特許第5705311号(P5705311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5705311銅箔複合体及びそれに使用される銅箔、並びに成形体及びその製造方法
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  • 特許5705311-銅箔複合体及びそれに使用される銅箔、並びに成形体及びその製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5705311
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】銅箔複合体及びそれに使用される銅箔、並びに成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20150402BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20150402BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20150402BHJP
   C22C 9/05 20060101ALI20150402BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20150402BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20150402BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20150402BHJP
【FI】
   B32B15/08 P
   C22C9/02
   C22C9/04
   C22C9/05
   C22C9/06
   C22C9/10
   !C22F1/08 B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-515082(P2013-515082)
(86)(22)【出願日】2012年5月8日
(86)【国際出願番号】JP2012061761
(87)【国際公開番号】WO2012157469
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2014年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-108298(P2011-108298)
(32)【優先日】2011年5月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(72)【発明者】
【氏名】冠 和樹
【審査官】 河原 肇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−326684(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/004664(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/107043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
C22C 5/00− 25/00
27/00− 28/00
30/00− 30/06
35/00− 45/10
C22F 1/00− 3/02
H05K 1/03、 1/09
1/16、 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔と樹脂層とを積層してなる銅箔複合体であって、
前記銅箔は、Sn、Mn、Cr、Zn、Zr、Mg、Ni、Si、及びAgの群から選ばれる少なくとも1種を合計で30〜500質量ppm含有し、
前記銅箔の引張強度が100〜180MPaであり、
前記銅箔の(100)面の集合度であるI200/I0200が30以上であり、
前記銅箔の板面からみた平均結晶粒径が10〜400μmである、銅箔複合体。
【請求項2】
前記銅箔の板面からみた平均結晶粒径が50〜400μmである請求項1に記載の銅箔複合体。
【請求項3】
前記銅箔の破断歪が5%以上であり、
前記銅箔の厚みt、引張歪4%における前記銅箔の応力f、前記樹脂層の厚みT、引張歪4%における前記樹脂層の応力Fとしたとき、(F×T)/(f×t)≧1を満たす請求項1又は2記載の銅箔複合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の銅箔複合体に使用される銅箔であって、請求項1〜3のいずれかで規定される銅箔
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか記載の銅箔複合体を加工してなる成形体。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか記載の銅箔複合体を加工する成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド材、FPC用銅積層体、放熱を要する基板として好適な銅箔複合体及びそれに使用される銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
銅箔と樹脂フィルムとを積層してなる銅箔複合体が電磁波シールド材として用いられている(例えば、特許文献1)。銅箔は電磁波シールド性を有し、樹脂フィルムは銅箔の補強のために積層される。樹脂フィルムを銅箔に積層する方法としては、樹脂フィルムを接着剤で銅箔にラミネートする方法、樹脂フィルム表面に銅を蒸着させる方法などがある。電磁波シールド性を確保するためには銅箔の厚みを数μm以上とする必要があることから、銅箔に樹脂フィルムをラミネートする方法が安価である。
又、銅箔は電磁波シールド性に優れ、被シールド体を覆うことで被シールド体の全面をシールドすることができる。これに対し、銅の編組等で被シールド体を覆った場合、網目部分で被シールド体が露出し、電磁波シールド性に劣る。
【0003】
又、電磁波シールド材のほかにも、FPC(フレキシブルプリント基板)用として銅箔と樹脂フィルム(PET、PI(ポリイミド)、LCP(液晶ポリマー)等)との複合体が使用されている。特に、FPCではPIが主に用いられる。
FPCにおいても屈曲や折り曲げの変形を受けることがあり、屈曲性に優れたFPCが開発され、携帯電話等に採用されている(特許文献2)。通常、FPCが屈曲部位で受ける屈曲や折り曲げは一方向の曲げ変形であり、電線等に巻かれた電磁波シールド材が曲げられるときの変形と比較すると単純であり、FPC用の複合体は加工性があまり要求されていなかった。
【0004】
これに対し、本出願人は、銅箔及び樹脂フィルムの厚み、並びに引張歪4%における銅箔の応力が一定の関係にあるときに銅箔複合体の延びが向上し、加工性を向上することを報告している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-290449号公報
【特許文献2】特許第3009383号公報
【特許文献3】国際公開第WO2011/004664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで近年、スマートフォン等の各種携帯機器の高機能化が進んでおり、これら機器に搭載される部品の省スペース化が求められている。そのため、上記機器に適用されるFPCも小さく折り畳んで組み込まれることとなり、銅箔複合体には以前より過酷な折り曲げ性が要求されている。
しかしながら、折り曲げ性に優れた銅箔複合体の開発は未だ十分に進んでいない。例えば、特許文献3記載の技術は、銅箔複合体の加工性W曲げ試験で評価しているが、厳しい折り曲げ性を評価する180度密着曲げ試験にも良好な結果を示す銅箔複合体の構成については記載されていない。
従って、本発明の目的は、折り曲げ性を向上させた銅箔複合体及びそれに使用される銅箔を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、銅箔複合体を構成する銅箔の成分、強度、並びに組織の方位及び粒径を規定することで、折り曲げ性を向上することができることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明の銅箔複合体は、銅箔と樹脂層とを積層してなり、前記銅箔は、Sn、Mn、Cr、Zn、Zr、Mg、Ni、Si、及びAgの群から選ばれる少なくとも1種を合計で30〜500質量ppm含有し、前記銅箔の引張強度が100〜180MPaであり、前記銅箔の(100)面の集合度であるI200/I0200が30以上であり、前記銅箔の板面からみた平均結晶粒径が10〜400μmである。
【0008】
前記銅箔の板面からみた平均結晶粒径が50〜400μmであることが好ましい。
前記銅箔の破断歪が5%以上であり、前記銅箔の厚みt、引張歪4%における前記銅箔の応力f、前記樹脂層の厚みT、引張歪4%における前記樹脂層の応力Fとしたとき、(F×T)/(f×t)≧1を満たすことが好ましい。
【0009】
本発明の銅箔は、前記銅箔複合体に使用され、請求項1〜3のいずれかで規定される。
本発明の成形体は、前記銅箔複合体を加工してなる。
本発明の成形体の製造方法は、前記銅箔複合体を加工する。


【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、折り曲げ性を向上させた銅箔複合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】加工性の評価を行うカップ試験装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の銅箔複合体は、銅箔と樹脂層とを積層してなる。
<銅箔>
銅箔は、Sn、Mn、Cr、Zn、Zr、Mg、Ni、Si、及びAgの群から選ばれる少なくとも1種を合計で30〜500質量ppm含有し、残部がCu及び不回避的不純物からなる。銅箔は圧延銅箔とする。
本発明者らが検討した結果、上記元素を含むと、純銅に比べて{100}面が発達し、折り曲げ性が向上することが判明した。上記元素の含有量が30質量ppm未満であると{100}面が発達せずに折り曲げ性が低下し、500質量ppmを超えると圧延時にせん断帯を形成して{100}面が発達せずに折り曲げ性が低下すると共に再結晶粒が不均一になる。
なお、銅箔の面の方位を表記する場合は「{100}」のようにカッコ付とし、X線回折強度を表記する場合は、「200」のようにカッコなしとする。
【0013】
上記したように、銅箔の{100}面の集合度であるI200/I0200(I200:銅箔の200面のX線回折強度、I0200:銅粉末の200面の X線回折強度)を30以上とすることで、結晶粒の方位が揃うので、結晶粒界を超えて変形が伝わりやすくなる。銅箔が薄くなると局部的なクビレが結晶粒を超えて発生しやすいため銅箔単体では伸びなくなる。従って、銅箔単体の伸びは、結晶粒がある程度細かく、集合度も小さいほうが伸び易いと考えられる。一方、銅箔を樹脂と積層して複合体にすると、樹脂の変形の影響を受けるので、銅箔単体の結晶粒や集合度が大きくてもクビレは生じ難くなり、かえって銅箔の結晶粒が大きく集合度が高い方が銅箔の強度が弱くなるので、樹脂の変形に追従しやすくなり高延性化すると考えられる。このため、銅箔複合体の折り曲げ性が向上する。
なお、I200/I0200の上限は特に限定されないが、例えば120以下、例えば110以下、例えば100以下である。
【0014】
銅箔の引張強度を100〜180MPaとする。銅箔の引張強度が100MPa未満であると、強度が低過ぎて銅箔複合体を製造することが困難であり、引張強度が180MPaを超えるものは圧延時に組織の積層欠陥エネルギーが増大したために{100}面が発達せず、結晶粒も小さくなる。
【0015】
銅箔の板面からみた平均結晶粒径が10〜400μmである。銅箔の板面からみた平均結晶粒径が10μm未満のものは、圧延時に組織の積層欠陥エネルギーが増大したために{100}面が発達せず、折り曲げ性が低下する。銅箔の板面からみた平均結晶粒径が400μmを超えるものは製造が困難である。
特に、上記平均結晶粒径が50〜400μmであると、折り曲げ性とともに絞り加工性が向上する。上記平均結晶粒径が50μm以上の場合、銅箔の強度が弱くなると共に、厚みに対して結晶粒が十分大きくなるため、銅箔の個々の結晶粒が樹脂に直接接触している場合が多くなり(銅箔の表面に露出していない結晶粒が少なくなり)、樹脂の変形をそれぞれの結晶粒が直接受け、折り曲げ性が向上すると考えられる。絞り加工性は、例えば銅箔複合体を所定形状にプレス成型する際に要求される。
なお、平均結晶粒径は、JIS H0501の切断法により、銅箔の圧延方向と圧延直角方向について測定した値の平均値とする。又、銅箔複合体から回路を形成した後の試料の場合は、回路に平行な方向を平均結晶粒径の値とする。
【0016】
銅箔の破断歪を5%以上とすると好ましい。破断歪が5%未満であると、後述する銅箔複合体の(F×T)/(f×t)≧1を満たしていても銅箔複合体の延びが低下することがある。(F×T)/(f×t)≧1を満たしていれば銅箔の破断歪は大きいほど好ましい。
【0017】
又、電磁波シールド材用途の場合、銅箔の厚みtを4〜12μmとすると好ましい。厚みtが4μm未満であると、シールド性や破断歪が低下すると共に、銅箔の製造や樹脂層と積層する際の取扱いが困難となる場合がある。一方、厚みtが厚い方が破断歪は上昇するが、厚みtが12μmを超えると剛性が高くなり、加工性が低下する場合がある。また、厚みtが12μmを超えると、後述する銅箔複合体の(F×T)/(f×t)≧1を満たさず、銅箔複合体の破断歪がかえって低下する傾向にある。特に、厚みtが12μmを超えると、(F×T)/(f×t)≧1を満たすためにTを厚くする必要がある。
一方、FPC用、又は放熱を要する基板に用いる場合、銅箔の厚みtを4〜40μmとすると好ましい。FPC、又は放熱を要する基板の場合、電磁波シールド材に比べて銅箔複合体に柔軟性を要求されないので、厚みtの最大値を40μmとすることができる。又、樹脂層としてPIを用いる場合には、PIの強度が高いことから、銅箔の厚みtが厚くても(F×T)/(f×t)≧1を満たすことができる。なお、放熱を要する基板は、FPCの銅箔に回路を設けず、被放熱体に銅箔を密着させて使用されるものである。
【0018】
<樹脂層>
樹脂層としては特に制限されず、樹脂材料を銅箔に塗布して樹脂層を形成してもよいが、銅箔に貼付可能な樹脂フィルムが好ましい。樹脂フィルムとしては、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PI(ポリイミド)フィルム、LCP(液晶ポリマー)フィルム、PP(ポリプロピレン)フィルムが挙げられ、特にPIフィルムを好適に用いることができる。
【0019】
樹脂層の厚みTは特に制限されないが、電磁波シールド材用途の場合、通常、7〜25μm程度である。厚みTが7μmより薄いと後述する(F×T)の値が低くなり、(F×T)/(f×t)≧1を満たさず、銅箔複合体の(伸び)破断歪が低下する傾向にある。一方、厚みTが25μmを超えても銅箔複合体の(伸び)破断歪が低下する傾向にある。
樹脂フィルムと銅箔との積層方法としては、樹脂フィルムと銅箔との間に接着剤を用いてもよく、接着剤を用いずに樹脂フィルムを銅箔に熱圧着してもよい。但し、樹脂フィルムに余分な熱を加えないという点からは、接着剤を用いることが好ましい。接着剤層の厚みは6μm以下であることが好ましい。接着剤層の厚みが6μmを超えると、銅箔複合体に積層した後に銅箔のみが破断しやすくなる。
一方、FPC用、又は放熱を要する基板に用いる場合、樹脂層の厚みTは、通常、7〜70μm程度である。厚みTが7μmより薄いと後述する(F×T)の値が低くなり、(F×T)/(f×t)≧1を満たさず、銅箔複合体の(伸び)破断歪が低下する傾向にある。一方、70μmを越えるとフレキシブル性が低下する傾向にある。
【0020】
なお、本発明の「樹脂層」は接着剤層も含める。
FPCの場合、カバーレイフィルムを付けて銅箔の両面が樹脂層となる場合があるが、この場合、樹脂層のF、Tはカバーレイ分の強度、厚みを加えたものとする。
なお、銅箔のうち樹脂層の形成面と反対面に、耐食性(耐塩害性)を向上させるためや接触抵抗を低下させるために1μm厚程度のSnめっき層を形成してもよい。
また、樹脂層と銅箔との密着性を向上させるため、銅箔に粗化処理等の表面処理を行っても良い。この表面処理としては、例えば、特開2002-217507号公報、特開2005-15861号公報、特開2005-4826号公報、特公平7-32307号公報などに記載されているものを採用することができる。
【0021】
銅箔複合体を構成する銅箔と樹脂層の厚みや歪を規定することで、加工性を損なわずに絞り加工性を向上することができる。
つまり、銅箔の厚みt、引張歪4%における銅箔の応力f、樹脂層の厚みT、引張歪4%における樹脂層の応力Fとしたとき、(F×T)/(f×t)≧1を満たす銅箔複合体は、延性が高くなって絞り加工性が向上することが判明している。
この理由は明確ではないが、(F×T)及び(f×t)はいずれも単位幅当たりの応力(例えば、(N/mm))を表し、しかも銅箔と樹脂層は積層されて同一の幅を有するから、(F×T)/(f×t)は銅箔複合体を構成する銅箔と樹脂層に加わる力の比を表している。従って、この比が1以上であることは、樹脂層側により多くの力が加わることであり、樹脂層側の方が銅箔より強いことになる。このことにより銅箔は樹脂層の影響を受けやすくなり、銅箔が均一に伸びるようになるため、銅箔複合体全体の延性も高くなると考えられる。
【0022】
ここで、F及びfは、塑性変形が起きた後の同じ歪量での応力であればよいが、銅箔の破断歪と、樹脂層(例えばPETフィルム)の塑性変形が始まる歪とを考慮して引張歪4%の応力としている。又、Fの測定は、銅箔複合体から樹脂層を溶剤等で除去して残った銅箔の引張試験により行うことができる。同様に、fの測定は、銅箔複合体から銅箔を酸等で除去して残った樹脂層の引張試験により行うことができる。T及びtは、銅箔複合体の断面を各種顕微鏡(SEM等)で観察して測定することができる。
又、銅箔複合体を製造する前の銅箔と樹脂層のF及びfの値が既知の場合であって、銅箔複合体を製造する際に銅箔及び樹脂層の特性が大きく変化するような熱処理を行わない場合は、銅箔複合体を製造する前の上記既知のF及びf値を採用してもよい。
【0023】
以上のように、銅箔複合体の(F×T)/(f×t)≧1を満たすことにより、銅箔複合体の延性が高くなって破断歪も向上する。好ましくは、銅箔複合体の破断歪が30%以上であると、ケーブル等の被シールド体の外側に銅箔複合体を巻き付けてシールド材とした後、ケーブルの引き回し等に伴って銅箔複合体が折り曲げられたときに割れが生じ難い。
ここで、銅箔複合体の破断歪の値は、引張試験によって銅箔と樹脂層が同時に破断する場合はその歪を採用し、銅箔のみに先に亀裂が生じた場合は銅箔に亀裂が入ったときの歪を採用する。
【実施例】
【0024】
1.銅箔複合体
<銅箔複合体の製造>
タフピッチ銅(JIS−H3100 (合金番号:C1100))に対し、表1〜表3に示す添加元素を加えたインゴットを熱間圧延し、又は無酸素銅(JIS−H3100 (合金番号:C1020))に対し、表4に示す添加元素を加えたインゴットを熱間圧延した後、表面切削で酸化物を取り除いた後、冷間圧延、焼鈍と酸洗を繰り返して所定厚みまで薄くし、厚みが0.1mm以下の冷間圧延では100〜110℃に銅を加熱して圧延を行い、加工性を確保した銅箔を得た。銅箔が幅方向で均一な組織となるよう、圧延時のテンション及び圧延材の幅方向の圧下条件を均一にした。また、圧延時に幅方向で均一な温度分布となるよう複数のヒータを使用して温度管理を行い、銅の温度を測定して制御した。
なお、各実施例及び比較例1〜5、比較例14〜17において、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、銅箔を100〜110℃に加熱して行なった。また、各実施例及び比較例1〜5、比較例14〜17については、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の1パスの圧延加工度が25%を超えないように制御した。
一方、比較例6〜8、比較例10〜13、比較例18では、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱しなかった。また、比較例6〜8、比較例10〜13、比較例18については、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超えた。
また、比較例19において、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱して行なった。そして、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超えた。
また、比較例20において、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱しなかった。そして、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の1パスあたりの加工度が25%を超えないように制御した。
比較例9は電解銅箔を用いた。
【0025】
得られた銅箔表面にCCLで用いられる一般的な表面処理を施した。処理方法は特公平7-3237号公報に記載されているものを採用した。表面処理後、ラミネート法により、樹脂層であるPI層を銅箔に積層してCCL(銅箔複合体)を作製した。樹脂層を銅箔に積層するラミネートの条件は公知の条件とした。なお、PI層を銅箔に積層させる際、熱可塑性のPI系接着層を介在させたが、この接着層とPIフィルムを含めて樹脂層とした。
【0026】
<引張試験>
銅箔複合体から幅12.7mmの短冊状の引張試験片を複数作製した。又、この引張試験片のいくつかを溶剤(東レエンジニアリング製のTPE3000)に浸漬して接着剤層とPIフィルムを溶解し、銅箔のみの試験片を得た。いくつかの試験片は塩化第二鉄等で銅箔を溶かし、PIのみの試験片を得た。
引張試験は、ゲージ長さ100mm、引張速度10mm/minの条件で行い、N10の平均値を強度(応力)及び伸びの値として採用した。
【0027】
<銅箔の集合組織I200/I0200>
銅箔複合体を溶剤(東レエンジニアリング製のTPE3000)に浸漬して接着剤層とPIフィルムを溶解し、銅箔のみの試験片を得た。そして、銅箔の圧延面のX線回折で求めた{100}面強度の積分値(I)を求めた。この値をあらかじめ測定しておいた微粉末銅(325mesh,水素気流中で300℃で1時間加熱してから使用){100}面強度の積分値(I0)で割り、I200/I0200を計算した。
【0028】
<銅箔複合体の評価>
<W曲げ(加工性)>
日本伸銅協会技術標準JCBA T307に従い、曲げ半径R=0mmで銅箔複合体をW曲げした。W曲げは、一般的な銅箔複合体の加工性の評価となる。
<180°密着曲げ>
JIS Z 2248に従い、銅箔複合体を180°密着曲げした。180°密着曲げはW曲げより厳しく、銅箔複合体の折り曲げ性の評価となる。次に180°曲げた部分を0°まで戻し、さらに180°密着曲げを行なう。180°密着曲げを行なった回数が5回に達した後に銅箔の曲げ表面を観察した。
<絞り加工性>
図1に示すカップ試験装置10を用いて加工性の評価を行った。カップ試験装置10は、台座4とポンチ2とを備えており、台座4は円錐台状の斜面を有し、円錐台は上から下へ向かって先細りになっていて、円錐台の斜面の角度は水平面から60°をなしている。又、円錐台の下側には、直径15mmで深さ7mmの円孔が連通している。一方、ポンチ2は先端が直径14mmの半球状の円柱をなし、円錐台の円孔へポンチ2先端の半球部を挿入可能になっている。
なお、円錐台の先細った先端と、円錐台の下側の円孔の接続部分は半径(r)=3mmの丸みを付けている。
【0029】
そして、銅箔複合体を直径30mmの円板状の試験片20に打ち抜き、台座4の円錐台の斜面に銅箔複合体を載置し、試験片20の上からポンチ2を押し下げて台座4の円孔へ挿入した。これにより、試験片20がコニカルカップ状に成形された。
なお、銅箔複合体の片面にのみ樹脂層がある場合、樹脂層を上にして台座4に載置する。又、銅箔複合体の両面に樹脂層がある場合、M面と接着している樹脂層を上にして台座4に載置する。銅箔複合体の両面がCuの場合はどちらが上であってもよい。
成形後の試験片20内の銅箔の割れの有無を目視で判定し、以下の基準で加工性の評価を行った。
【0030】
なお、これら銅箔複合体の評価はいずれも以下の基準とした。
◎:銅箔に亀裂やくびれ無し
○:銅箔に小さなシワ(クビレ)はあるが、大きなものは無し
△:銅箔に大きなクビレがあるが、割れは無し
×:銅箔に亀裂あり
そして、W曲げ及び180°密着曲げについては評価が◎、○であれば良好とし、絞り加工性については評価が◎、○、△であれば良好とした。
【0031】
得られた結果を表1〜表3に示す。表中、TSは引張強度、GSは結晶粒径、I/I0はI200/I0200を示す。又、GSの測定方法は既に述べたとおりである。なお、銅箔複合体を溶剤(東レエンジニアリング製のTPE3000)に浸漬して接着剤層とPIフィルムを溶解し、銅箔のみの試験片を得て、得られた銅箔についてGSを測定した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
表1〜表4から明らかなように、各実施例の場合、銅箔の引張強度(TS)が100〜180MPaであり、I200/I0200が30以上であり、銅箔の板面からみた平均結晶粒径が10〜400μmであり、銅箔複合体の加工性だけでなく、折り曲げ性及び絞り加工性も良好であった。
なお、銅箔の板面からみた平均結晶粒径が50μm未満である、実施例12、23、24、34、35、45、46、60、68、70の場合、その他の実施例に比べて絞り加工性の評価がやや劣ったが実用上は問題ない。このことより、銅箔の板面からみた平均結晶粒径を50〜400μmとすることが好ましい。
又、実施例55は実施例54と同一の銅箔を用い、樹脂層を調整して(F×T)/(f×t)<1とした場合である。同様に、実施例56は実施例46と同一の銅箔を用い、樹脂層を調整して(F×T)/(f×t)<1とした場合である。実施例55と実施例54を比較し、実施例56と実施例46を比較すると、(F×T)/(f×t)≧1を満たす場合に絞り加工性が良くなることが分かる。
【0037】
一方、比較例1〜5の場合、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の銅の温度を100〜110℃とし、及び、板厚0.1mm以下の冷間圧延時の1パスの圧延加工度が25%を超えないように制御したために銅箔の板面からみた平均結晶粒径は10〜400μmとなり、銅箔複合体の加工性は良好であったものの、上記添加元素を含まないタフピッチ銅(JIS-H3250に規格)を用いたため、I200/I0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性が劣化した。同様に、上記添加元素が30wtppm未満である比較例12の場合も、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性が劣化した。
【0038】
比較例6〜8の場合、板厚0.1mm以下の冷間圧延について、圧延時に銅箔を100〜110℃に加熱せず、さらに冷間圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超えたため、I200/I0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。
電解銅箔を用いた比較例9の場合、銅箔の平均結晶粒径が10μm未満でI200/I0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性が劣化した。
【0039】
板厚0.1mm以下の冷間圧延時に銅箔を100〜110℃に加熱せず、圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超え、さらに、上記添加元素を500wtppmを超えて添加した比較例10,11、18の場合、再結晶粒が不均一になって銅箔の平均結晶粒径が10μm未満となり、銅箔複合体の加工性が劣化した。さらに、圧延時にせん断帯を形成したため、{100}面が発達せずにI200/I0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。
【0040】
比較例13の場合、板厚0.1mm以下の冷間圧延について、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱せず、さらに冷間圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超えたため、I200/I0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。
Sn、Mn、Cr、Zn、Zr、Mg、Ni、Si、及びAgの群から選ばれる少なくとも1種を添加しなかった比較例14〜17の場合、TSが180MPaを超え、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。
【0041】
また、比較例19の場合、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱して行なったが、圧延時の1パスあたりの加工度の一部が25%を超えたため、I200/I0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。
また、比較例20の場合、板厚0.1mm以下の冷間圧延については、1パスあたりの加工度が25%を超えないように制御したが、圧延中に銅箔を100〜110℃に加熱しなかったため、I200/I0200が30未満となり、銅箔複合体の折り曲げ性及び絞り加工性も劣化した。
図1