(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明に係る吸着剤の再生方法は、本実施形態において、低硫黄ガソリン基材の製造装置の一部を構成する硫黄分除去装置に設けられた吸着剤に対してなされる。
<低硫黄ガソリン基材製造装置>
図1は、本発明に係る低硫黄ガソリン基材の製造装置の概略図である。
図1に示すように低硫黄ガソリン基材製造装置100は、原油の常圧蒸留留分であるナフサ留分を熱分解又は原油の常圧蒸留留分である重質軽油や常圧蒸留残油、あるいは常圧蒸留残油をさらに減圧蒸留して得られる減圧軽油留分を接触分解して生産されるC4留分に含まれる硫黄分を除去するための硫黄分除去装置200と、硫黄分除去装置200において硫黄分が除去されたC4留分に含まれるジエン成分を除去するためのジエン成分除去装置300と、ジエン成分除去装置300において前記ジエン成分が除去されたC4留分を重合させるための重合装置400と、を備えて構成される。
【0013】
〔硫黄分除去装置〕
硫黄分除去装置200は、その内部に設けられた吸着剤とC4留分とを接触させて、C4留分中の硫黄分を吸着剤に吸着させるための工程(硫黄分吸着工程)で用いられる。なお、硫黄分除去装置200は、硫黄分以外の不純物を吸着することもできる。
硫黄分除去装置200は、原油を常圧蒸留して得られる留分であるナフサ留分を熱分解する図示しない熱分解装置や原油の常圧蒸留留分である重質軽油や常圧蒸留残油、あるいは常圧蒸留残油をさらに減圧蒸留して得られる減圧軽油留分の接触分解を実施する図示しない流動接触分解装置に接続されている。熱分解や接触分解によって生産されるC4留分は、硫黄分除去装置200へと供給される。
本実施形態で用いる硫黄分除去装置200の形状については、特に限定されないが、好ましくは、塔形状のものが用いられる。吸着剤とC4留分とを接触させる方式としては、特に制限はなく、固定床式、移動床式、流動床式いずれも採用できるが、固定床式が好ましい。
硫黄分除去装置200は、
図1に示すように、硫黄分除去装置200A及び硫黄分除去装置200Bの2つで構成され、これらが並列接続されている。硫黄分除去装置を2基並列に接続することにより、硫黄分の除去能力が低下した装置の吸着剤を再生しながら、他の再生済みもしくは新品の吸着剤を備えた装置に切り替えて運転する方法を採用できる。したがって、低硫黄ガソリン基材製造装置を停止することなく連続して運転することができ、また硫黄分除去装置を最小化することができる。なお、3つ以上の硫黄分除去装置200を並列接続させてもよい。
【0014】
(吸着剤)
吸着剤は、C4留分中に含まれる後述の不純物を吸着するものである。吸着剤としては、ナトリウムを含むX型ゼオライトが用いられ、好ましくは、当該X型ゼオライトと活性アルミナとを混合したハイブリッド型吸着剤が用いられる。X型ゼオライトは、初期吸着能力に優れる。ハイブリッド型吸着剤は、初期吸着性能の点においてX型ゼオライト単体よりも劣るが、C4留分と吸着剤とが接触した状態で加熱処理(例えば、吸着剤の加熱再生処理)された場合の吸着性能の点においては、X型ゼオライト単体よりも優れる。すなわち、ハイブリッド型吸着剤は、再生しながら繰り返し使用した場合でも、吸着能力が安定している。そのため、硫黄分除去装置200に充填する吸着剤量の設定が容易になる。本実施形態では、ハイブリッド型吸着剤が用いられる。
ハイブリッド型吸着剤は、硫黄分、水分、窒素分、及び含酸素化合物を吸着する。なお、硫黄分除去装置200の前工程に脱水塔を設置して水分を除去してもよいが、除去できない水分をハイブリッド型吸着剤で吸着してもよい。また、硫黄分除去装置200の前工程(脱水塔が設置される場合には脱水塔の前工程)に水洗塔を設置して窒素分、及び含酸素化合物を水洗除去してもよいが、水洗除去できない窒素分、及び含酸素化合物をハイブリッド型吸着剤で吸着してもよい。
【0015】
(C4留分に含まれる成分)
この硫黄分除去装置200へと供給されるC4留分中には、主としてn−ブテン、イソブテン、n−ブタン、イソブタン、ブタジエン等の炭素数が4の炭化水素成分の他、硫黄分、水分、含酸素化合物が含まれている。これらの内、ブタジエン等のジエン成分、硫黄分、水分、含酸素化合物等によって、重合装置400内の触媒が被毒され、重合反応活性が低下する。つまり、ジエン成分、硫黄分、水分、含酸素化合物等は、不純物(触媒毒)であり、C4留分中から除去する必要がある。
【0016】
C4留分中の硫黄分としては、主にメルカプタンが含まれている。メルカプタンは、メルカプト基(−SH)を有する硫黄化合物RSH(Rはアルキル基やアリール基など炭化水素基)であり、チオールまたはチオアルコールとも呼ばれる。C4留分中に含まれるメルカプタン類としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタンなどが挙げられる。
【0017】
〔硫黄分除去工程〕
次に、硫黄分除去装置200で硫黄分としてのメルカプタンをC4留分中から除去する工程について説明する。ここでは、一方の硫黄分除去装置200AにC4留分を流通させ、その後、硫黄分除去装置200Aの吸着剤を再生する場合を例に挙げて説明する。
C4留分は、硫黄分除去装置200の手前の切替部210Aによって、硫黄分除去装置200Aへ送り込まれる。
硫黄分除去装置200A内で、吸着剤とC4留分とが接触し、硫黄分等の不純物が吸着剤に吸着される。不純物が吸着除去されたC4留分は切替部210Bを通過して、ジエン成分除去装置300へと供給される。
【0018】
吸着剤とC4留分とを接触させる際の温度としては、0℃以上70℃以下、好ましくは、15℃以上40℃以下である。
また、吸着剤とC4留分とを接触させる際の圧力としては、0.02MPa以上2.0MPa以下、好ましくは、0.5MPa以上1.5MPa以下である。
【0019】
硫黄分除去処理後のC4留分中の硫黄分の濃度は、10質量ppmよりも少ないことが好ましい。硫黄分除去工程において、C4留分中の硫黄分濃度が10質量ppmよりも少なくなっていれば、最終的にガソリン基材中に含まれる硫黄分濃度も10質量ppmより少なくなるからである。
また、当該硫黄分の濃度は、1質量ppmよりも少なければ、より好ましい。硫黄分除去工程において、C4留分中の硫黄分濃度が1質量ppmよりも少なくなっていれば、ガソリン基材中に含まれる硫黄分濃度も1質量ppmより少なくなる。したがって、硫黄分濃度がさらに低い高付加価値なガソリン基材を得ることができる。
【0020】
〔吸着剤再生工程〕
その後、硫黄分吸着工程で不純物の吸着を続け、吸着能力が飽和に達した段階又は飽和に達する前段階で、C4留分の供給を、硫黄分除去装置200Bへ切り替え、硫黄分除去装置200AへのC4留分の供給を停止する。その後、硫黄分除去装置200A内に残留するC4留分等を抜き取る。そして、硫黄分除去装置200A内に、高温の再生ガスを導入し、吸着剤と再生ガスとを接触させ、硫黄分等の不純物を吸着剤から脱離させる。硫黄分除去装置200Aの再生ガス導入方法は、特に限定されないが、例えば、硫黄分除去装置200Aが塔形状の場合には、塔上部より所定の条件で再生ガスを導入するのが好ましい。
再生ガスとして、不活性ガス、副生燃料ガス、天然ガス、水素ガス等を用いることができるが、特に、副生天然ガスは、製油所、工場から容易に入手できる点や経済的観点から好ましい。
【0021】
本発明では、
図2に示すように、吸着剤を再生するための加熱工程として、第一加熱工程及び第二加熱工程を設ける。各加熱工程では、所定温度に維持された再生ガスを硫黄分除去装置200内に流通させて、吸着剤を加熱する。
1段階目としての第一加熱工程では、加熱した再生ガスを吸着剤に接触させて吸着剤を加熱し、2段階目としての第二加熱工程では、再生ガス温度を、第一加熱工程よりも高い温度に昇温させて維持し、当該温度で吸着剤を加熱する。第一加熱工程によって、吸着剤に吸着した硫黄分を変質させずに脱離させ、第二加熱工程でその他の不純物(窒素分、及び含酸素化合物)を脱離させる。ここで、硫黄分を変質させずに脱離させるとは、吸着剤に吸着した硫黄分を他の物質に変化させることなく、吸着剤から脱離させることをいう。
第一加熱工程の加熱温度は、90℃以上140℃以下とするのが好ましい。90℃以上とすることで、C4留分中に含まれるメルカプタンが吸着剤から脱離し易くなる。また、140℃以下とすることで、後述するようにメルカプタンから他の硫黄分(ジメチルサルファイドやターシャーリーブチルメルカプタン等。これらを総称して、変質硫黄分ともいう。)が生成されるのを防ぐことができる。
本実施形態では、第一加熱工程の加熱温度を120℃とする。また、本実施形態では、硫黄分等以外の不純物の吸着剤からの脱離を十分に進行させるため、第二加熱工程の温度を270℃とする。
第一加熱工程及び第二加熱工程の加熱時間は、硫黄分除去装置200の装置サイズに依存するため、不純物が吸着剤に残留しない時間を予め確認した上で設定するのが好ましい。
第一加熱工程及び第二加熱工程の再生ガス流量は、硫黄分等の被吸着物質の量及び吸着剤量により適宜最低必要再生ガス量以上を使用するのが好ましい。
【0022】
硫黄分除去装置200A内の吸着剤を再生している間は、切替部210A及び切替部210Bを切り替え、前記したように再生済み又は新品の吸着剤が設けられた硫黄分除去装置200BにC4留分を供給し、不純物の吸着処理を行う。
その後、硫黄分除去装置200Bの吸着剤の吸着能力が飽和に達したところで、再生処理を終えた硫黄分除去装置200AにC4留分の供給を切り替え、再生された吸着剤に対してC4留分を接触させる。本実施形態では、硫黄分除去装置200A,200Bを24時間サイクルで切り替えながら除去及び再生を行う。
【0023】
(リークの確認)
なお、硫黄分除去装置200Aで吸着処理されたC4留分への硫黄分のリークを確認する場合は、硫黄分除去装置200の下流側の切替部210Bの手前でC4留分を採取し、硫黄分濃度を測定する。測定は、JIS K2240の硫黄分試験方法(微量電量滴定式酸化法)で行う。
本実施形態の吸着剤再生方法を行い、C4留分への硫黄分のリークを確認した。本実施形態の再生方法を行った場合には、C4留分の流通を開始させてから、24時間経過後も硫黄分は検出されず、リークは発生しなかった。そして、後述する理由から、本実施形態の再生方法を行った場合には、吸着剤への硫黄分の残留が防止されていることが確認された。
【0024】
以下に、従来の吸着剤再生方法を採用した場合を例に挙げながら、本発明に係る吸着剤の再生方法によって吸着剤への硫黄分の残留、及び原料への硫黄分のリークを防止できる理由について説明する。
【0025】
(従来の吸着剤再生方法)
本実施形態の再生方法と比較するため、従来の再生方法について示す。
従来の再生方法としては、前記特許文献1にも記載されているような1段階の加熱工程で行われる。従来の再生方法における加熱工程の例として、
図9に概略図を示す。
ここでは、硫黄分だけでなく窒素分等の不純物等を吸着剤から脱離させることができるよう、吸着剤の再生ガス温度は、本実施形態の第二加熱工程の温度と同じ270℃まで昇温させて維持する。
その他は、上記した本実施形態の吸着剤の再生方法と同様にして、再生工程を終えた硫黄分除去装置200AにC4留分の流通を切り替え、再生された吸着剤に対してC4留分を接触させる。また、硫黄分のリークについても上記した方法と同様にして行う。
【0026】
(従来の吸着剤再生方法を行った場合のリークの確認)
従来の吸着剤再生方法を行い、C4留分への硫黄分のリークを確認した。従来の再生方法を行った場合には、C4留分の流通を開始させてから、十数時間後に硫黄分が検出され始め、徐々に硫黄分濃度が増加した。すなわち、リークが発生していることが分かった。
【0027】
(リークした硫黄分の分析)
リークした硫黄分の組成を、化学発光硫黄検出器(SCD)を用いたガスクロマトグラム法で分析したところ、リークした硫黄分は、ジメチルサルファイド(以下、DMSと称する。)とターシャーリーブチルメルカプタン(以下、TBMと称する。)であった。DMSやTBMは、着臭剤として天然ガスに含まれているため、吸着剤再生ガスとして天然ガスを使用した場合には、DMSやTBMが検出される可能性はあるが、天然ガス中に含まれるDMSやTBMの量に比べ、リークしたDMSやTBMの量が遥かに多かった。そのため、何らかの形でC4留分中に含まれる硫黄分としてのメルカプタンからDMSやTBMが生成されているものと推測された。
【0028】
(DMS及びTBMの生成確認)
DMS及びTBMが、硫黄分除去装置内で、硫黄分としてのメルカプタンから生成されることを確認するため、簡易的な浸漬実験を行った。吸着剤を充填した筒状の反応容器内に、C4留分を入れて密閉し、反応容器を各種温度条件で12時間保持しながら、C4留分を吸着剤に接触させた。温度条件は、室温、90℃、120℃、150℃及び220℃とした。DMSやTBM等の変質硫黄分の生成状況を
図4〜
図8のGC/SCDクロマトグラムに示す。また、比較のため原料C4留分のGC/SCDクロマトグラムを
図3に示した。原料C4留分には、硫黄質量換算で、2.7質量%の硫化カルボニル(COS)、90.0質量%のメチルメルカプタン(CH
3−SH)、7.3質量%のエチルメルカプタン(C
2H
5−SH)が含まれていた。
その結果、室温及び90℃では、DMS(CH
3−SH−CH
3)及びTBM(t−C
4H
9−SH)の生成が確認されなかったが、150℃及び220℃ではDMS及びTBMの生成が確認された。
このように、硫黄分としてのメルカプタンを含むC4留分と吸着剤とを220℃のような高温下で接触させた状態が続くと、DMS及びTBMが生成された。すなわち、従来の吸着剤再生方法では、吸着剤の再生ガス温度が270℃であるからDMS及びTBMが生成され、これらがC4留分中にリークする。
【0029】
(DMS及びTBMの生成メカニズム)
上記検討結果から、DMS及びTBMが生成されるメカニズムは、以下のように推測される。
下記式(1)は、メルカプタンの通常の物理吸着を示す。式(1)において、*は吸着剤の物理吸着点を表す。式(1)は、温度が140℃以下では、右向きの反応が優勢に進み、メルカプタンは吸着剤に吸着されるが、温度が150℃以上なると、左向きの反応が優勢に進むことを示している。すなわち、温度が上がると、物理吸着点からのメルカプタンの脱離が促進される。
【0031】
下記式(2)は、さらに吸着剤に吸着されたメルカプタンが、吸着剤に含まれるナトリウム(以下、Naと称する。)と化学吸着することを示す。式(2)は、高温下(150℃以上)で、右向きに優勢に進むと考えられる。
【0033】
下記式(3)は、式(2)で生成したメルカプタンとNaとの反応生成物から、DMS及び硫化水素(以下、H
2Sと称する。)が生成されることを示す。式(3)は、吸着剤再生時の高温(150℃以上)で進行する。
【0035】
下記式(4)及び式(5)は、DMS及びH
2Sがそれぞれ物理吸着点から脱離することを示す。式(4)及び式(5)も、吸着剤再生時の高温(220℃以上)で進行するが、物理吸着点に吸着したDMS及びH
2Sの全量は脱離せずに、一部は吸着して残存する。
残存したDMSは、C4留分が新たに流通された際に、当該C4留分中のメルカプタンによって、物理吸着点を奪われて脱離する。この脱離したDMSは、硫黄分除去装置200内でのC4留分の流通方向に対して下流側に設けられた吸着剤の物理吸着点に、吸着される。このように、DMSは、脱離及び吸着を繰り返しながら、当該下流方向へ移動し、所定時間経過後、硫黄分除去装置からリークすることになる。
【0038】
下記式(6)は、吸着剤再生時に物理吸着点に吸着して残存したH
2Sが、C4留分中のイソブテンと反応し、TBMが生成されることを示す。TBMも、DMSと同様にメルカプタンによって、物理吸着点を奪われ、脱離及び吸着を繰り返しながら当該下流方向へ移動し、所定時間経過後、硫黄分除去装置からリークすることになる。
【0040】
以上のような式(1)〜(6)の反応メカニズムに基づけば、吸着剤に吸着されたメルカプタンが吸着剤に含まれるNaと化学吸着しない温度領域でメルカプタンを吸着剤から脱離させれば、DMS及びTBM生成の原因となるH
2Sの生成が抑えられ、吸着剤への変質硫黄分の残留、及び変質硫黄分のリークを防止できるといえる。しかしながら、C4留分に含まれる硫黄分以外の不純物(窒素酸化物等)を物理吸着点から脱離させるには、式(1)のメルカプタンの脱離を優位に進行させるための温度では不十分である。これに対しては、当該硫黄分以外の不純物の脱離を優勢に進行させる加熱工程を別途設ければよいといえる。
このような検討から、吸着剤再生を2段階、すなわち、(i)吸着剤に吸着されたメルカプタンが吸着剤に含まれるNaと化学吸着しない温度領域でメルカプタンの脱離を進行させる第一加熱工程と、(ii)その他の不純物の脱離を優勢に進行させる第二加熱工程とで行えば、吸着剤に吸着した硫黄分の変質(メルカプタンからDMSやTBMへの変質)を防止でき、変質硫黄分の吸着剤への残留を防止でき、さらにC4留分への変質硫黄分のリークも防止できることが見出された。
【0041】
次に、低硫黄ガソリン基材製造装置100を構成する他の装置についても説明する。
〔ジエン成分除去装置〕
ジエン成分除去装置300は、上流側で硫黄分除去装置200に接続されている。硫黄分除去装置200から送り出されたC4留分はジエン成分除去装置300へと供給される。
【0042】
ジエン成分除去装置300は、C4留分中からジエン成分を溶剤で抽出除去する抽出法、ジエン成分を水素化して除く水素化除去法(水添除去法という場合もある。)、その他の公知の方法を実施することができる。本実施形態では、水素化除去法が用いられる。
抽出法は、高濃度にジエン成分を含む原料からジエン成分を回収して、例えば合成ゴムの原料とするような場合には適しているが、流動接触分解装置から生産されるC4留分のようにジエン濃度が1質量%以下程度の低濃度のジエン原料から抽出回収する場合には抽出塔や溶剤回収設備等の設備費が高額となり経済的ではない。また、エネルギー的にもコスト高となる。そのため、水素化除去法が好適である。
本実施形態では水素化除去法が用いられるため、水素がC4留分とは別の経路からジエン成分除去装置300へと供給される。
水素化除去法は、通常パラジウム/アルミナを触媒として、処理条件として、反応温度を30℃以上150℃以下、圧力を0.1MPa以上3MPa以下、SV(Space
Velocity:空間速度)を0.1hr
−1以上10hr
−1以下として、公知の固定床反応器等で行うようにすればよい。また、処理条件は、反応温度を50℃以上100℃以下、圧力を0.3MPa以上1.5MPa以下、SVを1hr
−1以上5hr
−1以下とすることが特に好ましい。
【0043】
〔重合装置〕
重合装置400は、上流側でジエン成分除去装置300に接続されている。ジエン成分除去装置300から送り出されたC4留分は重合装置400へと供給される。
前記したように重合装置400は、C4留分を重合反応(二量化)させるための装置である。重合反応は、公知の方法を用いて実施することができる。例えば、触媒として、シリカアルミナ、ゼオライト、塩化アルミニウムなどを用い、重合条件として、反応温度を20℃以上180℃以下、圧力を1MPa以上10MPa以下、SVは0.01hr
−1以上50hr
−1以下として実施すればよい。また、処理条件は、反応温度を50℃以上150℃以下、反応圧力を2MPa以上6MPa以下、SVを0.1hr
−1以上10hr
−1以下とすることが特に好ましい。
【0044】
重合装置400の下流側に分留装置(図示せず)が接続されている。この分留装置は重合装置400で重合反応させた重合反応生成物から、イソオクテンを主成分とするガソリン基材と、このガソリン基材に含まれる成分の炭素数よりも少ない炭素数を有する留分(未反応留分)と、当該ガソリン基材に含まれる成分よりも炭素数が多い重合副生成物と、に分留する。すなわち、オクタン価の高いイソオクテン等を主成分とするガソリン基材を分留して回収することができる。
未反応留分は、例えばエチレン製造装置へと供給され、エチレン製造原料として利用される。また、重合副生成物は、例えば流動接触分解装置などに供給され、別途分解ガソリン基材や石油化学の原料として利用される。
【0045】
<低硫黄ガソリン基材の製造方法>
まず、ナフサ留分の熱分解や重質軽油、常圧蒸留残油、あるいは減圧軽油の接触分解によって生産されるC4留分を硫黄分除去装置200へ供給する。
【0046】
〔硫黄分除去工程〕
硫黄分除去装置200は、上記した方法でC4留分中の硫黄分及びその他の不純物を除去する。
【0047】
〔ジエン成分除去工程〕
次に、ジエン成分除去装置300は、硫黄分除去装置200から送り出されたC4留分中に含まれるジエン成分を除去する。除去する方法としては、前記した水素化除去方法を用いる。
ここで、水素化除去処理後のC4留分中のジエン成分の濃度は、0.1質量%よりも少ないことが好ましい。
なお、C4留分の組成分析は、JIS K2240の組成分析方法(ガスクロマトグラフ法)で分析する。
【0048】
〔重合工程〕
次に、重合装置400は、ジエン成分除去装置300
から供給されたC4留分を重合反応(二量化)させる。重合反応は、前記した条件で行うことができる。
重合反応後、分留装置(図示せず)は、イソオクテンを主成分とするガソリン基材と、このガソリン基材に含まれる成分の炭素数よりも少ない炭素数を有する留分(未反応留分)と、当該ガソリン基材に含まれる成分よりも炭素数が多い重合副生成物と、に分留する。
【0049】
<実施形態の作用効果>
上記した本実施形態によれば、次のような作用効果を奏することができる。
吸着剤の再生において、第一加熱工程で、吸着剤に吸着されたメルカプタン(硫黄分)を脱離させ、第二加熱工程で、その他の不純物を脱離させるので、吸着剤へのメルカプタン及びその他の不純物の残留を防止できる。
そして、DMSやTBM生成の原因となるH
2Sが生成する温度となる前に、第一加熱工程でメルカプタンを吸着剤から変質させずに脱離させるので、C4留分中にリークするDMSやTBMの生成を防止できる。その結果、硫黄分としてのDMSやTBMのC4留分中へのリークを防止できる。
【0050】
また、硫黄分除去装置200によって、硫黄分のリークが防止されるので、触媒毒としての硫黄分が原因となる重合反応の触媒活性の低下を防止できる。
【0051】
<変形例>
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。
【0052】
前記実施形態では、ガソリン基材を生成する重合装置の前段側に硫黄分除去装置200が設置された例を挙げて本発明に係る吸着剤の再生方法を説明したが、これに限られない。例えば、プロピレン転換設備に不純物除去装置の一つとして硫黄分除去装置200を設置した場合でも、本発明に係る吸着剤の再生方法を適用できる。プロピレン転換設備のプロピレン合成装置に充填される触媒も、硫黄分等の不純物によって被毒される。そのため、本発明に係る吸着剤の再生方法を適用すれば、プロピレン合成用の原料に硫黄分がリークするのを防止でき、プロピレン合成用の触媒の被毒も防止できる。
【0053】
また、硫黄分除去装置200の切り替えサイクルも、上記実施形態で説明したような24時間に限られない。C4留分の吸着処理量、装置サイズ、装置数、吸着剤充填量等によって適宜変更がなされる。
【0054】
その他、吸着剤に吸着した硫黄分を変質させずに脱離させる第一加熱工程を複数の段階に分けてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び参考例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例等の内容に何ら限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
上記実施形態で説明した硫黄分除去装置200にてC4留分中の不純物吸着処理及び吸着剤再生処理を行い、硫黄分除去装置200からの硫黄分のリークを調べた。
硫黄分除去装置200A,Bのそれぞれの内部に、
ハイブリッド型吸着剤(UOP社製、型番:AZ−300)を充填した。
減圧軽油を流動接触分解装置で分解して得られる分解生成物を蒸留分離し、その中に含まれるC4留分を硫黄分除去装置200Aへと供給した。硫黄分等の不純物を吸着させる際の条件は、25℃、1.2MPaとした。供給したC4留分中の硫黄分濃度は、35質量ppmであった。なお、C4留分中の硫黄分濃度は前記したJIS K2240の硫黄分試験方法(微量電量滴定式酸化法)によって測定した。
【0057】
硫黄分除去装置200AへC4留分を供給してから24時間後に、切替部210A,210Bを切り替えて、硫黄分除去装置200BにC4留分が供給されるようにした。その後、硫黄分除去装置200A内に残った液を抜き、吸着剤の再生を行った。
再生ガスは、天然ガスを用いた。まず、90℃の再生ガスを導入し始め、再生ガス温度を120℃まで昇温させた。そして、第一加熱工程では、70分間、120℃の再生ガスを硫黄分除去装置200A内に導入して吸着剤を加熱した。その後、再生ガス温度を270℃まで昇温させ、第二加熱工程では、420分間、270℃の再生ガスを硫黄分除去装置200A内に導入して吸着剤を加熱した。第一加熱工程及び第二加熱工程でのガス流量は、132kNm
3/Dとした。実施例1では、90℃の再生ガスを導入し始めてから、吸着剤の再生が終了するまでの時間が560分であった。
【0058】
そして、硫黄分除去装置200Bでの吸着処理開始から24時間後、C4留分の供給を硫黄分除去装置200Aへと切り替えた。そして、硫黄分除去装置200Aの下流側の切替部210Bの手前で、C4留分を採取し硫黄分濃度を測定し、硫黄分のリーク量の経時変化を確認した。
【0059】
(比較例1)
比較例1では、実施例1における吸着剤再生時の再生条件を変更した以外は、同様の条件でC4留分中の不純物吸着処理及び吸着剤再生処理を行い、硫黄分除去装置200からの硫黄分のリークを調べた。比較例1では、実施例1のように2段階の加熱工程を設けずに、90℃の再生ガスを導入し始め、270℃まで昇温させた。その後、420分間、270℃の再生ガスを硫黄分除去装置200A内に導入して吸着剤を加熱した。比較例1では、90℃の再生ガスを導入し始めてから、吸着剤の再生が終了するまでの時間が480分であった。
【0060】
実施例1では、硫黄分除去装置200Aから硫黄分除去装置200Bへの次の切り替えのタイミング(24時間後)まで、硫黄分は検出されなかった。
一方、比較例1では、硫黄分除去装置200Aに切り替えてから約14時間後に、硫黄分が検出された。ここで検出された硫黄分は、DMS及びTBMであった。
このように、実施例1のように2段階の加熱工程を設けて吸着剤の再生処理を行い、まず硫黄分(メルカプタン)を吸着剤から脱離させ、その後昇温してその他の不純物を吸着剤から脱離させるようにすれば、硫黄分除去装置200A,200Bの切り替え時間(24時間)内での硫黄分のリークを防止できることが分かった。
一方、比較例1のように1段階の加熱工程(270℃)で硫黄分とそれ以外の不純物とをまとめて吸着剤から脱離させようとすると、硫黄分除去装置200A,200Bの切り替え時間(24時間)内に硫黄分がリークしてしまうことが分かった。