特許第5704241号(P5704241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許5704241炭素繊維束製造用炭素化炉および炭素繊維束の製造方法
<>
  • 特許5704241-炭素繊維束製造用炭素化炉および炭素繊維束の製造方法 図000003
  • 特許5704241-炭素繊維束製造用炭素化炉および炭素繊維束の製造方法 図000004
  • 特許5704241-炭素繊維束製造用炭素化炉および炭素繊維束の製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5704241
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】炭素繊維束製造用炭素化炉および炭素繊維束の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/32 20060101AFI20150402BHJP
【FI】
   D01F9/32
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-529497(P2013-529497)
(86)(22)【出願日】2013年6月21日
(86)【国際出願番号】JP2013067036
(87)【国際公開番号】WO2014002879
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2013年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-144239(P2012-144239)
(32)【優先日】2012年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】岡 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸之
(72)【発明者】
【氏名】畑山 明人
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−007209(JP,A)
【文献】 特公平07−096714(JP,B2)
【文献】 実公昭60−008640(JP,Y2)
【文献】 特開昭62−084288(JP,A)
【文献】 特開2004−019053(JP,A)
【文献】 特開2005−274495(JP,A)
【文献】 特開昭62−211383(JP,A)
【文献】 特開昭62−263971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 9/08 − 9/32
F27B 9/00 − 9/40
F27D 7/00 − 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束が出入りする繊維束入口および繊維束出口を有しかつ不活性気体が充填される、該繊維束を加熱するための熱処理室と、
該熱処理室の繊維束入口および繊維束出口にそれぞれ隣接して配される、該熱処理室内の気体をシールするための入口シール室および出口シール室と、
該入口シール室および該出口シール室の少なくとも一方に設けられた気体噴出ノズルと、
該入口シール室、該熱処理室および該出口シール室内に水平方向に設けられた、該繊維束を搬送するための搬送路と、
を備える炭素繊維束製造用炭素化炉であって、
該気体噴出ノズルは、中空筒状の内側管と、中空筒状の外側管とからなる2重管構造を有し、該繊維束の搬送方向に対して直交する方向であってかつ水平な方向に配置されており、
該外側管には、複数の気体噴出孔が該外側管の長手方向に該搬送路の幅長さに亘って配されており、該外側管の気体噴出孔の孔面積は0.5mm2以上20mm2以下であり、
該内側管には、複数の気体噴出孔が該内側管の長手方向に該搬送路の幅長さに亘ってかつ気体噴出孔の気体噴出方向が該内側管の周方向の2方向以上に配されており、該内側管の長手方向における該内側管の気体噴出孔の孔間隔は300mm以下である炭素繊維束製造用炭素化炉。
【請求項2】
前記外側管の複数の気体噴出孔の流路長さ(L)と該気体噴出孔の最長孔長さ(D)との比(L/D)が0.2以上である請求項1に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【請求項3】
前記外側管の長手方向における複数の気体噴出孔の孔間隔が100mm以下である請求項1または2に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【請求項4】
前記外側管の複数の気体噴出孔は、該外側管の長手方向に該搬送路の幅長さに亘って均等間隔で配されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【請求項5】
前記内側管の複数の気体噴出孔の各孔面積が50mm2以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【請求項6】
前記内側管の複数の気体噴出孔は、該内側管の長手方向に該搬送路の幅長さに亘って均等間隔で配されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【請求項7】
前記外側管の複数の気体噴出孔は、前記繊維束に向かって不活性気体が噴出されない向きに配されている請求項1〜6のいずれか一項に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【請求項8】
前記外側管には形状および寸法が同一の複数の気体噴出孔が配されており、前記内側管には形状および寸法が同一の複数の気体噴出孔が配されている請求項1〜7のいずれか一項に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【請求項9】
前記外側管の複数の気体噴出孔および前記内側管の複数の気体噴出孔は、前記内側管の気体噴出孔の気体噴出方向と、前記外側管の気体噴出孔の気体噴出方向とが、一部分も重なることがない位置にそれぞれ配置されている請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【請求項10】
前記入口シール室および前記出口シール室のうちのいずれか一方または両方が、前記繊維束の搬送方向に絞り片が一定間隔で配されるラビリンス構造を有する請求項1〜9のいずれか一項に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【請求項11】
前記入口シール室および前記出口シール室のうちのいずれか一方または両方が、前記繊維束を挟んで鉛直方向の対向する位置に配置される1組の前記気体噴出ノズルを、1組以上有する請求項1〜10のいずれか一項に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉によって前記繊維束を加熱処理する工程を含み、
該工程において、前記気体噴出ノズルの内側管に200〜500℃の不活性気体を供給し、外側管の複数の気体噴出孔から該不活性気体を噴出させ、前記気体噴出ノズルを備える前記入口シール室および前記出口シール室のうちのいずれか一方または両方の幅方向の温度差が8%以下となるようにする炭素繊維束の製造方法。
【請求項13】
前記気体噴出ノズルの長手方向1m当たりの流量を1.0Nm3/hr以上100Nm3/hr以下として前記気体噴出ノズルから不活性気体を噴出し、前記繊維束を加熱処理する請求項12に記載の炭素繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束を焼成して炭素繊維束を製造する炭素繊維束製造用炭素化炉、およびその炭素化炉を用いる炭素繊維束の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維束を構成する炭素繊維は、他の繊維と比較して優れた比強度及び比弾性率を有する。さらに、該炭素繊維は、金属と比較して優れた比抵抗、高い耐薬品性など多くの優れた特性を有している。このため、炭素繊維束は、その優れた各種特性を利用して樹脂との複合材料用の補強繊維として、スポーツ、航空宇宙分野等に幅広く利用されている。
【0003】
炭素繊維束は、通常、ポリアクリロニトリル、レーヨン等の炭素繊維前駆体繊維束(前駆体糸条束)を酸化性雰囲気中200〜300℃で加熱(耐炎化処理)して得られる耐炎化繊維束を、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中800〜1500℃で加熱(炭素化処理)することによって得られる。さらに、この炭素繊維束を2000〜3000℃で加熱(黒鉛化処理)し、引張弾性率の一段と高い炭素繊維束、即ち黒鉛繊維束を製造することも行われている。これらの炭素化処理工程及び黒鉛化処理工程では、生産効率を上げるために、炭素化炉内及び黒鉛化炉内に多数の繊維束を並べて同時に搬送することが多い。
【0004】
通常、炭素化処理を行う炭素化炉及び黒鉛化処理を行う黒鉛化炉はそれぞれ、不活性雰囲気中で繊維束の加熱を行う炉本体に当たる熱処理室と、その熱処理室の前後に設けられる繊維束入口(入口部)および繊維束出口(出口部)にそれぞれ具備される、前記熱処理室の不活性雰囲気を保つためのシール室とからなる。
【0005】
シール室の具体的役割としては、熱処理室に外部から酸素が流入して熱処理室内が酸化性雰囲気となることによって、炭素繊維束の品質、品位が低下することを防止することはもちろんのこと、主に熱処理室において繊維束から発生する反応ガスが、熱処理室の繊維束入口や繊維束出口を経由して外部へ流出することを防止することである。特に熱処理室からの反応ガスが炉の入口や出口付近まで流出した際には、流出した反応ガスが冷却されて生じるタール状物質によって、走行する繊維束が汚染されてしまうことがある。
【0006】
また前記シール室には、熱処理室をシールして不活性雰囲気を維持するための不活性気体が供給されるが、この不活性気体の供給斑はシール室内の雰囲気斑だけでなく、熱処理室内の雰囲気斑にも繋がることがある。
【0007】
一方で、昨今の炭素繊維束の製造技術には、生産性アップ、及びコストダウンが要求されており、大きな改善が成されている。例えば、熱処理室の機戒幅(繊維束が走行できる熱処理室幅)を増加させること等により多くの繊維束を同時に配列して加熱処理する高配列密度化や、同時加熱処理する繊維束の段数を増やす多段処理化といった改善がなされている。このような状況の中で、前記不活性気体の供給斑に起因するシール室内の雰囲気斑は、繊維束の加熱処理斑の発生や熱処理室内における不活性雰囲気維持への阻害に繋がることがあった。その結果、シール室内の不活性気体の供給斑が、炭素繊維束の品質斑を引き起こすことがあり、炭素繊維束の生産性向上における大きな妨げとなることがあった。
【0008】
特許文献1では、熱処理室と、不活性気体噴射口と、噴射された不活性気体を熱処理室の方向に導入する不活性気体導入部材とを備えた炭素化炉を用いて、あらかじめ加熱した不活性気体を前記噴射口から噴射することで、繊維束の汚染を防止する方法が提案されている。
【0009】
また、特許文献2では、ラビリンス構造を採用しながら、取り外し可能な構造とすることでよりメンテナンス性に優れたシール機構が提案されている。不活性気体の供給方法としては少なくとも1枚以上の多孔板を通過させて面状に不活性気体を噴出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−224483号公報
【特許文献2】特開2001−98428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1では、不活性気体の供給方法は特に限定されていないが、噴出孔をスリット状にすると、スリット形状が変形しやすく、噴出斑が生じやすい。また、従来の技術では、加熱された不活性気体と、炉内の雰囲気との温度差による放熱によって、供給する不活性気体の温度斑が生じることがあった。これによって、繊維束の加熱処理斑が発生することがあり、結果的に、炭素繊維束の品質斑が生じてしまうことがあった。
【0012】
また、特許文献2の方法では、繊維束を水平方向に走行させる横型の炭素化炉の場合、不活性気体の噴出流速が遅くなる傾向があり、前記多孔板上に耐炎化繊維糸屑や炭化物が堆積しやすい。また、加熱した不活性気体をシール室に供給する場合、シール室表面からの放熱により、不活性気体の温度低下が生じやすい。特に、炭素化炉の側面から加熱した不活性気体を供給する場合、放熱による温度斑が生じる傾向が高く、繊維糸条間で処理斑が生じる傾向が高かった。
【0013】
さらに、前述の製造技術の改善及び進化に伴い、主に炭素化炉の繊維束の出入口での不具合に起因する機械的特性および生産安定性の低下、更には品質斑が発生しやすくなり、従来のシール室への不活性気体供給方法では、炭素繊維束の機械的特性や生産安定性の維持、品質斑の抑制が困難な場合があった。
【0014】
本発明は、これらの現象を改善するために成されたものである。本発明の目的は、繊維束の走行に乱れを生じさせることなく、加熱された不活性気体を供給する際においても炭素化炉内の全域にわたり斑のない雰囲気を維持することが出来る炭素繊維束製造用炭素化炉、及びその炭素化炉を用いた炭素繊維束の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の構成を採用する。
【0016】
[1]繊維束が出入りする繊維束入口および繊維束出口を有しかつ不活性気体が充填される、該繊維束を加熱する熱処理室と、
該熱処理室の繊維束入口および繊維束出口にそれぞれ隣接して配される、該熱処理室内の気体をシールするための入口シール室および出口シール室と、
該入口シール室および該出口シール室の少なくとも一方に設けられた気体噴出ノズルと、
該入口シール室、該熱処理室および該出口シール室内に水平方向に設けられた、該繊維束を搬送させるための搬送路と、
を備える炭素繊維束製造用炭素化炉であって、
該気体噴出ノズルは、中空筒状の内側管と、中空筒状の外側管とからなる2重管構造を有し、該繊維束の搬送方向に対して直交する方向であってかつ水平な方向に配置されており、
該外側管には、複数の気体噴出孔が該外側管の長手方向に該搬送路の幅長さに亘って配されており、該外側管の気体噴出孔の孔面積は0.5mm2以上20mm2以下であり、
該内側管には、複数の気体噴出孔が該内側管の長手方向に該搬送路の幅長さに亘ってかつ気体噴出孔の気体噴出方向が該内側管の周方向の2方向以上に配されており、該内側管の長手方向における該内側管の気体噴出孔の孔間隔は300mm以下である炭素繊維束製造用炭素化炉。
【0017】
[2]前記外側管の複数の気体噴出孔の流路長さ(L)と該気体噴出孔の最長孔長さ(D)との比(L/D)が0.2以上である[1]に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【0018】
[3]前記外側管の長手方向における複数の気体噴出孔の孔間隔が100mm以下である[1]または[2]に記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【0019】
[4]前記外側管の複数の気体噴出孔は、該外側管の長手方向に該搬送路の幅長さに亘って均等間隔で配されている[1]〜[3]のいずれかに記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【0020】
[5]前記内側管の複数の気体噴出孔の各孔面積が50mm2以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【0021】
[6]前記内側管の複数の気体噴出孔は、該内側管の長手方向に該搬送路の幅長さに亘って均等間隔で配されている[1]〜[5]のいずれかに記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【0022】
[7]前記外側管の複数の気体噴出孔は、前記繊維束に向かって不活性気体が噴出されない向きに配されている[1]〜[6]のいずれかに記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【0023】
[8]前記外側管には形状および寸法が同一の複数の気体噴出孔が配されており、前記内側管には形状および寸法が同一の複数の気体噴出孔が配されている[1]〜[7]のいずれかに記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【0024】
[9]前記外側管の複数の気体噴出孔および前記内側管の複数の気体噴出孔は、前記内側管の気体噴出孔の気体噴出方向と、前記外側管の気体噴出孔の気体噴出方向とが、一部分も重なることがない位置にそれぞれ配置されている[1]〜[8]のいずれかに記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【0025】
[10]前記入口シール室および前記出口シール室のうちのいずれか一方または両方が、前記繊維束の搬送方向に絞り片が一定間隔で配されるラビリンス構造を有する[1]〜[9]のいずれかに記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【0026】
[11]前記入口シール室および前記出口シール室のうちのいずれか一方または両方が、前記繊維束を挟んで鉛直方向の対向する位置に配置される1組の前記気体噴出ノズルを、1組以上有する[1]〜[10]のいずれかに記載の炭素繊維束製造用炭素化炉。
【0027】
[12][1]〜[11]のいずれかに記載の炭素繊維束製造用炭素化炉によって前記繊維束を加熱処理する工程を含み、
該工程において、前記気体噴出ノズルの内側管に200〜500℃の不活性気体を供給し、外側管の複数の気体噴出孔から該不活性気体を噴出させ、前記気体噴出ノズルを備える前記入口シール室および前記出口シール室のうちのいずれか一方または両方の幅方向の温度差が8%以下となるようにする炭素繊維束の製造方法。
【0028】
[13]前記気体噴出ノズルの長手方向1m当たりの流量を1.0Nm3/hr以上100Nm3/hr以下として前記気体噴出ノズルから不活性気体を噴出し、前記繊維束を加熱処理する[12]に記載の炭素繊維束の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、加熱された不活性気体を供給する際においても炭素化炉内の全域にわたり斑のない雰囲気を維持することが出来る炭素繊維束製造用炭素化炉及びその炭素化炉を用いた炭素繊維束の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉の好適な実施形態における前方部分(入口シール室及び熱処理室)の、(a)概略正面断面図及び(b)概略平面図である。
図2】本発明の気体噴出ノズルの一例を示す概略構造図である。
図3】(a)実施例1及び(b)比較例3において用いた気体噴出ノズルの不活性気体の噴出方向を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<炭素繊維束製造用炭素化炉>
上述したように、通常、炭素繊維束は、以下の工程を含む製造方法により製造される。(1)炭素繊維前駆体繊維束(例えばポリアクリロニトリルやレーヨンで構成される繊維束)を酸化性雰囲気(例えば空気)中、200〜300℃で加熱処理(耐炎化処理)することによって、耐炎化繊維束を得る耐炎化工程。(2)得られた耐炎化繊維束を不活性雰囲気(例えば、窒素、アルゴン)中、800〜1500℃で加熱処理(炭素化処理)することによって、炭素繊維束を得る炭素化工程。
【0032】
なお、この製造方法では、耐炎化工程と炭素化工程との間に、不活性雰囲気中、耐炎化処理よりも高い温度であってかつ炭素化処理よりも低い温度(例えば、300〜700℃)で加熱処理(前炭素化処理)する前炭素化工程を含むことができる。また、得られた炭素繊維束に対して、不活性雰囲気中、2000〜3000℃で加熱処理(黒鉛化処理)を行うことによって、引張弾性率が一段と高い炭素繊維束(黒鉛化繊維束)に変換することもできる。なお、各工程を通して、繊維束の本数は変化せず、各繊維束を構成する単繊維数は、例えば、100〜100000本とすることができる。
【0033】
上述した耐炎化工程、前炭素化工程、炭素化工程及び黒鉛化工程における加熱処理はそれぞれ、耐炎化炉、前炭素化炉、炭素化炉及び黒鉛化炉を用いて行うことができる。
【0034】
本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉は、炭素繊維束の製造に用いる、不活性雰囲気中で繊維束の加熱処理を行う加熱炉であることができ、上述した炭素化工程に用いる炭素化炉だけでなく、前炭素化炉及び黒鉛化炉をも含むものである。即ち、本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉は、炭素繊維束製造における、前炭素化炉、炭素化炉または黒鉛化炉として用いることができる。
【0035】
本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉が備える入口シール室及び出口シール室(以下、シール室とも示す)は、一般に使用されているシール室(シール装置)に改良を加えたものであり、炉内を走行する繊維束に接触することなく、熱処理室の繊維束入口及び繊維束出口からの不活性気体の漏れを低減することができる。
【0036】
以下、本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉について、図面を参照して更に詳しく説明する。なお、本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉を用いることによって、品位及び強度に優れた炭素繊維束を製造することができる。
【0037】
図1は、本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉の好適な実施形態を示すものである。より具体的には、図1(a)は、熱処理室の繊維束入口近傍及びその繊維束入口に隣接される入口シール室の概略を示す正面断面図であり、図1(b)は図1(a)と同じ部分の概略平面図である。また、図2は、本発明に用いる気体噴出ノズルの一例の概略構造図である。
【0038】
炭素繊維束製造用炭素化炉(炭素化炉)1は、不活性気体が充填される、繊維束を加熱するための熱処理室2と、この熱処理室内の気体をシールするための入口シール室3及び不図示の出口シール室とを有する。
【0039】
また、この入口シール室、熱処理室および出口シール室内において、繊維束Sを搬送させるための搬送路5が水平方向に設けられている。なお、搬送路とは、繊維束が走行することができる空間部分のことであり、本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉には、入口シール室、熱処理室および出口シール室を水平方向に貫通する搬送路が設置されている。これにより、繊維束を水平方向に走行させることができる。ここで、水平方向とは、鉛直方向と垂直な平面内の任意の方向を指す。なお、水平方向、鉛直方向及び垂直(直交)は、それぞれ略水平方向、略鉛直方向及び略垂直(略直交)であっても良い。
【0040】
炭素繊維束製造用炭素化炉に用いられる不活性気体は特に限定されず、例えば、窒素やアルゴンを用いることができる。なお、通常、熱処理室内(図1(a)では、具体的には、熱処理室内の搬送路部分)はこの不活性気体によって充填されているが、搬送路5を走行する繊維束Sを加熱処理する際には、熱処理室内には、この繊維束の加熱処理によって発生する反応ガス(例えば、HCN、CO2、低級炭化水素など)が存在していてもよい。即ち、各シール室がシールする熱処理室内の気体は、上記不活性気体及び上記反応ガスであることができる。
【0041】
熱処理室2は、繊維束Sを出入りさせるための繊維束入口(入口部)2a、不図示の繊維束出口(出口部)、及び排気口(不図示)を有することができる。本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉では、加熱処理を行う繊維束を入口部に連続的に導入することができ、また、加熱処理された繊維束を出口部から連続的に導出することができる。
【0042】
なお、本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉を炭素化工程に使用する炭素化炉として用いる場合は、入口部に導入する繊維束は耐炎化繊維束(前炭素化工程を行わない場合)または前炭素化繊維束(前炭素化工程を行う場合)であり、出口部から導出される繊維束は炭素繊維束である。即ち、本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉は、加熱炉内で耐炎化繊維束または前炭素化繊維束を高温の不活性気体によって炭素繊維束に変換する炉であることができる。
【0043】
また、本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉を前炭素化炉として用いる場合は、入口部に導入する繊維束は耐炎化繊維束であり、出口部から導出される繊維束は前炭素化繊維束である。さらに、本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉を黒鉛化炉として用いる場合は、入口部に導入する繊維束は炭素繊維束であり、出口部から導出される繊維束は黒鉛化繊維束である。
【0044】
なお、本発明では、シール室(シール装置)は、熱処理室の入口部および出口部にそれぞれ隣接して配される。具体的には、熱処理室の入口部に隣接して入口シール室(図1の符号3に相当)を配し、熱処理室の出口部に隣接して出口シール室を配する。これらのシール室の少なくとも一方は、不活性気体を噴出するための気体噴出ノズル(2重ノズル)4を有する。なお、入口シール室及び出口シール室の構造(形状や寸法等)は、同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0045】
また、図1(b)に示すように、本発明では気体噴出ノズル4から噴出される不活性気体をそのまま熱処理室内に導入し、熱処理室内にこの不活性気体を充填させることができる。入口シール室及び出口シール室の少なくとも一方から供給され、熱処理室内に充填された不活性気体は、入口シール室と出口シール室との間に設置された排気口から所定の排ガス処理設備に送られ排気されることができる。この排気口は、例えば、熱処理室内の不活性雰囲気を鉛直方向に均一にできる形状であることができ、ガスの引き抜き箇所も特に限定されない。この排気口としては、例えば、熱処理室の天井や底の部分に鉛直方向に埋設されたスリット形状の排気口が用いられる。
【0046】
繊維束Sは、炭素化炉1、より具体的には、熱処理室2を通過することによって、不活性雰囲気中で加熱処理(例えば炭素化処理)される。繊維束の加熱処理方法や加熱処理条件は、炭素繊維の分野で公知の方法や条件を用いることができる。例えば、図1(a)に示すように、熱処理室2の天井や底の部分にヒーター6をそれぞれ配することによって、熱処理室内(具体的には、熱処理室内に充填する不活性気体)を例えば800℃以上の温度に維持し、繊維束の加熱処理を行うことができる。
【0047】
走行させる繊維束の繊維軸に対して垂直に本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉(具体的には、各シール室や熱処理室)を切断した際の炉の断面形状は、走行させる繊維束の配列数等に応じて適宜設定することができ、例えば、正方形や長方形とすることができる。また、炉の開口部分(例えば、熱処理室の繊維束入口や繊維束出口)の断面形状も同様に適宜設定することができる。
【0048】
なお、本発明では、炭素繊維束を製造する際、図1(b)に示すように、多数の繊維束をシート状に引き揃えた状態、より具体的には多数の繊維束を同一平面上に等間隔で配列させた状態で、繊維束Sを走行させることができる。このため、本発明では、炭素繊維束製造用炭素化炉の中心に、シート幅方向(繊維束が構成するシートの幅方向:図1(b)の紙面上下方向)に、このシートの幅に応じた長さの開口部(入口部及び出口部)を有する熱処理室2を設けることができる。なお、シートを構成する繊維束の数は、適宜選択することができ、例えば10〜2000束とすることができる。
【0049】
シール室の少なくとも一方に備えられる気体噴出ノズル4は、図2に示すように、中空筒状の外側管(外側ノズル)7と中空筒状の内側管(内側ノズル)8とからなる2重管構造(2重ノズル構造)を有する。なお、気体噴出ノズル4において、外側管7は、内側管8よりも気体噴出ノズルの表面側に配される。また、これらの管の形状は、本発明の効果が得られる範囲で、中空の筒状であれば良い。気体噴出ノズルを2重管構造にすることによって、加熱した不活性気体を供給する際にも、放熱による温度低下に起因する温度斑(例えば、シート幅方向における温度斑)を容易に抑制することが出来、結果として繊維束を均一に処理することができる。なお、気体噴出ノズルを3重管以上の構造にしても温度斑抑制効果は得られるが、圧力損失が増してしまい、更には構造が煩雑となってしまうため、本発明では2重管構造を採用する。
【0050】
また、噴出される不活性気体の噴出斑や温度斑を抑制する観点から、外側管の中心軸と、内側管の中心軸とは一致させることが好ましい。また、シール室において、気体噴出ノズル4は、繊維束の搬送方向(図1では、紙面左右方向)に対して直交する方向であってかつ水平な方向に配置され、例えば、上記搬送路の幅W以上の長さに延設されることができる。
【0051】
気体噴出ノズルにおいて、外側管7には、複数の気体噴出孔7aが、この外側管の長手方向に上記搬送路の幅長さに亘って配置されている。また気体噴出孔の間隔が極端に不均一な場合、不活性気体の供給斑が発生するため、気体噴出孔7aは搬送路の幅長さに亘って均等間隔で配置されていることが好ましい。また、気体噴出ノズルから噴出された不活性気体が繊維束に直接当たると、毛羽が発生する場合があるので、繊維束に直接当たらないようにすることが好ましい。例えば、繊維束に向かって不活性気体が噴出されない向きに気体噴出孔を配置することができる。
【0052】
なお、上記搬送路の幅Wよりも外側管の気体噴出孔の配列が短い場合、即ち、搬送路の幅長さに亘って気体噴出孔が設けられていない場合は、気体噴出ノズルから不活性気体を噴出した際に、搬送路内の搬送路の幅方向において、不活性気体が供給されない箇所が存在する。このため、外側管の気体噴出孔付近では搬送路の幅方向に亘って均一に不活性気体が供給されていたとしても、不活性気体が供給されていない箇所には順次不活性気体が拡散していく。その結果、不活性気体の拡散の過程で、各シール室や熱処理室において、温度斑や流量斑が発生する可能性がある。即ち、外側管の気体噴出孔を上記搬送路の幅Wの長さに亘って配列させることで、繊維束の走行方向に対して直交する方向であってかつ水平な方向に亘って均一に、例えば200℃〜500℃に加熱された不活性気体を供給することができる。気体噴出ノズルには、シート幅方向の両側から搬送路の幅長さに亘って気体噴出孔が配置されていても良い。
【0053】
なお、繊維束に向かって不活性気体が噴出されない向きとは、不活性気体が直進性を持ったまま気体噴出孔から噴出される際に、噴出された不活性気体が走行する繊維束に対して直接接触するのではなく、不活性気体が少なくとも1度、他の部材(例えば、シール室の壁面)に接触してから繊維束に供給(接触)される向きを意味する。これにより、不活性気体が繊維束に対して直接噴出されないので、繊維束の走行に乱れを生じさせることなく加熱した不活性気体を供給することができる。また、外側管の気体噴出孔を繊維束の方向に向けないことによって、耐炎化繊維糸屑やタール状物質が熱により変性することによって生成する炭化物が、外側管の孔上に付着することを防ぐことができる。その結果、炉の長期の安定運転が実現可能となる。
【0054】
また、外側管の気体噴出孔の向きは、繊維束に向かって不活性気体が噴出されない向きであって、かつ、シール室の天板もしくは底板を向く向きとすることが好ましい。これにより、繊維束の振動および擦過による品質の低下を容易に抑制することができる。なお、シール室の天板及び底板はそれぞれ、繊維束(繊維束が構成するシート面)に対して平行に配置することができ、また、気体噴出ノズルを挟んで繊維束と対向する位置に配置することができる。なお、繊維束に向かって不活性気体が噴出されない向きであって、かつ、シール室の天板もしくは底板を向く向きとは、外側管の気体噴出孔から噴出された不活性気体が、この天板もしくは底板に少なくとも1度接触してから繊維束に供給される向きであれば、いずれの向きでも良い。例えば、不活性気体を天板面もしくは底板面に対して斜めに噴出しても良いし、垂直に噴出しても良い。
【0055】
しかしながら、この際、本発明では、シール性の観点から、天板面もしくは底板面に対して垂直に不活性気体を噴出することが特に好ましい。例えば、繊維束に対して平行に配された天板もしくは底板に対して垂直に、外側管の気体噴出孔の向きを向けて不活性気体を噴出した場合は、噴出された不活性気体は天板もしくは底板に接触し、その後、場合によっては気体噴出ノズル等に接触した後、繊維束に供給される。
【0056】
なお、天板及び底板の形状は適宜選択することができる。例えば、天板及び底板は、図1(a)に示すように凹みを有することができ、この凹み内に気体噴出ノズル4を配置することができる。凹み内に気体噴出ノズルを配置することによって、繊維束の走行を阻害することなく不活性気体を容易に供給することができる。そして、この凹み内の底部分(図1(a)では気体噴出ノズル4を挟んで繊維束と対向する位置に繊維束と平行に配される天板部分3aや底板部分3b)に向けて、気体噴出ノズルから不活性気体を噴出することもできる。なお、図1(a)ではこの凹み内の底部分に対して垂直に不活性気体を噴出している。
【0057】
気体噴出ノズルにおいて、外側管の気体噴出孔7aの孔面積は0.5mm2以上20mm2以下である。孔面積が0.5mm2以上であれば、圧力損失が大きくなり過ぎず、加工が容易になる。孔面積は、その点では1mm2以上が好ましく、孔の清掃作業の観点から3mm2以上がより好ましい。また、孔面積が20mm2以下であれば、整流効果が十分に得られ、斜流を抑制しやすい。孔面積は、その点では15mm2以下がより好ましく、10mm2以下がさらに好ましい。ここで斜流とは、供給ガスが繊維束の搬送方向に対して、繊維束幅方向(図1(b)では紙面上下方向)に傾いて噴出される状態のことを言う。なお、外側管の気体噴出孔7aの孔面積が各気体噴出孔7aで異なる場合には、各気体噴出孔7aの孔面積の平均値を外側管の気体噴出孔7aの孔面積とする。
【0058】
気体噴出ノズルにおいて、外側管の長手方向(図1(b)では、紙面上下方向)における、気体噴出孔7aの孔間隔d1は100mm以下であることが好ましい。孔間隔d1が100mm以下であれば、不活性気体の供給斑が生じにくくなる。孔間隔d1は50mm以下がより好ましく、30mm以下がさらに好ましい。また、気体噴出孔7aは均等間隔で配列されていることが好ましい。また、気体噴出孔7aの孔間隔d1は、製作コストの増加を抑制し、隣り合う気体噴出孔同士の干渉を抑制する観点から5mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましい。
【0059】
なお、図2では、外側管の長手方向に配された1列の気体噴出孔が周方向に1列配置されているが、外側管の周方向における気体噴出孔7aの列数及び各列の配置は上述した要件を満たし、本発明の効果が得られる範囲で適宜設定することができる。
【0060】
気体噴出ノズルにおいて、複数の気体噴出孔7aの形状は特に限定されないが、加工の容易さなどの観点から丸穴形状(例えば、気体噴出孔の開口面の形状が楕円形や円形)であることが好ましい。また、気体噴出孔7aの孔面積は気体噴出孔の流路方向において一定であることが好ましい。なお、外側管に配される各気体噴出孔7aの形状及び寸法は、同一であっても良いし、異なっていても良いが、同一であることが好ましい。
【0061】
気体噴出ノズルにおいて、外側管の気体噴出孔の流路長さ(L)と、外側管の気体噴出孔の最長孔長さ(D)との比(L/D)は0.2以上であることが好ましい。L/Dが0.2以上であれば、外側管の長手方向に斜流が生じることを抑制でき、結果として炉幅方向における斑を抑制しやすくなる。そのため、L/Dは、0.5以上がより好ましく、1以上がさらに好ましい。L/Dは大きければ大きいほど斜流を抑制する効果が高くなるが、同時に圧力損失が増加する傾向があり、さらに外側管の厚みが増すことにより製作費用も増加する傾向がある。よって、十分な整流効果と、圧力損失及び制作費用の抑制効果との両立の観点から、L/Dは5以下であることが好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。通常、外側管の厚みは、外側管の長手方向において一定である。なお、図2に示すように気体噴出孔7aの形状が丸穴形状の場合、気体噴出孔7aの最大直径が、気体噴出孔7aの最長孔長さ(D)となる。
【0062】
気体噴出ノズルにおいて、内側管8には、複数の気体噴出孔8aが該内側管の長手方向に該搬送路の幅長さに亘ってかつ気体噴出孔8aの気体噴出方向が該内側管の周方向の2方向以上に配されている。また、内側管8には、複数の気体噴出孔8aを内側管の長手方向に上記搬送路の幅長さに亘って配した列が、内側管の周方向に2列以上配されていることが好ましい。なお、内側管8に配される各気体噴出孔8aの形状及び寸法は、同一であっても良いし、異なっていても良いが、同一であることが好ましい。
【0063】
気体噴出孔8aの配列が周方向に1列の場合、内側管から噴出された加熱された高温の不活性気体によって外側管の片面が加熱されるため、熱ひずみが生じる。気体噴出ノズルはシール室に挿入設置されるため、外側管に熱ひずみが生じた場合、気体噴出ノズルが炉(例えば、炉の壁面)に接触して炉や気体噴出ノズルが破損したり、気体噴出ノズルが繊維束に接触することで毛羽が生じたりして、安定的な生産の妨げとなる。そのため、本発明では、内側管の気体噴出孔を周方向に2列以上均等に配列させることが好ましい。しかしながら、外側管に熱ひずみが生じなければ、配列は必ずしも均等でなくても良い。なお、内側管の気体噴出孔の周方向における配列数は、外側管をより均一に加熱する観点から3列以上がより好ましく、製作コストの観点から6列以下が好ましい。
【0064】
また、外側管内に均一に不活性気体を噴出する観点から、内側管の気体噴出孔8aは長手方向に均等間隔で配置されていることが好ましい。また、不活性気体の供給斑を抑制する観点から、内側管の気体噴出孔8aは、内側管の長手方向に上記搬送路の幅長さに亘って均等間隔で配されていることが好ましい。
【0065】
気体噴出ノズルにおいて、複数の気体噴出孔8aの形状は特に限定されないが同一形状であることが好ましく、加工の容易さ等から丸穴形状(例えば、気体噴出孔の開口面の形状が楕円形や円形)であることが好ましい。また、気体噴出孔8aの孔面積は内側管の気体噴出孔の流路方向において一定であることが好ましい。
【0066】
気体噴出ノズルにおいて、内側管の気体噴出孔8aの孔面積は50mm2以下であることが好ましい。気体噴出孔8aの孔面積が50mm2以下であれば、内側管供給口おける斜流を抑制でき、外側管と内側管の間隙において斜流に起因する温度斑を抑制できる。結果として、外側管の気体噴出孔から噴出す不活性気体の温度斑を抑制できる。気体噴出孔8aの孔面積は、斜流をより抑制する観点から40mm2以下がより好ましい。また、気体噴出孔8aの孔面積は、圧力損失増大に伴う運転コスト抑制の観点から3mm2以上が好ましく、製作コスト抑制の観点から10mm2以上が好ましい。
【0067】
気体噴出ノズルにおいて、内側管の長手方向における気体噴出孔8aの孔間隔d2は、300mm以下である。内側管の長手方向における孔間隔が300mm以下であれば、外側管の加熱斑が少なくなり、内側管と外側管の間の不活性気体の温度が均一になりやすい。その結果、炉内へ噴出す不活性気体の温度を均一化し易くなる。気体噴出孔8aの孔間隔d2は、一孔あたりの噴出し量が大風量になる観点から50mm以下が好ましく、30mm以下がより好ましい。また、気体噴出孔8aの孔間隔d2は、製作加工の観点から5mm以上が好ましく、製作コストの観点から10mm以上がより好ましい。
【0068】
なお、気体噴出ノズルにおいて、外側管の気体噴出孔の形状及び寸法と、内側管の気体噴出孔の形状及び寸法とは、同一であっても良いし、異なっていても良い。
【0069】
気体噴出ノズルにおいて、内側管の気体噴出孔の位置と、外側管の気体噴出孔の位置とは一致しないことが好ましい。一致しないとは、内側管の気体噴出孔からの不活性気体の噴出し方向に、外側管の気体噴出孔がないことを言う。これにより、内側管の各気体噴出孔から噴出された不活性気体が、外側管の内周面と内側管の外周面との間の間隙で混合されないまま外側管から噴出されることを容易に防ぐことができ、不活性気体の温度斑の発生を容易に抑制することができる。また、外側管の複数の気体噴出孔および内側管の複数の気体噴出孔は、内側管の気体噴出孔の気体噴出方向と、外側管の気体噴出孔の気体噴出方向とが、一部分も重なることがない位置にそれぞれ配置されていることが好ましい。例えば、図2に示すように、気体噴出孔7aの周方向における位置と、気体噴出孔8aの周方向における位置とをずらすことによって、両孔を一部分も重なることがない位置にそれぞれ配置することができる。
【0070】
なお、入口シール室及び出口シール室の両方ともが気体噴出ノズルを備える場合、入口シール室及び出口シール室のいずれか一方が有する気体噴出ノズルについて、内側管の気体噴出孔の位置と、外側管の気体噴出孔の位置とを上記配置としても良いが、炭素化炉内全域の斑を抑制する観点から、両シール室が有する気体噴出ノズルについて、上記配置を採用することが好ましい。
【0071】
また、シール室は、繊維束の搬送方向に絞り片が一定間隔で配されるラビリンス構造を有することが好ましい。ラビリンス構造を採用することで、シール室内の圧力を高く維持することが容易に出来、その結果、外気混入を極力防止できる。なお、入口シール室及び出口シール室のいずれか一方に上記ラビリンス構造を採用しても良いが、外気混入防止の観点から両シール室において採用することが好ましい。
【0072】
なお、絞り片の構造としては、例えば矩形、台形、三角形等が挙げられるが、熱処理室の圧力を高く維持できれば、どのような形状でも良い。しかし、シール性の観点から、絞り片の形状は矩形が好ましい。繊維束の搬送方向における絞り片の配置間隔は、通常、導入する繊維束(例えば耐炎化繊維束)や導出する繊維束(例えば炭素繊維束)の厚み、揺れの大きさに応じて調整するが、例えば、10mm以上150mm以下とすることができる。また、各シール室における絞り片(膨張室)の段数は、5段以上20段以下が好ましい。
【0073】
さらに、入口シール室および出口シール室の少なくとも一方は、図1(a)に示すように、繊維束Sを挟んで鉛直方向(図1(a)では、紙面上下方向)の対向する位置に配置される1組の気体噴出ノズル4を1組以上有することが好ましい。繊維束を挟んで鉛直方向の対向する位置に気体噴出ノズルを1組以上設置することで、垂直方向(繊維束が構成するシート面に対して直交する方向)の風(不活性気体)の流れを効果的に抑えることが出来、走行する繊維束への影響を更に低減でき、繊維束のより安定した走行が可能となる。
【0074】
繊維束を挟んで鉛直方向の対向する位置に配する気体噴出ノズルの組数は、シール性の観点から1組以上が好ましい。また、気体噴出ノズルの組数は、装置が煩雑になることから4組以下が好ましく、製造コスト増加の観点から3組以下がより好ましい。これらの各気体噴出ノズルの組は、繊維束の走行方向に例えば等間隔で配置することができる。
【0075】
なお、入口シール室及び出口シール室の両方ともが気体噴出ノズルを備える場合、入口シール室及び出口シール室のいずれか一方において気体噴出ノズルを上記配置にしても良いが、繊維束を一層安定して走行させる観点から、両シール室において気体噴出ノズルを上記配置することが好ましい。
【0076】
また、本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉は、例えば200〜500℃に加熱された不活性気体を上記気体噴出ノズル(具体的には、内側管)に供給する手段(機構)を備えることができる。本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉は、特に200〜500℃の高温の気体を噴出すのに好適である。不活性気体の噴出し手段としては、例えば、加圧ポンプ、ファンなどを用いることができる。さらに、本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉は、気体噴出ノズルから噴出される不活性気体の噴出量を調節する手段(機構)を備えることができる。この手段としては、例えば、バルブ式やオリフィス式などを用いることができる。
【0077】
<炭素繊維束の製造方法>
本発明の炭素繊維束の製造方法は、上述した本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉によって、繊維束を加熱処理する工程を有する。なお、この工程は、例えば、上述した前炭素化工程、炭素化工程及び黒鉛化工程から選ばれる工程であることができる。そして、本発明では、これらの加熱処理工程において、気体噴出ノズルの内側管に、あらかじめ加熱した不活性気体を供給し、この気体噴出ノズルからその不活性気体を噴出する。本発明に用いる気体噴出ノズルでは、加熱していない不活性気体を内側管に供給し噴出する場合であっても、噴出する不活性気体の風速斑を低減することが可能だが、あらかじめ加熱した不活性気体を供給し噴出する場合に生じる温度斑を一層効果的に低減できる。
【0078】
内側管に供給される不活性気体の加熱温度は、200〜500℃である。加熱温度が200℃以上であれば、不活性気体による熱処理室外からの酸素の流入や、熱処理室内部からの反応ガスの流出を防止できるだけでなく、繊維束の処理速度が速い場合であっても走行する繊維束を十分予熱することができ、繊維束の温度が低いまま繊維束がシール室を通過して熱処理室へ入ることを防ぐことができる。このため、熱処理室内の反応ガスが温度の低い繊維束によって冷却されタール化して繊維束を汚染することを防ぐことができる。一方、不活性気体の加熱温度が500℃以下であれば、熱処理室に繊維束が入る前に繊維束が熱処理されることを防ぐことができ、入口シール室における反応ガスの発生を防ぐことができる。また、内側管に供給される不活性気体の加熱温度は、繊維束をあらかじめ予熱しタール状物質による繊維束の汚染を抑制する観点から250℃以上が好ましく、繊維束の反応を抑制する観点から400℃以下が好ましい。
【0079】
本発明の製造方法によれば、気体噴出ノズルを備えるシール室の幅方向における温度斑を8%以下にすることができる。温度斑を8%以下にできれば、前駆体繊維束の焼成を均一に行うことができ、良好な品質の炭素繊維束が得られやすくなる。温度斑は少ないほどよく、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
【0080】
また、本発明の製造方法によれば、気体噴出ノズルを備えるシール室の幅方向における圧力斑を5%以下にすることができる。圧力斑を5%以下にすれば、前駆体繊維束の焼成を均一に行うことができ、良好な品質の炭素繊維束が得られやすくなる。圧力斑は少ないほどよく、3%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。
【0081】
また、その際、気体噴出ノズルから、その気体噴出ノズルの長手方向(外側管の長手方向と同じ方向)1m当たり、1.0Nm3/hr以上100Nm3/hr以下の流量で不活性気体を噴出することが好ましい。流量が1.0Nm3/hr以上であれば、炭素繊維束製造用炭素化炉内の内圧を維持することが容易にでき、この炭素化炉における繊維束の走行空間である熱処理室内を不活性雰囲気に容易に維持することができる。前記観点から、流量は10Nm3/hr以上がより好ましく、20Nm3/hr以上がさらに好ましい。
【0082】
一方、流量が気体噴出ノズルの長手方向1m当たり100Nm3/hr以下であれば、繊維束の走行状態に乱れが生じることや、繊維束同士が擦れて相互にダメージを与えることを容易に防ぐことができる。さらに、繊維束が炉壁に接触することによるダメージや多量の不活性気体の使用によるコスト増大を容易に防ぐことができる。その結果、製造コストを容易に低く抑えることができ、工程生産性の向上を容易に達成することができる。前記観点から、流量は70Nm3/hr以下がより好ましく、50Nm3/hr以下がさらに好ましい。なお、Nm3とは、標準状態(0℃、1atm(1.0×105Pa))における体積(m3)を意味する。
【0083】
また、入口シール室及び出口シール室の両方ともが気体噴出ノズルを備える場合、入口シール室及び出口シール室のいずれか一方について、不活性気体の加熱温度や流量を上記範囲に設定することもできるが、両シール室について上記範囲に設定することが好ましい。
【実施例】
【0084】
以下、本発明について具体的な実施例を挙げて説明する。なお、各例(実施例及び比較例)では、炭素化炉内を水平方向に貫通する搬送路内に、同一平面上に等間隔で配列されたシート状態の繊維束を走行させた。その際、このシートを構成する繊維束の走行ピッチは10mmであった。また、この炭素化炉(各シール室及び熱処理室)の開口幅(繊維軸に対して垂直に炭素化炉を切断した際の炭素化炉の開口部の長さ)は、1200mmであった。
【0085】
[実施例1]
総繊度1000テックスの耐炎化繊維束(各繊維束を構成する単繊維数:10000本)100束を図1に示す炭素化炉1、より具体的には、入口シール室3に投入した。この際、繊維束から構成されるシート幅は1000mmであった。なお、テックス(tex)とは、単位長さ1000m当たりの質量(g)を表す。
【0086】
この入口シール室3には、耐炎化繊維束を挟んで鉛直方向の対向する位置に、中空円筒状の外側管7及び中空円筒状の内側管8からなる同一構造の気体噴出ノズル(2重ノズル)4を1組配置した。また、各気体噴出ノズル4は、図1(b)に示すように、耐炎化繊維束の搬送方向に対して直交する方向であってかつ水平な方向に、即ち図1(b)の紙面上下方向に配置した。
【0087】
外側管7には、不活性気体が耐炎化繊維束に向って噴出されない向きに配された、形状及び寸法が同一の60個の気体噴出孔7aが、外側管の長手方向(搬送路の幅方向)に搬送路の幅1200mmの長さに亘って均等に、かつ、外側管の周方向に一列で配置されている。なお、この気体噴出孔7aの形状は、丸穴形状であった。外側管の気体噴出孔7aの孔面積は1mm2であった。
【0088】
また、内側管8には、合計96個の気体噴出孔8aが、内側管の長手方向に搬送路の幅1200mmの長さに亘って均等間隔で、かつ、内側管の周方向に4列均等に配置されている。また、この内側管の長手方向における気体噴出孔8aの孔間隔は50mmであった。
【0089】
なお、図2及び図3(a)に示すように、気体噴出ノズル4において、内側管の気体噴出孔8aの周方向における位置と、外側管の気体噴出孔7aの周方向における位置とは一致しなかった。すなわち、気体噴出孔7aと気体噴出孔8aとは、一部分も一致しない位置にそれぞれ配置されていた。より具体的には、外側管の気体噴出孔7aの周方向の位置より周方向に45°ずらした位置に、内側管の気体噴出孔8aを周方向に等間隔に配置した。これにより、内側管の噴出し方向と、外側管の噴出し方向とが一致しないようにした。
【0090】
あらかじめ300℃に加熱した窒素を気体噴出ノズルの内側管に供給し、気体噴出ノズルの長手方向1m当たり30Nm3/hrにて、窒素を図1(a)に示す天板部分3aまたは底板部分3bに向けて、より具体的には、繊維束垂直逆方向に噴出した。なお、この300℃に加熱した窒素を気体噴出ノズルの内側管に供給する手段としては、圧縮ポンプを用いた。また、この窒素ガスの噴出量を調節する手段として、調節バルブを用いた。また、繊維束垂直逆方向とは、繊維束が構成するシート面に対して垂直な方向のうち繊維束から離れる(遠ざかる)方向を意味する。
【0091】
続いて、繊維束入口2aから耐炎化繊維束を熱処理室内に導入し、1000℃で1.5分間、加熱処理(炭素化処理)を行った。そして、熱処理室の繊維束出口からこの繊維束を導出し、繊維束出口に隣接して配されかつ入口シール室3と同じ構造の出口シール室(不図示)内を走行させ、炭素繊維束を得た。なお、各シール室内において気体噴出ノズルから供給された窒素は、そのまま熱処理室内に導入され、これによって熱処理室内が窒素雰囲気に維持されている。
【0092】
次に、各例における上記炭素化処理の差異を検証するため、以下の手法によって、シール室内の温度斑及び圧力斑を算出した。さらに、気体噴出ノズルの熱ひずみと、得られた炭素繊維の強度および品位を評価した。なお、炭素繊維の強度は耐炎化繊維束の状態やその他の条件によっても変化するため、同一の耐炎化繊維束を用いた際のこれらの結果を相対的に比較した。
【0093】
[シール室の幅方向における温度斑及び圧力斑の算出]
熱処理室の入口及び出口の、幅方向(図1(b)では、紙面上下方向)の全幅において、均等間隔の10点の位置の温度をシース熱電対にて測定し、温度斑を算出した。同様に、圧力をピトー管にて測定し、圧力斑を算出した。本発明において、温度斑は、測定した10点の温度の内、(最大温度−最低温度)/10点の平均温度×100[%]で算出した値とした。また、圧力斑は、測定した10点の圧力の内、(最大圧力−最低圧力)/10点の平均圧力×100[%]で算出した値とした。入口シール室及び出口シール室における各斑の最大値をシール室幅方向の温度斑及び圧力斑とした。
【0094】
[気体噴出ノズルの熱ひずみ評価]
気体噴出ノズルの熱ひずみは、以下の方法で評価した。気体噴出ノズルの任意の点において、運転(使用)前後において最大に変化した点をノギスで測定し、入口シール室および出口シール室に設置した各気体噴出しノズルの測定値(各最大変化量)の平均値をひずみ量とした。得られた測定結果から、以下の基準に基づき評価した。
A:ひずみ量が2mm未満である。
B:ひずみ量が2mm以上20mm未満である。
C:ひずみ量が20mm以上である。
【0095】
[炭素繊維束ストランド強度(CF強度)]
作製した炭素繊維束のストランド強度を、JIS−R−7601に規定されているエポキシ樹脂含浸ストランド法に準じて測定した。なお、測定回数は10回とし、その平均値を以下の基準に基づき評価した。
A:ストランド強度が4903N/cm2(500kgf/cm2)以上であり、炭素繊維の強度が高い。
B:ストランド強度が4707N/cm2(480kgf/cm2)以上4903N/cm2(500kgf/cm2)未満であり、炭素繊維の強度が若干低い。
C:ストランド強度が4707N/cm2(480kgf/cm2)未満であり、炭素繊維の強度が低い。
【0096】
[炭素繊維の品位]
炭素繊維の品位は、以下の方法によって評価した。出口シール室から導出される炭素繊維束を、シート幅方向全域に亘りLEDライトで照らして60分観察し、このシート幅方向の毛羽状況を、以下の基準に基づき評価した。
A:シート幅方向において、毛羽が合計で数本程度しか見られず、品位が良好である。
B:数十本単位の毛羽がシート幅方向の一部に見られる。
C:数十本単位の毛羽がシート幅方向の全域に亘り見られる。
【0097】
実施例1では、シール室幅方向における圧力斑及び温度斑がともに3%と小さく、熱ひずみによる気体噴出ノズルの変形は2mm未満であった。また、得られた炭素繊維は強度および品位ともに良好であった。
【0098】
[実施例2]
各シール室を、ラビリンス構造を有するシール室に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。具体的には、繊維束を挟んだシール室上部とシール室下部とにそれぞれ、繊維束が構成するシート面に対して垂直な絞り片を、繊維束の搬送方向に等間隔で5個ずつ設けて、5段の膨張室を各シール室内に形成した。その際、繊維束の搬送方向における絞り片の配置間隔を150mmとした。その結果、シール室幅方向における圧力斑及び温度斑がともに2%以内と小さくなり、熱ひずみによる気体噴出ノズルの変形は2mm未満であった。また、得られた炭素繊維は強度および品位ともに良好であった。
【0099】
[実施例3]
内側管の長手方向における内側管の気体噴出孔の孔間隔を150mmに変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。なお、この際の内側管の気体噴出孔の孔数は合計32個であり、気体噴出孔はノズル長手方向に四列均等に配列されていた。シール室幅方向の圧力斑は3%であったが、温度斑は8%であった。また、炭素繊維束幅方向の温度履歴が異なることで炭素繊維の強度斑及び品位斑も少し発生し、幅方向の一部に毛羽も見られたが、問題ない程度であった。
【0100】
[比較例1]
各シール室に設ける同一構造の気体噴出ノズルとして、実施例1に用いた外側管からなる1重管の気体噴出ノズルを用いた以外は実施例1と同様にして、炭素繊維束を製造した。その結果、シール室幅方向における圧力斑は3%と小さかったものの、気体噴出ノズルの長手方向(ノズル長手方向)において放熱による温度低下が認められ、シール室幅方向の温度斑は20%と大きかった。また、炭素繊維束の幅方向における温度履歴が異なることで、強度斑や品位斑が発生し、毛羽も多く見られた。
【0101】
[比較例2]
外側管の気体噴出孔の孔面積を50mm2に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。その結果、ノズル長手方向に斜流が認められ、シール室幅方向の圧力斑が20%と大きく、温度斑も10%と大きかった。また、得られた炭素繊維は強度が若干低く、幅方向全域に亘り数十本単位の毛羽が見られた。
【0102】
[比較例3]
図3(b)に示すように、内側管の周方向における気体噴出孔の列数を1列に変更した以外は、実施例1と同様にして、炭素繊維束を製造した。なお、この際の内側管の気体噴出孔の孔数は24個であり、気体噴出孔はノズル長手方向に一列均等に配列されていた。その結果、内側管から噴出する熱風(加熱された窒素)が外側管の片面に吹きつけられ、熱ひずみが生じ、圧力斑が10%と大きく、温度斑も10%と大きくなった。得られた炭素繊維は強度が低く、幅方向全域に亘り数十本単位の毛羽が見られた。運転後、気体噴出ノズルを抜き出して確認したところ、ひずみによって気体噴出ノズルがシール室の壁面に接触し、一部損傷が認められた。
【0103】
[比較例4]
内側管の長手方向における内側管の気体噴出孔の孔間隔を400mmに変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。なお、この際の内側管の気体噴出孔の孔数は16個であり、気体噴出孔はノズル長手方向に四列均等に配列されていた。その結果、内側管からの窒素の噴出しにおいて斑が生じ、シール室幅方向の圧力斑は3%であったが温度斑が10%と若干大きかった。また、炭素繊維束幅方向の温度履歴が異なることで、炭素繊維の強度斑及び品位斑も発生し、毛羽も見られた。
【0104】
【表1】
【0105】
以上より、シール性能が高くかつメンテナンス性も良好なシール室を有する本発明の炭素繊維束製造用炭素化炉を用いることによって、炭素化炉内の全域にわたって斑のない雰囲気とすることができ、性能、外観及びハンドリング性に優れた炭素繊維を得ることができることが分かった。
【符号の説明】
【0106】
1 炭素繊維束製造用炭素化炉(炭素化炉)
2 熱処理室
2a 熱処理室の繊維束入口(入口部)
3 入口シール室
3a 気体噴出ノズルを挟んで繊維束と対向する位置に繊維束と平行に配される天板部分
3b 気体噴出ノズルを挟んで繊維束と対向する位置に繊維束と平行に配される底板部分
4 気体噴出ノズル(2重ノズル)
5 搬送路
6 ヒーター
7 外側管(外側ノズル)
7a 外側管の気体噴出孔
8 内側管(内側ノズル)
8a 内側管の気体噴出孔
S 繊維束
W 搬送路の幅
L 外側管の気体噴出孔の流路長さ
D 外側管の気体噴出孔の最長孔長さ
d1 外側管の気体噴出孔の孔間隔
d2 内側管の気体噴出孔の孔間隔
図1
図2
図3