(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
偏平形態をした総繊度が18,000〜210,000dtexの炭素繊維前駆体トウを揺動シュートを介して梱包容器に振り込みながら、梱包容器をシュートの揺動方向と直交する方向に往復動させて、梱包容器の折り返し地点ごとに振り込まれたトウにプレスを行い圧縮する炭素繊維前駆体トウの梱包容器への収納方法であって、
前記トウのトウ幅方向は梱包容器が往復動する方向であり、
前記梱包容器内の隣接するトウの折り返し地点間のピッチP(mm)とトウ幅T(mm)とを、
(1)総繊度が18,000dtex以上、72,000dtex以下の炭素繊維前駆体トウにあっては、1.5×T≦P≦3.0×Tの関係を、
(2)総繊度が72,000dtexより大きく、210,000dtex以下の炭素繊維前駆体トウにあっては、0.5×T≦P≦2.0×Tの関係を、
それぞれ満足させることを特徴とする炭素繊維前駆体トウの収納方法。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維の製造においては、品質を高めつつ、コストダウンを図り、同時に生産性を高めるために、フィラメント数が50,000以上の太い炭素繊維前駆体トウが採用され、このトウを振り落としながら梱包容器に梱包される。しかしながら、前記方法によるトウの収納状態によっては、収納状態からトウを解舒する際に撚りが入ることで品質を落としたり、収納状態は良好であっても収納嵩比重が低いことから生産性を落とすことがあった。
【0003】
例えば、特開昭51−49914号公報(特許文献1)によると、複数本の紡出糸条を集束した後、シュートを通して該シュートの下方に配されたトウ梱包容器に、前記シュート又は梱包容器を前後左右にトラバース運動させながらトウを収納している。前記シュート又は梱包容器の前後方向及び左右方向のトラバース運動のうちどちらか一方のトラバース運動を他のトラバース運動よりも大きい速度でトラバースさせる。更に、前記大きい速度のトラバース運動を折返し点で一時的に休止させると共に、各層毎に前記大きい速度のトラバース運動の方向を90°切換えることによって、碁盤目状に集束糸条を収納している。
【0004】
このようにトウを碁盤目状に収納することによって、トウが梱包容器の内部全体に平均して収納でき、積み崩れ防止、収納嵩比重の増加につなげることができるものの、トウの収納方向が交差しているがために、トウを解舒する際に撚りが入りやすく、その結果、焼成工程において糸切れが発生しやすくなり、また装置自身の構造も複雑であってコストアップの一因ともなっている。
【0005】
また、上記特許文献1とは別に、トウ梱包容器の内部全体に平均してトウが収納でき、積み崩れが防止され、収納嵩比重が増加する炭素繊維前駆体トウの収納方法が、本願出願人によっても先に提案されている。その概要は、総繊度が48,000dtex〜72,0000dtexの太繊度の炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを揺動シュートを介してトウ梱包容器に振り込み梱包する方法であって、前記トウの収納嵩比重が340kg/ m
3 以上となるように、トウの振込み初期段階からトウ梱包容器の折り返し地点ごとに振込みトウに対してプレスを行なって前記トウ梱包容器に梱包するというものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、トウ梱包容器に収納状態にある炭素繊維前駆体トウを、その収納状態からトウを解舒する際に撚りが入らず、以降の焼成工程中の糸切れが低減でき、
しかも収納時の嵩比重が高く、炭素繊維の生産性の向上が更に図れる炭素繊維前駆体トウの収納方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明にあっては偏平形態をした総繊度が18,000dex〜210,000dtexの炭素繊維前駆体トウを揺動シュートを介してトウ梱包容器に振り込みながら、トウ梱包容器をシュートの揺動方向と直交する方向に往復動させて、トウ梱包容器の折り返し地点ごとに振り込まれたトウにプレスを行い圧縮する炭素繊維前駆体トウのトウ梱包容器への収納方法であって、
前記トウのトウ幅方向はトウ梱包容器が往復動する方向であり、
前記トウ梱包容器内の隣接するトウの折り返し地点間のピッチP(mm)とトウ幅T(mm)とを、
(1)総繊度が18,000dtex以上、72,000dtex以下の炭素繊維前駆体トウにあっては、1.5×T≦P≦3.0×Tの関係を、
(2)総繊度が72,000dtexより大きく、210,000dtex以下の炭素繊維前駆体トウにあっては、0.5×T≦P≦2.0×Tの関係を、
それぞれ満足することを特徴とする炭素繊維前駆体トウの収納方法を基本構成としている。
本発明は、先に提案された上記特許文献2及び3に開示された炭素繊維前駆体トウの収納方法を更に発展させたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、トウを碁盤目状に交差することなく振込むため、トウを解舒する際に撚りが入りにくくなるとともに、更に振り込まれるトウの折り返し地点間のピッチPとトウ幅Tとの間で、上記関係を満足させる上記特徴的構成を備えていることにより、トウ梱包容器への収納嵩比重を容易に増加させることができ、振り込まれたトウ同士の絡みも減らすことができるため、良好にトウを解舒することができ、結果として上記特許文献2及び3に開示された炭素繊維前駆体トウの収納方法以上に炭素繊維の生産性を大幅に高めるとともに、品質も一段と向上する。
【0010】
総繊度が18,000dtex以上、72,000dtex以下の炭素繊維前駆体トウにおいては、トウピッチPが1.5×Tより小さい場合には、プレスを行った際に、トウ幅が狭いため、シート状に振り込まれたトウが裏返しになったり、横の方に跳ばされたりして収納状態が悪化するとともに、トウ同士の重なりも大きくなるため、トウの収納嵩比重が小さくなり、炭素繊維の生産性が悪くなる。また、トウピッチPが3.0×Tより大きい場合には、トウの収納嵩比重は大きくなるが、トウピッチ間に次に積層されるトウが入り込むことでトウ同士の絡みが増え、良好にトウを解舒することができなくなる。
【0011】
総繊度が72,000dtexより大きく、210,000dtex以下の炭素繊維前駆体トウにおいては、トウピッチPが0.5×Tより小さい場合には、トウ幅が広いため、隣接するトウ同士の重なりが大きくなり、トウの収納嵩比重が小さくなって炭素繊維の生産性が悪くなる。また、トウピッチPが2.0×Tより大きい場合には、トウ梱包容器を往復動させるコンベアの速度を速くする必要があるが、トウ梱包容器の往復動方向の両端に振り込まれたトウをプレスすることが困難となり、その結果、両端が盛り上り、中央部がへこんだ凹型の収納状態となり、梱包途中に両端のトウが崩れることで、収納されたトウ同士の絡みが増え解舒時に撚りが発生したり、収納嵩比重が小さくなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の総繊度が18,000dtex〜210,000dtexの繊度からなる炭素繊維前駆体トウの梱包方法、その方法を実施するための梱包装置及びその梱包に使用するトウ梱包容器の好適な実施形態を、上記特許文献3の記載を踏まえて図面を参照しながら具体的に説明する。
【0014】
図1は本発明の代表的な実施形態に係る紡糸工程に続いて炭素繊維前駆体トウ並びに耐炎繊維前駆体トウを梱包する梱包工程の全体を概略で示す工程説明図である。
本実施形態によれば、上記特許文献3の記載と同様に、湿式紡糸にて得られる単糸繊度1.2dtex、フィラメント数50,000本のアクリル繊維の集合体からなる小トウ1を3本並列させた状態で複数の乾燥ロール11が並列する乾燥工程10に連続して導入して乾燥させる。その後、同乾燥工程10のトウ導出口の直前に配された水槽12の中にタッチロール13の一部を浸漬したタッチロール方式の水分付与手段をもって、小トウ1に1〜5wt%の水分を付与する。本実施形態にあっては、前述のように小トウに水分を付与しているが、水分付与を必ずしも行わなくてもよい。
【0015】
トウに水分を付与する時期は、集束して太繊度トウとなる前の小トウ1を偏平化する段階で付与することが望ましいが、これに限定されず、例えば小トウ1を集束して大繊度トウ2を形成した後にトウへの水分付与を行うこともできる。
【0016】
上述のようにして水分が付与された3本の小トウ1は、一旦そのトウ幅が均等になるように狭められ、それぞれが独立して次工程である小トウの構成繊維フィラメント同士を交絡させる単繊維交絡工程20へと同時に送り込まれる。この単繊維交絡工程20には、並列して同時に送り込まれた3本の小トウ1は、それぞれ独立して配された前記各偏平ノズル21の間の間隙に導入され、そこでエアが吹き付けられて小トウごとに、その構成フィラメントを交絡させる。本実施形態にあっても、上記特許文献3と同様、吹き付けるエア圧を100kPaに設定しており、同時に各小トウ1の張力を700gとなるように張力制御している。
【0017】
単繊維交絡工程20にて、それぞれに単糸交絡がなされた小トウ1は、
図1に示すトウ寄せ工程30に導入されて、湾曲部材31の凹状湾曲面に沿って各小トウが中央へと引き寄せられて150,000本の構成フィラメントからなる一枚の偏平化した大繊度のトウ2とされたのち図示せぬ交絡装置により隣接小トウ間の構成フィラメント同士が交絡され、次工程であるトウ振込機導入部50へと送られる。なお本発明にあっては、前記トウ寄せ工程30、湾曲部材31及び図示せぬ交絡装置により隣接小トウ間の構成フィラメント同士を交絡させる工程を省略することもできる。
【0018】
前記トウ振込機導入部50と前記トウ寄せ工程30との間には、
図1及び
図3に示すように、複数のフィードロール41を備えたトウ送出し部40が配されており、前記フィー
ドロール41によるフィード量を制御して、上記単繊維交絡工程20における小トウ1の張力を制御している。トウ寄せ工程30にて一本となった大繊度のトウ2は、複数のガイドロール42に案内されてほぼ水平に走行し、前記トウ振込機導入部50にて変向ロール51に案内されて垂直下方へと向きを変え、直下に設置されたトウ振込機60の一対のギアロール61間へと送り込まれる。
【0019】
前記トウ振込機60は、
図4及び
図5に示すように、左右一対の前記ギアロール61と、同一対のギアロール61の間のトウ送出し位置の直下にトウ導入開口部62aを対向させるとともに、その上端のトウ導入開口部62aの近傍を揺動中心として、全体が同一鉛直面内を揺動可能に支承されたトウ振込みシュート62と、同トウ振込みシュート62の下方にあってトウ梱包容器63の載置位置に配され、同トウ振込みシュート62の揺動方向と直交する方向にトウ梱包容器63を往復動させる容器往復駆動コンベア64と、前記トウ梱包容器63の往復動折返し位置のそれぞれ上方に配された前後一対のプレス装置65とを備えている。
【0020】
上記トウ振込みシュート62は、ステンレス、アルミ合金、銅合金などの金属板が使われ、同金属板をプレス加工したのち溶接などによって製作される方形筒体からなる。本実施例によれば、
図5に示すように、同トウ振込みシュート62のトウ導入開口部62aの開口断面は正方形に近く、その中間部62bの開口断面はシュート62の揺動方向の内壁間隔を揺動方向に直交する方向の間隙の略1/2と狭めた矩形状をなしており、更にその下端部のトウ振出し開口部62cの開口断面を前記矩形状の中間部開口断面よりも更に薄くして、トウ導入開口部62a、中間部62b、トウ振出し開口部62cへと連続して、その方形の開口断面をシュート62の揺動方向に順次薄くしている。
【0021】
因みに、本実施形態にあっても、上記特許文献3の記載と同様に、前記トウ導入開口部62aのトウ幅方向及びトウ厚み方向の開口幅は双方ともに150mmであるが、中間部62bでの前記トウ幅方向及びトウ厚み方向の開口幅はそれぞれ100mm、45mmに縮小し、さらにトウ振出し開口部62cではそのトウ厚み方向の開口幅は30mmとしている。この場合、シュート62の中間部62b及びトウ振出し開口部62cにおけるトウ幅方向の長さは、シュート62に導入されるトウの幅の略2倍に設定して幅方向に余裕を持たせている。
【0022】
さらに好ましい変形例として、
図6及び
図7に示すように、均等な矩形断面を有するシュート本体62dの開口部に延長シュート62d’を設けることができる。この場合に延長シュート62d’の上端部形状は、そのトウの幅方向内寸をトウ幅の3倍程度とし、また、トウ厚み方向の開口寸法を振り込み側に向けて残減させて、略30mmとすることが好ましい。このような形状をもつ延長シュート62d’をシュート本体62dの開口部に設けることにより、後述するシュート内を走行するトウ2に振り出し方向へ引張力を付与するエアカーテン状の空気流を作り出すための図示せぬ引張力付与手段となる給気部を設けることが可能となる。これにより、トウ2を振込みシュート62内で詰まらせることなく円滑に走行させて、延長シュート62d’から安定して振り出すことができる。
【0023】
このように、シュート62のトウ振出し端において矩形開口をトウ幅方向で変えることなく、揺動方向(トウ厚み方向)で薄く形成するため、シュート62の内部を走行するトウ2の捩じれが防止でき、下方に振り出されるときもトウは捩じれずに、テープ状の偏平形態を保持できる。更に
図4に示すように、シュート62内を走行するトウ2に振り出し方向へ引っ張り力を付与するために、シュート62のトウ導入開口部にシュート内部に向けて空気流をつくり出す給気部62″を設けている。この給気部62″に代えて、シュート62のトウ振出し開口部の近傍に振り出し方向に向けてエアカーテン状の空気流を作り出す給気部を設けることもできる。このシュート62を大繊度のトウ2が通過するときに
、シュート62内でトウ2が摩擦による損傷を受けないようにシュート62の内面にはバフ研磨仕上げが施されているとよい。
【0024】
また、本実施形態によるトウ振込みシュート62は、
図2及び
図4に示すように、同シュート62の揺動を前後方向Yとするとき、その左右側面のうちの一側面の上端に板材からなるブラケット62’の下半部を溶接などにより固設しておき、同ブラケット62’の上半部の中央部が図示せぬ駆動源によって駆動回転する回転軸にカムなどの揺動機構を介して結合され、前記ブラケット62’が前記回転軸の軸線上を揺動中心として所要の揺動幅でシュート62の全体を揺動させる。このときのシュート62のトウ振出し開口部の揺動幅は下方に配されるトウ梱包容器63の振込方向の内寸とほぼ一致させている。その揺動機構は、前述のごとくカムやリンク機構など公知の機構が採用できる。また、サーボモーターによって直接往復動の幅を制御してもよい。すなわち、ギアロール61を通して下方に送り出される大繊度のトウ2は、トウ振込みシュート62に導入されるが、このとき前記シュート62のトウ導入開口部62aから先端のトウ振出し開口部62cに到る全体がブラケット62’を介して同一方向に揺動されるようになるため、同シュート62の内部を円滑に走行する。
【0025】
容器往復駆動コンベア64は、上記特許文献3の記載と同様、
図4及び
図8に示すようにロールコンベアからなり、前記シュート62の揺動方向と直交する方向に複数の並列する回転ロール64aが同一水平面上に配されている。これらの回転ロール64aは、例えば図示せぬ単一の駆動軸により往復回転する駆動ロールのロール軸端に固設された同じく図示せぬチェーンホイールを介して過の従動ロールの軸端に固設されたチェーンホイールと図示せぬチェーンを介して連結され、同一方向に同調して回転する。本実施形態にあっては、前記回転ロール64aの支持フレーム64bの一部に光電管式検出器64cが配されており、これにより容器往復駆動コンベア64上を移送されるトウ梱包容器63の所定位置への到達を検出し、その検出信号が図示せぬ制御部に送られて、その信号を受けて同制御部からの指令により前記回転ロール64aの駆動源を反転させ、所定の位置でトウ梱包容器63を折り返させて、これを繰り返す。
【0026】
また本実施形態にあっては、
図4に示すように前記トウ梱包容器63の往復動の各折返し位置のそれぞれ上方にあって、シュート62から振込まれるトウ2を挟んで前後に一対のプレス装置65が配されている。これらのプレス装置65は、
図9に拡大して示すように、それぞれが多段シリンダー65aと、各多段シリンダー65aの伸縮端を中央部に固設した板材からなるプレス部材65bとを備えている。多段シリンダー65aは所要のストローク長を確保するとともにシリンダー全体の長さをコンパクト化するのに適している。本発明では、プレス装置65によるプレスは大型のトウ梱包容器63であってもトウ2を振込む初期段階から行われるため、また同時に次第に上昇するトウの振込み面に追従させる必要があるため、特にシリンダー65aによる伸縮ストロークを通常よりも長くする必要がある。本実施例によれば、2段シリンダー65aを採用して、こうした点に対応させている。さらにプレスする際にトウ梱包容器63がトウ2の振込み方向に直交させて往復させており、プレスしている時間もトウ梱包容器が往復動をしている。このため、トウ梱包容器にプレス装置を追従させるために、プレス装置取り付け部が、トウ梱包容器往復動と同じ方向に揺動可能なヒンジ機構により取り付けられていることがより好ましい。
【0027】
前記プレス部材65bは、
図2及び
図9に示すように、前記トウ梱包容器63の底部形状と略同一の形状をもつ金属製板材から製作されている。同金属製板材の周縁部の強度と剛性を確保すべく、その周縁には補強壁65b’が直立して立設されており、前記金属製板材の下面及び補強壁65b’の外面はバフ研磨仕上げがなされて容器内のトウ2に対するプレス時の毛羽などが発生することを防止している。また、特に本実施例では、前後に配された一対の前記プレス部材65bの対向する一側面には互いに離間する方向に斜めに
立ち上がる傾斜壁65b″を有している。この傾斜壁65b″は、各プレス部材65bが交互に作動するとき、シュート62から引き続き振込まれるトウ2がプレス装置65の作動側領域に入り込まないように、トウ2を振込み側へと向かわせるための壁面を構成している。
【0028】
すなわち本実施形態にあっても、上記特許文献3の記載と同様に、トウ2をトウ梱包容器63に振込むとき、トウ2の振込み開始時からプレスを行っており、そのプレスと同時にトウ梱包容器63の半部にてトウ2の振込みが続行している。そのプレスのタイミングはトウ梱包容器63の各折返し時において反対側の半部にて行うようにしている。このときの位置検出は、既述したとおり光電管式検出器64cにて検出している。トウ梱包容器63の折返し位置にて一方のプレス部材65bが作動するときに、他方のプレス部材65bは上方の待機位置にあるが、このとき同時に待機するプレス部材65bの側では引き続きトウ2の振込みが行われている。このとき、プレス側にトウ2が入り込まないようにプレス側のプレス部材65の前記傾斜壁65b″をもって振込まれてくるトウ2を振込み側へと確実に向かわせる。
【0029】
前記プレス部材65bはステンレス製の多孔板にて製作するとよい。これは、プレス部材65bが下降してトウ2をプレスする際に、空気の抜けを促し、風圧による糸条の乱れを防止することと、プレスするトウ2のフィラメント間に存在するするエアを抜くためである。その開口率は20〜40%であることが好ましい。また、その孔径は、トウ2が入り込まないように5〜15mmに設定する。因みに本実施例では孔径を10mmとして、ピッチを17.5mm、開孔率30%で千鳥配列としており、そのプレス面にはバフ研磨にて仕上げ加工が施されてトウ2の引っ掛かりをなくしている。
【0030】
本実施例では、トウ2をトウ梱包容器63の隅々まで均等に振込むため、既述したようにシュート62の先端揺動幅をトウ梱包容器63の内寸と同じにしている。そのため、トウ2の振込み面が上昇してくるとトウ梱包容器63の上端からトウ2が外側に溢れる可能性がある。そこで、本実施例では矩形開口面をもつトウ梱包容器63の上端開口部に、
図8に示すように上方に向けてテーパ状に拡がり、さらにトウ梱包容器63の上端開口部の内側に密嵌するフランジ状の嵌着部66aをもつ補助部材66を予め用意している。この補助部材66の材質も、上記プレス部材65bと同様に、内面をバフ研磨仕上げしたステンレス製としている。この補助部材66を容器上端部に嵌着することにより、シュート62の揺動に伴うトウ2の溢れを防止するとともに、プレス後にトウ梱包容器63の上端を越えてトウ2を充填できる。すなわち、本補助部材66を取り付けることにより、見掛けの容器深さを深くでき、その結果、プレス前はトウ梱包容器63の上端開口面よりもトウ2を高く詰め込むことができ、トウ2が容器外に溢れるのを防止する。しかも、トウ2の収納終了後には、図示せぬ緩衝材を介して圧縮梱包されるため、容器内のトウの収納嵩比重をより高くすることができる。
【0031】
本発明の梱包方法に使用されるトウ梱包容器63の好ましい態様については、上記特許文献3に記載されたトウ梱包容器に倣っているため、ここでのトウ梱包容器63に関する具体的な説明は割愛する。
【0032】
ここで、本発明にあっては、偏平形態をした18,000dtex以上、210,000dtex以下の総繊度が比較的細い繊度から極めて太い繊度までの範囲にある炭素繊維前駆体トウ2を揺動シュートを介してトウ梱包容器に振込みながら、トウ梱包容器63をシュート62の揺動方向Yと直交する方向Xに往復動させて、トウ梱包容器63の折り返し地点ごとに振込まれたトウ2にプレスを行い圧縮する炭素繊維前駆体トウ2のトウ梱包容器63へと収納する。本発明者は、多くの検討と実験、試験を繰り返した結果、炭素繊維前駆体トウ2をトウ梱包容器63へと収納するとき、トウ2の収納嵩比重と収納形態に
ついて、トウ2の総繊度が大きく影響し、その総繊度の大きさに応じて、
図2に示すように、トウ2の折り返し地点における隣接して収納されるトウ間のトウピッチP(mm)とトウ幅T(mm)とを適切に変更する必要があることを知った。
【0033】
また同時に、トウピッチP(mm)とトウ幅T(mm)との関係は、トウ2の総繊度を比較的細い18,000dtex以上、72,000dtex以下の範囲と、太い72,000dtexより太く、210,000dtex以下の範囲とに分けて行う必要があり、それぞれの総繊度の範囲のトウ2について、所定の関係式を満足すれば、上記特許文献2や3に記載された収納嵩比重よりも高い収納嵩比重をもって同様のトウ梱包容器63に収納が可能となり、しかも型崩れがなく解舒撚りが極めて少ないトウ2が得られることを知った。
【0034】
すなわち、総繊度が18,000dtex以上、72,000dtex以下の範囲にある比較的細い炭素繊維前駆体トウ2にあっては、式1.5×T≦P≦3.0×Tの関係を満たし、総繊度が72,000dtexより太く、210,000dtex以下の範囲にある太い炭素繊維前駆体トウにあっては、式0.5×T≦P≦2.0×Tの関係を満たすことにより、上述の収納嵩比重を更に上げるだけでなく、トウ同士の絡み合いがなく、トウをトウ梱包容器から引き出すときに生じやすい解舒撚りの発生もなく、高品位の炭素繊維を高い生産性の下で安定して製造することができるようになる。
【0035】
総繊度が18,000dtex以上、72,000dtex以下の比較的繊度の細い炭素繊維前駆体トウ2にあっては、
図2に示すトウピッチPとトウ幅Tとの関係が、トウピッチPがトウ幅Tの1.5倍よりも小さいと、上述のプレスを行ったときトウ幅Tが狭いため、シート状に振込まれたトウ2が裏返しになったり、横の方に跳ばされたりして収納状態が悪化するとともに、トウ同士の重なりも大きくなり、結果的にトウ2の収納嵩比重が小さくなるだけでなく、解舒撚りが生じたり、炭素繊維の生産性を低下させてしまう。一方、トウピッチPがトウ幅Tの3倍よりも大きくなると、トウ2の収納嵩比重は大きくなるものの、トウピッチPの間に次に積層されるトウ2が入り込むことによってトウ同士の絡み合いが増え、良好にトウを解舒することができなくなる。
【0036】
一方、総繊度が72,000dtexより太く、210,000dtex以下の太い繊度の炭素繊維前駆体トウ2にあっては、トウ幅Tが広くなるため、トウピッチPがトウ幅Tの半分より小さいと、隣接するトウ同士の重なりが大きくなり、トウ2の収納嵩比重が小さくなって炭素繊維の生産性を悪化させる。また、トウピッチPがトウ幅Tの2.0倍より大きい場合には、トウ梱包容器63を往復動させる容器往復駆動コンベア64(
図4及び
図8参照)の速度を速くする必要があり、トウ梱包容器の往復動方向Xの両端に振込まれたトウ2をプレスすることが困難となる。その結果、トウ2の折り返し地点における両端が盛り上り、中央部がへこんだ凹型の収納状態となり、梱包途中に両端のトウが崩れやすくなり、収納されたトウ同士の絡みが増え解舒時に撚りが発生したり、収納嵩比重が小さくなってしまう。
【0037】
このように、炭素繊維前駆体トウ2の総繊度が、18,000dtex以上、72,000dtex以下の比較的細い繊度である場合と、72,000dtexより太く、210,000dtexの太い繊度にある場合とでは、それぞれに一長一短があることから、それらに深く影響する上記トウピッチPとトウ幅Tとの関係を、それぞれ上記式を満足しなければならない。
【0038】
本発明の梱包方法によって、総繊度が18,000dtex〜210,000dtexの繊度のトウをトウ梱包容器に、上記特許文献2及び3に開示された収納嵩比重以上の嵩比重をもって極めて大量のトウを所定の大きさのトウ梱包容器にコンパクトに梱包するこ
とができ、しかも解舒撚りが発生せず、収納崩れも生じることなくトウを整然と振込むことができるようになる。このため、例えばその後に行われる焼成工程などの炭素繊維製造工程への前記前駆体トウの運送を効率的に行うことができるようになり、また炭素繊維製造工程におけるトウをトウ梱包容器から引き出し解舒するときも品質の高いトウが得られて歩留りが高くなり、炭素繊維の生産性がより向上でき、炭素繊維の大幅なコストダウンが実現できる。
以下、本発明を更に具体的な実施例に基づいて詳しく説明する。
【0039】
(実施例1及び比較例1,2)
繊度60,000dtexの総繊度が比較的細い炭素繊維前駆体トウを、上述と同様の方法にて、シュートの揺動方向の寸法が720mm、容器の往復動方向の寸法が1100mm、高さが1000mmからなるトウ梱包容器に振込んだ。
【0040】
表1に、隣接して収納されるトウピッチPを、一定のトウ幅T(20mm)に対して、1.77×T、1.3×T、3.2×Tとしてシュートを通して前記トウ梱包容器に振込み、トウ梱包容器に振込まれたトウの梱包重量及び収納嵩比重と解舒したときの状態を示す。
【0042】
この表1から理解できるように、本発明において、隣接して折り返し収納されるトウピッチPを1.5×T≦P≦3.0×Tの範囲に設定することにより、トウの収納嵩比重は大きくなるとともに、解舒状態は良好となる。逆に、トウピッチPが1.5×Tよりも小さいと収納嵩比重は小さくなるとともに、解舒する際に撚りが発生する。また、トウピッチPが3.0×Tよりも大きいと収納嵩比重は大きくなるが、解舒する際にトウ同士の絡みにより、撚りが発生する。
【0043】
(実施例2,3及び比較例3)
繊度60,000dtexの炭素繊維前駆体の小トウを3本合糸し、一枚の偏平化した180,000dtexの太繊度のトウを揺動シュートを介してトウ梱包容器に振込みながら、トウ梱包容器をシュートの揺動方向と直交する方向に往復動させ、トウ梱包容器の折り返し地点ごとに振込まれたトウに対してプレスを行い圧縮される方法にて、トウをシュートの揺動方向の容器寸法が720mm、トウ梱包容器の往復動方向の容器寸法が720mm、容器高さが1000mmであるトウ梱包容器に振込んだ。表2に、トウの収納速度、トウ梱包容器の速度を変更することで、隣接して収納されるトウピッチPを、一定のトウ幅T(70mm)に対して、0.6×T、1.29×T、0.26×Tとして振込みを行い、トウ梱包容器に振込まれたトウの梱包重量及び収納嵩比重と解舒したときの状態を示す。
【0045】
表2から理解できるように、本発明において、隣接して収納されるトウピッチPを0.5×T≦P≦2.0×Tの範囲に設定することにより、トウの収納嵩比重を比較例3と比較して増大することができるとともに、解舒状態は良好となる。逆にトウピッチPが0.5×Tよりも小さいと収納嵩比重が小さくなり、解舒状態も悪化することが分かる。