(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
〔補強材〕
本発明における補強材は、エポキシ樹脂中にセルロースナノファイバーが解繊された状態で含有され
たセルロースナノファイバー含有エポキシ樹脂組成物であり、繊維強化樹脂を補強する。このセルロースナノファイバーは、エポキシ樹脂中でセルロースを解繊して得られるものであり、水や有機溶剤中で解繊されるセルロースナノファイバーと比べて、実質的な非水系により、直接エポキシ樹脂中で解繊されることから、水系溶剤で解繊する時のように水和せず、マトリクス樹脂と親和性が高い状態で保持される。そのため、高濃度でセルロースナノファイバーを複合化することができ、繊維強化樹脂を補強材で補強した繊維強化樹脂複合体は、高い強度の樹脂複合体となる。
【0015】
本発明において、セルロースナノファイバーが解繊された状態とは、厳密な定義は難しいが、例えば、セルロースの繊維径について5nm〜1000nmの範囲内で解された状態にあり、その各繊維の間にエポキシ樹脂が存在することが電子顕微鏡観察などで確認することができる。エポキシ樹脂を介して繊維同士が絡み合って補強構造となることを考慮すると、繊維径について5nm〜500nmの範囲がより好ましく、5nm〜200nmの範囲にあることが特に好ましい。
【0016】
さらに、本発明においてセルロースナノファイバーが微細化された状態とは、厳密な定義は難しいが、例えば、解繊する前のセルロースの長さが、解繊した後に短くなった状態である。解繊後のセルロースナノファイバーの長さが、微細化されずに解繊する前と同じ長さであってもよいが、分散性を考慮すると、微細化され、セルロースナノファイバーの長さが解繊する前よりも短くなっていることが好ましい。したがって、エポキシ樹脂中でセルロースナノファイバーが解繊されているだけでも良いが、解繊及び微細化されていることがより好ましい。
【0017】
一方、セルロースナノファイバーが解繊されていない状態とは、セルロースの繊維径が1μmを超えて集合している状態をいい、電子顕微鏡観察などで確認することができる。
【0018】
本発明における補強材は、エポキシ樹脂中でセルロースを解繊して得られるセルロースナノファイバーを含有するため、そのまま補強材として用いることで、セルロースナノファイバーの精製工程が必要ないだけでなく、マトリクス樹脂との親和性が高まることから好適な補強材となる。
【0019】
なお、上記補強材に対しては、さらに、各種樹脂、添加剤、有機及び無機フィラーなどを適宜添加する事も可能である。各種樹脂、添加剤、有機及び無機フィラーは、セルロースの解繊前に添加しても、解繊後に添加してもかまわない。
【0020】
〔セルロース〕
本発明に使用し得るセルロースは、解繊材料及び/又は微細化材料として利用可能なものであればよく、パルプ、綿、紙、レーヨン・キュプラ・ポリノジック・アセテートなどの再生セルロース繊維、バクテリア産生セルロース、ホヤなどの動物由来セルロースなどが利用可能である。また、これらのセルロースは必要に応じて表面を化学修飾処理したものであってもよい
【0021】
パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ双方を好適に使用できる。木材パルプとしては、機械パルプと化学パルプとあり、リグニン含有量の少ない化学パルプのほうが好ましい。化学パルプにはサルファイドパルプ、クラフトパルプ、アルカリパルプなどがあるが、いずれも好適に使用できる。非木材パルプとしては、藁、バガス、ケナフ、竹、葦、楮、亜麻などいずれも利用可能である。
【0022】
綿は主に衣料用繊維に用いられる植物であり、綿花、綿繊維、綿布のいずれも利用可能である。
【0023】
紙はパルプから繊維を取り出し漉いたもので、新聞紙や廃牛乳パック、コピー済み用紙などの古紙も好適に利用できる。
【0024】
また、微細化材料としてのセルロースとして、セルロースを破砕し一定の粒径分布を有したセルロース粉末を用いても良く、日本製紙ケミカル社製のKCフロック(登録商標)、旭化成ケミカルズ社製のセオラス(登録商標)、FMC社製のアビセル(登録商標)などが挙げられる。
【0025】
本発明に使用し得るセルロースナノファイバーは修飾処理されていてもよい。本発明において、セルロースナノファイバーは、エポキシ樹脂中でセルロースを解繊及び/又は微細化してセルロースナノファイバーを製造したのち、修飾する化合物をさらに添加して、エポキシ樹脂中でセルロースナノファイバーと反応させることで得られる変性セルロースナノファイバーであってもよい。
【0026】
修飾する化合物としては、アルキル基、アシル基、アシルアミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、アリールオキシ基、シリル基、カルボキシル基等の官能基をセルロースナノファイバーに化学的に結合させて修飾する化合物等が挙げられる。
【0027】
また、化学的に結合させなくても、修飾する化合物がセルロースナノファイバーに物理的に吸着する形でセルロースナノファイバーを修飾してもよい。物理的に吸着する化合物としては界面活性剤等が挙げられ、アニオン性、カチオン性、ノニオン性いずれを用いてもよいが、カチオン性の界面活性剤を用いることが好ましい。
【0028】
〔エポキシ樹脂〕
本発明に使用し得るエポキシ樹脂は、1分子中に1個以上のオキシラン環、すなわちエポキシ基を持ち、適当な試薬により3次元網状構造を与える化合物である。
【0029】
本発明で使用し得るエポキシ樹脂は、1分子中にオキシラン環、すなわちエポキシ基を有する化合物であって、その構造等に特に制限はない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、p−tert−ブチルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ノニルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、t−ブチルカテコール型エポキシ樹脂等の多価エポキシ樹脂等が挙げられ、更に1価のエポキシ樹脂としては、ブタノール等の脂肪族アルコール、炭素数11〜12の脂肪族アルコール、フェノール、p−エチルフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−ターシャリブチルフェノール、s−ブチルフェノール、ノニルフェノール、キシレノール等の1価フェノール類とエピハロヒドリンとの縮合物、ネオデカン酸等の1価カルボキシル基とエピハロヒドリンとの縮合物等が挙げられ、グリシジルアミンとしては、ジアミノジフェニルメタンとエピハロヒドリンとの縮合物等、多価脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、大豆油、ヒマシ油等の植物油のポリグリシジルエーテルが挙げられ、多価アルキレングリコール型エポキシ樹脂としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、エリスリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、トリメチロールプロパンとエピハロヒドリンとの縮合物等、更には特開2005−239928号公報記載の水性エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは1種類で用いても、2種類以上を併用しても良い。
【0030】
前記エポキシ樹脂は、必要に応じて非反応性希釈剤等を加えて液状化・低粘度化したものであってもよい。
【0031】
〔補強材の製造方法〕
セルロースの解繊及び/又は微細化は、エポキシ樹脂中にセルロースを添加し、機械的に剪断力を与えることにより行うことができる。剪断力を与える手段としては、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、一軸押出機、二軸押出機等の押出機、バンバリーミキサー、グラインダー、加圧ニーダー、2本ロール等の公知の混練機等が挙げられる。これらの中でも高粘度の樹脂中でも安定した剪断力が得られる観点から加圧ニーダーを用いることが好ましい。これらの剪断力を与える手段によれば、セルロースナノファイバーの繊維径を5nm〜1000nmの範囲で解繊させることができ、繊維長を1mm以下の範囲内で微細化することが可能であるが、それぞれ独立にそれぞれの範囲内にすることも可能ではあるが、それぞれが同時にそれぞれの範囲内となるように処理することが好ましい。
【0032】
本発明において、エポキシ樹脂とセルロースの比率は任意に変更が可能であるが、エポキシ樹脂とセルロースの混合物に剪断力をかけて、所望の解繊状態と所望の微細化状態を得る観点からは、エポキシ樹脂とセルロースの合計量に対して、セルロースの比率を10質量%〜90質量%の範囲とすることが好ましく、30質量%〜70質量%がより好ましく、40質量%〜60質量%とすることが特に好ましい。このようにして、補強材を簡便に製造することができる。
【0033】
〔マトリクス樹脂〕
本発明に使用し得るマトリクス樹脂としては、後述する強化繊維と複合化できるものであれば特に制限が無く、モノマーであってもオリゴマーであってもポリマーであってもかまわず、ポリマーはホモポリマーであってもコポリマーであってもかまわない。また、これらは一種類でも複数種類を組み合わせて使用してもかまわない。ポリマーの場合、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であっても、いずれも使用することができる。
【0034】
熱可塑性樹脂とは、加熱により溶融成形を行う樹脂を言う。その具体例としてはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、酢酸セルロース樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリケトン樹脂、液晶ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0035】
熱硬化性樹脂とは、加熱または光・紫外線、放射線や触媒などの手段によって硬化される際に実質的に不溶かつ不融性に変化し得る特性を持った樹脂である。その具体例としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリル(テレ)フタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。また、本発明の樹脂の主成分が熱可塑性樹脂の場合、熱可塑性樹脂の特性を損なわない範囲で少量の熱硬化性樹脂を添加することや、逆に主成分が熱硬化性樹脂の場合に熱硬化性樹脂の特性を損なわない範囲で少量の熱可塑性樹脂やアクリル、スチレン等のモノマーを添加することも可能である。
【0036】
さらにマトリクス樹脂は、硬化剤を含有することもできる。エポキシ樹脂の場合、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ジシアンジアミド、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸ヒドラジド、酸無水物、ポリメルカプタン、ポリフェノールなど、量論的反応を行う化合物と、イミダゾール、ルイス酸錯体、オニウム塩のように触媒的に作用する化合物がある。量論的反応を行う化合物を用いる場合には、硬化促進剤、例えば各種アミン類、イミダゾール、ルイス酸錯体、オニウム塩、ホスフィンなどを配合する場合がある。
【0037】
ビニルエステル樹脂とポリエステル樹脂の場合、硬化剤として各種の有機過酸化物を配合してもよい。常温で硬化させる場合の有機過酸化物としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、等が挙げられ、ナフテン酸コバルト等の金属石鹸類等の硬化促進剤と共に用いられる。加熱して硬化させる場合の有機過酸化物としてはt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、ビス−4−t−ブチルシクロヘキサンジカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート等が挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明の効果が損なわれない範囲であれば、マトリクス樹脂には従来公知の各種添加剤を含有しても良く、例えば、加水分解防止剤、着色剤、難燃剤、酸化防止剤、重合開始剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン等)、酸化防止剤、無機フィラー、有機フィラー等をあげることができる。
【0039】
〔強化マトリクス樹脂〕
強化マトリクス樹脂は、上記補強材と上記マトリクス樹脂とを含有する。補強材は、マトリクス樹脂に対して親和性が高いため、任意の方法で混合することが可能である。後述する強化繊維との複合化に際し、粘度を比較的低く設定することが好ましいが、このような観点からは、強化マトリクス樹脂中におけるセルロースナノファイバーの量を0.1〜30質量%の範囲とすることが好ましく、0.1〜20質量%の範囲とすることがより好ましく、0.1〜10質量%の範囲とすることが特に好ましい。
【0040】
〔強化繊維〕
本発明に使用し得る強化繊維は、繊維強化樹脂に用いられるものであればよく、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維等の無機繊維のほか、有機繊維を用いてもよい。中でも、カーボン繊維とガラス繊維は、産業上利用範囲が広いため、好ましい。これらのうち、一種類のみ用いてもよく、複数種を同時に用いてもよい。
【0041】
また、強化繊維は、繊維の集合体であってもよく、織布状であっても、不織布状であってもかまわない。また、繊維を一方方向に整列した繊維束でもよく、繊維束を並べたシート状であってもよい。また、繊維の集合体に厚みを持たせた立体形状であってもかまわない。
【0042】
〔繊維強化樹脂複合体〕
本発明の繊維強化樹脂複合体は、上記強化マトリクス樹脂と上記強化繊維とを含有するものであるが、予め、上記強化マトリクス樹脂を製造した後、上記強化繊維と複合化する方法が、製造工程上簡便となる。
【0043】
繊維強化樹脂複合体の製造方法は、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂中でセルロースを解繊して、セルロースナノファイバーが解繊された状態で含有された補強材を得る工程と、マトリクス樹脂とを配合して強化マトリクス樹脂を得る工程と、強化マトリクス樹脂と強化繊維を複合化して繊維強化樹脂複合体を得る工程を経て、繊維強化樹脂複合体とする方法である。この場合、エポキシ樹脂中でセルロースを解繊することで、セルロースナノファイバーが水和しない状態で得られるため、マトリクス樹脂へと高濃度で配合することができ、さらには強化マトリクス樹脂を予め作製した状態のほうが、強化繊維に対して複合化し易くなる。強化マトリクス樹脂と強化繊維とを複合化するには、混練、塗布、含浸、注入、圧着、等の方法が挙げられ、強化繊維の形態及び繊維強化樹脂複合体の用途によって適時選択することができる。
【0044】
繊維強化樹脂複合体における補強材とマトリクス樹脂の比率は、セルロースナノファイバーの分散性を考慮すると、マトリクス樹脂と補強材の合計を100質量部とした場合に、セルロースナノファイバー量を0.1〜30質量%の範囲とすることが好ましく、0.1〜20質量%の範囲とすることがより好ましく、0.1〜10質量%の範囲とすることが特に好ましい。
【0045】
〔その他の添加剤〕
繊維強化樹脂複合体には、その用途に応じて従来公知の各種添加剤を含有しても良く、例えば、加水分解防止剤、着色剤、難燃剤、酸化防止剤、重合開始剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン等)、酸化防止剤、無機フィラー、有機フィラー等をあげることができる。
【0046】
本発明の繊維強化樹脂複合体は、成形用材料、塗工用材料、塗料材料、接着剤として使用する事ができる。
【0047】
〔成形方法〕
本発明の繊維強化樹脂複合体を使用して板状の製品を製造するのであれば、押し出し成形法が一般的であるが、平面プレスによっても可能である。この他、異形押し出し成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、真空成形法、射出成形法等を用いることが可能である。またフィルム状の製品を製造するのであれば、溶融押出法の他、溶液キャスト法を用いることができ、溶融成形方法を用いる場合、インフレーションフィルム成形、キャスト成形、押出ラミネーション成形、カレンダー成形、シート成形、繊維成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、被覆成形等が挙げられる。また、活性エネルギー線で硬化する樹脂の場合、活性エネルギー線を用いた各種硬化方法を用いて成形体を製造する事ができる。特に、熱硬化性樹脂をマトリクス樹脂の主成分とする場合には、成形材料をプリプレグ化してプレスやオートクレーブにより加圧加熱する成形法が挙げられ、この他にもRTM(Resin Transfer Molding)成形、VaRTM(Vaccum assist Resin Transfer Molding)成形、積層成形、ハンドレイアップ成形等が挙げられる。
【0048】
〔用途〕
本発明の繊維強化樹脂複合体は、各種用途に好適に利用できる。例えば、産業用機械部品(例えば電磁機器筐体、ロール材、搬送用アーム、医療機器部材など)、一般機械部品、自動車・鉄道・車両等部品(例えば外板、シャシー、空力部材、座席など)、船舶部材(例えば船体、座席など)、航空関連部品(例えば、胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア、座席、内装材など)、宇宙機・人工衛星部材(モーターケース、主翼、構体、アンテナなど)、電子・電気部品(例えばパーソナルコンピュータ筐体、携帯電話筐体、OA機器、AV機器、電話機、ファクシミリ、家電製品、玩具用品など)、建築・土木材料(例えば鉄筋代替材料、トラス構造体、つり橋用ケーブルなど)、生活用品、スポーツ・レジャー用品(例えばゴルフクラブシャフト、釣り竿、テニスやバトミントンのラケットなど)、風力発電用筐体部材等が挙げられる。また容器・包装部材、例えば燃料電池に使用されるような水素ガスなどを充填する高圧力容器にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の態様を更に詳細に説明する。なお、「部」及び「%」は、特に明記がない場合、質量換算である。
【0050】
(実施例1)
〔補強材1の製造〕
DIC株式会社製の液状のエポキシ樹脂製品「EPICLON(登録商標)850S」を600質量部、日本製紙ケミカル社製のセルロースパウダー製品「KCフロック(登録商標)W−50GK」(繊維径約20〜30μm、繊維長約200〜400μm)を400質量部準備し、森山製作所製加圧ニーダー(DS1−5GHH−H)を用いて60rpmで600分加圧混練を行ってセルロースの解繊処理を行い、
セルロースナノファイバー含有エポキシ樹脂組成物である補強材1を得た。
【0051】
得られた補強材1を走査型電子顕微鏡で確認したところ、セルロース繊維は、その繊維径が100nm〜300nm程度の範囲で解繊されていることが確認できた。なお、任意の20本の平均繊維径は約180nmであった。また、セルロース繊維長は、元の繊維長よりも短くなっていることも確認できた。このように補強材1は、エポキシ樹脂中にセルロースナノファイバーが良好に解繊かつ微細化された状態で、均一に分散されていることが確認できた。
【0052】
〔強化マトリクス樹脂1の製造〕
マトリクス樹脂としてのDIC株式会社製の液状のエポキシ樹脂「EPICLON(登録商標)850S」100質量部に、補強材1を1質量部混合し、プライミクス社製の撹拌装置「ラボリューション(登録商標)」に同社製の撹拌翼「ネオミクサー(登録商標)4−2.5型」を装着して12000回転で5分間撹拌した。硬化剤としてBASF社製の「Laromin(登録商標)C260」を32質量部添加し、さらに撹拌を行い、強化マトリクス樹脂1を得た。強化マトリクス樹脂1中のセルロースナノファイバーの含有率は0.3質量%となる。
【0053】
この強化マトリクス樹脂1中のセルロースナノファイバーを走査型電子顕微鏡で確認したところ、補強材1と同様に、セルロース繊維は、その繊維径が100nm〜300nm程度の範囲で解繊されていることが確認できた。なお、任意の20本の平均繊維径は約180nmであった。また、セルロース繊維長は、元の繊維長よりも短くなっていることも確認できた。このように強化マトリクス樹脂1においても、セルロースナノファイバーが良好に解繊かつ微細化された状態で、均一に分散されていることが確認できた。
【0054】
〔繊維強化樹脂複合体1の製造〕
強化マトリクス樹脂1を脱泡処理した後、50度に加温した金型(230mm×230mm×1.6mm)内で、強化繊維として三菱レイヨン社製のカーボン繊維「パイロフィル(登録商標)クロスTR−3110−MS」(230mm×230mm)に強化マトリクス樹脂1を含浸させた。この操作を8回繰り返し、カーボン繊維を8層積層した。金型を閉じ、80℃、面圧1MPaで60分加圧加熱後、150℃、面圧1MPaで3時間加圧加熱し、繊維強化樹脂複合体1を得た。繊維強化樹脂複合体1の肉厚は1.6mmであった。
【0055】
〔曲げ強度試験〕
繊維強化樹脂複合体1に対して、JIS K 7074に基づき、曲げ強度試験をおこなった。繊維強化樹脂複合体1よりカーボンクロスの織り目に沿って幅15mm、長さ100mmの試験片をダイヤモンドカッターにて切り出した。次にインストロン社製の万能試験機を用い、3点曲げ方式でスパン80mm、試験速度5mm/minの曲げ試験を室温23℃、湿度50%の雰囲気下にて試験数5で行い、最大応力の平均値を曲げ強度とした。成形体1の曲げ強度は、850MPaであった。
【0056】
(実施例2)
〔繊維強化樹脂複合体2の製造〕
実施例1において、補強材1の1質量部を1.67質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、繊維強化樹脂複合体2を得た。繊維強化樹脂複合体2の曲げ強度は870MPaであった。
【0057】
(実施例3)
〔繊維強化樹脂複合体3の製造〕
実施例1において、補強材1の1質量部を3.38質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、繊維強化樹脂複合体3を得た。繊維強化樹脂複合体3の曲げ強度は890MPaであった。
【0058】
(実施例4)
〔繊維強化樹脂複合体4の製造〕
実施例1において、補強材1の1質量部を10.7質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、繊維強化樹脂複合体4を得た。繊維強化樹脂複合体4の曲げ強度は960MPaであった。
【0059】
(実施例5)
〔強化マトリクス樹脂5の製造〕
実施例1において、補強材1を1.67質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、強化マトリクス樹脂5を得た。強化マトリクス樹脂5中のセルロースナノファイバーの含有率は0.5質量%となる。
【0060】
この強化マトリクス樹脂5中のセルロースナノファイバーを走査型電子顕微鏡で確認したところ、補強材1と同様に、セルロース繊維は、その繊維径が100nm〜300nm程度の範囲で解繊されていることが確認できた。なお、任意の20本の平均繊維径は約180nmであった。また、セルロース繊維長は、元の繊維長よりも短くなっていることも確認できた。このように強化マトリクス樹脂1においても、セルロースナノファイバーが良好に解繊かつ微細化された状態であることが確認できた。
【0061】
〔繊維強化複合体5の製造〕
強化マトリクス樹脂5を脱泡処理した後、50度に加温した金型(230mm×40mm×2mm)内で、強化繊維としてサカイオーベックス社製の一方向のカーボン繊維で糸数48K(4800本)、カーボン繊維径6μm、幅40mmの品番BHH−48K40SW(繊維方向は230mmにカット、製品幅は40mm)に強化マトリクス樹脂5を含浸させた。この操作を24回繰り返し、カーボン繊維を24層積層した。金型を閉じ、80℃、面圧1MPaで60分加圧加熱後、150℃、面圧1MPaで3時間加圧加熱し、一方向のみがカーボン繊維で強化された繊維強化樹脂複合体5を得た。繊維強化樹脂複合体5の肉厚は2mmであった。
【0062】
〔曲げ強度試験〕
実施例1における曲げ試験方法と同様の操作で、カーボン繊維方向が長さ100mmになるようカットし、カーボン繊維に対して平行方向の曲げ強度試験を行った。繊維強化樹脂複合体5の曲げ強度は950MPaであった。
【0063】
(比較例1)
〔比較繊維強化複合体1の製造〕
実施例1において、補強材1を混合しなかった(セルロースナノファイバーの含有率0%)以外は実施例1と同様にして、比較繊維強化複合体1を得た。比較繊維強化複合体1の曲げ強度は740MPaであった。
【0064】
(比較例2)
〔比較強化マトリクス樹脂2の製造〕
セルロースナノファイバーとして、ダイセルファインケム株式会社製の「セリッシュ(登録商標)KY−100G」(繊維径約0.01〜0.1μm)を4質量部に対し、エタノールを4質量部添加し、撹拌後吸引濾過を行った。得られたセルロースナノファイバーのウエットケーキに対し、エタノールを添加して固形分1%に調整し、超音波処理を行った。該セルロースナノファイバーのエタノール混濁液(1%固形分)を40質量部、DIC株式会社製の液状のエポキシ樹脂「EPICLON(登録商標)850S」100質量部を、プライミクス社製の撹拌装置「ラボリューション(登録商標)」に同社製の撹拌翼「ネオミクサー(登録商法)4−2.5型」を装着して12000回転で5分間撹拌した。以上の処理をした樹脂を90℃の真空乾燥炉にて揮発分が無くなるまで処理をした。次に硬化剤としてBASF社製の「Laromin(登録商標)C260」を32質量部添加し、さらに撹拌を行い、セルロースナノファイバーを0.3%含有する比較強化マトリクス樹脂2を得た。
【0065】
この比較強化マトリクス樹脂2中のセルロースナノファイバーを走査型電子顕微鏡で確認したところ、繊維径1μm以上の凝集物が多数確認された。
【0066】
〔比較繊維強化樹脂複合体2の製造〕
比較強化マトリクス樹脂2を脱泡処理した後、50度に加温した金型(230mm×230mm×1.6mm)内で、強化繊維として三菱レイヨン社製のカーボン繊維「パイロフィル(登録商標)クロスTR−3110−MS」(230mm×230mm)に比較強化マトリクス樹脂2を含浸させた。この操作を8回繰り返し、カーボン繊維を8層積層した。金型を閉じ、80℃、面圧1MPaで60分加圧加熱後、150℃、面圧1MPaで3時間加圧加熱し、比較繊維強化樹脂複合体2を得た。比較繊維強化樹脂複合体2の肉厚は1.6mmであった。比較繊維強化樹脂複合体2の曲げ強度は790MPaであった。
【0067】
(比較例3)
〔比較繊維強化樹脂複合体3の製造〕
比較例2において、セルロースナノファイバーのエタノール混濁液(1%固形分)40質量部を66部に変えた以外は同様にして、セルロースナノファイバーを0.5%含有するゲル状の比較強化マトリクス樹脂3を得た。比較強化マトリクス樹脂3を、比較例2と同様にカーボン繊維に含浸させようとしたが含浸させることができず、比較繊維強化樹脂複合体3を得ることができなかった。
【0068】
(実施例6)
〔強化マトリクス樹脂6の製造〕
マトリクス樹脂としてのDIC株式会社製の液状のビニルエステル樹脂「DICLITE(登録商標)UE―3505」100質量部に、補強材1を2.59質量部混合し、プライミクス社製の撹拌装置「ラボリューション(登録商標)」に同社製の撹拌翼「ネオミクサー(登録商標)4−2.5型」を装着して8000回転で5分間撹拌した。硬化剤として化薬アクゾ製の「カヤカルボン(登録商標)AIC−75」を1質量部添加し、さらに撹拌を行い、強化マトリクス樹脂6を得た。この強化マトリクス樹脂6中のセルロースナノファイバーの含有率は1質量%となる。
【0069】
この強化マトリクス樹脂6中のセルロースナノファイバーを走査型電子顕微鏡で確認したところ、補強材1と同様に、セルロース繊維は、その繊維径が100nm〜300nm程度の範囲で解繊されていることが確認できた。なお、任意の20本の平均繊維径は約180nmであった。このように強化マトリクス樹脂6においても、セルロースナノファイバーが良好に解繊かつ微細化された状態で、均一に分散されていることが確認できた。
【0070】
〔繊維強化樹脂複合体6の製造〕
強化マトリクス樹脂6を脱泡処理した後、30度に加温した金型(230mm×230mm×2mm)内で、強化繊維として東レ株式会社製のカーボン繊維「トレカ(登録商標)クロスCO6644B」(230mm×230mm)に強化マトリクス樹脂6を含浸させた。この操作を5回繰り返し、カーボン繊維を5層積層した。金型を閉じ、125℃、面圧5MPaで15分間加圧加熱し、繊維強化樹脂複合体6を得た。繊維強化樹脂複合体6の肉厚は2.0mmであった。繊維強化樹脂複合体6の曲げ強度は、580MPaであった。
【0071】
(実施例7)
〔繊維強化樹脂複合体7の製造〕
実施例6において、補強材1の2.59質量部を14.43質量部に変更した以外は実施例6と同様にして、繊維強化樹脂複合体7を得た。強化マトリクス樹脂7中のセルロースナノファイバーの含有率は5質量%となる。繊維強化樹脂複合体7の曲げ強度は630MPaであった。
【0072】
(実施例8)
〔繊維強化樹脂複合体8の製造〕
実施例8において、補強材1の2.59質量部を33.67質量部に変更した以外は実施例6と同様にして、繊維強化樹脂複合体8を得た。強化マトリクス樹脂8中のセルロースナノファイバーの含有率は10質量%となる。繊維強化樹脂複合体8の曲げ強度は670MPaであった。
【0073】
(比較例4)
〔比較繊維強化樹脂複合体4の製造〕
実施例6において、補強材1を混合しなかった以外は実施例6と同様にして、比較繊維強化樹脂複合体4(セルロースナノファイバーの含有率0%)を得た。比較繊維強化樹脂複合体4の曲げ強度は540MPaであった。
【0074】
(比較例5)
〔比較繊維強化樹脂複合体5の製造〕
比較例2のセルロースナノファイバーのエタノール混濁液(1%固形分)102部を90℃の真空乾燥炉で重量変化が無くなるまで乾燥した。これをマトリクス樹脂としてのDIC株式会社製のビニルエステル樹脂「DICLITE(登録商標)UE―3505」100質量部に入れ、プライミクス社製の撹拌装置「ラボリューション(登録商標)」を用いて8000回転で5分間撹拌したのち、硬化剤として化薬アクゾ製の「カヤカルボン(登録商標)AIC−75」を1質量部添加し、さらに撹拌を行なったが、セルロースナノファイバーが樹脂中で分散不良となり、成形出来なかった。さらに、樹脂中に目視確認できるほどのセルロースナノファイバーの凝集物が確認された。
【0075】
(実施例9)
〔強化マトリクス樹脂9の製造〕
マトリクス樹脂としてのDIC株式会社製の液状のビニルエステル樹脂「DICLITE(登録商標)UE―3505」100質量部に、補強材1を2.59質量部混合し、プライミクス社製の撹拌装置「ラボリューション(登録商標)」に同社製の撹拌翼「ネオミクサー(登録商標)4−2.5型」を装着して8000回転で5分間撹拌した。硬化剤として化薬アクゾ製の「カヤカルボン(登録商標)AIC−75」を1質量部添加し、さらに撹拌を行い、強化マトリクス樹脂9を得た。強化マトリクス樹脂9中のセルロースナノファイバーの含有率は1質量%となる。
【0076】
〔繊維強化樹脂複合体9の製造〕
強化マトリクス樹脂9を脱泡処理した後、30度に加温した金型(230mm×230mm×1.6mm)内で、強化繊維として日東紡績株式会社製のガラス繊維「MC450A」(230mm×230mm)に強化マトリクス樹脂9を含浸させた。この該操作を2回繰り返し、ガラス繊維を2層積層した。金型を閉じ、125℃、面圧1MPaで15分間加圧加熱し、繊維強化樹脂複合体9を得た。繊維強化樹脂複合体9の肉厚は1.6mmであった。繊維強化樹脂複合体9の曲げ強度は、240MPaであった。
【0077】
(比較例6)
〔比較繊維強化樹脂複合体6の製造〕
実施例9において、補強材1を混合しなかった以外は実施例9と同様にして、比較繊維強化樹脂複合体6を得た。比較繊維強化樹脂複合体6の曲げ強度は208MPaであった。
【0078】
(比較例7)
〔比較繊維強化樹脂複合体7の製造〕
比較例2のセルロースナノファイバーのエタノール混濁液(1%固形分)102部を90℃の真空乾燥炉で重量変化が無くなるまで乾燥した。これをDIC株式会社製のビニルエステル樹脂「DICLITE(登録商標)UE―3505」100質量部に入れ、プライミクス社製の撹拌装置「ラボリューション(登録商標)」を用いて8000回転で5分間撹拌したのち、硬化剤として化薬アクゾ製の「カヤカルボン(登録商標)AIC−75」を1質量部添加し、さらに撹拌を行なったが、セルロースナノファイバーが樹脂中で分散不良となり成形出来なかった。さらに、樹脂中に目視確認できるほどのセルロースナノファイバーの凝集物が確認された。
【0079】
(比較例8)
〔比較繊維強化樹脂複合体8の製造〕
セルロースナノファイバーとして、ダイセルファインケム株式会社製の「セリッシュ(登録商標)KY−100G」(繊維径約0.01〜0.1μm)10.2重量部を蒸留水で10倍に希釈し、ドライアイスで凍結させた。更に凍結乾燥機で重量変化が無くなるまで乾燥させた。こうして得られた固形分1.02重量部をDIC株式会社製のビニルエステル樹脂「DICLITE(登録商標)UE―3505」100質量部に入れ、プライミクス社製の撹拌装置「ラボリューション(登録商標)」を用いて8000回転で5分間撹拌したのち、硬化剤として化薬アクゾ製の「カヤカルボン(登録商標)AIC−75」を1質量部添加し、さらに撹拌を行なったが、撹拌途中で急激な粘度上昇おこり、セルロースナノファイバーが分散しなくなった。得られた未分散樹脂はガラス繊維への浸透性が悪く、成形出来なかった。さらに、樹脂中に目視確認できるほどのセルロースナノファイバーの凝集物が確認された。
【0080】
上記実施例1〜9、比較例1〜8の結果を、表1〜3に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】