(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5702610
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物、地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品、並びに、害虫の忌避方法
(51)【国際特許分類】
A01N 53/06 20060101AFI20150326BHJP
A01N 25/06 20060101ALI20150326BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
A01N53/00 506Z
A01N25/06
A01P17/00
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-8691(P2011-8691)
(22)【出願日】2011年1月19日
(65)【公開番号】特開2012-149007(P2012-149007A)
(43)【公開日】2012年8月9日
【審査請求日】2013年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 康順
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 清文
【審査官】
三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−234804(JP,A)
【文献】
特開2003−081721(JP,A)
【文献】
特開2002−068911(JP,A)
【文献】
特開2010−280633(JP,A)
【文献】
特開2006−121988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
A01M 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトフルトリンを0.5〜5重量%、沸点が150〜280℃の飽和炭化水素系溶剤を35〜70重量%、並びに、液化石油ガス又はジメチルエーテルを主成分とし且つ前記メトフルトリン及び前記飽和炭化水素系溶剤と相溶性を有する液状噴射剤を25〜64.5重量%含有することを特徴とする地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物がエアゾール容器に充填されてなる地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品。
【請求項3】
1回の噴霧操作で一定量の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物を噴霧できるものであり、1回の噴霧量が0.1〜1mLであることを特徴とする請求項2に記載の地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品。
【請求項4】
請求項1に記載の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物を地面に噴霧することにより、前記地面の上方空間への害虫の侵入を阻止することを特徴とする害虫の忌避方法。
【請求項5】
前記害虫は、飛翔害虫であることを特徴とする請求項4に記載の害虫の忌避方法。
【請求項6】
請求項3に記載の地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品を用いることを特徴とする請求項4又は5に記載の害虫の忌避方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物、地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品、並びに、害虫の忌避方法に関する。本発明は、野外において飛翔害虫等の害虫を忌避するのに有用なものである。
【背景技術】
【0002】
殺虫用エアゾール剤を用いて一定の空間から害虫を長時間忌避する技術が多く知られている。殺虫用エアゾール剤を用いて害虫を忌避する方法として、屋内の一定空間に向けて噴霧する方法が一般に知られており、また固相表面に噴霧して噴霧箇所から殺虫成分を持続的に蒸散させる方法もある。例えば特許文献1には、常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分を含有したエアゾール剤を対象処理面に噴霧して、対象処理面上方にバリア空間を形成し、害虫の侵入を阻止する方法が開示されている。このエアゾール剤では、噴射剤として圧縮ガスを採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−161957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、野外レジャーや園芸を楽しむ人が増えており、人がいる野外のエリアにおいて、やぶ蚊などの飛翔害虫の侵入を一定時間阻止することが望まれている。そのためには、野外という開放空間において、飛翔害虫等の侵入を長時間にわたって安定的に阻止できる技術が求められている。
上記現状に鑑み、本発明は、野外において飛翔害虫等の害虫を長時間にわたって安定的に阻止できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定範囲の蒸気圧を有する殺虫成分と特定範囲の沸点を有する溶剤と液状噴射剤とを組み合わせたエアゾール組成物を地面等の固相表面に噴霧することで、飛翔害虫等の害虫を一定時間忌避する空間を効率的に作り出せることを見出し、本発明に至った。すなわち上記した課題を解決するために提供される本発明は、以下のとおりである。
【0006】
本発明は、
メトフルトリンを0.5〜5重量%、沸点が150〜280℃の
飽和炭化水素系溶剤を35〜70重量%、並びに、
液化石油ガス又はジメチルエーテルを主成分とし且つ前記
メトフルトリン及び前記
飽和炭化水素系溶剤と相溶性を有する液状噴射剤を25〜64.5重量%含有することを特徴とする地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物である。
【0007】
本発明は地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物に係るものである。本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物は、構成成分として、
メトフルトリン、沸点が150〜280℃の
飽和炭化水素系溶剤、並びに、噴射剤として上記殺虫成分および
飽和炭化水素系溶剤と相溶性を有する液状噴射剤を含有する。これら各成分を含有するエアゾール組成物は、相互に溶解してエアゾール内では均一な液状となっている。かかるエアゾール組成物を噴霧すると、液状噴射剤が殺虫成分および溶剤とともに噴射され、大気中で蒸発し気化することにより、液が粉砕され、噴霧粒子径が小さくなり、地面表面に満遍なく付着させることができるとともに、地面上に噴霧されたときに、殺虫成分の揮散性が制御される。このため、本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物によれば、所望のエリア(空間)下の地面に噴霧することにより、当該エリアへの飛翔害虫等の侵入を長時間にわたって安定的に阻止することができる。
【0008】
本発明における「地面」には、いわゆる地面(地表)そのものの他に、地面と同一視できる「地面に類似する表面」も含まれる。地面に類似する表面の例としては、地上構造物における表面(例えば、ビルの屋上、ベランダ、屋根など)、地面等に置いた物品(例えば、シート、ゴザ、椅子、テントなど)の表面などが挙げられ、以下これらを総称して単に「地面」と呼ぶ。
【0014】
本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物では、液状噴射剤が液化石油ガス又はジメチルエーテルを主成分とするものである。かかる構成により、液状噴射剤が殺虫成分、溶剤と相溶し、噴射時に液状噴射剤が殺虫成分および溶剤とともに噴射され、大気中で蒸発し気化することにより、液が粉砕され、噴霧粒子径が小さくなり、地面表面に満遍なく殺虫成分を含む薬液を付着させることができる。
【0016】
本発明は地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品に係るものであり、上記した本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物がエアゾール容器に充填されてなるものである。本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品を用いて地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物を所望のエリア(空間)下の地面に噴霧することにより、当該エリアへの飛翔害虫等の侵入を長時間にわたって安定的に阻止することができる。
【0017】
前記地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品において、1回の噴霧操作で一定量の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物を噴霧できる構成を採用することができる。また1回の噴霧量は、組成物中の殺虫成分の含量によっても変わるが、一般的には0.1〜1mLである。
【0019】
本発明は害虫の忌避方法に係るものであり
、上記した本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物を地面に噴霧することにより、地面の上方空間への害虫の侵入を阻止する。本発明の害虫の忌避方法によれば、野外等の地面の上方における所望のエリア(空間)への飛翔害虫等の侵入を、長時間にわたって安定的に阻止することができる。
【0020】
本発明においても、「地面」には、いわゆる地面(地表)そのものの他に、地面と同一視できる「地面に類似する表面」が含まれる。地面に類似する表面の例としては、上記と同様に、地上構造物における表面(例えば、ビルの屋上、ベランダ、屋根など)、地面等に置いた物品(例えば、シート、ゴザ、椅子、テントなど)の表面などが挙げられる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物によれば、所望のエリア(空間)下の地面に噴霧することにより、当該エリアへの飛翔害虫等の侵入を長時間にわたって安定的に阻止することができる。
【0024】
本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品についても同様であり、所望のエリア(空間)への飛翔害虫等の侵入を長時間にわたって安定的に阻止することができる。
【0025】
本発明の害虫の忌避方法についても同様であり、所望のエリア(空間)への飛翔害虫等の侵入を長時間にわたって安定的に阻止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物は、
メトフルトリンを0.5〜5重量%、沸点が150〜280℃の
飽和炭化水素系溶剤を35〜70重量%、並びに、
液化石油ガス又はジメチルエーテルを主成分とし且つ前記
メトフルトリン及び前記
飽和炭化水素系溶剤と相溶性を有する液状噴射剤を25〜64.5重量%含有することを特徴とする地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物である。
【0029】
上記
飽和炭化水素系溶剤としては、沸点が150〜280℃の範囲のものであれば特に限定はない。沸点が当該範囲であることにより、前記特定範囲の蒸気圧を有する殺虫成分を、地面に噴霧した際に適当な持続性を持たせながら蒸散させることができ
る。
かかる飽和炭化水素系溶剤の例としては、炭素数9〜15のノルマルパラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、ナフテン系溶剤が挙げられる。
本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物における親油性溶剤の含量は35〜70重量%であり、好ましくは40〜60重量%である。また溶剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
上記液状噴射剤の含量は25〜64.5重量%の範囲内であれば特に限定はないが、好ましくは40〜60重量%である。液状噴射剤は、殺虫成分および溶剤との相溶性および噴射性から液化石油ガス(LPG)又はジメチルエーテルを主成分とするものが好ましい。また液状噴射剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物は、基本的には殺虫成分、親油性溶剤、及び液状噴射剤により構成されるが、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を適宜含有していてもよい。例えば、当該他の成分として、前記殺虫成分以外の合成品あるいは天然由来の殺虫成分、忌避剤、香料、殺虫成分溶解助剤、などを含有させてもよい。
【0032】
本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品は、本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物がエアゾール容器に充填されてなるものである。エアゾール容器としては特に限定はなく、例えば、耐圧容器、エアゾールバルブ、アクチュエーター等を備えた公知のエアゾール容器を用いることができる。
【0033】
好ましい実施形態では、1回の噴霧操作で一定量の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物を噴霧できる構成を有する。1回の噴霧量としては、例えば、0.1〜1mL、より限定すれば0.1〜0.5mL、等とすることができる。具体例としては、液状噴射剤として液化石油ガスを採用し、20℃におけるエアゾール容器内圧を約0.2〜0.5MPa(ゲージ圧)とし、1回の噴霧量を容易に調整するために、定量噴霧用エアゾールバルブを装着する。
【0034】
本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物と地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品は、例えば以下のようにして製造することができる。ま
ず、沸点が150〜280℃の
飽和炭化水素系溶剤、及び液状噴射剤をそれぞれ選定する。そして、所定重量の
メトフルトリンと溶剤とを混合・溶解し、殺虫成分溶液(薬液)を得る。この溶液をエアゾール容器に入れ、定量噴霧エアゾールバルブを装着する。続いて、所定重量の液状噴射剤をバルブのステムを通して充填する。これにより、本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物が充填された地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品を製造することができる。
【0035】
本発明の害虫の忌避方法は、本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物を地面に噴霧することにより、前記地面の上方空間への害虫の侵入を阻止するものである。地面1m
2あたりの殺虫成分量を1〜5mgとなるように、必要に応じて、複数回噴霧しても良い。特に、飛翔害虫を忌避する時間を2時間以上とするには、地面1m
2あたりの殺虫成分量を2mg以上とすることが好ましい。
【0036】
本発明の地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物の噴霧対象としては、地面(岩場、草原、芝生、グラウンドなど)の他、地面に類似する表面、例えば、前述した地上構造物における表面(例えば、ビルの屋上、ベランダ、屋根など)、地面等に置いた物品(例えば、シート、ゴザ、椅子、テントなど)の表面、などが挙げられる。
【0037】
本発明の忌避対象となる害虫としては、各種の有害昆虫やクモ、ダニ類等を挙げることができるが、飛翔害虫が代表的である。飛翔害虫の例としては、チョウバエ類、ユスリカ類、イエカ類、ヤブカ類、ハマダラカ類、ハエ類、アブ類、ブユ類、ヌカカ類などが挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0039】
〔製剤例〕
メトフルトリン200mg、イソパラフィン系飽和炭化水素(沸点164〜176℃のイソパラフィン系飽和炭化水素溶剤の混合物)4.9gをエアゾール缶に入れ、0.2mL定量噴霧エアゾールバルブを装着後、液化石油ガス5.1gを充填した。内圧は0.3MPa(ゲージ圧、25℃)であった。これにより、メトフルトリンを2重量%、イソパラフィン系飽和炭化水素を48重量%、及び液化石油ガスを50重量%含有する地面噴霧用害虫忌避エアゾール組成物(本発明組成物)と、当該エアゾール組成物が充填された地面噴霧用害虫忌避エアゾール製品(本発明エアゾール製品)を得た。本発明エアゾール製品によれば、一回の定量噴霧あたり2.5mgのメトフルトリンがエアゾールとなって噴霧される。
【0040】
〔比較例〕
市販の飛翔害虫忌避定量噴霧エアゾール(トランスフルスリン350mg含有)を比較エアゾール製品とした。この比較エアゾール製品によれば、一回の定量噴霧(0.2mL)あたり、約2.8mgのトランスフルトリンがエアゾールとなって噴霧される。
【0041】
〔試験例〕
ヤブ蚊の発生地の近くに2m×2mの正方形のエリアを設定し、エリアの4つの角の地面に1回ずつ、本発明エアゾール製品または比較エアゾール製品を用いて、本発明組成物または比較例組成物を定量噴霧した(処理区)。噴霧直後、噴霧後1時間、噴霧後2時間、および噴霧後3時間の時点における、各エリアの飛翔害虫の忌避効果を調べた。
忌避効果の試験は以下の手順で行った。まず、正方形エリアの中央に椅子を置き、被験者が両腕を出して座った。着座から5分間に人体にランディングした飛翔害虫の延べ数をカウントした。試験は独立して2回行い(N=2)、延べランディング数の平均値を算出した。なお本試験では、ランディング数が小さいほど忌避効果が高いことを示す。
また、エアゾール組成物を全く噴霧しないエリア(無処理区)においても、同様にして人体にランディングする飛翔害虫の数をカウントし、処理区と比較した。
【0042】
結果を表1に示す。表1の数値は、延べランディング数の平均値である。
【表1】
【0043】
表1に示すように、本発明エアゾール製品は、噴霧から少なくとも3時間は飛翔害虫の高い忌避効果を持続していた。特に、噴霧から2時間までは忌避効果がほとんど低下しなかった。一方、比較エアゾール製品は、噴霧直後に忌避効果を発揮したものの、噴霧後1時間では忌避効果が無くなっていた。
以上より、本発明エアゾール製品は、野外の地面に噴霧することにより、地面の上方空間への飛翔害虫の侵入を一定時間阻止できることが示された。