(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記量子化器の出力に基づいて前記ループフィルタの出力が飽和しているかを判定し、飽和を判定したら、前記ループフィルタの次数を1次または2次に減少させることを特徴とする請求項1または2に記載のデルタシグマ変調回路。
前記量子化器の出力に基づいて前記ループフィルタの出力が飽和しているかを判定する判定回路をさらに有することを特徴とする請求項3に記載のデルタシグマ変調回路。
【背景技術】
【0002】
デルタシグマ変調回路とは、オーバーサンプリングと負帰還の技術を用いて、入力信号と出力信号の差分を積分し量子化することで信号帯域の量子化雑音を低く抑えることができる回路である。このデルタシグマ変調回路は、ディジタル−アナログ変換器やアナログ−ディジタル変換器、位相同期回路等に用いられている。近年、通信分野においては新規格に伴う信号帯域のさらなる広帯域化や、微細化加工技術の向上に伴うディジタル信号処理領域の拡大化によりデルタシグマ変調回路のさらなる高精度化が要求されている。デルタシグマ変調回路のさらなる高精度化の一つは、複数個の積分器を用いてループフィルタの次数を高次にすることで、より高い信号電力対雑音電力比(SNR)を得ることである。
【0003】
しかしながら、ループフィルタの次数を大きくするに従ってデルタシグマ変調回路の動作は不安定になりやすく、正常動作範囲を超えた振幅の入力信号がデルタシグマ変調回路に入力されると、デルタシグマ変調回路の出力が飽和し発振しやすくなる。さらに、一旦、発振状態に陥ると入力信号を正常動作範囲以下の振幅に戻しても発振状態が持続するという問題がある。そこで、高次のループフィルタを有したデルタシグマ変調回路では、従来からこの発振状態を防止する技術が検討されている。
【0004】
この発振状態を防止する技術として、特許文献1に開示されているデルタシグマ変調回路が知られている。特許文献1に開示されているデルタシグマ変調回路を
図7に示す。このデルタシグマ変調器は、量子化器において発振状態を検出し、発振状態と判定したときには、量子化器の前段に接続された積分器の積分キャパシタの電荷を放電させることで積分器の出力をリセットし、併せてこの積分器の演算増幅器をスリープ状態にする。さらにディジタル−アナログ変換器のサンプリングキャパシタの電荷を放電させることでデルタシグマ変調器が発振状態を持続することを防止している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、以上のように構成されたデルタシグマ変調回路の発振持続状態を防止する技術では、発振を判定すると、入力信号の振幅に係らず、積分器の出力がアナログの基準電位にリセットされてしまうため、もはや量子化器出力では、入力信号が飽和しているか否かの検出は困難である。このため、入力信号の振幅が正常範囲に戻ったときに、リセットを解除するタイミングを正しく生成できない問題がある。これは、発振を判定すると、積分器とディジタル−アナログ変換器をリセットし、リセットをした積分器の演算増幅器をスリープ状態にするためにAD変換動作を諦めることに起因している。
【0007】
さらに、デルタシグマ変調回路を用いたアナログ−ディジタル変換回路においても、ナイキスト型のアナログ−ディジタル変換器と同様に、入力信号が飽和したら出力信号もそれに応答して飽和したままとし、かつ入力信号振幅が正常動作範囲に戻ればそれに追従して迅速に正常動作に戻り、入力信号の振幅の大きさに係らずアナログ−ディジタル変換動作を常に維持することが望まれる。
【0008】
なぜなら、特に、近年の通信分野に用いられる信号の多くは、想定外の振幅が大きな妨害波やOFDMのようなPAPR(Peak to Average Power Ratio)が高い変調信号等により一定期間アナログ−ディジタル変換器の出力信号が飽和しても、誤り訂正により元の信号を生成することが可能であり、常にアナログ−ディジタル変換動作を維持し続けるほうが、結果としてより安定した通信品質を維持できるからである。
【0009】
そこで、本発明は、上記の点に鑑み、従来技術と比較して、デルタシグマ変調回路の出力が飽和したときには、簡単な構成で発振状態に陥るのを防止し、さらに、入力信号振幅が正常動作範囲に戻れば、速やかに通常動作に復帰でき、その間、常にアナログ−ディジタル変換動作を維持できることを特徴としたデルタシグマ変調回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決して本発明の目的を達成するため、本発明による請求項1のデルタシグ
マ変調回路は、縦続接続されたn個(n≧3)の積分器により構成されたn次のループフィルタと、前記ループフィルタの出力を量子化する量子化器と、前記量子化器の出力
のディジタル−アナログ変換を行い、前記ループフィルタを構成している積分器のうち少なくともいずれかの積分器へ
アナログ変換された信号が入力される少なくとも1つのディジタル−アナログ変換器と、を有するデルタシグマ変調回路において、前記ループフィルタを構成している
前記n個の積分器の
内、少なくともn−2個の積分器は、その利得特性の減衰部における傾斜の絶対値が小さくなるように変化可能な増幅器で構成されており、前記ループフィルタの出力が飽和しているか否かを判定し、飽和していることを検出したときには前記増幅器が
前記小さくなった傾斜を有するように変化し、且つ、前記ループフィルタの次数をn次から1次または2次に減少させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明による請求項2のデルタシグマ変調回路は、請求項1に記載のデルタシグ
マ変調回路であって、
前記ループフィルタの出力が飽和から復帰したことを判定したときには、
前記ループフィルタの次数
が1次または2次から
飽和前のn次に戻るように制御されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明による請求項3のデルタシグマ変調回路は、請求項1または2に記載のデルタシグマ変調回路であって、量子化器の出力に基づいてループフィルタの出力が飽和しているかを判定し、飽和を判定したら、ループフィルタの次数を1次または2次に減少させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明による請求項4のデルタシグマ変調回路は、請求項3に記載のデルタシグマ変調回路であって、量子化器の出力に基づいてループフィルタの出力が飽和しているかを判定する判定回路をさらに有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明による請求項5のデルタシグマ変調回路は、請求項1または2に記載のデ
ルタシグマ変調回路であって、
前記積分器の
少なくとも1つの出力に基づいて
前記ループフィルタの出力が飽和しているかを判定し、飽和を判定したら、
前記ループフィルタの次数を1次または2次に減少させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明による請求項6のデルタシグマ変調回路は、請求項5に記載のデルタシグ
マ変調回路であって、
前記積分器の
少なくとも1つの出力に基づいて
前記ループフィルタの出力が飽和しているかを判定する判定回路を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明による請求項7のデルタシグマ変調回路は、請求項1乃至6のいずれかに記載のデルタシグマ変調回路であって、ループフィルタは連続時間型のフィルタで構成されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明による請求項8のデルタシグマ変調回路は、請求項7に記載のデルタシグマ変調回路であって、
前記ループフィルタを構成している積分器の
内、その利得特性の減衰部における傾斜の絶対値が小さくなるように変化可能な増幅器で構成された積分器は、入力抵抗と帰還容量と帰還抵抗と制御スイッチと演算増幅器とを備え、
前記入力抵抗は
前記演算増幅器の入力端子に接続され、
前記演算増幅器の出力端子と前記演算増幅器の入力端子との間に接続された
前記帰還容量に対し並列になるよう接続された
前記帰還抵抗は、
前記制御スイッチを介して、
前記演算増幅器の入力端子へ
の負帰還
ループを形成するように接続されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明による請求項9のデルタシグマ変調回路は、請求項1乃至6のいずれかに記載のデルタシグマ変調回路であって、ループフィルタは離散型のフィルタで構成されることを特徴とする。
【0019】
また、
本発明の別の側面によれば、デルタシグマ変調回路は、縦続接続されたn個(n≧3)の積分器により構成されたn次のループフィルタと、ループフィルタの出力を量子化する量子化器と、量子化器の出力をディジタル−アナログ変換を行い、ループフィルタを構成している積分器のうち少なくともいずれかの積分器へ入力されるディジタル−アナログ変換器と、を有するデルタシグマ変調回路において、ループフィルタの出力が飽和しているか否かを判定し、飽和を検出したときに、ディジタル−アナログ変換器の入力から量子化器の出力までの開ループの位相特性が、負の領域から正の領域に向けて位相0度を横切らない周波数−位相特性を有するように変化可能とすることを特徴とする。
【0020】
このように、上記特徴を備えることで、デルタシグマ変調回路の出力が飽和したときには、簡単な構成で発振状態に陥るのを防止し、さらに、入力信号振幅が正常動作範囲に戻れば、速やかに通常動作に復帰でき、その間、常にアナログ−ディジタル変換動作を維持し続けることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明のデルタシグマ変調回路は、デルタシグマ変調回路の出力が飽和したときには、ループフィルタの次数を高次から1次または2次に変化可能な構成とすることで、簡単な構成で発振状態に陥るのを防止し、さらに、入力信号振幅が正常動作範囲に戻れば、速やかに通常動作に復帰でき、その間、常にアナログ−ディジタル変換動作を維持できることを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、アナログ−ディジタル変換器に適応した、ループフィルタ次数が3次である本実施形態のデルタシグマ変調回路42である。本実施形態のデルタシグマ変調回路は、正入力端子18と、負入力端子19と、出力端子20と、制御端子21と、3個の積分器11〜13からなるループフィルタと、量子化器17と、3個のディジタル−アナログ変換器14〜16と、を備えている。縦続接続された3段の積分器11〜13は、正入力端子18と負入力端子19に入力される差動アナログ信号を積分する3次のループフィルタであり、ループフィルタの差動出力は、量子化器の差動入力端子に接続されている。
【0025】
1段目の積分器11は、全差動演算増幅器23と、全差動演算増幅器23の正入力端子に接続された入力抵抗26と、全差動演算増幅器23の負入力端子に接続された入力抵抗27と、全差動演算増幅器23の負出力端子と正入力端子とに接続された帰還キャパシタ34と、全差動演算増幅器23の正出力端子と負入力端子とに接続された帰還キャパシタ35と、を備えている。正入力端子18からのアナログ正入力信号は、入力抵抗26を介して全差動演算増幅器23の正入力端子に入力される。負入力端子19からのアナログ負入力信号は、入力抵抗27を介して全差動演算増幅器23の負入力端子に入力される。全差動演算増幅器23の負出力端子からの積分器11負出力信号は、帰還キャパシタ34へ出力されるとともに2段目の積分器12の入力抵抗29へ出力される。全差動演算増幅器23の正出力端子からの積分器11正出力信号は、帰還キャパシタ35へ出力されるとともに2段目の積分器12の入力抵抗28へ出力される。
【0026】
2段目の積分器12は、全差動演算増幅器24と、全差動演算増幅器24の正入力端子に接続された入力抵抗28と、全差動演算増幅器24の負入力端子に接続された入力抵抗29と、全差動演算増幅器24の負出力端子と正入力端子とに接続された帰還キャパシタ36と、全差動演算増幅器24の正出力端子と負入力端子とに接続された帰還キャパシタ37と、を備えている。前段の積分器11のアナログ正出力信号は、入力抵抗28介して全差動演算増幅器24の正入力端子に入力される。前段の積分器11のアナログ負入力信号は、入力抵抗29介して全差動演算増幅器24の負入力端子に入力される。全差動演算増幅器24の負出力端子からの積分器12負出力信号は、帰還キャパシタ36へ出力されるとともに3段目の積分器13の入力抵抗31へ出力される。全差動演算増幅器24の正出力端子からの積分器12正出力信号は、帰還キャパシタ37へ出力されるとともに3段目の積分器13の入力抵抗30へ出力される。
【0027】
3段目の積分器13は、全差動演算増幅器25と、全差動演算増幅器25の正入力端子に接続された入力抵抗30と、全差動演算増幅器25の負入力端子に接続された入力抵抗31と、全差動演算増幅器25の負出力端子と正入力端子とに接続された帰還キャパシタ38と、全差動演算増幅器25の負出力端子と制御スイッチ40とに接続された帰還抵抗32と、帰還抵抗32と全差動演算増幅器25の正入力端子とに接続された制御スイッチ40と、全差動演算増幅器25の正出力端子と負入力端子とに接続された帰還キャパシタ39と、全差動演算増幅器25の負出力端子と制御スイッチ41とに接続された帰還抵抗33と、帰還抵抗33と全差動演算増幅器25の負入力端子とに接続された制御スイッチ41と、を備えている。
【0028】
前段の積分器12のアナログ正出力信号は、入力抵抗30を介して全差動演算増幅器25の正入力端子に入力される。前段の積分器12のアナログ負入力信号は、入力抵抗31を介して全差動演算増幅器25の負入力端子に入力される。全差動演算増幅器25の負出力端子からの積分器13負出力信号は、帰還キャパシタ38と帰還抵抗32とへ出力されるとともに量子化器17の負入力端子へ出力される。全差動演算増幅器25の正出力端子からの積分器13正出力信号は、帰還キャパシタ39と帰還抵抗33とへ出力されるとともに3量子化器17の正入力端子へ出力される。
【0029】
量子化器17は、積分器11〜13からなるループフィルタから出力されたアナログ信号をディジタル信号へ量子化し、このディジタル信号を出力端子20からデルタシグマ変調器の出力として出力されるとともに、ディジタル−アナログ変換器を介して積分器11〜13の入力端子に入力されるよう負帰還を形成する。
【0030】
ディジタル−アナログ変換器14は、量子化器17のディジタル出力が入力され、1段目の積分器11の正入力端子と負入力端子とへ、ディジタル−アナログ変換後のアナログ信号が出力される。
【0031】
ディジタル−アナログ変換器15は、量子化器17のディジタル出力が入力され、2段目の積分器12の正入力端子と負入力端子とへ、ディジタル−アナログ変換後のアナログ信号が出力される。
【0032】
ディジタル−アナログ変換器14は、量子化器17のディジタル出力が入力され、3段目の積分器13の正入力端子と負入力端子とへ、ディジタル−アナログ変換後のアナログ信号が出力される。
【0033】
制御線22は、制御端子21からデルタシグマ変調回路が飽和しているか否かが判定された判定信号が入力され、制御スイッチ40、41の開閉を制御するように制御スイッチ40、41に接続される。
【0034】
図2は、デルタシグマ変調回路42の入出力信号の波形図の一例である。
図2(a)は、デルタシグマ変調回路42へ入力信号の波形図である。実線は、デルタシグマ変調回路42の正入力端子へ入力される波形である。破線は、デルタシグマ変調回路42の負入力端子へ入力される波形である。
図2(b)に示した実線は、デルタシグマ変調回路42のループフィルタの次数を固定にしたときのデルタシグマ変調回路の出力の波形である。
図2(c)に示した実線は、デルタシグマ変調回路42の出力が飽和した区間のみループフィルタの次数を3次から2次へ変化し、飽和していない区間は、ループフィルタの次数が3次のままであるときのデルタシグマ変調回路42の出力の波形である。
【0035】
図3は、デルタシグマ変調回路42の負帰還の開ループ特性を示したものである。
図3(a)の図において、横軸は対数で表示された周波数の軸であり、縦軸は、対数表示であらわされた利得の軸である。デルタシグマ変調回路42において、ディジタル−アナログ変換14〜16の入力端子から、デルタシグマ変調回路の出力端子20までの負帰還における、周波数に対する利得の開ループ特性である。実線は、ループフィルタの次数が3次のときのものであり低域側における傾きは60dB/decで、高域側における傾きは20dB/decである。破線は、ループフィルタの次数を3次から2次へ変化後のものであり、低域側における傾きは、40dB/decで、高域側における傾きは20dB/decである。
【0036】
図3(b)の図において、横軸は対数で表示された周波数の軸であり、縦軸は、対数表示であらわされた位相の軸である。デルタシグマ変調回路42において、ディジタル−アナログ変換14〜16の入力端子から、デルタシグマ変調回路の出力端子20までの負帰還における、周波数に対する位相の開ループ特性である。実線は、ループフィルタの次数が3次のときのものである。破線は、ループフィルタの次数を3次から2次へ変化後のものである。
【0037】
図4は、デルタシグマ変調回路の負帰還の開ループ特性を示したものである。
図4(a)の図において、横軸は対数で表示された周波数の軸であり、縦軸は、対数表示であらわされた利得の軸である。デルタシグマ変調回路において、ディジタル−アナログ変換の入力端子から、デルタシグマ変調回路の出力端子20までの負帰還における、周波数に対する利得の開ループ特性である。実線は、ループフィルタの次数が3次のときのものであり低域側における傾きは60dB/decで、高域側における傾きは20dB/decである。破線は、ループフィルタの次数を3次から1次へ変化後のものであり、低域側における傾きは、20dB/decで、高域側における傾きは20dB/decである。
【0038】
図4(b)の図において、横軸は対数で表示された周波数の軸であり、縦軸は、対数表示であらわされた位相の軸である。デルタシグマ変調回路において、ディジタル−アナログ変換の入力端子から、デルタシグマ変調回路の出力端子までの負帰還における、周波数に対する位相の開ループ特性である。実線は、ループフィルタの次数が3次のときのものである。破線は、ループフィルタの次数を3次から1次へ変化後のものである。
【0039】
図5は、
図1に示したデルタシグマ変調回路に、飽和判定回路が備わったデルタシグマ変調回路である。量子化器17の出力が飽和判定回路43の入力端子に接続され、飽和判定回路43の出力は、制御線22に接続される。
【0040】
図6は、
図1に示したデルタシグマ変調回路に、飽和判定回路が備わったデルタシグマ変調回路である。積分器13の出力が飽和判定回路43の入力端子に接続され、飽和判定回路43の出力は、制御線22に接続される。
【0041】
次に本発明の実施の形態における発振を防止する技術を備えたデルタシグマ変調器の動作を説明する。
【0042】
図1に示されるデルタシグマ変調回路42に、
図2(a)の入力がされる。この時、制御端子21にはLoが入力されており、制御スイッチ40と41は、開であり、このデルタシグマの負帰還の開ループ特性は、
図3(a)および
図3(b)の実線で示された利得特性と位相特性を有する。
【0043】
デルタシグマ変調回路42に通常動作範囲を超える入力信号が入力されると、デルタシグマ変調回路の出力が飽和する。この飽和状態を検出することで、制御端子21にHiを入力するよう制御する。制御端子21がHiになると、制御スイッチ40と41が閉じ、制御スイッチ40を介して、帰還抵抗32が積分器13の全差動演算増幅器25の正入力端子に接続され、制御スイッチ41を介して、帰還抵抗33が全差動演算増幅器25の負入力端子に接続される。これにより、3段目の積分器がローパスフィルタ特性に変わる。この変化により、デルタシグマ変調回路のループフィルタの次数は3次から2次へ変更され、この時のデルタシグマ変調回路の負帰還の開ループ特性は、
図3(a)および
図3(b)の破線で示された利得特性と位相特性を示す。
【0044】
ここで、3段目の積分器13をローパスフィルタ特性に変化可能とする帰還抵抗32と33の抵抗値について説明する。3段目の積分器13の帰還容量と並列に帰還抵抗32を、制御スイッチ40を介して全差動演算増幅器25の正入力端子に接続し、帰還容量39と並列に帰還抵抗33を、制御スイッチ41を介して全差動演算増幅器の負入力端子に接続することで、積分器13のフィルタ特性を積分器特性からローパスフィルタ特性に変化させる。このように積分器13のフィルタ特性を変化させることで、ループフィルタの次数を3次から2次へ変化可能となるように、帰還抵抗値32と33の抵抗値を係数設計により決定する。次に以上の変化動作をデルタシグマ変調器の負帰還の開ループ特性図を用いてさらに詳しく説明する。
図3(a)の利得特性図の破線で示したように、低域側の傾きが40dB/decになるような利得特性に、かつ
図3(b)の位相特性図の破線で示したように、低域側において位相が負の領域から正の領域に向けて位相0度を横切らないような位相特性になるように係数設計により帰還抵抗値32と33を決定する。なお、ループフィルタの次数は、
図3(a)に示した利得特性で低域側の傾きが60dB/decなら3次と呼び、傾きが40dB/decなら2次の次数と呼ぶ。
【0045】
デルタシグマ変調回路42に通常動作範囲を超える入力信号が入力された状態から正常動作に戻ったとき、飽和判定回路にて飽和していないことを判定し、制御端子21にHiからLoを入力するよう制御する。制御端子21がLoになると、制御スイッチ40と41が開き、これにより、3段目の積分器13のローパスフィルタ特性が元の積分器特性に戻る。この変化により、デルタシグマ変調回路のループフィルタの次数は2次から3次へ変更され、この時のデルタシグマ変調回路の負帰還の開ループ特性は、
図3(a)および
図3(b)の実線で示された利得特性と位相特性へと戻る。
【0046】
飽和の検出は、
図5に示すような量子化器出力でも、
図6に示すような各積分器出力でもよく、これらの出力波形の少なくともいずれか1つがデルタシグマ変調回路の正常動作範囲の上限値または下限値を超えることを検出した期間のみ、制御端子にHiを入力し、制御スイッチを閉の状態にさせる。入力信号がデルタシグマの正常動作範囲内であれば、制御端子21には常にLoが入力され、制御スイッチ40と41は閉の状態のままである。発振を防止するためにループフィルタの次数を減少させるのみで、積分器やディジタル−アナログ変換器をリセットする動作は行われず、またデルタシグマ変調回路内の積分器の出力振幅を減少させるよう制限も行われないため、入力信号振幅が正常動作範囲を超えたら、デルタシグマ変調器の出力は飽和し、入力信号振幅が正常動作範囲に戻ったら、デルタシグマ変調回路の出力も、正常動作範囲に復帰する。これにより、量子化器出力か、または積分器出力のいずれかの信号振幅が正常動作範囲に復帰することを検出するだけで、速やかに飽和状態から通常動作に復帰できる。
【0047】
以上の動作をすることで、出力は、
図2(c)に示された通り、入力信号が正常動作範囲内であれば、3次のノイズシェーピング特性を有するSNRで入力信号がアナログ−ディジタル変換されたディジタル信号が出力され、入力信号が正常動作範囲を超えた区間では、飽和したディジタル信号が出力される。また、入力信号が正常動作範囲内に戻れば、デルタシグマ変調回路の出力波形も飽和から復帰し、
図2(a)の入力信号に対応して、3次のノイズシェーピング特性を有するSNRでアナログ−ディジタル変換されたディジタル信号が出力される。
【0048】
制御端子によりループフィルタの次数の変化させる制御を行わなければ、
図2(b)の出力波形に示された通り、入力信号が、正常動作範囲を超えるとデルタシグマ変調回路の出力は飽和し、その直後、出力最大値と出力最小値を繰り返しながら発振を継続してしまうことから、本発明の示した発振防止技術が有効であることがわかる。
【0049】
また本特許に示した発振防止技術の趣旨は、飽和を検出することにより、動的にデルタシグマ変調回路のループフィルタの伝達関数を変化させることで、
図3(a)の破線に示したようにループフィルタの次数を2次に変化させ、かつデルタシグマ変調回路の負帰還の開ループ特性の位相特性を
図3(b)に示したように、負の領域から正の領域に向けて位相0度を横切らない周波数−位相特性を有するように変化させることである。入力信号が正常動作範囲を超えた区間のみ、ループフィルタの次数を低減させるため正常動作区間に比べSNRの低下を引き起こすが、このときデルタシグマ変調器の出力は、飽和しているため、SNR低下は、問題にならない。
【0050】
なお、
図1に示した実施形態のデルタシグマ変調回路は、ループフィルタの次数を3次から2次へ変化させているが、次数を3次から1次に変化させてもよい。このときのデルタシグマ変調回路の負帰還の開ループ特性を
図4に破線で示す。
【0051】
また、
図1に示した実施形態のデルタシグマ変調回路は、ループフィルタの次数を3次としたが、ループフィルタの次数は3次よりも大きくてもよい。
【0052】
また、
図1に示した実施形態のデルタシグマ変調回路は、複数個の積分器を縦続接続し最終段の積分器出力を量子化器に入力しているが、縦続接続された複数個の積分器出力をすべてまたはいずれかを加算する加算器を設け、この加算器の出力を量子化に入力されるデルタシグマ変調回路でもよい。
【0053】
また、
図1に示した実施形態のデルタシグマ変調回路はループフィルタが連続時間型のフィルタであるが、スイッチドキャパシタフィルタで構成された離散時間型のフィルタでもよい。