特許第5712382号(P5712382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5712382生体分子相互作用解析ツールの構成とそれを用いた解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5712382
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】生体分子相互作用解析ツールの構成とそれを用いた解析方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20150416BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20150416BHJP
   C40B 30/04 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   C12N15/00 A
   C12Q1/68 Z
   C40B30/04
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-509570(P2012-509570)
(86)(22)【出願日】2011年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2011058203
(87)【国際公開番号】WO2011125833
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2012年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2010-82991(P2010-82991)
(32)【優先日】2010年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】宮本 悦子
(72)【発明者】
【氏名】辻 融
(72)【発明者】
【氏名】藤森 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】石坂 正道
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特表平03−501801(JP,A)
【文献】 特開2002−176987(JP,A)
【文献】 国際公開第98/016636(WO,A1)
【文献】 国際公開第03/048363(WO,A1)
【文献】 Miyamoto-Sato, E. et al.,"Cell-free cotranslation and selection using in vitro virus for high-throughput analysis of protein-protein interactions and complexes.",Genome Research,2005年,Vol.15,p.710-717
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12N 15/00−15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対応付け分子のmRNA部分を連結するためのDNAリンカーであって、その5'末端に、前記mRNA部分の5'末端の、プロモーター配列を含む配列に相補的なmRNA相補性領域、及び、その3'末端に、DNAリンカー相互間で相補的な自己相補性領域を含み、その5'末端がリン酸化されているDNAリンカー。
【請求項2】
対応付け分子のmRNA部分の5'末端の配列が、5'末端側からプロモーター配列、Ω様配列、T7ペプチドタグ遺伝子をこの順序で含む、請求項1に記載のDNAリンカー。
【請求項3】
下記の工程を含む、相互作用する蛋白質をコードする遺伝子が連結したDNAの合成方法。
対応付け分子をその蛋白質部分で相互作用させる工程
相互作用した対応付け分子のmRNA部分を、請求項1又は2に記載のDNAリンカーを介してアニーリングにより連結させる工程であって、対合は、前記mRNA部分の5'末端の配列と前記mRNA相補性領域との間、及び、前記自己相補性領域間に生じる前記工程
逆転写により前記mRNA部分をDNA-RNAハイブリッドにする工程
前記DNAリンカーの5'末端と、逆転写で合成されたDNA鎖の3'末端を連結する工程
DNA-RNAハイブリッドを構成するRNAを分解する工程
前記DNAリンカー3'末端を伸長してcDNAを合成する工程
【請求項4】
請求項3に記載の合成方法で得られたDNAの塩基配列を決定し、相互作用した蛋白質をコードする遺伝子の組または相互作用した蛋白質の組を特定することを含む相互作用の解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子相互作用解析ツールの構成とそれを用いた解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代型シーケンサーをトランスクリプトームやプロテオーム解析に導入し、蛋白質・DNA・RNAに関する分子間相互作用情報を、大量に取得する試みがなされている。(非特許文献1)。
【0003】
mRNAとそれがコードする蛋白質が共有結合で連結したmRNA-protein対応付け分子を用い(図1a, b)、蛋白質のアミノ酸配列情報を、DNAの塩基配列情報として取り出す方法がin vitro virus (IVV)法として知られている(特許文献1、特許文献2)。このIVV法とサンガー型DNAシーケンサーを用いて、プロテオーム解析が行なわれてきた(非特許文献2; 非特許文献3; 非特許文献4)。しかし、従来法では、標的蛋白質(ベイト(bait)と呼ぶ)を樹脂に固定し、アフィニティ選択を行ない(図1c-1)、その後、RT-PCRにより、ベイトに結合した蛋白質に連結したmRNAから、DNAを増幅する必要があった(図1d-1)。したがって、大規模な解析を行なう場合、数多くのベイトを調製し、個別にアフィニティ選択を行なう必要があった。
【0004】
例えば、50種類のベイト蛋白質の相互作用を解析するならば、個別に50種類の蛋白質を調製、樹脂に固定し、アフィニティ選択を行なう必要があった。このような作業は煩雑でコストがかかる。また、50種程度のベイト蛋白質を用いても、得られる相互作用数は網羅的であるとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 98/16636
【特許文献2】WO 2003/048363
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Review: Morozova & Marra, Genome Res, 19, 521-532, 2009
【非特許文献2】Genome Res., 15, 710-717, 2005
【非特許文献3】J Biol Chem, 284, 478-485, 2009
【非特許文献4】PLoS ONE, 5, e9289, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、固定したベイトを用いたアフィニティ選択が不要な生体分子相互作用の解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、mRNA-protein対応付け分子の蛋白質部分が相互作用した場合に、近接することとなるそれぞれのmRNA部分の間の架橋が、特定の構造を有するオリゴDNAリンカーにより可能になることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、対応付け分子のmRNA部分を連結するためのDNAリンカーであって、その5'末端に、前記mRNA部分の5'末端の配列に相補的なmRNA相補性領域、及び、その3'末端に、DNAリンカー相互間で相補的な自己相補性領域を含み、その5'末端がリン酸化されているDNAリンカーを提供する。対応付け分子のmRNA部分の5'末端の配列は、5'末端側からプロモーター配列、Ω様配列、T7ペプチドタグ遺伝子をこの順序で含むものであってもよい。
【0010】
本発明は、また、下記の工程を含む、相互作用する蛋白質をコードする遺伝子が連結したDNAの合成方法を提供する。
対応付け分子をその蛋白質部分で相互作用させる工程
相互作用した対応付け分子のmRNA部分を、本発明のDNAリンカーを介してアニーリングにより連結させる工程であって、対合は、前記mRNA部分の5'末端の配列と前記mRNA相補性領域との間、及び、前記自己相補性領域間に生じる前記工程
逆転写により前記mRNA部分をDNA-RNAハイブリッドにする工程
前記DNAリンカーの5'末端と、逆転写で合成されたDNA鎖の3'末端を連結する工程
DNA-RNAハイブリッドを構成するRNAを分解する工程
前記DNAリンカー3'末端を伸長してcDNAを合成する工程
【0011】
本発明はさらに、本発明の合成方法で得られたDNAの塩基配列を決定し、相互作用した蛋白質をコードする遺伝子の組または相互作用した蛋白質の組を特定することを含む相互作用の解析方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、固定したベイトを用いたアフィニティ選択が不要な生体分子相互作用の解析方法が提供される。蛋白質のアミノ酸配列をDNAの塩基配列に変換し、且つ、その解析を次世代シーケンサーで行なうことにより、蛋白質間相互作用を網羅的に解析することができる。また、ベイト蛋白質の調製を必要とせず、ライブラリー中に存在する全てのmRNA-protein対応付け分子がベイトになり得る。ヒトの場合、蛋白質間相互作用は30万種程度と見積もられているが (Rhodes et al., Nat Biotech. 2005)、次世代シーケンサーの解析能力は50万〜1億リード/runであるため、期待値の上では、全ての蛋白質間相互作用が一度に検出されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】従来型IVV法(a,b,c-1,d-1)と本発明方法(a,b,c-2,d-2)の比較. a, mRNAライブラリー; b, mRNA-proteinライブラリー; c-1,樹脂に提示した標的蛋白質(ベイト)を用いたアフィニティ選択; d-1, 逆転写-PCR. ベイト(bait)に結合した蛋白質をコードする遺伝子の取得を示す。本発明方法では、ベイトを用いた選択は行なわない. c-2,相互作用する蛋白質に連結したRNAは近接するので、リンカーDNAを介して架橋される. d-2, 数ステップの反応の後に、PCRを行なうと、リンカーを介して、相互作用する2種の蛋白質をコードする遺伝子が連結したDNA断片を得ることができる。何種類もの相互作用を同時に検出できる。
図2】本発明の遺伝子連結配列を有するDNAの合成方法の説明図を示す。
図3】実施例1で用いたF遺伝子mRNAの構造の模式図とpriSP6O’T7FOS117fの塩基配列(配列番号1)を示す。塩基配列はSP6プロモーターからFOS遺伝子の5’側の一部に相当する。
図4】実施例1で用いたリンカーSqlinker09の模式図と塩基配列(配列番号2)を示す。対合した部分はパリンドロームで自己相補性を有する。その他の部分は、それぞれ図3に示したmRNAの5’側、すなわち、SP6プロモーター、Ω様配列、T7ペプチドタグに対応しているが、図3に示した配列とは相補的な配列になっている。
図5】PCR産物のアガロース電気泳動(写真)を示す。
図6】PCR産物のアガロース電気泳動(写真)を示す。
図7】プライマーpriSqlinker07-02とpriFOS211FLAGA6で増幅される領域を示した模式図とpriSqlinker07-02及びpriFOS211FLAGA6の塩基配列(配列番号3及び5)を示す。
図8】実施例1で得られたDNA断片のDNAシーケンシングにより、塩基配列を決定した結果(配列番号4)を示す。
図9】PCR産物のアガロース電気泳動(写真)を示す。
図10】実施例2で用いたプライマー等の塩基配列(a:配列番号6、b:配列番号7、c:配列番号8、d:配列番号9、e:配列番号10)を示す。
図11】実施例2の方法の説明図を示す。
図12】実施例2で構築されたIVV分子の構造を示す。
図13】ビーズに結合したIVV分子をテンプレートとする逆転写反応の説明図を示す。
図14】PCR産物のアガロース電気泳動(写真)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1>本発明DNAリンカー
本発明DNAリンカーは、対応付け分子のmRNA部分を連結するためのDNAリンカーであって、その5'末端に、前記mRNA部分の5'末端の配列に相補的なmRNA相補性領域、及び、その3'末端に、DNAリンカー相互間で相補的な自己相補性領域を含み、その5'末端がリン酸化されていること特徴とする。
【0015】
対応付け分子としては、後述するように通常の対応付け分子が使用できる。例えば、対応付け分子のmRNA部分の5'末端の配列が、5'末端側からプロモーター配列、Ω様配列、T7ペプチドタグ遺伝子をこの順序で含むものが挙げられる。プロモーターの箇所は試験管内転写反応が可能なプロモーター配列であれば特に制限は無くSP6プロモーターの箇所は試験管内転写反応が可能なプロモーター配列であれば特に制限は無い。例えばT7プロモーターも利用できる。Ω様配列の部分は、翻訳効率を高める配列であれば特に制限は無い。T7-tagの箇所もペプチドタグであれば特に制限は無い。
【0016】
本発明DNAリンカーのmRNA相補性領域は、用いる対応付け分子のmRNA部分の5'末端の配列に相補的な配列を選択すればよい。mRNA相補性領域の長さは、通常には、8〜30bpであり、好ましくは、10〜20 bpである。また、この領域のTmは、通常には、20〜70℃であり、好ましくは25〜50℃である。
【0017】
本発明DNAリンカーの自己相補性領域は、リンカーの3'末端が相補配列により対合する限り、特に限定されず、通常には、10〜35bpであり、好ましくは、12〜30bpである。また、この領域のTmは、通常には、22〜72℃であり、好ましくは25〜55℃である。
【0018】
自己相補領域とmRNA相補領域との間にスペーサーとなるDNAを挿入してもよい。スペーサーの長さは、通常には、3〜15 bpであり、好ましくは、4〜10 bpである。
【0019】
<2>本発明DNA合成方法
本発明DNA合成方法は、相互作用する蛋白質をコードする遺伝子が連結したDNAの合成方法であり、下記の工程を含む。
(1)対応付け分子をその蛋白質部分で相互作用させる工程
(2)相互作用した対応付け分子のmRNA部分を、本発明DNAリンカーを介してアニーリングにより連結させる工程であって、対合は、前記mRNA部分の5'末端の配列と前記mRNA相補性領域との間、前記自己相補性領域間に生じる前記工程
(3)逆転写により前記mRNA部分をDNA-RNAハイブリッドにする工程
(4)前記DNAリンカーの5'末端と、逆転写で合成されたDNA鎖の3'末端を連結する工程
(5)DNA-RNAハイブリッドを構成するRNAを分解する工程
(6)前記DNAリンカー3'末端を伸長してcDNAを合成する工程
【0020】
以下、各工程について説明する。
1)相互作用
対応付け分子の蛋白質部分の相互作用が次工程のアニーリングで維持される限り、特に条件は限定されない。例えば、特許文献2に記載の条件で相互作用させることができる。無細胞翻訳系で合成した対応付け分子を混合してもよいし、後述するようにコード分子を同一の系で翻訳(共翻訳)してもよい。
【0021】
2)アニーリング
相互作用した対応付け分子のmRNA部分を、請求項1又は2に記載のDNAリンカーを介してアニーリングにより連結させる。この際には、対合は、前記mRNA部分の5'末端の配列と前記mRNA相補性領域との間、前記自己相補性領域間に生じればよく、両対合は、同時でもよいし、いずれか一方が先でもよい。同時に対合させる場合は、両領域のTmを近くする(通常には5℃以内)。また、Tmの高い方の領域を先に対合させて、ついでもう一方を対合させてもよい。例えば、別の系で、DNAリンカーの自己相補性領域を対合させてから、相互作用の系に対合DNAリンカーを加えて、対応付け分子のmRNA部分の5'末端の配列とmRNA相補性領域とを対合させてもよい。
【0022】
DNAリンカーはその自己相補領域を利用して予めハイブリッドを作成しやすいため、自己相補性領域のTmをTms、mRNA領域とのTmをTmrとすれば、Tms ≧ Tmrとすることが好ましい。また、以後の工程における各種酵素反応の中で逆転写反応と伸長反応時の温度(例えば37℃)で反応を行う必要がある。そのため、Tmr > 酵素反応温度とする必要がある。
【0023】
アニーリングの際に加えるDNAリンカーは、通常には、10fM〜10pM、好ましくは、50fM〜 5pMの濃度である。
【0024】
3)逆転写
逆転写により前記mRNA部分をDNA-RNAハイブリッドにする。逆転写は、通常の条件で行うことができる。
【0025】
4)ライゲーション反応
前記DNAリンカーの5'末端と、逆転写で合成されたDNA鎖の3'末端を連結する。通常のライゲーション反応条件で連結することができる。
【0026】
5)RNA分解
DNA-RNAハイブリッドのRNAを分解する。RNaseHを用いて行うことができる。
【0027】
6)伸長反応
DNAリンカーをプライマーとして、DNAポリメラーゼを用いて通常の条件で伸長させることができる。
伸長したDNAは、通常のクローニングや通常のPCRにより精製、増幅することができる。
【0028】
図2に本発明の合成方法のスキームを示す。従来のIVV法と同様に、蛋白質のC末端はピューロマイシンを介してmRNAと連結している。mRNAの5’末端と3’末端は、constant regionをもつ。例えば、5’constant regionにはプロモーター配列や翻訳効率を高めるOmega配列などを用いる。一方、3’末端はFLAGペプチドなどのアフィニティタグを用いる (a)。このようなmRNA-protein対応付け分子のライブラリーを、mRNAライブラリーから構築する。蛋白質-蛋白質相互作用を形成する対応付け分子は、そのmRNA部の5’末端が近接する確率が高まる (b)。ここで、接近した2つのIVVを連結するためには、同じ方向の核酸を連結する必要があり(スクエア反応)、従来の単純な逆方向の連結方法では実現出来ない。そこで、自己相補配列をもち、かつmRNAの5’末端に相補性を有するオリゴDNAを加え、mRNAの5’末端を架橋するリンカーとして機能させる (c)。ここで、(e)におけるライゲーション反応を可能とするために、リンカーオリゴDNAの5’末端には、リン酸基を付加しておく。次に、mRNAの3’末端に相補性を有するプライマーを用いて逆転写反応を行う (d)。続いてDNAリガーゼを用いて、伸長したcDNAとリンカーDNAを連結する (e)。これで、mRNA/cDNAのハイブリッドが完成する。次に、RNaseHを用いてRNA部を分解する (f)。続いてDNAポリメラーゼを用い、cDNAの3’末端の伸長反応を行う (g)。伸長反応が完結すると(h)のように、相互作用する蛋白質Aと蛋白質Bをコードする遺伝子が、リンカーDNAを介して連結されたDNAの断片が得られる。このDNA断片をシーケンサーにより解析すれば、蛋白質間相互作用をDNAの塩基配列情報として読み取ることができる。
【0029】
<3>本発明解析方法
本発明の合成方法で得られたDNAの塩基配列を決定することにより、相互作用した蛋白質をコードする遺伝子の組または相互作用した蛋白質の組を特定することができ、これによって相互作用を解析できる。
【0030】
塩基配列の決定は、DNAをクローニングしてから行ってもよい。サンガー法のシーケンシングの場合であれば、一度クローニングを行なうことで、同一長のDNA断片でも純化するので、個々の配列のシーケンシングが可能になる。また、スペーサーに制限酵素部位を挿入しておき、予め切断してからPCRを行ない、その後、クローニングしシーケンシングを行なうこともできる。次世代シーケンサーで、シーケンスしてもよい。
【0031】
本発明の解析方法では、ベイトを用いたアフィニティ選択を行なう必要がない。図1c-2に示すように、蛋白質が相互作用すると、連結したRNAは近接し、オリゴDNAリンカーによる架橋が可能となる。この時、本発明では、通常の核酸連結とは異なる同じ方向の核酸を連結する必要が出て来る(図1c-2;スクエア反応)が、特定の数工程の組み合わせによりこれが可能となる。これにより、相互作用する蛋白質をコードする遺伝子が、リンカーを介して連結されたDNA断片を得ることができる(図1d-2)。その後、cDNAライブラリーからmRNA-protein対応付け分子ライブラリーを構築し、さらに解析を進めることができる。ベイト調製が不要で、樹脂ビーズへの固定も洗いの工程も必要なくなるため、相互作用解析が飛躍的に効率化される。また、ライブラリー中に存在する全ての相互作用を一挙に同定できる。そのため、大量の相互作用データを取得でき、次世代シーケンサーの能力を充分に活用して解析を行うことができる。
【0032】
<4>対応付け分子
本明細書において、対応付け分子とは、表現型と遺伝子型と対応付ける分子を意味する。対応付け分子は、遺伝子型を反映する塩基配列を有する核酸を含む遺伝子型分子と、表現型の発現に関与する蛋白質を含む表現型分子とが結合してなる。遺伝子型分子は、遺伝子型を反映する塩基配列を、その塩基配列が翻訳され得るような形態で有するコード分子と、スペーサー部とが結合してなる。このような対応付け分子は、例えば、特許文献2に記載されているので特許文献2を参照して説明する。なお、本発明においては連結DNAの配列決定により相互作用を判定できるので、特許文献2における相互作用の検出のための修飾又はラベル化は本発明では不要である。
【0033】
対応付け分子における、表現型分子に由来する部分、スペーサー分子に由来する部分、及び、コード分子に由来する部分をそれぞれ、デコード部、スペーサー部及びコード部と呼ぶ。また、遺伝子型分子における、スペーサー分子に由来する部分、及び、コード分子に由来する部分をそれぞれ、スペーサー部及びコード部と呼ぶ。
【0034】
特許文献2図8に、対応付け分子、スペーサー分子及びコード分子の一例の大まかな構成が示されている。この対応付け分子は、ピューロマイシンを含むスペーサー(スペーサー部と呼ぶ)と表現型のコードを反映する塩基配列(コード部と呼ぶ)からなる。この対応付け分子は、コード分子に何らかの方法によってピューロマイシンを含むスペーサー部を結合して遺伝子型分子とし、無細胞翻訳系において、リボソーム上で表現型分子と連結した構成をもつ。スペーサー分子は、ポリエチレングリコールを主成分としたPEG領域、少なくともピューロマイシンあるいはピューロマイシンと1残基以上のDNAあるいは/またはRNAからなるCCA領域、少なくとも1残基以上のDNAあるいは/またはRNAを含むドナー領域、さらに、少なくとも1残基のDNAあるいは/またはRNAの塩基に機能修飾を施した機能付与ユニット(X)からなる。コード分子は、デコード部の一部の配列からなるDNAあるいは/またはRNAのポリA配列を含む3'末端領域、および、DNAあるいは/またはRNAからなる転写プロモーターおよび翻訳エンハンサーを含んだ5'UTR、さらに、主として表現型分子の配列からなるORF領域から構成される。以下、この例を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
<4−1>スペーサー分子
スペーサー分子は、核酸の3'末端に結合できるドナー領域と、ドナー領域に結合した、ポリエチレングリコールを主成分としたPEG領域と、PEG領域に結合した、ペプチド転移反応によってペプチドと結合し得る基を含むペプチドアクセプター領域とを含む。
【0036】
核酸の3'末端に結合できるドナー領域は、通常、1以上のヌクレオチドからなる。ヌクレオチドの数は、通常には1〜15、好ましくは1〜2である。ヌクレオチドはリボヌクレオチドでもデオキシリボヌクレオチドでもよい。
【0037】
ドナー領域の5'末端の配列は、ライゲーション効率を左右する。コード部とスペーサー部をライゲーションさせるためには、少なくとも1残基以上を含むことが必要であり、ポリA配列をもつアクセプターに対しては、少なくとも1残基のdC(デオキシシチジル酸)あるいは2残基のdCdC(ジデオキシシチジル酸)が好ましい。塩基の種類としては、C>U又はT>G>Aの順で好ましい。
【0038】
PEG領域はポリエチレングリコールを主成分とするものである。ここで、主成分とするとは、PEG領域に含まれるヌクレオチドの数の合計が20 bp以下、又は、ポリエチレングリコールの平均分子量が400以上であることを意味する。好ましくは、ヌクレオチドの合計の数が10 bp以下、又は、ポリエチレングリコールの平均分子量が1,000以上であることを意味する。
【0039】
PEG領域のポリエチレングリコールの平均分子量は、通常には、400〜30,000、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜8,000である。ここで、ポリエチレングリコールの分子量が約400より低いと、このスペーサー分子に由来するスペーサー部を含む遺伝子型分子を対応付け翻訳したときに、対応付け翻訳の後処理が必要となることがあるが(Liu, R., Barrick, E., Szostak, J.W., Roberts, R.W. (2000) Methods in Enzymology, vol. 318, 268-293)、分子量1,000以上、より好ましくは2,000以上のPEGを用いると、対応付け翻訳のみで高効率の対応付けができるため、翻訳の後処理が必要なくなる。また、ポリエチレングリコールの分子量が増えると、遺伝子型分子の安定性が増す傾向があり、特に分子量1,000以上で良好であり、分子量400以下ではDNAスペーサーと性質がそれほどかわらず不安定となることがある。
【0040】
ペプチドアクセプター領域は、ペプチドのC末端に結合できるものであれば特に限定されないが、例えば、ピューロマイシン、3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(3'-N-Aminoacylpuromycin aminonucleoside, PANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのPANS-Gly、バリンのPANS-Val、アラニンのPANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するPANS-全アミノ酸が利用できる。また、化学結合として3'-アミノアデノシンのアミノ基とアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合した結果形成されたアミド結合でつながった3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(3'-Aminoacyladenosine aminonucleoside, AANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのAANS-Gly、バリンのAANS-Val、アラニンのAANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するAANS-全アミノ酸が利用できる。また、ヌクレオシドあるいはヌクレオシドとアミノ酸のエステル結合したものなども利用できる。その他、ヌクレオシドあるいはヌクレオシドに類似した化学構造骨格を有する物質と、アミノ酸あるいはアミノ酸に類似した化学構造骨格を有する物質を化学的に結合可能な結合様式のものなら全て利用することができる。
【0041】
ペプチドアクセプター領域は、好ましくは、ピューロマイシンもしくはその誘導体、又は、ピューロマイシンもしくはその誘導体と1残基もしくは2残基のデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドからなることが好ましい。ここで、誘導体とは蛋白質翻訳系においてペプチドのC末端に結合できる誘導体を意味する。ピューロマイシン誘導体は、ピューロマイシン構造を完全に有しているものに限られず、ピューロマイシン構造の一部が欠落しているものも包含する。ピューロマイシン誘導体の具体例としては、PANS-アミノ酸、AANS-アミノ酸などが挙げられる。
【0042】
ペプチドアクセプター領域は、ピューロマイシンのみの構成でもかまわないが、5'側に1残基以上のDNAあるいは/またはRNAからなる塩基配列を持つことが好ましい。配列としては、dC-ピューロマイシン, rC-ピューロマイシンなど、より好ましくはdCdC-ピューロマイシン, rCrC-ピューロマイシン, rCdC-ピューロマイシン, dCrC-ピューロマイシンなどの配列で、アミノアシル-tRNAの3'末端を模倣したCCA配列(Philipps, G.R. (1969) Nature 223, 374-377)が適当である。塩基の種類としては、C>U又はT>G>Aの順で好ましい。
【0043】
<4−2>コード分子
コード分子は、転写プロモーターおよび翻訳エンハンサーを含む5'非翻訳領域と、5'非翻訳領域の3'側に結合した、蛋白質をコードするORF領域と、ORF領域の3'側に結合した、ポリA配列及び、必要によりその5'側に翻訳増強配列(例えば制限酵素XhoIが認識する配列)を含む3'末端領域を含む核酸である。
コード分子は、DNAでもRNAでもよく、RNAの場合、5'末端にCap構造があってもなくても良い。また、コード分子は任意のベクターやプラスミドに組み込まれたものとしてもよい。
【0044】
3'末端領域は、好ましくはSNNS配列(例えばXhoI配列)とその下流にポリA配列を含む。スペーサー分子とコード分子とのライゲーション効率に影響を与える要素としては3'末端領域のポリA配列が重要であり、ポリA配列は、少なくとも2残基以上のdAあるいは/またはrAの混合あるいは単一のポリA連続鎖であり、好ましくは、3残基以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは8残基以上のポリA連続鎖である。
【0045】
コード分子の翻訳効率に影響する要素としては、転写プロモーターと翻訳エンハンサーからなる5'UTR、および、ポリA配列を含む3'末端領域の組み合わせがある。3'末端領域のポリA配列の効果は通常には10残基以下で発揮される。5'UTRの転写プロモーターはT7/T3あるいはSP6などが利用でき、特に制限はない。好ましくはSP6であり、特に、翻訳のエンハンサー配列としてオメガ配列やオメガ配列の一部を含む配列(Ω様配列)を利用する場合はSP6を用いることが特に好ましい。翻訳エンハンサーは好ましくはオメガ配列の一部であり、オメガ配列の一部としては、TMVのオメガ配列(Gallie D.R., Walbot V. (1992) Nucleic Acids Res., vol. 20, 4631-4638)の一部(O29)を含んだものが好ましい。
【0046】
また、翻訳効率に関し、3'末端領域においては、XhoI配列とポリA配列の組み合わせが重要となる。また、ORF領域の下流部分、すなわちXhoI配列の上流に親和性タグがついたものとポリA配列の組み合わせも重要となる。親和性タグ配列としては、抗原抗体反応など、蛋白質を検出できるいかなる手段を用いるための配列であればよく、制限はない。好ましくは、抗原抗体反応によるアフィニティー分離分析用タグであるFlag-tag配列である。ポリA配列効果としては、Flag-tag等の親和性タグにXhoI配列がついたものとそこへさらにポリA配列がついたものの翻訳効率が上昇する。
上記の翻訳効率に関し効果のある構成は、対応付け効率にも有効である。
【0047】
ORF領域については、DNAあるいは/またはRNAからなるいかなる配列でもよい。遺伝子配列、エキソン配列、イントロン配列、ランダム配列、あるいは、いかなる自然界の配列、人為的配列が可能であり、配列の制限はない。また、コード分子の5'UTRをSP6+O29とし、3'末端領域を、たとえば、Flag+XhoI+An(n=8)とすることで、各長さは、5'UTRで約60bp、3'末端領域で約40bpであり、PCRのプライマーにアダプター領域として組み込める長さである。このため、あらゆるベクターやプラスミドやcDNAライブラリーからPCRによって、5'UTRと3'末端領域をもったコード分子を簡単に作成できる。コード分子において、翻訳はORF領域を超えてされてもよい。すなわち、ORF領域の末端に終止コドンがなくてもよい。
【0048】
特許文献2図10に、コード分子の一例の詳細な構成が示されている。コード分子は、3'末端領域と、DNAあるいは/またはRNAからなる転写プロモーターおよび翻訳エンハンサーを含む5'UTRと、デコード部の配列情報からなる、すなわち表現型蛋白質をコードするORF領域とからなる。ここでは、3'末端領域として、DNAあるいは/またはRNAからなる親和性タグ配列、XhoI配列、ポリA配列を含み、Flag-tag配列を用いている。5'UTRとして、転写プロモーターのSP6、翻訳エンハンサーのオメガ配列の一部であるO29を含む配列を用いている。
【0049】
<4−3>遺伝子型分子およびその製造方法
遺伝子型分子は、転写プロモーターおよび翻訳エンハンサーを含む5'非翻訳領域と、5'非翻訳領域の3'側に結合した、蛋白質をコードするORF領域と、ORF領域の3'側に結合した、ポリA配列を含む3'末端領域を含む核酸であるコード分子の3'末端と、スペーサー分子のドナー領域とが結合してなる。
【0050】
遺伝子型分子を構成するコード分子は、上記のコード分子においてXhoI配列が必須ではない他は、コード分子について説明したとおりである。しかしながら、XhoI配列を有することが好ましい。
【0051】
遺伝子型分子は、上記コード分子の3'末端と、スペーサー分子のドナー領域を、通常のリガーゼ反応により結合させることにより製造できる。反応条件としては、通常、4〜25℃で4〜48時間の条件が挙げられ、PEG領域を含むスペーサー分子のPEG領域内のポリエチレングリコールと同じ分子量のポリエチレングリコールを反応系に添加する場合には、15℃で0.5〜4時間に短縮することも可能である。
【0052】
スペーサー分子とコード分子の組み合わせはライゲーション効率に重要な効果をもたらす。アクセプターにあたるコード部の3'末端領域において、少なくとも2残基以上、好ましくは3残基以上、さらに好ましくは6〜8残基以上のDNAあるいは/またはRNAのポリA配列があること、さらに、5'UTRの翻訳エンハンサーとしては、オメガ配列の部分配列(O29; 特許文献2図10)が好ましく、スペーサー部のドナー領域としては、少なくとも1残基のdC(デオキシシチジル酸)あるいは2残基のdCdC(ジデオキシシチジル酸)が好ましい。このことによって、RNAリガーゼを用いることでDNAリガーゼのもつ問題点を回避し、かつ効率を60〜80%に保つことができる。
【0053】
遺伝子型分子がRNAである場合には、(a)転写プロモーターおよび翻訳エンハンサーを含む5'非翻訳領域と、5'非翻訳領域の3'側に結合した、蛋白質をコードするORF領域と、ORF領域の3'側に結合した、ポリA配列を含む3'末端領域を含むコード分子の3'末端と、(b)(1)〜(4)のいずれか1項に記載のスペーサー分子のドナー領域であってRNAからなるものとを、スペーサー分子内のPEG領域を構成するポリエチレングリコールと同じ分子量をもつ遊離のポリエチレングリコールの存在下で、RNAリガーゼにより結合させることが好ましい。
【0054】
ライゲーション反応時に、PEG領域を含むスペーサー部のPEG領域と同じ分子量のポリエチレングリコールを添加することによって、スペーサー部のポリエチレングリコールの分子量によらずライゲーション効率が80〜90%以上に向上し、反応後の分離工程も省略することができる。
【0055】
<4−4>対応付け分子及びその製造方法
対応付け分子は、上記の遺伝子型分子を、ペプチド転移反応で、遺伝子型分子内のORF領域によりコードされた蛋白質である表現型分子と連結してなるものである。
【0056】
対応付け分子は、遺伝子型分子を無細胞翻訳系で翻訳することにより、ペプチド転移反応で、遺伝子型分子内のORF領域によりコードされた蛋白質である表現型分子と連結することを含む。
【0057】
無細胞翻訳系は、好ましくは、小麦胚芽又はウサギ網状赤血球のものである。翻訳の条件は通常に採用される条件でよい。例えば、25〜37℃で15〜240分の条件が挙げられる。
【0058】
無細胞翻訳系については、これまで大腸菌(E. coli)、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽の系で対応付け分子の形成が検討され、ウサギ網状赤血球の系でのみ対応付け分子が確認されていたが(Nemoto, N., Miyamoto-Sato, E., Yanagawa, H. (1997) FEBS Lett. 414, 405; Roberts, R.W, Szostak, J.W. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 12297)、この態様によれば、PEG領域を含むスペーサー部をもつ対応付け分子として、小麦胚芽の系でも対応付け分子の形成を行うことができる。また、これまでウサギ網状赤血球の系では遺伝子型分子の安定性を欠くために実用性に乏しく、短い鎖長の遺伝子型分子にのみ適用されてきたが(Roberts, R.W, Szostak, J.W. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 12297; Nemoto, N., Miyamoto-Sato, E., Yanagawa, H. (1997) FEBS Lett. 414, 405)、PEG領域を含むスペーサー部をもつ対応付け分子は、小麦胚芽の系ではより安定であり長い鎖長を取り扱える実用的な系である。
【0059】
リボソーム上で翻訳されることにより合成される蛋白質(対応付け分子)およびそのライブラリーのいろいろな組み合わせを用いて、in vitroで蛋白質と物質の相互作用解析が可能であり、たとえば、IVVの一次スクリーニング後の詳細な遺伝子ネットワークを解析する二次スクリーニングに利用できる (特許文献2図21)。
【0060】
無細胞共翻訳で「相互作用」が実現される場合、その無細胞翻訳系については、大腸菌(E. coli)、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽の系などいずれでも構わない。in vitro virus法(IVV法)では、対応付け分子の形成は、大腸菌(E. coli)はかなり不安定であるが、ウサギ網状赤血球の系(Nemoto N, Miyamoto-Sato E, Yanagawa H. (1997) FEBS Lett. 414, 405; Roberts R.W, Szostak J.W. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 12297)では安定に確認されており、さらに小麦胚芽の系(WO 02/46395)ではより安定に確認されている。
【0061】
以下、具体的に本発明の実施例を記述するが、下記の実施例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものでない。
【実施例】
【0062】
<実施例1>
[F遺伝子mRNAの構築]
PCRによって、ヒトFOS蛋白質のロイシンジッパー構造を含む領域をコードするDNA断片の5’側に、SP6プロモーター、Ω様配列、T7タグペプチドをコードする塩基配列を連結した。また、3’側にFLAGタグペプチドをコードする塩基配列とヘキサアデニル酸を連結し、F遺伝子DNA断片を構築した。このとき、フォワードプライマーとして、SP6プロモーター、Ω様配列、T7タグペプチド、およびFOS遺伝子の一部をコードするオリゴDNA(priSP6O’T7FOS117f (配列番号1))を用いた。リバースプライマーとしてヘキサアデニル酸、FLAGタグ、およびFOS遺伝子の1部をコードするオリゴDNA(priFOS211FLAGA6r(配列番号5))を用いた。これらのオリゴDNAは(株)ファスマックより購入した。PCRはKOD Plus(TOYOBO)を用い、添付のマニュアルに従い行なった。サーマルサイクラーのプログラムは、94℃30秒、58℃30秒、68℃30秒を30サイクルである。鋳型DNAはヒトFOS遺伝子のcDNAである。このPCR産物を鋳型として、SP6 RNAポリメラーゼ(Promega)を用い、in vitroでF遺伝子mRNAを合成した(図3)。反応条件は37℃で3時間である。
【0063】
[DNAリンカーの構築]
自己相補性領域と、上記で構築したF遺伝子mRNAのプロモーター配列、Ω様配列、T7ペプチドタグ遺伝子に相補的な領域をもつDNAリンカー(Sqlinker09)を設計し合成した(図4)。Sqlinker09の5’末端には、リン酸基を付加した。オリゴDNAは、(株)ファスマックより購入した。
【0064】
[スクエア反応]
1)アニーリング
上記で構築したF遺伝子mRNAを20 pmol、上記で構築したSqlinkerを40 pmol、F遺伝子mRNAの3’側に結合する逆転写用プライマー(priFOS211FLAGA6r)を40 pmol、混合し10 μlとした。90℃で30秒加熱後、室温まで徐冷した。
【0065】
2)逆転写
逆転写酵素、逆転写用反応緩衝液、基質dNTPミックスの混合溶液10 μlを、1)で調製した溶液と混合し、37℃で1時間、逆転写反応を行った。逆転写酵素は、Promega製のM-MLV逆転写酵素RNaseH minus, point mutantである。
【0066】
3)ライゲーション反応
DNAライゲースを含む溶液20 μlを、2)で調製した溶液と混合し、25℃で1時間、ライゲーション反応を行った。DNAライゲースは、TOYOBOのLigation high ver.2を用いた。
【0067】
4)RNA分解
3)で調製した溶液に、RNaseHを1 μl混合し、RNA部分を分解した。RNaseHは、Invitrogen社のものを用いた。
【0068】
5)伸長反応
4)で調製した溶液に、DNAポリメラーゼ、dNTPミックス、DNAポリメラーゼ反応用緩衝液の混合溶液を加え、56℃で15分伸長反応を行なった。この際、4)で調製した試料を表1に記した分量加えた。
【0069】
6)PCR反応
5)の反応液に、priFOS211FLAGA6r(20 pmol/μl)を、表1に記した分量加えた。サーマルサイクラーのプログラムは、94℃30秒、56℃30秒、72℃3分、を40サイクルである。
【0070】
【表1】
【0071】
7)PCR反応産物を電気泳動した。その結果を図5に示す。DNAマーカーの濃いバンドは500 bpに相当する。1-8のサンプルに於いて、300-400 bpに濃いDNAバンドが観られた。これは、F遺伝子DNA(397 bp)に相当する。本来、図2hに示すDNA断片の合成に成功していれば、その約2倍の長さのDNA断片が得られるはずである。モノマーのF遺伝子DNAに相当するDNA断片が得られた理由は、試料に含まれる未反応のSqlinker09がプライマーとして働き、Sqlinker09とpriFOS211FLAGA6rで挟まれた領域が増幅されたためと考えられる。そこで、Sqlinker09の持ち込み量を減らす目的で、試料の量を減らし(lane 7, 8, 9)、さらにpriFOS211FLAGA6rの添加量を増やし(lane 1, 4, 7)、PCRにより、priFOS211FLAGA6rで挟まれたDNA断片が、増幅される確率を高めるよう試みた。その結果、lane 7には、うっすらではあるが700-800 bp長のDNA断片が得られた(矢印)。
【0072】
8)このPCR産物をゲルから切り出した後に精製し、PCRの鋳型として用いた。反応液の組成は、KOD Plus ver.2緩衝液、dNTP、MgSO4、priFOS211FLAGA6r、KOD Plus(TOYOBO)、鋳型DNA、DEPC水を含む。サーマルサイクラーのプログラムは、94℃30秒、56℃30秒、68℃1分を30サイクルである。得られたPCR産物の電気泳動結果を図6aに示す。プライマーとしてpriFOS211FLAGA6rのみを用いることによって、700-800 bp長のDNA断片を増幅することができた。このことから図2hに示す構造のDNA断片が得られたと考えられる。
【0073】
9)しかし、上記DNA断片は分子全体としてパリンドローム配列になっており、DNAシーケンシングによる塩基配列の決定は、上記のPCR産物を鋳型とし、Sqlinker09の1部からなるpriSq0702とpriFOS211FLAGA6r をプライマーとして用いてPCRを行なった(図7)。このPCRにより、上記DNAの約半分の長さに相当するDNA断片が得られると予想される。このPCR産物の電気泳動結果を図6bに示す。300-400 bpのサイズにDNAが得られ、予想通りのDNA断片が得られた。
【0074】
10)上記で得られたDNA断片をクローニングし(Invitrogen, PCR-TOPO)、DNAシーケンシングにより、塩基配列を決定した。その結果を図8に示す。斜体字で示した部分はベクター由来の配列である。太字で示した文字はSqlinker09あるいはpriSqlinler07-02由来の配列である。ACTGGT領域のTとGの境界で、Sqlinker09の5’末端とF遺伝子のcDNAの3‘末端が、正しく連結されたことが確認された。以上、8)、9)、10)の結果を合わせて考察すると、図2hあるいは図7のDNA断片が得られたと推測できる。
【0075】
上記のスクエア反応において、F遺伝子mRNAの量を20 pmolから2 pmolに変更する他は同様に反応を行った。この場合、700-800 bpにバンドは得られなかった(図9)。
【0076】
本実施例に於いてスクエア反応に成功した場合のmRNA濃度は2 μMであり、逆に成功しなかった場合のmRNA濃度は0.2 μMであった。このことは、IVV分子濃度が2 μM以上であれば、蛋白質間相互作用がなくてもIVV分子のmRNA部分とリンカーとの相補性により、cDNAダイマーが得られてしまうことを示している。逆に、IVV濃度を0.2 μM以下に設定し、スクエア反応を行えば、核酸部分での相補性によるcDNAダイマーの合成は確認されず、蛋白質間相互作用が検出される可能性がある。つまり、Kdで表したときに、Kd = 2 x 10-7以下の結合の強さをもつ蛋白質間相互作用であれば、本実験条件により、その相互作用を検出できることになる。
【0077】
<実施例2>
(1) リンカーとcDNAの連結の確認
自己相補配列を有する一本鎖オリゴDNA(Sqlinker08と命名;ファスマック社製)をDNAリンカーとして用いた(図10a、配列番号6)。Sqlinker08の5’末端にはリン酸基が付加されていた。まずSqlinker08のセルフハイブリダイゼーションを行った。100μMのSqlinker08を5μl、10xT4 RNA Ligase緩衝液(宝バイオ社製)を10μl、DEPC水を18μl、混合し95℃で3分加熱し、その後68℃まで徐冷した(図11a)。F遺伝子(FOS遺伝子のロイシンジッパー領域、実施例1参照)から転写により得られた1.6 pmol/μlのmRNAを6μl、J遺伝子(JUN遺伝子のロイシンジッパー領域、実施例1参照)から転写により得られた1.5 pmol/μlのmRNAを7μl添加し、その後、15℃まで冷却した。mRNAの5’末端にはリン酸基が付加されていた。Sqlinker08は、F遺伝子のSP6プロモーターおよびΩ配列に相補的な配列を有している。次にT4 RNA ligase(宝バイオ社製)を12.5 μl添加し、15℃で終夜連結反応を行った(図11b)。この反応溶液は10 nmol/μlのPEG2000を6μl、0.1 MのDTTを3μl、40 mMのATPを1μl、DMSOを20μl、酵素に添付のBSA溶液を20μl、RNase阻害剤を2μl、DEPC水を4.24 μl含むものであった。連結反応後、生成物はエタノール沈殿により回収した。また連結反応は電気泳動により確認した。
【0078】
続いて逆転写反応を行った(図11c)。反応溶液は5 pmolのRNA、20μMのプライマー(priFOS1r、図1b、配列番号7)、添付の5x緩衝液、2 mMdNTPを12.5 μlおよびDEPC水を15.5μl含む。95℃で30秒加熱後、50℃に徐冷し、3分放置した後、M-MLV RTase(プロメガ社製)を5μl添加した。50℃で1時間放置した後、ゲルろ過スピンカラム(Bio-Rad社製、Micro Bio-Spin 6 Chromatograpy Columns)により精製した。
【0079】
逆転写反応により合成されたcDNA部とリンカー部をLigation high ver.2(東洋紡社製)を用いて連結した。その際、精製済みの逆転写反応生成物とLigation high ver.2を50μlずつ混合し、16℃で終夜連結反応を行った(図11d)。続いてRNase H(インビトロジェン社製)を10μl添加し、RNA/cDNAのRNA部を分解した(図11e)。
【0080】
上記の反応産物にリンカーを加え伸長反応を行った(図11f)。反応溶液は10 x KOD Plus 2 ver. 2緩衝液を5μl、2 mM dNTPを5μl、25 mM MgSO4を3μl、20μMのリンカーをプライマーとして1μl、連結反応生成物を1μl、KOD Plus(東洋紡社製)を1μl、DEPC水を34μl含む。反応条件は94℃で1分30秒、68℃を3分である。
【0081】
続いてPCRを行った(図11g)。この反応溶液には反応溶液は10 x KOD Plus 2 ver. 2緩衝液を5μl、2 mM dNTPを5μl、25 mM MgSO4を3μl、20μMのフォワードプライマー(priSqlinker0801f、図10c、配列番号8)と20μMのリバースプライマー(priFOS1r)を1μlずつ、伸長反応生成物を1μl、KOD Plus(東洋紡社製)を1μl、DEPC水を33μl含むものであった。反応条件は94℃で1分のあと94℃、30秒、58℃、30秒、68℃を1分を35サイクルであった。得られた資料をアガロース電気泳動により分析したところ、約200塩基対のサイズに相当するバンドが得られた。この領域をゲルから切り出しクローニングし、塩基配列を決定した。その配列を図10dに示す。この結果から、リンカー部とF遺伝子のSP6プロモーター部が正しく連結されていることが分かる(ただし、斜線で示した塩基は何らかの理由により欠失していた)。以上の解析から、リンカーとcDNAが連結されていたことが確認された。
【0082】
(2) IVV分子の無細胞翻訳系からの精製法についての検討
[FOSおよびJUN相互作用領域に対応するIVV分子の構築]
IVV分子としてFOSとJUNの相互作用領域を用いた。これらの構造遺伝子の構造、構築方法、およびRNAへの転写反応は、実施例1に記載した通りである。得られたRNA分子とスペーサーピューロマイシン(p(dCp)2T(FI)pPEG(2000)p(dCp)2 Puro(記号はWO 02/48347に定義された通りである)は、T4 RNAリガーゼ(宝酒造製)を用い、WO 02/48347の実施例1に記載の方法に従い連結した。連結反応は25℃で1時間行なった。ライゲーション産物をRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。精製されたライゲーション産物を無細胞翻訳系(プロメガ社, Wheat germ plus)に加えて翻訳を行ない、IVV分子を合成した(図12)。無細胞翻訳反応液の組成は、40μlの小麦胚芽抽出液、1.3μlの RNasin Plus RNase Inhibitor(プロメガ社)、および5 pmolのライゲーション産物を含む。翻訳反応は25℃で1時間行なった。
【0083】
[IVV分子の精製]
翻訳反応産物50μlにTBSTE緩衝液(50 mM Tris HCl, 150 mM NaCl, 0.2 % Tween20, 10 mM EDTA)450μlを混合後、15,000 rpmで10分遠心し、上澄み液を回収した。回収した上澄み液に40μlスラリーのanti-M2 agarose beads(シグマ社製)を添加し、IVV分子のアフィニティ精製を行った。アフィニティ精製は、上澄み液とアフィニティビーズの結合反応(1時間(4℃))の後に400μlのTBESTE緩衝液を用いて洗浄することで行った。図12に示したように、IVV分子のタンパク質部分には、FOSあるいはJUN由来のアミノ酸配列のC末端側に、FLAG-ペプチド・タグが付加されていた(実施例1参照)。
【0084】
[IVV分子の逆転写反応]
精製したIVV分子を逆転写した。逆転写反応溶液は、逆転写キット添付の緩衝液、dNTPミックス、M-MLV逆転写酵素RNaseH minus, point mutant、およびpriFLAGA6r(図10e)を含むものであった。この反応溶液を精製済みのビーズに添加し、37℃で1時間反応させた(図13)。
【0085】
逆転写反応溶液にはDTTが含まれるために、ビーズに結合しているanti-M2抗体は逆転写反応中に変性し、IVV分子はビーズから解離する。したがって、この混合液をスピンカラムによるゲルろ過(BIO-RAD社製、Micro Bio-Spin 6 Chromatograpy Columns)により精製することで、mRNA部分がcDNAとハイブリッド化したIVV分子を回収できる(Matsumura et al., FASEB J., 24, 2201-2210, 2010参照)。本実施例でもこの方法によりハイブリッド化IVV分子を回収した。尚、回収した溶液の1μlを鋳型としてPCRを行い、逆転写反応が進行し、ハイブリッド化IVV分子が形成、回収されることを確認した(図14)。尚、逆転写反応を行わない場合は、このようなバンドは一切得られなかった。
【0086】
実施例2に於いては、リンカーとcDNAの連結を塩基配列の解析から確認された。また、IVVスクエア法の実施には、逆転写反応を阻害する夾雑物を含む無細胞翻訳系からIVV分子を精製する必要がある。上述のようにIVV分子のペプチド部分に付加したFLAG-tagを用いた精製法により精製できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明により、固定したベイトを用いたアフィニティ選択が不要な生体分子相互作用の解析方法が提供される。
図8
図10
図11
図12
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図9
図13
図14
【配列表】
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