(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アルカリ水溶液と接触させる方法では、反応後に多量のアルカリ性廃液が発生し、その処理を要するという点で問題を有していた。また第二塩化鉄を用いる方法では、実質的に廃液は生じないが、未だ転化率、選択率の点で改良の余地が大きい。
【0006】
そこで本発明は、脱塩化水素反応に際して、多量の廃液を生ぜず、かつ転化率、選択率が良好な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題に鑑み鋭意検討を行ってきた。そして、上記塩化第二鉄に替えて塩化アルミニウムを触媒として用いることにより、より低温で脱塩化水素反応が進み、転化率、選択率ともに良好な結果を得られることを見出し本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明は、 下記式(1)
CCl
3−CCl
(2−m)H
(m)−CCl
(3−n)H
n (1)
(上記式中、mは1又は2、nは0〜3の整数)
で示されるクロロクロパンを、無水塩化アルミニウムと接触させて脱塩化水素させ、下記式(2)
CCl
2=CCl
(2−m)H
(m−1)−CCl
(3−n)H
n (2)
で示される不飽和化合物を得ることを特徴とするポリクロロプロペンの製造方法である。
【0009】
また他の発明は、(A)下記式(0)
CCl
3−CH
2−CCl
(3−n)H
n (0)
(上記式中、nは0〜3の整数)
で示されるクロロプロパンと無水塩化アルミニウムとを反応器内に入れておき、該反応器中へ塩素を導入することによって、該クロロプロパンを下記式(1’)
CCl
3−CHCl−CCl
(3−n)H
n (1’)
(上記式中、nは式(0)と同一の整数である)
で示される塩素数の一つ多いクロロプロパンへと変換する第一工程、
(B)反応器への塩素導入を中止した後、反応系の温度を30℃以上昇温し、上記式(1’)で示されるクロロプロパンを下記式(2’)
CCl
2=CCl−CCl
(3−n)H
n (2’)
(上記式中、nは式(0)と同一の整数である)
で示されるクロロプロペンへと変換する第二工程、
の各工程を含んでなることを特徴とするポリクロロプロペンの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、反応基質であるクロロプロパンと触媒となる塩化アルミニウムのみで反応を進行させることができるため、実質的に処理の必要な廃液を殆ど生じない。また塩化第二鉄を用いた場合に比べて、転化率、選択率などを良好なものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明において原料となる化合物は、下記式(1)
CCl
3−CCl
(2−m)H
(m)−CCl
(3−n)H
n (1)
(上記式中、mは1又は2、nは0〜3の整数)
で示される(以下、「原料ポリクロロプロパン」とも称する)。
【0013】
上記原料ポリクロロプロパンは、脱塩化水素反応を行わせるために、2位の炭素上に少なくとも1つの水素原子を有する。従って、水素原子数を示すmの値は1又は2である。
【0014】
当該化合物を具体的に例示すると、1,1,1−トリクロロプロパン、1,1,1,3−テトラクロロプロパン、1,1,1,2−テトラクロロプロパン、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、1,1,1,2,3,3−ヘキサクロロプロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタクロロプロパン等が挙げられる。
【0015】
本発明においては、上記原料ポリクロロプロパンを無水塩化アルミニウムと接触させることにより、脱塩化水素させて、下記式(2)
CCl
2=CCl
(2−m)H
(m−1)−CCl
(3−n)H
n (2)
で示されるポリクロロプロペンへと変換する。
【0016】
本発明における塩化アルミニウムを触媒とした脱塩化水素反応においては、より塩素による置換の多い炭素上の塩素が脱離しやすいため、原料ポリクロロプロパンから上記式(2)で示されるポリクロロプロペンが得られるものである。より具体的には、原料ポリクロロプロパンが1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンであった場合、2位又は3位の塩素原子よりも1位の塩素原子が脱離しやすいため、1,2−脱離を生じ、主生成物は1,1,2,3−テトラクロロプロペンとなる。なおnが0、即ち、3位の炭素上に置換した塩素数が3つである場合には、1位の塩素が脱離しても、3位の塩素が脱離しても結局生成するポリクロロプロペンは同一である。
【0017】
前記式(1)で示される化合物のなかでも、他の方法では上記脱塩化水素反応の選択率や反応速度が極めて不十分であるという観点から、mが1である化合物に対して本発明を適用することが、その効果を十分に享受でき好ましい。
【0018】
本発明においては、上記脱塩化水素反応を生じせしめるために無水塩化アルミニウムが必要である。塩化アルミニウム6水和物や水酸化アルミニウムでは脱塩化水素反応を起こさない。また、他の無水塩化物、例えば塩化第二鉄に比べて遙かに低温で、高選択率で前記式(2)で示される化合物を得ることができる。
【0019】
無水塩化アルミニウムの使用量は、前記式(1)で示されるクロロプロパン1モルに対して、2.0×10
−5〜2.0×10
−2モルが好ましく、より好ましくは、5.0×10
−5〜1.0×10
−3モルである。換言すれば、無水塩化アルミニウムの全量が溶解したとき、濃度が上記範囲となるように使用することが好ましい。
【0020】
なお無水塩化アルミニウムは水と反応(加水分解)して、水酸化アルミニウムになってしまう。従って、上記無水塩化アルミニウムの量は、反応系内に実質的に反応系内に存在する量である。換言すれば、原料となるクロロプロパンに水が含まれている場合には、当該水と無水塩化アルミニウムが反応し水酸化アルミニウムを生じるとして、当該水の当量(無水塩化アルミニウム1モルに対して水3モル)分だけ無水塩化アルミニウムを多く加え、上記の量となるようにすればよい。より具体的には、実際に使用する無水塩化アルミニウムの量はクロロプロパンに含まれる水の当量分に加えてクロロプロパン1モルに対して、2.0×10
−5〜2.0×10
−2モルが好ましく、より好ましくは、5.0×10
−5〜1.0×10
−3モルである。
【0021】
反応系内に無水塩化アルミニウムを存在させる方法は特に限定がなく、固体状の無水塩化アルミニウムを反応器中に入れ、前記式(1)で示されるクロロプロパンに溶解させる方法、反応器外で無水塩化アルミニウムを前記式(1)で示されるクロロプロパンに溶解させ、この溶液を反応器中に入れる方法、他の溶媒(例えば、四塩化炭素等の炭素数1のクロロアルカンやエーテル類)に溶解させて、これを反応器に入れる方法、金属アルミニウムを反応器内に入れておき、塩化水素等により塩化アルミニウムを生じさせる方法などが挙げられる。さらには、前記式(1)で示されるクロロプロパンの前駆体に溶解させておき、反応系内で該クロロプロパンを生じさせる方法を用いることも可能である。
【0022】
反応温度は、前記式(1)で示されるクロロプロパンの塩素数により異なる。一般的には、塩素数の多いほど高温が必要となる。具体的には、例えば、前記式(1)で示されるクロロプロパンが1,1,1,3−テトラクロロプロパンの場合には0〜50℃程度(好ましくは10〜40℃程度)、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンであれば80〜150℃程度(好ましくは90〜140℃程度)である。この温度範囲であれば、反応時間は0.5〜10時間程度とすればよい。
【0023】
上述の通り、クロロプロパンの脱塩化水素反応は、置換している塩素数により反応温度が全く異なるため、これを利用し、本発明では下記式(0)
CCl
3−CH
2−CCl
(3−n)H
n (0)
(上記式中、nは0〜3の整数)
で示されるクロロプロパンから、下記式(2’)
CCl
2=CCl−CCl
(3−n)H
n (2’)
(上記式中、nは式(0)と同一の整数である)
で示されるクロロプロペンへと一つの反応器内で変換する方法をも提供する。
【0024】
即ち、上記式(0)で示されるクロロプロパンは、無水塩化アルミニウムにより比較的低温で脱塩化水素反応を起し、下記式(4)
CCl
2=CH−CCl
(3−n)H
n (4)
で示されるクロロプロペンを生じる。そして該クロロプロペンを含有する反応液に対して塩素を導入することにより、二重結合に対する塩素付加を起こし、下記式(1’)
CCl
3−CHCl−CCl
(3−n)H
n (1’)
(上記式中、nは式(0)と同一の整数である)
で示されるクロロプロパンを生じる。このとき、反応系内には無水塩化アルミニウムがそのまま残っているが、この式(1’)で示されるクロロプロパンは前記式(0)で示されるクロロプロパンよりも塩素数が一つ多いため、さらなる脱塩化水素を生じ難い。そこで、前記式(0)で示されるクロロプロパンの脱塩化水素反応(及び塩素付加)を行う際の反応温度を、上記式(1’)で示されるクロロプロパンが実質的に脱塩化水素しない温度(例えばnが3であれば80℃未満、好ましくは50℃以下)に設定しておけば、反応系内への塩素導入中は上記式(1’)で示されるクロロプロパンのまま留まる。
【0025】
続いて、反応系内への塩素導入を中止し、好ましくは窒素などの不活性ガスにより曝気して系内の残存塩素を追い出した後に、反応系の温度を上記式(1’)で示されるクロロプロパンが系内の塩化アルミニウムに触媒されて脱塩化水素する反応温度まで上昇させれば、前記式(2’)で示されるクロロプロペンを得ることができる。ここで、反応系の温度を上昇させる前に塩素の導入を中止するのは、生じたクロロプロペンに対する更なる塩素付加を防止するためである。
【0026】
上昇させる温度幅は少なくとも30℃以上、好ましくは45℃以上、特に好ましくは60℃以上である。一方、上昇幅が大き過ぎると、即ち、反応系の温度が高くなりすぎると、生成したクロロプロペンが二量化するなどの副反応を起こしやすいため、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下の昇温幅とする。
【0027】
前記式(0)で示されるクロロプロパンから、前記式(1’)で示される2位上の塩素数が一つ多くなったクロロプロパンを得るための方法としては以下の通りである。
【0028】
使用する無水塩化アルミニウムの量やその調製方法は前述した通りである。反応液中に無水塩化アルミニウムの少なくとも一部が溶解した状態で存在すれば、式(0)で示されるクロロプロパンからの脱塩化水素が起き、式(4)で示されるクロロプロペンが生じる。
【0029】
当該クロロプロペンに対して塩素を付加させるために、反応系内に塩素を導入するが、ここで該クロロプロペンの濃度が低すぎる時点(即ち、脱塩化水素していないクロロプロパンが多量に残っている時点)で多量の塩素ガスの導入を行うと、該クロロプロパンの脱塩化水素化反応に加えて、競争反応的にクロロプロパンの塩素置換反応が起こる。
【0030】
反面、反応系内のクロロプロペンの濃度が高くなりすぎると該クロロプロペン同士の反応や、クロロプロペンと式(4)で示される反応生成物であるクロロプロパンとの反応などの副反応が起こりやすくなる。
【0031】
従って、反応系内の塩化アルミニウムの濃度を前記範囲にするとともに、塩素の供給開始のタイミング及び供給速度を適切な範囲にすることによって、より高選択率で本発明の製造方法を実施することができる。具体的には、塩素の供給開始は、脱塩化水素反応による式(4)で示されるクロロプロペン(原料が1,1,1,3−テトラクロロプロパンの場合、1,1,3−トリクロロプロペン)の濃度が、好ましくは0.1wt%〜30wt%、より好ましくは0.5wt%〜20wt%になった時点で開始するとよい。クロロプロパンの転化率はガスクロマトグラフィーによる分析、気相部に排出される塩化水素の総量、或いは除熱量が一定の場合には反応液の温度変化などから容易に判断できるため、該転化率及び供給した塩素の量から反応系内における濃度も容易に把握できる。
【0032】
当該塩素の最終的な供給量は、反応効率を考慮すると、前記式(2)で示されるクロロプロパン1モルに対して0.9モル以上供給することが好ましく、1モル以上供給することがより好ましく、1.1モル以上供給することがさらに好ましい。一方、多すぎても反応に寄与しない無駄な塩素が多くなるため、クロロプロパン1モルに対して2.5モル以下とすることが好ましく、より好ましくは2.0モル以下である。
【0033】
塩素の供給方式は、初期に一度に供給(反応器内に導入)してもよいが、その場合には前述のとおり副反応を起こしやすいため、一定時間かけて徐々に供給することが好ましい。この供給時間は、反応温度、反応器の大きさ等にもよるが、一般的には0.5〜20時間、好ましくは1〜10時間程度である。また時間をかけて供給する場合には、連続的に供給してもよいし、間欠的に供給してもよい。
【0034】
さらに好ましくは、反応系内における前記式(4)で表されるクロロプロペンの占める割合が、好ましくは30wt%以下、より好ましくは20wt%以下、さらに好ましくは10wt%以下を保つように塩素供給速度を調整する。また、反応系内における塩素濃度は、好ましくは10wt%以下、より好ましくは5wt%以下、さらに好ましくは3wt%以下、特に好ましくは1wt%以下を保つように塩素供給速度を調整することが好ましい。
【0035】
上記の前記式(4)で示されるクロロプロペン及び塩素の反応系内濃度を保つための最適な塩素供給量は各温度により異なるが、反応温度が0〜50℃においては、初期に投入した原料となるクロロプロパン1モルに対し、好ましくは1〜2000ml/分、より好ましくは5〜1000ml/分、さらに好ましくは10〜500ml/分である。さらに反応系内の塩素濃度を上記した範囲とするために、反応進行中に上記の範囲で流量を途中で変化させることも好適である。
【0036】
例えば、無水塩化アルミニウムは、式(2)で示されるクロロプロパンに溶解するまで時間を要する事から反応初期は塩化アルミニウムの濃度が低く脱塩化水素反応が遅くなる。そのため、初期には塩素供給量は少なく、反応中期は供給量を多くすることが好ましい。一方、反応後期は原料クロロプロパンの割合が減少しているが、その状態で塩素濃度が高いと式(3)で示されるクロロプロパンの塩素置換がさらに進み、不純物が増加するため塩素の供給量を少なくすることが好ましい。これらの事から、塩素供給開始後、原料クロロプロパンが、好ましくは95wt%以下、より好ましくは90wt%以下になった時点で塩素供給量を上げ、目的とする反応が進行し、反応系内の原料クロロプロパンの濃度が30%wt以下、より好ましくは20wt%以下になった時点で、塩素の供給量を少なくする方法が好適に採用できる。
【0037】
反応器内に塩素を導入する際には、反応器内の気相部へと導入しても良いし、導入管を反応液中へ差し込んでおき、液中へ吹き込む形式で行っても良い。該塩素としては一般的な工業用塩素を使用することができる。
【0038】
上記式(0)で示されるクロロプロパンは比較的低温で脱塩化水素する一方、高温にすると副反応が起こりやすくなる。式(0)で示されるクロロプロパンが1,1,1,3−テトラクロロプロパンの場合、無水塩化アルミニウムの溶解、及び塩素の導入中は、反応系の温度を0〜50℃の範囲内に保持することが好ましく、より好ましくは0〜40℃であり、さらに好ましくは10〜40℃である。なお、本工程で起こる反応のうち、塩素付加反応は発熱反応であり、反応全体として発熱反応となるため、塩素導入開始後は、一般的には、上記温度範囲にするために反応系の冷却が必要である。該冷却(反応系の温度調整)方法は化学工学的に公知の方法が特に制限なく採用できる。
【0039】
塩素の付加反応をより完全に行わせるために、塩素の全量を反応器内に導入完了した後も、上記温度で0.1〜2時間程度保持することが好ましい。
【0040】
この後の工程は前述した通りであり、上記付加反応完了後、反応系の温度を30℃以上上昇させて更なる脱塩化水素を行わせる。具体的には、例えば、式(1’)で示されるクロロプロパンが1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンであれば80〜150℃程度(好ましくは90〜140℃程度)にする。なおこの際、反応系内に無水塩化アルミニウムを更に加えることも好ましい。
【0041】
上述の反応により得た式(2)で示されるクロロプロペンは、公知の方法により精製することができる。具体的には、蒸留、カラム精製などが挙げられる。なお蒸留に際しては、無水塩化アルミニウムが存在したまま行うと副反応を起こす虞があるため、少量の水を加えるなどして、無水塩化アルミニウムの除去又は失活を行ってから蒸留することが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
実験例1
200mlの4つ口ナスフラスコに精製した純度99.5%の1,1,1,3−テトラクロロプロパンを182g、無水塩化アルミニウムを0.06g入れ、液温を20℃にして1時間攪拌した。液が青色になり、塩化アルミニウムが溶けたのを確認した後、塩素を200ml/minで100分間、100ml/minで40分間、50ml/minで20分間供給し、反応液をGCにて分析した。その結果、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は99%、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は96%であった。
【0044】
この後、反応液を窒素100ml/minで12時間パブリング流入させた後、さらに、無水塩化アルミニウムを0.06g入れ、液温を100℃にして1時間加熱した。反応液をGCにて分析した。その結果、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンの転化率は98%、1,1,2,3−テトラクロロプロペンへの選択率は98%であった。