特許第5707144号(P5707144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5707144基板処理装置のドライクリーニング方法及び金属膜の除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5707144
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】基板処理装置のドライクリーニング方法及び金属膜の除去方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/44 20060101AFI20150402BHJP
【FI】
   C23C16/44 J
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-7473(P2011-7473)
(22)【出願日】2011年1月18日
(65)【公開番号】特開2012-149288(P2012-149288A)
(43)【公開日】2012年8月9日
【審査請求日】2014年1月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】軍司 勲男
(72)【発明者】
【氏名】井澤 友策
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】梅崎 智典
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄太
(72)【発明者】
【氏名】毛利 勇
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−140652(JP,A)
【文献】 特開2000−038676(JP,A)
【文献】 特開2000−064049(JP,A)
【文献】 特開2000−096241(JP,A)
【文献】 特開平09−181054(JP,A)
【文献】 特開2005−244256(JP,A)
【文献】 特開2005−330546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
C23C 14/00−14/58
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板処理装置の処理チャンバー内に付着したニッケル膜を、
前記ニッケル膜を酸化してニッケル酸化物を形成する工程と、
前記ニッケル酸化物とβ−ジケトンとを反応させて錯体を形成する工程と、
前記錯体を昇華する工程と
によって除去する基板処理装置のドライクリーニング方法であって、
前記処理チャンバー内を加熱しつつ、酸素とβ−ジケトンとを含むクリーニングガスを前記処理チャンバー内に供給し、且つ、
前記クリーニングガスにおけるβ−ジケトンに対する酸素の流量比を、前記ニッケル酸化物の生成速度が、前記錯体の生成速度を超えない範囲、かつ、酸化されていない前記ニッケル膜が表面に露出して存在するように制御し、
前記β−ジケトンが、ヘキサフルオロアセチルアセトンであり、
前記クリーニングガスにおけるヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量比(酸素流量/βジケトン流量)が1〜5%の範囲であり、
前記処理チャンバー内の加熱温度が250℃〜325℃である
ことを特徴とする基板処理装置のドライクリーニング方法。
【請求項2】
請求項記載の基板処理装置のドライクリーニング方法であって、
前記クリーニングガス中の前記酸素の分圧(P(O))と前記ヘキサフルオロアセチルアセトンの分圧(P(Hhfac))との比(P(O)/P(Hhfac))と、温度(T)との関係が、
P(O)/P(Hhfac)≦1.5×4.329×10−17×T5.997
を満たす範囲とする
ことを特徴とする基板処理装置のドライクリーニング方法。
【請求項3】
基板処理装置の処理チャンバー内で金属膜を除去する金属膜の除去方法であって、
前記処理チャンバー内を加熱しつつ、酸素とβ−ジケトンとを含むガスを前記処理チャンバー内に供給し、
前記酸素により前記金属膜を酸化して金属酸化物を形成する工程と、
前記金属酸化物とβ−ジケトンとを反応させて錯体を形成する工程と、
前記錯体を昇華する工程と、
前記昇華した錯体を排気する工程と、
を具備し、
前記ガスにおけるβ−ジケトンに対する酸素の流量比を、前記金属酸化物の生成速度が、前記錯体の生成速度を超えない範囲、かつ、酸化されていない前記金属膜が表面に露出して存在するように制御し、
前記金属膜がニッケル膜であり、
前記β−ジケトンが、ヘキサフルオロアセチルアセトンであり、
前記ガスにおけるヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量比(酸素流量/βジケトン流量)が1〜5%の範囲であり、
前記処理チャンバー内の加熱温度が250℃〜325℃である
ことを特徴とする金属膜の除去方法。
【請求項4】
請求項記載の金属膜の除去方法であって、
前記ガス中の前記酸素の分圧(P(O))と前記ヘキサフルオロアセチルアセトンの分圧(P(Hhfac))との比(P(O)/P(Hhfac))と、温度(T)との関係が、
P(O)/P(Hhfac)≦1.5×4.329×10−17×T5.997
を満たす範囲とすることを特徴とする金属膜の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板処理装置のドライクリーニング方法及び金属膜の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程において、成膜装置等の基板処理装置の処理チャンバ内に付着した金属膜等を、ドライプロセスによってドライクリーニングする方法が知られている。このような金属のうち、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Cu(銅)、Ru(ルテニウム)などのハロゲン化化合物は、W(タングステン)、Ti(チタン)、Ta(タンタル)等と異なり、蒸気圧がかなり低いために、従来用いられてきたClF等のエッチングガスでは、ドライエッチングするのに高温が必要とされる。低温プロセスでこれらの金属を除去する方法としては、一度対象金属をO(酸素)で酸化してからヘキサフルオロアセチルアセトン(Hhfac)等のβ−ジケトンと反応させ、金属錯体を形成し昇華して排気する方法が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4049423号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Electrochem. Soc., Vol.142,No.3, P961 (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等は、一度対象金属をOで酸化してからヘキサフルオロアセチルアセトン等のβ−ジケトンと反応させ、金属錯体を形成し昇華して排気するドライクリーニング方法について従来から研究を重ねており、この方法では、以下のような問題があることが判明した。
【0006】
すなわち、上記の方法では、金属を酸化し過ぎると、ヘキサフルオロアセチルアセトンとの反応性が急激に低下し、エッチング反応が止まってしまうことがある。このため、ドライクリーニングの効率が低下したり、ドライクリーニングが行えない場合がある。また、このような現象は、特に、金属がNi(ニッケル)の場合に顕著になる。
【0007】
本発明は、上記の事情に対処してなされたもので、従来に比べて効率良く金属膜を除去することのできる基板処理装置のドライクリーニング方法及び金属膜の除去方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る基板処理装置のドライクリーニング方法の態様は、基板処理装置の処理チャンバー内に付着したニッケル膜を、前記ニッケル膜を酸化してニッケル酸化物を形成する工程と、前記ニッケル酸化物とβ−ジケトンとを反応させて錯体を形成する工程と、前記錯体を昇華する工程とによって除去する基板処理装置のドライクリーニング方法であって、前記処理チャンバー内を加熱しつつ、酸素とβ−ジケトンとを含むクリーニングガスを前記処理チャンバー内に供給し、且つ、前記クリーニングガスにおけるβ−ジケトンに対する酸素の流量比を、前記ニッケル酸化物の生成速度が、前記錯体の生成速度を超えない範囲、かつ、酸化されていない前記ニッケル膜が表面に露出して存在するように制御し、前記β−ジケトンが、ヘキサフルオロアセチルアセトンであり、前記クリーニングガスにおけるヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量比(酸素流量/βジケトン流量)が1〜5%の範囲であり、前記処理チャンバー内の加熱温度が250℃〜325℃であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来に比べて効率良く金属膜を除去することのできる基板処理装置のドライクリーニング方法及び金属膜の除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るCVD装置の全体構成を示す図。
図2図1のCVD装置の処理チャンバーの概略構成を示す図。
図3】Niのエッチング厚さと酸素流量との関係を示すグラフ。
図4】各温度におけるNiのエッチング厚さと酸素流量との関係を示すグラフ。
図5】夫々の加熱温度における最高のエッチングレートにおけるアレニウスプロットのグラフ。
図6】Niのエッチング厚さと分圧比の関係を示すグラフ。
図7】Niのエッチング厚さと分圧比の関係を示すグラフ。
図8】各全圧における最適分圧比と温度との関係を示すグラフ。
図9】最適分圧比と温度との関係を示すグラフ。
図10】Niのエッチングレートと分圧比の関係を示すグラフ。
図11】ガスの供給例を示す図。
図12】酸素ガスの供給量の例を分圧比と温度との関係で示すグラフ。
図13】還元工程を含むガスの供給例を示す図。
図14】還元工程を含むガスの供給例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の詳細を図面を参照して実施形態について説明する。
【0013】
図1,2は、本発明の一実施形態の基板処理装置のドライクリーニング方法を実施する基板処理装置としてのCVD装置の構成例を示すものであり、図1はCVD装置100の全体概略構成を示すものであり、図2は処理チャンバー10の概略構成を示すものである。図1,2に示すように、CVD装置100は、略円筒状に形成され内部を気密に閉塞可能とされた処理チャンバー10を具備している。
【0014】
図1に示すように、処理チャンバー10には、クリーニングガスを供給するためのガス供給機構200と、排気機構300が接続されている。ガス供給機構200は、酸素ガス供給系210と、Hhfac(ヘキサフルオロアセチルアセトン)供給系220とを具備している。
【0015】
酸素ガス供給系210は、窒素ガス供給源に接続された第1窒素供給配管211と酸素ガス供給源に接続された酸素供給配管212とを具備している。第1窒素供給配管211には、マスフローコントローラ(MFC1)213が介挿されており、酸素供給配管212には、マスフローコントローラ(MFC2)214が介挿されている。マスフローコントローラ(MFC1)213の上流側及び下流側にはバルブV1,V2が介挿され、マスフローコントローラ(MFC2)214の上流側及び下流側にはバルブV3,V4が介挿されている。第1窒素供給配管211と酸素供給配管212は、合流して主配管201に接続されている。第1窒素供給配管211と酸素供給配管212の合流点の下流側には、バルブV11が介挿されている。
【0016】
Hhfac供給系220は、窒素ガス供給源に接続された第2窒素供給配管221とHhfac容器223に接続されたHhfac供給配管222とを具備している。第2窒素供給配管221には、マスフローコントローラ(MFC3)225が介挿されており、Hhfac供給配管222には、マスフローコントローラ(MFC4)226が介挿されている。マスフローコントローラ(MFC3)225の上流側及び下流側にはバルブV5,V6が介挿され、マスフローコントローラ(MFC4)226の上流側及び下流側にはバルブV7,V8が介挿されている。第2窒素供給配管221とHhfac供給配管222は、合流して主配管201に接続されている。第2窒素供給配管221とHhfac供給配管222の合流点の下流側には、バルブV12が介挿されている。また、Hhfac容器223には、キャリアガスを供給してバブリングするためのキャリアガス供給配管224が接続されている。キャリアガス供給配管224には、バルブV9が介挿され、Hhfac容器223の出口側のHhfac供給配管222には、バルブV10が介挿されている。
【0017】
上記の酸素ガス供給系210と、Hhfac供給系220が接続された主配管201は、処理チャンバー10に接続されている。また、主配管201には、主配管201から分岐し処理チャンバー10をバイパスして排気系300に接続するバイパス配管202が配設されている。主配管201のバイパス配管202の分岐点より下流側にはバルブV13が介挿されており、バイパス配管202には、バルブV14が介挿されている。
【0018】
排気機構300はドライポンプ301を具備しており、排気管302によってドライポンプ301は処理チャンバー10に接続されている。排気管302には、自動圧力制御装置(APC)303が介挿されており、自動圧力制御装置(APC)303の上流側及び下流側には、夫々バルブV15,V16が介挿されている。
【0019】
図2に示すように、処理チャンバー10内には、被処理基板としての半導体ウエハを載置するためのステージ11が配設されている。このステージ11には、半導体ウエハを所定温度に加熱するための図示しないヒータが設けられている。また、ステージ11には、図示しない駆動機構によって上下に移動され、ステージ11上に出没自在とされた複数のリフトピン12が設けられている。これらのリフトピン12は、半導体ウエハをステージ11上に搬入及び搬出する際に、一時的に半導体ウエハをステージ11の上方に支持するためのものである。
【0020】
処理チャンバー10の天井部には、ステージ11と間隔を設けて対向するように、シャワーヘッド13が配設されている。シャワーヘッド13には、多数のガス噴出孔14が設けられており、これらのガス噴出孔14からステージ11上の半導体ウエハに向けて所定の処理ガスを供給するようになっている。クリーニングガスについても、このシャワーヘッド13のガス噴出孔14から処理チャンバー10内に供給される。なお、処理チャンバー10には、図1に示した排気機構300が接続されている。
【0021】
上記構成のCVD装置100では、ステージ11上に半導体ウエハを載置して所定温度に加熱するとともに、シャワーヘッド13のガス噴出孔14から所定の処理ガスを半導体ウエハに供給して、半導体ウエハ上にCVDにより所定の膜、例えば、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Cu(銅)、Ru(ルテニウム)などの金属膜を形成する。このように半導体ウエハに成膜を行うと、処理チャンバー10内の各部にも金属膜等が堆積する。この堆積膜を放置すると、反射率が変わることによって、成膜状態が変化したり、堆積膜が剥がれて半導体ウエハに付着するなどの問題が生じる。
【0022】
このため、CVD装置100では、処理チャンバー10内の堆積膜を除去するクリーニングを定期的に実施する。クリーニングには、処理チャンバー10を大気開放して液体によってクリーニングするウェットクリーニングと、処理チャンバー10を大気開放せずにクリーニングガスによってクリーニングするドライクリーニングの2種類の方法がある。このうち、ドライクリーニングでは、処理チャンバー10を大気開放せずに実施することができるため、装置を使用することのできないダウンタイムをウェットクリーニングの場合に比べて大幅に低減することができる。
【0023】
このような処理チャンバー10内の堆積膜を除去するクリーニングにおいて、本実施形態では、クリーニングガスとして、酸素とβ−ジケトンとを含むガスを使用する。β−ジケトンとしては、例えばヘキサフルオロアセチルアセトン(Hhfac)のようなカルボニル基に結合したアルキル基がハロゲン原子を有しているβ−ジケトンを使用することが好ましい。このようなβ−ジケトンが好ましいとしたのは、ハロゲン原子は誘起効果が大きいので、この影響からカルボニル基の酸素原子の電子密度が小さくなり、この酸素原子に結びついている水素原子が水素イオンとして解離し易くなるからである。この解離が起こり易いほど反応性は高くなる。
【0024】
以下では、クリーニングガスとして、酸素とヘキサフルオロアセチルアセトンとを含むガスを使用した場合について説明する。処理チャンバー10内のクリーニングでは、ステージ11内に設けられたヒータに通電して、所定温度(200℃〜400℃)に加熱するとともに、排気を行い処理チャンバー10内を所定の減圧雰囲気(例えば13300Pa(100Torr))とし、クリーニングガスを所定流量で流す。
【0025】
これにより、酸素によって金属膜を酸化して金属酸化物を形成する工程と、金属酸化物とヘキサフルオロアセチルアセトンとを反応させて錯体を形成する工程と、当該錯体を昇華する工程とが進行して金属膜が除去される。この時、クリーニングガスにおけるヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量比を、金属酸化物の生成速度が、錯体の生成速度を超えない範囲とする。これは以下のような理由による。
【0026】
図3のグラフは、縦軸をNiのエッチング厚さ(nm)、横軸を酸素流量(sccm)として、上記クリーニングガスでニッケル(Ni)を10分間エッチングした時のエッチング厚さを、酸素の流量を変化させて調べた結果を示している。エッチング条件は、温度325℃、圧力13300Pa(100Torr)、クリーニングガスは、ヘキサフルオロアセチルアセトンの流量を50sccmで一定とし、窒素と酸素の合計流量を50sccmとして、酸素流量を0から10sccmの間で変化させた。
【0027】
酸素流量が0の場合、ニッケル材料のエッチングは生じなかった。また、酸素を0.5sccm添加するとニッケル材料のエッチングが起き、ニッケル材料のエッチング量は、酸素流量が2.5sccmとなるまで、略直線的に増加した。しかし、酸素流量が2.5sccmを超えると急速にニッケル材料のエッチング量が減少し、酸素流量が5.0sccm以上となるとニッケル材料のエッチング量が略0となった。
【0028】
上記の結果は、ニッケル材料のエッチングを行う場合、酸素の存在が必要であるが、酸素が過剰となった場合もニッケル材料のエッチングが進行しないことを示している。これは、酸素が過剰となると酸素によるニッケル表面の酸化が進行し過ぎて、酸化ニッケルによってニッケル材料の表面が覆いつくされてしまい、この状態となると酸化ニッケルとヘキサフルオロアセチルアセトンとの反応が進行せず、錯体が形成されなくなってしまうからと推測される。すなわち、酸化ニッケルとヘキサフルオロアセチルアセトンとの反応が進行するためには、酸化されていないニッケルの存在が必要であり、この酸化されていないニッケルが酸化ニッケルとヘキサフルオロアセチルアセトンとの反応において触媒的作用をしているものと考えられる。
【0029】
そして、クリーニングガスにおけるヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量比を、酸素によるニッケルの酸化により生成される酸化ニッケル(金属酸化物)の生成速度が、酸化ニッケルとヘキサフルオロアセチルアセトンとの反応によって生成される錯体の生成速度を超えない範囲、すなわち、図3に示す「酸化とエッチングのバランスポイント」より酸素流量が少ない範囲とすれば、エッチングが進行する。
【0030】
図3に示す「酸化とエッチングのバランスポイント」は、酸素流量が2.5sccmの場合であり、この時のヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量比は、2.5/50=5%である。この「酸化とエッチングのバランスポイント」では、エッチング量が最高となるため、実際にドライクリーニングを行う場合、この「酸化とエッチングのバランスポイント」の近傍のヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量比を選択することによって、効率良くドライクリーニングを行うことができる。図3に示す例は、加熱温度が325℃の場合であり、上記した「酸化とエッチングのバランスポイント」は、加熱温度によって変動する。
【0031】
図4のグラフは、縦軸をNiのエッチング厚さ(nm)、横軸を酸素流量(sccm)として、加熱温度を、325℃、300℃、275℃、250℃と変更した場合のエッチング厚さ(nm)と、酸素の流量との関係を調べた結果を示している。この図4のグラフに示すように、「酸化とエッチングのバランスポイント」となる酸素流量は、加熱温度の低下に伴って低流量側にシフトする。
【0032】
すなわち、加熱温度が300℃の場合、「酸化とエッチングのバランスポイント」となる酸素流量は、1.5sccmであり、この場合のヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量比は、1.5/50=3%である。加熱温度が275℃の場合、「酸化とエッチングのバランスポイント」となる酸素流量は、1.0sccmであり、この場合のヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量比は、1.0/50=2%である。加熱温度が250℃の場合、「酸化とエッチングのバランスポイント」となる酸素流量は、0.5sccmであり、この場合のヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量比は、0.5/50=1%である。
【0033】
上記の加熱温度と、「酸化とエッチングのバランスポイント」となる酸素流量と、最高のエッチングレートを数値で示すと以下のようになる。
温度325℃の場合、最高のエッチングレート464nm/min、最適酸素流量2.5sccm。
温度300℃の場合、最高のエッチングレート282nm/min、最適酸素流量1.5sccm。
温度275℃の場合、最高のエッチングレート142nm/min、最適酸素流量1.0sccm。
温度250℃の場合、最高のエッチングレート50nm/min、最適酸素流量0.5sccm。
【0034】
上記の結果から、クリーニングを効率的に行うためには、加熱温度は200℃以上とすることが好ましい。また、加熱温度が400℃を超えるとヘキサフルオロアセチルアセトンが分解を起こすため、加熱温度は400℃以下とすることが好ましい。したがって、加熱温度は200℃〜400℃程度とすることが好ましい。また、上記のとおり、加熱温度が250℃〜325℃の範囲では、ヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量比は、1%〜5%とすることが好ましい。なお、縦軸をNiエッチング速度(nm/min)、横軸を1000/T(1/K)とした図5のグラフに、250℃〜325℃の加熱温度の最高のエッチングレートにおけるアレニウスプロットを示す。
【0035】
上述したヘキサフルオロアセチルアセトンに対する酸素の流量は、酸素の分圧P(O)とヘキサフルオロアセチルアセトンの分圧P(Hhfac)との比P(O)/P(Hhfac)として表すことができる。図6図7のグラフは、縦軸をNiのエッチング厚さ(nm)、横軸を分圧比P(O)/P(Hhfac)として、全圧に対する依存性を調べた結果を示したものであり、図6は加熱温度が325℃の場合、図7は加熱温度が275℃の場合を示している。
【0036】
これらのグラフにおいて、円形のプロットは、全圧が2660Pa(20Torr)、三角のプロットは、全圧が13300Pa(100Torr)、×のプロットは、全圧が23940Pa(180Torr)の場合を示している。図6図7のグラフに示すように、全圧が変わっても、エッチング量が最大となる分圧比P(O)/P(Hhfac)は、同じ範囲に存在する。また、加熱温度が変わっても同じ傾向を示す。
【0037】
図8は、縦軸を分圧比P(O)/P(Hhfac)、横軸を温度として各温度における全圧2660(20Torr)、13300Pa(100Torr)、23940Pa(180Torr)の場合のエッチング量が最大となる最適分圧比P(O)/P(Hhfac)をプロットしたものである。全圧が2660Pa〜23940Paの範囲で、夫々の加熱温度における最大エッチング量を示す最適分圧比P(O)/P(Hhfac)は、略同じとなる。
【0038】
上記の各温度におけるエッチング量が最大となる最適分圧比P(O)/P(Hhfac)のプロットを含む範囲と、これより分圧比P(O)/P(Hhfac)が高くなる範囲、すなわち酸素が過剰となる範囲とを仕切る線を描くと図9に示す線となる。この線は、
y(P(O)/P(Hhfac))=1.5×4.329×10−17×T5.997
であり、したがって、分圧比P(O)/P(Hhfac)が、
P(O)/P(Hhfac)≦1.5×4.329×10−17×T5.997
となる範囲でクリーニングを行うことが好ましい。これによって、途中でエッチングが停止することなく、効率良くクリーニングを行うことが可能となる。
【0039】
図10は、縦軸をNiのエッチングレート(nm/min)、横軸を分圧比P(O)/P(Hhfac)として、各温度(325℃、300℃、275℃、250℃)における最大エッチングレートと分圧比P(O)/P(Hhfac)との関係をプロットしたものである。この図10に示されるように、最大エッチングレートは、分圧比P(O)/P(Hhfac)に対して略直線上に位置する。この場合の直線は、Y=9280Xであった。
【0040】
上記のように、加熱温度によってエッチング量が最大となる最適分圧比P(O)/P(Hhfac)は変動し、加熱温度が低い場合、最適分圧比P(O)/P(Hhfac)は低くなる。つまり、加熱温度が低い場合、酸素の流量を低く設定する必要がある。一方、図2に示したCVD装置100では、ステージ11にはヒータが内蔵されているためステージ11の温度は高くなるが、他の処理チャンバー10の各部では、ステージ11よりも温度が低い部位が存在する。
【0041】
したがって、ステージ11の加熱温度に合わせて最適分圧比P(O)/P(Hhfac)を決定すると、処理チャンバー10内の温度が低い部位では、酸素が過剰となって、エッチングによるクリーニングが進行しない虞がある。
【0042】
そこで、縦軸を流量、横軸を時間とした図11に示すように、酸素流量を最初は低い流量に設定し、S1からS4と徐々に酸素流量を増加させるようにしてドライクリーニングする方法を採用することが好ましい。この方法によれば、処理チャンバー10内の、相対的に温度が低い部位においてもドライクリーニングを進行させることができ、相対的に温度が高い部位についても、効率的に短時間でドライクリーニングを行うことができる。この場合、初めに窒素ガスの供給を開始し、その後、ヘキサフルオロアセチルアセトンと酸素の供給を同時に開始する。ヘキサフルオロアセチルアセトンは一定流量とし、酸素流量のみをS1からS4と徐々に増加させる。
【0043】
縦軸を分圧比P(O)/P(Hhfac)、横軸を温度(℃)とした図12のグラフは、上記のS1からS4の酸素流量の一例を、分圧比P(O)/P(Hhfac)で示したものである。この図12に示すように、図9に示した曲線
y=1.5×4.329×10−17×T5.997
以下の分圧比(P(O)/P(Hhfac))となるように、酸素流量を徐々に増加させることによって、温度の低い部位においてもクリーニングを行うことができ、かつ、温度の高い部位においては効率的にクリーニングを行うことができる。
【0044】
また、酸化が進み、酸化物が過剰となってしまった場合は、一旦酸素の供給を停止し、例えば、水素ガス、アンモニアガス等の還元性のガスを供給しつつ加熱するか、水素のリモートプラズマを作用させる等の還元工程を実施してもよい。また、クリーニング処理開始前の前処理(プリコンディショニング)として、まず還元工程を実施してから、前述したクリーニングガスによるクリーニングを開始するようにしてもよい。
【0045】
図13に、前処理(プリコンディショニング)として、還元工程を行う場合のガスの供給工程の例を示す。この場合、まず、窒素と水素の供給を開始し、一定時間後、水素の供給を停止して、ヘキサフルオロアセチルアセトンと酸素の供給を開始する。
【0046】
図14は、クリーニングの途中に還元工程を入れてリフレッシュするものであり、この場合、まず、窒素の供給を開始し、一定時間後、ヘキサフルオロアセチルアセトンと酸素の供給を開始する。そして、一定サイクルで酸素の供給を停止し、酸素の供給を停止している間に水素の供給を行う。
【0047】
また、加熱方法としては、CVD装置100に配設されたヒータを用いて処理チャンバー10内を加熱する方法の他、加熱したガス、例えば加熱した窒素ガスを、ヘキサフルオロアセチルアセトン及び酸素と同時に供給し、処理チャンバー10内を加熱する方法を用いることができる。
【0048】
以上、本発明を実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、各種の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
10……処理チャンバー、11……ステージ、12……リフターピン、13……シャワーヘッド、14……ガス噴出孔、100……CVD装置。
図1
図2
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図7
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図9
図10
図11
図12
図13
図14