(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属ナノワイヤと金属ナノチューブの少なくとも一方と、橋かけ環骨格を有するアルキル基と水酸基とを有し分子量の範囲が150〜500である有機化合物を含みかつ25℃における粘度が1.0×103〜2.0×106mPa・sである形状保持材、及びアルコール、エーテル及び/または脂肪族系炭化水素系溶剤である粘度調製溶媒を含む分散媒と、を含むパターン印刷用の透明導電性インクであって、透明導電性インク総質量に対して、金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブが0.01〜10質量%の量であり、形状保持材の含有量が分散媒総質量に対して10〜90質量%であり、前記金属ナノワイヤおよび金属ナノチューブの径の太さの平均が1〜500nm、アスペクト比の平均が5より大、長軸の長さの平均が1〜100μmであることを特徴とする透明導電性インク。
前記形状保持材に含まれる有機化合物が、ボルニルシクロヘキサノール又はボルニルフェノール、イソボルニルシクロヘキサノール、イソボルニルフェノールのいずれかであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の透明導電性インク。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機エレクトロルミネッセンス(OLED)、太陽電池(PV)およびタッチパネル(TP)の透明電極、帯電防止(ESD)フィルムならびに電磁波遮蔽(EMI)フィルム等の種々の分野で使用されており、(1)低い表面抵抗、(2)高い光線透過率、(3)高い信頼性が要求される。
【0003】
例えば、LCDの透明電極に対しては、表面抵抗が10〜300Ω/□の範囲内にあり、光線透過率が可視光域で85%以上である。さらに好ましい範囲は、表面抵抗が20〜100Ω/□、光線透過率が90%以上である。OLEDの透明電極に対しては、表面抵抗が10〜100Ω/□の範囲内にあり、光線透過率が可視光域で80%以上である。さらに好ましい範囲は、表面抵抗が10〜50Ω/□、光線透過率が85%以上である。PVの透明電極に対しては、表面抵抗が5〜100Ω/□の範囲内にあり、光線透過率が可視光域で65%以上である。さらに好ましい範囲は、表面抵抗が5〜20Ω/□、光線透過率が70%以上である。TPの電極に対しては、表面抵抗が100〜1000Ω/□の範囲内にあり、光線透過率が可視光域で85%以上である。さらに好ましくは、表面抵抗が150〜500Ω/□の範囲内にあり、光線透過率が可視光域で90%以上である。ESDフィルムに対しては、表面抵抗が500〜10000Ω/□の範囲内にあり、光線透過率が可視光域で90%以上である。さらに好ましくは、表面抵抗が1000〜5000Ω/□の範囲内にあり、光線透過率が可視光域で95%以上である。
【0004】
これらの透明電極に用いられる透明導電膜には、従来、ITO(酸化インジウム錫)が用いられてきた。しかし、ITOに用いられるインジウムはレアメタルであるため、近年は供給及び価格の安定化が課題となっている。また、ITOの製膜には、高真空を必要とするスパッタリング法や蒸着法等が用いられているため、真空製造装置が必要となり、製造時間が長くかかる上コストも高くなる。更に、ITOは曲げ等の物理的な応力によってクラックが発生し壊れ易いため、フレキシブル性を付与した基板に対して適用することが困難である。そのため、これらの問題点を解消したITO代替材料の探索が進められている。
【0005】
そこで、「ITO代替材料」の中でも、真空製造装置の使用が不要である塗布成膜可能な材料として、例えば、(i)ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)(たとえば特許文献1参照)等の高分子系導電材料並びに(ii)金属ナノワイヤを含有する導電性材料(たとえば特許文献2および非特許文献1参照)及び(iii)カーボンナノチューブを含有する導電性材料(たとえば特許文献3参照)等のナノ構造の導電性成分を含有する導電性材料が報告されている。
【0006】
これらの中でも(ii)の金属ナノワイヤを含有した導電性材料は、低表面抵抗かつ高光線透過率を示すことが報告されており(たとえば特許文献2および非特許文献1参照)、更に、フレキシブル性も有しているため、「ITO代替材料」として好適である。
【0007】
ここで、透明導電膜は、透明電極として使用するために用途に応じたパターン形成を必要とする。ITOのパターン形成には、レジスト材料を用いたフォトリソグラフィー法が一般的に用いられている。
【0008】
金属ナノワイヤを含有した導電性材料にパターンを形成する方法としては、非特許文献1には以下の工程が記載されている。
(1)金属ナノワイヤを含有する導電性インクを基板に塗布する工程。
(2)焼成を行い、透明導電層を形成する工程。
(3)感光性を有するレジストを上記透明導電層上に形成する工程。
(4)微細パターンに相当する適当な遮光マスクを通じてレジストに光エネルギーを付与する工程。
(5)得られたレジストの潜像を、適当な現像用溶液による溶出によって現像する工程。
(6)適当なエッチング方法を用いて露出した被パターニング膜(透明導電層)を除去する工程。
(7)残存したレジストを適当な方法を用いて除去する工程。
【0009】
実際には、上記工程に加え、さらに、各工程の前後に、適当な基板表面処理、洗浄および乾燥工程等が必要となると考えられる。
【0010】
また、特許文献2には以下の工程が記載されている。
(1)水に分散した銀ナノワイヤを含有する導電性インクを基板に塗布する工程。
(2)焼成を行い、銀ナノワイヤ網層を形成する工程。
(3)プレポリマーを含有する光硬化型のマトリクス材を前記銀ナノワイヤ網層上に形成する工程。
(4)微細パターンに相当する適当な遮光マスクを通じてマトリクス材に光エネルギーを付与する工程。
(5)非硬化領域を溶媒(エタノール)で洗浄することによって除去する工程。または、粘着テープや粘着性ロールを用いて非硬化領域を物理的に除去する工程。
【0011】
また、特許文献4には以下の工程が記載されている。
(1)感光性樹脂を含む溶液に分散した銀ナノワイヤを含有する導電性インクを基板に塗布する工程。
(2)微細パターンに相当する適当な遮光マスクを通じて感光性樹脂に光エネルギーを付与する工程。
(3)非硬化領域を現像液によって現像する工程。
【0012】
さらに、特許文献5には以下の工程が記載されている。
(1)透明基材の表面に金属ナノフィラーを含む樹脂溶液を塗布する工程。
(2)この透明導電膜の表面に、パターン状の開口部が形成されたマスクを配置する工程。
(3)このマスクの透明導電膜と反対側からプラズマ処理またはコロナ処理を行なって、マスクの開口部に対応する部分の透明導電膜中の金属ナノフィラーを強制酸化することによって、酸化された金属ナノフィラーで非導通部を形成すると共に酸化されていない金属ナノフィラーで導通部を形成する工程。
【0013】
しかしながら、上記非特許文献1および特許文献2いずれの方法においても、金属ナノワイヤを含む層の上にさらにパターン形成のための感光性を有する層を形成する工程が必要であった。また、感光性を有する層の現像工程及び露出された金属ナノワイヤを含む層の除去工程が必要であるので、除去領域の銀ナノワイヤを無駄に消費してしまう上に、現像液の廃液処理が必要となる場合もあった。さらに、感光性を有する層の現像および露出された金属ナノワイヤを含む層の除去後、感光性を有する層の除去工程が必要である場合もあった。
【0014】
また、特許文献4の方法も、現像工程が必要であるので、銀ナノワイヤを現像により無駄に消費してしまう上に、現像液の廃液問題も発生する。
【0015】
そのため、透明導電膜を得るために、多くの工程が必要となり、製造コストが大きいという問題および各工程から出される廃液の問題ならびに個々の工程が最適化されていないことによる工程前後での電気特性および光学特性の変化が集積されるという問題があった。
【0016】
また、特許文献5の方法もプラズマ処理またはコロナ処理で、銀ナノワイヤを完全に絶縁性にすることは非常に難しい上に、基材がプラズマ処理またはコロナ処理により劣化してしまい、透明性、耐久性が悪化してしまうという問題があった。
【0017】
また、銀ナノワイヤでの実施例は開示されていないが、特許文献6には導電インクを基板上にパターン化された導電性層として印刷する方法として、以下の方法が開示されている。
(1)樹脂、及び、シリコーン系又はフッ素系の界面活性剤を含有する撥液性透明絶縁インキを用いて、印刷法によりパターンを基板上に形成し、
(2)前記撥液性透明絶縁インキの乾燥皮膜に対して、はじき性を有する導電インクを全面に塗布し、該導電インクが、該撥液性透明絶縁インキの乾燥皮膜に、はじかれることにより、基板上の、該撥液性透明絶縁インキの乾燥皮膜が形成されていない部分に導電インキ層を形成する。
【0018】
この方法では、撥水性透明インクと親水性導電性インクの両方の設計が必要であり、配合系が複雑になるうえに、パターン精度は印刷精度以外に、撥水−親水樹脂間のはじき性にも大きく影響を受けるために、パターン精度を向上することが難しいという問題があった。
【0019】
そこで、銀ナノワイヤをインクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷のような印刷法により、直接パターン形成することが望まれている。しかし、印刷を行うにはバインダー樹脂が必要であり、透明性を確保するためには銀ナノワイヤの使用量を少なくする必要があるため、使用するバインダー樹脂が銀ナノワイヤの表面を被覆して導電性が無くなるという問題があった。また、バインダー樹脂を用いない場合には、印刷時にパターンが確保できないか印刷直後はかろうじてパターンが確保できても、溶剤を乾燥する際にパターンが崩れてしまうという問題があった。
【0020】
そのために特許文献7には有機導電性高分子をバインダー樹脂に用いて、次の工程でパターン(透明電極)形成を行っている。
(1)バインダーとして有機導電性高分子を含む溶液に分散した銀ナノワイヤを含有する導電性インクを使用し、グラビア印刷法により導電層パターンを形成する工程。
(2)前工程で形成した該導電層パターンを第二の基板上に転写して透明電極を形成する工程。
【0021】
この方法では、バインダーに有機導電性高分子を用いているので、抵抗はある程度低い水準を確保できるものの、そもそも形状保持力が高くない有機導電性高分子をバインダーとして用いており、印刷精度が良くない上に長期信頼性についても金属、無機化合物よりも劣り、透明導電膜としての実用上の品質を確保することが出来ない。
【0022】
また特許文献8には、Tgが0〜250℃の範囲のセルロース誘導体のような水溶性高分子をバインダー樹脂に用いて、以下の工程でパターン形成する方法が開示されている。
(1)バインダー樹脂としてTgが0〜250℃の範囲のセルロース誘導体のような水溶性高分子含む溶液に銀ナノワイヤが分散された導電性インクを基板に印刷する工程。
(2)導体パターンを加圧条件下で加熱加湿処理して水溶性高分子を溶出させる工程。
【0023】
この方法では、アルカリ性廃液は発生しないものの、やはり溶出水の廃液が発生する。また、導電性インクの膜を均一に加圧することは難しく、導電性の発現について再現性が出にくい。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を説明する。
【0036】
実施形態にかかる透明導電性インクは、以下の形状保持材を含む分散媒を用いることにより、金属ナノワイヤ及び/または金属ナノチューブを良好に分散させることができる。この透明導電性インクを使用すれば、印刷によるパターン形成を良好に行うことができ、分散媒を留去することによって、導電性と光透過性を兼ね備えた塗膜を形成できる。
【0037】
上記形状保持材は、分子量の範囲が150〜500である有機化合物を含みかつ25℃における粘度が1.0×10
3〜2.0×10
6mPa・sである。ここで、有機化合物が25℃で上記粘度範囲の液状である場合は形状保持材を上記有機化合物のみで構成することができる。一方、25℃における粘度が上記粘度範囲より高い場合あるいは25℃で固体の場合は適切な溶媒(有機化合物を溶解しうる溶媒であり、後述の粘度調整溶媒等が挙げられる)と予め混合(希釈、溶解)して上記粘度範囲の液状形状保持材とすることができる。
【0038】
形状保持材の粘度が上記範囲より低いと印刷したパターンの形状を保持することが出来ず、上記範囲より高いと印刷時の糸曳性等の悪影響が出る。形状保持材の25℃の粘度としてより好ましくは5.0×10
4〜1.0×10
6mPa・sの範囲である。なお、粘度は円錐平板型回転粘度計(コーンプレートタイプ)を用いて測定した値である。
【0039】
また、使用する形状保持材に含まれる有機化合物の分子量が大きいと焼結時に形状保持材が効率よく除去できず、抵抗が下がらない。そのため分子量としては500以下、好ましくは400以下、より好ましくは300以下である。
【0040】
このような有機化合物としては水酸基の入った化合物が好ましく、例えば単糖類、ポリオール、4級アルキル基および/または橋かけ環骨格を有するアルキル基と水酸基を有する化合物が好ましく、例えば、ジグリセリン、2,2,4−トリメチル−1.3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1.3−ペンタンジオールジイソブチレート、キシルロース、リブロース、ボルニルシクロヘキサノール、ボルニルフェノール、イソボルニルシクロヘキサノール、イソボルニルフェノール等が挙げられる。
【0041】
上記列挙した化合物の中ではイソボルニル基と水酸基を有するものが特に好ましい。イソボルニル基が有する複雑な立体構造に加えて水酸基の水素結合によりインクに適度な粘着性を与えるためである。また、イソボルニル基と水酸基を有する化合物は、揮発温度がそれほど高くないにも拘わらず、高い粘性を有するため、インクの高粘度化が実現できるためである。イソボルニル基と水酸基を有する化合物としては、イソボルニルシクロヘキサノール又はイソボルニルフェノールのいずれか一方又はその双方が挙げられる。上記列挙した化合物は適度な粘着性を有するため、インクに適度な粘着性を与える。また、インク溶媒として適当な沸点を示すため、印刷、乾燥終了後、適切な加熱、光焼結等により、残渣を低減することができる。インク中の形状保持材の含有量は分散媒総質量に対して10〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましい。形状保持材の含有量が10質量%未満であると、インクが適度な粘度を有することができなくなり、印刷できない。また、形状保持材の含有量が90質量%を超えると、インクの粘度が高くなりすぎ、印刷時の糸曳性がひどくなり、印刷できない場合もある。
【0042】
また、形状保持材としては、そのもの自体が上述した粘度範囲である粘稠な液体であることが望ましいが、上記粘度範囲を満たすように他の粘度調整溶媒を混合して上記範囲の粘度を有する分散媒を調製し、金属ナノワイヤ及び/または金属ナノチューブを導電成分として分散媒中に分散させて透明導電性インクとしてもよい。
【0043】
粘度調整溶媒の例としては、水、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、脂肪族系炭化水素系溶剤および芳香族系炭化水素溶剤が挙げられる。インク組成物中の各成分を良好に分散する観点から、水、エタノール、イソプロピルアルコール、1−メトキシ−2−プロパノール(PGME)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピニルモノアセテート、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、エチルラクテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジブチルエーテル、オクタン、トルエンが好ましく、テルピネオールが特に好ましい。これらの溶媒は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
金属ナノワイヤおよび金属ナノチューブとは、径の太さがナノメーターオーダーのサイズである金属であり、金属ナノワイヤはワイヤ状、金属ナノチューブはポーラスあるいはノンポーラスのチューブ状の形状を有する導電性材料である。本明細書において、「ワイヤ状」と「チューブ状」はいずれも線状であるが、前者は中央が中空ではないもの、後者は中央が中空であるものを意図する。性状は、柔軟であってもよく、剛直であってもよい。金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブは、いずれかを用いてもよく、両者を混合したものを用いてもよい。
【0045】
金属の種類としては、金、銀、白金、銅、ニッケル、鉄、コバルト、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、オスミウム、イリジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種およびこれらの金属を組み合わせた合金等が挙げられる。低い表面抵抗かつ高い全光線透過率を有する塗膜を得るためには、金、銀および銅のいずれかを少なくとも1種含むことが好ましい。これらの金属は導電性が高いため、一定の表面抵抗を得る際に、面に占める金属の密度を減らすことができるので、高い全光線透過率を実現できる。
【0046】
これらの金属の中でも、金または銀の少なくとも1種を含むことがより好ましい。最適な態様としては、銀のナノワイヤが挙げられる。
【0047】
透明導電性インク中の金属ナノワイヤおよび/または金属ナノチューブの径の太さ、長軸の長さおよびアスペクト比は一定の分布を有することが好ましい。この分布は、本実施形態の透明導電性インクから得られる塗膜が、全光線透過率が高くかつ表面抵抗が低い塗膜となるように選択される。具体的には、金属ナノワイヤおよび金属ナノチューブの径の太さの平均は、1〜500nmが好ましく、5〜200nmがより好ましく、5〜100nmがさらに好ましく、10〜100nmが特に好ましい。また、金属ナノワイヤおよび/または金属ナノチューブの長軸の長さの平均は、1〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましく、2〜50μmがさらに好ましく、5〜30μmが特に好ましい。金属ナノワイヤおよび/または金属ナノチューブは、径の太さの平均および長軸の長さの平均が上記範囲を満たすとともに、アスペクト比の平均が5より大きいことが好ましく、10以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましく、200以上であることが特に好ましい。ここで、アスペクト比は、金属ナノワイヤおよび/または金属ナノチューブの径の平均的な太さをb、長軸の平均的な長さをaと近似した場合、a/bで求められる値である。a及びbは、走査電子顕微鏡を用いて測定できる。
【0048】
金属ナノワイヤおよび/または金属ナノチューブの製造方法としては、公知の製造方法を用いることができる。例えば、銀ナノワイヤは、ポリオール(Poly−ol)法を用いて、ポリビニルピロリドン存在下で硝酸銀を還元することによって合成することができる(Chem.Mater.,2002,14,4736参照)。金ナノワイヤも同様に、ポリビニルピロリドン存在下で塩化金酸水和物を還元することによって合成することができる(J.Am.Chem.Soc.,2007,129,1733参照)。銀ナノワイヤおよび金ナノワイヤの大規模な合成および精製の技術に関しては国際公開公報WO2008/073143パンフレットと国際公開第2008/046058号パンフレットに詳細な記述がある。ポーラス構造を有する金ナノチューブは、銀ナノワイヤを鋳型にして、塩化金酸溶液を還元することにより合成することができる。ここで、鋳型に用いた銀ナノワイヤは塩化金酸との酸化還元反応により溶液中に溶け出し、結果としてポーラス構造を有する金ナノチューブができる。(J.Am.Chem.Soc.,2004,126,3892−3901参照)。
【0049】
本実施形態にかかる透明導電性インクにおける金属ナノワイヤおよび/または金属ナノチューブの含有量は、その良好な分散性並びに透明導電性インクから得られる塗膜の良好なパターン形成性、高い導電性及び良好な光学特性の観点から、透明導電性インク総質量に対して、金属ナノワイヤおよび/または金属ナノチューブが0.01〜10質量%の量であり、より好ましくは0.05〜2質量%の量である。金属ナノワイヤおよび/または金属ナノチューブが0.01質量%未満であると、所望の導電性を確保するには、透明導電膜層を非常に厚く印刷する必要があり印刷の難易度が高くなる上に、乾燥時にパターンが維持し難くなる。また、10質量%を超えると所望の透明度を確保するには、非常に薄く印刷する必要があり、この系も印刷が難しくなる。
【0050】
本実施形態にかかる透明導電性インクは、その性質を損なわない範囲で、上記成分(形状保持材、粘度調整溶媒、金属ナノワイヤ、金属ナノチューブ)以外の任意成分、例えば、バインダー樹脂、腐食防止剤、密着促進剤、界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0051】
バインダー樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル等のポリアクリロイル化合物;ポリビニルアルコール;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;、ポリカーボネート;ノボラック等の高共役性ポリマー;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド類;ポリスルフィド;ポリスルホン;ポリフェニレン;ポリフェニルエーテル;ポリウレタン;エポキシ;ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルキシレン等の芳香族ポリオレフィン;ポリプロピレン、ポリメチルペンタン等の脂肪族ポリオレフィン;ポリノルボルネン等の脂環式オレフィン、ポリビニルピロリドン等のポリオレフィン;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合ポリマー(ABS);ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ニトロセルロース等のセルロース類;シリコーン樹脂;ポリアセテート;合成ゴム;ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の含塩素ポリマー;ポリフルオロビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、フルオロオレフィン−ヒドロカーボンオレフィンの共重合ポリマー等の含フッ素ポリマー等が挙げられる。
【0052】
また、腐食防止剤としてはベンゾトリアゾール等、密着促進剤としては2−ヒドロキシメチルセルロース等、界面活性剤としては商品名F―472SF(DIC(株)製)等が挙げられる。
【0053】
本実施形態にかかる透明導電性インクは、上述した成分を、公知の方法で攪拌、混合、加熱、冷却、溶解、分散等を適宜選択して行うことによって製造できる。
【0054】
本実施形態にかかる透明導電性インクの好ましい粘度は、印刷方法によって異なるが、スクリーン印刷の場合には、25℃における粘度が100〜2×10
5mPa・sであることが好ましく、より好ましくは10
3〜5×10
4mPa・sである。なお、粘度は円錐平板型回転粘度計(コーンプレートタイプ)を用いて測定した値である。
【0055】
このようにして調製した透明導電性インクを使用して、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷等によりパターン印刷を行う。
【0056】
パターン印刷を行う基材としては、堅くてもよく(剛性)、曲がり易くてもよい(可撓性)。また、着色されていてもよい。基材としては、たとえばガラス、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、アクリル樹脂、ポリエステル(ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等の材料が挙げられる。これらは、高い光線透過率と低いヘイズ値を有することが好ましい。基板には、更に、TFT素子等の回路が形成されていてもよく、カラーフィルター等の機能性材料が形成されていてもよい。また基板は多数積層されていてもよい。
【0057】
透明導電性インクの基材への塗布量は、用途により求められる透明導電性パターンの膜厚を勘案して決定される。膜厚は、用途に基づいて選択される。所望の膜厚は、透明導電性インクの塗布量および塗布方法の条件を調整することにより得られる。膜厚は、低い表面抵抗の観点からは厚いほど良く、段差による表示不良の発生を抑制する観点からは薄いほど良いことから、これらを総合的に勘案すると、5〜500nmの膜厚が好ましく、5〜200nmの膜厚がより好ましく、5〜100nmの膜厚がさらに好ましい。
【0058】
印刷(塗布)した透明導電性インクは、必要に応じて塗布物を加熱処理して乾燥させる。加熱温度は、分散媒を構成する液状成分によっても異なるが、乾燥温度が高すぎると形成したパターンが保持できないことがある。そのため、乾燥温度は高くとも120℃以下、より好ましくは100℃以下である。特に最初の乾燥温度は重要であるので、40〜80℃程度から乾燥を開始し必要に応じて段階的に120℃を超えない範囲で昇温することが特に好ましい。粘稠な液体の形状保持材は概して沸点が高く、形状保持材よりも低沸点の粘度調整溶媒が分散媒に共存する場合低沸点の粘度調整溶媒が優先的に留去されることになる。そのため乾燥により分散媒の粘度は上昇する方向となり、乾燥時の印刷パターンの崩れが抑制される。
【0059】
得られた透明導電性パターンの表面抵抗および全光線透過率は、その膜厚すなわち組成物の塗布量および塗布方法の条件の調整、本実施形態にかかる透明導電性インク中の金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブの濃度の調整により、所望の値とすることができる。
【0060】
一般に膜厚が厚いほど、表面抵抗および全光線透過率は低くなる。また、透明導電性インク中の金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブの濃度が高いほど、表面抵抗および全光線透過率は低くなる。
【0061】
上記のようにして得られた塗膜は、表面抵抗の値が5〜1000Ω/□であり、かつ全光線透過率が80%以上であることが好ましく、表面抵抗の値が10〜200Ω/□であり、かつ全光線透過率が90%以上であることがより好ましい。
【0062】
本実施形態にかかる透明導電性インクは、乾燥するだけでもある程度表面抵抗が低くなるが、より効率的に低くするには、パルス光を照射することが好ましい。
【0063】
本明細書中において「パルス光」とは、光照射期間(照射時間)が短時間の光であり、光照射を複数回繰り返す場合は
図1に示すように、第一の光照射期間(on)と第二の光照射期間(on)との間に光が照射されない期間(照射間隔(off))を有する光照射を意味する。
図1ではパルス光の光強度が一定であるように示しているが、1回の光照射期間(on)内で光強度が変化してもよい。上記パルス光は、キセノンフラッシュランプ等のフラッシュランプを備える光源から照射される。このような光源を使用して、上記基板に堆積された金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブにパルス光を照射する。n回繰り返し照射する場合は、
図1における1サイクル(on+off)をn回反復する。なお、繰り返し照射する場合には、次パルス光照射を行う際に、基材を室温付近まで冷却できるようにするため基材側から冷却することが好ましい。
【0064】
また、上記パルス光としては、1pm〜1mの波長範囲の電磁波を使用することができ、好ましくは10nm〜1000μmの波長範囲の電磁波(遠紫外から遠赤外まで)、さらに好ましくは100nm〜2000nmの波長範囲の電磁波を使用することができる。このような電磁波の例としては、ガンマ線、X線、紫外線、可視光、赤外線、マイクロ波、マイクロ波より長波長側の電波等が挙げられる。なお、熱エネルギーへの変換を考えた場合には、あまりに波長が短い場合には、形状保持材、パターン印刷を行う樹脂基材等へのダメージが大きく好ましくない。また、波長が長すぎる場合には効率的に吸収して発熱することが出来ないので好ましくない。従って、波長の範囲としては、前述の波長の中でも特に紫外から赤外の範囲が好ましく、より好ましくは100〜2000nmの範囲の波長である。
【0065】
パルス光の1回の照射時間(on)は、光強度にもよるが、20マイクロ秒〜50ミリ秒の範囲が好ましい。20マイクロ秒よりも短いと金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブの焼結が進まず、導電膜の性能向上の効果が低くなる。また、50ミリ秒よりも長いと光劣化、熱劣化により基材へ悪影響を及ぼすことがあり、また金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブが吹き飛びやすくなる。より好ましくは40マイクロ秒〜10ミリ秒である。上記理由により、本実施形態では連続光ではなくパルス光を用いる。パルス光の照射は単発で実施しても効果はあるが、上記の通り繰り返し実施することもできる。繰返し実施する場合照射間隔(off)は生産性を考慮すると20マイクロ秒〜5秒、より好ましくは2ミリ秒〜2秒の範囲とすることが好ましい。20マイクロ秒よりも短いと、連続光に近くになってしまい、一回の照射後に放冷される間も無く照射されるので、基材が加熱され温度が高くなって劣化する可能性がある。また、5秒よりも長いとプロセス時間が長くなるので好ましくない。
【0066】
本実施形態にかかる透明導電パターンを製造する場合は、適宜な基板上に本実施形態にかかる透明導電性インクを使用して任意の形状のパターンを印刷し、加熱処理して乾燥させた後、このパターンにキセノン式のパルス式照射ランプ等を用いて、パルス幅(on)が20マイクロ秒〜50ミリ秒、より好ましくは40マイクロ秒〜10ミリ秒であるパルス光を照射して金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブ相互の交点を接合する。ここで、接合とは、金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブ同士の交点において、ナノワイヤまたはナノチューブの材料(金属)がパルス光を吸収し、交差部分でより効率的に内部発熱を起こすことにより、その部分が熔接されることである。この接合により、交差部分でのナノワイヤまたはナノチューブ間の接続面積が増え表面抵抗を下げることができる。このように、パルス光を照射して金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブの交点を接合することにより、金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブが網目状となった導電層が形成される。このため、透明導電性パターンの導電性を向上でき、その表面抵抗値は、10〜800Ω/□となる。なお、金属ナノワイヤまたは金属ナノチューブが形成する網目は、間隔を空けずに密集している状態では好ましくない。間隔を空けないと光の透過率が低下するからである。
【0067】
また、パルス光照射後は、透明導電性パターンの上部に保護フィルムを貼付し導電膜を保護することが好ましい。
【0068】
前述のパルス光を照射する代わりに乾燥後の塗膜をプレス(加圧)することも有効である。ここで言うプレスとは基材に圧力をかけることを指し、形態としてはどのようなものでも良いが、特に二枚の平板に基材を挟んで押し付ける方法や、円柱状のロールを用いて基材に圧力をかける方式が好ましく、特に後者のロールを用いる方式が圧力を均質にかけることから好ましい。
【0069】
加圧ロールにより圧力をかける場合には、線圧が0.1kgf/cm(98Pa・m)以上1000kgf/cm(980kPa・m)以下が好ましく、1kgf/cm(980Pa・m)以上100kgf/cm(98kPa・m)以下がより好ましい。基材の送り速度(ライン速度)も実用的な範囲において適宜選択することができるが、一般には10mm/分以上10000mm/分以下が好ましく、10mm/分以上100m/分以下がより好ましい。早すぎると十分な加圧時間が取れないし、精度よく均一に圧力をかけることも難しくなるからである。また、加圧ロールの本数を増やすし、何回も圧着回数を増やし、加圧時間を増やすことにより、Agナノワイヤの接続を確保することも有用な方法である。また、より強固に密着させるために、プレス時に加熱を行っても良い。
【0070】
通常のプレス装置により平板2枚に挟んで加圧する場合には加圧ロールほど均一に加圧できないために、圧力としては0.1MPa〜200MPaより好ましくは1MPa〜100MPaが望ましい。
【0071】
また、より強固に密着させるために、加圧時に加熱を行っても良い。加圧することにより体積抵抗率が低下するだけでなく、折り曲げ強度等の機械特性も向上することも出来る。なお圧力については本来高圧であればあるほど体積抵抗率の低下や機械強度の向上には効果があるが、あまりに圧力が高すぎる場合には、加圧装置のコストが非常に高くなってしまうのに反して得られる効果は高くないために、前記上限値が望ましい値である。
【0072】
前記光照射とプレスは、いずれか一方のみを実施してもよいし、両者を併用することもできる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0074】
実施例1
<銀ナノワイヤの作製>
ポリビニルピロリドンK−90((株)日本触媒社製)(0.049g)、AgNO
3(0.052g)およびFeCl
3(0.04mg)を、エチレングリコール(12.5mlに溶解し、150℃で1時間加熱反応した。得られた析出物を遠心分離により単離し、析出物を乾燥して目的の銀ナノワイヤを得た。
図2(a)、(b)に、得られた銀ナノワイヤのSEM像を示す。使用したSEMは、日立ハイテク株式会社製 FE−SEM S−5200である。
【0075】
図2(a)、(b)からわかるように、銀ナノワイヤは棒状であり、その棒状のワイヤの直径は約70nm、長さは10〜20μmであり、棒状に成長しているものが全体の約95%以上を占めた。なお、残りは粒状であった。
【0076】
上記エチレングリコール、AgNO
3、FeCl
3は和光純薬工業株式会社製である。
【0077】
また、銀ナノワイヤの長さおよび直径は、SEMとTEMで測定した。なお、使用したTEMは日本電子株式会社製TEM;JEOL,JEM−2100透過電子顕微鏡である。
【0078】
<透明導電性インクの作製>
上記150℃で1時間加熱反応した銀ナノワイヤの反応液に、6倍容量のジブチルエーテルを添加して攪拌後、静置してナノワイヤを沈降させた。ナノワイヤの沈降後、デカンテーションにより上澄み液を分離することにより、溶媒置換を行い、銀ナノワイヤを約20質量%含んだジブチルエーテルに分散した銀ナノワイヤの懸濁液を得た。
【0079】
この銀ナノワイヤの懸濁液に対して、ほぼ等容積のL−α−テルピネオール(日本テルペン化学(株)製)を加え、良く分散させた後、形状保持材としてテルソルブ MTPH(日本テルペン化学(株)製、イソボルニルシクロヘキサノール)を加え、(株)シンキー社製のARV−310を用いてよく分散させて表1に記載の組成の透明導電性インクを得た。
【0080】
なお、インクの組成は、インクを熱重量分析により分析し、500℃加熱後の残渣を銀ナノワイヤの質量とした。熱重量の分析装置はブルカー・エイックス株式会社製差動型超高温熱天秤TG-DTA galaxy(S)である。
【0081】
溶媒は使用した形状保持材、粘度調製溶媒の比率から計算したが、銀ナノワイヤから持ち込まれるジブチルエーテルは、銀ナノワイヤの4倍量として計算した。
【0082】
実施例2,3
実施例1においてジブチルエーテル、テルソルブ MTPH、粘度調整溶媒の種類、添加量を表1に示した量に変更した以外は実施例1同様に表1に記載の濃度となるよう調製し透明導電性インクを得た。
【0083】
実施例4〜7、9〜13
銀ナノワイヤとして前記合成品を使用する代わりに市販品SLV−NW-35(bluenano社製 イソプロパノール分散液、濃度10mg/ml、銀ナノワイヤの径35nm、長さ約15μm(カタログ値))を用い、その銀ナノワイヤ分散液に対して、テルピネオール(日本テルペン化学(株)製)を少量加え、良く分散させた後、イソプロパノールを留去し溶媒置換を行った。その後テルソルブ MTPH(日本テルペン化学(株)製、イソボルニルシクロヘキサノール)およびテルピネオールを最終的に分散媒の濃度が表1〜3に記載の配合比(質量比)となるように加え、(株)シンキー社製のARV−310を用いてよく分散させた分散液を得た。なお、最終的に得られる分散液の濃度が表1〜3記載の濃度になるよう、最初に加える少量のテルピネオールの量はそれぞれ予め計算して決定しておいた。
【0084】
なお、表1〜3において、NWはナノワイヤを意味する。
【0085】
比較例1
表1に示した配合でポリビニルピロリドン(K−90((株)日本触媒社製)とジエチレングリコールの混合物を分散媒として、実施例1において用いた合成銀ナノワイヤに対して添加したインクを調製した。
【0086】
比較例2
表1に示したようにテルソルブ MTPHを使用せず、ジブチルエーテルとL−α−テルピネオールのみを分散媒として、実施例1において用いた合成銀ナノワイヤに対して添加したインクを調製した。
【0087】
実施例8
ナノワイヤとして銅ナノワイヤ(NANOFORGE社製 イソプロパノール分散液、濃度約1g/900ml)を用い、インクを作製した。本分散液には銅ナノワイヤの凝集を防ぐ目的でワイヤ表面にポリビニルピロリドンがワイヤを付着させているので、インク作製の前に、後述する精製操作を行った。
【0088】
まず銅0.1gを含む分散液90mlに対し遠心分離を行い、上澄み液を捨てた後、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン(東京化成製85質量%水溶液を希釈して3質量%水溶液を調製)を用い、振動機(IKA社製VOLTEX3)を用いて再分散させた。前記操作を3回繰り返した後、再び遠心分離を行い、上澄みを捨てイソプロパノールを加え前記の振動機を用いて再分散させるという操作を2回行いイソプロパノール分散液を得た。
【0089】
得られた銅ナノワイヤ分散液(銅量0.1g)に対して、テルピネオール(日本テルペン化学(株)製)を少量加え、良く分散させた後、イソプロパノールを留去し溶媒置換を行った。その後テルソルブ MTPH(日本テルペン化学(株)製、イソボルニルシクロヘキサノール)およびテルピネオールを最終的に分散媒の濃度がテルピネオール/テルソルブ MTPH=1/8(質量比)となるように加え、(株)シンキー社製のARV−310を用いてよく分散させた分散液を得た。なお、最終的に得られる分散液の濃度が表1記載の1質量%になるよう、最初に加える少量のテルピネオールの量はそれぞれ予め計算して決定しておいた。
【0090】
<透明導電性インクの印刷>
実施例1〜3、比較例1、2
実施例1〜3の各透明導電性インクを用いて3cm角のベタ膜と
図3に示すパターンをスクリーン印刷機MT−320TVZ(マイクロテック(株)製)により印刷(クリアランス:1.0〜1.5mm、スキージアタック角度:70°、スキージスピード:6mm/sec、スキージ圧:0.2MPa、スクレッパ圧:0.15MPa、背圧:0.1MPa)した。また、基材には東洋紡(株)社製二軸延伸ポリエステルフィルム:コスモシャイン(登録商標)A4300(厚み125μm)を用いた。
【0091】
実施例4〜13
実施例4〜13の各透明導電性インクを用いて2.5cm角のベタ膜をスクリーン印刷機MT−320TVZ(マイクロテック(株)製)により印刷(クリアランス:1.0mm、スキージアタック角度:70°、スキージスピード:6mm/sec、スキージ圧:0.2MPa、スクレッパ圧:0.15MPa、背圧:0.1MPa)した。また、基材にはPETフィルム(東レ株式会社製125U98易接着グレード 厚み125μm)を用いた。
【0092】
印刷後、ベタ膜はパターン維持の必要がないので、熱風循環乾燥機にて120℃−1時間かけて乾燥を行った。
【0093】
<粘度測定>
ブルックフィールド社製型DV−II+Proを用いて形状保持材および透明導電性インクの粘度を25℃にて測定した。なお、粘度が1.0×10
4mPa・sを超える場合はロータ番号52を、1.0×10
4mPa・s以下の場合はロータ番号40を、各々用いて測定した。
【0094】
<表面抵抗値の測定>
実施例1〜8、比較例1
表1に記載している600V、50μsec(露光量1.14J/cm
2)のパルス光を照射した後の銀ナノワイヤの堆積層について、三菱化学株式会社製LORESTA−GP MCP−T610 4探針法表面抵抗率、体積抵抗率測定装置を使用して表面抵抗値を測定した。
【0095】
実施例9、10
表2に記載のパルス光を照射した後の銀ナノワイヤの堆積層について、三菱化学株式会社製LORESTA−GP MCP−T610 4探針法表面抵抗率、体積抵抗率測定装置を使用して表面抵抗値を測定した。
【0096】
実施例11〜13
実施例4においてパルス光照射の代わりに10t油圧式ロールプレス(サンクメタル(株)製)を用い、表3に示す条件でロールプレスを行った。その際、塗膜保護の目的でPETフィルム(東レ株式会社製ルミラー125T60表面未処理グレード 厚み125μm)を銀ナノワイヤの堆積層上に積層したため、ギャップは一律基材厚みを足し合わせた250μmとした。プレス後の銀ナノワイヤの堆積層について、三菱化学株式会社製LORESTA−GP MCP−T610 4探針法表面抵抗率、体積抵抗率測定装置を使用して表面抵抗値を測定した。
【0097】
<透過率の測定>
実施例1〜3、比較例1
日本電色工業(株)製濁度計NDH2000を用いて、全光線透過率を測定した。カッコ内の値は日本分光株式会社製の紫外可視近赤外分光光度計 Jasco V−570を用いて測定した可視光域(400〜800nm)の光線透過率の参考値である。
【0098】
実施例4〜13
日本電色工業(株)製濁度計NDH2000を用いて、全光線透過率を測定した。
【0099】
【表1】
【0100】
実施例4〜7で銀ナノワイヤ濃度の減少に伴い表面抵抗値が徐々に大きくなる傾向が認められた。その時、透過率はワイヤ濃度が希薄になるに従い、高くなった。
【0101】
比較例1
印刷性や加熱時のパターン維持性は問題がなかったが、光照射を行っても、200℃で加熱しても導電性は発現しなかった。
【0102】
比較例2
実施例同様にパターンを印刷し評価を行おうとしたが、粘度が低すぎて印刷が出来なかった。
【0103】
実施例8
600V、100μsec(露光量2.89J/cm
2)を照射することにより導電性が発現した。なお、実施例1〜7と同条件のパルス光照射では導電性が発現しなかった。銀に比べて銅の方が融点が高い、あるいは表面が酸化しやすい等の理由で焼結し難いと推定される。
【0104】
【表2】
【0105】
実施例7,9,10は光照射条件(露光量)の影響を検討した結果である。パルス光の照射エネルギーを強めることで、50Ω/□まで下がるとともに、高い透過率を保つことができることを確認した。
【0106】
【表3】
【0107】
実施例1〜10では透明導電性インクをパターン印刷後光照射を行ったが、実施例11〜13では光照射の代わりに印刷パターンをプレスした。本発明の導電性インクはプレスによっても導電性を発現することができることを確認した。また、プレス圧力の増加に伴い、導電性が向上することも確認した。
【0108】
<透明導電性パターン>
図3に示すパターンを持ったスクリーン版を用い、実施例1の組成を有するインクをスクリーン印刷機MT−320TVZ(マイクロテック(株)製)により印刷した。なお、基材にはコスモシャイン(登録商標)A4300(厚み125μm)を用いた。また、
図3において、菱形パターンPの対角線長さは2.6mmとし、各菱形パターンPの角同士の間隔dは、図の横方向及び縦方向(上下左右方向)とも0.4mmとした。また、菱形パターンPを図の横方向(左右方向)を接続する接続部Cの線幅は0.3mmとした。
【0109】
印刷後、熱風乾燥機にて50℃で30分間乾燥後、80℃で30分間かけて溶媒を乾燥させたが、この時点では、印刷後のパターンはタックフリーになるものの抵抗値が測定できるほど抵抗は下がらなかった。
【0110】
次に、乾燥後のパターンにパルス光を照射した。パルス光照射はNovaCentrix社製PulseForge3300を用いて600V−50μsecで5回照射した。なお、本実施例では生産性を考慮せず照射間隔(off時間)はおよそ30秒程度とした。
【0111】
パルス光の照射後に、
図3のIaとIb間(接続部Cで電気的に接続されている)の抵抗値を三和電気計器製デジタルマルチメータ PC500aで測定した結果、抵抗値は5kΩから6kΩの範囲であった。また、
図3のIaとIIb間(接続部Cで電気的に接続されていない)の抵抗値を測定した結果、抵抗値は測定不能(測定限界以上の高抵抗)であって、短絡していないことがわかった。