(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
触媒の存在下、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの少なくとも一方の原料化合物と、水素とを反応させる2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法において、
前記触媒が、Hammettの酸度関数の値(H0)が−5.6以上の金属酸化物に担持された貴金属触媒であり、
前記貴金属がパラジウムであり、
前記金属酸化物がシリカゲルであることを特徴とする2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法。
原料化合物が、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとの混合物であって両者の合計モル数に対する1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの割合が50モル%以上の混合物、である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CF
3CF=CH
2、HFO−1234yf)の製造方法は、触媒の存在下、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CF
3CF=CCl
2、CFO−1214ya)および1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CF
3CF=CHCl、HCFO−1224yd)の少なくとも一方の原料化合物と、水素とを反応させる方法である。
CFO−1214yaおよびHCFO−1224ydは、それぞれ下式(1)および(2)に示す反応によりHFO−1234yfを生成する。
CF
3CF=CCl
2 + 2H
2 → CF
3CF=CH
2 + 2HCl (1)
CF
3CF=CHCl + H
2 → CF
3CF=CH
2 + HCl (2)
【0013】
本発明の製造方法は、反応形態の違いにより、下記方法(α)または方法(β)が挙げられる。
(α)触媒の存在下、原料化合物と水素を気相で反応させる方法。
(β)触媒の存在下、原料化合物と水素を液相で反応させる方法。
【0014】
(方法(α))
方法(α)としては、例えば、触媒担持担体を充填した触媒層を形成し、該触媒層に原料化合物ガスと水素ガスを含むガス(以下、原料混合ガスともいう)を導入して反応させる方法が挙げられる。
触媒としては、Hammettの酸度関数の値(H
0)が−5.6以上の金属酸化物に担持された貴金属触媒を使用する。担体として前記金属酸化物を使用すれば、耐久性が高い触媒が得られ、かつ原料化合物からHFO−1234yfへの変換率も高くできる。金属酸化物の酸度関数の値(H
0)は、変換率と耐久性の両立が容易な点から、−3.0以上が好ましい。また、酸度関数の値(H
0)は、脱塩化水素、脱フッ化水素等の副反応を抑制しやすい点から、+3.3以下が好ましい。
【0015】
Hammettの酸度関数の値(H
0)は、以下に示すHammettの指示薬吸着法により測定できる。金属酸化物を飽和水蒸気中に25℃で2日間保持した後にベンゼンを加え、その金属酸化物を含むベンゼン溶液にHammettの指示薬を滴下して、金属酸化物上の酸性色の着色を確認する。金属酸化物の酸度関数の値(H
0)がHammettの指示薬のpKaよりも小さければ酸性色の着色が見られる。酸性色の着色の確認は、目視により行ってもよく、分光学的な手法により行ってもよい。
本発明において、酸度関数の値(H
0)が−5.6以上の金属酸化物とは、前記指示薬吸着法においてpKaが−5.6のHammett指示薬を滴下した場合に、酸性色の着色が見られない金属酸化物である。
【0016】
Hammettの指示薬としては、ベンザルアセトフェノン(pKa−5.6)、ジシンナマルアセトン(pKa−3.0)、4−ベンゼンアゾジフェニルアミン(pKa+1.5)、p−ジメチルアミノアゾベンゼン(pKa+3.3)、フェニルアゾナフチルアミン(pKa+4.0)、メチルレッド(pKa+4.8)等が挙げられる。
【0017】
酸度関数の値(H
0)が−5.6以上の金属酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素(+1.5≧H
0>−5.6)、二酸化チタン(+1.5≧H
0>−5.6)、二酸化ジルコニウム(H
0>+1.5)等が挙げられる。金属酸化物は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
金属酸化物としては、変換率と耐久性の両立が容易な点から、二酸化ケイ素、二酸化チタンまたは二酸化ジルコニウムであることが好ましく、二酸化ケイ素が特に好ましい。また、二酸化ケイ素を担体として使用する場合、シリカゲル、無定形シリカ等を使用することが好ましい。
【0018】
触媒の貴金属としては、例えば、パラジウム、ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、金等が挙げられる。金属酸化物に担持する貴金属は、1種でもよく、2種以上でもよい。2種以上の貴金属触媒を使用する場合、触媒はそれらの貴金属の混合物であってもよく、合金であってもよい。合金触媒としては、例えばパラジウム/白金合金触媒やパラジウム/ロジウム合金触媒などが挙げられる。
金属酸化物に担持する貴金属としては、活性の点から、パラジウム、ロジウム、白金が好ましく、パラジウムやパラジウム合金が特に好ましい。
【0019】
貴金属の担持量は、前記金属酸化物に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、0.5〜1質量%が特に好ましい。貴金属の担持量が下限値以上であれば、原料化合物と水素の反応率が向上する。貴金属の担持量が上限値以下であれば、触媒コストを下げることができ、容易に入手できる。
本発明の製造方法に使用する触媒としては、パラジウムが特に好ましい。
【0020】
また、本発明の製造方法に使用する触媒担持金属酸化物には、貴金属に加えて、副生物抑制および触媒耐久性向上の観点から貴金属以外の金属が担持されていてもよい。貴金属以外の金属としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル等が挙げられる。これら貴金属以外の金属は、1種であっても、2種以上であってもよい。
前記貴金属以外の金属を担持させる際の該金属の割合は、貴金属の100質量部に対して、0.01〜50質量部が好ましい。
【0021】
触媒の比表面積は、10〜1000m
2/gが好ましく、100〜500m
2/gがより好ましい。触媒の比表面積が下限値以上であれば、原料化合物と水素の反応率が向上する。触媒の比表面積が上限値以下であれば、副生物の生成を抑制しやすい。
触媒の比表面積は、ガス吸着法、例えば、BET法で測定される。
【0022】
本発明における触媒層は、前記貴金属触媒担持金属酸化物を反応器に充填することによって形成される。触媒層における触媒担持金属酸化物の充填密度は、0.1〜3g/cm
3が好ましく、0.25〜1g/cm
3がより好ましい。触媒担持金属酸化物の充填密度が下限値以上であれば、単位容積あたりの触媒担持金属酸化物の充填量が多く、反応させるガス量を多くすることができるため生産性が向上する。触媒担持金属酸化物の充填密度が上限値以下であれば、触媒層の温度上昇を抑制しやすく、反応温度を130℃以下に維持することが容易になる。
触媒担持金属酸化物の充填部分は、反応器内に1つあってもよく、2つ以上あってもよい。
【0023】
触媒層の温度は、気相反応であることより、原料化合物ガスと水素ガスを含むガスの露点よりも高い温度とする。CFO−1214yaの沸点が46℃であり、HCFO−1224ydの沸点が推定で4〜10℃である点、および反応性の点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。
【0024】
触媒層の温度は、触媒の劣化の進行に伴い次第に低下することで、反応率が低下するという問題がある。そのため、高い反応率を維持できるよう、触媒層の温度を十分な温度に保つ操作を行うことが好ましい。例えば、触媒層を熱媒などで外部から加熱してその温度を維持している場合は、熱媒の温度を徐々に上げて、触媒層の温度を高めることができる。
なお、触媒層の温度とは、外部からの加熱により維持される触媒層の温度をいう。通常原料混合ガスは触媒層の一部の領域で反応し、反応熱の発生により反応域(原料混合ガスが反応している領域)は他の触媒層領域よりも高温となる。この反応域の触媒活性は経時的に低下することより、通常、反応域は原料混合ガスの導入部からガスの流れ方向の下流側に徐々に移動していく。また、反応域の下流側では反応域で生成した温度の高い生成ガスが流れ、通常、触媒層の温度よりも高温となり、反応域から離れるほど徐々に温度が低下していく。本発明の触媒層の温度とは反応域の上流側の温度、すなわち、熱媒などで外部から加熱してその温度を維持している触媒層の温度をいう。
【0025】
また、本発明の製造方法では、副生物の生成を抑制する点から、反応中の触媒層の最高温度を130℃以下に維持することが好ましく、100℃以下に維持することがより好ましい。つまり、本発明の製造方法では、反応熱による触媒層の過剰な温度上昇を抑制し、触媒層の最高温度を前記上限値以下にすることが好ましい。前記のように、原料混合ガスが反応している領域およびその下流側近傍の領域における温度は、反応熱により他の領域の触媒層の温度よりも高くなる。反応中の触媒層の最高温度とはこの反応熱の発生により他の領域よりも高温となった触媒層領域の最高温度をいう。
【0026】
反応中の触媒層の最高温度の測定法としては、例えば、挿し込み型の温度計を使用した下記測定法が挙げられる。
触媒層における原料化合物と水素の反応は、まずガス導入部の触媒が反応に寄与し、該ガス導入部の触媒が劣化するとその下流側の触媒が反応に寄与するというように、触媒層における反応域がガス排出側に向かって徐々に移動していく。つまり、触媒層の最高温度を示す部分は、原料化合物ガスと水素ガスの反応域の移動と共に移動していくため、予め挿し込み型の温度計の計測部を触媒層のガス導入部に位置させておき、反応の進行と共に該計測部を移動させることで触媒層の最高温度を測定できる。
【0027】
反応中の触媒層の最高温度を前記上限値以下に維持する方法としては、触媒層の最高温度を低く制御しつつ、生産性を高く維持しやすい点から、触媒層に水素を分割して導入する方法(方法(α1))が好ましい。水素を触媒層の複数個所に分割して導入すれば、原料化合物の導入量を変化させずに触媒層における反応域を分散させられるため、反応熱の発生が一箇所に集中しない。そのため、生産性を低下させずに、触媒層の局所的な過剰発熱を容易に抑制できる。
水素の分割導入とは、原料化合物と水素を触媒層のガス導入部に導入するとともに、触媒層のガス導入部とガス排出部との間の少なくとも1か所から水素を導入することをいう。すなわち、原料混合ガスを導入する導入部以外に触媒層の少なくとも1箇所、すなわち、合計2箇所以上、から水素を導入することをいう。
具体的には、触媒層のガス導入部(ガスの流れ方向の最上流側のガス導入部)に導入する原料混合ガスは、触媒層に導入する水素の一部と原料化合物の全量との混合ガスとする。残余の水素はガスの流れ方向下流の触媒層に導入し、その導入位置の触媒層を流れるガス(通常は、原料化合物の一部が水素と反応した後の、生成ガス)に水素を混入し、該水素の導入位置から下流側の触媒層で未反応の原料化合物を水素と反応させ、触媒層出口(ガスの流れ方向の最下流側のガス排出部)から生成ガスを排出する。原料混合ガスの導入部と次の水素導入部との間で、原料混合ガス中の水素の少なくとも一部は原料化合物と反応していることが好ましい。また、ガスの流れ方向の最下流側の水素導入部は、その水素導入部とガス排出部との間の触媒層で導入された水素と原料化合物とが充分反応しうる位置に設けることが好ましい。
【0028】
方法(α1)における水素の導入は、2箇所に分割導入しても、3箇所以上に分割導入してもよく、プロセスを簡略化できる点から、2箇所に分割導入することが好ましい。
触媒層の2箇所以上に分割導入する水素の分割割合は、触媒層の最高温度を低く維持しやすい点から、分割される各々のガス量を等量とすることが好ましい。
【0029】
反応器内に触媒担持金属酸化物が充填された部分が2つ以上ある場合、水素の分割導入は、例えば、水素の一部を原料化合物と共に1段目の充填部に導入し、残部を2段目以降の充填部に導入する方法が挙げられる。
【0030】
また、方法(α1)以外の触媒層の最高温度の制御方法としては、原料化合物および水素と共に触媒層に不活性ガスを流通させる方法(方法(α2))が挙げられる。不活性ガスを流通させ、触媒層中を流通する原料化合物および水素の濃度を調節することで、反応熱による触媒層の過剰な温度上昇を抑制できる。また、不活性ガス以外の希釈ガスを不活性ガスの代わりにまたは不活性ガスとともに使用することもできる。
不活性ガスとしては、窒素ガス、希ガス、水素化反応に不活性なフロン類等が挙げられる。不活性ガス以外の希釈ガスとしては塩化水素などが挙げられる。
【0031】
触媒層への不活性ガスの導入量は、触媒層の最高温度を低く維持しやすく、副生物の生成を低減しやすい点、および触媒の劣化を抑制しやすい点から、原料化合物1モルに対して、0.1モル以上が好ましく、0.5モル以上がより好ましい。また、不活性ガスの導入量は、該不活性ガスの回収率の点から、原料化合物1モルに対して、10モル以下が好ましく、4モル以下がより好ましい。
【0032】
また、方法(α1)、方法(α2)以外の触媒層の最高温度の制御方法としては、反応器を加熱する熱媒温度を、原料混合ガスの露点を下限として、より低い温度とする方法(方法(α3))が挙げられる。熱媒の温度を低く保つことで、反応熱のより迅速な除熱が可能となり、触媒層の過剰な温度上昇を抑制できる。
方法(α3)においては、前記触媒層の温度は、低い温度であるほどHFO−1234yfと分離困難な副生物の生成を抑制するのに有利であることより、露点よりも高くかつ50℃未満とすることが好ましい。より好ましくは、露点よりも高くかつ30℃以下である。
触媒層の最高温度の制御は、方法(α1)、方法(α2)、方法(α3)単独、またはそれぞれを2つ、または3つを併用することが好ましい。
【0033】
反応圧力は、取り扱い性の点から、常圧が好ましいが、特に限定されず、減圧、加圧であってもよい。
原料化合物ガスの触媒に対する接触時間は、4〜60秒が好ましく、8〜40秒がより好ましい。この接触時間は、反応器に導入されるガス量と触媒層体積から計算される原料化合物ガスの接触時間である。
【0034】
副生物の生成を抑制しやすい点から、触媒層に導入する原料化合物と水素の割合は、原料化合物中の塩素原子のモル数と水素のモル数との比(H
2/Cl)で表わして、その値を0.7以下とすることが好ましく、0.6以下とすることがより好ましく、0.5以下とすることがさらに好ましい。また、比(H
2/Cl)は、HFO−1234yfの収率の点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。
水素を分割導入する場合も、同様に、触媒層に導入する原料化合物と触媒層に導入する水素の総量との割合は、上記モル数の比(H
2/Cl)を0.7以下とすることが好ましく、0.6以下とすることがより好ましく、0.5以下とすることがさらに好ましい。また、比(H
2/Cl)は、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。
【0035】
方法(α)では、触媒層における下式(I)で表される原料化合物ガスの線速度uが0.1〜100cm/秒であることが好ましく、1〜30cm/秒であることがより好ましい。この線速度uは、反応器に導入されるガス量と触媒層体積から計算される原料化合物ガスの線速度である。前記原料化合物ガスの線速度uが下限値以上であれば、生産性が向上する。特にガス線速が1cm/秒以上であれば、ガスが触媒層を均一に流れやすい。前記原料化合物ガスの線速度uが上限値以下であれば、原料化合物と水素の反応率が向上する。特にガス線速が30cm/秒以下であれば、発熱による反応点付近の温度制御が容易になる。
u=(W/100)×V/S (I)
ただし、式(I)中、Wは前記触媒層を流通する全ガス中の原料化合物ガスの濃度(モル%)を示し、Vは前記触媒層を流通する全ガスの流量(cm
3/秒)を示し、Sは前記触媒層のガスの流通方向に対する断面積(cm
2)を示す。
【0036】
方法(α)に使用する反応器としては、触媒担持担体を充填して触媒層を形成できる公知の反応器が挙げられる。
反応器の材質としては、例えば、ガラス、鉄、ニッケル、またはこれらを主成分とする合金等が挙げられる。
【0037】
反応後の生成ガスには、目的物であるHFO−1234yfの他に、未反応の原料、反応中間体として生成したHCFO−1224yd、および塩化水素が含まれる。
生成ガスに含まれる塩化水素は、該生成ガスをアルカリ水溶液に吹き込んで中和することにより除去できる。前記アルカリ水溶液に使用するアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0038】
生成ガスからのHFO−1234yfおよび未反応の原料、反応中間体の回収方法としては、例えば、蒸留等の公知の方法を採用できる。
反応後の生成ガスから回収した未反応の原料、反応中間体は再利用できる。回収したHCFO−1224ydは、CFO−1214yaと共に原料化合物として水素と反応させてもよく、CFO−1214yaとは別にHCFO−1224ydのみで水素と反応させてもよい。
原料化合物ガスとしてCFO−1214yaとHCFO−1224ydの混合物を使用する場合、HCFO−1224ydは上記CFO−1214yaからHFO−1234yfを得る際の中間体であることから、通常、HCFO−1224ydの割合の少ない混合物が使用される。よって、CFO−1214yaとHCFO−1224ydの合計量に対するHCFO−1224ydの割合は50モル%以下が好ましく、25モル%以下がより好ましい。
【0039】
(方法(β))
方法(β)では、触媒の存在下、原料化合物と水素を液相で反応させる。
触媒や触媒担持担体は、方法(α)で説明したものと同じである。
方法(β)では、媒体を使用しても使用しなくてもよいが、媒体を使用することが好ましい。前記媒体としては、水、アルコール等の有機溶媒等が挙げられる。
媒体を使用する場合、媒体の使用量は、原料化合物100質量部に対して、10〜1000質量部が好ましい。
【0040】
水素の供給方法としては、触媒担持担体、原料化合物、および必要に応じて使用する媒体を含む液に水素ガスを吹き込む方法、予め加圧によって水素を溶解させた媒体を触媒担持担体と原料化合物を含む液に添加する方法等が挙げられる。
方法(β)における原料化合物と水素の反応は、回分式でもよく、連続式でもよい。
【0041】
反応温度は、0〜150℃が好ましく、20〜100℃がより好ましい。反応温度が下限値以上であれば、原料化合物と水素の反応率が向上する。反応温度が上限値以下であれば、副生物の生成を抑制しやすい。
反応圧力は、0.01〜5MPa−Gが好ましく、0.1〜1MPa−Gがより好ましい。反応時間は、回分式であれば1〜50時間が好ましく、連続式であれば1〜60秒が好ましい。
【0042】
方法(β)における水素の供給量は、副生物の生成を抑制しやすい点から、原料化合物中の塩素原子のモル数と水素のモル数との比(H
2/Cl)を0.7以下とする量が好ましく、0.5以下とする量がより好ましい。また、前記比(H
2/Cl)は、HFO−1234yfの収率の点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。なお、前記水素の供給量とは、反応液中に溶解した水素量を意味する。
【0043】
反応後の反応液には、目的物であるHFO−1234yfの他に、未反応の原料、反応中間体として生成したHCFO−1224yd、および塩化水素が含まれる。反応液に含まれる塩化水素は、反応液にアルカリを添加して中和することにより除去できる。前記アルカリアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
前記アルカリは、反応に使用する反応液に予め添加してもよい。
【0044】
反応液からのHFO−1234yf、および未反応の原料、反応中間体の回収方法としては、例えば、蒸留等の公知の方法を採用できる。
反応液から回収した未反応の原料、反応中間体は再利用できる。回収したHCFO−1224ydは、CFO−1214yaと共に原料化合物として水素と反応させてもよく、CFO−1214yaとは別にHCFO−1224ydのみで水素と反応させてもよい。
【0045】
方法(β)に使用する反応器としては、触媒担持担体存在下に反応原料を接触させて液相反応させることができる公知の反応器が挙げられる。
反応器の材質としては、例えば、ガラス、鉄、ニッケル、またはこれらを主成分とする合金等が挙げられる。
【0046】
(原料化合物)
原料化合物は、CFO−1214yaおよびHCFO−1224ydの少なくとも一方からなる。
CFO−1214yaは、公知の方法により製造できる。例えば、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン(CHCl
2CF
2CF
3、HCFC−225ca)を、相間移動触媒の存在下にアルカリ水溶液と接触させて脱フッ化水素反応させる方法が挙げられる。該反応にはHCFC−225caを含むジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC−225)を使用でき、前記相間移動触媒によりHCFC−225中のHCFC−225caのみが選択的に脱フッ化水素される。反応後、CFO−1214yaは蒸留等の公知の方法により分離回収できる。
【0047】
前記HCFC−225caを含むHCFC−225は、塩化アルミニウム等の触媒の存在下、テトラフルオロエチレンとジクロロフルオロメタンを反応させることにより製造できる。該反応により得られるHCFC−225には、HCFC−225caと、1,3−ジクロロ−1,2,2,3,3−ペンタフルオロプロパン(CHClFCF
2CClF
2、HCFC−225cb)が主成分として含まれ、他に2,2−ジクロロ−1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロパン(CHF
2CCl
2CF
3、HCFC−225aa)、2,3−ジクロロ−1,1,2,3,3−ペンタフルオロプロパン(CHF
2CClFCClF
2、HCFC−225bb)等が少量含まれる。
前記HCFC−225caを含むHCFC−225は、市販品を使用してもよい。市販品としては、アサヒクリンAK225(旭硝子社製、商品名、HCFC−225caの48モル%と、HCFC−225cbの52モル%の混合物)等が挙げられる。
前記相間移動触媒としては、テトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)が好ましい。
【0048】
HCFO−1224ydは、CFO−1214yaに水素を反応させてHFO−1234yfを得る際に中間体として生成する。
【0049】
以上説明したように、本発明の製造方法では、触媒担体として、活性炭に比べて耐久性が高い金属酸化物を使用する。また、使用する金属酸化物のHammettの酸度関数の値(H
0)が−5.6以上であることで、この担体に担持された貴金属触媒の使用によって原料化合物からHFO−1234yfへの変換率も高い。そのため、本発明の製造方法によれば、長時間安定して高い変換率でHFO−1234yfを製造できる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。例2は実施例であり、例3は比較例である。
[変換率の測定]
各例で得られた生成ガスをガスクロマトグラフィー(GC)にて分析し、下式(II)によりCFO−1214yaからHFO−1234yfへの変換率X(単位:%)を算出した。変換率Xの測定は、反応初期と、表1に示す時間の経過後に随時行った。
X=[Y/(Z/2)]×100 (II)
(ただし、式中、Yは生成したHFO−1234yfのモル数、Zは触媒層に導入したCFO−1214yaのモル数を示す。)
【0051】
[例1]CFO−1214yaの製造
アサヒクリンAK225(旭硝子社製、商品名、HCFC−225ca(48モル%)とHCFC−225cb(52モル%)からなるHCFC−225)を反応原料として使用して、以下の方法によりCFO−1214yaを製造した。
【0052】
0℃に冷却したジムロートを設置した内容積1Lのガラス反応器に、相間移動触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)の3gと、水酸化カリウムの83g(1.485モル)と、水の180gと、アサヒクリンAK225の609g(3.0モル)とを仕込んだ後、撹拌しながら徐々に昇温し、45℃で1時間反応を行った。その後、有機相と水相の2相に分離している反応粗液を分液し、有機相を、釜容積1L、理論段数10段の能力を持つ蒸留塔に仕込み、蒸留を実施した。蒸留の結果、純度99.5%のCFO−1214ya(沸点45℃)の262g(1.43モル)を得た。
【0053】
[例2]
HFO−1234yfの製造には、
図1に例示した反応装置101を使用した。
反応装置101は、
図1に示すように、2本の反応管110A、110Bと、それら反応管110A、110Bを浸漬する油浴130とを備えている。反応管110Aは、その入口111a側と出口112a側に2箇所の触媒充填部113a、114aを有する。同様に、反応管110Bは、その入口111b側と出口112b側に2箇所の触媒充填部113b、114bを有する。反応管110Aの出口112aと反応管110Bの入口111bは配管で連結されている。
反応管110A、110Bとしては、内径2.54cm、長さ100cmのインコネル(登録商標)600製の反応管を使用した。また、シリカゲル(+1.5>H
0>−5.6)に対して0.5質量%のパラジウムを担持したパラジウム担持シリカゲル(比表面積100m
2/g)。を使用した。反応管110Aの触媒充填部114aに前記パラジウム担持シリカゲルを充填し、高さ40cmの触媒層120Aを形成した。同様に、反応管110Bの触媒充填部113bおよび114bに前記パラジウム担持シリカゲルを充填し、それぞれ高さ40cmの触媒層120Bおよび触媒層120Cを形成した。触媒層120A〜120Cのパラジウム担持シリカゲルの充填密度は0.47g/cm
3とした。
次いで、触媒層120A〜120Cが全て浸漬されるように、反応管110Aおよび反応管110Bを油浴130中に浸漬し、触媒層120A〜120Cを80℃に加熱した。
【0054】
次いで、CFO−1214yaからなる原料化合物ガス(A)と、水素ガス(B)と、窒素ガス(C)とを、総導入量のモル比で水素/CFO−1214ya/窒素=1/1/2として反応管110Aおよび110Bに流通させ、生成ガス(D)を得た。つまり、原料化合物ガス(A)中の塩素原子のモル数と、触媒層に導入する水素ガス(B)の総導入量のモル数との比(H
2/Cl)を0.5とした。また、触媒層120A〜120Cに対する原料化合物ガス(A)の接触時間は40秒、原料化合物ガス(A)の線速度uは2.7cm/秒とした。
また、水素ガス(B)は、総導入量の50%を原料化合物ガス(A)と共に反応管110Aの入口111aから導入し、残りの50%を反応管110Aと反応管110Bを連結する配管部分に導入した。すなわち、水素ガス(B)は、触媒層120A〜120Cからなる長さ120cmの触媒層において、触媒層120A(0cm地点)と、触媒層120B(40cm地点)の2箇所に分割して導入した。
また、反応中の触媒層120A〜120Cの最高温度を、それら触媒層にそれぞれ挿入した挿し込み型の温度計140A〜140Cにより測定したところ、130℃以下であった。
得られた生成ガス(D)をGC分析したところ、変換率Xは65%であった。
【0055】
[例3]
触媒に使用する担体をシリカゲルからアルミナ(−5.6>H
0>−12)に変更した以外は、例2と同様にして反応を行った。
得られた生成ガス(D)をGC分析したところ、変換率Xは50%であった。
【0056】
以上のように、酸度関数の値(H
0)が−5.6以上の金属酸化物を担体として使用した例2は、酸度関数の値(H
0)が−5.6未満の金属酸化物を担体として使用した例3に比べて変換率Xが高かった。