(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を詳述する。
本発明の多孔膜は、水溶性高分子と、無機フィラーと、非水溶性の粒子状高分子とを含む。
【0014】
本発明に用いる水溶性高分子の、ウベローデ粘度計より求められる極限粘度から算出される平均重合度は、500〜2500、好ましくは1000〜2000、さらに好ましくは1000〜1500の範囲にある。
【0015】
本発明において、水溶性高分子の平均重合度が重要な理由を以下に説明する。
水系のスラリーにおいて、水溶性高分子の一部が水中に存在し、一部が無機フィラー表面に吸着することで無機フィラーの水中での分散安定化が行われているものと考えられる。そして、水溶性高分子の平均重合度が無機フィラーへの吸着安定性に大きく影響を与える。
【0016】
そこで、水溶性高分子の平均重合度が前記範囲よりも小さい場合は、水溶性高分子の水への溶解性が高い。また、平均重合度が小さいと高分子の運動性も高くなる。その為に、水溶性高分子が無機フィラー表面に吸着しても、高分子の運動性及び水への溶解性の高さから無機フィラーから脱離を起こしやすく、無機フィラー表面の水溶性高分子による分散安定層が疎な状態になり、その結果、無機フィラーを安定的に分散させることができない。また、水溶性高分子の粘度は得られるスラリーの粘度を大きく左右させる。平均重合度の小さい水溶性高分子を用いると、スラリーの粘度が大幅に下がることになり、スラリーの経時による無機フィラーの沈降が起こりやすくなる。そのため、スラリー作製後すぐに塗工をする必要性があり、工程上の制約が多くなり実用性に乏しい。加えて、沈降しやすいスラリーを用いて塗工を行うので、塗工中に徐々にスラリーが沈降し、均一な塗膜を得ることができない。
【0017】
逆に水溶性高分子の平均重合度が前記範囲よりも大きい場合は、上記した現象と全く別の現象が生じる。水溶性高分子には無機フィラーへの吸着サイトが多数存在している。水溶性高分子に吸着サイトが多数存在することで効率的に吸着安定化させることができるが、平均重合度が大きすぎると複数の無機フィラー間で吸着を引き起こす傾向にある。その結果、分散安定化させるべき水溶性高分子によって、逆に無機フィラーの凝集が引き起こされる。加えて、上記のとおり、水溶性高分子の平均重合度はスラリーの粘度に大きく影響を与えるため、平均重合度の大きい水溶性高分子を用いるとスラリーの粘度も大幅に上がることになり、スラリーの流動性の低下が見られる。その結果、塗工時に塗膜表面における表面の平滑化(レベリング)が起こりにくくなり、得られた電極にムラが生じる。また量産時においてスラリー中の異物除去を行う際にフィルターを通す必要があるが、粘度が高いスラリーを用いると異物除去フィルターでの流速が上がらず工業的に不利である。
【0018】
このように、本発明では、水溶性高分子の平均重合度はスラリーの流動性・得られた多孔膜の膜均一性及び工程上のプロセスへ大きく影響を与えており、最適な平均重合度の水溶性高分子を選択することが非常に重要になってくる。
【0019】
なお、本明細書における水溶性高分子とは、25℃において、高分子0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5質量%未満の高分子をいう。一方、非水溶性の高分子とは、同条件において不溶分が90質量%以上の高分子をいう。
【0020】
水溶性高分子としては、例えば、天然系高分子、半合成系高分子及び合成系高分子を例示できる。
【0021】
天然系高分子として、例えば、植物もしくは動物由来の多糖類及びたんぱく質等を例示することができ、また、場合により微生物等による発酵処理や、熱による処理がされた天然系高分子を例示できる。これらの天然系高分子は、植物系天然系高分子、動物系天然系高分子及び微生物系天然系高分子等として分類することができる。
【0022】
植物系天然系高分子として、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンナン、クインスシード(マルメロ)、アルケコロイド(ガッソウエキス)、澱粉(コメ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦等に由来するもの)、グリチルリチン等を例示できる。動物系天然系高分子として、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等を例示できる。微生物系天然系高分子として、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、ブルラン等を例示できる。
【0023】
半合成系高分子とは、植物もしくは動物由来の多糖類及びたんぱく質等の上述の天然系高分子を、化学反応を用いて変性させたものである。半合成系高分子として、例えば、澱粉系半合成系高分子、セルロース系半合成系高分子、アルギン酸系半合成系高分子及び微生物系半合成系高分子を例示できる。
【0024】
澱粉系半合成系高分子として、可溶化澱粉、カルボキシメチル澱粉、メチルヒドロキシプロピル澱粉、変性ポテトスターチ等を例示できる。
【0025】
セルロース系半合成系高分子は、ノニオン性、アニオン性及びカチオン性に分類することができる。
【0026】
ノニオン性セルロース系半合成系高分子として、例えば、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、マイクロクリスタリンセルロース、等のアルキルセルロース、並びにヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、アルキルヒドロキシエチルセルロース、ノノキシニルヒドロキシエチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロースを例示できる。
【0027】
アニオン性セルロース系半合成系高分子としては上記のノニオン性セルロース系半合成系高分子を各種誘導基により置換されたアルキルセルロースエーテル及びそれらのナトリウム塩やアンモニウム塩が挙げられる。例えば、セルロース硫酸ナトリウム、メチルセルロースエーテル、メチルエチルセルロースエーテル、エチルセルロースエーテル、カルボキシメチルセルロースエーテル(CMC)及びそれらの塩等を例示することができる。
【0028】
カチオン性セルロース系半合成系高分子として、例えば、低窒素ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド(ポリクオタニウム−4)、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−10)、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(ラウリルジメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−24)等を例示できる。
【0029】
アルギン酸系半合成系高分子として、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール等を例示できる。化学変性した微生物系半合成系高分子として、キサンタンガム、デヒドロキサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、ブルラン等を化学的に変性した高分子化合物を例示できる。
【0030】
合成系高分子とは、化学反応を用いて人工的に作られた高分子である。合成系高分子として、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸系高分子、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子、ポリビニル系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリエーテル系高分子を例示できる。
【0031】
ポリ(メタ)アクリル酸系高分子として、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びそれらの塩を例示できる。
【0032】
ポリビニル系高分子は、ノニオン性、カチオン性及び両性に分類することができる。ノニオン性ポリビニル系高分子として、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルホルムアミド、ポリビニルアセトアミド等を例示することができる。
【0033】
カチオン性ポリビニル系高分子として、例えば、塩化ジメチルジアリルアンモニウム/アクリルアミド(ポリクオタニウム−7)、ビニルピロリドン/N,N−ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩(ポリクオタニウム−11)、アクリルアミド/β−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウム共重合体メチル硫酸塩(ポリクオタニウム−5)、塩化メチルビニルイミダゾリニウム/ビニルピロリドン共重合体アンモニウム塩(ポリクオタニウム−16)、ビニルピロリドン/メタクリル酸ジメチルアミノプロピルアミド(ポリクオタニウム−28)、ビニルピロリドン/イミダゾリニウムアンモニウム(ポリクオタニウム−44)、ビニルカプロラクタム/ビニルピロリドン/メチルビニルイミダゾリニウムメチル硫酸(ポリクオタニウム−46)、N−ビニルピロリドン/N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリル酸ジエチル硫酸等を例示することができる。
【0034】
両性ポリビニル系高分子として、例えば、アクリルアミド/アクリル酸/塩化ジメチルジアリルアンモニウム(ポリクオタニウム−39)、塩化ジメチルジアリルアンモニウムクロリド/アクリル酸(ポリクオタニウム−22)、塩化ジメチルジアリルアンモニウムクロリド/アクリル酸/アクリルアミドコポリマー等を例示することができる。
【0035】
ポリウレタン系高分子として、例えば、アニオン性ポリエーテルポリウレタン、カチオン性ポリエーテルポリウレタン、ノニオン性ポリエーテルポリウレタン、両性ポリエーテルポリウレタン、アニオン性ポリエステルポリウレタン、カチオン性ポリエステルポリウレタン、ノニオン性ポリエステルポリウレタン、両性ポリエステルポリウレタン等を例示することができる。
【0036】
ポリエーテル系高分子として、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール等を例示できる。
【0037】
電池内部で使用されるにあたっては高い電位での安定性が必要とされる。多孔膜用途として使用するに当たってはフィラーの分散性を有することが求められる。また、電極表面やセパレーター表面に塗工させる必要性からスラリーがある程度の粘度を持ち流動性を示すことが必要となってくる。このように多数の観点から材料の選定が必要となる。これらの水溶性高分子の中でも、特に、粘度を与える観点から増粘多糖類が好ましい。増粘多糖類としては、上記に例示してある天然系高分子やセルロース系半合成系高分子が含まれる。これらの中でもカチオン性、アニオン性また両性の特性を取りうることから特にセルロース系半合成系高分子、そのナトリウム塩及びアンモニウム塩からなる群から選択されるものが、特に好ましい。その中でも特にフィラーの分散性の観点からアニオン性のセルロース系半合成系高分子が好ましい。
【0038】
また、好適に用いられるセルロース系半合成系高分子、そのナトリウム塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される水溶性高分子のエーテル化度は、好ましくは0.5〜1.0、さらに好ましくは0.6〜0.8の範囲にある。セルロース中の無水グルコース単位1個当たりの水酸基(3個)のカルボキシメチル基等への置換体への置換度をエーテル化度という。前記エーテル化度は、理論的に0〜3までの値を取りうる。エーテル化度が大きくなればなるほどセルロース中の水酸基の割合が減少し置換体の割合が増加し、エーテル化度が小さくなればなるほどセルロース中の水酸基が増加し置換体が減少するということを示している。
【0039】
水溶性高分子として、セルロース系半合成高分子を用いる場合において、セルロース系半合成系高分子中の特に置換体(カルボキシメチル基等)量と水酸基量が無機フィラー表面への吸着性に影響を与え、置換体(カルボキシメチル基等)はナトリウム塩等として存在している為に水への溶解性に影響を与えていると考えられる。エーテル化度が上記範囲にある場合は無機フィラー表面に吸着しつつ水への相溶性も見られることから分散性に優れ、フィラーを一次粒子レベルまで微分散できる。加えて最適な平均重合度も持たせることで経時の安定性も向上し、凝集物がなく厚みムラのない塗工が可能になる。エーテル化度が低すぎる場合はセルロース中の置換体(カルボキシメチル基等)が少ないことで水への溶解性に劣り、水中への相溶性も劣る。よってフィラー表面には吸着しているセルロース系半合成系高分子が水への相溶性を示さない為に逆に凝集剤として働く。一方、エーテル化度が高すぎる場合はセルロース中の置換体(カルボキシメチル基等)が多くなることで水への溶解性が増す。また、セルロース系半合成系高分子がフィラーへの吸着よりも水中に多く存在するようになり、その結果フィラー同士の凝集を防ぐことが出来ず先程と同様に凝集物が生じる。この現象は更に平均重合度が小さい場合において分子の運動性が上がり吸脱着が起こりやすくなることから分散安定性が劣り凝集が更に進行する。
【0040】
無機フィラーは、二次電池の使用環境下で、電気化学的にも安定であることが望まれる。また、無機フィラーは、前記水溶性高分子、粒子状高分子と混合してスラリーを調製するのに適した材料であることが望まれる。
【0041】
無機フィラーのBET比表面積は、例えば0.9m
2/g以上、さらには1.5m
2/g以上であることが好ましい。また、無機フィラーの凝集を抑制し、スラリーの流動性を好適化する観点から、BET比表面積は大き過ぎず、例えば150m
2/g以下であることが好ましい。また、無機フィラーの平均粒径(体積平均のD50平均粒子径)は、0.1〜5μm、さらには0.2〜2μmであることが好ましい。
【0042】
以上のような観点から、無機フィラーとしては、無機酸化物フィラーが好ましく、例えばアルミナ(酸化アルミニウム)、マグネシア(酸化マグネシウム)、酸化カルシウム、チタニア(酸化チタン)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、タルク、珪石等を材料とする無機酸化物フィラーを好ましく用いることができる。
このような無機フィラーは、分散安定性に優れ、多孔膜用スラリーを調製した際にも沈降することなく、均一なスラリー状態を長時間維持する。
【0043】
粒子状高分子は、非水溶性の高分子からなる。ここで、「非水溶性」の定義は前記のとおりである。粒子状高分子は、GPCにより求められるポリスチレン換算の重量平均分子量が好ましくは10000〜500000、さらに好ましくは20000〜200000の範囲にある。粒子状高分子の重量平均分子量が上記範囲にあると、強度に優れ且つ無機フィラーの分散性が高い多孔膜が得られる。
【0044】
また、粒子状高分子の平均粒径(体積平均のD50平均粒子径)は、0.01〜0.5μmであることが好ましく、さらには0.01〜0.2μmであることがより好ましい。粒子状高分子の粒径が大きすぎると、フィラーとの接着点が少なくなり結着性の低下を引き起こし、また粒径が小さすぎると、多孔膜全体を被覆しやすくなり膜の抵抗が上がり、電池物性が低下するおそれがある。
【0045】
さらに、粒子状高分子のガラス転移温度(Tg)は、20℃以下、さらには5℃以下であることが好ましい。粒子状高分子のガラス転移温度(Tg)がこの範囲だと、多孔膜の柔軟性が上がり、電極の耐屈曲性が向上する。
【0046】
上記のような粒子状高分子の具体例としては、下記の軟質重合体からなる粒子があげられる。
【0047】
(a)アクリル系軟質重合体
ブチルアクリレート・スチレン共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体、エチルアクリレート・アクリロニトリル・メタクリル酸・グリシジルメタクリレート共重合体などの、アクリル酸またはメタクリル酸誘導体の単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体
【0048】
(b)イソブチレン系軟質重合体
ポリイソブチレン、イソブチレン・イソプレンゴム、イソブチレン・スチレン共重合体などの、イソブチレンの単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体
【0049】
(c)ジエン系軟質重合体
ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、イソプレン・スチレンランダム共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体などの、ジエン化合物の単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体
【0050】
(d)ケイ素含有軟質重合体
ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、ジヒドロキシポリシロキサン
【0051】
(e)オレフィン系軟質重合体
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などの、オレフィン化合物の単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体
【0052】
(f)不飽和アルコールおよびアミンまたはそのアシル誘導体またはアセタールからなる軟質重合体
ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリステアリン酸ビニル、酢酸ビニル・スチレン共重合体などの不飽和アルコールおよびアミンまたはそのアシル誘導体またはアセタール
【0053】
(g)エポキシ系軟質重合体
ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エピクロルヒドリンゴムなどの、エポキシ化合物の単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体
【0054】
(h)フッ素含有軟質重合体
フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴム
【0055】
(i)その他の軟質重合体
天然ゴム、ポリペプチド、蛋白質、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー
【0056】
上記軟質重合体の中でも(a)アクリル系軟質重合体、(b)イソブチレン系軟質重合体、及び(c)ジエン系軟質重合体からなる群から選択される少なくとも1種の軟質重合体が、得られる多孔膜の無機フィラーの保持性に優れ、柔軟性に優れるため好ましい。特に、酸化還元に安定であり寿命特性が優れる電池を得易い点から(a)アクリル系軟質重合体が好ましい。
【0057】
また、粒子状高分子は、架橋性基を含有することが好ましい。架橋性基を導入すると、多孔膜形成後の加熱処理によって、多孔膜を架橋させることができ、電解液への溶解や膨潤を抑制できるので、強靱で柔軟な多孔膜が得られる。架橋性基としては、エポキシ基、ヒドロキシル基、N−メチロールアミド基、オキサゾリン基などがあげられ、エポキシ基および/またはヒドロキシル基が好ましい。架橋性基は、粒子状高分子の製造時に、架橋性基を含有する重合性化合物を同時に共重合することで、粒子状高分子中に導入してもよく、また架橋性基含有化合物を用いた慣用の変性手段により粒子状高分子中に導入してもよい。
【0058】
粒子状高分子の製造方法は特に限定はされず、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合に用いる重合開始剤としては、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、または過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどがあげられる。
【0059】
本発明の多孔膜は、上記水溶性高分子と、粒子状高分子と、無機フィラーと、分散媒とを含んでなるスラリー(多孔膜用スラリー)を所定の基材上に塗布・乾燥して得られる。基材は、特に限定はされないが、本発明の多孔膜は特に二次電池電極や電気二重層キャパシタの電極の表面に形成されることが好ましい。
【0060】
得られる多孔膜中の固形分組成は、多孔膜用スラリーの固形分組成と等しく、前記無機フィラー100質量部に対し、水溶性高分子を好ましくは0.1〜5質量部、さらに好ましくは0.2〜4質量部含み、また粒子状高分子を好ましくは0.1〜15質量部、さらに好ましくは0.5〜10質量部含む。水溶性高分子及び粒子状高分子の含有量が前記範囲よりも少ないと無機フィラーの分散性が劣り、凝集又は多孔性の低下が起こる恐れがある。さらに無機フィラー同士及び電極への結着性も低下し、粉落ち及び柔軟性の低下の恐れがある。水溶性高分子及び粒子状高分子の含有量が、前記範囲よりも多いと空孔を覆いLiの移動が阻害されて抵抗が増大する恐れがある。
【0061】
また、多孔膜には、上記水溶性高分子、粒子状高分子、および無機フィラーのほかに、さらに分散剤や電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0062】
本発明の多孔膜は、適度な多孔性を有し、電解液を吸液するため、膜中に電解液が浸透し、二次電池電極の表面に形成されても電池反応を阻害することはなく、従来の多孔性保護膜に比して、レート特性等に対し悪影響を及ぼすことも無い。また、本発明の多孔膜は、適度な柔軟性を有するため、二次電池電極の表面に形成され、電極の保護膜として機能し、電池の作成過程における活物質の脱落防止、および電池作動時の短絡防止に寄与する。
【0063】
このような多孔膜は、空隙率と柔軟性とのバランスに優れ、また無機フィラーの保持性が高く、電池の作成過程におけるフィラーの脱落が低減される。
【0064】
多孔膜の膜厚は、特に限定はされず、膜の用途あるいは適用分野に応じて適宜に設定されるが、薄すぎると均一な膜を形成できず、又厚すぎると電池内での体積(重量)あたりの容量(capacity)が減ることから、好ましくは1〜50μm、更に電極表面に保護膜として形成する際は1〜20μmが好ましい。
【0065】
本発明の多孔膜は、上記した所定の固形分組成を有する多孔膜用スラリーを、二次電池電極などの基材上に塗布、乾燥して作成される。また、該スラリーに基材を浸漬後、これを乾燥して多孔膜を形成することもできる。あるいは、スラリーを剥離フィルム上に塗布、成膜し、得られた多孔膜を所定の基材上に転写してもよい。
【0066】
多孔膜用スラリーの固形分濃度は、上記の塗布、浸漬が可能な程度の粘度、流動性を有する限り特に限定はされないが、一般的には20〜50質量%程度である。また、多孔膜用スラリーの分散媒としては、上記固形分を均一に分散しうるものであれば特に限定はされないが、一般的には、水、アセトン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、シクロヘキサン、キシレン、シクロヘキサノンまたはこれらの混合溶媒が用いられる。これらの中でも、特に水を用いることが好ましい。水を用いることで、水溶性高分子が溶解し、この溶液中に粒子状高分子、無機フィラーが均一に分散したスラリーが得られる。また、有機溶媒を使用しないため、作業衛生上、環境保全の観点からも水を使用することが好ましい。
【0067】
多孔膜用スラリーの製法は、特に限定はされず、上記水溶性高分子、粒子状高分子、および無機フィラーならびに必要に応じ添加される他の成分、分散媒を混合して得られる。混合方法や混合順序のよらず、上記成分を用いることで、無機フィラーが高度に分散された多孔膜用スラリーを得ることができる。混合装置は、上記成分を均一に混合できる装置であれば特に限定はされず、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどを使用することができるが、高い分散シェアを加えることができる、ビーズミル、ロールミル、フィルミックス等の高分散装置を使用することが特に好ましい。
【0068】
本発明の多孔膜は、二次電池電極の表面に成膜され、電極合剤層の保護膜あるいはセパレータとして特に好ましく用いられる。多孔膜が成膜される二次電池電極は特に限定はされず、各種の構成の電極に対して、本発明の多孔膜は成膜されうる。また、多孔膜は、二次電池の正極、負極の何れの表面に成膜されてもよく、正極、負極の両者に成膜されてもよい。さらに、多孔膜は電気二重層キャパシタの電極用保護膜としても用いられる。
【0069】
このような二次電池電極や電気二重層キャパシタの電極は、一般にバインダーと、電極活物質を含んでなるスラリー(以下、「合剤スラリー」と呼ぶことがある)から形成された電極合剤層が、集電体に付着してなる。
【0070】
電極活物質は、電解質中で電位をかける事により可逆的にリチウムイオンを挿入放出できるものであれば良く、無機化合物でも有機化合物でも用いることが出来る。
【0071】
正極用の電極活物質(正極活物質)は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。正極活物質に使用される無機化合物の具体例としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiFeVO
4などのリチウム含有複合金属酸化物;TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2等の遷移金属硫化物;Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13などの遷移金属酸化物が挙げられる。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子を用いることもできる。電気伝導性に乏しい、鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これら化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
【0072】
正極活物質は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。正極活物質の粒子径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、50%体積累積径が、通常0.1〜50μm、好ましくは1〜20μmである。50%体積累積径がこの範囲であると、充放電容量が大きい二次電池を得ることができ、かつ電極用スラリーおよび電極を製造する際の取扱いが容易である。50%体積累積径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる。
【0073】
負極用の電極活物質(負極活物質)としては、たとえば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維などの炭素質材料、ポリアセン等の導電性高分子などがあげられる。また、負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の金属やその合金や酸化物や硫酸塩が用いられる。加えて、金属リチウム、Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金、リチウム遷移金属窒化物を使用できる。電極活物質は、機械的改質法により表面に導電付与材を付着させたものも使用できる。負極活物質の粒径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、50%体積累積径が、通常1〜50μm、好ましくは15〜30μmであ
る。
【0074】
導電性付与材は、前記電極活物質に付着させる他、合剤スラリーに添加しておくこともできる。導電付与材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。黒鉛などの炭素粉末、各種金属のファイバーや箔などが挙げられる。補強材としては、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。導電性付与材を用いることにより電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、リチウムイオン二次電池に用いる場合に放電レート特性を改善したり、電気二重層キャパシタに用いる場合の内部抵抗を低減し、かつ容量密度を高くすることができる。導電性付与材の使用量は、電極活物質100質量部に対して通常0〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。
【0075】
電極合剤層は、上記のバインダーおよび電極活物質を含む。通常、合剤は溶媒に分散させた合剤スラリーとして調製される。溶媒としては、前記バインダーを溶解または粒子状に分散するものであればよいが、バインダーを溶解するものが好ましい。バインダーを溶解する溶媒を用いると、バインダーが表面に吸着することにより電極活物質などの分散が安定化する。
【0076】
バインダーとしては様々な樹脂成分を用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
更に、下に例示する軟質重合体もバインダーとして使用することができる。
ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ブチルアクリレート・スチレン共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体などの、アクリル酸またはメタクリル酸誘導体の単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体である、アクリル系軟質重合体;
ポリイソブチレン、イソブチレン・イソプレンゴム、イソブチレン・スチレン共重合体などのイソブチレン系軟質重合体;
ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、イソプレン・スチレンランダム共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体などジエン系軟質重合体;
ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、ジヒドロキシポリシロキサンなどのケイ素含有軟質重合体;
液状ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などのオレフィン系軟質重合体;
ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリステアリン酸ビニル、酢酸ビニル・スチレン共重合体などビニル系軟質重合体;
ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エピクロルヒドリンゴムなどのエポキシ系軟質重合体;
フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴムなどのフッ素含有軟質重合体;
天然ゴム、ポリペプチド、蛋白質、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどのその他の軟質重合体などが挙げられる。これらの軟質重合体は、架橋構造を有したものであってもよく、また、変性により官能基を導入したものであってもよい。
【0077】
バインダーの量は、リチウムイオン二次電池に用いる場合は電極活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.2〜4質量部、特に好ましくは0.5〜3質量部である。また、電気二重層キャパシタに用いる場合は電極活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜10質量部である。バインダー量が少なすぎると電極から活物質が脱落しやすくなるおそれがあり、逆に多すぎると活物質がバインダーに覆い隠されて電池反応が阻害されたり、内部抵抗が増大したりするおそれがある。
【0078】
バインダーは、電極を作製するために溶液もしくは分散液として調製される。その時の粘度は、通常1mPa・S〜300,000mPa・Sの範囲、好ましくは50mPa・S〜10,000mPa・Sである。前記粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
【0079】
合剤スラリーは、通常、溶媒を含有し、電極活物質や導電性付与材を分散させる。溶媒としては、前記バインダーを溶解し得るものを用いると、電極活物質や導電性付与材の分散性に優れるので好ましい。バインダーが溶媒に溶解した状態で用いることにより、バインダーが電極活物質などの表面に吸着してその体積効果により分散を安定化させていると推測される。
【0080】
合剤スラリーに用いる溶媒としては、水および有機溶媒のいずれも使用できる。有機溶媒としては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアシロニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類があげられる。これらの溶媒は、単独または2種以上を混合して、乾燥速度や環境上の観点から適宜選択して用いることができる。
【0081】
合剤スラリーには、さらに増粘剤、導電材、補強材などの各種の機能を発現する添加剤を含有させることができる。増粘剤としては、合剤スラリーに用いる有機溶媒に可溶な重合体が用いられる。具体的には、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物などが用いられる。
【0082】
さらに、合剤スラリーには、電池の安定性や寿命を高めるため、トリフルオロプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、カテコールカーボネート、1,6−ジオキサスピロ[4,4]ノナン−2,7−ジオン、12−クラウン−4−エーテル等が使用できる。また、これらは後述する電解液に含有せしめて用いてもよい。
【0083】
合剤スラリーにおける有機溶媒の量は、電極活物質やバインダーなどの種類に応じ、塗工に好適な粘度になるように調整して用いる。具体的には、電極活物質、バインダーおよび他の添加剤を合わせた固形分の濃度が、好ましくは30〜90質量%、より好ましくは40〜80質量%となる量に調整して用いられる。
【0084】
合剤スラリーは、バインダー、電極活物質、必要に応じ添加される添加剤、およびその他の有機溶媒を、混合機を用いて混合して得られる。混合は、上記の各成分を一括して混合機に供給し、混合してもよいが、導電材および増粘剤を有機溶媒中で混合して導電材を微粒子状に分散させ、次いでバインダー、電極活物質を添加してさらに混合することがスラリーの分散性が向上するので好ましい。混合機としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを用いることができるが、ボールミルを用いると導電材、電極活物質の凝集を抑制できるので好ましい。
【0085】
合剤スラリーの粒度は、好ましくは35μm以下であり、さらに好ましくは25μm以下である。スラリーの粒度が上記範囲にあると、導電材の分散性が高く、均質な電極が得られる。
【0086】
集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するとの観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましい。中でも、非水電解質二次電池の正極用としてはアルミニウムが特に好ましく、負極用としては銅が特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、合剤の接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、電極合剤層の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0087】
二次電池電極の製造方法は、前記集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に電極合剤層を層状に結着させる方法であればよい。例えば、前記合剤スラリーを集電体に塗布、乾燥し、次いで、120℃以上で1時間以上加熱処理して合剤電極層を形成する。合剤スラリーを集電体へ塗布する方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。乾燥方法としては例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。
【0088】
次いで、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により電極の合剤の空隙率を低くすることが好ましい。空隙率の好ましい範囲は5%〜15%、より好ましくは7%〜13%である。空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する。空隙率が低すぎる場合は、高い体積容量が得難かったり、合剤が剥がれ易く不良を発生し易いといった問題を生じる。さらに、硬化性の重合体を用いる場合は、硬化させることが好ましい。
【0089】
電極合剤層の厚みは、正極、負極とも、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜250μmである。
【0090】
本発明の多孔膜付二次電池電極は、上記の電極合剤層上に多孔膜を成膜してなる。多孔膜は、二次電池の正極、負極の何れの表面に成膜されてもよく、正極、負極の両者に成膜されてもよい。
【0091】
多孔膜付二次電池電極は、前記した水溶性高分子、粒子状高分子、無機フィラーおよび分散媒を含む多孔膜用スラリーを、二次電池電極の電極合剤層上に塗布、乾燥して作成される。また、該スラリーに電極を浸漬後、これを乾燥して多孔膜を形成することもできる。あるいは、スラリーを剥離フィルム上に塗布、成膜し、得られた多孔膜を所定の電極合剤層上に転写してもよい。
【0092】
多孔膜用スラリーを電極合剤層上へ塗布する方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。乾燥方法としては例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥温度は、使用する溶媒の種類によってかわる。溶媒を完全に除去するために、例えば溶媒にN−メチルピロリドン等の揮発性の低い溶媒を用いる場合には、送風式の乾燥機で120℃以上の高温で乾燥させることが好ましい。逆に揮発性の高い溶剤を用いる場合には100℃以下の低温において乾燥させることもできる。
【0093】
次いで、必要に応じ、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により電極合剤層と多孔膜との密着性を向上させることもできる。ただし、この際、過度に加圧処理を行うと、多孔膜の空隙率が損なわれることがあるため、圧力および加圧時間を適宜に制御する。
【0094】
本発明の多孔膜付二次電池電極は、リチウムイオン二次電池などの二次電池の電極として用いられる。中でも、リチウムイオン二次電池の電極として用いるのが好ましい。
【0095】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、及び電解液を含み、正極及び負極の少なくとも一方が、本発明の多孔膜付二次電池電極である。
【0096】
正極及び負極に、本発明の多孔膜付二次電池電極を用いた例について説明する。リチウムイオン二次電池の具体的な製造方法としては、例えば、多孔膜付正極と多孔膜付負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。また必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をする事もできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【0097】
前記セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂からなるセパレータなどの公知のものが用いられる。なお、本発明の多孔膜は、セパレータとしての機能も有するため、セパレータの使用を省略することもできる。
【0098】
電解液としては、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に制限はないが、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましい。これらは、二種以上を併用してもよい。解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0099】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などのカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0100】
電解液中における支持電解質の濃度は、通常1〜30質量%、好ましくは5質量%〜20質量%である。また、支持電解質の種類に応じて、通常0.5〜2.5モル/Lの濃度で用いられる。支持電解質の濃度が低すぎても高すぎてもイオン導電度は低下する傾向にある。用いる電解液の濃度が低いほど重合体粒子の膨潤度が大きくなるので、電解液の濃度によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0101】
(実施例)
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。
実施例および比較例において、各種物性は以下のように評価した。
【0102】
(評価方法)
<1. 水溶性高分子>
<1.1 平均重合度>
水溶性高分子の平均重合度は、粘度法を用いて測定した値である。粘度法による平均重合度は、Staudingerの粘度則に基づいて下記算出式:
{η}=Km×P×α
により求められる。式中、Pは平均重合度、{η}は粘度、Kmおよびαは定数である。0.1NのNaClを溶媒としてウベローデ粘度計を用いて極限粘度を求め、平均重合度を算出した。
【0103】
<1.2 エーテル化度>
エーテル化度(置換度)は、以下の方法および式により求められる。
まず、試料0.5〜0.7gを精密にはかり、磁製ルツボ内で灰化する。冷却後、得られた灰化物を500mlビーカーに移し、水約250ml、さらにピペットでN/10硫酸35mlを加えて30分間煮沸する。これを冷却し、フェノールフタレイン指示薬を加えて、過剰の酸をN/10水酸化カリウムで逆滴定して、次式から置換度を算出する。
【0104】
A=(a×f−b×f
1)/試料(g)−アルカリ度(または+酸度)
置換度=M×A/(10000−80A)
A:試料1g中の結合アルカリ金属イオンに消費されたN/10硫酸のml
a:N/10硫酸の使用ml
f:N/10硫酸の力価係数
b:N/10水酸化カリウムの滴定ml
f
1:N/10水酸化カリウムの力価係数
M:試料の重量平均分子量
【0105】
なお、アルカリ度(または酸度)は、以下の方法および式により求められる。
試料約1gを200mlの水に溶解させ、これにN/10硫酸5mlを加え、10分間煮沸した後、冷却して、フェノールフタレイン指示薬を加え、N/10水酸化カリウムで滴定する。このときの滴定量をSmlとする。同時に空試験を行い、そのときの滴定量をBmlとし、次式からアルカリ度(または酸度)を求める。(B−S)×f値がプラス値の場合はアルカリ度が得られ、マイナスの場合は酸度が得られる。
【0106】
アルカリ度(酸度)=(B−S)×f/試料(g)
f:N/10水酸化カリウムの力価係数
【0107】
<2. 多孔膜用スラリーにおける無機フィラーの分散性>
<2.1 凝集性>
レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて多孔膜スラリー中の無機フィラーの分散粒子径を測定し、体積平均粒子径D50を求めた。下記基準で凝集性を判断している。分散粒子径が1次粒子に近いほど凝集性が小さく分散が進んでいることを示している。
【0108】
A:0.5μm未満
B:0.5μm以上〜1.0μm未満
C:1.0μm以上〜2.0μm未満
D:2.0以上〜5.0μm未満
E:5.0μm以上
【0109】
<3. 多孔膜>
<3.1 膜均一性>
多孔膜電極、幅6cm×長さ1mにおいて幅方向に3点、長さ方向は5cmおきに厚みを測定し、そのバラつきを計算した。
A:5%未満
B:5%以上〜10%未満
C:10%
D:10%を超え〜50%未満
E:50%以上
【0110】
<4. 電池特性>
<4.1 充放電レート特性>
得られたコイン型電池を用いて、20℃で0.1Cの定電流で0.02Vまで充電し、0.1Cの定電流で1.5Vまで放電する充放電サイクルと、5.0Cの定電流で1.5Vまで放電する充放電サイクルをそれぞれ行った。0.1Cにおける電池容量に対する5.0Cにおける放電容量の割合を百分率で算出して充放電レート特性とし、下記の基準で判定した。この値が大きいほど、内部抵抗が小さく、高速充放電が可能であることを示す。
A:60%以上
B:55%以上60%未満
C:50%以上55%未満
D:50%未満
【0111】
また、実施例および比較例における保護膜(多孔膜)形成用スラリーには、下記成分を用いた。
【0112】
<水溶性高分子>
表1に記載の平均重合度及びエーテル化度を有する水溶性高分子を用いた。
【表1】
【0113】
<粒子状高分子>
(粒子状高分子の調製)
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部および過硫酸カリウム0.3部をそれぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。一方、別の容器でイオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、および重合性単量体としてエチルアクリレート80部、アクリロニトリル15部、メタアクリル酸3部、グリシジルメタアクリレート2部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了した。重合転化率は99%であった。得られた重合反応液を25℃に冷却後、アンモニア水を添加してpHを7に調整し、その後スチームを導入して未反応の単量体を除去し粒子状高分子の40%水分散体を得た。得られた粒子状高分子は、架橋性基としてエポキシ基を有するものであり、ガラス転移温度は−35℃、平均粒子径は150nmであった。
【0114】
(二次電池電極の作成)
<負極の製造>
負極活物質として粒子径20μm、比表面積4.2m
2/gのグラファイトを98部と、バインダーとしてSBR(ガラス転移温度:−10℃)を固形分で1部とを混合し、更にカルボキシメチルセルロース(CMC)を1部加えてプラネタリーミキサーで混合してスラリー状の負極用電極組成物を調製した。この負極用組成物を厚さ0.1mmの銅箔の片面に塗布し、120℃で3時間乾燥した後、ロールプレスして厚さが100μmの負極を得た。
【0115】
(多孔膜用スラリーの作成)
無機フィラー(α-Al
2O
3、平均粒子径0.5μm)、水溶性高分子および粒子状高分子を、それぞれの固形分重量比が90:4:6となるように水中で混合して、多孔膜用スラリーを調製した。スラリーにおける原料(固形分の合計)の含有量は、いずれの場合も40質量%とした。なお、水溶性高分子は予め1重量%濃度にて水に溶解させたものを用いた。
【0116】
上記で調製した多孔膜用スラリーについて、凝集性を評価した。結果を表2に示す。
【0117】
(多孔膜付二次電池電極の作成)
多孔膜用スラリーを、負極表面に負極合剤層が完全に覆われるように、乾燥後の厚みが10μmになるように塗工し、110℃で20分間乾燥し、多孔膜を形成し、多孔膜付二次電池電極を得た。多孔膜の膜均一性を評価した。結果を表2に示す。
【0118】
(電池の作製)
次いで、得られた電極を直径13mm、負極を14mmφの円形に切り抜いた。電極の負極合剤層が形成されている面側に直径18mm、厚さ25μmの円形ポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーター、厚さ0.5mm、直径16mmφのリチウム金属膜を順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器中に収納した。この容器中に電解液(EC/DEC=1/2、1MLiPF
6)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約3.2mmのリチウムイオン二次電池を製造した(コインセルCR2032)。得られた電池の充放電レート特性を測定した結果を表2に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
以上のように、特定の平均重合度を有する水溶性高分子と、粒子状高分子とを用いることで、スラリーの流動性および無機フィラーの分散性が向上し、その結果レート特性に優れた均一性の高い多孔膜を得ることが出来る。