(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
河川排水や農業用水等に用いられる斜流または軸流の横軸ポンプの主軸を水中で回転自在に支承する水中軸受装置としては、軸受材料としてホワイトメタル(軸受合金)を使用したすべり軸受(水中軸受)を備え、すべり軸受と主軸との間にグリース等の潤滑油脂を供給して潤滑するようにしたものが広く知られている。
【0003】
図1は、この種の従来の一般的な水中軸受装置を示す断面図である。
図1に示すように、ポンプ軸等の主軸1を水中で回転自在に支承する水中軸受装置2は、ホワイトメタルを軸受材料としたすべり軸受(水中軸受)3を有しており、このすべり軸受3は、主軸1の軸支部に固定した軸受スリーブ(軸スリーブ)4を包囲する位置に位置して、軸受支え5を介して、図示しない軸受ケーシングに固定されている。すべり軸受3には、油脂供給口3aが設けられ、この油脂供給口3aを通して、すべり軸受3の内周面と軸受スリーブ4の外周面との間にグリース等の潤滑油脂が供給される。
【0004】
すべり軸受3の主軸1の端面側の一端には、すべり軸受3の開口端を閉塞する軸受カバー6が取り付けられ、他端には、すべり軸受3内に、ポンプの取扱流体(外部流体)である河川水や農業用水が入り込むのを防止する油封部7が備えられている。油封部7は、リップ先端部を軸受スリーブ4の外周面に接触させてシールするオイルシール8と該オイルシール8を内部に収納するオイルシールケース9とを有している。これにより、すべり軸受3内への外部流体の浸入を防止し、すべり軸受3の潤滑機能が維持される。この構造の場合、外部流体に対し、潤滑油脂側の油圧が大きいと、潤滑油脂(グリース)の方向性により、潤滑油脂が外部流体側に漏れる。このため、潤滑油脂側の圧力を大きくすることにより、すべり軸受3内への外部流体の浸入を防止している。すべり軸受3の内部に供給される潤滑油脂は、油封部7に設けられたオイルシール8により堰き止められて、ポンプの取扱流体(外部流体)である河川水や農業用水への流出が防止される。
【0005】
図1に示す水中軸受装置において、オイルシール8は、軸受スリーブ4等との接触部を持つ消耗部品であり、オイルシール8が使用に伴って経時的に消耗すると、すべり軸受3内へ外部流体が浸入したり、グリースなどの潤滑油脂が外部流体内に流出してしまう恐れがある。軸受内への外部流体の浸入は、軸受の異常を発生させ、また、川や農業用水への潤滑油脂の流出は、水質や生態系に影響を与えるため、極力防止する必要がある。これらの問題を解決するため、オイルシール8を定期的に交換することが求められる。
【0006】
オイルシールの交換を行うためには、新規のオイルシールの手配が必要となり、また、オイルシールを予備品として在庫している場合でも、オイルシールを構成するゴムの劣化やオイルシールの金属部の錆付き等を防止するため、オイルシールの管理に十分な配慮が必要となる。このため、
図1に示す水中軸受装置を使用して、ポンプの主軸を回転自在に支承すると、オイルシールの管理等がかなり面倒で、ポンプを良好に維持し管理することが困難となる。また、オイルシールだけではなく、オイルシールとの接触部材である軸受スリーブ(軸スリーブ)が消耗している場合には、オイルシールの交換だけでなく、軸受スリーブの交換も必要になる。このため、軸受スリーブの手配や、現地での軸受スリーブ交換作業が複雑となり、ポンプを良好に維持し管理することが更に困難となる。
【0007】
また、ポンプの主軸を潤滑油脂が不要なセラミックス軸受で回転自在に支承することも広く行われている。しかしながら、セラミックスは、脆性材料であり、また急激な温度変化により割れ(ヒートクラック)が生じやすいという材料特性を有することから、主軸をセラミックス軸受で回転自在に支承した横軸ポンプは、特に主軸をホワイトメタル等のメタルを軸受材料としたすべり軸受(水中軸受)で支承した横軸ポンプと比較して、ポンプの信頼性が低下してしまうという課題がある。
【0008】
つまり、横軸ポンプの場合、立軸ポンプと異なり、回転体の重量がラジアル荷重として軸受に作用するため、振動等による動荷重が立軸ポンプに比べ大きくなる。このため、ポンプの主軸をセラミックス軸受で回転自在に支承すると、セラミックス軸受が割れてしまう恐れがある。また、横軸斜流ポンプは、吸上始動する場合が多いため、始動時の満水失敗や運転時における落水時により、軸受の温度が急激に上昇することがある。このような軸受温度の急激上昇により、セラミックス軸受が割れてしまう(ヒートクラック)懸念もある。このため、横軸ポンプにおいては、セラミックス軸受の採用を避ける傾向にある。
【0009】
図2は、環境性等を考慮し、すべり軸受の内部に潤滑油脂(グリース)を圧封させることなく、循環させて戻す(再利用する)ようにした、従来の他の水中軸受装置2aを示す断面図である。
図2に示す水中軸受装置2aの
図1に示す水中軸受装置2と異なる点は、すべり軸受3とオイルシールケース9との間に、内部に流入した潤滑油脂を外部に排出する油脂排出口110aを有する油脂充填スペーサ110を介装して、油封部7を構成している点にある。その他の構成は、
図1に示す水中軸受装置2と同様である。
【0010】
図2に示す水中軸受装置2aは、潤滑油脂の取扱流体への流出を抑えることはできるが、オイルシールの消耗や劣化を完全に防止することはできず、このため、潤滑油脂の取扱流体への流出を長期に亘って安定して抑えることは困難である。
【0011】
また、セラミックス軸受の欠点を補い、且つ無給油の水中軸受装置として、熱可塑性樹脂材料からなるすべり軸受を使用することが提案されている(特許文献1参照)。しかし、熱可塑性樹脂材料からなるすべり軸受は、軸受が(摺動)摩耗しやすく、高頻度で軸受の交換を行わなければならない等の維持管理性の課題がある。このような課題に対し、材質改良や構造改良により、耐摩耗性を高めることも種々提案されているが、セラミックスやメタル系の軸受と同等以上の耐摩耗性を確保するには至っていないのが現状である。
【0012】
また、オイルシールに漏れが生じた場合に、外気に曝されている予備オイルシールを押し込めて使用するように構成したものが提案されている(特許文献2参照)。しかし、特許文献2に記載の発明は、予備オイルシールが常に湿度の高いポンプ側近部に設けられており、経年劣化を起こしやすい状況にある。このため、使用している(機能させている)オイルシールが劣化した段階で、予備オイルシールも劣化を起こしている場合もあり、予備オイルシールの信頼性に課題がある。特に、ポンプ内部に設けられるポンプ用水中軸受においては、その設置環境(条件)の面で適用が困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記事情に鑑みて為されたもので、例えばオイルシールが経年劣化したときにオイルシールを容易且つ迅速に交換できるようにして、ポンプの信頼性、維持管理性及び環境性(軸受への外部流体浸入防止、外部への油脂流出防止)を向上させた水中軸受装置、及び該水中軸受装置を備えた横軸ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明は、斜流または軸流の横軸ポンプの主軸を回転自在に水中で支承する水中軸受装置であって、前記主軸との摺動面に潤滑油脂を介在させつつ該主軸を回転自在に支承する水中軸受と、前記水中軸受内の潤滑油脂の漏出を防止する油封部とを備え、前記油封部は、オイルシールと該オイルシールを内部に収納するオイルシールケースとを有し、
前記オイルシールケースは水平面に沿って分割可能に構成されており、前記主軸の外周面の前記オイルシールケースと対向する位置には、軸スリーブが固着されており、前記オイルシールケース内の油脂充填部には予備オイルシールが設置されて
おり、前記軸スリーブの前記油脂充填部と対向する位置には直径を小さくした凹環部が設けられており、前記オイルシールケース内には軸方向に移動可能に、かつ分割可能に構成された遊動リングが前記オイルシールに隣接されて配置されており、前記オイルシールは、前記オイルシールケースの水中軸受側の端部付近に設置された第1オイルシールと、前記オイルシールケースの反水中軸受側の端部付近に配置された第2オイルシールとを有し、前記油脂充填部及び前記凹環部は、前記第1オイルシールと前記第2オイルシールとの間に位置しており、前記予備オイルシールは、前記凹環部と対向する位置に設置されており、前記予備オイルシールのリップ先端部は前記軸スリーブの外周面と非接触であることを特徴とする水中軸受装置である。
【0016】
これにより、予備オイルシールを潤滑油脂中に浸漬させて予備オイルシールの錆等による劣化を防止しつつ、使用中のオイルシールが劣化した時に、劣化したオイルシールを劣化のない予備オイルシールに迅速且つ確実に取り替えることができる。しかも、他のポンプ用オイルシールの誤用(型式間違い)や、通常管理で懸念される予備品(オイルシール)の紛失や忘失を確実に防止することができる。
【0019】
オイルシールと接触する軸スリーブ(オイルシールスリーブ)は、外部流体(ポンプ取扱流体)からの異物の混入による壊食、オイルシールとの接触による摩耗、或いは外部流体の液質による腐食等を受け、接触表面が正常で無くなる場合がある。この場合、オイルシールのみを交換しても、所定のシール機能が確保されないため、軸スリーブも交換する必要があるが、本発明によれば、軸スリーブの接触表面が正常で無くなった時に、遊動リングとオイルシールとを互いに入れ替えることで、軸スリーブを交換することなく、容易に正常なスリーブ面で封油させ(オイルシールを設置し)、シール機能を確保することが可能となる。
【0021】
これにより、第2オイルシールに異常が生じ、外部流体がオイルシールケース内に流入した場合でも、第1オイルシールで外部流体が水中軸受の内部に流入することを防止することができる。
【0022】
請求項
2に記載の発明は、前記水中軸受の内部に潤滑油脂を供給する油脂供給口と、
前記油脂供給口に接続される送油脂管と、前記オイルシールケースの内部に流入した潤滑油脂を排出する油脂排出口と、
前記油脂排出口に接続される排油脂管と、前記油脂排出口より排出された潤滑油脂を貯留する排出油脂貯留槽と
、前記排出油脂貯留槽内に排出された排出油脂量を測量する測量器とを有し、前記送油脂管の一部と前記排油脂管の一部は、二重配管からなる1本の配管で構成されていることを特徴とする請求項
1に記載の水中軸受装置である。
【0023】
これにより、オイルシールケースの油脂排出口から排出され排出油脂貯留槽に貯留される排出油脂の性状や排出量を管理し、オイルシールの劣化状態を推測して、オイルシールを適時交換することができる。
【0024】
これにより、排出油脂貯留槽の内部に貯留された排油脂量を測量器で測量し、ポンプの運転時間と合わせた排油脂量の傾向管理を行うことで、オイルシールの劣化をより正確に管理・推測することができる。
【0026】
本発明の一参考例は、斜流または軸流の横軸ポンプの主軸を水中で回転自在に支承する水中軸受装置であって、主軸との摺動面に潤滑油脂を介在させつつ該主軸を回転自在に支承する水中軸受と、オイルシールと該オイルシールを内部に収納するオイルシールケースとを有し、前記水中軸受内の潤滑油脂の漏出を防止する油封部と、前記水中軸受内に潤滑油脂を供給する油脂供給口に接続される送油脂管と、前記オイルシールケース内に流入した潤滑油脂を排出する油脂排出口に接続される排油脂管とを備え、前記送油脂管の一部と前記排油脂管の一部は、二重配管からなる1本の配管で構成されていることを特徴とする水中軸受装置である。
【0027】
送油脂管の一部と排油脂管の一部を二重配管からなる1本の配管で構成することで、例えばポンプケーシングを貫通する配管部を1カ所で済まして配管部を少なくすることができる。これによって、ポンプの水頭損失を少なくして、ポンプ効率を向上させることができる。しかも、油脂循環型でない水中軸受装置を、ポンプケーシング等を改造することなく、油脂循環型の効果を有する水中軸受装置に容易に改造することができる。
【0028】
請求項
3に記載の発明は、請求項1
または2に記載の水中軸受装置を備えたことを特徴とする横軸ポンプである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、例えばオイルシールが経年劣化したときにオイルシールを容易且つ迅速に交換できるようにして、ポンプの信頼性、維持管理性及び環境性(軸受への外部流体浸入防止、外部への油脂流出防止)を向上させことができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を
図3乃至
図9を参照して説明する。以下の各実施形態において、水中軸受として、軸受材料にホワイトメタル(軸受合金)を使用した油潤滑式のすべり軸受を使用しているが、軸受材料として、ホワイトメタル以外の他のメタル系を使用しても良い。また水中軸受として、潤滑油脂を供給して潤滑させるようにした自己潤滑性軸受や特殊樹脂軸受を用いても良い。なお、
図3乃至
図9において、同一または相当部材には同一符号を付して重複した説明を省略する。
【0032】
図3は、本発明の第1の実施形態の水中軸受装置を有する横軸ポンプ(横軸斜流ポンプ)を備えたポンプ設備の全体構成図を示し、
図4は、
図3に示すポンプ設備に備えられている水中軸受装置の断面図を示す。
図3に示すように、ポンプ設備には、電動機、ディーゼルまたはガスタービンエンジン等の駆動機10、減速機12及び横軸ポンプ(横軸斜流ポンプ)14が備えられ、駆動機10の駆動軸16、減速機12の回転軸18及び横軸ポンプ14の主軸(ポンプ軸)20は、直列に連結されている。これによって、駆動機10の駆動に伴って、横軸ポンプ14の主軸20は減速されて回転する。
【0033】
横軸ポンプ14の主軸20は、ポンプケーシング24に設けた軸封装置22を通過してポンプケーシング24の内部に達しており、その両端において、ポンプケーシング24の外部に配置した外部軸受26とポンプケーシング24の内部に配置した水中軸受装置30によって、回転自在に支承されている。水中軸受装置30は、ガイドベーン32を介してポンプケーシング24に連結した軸受ケーシング34の内部に、軸受支え36を介して、固定されて配置されている。
【0034】
ポンプケーシング24の内部には、主軸20と一体に回転する羽根車38が収容されている。また、ポンプケーシング24の上端には、満水検知器40、吸気弁42及び電動機44で駆動する真空ポンプ46を備えた呼水ライン48が接続されている。そして、横軸ポンプ14の吸込管50は、吸込水槽52内に設置され、吐出管54は、水平に延びて、図示しない吐出水槽に達している。これにより、主軸20と一体に羽根車38を回転させることで、吸込水槽52内のポンプ取扱流体(外部流体)が揚水されて、吐出水槽内に順次揚水される。
【0035】
水中軸受装置30は、
図4に詳細に示すように、ホワイトメタルを軸受材料としたすべり軸受(水中軸受)60を有しており、このすべり軸受60は、主軸20の軸支部に固定した軸受スリーブ(軸スリーブ)62を包囲する位置に位置して、前述のように、軸受支え36を介して、軸受ケーシング34に固定されている。すべり軸受60には、油脂供給口60aが設けられ、油脂供給口60aを通して、すべり軸受60の内周面と軸受スリーブ62の外周面との間にグリース等の潤滑油脂が供給される。
【0036】
すべり軸受60の主軸20の端面側の一端には、すべり軸受60の開口端を閉塞する軸受カバー64が取り付けられ、他端には、外部からの浸水防止、及びすべり軸受60内に供給された潤滑油脂の漏出の防止を目的とする油封部66が備えられている。
【0037】
油封部66は、この例では、互いに所定間隔離間して、すべり軸受側の端部付近に配置された第1オイルシール68aと、反すべり軸受側の端部付近に配置された第2オイルシール68bとを有しており、この両オイルシール68a,68bは、オイルシールケース70の内部に収納されている。主軸20の外周面のオイルシールケース70と対向する位置には、オイルシールスリーブ(軸スリーブ)72が固着され、第1オイルシール68aと第2オイルシール68bのリップ先端部は、オイルシールスリーブ72の外周面と接触してシールするようになっている。
【0038】
オイルシールケース70の内周面には、内方に突出する凸状部70aが所定間隔離間して設けられ、この凸状部70aで挟まれた領域に、潤滑油脂を所定の圧力で充填させる油脂充填部70bが形成されている。両オイルシール68a,68bは、凸状部70aの外側にそれぞれ配置されている。油脂充填部70b内に位置して、この例では、軸方向に沿った左右2個づつの合計4個の予備オイルシール74が配置されている。オイルシールスリーブ72の油脂充填部70bと対向する位置には、予備オイルシール74のリップ先端部がオイルシールスリーブ72の外周面と接触して摩耗するのを防止するため、直径を小さくした凹環部72aが設けられている。なお、油脂充填部70b内に配置する予備オイルシール74の数は、任意に設定できることは勿論である。
【0039】
オイルシールケース70は、この例では、水平面に沿って上下に分割した、横断面半円状の上下2つ割り構造で、
図4に仮想線で示すフランジ70cが分割面に沿って水平に延びており、このフランジ70cをボルト・ナットで締結することで、略円筒状のオイルシールケース70が構成されるようになっている。そして、オイルシールケース70は、ボルト76によって、すべり軸受60の端面に固定され、更に、オイルシールケース70の反すべり軸受側端面には、オイルシール押え78がボルト(図示せず)によって固定されている。これによって、第1オイルシール68aは、すべり軸受60の端面とすべり軸受側の凸状部70aとの間に、スペーサ80aを介して、位置決めされて固定され、第2オイルシール68bは、反すべり軸受側の凸状部70aとオイルシール押え78との間に、スペーサ80bを介して、位置決めされて固定される。
【0040】
オイルシールケース70の下部には、油脂充填部70bに連通して、油脂充填部70b内に流入した潤滑油脂を外部に排出する油脂排出口70dが設けられている。
【0041】
この例の水中軸受装置30にあっては、現在使用している(機能させている)オイルシール68a,68bが劣化した時に、次のようにして、劣化したオイルシール68a,68bを劣化していない予備オイルシール74に取り替える。
【0042】
先ず、オイルシールケース70のフランジ70cを締結しているボルト・ナット、オイルシール押え78をオイルシールケース70に固定しているボルト、及びオイルシールケース70をすべり軸受60の端面に固定しているボルト76を外し、オイルシールケース70を分割して取り外す。次に、劣化したオイルシール68a,68bを切断して取り除いた後、予備オイルシール74をオイルシールスリーブ72に沿ってスライドさせて、劣化したオイルシール68a,68bが設置されていた位置に移動させる。しかる後、前述と逆の手順で、オイルシールケース70を取り付ける。
【0043】
なお、この例では、現在使用している(機能させている)オイルシール68a,68bの双方を、予備オイルシール74に同時に取り替えるようにしているが、現在使用している(機能させている)オイルシール68a,68bの一方のみを予備オイルシール74に取り替えるようにしても良い。
【0044】
この例の水中軸受装置30によれば、現在使用中のオイルシール68a,68bが劣化した時に、この劣化したオイルシール68a,68bを、劣化のない予備オイルシール74に迅速且つ確実に取り替えることができ、これによって、主軸20を水中軸受装置30で回転自在に支承した横軸ポンプ14の信頼性、維持管理性及び環境性(軸受への外部流体浸入防止、外部への油脂流出防止)を向上させることができる。
【0045】
しかも、消耗部品である予備オイルシール74を、オイルシールケース70内に配設することにより、他のポンプ用オイルシールとの誤用(型式間違い)や、通常管理で懸念される予備品(オイルシール)の紛失や忘失を確実に防止することができる。
【0046】
更に、オイルシールケース70内の潤滑油脂が充填された油脂充填部70bに予備オイルシール74を配置することにより、潤滑油脂で満たされた保管器等を新たに設けることなく、予備オイルシール74を潤滑油脂中に浸漬させながら保管する環境を確保することができ、これによって、予備オイルシール74の錆等による劣化を防止して予備オイルシール74の品質向上を図ることができる。
【0047】
図5は、本発明の第2の実施形態の水中軸受装置30aを示す断面図である。この例の水中軸受装置30aの第1の実施形態の水中軸受装置30と異なる点は、オイルシール68a,68bに隣接する位置、この例では、第1オイルシール68aとすべり軸受60の端面との間、及び第2オイルシール68bとオイルシール押え78との間に、スペーサ80a,80bの代わりに、オイルシールスリーブ72の外径より僅かに大きな内径を有する遊動リング82a,82bを設置した点にある。遊動リング82a,82bは、この例では、上下に分割した、半円状の2つ割り構造で、分割面を互いに当接させたことで、リング状の遊動リング82a,82bが構成されるようになっている。
【0048】
この例の水中軸受装置30aにあっては、オイルシールスリーブ72の現在使用している(機能させている)オイルシール68a,68bと接触している箇所が、壊食、摩耗または腐食した場合に、以下の手順で、オイルシール68a,68bと遊動リング82a,82bとを互いに入れ替える。
【0049】
先ず、前述と同様にして、オイルシールケース70を分割して取り外す。次に、遊動リング82a,82bを分割して取り外した後、オイルシール68a,68bをオイルシールスリーブ72に沿ってスライドさせて、遊動リング82a,82bが設置されていた位置まで移動させる。そして、遊動リング82a,82bを、オイルシール68a,68bが設置されていた場所に取り付け、しかる後、オイルシールケース70を取り付ける。
【0050】
オイルシール68a,68bと接触するオイルシールスリーブ72は、外部流体からの異物の混入による壊食、オイルシール68a,68bとの接触による摩耗、或いは外部流体の液質による腐食等を受け、接触表面が正常で無くなる場合がある。この例の水中軸受装置30aによれば、オイルシールスリーブ72のオイルシール68a,68bとの接触表面が正常で無くなった場合に、遊動リング82a,82bとオイルシール68a,68bとを互いに入れ替えることで、正常なスリーブ面で封油させる(オイルシール68a,68bのリップ先端部をオイルシールスリーブ72の外周面に接触させる)ことを容易に行って、信頼性及び維持管理時の作業性が高いポンプとすることができる。
【0051】
浸水被害を防止する排水(治水)ポンプ設備においては、経済的観点から、予備ポンプを設けない場合が大半であり、ポンプの維持管理作業(消耗部品の交換作業等)でのポンプの運転休止は、ポンプ設備としての排水能力低下となるため、極力短くすることが強く望まれている。また、近年の問題となっている、非出水期(季節外れ)の大雨やゲリラ豪雨などの対策としても、ポンプ設備の排水能力低下期間を極力短くすることが、排水設備としての信頼性向上に大きく寄与する。
【0052】
従来の一般的なポンプであれば、オイルシールと接触する軸スリーブに異常が生じた場合、オイルシールと共に軸スリーブの交換も必要となり、大がかりな作業・期間(手配を含む)が必要となるが、この例の水中軸受装置30aによれば、オイルシールスリーブ(軸スリーブ)72の交換を必要としないため、横軸ポンプ14の経済性や信頼性(排水機能停止期間の短縮)の向上に大きく貢献できる。
【0053】
図6は、本発明の第3の実施形態の水中軸受装置30bを示す断面図である。この例の水中軸受装置30bの第2の実施形態の水中軸受装置30aと異なる点は、互いに隣接する位置に設置されるオイルシール68a,68bと遊動リング82a,82bの位置関係を逆にした点にある。つまり、この例の水中軸受装置30bにあっては、遊動リング82aとすべり軸受60の端面との間に位置して第1オイルシール68aが設置され、遊動リング82bとオイルシール押え78との間に位置して第2オイルシール68bが設置されている。
【0054】
オイルシールスリーブ72は、オイルシール68a,68bとの接触により摩耗することが懸念されるとともに、特に、外部流体が海水等の腐食性の強い流体の場合や、シルト分が多い流体の場合は、オイルシールスリーブ72のオイルシール68bと接触している箇所に腐食・壊食が生じやすい。
【0055】
この例の水中軸受装置30bによれば、このような場合に、オイルシール68bの内側に遊動リング82bを設置することで、次のオイルシール交換時のシール面となる内側面に腐食性の強い流体が入り込まないようにすることができる。つまり、前述の第2の実施形態の水中軸受装置30aとほぼ同様な手順で、オイルシール68bと遊動リング82bとを互いに入れ替えた時のオイルシール68bが接触するオイルシールスリーブ72の表面の正常化(品質維持)を図ることができる。
【0056】
図7は、本発明の第4の実施形態の水中軸受装置30cを示す概要図である。この例の水中軸受装置30cは、第1の実施形態の水中軸受装置30に以下の構成を付加している。つまり、この例の水中軸受装置30cは、すべり軸受60の内部に供給する潤滑油脂を貯留する供給油脂貯留槽84と、この供給油脂貯留槽84とすべり軸受60の油脂供給口60aとを結ぶ送油脂管86に設置された、例えば、容積型グリースポンプから成る油脂供給装置88とを備えている。これにより、油脂供給装置88の駆動に伴って、供給油脂貯留槽84からすべり軸受60の内部に潤滑油脂が自動的に供給される。
【0057】
オイルシールケース70の油脂排出口70dは、排油脂管90の一端に接続され、排油脂管90の他端は、オイルシールケース70内に流入して油脂排出口70dから排出される潤滑油脂を貯留する排出油脂貯留槽92に接続されている。更に、排出油脂貯留槽92は、この内部に貯留された排油脂量を測量する測量器94が備えられ、この測量器94は、コンピュータ96等の記録装置に接続されている。
【0058】
このように、排出油脂貯留槽92を設けて、オイルシールケース70の油脂排出口70dから排出される潤滑油脂の性状や排出量を管理することで、オイルシール68a,68bの劣化状態を推測して、オイルシール68a,68bを適時交換することができ、これによって、横軸ポンプ14の維持管理性を向上させることができる。また、排出される潤滑油脂への金属粉の混入等を(目視)管理することにより、オイルケーススリーブ72の異常の感知も可能となる。
【0059】
また、潤滑油脂を循環させて回収することにより、潤滑油脂の外部流体(ポンプ取扱流体)への流出を防止し、環境性の良いポンプ設備とすることが可能となる。なお、回収した潤滑油脂は、循環再利用することなく廃棄処理することが好ましく、これにより、すべり軸受60の内部に常に正常な潤滑油脂を供給して、すべり軸受60を確実且つ正常に機能させることができる。
【0060】
潤滑油脂への異物混入は、すべり軸受60の損傷を引き起こし、横軸ポンプ14の異常振動、重大故障を誘引する原因の一つとなる。そのため、その原因を排除することは、ポンプ設備の信頼性の観点から重要である。
【0061】
特に、この例の水中軸受装置30cにあっては、第2オイルシール68bに異常が生じ、外部流体がオイルシールケース70内に流入した場合でも、第1オイルシール68aで外部流体がすべり軸受60の内部に流入することを防止することができる。しかも、オイルシールケース70の油脂排出口70dから排出される潤滑油脂の性状や排出量を管理することで、軸受スリーブ72に損傷を与える前に、オイルシール68a,68bの交換を行うことが可能となり、品質の良い(信頼性の高い)ポンプ設備とすることができる。
【0062】
なお、外部流体の圧力の方が、オイルケース70の油脂充填部70b内に充填される潤滑油脂の圧力より低い場合は、
図7に示すように、第1オイルシール68aと第2オイルシール68bを互いに対向するように配置することが好ましく、外部流体の圧力の方が、オイルケース70の油脂充填部70b内に充填される潤滑油脂の圧力より高い場合は、第1オイルシール68aと同じ方向にして、第2オイルシール68bを設置するようにしても良い。
【0063】
更に、この例の水中軸受装置30cにあっては、排出油脂貯留槽92の内部に貯留された排油脂量を測量器94で測量し、この測量値をコンピュータ96に入力して、横軸ポンプ14の運転時間と合わせた排油脂量の傾向管理を行い、オイルシール68a,68bの劣化を管理・推測するようにしている。これにより、より正確なオイルシール68a,68bの管理が可能となる。また、警報等を出すように構成することで、オイルシール68a,68bの交換忘れを防止して、ポンプ設備の信頼性を高めることができる。
【0064】
なお、この例では、第1の実施形態の水中軸受装置30に種々の構成を付加するようにしているが、第2の実施形態の水中軸受装置30aまたは第3の実施形態の水中軸受装置30bに前述と同様な種々の構成を付加するようにしてもよい。このことは、以下の第5の実施形態の水中軸受装置30dにあっても同様である。
【0065】
図8は、本発明の第5の実施形態の水中軸受装置を有する横軸ポンプ(横軸斜流ポンプ)を備えたポンプ設備の全体構成図を示し、
図9は、
図8に示すポンプ設備に備えられている水中軸受装置の概要図を示す。
図8に示すように、この例では、横軸ポンプ14のポンプケーシング24から軸受ケーシング34に跨って、二重配管98が配設されている。この二重配管98は、
図9に示すように、内部配管100と該内部配管100の周囲を囲繞する外部配管102とを有しており、内部配管100の内部に第1流路が、内部配管100と外部配管102との間に第2流路がそれぞれ形成されている。
【0066】
この例の水中軸受装置30dの第4の実施形態の水中軸受装置30cと異なる点は、内部配管100の内部に形成される第1流路を、供給油脂貯留槽84とすべり軸受60の油脂供給口60aとを結ぶ送油脂管86の一部に、内管100と外部配管102との間に形成される第2流路を、オイルシールケース70の油脂排出口70dと排出油脂貯留槽92とを結ぶ排油脂管90の一部にそれぞれ使用している点にある。
【0067】
油脂循環型の水中軸受装置を使用して主軸を回転自在に支承した従来の一般的なポンプにあっては、ポンプの外部に配置された油脂供給装置から軸受に潤滑油脂を供給し、軸受内の循環油脂をポンプの外部に排出するために、ポンプケーシングの2カ所に送油脂管と排油脂管を設ける必要があるが、この例の水中軸受装置30dによれば、ポンプケーシングを貫通する配管部を1カ所で済まして配管部を少なくすることができ、これによって、ポンプの水頭損失を少なくして、ポンプ効率を向上させることができる。
【0068】
また、油脂循環型でない水中軸受装置を使用して主軸を回転自在に支承した従来の一般的なポンプの場合、ポンプケーシングを貫通する配管は、送排油管用の1カ所しかなく、油脂循環型でない水中軸受装置を油脂循環型の水中軸受構造にするためには、ポンプケーシングの改造も含めた大がかりな改修が必要であったが、この例の水中軸受装置30dによれば、ポンプケーシングを改造することなく、ポンプケーシングの送排油管が通る既設の1箇所の貫通部を利用して、油脂循環型でない水中軸受装置を油脂循環型の効果を有する水中軸受装置に容易に改造することができ、これによって、より経済的に機能向上が図れるポンプとすることができる。
【0069】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。例えば、上記実施形態では、横軸ポンプとして、横軸斜流ポンプを使用しているが、軸流の横軸ポンプを使用しても良い。