【実施例1】
【0017】
図1は本発明に係るガルバノスキャナ制御装置を構成するガルバノスキャナサーボ機構のブロック線図である。
なお、
図12と同等の機能のものは同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本発明は、偏差111に発生する振動成分を分析する偏差信号分析部207と、振動成分の周波数や減衰率といった特徴量118を記録するための記憶部208、また上位制御装置201からレーザ光制御装置206に送信されるレーザ照射条件116と記憶部208に記録された振動の特徴量119から加工形状を推定する加工形状推定部209を持ち、加工形状を表示する表示部210を持つことを特徴とする。
【0018】
まず、偏差信号分析部207について説明する。偏差信号分析部207は、偏差信号に重畳する振動の周波数や減衰率といった特徴量を周波数解析手法を用いて算出する。時系列データからモード特性を同定する手法はイブラヒム法やプロニー法があるが、ここではプロニー法を用いた場合について説明する。
【0019】
プロニー法は、採取した時系列データを振幅、位相、減衰、振動周波数からなる指数関数に近似することによって、信号を解析する手法である。プロニー法によるモード分析方法の概要を以下に述べる。取得された1回の移動動作時に所定の回数取得した(例えば1回の角度指令毎に500回取得する)偏差信号y(k)、(k=1,2、・・・N-1)を次式の形で推定する。
【数1】
【0020】
ここで、導出するモード数n、サンプリング間隔t、固有値si、初期値Biであり、モード減衰率σi、減衰角振動数ωdである。Ziは次に示すn次の多項式の解として与えられる。
【数2】
【0021】
一方、式1と式2より多項式の係数a1〜anは次式で表される。
【数3】
【0022】
したがって、取得した偏差から式3を作り、最小二乗法を用いてa1〜anを求め、式2を解けばZiが得られ、固有値siが算出できる。次に、式1よりBiについて次の関係が導出される。
【数4】
【0023】
これから最小二乗法を用いてBiが計算できる。以上より、振幅Ai、位相φi,モード減衰比ζi、不減衰振動周波数fdiは式5に帰着する。
【数5】
【0024】
次に、実際の偏差についてプロニー法を適用してモード特性の同定を行う。分析に用いた偏差波形を
図3に示す。
図3は長期間動作させたガルバノスキャナの偏差波形であり、特徴としてだらだらとしてなかなかセトリングしない遅いモードと、減衰が小さい高調波成分が重畳していることが確認できる。
【0025】
プロニー法ではステップ状の波形を同定すると、階段状の成分により高周波域での同定精度が落ちるため、ここでは目標値に対して偏差が所定の範囲内に入った後の波形を用いる。
図3のA区間をプロニー法により分離した代表的なモードを、表1に示す。なお、周波数は
図4に示すガルバノスキャナの周波数特性のf1で規格化している。
【表1】
【0026】
表1から、
図3の波形には1.過減衰とf1よりも低い成分、2.f1周波数の成分、3.f1より高い成分で構成されていることが分かる。これらは調査の結果、それぞれベアリングの特性劣化、ミラー及びミラー周りの特性劣化、スケール周りの特性劣化により発生することが分かっている。特にベアリングの特性劣化では、
図4に示す周波数特性には顕著に表れないが、本発明では偏差波形から振動成分を分析することで劣化の程度が明確になるため、ベアリングの劣化を知るためには本発明が有効である。
【0027】
偏差信号分析部で導出したモードは
図2に示す通り、事前に
図4の周波数特性から設定される周波数条件によって、3つの成分(低域:ベアリングの特性劣化成分、中域:ミラー及びミラー周りの特性劣化成分、高域:スケール周りの特性劣化成分)ごとに記憶部208に記憶する。本発明では、例えば周波数条件を式6のように、低域はf1の50%まで、中域・高域は各振動モードの共振周波数の±10%の範囲で設定すると良いことを見出した。
【数6】
【0028】
次に、加工形状推定部209について説明する。加工形状推定部209は、記憶部208に記憶された振動成分の特徴量119とレーザ照射条件116から、予想される加工時の中心座標のズレを算出することで加工形状を推定する。例として、加工条件が3ショット連続、初期ショットが移動開始(
図1で上位制御系から角度指令信号110が送られた瞬間)からt1秒後に行われ、ショット間インターバルがt2、t3である場合の推定方法を説明する。それぞれのショットにおける中心からのズレ量e1〜e3は式7で表される。各符号は、式5と同様である。
【数7】
【0029】
求められた中心からのズレ量と加工条件のレーザ光の径により、
図5のように加工形状が推測できる。この推測された加工形状を、表示部210に表示する。
移動量によって振動の程度が異なる場合、例えば移動量に基づいていくつかの区分に分けて評価することで推定精度が向上する。
実際のレーザ加工装置の場合、多くは2つ以上のガルバノスキャナを用いる。そのため、初期ショットの照射が移動距離の長いガルバノスキャナに依存する。この場合、すべての組み合わせに対して評価してもよいが、初期ショットの時間を振ってe1〜e3の距離(差分)が最大となる場合を求め、予想される最大のズレ量として簡易的に把握することも可能である。
【0030】
また、本発明では特性劣化毎に振動成分を求めているため、例えばミラーやスケールに関するパラメータを再調整することによる特性改善の程度を推定することも可能である。
【実施例3】
【0034】
図8は本発明にかかる実施例3の記憶部を示し、
図2とは保存するデータに目標角度を合わせて保存している点が異なる。例えば、実施例1のようなデータを複数回取得し、その結果を移動角度で整理するものである。
ガルバノスキャナのように、微小角の揺動運動を繰り返し行う場合、軸受の劣化は特定位置で激しく生じることが多い。そのため、中心付近での測定のみでは特性変動を捉えられない可能性がある。
【0035】
図9は、一例として本実施例を用いてある時刻での低域成分のみの偏差を、目標角度毎に算出した結果を示している。
図9では、特にB区間において低域の偏差が大きくなっており、この区間で加工を行った場合に加工精度が悪くなることが分かる。
図9の結果を表示部に表示することで、使用者にガルバノスキャナの交換や再調整を促すことができる。
【実施例4】
【0036】
図10は本発明に係る実施例4のガルバノスキャナ制御装置を示し、振動成分を周波数帯域毎に分離するバンドパスフィルタ211を備え、偏差が事前に決められた範囲外になったと判別する偏差信号判別器212と、判別した結果を表示する表示部210を備えていることを特徴とする。
【0037】
バンドパスフィルタ211の設定周波数は、例えば式6のように設定する。
図11は、分離された(a)低域、(b)中域、(c)高域の振動成分121である。これらの振動成分が、あらかじめ設定された振幅を超えた場合に偏差信号判別器212は注意信号122を発し、表示部210にその旨が表示される。
【0038】
以上より、本発明は偏差波形より機械特性の劣化による加工形状の悪化を常時監視することができる。なお、中域ではメンテナンスを実施したり、低域ではガルバノスキャナの交換を促したりと、周波数帯域毎に異なった対策を表示することも可能である。
【0039】
以上のように本発明の実施例1から実施例4によれば、
1)偏差波形より機械特性の劣化による加工形状の悪化を常時監視することができる。
2)周波数帯域毎に異なった対策を行うことが可能となる。例えば低域で悪化した傾向が見られる場合にはガルバノスキャナを交換したり、中域で悪化傾向が見られる場合はメンテナンスを実施したりすると言う風に要因別に個別の対策のみで済ますことができ、作業の簡略化に大きな効果がある。
3)従来技術と比較して、加工中であっても状態を監視できるので、従来のように一定周期で検査のために加工を止めたりする必要が無いのでタクトタイムの向上が可能となる。
等の効果を奏する。
【0040】
なお、本発明は本実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された発明の技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。