(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5704362
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】フロート板ガラスの製造方法およびフロート板ガラスの製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 18/02 20060101AFI20150402BHJP
【FI】
C03B18/02
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-541799(P2012-541799)
(86)(22)【出願日】2011年10月14日
(86)【国際出願番号】JP2011073737
(87)【国際公開番号】WO2012060197
(87)【国際公開日】20120510
【審査請求日】2013年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2010-247596(P2010-247596)
(32)【優先日】2010年11月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 哲史
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊二
(72)【発明者】
【氏名】谷井 史朗
【審査官】
永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−202509(JP,A)
【文献】
特開2010−202507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B18/00−18/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を溶解槽に投入して溶融ガラスを製造し、
ボトム煉瓦と該ボトム煉瓦を覆うボトムケーシングとを備えた浴槽に収容された溶融金属の表面上に、前記溶融ガラスを連続的に供給し、
前記溶融ガラスを前記溶融金属の表面に沿って所定の方向に流動させ、帯板状のガラスリボンにフロート成形するフロート板ガラスの製造方法であって、
前記ボトムケーシングの外表面の温度の変動幅を4℃以内に制御するフロート板ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記ボトムケーシングの外表面の温度を測定し、測定された温度に基づいて、前記ボトムケーシングの外表面に向かって流体を吹き付けて、前記変動幅を4℃以内に制御する請求項1に記載のフロート板ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記変動幅を、日単位で4℃以内に制御する請求項1に記載のフロート板ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記変動幅を、日単位で4℃以内に制御する請求項2に記載のフロート板ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記流体は、空気、空気と水との混合物、または水である請求項2または4に記載のフロート板ガラスの製造方法。
【請求項6】
インバータによって回転数が制御される給気ファンによって、前記空気を前記ボトムケーシングの外表面に向かって吹き付ける請求項5に記載のフロート板ガラスの製造方法。
【請求項7】
ガラス原料を溶解して溶融ガラスを製造する溶解槽と、
表面上に前記溶融ガラスが連続的に供給される溶融金属が収容され、ボトム煉瓦と該ボトム煉瓦を覆うボトムケーシングとが設けられた浴槽と、
を備えた、前記溶融ガラスを帯板状のガラスリボンにフロート成形するフロート板ガラスの製造装置であって、
前記ボトムケーシングの外表面の温度測定に基づいて、前記ボトムケーシングの外表面に向かって流体を吹き付けて、前記ボトムケーシングの外表面の温度の日変動幅を4℃以内に制御する流体供給装置が、前記ボトムケーシングの外周に備えられているフロート板ガラスの製造装置。
【請求項8】
前記流体供給装置は、
流体を供給する流体供給機と、
一方の開口面が前記流体供給機に接続し、他方の開口面が前記ボトムケーシングの外表面に対向する供給管と、
前記ボトムケーシングの外表面に配置された温度測定装置と、
前記温度測定装置による前記ボトムケーシングの外表面の温度測定に基づいて、前記流体供給機から供給する前記流体の供給量を制御する制御装置と、
から構成されている請求項7に記載のフロート板ガラスの製造装置。
【請求項9】
前記流体供給装置は、空気、空気と水との混合物、または水を供給する装置である請求項8に記載のフロート板ガラスの製造装置。
【請求項10】
前記流体供給機は、インバータによって回転数が制御される給気ファンを備えている請求項9に記載のフロート板ガラスの製造装置。
【請求項11】
前記供給管は、
前記浴槽の長手方向に配置している主管と、
該浴槽の長手方向に沿って前記主管から分岐し、さらに前記浴槽の幅方向に沿って末広がりに分岐している枝管と、
から構成されている請求項8〜10のいずれか1項に記載のフロート板ガラスの製造装置。
【請求項12】
前記浴槽の側壁の煉瓦を覆っているサイドケーシングを冷却するための供給管が設けられている請求項7〜11のいずれか1項に記載のフロート板ガラスの製造装置。
【請求項13】
前記ボトムケーシングの外表面を冷却した流体をフロート成形装置外に排気する排気管が設けられている請求項7〜12のいずれか1項に記載のフロート板ガラスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロート板ガラスの製造方法およびフロート板ガラスの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フロート成形による板ガラスの製造は以下に示す方法で行われる。ガラス原料を溶解槽に投入して溶融ガラスを得る。得られた溶融ガラスは、浴槽に収容された溶融金属の表面上に連続的に供給される。供給された溶融ガラスは、溶融金属の表面に沿って所定の方向に流動され、帯板状のガラスリボンにフロート成形される。ガラスリボンは浴槽の出口から取り出され、その後徐冷炉にて徐冷され、洗浄後、所定の大きさに切断される。
【0003】
フロート成形による板ガラスの製造方法は生産性が高く、また、平坦性に優れている。したがって、建築用板ガラス、自動車用板ガラス、及び、FPD(Flat Panel Display)用板ガラスなどに広く用いられている。
【0004】
浴槽は、複数の耐火物製煉瓦と、耐火物製煉瓦の外表面を覆うケーシングとによって構成され、浴槽内に溶融錫等の溶融金属が収容されている。ここで、浴槽の炉床を形成している耐火物製煉瓦はボトム煉瓦と呼ばれ、該ボトム煉瓦の外表面を覆う鉄製ケーシングはボトムケーシングと呼ばれる。
【0005】
浴槽を上述の如く構成した場合、溶融金属がボトム煉瓦の目地を通ってボトムケーシングに到達し、ボトムケーシングが変形、破壊するおそれがある。これを避けるため、特許文献1、2の従来技術に記載されているように、ボトムケーシングの外表面に向かって空気を吹き付けて、ボトムケーシングを冷却している。ボトムケーシングを空冷することで、ボトム煉瓦の目地のボトムケーシング付近の溶融金属を固体化している。これによって、溶融金属がボトム煉瓦の目地を通って、ボトムケーシングに到達することを防止でき、ボトムケーシングの変形、破壊を防止できるとされている。溶融金属が溶融錫であれば、ボトムケーシングを錫の融点(231.9℃)以下まで冷却すればよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特公平4−29614号公報
【特許文献2】日本国特開2003−261339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ボトムケーシングの外表面が溶融金属の融点以下となるように、一定の供給量で外表面を空冷すると、ボトム煉瓦の目地には溶融金属(液相)と固体金属(固相)との相境界が形成される。この相境界の位置は、溶融金属の温度やボトムケーシング外表面の温度の変動によって上下移動する。溶融金属の温度上昇、またはボトムケーシング外表面の温度上昇によって、相境界を成している固体金属が溶けて溶融金属に転移する。このとき、転移時の化学反応によって溶融金属内に気泡が発生する。この気泡は浴槽の溶融金属中を上昇し、溶融金属の表面を流動しているガラスリボンの溶融金属と接触している表面(以下、ボトム面という。)に付着する。気泡の付着によって、ガラスリボンのボトム面に凹状の気泡欠点が生じ、ガラスリボンの平坦度が劣化する。液晶ディスプレイ用板ガラスはフロート成形後に切断したガラスリボン(板ガラス)の表面を研磨するが、成形時の平坦度は研磨量に影響し、板ガラスの生産性に影響を及ぼす。
【0008】
また、ボトムケーシング外表面の温度は、その雰囲気温度である外気温の変動に応じて変動する。つまり、ボトムケーシング外表面の温度は、昼間は高くなり夜間は低くなる。したがって、外気温の日変動に応じて、ボトム煉瓦の目地に存在する溶融金属と固体金属との相境界が上下移動するため、ボトム煉瓦の目地に存在する溶融金属から気泡が発生しやすい状態となる。
【0009】
特許文献2で開示されたフロート成形による板ガラスの製造方法では、以下に示す方法で、浴槽に収容された溶融金属中への気泡の混入を抑えている。ボトム煉瓦の上面に、タングステンまたはタングステン合金からなる被覆物で被覆された薄板を載置し、ボトム煉瓦の目地から生じた気泡が溶融錫に混入しないように、薄板の底面で気泡を捕捉している。
【0010】
しかしながら、特許文献2で開示しているタングステンまたはタングステン合金は、融点が高いため加工が容易ではない。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、ボトム煉瓦の目地に存在する溶融金属から生じる気泡を容易に抑制し、ガラスリボンのボトム面の気泡欠点を削減できる、フロート板ガラスの製造方法およびフロート板ガラスの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の(1)〜
(13)である。
【0013】
(1)ガラス原料を溶解槽に投入して溶融ガラスを製造し、ボトム煉瓦と該ボトム煉瓦を覆うボトムケーシングとを備えた浴槽に収容された溶融金属の表面上に、前記溶融ガラスを連続的に供給し、前記溶融ガラスを前記溶融金属の表面に沿って所定の方向に流動させ、帯板状のガラスリボンにフロート成形するフロート板ガラスの製造方法であって、前記ボトムケーシングの外表面の温度の変動幅を4℃以内に制御するフロート板ガラスの製造方法。
【0014】
(2)前記ボトムケーシングの外表面の温度を測定し、測定された温度に基づいて、前記ボトムケーシングの外表面に向かって流体を吹き付けて、前記変動幅を4℃以内に制御する(1)に記載のフロート板ガラスの製造方法。
【0015】
(3)前記変動幅を、日単位で4℃以内に制御する(1
)に記載のフロート板ガラスの製造方法。
(4)前記変動幅を、日単位で4℃以内に制御する(2)に記載のフロート板ガラスの製造方法。
【0016】
(
5)前記流体は、空気、空気と水との混合物、または水である(2)または(
4)に記載のフロート板ガラスの製造方法。
【0017】
(
6)インバータによって回転数が制御される給気ファンによって、前記空気を前記ボトムケーシングの外表面に向かって吹き付ける(
5)に記載のフロート板ガラスの製造方法。
【0018】
(
7)ガラス原料を溶解して溶融ガラスを製造する溶解槽と、表面上に前記溶融ガラスが連続的に供給される溶融金属が収容され、ボトム煉瓦と該ボトム煉瓦を覆うボトムケーシングとが設けられた浴槽と、を備えた、前記溶融ガラスを帯板状のガラスリボンにフロート成形するフロート板ガラスの製造装置であって、前記ボトムケーシングの外表面の温度測定に基づいて、前記ボトムケーシングの外表面に向かって流体を吹き付けて、前記ボトムケーシングの外表面の温度の日変動幅を4℃以内に制御する流体供給装置が、前記ボトムケーシングの外周に備えられているフロート板ガラスの製造装置。
【0019】
(
8)前記流体供給装置は、流体を供給する流体供給機と、一方の開口面が前記
流体供給機に接続し、他方の開口面が前記ボトムケーシングの外表面に対向する供給管と、前記ボトムケーシングの外表面に配置された温度測定装置と、前記温度測定装置による前記ボトムケーシングの外表面の温度測定に基づいて、前記
流体供給機から供給する前記流体の供給量を制御する制御装置と、で構成されている(
7)に記載のフロート板ガラスの製造装置。
【0020】
(
9)前記流体供給装置は、空気、空気と水との混合物、または水を供給する装置である(
8)に記載のフロート板ガラスの製造装置。
【0021】
(
10)前記流体供給機は、インバータによって回転数が制御される給気ファンを備えている(
9)に記載のフロート板ガラスの製造装置。
【0022】
(
11)前記供給管は、前記浴槽の長手方向に配置している主管と、該浴槽の長手方向に沿って前記主管から分岐し、さらに前記浴槽の幅方向に沿って末広がりに分岐している枝管と、で構成されている(
8)〜(
10)のいずれかに記載のフロート板ガラスの製造装置。
(12)前記浴槽の側壁の煉瓦を覆っているサイドケーシングを冷却するための供給管が設けられている(7)〜(11)のいずれかに記載のフロート板ガラスの製造装置。
(13)前記ボトムケーシングの外表面を冷却した流体をフロート成形装置外に排気する排気管が設けられている(7)〜(12)のいずれかに記載のフロート板ガラスの製造装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るフロート板ガラスの製造方法によれば、ボトムケーシング外表面の温度の変動を抑制することで、ボトム煉瓦の目地に存在する溶融金属から生じる気泡を容易に抑制し、ガラスリボンのボトム面の気泡欠点を削減した、フロート板ガラスの製造方法およびフロート板ガラスの製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明のフロート成形板ガラスの製造方法の実施形態を示す概略側方断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の製造方法におけるボトムケーシング外表面温度、気泡欠点およびボトムケーシング外表面の外気温の経時変化のグラフである。
【
図4】
図4は、従来の製造方法におけるボトムケーシング外表面温度、気泡欠点およびボトムケーシング外表面の外気温の経時変化のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照し、本発明を実施するための形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明のフロート成形板ガラスの製造方法の実施形態を示す概略側方断面図である。
図2は、
図1のA−A′線に沿った断面図である。なお、
図1および
図2において、図を見やすくするため、各装置およびガラスリボンの形状の比例関係を誇張して描いている。
【0027】
図1に示すように、フロート成形板ガラスは以下に示す方法で製造される。ガラス原料11を溶解槽10に投入して溶融ガラス12を得る。浴槽20に収容された溶融金属13の表面上に溶融ガラス12を連続的に供給する。供給された溶融ガラス12を溶融金属13の表面に沿って所定の方向(
図1の左側から右側の方向)に流動させ、帯板状のガラスリボン14にフロート成形する。ガラスリボン14は浴槽20の出口から取り出され、その後、徐冷炉(不図示)にて徐冷され、洗浄後、所定の大きさに切断される。溶融金属13は典型的には溶融錫である。
【0028】
図1では、溶解槽10にて得られた溶融ガラス12を浴槽20に直接供給しているが、本発明はこれに限定されない。溶解槽10で得られた溶融ガラス12を、溶融ガラス12内に含まれている気泡を脱泡する脱泡装置、溶融ガラス12を攪拌して均質化する攪拌装置等を介して、浴槽20に供給してもよい。
【0029】
浴槽20は、複数の煉瓦21と、煉瓦21の外表面を覆うケーシング22とを備え、浴槽内に溶融錫等の溶融金属13が収容されている。ここで本実施形態において、浴槽20の炉床を形成している煉瓦をボトム煉瓦21Aと呼び、該ボトム煉瓦21Aの外表面を覆うケーシングをボトムケーシング22Aと呼ぶ。
【0030】
煉瓦21の材料は、溶融金属13に対して反応性の低い材料または反応性がない材料、および高温耐性のある材料であればよく、アルミナ、シリマナイト(珪線石)、粘土質等を例示できる。
【0031】
ボトムケーシング22Aは、その材料に特に限定されないが、例えば鉄またはステンレス鋼等の金属材料で形成されている。
【0032】
ボトムケーシング22Aの下方には、ボトムケーシング22Aを冷却するための流体供給装置30が配置されている。
【0033】
図1および
図2に示すように、本実施形態の流体供給装置は、流体供給機31、供給管32、温度測定装置33、温度表示装置34および制御装置35から構成されている。
【0034】
流体供給機31は、ボトムケーシング外表面22Bを冷却する流体を供給する装置である。流体供給機31から供給される流体は、後述する供給管32によってボトムケーシング外表面22Bに向けて搬送される。
【0035】
使用する流体は、ボトムケーシング外表面22Bを冷却できるものであれば特に限定されず、空気、水、または空気と水との混合物が例示される。従来のフロート成形板ガラスの製造方法への適用の容易性から、空気であることが好ましい。また、流体が空気の場合、流体供給機31は供給ファンとなる。
【0036】
図1および
図2における供給管32は、主管32Aと枝管32Bとから構成されている。主管32Aは浴槽20の長手方向に沿って配置され、その一端は流体供給機31に接続されている。枝管32Bは浴槽の長手方向に沿って主管32Aから分岐し、さらに浴槽20の幅方向に沿って末広がりに分岐している。枝管32Bの終端面は開口しており、開口面はボトムケーシング外表面22B方向に向いている。流体供給機31から供給された流体は、主管32Aおよび枝管32Bを通過して開口面から排出され、ボトムケーシング外表面22Bに向かって吹きつけられ、ボトムケーシング外表面22Bが冷却される。
【0037】
本発明の供給管32は前記の実施形態に限定されず、浴槽20の長手方向に分岐する枝管32Bを、浴槽20の長手方向の全域に亘って分岐しなくてもよく、浴槽20の上流側(
図1中の左側)に偏って分岐してもよい。流体供給機31の位置は浴槽20の上流側にした方が、すなわち、流体供給機31から供給される流体を主管32A内を浴槽20の長手方向に沿って上流から下流へ流す方が、より冷やしたい浴槽20の上流側を効率的に冷やすことができるため好ましい。ボトム煉瓦21Aの目地に存在する溶融金属から発生する気泡は、浴槽20の上流側の溶融金属から多く発生するため、長手方向に分岐する枝管32Bを上流側に偏って配置することで、気泡の発生を効率的に抑制できる。
【0038】
なお、流体供給機31の位置は浴槽20の真下でなくてもよく、浴槽20下のサイドから浴槽20の長手方向に沿った主管32Aに垂直または斜めに流体を供給する向きに配置してもよい。その場合、主管32Aに合流する位置は、上記の理由から上流側にした方が浴槽20の上流側を効率的に冷やすことができるため好ましい。また、流体供給機31は複数台を同時に使用してもよい。その場合、主管32Aへ供給される流体は一か所で合流させても、上流・下流など複数の場所から供給してもよく、主管32Aを途中で分断して別々に複数の流体供給機31を接続してもよい。
【0039】
また、浴槽20の長手方向の枝管32Bの数は、気泡の発生を抑制できれば特に限定されず、単数でもよいし複数でもよい。浴槽20の長手方向の枝管32Bの分岐間隔も特に限定されず、一定間隔でもよいし不定間隔でもよい。
【0040】
浴槽20の幅方向に沿って分岐している複数の枝管32Bは末広がりの形状で分岐しているので、浴槽20の幅方向の温度分布を均一にできる。
【0041】
また、浴槽20の幅方向に沿って末広がりに分岐している枝管32Bの数は、浴槽20の幅方向の温度分布が均一になるようにできれば特に限定されない。また、浴槽20の幅方向に沿って末広がりに分岐している枝管32Bの分岐間隔は特に限定されず、一定間隔でもよいし不定間隔でもよい。
【0042】
本実施形態では、浴槽20のボトム煉瓦21Aを覆っているボトムケーシング22Aのみを冷却する構成となっているが、これに限定されない。浴槽の側壁の煉瓦を覆っているサイドケーシングを冷却するための供給管を設けてもよい。サイドケーシングも冷却することで、更に効果的に気泡欠陥を削減できる。
【0043】
また、本実施形態では、ボトムケーシング外表面22Bと枝管32Bの開口面との間に隙間が設けられているが、ボトムケーシング外表面22Bの温度を、後述する所望の日変動幅とすることができれば特に限定されない。ボトムケーシング外表面22Bと枝管32Bの開口面とが接していてもよい。
【0044】
さらに、本実施形態では、ボトムケーシング外表面22Bを冷却した流体をフロート成形装置100外に排気する排気管(不図示)を設けることが好ましい。ボトムケーシング外表面22Bを冷却して温度が上昇した流体を、フロート成形装置100の外部に排気することで、ボトムケーシング外表面22Bを効率的に冷却するためである。
【0045】
温度測定装置33は、ボトムケーシング外表面22Bの温度を測定する装置であり、ボトムケーシング外表面22Bに設置されている。温度測定装置33の数および配置間隔は、特に限定されない。例えば
図1のように、気泡が多く発生しやすい浴槽20上流側のみを測定してもよいし、浴槽20の長手方向沿って、上流、中流、および下流に配置してもよい。また、例えば
図2のように、浴槽20の幅方向に沿って複数の温度測定装置33を配置してもよい。
【0046】
温度測定装置33の表面は断熱材で覆われていることが好ましい。断熱材で覆われていることで、ボトムケーシング外表面22Bの雰囲気温度の影響を受けにくくする。
【0047】
温度表示装置34は、温度測定装置33によって測定されたボトムケーシング外表面22Bの温度データを表示する装置である。測定された温度データを温度表示装置34の画面に逐次表示することで、測定された温度データを監視員が容易に把握できる。
【0048】
表示する温度データは、ボトムケーシング外表面22Bに設置した複数の温度測定装置33によって測定された複数の温度データおよびその平均値、または気泡欠点の削減に効果的な場所の温度データを表示する。
【0049】
制御装置35は、流体供給機31から供給される流体の供給量を制御するための装置である。監視員は、温度表示装置34に表示された温度データに基づき、ボトムケーシング外表面22Bの温度の変動幅が所望の範囲内に収まるように、制御装置35を操作して流体の供給量を手動で操作する。流体の供給量を制御するための基準となる温度データは、複数の温度測定装置33によって測定された温度データの平均値でもよいし、気泡の抑制に効果的な場所の温度データでもよい。なお、本発明における変動幅は、最高温度と最低温度との差を意味する。
【0050】
変動幅の制御について説明する。例えば、フロート板ガラスの製造が朝から昼に掛けて実施している場合、ボトムケーシング外表面22Bの外気温は上昇傾向である。ボトムケーシング外表面22Bの温度も上昇傾向であり、且つ、変動幅が所望の範囲外となりそうな場合は流体の供給量を増加させる。
【0051】
フロート板ガラスの製造が昼から夜に掛けて実施している場合、ボトムケーシング外表面22Bの外気温は下降傾向である。ボトムケーシング外表面22Bの温度が下降傾向であり、且つ、変動幅が所望の範囲外となりそうな場合は、流体の供給量を減少させる。
【0052】
上記説明では、朝から昼に掛けては流体の供給量を増加し、昼から夜に掛けては流体の供給量を減少させているが、本発明はこれに限定されない。深夜であっても、ボトムケーシング外表面22Bの温度の変動幅が所望の範囲外となりそうな場合は、流体の供給量を増加または減少させる。
【0053】
本発明におけるボトムケーシング外表面22Bの温度の変動幅は4℃以内であり、3℃以内であることが好ましく、2℃以内であることがより好ましい。ボトムケーシング外表面22Bの温度の変動幅が4℃以内であれば、ボトム煉瓦21Aの目地に存在する固体金属が溶解しにくくなり、気泡の発生を抑制できる。
【0054】
本発明におけるボトムケーシング外表面22Bの温度の変動幅は、日単位(24時間)で4℃以内に制御することが好ましい。ボトムケーシング外表面22Bの温度に影響する該ボトムケーシング外表面22Bの外気温は、1日の間で数℃〜数10℃も変動するため、日単位で変動幅を4℃以内に制御することで、気泡の発生を抑制することができる。ここで、ボトムケーシング外表面22Bの温度の日単位の変動を日変動と呼び、該日変動の幅を日変動幅と呼ぶ。
【0055】
また、流体が空気の場合、インバータによって回転数が制御される供給ファンによって、空気をボトムケーシング外表面22Bに向かって吹き付けることが好ましい。インバータは、供給ファンの駆動電源として供給されている交流電力を、一旦直流電力に変換し、前記交流電力とは異なる周波数の交流電力へと変換し直す。供給ファンの回転数は、変換し直された交流電力の周波数に依存しているため、交流電力の周波数を変えることで、供給ファンの回転数を微調整できる。言い換えると、供給ファンの駆動電源として供給されている交流電力の周波数を変えることで、空気の供給量を微調整できる。したがって、ボトムケーシング外表面22Bの温度を所望の変動幅の範囲内に収めることができる。
【0056】
例えば、ボトムケーシング外表面22Bの温度が上昇して、所望の変動幅の範囲外となりそう場合は、インバータによって供給ファンの駆動電力周波数を高周波数に変換し、供給ファンの回転数を増加させる。また、ボトムケーシング外表面22Bの温度が下降して、所望の変動幅の範囲外となりそうな場合は、インバータによって供給ファンの駆動電力周波数を低周波数に変換し、供給ファンの回転数を減少させる。上記のような方法によって、ボトムケーシング外表面22Bの温度の変動幅を所望の範囲内に収めることができ、気泡欠点の少ないフロート成形板ガラスを製造することができる。気泡欠点の少ない板ガラスが製造されることで、フロート成形後の板ガラスのボトム面研磨量を削減することができ、板ガラスの生産性を改善できる。
【0057】
前記の実施形態として、制御装置35による流体の供給量を監視員による手動操作としたが、本発明はこれに限定されず、記憶装置(不図示)に記憶された制御プログラムによって、制御装置35を自動操作してもよい。この場合、温度表示装置34の代わりにMPU等の演算装置(不図示)を用いて、測定された温度データと変動幅の所望の範囲とを比較演算して、演算結果に応じて流体の供給量を制御装置35で制御する。
【0058】
以上、本発明の実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0059】
[実施例]
(実施例1)
実施例1では、
図1および
図2に示すフロート成形板ガラスの製造方法で板ガラスを製造した。
【0060】
はじめに、無アルカリガラスの原料を溶解槽に投入して溶融ガラスを製造した。
【0061】
次に、耐火物製煉瓦と前記耐火物製煉瓦を覆う鉄製ケーシングとが設けられた浴槽に溶融錫を収容した。溶融錫を収容後、浴槽の炉床を形成しているボトム煉瓦を覆っているボトムケーシングの外表面温度が錫の融点以下となるように、ボトムケーシングの下方に設けた流体供給装置を用いて冷却した。
【0062】
その後、溶融錫の表面上に前記溶融ガラスを連続的に供給し、溶融ガラスを溶融金属の表面に沿って、浴槽の上流から下流へ流動させた。溶融ガラスを流動中、流体供給装置は、ボトムケーシング外表面の温度の日変動幅が2℃以内となるように、ボトムケーシング外表面に向かって空気を吹き付けた。空気の供給量はインバータによって回転数が制御される供給ファンによって制御した。
【0063】
図3は、上記条件における、ボトムケーシング外表面の温度Tb、ボトムケーシング外表面の外気温Taおよびガラスリボンのボトム面に形成された凹状の気泡欠点数Eの日変動を示したグラフである。Tb、Ta、Eは1週間分の平均値である。
【0064】
グラフ左側の第1縦軸はボトムケーシング外表面の温度Tbおよびボトムケーシング外表面の外気温Taを表わしている。細実線、点線、破線はそれぞれ、浴槽上流端から浴槽長手方向に3m、6m、9mにおける浴槽幅方向中央部のボトムケーシング外表面温度Tbを表わしている。外気温Taは太破線で表わされ、その値は気象庁の観測データを引用した。また、第1縦軸のボトムケーシング外表面の温度Tbおよびボトムケーシング外表面の外気温Taは、それぞれの最低温度を0℃として規格化した。
【0065】
グラフ右側の第2縦軸はガラスリボンのボトム面の単位面積(1m
2)あたりの気泡欠点数Eを表わしている。太実線は、ガラスリボンのボトム面の単位面積当たりの気泡欠点数Eを表わしている。なお、気泡欠点数は、大きさが20μm以上の気泡欠点の数を意味する。
【0066】
図3より、ボトムケーシング外表面の外気温Taが、時間の経過と共に大きく変動しているにも関わらず、ボトムケーシング外表面の温度Tbは大きく変動せず、その日変動幅は所望の範囲内に収まっていることがわかる。また、ガラスリボンのボトム面に付着した気泡欠点数Eは僅かであり、気泡の発生が抑制されていることがわかる。
【0067】
(比較例1)
比較例1は、流体である空気の供給量を一定に変更したこと以外は実施例1と同様とした。
図4は、上記条件における、ボトムケーシング外表面の温度Tb、ボトムケーシング外表面の外気温Taおよびガラスリボンのボトム面に形成された凹状の気泡欠点数Eの日変動を示したグラフである。Tb、Ta、Eは1週間分の平均値である。
【0068】
図4より、ボトムケーシング外表面の外気温Taが、時間の経過と共に大きく変動し、その日変動幅に合わせてボトムケーシング外表面の温度Tbも大きく変動していることがわかる。該ボトムケーシング外表面の温度Tbの日変動幅は5℃以上となっている。また、ガラスリボンのボトム面に付着した気泡欠点数Eは多くなっていることがわかる。
【0069】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の範囲と精神を逸脱することなく、様々な修正や変更を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2010年11月4日出願の日本特許出願2010−247596に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の製造方法および製造装置によって得られる板ガラスは、ボトム面に気泡欠点が少ないため、ボトム面研磨量を削減することができ、板ガラスの生産性を改善できる。該板ガラスは、液晶表示装置等のディスプレイ用のガラス基板等として有用である。
【符号の説明】
【0071】
10…溶解槽、11…ガラス原料、12…溶融ガラス、13…溶融金属、14…ガラスリボン、20…浴槽、21…煉瓦、21A…ボトム煉瓦、22…ケーシング、22A…ボトムケーシング、22B…ボトムケーシング外表面、30…流体供給装置、31…流体供給機、32…供給管、32A…主管、32B…枝管、33…温度測定装置、34…温度表示装置、35…制御装置、100…フロート成形装置