(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5711953
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20150416BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
H01L21/302 101C
H05H1/46 L
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-276521(P2010-276521)
(22)【出願日】2010年12月13日
(65)【公開番号】特開2012-129222(P2012-129222A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】具志堅 正春
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 惠
(72)【発明者】
【氏名】西尾 良司
【審査官】
溝本 安展
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−533093(JP,A)
【文献】
特開2004−235545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料がプラズマ処理される真空処理室と、前記真空処理室内に配置され、前記試料を載置する試料台と、前記真空処理室外に配置された誘導アンテナと、前記誘導アンテナに高周波電力を供給する高周波電源と、前記高周波電源から整合器を介して高周波電圧が印加され前記プラズマと容量結合するファラデーシールドとを備えるプラズマ処理装置において、
前記整合器は、可変コンデンサとインダクタンスを有する直列共振回路と、前記可変コンデンサの容量を制御するためのモータを制御するモータ制御部と、前記ファラデーシールドに印加された高周波電圧を検出する高周波電圧検出部とを具備し、
前記モータ制御部は、前記直列共振回路の共振点を境界として前記直列共振回路が容量性の領域で動作するか誘導性の領域で動作するかを切り替える信号と前記ファラデーシールドに印加される所定の高周波電圧と前記高周波電圧検出部により検出された高周波電圧とに基づいて前記ファラデーシールドに印加される所定の高周波電圧と前記高周波電圧検出部により検出された高周波電圧との差が所定の許容値より小さくなるように前記可変コンデンサの容量を制御するとともに前記信号により前記直列共振回路が前記容量性の領域で動作するように設定され、前記高周波電圧検出部により検出された高周波電圧が前記ファラデーシールドに印加される所定の高周波電圧より大きい場合、前記可変コンデンサの容量が大きくなるように前記可変コンデンサの容量を制御することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記モータ制御部は、前記信号により前記直列共振回路が前記誘導性の領域で動作するように設定され、前記高周波電圧検出部により検出された高周波電圧が前記ファラデーシールドに印加される所定の高周波電圧より大きい場合、前記可変コンデンサの容量が小さくなるように前記可変コンデンサの容量を制御することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記モータ制御部は、前記高周波電圧検出部により検出された高周波電圧が予め設定された下限値より小さくなる場合、前記可変コンデンサの容量を制御する方向を強制的に逆転させることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載のプラズマ処理装置において、
前記モータ制御部は、前記高周波電圧検出部により検出された高周波電圧が予め設定された下限値より小さくなる場合、前記可変コンデンサの容量を制御する方向を強制的に逆転させることを特徴とするプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマ処理装置に係り、特にプラズマを用いて半導体素子等の試料の表面処理を行うのに好適なプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のプラズマ処理装置の一つとして、真空容器外周に設けられたコイル状の誘導アンテナに高周波電源を接続し、電力を供給することでプラズマを生成する誘導方式のプラズマ処理装置がある。このような誘導アンテナを用いたプラズマ処理装置では、処理室内に付着した反応生成物によって、誘導アンテナと真空容器内プラズマとの結合状態が変化し、エッチング速度やその均一性,エッチング形状の垂直性,エッチング側壁に対する反応生成物の付着状況等が経時的に変化するという問題がある。これを防ぐ方法として、特許文献1には、真空容器外周に設けた誘導アンテナとプラズマとの間にプラズマと容量結合をしたファラデーシールドを設置し、これに高周波電圧を印加する方法が開示されている。この高周波電圧で真空容器内壁に自己バイアスを発生し、シース内の電界によってプラズマ中のイオンを引き込み、真空容器内壁面上でスパッタを起こす。このスパッタを利用して反応生成物を抑制、又は除去し、真空容器内壁のクリーニングを可能にする。例えばファラデーシールドに印加する高周波電圧(Faraday Shield Voltage:以下FSVと称する)の制御方法は、試料のプラズマ処理中は、真空容器内壁に反応生成物の付着を抑制できる程度のFSVを印加し、真空容器内壁のクリーニングの時は試料のプラズマ処理中のFSVより大きな高周波電圧を印加して真空容器内壁に付着した反応生成物を除去する。上述のFSVを設定されたFSVにするために、予めFSVと可変コンデンサの容量との相関関係をデータベースに蓄積し、設定されたFSVに対応する可変コンデンサの容量をデータベースから参照して求め、可変コンデンサの容量を上述の求められた可変コンデンサの容量となるような制御が行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−235545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、直列共振回路の可変コンデンサの容量とインダクタンスのばらつきにより、プラズマ処理装置ごとに、あるいは可変コンデンサ,インダクタンスを内蔵する自動整合器などのユニット交換ごとに、データ取りを行いそのデータを管理しなければならない。また、可変コンデンサの静電容量が一定に制御されていても、試料のプラズマ処理が進行するにつれて真空容器内壁に堆積した反応生成物からのアウトガスの影響などでプラズマインピーダンスが変化するため、ファラデーシールドに印加される高周波電圧を一定に制御できない。このため、本発明は、ファラデーシールドに印加される高周波電圧を安定かつ高精度に制御できるプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、試料
がプラズマ処理
される真空処理室と、前記真空処理室内に配置され、前記試料を載置する試料台と、前記真空処理室外に
配置された誘導アンテナと、前記誘導アンテナに高周波電力を供給する高周波電源と、
前記高周波電源から整合器を介して高周波電圧
が印加され
前記プラズマと容量結合するファラデーシールドとを
備えるプラズマ処理装置において、前記整合器は、可変コンデンサとインダクタンス
を有する直列共振回路と、前記可変コンデンサ
の容量を制御するためのモータを制御するモータ制御部と、前記ファラデーシールドに印加され
た高周波電圧を検出する高周波電圧検出部とを
具備し、前記
モータ制御部は、前記直列共振回路の共振点を境界として前記直列共振回路が容量性の領域で動作するか誘導性の領域で動作するかを切り替える信号と前記ファラデーシールドに印加される所定の高周波電圧と前記高周波電圧検出部により検出された高周波電圧とに基づいて前記ファラデーシールドに印加される所定の高周波電圧と前記高周波電圧検出部により検出された高周波電圧との差が所定の許容値より小さくなるように前記可変コンデンサの容量を制御するとともに前記信号により前記直列共振回路が前記容量性の領域で動作するように設定され、前記高周波電圧検出部により検出された高周波電圧が前記ファラデーシールドに印加される所定の高周波電圧より大きい場合、前記可変コンデンサの容量が大きくなるように前記可変コンデンサの容量を制御することを特徴とする
。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ファラデーシールドに印加される高周波電圧を安定かつ高精度に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施例に係る誘導結合型プラズマエッチング装置の断面図である。
【
図4】FSVと可変コンデンサVC3との相関図である。
【
図5】本発明のFSV制御方法を示す概念図である。
【
図6】下限リミット及び過電圧検知の機能を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0009】
図1は、本発明を用いた誘導結合型プラズマエッチング装置の断面図である。円筒状の真空処理室2の上部を閉塞する絶縁材料製の円錐状のウィンドウ12を備え真空処理室2を形成する。真空処理室2の内部には、試料13を載置するための試料台5を備え、処理室内にはプラズマ6を生成して試料13をプラズマ処理する。また、前記試料台5は試料台を含む試料保持部9上に形成する。真空処理室2内にはガス供給装置4から処理ガスが供給され、処理室内のガスは排気装置7により、所定の圧力に減圧排気される。供給された処理ガスは、アンテナ1a,1bとファラデーシールド8から発生する電磁場の作用によって、プラズマ6を生成する。プラズマ6中に存在するイオンを試料13に引き込むために、試料台5に第二の高周波電源11を接続し、高周波電力を印加する。
【0010】
ウィンドウ12の外周にはコイル状の誘導アンテナ1を配置する。誘導アンテナ1は、それぞれが2ターンの上アンテナ1a及び下アンテナ1bの2系統に分かれる。誘導アンテナ1には、第一の高周波電源10により発生する高周波電力(例えば、13.56MHz,27.12MHz,2MHz等)を供給し、プラズマ生成用の電磁場を得る。この時、可変コンデンサVC1,VC2による整合回路を用いて、上アンテナ1a,下アンテナ1bのインピーダンスを第一の高周波電源10の出力インピーダンスに一致させる。さらに、整合器であるマッチングボックス3搭載の可変コンデンサVC4により、誘導アンテナ1に供給する高周波電流を上アンテナ1a,下アンテナ1bそれぞれに制御する。誘導アンテナ1とプラズマ6との間には、容量的に結合するファラデーシールド8を設ける。第一の高周波電源からマッチングボックス3を介してファラデーシールド8に印加する高周波電圧(Faraday Shield Voltage:以下FSVと称する)は、マッチングボックス3搭載の可変コンデンサ(VC3)及びコイル(L
2)からなる直列共振回路14により制御される。次にFSV制御ブロックを示す
図2と、
図2の詳細な構成であるFSV制御回路構成を示す
図3とを用いて、FSV自動制御構成について説明する。マッチングボックス3は、FSV自動制御を行うため、モータ制御部16と高周波電圧検出部であるFSV検出部15と異常検知部17を備える。モータ制御部16は、比較回路18とモータ制御回路19と下限リミット20から構成され、制御部25からのFSV指令信号と静電容量プリセット信号と誘導性・容量性制御切替信号とFSV検出部15からの信号を基にFSV出力がFSV指令値と等しくなるようにフィードバック制御を行う。FSV検出部15は、フィルタ回路22と検波回路23と増幅回路24から構成され、FSV出力値を検出する。異常検知部17はFSV過電圧検知回路から構成され、誘導結合型プラズマエッチング装置の故障につながるようなFSVの過電圧を検知する。
【0011】
次にFSVの自動制御のフローについて説明する。制御部25から送信された直列共振回路14の誘導性・容量性制御切替信号によりマッチングボックス3内のモータ制御回路19を誘導性の領域または容量性の領域に切り替える。誘導性・容量性制御切替信号は第一の高周波電源10からの出力を開始する前に設定する。また予め静電容量のプリセット信号にて可変コンデンサVC3の静電容量が制御したい領域に入るように設定する。尚、上述の誘導性・容量性制御切替信号は、レシピと呼ばれるプラズマ処理条件のパラメータに誘導性または容量性が設定されて制御部25から送信されても良い。同様に可変コンデンサVC3のプリセット信号もレシピと呼ばれるプラズマ処理条件のパラメータに可変コンデンサVC3のプリセット値が設定されて制御部25から送信されても良い。次にFSV出力は、アース電位(図示せず)に対してコンデンサC2,C3で1/250程度に分圧された後、高調波成分を除去するフィルタ回路22を介して検波回路23でDC電圧に変換され、増幅回路24で増幅されて検出される。
【0012】
次に比較回路18において、FSV指令との比較に適した電圧に増幅されたFSV検出値と制御部25からのFSV指令値との比較が行われる。比較の結果、生じた誤差を予め設定された容量性または誘導性のそれぞれの領域の制御方法に基づいてモータ制御回路19にて可変コンデンサVC3のモータ21を駆動し、可変コンデンサVC3の静電容量を制御する。このフィードバック制御は、FSV指令電圧とFSV出力の誤差が許容値になるまで行われる。上述した可変コンデンサVC3の静電容量制御は、容量性,誘導性のそれぞれの領域毎に異なる。
【0013】
このため、直列共振回路14の共振点を境界にして可変コンデンサの制御方向を誘導性・容量性制御切替信号により切り替える回路をモータ制御回路19に設け、制御部25から発信された誘導性・容量性制御切替信号により、容量性と誘導性の各領域を使い分けながらファラデーシールド8に印加される高周波電圧を制御することができる。
【0014】
プラズマのイオン電流密度(Ion Current Flux)は、
図4に示すように可変コンデンサVC3の静電容量の増加に従って、直列共振回路14が容量性の場合はイオン電流密度が高くかつ変化が少なく、誘導性の場合にはイオン電流密度が減少する傾向を示す。本発明では上述した通り、容量性と誘導性の各領域を使い分けることができるため、上記のイオン電流密度特性を適宜選択しながら、プラズマエッチング処理またはプラズマクリーニング処理を行うことができる。また、例えば、プラズマエッチング処理においては、静電容量の変化によるFSVの変化の勾配が小さい容量性の領域でFSVを制御し、プラズマエッチング処理時間中のFSVの高周波電圧変化を極力抑えてプラズマエッチング性能への影響をおさえる使い方を行い、一方、プラズマクリーニングの時はFSVの高周波電圧の絶対値が大きい誘導性の領域でFSVを制御し、プラズマクリーニングの効果を上げる使い方を行っても良い。
【0015】
次に容量性,誘導性のそれぞれの領域における静電容量の制御方法を
図5を用いて説明する。誘導性・容量性制御切替信号により、容量性の領域でFSVを制御する場合は、FSV検出値がFSV指令値より小さい時は可変コンデンサVC3の静電容量を減少させる方向、FSV検出値がFSV指令値より大きい場合は可変コンデンサVC3の静電容量が増加する方向に可変コンデンサVC3のモータ21を回してFSV検出値とFSV指令値の差が許容値内に収まるようにフィードバック制御する。逆に、誘導性の領域でFSVを制御する場合は、FSV検出値がFSV指令値より小さい時は可変コンデンサVC3の静電容量を増加させる方向、FSV検出値がFSV指令値より大きい場合は可変コンデンサVC3の静電容量が減少する方向に可変コンデンサVC3のモータ21を回してFSV検出値とFSV指令値の差が許容値内に収まるようにフィードバック制御する。
【0016】
上述した本発明の構成により、直列共振回路14が容量性の場合でも誘導性の場合でもFSVを一定に制御することができ、FSVと静電容量の関係のデータ採取に要する時間を大幅に短縮できる。また、FSVのプラズマ処理時間経過による変化を抑制できるため、FSVの変化によるプラズマエッチング性能への影響を低減し、また、再現性の良いクリーニングを行うこともできる。
【0017】
また、本発明の目的は誘導性と容量性の各領域を使い分けながらFSV制御を行うことである。しかし、共振点付近ではプラズマの急激な変化により、可変コンデンサの容量を変化させる時に共振点を超えて容量性から誘導性に、または誘導性から容量性になることが有り得る。この場合FSVの制御論理が反転してしまうため、制御不能となり、過大なFSVが発生して誘導結合型プラズマエッチング装置の故障につながる危険性がある。
【0018】
そこで、本発明においては
図6に示すように下限リミット20を設けているため、容量性から誘導性、または誘導性から容量性に制御範囲が変わってしまわないように予め設定された下限電圧値よりFSVが小さくなる時に強制的に可変コンデンサVC3の制御方向を逆転させる制御を行う。尚、下限リミット20の設定は本実施例では、アナログ回路を用いたが、プラズマ処理条件にて設定しても良い。
【0019】
また、誘導型結合プラズマエッチング装置の保護を目的にFSVの上限を超えたことを検出する回路であるFSV過電圧検知回路を備えているため、FSV過電圧検知回路よりFSVの過電圧を検知した場合には第一の高周波電源10の出力を止める機能も持たせている。本実施例でのFSV検出信号はディジタル信号であるが、FSV検出信号を直接アナログで取り込み過電圧検出を行っても良い。
【符号の説明】
【0020】
1 誘導アンテナ
1a 上アンテナ
1b 下アンテナ
2 真空処理室
3 マッチングボックス
4 ガス供給装置
5 試料台
6 プラズマ
7 排気装置
8 ファラデーシールド
9 試料保持部
10 第一の高周波電源
11 第二の高周波電源
12 ウィンドウ
13 試料
14 直列共振回路
15 FSV検出部
16 モータ制御部
17 異常検知部
18 比較回路
19 モータ制御回路
20 下限リミット
21 モータ
22 フィルタ回路
23 検波回路
24 増幅回路
25 制御部