特許第5706194号(P5706194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5706194シングルキャリア受信装置および受信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5706194
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】シングルキャリア受信装置および受信方法
(51)【国際特許分類】
   H04J 1/00 20060101AFI20150402BHJP
【FI】
   H04J1/00
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-46410(P2011-46410)
(22)【出願日】2011年3月3日
(65)【公開番号】特開2012-186537(P2012-186537A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2013年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲田 樹広
(72)【発明者】
【氏名】露口 孝嗣
(72)【発明者】
【氏名】大西 弘幸
【審査官】 藤江 大望
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−013591(JP,A)
【文献】 特開平10−164161(JP,A)
【文献】 特開2003−115787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1フレームにプリアンブル信号とデータ信号を備えたシングルキャリア信号を伝送する伝送装置の受信装置において、
前記シングルキャリア信号から変換された受信サンプリング系列と前記プリアンブル信号の複素共役信号との複素乗算を演算する複素乗算手段と、
前記複素乗算手段による複素乗算結果に対して、1サンプル遅延した信号の複素共役信号と遅延しない信号の複素乗算を演算する差分処理手段と、
前記差分処理手段による演算結果を所定のサンプル期間NP(NPは自然数)で積分する積分手段と、
前記積分手段による積分結果をフレーム方向に平均化する加算平均手段と、
前記加算平均手段による平均化結果に対して所定の時間幅W(Wは自然数)を有する窓関数との畳み込み演算を行う矩形フィルタ手段と、を設け、
前記矩形フィルタ手段による畳み込み演算結果から最大値を検出し、検出した最大値に基づいて、受信信号レベルを推定することを特徴とする受信装置。
【請求項2】
1フレームにプリアンブル信号とデータ信号を備えたシングルキャリア信号を伝送する伝送装置の受信方法において、
前記シングルキャリア信号から変換された受信サンプリング系列と前記プリアンブル信号の複素共役信号との複素乗算を演算する複素乗算ステップと、
前記複素乗算ステップによる複素乗算結果に対して、1サンプル遅延した信号の複素共役信号と遅延しない信号の複素乗算を演算する差分処理ステップと、
前記差分処理ステップによる演算結果を所定のサンプル期間NP(NPは自然数)で積分する積分ステップと、
前記積分ステップによる積分結果をフレーム方向に平均化する加算平均ステップと、
前記加算平均ステップによる平均化結果に対して所定の時間幅W(Wは自然数)を有する窓関数との畳み込み演算を行う矩形フィルタ処理ステップと、を設け、
前記矩形フィルタ処理ステップによる畳み込み演算結果から最大値を検出し、検出した最大値に基づいて、受信信号レベルを推定することを特徴とする受信方法。
【請求項3】
請求項に記載の受信装置において、
前記推定した受信信号レベルに基づいて受信アンテナの方向調整用信号を生成し、該生成した方向調整用信号を用いて受信アンテナの方向調整を行うことを特徴とする受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングルキャリア方式の伝送システムに係り、特に比較的鋭い指向特性のアンテナを用いた無線中継用に好適なシングルキャリア受信装置および受信方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テレビ放送業務の一環に中継業務があり、このとき中継現場の映像をテレビ局まで無線伝送するためのFPU(Field Pickup Unit)変調方式の一種として、シングルキャリアQAM方式が近年、広く採用されるようになり、ARIB STD−B11として規格化されている。
【0003】
ところで、この伝送方式は、主として固定無線中継に使用されているが、この場合、伝送回線を確立するため、中継現場および受信点では、電波を送出する方向または到来する方向にアンテナを正確に向けるというアンテナ方向調整が必要になる(例えば特許文献1等を参照)。
そこで、以下図3により、このアンテナ方向の調整のために従来から用いられている方法について説明する。
【0004】
図3において、まず、シングルキャリアQAM送信ベースバンド部31と送信高周波部32及び送信アンテナ33は中継現場に設置され、次に、受信アンテナ1と受信高周波部2、受信ベースバンド部37及び受信信号レベル表示器38は、テレビ放送局などの中継受信側に設置されている。
そして、中継現場では、送信ベースバンド部31と送信高周波部32において生成された伝送信号が送信アンテナ33により電波として送出される。
【0005】
この結果、送信アンテナ33から放射された電波が伝送路34を経由してテレビ放送局などの中継受信側にある受信アンテナ1に到達することになる。
ところが、このとき伝送路34では、建物等による伝播経路の遮断や大気、降雨により電波レベルの減衰が生じる。
【0006】
そこで、受信アンテナ1により受信された信号は、受信高周波部2に入力され、ここでアナログ検波器により受信信号レベルを検出して自動利得制御が施され、最適レベルになるように増幅された上で最終的に受信ベースバンド部37に供給され、ここで復調された上で、放送用の信号として用いられる。
【0007】
このとき、アンテナの方向調整のため、受信高周波部2から得られた受信信号を受信信号レベル表示器38に供給する。
そして、この受信信号レベル表示器38により受信信号のレベルをメータ指針の振れや、スピーカから発せられる音の大きさや音色などに変換し、受信信号のレベルがオペレータに認識できるようにしておく。
【0008】
そこで、中継現場のオペレータと中継受信側のオペレータは、相互に連絡をとり、受信信号レベル表示器38に表示される受信信号のレベルを見ながら、送信アンテナ33と受信アンテナ1の方向を上下左右に微妙に動かし、受信信号レベルが最大になる方向を探索することにより送信アンテナ33と受信アンテナ1の方向を調整するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】第4354004号特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術は、アンテナの方向調整に或る程度以上のレベルの受信信号を要する点に配慮がされておらず、初期段階では方向調整が極めて困難であるという問題がある。
ここで、従来のアンテナ方向調整方法においては、受信信号レベルを受信高周波部のアナログ検波器により検出していた。
【0011】
しかし、この場合、受信信号レベルが低くなると、受信高周波部の初段増幅器の雑音に受信信号が埋もれてしまい、精度の良い検出が困難であり、このため、従来技術では、精度の良い検出を行うためには、検波器の精度にも依存するが、例えば7dB以上のC/Nが必要であった。
【0012】
例えば、受信信号レベルが−90dBm程度でC/Nが約7dBとなる場合には、受信信号が−90dBmを下回るようなレベルを検出することは、従来技術では困難で、この結果、例え送信信号が中継受信側のアンテナに到達していたとしても、それが僅かなレベルの受信信号であった場合、中継受信側では受信信号を捕らえることができず、結局、従来技術ではアンテナ方向調整ができなかった。
【0013】
しかも、FPU方式の場合、高いアンテナ利得を得るため、狭い指向角のアンテナを使用することが多い。このため、まだ送受間のアンテナの方向調整がなされていない、アンテナ方向調整の初期段階では、当然のことながら受信信号レベルは非常に低く、−90dBmを下回ることも珍しくない。
【0014】
本発明の目的は、受信信号のレベルがかなり低くても受信信号の存在が検出できるようにしたシングルキャリア受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、シングルキャリア信号を伝送する伝送装置の送信装置において、伝送信号のフレーム構成が振幅及び位相が既知であるプリアンブル信号とデータを伝送するデータ信号から構成された信号を伝送する。
上記伝送信号を受信する伝送装置の受信装置においては、複素受信サンプリング系列と送信部で挿入したプリアンブル信号の複素共役信号との複素乗算演算を行い、複素乗算結果に対して、1サンプル遅延した信号の複素共役信号と遅延しない信号の複素乗算を演算することでキャリア周波数ずれによる回転成分を除去する。
【0016】
上記演算結果を所定のサンプル期間NP(NPは自然数)で積分した結果に基づいて、受信信号レベルを推定する手段を具備することを特徴とする受信装置を提供する。
更に、上記積分結果のS/Nを改善するため、フレーム方向に平均化を行い、平均化結果に対して所定の時間幅W(Wは自然数)を有する窓関数との畳み込み演算を行う。畳み込み演算結果から最大値を検出して、検出した最大値に基づいて、受信信号レベルを推定する手段を具備することを特徴とする受信装置も提供する。
【0017】
更に、上記推定した受信信号レベルに基づき受信アンテナの方向調整用信号を生成し、該生成した方向調整用信号を用いて受信アンテナの方向調整を行うことを特徴とする受信装置のアンテナ方向調整方法及びその装置を提供するものである。
【0018】
従って、上記目的は、1フレームにプリアンブル信号とデータ信号を備えたシングルキャリア信号を伝送する伝送装置の受信装置において、前記シングルキャリア信号から変換された受信サンプリング系列と前記プリアンブル信号の複素共役信号との複素乗算を演算する複素乗算手段と、前記複素乗算手段による複素乗算結果に対して、1サンプル遅延した信号の複素共役信号と遅延しない信号の複素乗算を演算する差分処理手段と、前記差分処理手段による演算結果を所定のサンプル期間NP(NPは自然数)で積分する積分手段とを設け、前記積分手段による積分結果に基づいて受信信号レベルを推定することにより達成される。
【0019】
このとき、更に、前記積分手段による積分結果をフレーム方向に平均化する加算平均手段と、前記加算平均手段による平均化結果に対して所定の時間幅W(Wは自然数)を有する窓関数との畳み込み演算を行う矩形フィルタ手段とを設け、前記矩形フィルタ手段による畳み込み演算結果から最大値を検出し、検出した最大値に基づいて、受信信号レベルを推定するようにしてもよく、更にその上で、前記推定した受信信号レベルに基づいて受信アンテナの方向調整用信号を生成し、該生成した方向調整用信号を用いて受信アンテナの方向調整を行うようにしてもよい。なお、本発明は、上記した各手段から構成される受信装置から成り立つものであるが、各手段における各処理又は各演算に基づく受信方法も本発明の発明対象である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アンテナの方向調整の初期段階において、受信信号のCN比が−10dB程度であっても、つまり受信信号レベルが−107dBm程度であっても、信号の存在が検出できるようになる。
従って、本発明によれば、アンテナの方向を変えながら受信信号レベルが最大になる方向を探すことができ、この結果、容易にアンテナ方向を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明によるシングルキャリア受信装置の一実施の形態を示すブロック構成図である。
図2】シングルキャリア方式における送信フレームフォーマットの説明図である。
図3】従来技術によるアンテナ方向調整システムのブロック構成図である。
図4】本発明の一実施の形態における複素乗算部の構成図である。
図5】キャリア周波数ずれによる複素乗算信号の回転を示す説明図である。
図6】本発明の一実施の形態における差分処理部と積分器の構成図である。
図7】シングルキャリア方式における積分信号I(m)とフレームタイミングの関係を示す説明図である。
図8】本発明の一実施の形態における入力C/N対積分器出力S/Nの特性図である。
図9】マルチパスが混入したときの本発明の一実施の形態における加算平均部と矩形フィルタ部の出力信号の波形図である。
図10】本発明の一実施の形態における受信電力変換部の変換特性の一例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明によるシングルキャリア受信装置および受信方法について、図示の実施の形態により詳細に説明する。
まず、具体的な実施形態について説明する前に、シングルキャリア方式における送信信号の信号フォーマットについて説明すると、図2に示すように、この場合の送信信号は、受信部での等化処理を容易にするためのプリアンブル信号P(m)からなるサンプル期間NPと、データ信号D(m)を伝送するためのデータ期間ND とでフレームが構成されている。ここで、mはサンプル番号である。
【0023】
そして、プリアンブル信号P(m)は、プリアンブル期間NP の間、振幅、位相が既知の信号で生成される。
このときの既知の信号の生成方法としては、既知の擬似ランダム信号(PN)などを用い、BPSKやQPSKなどの変調方式を用いた信号とすることが多い。
【0024】
次に、データ期間ND の信号D(m)はBPSK方式から64QAM方式など、伝送レートに応じた変調方式を用いてデータを伝送する。このときデータ期間長はND サンプルとする。
そして、このようにフレーミングされた信号を繰り返し伝送する。
【0025】
そこで、本発明においては、このプリアンブル期間の信号P(m)を用いて受信信号レベルを算定するようにした点を特徴とするものであり、以下、図1の実施形態を用いて詳細に説明する。
既に説明したように、中継現場の送信アンテナから電波として送出された信号は受信アンテナ1で受信され、受信高周波部2により周波数変換されてベースバンド信号に変換される。
【0026】
このベースバンド信号はA/D3に入力され、ここで受信サンプリング系列Rin(m)を得る。
そして、得られた受信サンプリング系列Rin(m)は直交検波器4に入力され、ここで実数信号からIQ複素信号への変換処理が施され、受信複素サンプリング系列Z(m)として出力される。ここで、上記したように、mはサンプル番号である。
【0027】
この直交検波処理はデジタル信号処理で行ってもよいが、アナログの直交ミキサを用いて行い、IQの夫々にA/D変換器を用いてサンプリングすることにより実現してもよい。
得られた受信複素サンプリング系列Z(m)は複素乗算部5に入力される。
【0028】
この複素乗算部5では、図4に示すように、プリアンブル期間NP と同程度の長さを有するシフトレジスタなどの記憶素子41に受信複素サンプリング系列Z(m)を入力し、次の式(1)に示すように、シフトレジスタ41の各段の値Z(m+t)と、送信側で予め規定されたプリアンブル信号P(t)に対する複素共役信号P*(t)との複素乗算を演算し、複素乗算信号M(m+t)を得る。
【0029】
式(1)
【0030】
ここで、特にプリアンブル信号がBPSK変調されている場合には、複素乗算処理はZ(m+t)の符号を反転/非反転する処理により簡易に実現できる。
このとき受信装置において、送信側のクロック周波数とキャリア周波数が正確に再生できている場合であって、シフトレジスタ41に入力されるタイミングが受信サンプル系列Z(m)のプリアンブル期間と一致している場合、複素乗算信号M(m+t)は全て同位相の信号となる。
【0031】
しかし、本発明においては、低C/Nでの受信信号電力推定を目的としているため、C/Nが低い領域での正しいキャリア再生処理は困難で、キャリア周波数がずれる可能性が高い。そして、このような場合、複素乗算信号M(m)はNPサンプル期間内で一定の位相ずれが生じ、図5に示すように回転する。
このときの回転量は、キャリア周波数ずれ量をΔfとすると、プリアンブル期間の複素受信サンプリング系列Z(m)は、次の式(2)で表される。
【0032】
式(2)
【0033】
ここで、fCLK は受信クロック周波数、θは固定位相、N(m)は雑音信号を示している。
従って、回転が生じた場合の式(1)で示した複素乗算信号M(m+t)は、次の式(3)で表される。
【0034】
式(3)
【0035】
ただし、このとき、次の式(4)の通りにした。
【0036】
式(4)
【0037】
ところで、一般的な相関処理では、M(m+t)を積分範囲NPで積分処理するが、このような回転が生じた信号の場合、そのまま積分処理すると、逆極性の信号同士で相殺してしまい、その結果は0に近い値となってしまう。
【0038】
このため、この実施形態では、複素乗算信号M(m+t)を差分処理部6に入力し、この回転成分を除去している。
ここで、この差分処理部6では、図6及び式(5)に示すように、複素乗算信号M(m+t)と、その1サンプル後の信号M(m+t+1)の複素共役信号との複素乗算を行う。
【0039】
式(5)
【0040】
そして、この式(5)に、上記の式(3)で示すキャリア周波数ずれによる回転が生じた複素乗算信号M(m)を代入すると、次の式(6)となる。
【0041】
式(6)
【0042】
ここで、この式(6)において、第一項は信号成分を示し、第二〜四項は雑音成分である。
そこで、これら第二〜四項を「N'(m+t)」で置換えると、次の式(7)となる。
【0043】
式(7)
【0044】
そして、この式(7)において、受信キャリア再生周波数に急激な変動がないと仮定する。つまりΔfが一定であるとする。
そうすると、差分結果D(m)はサンプル数mによらず一定値となり、回転成分を除去することができる。
次に、積分器7では、次の式(8)に示すように、差分信号D(m+t)をtについて積分し、積分結果を絶対値二乗演算して、積分信号I(m)を出力する。
【0045】
式(8)
【0046】
この差分処理により、差分信号D(m+t)は、全ての位相がほぼ一致し、この結果、図7に示すように、積分結果は、受信信号のプリアンブル期間と、積分期間が一致したときに大きな値を有するようになる。
そこで、次に、この積分器7の出力信号I(m)のS/Nについて説明する。
【0047】
まず、信号成分Sは、積分器7の出力I(m)の最大値であり、信号電力の約NP 倍となる。
また、雑音成分Nは、上記の式(6)により、σ2+σとなる。ここで、σ2 は入力段でのC/Nで定義した雑音電力を示している。
以上の結果、積分器出力のS/Nは、次の式(9)に示すようになる。
【0048】
式(9)
【0049】
ここで、式(9)の一例として、上記したARIB STD−B11で規定されるFPU規格について言及すると、この場合、プリアンブル期間はNP=240サンプルであり、このときの積分器7の出力I(m)のS/Nは、図8に示すようになり、この場合、C/Nが−10dBのときのS/Nは約3dB程度である。
【0050】
ところで、既に説明したように、S/Nが3dB程度では信号と雑音の分別が困難である。
そこで、この実施形態においては、積分器7の出力結果I(m)を加算平均部8に入力する。そして、この加算平均部7ではフレーム方向に加算平均を行い、S/Nの改善が得られるようにしている。
【0051】
既に図2に示したように、この場合のフレーム長は(NP+ND)であり、このとき移動平均型の加算平均処理では過去Kフレームの積分結果I(m)を加算平均処理する。
従って、この平均処理は次の式(10)に示すようになる。
【0052】
式(10)
【0053】
そこで、いま、この式(10)において、例えば加算回数Kを100とすると、約20dBのS/N改善効果が得られることになる。
そうすると、前述したFPUの例において、入力C/Nが−10dBの環境では加算平均部8の出力結果I(m)のS/Nは約23dBになり、この場合、信号成分と雑音成分の分別は容易にできることが判る。
【0054】
従って、この実施形態によれば、低いC/Nでも受信信号レベルに応じた信号レベルが出力されることになり、この結果、アンテナの方向調整の初期段階での微弱な受信信号も容易に捉えることができる。
【0055】
ところで、以上は、伝搬路(伝送路)のモデルとして、単純な加法性白色雑音モデル(AWGN)を想定した場合のものであるが、実際の伝搬路では複数の反射波が存在するマルチパス環境である場合が想定される。
そこで、この実施形態では、加算平均部7による加算平均結果F(m)を矩形フィルタ部9に入力し、ここで複数存在するマルチパスのエネルギーの総和を演算して出力信号C(m)を得る。
【0056】
このときの具体的な演算処理について、図9を用いて説明する。
いま、図9の(a)に示すようにマルチパスが混入した加算平均結果F(m)に対して、所定の時間幅Wを有する矩形窓を畳み込み演算すると、図9の(b)に示すような出力信号C(m)が得られる。
このときの窓幅Wとしては、予め想定されるマルチパスの最長遅延時間をLとすると、窓幅WはL以上であることが望ましい。
【0057】
しかし、窓幅Wを必要以上に長く設定すると、窓幅W内の雑音成分が多くなり、S/Nが劣化してしまうため、適切な幅に設計する必要がある。
ここで、受信機側でマルチパス遅延時間を逐次算出できる場合には、窓幅Wを受信環境に応じて適応的に制御しても良い。
【0058】
矩形フィルタ部9の出力信号C(m)は最大値検出部10に入力され、フレーム毎にC(m)の最大値MAXを算出する。そして、この最大値MAXは最大値平均部11にて更に平均化され、ここで擾乱成分を除去する。
このときの平均化の時定数については、加算平均部8と最大値平均部11の合計の時定数が、アンテナの方向調整制御に素早く追従できる程度に短く、例えば数百msec以内に短く設計することが望ましい。
【0059】
従って、この実施形態によれば、複数の反射波が存在するマルチパス環境においても、擾乱成分が除去できるので、上記したS/N改善効果と相俟って、低いC/Nでも受信信号レベルに応じた信号レベルが出力されることになり、この結果、アンテナの方向調整の初期段階での微弱な受信信号も容易に捉えることができる。
【0060】
最大値平均部11の出力信号は受信電力変換部12に入力され、ここで入力値に対応した受信電力レベルに変換して出力する。そこで、次に、この変換の詳細について図10を用いて説明する。
通常、受信装置では、受信条件で大きく変化する受信信号のレベルを自動利得制御(Automatic Gain Control:AGC)回路により一定のレベルになるような制御を行った後に、各種の信号処理を実施する方式が用いられている。
【0061】
そして、このことは、この実施形態でも例外ではない。
そうすると、この場合、A/D3に入力される信号Rin(m)の電力も一定に保たれていることになり、この結果、最大値平均部11の出力信号は、図10に破線で示してある理想特性のようにはならず、鎖線で示すように、C/Nが高くなると、つまり受信信号レベルが大きくなると、最大値平均部11の出力信号レベルは或る一定値に漸近してしまう。
【0062】
そこで、受信電力変換部12では、最大値平均部11の出力レベルに、図10の実線で示したように、その逆特性である補正特性を乗じることで、受信レベルを破線で示す理想特性になるように変換し、変換した受信レベルを方向調整信号Aとして出力する。このとき図10に示されているように、受信レベル信号の値をdB単位に変換しているが、アンテナの方向調整が容易になる任意の単位系の値に変換しても良い。
【0063】
以上に説明した処理により、更に低いC/Nでも受信信号レベルに応じた信号レベルが受信電力変換部12から出力でき、受信アンテナの方向調整の初期段階においても微弱な受信信号を捉えることができるようになる。
こうして受信電力変換部12から出力された方向調整信号Aは、受信信号レベル表示器13に入力される。
【0064】
そして、この受信信号レベル表示器13では、アンテナ方向の調整がオペレータにより実施しやすいように、方向調整信号Aのレベルをメータ指針の振れやモニタ面での波形、色など視覚的な情報に変換して表示し、オペレータに認知できるようにする。
このとき、音階、音量等の聴覚的な情報に変換して表示が得られるようにしても良い。
【0065】
そこで、この実施形態によれば、方向調整信号Aのレベルがオペレータに容易に認識でき、しかもこのとき、上記したように、受信信号のC/Nが−10dB程度でも受信信号のレベルが正確に検出でき、この結果、この実施形態によれば、C/Nが−10dB程度の受信信号レベルで、受信検波レベルを用いる従来技術によっては受信信号の存在すら検出できない受信アンテナの方向調整の初期段階においても、容易に受信信号レベルが検出できる。
【0066】
従って、この実施形態によれば、オペレータは、算出した方向調整信号Aを用いることにより、受信信号レベルが最大になる方向を、受信アンテナの方向を変えながら容易に探しだすことができる。
そして、この結果、この実施形態によれば、受信アンテナの方向調整が簡単なシステムを容易に構築することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、中継現場の映像をテレビ局まで無線伝送するためのFPU方式と呼ばれるシングルキャリア伝送方式に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 受信アンテナ
2 受信高周波部
3 A/D(アナログ・デジタル変換器)
4 直交検波器
5 複素乗算部
6 差分処理部
7 積分器
8 加算平均部
9 矩形フィルタ部
10 最大値検出部
11 最大値平均部
12 受信電力変換部
13 受信信号レベル表示器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10