特許第5710745号(P5710745)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5710745制御された炭化ケイ素成長方法およびその方法により作製された構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5710745
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】制御された炭化ケイ素成長方法およびその方法により作製された構造
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20150409BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
【請求項の数】16
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-508234(P2013-508234)
(86)(22)【出願日】2011年4月28日
(65)【公表番号】特表2013-525254(P2013-525254A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】US2011034231
(87)【国際公開番号】WO2011137202
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2013年1月25日
(31)【優先権主張番号】12/768,960
(32)【優先日】2010年4月28日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592054856
【氏名又は名称】クリー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CREE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レナード、ロバート タイラー
(72)【発明者】
【氏名】ホブグッド、ハドソン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ソア、ウィリアム エイ.
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−234802(JP,A)
【文献】 特表2008−505833(JP,A)
【文献】 特表2009−513017(JP,A)
【文献】 特表2005−531145(JP,A)
【文献】 特開2006−111478(JP,A)
【文献】 NAKAMURA D,ULTRAHIGH-QUALITY SILICON CARBIDE SINGLE CRYSTALS,NATURE,英国,NATURE PUBLISHING GROUP,2004年 8月26日,V430 N7003,P1009-1012
【文献】 SHIOMI H,CRYSTAL GROWTH OF MICROPIPE FREE 4H-SIC ON 4H-SIC{033-8} SEED AND HIGH-PURITY SEMI-INSULATING 6H-SIC,JOURNAL OF CRYSTAL GROWTH,NL,ELSEVIER,2006年 5月26日,V292 N2,P188-191
【文献】 WANG CHAO,A COMPENSATION MECHANISM FOR SEMI-INSULATING 6H-SIC DOPED WITH VANADIUM,JOURNAL OF SEMICONDUCTORS,中国,2008年 2月,V29 N2,P206-209
【文献】 NING L,VANADIUM-DOPED SEMI-INSULATING 6H-SIC FOR MICROWAVE POWER DEVICE APPLICATIONS,JOURNAL OF MATERIALS SCIENCE AND TECHNOLOGY,中国,CHINESE SOCIETY OF METALS,2009年 1月 1日,V25 N1,P102-104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素の結晶を成長させる方法であって、
犠牲基板を、低溶解度不純物および第2の不純物を含むソース材料と一緒に成長ゾーンに配置する工程であって、前記低溶解度不純物がバナジウムおよびクロムのうちの少なくとも1つである、前記工程と、
前記低溶解度不純物を含むソース材料の物理気相輸送により、少なくとも炭化ケイ素の犠牲層の前記低溶解度不純物の析出が実質的に終る時点を過ぎるまで、前記犠牲基板の上に前記炭化ケイ素の犠牲層を成長させる工程と、
前記炭化ケイ素の犠牲層を伴う前記犠牲基板を最終基板で置き換える工程と、
前記ソース材料を用いて、前記最終基板上に炭化ケイ素の結晶を成長させる工程であって、前記炭化ケイ素の結晶が実質的に均一な濃度の前記低溶解度不純物および実質的に均一な濃度の前記第2の不純物を含むように前記炭化ケイ素の結晶を成長させる、前記工程と、
を含む前記方法。
【請求項2】
請求項に記載の方法であって、前記低溶解度不純物がバナジウムを含んでいる前記方法。
【請求項3】
請求項に記載の方法であって、前記バナジウムの実質的に均一な濃度が1×1015cm−3よりも大きい前記方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、前記炭化ケイ素の結晶が6H、4H、15Rおよび3Cの結晶多形のうちから選ばれたものである前記方法。
【請求項5】
請求項に記載の方法であって、前記第2の不純物が窒素を含んでいる前記方法。
【請求項6】
請求項に記載の方法であって、さらに前記炭化ケイ素の結晶をカットして、半導体デバイスを作製するのに使用するためのバナジウムをドープされた炭化ケイ素のウエハを作製する工程を含む前記方法。
【請求項7】
請求項に記載の方法であって、前記バナジウムが少なくとも5×1016cm−3の濃度を有し、さらに前記炭化ケイ素の結晶長の少なくとも一部分にわたって1から3の値までの範囲の値を有するバナジウム対窒素の比率が保持されている前記方法。
【請求項8】
請求項に記載の方法であって、さらにウエハをカットして少なくとも1つの半導体デバイスを作製する工程を含む前記方法。
【請求項9】
請求項に記載の方法であって、少なくとも1つの半導体デバイスが光伝導スイッチを含んでいる前記方法。
【請求項10】
6H、4H、15Rおよび3Cを含むグループから選ばれた結晶多形の少なくとも50mmの寸法を有し、請求項1に記載の方法により成長した半絶縁性炭化ケイ素結晶であって
個に等しいかそれより少ないマイクロパイプを含む100mmの大きさの複数個の体積と、
を含んでいる半絶縁性炭化ケイ素結晶。
【請求項11】
6H、4H、15Rおよび3Cを含むグループから選ばれた結晶多形の、少なくとも50mmの寸法および少なくとも50μmの厚さを有し、請求項1に記載の方法により成長した半絶縁性炭化ケイ素結晶から切り出された半絶縁性炭化ケイ素ウエハであって、前記半絶縁性炭化ケイ素結晶が
化ケイ素ウエハの少なくとも35%にわたってマイクロパイプの無い1mmのサイズの複数個の体積と、
を含んでいる半絶縁性炭化ケイ素ウエハ。
【請求項12】
請求項11に記載の半絶縁性炭化ケイ素ウエハであって、不純物が5×1016cm−3に等しいかそれより大きい濃度のバナジウムを含んでおり、また前記半絶縁性炭化ケイ素結晶は、さらに結晶長の少なくとも一部分にわたって約1から約3の値までの範囲の値を有するバナジウム対窒素の比率が保持されるように窒素をドープされている前記半絶縁性炭化ケイ素ウエハ。
【請求項13】
請求項1に記載の方法により成長した半絶縁性炭化ケイ素結晶から切り出され、少なくとも10mm×10mm×1mmの寸法を有する、半絶縁性炭化ケイ素の実質的にマイクロパイプの無いダイ。
【請求項14】
請求項13に記載の半絶縁性炭化ケイ素の実質的にマイクロパイプの無いダイであって、不純物が5×1016cm−3に等しいかそれより大きい濃度のバナジウムを含んでおり、また半絶縁性炭化ケイ素の実質的にマイクロパイプの無いダイが、さらにダイ全体にわたって約1から約3の値までの範囲の値を有するバナジウム対窒素の比率が保持されるように窒素をドープされている前記半絶縁性炭化ケイ素の実質的にマイクロパイプの無いダイ。
【請求項15】
請求項13に記載の半絶縁性炭化ケイ素の実質的にマイクロパイプの無いダイから作製された半導体デバイス。
【請求項16】
請求項13に記載の半絶縁性炭化ケイ素の実質的にマイクロパイプの無いダイから作製された光伝導スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(説明)
(背景技術)
炭化ケイ素(SiC)は、多くの魅力的な電気的および熱物理学的性質を有する。炭化ケイ素は、特にそれの物理的強度および化学的侵食に対する高い耐性の理由で有用である。炭化ケイ素は、また放射線耐性、高いブレークダウン電界、比較的広いバンド幅、高い飽和電子ドリフト速度、高温特性および青、紫および紫外のスペクトル域における高エネルギー光子の吸収・放射を含む優れた電子特性を有する。SiCは、そのいくつかの性質のお陰で、高電力密度の固体デバイスの作製に適したものとなっている。
【背景技術】
【0002】
SiCは、しばしばシード付きの昇華成長プロセスによって作製される。典型的な炭化ケイ素成長技術では、ソース材料および基板の両方が反応るつぼの内部に置かれる。るつぼを加熱したときに生じる温度勾配によって、ソース材料から基板への物質気体の移動が促され、続いて基板上への凝縮およびバルク結晶の成長がもたらされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
多くの用途で、結晶は、高い電気抵抗を有することが望まれる。SiC中には、ドーパントとして不純物を導入することができ、それらドーパントが電気抵抗を含む特定の性質を制御できることが知られている。直前で述べたような昇華プロセスでSiCが作製される場合、ドーパントは、多様な方法のうちの任意のやり方で反応炉中に導入でき、それによってこのプロセスで作製されるSiC結晶中にドーパントが存在するようにできる。このプロセスは、特別な応用に合わせて適切なドーパント濃度を提供するように制御される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の開示)
本発明の実施の形態は、比較的少ないマイクロパイプ欠陥を有する半絶縁性炭化ケイ素(SiC)の成長方法を提供する。マイクロパイプ欠陥は、溶解度の低い不純物が析出することで生じ、しばしば単純に「マイクロパイプ」と呼ばれる。発明の実施の形態は、例えば光伝導スイッチなど半絶縁性SiC構造が適した応用のためのバルク結晶、ウエハおよびデバイスなどのSiC構造を提供できる。光伝導材料は、高電圧を支えるために通常は絶縁性であるが、光励起によって伝導性となって高電圧応用に適した高速の調整されたスイッチングが可能であるべきである。本発明の実施の形態は、SiC結晶のための2部構成の(two−part)成長プロセスを提供し、それによって例えばバナジウムなどの低溶解度ドーパントの析出を最小化する。
【0005】
いくつかの実施の形態で、SiC結晶は、犠牲(sacrificial)基板をソース材料と一緒に成長ゾーンに配置することによって成長させられる。成長ゾーンは、一例として反応るつぼの内側であり、それは、次に加熱された反応炉中に置かれる。そのような例では、SiC結晶を成長させるために、物理気相輸送法(PVT)が用いられる。ソース材料をコンディショニングするために犠牲基板上にSiCが成長させられる。いくつかの実施の形態で、ソース材料は、低溶解度不純物を含んでおり、犠牲基板上のSiC中で低溶解度不純物の析出が終る時点を過ぎるまで反応が行われる。次に犠牲基板が最終基板と置き換えられて、最終基板上に少なくともソース材料を用いたSiCの成長が行われる。炭化ケイ素の単結晶が作製される。いくつかの実施の形態で、炭化ケイ素の結晶は、低溶解度不純物を実質的に均一な濃度で含む。結晶は、各種の結晶多形、例えば6H、4H、15Rおよび3Cのうちの任意のものでよい。
【0006】
発明のいくつかの実施の形態で、低溶解度不純物は、周期群IB、IIB、IIIB、IVB、VB、VIB、VIIB、VIIIBおよびIIIAのうちから選ばれる。いくつかの実施の形態で、低溶解度不純物は、バナジウムである。いくつかの実施の形態で、低溶解度不純物は、クロムである。低溶解度不純物がバナジウムである実施の形態で、バナジウムの濃度は、1×1015cm−3よりも大きくできる。低溶解度不純物の可能な濃度の全範囲を活用するためには、結晶中のバックグラウンド不純物の濃度を非常に低く保つことが必要である。低溶解度不純物がバナジウムである実施の形態では、結晶を第2の不純物でドープすることができる。いくつかの実施の形態で、窒素が第2の不純物として使える。バナジウムと窒素が用いられる実施の形態で、結晶は、バナジウムが少なくとも5×1016cm−3の濃度を有し、結晶長の少なくとも一部分にわたって約1から約3の値までの範囲の値を有するバナジウム対窒素の比率が維持されるようにドープできる。
【0007】
発明の実施の形態は、低いマイクロパイプ(micropipe)濃度を有し、および/またはかなりの大きさのマイクロパイプの無い領域を有するSiC結晶を作製できる。いくつかの実施の形態で、少なくとも50mmの寸法で、各々が5個に等しいかそれより少ないマイクロパイプを含む10mm×10mm×1mmの体積(volume)を複数個含むバルク結晶が得られる。いくつかの実施の形態で、バルク結晶は、各々が5個に等しいかそれより少ないマイクロパイプを含む100mmの大きさの幾何学的体積を複数個有する。結晶は、炭化ケイ素のウエハに切り出すことができる。いくつかの実施の形態で、少なくとも50μmの厚さを有するウエハが作製される。いくつかの実施の形態で、従ってこれらのウエハは、少なくとも50mmの寸法および少なくとも50μmの厚さを有し、また炭化ケイ素ウエハの少なくとも35%でマイクロパイプの無い1mmの大きさの体積を複数個有する。発明の実施の形態に従って作製されたウエハは、デバイス形成に使用するダイに切り出すことができる。一例として、光伝導スイッチをこのようにして作製できる。
【0008】
いくつかの実施の形態で、デバイスに使用するためのダイがウエハから、結晶からまたはその他のやり方で作製できる。少なくともいくつかの実施の形態における炭化ケイ素ダイは、実質的にマイクロパイプが無く、少なくとも10mm×10mm×1mmの大きさを有する。いくつかの実施の形態で、ダイは、5×1016cm−3に等しいかそれより高濃度のバナジウムをドープされ、またダイ全体にわたっておよそ1からおよそ3の値までの範囲の値を有するバナジウム対窒素の比率が保持されるように窒素をドープされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】結晶を作製するための方法および発明の例示的実施の形態に従って成長させられた結晶を示す図。分かりやすくするために、図1は、図1A図1Bおよび図1Cの3枚に3つに分けて示されている。
図2】本発明の実施の形態に従う例示的ウエハを示す図。図2のウエハは、また発明の例示的実施の形態に従ってデバイスを形成するためにウエハから切り出されるダイも示している。
図3】本発明の実施の形態に従う別の例示的ウエハを示す図。図3のウエハは、また発明の例示的実施の形態に従ってデバイスを形成するためにウエハから切り出されるダイも示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明を実施するための最良のモード(単数または複数))
以下の詳細な説明は、発明の特定の実施の形態を示す添付図面を参照する。異なる構造および動作を有するその他の実施の形態も本発明の範囲から外れることがない。
【0011】
本発明の実施の形態は、高電圧スイッチング、光スイッチングなどの用途および電気的に受動的な基板のための半絶縁性結晶の形の、低溶解度不純物をドープされた炭化ケイ素(SiC)の生産を提供する。結晶中の低溶解度不純物(単一または複数)の濃度は、結晶長の少なくとも実質的な部分にわたって実質的に均一である。多様なSiCの結晶多形が使用できる。例えば、6H、4H、15Rおよび3Cの結晶多形を使用できる。多様な低溶解度不純物をドーパントとして使用できる。周期群IB、IIB、IIIB、IVB、VB、VIB、VIIB、VIIIBおよびIIIAのうちから選ばれた不純物を使用できる。例えば、バナジウムまたはクロムを使用できる。いくつかの実施の形態で、ドーピングは、別の不純物による補償を含む。例えば、窒素を第2の不純物として使用できる。
【0012】
ここに述べた例示的実施の形態で、半絶縁性性質を有する6HのSiC結晶用ドーパントとしてバナジウム(V)および窒素(N)が使用される。この結晶は、物理気相輸送プロセスを利用してるつぼ中でSiCソース材料から成長させられる。るつぼ中のSiCソース材料は、固体、粉末または気体を含む多様な形態の任意のもので提供できるが、これらに限定されない。結果の結晶は、17mmまでの結晶長にわたって8.3×1016から3.3×1017cm−3の範囲に留まるバナジウム濃度を有することができる。結晶は、同じ長さにわたって6.0×1016から1.2×1017cm−3の範囲に留まる窒素濃度を有することができる。この実施の形態が本発明の実施の形態がどのように実施されるかの一例でしかないということは強調し過ぎることがない。
【0013】
バナジウムなどの低溶解度不純物の析出は、不純物の濃度が不純物の溶解限度を超えるときに発生する。析出は、通常結晶の長さに沿って不純物の空乏化を伴う。不純物の析出は、最終的な結晶中のドーパント分布を不均一にし、さらに高密度のマイクロパイプまたはマイクロパイプ欠陥と呼ばれる高いパイプ密度の原因となる。マイクロパイプは、実質的に結晶構造内部の小さいチューブ状空洞である。
【0014】
発明の例示的実施の形態で、析出は、2部構成の成長プロセスを使用することで回避される。バナジウムと窒素をドープする例では、プロセスの第1部において犠牲基板上に成長させられるSiC犠牲層中に過剰なバナジウムの析出が許容される。プロセスのこの第1部は、るつぼ中の材料を、それがソース材料であるかあるいはるつぼ自体からの材料であるかに関わらず、それ以上の析出を防止するようにコンディショニングする。犠牲基板は、次にその上にプロセスの第2部で最終的な結晶を成長させる最終基板で取って代わられる。プロセスのこの第2部で、結晶は、バナジウムの濃度よりも少ない濃度の窒素をドープされて、バナジウムによる窒素の完全な補償が実現されるようにされる。窒素は、気体としてるつぼに導入できる。コンディショニングされた材料を使用することで析出が無くなることによって、より均一なドーパント濃度およびマイクロパイプの密度低減がもたらされる。いくつかの実施の形態で、バナジウム濃度は、センチメートル当たり10倍も変化しない、あるいは変化の大きさは、1桁よりも小さい。
【0015】
図1は、発明の例示的実施の形態に従う結晶の成長プロセスを示す。ここでバナジウムが低溶解度不純物である。図1Aで、るつぼ100は、SiCソース材料102を含む。この例では、るつぼの内側が成長ゾーンとなる。ソース材料102は、バナジウムをドープされている。犠牲基板104がるつぼの蓋110に固定される。犠牲基板を取り付けられた蓋は、るつぼ100の上に置かれ、それによって基板は、るつぼのなかでソース材料の上方に吊るされる形となる。そしてるつぼ100が加熱される。
【0016】
図1Bに進むと、それを過ぎるとバナジウムの析出が終る時点に成長結晶112が達するまで結晶成長が行われる。この時点で下方のソース材料102は、システムの熱分布に合致するように適切にコンディショニングされている。初期のソース材料が変質して化学量論的平衡状態に達している。結晶112の成長を停止すべき時点は、ソース材料102中のバナジウム濃度およびるつぼのタイプおよびサイズなどのパラメータに従って変化する。しかし、結晶112の不純物析出を調べながら犠牲成長を行うことによって、この時点を予め決めることができる。一例として、結晶112は、数ミリメートルの長さにまで達することができる。
【0017】
図1Cでは、犠牲基板が破棄されて、最終基板120がるつぼの蓋110に固定されている。この時点で、この例では窒素である補償ドーパントがシステム中に導入される。補償ドーパントは、気体として導入できる。最終基板上への成長が開始されて、最終SiC結晶が得られる。ソース材料および/またはるつぼ材料のコンディショニングによって、ソース材料からの化学量論的により均一なフラックス流入が許容され、制御されたドーピング分布が実現される。この説明に関して、「ソース材料」という用語は、成長ゾーンに最初に置かれたソース材料を指すか、あるいは成長ゾーンがるつぼ内部にある場合には、るつぼ自体からの材料を含むか含むことができるソース材料を指す。
【0018】
特定のシステム・パラメータに依存するが、上述のように作製されたVドープのSiC結晶は、バナジウム濃度が1×1015cm−3よりも大きい結晶をもたらす。いくつかの実施の形態で、バナジウム濃度は、5×1015cm−3より大きい。いくつかの実施の形態で、バナジウム濃度は、1×1016cm−3より大きい。いくつかの実施の形態で、結晶は、バナジウムが少なくとも5×1016cm−3の濃度を有し、また少なくとも結晶の一部分にわたっておよそ1からおよそ3の値までの範囲の値を有するバナジウム対窒素の比率が保持されるようにドープできる。低溶解度不純物の可能な濃度の全範囲を活用するために、結晶のバックグラウンド不純物の濃度を非常に低く保つ必要がある。このことは、ベーキング、洗浄、ゲッタリング、化学浄化およびクリーン環境の維持など高純度入力技術を用いて行われる。
【0019】
例示的実施の形態で、低いマイクロパイプ密度および/またはかなりの大きさのマイクロパイプ無しの領域を有する結晶が作製される。いくつかの実施の形態で、少なくとも50mmの寸法で、各々が5個に等しいかそれより少ないマイクロパイプを含む10mm×10mm×1mmのサイズの体積を複数個含むバルク結晶が得られる。いくつかの実施の形態で、バルク結晶は、各々が5個に等しいかそれより少ないマイクロパイプを含む少なくとも100mmのサイズの体積を複数個有する。いくつかの実施の形態で、1つの体積中のマイクロパイプの数は、3マイクロパイプに等しいかそれよりも少ない。
【0020】
結晶は、炭化ケイ素のウエハに切り出すことができる。いくつかの実施の形態で、少なくとも50μmの厚さを有するウエハが得られる。いくつかの実施の形態で、従ってこれらのウエハは、少なくとも50mmの大きさおよび少なくとも50μmの厚さを有し、さらに炭化ケイ素ウエハの少なくとも35%、40%、45%または50%にわたってマイクロパイプの無い1mmのサイズの体積を複数個有する。
【0021】
図2は、発明の実施の形態に従って作られた結晶から切り出された実質的に円形のウエハを模式的に示す。ウエハ200は、ダイに切り出すことができ、ダイ202を用いてデバイスを形成できる。一例として、このようにして光伝導スイッチを作製できる。作動するデバイスを形成するためには、これに限定するわけではないが、ウエハをカットする前に半導体材料の付加的な層堆積を含む更なる処理が必要となる。使用に供するために、完成デバイスを、回路中でのマウントおよび/または接続のための適切なコンタクトを備えたパッケージにカプセル封入することも必要である。
【0022】
図3は、発明の実施の形態に従って作られた結晶から切り出された実質的に矩形のウエハを模式的に示す。ウエハ300は、ここでもダイに切り出すことができ、ダイ302を用いてデバイスを形成できる。発明の実施の形態に従うウエハは、各種の形状およびサイズのものでよい。
【0023】
例示的な実施の形態で、デバイスとして使用するためのダイは、ウエハから、結晶からまたはその他のやり方で作製できる。そのような実施の形態での炭化ケイ素ダイは、実質的にマイクロパイプ無しで、少なくとも10mm×10mm×1mmの大きさを有する。いくつかの実施の形態で、ダイは、5×1016cm−3に等しいかまたはそれよりも大きい濃度にバナジウムをドープでき、さらにダイ全体にわたっておよそ1からおよそ3の値までの範囲の値を有するバナジウム対窒素の比率が保持されるように窒素をドープできる。
【0024】
ここで使用される用語は、特別な実施の形態を説明する便宜上のものであって、発明を限定する意図のものではない。ここで使用される単数形の名詞は、文脈のなかで特に指示しない限り、同様に複数形も包含することが意図されている。さらに理解すべきことは、「含む」および/または「含んでいる」という表現は、この明細書で使用される場合、言及された構造、工程、操作、要素および/またはコンポネントの存在を意味するのであるが、1または複数のその他の構造、工程、操作、要素、コンポネントおよび/またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではないということである。さらに「より小さい」および「より大きい」などの比較的な量的表現は、量的概念を包含することを意図しているので、「より小さい」は、最も厳密な数学的意味での「より小さい」だけでなく、「等しいかより小さい」の意味も含む。
【0025】
さらに指摘すべきことは、この開示全体を通して、「上方に」、「下に」、「内部に」、「上に載って」および構造や部分の相対的位置を意味するその他の用語を用いて図面および説明が参照されることである。これらの用語は、単に便宜的に使用され、読者の視点から見える構造の相対的位置を意味するだけのものである。この開示の文脈で別の要素の上に置かれたり配置されたりした要素は、実際の製品のなかでデバイスや機器の向きによっては観察者に対してその相手の要素の横や下に位置することもあるが機能的には同じ場所にある。それらの用語を使用する任意の議論は、向きおよび配置のいろんな可能性を網羅することを意図する。
【0026】
特定の実施の形態についてここに図示し説明してきたが、同じ目的を達成すると見込まれる任意の配置であれば、示された特定の実施の形態に置き換わることができ、また本発明が他の環境にあっては別の用途を有することを当業者であれば理解できる。本出願は、本発明の任意の翻案または変形をカバーすることを意図している。以下の請求項は、発明の範囲をここに説明した特定の実施の形態に限定することを全く意図していない。
図1A
図1B
図1C
図2
図3