタのみを除去することのできる気象レーダ信号処理装置とそのグランドクラッタ除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る気象レーダ信号処理装置は、以下のように構成される。
【0009】
(1)一定周期で繰り返し得られるレーダパルス反射波の受信信号のIQデータから地形エコーによるグランドクラッタ成分を演算し除去することで気象エコー成分のIQデータを抽出するMTI処理手段と、前記MTI処理手段で繰り返し得られる気象エコー成分の時系列IQデータから相互間のベクトル成分を求め、そのベクトル成分の総和の絶対値からスペクトルの平坦さを評価する評価指標を求めるスペクトル評価処理手段と、前記スペクトル評価処理手段で得られた評価指標に基づいて前記MTI処理手段で得られた気象エコー成分のIQデータから前記グランドクラッタ成分の消え残りを判別し削除するグランドクラッタ除去手段とを具備する態様とする。
【0010】
(2)(1)の構成において、前記スペクトル評価処理手段は、前記MTI処理手段で繰り返し得られる気象エコー成分IQデータの速度を0に位相変換して正規化する正規化手段と、前記正規化された気象エコー成分IQデータを順次入力して時系列データの和で処理する場合の正規化パルスペア合成ベクトルを求め、この正規化パルスペア合成ベクトルからスペクトルの平坦さを評価する指標を算出する評価指標算出手段と、前記指標を予め決められた閾値と比較して閾値未満であるときは、スペクトルが平坦であってそのメッシュには気象エコーが存在しないと判断してその時系列データを除去し、閾値以上であるときは、そのメッシュには気象エコーが存在すると判断してそのまま時系列データを出力する態様とする。
【0011】
(3)(1)の構成において、前記スペクトル評価処理手段は、前記MTI処理手段で得られた気象エコー成分IQデータを順次入力して時系列データの積で処理する場合のパルスペア自己相関ベクトルを求める自己相関ベクトル算出手段と、前記パルスペア自己相関ベクトルからスペクトルの平坦さを評価する指標を算出する評価指標算出手段と、前記指標を予め決められた閾値と比較して閾値未満であるときは、スペクトルが平坦であってそのメッシュには気象エコーが存在しないと判断してその時系列データを除去し、閾値以上であるときは、そのメッシュには気象エコーが存在すると判断してそのまま時系列データを出力する態様とする。
【0012】
(4)(2)の構成において、前記グランドクラッタ除去手段は、速度幅一定、降水量一定を条件とする模擬気象エコーを生成し、この模擬気象エコーをフーリエ変換して周波数領域に変換し、この周波数領域の模擬気象エコーに対して、平均値と標準偏差が速度、速度幅に対応するガウス関数を乗じて、逆フーリエ変換を施して時間領域の模擬気象エコーを得る模擬気象エコー生成手段と、前記模擬気象エコー生成手段で生成された模擬気象エコーにMTI処理を行い、正規化パルスペア合成ベクトルの算出を行い、スペクトルの平坦さを評価する指標を算出する模擬気象エコー評価指標算出手段と、前記模擬気象エコー生成手段で生成される複数回の模擬気象エコーについて前記模擬気象エコー評価指標算出手段によりそれぞれの評価指標を算出し、保持したい気象エコーの指標の分布を求め、それを保持できるように分布の下限値に閾値を設定する閾値設定手段とを備え、前記閾値設定手段で設定される閾値に基づいて前記MTI処理手段で得られた気象エコー成分IQデータからグランドクラッタ成分を除去する態様とする。
【0013】
(5)(3)の構成において、前記グランドクラッタ除去手段は、速度幅一定、降水量一定を条件とする模擬気象エコーを生成し、この模擬気象エコーをフーリエ変換して周波数領域に変換し、この周波数領域の模擬気象エコーに対して、平均値と標準偏差が速度、速度幅に対応するガウス関数を乗じて、逆フーリエ変換を施して時間領域の模擬気象エコーを得る模擬気象エコー生成手段と、前記模擬気象エコー生成手段で生成された模擬気象エコーにMTI処理を行い、パルスペア自己相関ベクトルの算出を行い、スペクトルの平坦さを評価する指標を算出する模擬気象エコー評価指標算出手段と、前記模擬気象エコー生成手段で生成される複数回の模擬気象エコーについて前記模擬気象エコー評価指標算出手段によりそれぞれの評価指標を算出し、保持したい気象エコーの指標の分布を求め、それを保持できるように分布の下限値に閾値を設定する閾値設定手段とを備え、前記閾値設定手段で設定される閾値に基づいて前記MTI処理手段で得られた気象エコー成分IQデータからグランドクラッタ成分を除去する態様とする。
【0014】
また、発明に係る気象レーダ信号処理装置のグランドクラッタ除去方法は、以下のように構成される。
【0015】
(6)一定周期で繰り返し得られるレーダパルス反射波の受信信号のIQデータから地形エコーによるグランドクラッタ成分を演算し除去することで気象エコー成分のIQデータを抽出し、前記繰り返し得られる気象エコー成分の時系列IQデータから相互間のベクトル成分を求め、そのベクトル成分の総和の絶対値からスペクトルの平坦さを評価する評価指標を求め、前記評価指標に基づいて前記気象エコー成分のIQデータから前記グランドクラッタ成分の消え残りを判別し削除する態様とする。
【0016】
(7)(6)において、前記スペクトルの平坦さの評価処理は、前記繰り返し得られる気象エコー成分IQデータの速度を0に位相変換して正規化し、前記正規化された気象エコー成分IQデータを順次入力して時系列データの和で処理する場合の正規化パルスペア合成ベクトルを求め、この正規化パルスペア合成ベクトルからスペクトルの平坦さを評価する指標を算出し、前記指標を予め決められた閾値と比較して閾値未満であるときは、スペクトルが平坦であってそのメッシュには気象エコーが存在しないと判断してその時系列データを除去し、閾値以上であるときは、そのメッシュには気象エコーが存在すると判断してそのまま時系列データを出力する態様とする。
【0017】
(8)(6)において、前記スペクトルの平坦さの評価処理は、前記気象エコー成分IQデータを順次入力して時系列データの積で処理する場合のパルスペア自己相関ベクトルを求め、前記パルスペア自己相関ベクトルからスペクトルの平坦さを評価する指標を算出し、前記指標を予め決められた閾値と比較して閾値未満であるときは、スペクトルが平坦であってそのメッシュには気象エコーが存在しないと判断してその時系列データを除去し、閾値以上であるときは、そのメッシュには気象エコーが存在すると判断してそのまま時系列データを出力する態様とする。
【0018】
(9)(7)において、前記グランドクラッタの除去処理は、速度幅一定、降水量一定を条件とする模擬気象エコーを生成し、この模擬気象エコーをフーリエ変換して周波数領域に変換し、この周波数領域の模擬気象エコーに対して、平均値と標準偏差が速度、速度幅に対応するガウス関数を乗じて、逆フーリエ変換を施して時間領域の模擬気象エコーを複数回取得し、前記模擬気象エコーにMTI処理を行い、正規化パルスペア合成ベクトルの算出を行い、スペクトルの平坦さを評価する指標を算出し、前記複数回の模擬気象エコーについてそれぞれの評価指標を算出し、保持したい気象エコーの指標の分布を求め、それを保持できるように分布の下限値に閾値を設定し、前記閾値に基づいて前記気象エコー成分IQデータからグランドクラッタ成分を除去する態様とする。
【0019】
(10)(1)において、前記グランドクラッタの除去処理は、速度幅一定、降水量一定を条件とする模擬気象エコーを生成し、この模擬気象エコーをフーリエ変換して周波数領域に変換し、この周波数領域の模擬気象エコーに対して、平均値と標準偏差が速度、速度幅に対応するガウス関数を乗じて、逆フーリエ変換を施して時間領域の模擬気象エコーを複数回取得し、前記模擬気象エコーにMTI処理を行い、パルスペア自己相関ベクトルの算出を行い、スペクトルの平坦さを評価する指標を算出し、前記複数回の模擬気象エコーについてそれぞれの評価指標を算出し、保持したい気象エコーの指標の分布を求め、それを保持できるように分布の下限値に閾値を設定し、前記閾値に基づいて前記気象エコー成分IQデータからグランドクラッタ成分を除去する態様とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、MTI処理後のグランドクラッタの消え残りと気象エコーとを高精度に区別することができ、的確にグランドクラッタのみを除去することのできる気象レーダ信号処理装置とそのグランドクラッタ除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明が適用される気象レーダ信号処理装置の一実施形態の構成を示すブロック図。
図2図1に示す装置において、MTI処理器の具体的な処理の流れを示すブロック図。
図3図2に示すスペクトル評価処理の第1の実施例を示すブロック図。
図4図3に示す位相変換部の具体的な処理の流れを示すフローチャート。
図5図3に示すパルスペア合成ベクトル算出部(和)の具体的な処理の流れを示すフローチャート。
図6図3に示すスペクトルの平坦さを評価する指標Jのふるまいとして、気象エコー又はグランドクラッタの場合を説明するための波形図。
図7図3に示すスペクトルの平坦さを評価する指標Jのふるまいとして、スペクトルが平坦な場合を説明するための波形図。
図8図3に示すグランドクラッタ除去部の具体的な処理の流れを示すフローチャート。
図9】保持したい気象エコーの指標Jの分布を求め、それを保持できるように分布の下限値に閾値を設定する様子を示す波形図。
図10図2に示したスペクトル評価処理において、第1の実施例により簡易な手法で処理する場合の第2の実施例の構成を示すブロック図。
図11図10に示す上記パルスペア合成ベクトル算出部(積)の具体的な処理の流れを示すフローチャート。
図12図10に示すスペクトルの平坦さを評価する指標Zのふるまいとして、気象エコー又はグランドクラッタの場合を説明するための波形図。
図13図10に示すスペクトルの平坦さを評価する指標Zのふるまいとして、スペクトルが平坦な場合を説明するための波形図。
図14図10に示すグランドクラッタ除去部の具体的な処理の流れを示すフローチャート。
図15】保持したい気象エコーの指標Zの分布を求め、それを保持できるように分布の下限値に閾値を設定する様子を示す波形図。
図16】従来の速度幅フィルタによる処理例と上記第1及び第2の実施例それぞれの処理例に関するシミュレーション結果を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施形態として、本発明に係る気象レーダ信号処理装置の構成を示すブロック図である。図1において、パルス信号発生部11で発生されたレーダパルス信号は送信装置12で周波数変換され電力増幅されて、サーキュレータ13を介してアンテナ14から空間に向けて放射される。上記アンテナ14で受けた目標からの反射信号は、サーキュレータ13を介して受信装置15に送られる。この受信装置15は、アンテナ14で受けた信号を増幅し、ベースバンドに周波数変換するもので、その出力は信号処理装置16に送られる。上記信号処理装置16は、入力された受信信号をA/D変換器161でデジタルデータに変換し、IQ検波器162で複素形式のIQデータに変換し、MTI処理器163でグランドクラッタ成分を除去して気象エコーによる観測データを得る。
【0024】
図2は、上記MTI処理器163の具体的な処理の流れを示すブロック図である。図2において、ステップA1は、IQ検波器162で得られたIQデータを取り込み、地形エコーによるグランドクラッタ成分を演算し除去することで気象エコー成分を抽出するMTI処理である。続いて、ステップA2は、本発明の特徴とする処理であり、ステップA1で得られた気象エコー成分から順次正規化したパルスペア合成ベクトルまたは一定期間内のパルスペア自己相関ベクトルを求め、そのパルスペア合成ベクトルまたはパルスペア自己相関ベクトルの総和の絶対値からスペクトルの平坦さを評価する評価指標を算出し、この評価指標に基づいてグランドクラッタの除去と気象エコーの保持を行うスペクトル評価処理である。次に、ステップA3は、ステップA2の評価指標に対する振幅成分の電力値に対する閾値処理を行って孤立点を除去することでノイズを除去するノイズ除去処理である。ステップA1〜A3で得られた振幅成分は、MTI処理後の速度、速度幅、電力値の計算に供される。
【0025】
以上の処理により、時系列IQデータから正規化パルスペア合成ベクトルまたはパルスペア自己相関ベクトルを算出し、その算出結果の総和の絶対値からスペクトルの平坦さを評価し、さらにこの評価指標に対する閾値処理によりグランドクラッタ除去を行うことで、グランドクラッタ除去と気象エコー保持の両立を図ることができる。
【0026】
(第1の実施例)
図3は、上記スペクトル評価処理(ステップA2)の第1の実施例を示すブロック図である。すなわち、この実施例のスペクトル評価処理では、位相変換部S1、パルスペア合成ベクトル算出部(和)S2、グランドクラッタ除去部S3で構成される。
【0027】
図4は上記位相変換部S1の具体的な処理の流れを示すフローチャートである。この位相変換部S1では、処理対象のIQデータを順次入力し(ステップS11)、平均速度を算出した後(ステップS12)、速度を0に位相変換する、いわゆる正規化処理を行う(ステップS13)。具体的には、処理対象のIQデータを
IQA(n)=r(n)ejθ(n) (n=0,1,…,N-1) …(1)
とすると、位相変換後のIQデータは、IQデータから算出した平均速度をv、ナイキスト速度をVnyqとすると
IQB(n)=r(n)ej(θ(n)-πv(n-1)/Vnyq) …(2)
となる。
【0028】
図5は、上記パルスペア合成ベクトル算出部(和)S2の具体的な処理の流れを示すフローチャートである。このパルスペア合成ベクトル算出部(和)S2では、位相変換部S1で得られた位相変換後の正規化されたIQデータを順次入力し(ステップS21)、パルスペア合成ベクトルIQC(n)を次式より算出する(ステップS22)。
【0029】
IQC(n)=|IQB(n)+IQB(n+1)|ej[arg{IQA(n+1)}-arg{IQA(n)}] …(3)
次に、スペクトルの平坦さを評価する指標Jを次式より算出する(ステップS23)。
J=|ΣIQC(n)| (nは0〜N-2) …(4)
続いて、グランドクラッタ除去判別処理を行い、上記指標Jが予め決められた閾値未満か否かを判断する(ステップS24)。上記指標Jが閾値未満の場合には(yes)、スペクトルが平坦であってそのメッシュには気象エコーが存在しないと判断してその時系列データを除去する(ステップS25)。ステップS24において、指標Jが閾値以上の場合には(no)、そのメッシュには気象エコーが存在すると判断してそのまま時系列データを出力する。
【0030】
すなわち、上記の処理において、指標のふるまいとしては、気象エコー又はグランドクラッタの場合、図6(a)に示すように、位相変換後のIQデータの偏角はほぼ一定なので、正規化されたパルスペア合成ベクトルは図6(b)に示すように積み重なる。よって指標Jは大となる。また、スペクトルが平坦な場合には、図7(a)に示すように、位相変換後のIQデータの偏角は無作為となるので、正規化されたパルスペア合成ベクトルは図7(b)に示すように打ち消し合うことになり、指標Jはほぼ0となる。
【0031】
図8は、グランドクラッタ除去部S3の具体的な処理の流れを示すフローチャートである。
【0032】
このグランドクラッタ除去部S3では、まず速度幅一定、降水量一定を条件とする模擬気象エコーを生成する(ステップS31)。この模擬気象エコーの生成には、まず標準正規分布に従うチャンネル信号とQチャンネル信号の和をIQデータとして生成する。次に、生成したIQデータに対してフーリエ変換を適用し、周波数領域のIQデータを得る。続いて、周波数領域のIQデータに対し、ガウス関数を乗じて逆フーリエ変換を施し、これを模擬気象エコーとする。ここで、ガウス関数の平均値と標準偏差は、所望の速度、速度幅に対応する。
【0033】
次に、上記ステップS31で生成された模擬気象エコーにMTI処理を行い(ステップS32)、(3)式よりパルスペア合成ベクトル(和)の算出を行い(ステップS33)、(4)式によりスペクトルの平坦さを評価する指標Jを算出する(ステップS34)。
【0034】
以上のステップS31〜S34の処理をi=1からi=Nまで繰り返し実行する(ステップS35)。N回の模擬気象エコーの生成とそのスペクトルの平坦さの評価指標Jを算出した後、保持したい気象エコーの指標Jの分布を求め、それを保持できるように分布の下限値に閾値を設定する(ステップS36)。図9にその設定の様子を示す。
【0035】
以上のように、第1の実施例では、上記位相変換部S1で、パルスペア合成ベクトルの速度に対する依存性をなくすためにIQデータの平均速度を0にし、正規化処理によりパルスペア合成ベクトルの振幅成分の依存性をなくす。その上で、パルスペア合成ベクトル算出部S2で、時系列において隣り合う位相変換後のIQデータの和の絶対値をパルスペア合成ベクトルの振幅成分として求める。このときのパルスペア合成ベクトルの位相成分は時系列において隣り合う位相変換後のIQデータの位相差である。
【0036】
続いて、グランドクラッタ除去部S3で、時系列IQデータの和で構成する場合のパルスペア合成ベクトルを用い、パルスペア合成ベクトルの総和の絶対値によりIQデータ振幅成分のスペクトル形状を評価する。気象エコーまたグランドクラッタの場合、パルスペア合成ベクトルの偏角はほぼ一定なのでパルスペア合成ベクトルは積み重なり、指標Jは大きくなる。
【0037】
一方、スペクトルが平坦な場合、パルスペア合成ベクトルの偏角は無作為なのでパルスペア合成ベクトルは互いに打ち消し合って、指標Jはほぼ0になる。これらの差異を利用して、指標Jが小さい場合、処理対象のデータは気象エコーを含まない無効データとする。
【0038】
したがって、第1の実施例によれば、MTI処理S1により平坦なスペクトルとなったグランドクラッタの消え残りを確実に除去し、気象エコーを確実に保持することができる。
【0039】
(第2の実施例)
図10は、図2に示したスペクトル評価処理S2において、第1の実施例により簡易な手法で処理する場合の第2の実施例の構成を示すブロック図である。すなわち、この実施例のスペクトル評価処理では、パルスペア合成ベクトル算出部(積)S4及びグランドクラッタ除去部S5で構成される。
【0040】
図11は上記パルスペア合成ベクトル算出部(積)S4の具体的な処理の流れを示すフローチャートである。このパルスペア合成ベクトル算出部(積)S4では、処理対象のIQデータを順次入力し(ステップS41)、次式のパルスペア合成ベクトル(積)を算出して自己相関ベクトルを求める(ステップS42)。
z(n)=IQA*(n)・IQA(n+1)
=|IQA(n)||IQA(n+1)|ej[arg{IQA(n+1)}-arg{IQA(n)}] …(5)
*:共役複素数
次に、スペクトルの平坦さを評価する指標Zを次式から求める(ステップS43)。
Z=|Σz(n)| (nは0〜N-2) …(6)
続いて、グランドクラッタ除去判別処理を行い、上記指標Zが予め決められた閾値未満か否かを判断する(ステップ44)。上記指標Zが閾値未満の場合には(yes)、スペクトルが平坦であってそのメッシュには気象エコーが存在しないと判断してその時系列データを除去する(ステップS45)。ステップS44において、指標Zが閾値以上の場合には(no)、そのメッシュには気象エコーが存在すると判断してそのまま時系列データを出力する。
【0041】
すなわち、上記の処理において、指標のふるまいとしては、第1の実施例と同様であり、気象エコー又はグランドクラッタの場合、図12(a)に示すように、MTI処理されたIQデータの偏角はほぼ一定なので、パルスペア自己相関ベクトルは図12(b)に示すように積み重なる。よって指標Zは大となる。また、スペクトルが平坦な場合には、図13(a)に示すように、MTI処理後のIQデータの偏角は無作為となるので、パルスペア自己相関ベクトルは図13(b)に示すように打ち消し合うことになり、指標Zはほぼ0となる。
【0042】
図14は、図10に示すグランドクラッタ除去部S5の具体的な処理の流れを示すフローチャートである。
【0043】
このグランドクラッタ除去部S5では、まず速度幅一定、降水量一定を条件とする模擬気象エコーを生成する(ステップS51)。この模擬気象エコーの生成には、まず標準正規分布に従うIチャンネル信号とQチャンネル信号の和をIQデータとして生成する。次に、生成したIQデータに対してフーリエ変換を適用し、周波数領域のIQデータを得る。続いて、周波数領域のIQデータに対し、平均値と標準偏差がそれぞれ所望の速度、速度幅に対応するガウス関数を乗じて逆フーリエ変換を施し、これを模擬気象エコーとする。
【0044】
次に、上記ステップS51で生成された模擬気象エコーにMTI処理を行い(ステップS52)、(5)式よりパルスペア合成ベクトル(積)の算出を行ってパルスペア自己相関ベクトルを求め(ステップS53)、(6)式によりスペクトルの平坦さを評価する指標Zを算出する(ステップS54)。
【0045】
以上のステップS51〜S54の処理をi=1からi=Nまで繰り返し実行する(ステップS55)。N回の模擬気象エコーの生成とそのスペクトルの平坦さの評価指標Zを算出した後、保持したい気象エコーの指標Zの分布を求め、それを保持できるように分布の下限値に閾値を設定する(ステップS56)。図15にその設定の様子を示す。
【0046】
以上のように、第2の実施例では、第1の実施例の初段のような正規化処理は不要であり、直接、パルスペア合成ベクトル算出部(積)S4で、時系列において隣り合う位相変換後のIQデータの積をパルスペア自己相関ベクトルの振幅成分として求める。このときのパルスペア自己相関ベクトルの位相成分は時系列において隣り合う位相変換後のIQデータの位相差である。
【0047】
続いて、グランドクラッタ除去部S5で、振幅成分を時系列IQデータの積で構成する場合のパルスペア合成ベクトルを用い、パルスペア合成ベクトルの積によりIQデータのスペクトル形状を評価する。気象エコーまたグランドクラッタの場合、パルスペア合成ベクトルの偏角はほぼ一定なのでパルスペア合成ベクトルは積み重なり、指標Zは大きくなる。一方、スペクトルが平坦な場合、パルスペア合成ベクトルの偏角は無作為なのでパルスペア合成ベクトルは互いに打ち消し合って、指標Zはほぼ0になる。これらの差異を利用して、指標Zが小さい場合、処理対象のデータは気象エコーを含まない無効データとする。
【0048】
したがって、第2の実施例の場合も、MTI処理S1により平坦なスペクトルとなったグランドクラッタの消え残りを確実に除去することができる。
【0049】
(効果)
図16は、従来の速度幅フィルタによる処理例と上記第1及び第2の実施例それぞれの処理例に関するシミュレーション結果を示す特性図である。図において、実線部分はMTI処理後のグランドクラッタから算出した特性、点線部分はMTI処理後の速度幅5m/sの気象エコーから算出した特性を示しており、図16(a)は従来の速度幅フィルタを用いた場合、図16(b)は第1の実施例の場合、図16(c)は第2の実施例の場合を示している。
【0050】
ここでは、条件として、グランドクラッタと速度幅5m/sの気象エコーに対してMTI処理を施したのち、それぞれの指標の分布を算出するものとする。
【0051】
速度幅フィルタを用いた場合には、図16(a)に示すように、グランドクラッタと気象エコーの分布の重なりが大きく、両者を適切に区分することは困難である。これに対して、第1の実施例の指標Jと第2の実施例の指標Zは、それぞれ図16(b)、(c)に示したように、速度幅に比べてグランドクラッタの消え残りと気象エコーの境界が比較的明確であり、分解性能が高いことがわかる。
【0052】
以上の第1又は第2の実施例の処理を実行することにより、MTI処理S1により平坦なスペクトルとなったグランドクラッタの消え残りを確実に除去することができる。
【0053】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、本発明によれば、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0054】
11…パルス信号発生部、12…送信装置、13…サーキュレータ、14…アンテナ、15…受信装置、16…信号処理装置、161…A/D変換器、162…IQ検波器、163…MTI処理器、A1…MTI処理、A2…スペクトル評価処理、A3…ノイズ除去処理、S1…位相変換部、S2…パルスペア合成ベクトル算出部(和)、S3…グランドクラッタ除去部、S4…パルスペア合成ベクトル算出部(積)、S5…グランドクラッタ除去部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16