(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
我が国の石炭灰発生量は年間1000万トンを超え、加えて石炭灰の最大の有効利用先であるセメントの生産量の減少を受けて、新規有効利用方法の開発が求められている。一方、年間20〜40万トン産出されるホタテやカキなどの貝殻は、埋め立て地不足や埋め立てに伴う悪臭が地方自治体の抱える産廃処理問題の一つとして深刻な課題となっている。これらの理由から、石炭灰やホタテやカキなどの貝殻を大量に、かつ安価、そして安全に処理できる技術の開発が望まれる。
【0003】
石炭灰を用いて固化物あるいは造粒材を製造する方法としては、高温、高圧下で水熱処理する方法が主として知られている。例えば、石炭灰と、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等を所定の割合で配合して高温・高圧処理することが提案されている(特許文献1から特許文献3参照)。
【0004】
これらの方法は、原料となる石炭灰が廃棄物であり安価であっても、処理に要する費用が大きく、これがこれらの廃棄物の有効利用促進の足かせとなっているのが現状である。
【0005】
また、石炭灰を固化物とする際に、強度発現や早期固化のため、セメントを混合する方法が多く存在する。例えば、石炭灰にセメントを添加して造粒物や成型物を製造する方法が提案されている(特許文献4、特許文献5参照)。
【0006】
しかしながら、このような製法により製造した石炭灰固化物は、石炭灰の質量%が増えるに従い、水に対する耐性が悪くなる傾向があり、また、成型物からのアルカリ成分や一部の微量物質の溶出も課題となっており、環境への影響が懸念されている。
【0007】
さらに、石炭灰、ごみ、製紙スラッジ、下水汚泥などの廃棄物に石灰系材と、石膏と、軟溶化剤とを添加して安定化処理物とする技術が提案されている(特許文献6参照)。かかる文献には、石灰系材として貝殻焼成粉末が使用できるとも記載されている。
【0008】
かかる技術は、廃棄物の種類も選ばず、幅広い用途が期待できるが、軟溶化剤として、硫酸鉄、亜硫酸ナトリウム、リン酸、硫化ナトリウム、硫化カリウム、水ガラスなどを使用する必要があり、石炭灰の含有割合や排水処理費等を考慮すると、決して安価に製造できるものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたもので、有効利用技術の開発が求められている石炭灰、及び、ホタテやカキなどの貝殻の廃棄物を用いて、微量物質の溶出のない固化物を容易に製造することができる石炭灰固化物の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
特に、意匠性を向上させて養浜用の砂礫に適用できるように表面を白くした固化物を製造することができる石炭灰固化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の石炭灰固化物の製造方法は、石炭灰、石灰類を含有する混練物を加圧成形により固化物とした後、前記固化物の表面に貝殻粉を被覆して前記貝殻粉を前記固化物の表面に水和反応により融着させ保持することを特徴とする。
【0013】
請求項1に係る本発明では、固化物の表面に貝殻粉を被覆して保持させるので、石炭灰、及び、ホタテやカキなどの貝殻の廃棄物を用いて容易に固化物を製造することが可能になる。特に、固化物の表面に白色度合いが高い貝殻粉を保持させることで、意匠性を向上させて、人の目に触れるような場所、例えば、養浜等の環境修復用の砂礫に適用することが可能になる。そして、石炭灰、石灰類を含有する混練物を加圧成形により固化物を形成しているので、微量物質の溶出を抑制することができる。
【0014】
そして、請求項2に係る本発明の石炭灰固化物の製造方法は、請求項1に記載の石炭灰固化物の製造方法において、加圧成形した前記固化物を高湿雰囲気で養生し、高湿養生の途中で前記貝殻粉を被覆し、その後、水中で養生を実施することを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に係る本発明の石炭灰固化物の製造方法は、請求項1に記載の石炭灰固化物の製造方法において、加圧成形した前記固化物を高湿雰囲気で養生し、その後、水中で養生を実施し、水中養生の後に前記貝殻粉を被覆することを特徴とする。
【0016】
請求項2及び請求項3に係る本発明では、材齢の経過とともに進行する固化物の水和反応と固化物表面の炭酸塩化の過程において、固化物表面に貝殻粉を被覆するので、表面に付着した貝殻粉を融着させ、意匠性を向上させた固化物を製造することが可能になる。
【0017】
また、請求項4に係る本発明の石炭灰固化物の製造方法は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の石炭灰固化物の製造方法において、水中で養生を実施した後、大気中で養生を実施することを特徴とする。また、請求項5に係る本発明の石炭灰固化物の製造方法は、請求項4に記載の石炭灰固化物の製造方法において、前記大気中で養生を実施する気中養生の期間は、前記高湿養生及び水中養生の合計期間と同じ期間以上であることを特徴とする。
【0018】
請求項4及び請求項5に係る本発明では、気中養生により、固化物の表面に貝殻粉が保持された炭酸塩(炭酸カルシウム等)からなり十分な膜厚を有する緻密な表面被膜が確実に形成される。
【0019】
また、請求項6に係る本発明の石炭灰固化物の製造方法は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の石炭灰固化物の製造方法において、前記貝殻粉の被覆は、前記貝殻粉の懸濁液に前記固化物を浸漬することにより実施することを特徴とする。
【0020】
請求項6に係る本発明では、貝殻粉の懸濁液に固化物を浸漬することで固化物の表面に貝殻粉を被覆して保持させることができる。
【0021】
また、請求項7に係る本発明の石炭灰固化物の製造方法は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の石炭灰固化物の製造方法において、前記貝殻粉の被覆は、前記固化物の表面に前記貝殻粉の微粉末を直接付着させることを特徴とする。
【0022】
請求項7に係る本発明では、固化物の表面に貝殻粉の微粉末を直接付着することで(例えば、まぶすことで)固化物の表面に貝殻粉を被覆して、その後に進行する固化物の水和反応により融着させ保持することができる。
【0023】
そして、石炭灰、石灰類を含有する混練物を粒状に加圧成形することが好ましい。これにより、石炭灰、及び、ホタテやカキなどの貝殻の廃棄物を用いて粒状の固化物を製造することができ、意匠性を一層向上させることができる。
【0024】
また、一対の凹型部で石炭灰、石灰類を含有する混練物を圧密し、2つの凹型部を相対的に移動させることで混練物を粒状に加圧成形することが好ましい。これにより、2つの凹型部を用いて表面が平滑な球状の粒の固化物を容易に製造することができる。
【0025】
また、一対の凹型部で石炭灰、石灰類を含有する混練物を圧密し表面が平滑な板状の固化物を製造し、得られた板状の固化物を壊砕し粒状にすることが好ましい。これにより、一対の凹型部で石炭灰、石灰類を含有する混練物を圧密し表面が平滑な板状の固化物を製造し、得られた板状の固化物を壊砕し粒状の固化物を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の石炭灰固化物の製造方法は、有効利用技術の開発が求められている石炭灰、及び、ホタテやカキなどの貝殻の廃棄物を用いて容易に固化物を製造することが可能になる。
【0027】
特に、意匠性を向上させるとともに材料強度を確保し、また微量物質の溶出を抑制することにより、養浜などの海岸、河岸の修復に用いることが可能な砂礫として利用できるように表面を白くした固化物を製造することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の石炭灰固化物の製造方法は、石炭灰、石灰類と、必要に応じて添加される石膏類とを含有する混練物を加圧成形し、微量物質の溶出を抑制した状態で、表面に炭酸カルシウム等からなる炭酸塩被膜を有する固化物を形成し、固化物の表面に貝殻粉を被覆して貝殻粉を固化物の表面に保持させるものである。
【0030】
炭酸塩被膜は、高湿の雰囲気で養生する高湿養生、水中で養生する水中養生による水和反応と、気中で養生する気中養生により形成される。貝殻粉の被覆は、高湿養生の途中で、もしくは、水中養生の後に、貝殻粉懸濁液を被覆(浸漬・噴射)したり、貝殻粉を直接付着させる(貝殻粉をまぶす)ことで実施する。または、高湿養生の後に貝殻粉の溶液に浸漬し、水中養生と貝殻粉の被覆を同時に実施する。高湿養生の後に実施する水中養生の養生水を貝殻懸濁液中で実施し、水中養生と貝殻粉の被覆を同時に実施する。
【0031】
本発明で用いる石炭灰は、組成が限定されるものではなく、何れの組成の石炭灰でも使用可能である。また、石炭灰としてフライアッシュやクリンカアッシュを利用することができ、また、埋め立て処理されていたフライアッシュやクリンカアッシュを再度利用することも可能である。このため、石炭灰の組成のばらつきに拘わらず、貝殻粉を被覆した石炭灰固化物とすることができる。
【0032】
貝殻粉は、ホタテ、カキ、ハマグリ、アサリなど各種の貝殻を粉末として用いたものであり、貝の種類は特に限定されない。貝殻は廃棄物となるものをそのまま使用でき、焼成処理などして水和反応活性の高い生石灰(CaO)や消石灰(Ca(OH)
2)などにする必要はない。
【0033】
石灰類は、例えば、生石灰(CaO)、消石灰(Ca(OH)
2)等を適用することができる。また、貝殻粉を焼成したものを適用することができる。
【0034】
また、必要に応じて添加される石膏類としては、石炭灰、貝殻(未焼成)、石灰類との混合物の総カルシウム含有量の不足分を補うために添加するものであり、排脱石膏(脱硫石膏)、化学石膏、廃石膏ボード粉末、天然石膏などを挙げることができる。
【0035】
本発明において、上述した原料は、廃棄物である石炭灰、貝殻粉をできるだけ多く利用するのが好ましく、総量中のカルシウム含有量(CaO換算)が20質量%〜40質量%とするのが好ましい。カルシウム含有量を20質量%〜40質量%とすることにより、後述する水和反応が生成しやすくなり、高密度、高強度でアルカリ溶出のない石炭灰固化物とすることができる。
【0036】
これにより、本発明の方法で製造された石炭灰固化物は、セメント材など強度発現に効果を発揮する原料を用いる必要なく、廃棄物となる石炭灰や貝殻粉を原料として用いて、路盤材等に有効利用することができる。特に、意匠性を向上させて養浜などの海岸、河岸の修復に用いることができるように表面を白くした固化物を製造することが可能になる。
【0037】
以下、本発明の石炭灰固化物の製造方法を具体的に説明する。
【0039】
図1には本発明の第1実施形態例に係る石炭灰固化物の製造方法の処理フローを示してある。第1実施形態例の製造方法は、高湿養生の途中で貝殻粉(ホタテ)を被覆し、その後、水中で養生を実施する方法である。
【0040】
石炭灰(フライアッシュ)及び石灰類と、必要に応じて石膏類とを湿式混合し、混練物を所定の大きさの粒に圧密して粒状の固化物を得る(造粒)。混合材料における石炭灰、石灰類、石膏類の混合割合は、石炭灰:石灰類:石膏類=87:9:4で調整した。
【0041】
混練物の圧密は、例えば、対向する2つの凹型部で混練物を圧密し、2つの凹型部を相対的に移動させることで粒状に加圧成形する。これにより、大きさの揃った粒の固化物を得ることができる。
【0042】
尚、固化物としては、ペレット状等、粒以外の形状の固化物を製造することが可能である。
【0043】
次に、粒の固化物を高湿環境下に所定日数のR1日保持して水和反応させて水和反応物とする(高湿養生)。高湿養生では、固化物の水和反応を促進して粒状の固化物の表面に炭酸塩被膜(表面骨格)を形成する。高湿養生における高湿雰囲気は、相対湿度が85%RH以上で室温の環境である。尚、温度は特に限定されない。R1日の高湿養生を実施した後、貝殻粉を被覆して貝殻粉を固化物の表面に保持させる。
【0044】
貝殻粉の被覆の実施例(後述する(1)(2))としては、貝殻粉の懸濁液に粒状の固化物を所定時間のT分間(例えば、1分間)浸漬し、固化物の表面に貝殻粉を被覆する。懸濁液に粒状の固化物を浸漬している最中には、振動を与える。貝殻粉の懸濁液は、例えば、75μmの貝殻粉が5%含有する懸濁液とされる。
【0045】
また、貝殻粉の被覆の実施例(後述する(5)(6))としては、例えば、75μmの貝殻砕粉中に粒状の固化物を所定時間のT分間(例えば、1分間)入れ、固化物の表面に貝殻粉を被覆する。
【0046】
固化物の表面に貝殻粉を被覆する手法として、例えば、75μmの貝殻粉が5%含有する懸濁液を固化物の表面に噴射することも可能である。
【0047】
R1日の高湿養生を実施して貝殻粉を固化物の表面に保持させた後、固化物を高湿環境下にR2日保持して水和反応させて水和反応物とする(高湿養生)。高湿養生では、固化物の水和反応を促進して粒状の固化物の表面に炭酸カルシウム塩被膜(表面骨格)を形成する。高湿養生における高湿雰囲気は、相対湿度が85%RH以上で室温の環境である。尚、温度は特に限定されない。高湿養生のR1日とR2日の合計は、例えば、7日とされる。
【0048】
R2日の高湿養生を実施した後、固化物を水中(室温)で所定日数のS日(例えば、7日)保持して水和反応を促進させる(水中養生)。水中養生は、蒸留水で実施し、養生水の交換は行わない。水中養生においては、粒状の固化物の表面に炭酸カルシウム塩被膜(表面骨格)が形成されると共に、固化物の内部の水和反応を促進する。
【0049】
S日の水中養生を実施した後、固化物を大気中(室温)で養生(気中養生)し、貝殻粉が表面に被覆されて保持された石炭灰固化物とする。気中養生は大気中に静置して養生水をゆるやかに乾燥させる。気中養生は、所定日数のX日(例えば、高湿養生のR1+R2日+水中養生のS日:例えば、14日)の間実施される。即ち、気中養生の期間は、高湿養生及び水中養生の合計期間と同じ期間以上となっている。
【0050】
気中養生を行うことで、固化物の表面に貝殻粉が保持された炭酸塩(炭酸カルシウム等)からなる緻密な表面被膜が完全に完成し、高強度で、アルカリ成分微量物質の溶出のない直径10mm程度の石炭灰固化物が確実に形成される。
【0052】
図2には本発明の第2実施形態例に係る石炭灰固化物の製造方法の処理フローを示してある。第2実施形態例の製造方法は、高湿養生に続いて水中養生を実施し、その後に貝殻粉(ホタテ)を被覆する方法である。
【0053】
第1実施形態例と同様に、石炭灰(フライアッシュ)及び石灰類と、必要に応じて石膏類とを湿式混合し、得られた混練物を所定の大きさの粒に圧密して粒状の固化物を得る(造粒)。混合材料における石炭灰、石灰類、石膏類の混合割合は、石炭灰:石灰類:石膏類=87:9:4で調整した。
【0054】
混練物の圧密は、例えば、対向する2つの凹型部で混練物を圧密し、2つの凹型部を相対的に移動させることで粒状に加圧成形する。これにより、大きさの揃った粒の固化物を得ることができる。
【0055】
尚、固化物としては、ペレット状等、粒以外の形状の固化物とすることが可能である。
【0056】
次に、粒の固化物を高湿環境下に所定日数のR日(例えば、7日)保持して水和反応させて水和反応物とする(高湿養生)。高湿養生では、固化物の水和反応を促進して粒状の固化物の表面に炭酸塩被膜(表面骨格)を形成する。高湿養生における高湿雰囲気は、相対湿度が85%RH以上で室温の環境である。尚、温度は特に限定されない。
【0057】
R日の高湿養生を実施した後、固化物を水中(室温)で所定日数のS日(例えば、7日)保持して水和反応させる(水中養生)。水中養生は、蒸留水で実施し、養生水の交換は行わない。水中養生においては、粒状の固化物の表面に炭酸塩被膜(表面骨格)が形成されると共に、固化物の内部の水和反応を促進する。
【0058】
S日の水中養生を実施した後、固化物に貝殻粉を被覆して貝殻粉を固化物の表面に保持させる。
【0059】
貝殻粉の被覆の実施例(後述する(3))としては、貝殻粉の懸濁液に粒状の固化物を所定時間のT分間(例えば、1分間)浸漬し、固化物の表面に貝殻粉を被覆する。懸濁液に粒状の固化物を浸漬している最中には、振動を与える。貝殻粉の懸濁液は、例えば、75μmの貝殻粉が5%含有する懸濁液とされる。
【0060】
また、貝殻粉の被覆の実施例(後述する(7))としては、例えば、75μmの貝殻粉砕粉の粉末中に粒状の固化物を所定時間のT分間(例えば、1分間)入れ、固化物の表面に貝殻粉を被覆する。
【0061】
固化物の表面に貝殻粉を被覆する手法として、例えば、75μmの貝殻粉が5%含有する懸濁液を固化物の表面に噴射することも可能である。
【0062】
固化物の表面に貝殻粉が被覆された後、固化物を大気中(室温)で養生(気中養生)し、貝殻粉が表面に被覆されて保持された石炭灰固化物とする。気中養生は大気中に静置して養生水をゆるやかに乾燥させる。気中養生は、所定日数のX日(例えば、高湿養生のR日+水中養生のS日:例えば、14日)の間実施される。即ち、気中養生の期間は、高湿養生及び水中養生の合計期間と同じ期間以上となっている。
【0063】
気中養生を行うことで、粒状の固化物の表面に炭酸カルシウム塩被膜(表面骨格)が形成され、固化物の表面に貝殻粉が保持された炭酸塩(炭酸カルシウム等)からなる緻密な表面被膜が完全に完成し、高強度で、アルカリ成分や微量物質の溶出のない直径10mm程度の石炭灰固化物(粒)が確実に形成される。
【0065】
図3には本発明の第3実施形態例に係る石炭灰固化物の製造方法の処理フローを示してある。第3実施形態例の製造方法は、高湿養生の後に貝殻粉の懸濁液で貝殻粉の被覆と水中養生を実施する方法である。
【0066】
第1実施形態例、第2実施形態例と同様に、石炭灰(フライアッシュ)及び石灰類と、必要に応じて石膏類とを湿式混合し、得られた混練物を所定の大きさの粒に圧密して粒状の固化物を得る(造粒)。混合材料における石炭灰、石灰類、石膏類の混合割合は、石炭灰:石灰類:石膏類=87:9:4で調整した。
【0067】
混練物の圧密は、例えば、対向する2つの凹型部で混練物を圧密し、2つの凹型部を相対的に移動させることで粒状に加圧成形する。これにより、大きさの揃った粒の固化物を得ることができる。
【0068】
尚、固化物としては、ペレット状等、粒以外の形状の固化物を製造することが可能である。
【0069】
次に、粒の固化物を高湿環境下に所定日数のR日(例えば、7日)保持して水和反応させて水和反応物とする(高湿養生)。高湿養生では、固化物の水和反応を促進して粒状の固化物の表面に炭酸塩被膜(表面骨格)を形成する。高湿養生における高湿雰囲気は、相対湿度が85%RH以上で室温の環境である。尚、温度は特に限定されない。
【0070】
R日の高湿養生を実施した後、固化物を貝殻粉の懸濁液の中に所定日数のS日(例えば、7日)保持して水和反応させる(水中養生)と同時に、貝殻粉を被覆して貝殻粉を固化物の表面に保持させる(実施例としては後述する(4))。水中養生を行う貝殻粉の懸濁液は、例えば、75μmの貝殻粉が5%含有する懸濁液とされる。水中養生においては、粒状の固化物の表面に炭酸塩被膜(表面骨格)が形成されると共に、固化物の内部の水和反応を促進する。
【0071】
水中養生と同時に固化物の表面に貝殻粉が被覆された後、固化物を大気中(室温)で養生(気中養生)し、貝殻粉が表面に被覆されて保持された石炭灰固化物とする。気中養生は大気中に静置して養生水をゆるやかに乾燥させる。気中養生は、所定日数のX日(例えば、高湿養生のR日+水中養生のS日:例えば、14日)の間実施される。
【0072】
気中養生を行うことで、固化物の表面に貝殻粉が保持された炭酸塩(炭酸カルシウム等)からなる緻密な表面被膜が完全に完成し、高強度で、アルカリ成分や微量物質などの溶出のない直径10mm程度の石炭灰固化物(粒)が確実に形成される。
【0073】
図4に基づいて上述した実施形態例における具体的な実施例(1)から実施例(7)の処理を説明する。
図4には各実施形態例における実施例(1)から実施例(7)の処理を説明する表を示してある。
【0074】
実施例(1)
第1実施形態例において、固化物の高湿養生を3日行い、貝殻粉の懸濁液に粒状の固化物を1分間浸漬し、固化物の表面に貝殻粉を被覆する。その後、貝殻粉が被覆された固化物の高湿養生を4日行い、水中養生を7日、気中養生を14日実施した(材齢28日)。
実施例(2)
第1実施形態例において、固化物の高湿養生を5日行い、貝殻粉の懸濁液に粒状の固化物を1分間浸漬し、固化物の表面に貝殻粉を被覆する。その後、貝殻粉が被覆された固化物の高湿養生を2日行い、水中養生を7日、気中養生を14日実施した(材齢28日)。
【0075】
実施例(3)
第2実施形態例において、固化物の高湿養生を7日行った後、水中養生を7日行い、つづいて貝殻粉の懸濁液に粒状の固化物を1分間浸漬し、固化物の表面に貝殻粉を被覆する。その後、気中養生を14日実施した(材齢28日)。
【0076】
実施例(4)
第3実施形態例において、固化物の高湿養生を7日行った後、貝殻粉の懸濁液に粒状の固化物を7日浸漬して水中養生と貝殻粉の被覆を同時に行い、その後、気中養生を14日実施した(材齢28日)。
【0077】
実施例(5)
第1実施形態例において、固化物の高湿養生を3日行い、貝殻粉砕粉の粉末中に粒状の固化物を1分間入れ、固化物の表面に貝殻粉を被覆する。その後、貝殻粉が被覆された固化物の高湿養生を4日行い、水中養生を7日、気中養生を14日実施した(材齢28日)。
実施例(6)
第1実施形態例において、固化物の高湿養生を5日行い、貝殻粉砕粉の粉末中に粒状の固化物を1分間入れ、固化物の表面に貝殻粉を被覆する。その後、貝殻粉が被覆された固化物の高湿養生を2日行い、水中養生を7日、気中養生を14日実施した(材齢28日)。
【0078】
実施例(7)
第2実施形態例において、固化物の高湿養生を7日行った後、水中養生を7日行い、貝殻粉砕粉の粉末中に粒状の固化物を1分間入れ、固化物の表面に貝殻粉を被覆する。その後、気中養生を14日実施した(材齢28日)。
【0079】
図5に基づいて上述した実施例(1)から実施例(7)で製造した固化物の強度の状態を説明する。
図5には圧縮強度を表すグラフを示してある。尚、
図5に示した固化物は、直径10mm×3〜4mmのペレットである。
【0080】
図に示すように、実施例(1)(5)の固化物の圧縮強度が50(N/mm
2)台の後半の値となり、実施例(2)(3)(4)(6)(7)の固化物の圧縮強度が70(N/mm
2)を超えた。特に、実施例(3)の固化物の圧縮強度が100(N/mm
2)を超えた。この結果、実施例の固化物は、実用上の強度が保たれることがわかる。特に、水中養生を行った後に固化物の表面に貝殻粉を被覆することが、強度の増大に有効であることがわかる(実施例(3)(7))。
【0081】
図6に基づいて実施例(3)(7)について実密度(かさ密度:g/cm
3)と空隙率(%)の状態を説明する。
図6には実密度(g/cm
3)と空隙率(%)を表すグラフを示してある。
【0082】
図に示すように、実施例(3)及び実施例(7)の固化物の空隙率(%)が23(%)程度に抑えられていることがわかる。また、実施例(3)及び実施例(7)の固化物の実密度(g/cm
3)が2.3(g/cm
3)以上となり十分なかさ密度が得られていることがわかる。この結果、実施例の固化物は、実用上のかさ密度が得られると共に、実用上問題のない空隙率に抑えることができる。
【0083】
図7、
図8に基づいて実施例(4)の固化物の表面の状態を説明する。
図7には実施例(4)の固化物の表面のSEM(Scanning Electron Microscope)写真、
図8には実施例(4)の固化物の断面の電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)分析の結果を示してある。
【0084】
図7に示すように、固化物の表面に貝殻砕粉が融着していることが確認された。即ち、貝殻が全体に均一に分布し、その間を水和反応物が埋めていることが判る。また、貝殻上に針状の水和反応物が生成され、貝殻を捕捉していることが判る。また、ゲル状水和反応生成物が貝殻と融着していることが判る。
【0085】
図8に示すように、表面にカルシウム成分が多量に含有する被膜が形成されていることが確認された。また、緻密な固化物外表面を有し、固化物内部には水和反応生成物と未反応の石炭灰が含まれていることが確認された。つまり、実施例(4)の固化物は、貝殻粉を保持したCa炭酸塩の緻密な表面層で覆われており、気中養生後(材齢28日)では、Calcite(CaCO
3)と微量のモノサルフェート水和物の炭酸塩などで覆われていることがわかった。
【0086】
図9に基づいて実施例の固化物の外観の状態を説明する。
図9には固化物の外観写真を示してある。
【0087】
図に示すように、いずれの実施例の場合も表面が白くなった固化物が得られていることがわかる。固化物表面のポアに貝殻粉が保持され、水中養生や気中養生により材齢を経ることにより固化物の水和反応が促進されて表面の白色が保たれていることが確認された。
【0088】
上述した石炭灰固化物の製造方法では、貝殻粉の懸濁液に固化物を浸漬して貝殻粉を被覆した場合(実施例(1)から実施例(4))、材齢28日で表面が均一に白色化して貝殻粉の剥離が少ないものとなる。また、高湿養生後(水中養生後)に貝殻粉末に固化物を入れて(貝殻砕粉を固化物にまぶし)貝殻粉を被覆した場合(実施例(5)から実施例(7))、余剰水分などにより貝殻粉が十分に付着して白色化したものとなる。強度に関し、固化物の構造が安定した水中養生後に貝殻の被覆処理をした場合に、大きな圧縮強度を得ることができる。
【0089】
このため、石炭灰、石灰類を含有する混練物を加圧成形し表面に炭酸塩からなる被膜を有する固化物を形成し、固化物の表面に貝殻粉をさらに被覆して貝殻粉を固化物の表面に水和反応により融着、保持させることにより、表面を白くして十分な強度をもった固化物を製造することが可能になる。従って、養浜などの海岸、河岸等の環境修復を含む土木材料として、石炭灰を用いた固化物を有効に利用することが可能になる。
【0090】
上述したように、本発明の石炭灰固化物の製造方法は、有効利用技術の開発が求められている石炭灰、及び、ホタテやカキなどの貝殻の廃棄物を用いて容易に固化物を製造することが可能になる。特に、意匠性を向上させて養浜などの海岸、河岸等の環境修復に適用できるように表面を白くした固化物を製造することが可能になる。