(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レーザ光を吸収セルに照射して得られる光出力信号に含まれる飽和吸収線に基づき共振器長を変化させて前記レーザ光の発振周波数を特定の前記飽和吸収線に安定化させるレーザ周波数安定化装置に用いられる安定化判別器であって、
前記光出力信号の2次微分信号の出力値に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する第1判別手段と、
前記共振器長を変化させるアクチュエータへの操作量の変化に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する第2判別手段と、
前記第1判別手段及び前記第2判別手段による判別結果に基づいて、前記発振周波数が前記特定の飽和吸収線に安定化しているか否かを判別する第3判別手段とを備え、
前記第2判別手段は、
前記操作量の時間変化の微分値を算出する微分値算出部と、
前記微分値の絶対値と所定の閾値とを比較し、比較結果に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する絶対値判別部とを備える
ことを特徴とする安定化判別器。
レーザ光を吸収セルに照射して得られる光出力信号に含まれる飽和吸収線に基づき共振器長を変化させて前記レーザ光の発振周波数を特定の前記飽和吸収線に安定化させるレーザ周波数安定化装置であって、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の安定化判別器を備える
ことを特徴とするレーザ周波数安定化装置。
レーザ光を吸収セルに照射して得られる光出力信号に含まれる飽和吸収線に基づき共振器長を変化させて前記レーザ光の発振周波数を特定の前記飽和吸収線に安定化させるレーザ周波数安定化装置に用いられる安定化判別器の安定化判別方法であって、
前記光出力信号の2次微分信号の出力値に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する第1判別工程と、
前記共振器長を変化させるアクチュエータへの操作量の変化に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する第2判別工程と、
前記第1判別工程及び前記第2判別工程での判別結果に基づいて、前記発振周波数が前記特定の飽和吸収線に安定化しているか否かを判別する第3判別工程とを備え、
前記第2判別工程は、
前記操作量の時間変化の微分値を算出する工程と、
前記微分値の絶対値と所定の閾値とを比較し、比較結果に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する工程とを備える
ことを特徴とする安定化判別方法。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光を吸収セルに照射して得られる光出力信号に含まれる飽和吸収線に基づき共振器長を変化させてレーザ光の発振周波数を特定の飽和吸収線に安定化させるレーザ周波数安定化装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図12は、従来のレーザ周波数安定化装置100を示す図である。
レーザ周波数安定化装置100は、
図12に示すように、レーザ発生部10と、レーザ光検出部20と、駆動制御部30とを備える。
レーザ発生部10は、波長808nmのレーザ光L1を放出する励起用半導体レーザ11と、レーザ光L1を入力し、波長532nmのレーザ光L2を出力する共振波生成部12とを備える。
共振波生成部12は、誘導輻射から波長1064nmの光を発光するNd:YVO4結晶121、波長1064nmの光の一部を波長532nmの光とするKTP結晶(非線形光学結晶)122、波長1064nmの光を反射させ波長532nmの光を透過させる反射鏡123等の光学素子が共振器筐体124に収納された構成を有する。
また、共振器筐体124内部には、電圧の印加により反射鏡123の位置を変更(共振器長を変更)するピエゾ素子等のアクチュエータ125が配設されている。
【0004】
レーザ光検出部20は、レーザ光L2を、λ/2板21を透過させた後、第1偏光ビームスプリッタ22で、測長等に使用するレーザ光L3と、後述する周波数安定化制御に使用するレーザ光L4に分離する。
また、レーザ光検出部20は、レーザ光L4を、第2偏光ビームスプリッタ23、λ/4板24、及びヨウ素セル(吸収セル)25を通過させた後、反射鏡26にてヨウ素セル25に向けて反射させる。
そして、レーザ光検出部20は、レーザ光L4を、再度、ヨウ素セル25及びλ/4板24を通過させた後、第2偏光ビームスプリッタ23にて光検出器27に向けて反射させ、光検出器27にて光電変換することで光出力信号S1を出力する。
【0005】
図13及び
図14は、従来のレーザ周波数安定化装置100の周波数安定化制御を説明するための図である。具体的に、
図13は、波長532.245nm帯域の飽和吸収線を示した図である。
なお、
図13(A)及び
図13(B)は、光出力信号S1の2次,3次微分信号S2,S3の出力値を縦軸とし、レーザ光L2の発振周波数及びアクチュエータ125への出力電圧Vを横軸とし、共振器長を変化させた場合(発振周波数や出力電圧Vを変化させた場合)での2次,3次微分信号S2,S3の波形をそれぞれ示す図である。
図13(C)は、
図13(A)の領域Ar1を拡大した図である。
図13(D)は、
図13(B)の領域Ar2を拡大した図である。
図13(B)に示すように、2次微分信号S2には、発振周波数の低い側(アクチュエータ125への出力電圧Vの低い側)から順に、a1〜a15の飽和吸収線が観測される。また、
図13(A)に示すように、3次微分信号S3においても、2次微分信号S2と略同様の特徴を有する飽和吸収線が観測される。
【0006】
駆動制御部30は、光出力信号S1に基づいて、アクチュエータ125の動作を制御し(共振器長を調整し)、発振周波数を特定の飽和吸収線に安定化させる。
具体的に、駆動制御部30では、自動ロック装置31の制御信号により、アクチュエータ制御器32がアクチュエータ駆動回路33を制御する(アクチュエータ駆動回路33に出力する電圧値Vcを調整する)ことで、アクチュエータ125への出力電圧Vを変更する。
なお、駆動制御部30は、上述した構成31〜33の他、周波数1f,2f,3fHzの信号を出力する変復調信号発生器34と、アクチュエータ駆動回路33にて周波数1fHzの信号に基づき変調されたレーザ光L2の励起により得られる光出力信号S1を周波数2f,3fHzでそれぞれ復調し、2次,3次微分信号S2,S3をそれぞれ出力する2次,3次微分用ロックインアンプ35,36を備える。
【0007】
自動ロック装置31は、メモリ(図示略)に格納されたパラメータ、及び2次微分信号S2に基づいて、出力電圧Vを変更しながら特定の飽和吸収線(例えば、
図14に示す飽和吸収線an)を探索する(以下、探索動作)。
そして、自動ロック装置31は、探索動作の後、2次,3次微分信号S2,S3を常時、観測し、2次微分信号S2の出力値が所定の電圧値(飽和吸収線と認定できる電圧値)Vth(
図14(B))以上となり、かつ、3次微分信号S3の出力値が0V近傍となるように出力電圧Vを調整する(周波数安定化制御)。
そして、上述した周波数安定化制御の結果、発振周波数は、特定の飽和吸収線anの中心となる周波数F1(
図14(A))に安定化することとなる。
【0008】
また、自動ロック装置31は、周波数安定化制御を実施しながら、2次微分信号S2の出力値が電圧値Vth未満となっていることを認識することで、周波数F1から発振周波数がずれたことを認識する。そして、自動ロック装置31は、再度、上述した探索動作及び周波数安定化制御を実施する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のレーザ周波数安定化装置100では、特定の飽和吸収線の中心から発振周波数がずれたか否かを2次,3次微分信号S2,S3の出力値で判別しているため、以下の問題が生じる恐れがある。
例えば、外乱等の影響により、
図14に示すように、1サンプリング間に特定の飽和吸収線anから別の飽和吸収線amに発振周波数が移動した場合には、自動ロック装置31は、周波数安定化制御により発振周波数を別の飽和吸収線amの中心となる周波数F2に安定化させようとする。
そして、発振周波数が周波数F2に安定化した状態では、2次微分信号S2の出力値がVth以上であり、3次微分信号S3の出力値が0V近傍である。このため、自動ロック装置31は、発振周波数が周波数F1に安定化していると認識することとなり、周波数F1から発振周波数がずれたことを認識できない。
このため、レーザ周波数安定化装置100では、発振周波数が特定の飽和吸収線の中心からずれてしまう可能性がある、という問題がある。
【0011】
本発明の目的は、レーザ光の発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化しているか否かを良好に判別できる安定化判別器、レーザ周波数安定化装置、及び安定化判別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の安定化判別器は、レーザ光を吸収セルに照射して得られる光出力信号に含まれる飽和吸収線に基づき共振器長を変化させて前記レーザ光の発振周波数を特定の前記飽和吸収線に安定化させるレーザ周波数安定化装置に用いられる安定化判別器であって、前記光出力信号の2次微分信号の出力値に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する第1判別手段と、前記共振器長を変化させるアクチュエータへの操作量の変化に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する第2判別手段と、前記第1判別手段及び前記第2判別手段による判別結果に基づいて、前記発振周波数が前記特定の飽和吸収線に安定化しているか否かを判別する第3判別手段とを備え
、前記第2判別手段は、前記操作量の時間変化の微分値を算出する微分値算出部と、前記微分値の絶対値と所定の閾値とを比較し、比較結果に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する絶対値判別部とを備えることを特徴とすることを特徴とする。
【0013】
ところで、周波数安定化制御を実施している際、共振器長を変化させるアクチュエータへの操作量は、以下のような挙動を示す。
例えば、温度変動により共振器筐体が伸縮した場合には、共振器長の変動は低周波の変動となるが、アクチュエータ制御器により変動は補償されるため、発振周波数は、特定の飽和吸収線の中心となる周波数近傍に安定化される。すなわち、このような場合には、アクチュエータ制御器の制御範囲(
図13(C))内で、共振器長の変動を抑えるようにアクチュエータを動作させるだけでよいため、アクチュエータへの操作量の変化は、小さいものとなる。
一方、共振器筐体に振動などの外乱等が生じた場合、共振器長の変動は高周波での変動となるため、アクチュエータ制御器による制御範囲(
図13(C))を超えてしまい、特定の飽和吸収線から別の飽和吸収線に発振周波数が移動する場合がある。その場合、特定の飽和吸収線に応じた共振器長から前記別の飽和吸収線に応じた共振器長に変化しているため、アクチュエータへの操作量の変化は、上記温度変動により共振器筐体が伸縮した場合と比較して、大きいものとなる。
【0014】
本発明では、アクチュエータへの操作量の変化と発振周波数の安定状態とに上述した関係があることに着目した。そして、本発明の安定化判別器は、上述した第1〜第3判別手段を備え、2次微分信号の出力値の他、アクチュエータへの操作量の変化に基づいて、発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化しているか否かを判別する。
すなわち、安定化判別器は、2次微分信号の出力値が異常値を示している場合には、従来と同様に、発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化していないと判別できる。
また、安定化判別器は、発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化しておらず、別の飽和吸収線に移動しているにも拘らず、2次微分信号の出力値が正常値を示している場合であっても、例えば、アクチュエータへの操作量の変化が比較的に大きい場合には、発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化していないと判別できる。
一方、安定化判別器は、2次微分信号の出力値が正常値を示しているとともに、例えば、アクチュエータへの操作量の変化が比較的に小さい場合には、発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化していると判別できる。
したがって、本発明の安定化判別器によれば、レーザ光の発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化しているか否かを良好に判別できる。
とくに、本発明の安定化判別器では、前記第2判別手段は、前記操作量の時間変化の微分値を算出する微分値算出部と、前記微分値の絶対値と所定の閾値とを比較し、比較結果に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する絶対値判別部とを備えるため、微分値が正の値であっても負の値であっても、アクチュエータへの操作量の変化が大きい時(発振周波数が別の飽和吸収線に移動した時)と小さい時(発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化している時)とを簡単な構成で容易に判別できる。
【0015】
本発明の安定化判別器では、前記第1判別手段は、前記2次微分信号の出力値と所定の閾値とを比較する比較部を備え、前記比較部による比較結果に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別することが好ましい。
本発明では、第1判別手段が上述した比較部を備えるので、2次微分信号の出力値が正常値であるか異常値であるかを簡単な構成で容易に判別できる。
【0016】
本発明の安定化判別器では、前記比較部は、前記2次微分信号の出力値と2つの閾値とをそれぞれ比較するヒステリシスコンパレータで構成されていることが好ましい。
ところで、比較部を一般的なコンパレータ(2次微分信号の出力値と1つの閾値とを比較するコンパレータ)で構成した場合には、2次微分信号にノイズが含まれていると、チャタリングが生じてしまう。
本発明では、比較部が上述したヒステリシスコンパレータで構成されているので、チャタリングの発生を防止でき、第1判別手段による判別結果、ひいては、安定化判別器による判別結果を良好なものとすることができる。
【0018】
本発明の安定化判別器では、前記絶対値判別部は、前記微分値と、2つの閾値とをそれぞれ比較するヒステリシスコンパレータを備えることが好ましい。
本発明では、絶対値判別部が上述したヒステリシスコンパレータを備えるので、微分値にノイズが含まれている場合であっても、チャタリングの発生を防止でき、第2判別手段による判別結果、ひいては、安定化判別器による判別結果を良好なものとすることができる。
【0019】
本発明のレーザ周波数安定化装置は、レーザ光を吸収セルに照射して得られる光出力信号に含まれる飽和吸収線に基づき共振器長を変化させて前記レーザ光の発振周波数を特定の前記飽和吸収線に安定化させるレーザ周波数安定化装置であって、上述した安定化判別器を備えることを特徴とする。
本発明では、レーザ周波数安定化装置は、上述した安定化判別器を備えるので、上述した安定化判別器と同様の作用及び効果を享受できる。
【0020】
本発明の安定化判別方法は、レーザ光を吸収セルに照射して得られる光出力信号に含まれる飽和吸収線に基づき共振器長を変化させて前記レーザ光の発振周波数を特定の前記飽和吸収線に安定化させるレーザ周波数安定化装置に用いられる安定化判別器の安定化判別方法であって、前記光出力信号の2次微分信号の出力値に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する第1判別工程と、前記共振器長を変化させるアクチュエータへの操作量の変化に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する第2判別工程と、前記第1判別工程及び前記第2判別工程での判別結果に基づいて、前記発振周波数が前記特定の飽和吸収線に安定化しているか否かを判別する第3判別工程とを備え
、前記第2判別工程は、前記操作量の時間変化の微分値を算出する工程と、前記微分値の絶対値と所定の閾値とを比較し、比較結果に基づいて、前記発振周波数の安定状態を判別する工程とを備えることを特徴とする。
本発明の安定化判別方法は、上述した安定化判別器によって実施されるものであるので、上述した安定化判別器と同様の作用及び効果を享受できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の一形態を図面に基づいて説明する。
〔レーザ周波数安定化装置の構成〕
図1は、本実施形態におけるレーザ周波数安定化装置1を示すブロック図である。
レーザ周波数安定化装置1は、
図1に示すように、従来のレーザ周波数安定化装置100と同様のレーザ発生部10、レーザ光検出部20、及び駆動制御部30の他、安定化判別器40を備える。
なお、本実施形態のレーザ周波数安定化装置1は、従来のレーザ周波数安定化装置100と比較して、特定の飽和吸収線にレーザ光L2の発振周波数が安定化しているか否かを判別する安定化判別器40を別途、設けた点が異なるのみである。
このため、以下では、従来のレーザ周波数安定化装置100と同様の機能及び構成については同様の符号を付して説明を省略し、本願の要部である安定化判別器40について詳細に説明する。
【0023】
〔安定化判別器の構成〕
図2は、安定化判別器40を示すブロック図である。
安定化判別器40は、
図2に示すように、第1判別手段50と、第2判別手段60と、第3判別手段70とを備える。
第1判別手段50は、2次微分用ロックインアンプ35から出力される2次微分信号S2の出力値に基づいて、レーザ光L2の発振周波数の安定状態を判別する。
【0024】
〔第1判別手段の構成〕
図3は、第1判別手段の構成例を示すブロック図である。
図4及び
図5は、
図3に示す第1判別手段50´の動作を説明するための図である。具体的に、
図4(A)及び
図5(A)は第1判別手段50´に入力される2次微分信号S2の波形をそれぞれ示し、
図4(B)及び
図5(B)は
図4(A)及び
図5(A)に示す2次微分信号S2を入力した場合での第1判別手段50´の出力波形を示している。
ここで、第1判別手段の構成例としては、例えば、コンパレータ51´及びインバータ52´を有する
図3に示す第1判別手段50´の構成が考えられる。
そして、第1判別手段50´は、
図4に示すように、入力した2次微分信号S2の出力値がコンパレータ51´の閾値(飽和吸収線と認定できる電圧値)Vth以上の時にHighレベルの信号を出力し、閾値Vth未満の時にLowレベルの信号を出力する。
【0025】
すなわち、第1判別手段50´は、レーザ光L2の発振周波数が飽和吸収線に安定化している時にはHighレベルの信号を出力し、発振周波数が飽和吸収線から外れた時にはLowレベルの信号を出力する。
ところで、第1判別手段50´では、入力した2次微分信号S2の出力値と1つの閾値Vthとを比較しているため、2次微分信号S2にノイズが含まれている場合(
図5(A))には、チャタリングCh(
図5(B))が生じる恐れがある。
【0026】
図6は、本実施形態における第1判別手段50を示すブロック図である。
図7は、第1判別手段50の動作を説明するための図である。具体的に、
図7は、
図5に対応した図である。
そこで、本実施形態では、上述したチャタリングChを防止するために、
図6に示す第1判別手段50の構成を採用している。
第1判別手段50は、
図6に示すように、2次微分信号S2の出力値と閾値Vthを挟んで大小関係にある2つの高閾値VU(
図7(A))及び低閾値VL(
図7(A))とをそれぞれ比較する比較部としてのヒステリシスコンパレータ51と、インバータ(NOT回路)52とを備える。
そして、第1判別手段50は、
図7に示すように、入力した2次微分信号S2の出力値が高閾値VU以上となった時にHighレベルの信号を出力し、低閾値VL以下となった時にLowレベルの信号を出力する。また、第1判別手段50は、入力した2次微分信号S2の出力値が高閾値VU及び低閾値VLの間にある時は直前の出力信号を保持する。
すなわち、第1判別手段50にヒステリシスコンパレータ51を採用することで、
図7(B)に示すように、チャタリングChの発生を防止できる。
【0027】
〔第2判別手段の構成〕
図8は、第2判別手段60を示すブロック図である。
第2判別手段60は、アクチュエータ制御器32からアクチュエータ駆動回路33に出力される電圧値(以下、制御器出力電圧)Vc(
図1)の変化に基づいて、レーザ光L2の発振周波数の安定状態を判別する。
なお、制御器出力電圧Vcに応じて出力電圧Vが変更され、当該出力電圧Vに応じてアクチュエータ125が動作する。このため、制御器出力電圧Vcは、本発明に係るアクチュエータ125への操作量に相当するものである。
この第2判別手段60は、
図8に示すように、制御器出力電圧Vcにおける時間変化の微分値を算出する微分値算出部としての微分回路61と、微分値と第1閾値V1とを比較する第1コンパレータ62Aと、インバータ(NOT回路)62Bと、入力したHighレベルの信号を保持する第1ラッチ回路62Cと、微分値と第2閾値V2とを比較する第2コンパレータ62Dと、入力したHighレベルの信号を保持する第2ラッチ回路62Eと、NOR回路62Fとを備える。
【0028】
〔第2判別手段の動作〕
図9ないし
図11は、第2判別手段60の動作を説明するための図である。具体的に、
図9は、波長532.245nm帯域の各飽和吸収線a1〜a15間の出力電圧Vの電圧差ΔV1〜ΔV11を示す図である。
図10(A)は制御器出力電圧Vcの時間変化の一例を示し、
図10(B)〜
図10(D)は
図10(A)のように制御器出力電圧Vcが変化した場合でのインバータ62B、第1ラッチ回路62C、及び第2判別手段60の各出力信号をそれぞれ示している。
図11(A)は制御器出力電圧Vcの時間変化の他の例を示し、
図11(B)〜
図11(D)は
図11(A)のように制御器出力電圧Vcが変化した場合での第2コンパレータ62D、第2ラッチ回路62E、及び第2判別手段60の各出力信号をそれぞれ示している。
各飽和吸収線a1〜a15間の出力電圧Vの電圧差ΔV1〜ΔV11は、
図9に示すように、制御器出力電圧Vcの電圧差に換算できる。
【0029】
そして、第1閾値V1は、正の値に設定され、かつ、特定の飽和吸収線(発振周波数の安定化の対象となる飽和吸収線)と当該特定の飽和吸収線に対して発振周波数が高い側に隣接する飽和吸収線との間の出力電圧Vの電圧差(制御器出力電圧Vcの電圧差に相当)に基づいて設定されている。
例えば、飽和吸収線a10を特定の飽和吸収線とした場合には、第1閾値V1は、飽和吸収線a10,a11間の電圧差ΔV9から換算される制御器出力電圧Vcの電圧差『0.387V』よりも小さい『0.3V』に設定される。
【0030】
また、第2閾値V2は、負の値に設定され、かつ、特定の飽和吸収線と当該特定の飽和吸収線に対して発振周波数が低い側に隣接する飽和吸収線との間の出力電圧Vの電圧差に基づいて設定されている。
例えば、飽和吸収線a10を特定の飽和吸収線とした場合には、第2閾値V2は、飽和吸収線a9,a10間の電圧差ΔV8から換算される制御器出力電圧Vcの電圧差を負の値とした『−0.318V』よりも大きい『−0.3V』に設定される。
【0031】
なお、以下では、飽和吸収線a10を特定の飽和吸収線とし、各閾値V1,V2が上述したように『0.3V』及び『−0.3V』に設定されている場合を例として、第2判別手段60の動作を説明する。
自動ロック装置31は、周波数安定化制御により、温度変動や外乱により共振器筐体124が伸縮した場合には、
図10(A)または
図11(A)に示すように、制御器出力電圧Vcを変更させる。
【0032】
〔制御器出力電圧Vcの変動が小さい場合の動作〕
温度変動により共振器筐体124が伸縮している
図10(A),
図11(A)に示す期間T1(後述する時点PU,PDを含まない)では、共振器長の変動は低周波の変動となるが、自動ロック装置31により変動は補償されるため、発振周波数は、特定の飽和吸収線a10の中心となる周波数近傍に安定化される。すなわち、このような期間T1では、自動ロック装置31は、制御範囲(
図13(C))内で、共振器長の変動を抑えるようにアクチュエータ125を動作させればよい。このため、制御器出力電圧Vcの変動は、
図10(A),
図11(A)に示すように、小さいものとなる。
【0033】
すなわち、期間T1では、微分回路61から出力される微分値(単位時間当たりの制御器出力電圧Vcの変化量)は、第1,第2閾値V1,V2間の値となる。
そして、第1コンパレータ62Aは、微分値よりも第1閾値V1が高いため、Highレベルの信号を出力する。また、インバータ62B及び第1ラッチ回路62Cは、
図10(B),
図10(C)に示すように、Lowレベルの信号を出力する。
一方、第2コンパレータ62D及び第2ラッチ回路62Eは、微分値よりも第2閾値V2が低いため、
図11(B),
図11(C)に示すように、Lowレベルの信号を出力する。
そして、NOR回路62Fは、
図10(D)または
図11(D)に示すように、2つのLowレベルの信号を入力することで、Highレベルの信号を出力する。
すなわち、第2判別手段60は、レーザ光L2の発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化している時(期間T1)にはHighレベルの信号を出力する。
【0034】
〔制御器出力電圧Vcの変動が大きい場合の動作〕
一方、
図10(A)または
図11(A)に示すように、共振器筐体124に外乱が生じた場合(時点PU,PD)、共振器長の変動は高周波での変動となるため、自動ロック装置31による制御範囲(
図13(C))を超えてしまい、特定の飽和吸収線a10から別の飽和吸収線に発振周波数が移動する場合がある。すなわち、時点PU,PDでは、特定の飽和吸収線a10に応じた共振器長から別の飽和吸収線に応じた共振器長に変化しているため、制御器出力電圧Vcの変動は、
図10(A),
図11(A)に示すように、大きいものとなる。
図10(A)に示すような制御器出力電圧Vcが高くなる側に変動した時点PUでは、微分回路61から出力される微分値は、第1閾値V1より大きい値(正の値)となる。
そして、第1コンパレータ62Aは、微分値よりも第1閾値V1が低いため、Lowレベルの信号を出力する。また、インバータ62B及び第1ラッチ回路62Cは、
図10(B),
図10(C)に示すように、Highレベルの信号を出力する。
一方、第2コンパレータ62D及び第2ラッチ回路62Eは、微分値よりも第2閾値V2が低いため、Lowレベルの信号を出力する。
そして、NOR回路62Fは、High,Lowレベルの信号を入力することで、
図10(D)に示すように、Lowレベルの信号を出力する。
すなわち、第2判別手段60は、レーザ光L2の発振周波数が特定の飽和吸収線から別の飽和吸収線に移動した時(時点PU)にはLowレベルの信号を出力する。
【0035】
また、
図11(A)に示すような制御器出力電圧Vcが低くなる側に変動した時点PDでは、微分回路61から出力される微分値は、第2閾値V2より小さい値(負の値)となる。
そして、第1コンパレータ62Aは、微分値よりも第1閾値V1が高いため、Highレベルの信号を出力する。また、インバータ62B及び第1ラッチ回路62Cは、Lowレベルの信号を出力する。
一方、第2コンパレータ62D及び第2ラッチ回路62Eは、微分値よりも第2閾値V2が高いため、
図11(B),
図11(C)に示すように、Highレベルの信号を出力する。
そして、NOR回路62Fは、Low,Highレベルの信号を入力することで、
図11(D)に示すように、Lowレベルの信号を出力する。
すなわち、第2判別手段60は、レーザ光L2の発振周波数が特定の飽和吸収線から別の飽和吸収線に移動した時(時点PD)には、上記同様に、Lowレベルの信号を出力する。
【0036】
以上のように、第2判別手段60(上述した各構成62A〜62F)は、微分値の絶対値が各閾値V1,V2の絶対値よりも小さい場合には、発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化しているとしてHighレベルの信号を出力する。
また、第2判別手段60は、微分値の絶対値が各閾値V1,V2の絶対値よりも大きい場合には、発振周波数が特定の飽和吸収線から別の飽和吸収線に移動したとしてLowレベルの信号を出力する。
したがって、各構成62A〜62Fは、本発明に係る絶対値判別部62(
図8)に相当する。
【0037】
〔第3判別手段の構成〕
第3判別手段70は、第1判別手段50の上述した処理(第1判別工程)による判別結果と、第2判別手段60の上述した処理(第2判別工程)による判別結果に基づいて、レーザ光L2の発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化しているか否かを判別する(第3判別工程)。
この第3判別手段70は、
図2に示すように、AND回路で構成されている。
すなわち、第3判別手段70は、第1判別手段50から発振周波数が飽和吸収線に安定化しているとしてHighレベルの信号を入力し、第2判別手段60から発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化しているとしてHighレベルの信号を入力した場合には、発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化しているとしてHighレベルの信号を出力する。
【0038】
一方、第3判別手段70は、第1判別手段50から発振周波数が飽和吸収線から外れているとしてLowレベルの信号を入力した場合には、発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化していないとしてLowレベルの信号を出力する。
また、第1判別手段50から発振周波数が飽和吸収線に安定化しているとしてHighレベルの信号を入力した場合であっても、
図14に示すように、発振周波数が特定の飽和吸収線anの周波数F1ではなく別の飽和吸収線amの周波数F2に安定化している場合が想定される。
このような場合には、第2判別手段60から発振周波数が特定の飽和吸収線から別の飽和吸収線に移動したとしてLowレベルの信号が出力されるため、第3判別手段70は、発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化していないとしてLowレベルの信号を出力する。
そして、自動ロック装置31は、安定化判別器40(第3判別手段70)からLowレベルの信号が出力された場合には、再度、探索動作及び周波数安定化制御を実施する。
【0039】
上述した本実施形態によれば、以下の効果がある。
本実施形態では、安定化判別器40は、第1〜第3判別手段50〜70を備え、2次微分信号S2の出力値の他、制御器出力電圧Vcの変化に基づいて、発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化しているか否かを判別する。
したがって、安定化判別器40により、レーザ光L2の発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化しているか否かを良好に判別できる。
【0040】
また、第1判別手段50がヒステリシスコンパレータ51を備えるので、2次微分信号の出力値が正常値であるか異常値であるかを簡単な構成で容易に判別できる。
さらに、コンパレータ51´を採用せずに、ヒステリシスコンパレータ51を採用することで、チャタリングChの発生を防止でき、第1判別手段50による判別結果、ひいては、安定化判別器40による判別結果を良好なものとすることができる。
【0041】
また、第2判別手段60が微分回路61の他、絶対値判別部62を備えるので、微分値が正の値であっても負の値であっても、制御器出力電圧Vcの変動が大きい時(発振周波数が別の飽和吸収線に移動した時)と小さい時(発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化している時)とを簡単な構成で容易に判別できる。
【0042】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、安定化判別器40は、アナログ処理により発振周波数が特定の飽和吸収線に安定化しているか否かを判別していたが、これに限らず、デジタル処理により判別しても構わない。
例えば、第2判別手段60として
図8に示す構成を採用していたが、これに限らない。第2判別手段としては、ADコンバータを使用して、デジタル処理により、制御器出力電圧Vcの変化を観測することで、レーザ光L2の発振周波数の安定状態を判別しても構わない。
すなわち、第2判別手段は、制御器出力電圧VcをVc(N)(N=1,2,3,・・・n)として、サンプリングし、前回のサンプリング値との差分を観測し、以下の式(1)の関係を満たす場合に、特定の飽和吸収線から別の飽和吸収線に移動したことを判別する。
【0043】
[数1]
|Vc(N)−Vc(N−1)|>Va ・・・(1)
【0044】
なお、Vaは、前記第1実施形態と同様に、特定の飽和吸収線と当該特定の飽和吸収線に隣接する飽和吸収線との間の出力電圧Vの電圧差(制御器出力電圧Vcの電圧差に相当)に基づいて設定すればよい。
例えば、飽和吸収線a10を特定の飽和吸収線とした場合には、Vaは、0.3Vに設定される。このようにVaを設定することで、第2判別手段は、式(1)の関係を満たした場合に、前記第1実施形態と同様に、発振周波数が特定の飽和吸収線a10から別の飽和吸収線に移動したことを判別できる。
【0045】
前記実施形態において、第1コンパレータ62A及び第2コンパレータ62Dをヒステリシスコンパレータ51と同様の構成としても構わない。
第1コンパレータ62A及び第2コンパレータ62Dをヒステリシスコンパレータで構成すれば、微分値にノイズが含まれている場合であっても、チャタリングの発生を防止でき、第2判別手段60による判別結果、ひいては、安定化判別器40による判別結果を良好なものとすることができる。