特許第5705738号(P5705738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5705738可動接点部品用銀被覆複合材料とその製造方法および可動接点部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5705738
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】可動接点部品用銀被覆複合材料とその製造方法および可動接点部品
(51)【国際特許分類】
   H01H 1/04 20060101AFI20150402BHJP
   H01H 11/04 20060101ALI20150402BHJP
【FI】
   H01H1/04 B
   H01H11/04 B
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-529791(P2011-529791)
(86)(22)【出願日】2011年2月10日
(86)【国際出願番号】JP2011052911
(87)【国際公開番号】WO2011099574
(87)【国際公開日】20110818
【審査請求日】2014年1月8日
(31)【優先権主張番号】特願2010-28703(P2010-28703)
(32)【優先日】2010年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 良聡
(72)【発明者】
【氏名】座間 悟
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智
(72)【発明者】
【氏名】大野 雅人
【審査官】 関 信之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−099550(JP,A)
【文献】 特開2008−088493(JP,A)
【文献】 特開2007−138237(JP,A)
【文献】 特開2005−126763(JP,A)
【文献】 特開2007−291510(JP,A)
【文献】 特開2009−215632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 1/04
H01H 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部にニッケル、コバルト、ニッケル合金、コバルト合金のいずれかからなる下地層が形成され、その上層に銅または銅合金からなる中間層が形成され、さらにその上層に銀または銀合金層が最表層として形成されている可動接点部品用銀被覆複合材料であって、
前記中間層の厚さが0.05〜0.3μmであり、かつ前記最表層に形成された銀または銀合金の平均結晶粒径が0.5〜5.0μmであり、
前記最表層の表面の銅成分の検出量が5質量%未満であることを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料。
【請求項2】
前記最表層の厚さが、0.3〜2.0μmであることを特徴とする、請求項1記載の可動接点部品用銀被覆複合材料。
【請求項3】
ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部にニッケル、コバルト、ニッケル合金、コバルト合金のいずれかからなる下地層を形成し、その上層に銅または銅合金からなる中間層を形成し、さらにその上層に銀または銀合金層を最表層として形成する可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法であって、前記中間層の厚さが0.05〜0.3μmであり、かつ大気雰囲気下にて50〜190℃の温度範囲で熱処理を施すことで、前記最表層に形成された銀または銀合金の平均結晶粒径を0.5〜5.0μmとし、
前記最表層の表面の銅成分の検出量を5質量%未満としたことを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の製造方法であって、前記熱処理の温度が50℃以上100℃以下、時間が0.1〜12時間であることを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載の製造方法であって、前記熱処理の温度が100℃を超えて190℃以下、時間が0.01〜5時間であることを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項6】
ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部にニッケル、コバルト、ニッケル合金、コバルト合金のいずれかからなる下地層を形成し、その上層に銅または銅合金からなる中間層を形成し、さらにその上層に銀または銀合金層を最表層として形成する可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法であって、前記中間層の厚さが0.05〜0.3μmであり、かつ非酸化雰囲気下にて50〜300℃の温度範囲で熱処理を施すことで、前記最表層に形成された銀または銀合金の平均結晶粒径を0.5〜5.0μmとし、前記最表層の表面の銅成分の検出量を5質量%未満としたことを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の製造方法であって、前記熱処理の温度が50℃以上100℃以下、時間が0.1〜12時間であることを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項6記載の製造方法であって、前記熱処理の温度が100℃を超えて190℃以下、時間が0.01〜5時間であることを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項6記載の製造方法であって、前記熱処理の温度が190℃を超えて300℃以下、時間が0.005〜1時間であることを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1または請求項2に記載の可動接点部品用銀被覆複合材料が加工されて形成された可動接点部品であって、
接点部分がドーム状または凸形状に形成されたことを特徴とする可動接点部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接点部品およびその材料に関し、更に詳しくは、電子機器等に用いられる小型スイッチ内の可動接点に使用される可動接点部品用銀被覆複合材料および可動接点部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コネクター、スイッチ、端子などの電気接点部には主に皿バネ接点、ブラシ接点およびクリップ接点が用いられている。これら接点部品には、銅合金やステンレス鋼などの耐食性や機械的性質などに優れる基材に、電気特性と半田付け性に優れる銀を被覆した複合接点材料が多用されている。
【0003】
この複合接点材料のうち、基材にステンレス鋼を用いたものは、基材に銅合金を用いたものと比較して、機械的特性や疲労寿命などに優れるため、接点の小型化が可能であり、長寿命のタクティルプッシュスイッチや検出スイッチなどの可動接点に使用されている。近年では、携帯電話のプッシュボタンに多用されており、メール機能やインターネット機能の充実によって、スイッチの動作回数が激増しており、長寿命の可動接点部品が求められている。
【0004】
ところで、基材にステンレス鋼を用いた複合接点材料は、基材に銅合金を用いた複合接点材料に比べて、可動接点部品の小型化が可能なためスイッチの小型化ができ、更に動作回数を増加させることが可能であるが、スイッチの接点圧力が大きくなり、可動接点部品に被覆された銀の摩耗による接点寿命の低下が問題になっている。
【0005】
例えば、ステンレス条に銀または銀合金を被覆した複合接点材料として、下地にニッケルめっきを施したものが多用されている(例えば、特許文献1参照)。だが、これをスイッチに利用する場合、スイッチの動作回数が増加するにつれて、接点部の銀が摩耗によって削れ、下地のニッケルめっき層が露出して接触抵抗が上昇し、導通が取れなくなる不具合が顕在化している。特に、小径のドーム型可動接点部品では、この現象が起こり易く、益々小型化するスイッチには大きな技術課題になっている。
【0006】
この問題を解決するために、基材の上にニッケルめっき、パラジウムめっきを順に施し、その上に金めっきを施した複合接点材料がある(例えば、特許文献2参照)。しかし、パラジウムめっき皮膜は硬いために、スイッチの動作回数が増加するとクラックを生じやすい問題点がある。
【0007】
また、導電性を向上させる目的で、ステンレス基材にニッケルめっき、銅めっき、ニッケルめっき、金めっきを順に施したものがある(特許文献3参照)。しかし、ニッケルめっき自体は耐食性に優れるが、硬いため曲げ加工時に銅めっき層と金めっき層との間のニッケルめっき層にクラックが発生することがあり、その結果、銅めっき層が露出して耐食性が劣化するという問題点がある。
【0008】
また、接点寿命を向上させる技術として、ステンレス基材にニッケルめっき、銅めっき、銀めっきを順次施すものがある(特許文献4〜6参照)。これらの技術において、接点寿命の向上を試みた。その結果、接点モジュール形成時の半田付けを模擬した熱処理(例えば温度260℃で5分間)後の初期接触抵抗値や、打鍵試験を模擬した熱処理(例えば温度200℃で1時間)後の接触抵抗値を測定したところ、熱処理後の接触抵抗値が高いために製品として使用できない水準のものが数多く出現した。このことは、製品に組み込んだ際の不良率が高くなることを示しており、単にステンレス基材の上に下地ニッケル層、中間銅層、銀最表層の順に所定の厚さで形成するだけでは、熱履歴後の接点特性や接点寿命が不十分であることが推察される。
【0009】
また、接点寿命を向上させる技術として、銅または銅合金から成る条材の表面が銀または銀合金から成る層で被覆されている電気接点材料において、前記銀または銀合金の結晶粒径が、平均値で5μm以上であることを特徴とする電気接点材料が提供され、また、銅または銅合金から成る条材の表面に銀または銀合金のめっき層を形成し、ついで、非酸化性ガス雰囲気下において、400℃以上の温度で熱処理を行うことを特徴とする電気接点材料の製造方法が開示されている(特許文献7)。しかしながら、ステンレス条に銀または銀合金を被覆した複合接点材料に対して、銀または銀合金の結晶粒径を5μm以上に制御するために400℃以上の熱処理を行うと、ステンレス条のばね特性が劣化して可動接点用材料としては適用できないことがわかった。さらに中間層にはニッケルもしくはコバルトまたはニッケル合金もしくはコバルト合金が使用されており、下地層の上層として中間層に銅成分が存在する構成は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−219945号公報
【特許文献2】特開平11−232950号公報
【特許文献3】特開昭63−137193号公報
【特許文献4】特開2004−263274号公報
【特許文献5】特開2005−002400号公報
【特許文献6】特開2005−133169号公報
【特許文献7】特開平5−002940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は可動接点部品用の複合材料として、繰り返しせん断応力に対してもめっきの密着性に優れ、接触抵抗値が長期に渡って低く安定し、スイッチの寿命が改善された可動接点部品用銀被覆複合材料および可動接点部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意研究した結果、ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部にニッケル、コバルト、ニッケル合金、コバルト合金のいずれかからなる下地層が形成され、その上層に銅または銅合金からなる中間層が形成され、さらにその上層に銀または銀合金層が最表層として形成されている可動接点部品用銀被覆複合材料において、最表層に形成された銀または銀合金の平均結晶粒径を、0.5〜5.0μmの範囲に制御することによって、熱履歴後においても接触抵抗値が低く、かつ長期にわたって接触抵抗が低く安定に保つことができることを見出した。また、中間層に形成されている銅または銅合金の厚さを0.05〜0.3μmの範囲で制御することにより、上記結晶粒径制御の効果がより一層高まることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち本発明は、以下の解決手段を提供するものである。
(1)ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部にニッケル、コバルト、ニッケル合金、コバルト合金のいずれかからなる下地層が形成され、その上層に銅または銅合金からなる中間層が形成され、さらにその上層に銀または銀合金層が最表層として形成されている可動接点部品用銀被覆複合材料であって、前記中間層の厚さが0.05〜0.3μmであり、かつ前記最表層に形成された銀または銀合金の平均結晶粒径が0.5〜5.0μmであり、前記最表層の表面の銅成分の検出量が5質量%未満であることを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料。
(2)前記最表層の厚さが、0.3〜2.0μmであることを特徴とする、(1)記載の可動接点部品用銀被覆複合材料。
(3)ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部にニッケル、コバルト、ニッケル合金、コバルト合金のいずれかからなる下地層を形成し、その上層に銅または銅合金からなる中間層を形成し、さらにその上層に銀または銀合金層を最表層として形成する可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法であって、前記中間層の厚さが0.05〜0.3μmであり、かつ大気雰囲気下にて50〜190℃の温度範囲で熱処理を施すことで、前記最表層に形成された銀または銀合金の平均結晶粒径を0.5〜5.0μmとし、前記最表層の表面の銅成分の検出量を5質量%未満としたことを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
(4)(3)記載の製造方法であって、前記熱処理の温度が50℃以上100℃以下、時間が0.1〜12時間であること特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
(5)(3)記載の製造方法であって、前記熱処理の温度が100℃を超えて190℃以下、時間が0.01〜5時間であることを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
(6)ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部にニッケル、コバルト、ニッケル合金、コバルト合金のいずれかからなる下地層を形成し、その上層に銅または銅合金からなる中間層を形成し、さらにその上層に銀または銀合金層を最表層として形成する可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法であって、前記中間層の厚さが0.05〜0.3μmであり、かつ非酸化雰囲気下にて50〜300℃の温度範囲で熱処理を施すことで、前記最表層に形成された銀または銀合金の平均結晶粒径を0.5〜5.0μmとし、前記最表層の表面の銅成分の検出量を5質量%未満としたことを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
(7)(6)記載の製造方法であって、前記熱処理の温度が50℃以上100℃以下、時間が0.1〜12時間であることを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
(8)(6)記載の製造方法であって、前記熱処理の温度が100℃を超えて190℃以下、時間が0.01〜5時間であることを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
(9)(6)記載の製造方法であって、前記熱処理の温度が190℃を超えて300℃以下、時間が0.005〜1時間であることを特徴とする、可動接点部品用銀被覆複合材料の製造方法。
(10)(1)または(2)に記載の可動接点部品用銀被覆複合材料が加工されて形成された可動接点部品であって、接点部分がドーム状または凸形状に形成されたことを特徴とする可動接点部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の可動接点部品用銀被覆複合材料は、従来の可動接点材料に比べて、繰り返しせん断応力に対して銀被覆層の密着力が低下しない。そして、スイッチ形成時の熱履歴や、スイッチの開閉動作においても接触抵抗値が長期にわたって低く安定に保たれることによって、スイッチの寿命がより一層改善された可動接点部品用銀被覆複合材料が提供できる。
また、本発明の可動接点部品は、前記可動接点部品用銀被覆複合材料を加工したものであり、ドーム状や凸形状に加工した後の各層の割れの発生が抑制される。よって、接触抵抗値が長期にわたって低く安定に保たれ、接点寿命の長い可動接点部品となる。
【0015】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】打鍵試験に用いたスイッチの平面図である。
図2】打鍵試験に用いたスイッチの平面図におけるA−A線断面図と押圧方向を示すもので、(a)はスイッチ動作前、(b)はスイッチ動作時である。
図3】本発明の可動接点部品用銀被覆複合材料における断面写真であり、平均結晶粒径が約0.75μmである例を示す。
図4】従来の可動接点部品用銀被覆複合材料における断面写真であり、平均結晶粒径が約0.2μmである例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の可動接点部品用銀被覆複合材料および可動接点部品について、好ましい実施の態様を詳細に説明する。
【0018】
本発明の基本的な実施態様は、ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部に、ニッケル、コバルト、ニッケル合金またはコバルト合金の下地層、銅または銅合金の中間層、結晶粒径が制御された銀または銀合金の最表層がこの順に形成されていることを特徴とする可動接点部品用銀被覆複合材料であり、この材料から形成される可動接点部品は、スイッチの動作回数が増加しても接触抵抗の上昇が起き難いものである。
【0019】
本発明の実施態様において、ステンレス鋼基材は可動接点部品に用いたとき、その機械的強度を担うものである。このため、ステンレス鋼基材としては耐応力緩和性に優れ疲労破壊し難い材料である、SUS301、SUS304、SUS316などの圧延調質材またはテンションアニール材を用いることができる。
【0020】
前記ステンレス鋼基材上に形成される下地層は、ステンレス鋼と銅または銅合金の中間層との密着性を高めるために配置されている。銅または銅合金の中間層は、下地層と最表層の密着性を高めることができ、かつ最表層中を拡散してきた酸素を捕捉し、下地層の成分の酸化を防止して密着性を向上させる機能を持っている公知の技術である。
【0021】
下地層を形成する金属は、公知のようにニッケル、コバルト、ニッケル合金、コバルト合金のいずれかが選ばれ、特にニッケルまたはコバルトが好ましい。この下地層は、ステンレス基材を陰極にして、例えば塩化ニッケルおよび遊離塩酸を含む電解液を用いて電解することにより、厚さを0.005〜2.0μmとするのが、プレス加工時に下地層に割れが入りにくくするために好ましく、0.01〜0.2μmであるのがより好ましい。
【0022】
従来の最表層の密着力低下の原因は、下地層の酸化と大きな繰り返しせん断応力によるものであり、その対策として、下地層を酸化させないこと、せん断応力が加わっても密着性が劣化しないことの2点を満足する材料の開発が必要であった。
【0023】
そこで、本発明では、上記2つの課題に対して、まず1つ目の課題である下地層を酸化させない手段として、銅または銅合金からなる中間層を配置した構成を基本としている。下地層の酸化は、最表層中の酸素の透過によるものであり、銅または銅合金の配置によって、銀の粒界を拡散した銅成分が最表層内で酸素を捕捉し下地層の酸化を抑制することで、2つ目の課題である密着性の低下を防止する役割をも併せて果たす。
しかしながら、本構成品を可動接点用銀被覆ステンレス部品として使用したとき、接触抵抗値が上昇してしまう問題が発生していた。本発明者らは、この問題に対して調査を行ったところ、中間層の銅成分が、最表層を形成する銀中に容易に拡散し、その拡散した銅成分が最表層の表面に到達したときに酸化されて酸化銅を形成し、接触抵抗を増大させてしまうという現象であることを明らかにした。
【0024】
本発明における銀または銀合金からなる最表層の結晶粒径は、0.5〜5.0μmの範囲で制御することにより、中間層で形成された銅成分の拡散量を抑制することができ、優れた接点特性、特に熱履歴がかかっても接触抵抗を増大させず、可動接点部品として長期間使用されても接触抵抗値が上昇しないことで、接点特性の良好な可動接点部品用銀被覆複合材料が提供できる。
【0025】
結晶粒径が0.5μm未満であると、結晶粒界が多くなるために中間層の銅成分の拡散経路が多いので、耐熱信頼性が不十分となって接触抵抗が上昇する可能性が高く、逆に結晶粒径が5.0μmを超えると、効果が飽和するだけでなく、最表層の硬度が低下して磨耗しやすくなり、接点特性が低下する傾向があるため好ましくない。上記結晶粒径の範囲であれば好適に用いられるが、0.75〜2.0μmであると、長期信頼性と生産性が兼ね備えられ、さらに好ましい。
【0026】
なお、例えば、下記の従来例2としてこれを模した試験例を記載したが、特開2005−133169(特許文献6)の実施例5等の従来の複合接点材料における銀および銀合金からなる最表層の結晶粒径は、平均結晶粒径が0.2μm程度であり、その結果として中間層の銅成分や酸素が拡散する経路である最表層の結晶粒界が数多く存在して、各層間の密着性低下や接触抵抗の劣化の大きな原因になっていたと考えられる。
【0027】
なお、最表層を形成する銀または銀合金の結晶粒径を調整する方法としては、例えばめっき法、クラッド法、蒸着法などの方法で銀を被覆する際の各種条件を適正に制御することで調整が可能である。例えば電解めっき法の場合は、めっき液中に含有される添加剤や界面活性剤、各種薬品濃度、電流密度、めっき浴温、攪拌条件等を調整することで可能となる。なお、前記各種条件で結晶粒径を調整するには限界があり、工業上好ましい範囲としては1.0μm程度が上限である。さらに結晶粒径を大きくするためには、熱処理を行って最表層を形成する銀および銀合金を再結晶させることが有効である。
本発明では、銀または銀合金を最表層としてめっきする際のめっき条件(特に電流密度)を適正に調整し、必要によりこれと併せてめっき後の熱処理における加熱条件(特に、加熱温度と加熱時間の、加熱時の雰囲気との組合せ)を適正に制御することによって、最表層の層厚と銀または銀合金の結晶粒径とを制御することができる。
なお、一般的には、電流密度が大きくなると結晶粒径は小さくなり、電流密度が小さいと結晶粒径は大きくなる。これに対して、本発明においては、めっき時の電流密度と熱処理条件との組み合わせを制御することによって、結晶粒径を適正に制御することができる。また、電流密度が高い条件でめっきすると、比較的低温での熱処理でも結晶粒径が大きくなり易い傾向があるので、電流密度と熱処理条件の組み合わせて適正に制御することが好ましい。
【0028】
本発明の実施態様において中間層の厚さは、好ましくは0.05〜0.3μmの範囲である。中間層の厚さが0.05μm未満であると、最表層中を透過してきた酸素成分を捕捉するには不十分であり、逆に0.3μmを超えて形成されると銅成分の絶対量が多くなるため、最表層を形成する銀または銀合金の結晶粒径を大きくしても、銅成分の最表層への透過を十分に抑制できないため、中間層の厚さは0.3μm以下である必要がある。上記範囲であれば特性は十分満足されるが、より効果的な範囲は0.1〜0.15μmである。
なお、中間層が銅合金により形成される場合、スズ、亜鉛、ニッケルから選ばれる1種または2種以上の元素を合計で1〜10質量%含む銅合金が好ましい。銅と合金化する成分は必ずしも限定するものではないが、銀層中を透過した酸素の捕捉と下地層および最表面を形成する銀または銀合金との密着性を向上させる主成分が銅であり、他の合金元素が含まれた場合、中間層が硬くなって耐摩耗性が向上する。これらの元素の合計は、1質量%未満であれば、中間層が純銅である場合とほぼ同等の効果となり、10質量%を超えると、中間層が硬くなりすぎて、プレス性が悪くなったり、接点として使用中に割れが発生したりして、耐食性が低下するために好ましくない。
【0029】
また、銀または銀合金からなる最表層の厚さは、0.3〜2.0μm、より好ましくは0.5〜2.0μm、さらに好ましくは0.8〜1.5μmとすることで、加熱後も最表層に銅成分が拡散することがほとんどなく、接触安定性に優れる。最表層の厚さが薄すぎると、最表層を形成する銀または銀合金の結晶粒径を制御しても、中間層から拡散してきた銅成分が表層に到達しやすいために接触抵抗を上昇させやすく、逆に厚すぎると効果が飽和するのと同時に銀の使用量が増加するため経済的にも環境負荷が増大する意味でも好ましくない。
【0030】
最表層として好適に用いられる銀または銀合金としては、例えば、銀、銀−錫合金、銀−インジウム合金、銀−ロジウム合金、銀−ルテニウム合金、銀−金合金、銀−パラジウム合金、銀−ニッケル合金、銀−セレン合金、銀−アンチモン合金、銀−銅合金、銀−亜鉛合金、銀−ビスマス合金などがあげられ、特に、銀、銀−錫合金、銀−インジウム合金、銀−ロジウム合金、銀−ルテニウム合金、銀−金合金、銀−パラジウム合金、銀−ニッケル合金、銀−セレン合金、銀−アンチモン合金および銀−銅合金からなる群から選ばれることが好ましい。
【0031】
本発明において、下地層、中間層、最表層の各層は、電気めっき法、無電解めっき法、物理・化学的蒸着法など任意の方法により形成できるが、電気めっき法が生産性とコストの面から最も有利である。前記各層は、ステンレス鋼基材の全面に形成してもよいが、接点部のみに形成するのが経済的であり、環境負荷を軽減した製品が提供できるため好ましい。
【0032】
更に、密着力の向上および最表層の銀または銀合金の結晶粒径を調整する方法として、適切な制御による加熱処理を行うことにより、再結晶化によって最表層の銀または銀合金の結晶粒径を0.5〜5.0μmに調整し、かつ中間層の銅成分と最表層の銀成分の拡散を進行させて、せん断強度を向上させることも可能である。密着力の向上に関しては、銀と銅の合金層が形成されることで実現されるが、あまりに加熱処理を続けると、中間層の銅成分の拡散が進行しすぎて最表層の銀がすべて合金化したり、最表面に銅成分が拡散しやすくなったりするため、接触抵抗が増大する原因となる。このため、適正な加熱処理雰囲気や加熱温度の制御が必要である。
【0033】
好ましい熱処理条件として、大気雰囲気下にて実施するときは50〜190℃の温度範囲で熱処理を施すことで、銀または銀合金層の再結晶化を促進してかつ銀−銅合金層を密着力向上のために界面付近にのみ形成することが出来る。このとき、50℃未満では短時間による再結晶化が困難であり、逆に190℃を超える場合は銀表面を覆っている酸化銀が銀と酸素に分解してしまい、酸化銀の分解による酸素および大気中の酸素の一部が、拡散してきた中間層の銅成分と酸化物を形成しやすくなることで接触抵抗が上昇しやすくなるため、この温度範囲で制御することが適切である。
【0034】
上記範囲であれば目的となる状態を形成することが可能であるが、より好ましくは100〜150℃である。なお、熱処理時間に関しては、最表層を形成する銀または銀合金のめっき組織によって再結晶する時間が変化するため、限定するものではないが、生産性低下や最表層成分の酸化を防止する観点で決定される。例えば、温度が50℃以上100℃以下のときは0.1〜12時間、温度が100℃を超えて190℃以下のときは0.01〜5時間の範囲であることが好ましい。
【0035】
別の好ましい処理条件としては、非酸化性雰囲気下にて実施するときは50〜300℃の温度範囲で熱処理を施すことで、最表層を形成する銀または銀合金の再結晶化を促進して、かつ銀−銅合金層を、中間層と最表層の密着力向上のために、両層の界面付近にのみ形成することができる。このとき、50℃未満では短時間による再結晶化が困難であり、逆に300℃を超える場合は中間層の銅成分がより拡散しやすく、銀表面に到達しやすくなる。非酸化性雰囲気下では表面の銅成分が酸化して接触抵抗を上昇させることはないが、大気雰囲気に晒されたと同時に最表面に拡散してきた銅が酸化物を形成し、接触抵抗を上昇させてしまうため好ましくないので、この温度範囲で制御することが適切である。
【0036】
上記範囲であれば目的となる状態を形成することが可能であるが、より好ましくは50〜190℃、さらに好ましくは100〜150℃である。なお処理時間に関しては銀および銀合金のめっき組織によって再結晶する時間が変化するため、限定するものではないが、生産性低下や中間層の銅成分の表層露出を防止する観点で決定される。例えば、温度が50℃以上100℃以下のときは0.1〜12時間、温度が100℃を超えて190℃以下のときは0.01〜5時間、温度が190℃を超えて300℃以下のときは0.005〜1時間の範囲であることが好ましい。なお、非酸化性の雰囲気ガスとしては、水素、ヘリウム、アルゴン又は窒素を使用することができるが、入手性や経済性、安全性などの観点からアルゴンを使用するのが好ましい。
なお、非酸化性雰囲気下での加熱では、大気雰囲気下での加熱と比較して、最表層の銀表面を覆っている酸化銀の分解による影響は小さくなるが、熱処理温度が190℃を超えると、中間層が加熱されることにより中間層の銅成分の表層露出の恐れが高まるので、熱処理温度は190℃以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0038】
SUS基材を連続的に通板して巻き取るめっきラインにおいて、厚さ0.06mm、条幅100mmの基材(SUS301の条)を電解脱脂、水洗、活性化、水洗、下地層めっき、水洗、中間層めっき、水洗、銀ストライクめっき、最表層めっき、水洗、乾燥、および熱処理を行って、表1に示す構成からなる発明例1〜53、比較例1〜7、および従来例1〜3の銀被覆ステンレス条を得た。なお、最表層となる銀の結晶粒径をめっき条件のみで調整した発明例1〜4については、熱処理を行っていない。
【0039】
各処理条件は次の通りである。
【0040】
1.(電解脱脂、活性化)
(電解脱脂)
処理液:オルソケイ酸ソーダ100g/リットル
処理温度:60℃
陰極電流密度:2.5A/dm
処理時間:10秒
(活性化)
処理液:10%塩酸
処理温度:30℃
浸漬処理時間:10秒
【0041】
2.(下地層めっき)
(ニッケルめっき)
処理液:塩化ニッケル250g/リットル、遊離塩酸50g/リットル
処理温度:40℃
電流密度:5A/dm
めっき厚:0.01〜0.2μm
処理時間:めっき厚毎に時間を調整
(コバルトめっき)
処理液:塩化コバルト250g/リットル、遊離塩酸50g/リットル
処理温度:40℃
電流密度:2A/dm
めっき厚:0.01μm
処理時間:2秒
【0042】
3.(中間層めっき)
(銅めっき1:表においてCu−1と表記)
処理液:硫酸銅150g/リットル、遊離硫酸100g/リットル、遊離塩酸50g/リットル
処理温度:30℃
電流密度:5A/dm
めっき厚:0.05〜0.3μm
処理時間:めっき厚毎に時間を調整
(銅めっき2:表においてCu−2と表記)
処理液:シアン化第一銅30g/リットル、遊離シアン10g/リットル
処理温度:40℃
電流密度:5A/dm
めっき厚:0.045〜0.32μm
処理時間:めっき厚毎に時間を調整
【0043】
4.(銀ストライクめっき)
処理液:シアン化銀5g/リットル、シアン化カリウム50g/リットル
処理温度:30℃
電流密度:2A/dm
処理時間:10秒
【0044】
5.(最表層めっき)
(銀めっき)
処理液:シアン化銀50g/リットル、シアン化カリウム50g/リットル、炭酸カリウム30g/リットル、添加剤(ここではチオ硫酸ナトリウム 0.5g/リットル)
処理温度:40℃
電流密度:0.05〜15A/dmの範囲で変化させて結晶粒径を調整
めっき厚:0.5〜2.0μm
処理時間:めっき厚毎に時間を調整
(銀−錫合金めっき)Ag−10%Sn
処理液:シアン化カリウム100g/リットル、水酸化ナトリウム50g/リットル、シアン化銀10g/リットル、スズ酸カリウム80g/リットル、添加剤(ここではチオ硫酸ナトリウム 0.5g/リットル)
処理温度:40℃
電流密度:1A/dm
めっき厚:2.0μm
処理時間:3.2分
(銀−インジウム合金めっき)Ag−10%In
処理液:シアン化カリウムKCN100g/リットル、水酸化ナトリウム50g/リットル、シアン化銀10g/リットル、塩化インジウム20g/リットル、添加剤(ここではチオ硫酸ナトリウム 0.5g/リットル)
処理温度:30℃
電流密度:2A/dm
めっき厚:2.0μm
処理時間:1.6分
【0045】
得られたこれらの可動接点部品用銀被覆複合材料(銀被覆ステンレス条)を直径4mmφのドーム型可動接点部品に加工し、固定接点には銀を1μm厚さにめっきした黄銅条を用いて、図1、2に示す構造のスイッチで打鍵試験をおこなった。図1は、打鍵試験に用いたスイッチの平面図である。また、図2は、打鍵試験に用いたスイッチの図1A−A線断面図と押圧を示すもので、(a)はスイッチ動作前、(b)はスイッチ動作時である。図中、1は銀めっきステンレスのドーム型可動接点、2は銀めっき黄銅の固定接点であり、これらが樹脂ケース4中に樹脂の充填材3で組み込まれている。
【0046】
打鍵試験は、接点圧力:9.8N/mm、打鍵速度:5Hzで最大100万回の打鍵を行って接触抵抗の経時変化を測定した。なお、接触抵抗は電流10mA通電で測定を行い、ばらつきを含めた接触抵抗値を4段階で評価した。具体的には、接触抵抗値15mΩ未満を「優」と評価して表に「◎」印を付し、15mΩ以上20mΩ未満を「良」と評価して表に「○」印を付し、20mΩ以上30mΩ未満を「可」と評価して表に「△」印を付し、30mΩ以上のものを「不可」と評価して表に「×」印を付した。なお、可動接点として接触抵抗値が30mΩ未満である◎〜△であることが接点として実用性があると判断した。
【0047】
さらに、最表面に銅成分が検出されるかどうかについてオージェ電子分光分析装置で最表面の定性分析を行って、銅成分の検出量を調査した。検出されなかったものを「なし」、検出量が5質量%未満を「微量」、検出量が5質量%以上のものを「多量」とした。
また、打鍵試験後の可動接点側について目視観察を行い、めっきの剥離有無について観察を行って、剥離有無を調査した。
以上の結果を表2に示す。
【0048】
また、最表層の銀または銀合金の結晶粒径の測定は、断面試料作製装置(クロスセクションポリッシャ:日本電子株式会社製)にて垂直断面試料を作成後、電子線後方散乱回折法(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)にて観察を行った。測定した結晶粒径の結果は、その他の条件と併せて、表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
発明例1〜53の可動接点部品用銀被覆複合材料は、可動接点部品として加工後に100万回の打鍵試験を行っても接触抵抗の増加はすべて30mΩ未満である。
一方、比較例1〜7では、100万回打鍵後に接触抵抗が30mΩ以上となり、接点寿命が短いことがわかる。
また、比較例1に関しては、従来の下地層としてニッケルめっき、中間層として銅めっき、最表層として銀めっきを施した例で、最表層の銀の結晶粒径が約0.2μmであり、1万回の打鍵で接触抵抗が上昇し始め5万回では30mΩ以上となり、実用上の問題が発生することがわかる。
図3に発明例4をEBSD法で観察した写真、図4に比較例1をEBSD法で観察した写真をそれぞれ示す。図3図4中、例えば図中に印を付して示した部分がそれぞれ一粒の結晶粒を示す。図3の発明例4では最表層の銀の結晶粒径は約0.75μmであり、これに対して、図4の比較例1では最表層の銀の結晶粒径は約0.2μmである。これの比較から、最表層の銀の結晶粒径を適正に制御することによって、接触抵抗を良好な値とすることができることがわかる。
【0052】
比較例2に関しては、銅からなる中間層が薄い状態であると、100万回打鍵後には最表層・中間層の剥離が生じており、透過した酸素の捕捉が不十分であって密着性に劣った結果となった。
比較例3のように、銅からなる中間層が厚いときは、結晶粒径を調整しても最表面における銅成分の拡散が多く見られ、その結果接触抵抗値が増大して劣った結果となった。
一方、熱処理温度が低すぎるか高すぎて、いずれも結晶粒径が0.5μmよりも小さい比較例4、5においては、中間層厚が0.05〜0.3μmで制御されていても銅成分の拡散量が多くなり、最表層の表面に銅成分の露出が多くなって接触抵抗値を増大して劣った結果となった。
さらに比較例6、7では、結晶粒径を大きくするために、Ar雰囲気下にて温度320℃で1時間、もしくは300℃で2時間の熱処理を行った。このため、必要以上に熱処理が行われた結果、最表層の表面に銅成分が多量検出されており、接触抵抗値が増大して劣った結果となった。
従来例1では、最表層中における銀または銀合金の平均粒径が大きすぎるので、接触抵抗値が増大している点で劣る。なお、従来例1は、特開平5−002900(特許文献7)を模したものである。
従来例2では、最表層中における銀または銀合金の平均粒径が小さすぎるので、接触抵抗値が増大している点で劣る。なお、従来例2は、特開2005−133169(特許文献6)の実施例5を模したものである。
従来例3では、熱処理時間が長すぎて、最表層中における銀または銀合金の平均粒径が大きすぎるので、接触抵抗値が増大している点で劣る。なお、従来例3は、特開2005−133169(特許文献6)の実施例6を模したものである。
【0053】
これらの結果より、発明例のごとく中間層の厚さを0.05〜0.3μmで制御しつつ、銀または銀合金からなる最表層の結晶粒径を0.5〜5.0μmの範囲内に制御することにより、可動接点部品の接点特性としての長期信頼性が向上できることが明らかである。また、適正な熱処理によって粒径を制御することも可能であり、優れた密着性・長期信頼性を兼ね備えた可動接点部品用銀被覆複合材料を工業的に安定して提供できることがわかる。
【0054】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0055】
本願は、2010年2月12日に日本国で特許出願された特願2010−028703に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0056】
1 ドーム型可動接点
2 固定接点
3 充填材
4 樹脂ケース
図1
図2
図3
図4