特許第5704076号(P5704076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5704076(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法及び該方法により得られた(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を用いた調光フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5704076
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法及び該方法により得られた(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を用いた調光フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/06 20060101AFI20150402BHJP
   C08G 77/20 20060101ALI20150402BHJP
   G02F 1/061 20060101ALI20150402BHJP
   G02F 1/17 20060101ALI20150402BHJP
   G02F 1/19 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   C08G77/06
   C08G77/20
   G02F1/061 501
   G02F1/17
   G02F1/19 501
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-551873(P2011-551873)
(86)(22)【出願日】2011年1月26日
(86)【国際出願番号】JP2011051481
(87)【国際公開番号】WO2011093330
(87)【国際公開日】20110804
【審査請求日】2013年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-281296(P2010-281296)
(32)【優先日】2010年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-178665(P2010-178665)
(32)【優先日】2010年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-14200(P2010-14200)
(32)【優先日】2010年1月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-14191(P2010-14191)
(32)【優先日】2010年1月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】野村 理行
(72)【発明者】
【氏名】森下 芳伊
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】神谷 幸男
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/110563(WO,A1)
【文献】 特開2008−208161(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/093657(WO,A1)
【文献】 特開2008−158043(JP,A)
【文献】 特開2008−208162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00−77/62
G02F 1/00−1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー線を照射することにより硬化する樹脂マトリックス原料と、光調整粒子が流動可能な状態で分散媒中に分散した光調整懸濁液と、を含有する調光材料の前記樹脂マトリックス原料に含まれる(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法であって、
(メタ)アクリロイル基及びシラノール基を含有するシロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーと、シラノール基含有シロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーと、を重合触媒及び溶媒の存在下重合させる重合工程と、
前記重合工程後、酸性リン酸エステルを添加し、前記重合触媒を失活処理する失活工程と、
前記失活工程後、前記溶媒を脱溶し、(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を得る脱溶工程と、を含み、
前記酸性リン酸エステルの添加量が前記重合触媒100質量部に対して25〜150質量部であり、
前記脱溶工程の温度が140℃以下であり、
前記(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の重量平均分子量が、35,000〜60,000であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
記(メタ)アクリロイル基及びシラノール基を含有するシロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーが、分子内に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基と少なくとも2つのアルコキシ基とを含有するシラン化合物の前記アルコキシ基をシラノール基に変換したシラノール化合物であり、
記シラノール基含有シロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーが、両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン、両末端シラノール基含有ポリジフェニルシロキサン及び両末端シラノール基含有ポリメチルフェニルシロキサンからなる群から選ばれる2種以上である、請求項1に記載の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂が、ジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサン及び3−アクリロキシプロピルメチルシロキサンの3種類の構造単位を有することを特徴とする請求項に記載の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法。
【請求項4】
エネルギー線を照射することにより硬化する樹脂マトリックス原料と、
光調整粒子が流動可能な状態で分散媒中に分散した光調整懸濁液と、を含有する調光材料からなる調光層を有する調光フィルムであって、
前記樹脂マトリックス原料が、請求項1〜のいずれか一項に記載の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法で得られた(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を含む調光フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光機能を有する調光フィルムに用いる(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法及び該方法により得られた(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を用いた調光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光調整懸濁液を含む調光硝子は、エドウィン・ランド(Edwin.Land)により最初に発明されたもので、その形態は、狭い間隔を有する2枚の透明導電性基材の間に、液体状態の光調整懸濁液を注入した構造になっている(例えば、特許文献1及び2参照)。エドウィン・ランドの発明によると、2枚の透明導電性基材の間に注入されている液状の光調整懸濁液は、電界を印加していない状態では懸濁液中に分散されている光調整粒子のブラウン運動により、入射光の大部分が光調整粒子により反射、散乱又は吸収され、ごく一部分だけが透過することになる。
【0003】
即ち、光調整懸濁液に分散されている光調整粒子の形状、性質、濃度及び照射される光エネルギーの量により、透過、反射、散乱又は吸収の程度が決められる。前記構造の調光硝子を用いた調光窓に電界を印加すると、透明導電性基材を通じて光調整懸濁液に電場が形成され、光調整機能を表す光調整粒子が分極を起こし、電場に対して平行に配列され、光調整粒子と光調整粒子の間を光が透過し、最終的に調光硝子は透明になる。しかし、このような初期の調光装置は、実用上、光調整懸濁液内での光調整粒子の凝集、自重による沈降、熱による色相変化、光学密度の変化、紫外線照射による劣化、基材の間隔維持及びその間隔内への光調整懸濁液の注入が困難等であるために、実用化が難しかった。
【0004】
ロバート・エル・サックス(Robert.L.Saxe)、エフ・シー・ローウェル(F.C.Lowell)、又はアール・アイ・トンプソン(R.I.Thompson)は、調光窓の初期問題点、即ち、光調整粒子の凝集及び沈降、光学密度の変化等を補完した調光硝子を用いた調光窓を開示している(例えば、特許文献3〜9参照)。これらの特許等では、針状の光調整結晶粒子、結晶粒子分散用懸濁剤、分散調整剤及び安定剤等からなる液体状態の光調整懸濁液によって、光調整粒子と懸濁剤の密度を殆ど同様に合わせて光調整粒子の沈降を防止しながら、分散調整剤を添加して光調整粒子の分散性を高めることにより光調整粒子の凝集を防止し、初期の問題点を解決している。
【0005】
しかし、これらの調光硝子もやはり従来の調光硝子のように、2枚の透明導電性基材の間隔内に液状の光調整懸濁液を封入した構造になっているため、大型製品製造の場合、2枚の透明導電性基材の間隔内への均一な懸濁液の封入が困難で、製品上下間の水圧差による下部の膨張現象が起こりやすい問題がある。また、外部環境、例えば、風圧によって基材の間隔が変化することにより、その結果、光学密度が変化して色相が不均質になり、又は透明導電性基材の間に液体をためるための周辺の密封材が破壊され、光調整材料が漏れる問題がある。また、紫外線による劣化、透明導電性基材の周辺部と中央部間の電圧降下により、応答時間にむらが発生する。
【0006】
これを改善する方法として、液状の光調整懸濁液を硬化性の高分子樹脂の溶液と混合し、重合による相分離法、溶媒揮発による相分離法、又は温度による相分離法等を利用してフィルムを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献10参照)。
なお、上記方法においては、調光層を構成する樹脂マトリックスは、エチレン性不飽和結合を有する置換基をもつシリコーン樹脂(以下、「ポリシロキサン樹脂」ともいう)と光重合開始剤等を含む樹脂マトリックス原料(以下、「高分子媒体」ともいう)からなり、紫外線等のエネルギー線を照射することにより硬化したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第1,955,923号明細書
【特許文献2】米国特許第1,963,496号明細書
【特許文献3】米国特許第3,756,700号明細書
【特許文献4】米国特許第4,247,175号明細書
【特許文献5】米国特許第4,273,422号明細書
【特許文献6】米国特許第4,407,565号明細書
【特許文献7】米国特許第4,422,963号明細書
【特許文献8】米国特許第3,912,365号明細書
【特許文献9】米国特許第4,078,856号明細書
【特許文献10】特開2002−189123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献10で用いられる、硬化して樹脂マトリックスとなる樹脂マトリックス原料に含まれるポリシロキサン樹脂は、合成容易性、調光性能、耐久性の点から好ましいと考えられる。ポリシロキサン樹脂は、重合後に脱溶して反応溶媒を取り除く必要があるが、加熱して脱溶する工程で、ポリシロキサン樹脂製造用の重合触媒が失活しておらず、脱溶中に分子量が増大して高粘度になり調光フィルムの塗工に使用できなくなる問題があることが、本発明者等の検討で明らかとなった。
【0009】
本発明は、調光フィルムの樹脂マトリックス原料の構成成分として有用なポリシロキサン樹脂の製造方法において、分子量増大が抑制されたポリシロキサン樹脂を提供すること、及びこの方法で製造した分子量の制御されたポリシロキサン樹脂を用いた調光フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記問題に鑑み鋭意検討した結果、ポリシロキサン樹脂の重合工程の後に、リン酸エステルを添加することで重合触媒を失活処理させ、その後、脱溶することで上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)エネルギー線を照射することにより硬化する樹脂マトリックス原料と、光調整粒子が流動可能な状態で分散媒中に分散した光調整懸濁液と、を含有する調光材料の上記樹脂マトリックス原料に含まれるポリシロキサン樹脂の製造方法であって、
(メタ)アクリロイル基及びシラノール基を含有するシロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーと、シラノール基含有シロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーと、を重合触媒及び溶媒の存在下重合させる重合工程と、
上記重合工程後、リン酸エステルを添加し、上記重合触媒を失活処理する失活工程と、
上記失活工程後、上記溶媒を脱溶し、(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を得る脱溶工程と、を含み、
上記リン酸エステルの添加量が上記重合触媒100質量部に対して25〜150質量部であり、
上記脱溶工程の温度が140℃以下であることを特徴とする(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法。
【0012】
(2)上記(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂が、重量平均分子量35,000〜60,000である上記(1)に記載の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法。
(3)上記(メタ)アクリロイル基及びシラノール基を含有するシロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーが、分子内に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基と少なくとも2つのアルコキシ基とを含有するシラン化合物の前記アルコキシ基をシラノール基に変換したシラノール化合物であり、
上記シラノール基含有シロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーが、両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン、両末端シラノール基含有ポリジフェニルシロキサン及び両末端シラノール基含有ポリメチルフェニルシロキサンからなる群から選ばれる2種以上である、上記(1)又は(2)に記載の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法。
(4)上記(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂が、ジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサン及び3−アクリロキシプロピルメチルシロキサンの3種類の構造単位を有することを特徴とする上記(3)に記載の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法。
【0013】
(5)エネルギー線を照射することにより硬化する樹脂マトリックス原料と、
光調整粒子が流動可能な状態で分散媒中に分散した光調整懸濁液と、を含有する調光材料からなる調光層を有する調光フィルムであって、
上記樹脂マトリックス原料が、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法で得られた(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を含む調光フィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法により、調光材料の樹脂マトリックスを構成する樹脂マトリックス原料に含まれるポリシロキサン樹脂として、適切な重量平均分子量を有する、(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を得ることができる。
本願の開示は、2010年8月9日に出願された特願2010−178665号、2010年1月26日に出願された特願2010−14191号、2010年1月26日に出願された特願2010−14200号及び2010年12月17日に出願された特願2010−281296号に記載の主題と関連しており、それらの開示内容は引用によりここに援用される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の調光フィルムの一態様の断面構造概略図である。
図2図1の調光フィルムの電界が印加されていない場合の作動を説明するための概略図である。
図3図1の調光フィルムの電界が印加されている場合の作動を説明するための概略図である。
図4】調光フィルムの端部の状態を説明するための概略図である。液滴3の中の光調整粒子10は図示を省略した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<本発明の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法>
本発明の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法は、エネルギー線を照射することにより硬化する樹脂マトリックス原料と、光調整粒子が流動可能な状態で分散媒中に分散した光調整懸濁液と、を含有する調光材料の上記樹脂マトリックス原料に含まれるポリシロキサン樹脂の製造方法であって、
(メタ)アクリロイル基及びシラノール基を含有するシロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーと、シラノール基含有シロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーと、を重合触媒及び溶媒の存在下重合させる重合工程と、
上記重合工程後、リン酸エステルを添加し、上記重合触媒を失活処理する失活工程と、
上記失活工程後、上記溶媒を脱溶し、(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を得る脱溶工程と、を含み、
上記リン酸エステルの添加量が上記重合触媒100質量部に対して25〜150質量部であり、
上記脱溶工程の温度が140℃以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法において、リン酸エステルにより、ポリシロキサン樹脂用重合触媒を失活処理した後に140℃以下で脱溶することによって、従来の製造法の問題点、即ち、脱溶工程中に分子量が増大して高粘度になり調光フィルムの塗工に使用できなくなるといった問題が解決される。
【0018】
以下、本発明の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法について、工程ごとに説明する。
<1>重合工程
本発明の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法の重合工程は、(メタ)アクリロイル基及びシラノール基を含有するシロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーと、シラノール基含有シロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーと、を重合触媒及び溶媒の存在下重合させる。
本発明の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法の重合工程において、原料は、(メタ)アクリロイル基及びシラノール基を含有するシロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーと、シラノール基含有シロキサン系モノマー及び/オリゴマーと、が用いられ、調光層の樹脂マトリックスとして硬化させる観点から、得られるポリシロキサン樹脂が架橋性の置換基、具体的には(メタ)アクリロイル基を有することが重要である。
詳しくは、上記(メタ)アクリロイル基及びシラノール基を含有するシロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーが、分子内に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基と少なくとも2つのアルコキシ基とを含有するシラン化合物の前記アルコキシ基をシラノール基に変換したシラノール化合物であることが好ましい。
ポリシロキサン樹脂の原料となるシラノール基含有シロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーとしては、両末端にシラノール基を有するポリシロキサンであれば特に制限はなく、例えば、両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(以下、「両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン」ともいう)、両末端にシラノール基を有するポリジフェニルシロキサン(以下、「両末端シラノール基含有ポリジフェニルシロキサン」ともいう)、両末端にシラノール基を有するポリメチルフェニルシロキサン(以下、「両末端シラノール基含有ポリメチルフェニルシロキサン」ともいう)等が挙げられ、これらを2種以上で用いることが好ましい。
【0019】
両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン)の市販品としては、X−21−3114(信越化学工業(株)製)、DMS−S12、DMS−S14(以上、Gelest社製)等が挙げられる。
両末端にシラノール基を有するポリジフェニルシロキサン(両末端シラノール基含有ポリジフェニルシロキサン)の市販品としては、PDS−9931(Gelest社製)等が挙げられる。
両末端にシラノール基を有するポリメチルフェニルシロキサン(両末端シラノール基含有ポリメチルフェニルシロキサン)の市販品としては、X−21−3193B(信越化学工業(株)製)、PDS−1615(Gelest社製)等が挙げられる。
【0020】
なお、シラノール基含有シロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーとして、ジメチルジアルコキシシラン、ジフェニルジアルコキシシラン等のジアルコキキシランのアルコキシ基を加水分解してシラノール基としたシラノール化合物、また該シラノール化合物を、脱水縮合反応及び脱アルコール反応によってシロキサン結合を形成したものを用いてもよい。
【0021】
ポリシロキサン樹脂の原料となる(メタ)アクリロイル基及びシラノール基を含有するシロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーとしては、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン等のアルコキシ基及び(メタ)アクリロイル基を含有するシロキサン系モノマーのアルコキシ基を加水分解してシラノール基としたもの、またそれをさらに脱水縮合反応によってシロキサン結合を形成したものを用いてもよい。
【0022】
重合工程における重合触媒としては、一般的な脱水触媒を用いることができる。その具体例としては、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸等のスルホン酸類;ピリジニウム p−トルエンスルホネート等のスルホン酸塩類;ポリリン酸;等が挙げられる。
【0023】
重合触媒として、上記重合触媒の他に有機錫化合物、金属錯体、塩基性化合物、有機燐化合物等が挙げられる。
重合触媒としての有機錫化合物の具体例としては、以下の例には限定されないが、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫フタレート、ジブチル錫ジアセテート、オクチル酸第1錫、ジブチル錫メトキシド、ジブチル錫ジアセチルアセテート、ジブチル錫ジバーサテート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫モノキレート、ジブチル錫オキサイドとフタル酸ジエステルとの反応物、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクタンサン第1錫、酢酸第1錫、ジブチル錫マレイン酸塩ポリマー、ジメチル錫メルカプトプロピオン酸塩ポリマー等のカルボン酸金属塩ポリマー等が挙げられる。
【0024】
重合触媒としての金属錯体の具体例としては、以下の例には限定されないが、ナフテン酸鉛、オクチル酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄、ナフテン酸ニッケル、オクチル酸ビスマス、ビスマスバーサテート等のカルボン酸金属塩;
テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート、テトライソプロピルチタネート、トリエタノールアミンチタネート等のチタネート化合物類;
ビス(アセチルアセトニル)ジープロピルチタネート等のチタン酸エステルキレート類;
アルミニウムアセチルアセトナート錯体、バナジウムアセチルアセトナート錯体等の金属アセチルアセトナート錯体;等が挙げられる。
【0025】
重合触媒としての塩基性化合物としては、以下の例には限定されないが、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン類;
テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンザルコニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩類;
三共エアプロダクツ(株)製の「DABCO(登録商標)」シリーズ、同社製の「DABCO BL」シリーズ;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン等の複数の窒素を含む直鎖又は環状の第3アミン及び第4級アンモニウム塩;等が挙げられる。
【0026】
重合触媒としての有機燐化合物としては、以下の例には限定されないが、例えば、モノメチル燐酸、ジ−n−ブチル燐酸、燐酸トリフェニル等が挙げられる。
【0027】
これらの重合触媒のうち、本発明においては有機錫化合物が好ましく用いられる。
【0028】
重合工程に用いる溶媒は、ヘプタン、オクタン等を用いることができる。
【0029】
重合は還流で行い、重合(脱水縮合)の停止は適宜ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分子量測定を行いながら、反応性生成物の重量平均分子量が30,000〜55,000になった時点で温度を下げて反応停止することが好ましい。このように反応停止をすることで、得られる(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の重量平均分子量を35,000〜60,000とすることができる。
【0030】
重合(脱水縮合)の後、シラノール基末端をエンドキャップする目的でトリメチルメトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシラン等を反応停止剤として加えることも好ましい。
【0031】
<2>失活工程
上記重合工程の後、リン酸エステルを添加し、上記重合触媒を失活処理する。
【0032】
調光材料の樹脂マトリックス原料に含まれる(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂は、無溶媒の形態で好ましく用いられるものである。ポリシロキサン樹脂を得るための重合は溶媒を用いるため、重合反応後に脱溶工程を行うこととなる。
(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂合成後、反応溶媒を除去するために脱溶工程を行うが、エンドキャップによる反応停止を行っても反応停止が充分に進行しない場合があり、脱溶工程でさらにポリシロキサン樹脂の分子量が増大してしまうことがある。
この分子量増大を抑制するため、本発明においては、重合触媒の失活処理を行う。重合触媒の失活処理には、リン酸エステルを用いる。
リン酸エステルとしては、酸性リン酸エステル、ホスホン酸エステル、アルキルホスホン酸等が挙げられるが、酸性リン酸エステルが用いられることが好ましい。
【0033】
酸性リン酸エステルの具体例としては、以下の例には限定されないが、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノプロピル、リン酸ジプロピル、リン酸モノイソプロピル、リン酸ジイソプロピル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸モノペンチル、リン酸ジペンチル、リン酸モノヘキシル、リン酸ジヘキシル、リン酸モノオクチル、リン酸ジオクチル、リン酸モノ2−エチルヘキシル、リン酸ジ2−エチルヘキシル、リン酸モノデシル、リン酸ジデシル、リン酸モノイソデシル、リン酸ジイソデシル、リン酸モノウンデシル、リン酸ジウンデシル、リン酸モノドデシル、リン酸ジドデシル、リン酸モノテトラデシル、リン酸ジテトラデシル、リン酸モノヘキサデシル、リン酸ジヘキサデシル、リン酸モノオクタデシル、リン酸ジオクタデシル、リン酸モノフェニル、リン酸ジフェニル、リン酸モノベンジル、リン酸ジベンジル等が挙げられる。
【0034】
ホスホン酸エステルとしては、ホスホン酸モノメチル、ホスホン酸モノエチル、ホスホン酸モノプロピル、ホスホン酸モノイソプロピル、ホスホン酸モノブチル、ホスホン酸モノペンチル、ホスホン酸モノヘキシル、ホスホン酸モノオクチル、ホスホン酸モノエチルヘキシル、ホスホン酸モノデシル、ホスホン酸モノイソデシル、ホスホン酸モノウンデシル、ホスホン酸モノドデシル、ホスホン酸モノテトラデシル、ホスホン酸モノヘキサデシル、ホスホン酸モノオクタデシル、ホスホン酸モノフェニル、ホスホン酸モノベンジル等が挙げられる。
【0035】
アルキルホスホン酸としては、モノメチルホスホン酸、ジメチルホスホン酸、モノエチルホスホン酸、ジエチルホスホン酸、モノプロピルホスホン酸、ジプロピルホスホン酸、モノイソプロピルホスホン酸、ジイソプロピルホスホン酸、モノブチルホスホン酸、ジブチルホスホン酸、モノペンチルホスホン酸、ジペンチルホスホン酸、モノヘキシルホスホン酸、ジヘキシルホスホン酸、イソオクチルホスホン酸、ジオクチルホスホン酸、モノエチルヘキシルホスホン酸、ジエチルヘキシルホスホン酸、モノデシルホスホン酸、ジデシルホスホン酸、モノイソデシルホスホン酸、ジイソデシルホスホン酸、モノウンデシルホスホン酸、ジウンデシルホスホン酸、モノドデシルホスホン酸、ジドデシルホスホン酸、モノテトラデシルホスホン酸、ジテトラデシルホスホン酸、モノヘキサデシルホスホン酸、ジヘキサデシルホスホン酸、モノオクタデシルホスホン酸、ジオクタデシルホスホン酸等や、モノフェニルホスホン酸、ジフェニルホスホン酸、モノベンジルホスホン酸、ジベンジルホスホン酸等が挙げられる。
【0036】
リン酸エステルは重合触媒100質量部に対して25〜150質量部であることが好ましく、50〜100質量部であることがさらに好ましい。リン酸エステルの使用量が上記範囲であることにより、重合触媒の失活処理を効率よく行うことができる。
【0037】
失活処理は、70〜80℃の範囲で、20分間行う。
【0038】
<3>脱溶工程
上記失活工程の後、重合の際の溶媒を脱溶し、(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を得る。
本発明のポリシロキサン樹脂の製造方法は、重合触媒をリン酸エステルにより失活処理した後に140℃以下で脱溶することが重要である。140℃を超えて脱溶する場合、リン酸エステルにより重合触媒を失活処理した場合であっても、得られる(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の分子量を制御できない可能性がある。それにより、(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の粘度が上昇して調光フィルムに使用できなくなる可能性がある。
重合溶媒の種類にもよるが、好ましい脱溶温度は、85℃以上かつ140℃以下であり、より好ましくは110℃以上かつ120℃以下である。温度が140℃より高くなると分子量が増大し、粘度が上昇する傾向があり、調光フィルムに使用できなくなることがある。
なお、常圧において140℃以下で脱溶出来ない場合は、減圧しながら脱溶することも可能である。
【0039】
また、本発明の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法の脱溶工程後に得られた(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂は、重量平均分子量が35,000〜60,000であることが好ましく、37,000〜58,000であることがさらに好ましく、40,000〜55,000であることがより好ましい。
(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の重量平均分子量を上記範囲とするには、上述のように重合工程において、GPCで分子量の測定を行いながら30,000〜55,000になった時点で反応を停止すればよい。
【0040】
本発明の製造方法で得られる(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂は、例えば、構造単位としてジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、3−アクリロキシプロピルメチルシロキサン等を含むことが好ましく、特にジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサン及び3−アクリロキシプロピルメチルシロキサンの3種類を含むことが好ましい。
(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂において、アクリルユニットが調光材料の硬化性を制御し、ジメチルユニットとジフェニルユニットの割合で屈折率を制御することできる。
【0041】
(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂が、例えば、構造単位としてジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、3−アクリロキシプロピルメチルシロキサン等を含むためには、原料としての上記(メタ)アクリロイル基及びシラノール基を含有するシロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーとして、分子内に少なくとも1つのアクリロイル基と少なくとも2つのアルコキシ基とを含有する(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシランのメトキシ基をシラノール基に変換したシラノール化合物を用い、上記シラノール基含有シロキサン系モノマー及び/又はオリゴマーとして、両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン、両末端シラノール基含有ポリジフェニルシロキサン及び両末端シラノール基含有ポリメチルフェニルシロキサンからなる群から選ばれる2種以上で用いればよい。
【0042】
なお、本発明の製造方法で得られる(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂は、置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を有することが、調光性能、耐久性等の点から好ましい。
本発明における(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂が、上記置換基を有するためには、重合に用いる原料として、分子内に1又は2つの上記アルキル基又はアリール基を含有し、且つ2又は3つのアルコキシ基を含有するシラン化合物の上記アルコキシ基を加水分解して、シラノール基に変換したシラノール化合物を用いることで、上記アルキル基又はアリール基を有する(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を得ることができる。
分子内に1又は2つのアルキル基を含有し、2又は3つのアルコキシ基を含有するシラン化合物として、具体的には、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン等が挙げられる。これらは市販品として入手可能であり、これら以外にも、いくつかの種類を市販品として入手可能である。
【0043】
上記(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の具体例としては、例えば、特公昭53−36515号公報、特公昭57−52371号公報、特公昭61−17863号公報等に記載の樹脂を挙げることができ、重合後の脱溶工程で(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の分子量を制御するには、本発明の製造方法で製造することが重要である。
【0044】
<本発明の調光フィルム>
本発明の調光フィルムは、2つの透明導電性樹脂基材と、上記2つの透明導電性樹脂基材に挟持された調光層と、を有し、上記調光層が、樹脂マトリックスと上記樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液とを含む調光材料からなるものである。
(調光層)
本発明における調光層は、一般に、調光材料を用いて形成することが可能である。本発明における調光材料は、紫外線、可視光線、電子線等のエネルギー線を照射することにより硬化する樹脂マトリックス原料と、光調整粒子が流動可能な状態で分散媒中に分散した光調整懸濁液と、を含有する。光調整懸濁液中の分散媒が、樹脂マトリックス原料(高分子媒体)及びその硬化物(樹脂マトリックス)と相分離しうるものであることが好ましい。互いに非相溶又は部分相溶性の樹脂マトリックス原料(高分子媒体)と分散媒とを組み合わせて用いることが好ましい。
なお、樹脂マトリックス原料は、本願の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造方法で得られた(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂(A)及び光重合開始剤(B)を含む。
すなわち、本発明の調光フィルムの調光層では、液状の光調整懸濁液が、樹脂マトリックス原料が硬化した固体状の樹脂マトリックス内に微細な液滴の形態で分散されている。光調整懸濁液に含まれる光調整粒子は、棒状又は針状であることが好ましい。
【0045】
このような調光フィルムに電界を印加すると、樹脂マトリックス中に分散されている光調整懸濁液の液滴中に、浮遊分散されている電気的双極子モーメントをもつ光調整粒子が、電界に対し平行に配列されることにより、液滴が入射光に対して透明な状態に転換され、視野角度による散乱、又は透明性低下が殆どない状態で入射光を透過させる。
【0046】
上記光重合開始剤(B)の使用量は、上記(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂(A)100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましく、0.2〜10質量部であることがより好ましい。
【0047】
光重合開始剤(B)としては、エネルギー線に露光するとラジカル重合を活性化する光重合開始剤を用いることができる。
【0048】
光重合開始剤としては、光照射により分解してラジカルを発生して重合性化合物の重合を開始し得るものであればよく、例えばアセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
光重合開始剤の市販品としては、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア500、イルガキュア2959、イルガキュア127、イルガキュア754、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア379EG、イルガキュア1300、イルガキュア819、イルガキュア819DW、イルガキュア1800、イルガキュア1870、イルガキュア784、イルガキュアOXE01、イルガキュアOXE02、イルガキュア250、イルガキュアPAG103、イルガキュアPAG108、イルガキュアPAG121、イルガキュアPAG203、ダロキュア1173、ダロキュアMBF、ダロキュアTPO、ダロキュア4265、ダロキュアEDB、ダロキュアEHA等(以上、チバ・ジャパン(株)製)、C0014、B1225、D1640、D2375、D2963、M1245、B0103、C1105、C0292、E0063、P0211、I0678、P1410、P1377、M1209、F0362、B0139、B1275、B0481、D1621、B1267、B1164、C0136、C1485、I0591、F0021、A0061、B0050、B0221、B0079、B0222、B1019、B1015、B0942、B0869、B0083、B2380、B2381、D1801、D3358、D2248、D2238、D2253、B1231、M0792、A1028、B0486、T0157、T2041、T2042、T1188、T1608等(以上、東京化成工業(株)製)が挙げられる。
【0050】
本発明において、光調整懸濁液中の分散媒としては、上記樹脂マトリックス原料(高分子媒体)及びその硬化物である樹脂マトリックスと相分離するものが用いられる。好ましくは、光調整粒子を流動可能な状態で分散させる役割を果たし、また、光調整粒子に選択的に付着被覆し、樹脂マトリックス原料(高分子媒体)との相分離の際に光調整粒子が相分離された液滴相に移動するように作用し、電気導電性がなく、樹脂マトリックス原料(高分子媒体)とは親和性がなく、調光フィルムとした際に樹脂マトリックス原料(高分子媒体)から形成される樹脂マトリックスとの屈折率が近似した液状共重合体を使用する。
液状共重合体として例えば、フルオロ基及び/又は水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーが好ましく、フルオロ基及び水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーがより好ましい。このような共重合体を使用すると、フルオロ基、水酸基のどちらか1つのモノマー単位は光調整粒子に親和性があり、残りのモノマー単位は樹脂マトリックス原料(高分子媒体)中で光調整懸濁液が液滴として安定に維持するために働くことから、光調整懸濁液内に光調整粒子が分散しやすく、相分離の際に光調整粒子が相分離される液滴内に誘導されやすい。
【0051】
このようなフルオロ基及び/又は水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーとしては、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸3,5,5−トリメチルヘキシル/アクリル酸2−ヒドロキシプロピル/フマール酸共重合体、アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、アクリル酸1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ブチル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ヘキシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸オクチル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸デシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ウンデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ドデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸トリデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸テトラデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸ヘキサデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体、メタクリル酸オクタデシル/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル共重合体等が挙げられる。
【0052】
これらの(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーは、GPCで測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が1,000〜20,000であることが好ましく、2,000〜10,000であることがより好ましい。
【0053】
これらの(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーの原料となるフルオロ基含有モノマーの使用量は、原料であるモノマー総量の6〜12モル%であることが好ましく、より効果的には7〜8モル%である。フルオロ基含有モノマーの使用量が12モル%を超える場合には、屈折率が大きくなり、光透過率が低下する傾向がある。
また、これらの(メタ)アクリル酸エステルオリゴマーの原料となる、水酸基含有モノマーの使用量は0.5〜22.0モル%であることが好ましく、より効果的には1〜8モル%である。水酸基含有モノマーの使用量が22.0モル%を超える場合には、屈折率が大きくなり、光透過性が低下する傾向がある。
【0054】
本発明に使用される光調整懸濁液は、分散媒中に光調整粒子が流動可能に分散したものである。光調整粒子としては、例えば、樹脂マトリックス原料(高分子媒体)、又は樹脂マトリックス原料(高分子媒体)中のポリシロキサン樹脂等と親和力がなく、また光調整粒子の分散性を高めることができる高分子分散剤の存在下で、光調整粒子の前駆体であるピラジン−2,3−ジカルボン酸・2水和物、ピラジン−2,5−ジカルボン酸・2水和物、ピリジン−2,5−ジカルボン酸・1水和物からなる群の中から選ばれた1つの物質とヨウ素及びヨウ化物を反応させて作ったポリヨウ化物の針状小結晶が、好ましく用いられる。使用しうる高分子分散剤としては、例えば、ニトロセルロース等が挙げられる。ヨウ化物としては、ヨウ化カルシウム等が挙げられる。このようにして得られるポリヨウ化物としては、例えば、下記一般式
CaI(C)・XHO (X:1〜2)
CaI(C・cHO (a:3〜7、b:1〜2、c:1〜3)
で表されるものが挙げられる。これらのポリヨウ化物は針状結晶であることが好ましい。
【0055】
また、調光フィルム用光調整懸濁液に用いる光調整粒子として、米国特許第2,041,138号明細書(E.H.Land)、米国特許第2,306,108号明細書(Landら)、米国特許第2,375,963号明細書(Thomas)、米国特許第4,270,841号明細書(R.L.Saxe)及び英国特許第433,455号明細書に開示されている光調整粒子も、使用することができる。これらの特許によって公知とされたポリヨウ化物の結晶は、ピラジンカルボン酸、又はピリジンカルボン酸の1つを選択して、ヨウ素、塩素又は臭素と反応させることにより、ポリヨウ化物、ポリ塩化物又はポリ臭化物等のポリハロゲン化物とすることによって作製されている。これらのポリハロゲン化物は、ハロゲン原子が無機質又は有機質と反応した錯化合物で、これらの詳しい製法は、例えば、サックスの米国特許第4,422,963号明細書に開示されている。
【0056】
サックスが開示しているように、光調整粒子を合成する過程において、均一な大きさの光調整粒子を形成させるため、及び、特定の懸濁液の分散媒中での光調整粒子の分散性を向上させるため、上述したように高分子分散剤としてニトロセルロースのような高分子物質を使用することが好ましい。しかしながら、ニトロセルロースを用いると、ニトロセルロースで被覆された結晶が得られ、このような結晶を光調整粒子として用いる場合、光調整粒子は相分離の時に分離される液滴内に浮遊せず、樹脂マトリックス内に残存することがある。これを防ぐためには、樹脂マトリックス原料(高分子媒体)に用いる樹脂を本発明における(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂とすることが好ましく、(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を用いた場合には、調光フィルム製造の際に光調整粒子が相分離により形成された微細な液滴内へ容易に分散、浮遊し、その結果、より優れた可変能力を得ることができる。
【0057】
調光フィルムに用いられる光調整粒子の粒子サイズは、調光フィルムとしたときの印加電圧に対する応答時間と、光調整懸濁液中の凝集及び沈殿との関係から、以下のサイズが好ましい。
【0058】
光調整粒子の長径は、225〜625nmが好ましく、250〜550nmがより好ましく、300〜500nmがさらに好ましい。
【0059】
光調整粒子の短径に対する長径の比率、すなわちアスペクト比は3〜8が好ましく、3.3〜7がより好ましく、3.6〜6がさらに好ましい。
【0060】
本発明における光調整粒子の長径と短径は、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡で光調整粒子を撮影し、撮影した画像より任意に50個の光調整粒子を抽出し、各光調整粒子の長径と短径を平均値として算出することができる。ここで、長径とは、上記撮影した画像により二次元視野内に投影された光調整粒子について、最も長い部分の長さとする。また、短径とは、上記長径に直交する最も長い部分の長さとする。
【0061】
また、本発明における光調整粒子の粒子径を評価する方法として、光子相関法や動的光散乱法の原理を用いた粒度分布計を用いることができる。この方法では直接粒子の大きさや形状を計測するのではなく、粒子を球状と仮定して相当径を評価することになり、SEM観察とは異なる値となる。特に、シスメックス株式会社製ゼータサイザーナノシリーズを用い、Z averageとして出力される相当径を粒子径とした場合に、光調整粒子の粒子径(以下、「粒度分布測定により求められる粒子径」ともいう)は135〜220nmが好ましく、140〜210nmがより好ましく、145〜205nmがさらに好ましい。
【0062】
このZ average値は例えば光相関法や動的光散乱法に基づいた、違う粒度分布計の測定値、具体的には上述の透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡で測定される光調整粒子の長径、短径とよい相関を示すことが知られおり、粒子径を評価する指標として適当である。
【0063】
本発明における光調整懸濁液は、光調整懸濁液の全質量に対し、光調整粒子を1〜15質量%含有することが好ましく、2〜10質量%含有することがより好ましい。また、光調整懸濁液の全質量に対し、分散媒を30〜99質量%含有することが好ましく、50〜96質量%含有することがより好ましい。
【0064】
また、調光材料は、光調整懸濁液を、樹脂マトリックス原料(高分子媒体)100質量部に対して、1〜100質量部含有することが好ましく、4〜70質量部含有することがより好ましく、6〜60質量部含有することがさらに好ましく、8〜50質量部含有することが特に好ましい。
【0065】
本発明における樹脂マトリックス原料(高分子媒体)の屈折率と分散媒の屈折率は近似していることが好ましい。具体的には、本発明における樹脂マトリックス原料(高分子媒体)と分散媒との屈折率の差は、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.003以下である。
【0066】
(透明導電性樹脂基材)
本発明による調光材料を利用して調光フィルムを製造するときに使用される透明導電性樹脂基材としては、一般的に、透明樹脂基材に、透明導電膜(ITO、SnO、In、有機導電膜等の膜)がコーティングされており、透明樹脂基材と透明導電層を合わせた光透過率が80%以上であって、表面抵抗値が3〜3000Ωの透明導電性樹脂基材を使用することができる。なお、光透過率はJIS K7105の全光線透過率の測定法に準拠して測定することができる。
【0067】
本発明における透明樹脂基材としては、例えば、高分子フィルム等を使用することができる。
上記高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、アクリル樹脂系のフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等の樹脂フィルムが挙げられるが、ポリエチレンテレフタレートフィルムが、透明性に優れ、成形性、接着性、加工性等に優れるので好ましい。
【0068】
透明樹脂基材にコーティングされる透明導電膜の厚みは、10〜5,000nmであることが好ましく、透明樹脂基材の厚みは特に制限はない。例えば、高分子フィルムの場合には10〜200μmが好ましい。
透明樹脂基材の間隔が狭く、異物質の混入等により発生する短絡現象を防止するために、透明導電膜の上に数nm〜1μm程度の厚さの透明絶縁層が形成されている透明樹脂導電性基材を使用してもよい。また、本発明の調光フィルムを反射型の調光窓に利用する場合(例えば、自動車用リアビューミラー等)は、反射体であるアルミニウム、金、又は銀のような導電性金属の薄膜を電極として直接用いてもよい。
【0069】
本発明の調光フィルムは、透明導電性樹脂基材と調光層との密着性を向上させるためのプライマー層を有する2枚の透明導電性樹脂基材に調光層が挟持されているか、あるいはプライマー層を有する透明導電性樹脂基材とプライマー層を有さない透明導電性樹脂基材の2枚の透明導電性樹脂基材に挟持されていても良い。
【0070】
上記プライマー層は、ペンタエリスリトール骨格を含有するウレタンアクリレートを含有する材料、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレートを含有する材料、金属酸化物微粒子を有機バインダー樹脂に分散させた材料、分子内に1つ以上の重合性基を有するリン酸エステル、アミノ基を有するシランカップリング剤等からなる薄膜で形成されるのが好ましい。
【0071】
本発明における透明導電性樹脂基材のプライマー処理(プライマー層の形成)は、例えば、プライマー層を形成する材料を、バーコーター法、マイヤーバーコーター法、アプリケーター法、ドクターブレード法、ロールコーター法、ダイコーター法、コンマコーター法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独又は組み合わせて用いて、透明導電性樹脂基材に塗布することにより行うことができる。なお、塗布する際は必要に応じて適当な溶剤で希釈し、プライマー層を形成する材料の溶液を用いてもよい。溶剤を用いた場合には、透明導電性樹脂基材上に塗布した後乾燥を要する。
なお、プライマー層となる塗膜は必要に応じて透明導電性樹脂基材の片面のみ(透明導電膜側)に形成してもよいし、含浸法やディップコート法によって両面に形成してもよい。
【0072】
プライマー層形成に用いる溶剤としては、プライマー層を形成する材料を溶解あるいは分散し、プライマー層形成後に乾燥等により除去できるものであればよく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエタノール、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、アニソール、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、エチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチルジグリコール、ジメチルジグリコール、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル等を用いることができ、これらの混合溶媒でも良い。
【0073】
調光層となる調光材料の塗布には、例えば、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ロールコーター、ダイコーター、コンマコーター等の公知の塗工手段を用いることができる。
調光材料を、透明導電性樹脂基材上に設けたプライマー層面に塗布する、あるいは、一方にプライマー層を有さない透明導電性樹脂基材を用いる場合には、透明導電性樹脂基材に直接塗布する。なお、塗布する際は、必要に応じて、適当な溶剤で希釈してもよい。溶剤を用いた場合には、透明導電性樹脂基材上に塗布した後に乾燥を要する。
【0074】
調光材料の塗布に用いる溶剤としては、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、エチルアセテート、エタノール、メタノール、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル等を用いることができる。
液状の光調整懸濁液が、固体の樹脂マトリックス中に微細な液滴形態で分散されている調光フィルムを形成するためには、調光材料をホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等で混合して樹脂マトリックス原料(高分子媒体)中に光調整懸濁液を微細に分散させる方法、樹脂マトリックス原料(高分子媒体)中の(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の重合による相分離法、溶媒揮発による相分離法、又は温度による相分離法等を利用することができる。
【0075】
(調光フィルム)
本発明の調光フィルムは、調光材料を用いて形成することが可能であり、調光材料は、樹脂マトリックス原料(高分子媒体)から形成された樹脂マトリックスと、樹脂マトリックス中に分散した光調整懸濁液とからなり、調光層を形成する。調光層は2枚の透明導電性樹脂基材に挟持されている。
【0076】
調光フィルムを得るためには、まず、液状の光調整懸濁液を、樹脂マトリックス原料(高分子媒体)と均質に混合し、光調整懸濁液が樹脂マトリックス原料(高分子媒体)中に液滴状態で分散した混合液からなる調光材料を得る。
【0077】
具体的には、以下の通りである。光調整粒子を溶媒に分散した液と光調整懸濁液の分散媒を混合し、ロータリーエバポレーター等で溶媒を留去し、光調整懸濁液を作製する。
次いで、光調整懸濁液及び樹脂マトリックス原料(高分子媒体)を混合し、光調整懸濁液が樹脂マトリックス原料(高分子媒体)中に液滴状態で分散した混合液(調光材料)とする。
【0078】
この調光材料を、透明導電性樹脂基材上に一定な厚さで塗布し、必要に応じて調光材料に含有される溶剤を乾燥除去した後、高圧水銀灯等を用いて紫外線を照射し樹脂マトリックス原料(高分子媒体)を硬化させる。その結果、硬化した樹脂マトリックス中に、光調整懸濁液が液滴状に分散されている調光層ができ上がる。樹脂マトリックス原料(高分子媒体)と光調整懸濁液との混合比率を様々に変えることにより、調光層の光透過率を調節することができる。
このようにして形成された調光層の上にもう一方の透明導電性樹脂基材を密着させることにより、調光フィルムが得られる。あるいは、この調光材料を、透明導電性樹脂基材上に一定な厚さで塗布し、必要に応じて調光材料に含有される溶剤を乾燥除去した後、もう一方の透明導電性樹脂基材でラミネートした後に紫外線を照射し、樹脂マトリックス原料(高分子媒体)を硬化させてもよい。2枚の透明導電性樹脂基材の両方の上に調光層を形成し、それを調光層同士が密着するようにして積層してもよい。調光層の厚みは、5〜1,000μmが好ましく、20〜100μmがより好ましい。
【0079】
樹脂マトリックス中に分散されている光調整懸濁液の液滴の大きさ(平均液滴径)は、通常0.5〜100μm、好ましくは0.5〜20μm、より好ましいくは1〜5μmである。
液滴の大きさは、光調整懸濁液を構成している各成分の濃度、光調整懸濁液及び樹脂マトリックス原料(高分子媒体)の粘度、光調整懸濁液中の分散媒の樹脂マトリックス原料(高分子媒体)に対する相溶性等により決められる。平均液滴径は、例えば、SEMを用いて、調光フィルムの一方の面方向から写真等の画像を撮影し、任意に選択した複数の液滴直径を測定し、その平均値として算出することができる。また、調光フィルムの光学顕微鏡での視野画像をデジタルデータとしてコンピュータに取り込み、画像処理インテグレーションソフトウェアを使用し算出することも可能である。
【0080】
上記の方法によれば、電場の形成により任意に光透過率が調節できる調光フィルムが提供される。この調光フィルムは、電場が形成されていない場合にも、光の散乱のない鮮明な着色状態を維持し、電場が形成されると透明な状態に転換される。この能力は、20万回以上の可逆的反復特性を示す。透明な状態においての光透過率増進と、着色された状態における鮮明度の増進のためには、液状の光調整懸濁液の屈折率と、樹脂マトリックスの屈折率を一致させることが好ましい。
調光フィルムを作動させるための使用電源は交流で、10〜100ボルト(実効値)、30Hz〜500kHzの周波数範囲とすることができる。
本発明の調光フィルムは、電界に対する応答時間を、消色時には1〜50秒以内、着色時には1〜100秒以内とすることができる。また、紫外線耐久性は、750W紫外線等を利用した紫外線照射試験の結果、250時間が経過した後にも安定な可変特性を示し、−50℃〜90℃で長時間放置した場合にも、初期の可変特性を維持することが可能である。
【0081】
従来技術である液晶を使用した調光フィルムの製造における、水を用いたエマルジョンによる方法を使用すると、液晶が水分と反応して光調整特性を失うことが多く、同一の特性のフィルムを製造しにくいという問題がある。本発明においては、液晶ではなく、光調整粒子が光調整懸濁液内に分散されている液状の光調整懸濁液を使用するため、液晶を利用した調光フィルムとは異なり、電界が印加されていない場合にも光が散乱せず、鮮明度が優れて視野角の制限のない着色状態を表す。そして、光調整粒子の含量、液滴形態や膜厚を調節したり、又は電界強度を調節することにより、光可変度を任意に調節できる。また、本発明の調光フィルムは、液晶を用いないことから、紫外線露光による色調変化及び可変能力の低下、大型製品特有の透明導電性樹脂基材の周辺部と中央部間に生ずる電圧降下に伴う応答時間差も解消される。
【0082】
本発明による調光フィルムに電界が印加されていないときには、光調整懸濁液内の光調整粒子のブラウン運動のため、光調整粒子の光吸収、2色性効果による鮮明な着色状態を示す。しかし、電界が印加されると、液滴又は液滴連結体の中の光調整粒子が電場に平行に配列され、透明な状態に転換される。
また、フィルム状態であるがため、液状の光調整懸濁液をそのまま使用する従来技術による調光硝子の問題点、即ち、2枚の透明導電性樹脂基材の間への液状の懸濁液の注入の困難性、製品の上下間の水圧差による下部の膨張現象、風圧等の外部環境による基材間隔の変化による局部的な色相変化、透明導電性樹脂基材の間の密封材の破壊による調光材料の漏洩が解決される。
【0083】
また、液晶を利用した従来技術による調光窓の場合には、液晶が紫外線に容易に劣化し、またネマチック液晶の熱的特性によりその使用温度の範囲も狭い。更に、光学特性面においても、電界が印加されていない場合には光散乱による乳白色の半透明な状態を示し、電界が印加される場合にも、完全には鮮明化せず、乳濁状態が残存する問題点がある。従って、このような調光窓では、既存の液晶表示素子で動作原理として利用されている光の遮断及び透過による表示機能が不可能である。しかし、本発明による調光フィルムを使用すれば、このような問題点が解決できる。
【0084】
本発明の調光フィルムは、例えば、室内外の仕切り(パーティッション)、建築物用の窓硝子/天窓、電子産業及び映像機器に使用される各種平面表示素子、各種計器板と既存の液晶表示素子の代替品、光シャッター、各種室内外広告及び案内標示板、航空機/鉄道車両/船舶用の窓硝子、自動車用の窓硝子/バックミラー/サンルーフ、眼鏡、サングラス、サンバイザー等の用途に好適に使用することができる。
【0085】
適用法としては、本発明の調光フィルムを直接使用することも可能であるが、用途によっては、例えば、本発明の調光フィルムを2枚の基材に挟持させて使用したり、基材の片面に貼り付けて使用したりしてもよい。上記基材としては、例えば、ガラスや、上記透明樹脂基材と同様の高分子フィルム等を使用することができる。
本発明による調光フィルムの構造及び動作を図面により更に詳しく説明すると、下記の通りである。
【0086】
図1は、本発明の一態様の調光フィルムの構造概略図で、調光層1が、透明導電膜5aがコーティングされている2枚の透明樹脂基材5bからなる透明導電性樹脂基材4の間に挟まれている。調光層1と透明導電性樹脂基材4の間にはプライマー層6が設けられている。スイッチ8の切り換えにより、電源7と2枚の透明導電膜5の接続、非接続を行う。調光層1は、本発明における(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を含む樹脂マトリックス原料(高分子媒体)を紫外線硬化させたフィルム状の樹脂マトリックス2と、樹脂マトリックス2内に液滴3の形態で分散されている液状の光調整懸濁液からなる。
【0087】
図2は、図1に示した調光フィルムの作動を説明するための図面で、スイッチ8が切られ、電界が印加されていない場合を示す。この場合には、液状の光調整懸濁液の液滴3を構成している分散媒9の中に分散している光調整粒子10のブラウン運動により、入射光11は光調整粒子10に吸収、散乱又は反射され、透過できない。しかし、図3に示すように、スイッチ8を接続して電界を印加すると、光調整粒子10が印加された電界によって形成される電場と平行に配列するため、入射光11は配列した光調整粒子10間を通過するようになる。このようにして、散乱及び透明性の低下のない光透過機能が付与される。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の実施例及びその比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
(光調整粒子の製造例)
ヨウ素(JIS試薬特級、和光純薬工業(株)製)と酢酸イソペンチル(試薬特級、和光純薬工業(株)製)から8.5質量%ヨウ素の酢酸イソペンチル溶液を、また硝酸セルロース1/4LIG(商品名、ベルジュラックNC社製)と酢酸イソペンチルから20.0質量%硝酸セルロースの酢酸イソペンチル溶液を調製した。ヨウ化カルシウム水和物(化学用、和光純薬工業(株)製)を加熱乾燥して無水化して酢酸イソペンチルに溶解させ、20.9質量%ヨウ化カルシウム溶液を調整した。300mlの四口フラスコに撹拌機と冷却管を備え、ヨウ素溶液65.6g、硝酸セルロース溶液82.93gを加え、水浴温度を35〜40℃としてフラスコを加熱した。フラスコ内容物の温度が35〜40℃となった後、脱水メタノール(試薬特級、和光純薬工業(株)製)を7.41g、精製水(和光純薬工業(株)製)を0.525g加えて撹拌した。ヨウ化カルシウム溶液を15.6g、次いでピラジン−2,5−ジカルボン酸(日化テクノサービス(株)製)を3.70g加えた。水浴温度を42〜44℃として4時間撹拌した後、放冷した。
【0090】
得られた光調整粒子は粒度分布測定で求められる粒子径139nm、SEM観察で長軸259nm、アスペクト比4.1であった。また、得られた合成液を9260Gで5時間遠心分離後、傾斜して上澄み液を除き、底部に残存した沈殿にこの沈殿の質量の5倍の酢酸イソペンチルを加え超音波で沈殿を分散し、液全体の質量を測定した。この分散した液を1g金属プレートに秤量し、120℃1時間で乾燥後、再び質量を測定し、不揮発分比%を求めた。この不揮発分比と液全体の質量から全不揮発分量、すなわち沈殿収量4.15gを求めた。
【0091】
(光調整懸濁液の製造例)
上記の(光調整粒子の製造例)で得た光調整粒子45.5gを、光調整懸濁液の分散媒としてのアクリル酸ブチル(和光特級、和光純薬工業(株)製)/メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル(工業用、共栄社化学工業(株)製)/アクリル酸2−ヒドロキシエチル(和光1級、和光純薬工業(株)製)共重合体(モノマーモル比:18/1.5/0.5、重量平均分子量:2,000、屈折率1.4719)50gに加え、撹拌機により30分間混合した。次いで酢酸イソアミルを、ロータリーエバポレーターを用いて133Paの真空で80℃、3時間減圧除去し、光調整粒子の沈降及び凝集現象のない安定な液状の光調整懸濁液を製造した。
【0092】
(実施例1)
((メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造例)
ディーンスタークトラップ、冷却管、撹拌機、加熱装置を備えた四つ口フラスコに、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン(商品名:KBM−5102、信越化学工業(株)製)10.7g、蒸留水1.4、酢酸(和光純薬工業(株)製)0.03g、質量比でエタノール/メタノール=9/1の混合溶媒6.3gを仕込み、65℃に昇温して5時間反応させた。反応溶液を40℃以下まで冷却した後、水封式真空ポンプで100Paに減圧して70℃まで昇温して2時間、脱溶工程を行った。その後、室温まで冷却してアルコキシシランのメトキシ基の一部をシラノール基へ変換した化合物10.0gを得た。また、シラノールへの変換率は53.1%であった。
ディーンスタークトラップ、冷却管、撹拌機、加熱装置を備えた四つ口フラスコに、両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン(商品名:X−21−3114、信越化学工業(株)製)21.2g、両末端シラノール基含有ポリメチルフェニルシロキサン(商品名:X−21−3193B、信越化学工業(株)製)75.0g、前記KBM−5102のメトキシ基をシラノール基に変換したもの10.0g、ビス(2−エチルヘキサン酸)錫(商品名:KCS−405T、城北化学工業(株)製)0.01gを仕込み、ヘプタン中100℃で5時間リフラックスし、反応を行った。GPC測定で分子量が42,300になった時点で加熱を中止し、反応溶液温度が50℃まで下がった時点でトリメチルエトキシシラン(商品名:KBM−31、信越化学工業(株)製)80.0gを添加し、再び85℃において2時間リフラックスしてエンドキャップ反応させた。
【0093】
次いで温度を75℃に冷却してリン酸ジエチル(別名:エチルアシッドホスフェート)(商品名:JP−502、城北化学工業(株)製)0.01g(脱水縮合触媒ビス(2−エチルヘキサン酸)錫100質量部に対して100質量部)を添加し20分攪拌した後30℃まで冷却した。次いでメタノールを210g、エタノールを90g添加し20分攪拌した。12時間静置した後アルコール層を除去し、水封式真空ポンプで100Paに減圧して110℃に昇温し5時間、脱溶を行い、重量平均分子量46,700、粘度11,610mPa・sの(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂(屈折率1.4757)90.0gを得た。
【0094】
(調光材料の調製)
上記((メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の製造例)で得た(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂7.0g、光重合開始剤としてのビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(商品名:イルガキュア819、チバ・ジャパン(株)製)0.2g、上記(光調整懸濁液の製造例)で得た光調整懸濁液3.0gを添加し、1分間機械的に混合し、調光材料を製造した。
【0095】
(調光フィルムの製造)
一方、ITO(インジウム錫の酸化物)の透明導電膜(厚み300Å)がコーティングされている表面電気抵抗値が200〜700ΩのPETフィルム(300R、東洋紡績(株)製、厚み125μm)からなる透明導電性樹脂基材の上に、上記で得られた調光材料を全面塗布し、次いでその上に同様にプライマー層を形成した同じ透明導電性樹脂基材を、透明導電膜が調光材料の塗布層に向くようにして積層して密着させた。次いでメタルハライドランプを用いて3000mJ/cmの紫外線を上記積層した透明導電性樹脂基材のポリエステルフィルム側から照射し、光調整懸濁液が球形の液滴として紫外線硬化した樹脂マトリックス内に分散形成されたフィルム状の厚み90μmの調光層が透明導電性樹脂基材に挟まれた厚み340μm調光フィルムを製造した。
【0096】
次いで、この調光フィルムの端部から調光層を除去し、端部の透明導電膜を電圧印加用の通電をとるために露出させた(図4参照)。
調光フィルム中の光調整懸濁液の液滴の大きさ(平均液滴径)は、平均3μmであった。調光フィルムの光透過率は、交流電圧を印加しない場合(未印加時)は1.0%であった。また、50Hzの交流電圧100V(実効値)の印加時の調光フィルムの光透過率は46%であり、電界印加時と電界未印加時の光透過率の比が46と大きく、良好であった。
【0097】
目視により調光フィルム端部(調光層が除去され透明導電膜が露出した部分)を観察したところ、調光フィルムの厚み方向中心部へ向かっての透明導電性樹脂基材の曲がりこみは、きわめて小さかった(図4)。
なお、調光フィルム中の光調整懸濁液の液滴の大きさ、調光フィルムの光透過率の評価は下記のように測定した。また、粘度及び重量平均分子量については下記のように測定した。
【0098】
[光調整懸濁液の液滴の大きさの測定方法]
調光フィルムの一方の面方向からSEM写真を撮影し、任意に選択した複数の液滴直径を測定し、その平均値として算出した。
【0099】
[調光フィルムの光透過率の測定方法]
分光式色差計SZ−Σ90(日本電色工業(株)製)を使用し、A光源、視野角2度で測定したY値(%)を光透過率とした。なお、電界印加時と未印加時の光透過率を測定した。
【0100】
[粘度測定]
E型粘度計(型式:RE−80U、東機産業(株)製)を用い、測定温度25℃で測定した。
[重量平均分子量測定]
下記GPCを用いて測定した。
機種:L6000(株式会社日立製作所製)
検出器:L−3300RI(株式会社日立製作所製)
カラム:Gelpack(日立化成工業(株)製) GL−R440+GL−R450+GL−R400M(カラムは3種連結)
【0101】
(実施例2)
リン酸ジエチルを0.005g(脱水縮合触媒ビス(2−エチルヘキサン酸)錫100質量部に対して50質量部)添加したことを除いては、実施例1と同様にしてポリシロキサン樹脂を合成し、重量平均分子量46,900、粘度11,330mPa・sの(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂(屈折率1.4749)85.0gを得た。
このポリシロキサン樹脂を用いて実施例1と同様に作製した調光フィルムの光透過率は、交流電圧を印加しない場合(未印加時)は1.1%であった。また、50Hzの交流電圧100V(実効値)の印加時の調光フィルムの光透過率は48%であり、電界印加時と電界未印加時の光透過率の比が44と大きく、良好であった。
【0102】
(実施例3)
リン酸ジエチルを0.0025g(脱水縮合触媒ビス(2−エチルヘキサン酸)錫100質量部に対して25質量部)添加したことを除いては、実施例1と同様にして(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を合成し、重量平均分子量47,700、粘度11,210mPa・sのポリシロキサン樹脂(屈折率1.4747)88.0gを得た。
このポリシロキサン樹脂を用いて実施例1と同様に作製した調光フィルムの光透過率は、交流電圧を印加しない場合(未印加時)は1.1%であった。また、50Hzの交流電圧100V(実効値)の印加時の調光フィルムの光透過率は49%であり、電界印加時と電界未印加時の光透過率の比が45と大きく、良好であった。
【0103】
(実施例4)
脱溶の温度を130℃で行ったことを除いては、実施例1と同様にしてポリシロキサン樹脂を合成し、重量平均分子量46,400、粘度11,480mPa・sの(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂(屈折率1.4741)86.0gを得た。
このポリシロキサン樹脂を用いて実施例1と同様に作製した調光フィルムの光透過率は、交流電圧を印加しない場合(未印加時)は0.9%であった。また、50Hzの交流電圧100V(実効値)の印加時の調光フィルムの光透過率は46%であり、電界印加時と電界未印加時の光透過率の比が51と大きく、良好であった。
【0104】
(実施例5)
脱溶の温度を140℃で行ったことを除いては、実施例1と同様にしてポリシロキサン樹脂を合成し、重量平均分子量46,800、粘度11,670mPa・sの(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂(屈折率1.4745)81.0gを得た。
このポリシロキサン樹脂を用いて実施例1と同様に作製した調光フィルムの光透過率は、交流電圧を印加しない場合(未印加時)は1.0%であった。また、50Hzの交流電圧100V(実効値)の印加時の調光フィルムの光透過率は47%であり、電界印加時と電界未印加時の光透過率の比が47と大きく、良好であった。
【0105】
(比較例1)
リン酸エステルを添加せずに脱溶を行ったことを除いては、実施例1と同様にしてポリシロキサン樹脂を合成し、重量平均分子量79,000、粘度19,900mPa・sの(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂(屈折率1.4753)88.0gを得た。このポリシロキサン樹脂は粘度が大きすぎるため調光フィルムの作製には使用出来なかった。
【0106】
(比較例2)
脱溶の温度を150℃で行ったことを除いては、実施例1と同様にして(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を合成し、重量平均分子量は65,500、粘度18,500mPa・sのポリシロキサン樹脂(屈折率1.4748)85.6gを得た。このポリシロキサン樹脂は粘度が大きすぎるため調光フィルムの作製には使用出来なかった。
【0107】
(比較例3)
リン酸ジエチルを0.001g(脱水縮合触媒ビス(2−エチルヘキサン酸)錫100質量部に対して10質量部)添加したことを除いては、実施例1と同様にして(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を合成し、重量平均分子量は61,300、粘度17,900mPa・sのポリシロキサン樹脂(屈折率1.4755)を得た。このポリシロキサン樹脂は粘度が大きすぎるため調光フィルムの作製には使用出来なかった。
【0108】
(実施例6)
ディーンスタークトラップ、冷却管、撹拌機、加熱装置を備えた四つ口フラスコに、(3−アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン(商品名:KBM−5102、信越化学工業(株)製)15.0g、蒸留水1.9g、酢酸(和光純薬工業(株)製)0.04g、質量比でエタノール/メタノール=9/1の混合溶媒8.9gを仕込み、65℃に昇温して5時間反応させた。反応溶液を40℃以下まで冷却した後、100Paに減圧して70℃まで昇温して2時間、脱溶工程を行った。その後、室温まで冷却してアルコキシシランのメトキシ基の一部をシラノール基へ変換した化合物14.0gを得た。また、シラノールへの変換率は54.5%であった。
ディーンスタークトラップ、冷却管、撹拌機、加熱装置を備えた四つ口フラスコに、両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン(商品名:X−21−3114、信越化学工業(株)製)48.0g、両末端シラノール基含有ポリメチルフェニルシロキサン(商品名:X−21−3193B、信越化学工業(株)製)170.0g、前記KBM−5102のメトキシ基をシラノール基に変換したもの9.0g、ビス(2−エチルヘキサン酸)錫(商品名:KCS−405T、城北化学工業(株)製)0.01gを仕込み、ヘプタン中100℃で5時間リフラックスし、反応を行った。温度を50℃まで冷却し、トリメチルエトキシシラン(商品名:KBM−31、信越化学工業(株)製)109.0gを添加し、再び85℃において2時間リフラックスしてエンドキャップ反応させた。
【0109】
次いで温度を75℃に冷却してリン酸ジエチル(別名:エチルアシッドホスフェート)(商品名:JP−502、城北化学工業(株)製)0.01g(脱水縮合触媒ビス(2−エチルヘキサン酸)錫100質量部に対して100質量部)を添加し20分攪拌した後30℃まで冷却した。次いでメタノールを210g、エタノールを90g添加し20分攪拌した。12時間静置した後アルコール層を除去し、100Paに減圧して115℃に昇温し5時間、脱溶を行い、重量平均分子量46,700、粘度16,000のポリシロキサン樹脂(屈折率1.4748)148.8gを得た。
【0110】
このポリシロキサン樹脂を用いて実施例1と同様に作製した調光フィルムの光透過率は、交流電圧を印加しない場合(未印加時)は0.9%であった。また、50Hzの交流電圧100V(実効値)の印加時の調光フィルムの光透過率は47%であり、電界印加時と電界未印加時の光透過率の比が52と大きく、良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の製造方法により、樹脂マトリックスを構成する樹脂マトリックス原料に含まれる、(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂の重量平均分子量を制御することができ、重量平均分子量が制御された(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン樹脂を用いることにより、安定した調光機能を発揮する調光フィルムを提供することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 調光層
2 樹脂マトリックス
3 液滴
4 透明導電性樹脂基材
5a 透明導電膜
5b 透明樹脂基材
6 プライマー層
7 電源
8 スイッチ
9 分散媒
10 光調整粒子
11 入射光
12 調光層を除去して露出した透明導電膜の表面
13 透明導電膜に電圧印加する導線
図1
図2
図3
図4