特許第5707804号(P5707804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5707804非水電解質二次電池正極用スラリー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5707804
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池正極用スラリー組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20150409BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20150409BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150409BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20150409BHJP
【FI】
   H01M4/139
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
   H01M4/58
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-206734(P2010-206734)
(22)【出願日】2010年9月15日
(62)【分割の表示】特願2003-292827(P2003-292827)の分割
【原出願日】2003年8月13日
(65)【公開番号】特開2010-282979(P2010-282979A)
(43)【公開日】2010年12月16日
【審査請求日】2010年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100097180
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 均
(74)【代理人】
【識別番号】100110917
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100147393
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 一基
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽久
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−050360(JP,A)
【文献】 特開2001−283859(JP,A)
【文献】 特開平09−134725(JP,A)
【文献】 国際公開第02/083555(WO,A1)
【文献】 特開2003−036889(JP,A)
【文献】 特開2002−151082(JP,A)
【文献】 特開2002−134112(JP,A)
【文献】 特開2002−373649(JP,A)
【文献】 特表2004−525059(JP,A)
【文献】 特開2003−203628(JP,A)
【文献】 特開2003−045414(JP,A)
【文献】 特開2000−195521(JP,A)
【文献】 特開2001−332265(JP,A)
【文献】 特開2000−299109(JP,A)
【文献】 特開平11−250916(JP,A)
【文献】 特開平11−297313(JP,A)
【文献】 A.K.Padhi, K.S.Nanjundaswamy, and J.B.Goodenough,Phospho-olivines as Positive-Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries,J.Electrochem.Soc.,1997年 4月,Vol.144 No.4,pp.1188-1194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/13
H01M 4/58
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性ポリマーと、鉄含有化合物とが水に分散されてなり、
前記鉄含有化合物が、一般式:AyFeXO(Aはアルカリ金属を表し、Xは周期表第4族〜第7族、または第14族〜第17族の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を表し、0<y<2)で表されるアルカリ金属(A)含有鉄複合酸化物であり、
前記鉄含有化合物の平均粒子径が1〜5μmの範囲にあり、
前記非水溶性ポリマーがアクリル系ポリマー又はニトリル系ポリマーであり、
かつ、前記非水溶性ポリマーの粒子径が0.05〜1μmの範囲にあり、
更に、前記非水溶性ポリマーの含有量が鉄含有化合物に対して1〜5重量%の範囲にある非水電解質二次電池正極用スラリー組成物。
【請求項2】
前記一般式:AyFeXOにおいて、Xが周期表の第5族または第15族の元素の中から選ばれる少なくとも一種類の元素であることを特徴とする請求項1に記載のスラリー組成物。
【請求項3】
前記アルカリ金属(A)含有鉄複合酸化物が、六方密充てん酸素骨格を持つオリビン構造または立方密充てん酸素骨格を持つスピネルもしくは逆スピネル構造であることを特徴とする請求項1または2に記載のスラリー組成物。
【請求項4】
さらに導電性付与材を含む請求項1〜3のいずれかに記載のスラリー組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のスラリー組成物を集電体に塗布、乾燥することを特徴とする非水電解質二次電池正極用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解質二次電池正極用スラリー組成物、および該スラリー組成物を用いて製造される非水電解質二次電池正極用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年普及が著しいノート型パソコンや携帯電話、PDAなどの携帯端末の電源には、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池が多用されている。非水電解質二次電池の正極としては、リチウムに対しインターカレーションホストとなりうるVやLiCoOやLiNiOなどの層状若しくはトンネル状酸化物が用いられているが、これらの金属酸化物は中心金属にクラーク数の極端に小さなレアメタルを用いているため、コストの点で実用上難点がある。
【0003】
このため、アルカリ金属含有鉄複酸化物を正極活物質として含み、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属またはそれらのイオンを吸蔵、放出可能な物質を負極活物質とする非水電解質二次電池が検討されている。しかしながら、その電池容量や充放電サイクル性能は十分とはいえず、より高性能な二次電池が求められていた。
【0004】
非水電解質二次電池の正極は、正極活物質と導電性付与材とが結着剤により集電体に結着されてなる構造を有している。電池の高性能化には正極活物質や導電性付与材を増量することが有効であるが、結着力を確保するために結着剤も増量する必要があるため、容積の限られた電池内では正極活物質や導電性付与材を大幅に増やすことは困難であった。
【0005】
正極用電極の製法として、例えば、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を正極活物質および導電付与剤と混合し、次いでそれをロール成形する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。また、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を正極活物質および導電付与剤と混合し、さらにN−メチルピロリドンなどの有機溶媒を加えてペースト状にし、これを集電体上に塗布、乾燥する方法が知られている(例えば特許文献2参照)。しかしこれらの方法で得られる電極は、結着力や柔軟性が不足しているので、電極の捲回時や繰り返し充放電により集電体から活物質が剥離して電池性能が低下するという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平09−134725号公報
【特許文献2】特開2003−36889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状の問題点を改善するために提案されたもので、その目的は、結着力および柔軟性に優れた非水電解質二次電池正極用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討を行い、アルカリ金属含有鉄複酸化物は、従来非水電解質二次電池に汎用されているLiCoOなどと比較して粒子径が小さいために単位体積あたりの表面積が大きく、結着剤の使用量が少ないと結着力が不十分であること、および結着剤を溶媒に溶解して用いた場合、結着剤が正極活物質であるアルカリ金属含有鉄複酸化物の表面を覆って電池反応を阻害し、電池容量が低下する傾向があることを見出した。
【0009】
さらに鉄含有化合物を正極活物質に用いる場合において、非水溶性ポリマーの水分散体を用いて正極用スラリー組成物を作成すると、結着剤の使用量を少なくすることができること、該スラリー組成物を用いて製造した電極は柔軟性に優れることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、非水溶性ポリマーと、鉄含有化合物とが水に分散されてなる非水電解質二次電池正極用スラリー組成物が提供される。前記鉄含有化合物は、一般式:AyFeXO(Aはアルカリ金属、Xは周期表の第4族〜第7族、または第14族〜第17族の元素から選ばれる少なくとも一種の元素、0<y<2)で表されるアルカリ金属(A)含有鉄複合酸化物であることが好ましく、Xは周期表の第5族または第15族の元素の中から選ばれる少なくとも一種類の元素であることがより好ましい。
【0011】
また、前記アルカリ金属(A)含有鉄複合酸化物は、六方密充てん酸素骨格を持つオリビン構造または立方密充てん酸素骨格を持つスピネルもしくは逆スピネル構造であることが好ましい。
また、前記非水溶性ポリマーの粒子径は、0.01〜10μmであることが好ましい。
【0012】
前記スラリー組成物は、さらに導電性付与材を含むことが好ましい。
【0013】
第二の本発明によれば、上記本発明のスラリー組成物を集電体に塗布、乾燥することを特徴とする非水電解質二次電池正極用電極の製造方法が提供される。
【0014】
第三の本発明によれば、上記本発明の製造方法により得られる非水電解質二次電池正極用電極が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少量の結着剤の使用で柔軟性および結着強度に優れた正極用電極が得られる。該電極は非水電解質二次電池に好適に用いられ、電池の高容量化、充放電特性の向上に寄与することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
本発明の非水電解質二次電池正極用スラリー組成物(以下、単に「スラリー」ということがある。)は、非水溶性ポリマーと、鉄含有化合物とが水に分散されてなる。
【0017】
本発明では結着剤として非水溶性ポリマーを用いる。非水溶性ポリマーは特に限定されないが、アクリル系ポリマー、ニトリル系ポリマー、ジエン系ポリマーなどの非フッ素系ポリマー;PVDFやPTFEなどのフッ素系ポリマー;が挙げられる。中でも、結着力と柔軟性に優れるとの観点から、非フッ素系ポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーおよびニトリル系ポリマーがより好ましい。
【0018】
アクリル系ポリマーは、好ましくはアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステル単位を主成分とする重合体であり、アクリル酸アルキルエステル単位の含有量は通常50重量%以上、好ましくは60〜95重量%、より好ましくは70〜90重量%である。
【0019】
アクリル系ポリマーには、アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他の単量体単位を含んでいてもよい。アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他の単量体としては、具体的には、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどの多官能エチレン性不飽和単量体;などが挙げられる。中でも、多官能エチレン性不飽和単量体を通常0.3〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%共重合させて架橋重合体とすると、結着性に優れるので好ましい。
【0020】
本発明で用いられるアクリル系ポリマーの好ましい具体例としては、アクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸・アクリロニトリル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸・メタクリロニトリル・ジエチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸ブチル・アクリロニトリル・ジエチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸ブチル・アクリル酸・トリメチロールプロパントリメタクリレート共重合体などが挙げられる。
【0021】
本発明で用いられるニトリル系ポリマーは、前記のα,β−不飽和ニトリル化合物単位を含有する重合体であり、α,β−不飽和ニトリル化合物単位の含有量は通常10〜60重量%、好ましくは15〜50重量%である。本発明で用いられるニトリル系ポリマーの好ましい具体例としては、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体や、その水素化物が挙げられる。これらは前記のエチレン性不飽和カルボン酸を共重合させてカルボキシル基を含有せしめたものであってもよい。
【0022】
本発明で用いられるジエン系ポリマーは、1,3−ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン単位を主成分とする重合体であり、共役ジエン単位の含有量は通常30重量%以上、好ましくは40〜70重量%である。本発明で用いられるジエン系ポリマーの好ましい具体例としては、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン系共重合体が挙げられる。スチレン・ブタジエン系共重合体は、前記のアクリル酸エステル単位、メタクリル酸エステル単位、α,β−不飽和ニトリル化合物単位、エチレン性不飽和カルボン酸単位をさらに含有するものであってもよい。中でも、エチレン性不飽和カルボン酸単位を有するカルボキシ変性スチレン・ブタジエン系共重合体が好ましい。
【0023】
非フッ素系ポリマーの製法は特に限定されない。例えば、上記した各単量体成分を、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法または溶液重合法などの公知の重合法により重合して得ることができる。
【0024】
非水溶性ポリマーの粒子径は、通常0.01〜10μm、好ましくは0.05〜1μmである。粒子径が大きすぎるとバインダーとして必要な量が多くなりすぎ、電極の内部抵抗が増加する場合がある。逆に、粒子径が小さすぎると活物質の表面を覆い隠して反応を阻害してしまう場合がある。ここで、粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだポリマー粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒子径である。
【0025】
非水溶性ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−100〜+100℃、好ましくは−50〜+50℃である。Tgが高すぎると、電極の柔軟性、結着性が低下し、電極層が集電体から剥離したり、捲回時に割れたりする場合がある。また、Tgが低すぎても電極の結着性が低下する場合がある。
【0026】
本発明のスラリーにおける非水溶性ポリマーの量は、後述の正極活物質に対して通常0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。本発明で用いる結着剤は結着力に優れるので、ポリフッ化ビニリデンなどの従来の結着剤と比較してその使用量を低減でき、相対的に正極活物質や後述の導電付与剤の量を増やせるので、電池の容量や充放電速度を向上させることができる。
【0027】
本発明のスラリーは、正極活物質として鉄含有化合物を含む。鉄含有化合物としては、非水電解質二次電池の正極活物質として使用できるものであれば特に限定されないが、一般式:AyFeXOで表される鉄複合酸化物が好ましい。前記一般式において、Aはリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属を表し、リチウムが好ましい。Xは周期表の第4族〜第7族、または第14族〜第17族の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。上記の鉄複合酸化物は、通常、四面体サイトに元素Xが位置し、アルカリ金属Aは、鉄と共に八面体サイトに位置する構造を有する。上記正極活物質の構造は、サイトまで表記すると{X}・〔AyFe〕Oと示される(ここで{ }内は四面体サイト、〔 〕内は八面体サイトを示す)が、このような構造を与える元素Xとしては、例えば、バナジウム等の第5族元素や、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス等の第15族元素が好ましい。
【0028】
本発明で用いる正極活物質は六方密充てん酸素骨格を持つオリビン構造または立方密充てん酸素骨格を持つスピネルもしくは逆スピネル構造であることが好ましい。オリビン化合物、スピネル化合物、逆スピネル化合物は共にABCOの組成式を持つ。オリビン構造と逆スピネルを含めたスピネル構造の違いは酸素イオンが六方密充てんか立方密充てんかであり、AやXの元素の種類によってその安定構造が変わる。例えば、LiFePOではオリビン構造が安定で、LiFeVOでは逆スピネル構造が安定相となる。
【0029】
オリビン構造またはスピネル構造を有するAyFeXOは、アルカリ金属化合物、2価の鉄化合物及び、元素(X)のアンモニウム塩を混合し、次いで不活性ガス雰囲気下、または還元雰囲気下に焼成することにより容易に合成できる。
【0030】
また、ナシコン型構造を有する鉄化合物も正極活物質として用いることができる。ナシコン型鉄化合物としては、具体的には、LiFe2−n(MO(式中、0≦n<2であり、Mはリン、硫黄、砒素、モリブデン、およびタングステンから選ばれるいずれかの元素を表す。)で表される化合物が挙げられる。
【0031】
前記鉄含有化合物の平均粒子径は、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは1〜5μmである。平均粒子径がこの範囲であると、充放電容量が大きい二次電池を得ることができ、かつスラリーおよび電極製造時の取扱いが容易である。
【0032】
本発明では、非水溶性ポリマーと、鉄含有化合物とを、水に分散させて用いる。水分散体とすることで、結着剤である非水溶性ポリマーが粒子形状を維持することができる。結着剤が粒子形状を有することで、正極活物質と集電体との結着に係る面積を小さくできる。また、結着剤が正極活物質の表面を覆うことを防止できる。このため、本発明のスラリーを用いて電極を製造すると、結着剤の使用量が少なくても結着力、柔軟性に優れる。また、分散媒として水を用いるので、塗布、乾燥などの電極製造工程において作業環境への悪影響が生じない。さらに、乳化重合で非水溶性ポリマーを製造した場合は、ポリマーを単離することなく、得られたラテックスをそのまま又は所望の濃度に希釈もしくは濃縮するだけで使用可能であり、工程数が少なくてすみ、生産性にも優れる。
【0033】
本発明のスラリーには、水溶性ポリマーを増粘剤として含有せしめることができる。増粘剤の使用により、電極用スラリーの塗工性を向上させたり、流動性を付与することができる。
【0034】
水溶性ポリマーの具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプンなどが挙げられる。これらの水溶性ポリマーの使用量は、正極活物質に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜2重量%である。
【0035】
本発明のスラリーは、導電性付与材を含有していることが好ましい。導電性付与材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイトなどの導電性カーボンや、導電性ポリマー、金属粉末などが挙げられる。導電性付与材の使用量は、正極活物質100重量部あたり、通常、1〜20重量部、好ましくは2〜10重量部である。
【0036】
本発明のスラリーは、前記非水溶性ポリマーの水分散体と、正極活物質と、必要に応じ添加される増粘剤や導電性付与材とを混合機を用いて混合して製造できる。混合は、上記の各成分を一括して仕込み、混合、分散してもよいが、導電性付与材と増粘剤の水溶液とを混合して導電性付与材を微粒子状に分散させた後に、正極活物質と非水溶性ポリマーの水分散体を添加してさらに混合することが好ましい。混合機としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを用いることができる。
【0037】
本発明の非水電解質二次電池正極用電極は、本発明のスラリーを集電体に塗布、乾燥することで製造される。
【0038】
集電体は、導電性材料からなるものである。通常、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属製のものが用いられ、アルミニウムが好ましい。形状も特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mmのシート状のものが好ましい。
【0039】
前記スラリーの集電体への塗布方法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどが挙げられる。塗布する量は特に制限されないが、乾燥した後に形成される電極層の厚さが通常0.005〜5mm、好ましくは0.01〜2mmとなるように調整される。
【0040】
乾燥方法としては、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。乾燥条件は、応力集中が起こって活物質層に亀裂が入ったり、電極層が集電体から剥離しない程度の速度範囲の中で、できるだけ早く液状媒体が除去できるように調整する。更に、乾燥後の集電体をプレスすることにより電極を安定させてもよい。プレス方法は、金型プレスやロールプレスなどの方法が挙げられる。
【0041】
上記本発明の電極を正極として用い、非水電解質二次電池用として従来公知の負極、電解液、セパレーター等の部品と組み合せることで非水電解質二次電池を得ることができる。非水電解質二次電池の製造方法は特に限定されず、例えば、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで得られる。また必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をする事もできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【0042】
本発明において、負極は従来公知の非水電解質二次電池用負極をいずれも用いることができる。負極活物質は金属リチウム、リチウム合金、リチウム化合物、その他ナトリウム、カリウム、マグネシウム等従来公知のアルカリ金属、アルカリ土類金属、又はアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属イオンを吸蔵、放出可能な物質、例えば前記金属の合金、炭素材料等が使用できる。特に炭素材料が好ましい。また、負極の集電体としては前記正極の集電体として例示したものをいずれも用いることができるが、中でも銅箔が好ましく用いられる。
【0043】
電解液は、通常の非水電解質二次電池に用いられるものであれば、液状でもゲル状でもよく、負極活物質、正極活物質の種類に応じて電池としての機能を発揮するものを選択すればよい。
【0044】
電解質としては、従来より公知のリチウム塩がいずれも使用でき、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、LiCFSO、LiCHSO、LiC、Li(CFSON、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどが挙げられる。
【0045】
これらの電解質を溶解させる媒体(電解質溶媒)は特に限定されるものではない。具体例としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類等が挙げられ、中でもカーボネート類が化学的、電気化学的及び熱安定性に優れているので好ましい。これらは単独または二種以上の混合溶媒として使用することができる。また、セパレーター、電池ケース等の構造材料等の他の要素についても従来公知の各種材料をいずれも使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下で記す「部」および「%」は、特記しない限り重量基準である。
実施例および比較例における操作および試験は以下の方法によった。
【0047】
(1)ガラス転移温度(Tg)
非水溶性ポリマーのTgは、ポリマーの水分散体をポリテトラフルオロエチレン板上に流延し、2日間乾燥後、さらに120℃で15分間乾燥させて重合体フィルムを作製した。そのフィルムを用いて示差走査型熱量計(DSC)を用いて毎分5℃で昇温して測定した。
(2)粒子径
非水溶性ポリマーの粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだポリマー粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒子径として求めた。
【0048】
(3)電極折り曲げ試験
電極を幅3cm×長さ9cmの矩形に切って試験片とする。試験片の集電体側の面を下にして机上に置き、長さ方向の中央(端部から4.5cmの位置)、集電体側の面に直径1mmのステンレス棒を短手方向に横たえて設置する。このステンレス棒を中心にして試験片を電極層が外側になるように180°折り曲げた。10枚の試験片について試験し、各試験片の電極層の折り曲げた部分について、ひび割れまたは剥がれの有無を観察した。ひび割れまたは剥がれが少ないほど、電極が柔軟性に優れることを示す。
【0049】
(4)ピール強度
電極を幅3cm×長さ9cmの矩形に切って試験片とし、電極層面を上にして固定する。試験片の電極層表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で引き剥がしたときの応力を測定した。測定を10回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とした。ピール強度が大きいほど電極層の集電体への結着力が大きいことを示す。
【0050】
[実施例1]
アクリル系エラストマー(アクリル酸2−エチルヘキシル86部、メタクリル酸4部、アクリロニトリル9部およびエチレングリコールジメタクリレート1部の共重合体)の水分散体(固形分濃度40%、粒子径150nm)を2部と、カルボキシメチルセルロース(セロゲンWSC、第一工業製薬(株)製)の2%水溶液75部と、正極活物質として平均粒子径2μmのLiFePOを100部と、導電性付与材としてアセチレンブラック10部とを加えてプラネタリーミキサーで混合し、水を加えて混合して固形分濃度66%の正極用スラリーとした。
得られた正極用スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃、15分間乾燥機で乾燥した。さらに真空乾燥機にて0.6kPa、120℃で2時間減圧乾燥した後、2軸のロールプレスで圧縮して電極層の厚み110μmの正極用電極を得た。得られた電極について折り曲げ試験を行ったところ、10枚の試験片はいずれもヒビ割れ、剥がれが認められなかった。また、ピール強度は0.35N/cmであった。
【0051】
[実施例2]
正極活物質として平均粒子径2μmのLiFeVOを用いた以外は、実施例1と同様にして正極用電極を作成した。得られた電極の折り曲げ試験では10枚の試験片はいずれもヒビ割れ、剥がれが認められなかった。また、ピール強度は0.41N/cmであった。
【0052】
[実施例3]
正極活物質として平均粒子径2μmのLiFeV0.50.5を用いた以外は、実施例1と同様にして正極用電極を作成した。得られた電極の折り曲げ試験では10枚の試験片はいずれもヒビ割れ、剥がれが認められなかった。また、ピール強度は0.37N/cmであった。
【0053】
[実施例4]
アクリル系エラストマーの水分散体に代えて、スチレン・ブタジエン系共重合体の水分散体(BM−400B:日本ゼオン製、固形分濃度40%、粒子径120nm)を用いたほかは実施例1と同様にして正極用電極を作成した。得られた電極の折り曲げ試験では10枚の試験片はいずれもヒビ割れ、剥がれが認められなかった。また、ピール強度は0.39N/cmであった。
【0054】
[実施例5]
アクリル系エラストマーの水分散体に代えて、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体水素化物の水分散体(アクリロニトリル単位35%、固形分濃度40%、粒子径120nm)を用いたほかは実施例1と同様にして正極用電極を作成した。得られた電極の折り曲げ試験では10枚の試験片はいずれもヒビ割れ、剥がれが認められなかった。また、ピール強度は0.35N/cmであった。
【0055】
[比較例1]
ポリフッ化ビニリデンをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解した溶液(濃度8%)62.5部と、正極活物質として平均粒子径10μmのLiFePOを100部と、導電付与剤としてアセチレンブラック10部とを混合し、更にNMPを加えて粘度を調整し、正極用スラリーとした。このスラリーを用いて実施例1と同様にして正極用電極を作成した。得られた電極の折り曲げ試験では10枚の試験片は全てにヒビ割れまたは剥がれが生じていた。また、ピール強度は0.30N/cmであった。
【0056】
以上に示すように、非水溶性ポリマーの水分散体と鉄含有化合物を含む非水電解質二次電池電極用スラリーを用いて作成した電極は、少ないポリマー量で高い結着性と柔軟性を示した(実施例1〜5)。これに対し、ポリフッ化ビニリデンのNMP溶液を含むスラリーを用いた電極は、結着性、柔軟性ともに不足していた(比較例1)。