特許第5704039号(P5704039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5704039
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】貼り合わせSOIウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20150402BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20150402BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20150402BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   H01L27/12 B
   H01L21/265 Q
   H01L21/20
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-221872(P2011-221872)
(22)【出願日】2011年10月6日
(65)【公開番号】特開2013-84663(P2013-84663A)
(43)【公開日】2013年5月9日
【審査請求日】2013年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 徳弘
(72)【発明者】
【氏名】阿賀 浩司
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−509836(JP,A)
【文献】 特開2009−032972(JP,A)
【文献】 特開平05−211128(JP,A)
【文献】 特開平11−307472(JP,A)
【文献】 特開2000−124092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/20
H01L 21/265
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶からなるボンドウェーハの表面から水素イオン、希ガスイオンの少なくとも一種類のガスイオンをイオン注入して前記ボンドウェーハ内部にイオン注入層を形成し、前記ボンドウェーハのイオン注入された側の表面とベースウェーハの表面とを絶縁膜を介して貼り合わせた後、前記ボンドウェーハの一部を前記イオン注入層で剥離して、前記ベースウェーハ上に前記ボンドウェーハの薄膜からなるSOI層を有する貼り合わせSOIウェーハを作製し、その後、前記剥離面を平坦化する平坦化処理を行う貼り合わせSOIウェーハの製造方法であって、
前記剥離後の貼り合わせSOIウェーハに対し、前記SOI層表面の周辺部の自然酸化膜が除去され、中央部の自然酸化膜が残存するように、水素ガスを含む雰囲気でRTA処理を行い、前記中央部に自然酸化膜が残存した貼り合わせSOIウェーハに対し、前記SOI層の面内膜厚レンジが1.5nm以下となるように前記平坦化処理を行い、
前記RTA処理の条件は、前記平坦化処理後の前記SOI層の面内膜厚レンジが1.5nm以下となるように、前記平坦化処理における前記SOI層の除去量の面内分布特性に合わせて設定することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記平坦化処理として、研磨処理、犠牲酸化処理、及び不活性ガス雰囲気による熱処理のうち、少なくともいずれか一種類以上の処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の貼り合わせSOIウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記RTA処理は1025〜1075℃の温度範囲で、1〜60秒の熱処理時間で行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の貼り合わせSOIウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入剥離法を用いた貼り合わせSOIウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、貼り合わせウェーハの製造方法として、イオン注入したボンドウェーハを貼り合わせた後に剥離して貼り合わせウェーハを製造する方法(イオン注入剥離法:スマートカット法(登録商標)とも呼ばれる技術)が新たに注目され始めている。このイオン注入剥離法は、二枚のウェーハの内、少なくとも一方に酸化膜を形成すると共に、一方のウェーハ(ボンドウェーハ)の上面から水素イオンや希ガスイオン等のガスイオンを注入し、該ウェーハ内部に微小気泡層(封入層)を形成させた後、該イオンを注入した方の面を直接あるいは酸化膜(絶縁膜)を介して他方のウェーハ(ベースウェーハ)と密着させ、その後熱処理(剥離熱処理)を加えて微小気泡層を劈開面として一方のウェーハ(ボンドウェーハ)を薄膜状に剥離し、さらに熱処理(結合熱処理)を加えて強固に結合してベースウェーハ上に薄膜を有する貼り合わせウェーハを作製する技術(特許文献1参照)である。この方法では、劈開面(剥離面)は良好な鏡面であり、薄膜、特にはSOI層の膜厚の均一性もある程度高いSOIウェーハが容易に得られている。
【0003】
しかし、イオン注入剥離法により貼り合わせウェーハを作製する場合においては、剥離後の貼り合わせウェーハ表面にイオン注入によるダメージ層が存在し、また表面粗さが通常の製品レベルのシリコンウェーハの鏡面に比べて大きなものとなる。したがって、イオン注入剥離法では、このようなダメージ層、表面粗さを除去することが必要になる。
【0004】
従来、このダメージ層等を除去するために、結合熱処理後の最終工程において、タッチポリッシュと呼ばれる研磨代の極めて少ない鏡面研磨(取り代:100nm程度)が行われていた。
【0005】
ところが、ベースウェーハ上の薄膜に機械加工的要素を含む研磨をしてしまうと、研磨の取り代が均一でないために、水素イオンなどの注入、剥離によってある程度達成された薄膜の膜厚均一性が悪化してしまうという問題が生じる。
【0006】
このような問題点を解決する方法として、前記タッチポリッシュの代わりに高温熱処理を行って表面粗さを改善する平坦化処理が行われるようになってきている。
【0007】
例えば、特許文献2では、剥離熱処理後(または結合熱処理後)に、SOI層の表面を研磨することなく水素を含む還元性雰囲気下の熱処理(急速加熱・急速冷却熱処理(RTA処理))を加えることを提案している。さらに、特許文献3では、剥離熱処理後(又は結合熱処理後)に、酸化性雰囲気下の熱処理によりSOI層に酸化膜を形成した後に該酸化膜を除去し(犠牲酸化処理)、次に還元性雰囲気の熱処理(急速加熱・急速冷却熱処理(RTA処理))を加えることを提案している。
【0008】
また、特許文献4では、剥離後のSOIウェーハに、不活性ガス、水素ガス、あるいはこれらの混合ガス雰囲気下での平坦化熱処理の後に犠牲酸化処理を行うことにより、剥離面の平坦化とOSFの回避を同時に達成している。
【0009】
このように、タッチポリッシュの代わりに高温熱処理を行って表面粗さを改善する平坦化処理が行われるようになったことによって、現在では、直径300mmでSOI層の膜厚レンジ(面内の最大膜厚値から最小膜厚値を引いた値)が3nm以内の膜厚均一性を有するSOIウェーハが、イオン注入剥離法によって量産レベルで得られている。
【0010】
また、特許文献5には、剥離面の表面粗さ(短周期及び長周期)を低減するため、RTAとバッチ炉の2段熱処理を行うSOIウェーハの製造方法であり、剥離後に水素含有雰囲気下でRTA(1000℃〜融点以下、1〜300秒)で熱処理し、バッチ炉でArアニールを行うプロセスが記載されている。
【0011】
さらに、特許文献6には、SOI層の凹状欠陥を低減するため、剥離後にオゾン洗浄し、水素含有雰囲気下でRTA(1100〜1250℃)で熱処理し、犠牲酸化処理、Arアニールをする貼り合わせウェーハの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−211128号公報
【特許文献2】特開平11−307472号公報
【特許文献3】特開2000−124092号公報
【特許文献4】WO2003/009386号公報
【特許文献5】WO2001/28000号公報
【特許文献6】特開2009−32972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年の半導体デバイスの低消費電力化、微細化、高機能化に伴い、SOI層の膜厚均一性は、従来の面内膜厚レンジ(面内の最大膜厚から最小膜厚を引いた値)が3nm程度では必ずしも十分とは言えなくなってきており、更なる面内膜厚レンジの改善が求められている。
【0014】
イオン注入剥離法によってSOIウェーハを製造する場合、前述の通りSOI層の剥離後の平坦化処理には様々な方法がある。代表的な工程として研磨(タッチポリッシュ)、犠牲酸化処理、熱処理、エッチング等が上げられる。
【0015】
また、例えばArアニールなど、減厚を目的としない工程として実施される場合のある不活性ガス雰囲気での高温長時間の熱処理であっても、実際にはある程度のSOI層が除去される工程になっている。特に、縦型熱処理炉でArアニールを行うと、ウェーハ周辺部のSOI膜厚が薄くなり、面内均一性を悪化させている。
【0016】
一方、研磨により平坦化を行うと、ダレと呼ばれるウェーハ周辺部のみ薄くなる現象と、ハネと呼ばれるウェーハ周辺部のみ厚くなる現象があり、SOI層の面内均一性を悪化させる原因となっている。さらに、犠牲酸化処理(熱酸化と酸化膜除去を行う処理)として、熱酸化を縦型炉で処理した場合も同様に、同心円形状の面内膜厚分布を持つ場合があり、SOI層の面内均一性を悪化させる原因となっている。
【0017】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、平坦化処理後のSOI層の膜厚の面内均一性が一層良好なSOIウェーハを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、シリコン単結晶からなるボンドウェーハの表面から水素イオン、希ガスイオンの少なくとも一種類のガスイオンをイオン注入して前記ボンドウェーハ内部にイオン注入層を形成し、前記ボンドウェーハのイオン注入された側の表面とベースウェーハの表面とを絶縁膜を介して貼り合わせた後、前記ボンドウェーハの一部を前記イオン注入層で剥離して、前記ベースウェーハ上に前記ボンドウェーハの薄膜からなるSOI層を有する貼り合わせSOIウェーハを作製し、その後、前記剥離面を平坦化する平坦化処理を行う貼り合わせSOIウェーハの製造方法であって、
前記剥離後の貼り合わせSOIウェーハに対し、前記SOI層表面の周辺部の自然酸化膜が除去され、中央部の自然酸化膜が残存するように、水素ガスを含む雰囲気でRTA処理を行い、前記中央部に自然酸化膜が残存した貼り合わせSOIウェーハに対し、前記SOI層の面内膜厚レンジが1.5nm以下となるように前記平坦化処理を行うことを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの製造方法を提供する。
【0019】
このような製造方法であれば、剥離後のSOI層の平坦化処理において、SOI層の膜厚の面内均一性の悪化を抑制し、SOI層の膜厚の面内均一性の良好な貼り合わせSOIウェーハを製造することができる。特に、SOI層の平坦化後の面内膜厚レンジが1.5nm以下となる貼り合わせSOIウェーハを製造することができる。
【0020】
また、前記平坦化処理として、研磨処理、犠牲酸化処理、及び不活性ガス雰囲気による熱処理のうち、少なくともいずれか一種類以上の処理を行うことができる。
【0021】
不活性ガス、例えばAr雰囲気による熱処理では縦型炉で行うことによりウェーハ周辺部の方が雰囲気ガスの流れが良いためウェーハ中心部と比較して膜厚が薄くなる傾向があり、研磨処理、例えばCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)ではウェーハ周辺部のみ薄くなる場合(ダレ)があり、また犠牲酸化処理でも同心円形状の面内分布を持つ場合がある。しかしながら、本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法であれば、SOI層表面の中央部に自然酸化膜が残存するようにRTA処理を行った後に、平坦化処理としてこれらの処理を行うので、SOI層の膜厚の面内均一性の良好な貼り合わせSOIウェーハを製造することができる。
【0022】
さらに、前記RTA処理は1025〜1075℃の温度範囲で、1〜60秒の熱処理時間で行うことが好ましい。
【0023】
このような処理条件であればSOI層表面の周辺部の自然酸化膜が除去されやすく、かつ中央部の自然酸化膜は残存して全ての自然酸化膜が除去されることがない。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法であれば、剥離後のSOI層の平坦化処理において、SOI層の膜厚の面内均一性の悪化を抑制し、SOI層の膜厚の面内均一性の良好な貼り合わせSOIウェーハを製造することができる。特に、SOI層の平坦化後の面内膜厚レンジが1.5nm以下となる貼り合わせSOIウェーハを製造することができる。また、平坦化処理として、研磨処理、犠牲酸化処理、及び不活性ガス雰囲気による熱処理を行ったとしてもSOI層の膜厚の面内均一性の良好な貼り合わせSOIウェーハを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法のフローチャートである。
図2】実施例1、比較例3、及び4のSOI層の膜厚分布を示すグラフである。
図3】実施例2、比較例7、及び8のSOI層の膜厚分布を示すグラフである。
図4】実施例3、比較例11、及び12のSOI層の膜厚分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。上述のように、剥離後のSOI層の平坦化処理において、SOI層の膜厚の面内均一性の悪化を抑制し、SOI層の膜厚の面内均一性の良好な貼り合わせSOIウェーハを製造できる方法が望まれていた。
【0027】
本発明者らは、上記問題点について鋭意検討を重ねた結果、平坦化処理の特徴(周辺部が薄くなる特徴)にあわせて、平坦化処理の前に水素ガス含有雰囲気によるRTA処理を適切な条件で加えておくことによって、SOI層の平坦化後の面内膜厚レンジが1.5nm以下の貼り合わせSOIウェーハを得ることができることを見出し、本発明を完成させた。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0028】
図1に本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法を示す。図1に示すように、本発明では(a)シリコン単結晶からなるボンドウェーハ1の表面から水素イオン、希ガスイオンの少なくとも一種類のガスイオンをイオン注入して前記ボンドウェーハ1内部にイオン注入層4を形成し、(b)ボンドウェーハ1のイオン注入された側の表面とベースウェーハ2の表面とを絶縁膜3を介して貼り合わせた後、(c)ボンドウェーハ1の一部を前記イオン注入層4で剥離して、前記ベースウェーハ2上に前記ボンドウェーハ1の薄膜からなるSOI層6を有する貼り合わせSOIウェーハを作製し、その後、(d)剥離後の貼り合わせSOIウェーハに対し、SOI層6の表面の周辺部の自然酸化膜5が除去され、中央部の自然酸化膜5’が残存するように、水素ガスを含む雰囲気でRTA処理を行い、(e)中央部に自然酸化膜5’が残存した貼り合わせSOIウェーハに対し、平坦化後のSOI層6’の面内膜厚レンジが1.5nm以下となるように平坦化処理を行うことで均一な膜厚を有する貼り合わせSOIウェーハを製造することができる。
【0029】
なお、(c)工程から(d)工程へ移る間に自然と、SOI層6の表面に自然酸化膜5が形成される。また、(c)工程のあとにSC−1洗浄及び/又はSC−2洗浄を行ってもよく、これによっても自然酸化膜5を形成することができる。尚、図1では絶縁膜3をボンドウエーハ1に形成する例を示したが特に限定されず、ベースウエーハ2に形成しても、又は両方に形成してもよい。
【0030】
水素を含むガスで1100℃以上の高温でRTA処理することにより、SOI層6の表面の自然酸化膜5が除去されマイグレーションにより平坦化がなされることが知られている。一方、1100℃よりも低い温度で水素を含むガスでRTA処理すると、熱処理時間に依存してSOI層6の表面の周辺部からほぼ一定の距離まで自然酸化膜5が除去される。これにより、ウェーハの中央部では自然酸化膜5’が除去されずに残存する場合がある。ウェーハ中央部に除去されずに残存する自然酸化膜5’の大きさは、熱処理温度と熱処理時間によって変化する。しかしながら、このように中央部に自然酸化膜が残存する表面状態のままではRTA処理によってウェーハ面内均一で良好な表面状態を得るということから反する。そのため、このような条件でRTA処理を完了してしまうことは一般には行われていなかった。
【0031】
具体的に、イオン注入剥離法によって剥離した直後のSOIウェーハ(SOI表面に自然酸化膜5が形成されている)を水素含有雰囲気下で1000℃、1050℃、1100℃、各30秒でRTA処理した後、それらのウェーハを犠牲酸化処理(酸化と酸化膜除去を行う処理)してSOI層6’の膜厚を測定してみた。その結果、1000℃でRTA処理したSOI層6’の膜厚は全体的に薄く、1100℃でRTA処理したSOI層6’の膜厚は1000℃でRTA処理した場合よりも厚く、1050℃でRTA処理したSOI層6’の膜厚は周辺部では1100℃でRTA処理したウェーハと同様に厚くなり、他の領域(中央部)については1000℃でRTA処理したウェーハと同様に薄くなった。尚、平坦化処理として犠牲酸化処理の代わりに研磨やArアニールを行った場合も同様の傾向があった。
【0032】
このように、SOI層6’が全体的に薄くなるのは平坦化処理によるSOI層の減厚速度が速く、SOI層6’が厚くなるのは平坦化処理によるSOI層の減厚速度が遅くなることに起因するものである。
【0033】
さらに、RTA処理した直後のSOIウェーハを観察すると1000℃でRTA処理した場合では、ウェーハ剥離直後のヘイズと変化無く、全面で自然酸化膜5が残存し、TEM観察を行うとSOI層6’は剥離直後と同様に歪み層(イオン注入ダメージに起因)は残存していた。一方、1100℃でRTA処理した場合では、ウェーハ剥離直後と比較して自然酸化膜5が除去され全面でヘイズが改善し、TEM観察を行うと歪み層の結晶性は回復していた。また、1050℃でRTA処理したウェーハは、周辺部では自然酸化膜5が除去されヘイズが改善され、TEM観察を行うと周辺部では結晶性が回復し、中央部では剥離直後と同様にヘイズは改善されず自然酸化膜5’が残存し、TEM観察を行うと歪が残存していた。自然酸化膜5が除去された領域と結晶性が改善された領域は完全には一致しないが、重なる部分が多い。
【0034】
以上のことから、水素ガス含有雰囲気によるRTA処理で、SOI層6の表面の自然酸化膜5の除去が不完全な状態(周辺部で自然酸化膜5が除去され、中央部で自然酸化膜5’が残留した状態、言い換えると、周辺部で結晶性が回復し、中央部で歪み層が残留した状態)になる条件でRTA処理を行い、その後、平坦化処理を行うと結晶性が回復された領域(周辺部)の減厚速度は遅くなり、歪み層が残存する領域(中央部)では減厚速度は速くなることがわかった。
【0035】
この現象を利用し、平坦化処理の特徴(周辺部が薄くなる特徴)にあわせて、平坦化処理の前に水素ガス含有雰囲気によるRTA処理を適切な条件で加えておくことによって、SOI層6の平坦化処理において、SOI層6の膜厚の面内均一性の悪化を抑制し、SOI層6’の膜厚の面内均一性の良好な貼り合わせSOIウェーハを製造することができる。
【0036】
このようなRTA処理の条件(温度、熱処理時間)としては、SOI層6の表面の周辺部の自然酸化膜5が除去され、中央部の自然酸化膜5’が残存するようにするものであれば特に制限されない。このようなRTA処理の条件は、平坦化後のSOI層6’の面内膜厚レンジが1.5nm以下となるように、平坦化処理工程におけるSOI層6の除去量の面内分布特性に合わせて実験的に設定することができる。
【0037】
具体的には、1100℃以上の温度では短時間でSOI層6の全面の自然酸化膜5が除去されてしまい、1000℃以下の温度では自然酸化膜5が除去されにくい。そのため、RTA処理の条件としては、1025℃〜1075℃の温度範囲で、1〜60秒の熱処理時間で行うことが好ましい。
【0038】
本発明では、中央部に自然酸化膜5’が残存した貼り合わせSOIウェーハに対し、平坦化後のSOI層6’の面内膜厚レンジが1.5nm以下となるように平坦化処理を行う。このような平坦化処理の条件は、所定の条件でRTA処理されたSOIウエーハに対して平坦化処理工程を行った場合のSOI層6の除去量の面内分布特性を考慮しながら、実験的に設定することができる。
【0039】
また、平坦化処理として、研磨処理、犠牲酸化処理、及び不活性ガス雰囲気による熱処理のうち、少なくともいずれか一種類以上の処理を行うことができる。平坦化処理は最終的に製造される貼り合わせSOIウエーハに併せて複数の処理を組み合わせて行うことができる。
【0040】
研磨処理、犠牲酸化処理、及び不活性ガス雰囲気による熱処理等の平坦化処理はSOI層6の面内均一性を損ねる。しかしながら、本発明のようにSOI層6の表面の中央部に自然酸化膜5’が残存するようにRTA処理を行った後に平坦化処理としてこれらの処理を行えば、平坦化後のSOI層6’の膜厚の面内均一性の良好な貼り合わせSOIウェーハを製造することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1、比較例1〜4]
ボンドウェーハとして直径300mm、抵抗率10Ωcm、p型のシリコン単結晶ウェーハを用意し、ボンドウェーハに熱酸化により150nmの酸化膜を形成し、その酸化膜を通して、水素イオンを5.5×1016/cm、40keVの条件にてイオン注入を実施した。これらのウェーハを抵抗率10Ωcm、p型のシリコン単結晶ウェーハのベースウェーハと貼り合わせ、500℃で30分の剥離熱処理を行いSOIウェーハを製造した。
【0043】
それらのSOIウェーハを洗浄し(SC−1洗浄及びSC−2洗浄。この際、SOI表面に厚さ1.6nmの自然酸化膜が形成される)、50%の濃度の水素ガス雰囲気中(Arガス50%)で1050℃で5、10、20秒のRTA処理を行った。SOIウェーハのSOI層表面の周辺部の自然酸化膜は除去され、中央部の自然酸化膜は残存していた。RTA処理装置はMattson社製 Mattson 3000を用いた。リファレンスとして全面自然酸化膜が除去されず歪み層が残存するSOIウェーハ(1000℃で30秒のRTA処理)と、全面自然酸化膜が除去され歪み層が結晶性を回復させたSOIウェーハ(1100℃で30秒のRTA処理)を用意した。
【0044】
その後、平坦化処理としてCMP(タッチポリッシュ)を行った。CMPはウェーハ周辺部の研磨速度が大きくなる(周辺ダレが形成される)ように研磨条件を設定した。取り代は100nmに設定した。
【0045】
(比較例1)
1000℃で30秒のRTA処理したSOIウェーハをCMPすると平均の取り代は120nmとなりウェーハ周辺部は中心部と比較しては約5nm薄くなる傾向があった。
【0046】
(比較例2)
1100℃で30秒のRTA処理したSOIウェーハをCMPすると平均取り代は98nmとなりウェーハ周辺部はウェーハ中心部と比較すると4nm薄くなる傾向があった。
【0047】
(比較例3)
1050℃で5秒のRTA処理したSOIウェーハをCMPすると平均取り代は112nmとなった。ウェーハの膜厚分布を見ると外周部10mm近傍に平均より4nm程度薄いリング状の領域が存在した。
【0048】
(実施例1)
1050℃で10秒のRTA処理したSOIウェーハをCMPすると平均取り代は110nmとなった。ウェーハの膜厚分布を見ると面内で1.5nm以内であり、特別薄い領域も厚い領域も無く、SOI層の膜厚均一性は良好であった。
【0049】
(比較例4)
1050℃で20秒のRTA処理したSOIウェーハをCMPすると平均取り代は105nmとなった。ウェーハの膜厚分布を見ると外周部30mm近傍に平均より4nm程度厚いリング状の領域が存在した。
【0050】
実施例1のように、SOI層表面の周辺部の自然酸化膜が除去され、中央部の自然酸化膜が残存するようにRTA処理条件を適切に選ぶことにより、CMPを行っても膜厚均一性は小さくなることが分かった。また、CMPの特性に合わせてRTA条件を選ぶことが可能となる。図2は、実施例1、比較例3〜4のSOI膜厚分布を示したもので、ウェーハ中心部のSOI層の膜厚を0とした。このように、RTAの条件、平坦化処理の条件を組み合わせることで、膜厚レンジを1.5nm以下にできる。
【0051】
[実施例2、比較例5〜8]
ボンドウェーハとして直径300mm、抵抗率10Ωcm、p型のシリコン単結晶ウェーハを用意し、ボンドウェーハに熱酸化により150nmの酸化膜を形成し、その酸化膜を通して、水素イオンを5.5×1016/cm、40keVの条件にてイオン注入を実施した。これらのウェーハを抵抗率10Ωcm、p型のシリコン単結晶ウェーハのベースウェーハと貼り合わせ、500℃で30分の剥離熱処理を行いSOIウェーハを製造した。
【0052】
それらのSOIウェーハを洗浄し(SC−1洗浄及びSC−2洗浄。この際、SOI表面に厚さ1.6nmの自然酸化膜が形成される)、50%の濃度の水素ガス雰囲気中(Arガス50%)で1050℃で5、10、20秒のRTA処理を行った。SOIウェーハのSOI層表面の周辺部の自然酸化膜は除去され、中央部の自然酸化膜は残存していた。RTA処理装置はMattson社製 Mattson 3000を用いた。リファレンスとして自然酸化膜が除去されず歪み層が残存するSOIウェーハ(1000℃で30秒のRTA処理)と、自然酸化膜が除去され歪み層が結晶性を回復させたSOIウェーハ(1100℃で30秒のRTA処理)を用意した。
【0053】
その後、平坦化処理として、犠牲酸化処理を行った。酸化温度は900℃、酸化膜厚は200nmとした。RTA処理が1000℃で30秒と1100℃で30秒のリファレンスウェーハの酸化膜をHFで除去した後のSOI層の膜厚分布は特に特徴のある分布ではなく膜厚レンジは1.5nm程度であった。
【0054】
一方、1050℃で5、10、20秒のRTA処理を行ったSOIウェーハの犠牲酸化処理後のSOI層の膜厚分布はウェーハ中央部に比べて周辺部が厚く、膜厚レンジは2nmを超えていた。
【0055】
その後、さらに平坦化処理としてCMPを行った。CMPはウェーハ周辺部の研磨速度が大きくなる(周辺ダレが形成される)ように研磨条件を設定した。取り代は100nmに設定した。
【0056】
(比較例5)
1000℃で30秒のRTA処理した後のSOIウェーハを犠牲酸化処理後さらにCMPすると平均の取り代は120nmとなりウェーハ周辺部は中心部と比較しては約5nm薄くなる傾向があった。
【0057】
(比較例6)
1100℃で30秒のRTA処理した後のSOIウェーハを犠牲酸化処理後さらにCMPすると平均取り代は98nmとなり、ウェーハ周辺部はウェーハ中心部と比較すると4.5nm薄くなる傾向があった。
【0058】
(比較例7)
1050℃で5秒のRTA処理した後のSOIウェーハを犠牲酸化処理後さらにCMPすると平均取り代は114nmとなった。ウェーハの膜厚分布を見ると外周部10mm近傍に平均より3.5nm程度薄いリング状の領域が存在した。
【0059】
(実施例2)
1050℃で10秒のRTA処理した後のSOIウェーハを犠牲酸化処理後さらにCMPすると平均取り代は111nmとなった。ウェーハの膜厚分布を見ると面内で1.5nm以内であり、特別薄い領域も厚い領域も無く、SOI層の膜厚均一性は良好であった。
【0060】
(比較例8)
1050℃で20秒のRTA処理した後のSOIウェーハを犠牲酸化処理後さらにCMPすると平均取り代は104nmとなった。ウェーハの膜厚分布を見ると外周部30mm近傍に平均より4.2nm程度厚いリング状の領域が存在した。
【0061】
以上より、SOI層表面の周辺部の自然酸化膜が除去され、中央部の自然酸化膜が残存するようにRTA処理条件を選ぶことにより犠牲酸化処理とCMPを行っても膜厚均一性は小さくなることが分かった。また、犠牲酸化処理とCMPの特性の組み合わせでもRTA条件を適切に選ぶことにより均一性の良いSOIウェーハの製造が可能となることも分かった。図3は、実施例2、比較例7〜8のSOI膜厚分布を示したもので、ウェーハ中心部のSOI層の膜厚を0とした。
【0062】
[実施例3、比較例9〜12]
ボンドウェーハとして直径300mm、抵抗率10Ωcm、p型のシリコン単結晶ウェーハを用意し、ボンドウェーハに熱酸化により150nmの酸化膜を形成し、その酸化膜を通して、水素イオンを5.5×1016/cm、40keVの条件にてイオン注入を実施した。これらのウェーハを抵抗率10Ωcm、p型のシリコン単結晶ウェーハのベースウェーハと貼り合わせ、500℃で30分の剥離熱処理を行いSOIウェーハを製造した。
【0063】
それらのSOIウェーハを洗浄し(SC−1洗浄及びSC−2洗浄。この際、SOI表面に厚さ1.6nmの自然酸化膜が形成される)、50%の濃度の水素ガス雰囲気中(Arガス50%)で1050℃で5、10、20秒のRTA処理を行った。SOIウェーハのSOI層表面の周辺部の自然酸化膜は除去され、中央部の自然酸化膜は残存していた。RTA処理装置はMattson社製 Mattson 3000を用いた。リファレンスとして自然酸化膜が除去されず歪み層が残存するSOIウェーハ(1000℃で30秒のRTA処理)と、自然酸化膜が除去され歪み層が結晶性を回復させたSOIウェーハ(1100℃で30秒のRTA処理)を用意した。
【0064】
その後、平坦化処理として、犠牲酸化処理を行った。酸化温度は900℃、酸化膜厚は200nmとした。RTA処理が1000℃で30秒と1100℃で30秒のリファレンスウェーハの酸化膜をHFで除去した後のSOI層の膜厚分布は特に特徴のある分布ではなく膜厚レンジは1.5nm程度であった。
【0065】
一方、1050℃で5、10、20秒のRTA処理を行ったSOIウェーハの犠牲酸化処理後のSOI層の膜厚分布はウェーハ中央部に比べて周辺部が厚く、膜厚レンジは2nmを超えていた。
【0066】
さらに、平坦化処理として、それらのSOIウェーハに対して1200℃、4時間のArアニール処理(Ar100%雰囲気)を行った。
【0067】
Arアニールは高温でも短時間処理であれば熱処理後のSOI層面内膜厚分布の悪化は大きくはないが、長時間処理の場合、膜厚分布が大きくなり問題となる。
【0068】
(比較例9)
1000℃で30秒のRTA処理した後のSOIウェーハを犠牲酸化処理後さらにArアニールするとSOI層の膜厚は周辺部が中心部と比べ3nm薄くなる傾向があった。
【0069】
(比較例10)
1100℃で30秒のRTA処理した後のSOIウェーハを犠牲酸化処理後さらにArアニールするとSOI層の膜厚は周辺部が中心部と比べ3nm薄くなる傾向があった。
【0070】
(実施例3)
1050℃で5秒のRTA処理した後のSOIウェーハを犠牲酸化処理後さらにArアニールしたSOIウェーハでは面内均一性が1nm以下になり、リング状等の特別なパターンは見られず、SOI層の膜厚均一性は良好であった。
(比較例11)
【0071】
1050℃で10秒のRTA処理した後のSOIウェーハを犠牲酸化処理後さらにArアニールしたSOIウェーハの膜厚分布を見ると外周25mm近傍に平均より3nm程度厚いリング状の領域が存在した。
【0072】
(比較例12)
1050℃で20秒のRTA処理した後のSOIウェーハを犠牲酸化処理後さらにArアニールしたSOIウェーハの膜厚分布を見ると外周35mm近傍に平均より3.5nm程度厚いリング状の領域が存在した。
【0073】
以上より、SOI層表面の周辺部の自然酸化膜が除去され、中央部の自然酸化膜が残存するようにRTA処理条件を選ぶことにより犠牲酸化処理とArアニールを行っても膜厚均一性は小さくなることが分かった。また、犠牲酸化処理とArアニールの特性の組み合わせでもRTA条件を適切に選ぶことにより均一性の良いSOIウェーハの製造が可能となることも分かった。図4は、実施例3、比較例11〜12のSOI膜厚分布を示したもので、ウェーハ中心部のSOI層の膜厚を0とした。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0075】
1…ボンドウェーハ、 2…ベースウェーハ、 3…絶縁膜、 4…イオン注入層、 5…自然酸化膜、 5’…中央部の自然酸化膜、 6…SOI層、 6’…平坦化後のSOI層

図1
図2
図3
図4