【実施例】
【0024】
1.銅箔複合体
<銅箔複合体の製造>
タフピッチ銅(JIS−H3100 (合金番号:C1100))に対し、表1〜表3に示す添加元素を加えたインゴットを熱間圧延し、又は無酸素銅(JIS−H3100 (合金番号:C1020))に対し、表4に示す添加元素を加えたインゴットを熱間圧延した後、表面切削で酸化物を取り除いた後、冷間圧延、焼鈍と酸洗を繰り返して所定厚みまで薄くし、厚みが0.1mm以下の冷間圧延では100〜110℃に銅を加熱して圧延を行い、加工性を確保した銅箔を得た。銅箔が幅方向で均一な組織となるよう、圧延時のテンション及び圧延材の幅方向の圧下条件を均一にした。また、圧延時に幅方向で均一な温度分布となるよう複数のヒータを使用して温度管理を行い、銅の温度を測定して制御した。
なお、各実施例及び比較例1〜5、比較例14〜17において、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、銅箔を100〜110℃に加熱して行なった。また、各実施例及び比較例1〜5、比較例14〜17については、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の1パスの圧延加工度が25%を超えないように制御した。
一方、比較例6〜8、比較例10〜13、比較例18では、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱しなかった。また、比較例6〜8、比較例10〜13、比較例18については、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超えた。
また、比較例19において、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱して行なった。そして、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超えた。
また、比較例20において、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱しなかった。そして、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の1パスあたりの加工度が25%を超えないように制御した。
比較例9は電解銅箔を用いた。
【0025】
得られた銅箔表面にCCLで用いられる一般的な表面処理を施した。処理方法は特公平7-3237号公報に記載されているものを採用した。表面処理後、ラミネート法により、樹脂層であるPI層を銅箔に積層してCCL(銅箔複合体)を作製した。樹脂層を銅箔に積層するラミネートの条件は公知の条件とした。なお、PI層を銅箔に積層させる際、熱可塑性のPI系接着層を介在させたが、この接着層とPIフィルムを含めて樹脂層とした。
【0026】
<引張試験>
銅箔複合体から幅12.7mmの短冊状の引張試験片を複数作製した。又、この引張試験片のいくつかを溶剤(東レエンジニアリング製のTPE3000)に浸漬して接着剤層とPIフィルムを溶解し、銅箔のみの試験片を得た。いくつかの試験片は塩化第二鉄等で銅箔を溶かし、PIのみの試験片を得た。
引張試験は、ゲージ長さ100mm、引張速度10mm/minの条件で行い、N10の平均値を強度(応力)及び伸びの値として採用した。
【0027】
<銅箔の集合組織I200/I
0200>
銅箔複合体を溶剤(東レエンジニアリング製のTPE3000)に浸漬して接着剤層とPIフィルムを溶解し、銅箔のみの試験片を得た。そして、銅箔の圧延面のX線回折で求めた{100}面強度の積分値(I)を求めた。この値をあらかじめ測定しておいた微粉末銅(325mesh,水素気流中で300℃で1時間加熱してから使用){100}面強度の積分値(I
0)で割り、I200/I
0200を計算した。
【0028】
<銅箔複合体の評価>
<W曲げ(加工性)>
日本伸銅協会技術標準JCBA T307に従い、曲げ半径R=0mmで銅箔複合体をW曲げした。W曲げは、一般的な銅箔複合体の加工性の評価となる。
<180°密着曲げ>
JIS Z 2248に従い、銅箔複合体を180°密着曲げした。180°密着曲げはW曲げより厳しく、銅箔複合体の折り曲げ性の評価となる。次に180°曲げた部分を0°まで戻し、さらに180°密着曲げを行なう。180°密着曲げを行なった回数が5回に達した後に銅箔の曲げ表面を観察した。
<絞り加工性>
図1に示すカップ試験装置10を用いて加工性の評価を行った。カップ試験装置10は、台座4とポンチ2とを備えており、台座4は円錐台状の斜面を有し、円錐台は上から下へ向かって先細りになっていて、円錐台の斜面の角度は水平面から60°をなしている。又、円錐台の下側には、直径15mmで深さ7mmの円孔が連通している。一方、ポンチ2は先端が直径14mmの半球状の円柱をなし、円錐台の円孔へポンチ2先端の半球部を挿入可能になっている。
なお、円錐台の先細った先端と、円錐台の下側の円孔の接続部分は半径(r)=3mmの丸みを付けている。
【0029】
そして、銅箔複合体を直径30mmの円板状の試験片20に打ち抜き、台座4の円錐台の斜面に銅箔複合体を載置し、試験片20の上からポンチ2を押し下げて台座4の円孔へ挿入した。これにより、試験片20がコニカルカップ状に成形された。
なお、銅箔複合体の片面にのみ樹脂層がある場合、樹脂層を上にして台座4に載置する。又、銅箔複合体の両面に樹脂層がある場合、M面と接着している樹脂層を上にして台座4に載置する。銅箔複合体の両面がCuの場合はどちらが上であってもよい。
成形後の試験片20内の銅箔の割れの有無を目視で判定し、以下の基準で加工性の評価を行った。
【0030】
なお、これら銅箔複合体の評価はいずれも以下の基準とした。
◎:銅箔に亀裂やくびれ無し
○:銅箔に小さなシワ(クビレ)はあるが、大きなものは無し
△:銅箔に大きなクビレがあるが、割れは無し
×:銅箔に亀裂あり
そして、W曲げ及び180°密着曲げについては評価が◎、○であれば良好とし、絞り加工性については評価が◎、○、△であれば良好とした。
【0031】
得られた結果を表1〜表3に示す。表中、TSは引張強度、GSは結晶粒径、I/I
0はI200/I
0200を示す。又、GSの測定方法は既に述べたとおりである。なお、銅箔複合体を溶剤(東レエンジニアリング製のTPE3000)に浸漬して接着剤層とPIフィルムを溶解し、銅箔のみの試験片を得て、得られた銅箔についてGSを測定した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
表1〜表4から明らかなように、各実施例の場合、銅箔の引張強度(TS)が100〜180MPaであり、I200/I
0200が30以上であり、銅箔の板面からみた平均結晶粒径が10〜400μmであり、銅箔複合体の加工性だけでなく、折り曲げ性及び絞り加工性も良好であった。
なお、銅箔の板面からみた平均結晶粒径が50μm未満である、実施例12、23、24、34、35、45、46、60、68、70の場合、その他の実施例に比べて絞り加工性の評価がやや劣ったが実用上は問題ない。このことより、銅箔の板面からみた平均結晶粒径を50〜400μmとすることが好ましい。
又、実施例55は実施例54と同一の銅箔を用い、樹脂層を調整して(F×T)/(f×t)<1とした場合である。同様に、実施例56は実施例46と同一の銅箔を用い、樹脂層を調整して(F×T)/(f×t)<1とした場合である。実施例55と実施例54を比較し、実施例56と実施例46を比較すると、(F×T)/(f×t)≧1を満たす場合に絞り加工性が良くなることが分かる。
【0037】
一方、比較例1〜5の場合、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の銅の温度を100〜110℃とし、及び、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の1パスの圧延加工度が25%を超えないように制御したために銅箔の板面からみた平均結晶粒径は10〜400μmとなり、銅箔複合体の加工性は良好であったものの、上記添加元素を含まないタフピッチ銅(JIS-H3250に規格)を用いたため、I200/I
0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性が劣化した。同様に、上記添加元素が30wtppm未満である比較例12の場合も、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性が劣化した。
【0038】
比較例6〜8の場合、板厚0.1mm以下の冷間圧延について、圧延時に銅箔を100〜110℃に加熱せず、さらに冷間圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超えたため、I200/I
0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。
電解銅箔を用いた比較例9の場合、銅箔の平均結晶粒径が10μm未満でI200/I
0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性が劣化した。
【0039】
板厚0.1mm以下の冷間圧延時に銅箔を100〜110℃に加熱せず、圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超え、さらに、上記添加元素を500wtppmを超えて添加した比較例10,11、18の場合、再結晶粒が不均一になって銅箔の平均結晶粒径が10μm未満となり、銅箔複合体の加工性が劣化した。さらに、圧延時にせん断帯を形成したため、{100}面が発達せずにI200/I
0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。
【0040】
比較例13の場合、板厚0.1mm以下の冷間圧延について、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱せず、さらに冷間圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超えたため、I200/I
0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。
Sn、Mn、Cr、Zn、Zr、Mg、Ni、Si、及びAgの群から選ばれる少なくとも1種を添加しなかった比較例14〜17の場合、TSが180MPaを超え、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。
【0041】
また、比較例19の場合、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱して行なったが、圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超えたため、I200/I
0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。
また、比較例20の場合、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、1パスあたりの加工度が25%を超えないように制御したが、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱しなかったため、I200/I
0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。