特許第5708807号(P5708807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5708807
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】素子及び太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20150409BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20150409BHJP
   H01B 1/22 20060101ALN20150409BHJP
   H01B 1/00 20060101ALN20150409BHJP
【FI】
   H01L31/04 264
   H01L21/28 301R
   !H01B1/22 A
   !H01B1/00 L
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-525682(P2013-525682)
(86)(22)【出願日】2012年7月18日
(86)【国際出願番号】JP2012068233
(87)【国際公開番号】WO2013015172
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2013年10月8日
(31)【優先権主張番号】特願2011-162599(P2011-162599)
(32)【優先日】2011年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 修一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠人
(72)【発明者】
【氏名】野尻 剛
(72)【発明者】
【氏名】栗原 祥晃
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆彦
【審査官】 濱田 聖司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/109905(WO,A1)
【文献】 特開2010−13730(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/078374(WO,A1)
【文献】 特開2007−19106(JP,A)
【文献】 特開2005−222737(JP,A)
【文献】 特開2001−110232(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/046176(WO,A1)
【文献】 特開2008−34592(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/090215(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/090214(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/090211(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/140786(WO,A1)
【文献】 特開2012−227182(JP,A)
【文献】 特開2012−227184(JP,A)
【文献】 特開2012−226837(JP,A)
【文献】 特開2013−26581(JP,A)
【文献】 L.N.Ho,'Electrical Properties of Pre-Alloyed Cu-P Containing Electrically Conductive Adhesive',THE JOURNAL OF ADHESION,vol.86, no.8, 2010,pages 807-815
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31、21
H01B 1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、前記半導体基板上に配置された電極と、を有し、前記電極は、リン含有銅合金粒子、ガラス粒子、及び分散媒を含む電極用組成物の焼成物であり、電極短尺:電極高さとして定義されるアスペクト比が2:1〜250:1である形状が線状の電極を含み、前記リン含有銅合金粒子中のリン含有率が6質量%以上8質量%以下である、素子。
【請求項2】
前記ガラス粒子は、ガラス軟化点が600℃以下であり、結晶化開始温度が600℃を超える請求項に記載の素子。
【請求項3】
前記電極用組成物が、銀粒子を更に含む請求項1又は請求項2に記載の素子。
【請求項4】
前記リン含有銅合金粒子と前記銀粒子の総量を100質量%としたときの銀粒子の含有率が5質量%以上65質量%以下である請求項に記載の素子。
【請求項5】
前記電極用組成物中の前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が70質量%以上94質量%以下であり、前記ガラス粒子の含有率が0.1質量%以上10質量%以下であり、前記分散媒の含有率が3質量%以上29.9質量%以下である請求項又は請求項に記載の素子。
【請求項6】
前記半導体基板が不純物拡散層を有し、前記不純物拡散層の上に前記電極が配置されている、太陽電池に用いる請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の素子。
【請求項7】
請求項に記載の太陽電池に用いる素子と、前記素子の前記電極上に配置されたタブ線と、を有する太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子及び太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にシリコン系太陽電池の受光面には表面電極が設けられている。表面電極の配線抵抗や接触抵抗は変換効率に関連する電圧損失に関連する。また表面電極の配線幅や形状は太陽光の入射量に影響を与える。
【0003】
太陽電池の表面電極は通常以下のようにして形成される。すなわち、p型半導体基板の受光面側にリン等を高温で熱的に拡散させることにより形成されたn型半導体層上に、導電性組成物をスクリーン印刷等により付与し、これを800℃〜900℃で焼成することで表面電極が形成される。この表面電極を形成する導電性組成物には、導電性金属粉末、ガラス粒子、及び種々の添加剤等が含まれる。
【0004】
前記導電性金属粉末としては、銀粉末が一般的に用いられているが、種々の理由から銀粉末以外の金属粉末を用いることが検討されている。例えば、銀とアルミニウムを含む太陽電池用電極を形成可能な導電性組成物が開示されている(例えば、特開2006−313744号公報参照)。
また銀を含む金属ナノ粒子と銀以外の金属粒子を含む電極形成用組成物が開示されている(例えば、特開2008−226816号公報参照)。
【0005】
一般に電極形成に用いられる銀は貴金属であり、資源が限られており地金自体が高価であることから銀含有導電性組成物(銀含有ペースト)に代わる材料の提案が望まれている。銀に代わる有望な材料としては、半導体配線材料に適用されている銅が挙げられる。銅は資源的にも豊富で、地金の価格も銀の約100分の1である。
【0006】
しかしながら、銅は200℃以上の高温で酸化されやすい。このため、例えば、特開2006−313744号公報に記載の電極形成用組成物では、導電性金属として銅を含む場合、これを焼成して電極を形成するために、窒素等の雰囲気下で焼成するという特殊な工程が必要であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、焼成時における銅の酸化が抑制され、低抵抗率化が図られた電極を有する素子、及び前記素子を有する太陽電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1>半導体基板と、前記半導体基板上に配置された電極と、を有し、前記電極は、リン含有銅合金粒子、ガラス粒子、及び分散媒を含む電極用組成物の焼成物であり、電極短尺:電極高さとして定義されるアスペクト比が2:1〜250:1である形状が線状の電極を含み、前記リン含有銅合金粒子中のリン含有率が6質量%以上8質量%以下である、素子。
【0010】
>前記ガラス粒子は、ガラス軟化点が600℃以下であり、結晶化開始温度が600℃を超える<1>に記載の素子。
【0011】
>前記電極用組成物が、銀粒子を更に含む<1>又は<2>に記載の素子。
【0012】
>前記リン含有銅合金粒子と前記銀粒子の総量を100質量%としたときの銀粒子の含有率が5質量%以上65質量%以下である<>に記載の素子。
【0013】
>前記電極用組成物中の前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が70質量%以上94質量%以下であり、前記ガラス粒子の含有率が0.1質量%以上10質量%以下であり、前記分散媒の含有率が3質量%以上29.9質量%以下である<>又は<>に記載の素子。
【0014】
>前記半導体基板が不純物拡散層を有し、前記不純物拡散層の上に前記電極が配置されている、太陽電池に用いる<1>〜<>のいずれか1項に記載の素子。
【0015】
><>に記載の太陽電池に用いる素子と、前記素子の前記電極上に配置されたタブ線と、を有する太陽電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、焼成時における銅の酸化が抑制され、低抵抗率化が図られた電極を有する素子、及び前記素子を有する太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の素子の断面を含む斜視図である。
図2】本実施形態の太陽電池素子の断面図である。
図3】本実施形態の太陽電池素子の受光面側を示す平面図である。
図4】本実施形態の太陽電池素子の裏面側を示す平面図である。
図5】本実施形態の太陽電池素子の一例としてのバックコンタクト型太陽電池素子を示す図であり、図6に示されるAA断面における構成を示す斜視図である。
図6】本実施形態の太陽電池素子の一例としてのバックコンタクト型太陽電池素子を示す図であり、裏面側の電極構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。
また、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
さらに本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0019】
<素子>
本発明の素子は、半導体基板と、前記半導体基板上に配置された電極と、を有する。前記電極は、リン含有銅合金粒子、ガラス粒子、及び分散媒を含む電極用組成物の焼成物であり、電極短尺:電極高さとして定義されるアスペクト比が2:1〜250:1である形状が線状の電極を含む。
【0020】
前記電極がリン含有銅合金粒子を用いて形成されることで、銅の耐酸化性が高められる。これは、銅合金粒子に含有されるリンが銅酸化物に対して還元剤として機能するためと考えられる。これにより銅の酸化が抑えられ、抵抗率の低い電極が形成されるものと推測される。
また、前記電極がアスペクト比が2:1〜250:1である形状が線状の電極を含むことで、リン含有銅合金粒子から形成された電極の抵抗率をさらに低くすることができ、また、電極の基板に対する密着性を向上できる。
【0021】
前記アスペクト比は、以下の通りに定義される。すなわち図1に示すように、前記アスペクト比は、基板21上の電極22の短尺(w)と電極22の高さ(h)の比(w:h)である。電極22の短尺(w)は、電極22が基板21に接している部分における電極22の短尺の長さをいう。電極22の高さ(h)は、基板21からの電極22の高さ(厚さ)をいう。
【0022】
前記「形状が線状の電極」とは、基板21の平面図(基板の厚さ方向から観察したとき、例えば図3)において、長尺方向と短尺方向を有する細長い形状の電極をいう。前記形状が線状の電極は、平面図において直線であっても曲線であってもよい。また、図1に示すような基板21の厚さ方向での断面図において、電極22の断面は、矩形、半円、三角形その他の形状であってもよい。また、電極22の断面形状が矩形の場合には、断面形状は正方形、長方形、台形などいずれの形状であってもよい。なお、電極22の高さ(h)とは、電極22の断面形状において電極22の高さが最も高くなる部分での基板21からの距離をいう。
【0023】
前記アスペクト比は、例えば、触針式表面形状測定装置により算出することができる。
なお、接触式表面形状測定装置で測定する場合には、基板21上に形成された膜(例えば、反射防止膜)が存在するときはその膜の厚さを電極22の高さ(h)に加算する。
前記アスペクト比は、一本の電極の10箇所で短尺及び高さを測定して得た値の平均値である。
【0024】
前記アスペクト比は、2:1〜250:1であり、2.5:1〜230:1であることが好ましく、3:1〜200:1であることがより好ましく、3:1〜180:1であることがさらに好ましく、3:1〜150:1であることが一層好ましい。電極の高さがアスペクト比2:1を満たす高さよりも高いと、電極の基板に対する密着性が低下する傾向にある。また電極の高さがアスペクト比250:1を満たす高さよりも低いと、後述する太陽電池を製造する際に、半導体基板に形成された凹凸(テクスチャー)の形状に沿って十分な厚さの電極を形成できず、電極の抵抗率を低くできない傾向にある。
【0025】
前記アスペクト比が2:1〜250:1である電極を基板の厚さ方向から見たときの面積が電極全体の面積に占める割合は90%〜100%が好ましく、92%〜100%がより好ましく、95%〜100%がさらに好ましい。上記割合が90%〜100%であると、本発明の効果がより有効に達成される。
【0026】
前記アスペクト比が2:1〜250:1である電極の短尺の長さは30μm〜2000μmが好ましく、50μm〜1800μmがより好ましく、50μm〜1600μmがさらに好ましい。上記長さが30μm〜2000μmであると、本発明の効果がより有効に達成される。なお前記短尺の長さは、一本の電極の10箇所で測定して得た値の平均値である。
【0027】
(リン含有銅合金粒子)
前記電極用組成物は、リン含有銅合金粒子の少なくとも1種と、ガラス粒子の少なくとも1種と、分散媒の少なくとも1種と、を含む。かかる構成であることにより、焼成時における銅の酸化が抑制され、抵抗率の低い電極を形成することができる。
【0028】
前記電極用組成物は、リン含有銅合金粒子の少なくとも1種を含む。
前記リン含有銅合金に含まれるリン含有率は、耐酸化性と低抵抗率の観点から、リン含有率が6質量%以上8質量%以下であることが好ましく、6.3質量%以上7.8質量%以下であることがより好ましく、6.5質量%以上7.5質量%以下であることが更に好ましい。リン含有銅合金に含まれるリン含有率が8質量%以下であることで、より低い抵抗率を達成することが可能であり、また、リン含有銅合金の生産性に優れる。また6質量%以上であることで、より優れた耐酸化性を達成できる。
【0029】
前記リン含有銅合金としては、リン銅ろう(リン濃度:通常7質量%程度以下)と呼ばれるろう付け材料が知られている。リン銅ろうは、銅と銅との接合剤としても用いられるものである。前記電極用組成物においてリン含有銅合金粒子を用いることで、リンの銅酸化物に対する還元性を利用し、耐酸化性に優れ、抵抗率の低い電極を形成することができる。さらに電極の低温焼成が可能となり、プロセスコストを削減できるという効果を得ることができる。
【0030】
前記リン含有銅合金粒子は、銅とリンを含む合金であるが、他の原子をさらに含んでいてもよい。他の原子としては、例えば、Ag、Mn、Sb、Si、K、Na、Li、Ba、Sr、Ca、Mg、Be、Zn、Pb、Cd、Tl、V、Sn、Al、Zr、W、Mo、Ti、Co、Ni、及びAu等を挙げることができる。
また前記リン含有銅合金粒子に含まれる他の原子の含有率は、例えば、前記リン含有銅合金粒子中に3質量%以下とすることができ、耐酸化性と低抵抗率の観点から、1質量%以下であることが好ましい。
【0031】
前記リン含有銅合金粒子は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
前記リン含有銅合金粒子の粒子径としては特に制限はないが、小径側から積算した重量が50%の場合における粒子径(以下、「D50%」と略記することがある)として、0.4μm〜10μmであることが好ましく、1μm〜7μmであることがより好ましい。0.4μm以上とすることで耐酸化性がより効果的に向上する。また10μm以下であることで電極中におけるリン含有銅合金粒子どうしの接触面積が大きくなり、抵抗率がより効果的に低下する。尚、リン含有銅合金粒子の粒子径は、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製、MT3300型)によって測定される。
【0033】
また前記リン含有銅合金粒子の形状としては特に制限はなく、略球状、扁平状、ブロック状、板状、及び鱗片状等のいずれであってもよい。前記リン含有銅合金粒子の形状は、耐酸化性と低抵抗率の観点から、略球状、扁平状、または板状であることが好ましい。
【0034】
前記電極用電極用に含まれる前記リン含有銅合金粒子の含有率、また後述する銀粒子を含む場合のリン含有銅合金粒子と銀粒子の総含有率としては、例えば、70質量%〜94質量%とすることができ、耐酸化性と低抵抗率の観点から、72質量%〜90質量%であることが好ましく、74質量%〜88質量%であることがより好ましい。
【0035】
前記リン含有銅合金粒子に用いるリン含有銅合金は、通常用いられる方法で製造することができる。また、リン含有銅合金粒子は、所望のリン含有率となるように調製したリン含有銅合金を用いて、金属粉末を調製する通常の方法を用いて調製することができ、例えば、水アトマイズ法を用いて定法により製造することができる。尚、水アトマイズ法の詳細は金属便覧(丸善(株)出版事業部)等に記載されている。
具体的には例えば、リン含有銅合金を溶解し、これをノズル噴霧によって粉末化した後、得られた粉末を乾燥、分級することで、所望のリン含有銅合金粒子を製造することができる。また、分級条件を適宜選択することで所望の粒子径を有するリン含有銅合金粒子を製造することができる。
【0036】
(ガラス粒子)
前記電極用組成物は、ガラス粒子の少なくとも1種を含む。電極用組成物がガラス粒子を含むことにより、焼成時に電極部と基板との密着性が向上する。また、電極形成温度において、いわゆるファイアースルーによって反射防止膜である窒化ケイ素膜が取り除かれ、電極と半導体基板とのオーミックコンタクトが形成される。
【0037】
前記ガラス粒子は、電極形成温度で軟化・溶融し、接触した窒化ケイ素膜を酸化し、酸化された二酸化ケイ素を取り込むことで、反射防止膜を除去可能なものであれば、当該技術分野において通常用いられるガラス粒子を特に制限なく用いることができる。
前記ガラス粒子は、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、ガラス軟化点が600℃以下であって、結晶化開始温度が600℃を超えるガラスを含むガラス粒子であることが好ましい。尚、前記ガラス軟化点は、熱機械分析装置(TMA)を用いて通常の方法によって測定され、また前記結晶化開始温度は、示差熱−熱重量分析装置(TG−DTA)を用いて通常の方法によって測定される。
【0038】
一般に電極用組成物に含まれるガラス粒子は、二酸化ケイ素を効率よく取り込み可能であることから鉛を含むガラスから構成されることが好ましい。このような鉛を含むガラスとしては、例えば、特許第3050064号明細書等に記載のものを挙げることができ、本発明においてもこれらを好適に使用することができる。
【0039】
また本発明においては、環境に対する影響を考慮すると、鉛を実質的に含まない鉛フリーガラスを用いることが好ましい。鉛フリーガラスとしては、例えば、特開2006−313744号公報の段落番号0024〜0025に記載の鉛フリーガラスや、特開2009−188281号公報等に記載の鉛フリーガラスを挙げることができ、これらの鉛フリーガラスから適宜選択して本発明に適用することもまた好ましい。
【0040】
前記電極用組成物に用いられるガラス粒子を構成するガラス成分としては、二酸化ケイ素(SiO)、酸化リン(P)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ホウ素(B)、酸化バナジウム(V)、酸化カリウム(KO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化リチウム(LiO)、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化鉛(PbO)、酸化カドミウム(CdO)、酸化スズ(SnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化ランタン(La)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、酸化イットリウム(Y)、酸化チタン(TiO)、酸化ゲルマニウム(GeO)、酸化テルル(TeO)、酸化ルテチウム(Lu)、酸化アンチモン(Sb)、酸化銅(CuO)、酸化鉄(FeO)、酸化銀(AgO)及び酸化マンガン(MnO)が挙げられる。
【0041】
中でも、SiO、P、Al、B、V、Bi、ZnO及びPbOから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。具体的には、ガラス成分として、SiO、PbO、B、Bi及びAlを含むものが挙げられる。このようなガラス粒子の場合には、軟化点が効果的に低下し、さらにリン含有銅合金粒子及び必要に応じて添加された銀粒子との濡れ性が向上するため、焼成過程での前記粒子間の焼結が進み、抵抗率のより低い電極を形成することができる。
【0042】
他方、低接触抵抗率の観点からは、五酸化二リンを含むガラス粒子(リン酸ガラス、P系ガラス粒子)であることが好ましく、五酸化二リンに加えて五酸化二バナジウムを更に含むガラス粒子(P−V系ガラス粒子)であることがより好ましい。
五酸化二バナジウムを更に含むことで、耐酸化性がより向上し、電極の抵抗率がより低下する。これは、例えば、五酸化二バナジウムを更に含むことでガラスの軟化点が低下することに起因すると考えることができる。五酸化二リン−五酸化二バナジウム系ガラス粒子(P−V系ガラス粒子)を用いる場合、五酸化二バナジウムの含有率としては、ガラスの全質量中に1質量%以上であることが好ましく、1質量%〜70質量%であることがより好ましい。
【0043】
前記ガラス粒子の粒子径としては特に制限はないが、積算した重量が50%の場合における粒子径(以下、「D50%」と略記することがある)として、0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、0.8μm以上8μm以下であることがより好ましい。0.5μm以上とすることで電極用組成物作製時の作業性が向上する。また10μm以下であることで、電極用組成物中に均一に分散し、焼成工程で効率よくファイアースルーを生じることができ、さらに半導体基板との密着性も向上する。
前記ガラス粒子の含有率としては電極用組成物の全質量中に0.1質量%〜10質量%であることが好ましく、0.5質量%〜8質量%であることがより好ましく、1質量%〜7質量%であることがさらに好ましい。かかる範囲の含有率でガラス粒子を含むことにより、より効果的に耐酸化性、電極の低抵抗率化、及び低接触抵抗化が達成される。
【0044】
(分散媒)
前記電極用組成物は、分散媒の少なくとも1種を含む。これにより前記電極用組成物の物性(例えば、粘度、表面張力)や焼成後の電極のアスペクト比を、半導体基板に付与する際の付与方法に応じて必要とされる液物性に調整することができる。
分散媒は、例えば、溶剤の少なくとも1種であってよく、溶剤の少なくとも1種と樹脂の少なくとも1種との組み合わせてあってよい。
【0045】
前記分散媒が溶剤を含む場合の溶剤としては特に制限はない。例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンなどの炭化水素溶剤;ジクロロエチレン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素溶剤;テトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、ピラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、トリオキサンなどの環状エーテル溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド溶剤;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン溶剤;エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール化合物;2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノプロピオレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリエチル−1,3−ペンタンジオールモノアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの多価アルコールのエステル溶剤;ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどの多価アルコールのエーテル溶剤;α−テルピネン、α−テルピネオール、ミルセン、アロオシメン、リモネン、ジペンテン、α−ピネン、β−ピネン、ターピネオール、カルボン、オシメン、フェランドレンなどのテルペン溶剤、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0046】
前記溶剤としては、電極用組成物を半導体基板に付与する際の塗布性、印刷性の観点から、多価アルコールのエステル溶剤、テルペン溶剤、及び多価アルコールのエーテル溶剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、多価アルコールのエステル溶剤及びテルペン溶剤から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
前記溶剤は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
前記分散媒が樹脂を含む場合の樹脂としては、焼成によって熱分解されうる樹脂であれば、当該技術分野において通常用いられる樹脂を特に制限なく用いることができる。具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリビニルピロリドン樹脂;アクリル樹脂;酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体;ポリビニルブチラール等のブチラール樹脂;フェノール変性アルキド樹脂、ひまし油脂肪酸変性アルキド樹脂等のアルキド樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;ロジンエステル樹脂などを挙げることができる。
【0048】
前記樹脂としては、焼成時における消失性の観点から、セルロース樹脂、及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、セルロース樹脂から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
前記樹脂は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
前記樹脂の重量平均分子量は特に制限されない。中でも重量平均分子量は5000以上500000以上が好ましく、10000以上300000以下であることがより好ましい。前記樹脂の重量平均分子量が5000以上の場合には、電極用組成物の粘度の増加を抑えることができる。これは例えばリン含有銅合金粒子に吸着させたときの立体的な反発作用が不足して粒子同士が凝集するという現象が抑制されるためと考えることができる。一方樹脂の重量平均分子量が500000以下の場合には、樹脂同士が溶剤中で凝集し、結果として電極用組成物の粘度が増加するという現象が抑えられる。これに加え樹脂の重量平均分子量を適度な大きさに抑えると、樹脂の燃焼温度が高くなるのが抑えられ、電極用組成物を焼成する際に樹脂が完全に燃焼されず異物として残存することが抑えられる。その結果、抵抗率のより低い電極を形成することができる。
【0050】
前記電極用組成物において、前記分散媒の含有量は、所望の物性と使用する分散媒の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、分散媒の含有率が、電極用組成物の全質量中に3質量%以上29.9質量%以下であることが好ましく、5質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
前記分散媒の含有率が前記範囲内であることにより、電極用組成物を半導体基板に付与する際の付与適性が良好になり、所望のアスペクト比を有する電極をより容易に形成することができる。
【0051】
(銀粒子)
前記電極用組成物は、銀粒子を更に含むことが好ましい。銀粒子を含むことで耐酸化性がより向上し、電極としての抵抗率がより低下する。さらに太陽電池モジュールとした場合のはんだ接続性が向上するという効果も得られる。このことは例えば、以下のように考えることができる。
【0052】
一般に電極が形成される600℃〜900℃の温度領域では、銅中への銀の少量の固溶、及び銀中への銅の少量の固溶が生じ、銅と銀との界面に銅−銀固溶体の層(固溶領域)が形成される。リン含有銅合金粒子と銀粒子の混合物を高温に加熱後、室温へゆっくりと冷却した場合、固溶領域は生じないと考えられるが、電極形成時には高温域から常温に数秒で冷却されることから、高温での固溶体の層は、非平衡な固溶体相または銅と銀の共晶組織として銀粒子及びリン含有銅合金粒子の表面を覆うと考えられる。このような銅−銀固溶体層は、電極形成温度におけるリン含有銅合金粒子の更なる耐酸化性に寄与すると考えることができる。
【0053】
前記銀粒子を構成する銀は、不可避的に混入する他の原子を含んでいてもよい。不可避的に混入する他の原子としては、例えば、Sb、Si、K、Na、Li、Ba、Sr、Ca、Mg、Be、Zn、Pb、Cd、Tl、V、Sn、Al、Zr、W、Mo、Ti、Co、Ni、及びAu等を挙げることができる。また前記銀粒子に含まれる他の原子の含有率は、例えば銀粒子中に3質量%以下とすることができ、融点及び電極の低抵抗率化の観点から、1質量%以下であることが好ましい。
【0054】
前記銀粒子の粒子径としては特に制限はないが、積算した重量が50%である場合における粒子径(D50%)が、0.4μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上7μm以下であることがより好ましい。0.4μm以上とすることでより効果的に耐酸化性が向上する。また10μm以下であることで電極中における銀粒子及びリン含有銅合金粒子等の金属粒子どうしの接触面積が大きくなり、抵抗率がより効果的に低下する。
【0055】
前記電極用組成物が銀粒子を含む場合、前記リン含有銅合金粒子の粒子径(D50%)と前記銀粒子の粒子径(D50%)の関係としては特に制限はない。前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子のいずれか一方の粒子径(D50%)が他方の粒子径(D50%)よりも小さいことが好ましく、いずれか一方の粒子径に対する他方の粒子径の比が1〜10であることがより好ましい。これにより、電極の抵抗率がより効果的に低下する傾向にある。これは例えば、電極内におけるリン含有銅合金粒子及び銀粒子等の金属粒子どうしの接触面積が大きくなることに起因すると考えられる。
【0056】
前記電極用組成物における前記銀粒子の含有率としては、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、電極用組成物中に8.4質量%〜85.5質量%であることが好ましく、8.9質量%〜80.1質量%であることがより好ましい。
【0057】
さらに前記電極用組成物が銀粒子を含む場合、耐酸化性と電極の低抵抗率を達成しつつ、原材料価格を抑える観点から、前記リン含有銅合金粒子と前記銀粒子の総量を100質量%としたときの銀粒子の含有率が5質量%〜65質量%となることが好ましく、7質量%〜60質量%となることがより好ましく、10質量%〜55質量%となることが更に好ましい。
【0058】
また前記電極用組成物が銀粒子を含む場合、耐酸化性、電極の低抵抗率、半導体基板に付与する際の容易性の観点から、前記電極用組成物中の前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が70質量%以上94質量%以下であることが好ましく、74質量%以上88質量%以下であることがより好ましい。前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が70質量%以上であることで、電極用組成物を付与する際に好適な粘度を容易に達成することができる。また前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が94質量%以下であることで、電極用組成物を付与する際のかすれの発生をより効果的に抑制することができる。
【0059】
さらに前記電極用組成物が銀粒子を含む場合、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、前記電極用組成物中の前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が70質量%以上94質量%以下であって、前記ガラス粒子の含有率が0.1質量%以上10質量%以下であって、前記分散媒の総含有率が3質量%以上29.9質量%以下であることが好ましく、前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が74質量%以上88質量%以下であって、前記ガラス粒子の含有率が0.5質量%以上8質量%以下であって、前記分散媒の総含有率が7質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が74質量%以上88質量%以下であって、前記ガラス粒子の含有率が1質量%以上7質量%以下であって、前記分散媒の総含有率が7質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0060】
(フラックス)
前記電極用組成物は、フラックスの少なくとも1種をさらに含むことができる。フラックスを含むことで耐酸化性がより向上し、形成される電極の抵抗率がより低下する。さらに電極と半導体基板の密着性が向上するという効果も得られる。
【0061】
前記フラックスとしては、リン含有銅合金粒子の表面に形成された酸化膜を除去可能なものであれば特に制限はない。具体的には例えば、脂肪酸、ホウ酸化合物、フッ化化合物、及びホウフッ化化合物等を好ましいフラックスとして挙げることができる。
【0062】
フラックスとしてより具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ソルビン酸、スレアロール酸、酸化ホウ素、ホウ酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸リチウム、ホウフッ化カリウム、ホウフッ化ナトリウム、ホウフッ化リチウム、酸性フッ化カリウム、酸性フッ化ナトリウム、酸性フッ化リチウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム等が挙げられる。
中でも、電極組成物焼成時の耐熱性(フラックスが焼成の低温時に揮発しない特性)及びリン含有銅合金粒子の耐酸化性補完の観点から、ホウ酸カリウム及びホウフッ化カリウムが特に好ましいフラックスとして挙げられる。
前記フラックスは、それぞれ1種単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0063】
前記電極用組成物がフラックスを含有する場合、フラックスの含有率としては、リン含有銅合金粒子の耐酸化性を効果的に発現させる観点及び電極組成物の焼成完了時にフラックスが除去された部分の空隙率を低減させる観点から、電極用組成物の全質量中に、0.1質量%〜5質量%であることが好ましく、0.3質量%〜4質量%であることがより好ましく、0.5質量%〜3.5質量%であることがさらに好ましく、0.7質量%〜3質量%であることが特に好ましく、1質量%〜2.5質量%であることが極めて好ましい。
【0064】
(その他の成分)
前記電極用組成物は、上述した成分に加え、必要に応じて、当該技術分野で通常用いられるその他の成分をさらに含むことができる。その他の成分としては、例えば、可塑剤、分散剤、界面活性剤、無機結合剤、金属酸化物、セラミック、有機金属化合物等を挙げることができる。
【0065】
前記電極用組成物の製造方法としては特に制限はない。前記リン含有銅合金粒子、ガラス粒子、分散媒、及び必要に応じて含まれる銀粒子等を、通常用いられる分散・混合方法を用いて、分散・混合することで製造することができる。
前記電極用組成物は、特に限定されるものではないが、半導体基板への付与性及び、所望のアスペクト比達成の観点からペースト状であることが好ましい。前記電極用組成物の粘度は、用途に応じて調節してよい。
【0066】
<電極の製造方法>
前記電極用組成物を用いて電極を製造する方法としては、例えば、前記電極用組成物を、電極を形成する領域に付与し、乾燥後に、焼成することで所望の領域に電極を形成する方法を挙げることができる。前記電極用組成物を用いることで、酸素の存在下(例えば、大気中)で焼成処理を行っても、抵抗率の低い電極を形成することができる。
【0067】
具体的には例えば、電極用組成物を半導体基板上に所望の形状となるように付与し、乾燥後に焼成することで、抵抗率の低い電極を所望の形状に形成することができる。前記電極用組成物を用いることで、酸素の存在下(例えば、大気中)で焼成処理を行っても、抵抗率の低い電極を形成することができる。
【0068】
前記電極用組成物を半導体基板上に付与する方法としては、例えば、スクリーン印刷、インクジェット法、ディスペンサー法等を挙げることができるが、生産性の観点から、スクリーン印刷による付与であることが好ましい。
【0069】
前記電極用組成物をスクリーン印刷によって付与する場合、前記電極用組成物の粘度は20Pa・s〜1000Pa・sであることが好ましい。尚、前記粘度は、ブルックフィールドHBT粘度計を用いて25℃で測定される。
【0070】
前記電極用組成物の付与量は、形成する電極の大きさに応じて適宜選択することができる。例えば、電極用組成物付与量として2g/m〜10g/mとすることができ、4g/m〜8g/mであることが好ましい。
【0071】
前記電極用組成物を用いて電極を形成する際の熱処理条件(焼成条件)としては、当該技術分野で通常用いられる熱処理条件を適用することができる。
一般に、熱処理温度(焼成温度)としては800℃〜900℃であるが、前記電極用組成物を用いる場合には、より低温での熱処理条件を適用することができ、例えば、600℃〜850℃の熱処理温度で良好な特性を有する電極を形成することができる。
また熱処理時間は、熱処理温度等に応じて適宜選択することができ、例えば、1秒〜20秒とすることができる。
【0072】
熱処理装置としては、上記温度に加熱できるものであれば適宜採用することができ、例えば、赤外線加熱炉、トンネル炉、などを挙げることができる。赤外線加熱炉は、電気エネルギーを電磁波の形で加熱材料に直接投入し、熱エネルギーに変換されるため高効率であり、また短時間での急速加熱が可能である。更に、燃焼による生成物がなく、また非接触加熱であるため、生成する電極の汚染を抑えることが可能である。トンネル炉は、試料を自動で連続的に入り口から出口へ搬送し、焼成するため、炉体の区分けと搬送スピードの制御により、均一に焼成することが可能である。抵抗率の低い電極を得る観点からは、トンネル炉により熱処理することが好適である。
【0073】
<用途>
本発明の素子の用途は特に限定されず、太陽電池素子、プラズマディスプレイ素子、セラミックコンデンサ素子、アンテナ回路、各種センサー回路、半導体デバイスの放熱材料などとして用いることができる。なお一般に太陽電池素子の受光面となる半導体基板には凹凸形状のテクスチャーが形成されているが、本発明によれば、このようなテクスチャーが形成された半導体基板であっても、電極の抵抗率を低くすることができる。
【0074】
<太陽電池素子>
前記太陽電池素子は、前記素子における前記基板が不純物拡散層を有し、この不純物拡散層の上に前記電極が形成されている。これにより、良好な特性を有する太陽電池素子が得られ、該太陽電池の生産性に優れる。太陽電池素子が受光面側に表面電極、その裏面に裏面電極を有する形態の場合には、上記アスペクト比を有する電極は、受光面側の表面電極であることが好ましい。
【0075】
尚、本明細書において太陽電池素子とは、pn接合が形成された半導体基板と、半導体基板上に形成された電極とを有するものを意味する。また太陽電池とは、太陽電池素子の電極上にタブ線が設けられ、必要に応じて複数の太陽電池素子がタブ線を介して接続されて構成されたものを意味する。
【0076】
以下、太陽電池素子の具体例を、図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
代表的な太陽電池素子の一例を示す断面図、受光面及び裏面の概要を、それぞれ図2図3及び図4に示す。
【0077】
図2に示されるように、通常、太陽電池素子の半導体基板130には、単結晶または多結晶のシリコン基板などが使用される。この半導体基板130には、ホウ素などが含有され、p型半導体を構成している。受光面側には、太陽光の反射を抑制するために、エッチングにより凹凸(テクスチャー、図示せず)が形成されている。半導体基板130の受光面側にはリンなどがドーピングされ、n型半導体の拡散層131がサブミクロンオーダーの厚さで設けられているとともに、p型バルク部分との境界にpn接合部が形成されている。さらに、拡散層131の上には窒化シリコンなどの反射防止層132が蒸着法などによって膜厚100nm前後で設けられている。
【0078】
図3に示すように、受光面電極133は、複数のフィンガー電極140と、前記複数のフィンガー電極140と交差するバスバー電極142とで構成される。前記太陽電池素子においては、前記フィンガー電極及び前記バスバー電極の少なくとも一部の形状が線状の電極に相当する。
【0079】
前記フィンガー電極の形状が線状の電極である場合、前記フィンガー電極のアスペクト比は2:1〜50:1であることが好ましく、2:1〜30:1であることがより好ましく、3:1〜20:1であることが更に好ましい。さらに、前記フィンガー電極の短尺の長さは30μm〜200μmが好ましく、50μm〜180μmがより好ましく、50μm〜150μmがさらに好ましい。
【0080】
前記バスバー電極の形状が線状の電極である場合、前記バスバー電極のアスペクト比は25:1〜250:1であることが好ましく、25:1〜230:1であることがより好ましく、30:1〜200:1であることが更に好ましい。さらに、前記バスバー電極の短尺の長さは100μm〜2000μmが好ましく、200μm〜1800μmがより好ましく、300μm〜1600μmがさらに好ましい。
【0081】
なお、前記電極の配置される位置は受光面に限定されないが、上記のアスペクト比を満たすことにより得られる効果は前記電極が受光面に配置された場合に特に顕著である。
【0082】
ここで、フィンガー電極140のアスペクト比は、一本のフィンガー電極140の10箇所で短尺及び高さを測定して得たアスペクト比の平均値である。また、バスバー電極142のアスペクト比は、一本のバスバー電極142の10箇所で短尺及び高さを測定して得たアスペクト比の平均値である。
【0083】
次に受光面側に設けられた受光面電極133と、裏面に形成される集電電極134及び出力取出し電極135について説明する。受光面電極133と出力取出し電極135は、前記電極用組成物から形成されている。また集電電極134はガラス粉末を含むアルミニウム電極ペースト組成物から形成されている。これらの電極は、例えば、前記組成物をスクリーン印刷等にて所望のパターンに塗布した後、乾燥後に、大気中600℃〜850℃程度で焼成されて形成される。
本発明においては前記電極用組成物を用いることで、比較的低温で焼成しても、抵抗率及び接触抵抗率に優れる電極を形成することができる。
【0084】
焼成の際に、受光面側では、受光面電極133を形成する前記電極用組成物に含まれるガラス粒子と、反射防止層132とが反応(ファイアースルー)して、受光面電極133と拡散層131が電気的に接続(オーミックコンタクト)される。
本発明においては、前記電極用組成物を用いて受光面電極133が形成されることで、導電性金属として銅を含みながら、銅の酸化が抑制される。その結果、低抵抗率の受光面電極133が、良好な生産性で形成される。
【0085】
図4に示すように、太陽電池素子の裏面側には、焼成の際に集電電極134を形成するアルミニウム電極ペースト組成物中のアルミニウムが半導体基板130の裏面に拡散して、電極成分拡散層136を形成する。これによって、半導体基板130と集電電極134、出力取出し電極135との間にオーミックコンタクトを得ることができる。
【0086】
図5及び図6は、太陽電池素子の別の実施形態であるバックコンタクト型太陽電池素子を示す図である。図5図6に示されるAA断面構造の斜視図、図6は裏面側電極構造の平面図である。
【0087】
図5の斜視図に示すように、p型半導体の半導体基板からなるセルウェハ1には、レーザドリルまたはエッチング等によって、受光面側及び裏面側の両面を貫通したスルーホールが形成されている。また、セルウェハ1の受光面側には光入射効率を向上させるテクスチャー(図示せず)が形成されている。さらに、セルウェハ1の受光面側にはn型化拡散処理によるn型半導体層3と、n型半導体層3上に反射防止膜(図示せず)が形成されている。これらは従来の結晶Si型太陽電池素子と同一の工程により製造される。
【0088】
前記スルーホール内部には、本発明に係る電極用組成物が印刷法やインクジェット法により充填され、さらに受光面側の反射防止膜上には前記電極用組成物がグリッド状に印刷される。これらの電極用組成物は、後述する焼成を経てスルーホール電極4及び集電用グリッド電極2を形成する。
ここで、充填用と印刷用に用いる組成物としては、粘度を始めとして、それぞれのプロセスに最適な性質の組成物を使用するのが望ましいが、同じ組成物を用いて充填、印刷を一括で行ってもよい。
【0089】
一方、受光面の反対側(裏面側)には、キャリア再結合を防止するための高濃度ドープ層5が形成される。ここで高濃度ドープ層5を形成する不純物元素として、ホウ素やアルミニウムが用いられ、p型拡散層が形成されている。この高濃度ドープ層5は、例えばホウ素を拡散源とした熱拡散処理を前記反射防止膜を形成する前のセル製造工程において実施することで形成してもよく、あるいは、アルミニウムを用いる場合には、前記印刷工程において、裏面側にアルミニウムペーストを印刷することで形成してもよい。
【0090】
上記電極組成物が付与された素子を650℃から850℃において焼成すると、前記スルーホール内部及び前記受光面側の反射防止膜上の前記電極用組成物は、ファイアースルー効果により下部n型拡散層と電気的に接続されてオーミックコンタクトを達成する。こうしてスルーホール電極4及び集電用グリッド電極2が形成される。
【0091】
また反対面側には、図6の平面図で示すように、本発明による電極用組成物をそれぞれn側、p側共にストライプ上に印刷、焼成することによって、裏面電極6、7が形成されている。
【0092】
本発明においては、前記電極用組成物を用いて、スルーホール電極4、集電用グリッド電極2、裏面電極6及び裏面電極7が形成されることで、導電性金属として銅を含みながら、銅の酸化が抑制され、低抵抗率のスルーホール電極4、集電用グリッド電極2、裏面電極6及び裏面電極7が、優れた生産性で形成される。
なお、本発明に係る電極用組成物は、上記したような太陽電池電極の用途に限定されるものではなく、例えば、プラズマディスプレイの電極配線及びシールド配線、セラミックスコンデンサ、アンテナ回路、各種センサー回路、半導体デバイスの放熱材料等の用途にも好適に使用することができる。
【0093】
<太陽電池>
本発明の太陽電池は、前記素子と、前記の前記電極上に配置されたタブ線と、を有する。前記太陽電池はさらに必要に応じて、タブ線を介して連結された複数の素子が封止材で封止された構造を有していてもよい。
前記タブ線及び封止材としては特に制限されず、当業界で通常用いられているものから適宜選択することができる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0095】
<実施例1>
(a)電極用組成物の調製
7質量%のリンを含むリン含有銅合金粒子を定法により調製し、これを溶解して水アトマイズ法により粉末化した後、乾燥、分級した。分級した粉末をブレンドして、脱酸素・脱水分処理し、7質量%のリンを含むリン含有銅合金粒子を作製した。尚、リン含有銅合金粒子の粒子径(D50%)は1.5μmであった。
【0096】
二酸化ケイ素(SiO)3部、酸化鉛(PbO)60部、酸化ホウ素(B)18部、酸化ビスマス(Bi)5部、酸化アルミニウム(Al)5部、酸化亜鉛(ZnO)9部からなるガラス(以下、「G1」と略記することがある)を調製した。
得られたガラスG1の軟化点は、420℃、結晶化開始温度は600℃を超えていた。
得られたガラスG1を用いて、粒子径(D50%)が1.7μmであるガラス粒子を得た。
【0097】
上記で得られたリン含有銅合金粒子を85.1部、ガラス粒子G1を1.7部、及び3質量%のエチルセルロース(EC、重量平均分子量190000)を含むテルピネオール(異性混合体)溶液13.2部を混ぜ合わせ、メノウ乳鉢の中で20分間かき混ぜ、電極用組成物1を調製した。
【0098】
(b)太陽電池素子の作製
受光面にn型半導体層、テクスチャー及び反射防止膜(窒化珪素膜)が形成された膜厚190μmのp型半導体基板を用意し、125mm×125mmの大きさに切り出した。
その受光面にスクリーン印刷法を用い、上記で得られた電極用組成物1を図3に示すような電極パターンとなるように印刷した。電極のパターンは短尺が150μmのフィンガーラインと短尺が1.5mmのバスバーで構成され、所望のアスペクト比となるよう、印刷条件(スクリーン版のメッシュ、印刷速度、印圧)を適宜調整した。これを150℃に加熱したオーブンの中に15分間入れ、溶剤を蒸散により取り除いた。
【0099】
続いて、裏面にアルミニウム電極ペーストを同様にスクリーン印刷で全面に印刷した。
焼成後の膜厚が40μmとなるように、印刷条件は適宜調整した。これを150℃に加熱したオーブンの中に15分間入れ、溶剤を蒸散により取り除いた。
続いてトンネル炉(ノリタケ社製、1列搬送W/Bトンネル炉)を用いて大気雰囲気下、焼成最高温度850℃で保持時間10秒間の加熱処理(焼成)を行って、所望の電極が形成された太陽電池素子1を作製した。
【0100】
このとき受光面電極のアスペクト比は、フィンガー電極で10:1、バスバー電極で100:1であった。なお、受光面電極のアスペクト比は、触針式表面形状測定装置(XP−2、AMBIOS TECHNOLOGY社製)を用いて測定した断面形状から算出した。
【0101】
<実施例2>
実施例1において、電極用組成物1の印刷条件を変更し、焼成後の電極のアスペクト比がフィンガー電極で15:1、バスバー電極で150:1となるように電極用組成物の印刷条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に太陽電池素子2を作製した。
【0102】
<実施例3>
実施例1において、電極用組成物1の印刷条件を変更し、焼成後の電極のアスペクト比がフィンガー電極で20:1、バスバー電極で200:1となるように電極用組成物の印刷条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に太陽電池素子3を作製した。
【0103】
<実施例4>
実施例1において、電極用組成物1の印刷条件を変更し、焼成後の電極のアスペクト比がフィンガー電極で5:1、バスバー電極で50:1となるように電極用組成物の印刷条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に太陽電池素子4を作製した。
【0104】
<実施例5>
実施例1において、電極用組成物1の印刷条件を変更し、焼成後の電極のアスペクト比がフィンガー電極で3:1、バスバー電極で30:1となるように電極用組成物の印刷条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に太陽電池素子5を作製した。
【0105】
<実施例6>
実施例1において、リン含有銅合金粒子のリン含有率を7質量%から8質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして電極用組成物6及び太陽電池素子6を作製した。
【0106】
<実施例7>
実施例1において、リン含有銅合金粒子の粒子径を1.5μmから5.0μmに変更したこと以外は、実施例1と同様に電極用組成物7及び太陽電池素子7を作製した。
【0107】
<実施例8>
実施例7において、電極用組成物にさらに銀粒子(粒子径(D50%)3.0μm、アルドリッチ社製高純度化学品)を添加したこと以外は、実施例7と同様にして、電極用組成物8及び太陽電池素子8を作製した。
具体的には、リン含有銅合金粒子(リン含有率7質量%、粒子径(D50%)5.0μm)75.0部、銀粒子10.1部、ガラス粒子(G1)1.7部、及び3質量%のエチルセルロース(EC)を含むテルピネオール(異性混合体)溶液13.2部を含有する電極用組成物8を調製し、太陽電池素子8を作製した。
【0108】
<実施例9〜15>
実施例1において、リン含有銅合金粒子のリン含有率、粒子径(D50%)及び含有量、銀粒子の含有量、ガラス粒子の種類及び含有量、3%のエチルセルロース(EC)を含むテルピネオール溶液の含有量を表1に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様にして電極用組成物9〜15を調製した。
【0109】
尚、ガラス粒子(G2)は酸化バナジウム(V)45部、酸化リン(P)24.2部、酸化バリウム(BaO)20.8部、酸化アンチモン(Sb)5部、酸化タングステン(WO)5部からなり、粒子径(D50%)が1.7μmであった。
またこのガラスの軟化点は492℃、結晶化開始温度は600℃を超えていた。
【0110】
次いで、得られた電極用組成物9〜15をそれぞれ用い、加熱処理の温度及び処理時間、焼成後の電極のアスペクト比を表1に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様にして所望の電極が形成された太陽電池素子9〜15をそれぞれ作製した。
【0111】
<比較例1>
実施例1における電極用組成物の調製において、リン含有銅合金粒子を用いずに、表1に示した組成となるように各成分を変更したこと以外は、実施例1と同様にして電極用組成物C1を調製した。
リン含有銅合金粒子を含まない電極用組成物C1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして太陽電池素子C1を作製した。
【0112】
<比較例2>
比較例1において、焼成後の電極のアスペクト比がフィンガー電極で20:1、バスバー電極で200:1となるように電極用組成物の印刷条件を変更したこと以外は、比較例1と同様に太陽電池素子C2を作製した。
【0113】
<比較例3>
実施例1において、焼成後の電極のアスペクト比がフィンガー電極で1.5:1、バスバー電極で15:1となるように電極用組成物の印刷条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に太陽電池素子C3を作製した。
【0114】
<比較例4>
実施例1において、焼成後の電極のアスペクト比がフィンガー電極で30:1、バスバー電極で300:1となるように電極用組成物の印刷条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に太陽電池素子C4を作製した。
【0115】
<比較例5>
実施例1において、リン含有銅合金粒子の代わりに、リンを含有しない純銅粒子(リン含有率が0%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電極用組成物C5を調製した。
電極用組成物C5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして太陽電池素子C5を作製した。
【0116】
【表1】
【0117】
<評価>
作製した太陽電池素子の評価は、擬似太陽光として(株)ワコム電創製WXS−155S−10、電流−電圧(I−V)評価測定器としてI−V CURVE TRACER MP−160(EKO INSTRUMENT社製)の測定装置を組み合わせて行った。
太陽電池としての発電性能を示すEff(変換効率)、FF(フィルファクター)、Voc(開放電圧)及びJsc(短絡電流)は、それぞれJIS−C−8912、JIS−C−8913及びJIS−C−8914に準拠して測定を行なうことで得られたものである。得られた各測定値を、比較例1の測定値を100.0とした相対値に換算して表2に示した。
【0118】
比較例3では、フィンガー電極の短尺に対する高さが高すぎ、焼成中にフィンガー電極が基板からはく離した。このため光照射により発生したキャリアを十分に回収できなくなり、発電性能が低下したものと考えられる。
比較例4では、バスバー電極の短尺に対する高さが低すぎ、形成した電極がテクスチャーの凹凸を十分に覆えていなかった。このため光照射により発生したキャリアを取出す際の配線抵抗が増大し、発電性能が低下したものと考えられる。
比較例5においては、銅粒子の酸化によって電極の抵抗率が大きくなり、評価不能であった。
【0119】
【表2】
【0120】
実施例1〜15で作製した太陽電池素子の性能は、比較例1の測定値と比べほぼ同等又はそれ以上であった。特に太陽電池素子4及び太陽電池素子5は、電極のアスペクト比を高めるために電極の高さを高くしたものであり、高い発電性能を示した。
【0121】
また太陽電池素子1、太陽電池素子6、太陽電池素子10の受光面電極について、CuKα線を用いてX線回折法で回折X線を測定した結果、回折角度(2θ、CuKα線)の少なくとも43.4°、50.6°、74.2°に、銅の特徴的な回折ピークを示した。このように受光面電極から銅が検出された理由として、以下の原理が挙げられる。
【0122】
まず、電極用組成物1、6及び10中のリン含有銅合金粒子は、リン含有率が6質量%以上8質量%以下である。この部分の組成は、Cu−P系状態図から、α−Cu相とCuP相からなる。焼成初期段階では、α−Cu相が酸化され、CuOに変わる。このCuOが再びα−Cuに還元されていると考えられる。尚、この還元反応にはリン含有銅合金粒子に含まれていたCuP相もしくはこの酸化物由来のリンが寄与しているものと考えられる。
【0123】
よって、リン含有率が6質量%以上8質量%以下のリン含有銅合金粒子を用いた電極用組成物では、実施例1〜15に示されるように、最高温度の保持時間を10秒〜15秒としても、焼成時における銅の酸化が抑制され、抵抗率の低い電極が形成されたものと考えられる。また、焼成時間を長くすることにより、リン含有銅合金粒子の焼結が進むため、より緻密で抵抗率の低い電極を形成できる他、ファイアースルーをより効果的に行うことができるため、電極と半導体基板とのオーミックコンタクト性が向上するという効果を得ることができる。
【0124】
<実施例16>
上記で得られた電極用組成物1を用いて、図5及び図6に示したような構造を有する太陽電池素子16を作製した。尚、加熱処理は850℃、10秒間で行った。このとき受光面電極のアスペクト比は、フィンガー電極で10:1、バスバー電極で100:1であった。
得られた太陽電池素子について上記と同様にして評価したところ、上記と同様に良好な特性を示すことが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6