(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の伸縮性不織布は、熱接着性繊維を含む繊維層(1)の少なくとも片面に、互いに異なる樹脂成分からなる複合繊維を含む繊維層(2)が積層され、該熱接着性繊維の熱接着により部分的に形成された熱接着部において両繊維層の繊維が圧着扁平化することなく両繊維層が一体化されており、該熱接着部の間において繊維層(1)が繊維層(1)側に突出した凸状構造を形成している。
【0013】
本発明の伸縮性不織布を、図面を用いて説明する。
図1は、熱収縮加工前の繊維層(1)と繊維層(2)の積層品の平面模式図である。また、
図2は、熱収縮加工前の繊維層(1)と繊維層(2)の積層品の断面模式図である。
図1および2において、3は熱接着部(熱接着繊維同士の交点が接着している部位)であり、4は熱接着部の間(熱接着繊維同士の交点が接着していない部位)を示す。
図2において、1は熱収縮加工前の繊維層(1)、2は熱収縮加工前の繊維層(2)、X
1−X
1’は不織布の断面箇所である。
【0014】
図3は、熱収縮加工後の繊維層(1)と繊維層(2)の積層品の平面模式図である。
図4は、熱収縮加工後の繊維層(1)と繊維層(2)の積層品の断面模式図である。
図3および4において、3は熱接着部(熱接着繊維同士の交点が接着している部位)であり、4’は熱収縮加工後の熱接着部の間(凸状構造形成部)である。
図4において、1’は熱収縮加工後の繊維層(1)、2’は熱収縮加工後の繊維層(2)、5は熱接合領域(繊維層(1)と繊維層(2)の界面における熱接合面)、X
2−X
2’は不織布の断面箇所、6は空間部である。
【0015】
図5は、熱収縮加工前における、熱収縮加工前積層品の繊維層(1)と繊維層(2)の凸凹差が無い例の模式図である。
図6は、熱収縮加工前における、積層品の繊維層(1)と繊維層(2)の凸凹差が僅かに有る例の模式図である。
図7は、熱収縮加工後における、積層品の繊維層(1)と繊維層(2)の凸凹差が顕著になった例の模式図である。
【0016】
本明細書において「熱接着部」とは、両繊維層が積層された繊維ウェブの任意の部分に熱風を通すことにより、繊維層(1)に含まれる熱接着性繊維を構成する低融点成分の溶融により、繊維層(1)を構成する繊維が、該繊維同士の交点や接触部分等で接着しているか、または繊維層(1)と(2)の界面において繊維層(1)を構成する繊維と繊維層(2)を構成する繊維が繊維同士の交点や接触部分等で接合している部分をいう。
【0017】
また、「両繊維層の繊維が圧着扁平化することなく両繊維層が一体化」しているとは、繊維層(1)および繊維層(2)の構成繊維が、繊維ウェッブの形態を保持したままで、当該繊維に含まれる低融点成分の溶融または軟化によって、繊維層(1)を構成する繊維が多数の繊維交点等で接着しているか、または繊維層(1)と(2)の界面において繊維層(1)を構成する繊維と繊維層(2)を構成する繊維が繊維同士の交点や接触部分等で多数接合している状態をいう。すなわち、エンボス圧着によりフィルム化されていない状態をいう。
【0018】
「熱接着部の間」とは、熱接着部以外の部分であり、繊維層(1)および繊維層(2)の構成繊維同士が熱接着されていない領域をいう。
【0019】
「凸状構造」とは、熱接着性繊維が熱接着して熱接着部が形成され、熱接着部が形成されていない部分(熱接着の間)において繊維層(2)が収縮することに伴い、繊維層(1)が繊維層(1)側に突出することにより形成される凸状形状の構造である。
【0020】
前記熱接着部の状態は、前記の従来技術にあるような熱エンボスロール等との接触によって加熱、加圧されて、その形状を扁平化し、低融点成分や高融点成分が溶融あるいは軟化して繊維同士が圧着接着するような状態とは相違する状態である。このことにより、本発明の伸縮性不織布は、嵩高で柔軟性が高く、通気性があり、MDおよびCDの方向に関係なく伸縮性を発揮することが出来る。
【0021】
本発明の伸縮性不織布に形成されている熱接着部は、俯瞰的に見た場合、規則的に分布しており、一定のパターンを有している場合が多い。同様なことは、不織布の厚み方向についても言うことができる。熱接着部においては、熱接着性繊維同士の繊維交点が熱接着している。
【0022】
熱接着性繊維と非熱接着性繊維の繊維交点は、使用される繊維の種類によって熱接着されている場合もあり、そうでない場合もある。しかし、不織布としての強度を維持するためには、熱接着部における繊維交点の大部分は熱接着されていることが好ましい。そのため、繊維層(1)に混綿される非熱接着性繊維の量を制限することが好ましい。繊維層(1)に混綿される非熱接着性繊維の量は50質量%未満が好ましく、30質量%未満がより好ましい。
【0023】
本発明の伸縮性不織布の表面における熱接合領域の形状は、熱接着性繊維を含む繊維ウェッブを熱風が通過する方法に依存され、特に制限されず、長方形および菱型等でもよいが、好ましくは円形である。さらに好ましくは、不織布強力が向上するように繊維流れ方向に対して直角方向に長径を持つ楕円形状である。
【0024】
本発明の伸縮性不織布の表面における熱接着部の総面積率は、60%以下が好ましく、10〜40%がより好ましい。この範囲とすることで、不織布強度を維持することができる。
【0025】
本発明の伸縮性不織布の表面における熱接着部の大きさは、加工法を考慮しなければならないが、円形の場合、直径1〜4mm程度が好ましい。また、その配置は千鳥模様が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0026】
凸状構造の長さ(以下、「凹凸厚み差」および「凹凸度」ともいう)は、
図5〜7におけるaとbの長さの差(a−b)をいう。凹凸厚み差は後述する実施例の方法により測定する。凹凸厚み差は、意匠性の観点からは、特に限定されるものではないが伸張、伸縮、風合いの観点から、0.1〜5.0mmであることが好ましく、0.3〜3.0mmであることがより好ましい。
【0027】
凹凸の比率(
図5〜7におけるaとbとの比=a/b)は、伸張、伸縮、風合いの観点から、1.0〜5.0であることが好ましく、1.5〜3.5であることがより好ましい。
【0028】
本発明の伸縮性繊維における凸状構造の個数は、特に限定されるものではないが、少なくとも、接着部の間に1つ隆起をもつ。
【0029】
本発明の伸縮性不織布の目付は、構成繊維の繊維径にもよるが、20〜200g/m
2が好ましく、より好ましくは、30〜150g/m
2であり、さらに好ましくは50〜100g/m
2である。
【0030】
目付を20g/m
2以上とすることにより、取り扱いが非常に容易になり、また不織布の強度も向上し、実用性に富んだ不織布となる。また、目付を200g/m
2以下とすることにより、不織布の構成繊維の密度が下がるために熱接着部の間の部分でも繊維の自由度が増し、加工適正も向上し、柔軟性が高まる。また、吸収性物品に用いるには、低コスト軽量化の点でも有効である。
【0031】
本発明の伸縮性不織布の厚みは、伸張、伸縮、風合いの観点から、1.0〜5.0mmであることが好ましく、1.5〜4.0mmであることがより好ましく、2.0〜3.0mmであることが特に好ましい。
【0032】
[繊維層(1)]
繊維層(1)の収縮率は、繊維層(2)の収縮率よりも、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上低い収縮率となることが好ましい。収縮率は後述する実施例の方法により測定することができる。繊維層(1)と繊維層(2)の収縮率の差(繊維層(2)の収縮率―繊維層(1)の収縮率)を30%以上とすることにより、後に形成される表面凹凸形状が大きく、不織布の嵩を増すことができ好ましい。
【0033】
繊維層(1)に含まれる熱接着性繊維は、繊維層(2)を構成する複合繊維よりも螺旋捲縮の発現性が劣る潜在捲縮性複合繊維、または、螺旋捲縮を発現しない非潜在捲縮性複合繊維もしくは単一成分繊維であることが好ましい。このことにより、繊維層(1)の収縮率を、繊維層(2)の収縮率よりも、好ましくは30%以上低く抑えることができる。
【0034】
繊維層(1)に含まれる熱接着性繊維は、潜在捲縮性複合繊維であることが好ましい。繊維層(1)に含まれる熱接着性繊維が潜在捲縮性複合繊維であると、繊維層(1)が突出して形成される凸状部が、その凸状構造自体に由来する伸びしろに加えて、前処理加工工程及び/または収縮加工工程で発現する螺旋捲縮に由来した伸びしろ(伸張性)をも併せ持つこととなり、不織布の柔軟性、伸縮性は、更に好ましいものとなりうる。また繊維層(1)の突出部の伸びしろと繊維層(2)の螺旋捲縮の伸張性により、不織布に伸縮性を与えることが出来る。
【0035】
繊維層(1)の熱接着性繊維に用いる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステルおよびポリアミドなどが挙げられる。繊維層(1)を構成する熱接着性繊維は、互いに異なる樹脂成分からなる複合繊維であってもよい。
【0036】
繊維層(1)に含まれる熱接着性繊維としては、低融点成分と高融点成分の組み合わせが好ましい。低融点成分/高融点成分としては、具体的には、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリプロピレンコポリマー/ポリプロピレンホモポリマーおよびポリエチレン/ポリエチレンテレフタレートが例示できるが、これに限定されない。
【0037】
ポリエチレンには、ポリエチレンホモポリマー、エチレンとプロピレンまたは他のオレフィンとのコポリマー、およびエチレンとその他の共重合成分とのコポリマーが含まれる。また、ポリプロピレンには、ポリプロピレンホモポリマー、プロピレンとエチレンまたは他のオレフィンとのコポリマー、プロピレンとその他の成分との共重合体が含まれる。また、ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート、並びにそれらの共重合体が挙げられる。
【0038】
低融点成分は高融点成分の融点よりも10℃以上低い融点であることが好ましい。特に繊維層(1)を構成する熱接着性繊維が複合繊維である場合には、該複合繊維の低融点成分の融点が相応に低いと、該低融点成分による熱接着性を利用し、前処理加工で加熱によって両層を熱接着一体化する場合に、加熱が低温で済む。このことにより、繊維層(2)を構成する複合繊維における螺旋捲縮の発現を不活発化することができる。それにより、繊維層(2)の収縮挙動が抑制される結果、両層間に十分な熱接着が形成されるに十分な保持時間が両層の接触面に担保されうる。こうして、強固な接着一体化が達成される。
【0039】
繊維層(1)に含まれる熱接着性繊維が、低融点成分と高融点成分で構成される場合、複合繊維の長さと直交する方向における繊維断面に占める容積比(低融点成分/高融点成分)は、10/90〜90/10であるのが好ましく、40/60〜60/40であるのが更に好ましい。
【0040】
また、繊維層(1)に含まれる熱接着性繊維は、少なくともその繊維表面にエラストマー成分を構成成分として含むことが好ましい。このことにより、繊維層(1)内の繊維同士の接点、および、繊維層(1)を構成する繊維と繊維層(2)を構成する複合繊維との接点が、該エラストマー成分を介して熱接着されることとなる。それにより、その熱接着点は弾性を帯び、不織布に加えられる張力等に伴う変形に対する緩衝効果を有する結果、不織布に柔軟性・伸縮性が醸し出されると共に、エラストマー成分の持つ粘着性によって接着点の接着強度が補強される結果、層間の剥離強力も高いものとなる。
【0041】
前記エラストマー成分としては、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマーおよびウレタン系エラストマー並びにこれらの混合物などを挙げることができる。
【0042】
繊維層(1)には、本願発明の効果を妨げない範囲で、木質繊維、天然繊維、レーヨンおよびアセテートなどの化学繊維、並びにポリエステル、アクリル(ポリアクリロニトリル系)およびナイロン、ポリ塩化ビニルなどの合成繊維が混綿されていてもよい。
【0043】
繊維層(1)に用いる繊維の繊度は1.0〜11dtexが好ましく、1.5〜5.5dtexがより好ましい。また、繊維層(1)に用いる繊維は、連続繊維(長繊維)および短繊維のいずれであってもよいが、短繊維であるのが好ましい。また、繊維層(1)に用いる繊維の繊維長は10〜120mmが好ましく、30〜60mmでが好ましい。
【0044】
繊維層(1)に用いる繊維は、凸状構造の形成を容易にするために繊維剛性を低くする方が有効であり、また不織布の柔軟性を考えた場合、繊度は比較的小さいものを選択することが望ましい。
【0045】
繊維層(1)に含まれる繊維が複合繊維である場合、その断面形状としては、特に限定されないが、例えば、同心鞘芯型、偏心鞘芯型および並列型等が挙げられる。中でも偏心鞘芯型および並列型が好ましく、並列型が特に好ましい。断面形状が並列型である複合繊維を用いることで、高い潜在捲縮性の繊維が得られるからである。
【0046】
繊維層(1)の目付は、構成繊維の繊維径にもよるが、5〜30g/m
2が好ましく、10〜20g/m
2がより好ましい。
【0047】
[繊維層(2)]
繊維層(2)は、互いに異なる樹脂成分からなる複合繊維を含む繊維層である。該複合繊維は、螺旋捲縮を発現しうる複合繊維であることが好ましく、潜在捲縮性複合繊維であることがより好ましい。
【0048】
前記潜在捲縮性複合繊維は、110℃の熱処理において螺旋捲縮を発現することが好ましい。当該螺旋捲縮の発現に伴う繊維層(2)の見掛け上の収縮率は、40%以上であるのが好ましく、60%以上がより好ましい。
【0049】
前記収縮率を40%以上とすることにより、十分な収縮力が得られ、繊維層(1)を突出させることが困難となるのを防ぐ。また、螺旋捲縮の発現が十分となり、繊維層(2)の伸張性が低下するのを防ぐ。上限については特に規制は無いが、80%未満とすることにより、十分な製品の寸法安定性が得られる。
【0050】
繊維層(2)に含まれる複合繊維に使用される樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステルおよびポリアミドなどが挙げられる。
【0051】
繊維層(2)に含まれる複合繊維を構成する互いに異なる樹脂成分しては、低融点成分と高融点成分の組み合わせが例示できる。低融点成分は高融点成分の融点よりも10℃以上低い融点であることが好ましい。
【0052】
低融点成分/高融点成分としては、具体的には、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリプロピレンコポリマー/ポリプロピレンホモポリマーおよびポリエチレン/ポリエチレンテレフタレートが例示できるが、これに限定されない。
【0053】
ポリエチレンには、ポリエチレンホモポリマー、エチレンとプロピレンまたは他のオレフィンとのコポリマー、およびエチレンとその他の共重合成分とのコポリマーが含まれる。また、ポリプロピレンには、ポリプロピレンホモポリマー、プロピレンとエチレンまたは他のオレフィンとのコポリマー、プロピレンとその他の成分との共重合体が含まれる。また、ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート、並びにそれらの共重合体が挙げられる。
【0054】
繊維層(2)に含まれる複合繊維が、低融点成分と高融点成分で構成される場合、複合繊維の長さと直交する方向における繊維断面に占める容積比(低融点成分/高融点成分)は、10/90〜90/10であるのが好ましく、40/60〜60/40であるのが更に好ましい。
【0055】
繊維層(2)に含まれる複合繊維はエラストマー成分を含んでいてもよい。エラストマー成分としては、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマーおよびウレタン系エラストマー並びにこれらの混合物などを挙げることができる。
【0056】
繊維層(2)には、本願発明の効果を妨げない範囲で、木質繊維、天然繊維、レーヨンおよびアセテートなどの化学繊維、並びにポリエステル、アクリル(ポリアクリロニトリル系)およびナイロン、ポリ塩化ビニルなどの合成繊維が混綿されていてもよい。
【0057】
繊維層(2)に用いる繊維の繊度は1.0〜11dtexが好ましく、1.5〜5.5dtexがより好ましい。また、繊維層(2)に用いる繊維は、連続繊維(長繊維)および短繊維のいずれであってもよいが、短繊維であるのが好ましい。また、繊維層(2)に用いる繊維の繊維長は10〜120mmが好ましく、30〜60mmがより好ましい。
【0058】
繊維層(2)に含まれる複合繊維の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、同心鞘芯型、偏心鞘芯型および並列型等が挙げられる。中でも偏心鞘芯型および並列型が好ましく、偏心鞘芯型および並列型が特に好ましい。断面形状が偏心鞘芯型および並列型である複合繊維を用いることで、高い螺旋捲縮性を発現するからである。
【0059】
繊維層(2)の目付は、構成繊維の繊維径にもよるが、5〜50g/m
2が好ましく、10〜30g/m
2がより好ましい。
【0060】
繊維層(2)と繊維層(1)の目付の比率は60:40〜10:90が好ましく、50:50〜30:70がより好ましい。繊維層(1)の比率を前記範囲以下とすることにより、繊維層(2)に含まれる繊維の螺旋捲縮の発現に伴い、十分に繊維層(2)が収縮し、十分に繊維層(1)を突出させることができる。また繊維層(2)の比率を前記範囲以下とすることにより、製品の寸法安定性を十分に維持することができる。
【0061】
[製造方法]
本発明の伸縮性不織布は、熱接着性繊維を含む繊維層(1)の少なくとも片面に、互いに異なる樹脂成分からなる複合繊維を含む繊維層(2)を積層し、両繊維層の繊維を圧着扁平化することなく両繊維層を熱接着によって部分的に一体化し、熱接着部の間において繊維層(1)側に繊維層(1)を突出させて凸状構造を形成させることにより製造する。
【0062】
具体的には、螺旋捲縮を発現しうる複合繊維を含む繊維層(2)と、繊維層(2)に含まれる複合繊維に比べて、螺旋捲縮を発現する能力に劣るか、または、螺旋捲縮を発現しない熱接着性繊維を含む繊維層(1)とを積層して、圧着扁平化することなく部分的に接着することにより一体化(以降「前処理加工」と記す場合がある。)する。
【0063】
更に得られた不織布の全表面を対象に再び熱処理することによって、繊維層(2)に用いた繊維の螺旋捲縮の発現に起因する収縮により、前記部分的に形成された接着部の間に、繊維層(1)が、繊維層(1)側の不織布表面に突出して凸状を形成(以降「収縮加工」と記す場合がある。)する。
【0064】
(積層方法)
各繊維層は、それぞれの構成繊維間が一体化処理されていないウェブの状態で積層することが好ましい。ウェブ化の方法としては、特に限定されず、例えば、カーディング法およびエアレイド法が挙げられる。凸部構造を形成させる点でカーディング法が好ましい。
【0065】
各繊維層における繊維の分散状態は特に限定されず、繊維が一方向に配列していても、ランダムに分散されていてもよいが、MDおよびCDの方向に関係なく全方向に伸縮させる観点から、ランダムに分散されていることが好ましい。
【0066】
ここで言う「ランダム」とは、ウェブを形成する繊維の並びを示し、繊維の配列性の低いものを言う。カード機のメタリックワイヤーなどで、カーディングを行う場合、各ローラーの速度比によって繊維の配列のランダム性を制御することなども一般に行われているが、このような方法で得られる、繊維の一方向への配列が緩んだ状態もまた、本明細書における「ランダム」の範疇である。
【0067】
両繊維層を積層する際に、両層の繊維の配列状態の関係は特に限定されず、両層の繊維が共に略同一方向に配列するように積層してもよく、そうでなくてもよい。MDおよびCDの方向に関係なく全方向に伸縮させる観点から、両繊維層ともにランダムに配列するように積層するのが好ましい。
【0068】
(一体化方法)
前処理加工工程の、繊維層(1)と繊維層(2)を圧着扁平化することなく部分的に一体化する手法としては、例えば、一般的な熱風循環式スルーエアー装置の搬送コンベアーと任意のパンチングを施したステンレスベルト(以降パンチングベルトと記す)の間に積層不織布を挟み、これに熱風をあてて、熱風をパンチング部分(開口部)のみ貫通させることによって(後に「熱接着部となる部位」)、両層を一体化する方法等を挙げることができる。パンチングベルトの替わりに開孔を施したローラーを用いて熱風を貫通させてもよい。
【0069】
以降、このように、スルーエアー装置を使って行う前処理加工を、特に「ポイントスルーエアー加工」と言う場合がある。また、以降においては、ポイントスルーエアー加工を行う場合を中心に前処理加工工程の具体的な方法を紹介するが、前処理加工は、このポイントスルーエアー加工に限定されるものではない。
【0070】
ポイントスルーエアー加工は、実際には、パンチングベルトの開孔を通過した熱風が、パンチングベルトのボディと不織布との間に潜り込まない程度に、パンチングベルトを不織布に密着させて行う。このとき、パンチングベルトと密着する不織布の部位には、該不織布中の繊維が扁平化しない程度にパンチングベルト本体の自重またはパンチングベルトを介して押圧が掛かっていてもよい。これらの自重または押圧によっても、ポイントスルーエアー加工時における繊維層(2)を構成する繊維の捲縮を発現する動きが抑制されうる。
【0071】
しかし、ポイントスルーエアー加工によって熱風が当たる部位における繊維層(2)を構成する複合繊維の捲縮は、完全に抑制されているというわけではなく、熱風に当たっていない部位に比べて、弱いながら捲縮が発現していると思われる。
【0072】
繊維層(2)の前記捲縮によって、繊維層(1)が全体的に上方へやや持ち上げられる結果となり、熱風がパンチングベルトによって遮られていた部位(後に「熱接合領域間を形成する領域(B)」となる)において、繊維層(1)と、捲縮が発現していない繊維層(2)との間に僅かな空間部が形成されるものと考えられる。
【0073】
ポイントスルーエアー加工は、繊維層(2)に含まれる複合繊維の螺旋捲縮発現が不活発であり、かつ、該複合繊維の低融点成分が熱溶融しない温度であって、且つ、繊維層(1)に含まれる繊維において、該複合繊維の少なくとも繊維表面を形成する低融点成分が、熱接着に関与しうる程度に溶融または軟化するような温度条件で実施することが好ましい。
【0074】
繊維層(2)の低融点成分が溶融する温度でポイントスルーエアー加工すると、熱風が貫通した部位、即ちポイント接着される部分の熱溶融が進行し過ぎて硬くなり風合いを損なう。また、繊維層(2)の収縮が高くなり不織布に引きつりが生じ、地合いが乱れる。この為、繊維層(2)の螺旋捲縮の発現が活発化しないような温度で熱接着に関与しうる成分を繊維層(1)の低融点成分として選択することが重要となる。
【0075】
繊維層(1)の低融点成分としては、例えばLDPEおよびL−LDPEなどが挙げられる。繊維層(1)の低融点成分の融点は、70℃以上125℃以下が好ましく、90℃以上110℃以下がより好ましい。
【0076】
繊維層(2)の低融点成分としては、例えば、プロピレン共重合体およびエチレン共重合体が好適に挙げられ、特にエチレン−プロピレン共重合体が好ましい。繊維層(2)の低融点成分の融点は繊維層(1)の低融点成分の融点より高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましく、かつ、低融点成分の融点の温度範囲は120〜150℃が好ましく、130〜140℃がより好ましい。
【0077】
(収縮加工)
収縮加工には、一般的な熱風循環式スルーエアー装置が使用できる。収縮加工における加工温度は、本願発明の構造を有する不織布が得られる限り、ポイントスルーエアー時の加工温度より高くとも、同じであっても、また低くてもよい。好ましくは100℃以上130℃以下の範囲である。
【0078】
ポイントスルーエアー加工後に不織布表面全面に均等に熱風を吹き付けて行う収縮加工工程において、その熱風の温度が、ポイントスルーエアー加工時の熱風の温度と同じかそれより高い場合であっても、上記ポイントスルーエアー加工時に熱風が遮られていた部位の繊維層(1)と繊維層(2)とが、繊維層(1)を構成する繊維の熱接着によってあらためて一体化されるという現象は見られない。
【0079】
前述のとおり、ポイントスルーエアー加工時に、前記熱風が遮られていた部位において、当該部位の繊維層(1)と繊維層(2)の間に形成されると考えられる空間部が、両層の接触を阻む効果を生み、両層の接着一体化を阻止する機能を果たしているものと思われる。これにより、ポイントスルーエアー加工時において熱風が遮られていた部位の繊維層(1)の繊維は、繊維層(2)とは、独立した動きをとりうる。
【0080】
その結果、繊維層(1)の繊維は、繊維層(2)の繊維の強い捲縮の発現に伴う繊維層(2)の収縮による応力を受けると、該収縮に追随できずに、繊維層(1)の繊維間が該繊維の接着成分の熱溶融または熱軟化によって接着されながら、繊維層(2)とは独立して、繊維層(1)側の不織布表面に突出して凸状を形成するものと考えられる。
【0081】
また、収縮加工時の温度条件が、ポイントスルーエアー加工時の熱風の温度と同じかそれより高い場合であっても、ポイントスルーエアー加工時に熱風が遮られていた不織布の部位で繊維層(1)と繊維層(2)とが熱接着一体化しない別の理由としては、収縮加工時の繊維層(2)を構成する繊維の捲縮性が十分大きいために、捲縮発現に伴う繊維層(2)の繊維の動きに、繊維層(1)の繊維の熱溶融または熱軟化による繊維層(2)を構成する複合繊維との熱接着の形成が追いつかないことも一因と考えられる。
【0082】
さらに、繊維層(1)を構成する繊維が並列型構造を有する複合繊維である場合には、熱接着に関与しない高融点成分が繊維表面の有効量を占めることとなり、全体として、熱接着に関与しうる低融点成分の熱接着に関与する機会が減少する結果、繊維層(1)と繊維層(2)の熱接着ポイントの絶対量が減少してしまうことも一因と考えられる。
【0083】
ポイントスルーエアー加工は、2層のウェブを圧着扁平化させること無く接着させることにあるが、この方法を経て得られた本発明の伸縮性不織布は熱風が当てられた部位と熱風が遮られた部位との境界における熱接着部と熱接着部の間との接着状態の臨界が明確なものとなりやすい。
【0084】
このため、熱風が遮られた部位において、収縮加工工程での繊維層(2)で発生する収縮による応力の伝播は、熱風が当てられた部位との臨界まで、大きく損なわれることなく一様に伝わりやすい。
【0085】
そして、熱風が当てられた部位との臨界で、その応力の伝播が堰きとめられる結果、応力伝播はその勢いのまま繊維層(1)の凸状形成へと展開するものと考えられる。このため、その境界部において、凸状構造は急角度で立ち上がる傾向があり、よって、特に面ファスナー部材として用いた場合には、凸状構造による引っかかりが良く、好ましいものとなる。
【0086】
一方、同じ2層を一体化させる手法として、熱エンボス加工による圧着方法が一般に採用されるが、こちらは、エンボスロールの凸部による圧接によって、圧接されなかった部位(凸部)の繊維層は、圧接部(フィルム化された凹部)との境界に形成される勾配面において、圧接力により引っ張られ緊張状態で固定されている。また、圧接された部位と圧接されなかった部位の境界近傍(特に勾配面)は、圧接部中央に比べて、不完全な熱接着状態が形成されやすい。
【0087】
このため、圧接されていない部位の繊維層(2)が、引き続き実施される収縮工程において収縮しても、該収縮による応力は、繊維層(1)の勾配面に存在する繊維の緊張緩和に消費・吸収されるとともに、特に非圧接部から圧接部へと向かう勾配面における熱接着状況の緩やかな推移のために、繊維層(2)の収縮に伴う応力は、特にこの勾配面で分散されてしまうものと思われる。
【0088】
このため、非熱接合領域において、繊維層(2)の収縮に伴う応力によって繊維層(1)側表面に形成される繊維層(1)による凸部は、熱圧接部の近傍において、不明瞭な起点をもとに緩やかな角度で立ち上がる傾向がある。
【0089】
したがって、その構造ゆえに、面ファスナー部材として使用した場合、引っかかりにくく、充分なファスナー性が得られにくい。また、本発明が有する伸縮性、柔軟性を有する不織布とは、風合い、物性の異なる物となる。
【0090】
また、熱エンボス加工部は、繊維間空隙が潰されてしまうため、不織布全体としての、通気度が大きく損なわれるが、本発明の伸縮性不織布における熱接着部では、繊維間がその交点において接着しているのみであるため、空隙が損なわれず、良好な通気度を維持できるという特徴を持つ。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定される物ではない。
【0092】
[測定方法]
各実施例及び比較例で製造した伸縮性積層シートは以下の測定方法により評価した。
【0093】
<収縮率測定法>
(イ)繊維層(1)及び繊維層(2)
熱処理前のサンプルをMD方向3箇所(中央、両端を測定)の長さを測定し、その平均を(A)値とした。次いで、熱処理後についても同様箇所の長さを測定しその平均を(B)値とし、以下の式により収縮率とした。CD方向についても同様の測定方法にて収縮率求めた。
収縮率(%)=((A)−(B))/(A)×100
【0094】
(ロ)不織布
不織布を25×25cm、面積625cm
2に切り出し、熱処理後のこの不織布の面積を算出して(C)値とし、以下の式により収縮率を求めた。
収縮率(%)=((625)−(C))/(625)×100
【0095】
<伸張性・柔軟性評価法>
島津製作所「オートグラフAG500D」を用いて、試験速度100m/minの速度で試料長100mmから50%伸張後、試料長まで戻し、再度50%伸張時の荷重を初回と再回の2点10%、20%、30%、40%、50%の強度を測定し、強度を縦軸に歪を横軸にとったグラフ(S−Sカーブ)とした。
初回の荷重と再回の荷重の差が大きい程、伸張性が低い。また、伸張と加重のグラフにおいて、傾きが高いほど柔軟性が低いと判断した。
【0096】
<凹凸度評価法>
不織布の凸部の中心を通るように垂直に切断し、その断面をKEYENCE社製 デジタルマイクロスコープ「VHX−900」を用いて、その凹部と凸部の厚みを測定し、その差について10ヶ所の平均を求めた。
【0097】
[実施例1]
融点160℃のポリプロピレンと融点130℃のエチレン-プロピレン共重合体からなる並列型複合繊維(容積比:50/50)を用いて、目付10g/m
2の繊維層(2)をカーディング法にて作成した。繊維層(2)の収縮率は70%であった。
【0098】
融点160℃のポリプロピレンと融点100℃のL−LDPEからなる同心鞘芯型複合繊維(容積比:50/50)を用いて、目付10g/m
2の繊維層(1)をカーディング法にて作成した。繊維層(1)の収縮率は5%であった。
【0099】
各繊維層の機械方向が同一方向となるように、繊維層(2)の上に繊維層(1)を積層し、2層ウェブを作成した。得られた2層ウェブ上に直径3mmの丸穴がピッチ5mm間隔で千鳥状に開口したパンチング板(開孔率32.6%)を乗せ、熱風循環式スルーエアー機(壽工業社製)に加工温度120℃にて、10秒間、ポイントスルーエアー加工を行った。この時の収縮率はMDで7%、CD3%であった。
【0100】
次いで、パンチング板を外し、再度熱風循環式スルーエアー機に加工温度120℃にて、10秒間熱処理したところ、収縮率67%である伸縮不織布が得られた。この伸縮性不織布の物性等を表1に示す。
【0101】
[実施例2]
融点160℃のポリプロピレンと融点130℃のエチレン-プロピレン共重合体からなる並列型複合繊維(容積比:50/50)を用いて、目付20g/m
2の繊維層(2)をカーディング法にて作成した。繊維層(2)の収縮率は70%であった。
【0102】
融点160℃のポリプロピレンと融点100℃のL−LDPEからなる同心鞘芯型複合繊維(容積比:40/60)にレーヨンを10%混綿した目付10g/m
2の繊維層(1)をカーディング法により作成した。繊維層(1)の収縮率は0%であった。
【0103】
各繊維層の機械方向が同一方向となるように、繊維層(2)の上に繊維層(1)を積層し、2層ウェブを作成した。得られた2層ウェブを、実施例1と同様に、ポイントスルーエアー加工した。この時の収縮率はMDで5%、CD3%であった。
【0104】
次いで、パンチング板を外し、再度熱風循環式スルーエアー機に加工温度120℃にて、10秒間、熱処理したところ、収縮率62%収縮である伸縮不織布が得られた。得られた伸縮性不織布の物性等を表1に示す。
【0105】
[比較例1]
融点160℃のポリプロピレンと融点130℃のエチレン-プロピレン共重合体からなる、並列型複合繊維(容積比:50/50)を用いて、目付10g/m
2の繊維層(2)をカーディング法にて作成した。繊維層(2)70%であった。
【0106】
融点160℃のポリプロピレンと融点100℃のL−LDPEからなる同心鞘芯型複合繊維(容積比:50/50)を用いて、目付10g/m
2の繊維層(1)をカーディング法にて作成した、繊維層(1)の収縮率は5%であった。
【0107】
各繊維層の機械方向が同一方向となるように、繊維層(2)の上に繊維層(1)を積層し、2層ウェブを作成した。この2層ウェブを面積率15%の加熱エンボス(加工温度95℃)にて熱圧着して不織布を得た。この不織布の収縮率はMDで40%、CD26%であった。得られた不織布の物性等を表1に示す。
【0108】
[比較例2]
融点160℃のポリプロピレンと融点130℃のエチレン-プロピレン共重合体からなる並列型複合繊維(容積比:50/50)を用いて、目付80g/m
2のウェブをカーディング法にて作製した。このウェブを、ウォータージェット加工機(大昌鉄工社製)により、7.84Mpaのジェット水流をあて、交絡させた後、120℃の熱風循環式スルーエアー機(壽工業社製)にて、乾燥、収縮処理して不織布を得た。この不織布の収縮率はMD22%、CD9.4%であった。得られた不織布の物性等を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示すように、ポイントスルーエアー加工によって製造した実施例1および2の不織布は、熱接着性繊維の熱接着により部分的に形成された熱接着部において両繊維層の繊維が圧着扁平化することなく両繊維層が一体化されており、繊維間がその交点において接着しているのみであるため、柔軟性が高く、伸張性に跳んだ風合いの良い不織布であった。また、実施例2の不織布は、レーヨン混綿の効果により液の吸収性を示す伸縮嵩高性の不織布となった。
【0111】
一方、熱エンボス加工によって製造した比較例1の不織布は、熱接着部が圧着扁平化され潰されてしまい通気度が大きく損なわれた。また、熱接着部の間も熱ロール間空壁により潰されてしまい、嵩高性、柔軟性共に劣り、伸縮性が低いものとなった。また、ウォータージェット加工により製造した比較例2の不織布は、繊維をジェット水流にて交絡することで両繊維層の繊維が絡み合いにより一体化しており、柔軟性は良いが、嵩高性及び伸縮性は非常に劣る物であった。