特許第5712959号(P5712959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5712959リチウム二次電池用正極活物質の前駆体とその製造方法および該前駆体を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5712959
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質の前駆体とその製造方法および該前駆体を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20150416BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150416BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 B
   C01B25/45 Z
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-78964(P2012-78964)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211114(P2013-211114A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106596
【弁理士】
【氏名又は名称】河備 健二
(72)【発明者】
【氏名】岡本 遼介
(72)【発明者】
【氏名】池内 研二
(72)【発明者】
【氏名】大迫 敏行
【審査官】 吉田 安子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−521395(JP,A)
【文献】 特開2009−295533(JP,A)
【文献】 特開2006−056754(JP,A)
【文献】 特開2011−213587(JP,A)
【文献】 特開2004−259470(JP,A)
【文献】 特開2009−218205(JP,A)
【文献】 特表2013−510069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/36
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:NHMPO・nHO(Mは、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から選択される少なくともCoを含む1種以上、0≦n≦1)で表されるリン酸アンモニウム遷移金属からなるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造法であって、
2価のMイオンとリン酸化物イオンとの混合溶液を調製する混合溶液調製工程と、
アンモニアを添加して、該混合溶液のpHを7〜9の範囲に調整して、共沈殿させ、リン酸アンモニウムM塩(NHMPO・nHO)を得る晶析工程とを、
備えることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記晶析工程において、前記混合溶液を25〜60℃に保持すること特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記混合溶液調製工程において、2価のMイオンの供給原料として、硫酸塩および塩化物塩からなる群から選択される1種以上の水溶性金属塩を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記混合溶液調製工程において、リン酸化物イオンの供給原料として、リン酸およびリン酸二水素アンモニウムからなる群から選択される1種以上の水溶性塩を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記晶析工程が非酸化性雰囲気下で行われること特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記晶析工程で得られたリン酸アンモニウムM塩(NHMPO・nHO)を洗浄する洗浄工程を、さらに、備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られ、リン酸アンモニウム遷移金属からなるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体であって、
一般式:NHMPO・nHO(Mは、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から選択される少なくともCoを含む1種以上、0≦n≦1)で表され、ナトリウム含有量が0.01質量%以下であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体。
【請求項8】
請求項7に記載のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体とリチウム塩との混合後、不活性または還元雰囲気下において、200〜500℃で焼成して、一般式:LiMPO(Mは、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から選択される少なくともCoを含む1種以上)で表されるリチウム遷移金属複合リン酸塩を得ることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体とリチウム塩との混合時に、さらに、炭素源を混合した後、600〜800℃で焼成することを特徴とする請求項8に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記200〜500℃での焼成により得られたリチウム遷移金属複合リン酸塩と、炭素源との混合物を、不活性または還元雰囲気下において、600〜800℃で熱処理することを特徴とする請求項8に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記焼成前に、予め、前記前駆体の粉砕を行うことを特徴とする請求項8又は9にリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理前に、予め、前記リチウム遷移金属複合リン酸塩の粉砕を行うことを特徴とする請求項10に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質の前駆体とその製造方法および該前駆体を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、軽量でエネルギー密度が高いことから、携帯電話、ノート型パソコン、その他IT機器などの小型電池に幅広く使用されており、これらの用途には、主としてLiCoO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNiOなどの層状岩塩化合物正極活物質が用いられている。
そして、IT機器の発展、普及に伴い、現在もその需要が世界的な規模で伸びている。これらの小型電池に加えて、産業用の大型電池においても、ハイブリッド自動車(HEV)用、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)用、電力平準化用、電力貯蔵用など、さらに多方面にその需要の拡大が期待され、研究開発も盛んに行われている。
【0003】
このような状況下、産業用の大型電池が本格的に実用化されるための課題として、正極活物質には、高い安全性、高寿命、高出力、低価格が要求されている。その中で高い安全性と優れたサイクル性能を示す材料として、オリビン型正極活物質が、LiCoOやLiCo1/3Ni1/3Mn1/3等の代替正極活物質として、注目されている。
代表的な上記オリビン型正極活物質として、リチウム鉄燐酸塩(LiFePO)が挙げられる。LiFePOは、構成元素がLiを除き全てクラーク数の上位にあるので、資源的制約が少なく、低価格な原料から合成し得る材料であり、かつ理論容量に近い容量を高効率で実現している。また、全ての酸素がリンと共有結合して、リン酸の強固な骨格を有し、構造が安定なため、安全性が高く、サイクル寿命も長いという性質から、リチウム二次電池の正極活物質として、工業的に生産され実用化されている。
【0004】
しかしながら、上記LiFePOにも、いくつかのデメリットがある。1つは、電子伝導性、Liイオン伝導性が、従来の層状岩塩化合物正極活物質と比較して、低いという課題である。これについては、LiFePO粒子を数十〜数百nmに微細化し、さらに黒鉛などの導電性材料で被覆・複合化して、導電性を付与することなどで改善が図られている。もう1つは、Li金属に対する電位が3.3Vと層状岩塩化合物正極活物質よりも低いため、重量エネルギー密度が低いという課題である。これについては、材料の本質的な性質であり、改善は難しい。
【0005】
ところで、LiFePOと同じオリビン型のリチウムマンガンリン酸複合塩(LiMnPO)や、リチウムコバルトリン酸複合塩(LiCoPO)は、Li金属に対する電圧が、それぞれ4.2V、4.8Vと、層状岩塩化合物正極活物質と同等の電位を示し、高重量エネルギー密度が期待されるため、世界中の開発者の注目を集めている。
一方で、LiMnPOは、LiFePOよりもさらに電子伝導性が低いため、電気化学特性を引き出すためには、更なる工夫が必要になるという課題がある。また、現在一般的に用いられている非水溶液電解質では、LiCoPOの作動電圧である4.8Vで分解してしまうので、LiCoPOを正極活物質として、使用できないという問題があり実用化に至っていない。
【0006】
上記LiMnPOまたはLiCoPOの製造方法としては、マンガン原料である炭酸マンガン(MnCO)、または2価のコバルト原料である酸化コバルト(Co)を、炭酸リチウム及び燐酸二水素アンモニウム等と混合し、焼成する固相反応による製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、一般的に固相法では、反応に必要な温度が高いために、1次粒子の粗大化や凝集成長しやすく、粒子径が大きくなる。上記のように導電率が低いLiMnPOまたはLiCoPOでは、強力な微細化処理が必要となる。極度の微粒子化処理には、湿式ミルでアルミナやジルコニア球等を媒体として処理することが一般的であるが、粉砕時に不純物が混入しやすく、処理後の乾燥処理も必要である。以上のように固相反応法に関しては、焼成工程での効率は非常に良好であるが、高温処理による粒子の粗大化が避けられず、非常に時間とコストがかかるという問題がある。
また、黒鉛などによる導電性の付与は、導電性の改善のために必要であり、LiMnPOまたはLiCoPO粒子の表面を、均一に被覆することが望ましい。そのためには、これらの粒子を微細化した後に炭素源を添加し、再度熱処理を行う必要があり、工程が長くなり、コストが増加する。固相反応法において、前駆体段階で炭素源を添加すると、合成反応を阻害してしまうので、一段の熱処理で導電性炭素複合化を行うのは極めて困難である。
【0007】
一方、前駆体を水熱法で合成し低温で焼成することにより、LiMnPOまたはLiCoPOを得る製造方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。低温反応でLiMPO(M:遷移金属)を合成できるため、100nm以下の微細粒子を得ることができるとされている。
しかし、水熱法は、溶媒に対するLi、M、P原料濃度が低く、また、反応には高圧容器を用いるため、効率的な大量合成には向かないという欠点があり、やはり価格的に大型電池用に適さない。
【0008】
さらに、ゾル−ゲル法により、Li、M、Pの各原料を分子レベルで均一に配合した前駆体を用い、低温の熱処理により、LiMPOを得る方法も、大学などで盛んに検討され、微細なLiMPO粒子が得られることが報告されている。また、原料に含まれる有機成分の熱分解により、導電性炭素の複合化も行われ、良好な導電率が得られる。しかし、高価な有機原料を用いること、用いる塩によっては合成時に硫酸、硝酸、塩酸や有機物などの分解ガスを発生するため、これらに対する処理が必要となり工業生産に適したものではない。
以上のように、これまでの製造方法では、上述のような問題があり、微細で高性能なLiMnPOまたはLiCoPOのようなオリビン型正極活物質を、工業的で安価に製造する方法は、開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−25983号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J Chen,et al.,Solid State Ionics 178(2008) 1676−1693
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、粒子径が微細で、正極活物質として用いた場合、優れた電池特性を示すオリビン型のリチウム二次電池用正極活物質と、組成が均一で微細な前駆体を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法とを、さらには、その正極活物質を用いて良好な特性を有するリチウム二次電池を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため、均一に混合され、粒子径が微細なリチウム遷移金属複合リン酸塩について、鋭意検討した結果、リン酸アンモニウム遷移金属塩を原料として混合し、低温で焼成することにより、上記リチウム遷移金属複合リン酸塩が得られることを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、一般式:NHMPO・nHO(Mは、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から選択される少なくともCoを含む1種以上、0≦n≦1)で表されるリン酸アンモニウム遷移金属からなるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造法であって、2価のMイオンとリン酸化物イオンとの混合溶液を調製する混合溶液調製工程と、アンモニアを添加して、該混合溶液のpHを7〜9の範囲に調整して、共沈殿させ、リン酸アンモニウムM塩(NHMPO・nHO)を得る晶析工程とを、備えることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記晶析工程において、前記混合溶液を25〜60℃に保持すること特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記混合溶液調製工程において、2価のMイオンの供給原料として、硫酸塩および塩化物塩からなる群から選択される1種以上の水溶性金属塩を用いることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1又は2の発明において、前記混合溶液調製工程において、リン酸化物イオンの供給原料として、リン酸およびリン酸二水素アンモニウムからなる群から選択される1種以上の水溶性塩を用いることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記晶析工程が非酸化性雰囲気下で行われること特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記晶析工程で得られたリン酸アンモニウムM塩(NHMPO・nHO)を洗浄する洗浄工程を、さらに、備えることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明に係る製造方法により得られ、リン酸アンモニウム遷移金属からなるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体であって、一般式:NHMPO・nHO(Mは、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から選択される少なくともCoを含む1種以上、0≦n≦1)で表され、ナトリウム含有量が0.01質量%以下であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体が提供される。
【0017】
一方、本発明の第8の発明によれば、第7の発明に係るリチウム二次電池用正極活物質の前駆体とリチウム塩との混合後、不活性または還元雰囲気下において、200〜500℃で焼成して、一般式:LiMPO(Mは、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から選択される少なくともCoを含む1種以上)で表されるリチウム遷移金属複合リン酸塩を得ることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、前記前駆体とリチウム塩との混合時に、さらに、炭素源を混合した後、600〜800℃で焼成することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第10の発明によれば、第8の発明において、前記200〜500℃での焼成により得られたリチウム遷移金属複合リン酸塩と、炭素源との混合物を、不活性または還元雰囲気下において、600〜800℃で熱処理することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第11の発明によれば、第8又は9の発明において、前記焼成前に、予め、前記前駆体の粉砕を行うことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第12の発明によれば、第10の発明において、前記熱処理前に、予め、前記リチウム遷移金属複合リン酸塩の粉砕を行うことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法によれば、CoとPが原子レベルに均一に混合したオリビン型リチウム二次電池用正極活物質の前駆体を得ることができ、また、該前駆体を用いて得られる正極活物質は、粒子径が微細で組成的にも均一であり、さらに、該正極活物質を用いたリチウム二次電池は、優れた電池特性を示すものである。
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、毒性のある化合物を用いることなく、容易に高収率で工業的規模の生産にも適したものであり、その工業的価値は、極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る実施例1で得られた前駆体のX線回折パターンである。
図2】本発明に係る実施例1で得られた複合リン酸塩のX線回折パターンである。
図3】本発明に係る比較例1で得られた前駆体のX線回折パターンである。
図4】本発明に係る比較例1で得られた複合リン酸塩のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を項目毎に、詳細に説明する。
【0026】
1.リチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法は、一般式:NHMPO・nHO(Mは、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から選択される少なくともCoを含む1種以上、0≦n≦1)で表されるリン酸アンモニウム遷移金属からなるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造法であって、
2価のMイオンとリン酸化物イオンとの混合溶液を調製する混合溶液調製工程と、アンモニアを添加して該混合溶液のpHを7〜9の範囲に調整して共沈殿させ、リン酸アンモニウムM塩(NHMPO・nHO)を得る晶析工程とを、備えることを特徴とする。
【0027】
上記混合溶液調製工程においては、2価のMイオンとリン酸化物イオンの混合溶液を調製する。次工程の晶析工程で得られるリン酸アンモニウムM塩の組成は、混合溶液の組成比に一致するため、混合溶液に含有されるMイオンとリン酸化物イオンの比が、下記一般式(1)の組成比となるように、2価のM塩とリン酸化物を水に溶解させる。
ここで、Mとリン酸化物のモル比は、化学量論では1:1であるが、晶析時の収率を考慮して、リン酸化物に対するMのモル比を0.9〜1.1までの範囲とすることができる。モル比が0.90以下では、リン酸化物イオンの収率が悪化し、一方、1.1以上では、CoやMnOといった不純物が生成しやすくなる。好ましくは0.95〜1.05となるように溶解する。Mとしての遷移金属のモル比は、得ようとするリン酸アンモニウムM塩におけるモル比とすればよい。
一般式(1):NHMPO・nH
(Mは、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から選択される少なくともCoを含む1種以上、0≦n≦1)
【0028】
2価のM塩としては、水溶性の塩を広く用いることができるが、2価の無機塩が好ましい。具体的には、Mイオンの供給原料として、硫酸塩または塩化物塩から選択される1種以上の水溶性金属塩を用いることが好ましい。
また、リン酸化物としては、水溶性のものを用いることができ、具体的には、リン酸化物イオンの供給原料として、リン酸またはリン酸二水素アンモニウムから選択される1種以上の水溶性金属塩を用いることが好ましい。
【0029】
次工程である晶析工程では、酸性を示す混合溶液にアンモニアを添加し、該混合溶液のpHを7〜9の範囲に調整して、Mイオンとリン酸化物イオンを共沈殿させ、リン酸アンモニウムマンガン鉄を得る。
リン酸アニオンと金属イオンは、溶液中での共存状態では、完全に均一に混合された状態となっており、これを共沈殿させることで、Mとリン酸が厳密に混合され、均一な組成の共沈物を得ることができる。
【0030】
ここで、制御するpHの範囲と、アンモニアを用いることが、重要である。pHが7未満では、アンモニアと金属イオンとリン酸イオンが完全に反応せず、混合溶液中に残存し、収率が低下するとともに、組成ずれを起こす。また、pHが9を超えると、金属イオンの酸化が起こりすくなり、CoやMnOといった不純物が生成し、リチウム塩と混合して熱処理した後も、異相として残り、特性を悪化させる。
pHを高pH側に制御して、共沈殿させる目的のみであれば、アルカリ金属水酸化物等を用いることができるが、アルカリ金属水酸化物を用いると、アルカリ金属が共沈殿物に残留して不純物となる。特に、水酸化ナトリウムを用いると、残留する不純物としてナトリウムが多くなり、最終的に得られるリチウム二次電池用正極活物質中のナトリウムが高くなり、正極活物質の特性を悪化させる。
pHを7〜9に制御することで、組成ずれがなく、不純物を含まないリチウム二次電池用正極活物質の前駆体として適したリン酸アンモニウムマンガン鉄を得ることができる。このとき原料溶液に金属イオンのみを溶解し、そこにリン酸とアンモニアの混合溶液を滴下しても、リン酸アンモニウムM塩を得ることができるが、硫酸根が多く残留してしまい洗浄で除去することは困難である。
【0031】
上記晶析工程においては、非酸化性雰囲気下で、共沈殿させることが好ましい。非酸化性雰囲気下とすることで、酸化によるFeやMnOといった不純物の生成を抑制することができる。非酸化性雰囲気下としては、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
また、晶析中は、混合溶液の液温を25〜60℃に保持することが好ましい。該液温が25℃未満では、混合溶液中での金属イオンの溶解度が低く、Mとリン酸の析出速度に差が生じて、組成ずれを起こすことがある。また、液温の上限は、60℃とすることが好ましい。液温が60℃を超えると、混合溶液中での金属イオンの溶解度が高くなり、析出速度が低下して、得られるリン酸アンモニウムM塩の結晶性が高くなり過ぎ、最終的に得られる正極活物質が粗粒化する場合がある。
【0032】
上記晶析工程に用いられる装置としては、反応を均一に生じさせるため、撹拌装置付の反応槽が好ましく、晶析時の雰囲気制御を可能とするため、密閉構造を有するものとすることがより好ましい。
晶析反応終了後、ろ過、遠心分離などにより固液分離し、不純物を除去するため、上記晶析工程で得られたリン酸アンモニウムM塩を十分に水洗した後、乾燥させる。ここで、上記リン酸アンモニウムM塩は、微細な粒子構造を持っているため、水洗により、ナトリウム等の不純物が容易に除去可能である。
【0033】
晶析工程で得られたリン酸アンモニウムM塩は、乾燥時に酸化しやく、金属元素が酸化して、不純物としての異相が残ることがある。このため、洗浄後の乾燥は、非酸化性雰囲気中で行う。非酸化性雰囲気中であれば、特に限定されるものではないが、不活性雰囲気中または真空雰囲気中で行うこと好ましい。
また、乾燥温度は、酸化が抑制可能な範囲であればよく、250℃以下とすることが好ましく、150℃以下とすることがより好ましい。一方、乾燥温度の下限は、60℃以上とすることが好ましく、90℃以上とすることがより好ましい。60℃未満では、乾燥に時間がかかるとともに付着水や必要以上の結晶水残るため、好ましくない。無水化できる程度に乾燥することがより好ましい。
【0034】
上記製造方法では、Mとして、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から選択される少なくともCoを含む1種以上の遷移金属イオンを混合させる場合、2価の遷移金属イオンと、リン酸化物イオンとの混合溶液を調製して、遷移金属とリン酸化物を同時に共沈殿させているが、2価の各遷移金属イオンとリン酸化物イオンの混合溶液を個別に調製するとともに、晶析工程においても、各混合溶液を個別にpH調整して共沈させ、遷移金属のモル比で混合して、前駆体としてもよい。上記遷移金属を含むリン酸アンモニウム遷移金属塩は、類似の構造を持つため、それぞれを十分に混合することで、低温の熱処理でも、均一な組成のリチウム遷移金属複合リン酸塩を得ることができる。
【0035】
2.リチウム二次電池用正極活物質の前駆体
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体は、上記製造方法によって得られるものであり、上記一般式(1)で表され、ナトリウム含有量が0.01質量%以下であることを特徴とする。
【0036】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体は、上記製造方法によって得られるため、Mとリン酸化物が原子レベルで均一に混合されたものとなっている。このため、リチウム塩と混合後の低温の焼成によっても、組成の均一化が可能であり、粒子径が微細なリチウム遷移金属複合リン酸塩が得られる。
また、ナトリウム含有量が0.01質量%以下であり、得られる正極活物質で十分な特性が得られる。ナトリウム含有量が0.01質量%を超えると、オリビン構造中のLiイオンの移動がNaで阻害されるために、得られた正極活物質を用いた正極性能が低下する。
【0037】
3.リチウム二次電池用正極活物質の製造方法
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、リチウム二次電池用正極活物質(以下、単に正極活物質ということがある)の前駆体である上記リン酸アンモニウムM塩とリチウム塩を混合後、不活性または還元雰囲気下において、200〜500℃で焼成して、リチウム遷移金属複合リン酸塩、すなわち、リチウム二次電池用正極活物質を得ることを特徴とする。
【0038】
上記製造方法においては、リチウム遷移金属複合リン酸塩に導電性を付与するため、リン酸アンモニウムM塩とリチウム塩との混合時に、炭素源となる化合物(以下、単に炭素源ということがある)を、更に混合した後、600〜800℃で焼成してもよい。
【0039】
炭素源を混合せず、焼成して得られたリチウム遷移金属複合リン酸塩も、正極活物質として用いることが可能であるが、電池製造時に導電性を付与する工数を削減するとともに、良好な導電性を得るため、リチウム遷移金属複合リン酸塩を、黒鉛と複合化することが好ましい。このため、上記焼成で得られたリチウム遷移金属複合リン酸塩と炭素源を混合した後、不活性または還元雰囲気下において、600〜800℃で熱処理して、正極活物質とすることが好ましい。
【0040】
(3−1)焼成工程
焼成工程においては、先ず、上記リン酸アンモニウムM塩とリチウム塩を混合する。リン酸アンモニウムM塩とリチウム塩との混合は、リン酸アンモニウムM塩とリチウム塩を、下記一般式(2)で表されるリチウム遷移金属複合リン酸塩が得られるように、混合するものである。
一般式(2):LiMPO
(Mは、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から選択される少なくともCoを含む1種以上)
【0041】
リチウム塩としては、特に限定されるものではなく、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウムなど一般的なリチウム塩を用いることができる。
【0042】
混合方法は、リン酸アンモニウムM塩とリチウム塩を、十分に混合できる混合機を用いればよく、具体的には、シェイカーミキサー、あるいはアルミナ、ジルコニア球を用いた乾式、湿式ミルなどを用いることができる。特に、最終的に得られる正極活物質を微粒化するためには、リン酸アンモニウムM塩を、予め焼成前に粉砕しておくことが好ましく、リチウム塩との混合時に、粉砕を同時にすることが好ましい。この場合には、ボールミル、遊星ミル、振動ミル、ビーズミル等などのミルを用いることで、混合と同時に粉砕を行うことも可能となり、好ましい。
【0043】
リチウム塩との混合後、該混合物を不活性または還元雰囲気下で、200〜500℃、好ましくは300〜400℃で焼成する。
本発明のリン酸アンモニウムM塩は、原子レベルでMとリン酸が均一に混合された状態となっていることから、上記温度範囲による焼成でも、均質化され、良好な結晶性を有するリチウム遷移金属複合リン酸塩(LiMPO)、すなわち、リチウム二次電池用正極活物質を得ることができる。焼成温度が200℃未満では、反応原料である炭酸リチウムなどが残存することがあり、また、500℃を超えると、粒子の焼結が進行して、粗大粒子が生成され、最終的に得られる正極活物質の導電性が低下する。
【0044】
リン酸アンモニウムM塩と、リチウム塩と炭素源を同時に混合した場合、炭素源により粒成長を抑制されるので、炭素源が黒鉛化する温度で焼成する。用いる炭素源にもよるが600℃以上で黒鉛化が進行するので、600〜800℃、好ましくは600〜700℃で焼成することにより、黒鉛複合化したリチウム遷移金属複合リン酸塩を得ることができる。
焼成温度が600℃未満では、炭素の黒鉛化が進行せず、正極活物質に十分な導電性が得られない。また、焼成温度が800℃を超えると、粒子の焼結が進行して粗大化し、正極活物質の導電性が低下する。
上記還元雰囲気としては、不純物の混入を抑制するため、不活性ガスと水素ガスの混合ガスが好ましく、混合ガス中の水素ガス含有量としては、1〜20容量%とすることが好ましい。また、焼成温度での保持時間は、良好な結晶性を得るため、1〜10時間とすることが好ましい。
【0045】
(3−2)炭素源混合工程
炭素源混合工程は、リチウム遷移金属複合リン酸塩に導電性を付与するために、炭素源を、最終的な正極活物質において、炭素含有率が1〜5質量%になるように混合する工程である。
炭素源としては、焼成によって、黒鉛化して導電性炭素質材料となるものであれば、特に限定されるものではなく、天然黒鉛、人工黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラックやケッチェンブラックなど等のカーボンブラック類、炭素繊維、ショ糖などの一般的な炭化水素類、アスコルビン酸その他、分解によって炭素質を生じる有機化合物等を幅広く用いることができる。
また、炭素源に含まれる炭素原子の量は、焼成により、炭素源より減少する傾向がある。このため、炭素源の配合量は、焼成後に含有される炭素量に対して、質量比で40〜120%多くすることが好ましく、50〜120%多くすることがより好ましい。
【0046】
上記混合は、上記リン酸アンモニウムM塩もしくは焼成によって得られたリチウム遷移金属複合リン酸塩と、炭素源が均一に混合されるように、シェイカーミキサー、あるいはアルミナ、ジルコニア球を用いた乾式、湿式ミルなどを用いて十分に行うことが好ましい。
炭素源混合工程においても、リン酸アンモニウムM塩もしくは焼成によって得られたリチウム遷移金属複合リン酸塩を、粉砕することで、最終的に得られる正極活物質を微粒化するとともに、均一に粒子を導電性炭素質材料で被覆することができるため、混合と同時に粉砕しておくことが好ましい。このため、ボールミル、遊星ミル、振動ミル、ビーズミル等などのミルを用いることが好ましい。なお、リン酸アンモニウムM塩と混合する場合は、上述のようにリチウム塩との混合と同時に行うことが好ましい。
【0047】
(3−3)熱処理工程
炭素源混合工程で、炭素源を混合したリチウム遷移金属複合リン酸塩を、焼成工程で炭素源を混合した場合と同様に、不活性または還元雰囲気下で、600〜800℃、好ましくは600〜700℃で熱処理することにより、炭素質材料と複合化され導電性が良好なリチウム遷移金属複合リン酸塩、すなわち、リチウム二次電池用正極活物質を得ることができる。
【0048】
上記焼成工程および熱処理工程における炉としては、例えば、バッチ炉、ローラーハースキルン、プッシャー炉、ロータリーキルン、流動床炉など、一般的な熱処理炉・焼成炉を用いることができる。処理中は、コバルト、マンガンの酸化を抑制するため、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、または窒素と水素の混合ガスの還元雰囲気とすることから、雰囲気制御が可能な炉を用いることが好ましい。
上記、正極活物質は、均一微細な一次粒子で構成されているが、電池の電極作製工程において、必要に応じて、これを粉砕、分級して用いることができる。
【0049】
4.リチウム二次電池用正極活物質
本発明の正極活物質は、均一微細な一次粒子で構成された上記一般式(2)で表されるオリビン型リチウム遷移金属複合リン酸塩からなるものであり、一次粒子の平均粒径が50〜1000nmであり、BET比表面積が5〜50m/gである。これにより、正極活物質として用いたときに十分な電池容量が得られる。
なお、一次粒子径は、走査型電子顕微鏡観察により測定することができ、二次粒子径は、レーザー散乱回折法で測定することができる。
【0050】
ここで、一般式(2)中のMを、MeCo1−a(Meは、Fe、MnおよびNiからなる群から選択される1種以上)と表した場合、aは、0.2≦a≦0.6であることが好ましい。aが0.6を超える場合、Meの含有量が多すぎて、電池として十分な容量が得られないことがある。aが0.2未満の際は、コバルト含有量が高すぎて、電池電圧が高くなり、電解液の電位窓を超えるため、電池が安定して作動しなくなることがある。
一次粒子の平均粒径が50nm未満になると、正極活物質のかさ密度が低くなり、電池の正極活物質として用いた場合に、容積あたりの電池容量が低くなりすぎる。一方、一次粒子の平均粒径が1000nmを超えると、電池反応の際のリチウムイオン及び電子伝導率が低く、高抵抗なLiMPO粒子内部をリチウムイオン、電子が移動する距離が大きくなり、電池の反応速度が極めて遅くなり、電池抵抗が上昇するとともに、十分な電池容量が得られない。一次粒子の平均粒径は、100〜800nmであることが好ましい。
【0051】
一次粒子は、その個数の80%以上の粒子が含まれる粒径範囲が50〜1000nm内であることが好ましい。これにより、微粒子や粗大粒子が含まれず、良好な電池特性が得られる。50nm未満の粒子が多くなると、電流の集中などにより、電池容量やサイクル特性が低下することがある。一方、1000nmを超える粒子が多いと、LiMPO粒子内部をリチウムイオン、電子が移動する距離が大きくなり、電池の反応速度が極めて遅くなり、電池抵抗が上昇するとともに、電池容量が低下することがある。粒径範囲は、一次粒子を300個以上測定することで求めることができる。一次粒子の粒径範囲は、100〜1000nmであることが、電池特性をより良好なものとするために、好ましい。
【0052】
二次粒子の平均粒径は、0.5μm〜20μmであることが好ましい。二次粒子の平均粒径が0.5μm未満になると、正極活物質のかさ密度が低くなり、電池の容積のあたりの容量が低くなりすぎることがある。一方、20μmを超えると、粗大粒子が混在するようになり、電池製造時のペーストが均一なものにできないことがある。
また、BET比表面積が5m/g未満では、電池の正極を構成したときに、十分な電解液との接触が得られず、電池抵抗の上昇や導電性の低下が生じる。また、50m/gを超えると、正極活物質のかさ密度が低くなりすぎる。
【0053】
上記正極活物質においては、十分な導電性を得るため、炭素含有率が1〜5質量%であることが好ましい。炭素含有率が1質量%未満では、正極活物質の導電性が十分でなく、電池容量や出力が低下することがある。また、5質量%を超えると、正極活物質中のリチウム遷移金属複合リン酸塩(LiMPO)が少なくなり、電池容量が低下することがある。
【0054】
本発明の正極活物質は、例えば、C2023型コイン電池の正極活物質として用いた場合、初期充電容量と放電容量の比である初期効率が65%以上の良好な電池特性を示すものであり、リチウム二次電池用として好適である。
【0055】
5.リチウム二次電池
本発明によるリチウム二次電池は、正極、負極、非水電解質など、一般のリチウム二次電池と同様の構成要素から構成される。
以下、本発明のリチウム二次電池の実施形態について、その構成要素、用途などの項目に分けて詳しく説明するが、以下の実施形態は、例示にすぎず、本発明のリチウム二次電池は、本明細書に記載の実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて、種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0056】
(a)正極
正極は、本発明の正極活物質、導電材および結着剤を含んだ正極合材から形成される。
詳しくは、粉末状の正極活物質、導電材を混合し、それに結着剤を加え、必要に応じて、粘度調整などのための溶剤を、さらに添加して、正極合材ペーストを調整し、その正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布、乾燥、必要に応じて加圧することにより、シート状の正極を作製する。
導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
結着剤は、活物質粒子を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、その他の適切な材料を用いることができる。
【0057】
また、必要に応じて、正極合材に添加する溶剤、つまり、活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
また、活性炭を、電気二重層容量を増加させるために、添加することができる。
このような正極活物質、導電材、および結着剤を混合し、必要に応じて、活性炭、溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを調製する。
【0058】
正極合材中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となりうる。正極合材の固形分の全体(溶剤を除く意味)を100質量%とした場合、一般のリチウム二次電池の正極と同様、それぞれ、正極活物質は、60〜95質量%、導電材は、1〜20質量%、結着剤は、1〜20質量%とすることが望ましい。
たとえば、アルミニウムなどの金属箔集電体の表面に、充分に混練した上記の正極合材ペーストを塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させ、必要に応じて、その後に、電極密度を高めるべくロールプレスなどにより圧縮することにより、正極をシート状に形成することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などを行い、電池の作製に供することができる。
【0059】
(b)負極
負極には、金属リチウム、リチウム合金など、また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に、塗布、乾燥し、必要に応じて、電極密度を高めるべく圧縮して、形成したものを使用する。このとき、負極活物質として、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極と同様に、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素樹脂などを、これら負極活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0060】
(c)セパレータ
正極と負極の間には、セパレータを挟み装填する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの薄い微多孔膜を用いることができる。
【0061】
(d)非水系電解質
非水系電解質は、支持塩としてのリチウム塩を、有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0062】
上記支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiASF、LiN(CFSOなど、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水電解質は、ラジカル補足剤、界面活性剤や難燃剤などを含んでいてもよい。
【0063】
以上のように構成される本発明のリチウム二次電池であるが、その形状は、円筒型、積層型など、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して、積層させて電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リードなどを用いて接続し、この電極体に上記の非水電解質を含浸させ、電池ケースに密閉して電池を完成させる。
本発明のリチウム二次電池においては、本発明のリチウム二次電池用正極活物質を正極材料として用いた正極を備えており、4.0〜4.8Vという高電位で充放電を行なうことが可能で、従来のリチウム金属複合酸化物よりも、高いエネルギー密度で、かつ安全性が高いリチウム二次電池を工業的に実現できる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例及び比較例により、更に具体的に説明する。なお、実施例で用いた金属の化学分析方法、X線回折及び比表面積の測定方法、電池容量の評価方法は、以下の通りである。
【0065】
(1)金属元素の分析:
ICP発光分析装置(VARIAN社、725ES)を用いて、ICP発光分析法により分析した。
(2)X線回折:
粉末X線回折装置(PANALYTICAL社製、X‘Pert PRO)を用いて、得られた正極活物質について、Cu−Kα線による粉末X線回折で測定した。
(3)比表面積:
BET法測定機(ユアサアイオニックス株式会社製 カンタソーブQS−10)を用いて、窒素ガス吸着によるBET法で測定した。
(4)電池容量の評価:
得られた正極活物質について、以下の手順でコイン型電池を作製し、電池の充放電容量を測定して評価した。
正極活物質に、導電材としてアセチレンブラック33質量%、結着材としてポリビニリデンフルオライド(PVDF)17質量%、N−メチルピロリドン(NMP)溶液を添加混合し、上記正極活物質50質量%−導電材33質量%−PVDF17質量%の混合物を得た。
この混合物をアルミ箔上に塗布し、80℃で乾燥後、電極寸法の直径11mmφに打ち抜き、プレス圧98MPa(1.0tonf/cm)でプレスして電極を作製した。
この電極を正極とし、グローブボックス内で負極として金属Li、電解液として、LiMnPOには、電解質LiClO1モル/Lを含んだエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の等量混合液(容積比でEC/DMC=1/1)、また、LiCoPOには、電解質LiPF1モル/Lを含有するエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)の等量混合液(容積比でEC/EMC/DMC=1/1/1)を、それぞれ用いて、C2023型コイン電池を作製した。
電池の充放電を、充電0.2mA/cm、5.2V、休止60分、放電0.2mA/cm、2.0V、25℃の条件で実施し、2サイクル目の放電容量を、評価値として用いた。
【0066】
[比較例1]
硫酸マンガンn水和物(中央電工製:99.9質量%)174g(Mnとして1モル)とリン酸(和光社製:純度85.0質量%以上)1モル(115g)を蒸留水1Lに入れ、攪拌機で1hよく攪拌し、原料溶液とした。
原料溶液を2Lのセパラブルフラスコに入れ、内部を窒素で置換しながら、攪拌機で攪拌した。30分後、原料溶液に25質量%アンモニア水(和光社製)をpHが8.0〜8.2になるまで滴下した。滴下終了後、セパラブルフラスコを窒素で置換しながら30分撹拌を継続して反応を完全に進行させた。この反応液を吸引濾過で濾過し、水で洗浄して生成した固形物を回収した。回収した固形物を真空下100℃で一昼夜乾燥して前駆体を得た。
得られた前駆体は、X線回折分析により、リン酸アンモニウムマンガン(NHMnPO)と同定された。図3に得られた前駆体(リン酸アンモニウムマンガン)のX線回折チャートを示す。得られた前駆体のナトリウム含有量は、分析下限(20質量ppm)以下であった。
【0067】
上記リン酸アンモニウムマンガン30g、炭酸リチウム(関東化学社製鹿特級:99.0%)5.9gおよびエタノール60mlを、φ1mmジルコニアボールが650gの入った内容積500mlジルコニア製ポットに入れ、遊星ボールミル(フリッチュジャパン製)により350rpmで30分間混合粉砕した。ジルコニアボールを篩い分けし、真空乾燥によりエタノールを除去した。
得られた混合物を電気炉で、窒素−2容量%水素混合ガスを1L/分で炉内をパージしながら、昇温速度10℃/分で昇温後、500℃で5時間焼成して、リチウム遷移金属複合リン酸塩を得た。
複合リン酸塩は、X線回折分析により、リチウムマンガン複合リン酸塩(LiMnPO)と同定された。図4に得られた複合リン酸塩(リチウムマンガン複合リン酸塩)のX線回折チャートを示す。
【0068】
上記複合リン酸塩30gとスクロース3.84gを、φ5mmジルコニアボールが350gの入った内容積250mlジルコニア製ポットに入れ、遊星ボールミルにより250rpmで10分間混合した。ジルコニアボールを篩い分けした後、この混合物電気炉で、窒素−2容量%水素混合ガスを1L/分で炉内をパージしながら、昇温速度10℃/分で190℃にして2時間保持した後、更に650℃まで昇温して、5時間の熱処理して、正極活物質を得た。
この正極活物質のリチウム:マンガン:リンの組成は、原子比で1.03:1.00:1.00であり、炭素含有量は、3.0wt%であった。走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行ったところ、一次粒子の粒径範囲は100〜500nmにあり、平均粒径は300nmであった。また、比表面積は27.2m/gであった。電池評価を実施すると、初期充電容量は61mAh/g、初期放電容量は55mAh/g、初期効率は90%であり、充放電容量が低いものであった。
【0069】
[実施例1]
硫酸マンガンn水和物に替えて、硫酸コバルト七水和物(工業用)1モルを用いたこと、焼成温度を600℃としたこと、スクロースと混合して熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに評価した。
得られた前駆体は、X線回折分析により、リン酸アンモニウムコバルト(NHCoPO)と同定された。図1に得られた前駆体(リン酸アンモニウムコバルト)のX線回折チャートを示す。得られた前駆体のナトリウム含有量は、分析下限(20質量ppm)以下であった。
また、得られた複合リン酸塩は、X線回折分析により、リチウムコバルト複合リン酸塩(LiCoPO)と同定された。図2に得られた複合リン酸塩(リチウムコバルト複合リン酸塩)のX線回折チャートを示す。
この正極活物質のリチウム:コバルト:リンの組成は、原子比で0.97:1.00:1.00であった。走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行ったところ、一次粒子の粒径範囲は500〜1000nmにあり、平均粒径は750nmであった。また、比表面積は7.18m/gであった。電池評価を実施すると、初期充電容量は160mAh/g、初期放電容量は114mAh/g、初期効率は71%であった。
【0070】
[実施例2]
硫酸コバルト七水和物(工業用)0.500モル(140.6g)と硫酸マンガンn水和物(中央電工製:99.9質量%)0.500モル(85.27g))とリン酸(和光社製:純度85.0質量%以上)1モル(115.3g)を、蒸留水で2Lにメスアップし、攪拌機で1時間攪拌し、原料溶液とした。また、25質量%アンモニア水溶液をpH調整溶液とした。
撹拌機付5Lのセパラブルフラスコに1Lの純水を入れ、内部を窒素で置換しながら、30分攪拌した。pH調整溶液をpHコントローラにつなぎ、pHを8.0〜8.2に制御しながら、原料溶液を毎分10mLの速度で添加した。滴下終了後、セパラブルフラスコを窒素で置換しながら30分撹拌を継続して共沈殿反応を完全に進行させた。反応後のスラリーを吸引濾過で固液分離した後、純水で2回レパルプ水洗浄を行った。
水洗後、120℃真空下で24時間乾燥して、リン酸アンモニウムマンガンコバルトを得た。
上記リン酸アンモニウムマンガンコバルト30g、炭酸リチウム(関東化学社製鹿特級:99.0質量%)5.94gおよびエタノール60mlを、φ1.0mmジルコニアボール650gの入った内容積500mlジルコニア製ポットに入れ、遊星ボールミル(フリッチュジャパン製)により350rpmで10分間混合するとともに粉砕した。処理後、スラリーとジルコニアボールを篩い分けし、常温、真空下で24時間乾燥してエタノールを除去した。
電気炉を用いて得られた混合物を、98容量%窒素と2容量%水素の混合ガスを1L/分の流量で炉内にパージしながら10℃/分で昇温した後、350℃5時間焼成した。
焼成物をX線回折で分析すると、オリビン型リチウムマンガンコバルト複合リン酸塩単相と同定され、リチウムマンガンコバルト複合リン酸塩が得られたことが確認された。得られた前駆体のナトリウム含有量は、分析下限(20質量ppm)以下であった。
【0071】
上記リチウムマンガンコバルト複合リン酸塩30gとスクロース3.00gを、φ5mmジルコニアボール350gの入った内容積500mlジルコニア製ポットに入れ、遊星ボールミル(フリッチュジャパン製)により250rpmで10分間混合した。処理後、ジルコニアボールを篩い分けした後、この混合物を、電気炉を用いて98容量%窒素+2容量%水素の混合ガスを1L/分の流量で炉内にパージしながら昇温速度10℃/分で190℃まで昇温後、2時間保持し、さらに昇温して、650℃で5時間の焼成を行い、正極活物質を得た。
この正極活物質のLi:Mn:Co:Pの組成は、モル比で1.00:0.50:0.50:1.00であり、炭素量は2.2質量%であった。
X線回折分析から、オリビン型リチウムマンガンコバルト複合リン酸塩単相であることが確認された。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行うと、一次粒子の粒径範囲は100〜200nmにあり、平均粒径は150nmであった。また、BET法により求めた正極活物質の比表面積は、26.5m/gであった。
正極活物質の電池評価を実施したところ、初期充電容量は130mAh/g、初期放電容量は90mAh/g、初期効率は69%であった。
【0072】
[実施例3]
硫酸コバルト七水和物(工業用)0.700モル(190.8g)と硫酸鉄7水和物(工業用)0.300モル(83.4g)とリン酸(和光社製:純度85.0質量%以上)1モル(115.3g)を、蒸留水で2Lにメスアップし、攪拌機で1時間攪拌し、原料溶液とした以外は、実施例2と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。
この正極活物質のLi:Fe:Co:Pの組成は、モル比で1.00:0.30:0.70:1.00であり、炭素量は2.3質量%であった。
X線回折分析から、オリビン型リチウム鉄コバルト複合リン酸塩単相であることが確認された。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行うと、一次粒子の粒径範囲は、150〜300nmにあり、平均粒径は250nmであった。また、BET法により求めた正極活物質の比表面積は、25.5m/gであった。
正極活物質の電池評価を実施したところ、初期充電容量は140mAh/g、初期放電容量は97mAh/g、初期効率は69%であった。
【0073】
[比較例2]
晶析工程において、アンモニア水により、pHを6.0〜6.2の範囲に制御した以外は、実施例1と同様にして、前駆体を得た。
得られた前駆体は、X線回折分析によると、NHCoPOとCoO(OH)とCoの混合物であったため、以後の実験を中止した。
【0074】
[比較例3]
晶析工程において、アンモニア水により、pHを9.5〜9.7の範囲に制御した以外は、実施例1と同様にして、前駆体を得た。
晶析後の固液分離時に回収した液は、紫色を呈していた。化学分析の結果、原料収率がコバルト98%、リン97%と低い値を示した。コバルトがアンミン錯体化したためと、考えられる。回収率が低く、実用上に問題があるため、以後の実験を中止した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法によれば、リチウム二次電池用正極活物質の製造原料として、好適な均一微細な前駆体であるリン酸アンモニウムM塩を得ることができ、また、該正極活物質の前駆体は、リチウム塩と混合後、不活性または還元雰囲気下において、200〜500℃で焼成することにより、リチウム二次電池用正極活物質であるリチウム遷移金属複合リン酸塩を得ることができる。さらに、本発明の正極活物質は、例えば、C2023型コイン電池の正極活物質として用いた場合、初期充電容量と放電容量の比である初期効率が65%以上の良好な電池特性を示すものであり、リチウム二次電池用として好適であり、産業上の利用可能性は、高い。
図1
図2
図3
図4