【実施例】
【0057】
[実施例1]
改変型ダイズ11SグロブリンA1aB1bの発現プラスミドの構築
βアミロイド抗原決定基として知られる配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド(以下Aβ4−10と略す)を含む改変型A1aB1bをコードする遺伝子をダイズ種子中で発現させるための発現プラスミドを構築した。手順を
図2に示した。
【0058】
Aβ4−10をコードする塩基配列をタンデムに3つ連結したオリゴヌクレオチド(センス鎖、配列番号4)及びその相補配列からなるオリゴヌクレオチド(アンチセンス鎖、配列番号5)を、株式会社ファスマックのカスタムDNA受託合成サービスを利用して合成した(センス鎖を410F、アンチセンス鎖を410Rと呼ぶ)。以降、特に記述がない限りオリゴヌクレオチドは、同社のカスタムDNA受託合成サービスを利用して合成した。410Fおよび410Rの各100pmolを、それぞれ最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行い、反応後の各反応液を混合し、94℃で10分間加熱後、一時間かけて37℃まで徐々に冷却しアニーリングを行った。こうしてAβ4−10が3つ連なったペプチド(Aβ4−10)×3)をコードする二本鎖DNA断片を得た。
【0059】
公知のA1aB1b遺伝子(GenBank accession No.AB113349)のcDNAがpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)のSmaIサイトにクローニングされているプラスミドpBSK−A1aB1b(京都大学から入手)を鋳型として、ベクター部分を含み、A1aB1bをコードする遺伝子の特定の可変領域が5’末端及び3’末端となるようにPCRを用いて増幅し、得られたDNA断片と、(Aβ4−10)×3をコードする前記二本鎖DNA断片とを連結して改変型A1aB1bをコードする遺伝子を含むプラスミドを作製した。具体的な方法を以下に示す。
【0060】
配列番号1のA1aB1bをコードする遺伝子の可変領域IIに挿入するための、配列番号6及び7のプライマーペアからなるプライマーセット(PS−1)、可変領域IIIに挿入するための、配列番号8及び9のプライマーペアからなるプライマーセット(PS−2)、可変領域IVに挿入するための、配列番号10及び11のプライマーペアからなるプライマーセット(PS−3)と配列番号12及び13のプライマーペアからなるプライマーセット(PS−4)、可変領域Vに挿入するための配列番号14及び15のプライマーペアからなるプライマーセット(PS−5)の計5つのプライマーセットを調製した。ここで、プライマーの合成に当たっては、改変型A1aB1bタンパク質から(Aβ4−10)×3をプロテアーゼの一種であるサーモリシンにより切り出すことができるように、挿入領域直後にアミノ酸置換を導入するための塩基置換を導入した。
【0061】
上記各プライマーセットを用いて(Aβ4−10)×3をコードするDNAが挿入される配列番号1の塩基配列領域を、それぞれPS−1領域、PS−2領域、PS−3領域、PS−4領域、PS−5領域と呼ぶ。
【0062】
PCRは、pBSK−A1aB1bの10ngを鋳型とし、一反応あたり50μlの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒及び伸長反応を68℃で5分を1サイクルとして25サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO
4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。以降PCRはプライマーを除き、特に記述がない限り同組成を用いて行った。
【0063】
こうして得られた各DNA断片の50fmolと上記の(Aβ4−10)×3をコードする二本鎖DNA断片の150fmolとを、DNAライゲーションキット(タカラバイオ社製)を用いて、16℃で40分間連結反応を行った。反応産物を大腸菌DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に形質転換し、複数の形質転換大腸菌を得た。得られた大腸菌より、プラスミドDNAを抽出精製し、株式会社ファスマックのDNAシーケンシングサービスを用いて塩基配列の解析を行った。PS−1を用いたケースでは形質転換大腸菌12クローンの塩基配列解析の結果、(Aβ4−10)×3をコードする二本鎖DNA断片が順方向で正しく1分子挿入されていたのは1クローンであった。また、PS−2を用いたケースでは24クローン、PS−3を用いたケースでは54クローン、PS−4を用いたケースでは30クローン、PS−5を用いたケースでは12クローンを解析し、(Aβ4−10)×3をコードする二本鎖DNA断片が順方向で正しく1分子挿入されたクローンが1つずつ得られた。挿入部位により、正しく挿入された改変型A1aB1b遺伝子を得られる確率が異なり、PS−3を用いたケースは特に挿入が困難であった。
【0064】
このように作製された全ての改変型A1aB1bをコードする遺伝子について塩基配列の確認を行った。以降、特に記述がない限り塩基配列の決定は株式会社ファスマックのシーケンシングサービスを用いて行った。
【0065】
次に、複数の可変領域に(Aβ4−10)×3をコードするDNAが挿入された改変型A1aB1b遺伝子を作製するため、上記で作製した改変型A1aB1bをコードする遺伝子を鋳型として前記と同様のプライマーセットを用いてPCRを行い、得られたDNA断片と上記の(Aβ4−10)×3ペプチドをコードする二本鎖DNA断片との連結反応を繰り返して行い、改変型A1aB1bをコードする遺伝子を作製した。こうして、A1aB1bの遺伝子の複数の可変領域に(Aβ4−10)×3をコードするDNAが挿入された改変型A1aB1bをコードする遺伝子を含むプラスミドを作製した。具体的な挿入領域とそれらに対応する改変型A1aB1bをコードする遺伝子の名称を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
上記で作製した改変型A1aB1bをコードする遺伝子をダイズ種子特異的に発現させるために、野生型A1aB1b遺伝子のプロモーター領域およびターミネーター領域の単離を行った。
【0068】
A1aB1b遺伝子のプロモーターの部分配列である639bpを含む公知のA1aB1b遺伝子ゲノムの部分配列(GenBank accession No.X15121)のプロモーター領域をプローブとして、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、北海道農業研究センターが保有するミスズダイズTACライブラリー(www.kazusa.or.jp/ja/plant/PG2HP/ Transformation competent bacterial artificial chromosome)からスクリーニングを行った。得られたクローンの塩基配列を解析した結果、A1aB1b遺伝子の翻訳開始点の上流2202bpのプロモーター領域を含むことが明らかになった。得られた塩基配列をもとに、プロモーター領域を単離するため、配列番号16及び17のオリゴヌクレオチド対からなるプライマーセットを作製しPCRを行った。
【0069】
PCRは、ミスズダイズのゲノムDNAを鋳型として、一反応あたり50μlの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒及び伸長反応を68℃で2分30秒を1サイクルとして25サイクル行った。こうして、A1aB1b遺伝子の2202bpのプロモーター断片(Gy1P)(配列番号18)を得た。
【0070】
次に、公知の野生型A1aB1b遺伝子ゲノムの部分配列(GenBank accession No.X53404)をもとに、A1aB1b遺伝子のターミネーター領域を単離するため、配列番号19及び20からなるプライマーセットを作製しPCRを行った。
【0071】
PCRは、ミスズダイズのゲノムDNAを鋳型として、一反応あたり50μlの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒及び伸長反応を68℃で1分を1サイクルとして25サイクル行った。こうして、野生型A1aB1b遺伝子の1052bpのターミネーター断片(Gy1T)(配列番号21)を得た。
【0072】
改変型A1aB1bをコードする遺伝子を種子特異的に発現させるため、上記で得られた、各種改変型A1aB1bをコードする遺伝子、Gy1PおよびGy1Tを公知のpUHGベクター(Y. Kita,K. Nishizawa,M Takahashi, M. Kitayama, M. Ishimoto. (2007)Genetic improvement of somatic embryogenesis and regeneration in soybean and transformation of the improved breeding lines. Plant Cell Reports 26:439−447)(
図3)に連結し、発現プラスミドの構築を行った。
【0073】
上記のうち5種類の改変型A1aB1bをコードするDNA断片を得るため、上記A1aB1bM2(配列番号22)、A1aB1bM3(配列番号24)、A1aB1bM4−1(配列番号26)、A1aB1bM1(配列番号28)、A1aB1bM5(配列番号30)を鋳型に、配列番号32及び33のオリゴヌクレオチド対からなるプライマーセットを用いてPCRを行った。
【0074】
PCRは、一反応あたり50μlの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒及び伸長反応を68℃で2分を1サイクルとして25サイクル行った。こうして、各改変型A1aB1b遺伝子のDNA断片を得た。
【0075】
改変型A1aB1b遺伝子のDNA断片、プロモーターDNA断片、ターミネーターDNA断片はリン酸化反応後、あらかじめSmaIで切断後CIAP(タカラバイオ社製)で脱リン酸化反応を行ったpUHGベクターと連結反応を行った。得られたクローンからGy1Pプロモーター、改変型A1aB1bをコードする遺伝子、Gy1Tターミネーターの順に正しく連結されたクローンを、塩基配列を解析することによって選択した。
【0076】
こうして、改変型A1aB1bをコードする遺伝子が種子特異的に発現する以下の植物形質転換ベクター5種(pUHG A1aB1bM1、pUHGA1aB1bM2、pUHGA1aB1bM3、pUHGA1aB1bM4−1、pUHGA1aB1bM5)を構築した。
【0077】
[実施例2]
改変型インゲンマメのアルセリンの発現プラスミドの構築
Aβ4−10がタンデムに2つ連なったペプチド(以降(Aβ4−10)×2と略す)をコードするDNAを挿入してなる改変型アルセリンをコードする遺伝子をダイズ種子中で発現させるための発現プラスミドを構築した。
【0078】
公知のインゲンマメアルセリン5−1をコードする遺伝子(GenBank accession No.Z50202)(配列番号36)の可変領域は明らかになっていないため、可変領域の推定を行った。A1aB1bとのDNA配列の比較で可変領域を推定すると、ディスオーダー領域はC末端に限定されていることが明らかとなった。そのため、ペプチド配列をC末端に挿入することは可能と考えられた。更に可変領域を特定するために、アルセリンと同様に2Sアルブミンに属するファイトヘマグルチニンと比較すると、ファイトヘマグルチニンに認められる8〜10残基からなるループ構造がArc5−1における該当部位のリジン(配列番号37のアミノ酸番号149)の後方に認められなかった。従ってこの部位(アミノ酸番号149〜150)をコードする配列番号36の塩基配列領域を可変領域Aと推定した。つぎにアルセリン1及びインゲンマメの貯蔵タンパク質の一つであるファゼオリンと比較を行った。その結果、配列番号37のアミノ酸番号250番目に当たるアスパラギン後に、7残基のギャップが認められた。従ってこの部位(アミノ酸番号250〜251)をコードする塩基配列領域を可変領域Bと推定した。
【0079】
次に(Aβ4−10)×2をコードするDNAを、Arc5−1をコードする遺伝子の推定した可変領域に組み込むため、(Aβ4−10)×2をコードするオリゴヌクレオチド(420F、配列番号34)とその相補的なオリゴヌクレオチド(420R、配列番号35)を合成した。
【0080】
420Fおよび420Rの各100pmolをそれぞれ、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行い、反応後の各反応液を混合し、94℃で10分間加熱後、一時間で37℃まで冷却しアニーリングを行い、(Aβ4−10)×2をコードする二本鎖DNA断片を得た。
【0081】
Arc5−1をコードするcDNAがpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)のSmaIサイトにクローニングされているプラスミドpBSK−Arc5−1(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、北海道農業研究センター保有)を鋳型として、ベクター部分を含み、Arc5−1をコードする遺伝子の特定の可変領域のアミノ酸部位が末端となるようにしてPCRにより得られたDNA断片と、上記で合成した(Aβ4−10)×2をコードする二本鎖DNA断片とを連結して改変型Arc5−1をコードする遺伝子を含むプラスミドを作製した。
具体的な方法を以下に示す。
【0082】
Arc5−1をコードする遺伝子の可変領域Aに挿入するための、配列番号38及び39のプライマーペアからなるプライマーセット(PS−A)、可変領域Bに挿入するための、配列番号40及び41のプライマーペアからなるプライマーセット(PS−B)の2つのプライマーセットを調製した。ここで、合成に当たっては、改変型Arc5−1タンパク質よりAβ4−10をプロテアーゼの一種であるサーモリシンにより切り出すことができるように、挿入領域前後のアミノ酸置換を導入するための塩基置換を導入した。
【0083】
上記各プライマーセットを用いて(Aβ4−10)×2をコードするDNAが挿入される配列番号36の領域を、それぞれPS−A領域及びPS−B領域と呼ぶ。
【0084】
pBSK−Arc5−1の10ngを鋳型としてPCRを行った。PCRは、一反応あたり50μlの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリング57℃で30秒及び伸長反応68℃で4分を1サイクルとして25サイクル行った。こうして得られたDNA断片と上記の(Aβ4−10)×2をコードする二本鎖DNA断片との連結反応を行った。
【0085】
こうして、Arc5−1をコードする遺伝子の可変領域に(Aβ4−10)×2をコードするDNAを挿入した、改変型Arc5−1をコードする遺伝子を含むプラスミドを2種類作製した。以下に具体的な(Aβ4−10)×2をコードするDNAの挿入領域とそれらに対応する改変型Arc5−1をコードする遺伝子の名称を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
改変型Arc5−1を種子特異的に発現させるため、上記で得られたArc5M1、Arc5M2と、上記実施例1で得られたA1aB1b遺伝子のGy1PおよびGy1TをpUHGベクターに連結し、発現プラスミドの構築を行った。改変型Arc5−1をコードするDNA断片を得るため、上記Arc5M1およびArc5M2を鋳型に、配列番号42及び43のプライマーペアからなるプライマーセットを用いてPCRを行った。
【0088】
PCRは、一反応あたり50μlの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒及び伸長反応を68℃で1分を1サイクルとして25サイクル行った。こうして、改変型Arc5−1遺伝子のDNA断片を得た。
【0089】
改変型Arc5−1遺伝子のDNA断片、Gy1PおよびGy1Tはリン酸化反応後、あらかじめSmaIで切断後脱リン酸化反応を行ったpUHGベクターと連結反応を行った。
【0090】
こうして、改変型Arc5−1遺伝子が種子特異的に発現する植物形質転換ベクターpUHG Arc5M1およびpUHG Arc5M2を構築した。
【0091】
[実施例3]
改変型イネのプロラミンの発現プラスミドの構築
(Aβ4−10)×2をコードするDNAを挿入してなる改変型プロラミンをコードする遺伝子をダイズ種子中で発現させるための発現プラスミドを構築した。
【0092】
公知のイネのプロラミン10KのRP10をコードする遺伝子(GenBank accession No.E09782)(配列番号44)の可変領域は明らかになっていないため、可変領域の推定を行った。RP10のアミノ酸配列と、とうもろこしの主要貯蔵タンパク質の一つであるゼインデルタとアミノ酸配列の比較を行った。その結果、配列番号45のアミノ酸番号110番目に当たるリジン後に、11残基のギャップが認められた。従ってこの部位(アミノ酸番号110〜111)をコードする配列番号44の塩基配列領域を可変領域aと推定した。
【0093】
次にイネのプロラミン10KのRP10をコードするcDNAがpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)のSmaIサイトにクローニングされている、プラスミドpBSK−RP10(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、北海道農業研究センター保有)を鋳型として、ベクター部分を含み、RP10をコードする遺伝子の特定の可変領域aのアミノ酸部位が末端となるようにしてPCRにより得られたDNA断片と、実施例2で合成した(Aβ4−10)×2をコードする二本鎖DNA断片を連結し、改変型RP10をコードする遺伝子を含むプラスミドを作製した。
具体的な方法を以下に示す。
【0094】
RP10をコードする遺伝子の可変領域aに挿入するための、配列番号46及び47のプライマーペアからなるプライマーセットを調製した。また、合成に当たっては、改変型RP10タンパク質よりAβ4−10ペプチドをプロテアーゼの一種であるサーモリシンにより切り出すことができるように、挿入領域前後のアミノ酸置換を導入するための塩基置換も同時に導入した。
【0095】
pBSK−RP10の10ngを鋳型としてPCR反応を行った。PCRは、一反応あたり50μlの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒及び伸長反応を68℃で4分を1サイクルとして25サイクル行った。こうして得られた各DNA断片と上記の(Aβ4−10)×2をコードする二本鎖DNA断片との連結反応を行った。
【0096】
こうして、RP10をコードする遺伝子の可変領域に(Aβ4−10)×2をコードするDNAを挿入した改変型RP10をコードする遺伝子を含むプラスミド(RP10M1)を作製した。
【0097】
改変型RP10をコードする遺伝子を種子特異的に発現させるため、改変型RP10をコードする遺伝子と、上記実施例1で得られたGy1PおよびGy1TをpUHGベクターに連結した発現プラスミドの構築を行った。改変型RP10をコードするDNA断片を得るため上記RP10M1を鋳型に、配列番号48及び49からなるプライマーセットを用いてPCRを行った。
【0098】
PCRは、一反応あたり50μlの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒及び伸長反応を68℃で1分を1サイクルとして25サイクル行った。こうして、改変型RP10をコードするDNA断片を得た。
【0099】
改変型RP10をコードするDNA断片、プロモーターDNA断片、ターミネーターDNA断片はリン酸化反応後、あらかじめSmaIで切断後脱リン酸化反応を行ったpUHGベクターと連結反応を行った。
【0100】
こうして、改変型RP10をコードする遺伝子が種子特異的に発現する植物形質転換ベクターpUHG RP10M1を構築した。
【0101】
[実施例4]
アルセリン2プロモーターによる各種改変型発現プラスミドの構築
実施例1で作成した改変型A1aB1bをコードする遺伝子をインゲンマメ由来のアルセリン2プロモーターによりダイズ種子中で発現させるための発現プラスミドを構築した。
(1)インゲンマメ由来アルセリン2プロモーターの単離
インゲンマメ野生種(系統番号:G12866)の生葉1gからDNeasy Plant Maxi kit(キアゲン社製)を用いてゲノミックDNA50μgを抽出した。
280ngの上記ゲノミックDNAを制限酵素SauIIIAIで消化した後、dGTPを加え、klenow enzyme(プロメガ社製)により1塩基伸長反応を行った(第1回伸長反応)。その後、RightWalk Kit
TM付属のRWA−1アダプターとLigation high(東洋紡績社製)を用いて連結反応を行い、アルセリン2遺伝子の上流域のDNAを単離するためのPCRの鋳型とした。
次に、公知のインゲンマメアルセリン2遺伝子のcDNAの塩基配列(GenBank accession No.M28470)に基づき、配列番号50及び配列番号51の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(それぞれプライマーSP1及びプライマーSP2と命名)を、株式会社ファスマックのカスタム合成受託サービスを利用して作製した。
配列番号50(プライマーSP1) TTGGTTTTGT TGAACGTCTC GAC
配列番号51(プライマーSP2) GGTGAGAAGC ACAAGGAAGA GG
【0102】
次に、上記で構築したアダプターを連結したゲノミックDNA2.8ngを鋳型とし、RightWalk Kit
TM付属のプライマーWP−1及びプライマーSP1を用いてPCRを行った。PCRは、一反応あたり50μLの反応液を用い、変性反応を94℃、2分で1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを65℃で30秒、及び伸長反応を68℃で5分を1サイクルとして35サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO
4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。
PCR終了後、反応液を100倍に希釈し、その1μLを2回目のPCRの鋳型とし、RightWalk Kit
TM付属のプライマーWP−2及びプライマーSP2を用いてPCRを行った。なお、2回目のPCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、1回目のPCRと同条件で行った。
増幅されたDNA断片は、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行った後、予めSmaIで処理したpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)と連結反応を行った。
この反応産物を、Arc2P(i)とし、株式会社ファスマックのDNAシーケンシングサービスを用いて塩基配列を決定した。その結果、アルセリン2遺伝子の開始コドンの上流844bpの新規な領域を含むことを確認した。
【0103】
次に、さらに上流域を単離するため、新たなプライマーを作製し第二回目となる伸長反応を行った。
280ngの上記ゲノミックDNAを制限酵素BglIIで消化した後、dGTPを加え、klenow enzyme(プロメガ社製)により1塩基伸長反応を行った。反応後、RightWalk Kit
TM付属のRWA−1アダプターと連結反応を行い、プロモーター単離のためのPCRの鋳型とした。
次に、公知のインゲンマメアルセリン2遺伝子のcDNAの塩基配列(GenBank accession No.M28470)に基づき、配列番号52の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(プライマーsecondSP1と命名)を、また第一回伸長反応で得られた開始コドンの上流844bpの塩基配列に基づき配列番号53の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(プライマーsecondSP2と命名)を作製した。
配列番号52(プライマーsecondSP1) CAGATTTTTT GCCCTCAAAA TTGATG
配列番号53(プライマーsecondSP2) CGGATGTGCG TGGACTACAA GG
【0104】
次に、上記で構築したアダプターを連結したゲノミックDNA2.8ngを鋳型とし、RightWalk Kit
TM付属のプライマーWP−1及びプライマーsecondSP1を用いてPCRを行った。PCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、上記の第一回伸長反応と同条件で行った。
反応終了後、上記PCR液を100倍に希釈し、その1μLを2回目のPCRの鋳型とし、RightWalk Kit
TM付属のプライマーWP−2及びプライマーsecondSP2を用いてPCRを行った。なお、2回目のPCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、1回目のPCRと同条件である。
増幅されたDNA断片は、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行った後、予めSmaIで処理したpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)と連結反応を行った。
反応産物を、Arc2P(ii)とし塩基配列を決定した。次に、さらに上流域を単離するため、新たなプライマーを作製し第三回目となる伸長反応を行った。
280ngの上記ゲノミックDNAを制限酵素XbaIで消化した後、dCTPを加え、klenow enzyme(プロメガ社製)により1塩基伸長反応を行った。反応後、RightWalk Kit
TM付属のRWA−2アダプターと連結反応を行い、プロモーター単離のためのPCRの鋳型とした。
次に、第二回伸長反応で得られた197bpの塩基配列に基づき、配列番号54及び配列番号55の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(それぞれプライマーthirdSP1及びプライマーthirdSP2と命名)を作製した。
配列番号54(プライマーthirdSP1) CGACCTGAAG AACGCAGCGG CGACC
配列番号55(プライマーthirdSP2) TACCAGCAGT TGATGGACAA GATC
【0105】
次に、上記で構築したアダプターを連結したゲノミックDNA2.8ngを鋳型とし、RightWalk Kit
TM付属のプライマーWP−1及びプライマーthirdSP1を用いてPCRを行った。PCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、上記の第一回伸長反応と同条件で行った。
反応終了後、上記反応液を100倍に希釈し、その1μLを2回目のPCRの鋳型とし、RightWalk Kit
TM付属のプライマーWP−2及びプライマーthirdSP2を用いてPCRを行った。なお、2回目のPCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、1回目のPCRと同条件である。
増幅されたDNA断片は、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行った後、予めSmaIで処理したpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)と連結反応を行った。
この反応産物を、Arc2P(iii)とし、塩基配列を決定した。その結果、Arc2P(ii)の上流2819bp(合計3860bp)の新規な領域を含むことを確認した。以上、三回の伸長反応によってアルセリン2遺伝子の開始コドンの上流5′側非翻訳領域を含む3860bpの新規なプロモーター配列を含むDNA(Arc2P)を取得した(配列番号56:このうちプロモーター領域は塩基番号1399〜3860)。
【0106】
(2)インゲンマメ由来アルセリン2ターミネーターの単離
上記(1)で抽出したゲノミックDNA280ngを制限酵素NheIで消化した後、dCTPを加え、klenow enzyme(プロメガ社製)により1塩基伸長反応を行った。反応後、RightWalk Kit
TM付属のRWA−2アダプターとLigation high(東洋紡績社製)を用いて連結反応を行い、ターミネーター遺伝子の単離のためのPCRの鋳型とした。
次に、公知のインゲンマメアルセリン2遺伝子のcDNAの塩基配列(GenBank accession No.M28470)に基づき、配列番号57及び配列番号58の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(それぞれプライマーSP3及びプライマーSP4と命名)を作製した。
配列番号57(プライマーSP3)CATCAATTTT GAGGGCAAAA AATCTG
配列番号58(プライマーSP4)CGTTCCAACA TCCTCCTCAA CAAGATC
【0107】
次に、上記で構築したアダプターを連結したゲノミックDNA2.8ngを鋳型とし、RightWalk Kit
TM付属のプライマーWP−1及プライマーSP3を用いてPCRを行った。PCRは、一反応あたり50μLの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを65℃で30秒、及び伸長反応を68℃で5分を1サイクルとして35サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO
4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。
PCR終了後、反応液を100倍に希釈し、その1μLを2回目のPCRの鋳型とし、RightWalk Kit
TM付属のプライマーWP−2及びプライマーSP4を用いてPCRを行った。なお、2回目のPCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、1回目のPCRと同条件で行った。
増幅されたDNA断片は、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行った後、予めSmaIで処理したpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)と連結反応を行った。
反応産物を、Arc2Tとし、塩基配列を決定した。その結果、アルセリン2遺伝子の3’側非翻訳領域を含む終止コドンの下流795bpの新規な領域を含むことを確認した(配列番号59)。
【0108】
(3)各種改変型発現プラスミドの構築
改変型A1aB1bをコードする遺伝子を種子で発現させるため、実施例1で得られた各種改変型A1aB1bをコードする遺伝子、Arc2PおよびArc2Tを公知のpUHGベクター(前述)
図3)に連結し、発現プラスミドの構築を行った。
改変型A1aB1b遺伝子のDNA断片、プロモーターDNA断片、ターミネーターDNA断片はリン酸化反応後、あらかじめSmaIで切断後CIAP(タカラバイオ社製)で脱リン酸化反応を行ったpUHGベクターと連結反応を行った。得られたクローンからArc2Pプロモーター、改変型A1aB1bをコードする遺伝子、Arc2Tターミネーターの順に正しく連結されたクローンを、塩基配列を解析することによって選択した。
こうして、改変型A1aB1bをコードする遺伝子がアルセリン2プロモーターの制御下で種子特異的に発現する以下の植物形質転換ベクター5種(pUHGA2PA1aB1bM1、pUHGA2PA1aB1bM3、pUHGA2PA1aB1bM5)を構築した。
また、同様にして前述のRP10M1をコードする遺伝子が種子特異的に発現する植物形質転換ベクターpUHGA2PRP10M1を構築した。
【0109】
[実施例5]
改変型種子貯蔵タンパク質をコードする遺伝子のダイズへの導入
公知の方法(K. Nishizawa, Y. Kita, M. Kitayama, M. Ishimoto. (2006) A red fluorescent protein, DsRed2, as a visual reporter for transient expression and stable transformation in soybean. Plant Cell Reports 25:1355−1361)により、ダイズ品種Jackおよび主要な種子貯蔵タンパク質である11Sグロブリン及び7Sグロブリンを欠損する変異系統(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、北海道農業研究センター保有)(Y. Kita,K. Nishizawa,M Takahashi, M. Kitayama, M. Ishimoto. (2007)Genetic improvement of somatic embryogenesis and regeneration in soybean and transformation of the improved breeding lines. Plant Cell Reports 26:439−447)の未熟種子から誘導された不定胚塊(直径3mm以下)30個を1.5ml用のチューブに加え、ウイスカー超音波法(特許第3312867号)により遺伝子導入操作を行った。
【0110】
チタン酸カリウム製ウイスカーLS20(チタン工業社製)5mgを1.5ml容のチューブに入れ、1時間放置した後、エタノールを除去し、完全に蒸発させて、殺菌されたウイスカーを得た。このウイスカーの入ったチューブに滅菌水1mlを入れ、良く攪拌した。ウイスカーと滅菌水を遠心分離し、上清の水を捨てた。このようにしてウイスカーを洗浄した。このウイスカー洗浄操作を3回行った。その後、同チューブに公知のMS液体培地の0.5mlを加えてウイスカー懸濁液を得た。
【0111】
上記で得られたウイスカー懸濁液の入ったチューブに、上記の不定胚塊(直径3mm以下)30個を入れて攪拌した後、混合物を1000rpmで10秒間遠心分離し、不定胚塊とウイスカーを沈殿させ、上清を捨て、不定胚塊とウイスカーの混合物を得た。
【0112】
この混合物を入れたチューブに、実施例1〜4で作製した改変型種子貯蔵タンパク質発現ベクターの各20μl(20μg)を加え、十分振り混ぜて均一な混合物を得た。
【0113】
次にこの均一な混合物の入ったチューブを18000xgで5分間遠心分離した。遠心分離した混合物を再度振り混ぜ、この操作を3回反復した。
【0114】
上記のようにして得られた、不定胚塊と、ウイスカーと、ベクターを収容しているチューブを超音波発生機の浴槽にチューブが十分浸るように設置した。周波数40kHzの超音波を強度0.25W/cm
2で1分間照射した。照射後、10分間、4℃でこの混合物を保持した。このように超音波処理した混合物を前記のMS液体培地で洗浄した。
【0115】
処理後の不定胚塊を公知の不定胚増殖液体培地で1週間回転振とう培養し(100rpm)、その後にハイグロマイシンB(15mg/l)(ロッシュ・ダイアグノスティックス、マンハイム、ドイツ)を含んでいる新鮮な不定胚増殖液体培地で1週間培養した。さらに30mg/lのハイグロマイシンBを含んでいる不定胚増殖液体培地で4週間培養(毎週培地を交換する)した後、45mg/lのハイグロマイシンBを含んだ不定胚増殖液体培地で1週間選抜培養を行った。なお、遺伝子導入は各ベクターごとにマイクロチューブ12本の処理を行った。
【0116】
ハイグロマイシン耐性の不定胚塊を公知の不定胚成熟液体培地へ移し、4週間振とう培養(100rpm)を継続し不定胚を成熟させた。成熟した不定胚を滅菌シャーレ中に3から5日間置き乾燥させた後、公知の発芽固体培地に移した。7から10日間発芽培養を行った後、公知の発根培地に移し、発芽している幼植物体を成長させた。根と芽が伸びた後に、土壌を含んでいるポットへ植物を移し、順化するまで高湿度に維持した。
【0117】
[実施例6]
改変型種子貯蔵タンパク質遺伝子を導入した形質転換ダイズ植物の作出
このようにしてJack品種にA1aB1BM1を導入した形質転換ダイズ植物を6個体、A1aB1bM2を導入した形質転換体を6個体、A1aB1bM3を導入した形質転換体を5個体、A1aB1bM4−1を導入した形質転換体を5個体、A1aB1bM5を導入した形質転換体を9個体作出した。さらに、Arc5M1を導入した形質転換ダイズ植物を3個体、Arc5M2を導入した形質転換体を3個体、RP10M1を導入した形質転換ダイズ植物を2個体作出した。
また、前記11Sグロブリン及び7Sグロブリンを欠損する変異系統(以下、種子貯蔵タンパク質欠損品種という)にA1aB1bM1を導入した形質転換ダイズ植物を12個体、RP10M1を導入した形質転換ダイズ植物を6個体作出した。
さらに種子貯蔵タンパク質欠損品種にA1aB1bM3を導入した形質転換ダイズ植物を5個体、作出した。
さらに、種子貯蔵タンパク質欠損品種にA2PA1aB1bM1を導入した形質転換体を8個体、A2PA1aB1bM3を導入した形質転換体を33個体、A2PA1aB1bM5を導入した形質転換体を32個体、A2PRP10M1を導入した形質転換体を9個体作出した。
これらの形質転換ダイズの植物体は環境湿度に適応させた後、10000lx、16時間日長の環境下で栽培を継続し、すべての個体から種子を収穫した。こうして、形質転換ダイズ植物のT
1世代の種子を得た。
【0118】
[実施例7]
形質転換ダイズ種子におけるAβ4−10の蓄積量の評価
上記実施例6で得た形質転換ダイズ種子より全タンパク質を抽出し、Aβ4−10の蓄積量をAβ4−10に対する特異抗体を用いたウエスタンブロッティング法で評価した。特に蓄積量の高い系統については、定量解析を行った。
【0119】
1)改変型A1aB1bとして発現されたAβ4−10の蓄積量
形質転換ダイズ種子より抽出した全タンパク質20μgをSDS-PAGEで分離し、Aβ4−10に対する特異抗体を反応させた後、ECL Advance Western
Blotting Detection Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いて検出を行った。化学発光像を、LAS4000miniPR(富士フィルム社製)で取り込んだ後、同機付属の解析ソフトウェアMultiGageを用いて定量解析を行った。定量の標品としては、大腸菌発現系で作製したHis・Tag連結組換えタンパク質A1aB1bM1を用いた。
【0120】
その結果、上記実施例6で得た形質転換ダイズ種子の各系統にAβ4−10に相当するシグナルバンドが確認でき、Aβ4−10の蓄積が確認できた。そのうち蓄積量の高かったA1aB1bM1、A1aB1bM3、A1aB1bM5をJack品種に導入した形質転換ダイズ種子(系統No.10−2、No.a−2、No.6−6)とA1aB1bM1を種子貯蔵タンパク質欠質品種に導入した形質転換ダイズ種子(系統No.16−2)中の蓄積量の測定を行い表3に示した。
【0121】
【表3】
【0122】
また、A1aB1BM1(Aβ4−10が3個挿入されている遺伝子)をJack品種および種子貯蔵タンパク質欠損品種に導入した形質転換ダイズにおける改変型種子貯蔵タンパク質の蓄積量の比較をウエスタンブロット解析により行った結果を
図4に示した(矢印は改変型種子貯蔵タンパク質に相当するバンド)。その結果、A1aB1M1をJack品種に導入した形質転換体10−2系統(種子No.1〜3)における改変型種子貯蔵タンパク質の蓄積量が種子中の全タンパク質の約0.1〜0.2%であるのに比べ、種子貯蔵タンパク質欠損系統へ導入した形質転換体16−2系統(種子No.1〜3)における蓄積は種子中の全タンパク質の約1〜2%と約10倍高いことが確認できた。
さらに、A1aB1BM3(Aβ4−10が1個挿入されている遺伝子)を種子貯蔵タンパク質欠損品種に導入した形質転換ダイズにおける改変型種子貯蔵タンパク質の蓄積量の測定をウエスタンブロット解析により行った結果を表4に示した。
【0123】
【表4】
【0124】
2)改変型アルセリンとして発現されたAβ4−10の蓄積量
形質転換ダイズ種子より抽出した全タンパク質20μgをSDS−PAGEで分離し、Aβ4−10に対する特異抗体で反応を行った後、ECL Advance Western Blotting Detection Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いてウエスタンブロット検出を行った結果、Arc5M1を導入した形質転換ダイズ種子(系統2−1)およびArc5M2導入した形質転換ダイズ種子(系統2−2)にAβ4−10ペプチドに相当するシグナルバンドが確認でき、Aβ4−10の蓄積が確認できた(
図5)。
【0125】
3)改変型プロラミンとして発現されたAβ4−10の蓄積量
RP10M1形質転換ダイズ種子(系統1−1、4−2)より抽出した全タンパク質20μgをSDS−PAGEで分離し、Aβ4−10に対する特異抗体で反応を行った後、ECL Advance Western Blotting Detection Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いてウエスタンブロット検出を行った結果、PR10M1を導入した形質転換ダイズ種子の各系統にAβ4−10ペプチドに相当するシグナルバンドが確認でき、Aβ4−10ペプチドの蓄積が確認できた(
図6)。
同様に、種子貯蔵タンパク質欠損品種に導入したRP10M1形質転換ダイズ種子にAβ4−10ペプチドに相当するシグナルバンドが確認でき、Aβ4−10ペプチドの蓄積が確認できた。その際の蓄積量は、No.1−1系統で約380μg/g種子であった。
【0126】
4)アルセリン2プロモーターによる改変型A1aB1bとして発現されたAβ4−10の蓄積量
形質転換ダイズ種子より抽出した全タンパク質20μgをSDS-PAGEで分離し、実施例7の1)と同様の方法で検出を行った。
その結果、上記実施例6で得た形質転換ダイズ種子の各系統にAβ4−10に相当するシグナルバンドが確認でき、Aβ4−10の蓄積が確認できた(
図7)。
また、シグナルバンドの強度から推定される種子貯蔵タンパク質欠損品種へ導入した形質転換ダイズ種子中のAβ4−10蓄積量は、当該A2PA1aB1bM1(系統4−6)は、A1aB1bM1(系統7−1)と比べてほぼ同等であって、Jack品種に導入したA1aB1bM1(系統8−1)と比べて明らかに蓄積量は多いことが確認できた(
図7)。
【0127】
[実施例8]
改変型種子貯蔵タンパク質の効果検定
前記実施例1で作製したA1aB1bM1を公知の方法により大腸菌に発現させて生産した。
【0128】
A1aB1bM1にコードされる組換えタンパク質を得るために、A1aB1bM1をpET21−dベクター(Novagen社製)に連結した、大腸菌発現プラスミドpETA1aB1bM1を作製した。
【0129】
上記pETA1aB1bM1を定法により大腸菌AD494(Novagen社製)に導入し、公知のTB培地(カナマイシン最終15mg/lとカルベネシリン最終50mg/lを含む)50mlにおいて、上記の組換え大腸菌の培養を37℃で18時間行った後、その培養液の10mlを公知のLB培地(カナマイシン最終15mg/lとカルベネシリン最終50mg/lおよび塩化ナトリウム最終500mMを含む)1000mlの生産培地に添加し37℃で2時間培養を行った。その後、IPTGを最終1mMで添加し、20℃で48時間培養を行った。培養後、大腸菌の菌体を8000rpm、15分の条件で回収した。回収後の菌体から、BugBuster Protein Extraction Reagent(Novagen社製)を用いて可溶性タンパク質画分の抽出を行った。得られた可溶性タンパク質画分からNi−NTA His・Bind Resins(Novagen社製)を用いて、A1aB1bM1がコードする組換えタンパク質(A1aB1bM1タンパク質)を精製した。
【0130】
βアミロイド抗原決定基(Aβ4−10)を保有するA1aB1bM1の50μgを生理食塩水に溶解して、生後4週齢のアルツハイマー病疾患モデルマウス(TgCRND8)に1週間間隔で5回、皮下注射(3匹/区)による投与を行った。改変されていない野生型A1aB1bをコードする遺伝子を上記と同様の方法で大腸菌に発現させ、得られた野生型A1aB1bを投与した群をコントロール群とした。投与9週後のマウスから血液を採取して、公知のELISAによるサンドイッチ法によりAβ4−10に対する抗体産生を確認したところ、A1aB1bM1タンパク質投与区は、A1aB1bタンパク質投与区に比べて、明らかに抗体価の上昇が認められ、A1aB1bM1がコードする組換えタンパク質のワクチン効果が確認できた。
【0131】
[実施例9]ダイズ種子中の改変型種子貯蔵タンパク質の熱安定性
上記実施例6で得た形質転換ダイズ種子に対して各種熱処理を行い、種子中の改変型種子貯蔵タンパク質の熱安定性について試験を行った。
1)形質転換ダイズ種子の焙煎処理区
A1aB1bM3形質転換ダイズ種子を粉砕した後、粉砕物の10mgをオートクレーブ滅菌装置にて100℃で10分間の処理を行い、その後上記実施例7に記載の方法で全タンパク質を抽出し、種子中の存在するAβ4−10の蓄積量をAβ4−10に対する特異抗体を用いたウエスタンブロッティング法で評価した。
2)形質転換ダイズ種子の水煮処理区
A1aB1bM3形質転換ダイズ種子を粉砕した後、粉砕物の10mgに対し30μlの蒸留水を加えて攪拌した後、オートクレーブ滅菌装置にて100℃で10分間の処理を行い、その後上記実施例7に記載の方法で全タンパク質を抽出し、種子中の存在するAβ4−10の蓄積量をAβ4−10に対する特異抗体を用いたウエスタンブロッティング法で評価した。
3)形質転換ダイズ種子からのタンパク質抽出液の加熱処理区
A1aB1bM3形質転換ダイズ種子を粉砕した後、実施例7に記載の方法で全タンパク質を抽出し、その後オートクレーブ滅菌装置にて100℃で10分間の処理を行った。その後上記種子中の存在するAβ4−10の蓄積量をAβ4−10に対する特異抗体を用いたウエスタンブロッティング法で評価した。
その結果、焙煎処理区および水煮処理区においてAβ4−10に相当するシグナルバンドが確認でき、その量は熱無処理区と同等であり、種子中の改変型種子貯蔵タンパク質の熱安定性が確認できた(
図8)。
【0132】
[実施例10]βアミロイド抗原決定基の形態
Aβ4−10をコードするアミノ酸配列のペプチド(P1)、P1をタンデムに2つ連結したアミノ酸配列のペプチド(P2)、さらにP1をタンデムに3つ連結したアミノ酸配列のペプチド(P3)をペプチド受託合成サービスを利用して合成した。
P1 :FRHDSGY(配列番号3)
P2 :FRHDSGY FRHDSGY(配列番号60)
P3 :FRHDSGY FRHDSGY FRHDSGY(配列番号61)
次にペプチドP1、P2、P3のN末側にキャリアタンパクのkey-limpet-hemocyanin(KLH、Mw.1000000)をシステイン(Cys)を架橋として結合させたKLH−P1、KLH−P2、KLH−P3を作製した。
これらKLH−P1、KLH−P2、KLH−P3の50μgを生理食塩水に溶解して、生後4週齢のマウス(BALBc)に1週間間隔で5回、皮下注射(3匹/区)による投与を行った。投与9週後のマウスから血液を採取して、抗血清を採取した。得られた抗血清をアフィニティー精製して、KLH-P1、KLH-P2、KLH-P3に対する精製抗体を作製した。
市販の合成Aβ42の400、1000ピコモルをSDS-PAGEで泳動し、上記のKLH−P1、KLH−P2、KLH−P3に対する上記の精製抗体を反応させた後、ECL Advance Western Blotting Detection Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いて検出を行った。化学発光像を、LAS4000miniPR(富士フィルム社製)で取り込んだ後、Aβ42との結合性についてシグナル強度の比較を行った。その結果、KLH−P2のシグナル強度がKLH−P1、KLH−P3よりも明らかに強く、Aβ4−10をコードするアミノ酸配列のペプチドをタンデムに2つ連結することによりAβに対する抗体価の高い特異的抗体が得られることがわかった。(
図9)