特許第5707480号(P5707480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5707480
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】自動車用室内部材
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20150409BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20150409BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20150409BHJP
   C01G 41/02 20060101ALI20150409BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   B01J35/02 H
   B01J23/30 M
   B32B9/00 A
   C01G41/02
   C08J7/04 TCER
   C08J7/04CEZ
【請求項の数】14
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-264352(P2013-264352)
(22)【出願日】2013年12月20日
(62)【分割の表示】特願2010-529632(P2010-529632)の分割
【原出願日】2009年9月16日
(65)【公開番号】特開2014-76665(P2014-76665A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2013年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2008-236526(P2008-236526)
(32)【優先日】2008年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2008-260027(P2008-260027)
(32)【優先日】2008年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 佳代
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光
(72)【発明者】
【氏名】白川 康博
(72)【発明者】
【氏名】日下 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】笠松 伸矢
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−188089(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/081589(WO,A1)
【文献】 特開2008−006428(JP,A)
【文献】 特開2008−006429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルムの表面に設けられ、可視光の照射下で光触媒性能を示す酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子を含有する表面層とを備える親水性フィルムを具備する自動車用室内部材であって、
前記微粒子の平均粒子径が1nm以上200nm以下の範囲であり、かつ前記微粒子のアスペクト比が1以上3.5以下の範囲であり、
前記微粒子は結晶構造を有し、かつ前記表面層内に結晶方位が配向していない状態で存在しており、
前記表面層は暗所で親水性を示すことを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項2】
基材フィルムと、前記基材フィルムの表面に設けられた下地層と、前記下地層上に設けられ、可視光の照射下で光触媒性能を示す酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子を含有する表面層とを備える親水性フィルムを具備する自動車用室内部材であって、
前記微粒子の平均粒子径が1nm以上200nm以下の範囲であり、かつ前記微粒子のアスペクト比が1以上3.5以下の範囲であり、
前記微粒子は結晶構造を有し、かつ前記表面層内に結晶方位が配向していない状態で存在しており、
前記表面層は暗所で親水性を示すことを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の自動車用室内部材において、
前記酸化タングステン複合材は遷移金属元素を0.001質量%以上50質量%以下の範囲で含むことを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の自動車用室内部材において、
前記酸化タングステン複合材は酸化チタンを0.01質量%以上50質量%以下の範囲で含むことを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載の自動車用室内部材において、
前記酸化タングステン複合材は銅、銀および亜鉛から選ばれる少なくとも1種の元素を0.001質量%以上1質量%以下の範囲で含むことを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項6】
基材フィルムと、前記基材フィルムの表面に設けられた酸化チタンを含有する層と、前記酸化チタンを含有する層上に設けられ、可視光の照射下で光触媒性能を示す酸化タングステン微粒子を含有する表面層とを備える親水性フィルムを具備する自動車用室内部材であって、
前記微粒子の平均粒子径が1nm以上200nm以下の範囲であり、かつ前記微粒子のアスペクト比が1以上3.5以下の範囲であり、
前記微粒子は結晶構造を有し、かつ前記表面層内に結晶方位が配向していない状態で存在しており、
前記表面層は暗所で親水性を示すことを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の自動車用室内部材において、
前記表面層の厚さが2nm以上50μm以下の範囲であることを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の自動車用室内部材において、
前記表面層は、基準長さを100μmとしたときの算術平均粗さRaが1nm以上1000nm以下の範囲の表面粗さを有することを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項9】
請求項1ないし請求項のいずれか1項記載の自動車用室内部材において、
前記表面層のX線回折を実施したとき、下記の(1)〜(3)の条件のいずれかを満たすことを特徴とする自動車用室内部材。
(1)2θが22〜25°の範囲に回折ピークが3つ存在する場合に、強度が最大の回折ピークAに対する強度が2番目に大きい回折ピークBの強度比(B/A)が0.3以上で、かつ前記回折ピークAに対する強度が3番目に大きい回折ピークCの強度比(C/A)が0.3以上である。
(2)2θが22〜25°の範囲に回折ピークが2つ存在する場合に、強度が最大の回折ピークAに対する強度が2番目に大きい回折ピークBの強度比(B/A)が0.3以上で、かつ前記回折ピークAと前記回折ピークBとの間の谷の最も低い強度Dが前記回折ピークBの強度の1/2より大きい(D>B/2)。
(3)2θが22〜25°の範囲に回折ピークが1つしか存在しない場合に、前記回折ピークの半値幅が1°以上である。
【請求項10】
請求項1ないし請求項のいずれか1項記載の自動車用室内部材において、
前記親水性フィルムは、さらに、前記基材フィルムの前記表面層が形成された面とは反対側の面に設けられた粘着剤層を備えることを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項記載の自動車用室内部材において、
前記親水性フィルムの波長550nmによる光透過率が50%以上であることを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項記載の自動車用室内部材において、
前記表面層は無機バインダおよび有機バインダから選ばれる少なくとも1種のバインダ成分を含有することを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項13】
請求項12記載の自動車用室内部材において、
前記表面層は前記無機バインダとしてシリカ、アルミナおよびジルコニアから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする自動車用室内部材。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項記載の自動車用室内部材において、
前記微粒子は、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種の結晶構造、あるいは前記単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種と斜方晶とを含む結晶構造を有する三酸化タングステンを具備することを特徴とする自動車用室内部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は親水性フィルムを用いた自動車用室内部材に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に親水性が付与された部材は、防曇、結露防止、汚れ防止、水性塗料の印刷等、各種分野で利用されている。酸化チタン系の光触媒膜を用いた親水性部材が開発され、外壁、窓ガラス、自動車のバックミラー等に応用されている。酸化チタン膜は太陽光に含まれる紫外線が照射された際に表面状態が変化して親水性化し、また光触媒作用を持つ膜では表面に付着した有機物を酸化分解して高い親水性を示す。光触媒膜を適用した建材や窓ガラスでは、表面に付着した汚れが雨で除去され、これにより防汚効果を得ている。
【0003】
光で親水性化する部材を応用する場合、光の照射がない状態が問題になる。酸化チタン膜は比較的短時間で親水性が低下するため、例えば自動車のバックミラーの防曇剤に応用した場合、夜間や車庫に保管した状態では防曇効果が不足する。一部の部材では酸化チタンに酸化ケイ素のような親水性酸化物を混合し、親水性の持続時間を長くする工夫がなされているが、十分な性能は得られていない。励起光として紫外線を使用する場合、日陰や屋内では励起光不足になるおそれがある。励起光不足を補うため、酸化チタンに窒素や硫黄を添加したり、白金坦持を行って可視光応答化が行われているが、利用できる光の波長範囲がそれほど広がらないため、屋内用途では十分な性能は得られない。親水性効果の持続性も従来の酸化チタンと同等であり、暗所では親水性が短期間で低下する。
【0004】
酸化タングステンは、電子デバイス用の誘電体材料、光学素子用材料、エレクトロクロミック材料、ガスセンサ材料として利用されており、さらに可視光応答型光触媒材料としても知られている。酸化タングステンのバンドギャップは2.5〜2.8eVであり、酸化チタンが380nm以下の紫外線しか利用できないのに対し、450nm近傍の可視光まで励起光として利用することができる。このため、酸化タングステンは屋内用の蛍光ランプや電球の光の波長範囲で光触媒として使用することができる。酸化タングステンは光照射により親水性を示すことも知られており、主に真空蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、ゾル・ゲル法等により作製された膜が報告されている。
【0005】
特許文献1には酸化タングステンを基材上にスパッタ成膜した光触媒材料が記載されており、主に三斜晶系の結晶構造を有する酸化タングステンが用いられている。特許文献1には酸化タングステン膜を可視光で励起して親水性を得ることが開示されている。具体的には、スパッタ成膜した酸化タングステン膜の水との接触角(初期値)が10〜30°の範囲であり、これに紫外線を照射して約20分経過後の水との接触角が5°以下となることが記載されている。非特許文献1には熱蒸着法やゾル・ゲル法で形成した後に400℃で熱処理した酸化タングステン膜が親水性を示すことが記載されている。
【0006】
従来の酸化タングステン膜は光で励起した際に親水性を示すため、光が不足する状態での性能が問題となる。加熱を適用して親水性化する場合には基材の耐熱性が問題となり、面積の大きい部材では加熱方法も問題となる。スパッタリング法、熱蒸着法、ゾル・ゲル法等を適用した場合、酸化タングステン膜を形成する基材も制限される。光照射や加熱のような後処理で親水性化した場合は持続時間が短くなる傾向があり、短期間のうちに定期的な光照射や加熱が必要になる。さらに、親水性作用のみでは有機物を除去できないため、表面に油成分等の有機物が付着した場合には十分な雨水や水洗等で除去しなければならず、使用環境が制限される。このため、光触媒作用で有機物を酸化分解する性能が必要とされるが、従来の酸化タングステン膜では十分な光触媒性能は得られていない。
【0007】
酸化タングステン粉末を用いて均一な膜を形成するためには、微細な粉末が必要とされる。特許文献2には微細な酸化タングステン粉末の製造方法として、パラタングステン酸アンモニウム(APT)を空気中で加熱して三酸化タングステン粉末を得る方法が記載されており、一次粒子径が0.01μm(BET比表面積=82m2/g)の三酸化タングステン粉末を得ている。特許文献3には酸化タングステン微粉末を効率的に得る方法として熱プラズマ処理が記載されており、粒径が1〜200nmの微粉末を得ている。しかしながら、これらの方法を適用して作製した酸化タングステン微粉末をそのまま用いても、光による親水性化が不十分であり、親水性を長期間持続することはできない。このように実用的な親水性を示す酸化タングステン膜は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−152130号公報
【特許文献2】特開2002−293544号公報
【特許文献3】特開2006−102737号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Phys.D:Appl.Phys.40(2007)1134−1137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、光照射の有無にかかわらず優れた親水性を示し、さらにその性能を長時間維持することを可能にした親水性フィルムを用いた自動車用室内部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様に係る自動車用室内部材は、基材フィルムと、前記基材フィルムの表面に設けられ、可視光の照射下で光触媒性能を示す酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子を含有する表面層とを備える親水性フィルムを具備する自動車用室内部材であって、前記微粒子の平均粒子径が1nm以上200nm以下の範囲であり、かつ前記微粒子のアスペクト比が1以上3.5以下の範囲であり、前記微粒子は結晶構造を有し、かつ前記表面層内に結晶方位が配向していない状態で存在しており、前記表面層は暗所で親水性を示すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の親水性フィルムは光照射の有無にかかわらず親水性を示し、そのような性能を長時間維持することができる。従って、そのような親水性フィルムを適用することによって、親水性能を長時間保持することが可能な自動車用室内部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明の実施形態による親水性フィルムは、基材フィルムと、基材フィルムの少なくとも表面に存在する酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子(以下、酸化タングステン系微粒子と記す)とを具備する。酸化タングステン系微粒子は1〜200nmの範囲の平均粒子径と1〜3.5の範囲のアスペクト比とを有する。酸化タングステン系微粒子は基材フィルムの任意の表面に存在させることができる。
【0014】
基材フィルムは特に限定されるものではなく、フィルム状の部材であればよい。基材フィルムは有機材料および無機材料のいずれからなるものであってもよい。基材フィルムの主な構成材料としては、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂材料(有機材料)が挙げられる。基材フィルムはケイ酸のような無機材料で形成したもの、また紙や繊維等で形成したものであってもよい。基材フィルムの厚さは10〜250μmの範囲であることが好ましい。
【0015】
この実施形態の親水性フィルムにおいて、基材フィルムの表面に存在させる微粒子は酸化タングステンの微粒子に限られるものではなく、酸化タングステン複合材の微粒子であってもよい。酸化タングステン複合材とは、主成分としての酸化タングステンに、遷移金属元素や他の金属元素を含有させたものである。遷移金属元素とは原子番号21〜29、39〜47、57〜79、89〜109の元素である。酸化タングステンと金属元素との複合材を使用することによって、微粒子の性能を向上させることができる。
【0016】
酸化タングステン複合材は、金属元素の単体、金属元素を含む化合物、金属元素と酸化タングステンとの複合化合物等の形態として、金属元素を含有することができる。酸化タングステン複合材に含有される金属元素は、それ自体が他の元素と化合物を形成していてもよい。金属元素の典型的な形態としては酸化物が挙げられる。酸化タングステンと金属元素との複合方法は特に限定されるものではなく、粉末同士を混合する混合法、含浸法、担持法等の種々の複合法を適用することが可能である。金属元素は単体や化合物の形態で酸化タングステンに担持されていてもよい。
【0017】
親水性フィルムに用いられる酸化タングステン系微粒子は1〜200nmの範囲の平均粒子径を有している。酸化タングステン系微粒子のBET比表面積は4.1〜820m2/gの範囲であることが好ましい。酸化タングステン系微粒子の平均粒子径は、親水性フィルムの形成に用いられる微粒子、あるいは基材フィルムの表面に存在する微粒子をSEMやTEMで観察し、これらの拡大写真を画像解析することにより求められる。平均粒子径は、粒子の長径と短径の平均値((長径+短径)/2)を粒子径として捉え、n=50個以上の粒子の体積基準の積算径における平均径(D50)に基づいて求めるものとする。平均粒子径(D50)は比表面積から換算した平均粒子径と一致していてもよい。
【0018】
親水性に優れる表面を得るためには、酸化タングステン系微粒子を均一な状態で存在させることが好ましい。このため、酸化タングステン系微粒子は平均一次粒子径が小さく、比表面積が大きい方が好ましい。酸化タングステン系微粒子の平均粒子径が200nmを超える場合やBET比表面積が4.1m2/g未満の場合には、十分な特性(親水性等)を得ることができない。酸化タングステン系微粒子の平均粒子径が1nm未満の場合やBET比表面積が820m2/gを超える場合には粒子が小さくなりすぎて、粉末としての取扱い性や分散性が低下する。このため、酸化タングステン系微粒子を基材フィルムの表面に均一に分散させることが困難となり、十分な親水性を発揮させることができない。
【0019】
また、光触媒粉末の性能は一般的に比表面積が大きく、一次粒子径が小さい方が高くなる。光触媒性能を有する酸化タングステン系微粒子において、平均粒子径が200nmを超える場合やBET比表面積が4.1m2/g未満の場合には、微粒子の光触媒性能が低下すると共に、均一で安定な表面を形成することが困難になる。さらに、酸化タングステン系微粒子の一次粒子径が小さすぎる場合には分散性が低下し、基材フィルムの表面に均一に分散させることができない。これらによっても、光触媒性能が低下する。
【0020】
酸化タングステン系微粒子の平均粒子径は2.7〜75nmの範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは5.5〜51nmの範囲である。酸化タングステン系微粒子のBET比表面積は11〜300m2/gの範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは16〜150m2/gの範囲である。酸化タングステン系微粒子を含む分散液や塗料を用いて膜を形成したり、また基材に練り込んで使用する場合、一次粒子径が小さすぎると酸化タングステン系粒子の分散性が低下する。このような点を改善する上で、平均粒子径が5.5nm以上の酸化タングステン系微粒子を用いることが好ましい。
【0021】
さらに、親水性フィルムの表面を構成する酸化タングステン系微粒子において、個々の粒子のアスペクト比は1〜3.5の範囲とされている。アスペクト比は粒子の短径に対する長径の比(長径/短径)であり、粒子の形状が球であれば1となる。粒子のアスペクト比が3.5を超える場合には、粒子の細長い形状に基づいて基材フィルムの表面における微粒子の分散状態が不均一となる。これによって、フィルム表面の親水性が低下する。酸化タングステン系微粒子のアスペクト比は1〜2の範囲であることがより好ましい。酸化タングステン系微粒子のアスペクト比は平均粒子径の測定と同様に、微粒子のSEM写真やTEM写真を画像解析することにより求められる。
【0022】
なお、親水性フィルムに用いられる酸化タングステン系微粒子(粉末)は、不純物として金属元素を含有していてもよい。不純物元素としての金属元素の含有量は2質量%以下であることが好ましい。不純物金属元素としては、タングステン鉱石中に一般的に含まれる元素や原料として使用するタングステン化合物を製造する際に混入する汚染元素があり、例えばFe、Mo、Mn、Cu、Ti、Al、Ca、Ni、Cr、Mg等が挙げられる。これらの元素を複合材の構成元素として用いる場合には、この限りではない。
【0023】
この実施形態の親水性フィルムは、酸化タングステン系微粒子を含有する層(表面層)を基材フィルム上に形成する、酸化タングステン系微粒子を基材フィルム中に練り込む、基材フィルムの成形工程で酸化タングステン系微粒子を含有する層を形成する、酸化タングステン系微粒子を含有する転写フィルムを基材フィルムに転写する等の方法を適用して作製される。これらの方法は基材フィルムの種類や形状等によって適宜に選択される。親水性の表面を容易に得ることが可能であることから、酸化タングステン系微粒子を含有する表面層を基材フィルム上に形成する方法を適用することが好ましい。
【0024】
親水性フィルムの表面における酸化タングステン系微粒子の量は0.1〜95質量%の範囲とすることが好ましい。酸化タングステン系微粒子の量は、表面層中に微粒子を存在させる場合には層中の微粒子の含有量、また基材フィルム中に微粒子を練り込む場合には基材フィルムの表面近傍部分における微粒子の含有量を示すものである。微粒子の含有量が0.1質量%未満の場合には、酸化タングステン系微粒子が有する親水性を十分に発揮させることができないおそれがある。酸化タングステン系微粒子の含有量は5質量%以上であることがより好ましい。酸化タングステン系微粒子の含有量が95質量%を超えると、親水性フィルムの表面の強度が低下するおそれがある。
【0025】
酸化タングステン系微粒子を含有する表面層の厚さは2nm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。表面層の厚さが2nm未満の場合には、均一な層を形成することが困難となる。表面層の厚さが50μmを超えると、表面層にクラックが生じたり、基材フィルムとの密着力が低下して剥離しやすくなる。表面層の厚さは4nm以上5μm以下の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは10nm以上1μm以下の範囲である。酸化タングステン系微粒子を基材フィルム中に練り込む場合には、少なくとも親水性を付与する表面に酸化タングステン系微粒子が露出していればよい。
【0026】
酸化タングステン系微粒子を含有する表面層は、酸化タングステン系微粒子を水やアルコール等の分散媒中に分散させた分散液を、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、バーコート等の塗布法を適用して基材フィルム上に塗布して形成される。この実施形態で用いる酸化タングステン系微粒子はpHが1〜7の範囲の水系分散液中でのゼータ電位がマイナスとなるため、良好な分散状態を実現することができる。これによって、酸化タングステン系微粒子を基材フィルム上に薄くむらなく塗布することができる。
【0027】
基材フィルム上に塗布する液は、酸化タングステン系微粒子の分散液に無機バインダおよび有機バインダから選ばれる少なくとも1種のバインダ成分を添加した混合液(塗料)であってもよい。バインダ成分の含有量は5〜99.9質量%の範囲とすることが好ましい。このような塗料を基材フィルム上に塗布して表面層を形成することによって、表面層の強度、硬さ、基材フィルムへの密着力等を所望の状態に調整することができる。
【0028】
無機バインダとしては、例えばアルキルシリケート、ハロゲン化ケイ素、およびこれらの部分加水分解物等の加水分解性ケイ素化合物を分解して得られる生成物、有機ポリシロキサン化合物とその重縮合物、シリカ、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ素化合物、リン酸亜鉛のようなリン酸塩、酸化亜鉛、アルミナ、ジルコニア等の金属酸化物、重リン酸塩、セメント、石膏、石灰、ほうろう用フリット等が用いられる。有機バインダとしては、例えばフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂等が用いられる。バインダの種類は基材フィルムの材質や目的とする特性に応じて適宜に選択される。
【0029】
上述したバインダ成分のうちでも、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、およびジルコニア(ZrO2)から選ばれる少なくとも1種は親水性を示すことから好ましい材料である。特に、シリカは高い親水性を示す。このような金属酸化物からなる無機バインダを使用することによって、親水性フィルムの親水性保持時間が改善される。酸化タングステン系微粒子が光触媒性能を有する場合には、有機物の分解効果により部材表面が清浄化される。光触媒性能に基づく親水性を長期間にわたって維持するためには、バインダ成分としての金属酸化物の含有量を10〜50質量%の範囲とすることが好ましい。
【0030】
特に、シリカについては透明性にも優れることから、表面層中に10〜80質量%の範囲で含有させてもよい。窓ガラスや鏡等の表面に親水性フィルムを適用する場合、親水性フィルムには透明性が要求される。このようなガラス製品に親水性フィルムを応用する場合には、表面層の屈折率をガラスに近くすることが望ましい。酸化タングステンは比較的屈折率が高いものの、低屈折率のシリカ(SiO2)と混合することで表面層の屈折率が低下する。これによって、親水性フィルムを適用したガラス製品の透明性を高めることができる。シリカの含有量が10質量%未満の場合には屈折率の低減の効果を十分に得ることができず、80質量%を超えると表面層の強度が低下しやすくなる。
【0031】
親水性フィルムにおける表面層は、下地層を介して基材フィルム上に形成することが好ましい。光の照射量が多いところで使用される親水性フィルムは、酸化タングステン系微粒子により有機物等の酸化分解することによって、基材フィルムの剥がれやチョーキングが発生するおそれがある。表面層と基材フィルムとの間に下地層を介在させることによって、親水性フィルムの耐久性を向上させることが可能となる。さらに、下地層によって基材フィルムと表面層との密着性を向上する。
【0032】
下地層は基材フィルムと表面層(酸化タングステン系微粒子)の両方に対して親和性の高い材料で形成することが好ましい。下地層の厚さは10〜200nmの範囲であることが好ましい。下地層の構成材料としては、アクリル変性シリコーン樹脂化合物やシリコーン変性アクリル樹脂化合物のようなシリコーン変性樹脂、オルガノゾル中のコロイダルシリカ粒子をシラン処理してアクリルやシリコーンと反応させた樹脂のようなコロイダルシリカ含有樹脂、アルコキシシラン類やその縮合物(アルキルシリケート)を混合したポリシロキサン含有樹脂等のシリコーン樹脂類が例示される。
【0033】
下地層は上記した樹脂化合物を含む溶液を塗布することにより形成する。塗布液としては、トルエン、キシレン、ケトン、アルコール等の溶媒に樹脂を分散させた液や、水系のエマルションタイプの液が用いられる。下地層の基材フィルムへの塗布方法は特に限定されるものではなく、刷毛塗り、スプレーコート、スピンコート、ディップコート、ロールコート、グラビアコート、バーコート等の各種塗布方法を適用することができる。下地層は蒸着法等で形成したシリカ膜やアルミナ膜であってもよい。
【0034】
親水性フィルムは基材フィルムの表面層を形成した面とは反対側の面に設けられた粘着剤層を具備していてもよい。粘着剤層を備える親水性フィルムによれば、各種の部材や製品の表面に親水性フィルムを容易に貼り付けることができる。これによって、親水性フィルムを設ける部材や部品の特性や形状の制限されることなく、多様な部材や製品に容易に親水性を付与することが可能となる。
【0035】
粘着剤層の材質は適宜に選択され、例えばアクリル樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂化合物、シリコーン変性アクリル樹脂化合物を主要成分として含み、シリコーン変性樹脂、コロイダルシリカ、エタノールやプロパノール等のアルコール類、水を含有する材料を適用することができる。粘着剤層の厚さは特に限定されるものではないが、0.2μm以上とすることが好ましい。粘着剤層を形成する方法は特に限定されるものではなく、刷毛塗り、スプレーコート、スピンコート、ディップコート、ロールコート、グラビアコート、バーコート等の各種の塗布方法を適用することができる。
【0036】
この実施形態の親水性フィルムは光透過性を有することが好ましい。具体的には、波長550nmによる光の透過率が50%以上であることが好ましい。波長550nmによる光透過率が50%以上であるということはフィルムの透明性が高いことを意味する。このような親水性フィルムによれば、透明な部材に適用した場合において、部材の透明性を損なうことがない。光透過率が50%未満の場合には、光の透過率が不十分となり、透明な部材に適用した際にその透明性を低下させてしまう。
【0037】
この実施形態の親水性フィルムにおける表面(酸化タングステン系微粒子を備える表面)は、前述した平均粒子径やアスペクト比を有する酸化タングステン系微粒子に基づいて、光照射の有無や光の種類にかかわらず優れた親水性を示すものである。ここで言う光とは、蛍光灯、太陽光、白色LED、電球、ハロゲンランプ、キセノンランプのような一般照明、青色LED、青色レーザ等を光源として照射される可視光、紫外領域に波長を有する光等、光全般を指すものである。このような表面を有する親水性フィルムによれば、親水性の保持時間を大幅に延長することが可能となる。特に、暗所や低照度の光照射下での親水性やその保持時間を向上させることができる。
【0038】
親水性フィルムの表面に存在する酸化タングステン系微粒子は、結晶方位が配向していないことが好ましい。表面における結晶方位の配向状態はX線回折や後方散乱電子線回折を実施することにより確認できる。例えば、X線回折で2θが22〜25°の範囲に存在するピークのうち、強度が最大の回折ピークをA、強度が2番目に大きい回折ピークをB、強度が3番目に大きい回折ピークをCとしたとき、下記の(1)〜(3)の条件のいずれかを満たす場合に、結晶方位が配向していないことを確認することができる。ピーク強度の測定は山の高い位置をピークとし、その高さを読み取って強度とする。肩がある場合にはその高さを読み取ってピーク強度とする。
【0039】
(1)ピークが3つ存在する場合に、ピークAに対するピークBの強度比(B/A)が0.3以上で、かつピークAに対するピークCの強度比(C/A)が0.3以上である。
(2)ピークが2つ存在する場合に、ピークAとピークBの間の谷の最も低い強度をDとしたとき、ピークAに対するピークBの強度比(B/A)が0.3以上で、強度DがピークBの強度の1/2より大きい(D>B/2)。
(3)ピークが1つしか存在しない場合に、ピークの半値幅が1°以上である。
【0040】
親水性フィルムの表面に存在する酸化タングステン系微粒子がアモルファス構造を有する場合には、所望の特性を得ることができない。このため、親水性フィルムの表面には結晶構造を有する酸化タングステン系微粒子を存在させるものとする。特に、結晶性がよい酸化タングステン系微粒子を用いることによって、暗所や低照度の光照射下での親水性やその保持時間を高めることができる。ただし、上述したように表面全体を見た場合に、酸化タングステンの結晶方位が配向した状態とはならないように、酸化タングステン系微粒子を表面に存在させることが好ましい。
【0041】
酸化タングステンの代表的な結晶構造はReO3構造であることから、表面の最外層に酸素を持つ反応活性が高い結晶面が露出しやすい。このため、水を吸着して高い親水性を示す。蒸着法、スパッタリング法、ゾル・ゲル法で作製した酸化タングステン膜は、成膜時にアモルファスとなって親水化しにくい。このような膜も熱処理して結晶性を向上させると親水性表面になる。しかし、熱処理温度を高くすると結晶が配向し、同時に親水性が低下する。これは親水性を示しにくい結晶面が表面に多くなるためと考えられる。
【0042】
これに対して、実施形態の親水性フィルムでは酸化タングステン系微粒子を用いて表面を構成している。このため、表面に結晶性の高い酸化タングステンや酸化タングステン複合材を存在させることができ、さらに親水性を示す結晶面が任意な方向に向いた状態が得られる。そして、酸化タングステン系微粒子の平均粒子径やアスペクト比に基づいて、基材フィルムの表面全体に酸化タングステン系微粒子を均一に存在させることができるため、他の成膜方法より高い親水性を示す表面を得ることができる。さらに、光照射の有無にかかわらず親水性を発現させることが可能となる。
【0043】
この実施形態の親水性フィルムは可視光の照射下で光触媒性能を示すことが好ましい。一般に可視光とは波長が380〜830nmの領域の光であり、蛍光灯、太陽光、白色LED、電球、ハロゲンランプ、キセノンランプ等の一般照明や、青色LED、青色レーザ等を光源として照射される光である。光触媒性能とは、光を吸収して光子一個に対し一対の電子と正孔が励起され、励起された電子と正孔が表面にある水酸基や酸を酸化還元により活性化し、その活性化で発生した活性酸素種によって、有機ガス等を酸化分解する作用であり、さらに親水性、抗菌・除菌性能、抗ウイルス性能等を発揮する作用である。この実施形態の親水性フィルムは、通常の屋内環境下で光触媒性能を示すことが好ましい。
【0044】
親水性フィルムの光触媒性能、すなわち有機物の分解性能は、例えば表面にオレイン酸を塗布し、可視光を照射しながら水の接触角の時間変化を測定することにより評価される。光触媒性能を有する場合には、例えばオレイン酸を塗布した直後は水の接触角が大きくても、可視光の照射に基づいて光触媒性能が発揮されることでオレイン酸が分解され、これにより水の接触角が低下し、やがて親水性を示すようになる。
【0045】
親水性フィルムの表面に光触媒性能を付与するためには、光触媒性能を有する酸化タングステン系微粒子を用いて表面を構成する。例えば、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種(単斜晶、三斜晶、または単斜晶と三斜晶との混晶)の結晶構造、あるいはそれに斜方晶を混在させた結晶構造を有する三酸化タングステンやそれをベースとする複合材の微粒子を用いることによって、高い光触媒性能を得ることができる。さらに、三酸化タングステンの結晶構造が単斜晶と三斜晶との混晶、あるいは単斜晶と三斜晶と斜方晶の混晶である場合に、光触媒性能をより一層向上させることが可能となる。
【0046】
親水性フィルムに光触媒性能等を付与するにあたって、微粒子として酸化タングステン複合材微粒子を使用することも有効である。遷移金属元素や他の金属元素は、単体、酸化物に代表される化合物、複合酸化物等の形態で酸化タングステンと複合される。複合形態は前述したような各種形態を適用することができる。複合する金属元素は酸化タングステンと共に表面層中に存在していればよい。酸化タングステンに複合される金属元素としては、例えばTi、Zr、Mn、Fe、Pd、Pt、Cu、Ag、Ce、Zn等から選ばれる少なくとも1種の元素が挙げられる。酸化タングステン複合材における金属元素の含有量は0.001〜50質量%の範囲とすることが好ましい。
【0047】
金属元素の含有量が50質量%を超えると、酸化タングステン微粒子が有する特性が低下するおそれがある。金属元素の含有量は10質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは5質量%以下である。金属元素の含有量の下限値は特に限定されるものではないが、複合した金属元素の効果を有効に発現させる上で、その含有量は0.001質量%以上とすることが好ましい。金属元素の含有量は0.01質量%以上とすることがより好ましく、さらに好ましくは0.1質量%以上である。
【0048】
酸化タングステンに複合する遷移金属元素のうち、Tiは光触媒性能の向上に有効である。酸化チタン(TiO2)を表面層中に存在させることで、太陽光等の紫外線を含む光が照射される環境下での性能を高めることができる。酸化タングステン複合材における酸化チタンの含有量は0.01〜50質量%の範囲とすることが好ましい。酸化チタンの含有量を0.01質量%以上とすることによって、酸化チタンの効果を有効に発揮させることができる。酸化チタンの含有量が50質量%を超える場合には、相対的に酸化タングステン微粒子の量が減少するため、暗所における親水性が低下するおそれがある。
【0049】
酸化チタンは酸化タングステン複合材として表面層中に存在させることに限らず、例えば酸化チタンを含有する層と酸化タングステン系微粒子を含有する表面層との積層膜を基材フィルム上に形成してもよい。この場合、酸化タングステン系微粒子を含有する表面層は酸化チタンを含有する層を介して基材フィルム上に形成される。このような層構成によれば、酸化タングステン系微粒子と酸化チタンとを含む塗布液を調製することなく、容易に酸化タングステン系微粒子と酸化チタンとを存在させた表面を得ることができる。これによって、親水性フィルムの光触媒性能を向上させることが可能となる。
【0050】
親水性フィルムにはCu、AgおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する酸化タングステン複合材を使用することも有効である。これらの抗菌性を有する元素によって、抗菌性能、抗カビ性能、抗ウイルス性能等をさらに向上させた多機能な親水性フィルムを提供することができる。Cu、AgおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素の含有量は0.001〜1質量%の範囲とすることが好ましい。これらの元素の含有量を0.001質量%以上とすることによって、抗菌性能や抗ウイルス性能等を有効に発揮させることができる。これらの元素を1質量%を超えて含有させても、コストが上昇するだけで性能の向上効果はあまり見られない。性能とコストを両立させる上で、その含有量は0.01〜0.1質量%の範囲とすることが効果的である。
【0051】
この実施形態の親水性フィルムの表面(酸化タングステン系微粒子が存在する表面)は、基準長さを100μmとしたときの算術平均粗さRaは1〜1000nmの範囲である表面粗さを有することが好ましい。算術平均粗さRaはJIS B 0601(2001)で定義される値であり、表面形状測定装置、走査型プローブ顕微鏡、電子顕微鏡等を用いて観察並びに測定した断面曲線から算出することができる。
【0052】
高い親水性能を得るためには表面が滑らかであることが好ましいが、親水性能の保持時間を長くするためには表面に僅かな凹凸が必要とされる。このため、表面の算術平均粗さRaは1nm以上であることが好ましい。基準長さを100μmとしたときの算術平均粗さRaが1000nmを超える場合には、親水性を付与しようとする表面の凹凸が大きくなりすぎる。このため、親水性に基づく本来の効果である防曇、汚れ防止等の効果を十分に得ることができないおそれがある。算術平均粗さRaが1000nmを超えると表面が白濁し、表面の凹凸のために汚れやすくなり、さらに水による汚れの除去も困難になる。
【0053】
さらに、酸化タングステンや酸化タングステン複合材の粗大粒子が存在する等、酸化タングステン系微粒子が表面に不均一に存在している場合にも、算術平均粗さRaが大きくなる。このような場合には、酸化タングステン系微粒子の活性が損なわれて親水性能が低下する。表面の算術平均粗さRaが著しく大きい場合には、親水性の評価法である水の接触角の測定そのものが困難となる。親水性フィルムの表面の基準長さを100μmとしたときの算術平均粗さRaは2〜100nmの範囲であることがより好ましい。
【0054】
親水性フィルムの表面は、基準長さを100μmとしたときの輪郭曲線要素(粗さ曲線要素)の平均長さRSmが算術平均粗さRaの2倍以上であることが好ましい。Raに対してRSmが2倍以上であると表面がより滑らかになり、高い親水性を発揮させることができる。RSmがRaの2倍未満であると表面の凹凸が大きくなる。表面の輪郭曲線要素の平均長さRSmは算術平均粗さRaの3倍以上であることがより好ましい。
【0055】
この実施形態の親水性フィルムに用いられる酸化タングステン系微粒子(粉末)は、例えば以下のようにして作製される。酸化タングステン微粒子は昇華工程を適用して作製することが好ましい。昇華工程に熱処理工程を組合せることも有効である。このような方法によれば、上述した平均粒子径(D50)、アスペクト比、結晶構造を有する三酸化タングステン系微粒子を安定して得ることができる。さらに、平均粒子径(D50)がBET比表面積から換算した値に近似し、粒子径ばらつきが小さい微粒子が安定して得られる。
【0056】
昇華工程は、金属タングステンの粉末や成形品、タングステン化合物の粉末や成形品、またはタングステン化合物溶液を、酸素雰囲気中で昇華させることによって、三酸化タングステン微粒子を得る工程である。昇華とは固相から気相、あるいは気相から固相への状態変化が、液相を経ずに起こる現象である。原料としての金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、タングステン化合物溶液等を、昇華させながら酸化させることによって、微粒子状の酸化タングステン粉末を得ることができる。
【0057】
酸化タングステン複合材微粒子を作製する際には、タングステン原料に加えて遷移金属元素やその他の元素を、金属、化合物、複合化合物等の形態で混ぜてもよい。酸化タングステンを他の元素と同時に処理することによって、酸化タングステンと他の元素との複合酸化物等の複合化合物微粒子を得ることができる。酸化タングステン複合材微粒子は、酸化タングステン微粒子を他の金属元素の単体粒子や化合物粒子と混合、担持させることによっても得ることができる。酸化タングステンと他の金属元素との複合方法は特に限定されるものではなく、各種公知の方法を適用することが可能である。
【0058】
昇華工程でタングステン原料を酸素雰囲気中で昇華させる方法としては、誘導結合型プラズマ処理、アーク放電処理、レーザ処理、電子線処理、およびガスバーナー処理から選ばれる処理が挙げられる。これらのうち、レーザ処理や電子線処理では原料にレーザや電子線を照射して昇華工程を行う。レーザや電子線は照射スポット径が小さいため、一度に大量の原料を処理するためには時間がかかるものの、原料粉の粒子径や供給量の安定性を厳しく制御する必要がないという長所がある。
【0059】
誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理は、プラズマやアーク放電の発生領域の調整が必要であるものの、一度に大量の原料粉を酸素雰囲気中で酸化反応させることができる。また、一度に処理できる原料の量を制御することができる。ガスバーナー処理は動力費が比較的安いものの、原料粉や原料溶液を多量に処理することが難しい。このため、ガスバーナー処理は生産性の点で劣るものである。なお、ガスバーナーは昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるものではない。プロパンガスバーナーやアセチレンガスバーナー等が用いられる。
【0060】
昇華工程に誘導結合型プラズマ処理を適用する場合、通常アルゴンガスや酸素ガスを用いてプラズマを発生させ、このプラズマ中に金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を供給する方法が用いられる。プラズマ中にタングステン原料を供給する方法としては、例えば金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を所定の液状分散媒中に分散させた分散液を吹き込む方法等が挙げられる。
【0061】
この実施形態の親水性フィルムに用いられる酸化タングステン系微粒子は、上述したような昇華工程のみによっても得ることができるが、昇華工程で作製した酸化タングステン系微粒子に熱処理工程を実施することも有効である。熱処理工程は、昇華工程で得られた三酸化タングステン系微粒子を、酸化雰囲気中にて所定の温度と時間で熱処理するものである。昇華工程の条件制御等で三酸化タングステン微粒子を十分に形成することができない場合でも、熱処理を施すことで酸化タングステン微粒子中の三酸化タングステン微粒子の割合を99%以上、実質的には100%にすることができる。さらに、熱処理工程で三酸化タングステン微粒子の結晶構造を所定の構造に調整することができる。
【0062】
熱処理工程で用いられる酸化雰囲気としては、例えば空気や酸素含有ガスが挙げられる。酸素含有ガスとは酸素を含有した不活性ガスを意味する。熱処理温度は200〜1000℃の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは400〜700℃である。熱処理時間は10分〜5時間とすることが好ましく、さらに好ましくは30分〜2時間である。熱処理工程の温度および時間を上記範囲内にすることによって、三酸化タングステン以外の酸化タングステンから三酸化タングステンを形成しやすい。さらに、三酸化タングステン微粉末の結晶構造や結晶性を調整することができる。
【0063】
上述した酸化タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子を用いて表面層を形成するにあたって、熱処理を実施する場合には温度や時間を適宜に調整する。また、酸化タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子に光触媒性能を発現させるためには、その結晶構造が重要であるため、表面層を形成するための塗布液の調製工程(微粒子の分散処理工程等)で微粒子に歪を与えすぎないような条件を設定する。
【0064】
この実施形態の親水性部材や親水性構造物は、上述した実施形態の親水性フィルムを具備するものである。親水性フィルムは部材や構造物の材料や形状に制限を受けることなく、その表面に優れた親水性を付与するものである。親水性フィルムが光触媒性能を有する場合には、各種部材や構造物に親水性と光触媒性能とを付与することができる。親水性フィルムは部材や構造物を作製した後に親水性が求められる表面に貼り付けたり、あるいは部材や構造物の作製過程で一体化される。部材や構造物を構成する材料としては、ガラス、セラミックス、プラスチック、樹脂、紙、繊維、金属、木材等が挙げられる。部材や構造物はこれらを素材として製造された製品を含むものである。
【0065】
親水性部材や親水性構造物を適用した製品としては、エアコン、空気清浄機、扇風機、冷蔵庫、電子レンジ、食器洗浄乾燥機、炊飯器、鍋蓋、ポット、IHヒータ、洗濯機、掃除機、照明器具(ランプ、器具本体、シェード等)、パーソナルコンピュータの筐体、キーボード、携帯電話、固定電話、公衆電話、自動販売機のボタン部分やタッチパネル、衛生用品、便器、洗面台、鏡、浴室(壁、天井、床等)、建材(室内壁、天井材、床、外壁)、インテリア用品(カーテン、壁紙、テーブル、椅子、ソファー、棚、ベッド、寝具等)、ガラス、サッシ、手すり、ドア、ノブ、文房具、台所用品、自動車の室内空間で用いられる部材、自動車の外装、ガラス、バックミラー、ドアミラー等が挙げられる。
【0066】
この実施形態の親水性フィルムは、光の照射の有無にかかわらず高い親水性を有し、さらにその性能を長時間維持することができる。従って、そのような親水性フィルムを適用することによって、暗所や低照度の光照射下においても高い親水性を長時間にわたって発揮することが可能な部材、構造物、製品を提供することができる。光触媒性能を有する酸化タングステン系微粒子を使用した場合には、有機物の分解性能、親水性、抗菌・抗カビ性、抗ウイルス性能等の光触媒性能を有するフィルム、部材、構造物、製品を提供することが可能となる。可視光の照射下で光触媒性能を示す親水性フィルムによれば、有機物による汚れで親水性が低下した場合でも、光が照射されることで短時間のうちに表面を親水性化することができる。従って、親水性や抗菌・除菌性能等が長期間維持される。
【実施例】
【0067】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0068】
(実施例1)
まず、原料粉末として平均粒子径が0.5μmの酸化タングステン粉末を用意した。この原料粉末をキャリアガス(Ar)と共にRFプラズマに噴霧し、さらに反応ガスとしてアルゴンを40L/min、酸素を40L/minの流量で流した。このようにして、原料粉末を昇華させながら酸化反応させる昇華工程を経て、酸化タングステン粉末を作製した。さらに、酸化タングステン粉末を大気中にて400℃×2hの条件下で熱処理した。
【0069】
次いで、酸化タングステン粉末を分散媒としてn−ブタノールと混合し、さらにバインダとして酸化タングステンに対して20重量%のエチルシリケート(コルコート社製、SSC−1)を加え、分散処理を行って塗料(濃度5%)を調製した。この塗料をA4サイズの基材フィルム(PET製、厚さ75μm)上にバーコーターで10μmの厚さに塗布し、120℃で30分間乾燥させることによって、酸化タングステン微粒子を含有する表面層を有するフィルムを作製した。
【0070】
得られたフィルムの表面層の評価を行い、酸化タングステン微粒子の長径、短径、平均粒子径(D50)、厚さを測定した。平均粒子径はTEM写真の画像解析によって測定した。TEM観察には日立製作所社製H−7100FAを使用し、拡大写真を画像解析にかけて粒子50個以上を抽出し、体積基準の積算径を求めてD50を算出した。同様にして微粒子の長径、短径、アスペクト比を求めた。また、塗料作製前の微粒子について、マウンテック製比表面積測定装置Macsorb1201を用いてBET比表面積の測定を行った。前処理は窒素中にて200℃×20分の条件で実施した。表面層における酸化タングステン微粒子の平均粒子径、アスペクト比(平均値)、表面層の厚さ、塗料作製の粉末の比表面積から換算した平均粒子径を表1に示す。
【0071】
次に、得られた表面層の表面粗さ(算術平均粗さRa、平均長さRSm)を、アルバアック社製表面形状測定装置Dektak6Mを用いて測定した。表面粗さは基準長さを100μmとして測定した。さらに、日本電子社製X線回折装置JDX−3500を用いて、表面層のX線回折を実施して結晶方位の配向性を確認した。その結果、表面層はRaが35nm、RSmが190nmと平滑で、結晶方位は配向していないことが確認された。さらに、波長550nmの光を照射したときの透過率を、島津製作所社製UV−Vis分光光度計UV−2550を用いて測定した。その結果、透過率は70%であった。
【0072】
次に、表面層の親水性を以下のようにして評価した。表面層の0.4mgの水滴に対する接触角を、接触角計(協和界面科学社製CA−D)を用いて、時間経過毎に測定した。接触角は表面層の作製直後、通常の実験室内の環境下おける暗所に3日間保管した後、さらに暗所に1ヶ月保管した後に測定した。また、暗所に1ヶ月保管した後の膜に可視光を1時間照射し、その後の接触角も測定した。光源には白色蛍光灯(東芝ライテック社製、FL20SS・W/18)を使用し、紫外線カットフィルタ(日東樹脂工業社製、クラレックスN−169)を用いて380nm未満の波長の光をカットした。照度は1500lxに調整した。これらの評価結果を表2に示す。
【0073】
親水性の定義は明確ではないが、接触角が30°以下の場合に親水性を有すると言われていることが多い。特に、接触角が10°以下の場合に、高い親水性を示すと言われている。この試料は暗所で長期間親水性を維持していることが確認された。
【0074】
さらに、光触媒の有機物分解による親水性効果を確認するため、得られた表面層にJIS R 1703−1(2007)に示されている方法でオレイン酸を塗布し、照度が1500lxの可視光を照射したときの水の接触角の推移を評価した。光源は上記と同様のものを使用した。可視光の照射から24時間、48時間、72時間経過後の評価結果を表2に示す。比較のために、ブラックライト(東芝ライテック社製、FL20S・BLB・JET20W)を用いて、紫外線(0.5mW/cm2)を72時間照射した後の接触角について評価した。可視光の照射開始当初は十分な親水性は示さなかったが、時間の経過と共に水の接触角が低下し、オレイン酸の分解が確認されたが、効果は小さかった。
【0075】
(実施例2〜3)
原料として密度4.5g/cm3の酸化タングステン粉末のペレットを用意した。これを反応容器に配置し、10L/minの流量で酸素を流しながら圧力を3.5kPaに保持しつつ、原料にCO2レーザを照射した。このようなレーザ処理で作製した酸化タングステン粉末に大気中にて700℃×0.5hの条件で熱処理を施すことによって、実施例2の酸化タングステン微粒子を得た。また、実施例1と同様の昇華工程を経て作製した酸化タングステン粉末に大気中にて900℃×1.5hの条件で熱処理を施すことによって、実施例3の酸化タングステン微粒子を得た。
【0076】
これらの微粒子を用いて、実施例1と同様にしてPETフィルム上に表面層を形成し、表面層における微粒子の平均粒子径、アスペクト比、表面層の厚さを測定した。測定結果を表1に示す。また、表面層の配向状態、光透過率、親水性を実施例1と同様にして評価した。親水性の評価結果を表2に示す。実施例2および実施例3はいずれも配向しておらず、光透過率は70%であった。表2から明らかなように、暗所で親水性を維持していることが確認された。オレイン酸の分解は確認されたが、効果は小さかった。
【0077】
(比較例1)
実施例1と同様の昇華工程を経て作製した酸化タングステン粉末に大気中にて1000℃×0.5hの条件で熱処理を施して、比較例1の酸化タングステン微粒子を得た。この微粒子を用いて、実施例1と同様にしてPETフィルム上に表面層を形成し、表面層における微粒子の平均粒子径、アスペクト比、表面層の厚さを測定した。測定結果を表1に示す。また、表面層の配向状態、光透過率、親水性を実施例1と同様にして評価した。親水性の評価結果を表2に示す。比較例1の表面層は配向していなかったが、光透過率は30%であった。表2から明らかなように、成膜直後の接触角が大きく、暗所では接触角が増加することが確認された。オレイン酸の分解は非常に遅かった。
【0078】
(実施例4)
実施例2で得られた微粒子を用いて、実施例1と同様にしてPETフィルム上に厚さ55μmの表面層を作製した。その結果、実施例2と同等の親水性を示したが、部分的に膜にひび割れが発生し、フィルムの生産性や取扱い性に問題が生じた。また、透過率は40%と低く、透明な部材への貼付には適さなかった。
【0079】
(実施例5)
実施例2で得られた微粒子を用いて、実施例1と同様にして塗料を作製した。A4サイズのPETフィルムにポリシロキサン塗料(JSR社製グラスカ)を下地層として塗布した後、バーコーターで0.3μmの厚さに塗料を塗布し、120℃で30分間乾燥させることによって、表面層を有するフィルムを作製した。さらに、塗料を塗布した面とは反対の面に粘着剤を塗布した。その結果、親水性については実施例2と同等の結果となった。また、粘着剤層を有しているため、他の部材に容易に貼付することができた。
【0080】
(実施例6)
実施例1と同様の昇華工程を経て作製した酸化タングステン粉末に大気中にて500℃×2hの条件で熱処理を施すことによって、実施例6の酸化タングステン微粒子を得た。この微粒子を用いて、実施例1と同様にしてPETフィルム上に厚さ0.3μmの表面層を形成し、表面層における微粒子の平均粒子径、アスペクト比、表面層の厚さを測定した。測定結果を表1に示す。また、表面層の配向状態、光透過率、親水性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。
【0081】
実施例6の表面層は配向しておらず、光透過率は80%以上であった。表2から明らかなように、暗所でも10°以下の接触角を示し、暗所で長期間高い親水性を維持していることが確認された。さらに、オレイン酸は分解され、72時間の光照射後には高い親水性を示した。実施例1〜3よりも暗所で高い親水性を示し、さらに高い光触媒効果が得られたのは、製造条件の最適化により結晶性が向上したためと考えられる。
【0082】
(実施例7)
プラズマに投入する原料として、FeやMo等の含有量が多い酸化タングステン粉末を用いる以外は、実施例3と同様の昇華工程と熱処理工程を実施して、Feを300ppm含有する酸化タングステン複合材粉末を作製した。得られた酸化タングステン複合材微粒子を用いて、実施例6と同様にしてPETフィルム上に表面層を形成し、表面層における微粒子の平均粒子径、アスペクト比、表面層の厚さを測定した。測定結果を表1に示す。また、表面層の配向状態、光透過率、親水性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。表面層は配向しておらず、光透過率は80%以上であった。実施例6と同様に暗所でも高い親水性を示し、さらに高い光触媒効果が確認された。
【0083】
(実施例8)
実施例6で得られた酸化タングステン微粒子に酸化チタン(TiO2)粉末を10質量%混合した。このような酸化タングステン複合材粉末(微粒子)を用いて、実施例6と同様にしてPETフィルム上に中間層を形成し、表面層における微粒子の平均粒子径、アスペクト比、表面層の厚さを測定した。測定結果を表1に示す。また、表面層の配向状態、光透過率、親水性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。表面層は配向しておらず、光透過率は80%以上であった。実施例6と同様に暗所でも高い親水性を示し、さらに高い光触媒効果が確認された。
【0084】
(実施例9)
PETフィルムにチタン(TiO2)層を形成した後、実施例6で調製した塗料を0.3μmの厚さに塗布して表面層を形成した。表面層における微粒子の平均粒子径、アスペクト比、表面層の厚さを実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。また、表面層の配向状態、光透過率、親水性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。表面層は配向しておらず、光透過率は80%以上であった。実施例6と同様に暗所でも高い親水性を示し、さらに高い光触媒効果が確認された。
【0085】
(実施例10)
実施例6で得られた酸化タングステン微粒子に酸化銅(CuO)粉末を1質量%混合した。このようにして得た酸化タングステン複合材粉末(微粒子)を用いて、実施例6と同様にしてPETフィルム上に表面層を形成し、表面層における微粒子の平均粒子径、アスペクト比、表面層の厚さを測定した。測定結果を表1に示す。また、表面層の配向状態、光透過率、親水性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。表面層は配向しておらず、光透過率は80%以上であった。実施例6と同様に暗所でも高い親水性を示し、さらに高い光触媒効果が確認された。
【0086】
(実施例11)
実施例6で調製した塗料にコロイダルシリカを30質量%添加した。このような塗料を用いて、実施例6と同様にしてPETフィルム上に厚さ0.3μmの表面層を形成し、表面層における微粒子の平均粒子径、アスペクト比、表面層の厚さを測定した。測定結果を表1に示す。また、表面層の配向状態、光透過率、親水性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。表面層は配向しておらず、光透過率は80%以上であった。実施例6と同様に暗所でも高い親水性を示し、さらに高い光触媒効果が確認された。
【0087】
(実施例12)
実施例6で調製した塗料に硝酸銀をAg換算で0.002質量%を添加し、光還元処理を行った後、PETフィルム上に0.3μmの厚さに塗布して表面層を形成した。表面層における微粒子の平均粒子径、アスペクト比、表面層の厚さを測定した。測定結果を表1に示す。また、表面層の配向状態、光透過率、親水性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。表面層は配向しておらず、光透過率は80%以上であった。実施例6と同様に暗所でも高い親水性を示し、さらに高い光触媒効果が確認された。また、光照射の有無を問わずに抗菌性を有することが確認された。
【0088】
(比較例2)
スパッタ法を適用して、ポリイミドフィルム上に厚さ0.1μmの酸化タングステン膜を形成した。得られた膜の特性を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。また、得られた膜の親水性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。配向性の評価の結果、酸化タングステン膜は三斜晶が配向した結晶構造を有していた。光透過率は50%であった。膜が配向しているため、膜形成直後および暗所保管後の親水性が低かった。一方、可視光を照射することにより接触角の低下が見られたが、親水性は不十分な結果であった。また、オレイン酸の分解能力は低かった。
【0089】
(比較例3)
PETフィルム上にコロイダルシリカを用いて厚さ0.5μmのシリカ(SiO2膜)を形成した。得られた膜の特性を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。また、得られた膜の親水性を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。膜形成直後は高い親水性を示したが、暗所での保管中に親水性が低下した。これは雰囲気の汚れを吸着したことによるものと考えられる。光照射による変化は見られなかった。当然のことながら、オレイン酸の分解性能もなかった。
【0090】
(比較例4)
ポリシロキサン樹脂をバインダとしたアナターゼ型チタニアゾル塗料を用いて、PETフィルム上に厚さ0.3μmの膜を形成した。得られた膜の特性を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。また、得られた膜の親水性を実施例1と同様にして評価した。ただし、暗所で1ヶ月保管した試料に可視光を照射しても、接触角の変化は認められなかったため、紫外線を照射した後の測定結果を表2に示す。評価結果を表2に示す。膜形成直後は低いながらも親水性の傾向が見られたが、暗所保管中に親水性が低下した。紫外線の照射後には接触角が低下する傾向があり、光照射による効果が見られた。オレイン酸の分解試験でも紫外線の照射下でのみ親水性が発現した。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
(実施例13、14)
実施例13においては、実施例6で得られた酸化タングステン微粒子を塩化白金酸水溶液に分散させた後、可視光照射とメタノール投入とを行って、光析出法による担持を行った。遠心分離を実施し、上澄みの除去と水の追加による洗浄を2回行い、上澄み除去後の粉末を110℃で12時間乾燥させることによって、Ptを0.1質量%含有する酸化タングステン複合材粉末を作製した。
【0094】
実施例14においては、実施例6で得られた酸化タングステン微粒子を塩化パラジウム水溶液に分散させた。この分散液を遠心分離し、上澄みの除去と水の追加による洗浄を2回行い、上澄み除去後の粉末を110℃で12時間乾燥させることによって、Pdを0.5質量%含有する酸化タングステン複合材粉末を作製した。
【0095】
実施例13および実施例14の酸化タングステン複合材粉末を用いて、実施例1と同様にしてPETフィルム上に厚さ0.3μmの表面層を形成した。表面層における微粒子の特性や表面層の配向状態、光透過率、親水性を評価した。その結果、微粒子の特性、表面層の配向状態、光透過率は、実施例13、14共に実施例6と同等であった。
【0096】
親水性については、暗所で長期間高い親水性を示すだけでなく、オレイン酸の分解が実施例6より早く進むことが確認された。実施例6、実施例13、実施例14のフィルムについて、黄色ブドウ球菌、大腸菌、インフルエンザウイルスを用いて抗菌、抗ウイルス性を評価したところ、いずれも優れた抗菌、抗ウイルス性を示すことが確認された。
【0097】
(実施例15)
実施例6で作製したフィルムを自動車の室内空間のガラスやボードに貼り、親水性を評価したところ、接触角は5°であり、高い親水性を示した。このため、結露が発生しにくく、またガラスが汚れにくくなった。さらに、カビの発生を抑えることができた。
【0098】
上述した各実施例の親水性フィルムは均一な表面層を有しているため、アセトアルデヒド等の有機ガスの分解性能を安定して発揮させることができる。また、親水性フィルムは透明性を有しているため、視覚的に色ムラ等の問題が生じにくい。このようなことから、自動車の室内空間で使用される部材、工場、商店、公共施設、住宅等で使用される建材、内装材、家電等に好適に用いられるものである。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の親水性フィルムは親水性が求められる各種の部材や構造物に適用される。そのような部材や構造物は親水性に基づく防汚、防曇、結露防止、汚れ除去等の効果が求められる自動車用室内部材に有効に利用されるものである。