特許第5713114号(P5713114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5713114樹脂強化用炭素繊維束およびその製造方法、並びに炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物およびその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713114
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】樹脂強化用炭素繊維束およびその製造方法、並びに炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/53 20060101AFI20150416BHJP
   D06M 15/227 20060101ALI20150416BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20150416BHJP
   D06M 13/325 20060101ALI20150416BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20150416BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20150416BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   D06M15/53
   D06M15/227
   D06M15/263
   D06M13/325
   C08L23/12
   C08L23/26
   C08J5/04CES
【請求項の数】18
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2013-541536(P2013-541536)
(86)(22)【出願日】2013年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2013073762
(87)【国際公開番号】WO2014038574
(87)【国際公開日】20140313
【審査請求日】2013年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2012-196588(P2012-196588)
(32)【優先日】2012年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-115330(P2013-115330)
(32)【優先日】2013年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】大谷 忠
(72)【発明者】
【氏名】原田 明
(72)【発明者】
【氏名】與田 祥也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 厚
【審査官】 家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−214175(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/030784(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/074118(WO,A1)
【文献】 特開2010−189658(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/017877(WO,A1)
【文献】 特開2010−149353(JP,A)
【文献】 特開2012−041658(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/008561(WO,A1)
【文献】 特開平02−084566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00− 15/715
C08J 5/04− 5/10,5/24
C08L 1/00−101/14
C08G81/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造中にポリオレフィン構造(a1)および酸性基(a2)を有する酸変性ポリオレフィン(A)と、重量平均分子量(Mw)が450以上の親水性高分子(B)とが結合してなる重合体(AB)が、炭素繊維束に付着してなる樹脂強化用炭素繊維束であって、
該酸変性ポリオレフィン(A)における、該ポリオレフィン構造(a1)と、該酸性基(a2)との質量比(a1):(a2)が、100:0.1〜100:10であり、
該酸変性ポリオレフィン(A)と、該親水性高分子(B)との質量比(A):(B)が、100:1〜100:100であり、
該樹脂強化用炭素繊維束中の重合体(AB)の含有量が、0.1質量%以上8.0質量%以下であり、
前記重合体(AB)中の酸性基(a2)が塩基性物質(C)で中和されているか、または酸性基(a2)が塩基性物質(C)と反応しており、
該塩基性物質(C)で中和された重合体(AB)、または該塩基性物質(C)と反応した重合体(AB)を、固形分濃度30質量%で水に分散させた水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHが、6.0以上10.0以下であり、
前記塩基性物質(C)が、分子量100以下の塩基性物質であり、
前記親水性高分子(B)が、重量平均分子量(Mw)が500以上3000以下のポリエーテルアミンである
樹脂強化用炭素繊維束。
【請求項2】
前記酸性基(a2)が、カルボン酸由来基及び/又はジカルボン酸無水物由来基である請求項1に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【請求項3】
前記重合体(AB)が、前記酸変性ポリオレフィン(A)に前記親水性高分子(B)がグラフト結合したグラフト共重合体である請求項1または2に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【請求項4】
前記ポリオレフィン構造(a1)を形成するポリオレフィンが、
アイソタクチックブロック及びアタクチックブロックを有するステレオブロックポリプロピレン重合体、
及び/又は
プロピレン単位の含有量が50モル%以上であるプロピレン・α−オレフィン共重合体
である請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【請求項5】
前記酸変性ポリオレフィン(A)の重量平均分子量(Mw)が、10,000以上500,000以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【請求項6】
前記炭素繊維束が、単繊維の円周方向の長さ2μmと繊維軸方向の長さ1μmとで画定される面領域における最高部と最低部の高低差が40nm以上となる皺を複数表面に有する単繊維を複数束ねた炭素繊維束である請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【請求項7】
前記重合体(AB)とエポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物(D)とが前記炭素繊維束に付着し、
前記樹脂強化用炭素繊維束中の、該重合体(AB)および該樹脂組成物(D)の合計含有量が0.1質量%以上8.0質量%以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【請求項8】
前記樹脂組成物(D)に含有されるエポキシ樹脂が、芳香族エポキシ樹脂である請求項に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【請求項9】
前記樹脂組成物(D)の25℃における粘度が、20000ポイズ以下であり、重合体(AB)と樹脂組成物(D)の質量比が1:9〜9.5:0.5である請求項7または8に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂強化用炭素繊維束と、熱可塑性樹脂とを含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物であって、
前記炭素繊維束の含有量が、3.0質量%以上80.0質量%以下である炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレンである請求項10に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の樹脂強化用炭素繊維束と、熱可塑性樹脂とを含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物であって、
前記炭素繊維束の含有量が、3.0質量%以上80.0質量%以下であり、
該熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン及び酸変性ポリプロピレンである、
炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
前記熱可塑性樹脂組成物中の酸成分の含有量が、無水マレイン酸換算で0.015質量%以上0.20質量%以下である請求項12に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
前記樹脂強化用炭素繊維束における、前記重合体(AB)と前記樹脂組成物(D)との質量比が1:9〜8:2である、請求項12又は13に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか1項に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品。
【請求項16】
請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂強化用炭素繊維束の製造方法であって、
少なくとも前記重合体(AB)を含む水性樹脂分散体を、前記炭素繊維束に付与して乾燥する工程を含む樹脂強化用炭素繊維束の製造方法。
【請求項17】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の樹脂強化用炭素繊維束の製造方法であって、
少なくとも前記重合体(AB)を含む水性樹脂分散体を、前記炭素繊維束に付与して乾燥する工程を含み、
該水性樹脂分散体が、更に樹脂組成物(D)を含有する、樹脂強化用炭素繊維束の製造方法。
【請求項18】
前記重合体(AB)を含む水性樹脂分散体において、該重合体(AB)が50%粒子径200nm以下で分散している、請求項16または17に記載の樹脂強化用炭素繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の補強材として用いられる、サイジング剤が付着した炭素繊維束(即ち樹脂強化用炭素繊維束)およびその製造方法、並びに、その樹脂強化用炭素繊維束を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維束は、炭素を主成分(最も多く含有する成分)として含む炭素単繊維が複数まとまった形態をなしている。この炭素繊維束を熱可塑性樹脂の補強材として用いて、炭素繊維強化熱可塑性樹脂を作製する場合、炭素繊維束は、例えば、3〜15mm長に切断されたチョップの形態や、連続繊維の形態で使用される。
【0003】
炭素繊維束のチョップと、熱可塑性樹脂とを混練したペレットを製造する場合には、炭素繊維束が定量的に押出機内に供されることが望まれるが、そのためには炭素繊維束の形態安定性が重要である。
また、炭素繊維束を引き揃えたり織物にしたりして熱可塑性樹脂を含浸させたシート材料や、長繊維ペレットを製造する場合には、炭素繊維束は通常連続繊維の形態で製造工程に供給されるが、炭素繊維束には毛羽が発生し易く、またバラケ易く、その取扱いが難しい。なお、炭素繊維束を織物にして使用する場合には、炭素繊維束の製織性や製織後の織布の取扱い性なども重要な特性となっている。
【0004】
以上のような理由により、従来、炭素繊維束の取扱い性や、炭素繊維束を配合した材料の物性を向上させることを目的に、サイジング処理により集束された炭素繊維束が用いられている。このサイジング処理としては、通常、マトリックス樹脂として用いられる熱可塑性樹脂に適合性のあるサイジング剤を、炭素繊維束に対して例えば0.2質量%〜5質量%程度、炭素繊維束表面に付与する方法が用いられる。
この熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂などがよく用いられるが、近年、リサイクル性、経済性の面から、ポリオレフィン系樹脂の使用が検討されてきている。中でも、特にポリプロピレン樹脂は、注目されている樹脂である。
しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は、通常、分子鎖に極性基を持たず、炭素繊維やガラス繊維との界面接着性が非常に低い傾向があり、補強材としての機械特性の向上効果が十分に発現されないことが多い。
【0005】
そのため、特許文献1では、酸変性ポリプロピレンを必須成分とするサイジング剤で炭素繊維やガラス繊維などをサイジング処理することで、マトリックス樹脂であるポリオレフィン系樹脂に対する界面接着性を改善する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、界面活性剤を用いずに乳化することが出来る自己乳化性のポリプロピレン系樹脂分散液を付与した炭素繊維束が記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、酸変性ポリオレフィンとグリコールエーテル系化合物を含む組成物をサイジング剤として表面に付着した炭素繊維束が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−107442号公報
【特許文献2】特開2006−233346号公報
【特許文献3】特開2012−7280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の酸変性ポリプロピレンを必須成分とするサイジング剤は、マトリックス樹脂であるポリオレフィン系樹脂との比較的良好な界面接着性を実現することはできるが、炭素繊維に対する界面接着性が十分でない場合がある。この原因としては、このサイジング剤に含まれる界面活性剤の影響が考えられる。界面活性剤は、炭素繊維とポリオレフィン系樹脂との接着にはなんら寄与しないにもかかわらず、炭素繊維とサイジング剤との接着性に悪影響を与えることがある。
【0010】
一方、特許文献2では、サイジング剤として、界面活性剤を使用しない自己乳化型ポリオレフィン系樹脂を用いているが、この樹脂としてはエチレンとアクリル酸との共重合物が用いられており、ポリプロピレン系樹脂に対して充分な親和性を有さないことがある。
【0011】
また、特許文献3に記載の、分子量の低いグリコールエーテル系化合物を主成分とするサイジング剤を用いて作製した炭素繊維強化樹脂は、耐水性に劣る可能性がある。さらに、酸変性ポリオレフィンを水に分散させた状態で炭素繊維束に付着させる場合、低分子量のグリコールエーテル系化合物を併用するのみでは、酸変性ポリオレフィンの乳化安定性が劣る場合がある。
【0012】
本発明は、これらの事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂を作製する際に、炭素繊維束及び熱可塑性樹脂のいずれに対しても良好な界面接着性を発現でき、良好な乳化安定性を有するサイジング剤を用いて作製された樹脂強化用炭素繊維束、及びその製造方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、この樹脂強化用炭素繊維束を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂及びその成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態は以下のように表される。ただし、本発明は特に、下の(3)、(4)および(6)に示す事項を必須要件とする。
【0014】
(1) 分子構造中にポリオレフィン構造(a1)および酸性基(a2)を有する酸変性ポリオレフィン(A)と、重量平均分子量(Mw)が450以上の親水性高分子(B)とが結合してなる重合体(AB)が、炭素繊維束に付着してなる樹脂強化用炭素繊維束であって、
該酸変性ポリオレフィン(A)における、該ポリオレフィン構造(a1)と、該酸性基(a2)との質量比(a1):(a2)が、100:0.1〜100:10であり、
該酸変性ポリオレフィン(A)と、該親水性高分子(B)との質量比(A):(B)が、100:1〜100:100であり、
該樹脂強化用炭素繊維束中の重合体(AB)の含有量が、0.1質量%以上8.0質量%以下である樹脂強化用炭素繊維束。
【0015】
(2) 前記酸性基(a2)が、カルボン酸由来基及び/又はジカルボン酸無水物由来基である(1)に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【0016】
(3) 前記重合体(AB)中の酸性基(a2)が塩基性物質(C)で中和されているか、または酸性基(a2)が塩基性物質(C)と反応しており、
該塩基性物質(C)で中和された重合体(AB)、または該塩基性物質(C)と反応した重合体(AB)を、固形分濃度30質量%で水に分散させた水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHが、6.0以上10.0以下である(1)または(2)に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【0017】
(4) 前記塩基性物質(C)が、分子量100以下の塩基性物質である(3)に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【0018】
(5) 前記重合体(AB)が、前記酸変性ポリオレフィン(A)に前記親水性高分子(B)がグラフト結合したグラフト共重合体である(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【0019】
(6) 前記親水性高分子(B)が、重量平均分子量(Mw)が500以上3000以下のポリエーテルアミンである(1)〜(5)のいずれかに記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【0020】
(7) 前記ポリオレフィン構造(a1)を形成するポリオレフィンが、
アイソタクチックブロック及びアタクチックブロックを有するステレオブロックポリプロピレン重合体、
及び/又は
プロピレン単位の含有量が50モル%以上であるプロピレン・α−オレフィン共重合体
である(1)〜(6)のいずれかに記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【0021】
(8) 前記酸変性ポリオレフィン(A)の重量平均分子量(Mw)が、10,000以上500,000以下である(1)〜(7)のいずれかに記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【0022】
(9) 前記炭素繊維束が、単繊維の円周方向の長さ2μmと繊維軸方向の長さ1μmとで画定される面領域における最高部と最低部の高低差が40nm以上となる皺を複数表面に有する単繊維を複数束ねた炭素繊維束である(1)〜(8)のいずれかに記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【0023】
(10) 前記重合体(AB)とエポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物(D)とが前記炭素繊維束に付着し、
前記樹脂強化用炭素繊維束中の、該重合体(AB)および該樹脂組成物(D)の合計含有量が0.1質量%以上8.0質量%以下である(1)〜(9)のいずれかに記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【0024】
(11) 前記樹脂組成物(D)に含有されるエポキシ樹脂が、芳香族エポキシ樹脂である(10)に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【0025】
(12) 前記樹脂組成物(D)の25℃における粘度が、20000ポイズ以下であり、重合体(AB)と樹脂組成物(D)の質量比が1:9〜9.5:0.5である(10)または(11)に記載の樹脂強化用炭素繊維束。
【0026】
(13) (1)〜(12)のいずれかに記載の樹脂強化用炭素繊維束と、熱可塑性樹脂とを含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物であって、
前記炭素繊維束の含有量が、3.0質量%以上80.0質量%以下である炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【0027】
(14) 前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレンである(13)に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【0028】
(15) (10)〜(12)のいずれかに記載の樹脂強化用炭素繊維束と、熱可塑性樹脂とを含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物であって、
前記炭素繊維束の含有量が、3.0質量%以上80.0質量%以下であり、
該熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン及び酸変性ポリプロピレンである、
炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【0029】
(16) 前記熱可塑性樹脂組成物中の酸成分の含有量が、無水マレイン酸換算で0.015質量%以上0.20質量%以下である(15)に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【0030】
(17) 前記樹脂強化用炭素繊維束における、前記重合体(AB)と前記樹脂組成物(D)との質量比が1:9〜8:2である、(15)又は(16)に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【0031】
(18) (13)〜(17)のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品。
【0032】
(19) (1)〜(12)のいずれかに記載の樹脂強化用炭素繊維束の製造方法であって、
少なくとも前記重合体(AB)を含む水性樹脂分散体を、前記炭素繊維束に付与して乾燥する工程を含む樹脂強化用炭素繊維束の製造方法。
【0033】
(20) (9)〜(12)のいずれかに記載の樹脂強化用炭素繊維束の製造方法であって、
少なくとも前記重合体(AB)を含む水性樹脂分散体を、前記炭素繊維束に付与して乾燥する工程を含み、
該水性樹脂分散体が、更に樹脂組成物(D)を含有する、樹脂強化用炭素繊維束の製造方法。
【0034】
(21) 前記重合体(AB)を含む水性樹脂分散体において、該重合体(AB)が50%粒子径200nm以下で分散している、(19)または(20)に記載の樹脂強化用炭素繊維束の製造方法。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、炭素繊維束に特定のサイジング剤を用いることにより、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物(好ましくは熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂、特にポリプロピレン樹脂を用いた熱可塑性樹脂組成物)を作製した際に、該サイジング剤と炭素繊維束、及び該サイジング剤と熱可塑性樹脂の、いずれにおいても良好な界面接着性を発現できる。よって、本発明にて得られる樹脂強化用炭素繊維束を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は良好な機械強度を発現し、さらに当該樹脂組成物を成形した成形品も良好な機械強度を示すという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】実施例9におけるオートクレーブ成形の昇降温度条件を示すグラフである。
図2】実施例9における樹脂強化用炭素繊維束の糸道を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
<樹脂強化用炭素繊維束>
本発明の樹脂強化用炭素繊維束は、分子構造中にポリオレフィン構造(a1)及び酸性基(a2)を有する酸変性ポリオレフィン(A)と、重量平均分子量(Mw)が450以上の親水性高分子(B)とが結合してなる重合体(AB)が、炭素繊維束に付着してなる樹脂強化用炭素繊維束であって、該酸変性ポリオレフィン(A)における、該ポリオレフィン構造(a1)と、該酸性基(a2)との質量比(a1):(a2)が、100:0.1〜100:10であり、該酸変性ポリオレフィン(A)と、該親水性高分子(B)との質量比(A):(B)が、100:1〜100:100であり、該樹脂強化用炭素繊維束中の重合体(AB)の含有量が、0.1質量%以上8.0質量%以下である樹脂強化用炭素繊維束である。この重合体(AB)は、サイジング剤として機能することができる。
【0039】
(酸変性ポリオレフィン(A))
・ポリオレフィン構造(a1)
ポリオレフィン構造(a1)を形成するポリオレフィン(a1−1)は、炭素繊維の分野で公知のポリオレフィンを用いることができ、特に限定されないが、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物に使用するマトリックス樹脂に応じて適宜選択することが好ましい。なお、このポリオレフィン(a1−1)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
例えば、マトリックス樹脂として、ポリオレフィン構造を少なくとも有するポリオレフィン系樹脂(特にポリプロピレン系樹脂)を用いる場合は、ポリオレフィン(a1−1)として、例えば、プロピレン単独重合体(ポリプロピレン)や、プロピレンとプロピレン以外の他のオレフィンとの共重合体(プロピレン−オレフィン共重合体)を用いることができる。
【0041】
なお、このプロピレン以外の他のオレフィンは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、このプロピレン以外の他のオレフィンとしては、例えば、α−オレフィン(本発明においては、α−オレフィンにエチレンが含まれるものとする。)を用いることができる。α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、およびノルボルネンなどが挙げられる。これらの中でも、プロピレン以外の他のオレフィンとしては、樹脂の溶剤への溶解性の観点から、炭素数2以上6以下のα−オレフィンを用いることが好ましく、樹脂の溶融粘度の観点から、エチレンや1−ブテンを用いることがより好ましい。
【0042】
なお、ポリオレフィン(a1−1)としてプロピレン単独重合体を用いる場合は、溶剤への溶解性の観点から、アイソタクチックブロックおよびアタクチックブロックを有するステレオブロックポリプロピレン重合体を用いることが好ましい。なお、結晶化度によるポリプロピレン単独重合体及びこれを酸変性させた酸変性ポリプロピレンの取扱性の観点からは、アイソタクチックブロックが、このプロピレン単独重合体中に、20モル%以上70モル%以下含有されることが好ましい。一方、重合体(AB)が炭素繊維束に付着してなる樹脂強化用炭素繊維束の機械特性の観点からは、アタクチックブロックが、プロピレン単独重合体中に、30モル%以上80モル%以下含有されることが好ましい。この重合体中の各ブロックの含有割合は、13C−NMRにより特定することができる。
【0043】
また、ポリオレフィン(a1−1)として、上記共重合体(例えば、プロピレン・α−オレフィン共重合体)を用いる場合は、この共重合体中のプロピレン単位の含有量は、マトリックス樹脂との親和性の観点から、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。一方、上記共重合体中のプロピレン単位の含有量は100モル%未満である。なお、ポリオレフィン(a1−1)を構成する各単位の含有量は、NMR測定により特定することができる。
【0044】
以上より、本発明では、ポリオレフィン(a1−1)が、アイソタクチックブロック及びアタクチックブロックを有するステレオブロックポリプロピレン重合体、及び/又はプロピレン単位の含有量が50モル%以上であるプロピレン・α−オレフィン共重合体であることが好ましい。すなわち、ポリオレフィン(a1−1)が、少なくとも、アイソタクチックブロック及びアタクチックブロックを有するステレオブロックポリプロピレン重合体、並びにプロピレン単位の含有量が50モル%以上であるプロピレン・α−オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0045】
・酸性基(a2)
酸性基(a2)は、特に制限されないが、好ましいものとしては、例えば、カルボン酸由来基及びジカルボン酸無水物由来基が挙げられる。カルボン酸由来基は、ポリオレフィン構造を有するポリオレフィンをカルボン酸によって酸変性させたときに得られるカルボン酸に由来して形成される基である。また、ジカルボン酸無水物由来基は、ポリオレフィン構造を有するポリオレフィンをジカルボン酸無水物によって酸変性させたときに得られるジカルボン酸無水物に由来して形成される基である。
【0046】
カルボン酸由来基を形成するカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸や、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。
【0047】
また、ジカルボン酸無水物由来基を形成するジカルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸や、無水イタコン酸を挙げることができる。ジカルボン酸無水物由来基としては、例えば、具体的には、以下の基(無水マレイン酸由来基)が挙げられる。
【0048】
【化1】
【0049】
なお、酸変性ポリオレフィン(A)が有する酸性基(a2)は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0050】
酸性基(a2)を形成する酸(a2−1)としては、これらの中でも、ポリオレフィン(a1−1)との反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特に無水マレイン酸が好ましい。
【0051】
なお、酸性基(a2)は、カルボン酸由来基及びジカルボン酸無水物由来基以外の酸性基であってもよい。カルボン酸由来基及びジカルボン酸無水物由来基以外の酸性基として、ヒドロキシル基、スルホ基、スルフィノ基、ホスホノ基、チオール基、リン酸基等が挙げられる。
【0052】
・酸変性ポリオレフィン(A)の組成
本発明に用いる酸変性ポリオレフィン(A)は、ポリオレフィン構造(a1)と、酸性基(a2)とを質量比(a1):(a2)で100:0.1〜100:10で有する。なお、本明細書において、「〜」は、この「〜」の前後に記載された数値及び比等を含む。ポリオレフィン構造(a1)及び酸性基(a2)の質量比がこの範囲であれば、酸変性ポリオレフィン中のポリオレフィン構造の含有量が、酸性基に対して著しく不足することがないため、炭素繊維とマトリックス樹脂となる熱可塑性樹脂との接着性が低下することがない。また、酸変性ポリオレフィン(A)における、ポリオレフィン構造(a1)と、酸性基(a2)との質量比(a1):(a2)は、上記と同様の観点から、100:0.5〜100:7であることが好ましい。
【0053】
また、酸変性ポリオレフィン(A)中の酸性基(a2)の含有割合は、重合体(AB)の分散性の観点から0.1質量%以上、マトリックス樹脂への相溶性の観点から10質量%以下とすることが好ましい。この酸変性ポリオレフィン(A)中の各構造の含有割合は、赤外吸収スペクトル測定(IR測定)により特定することができる。
【0054】
酸変性ポリオレフィン(A)は、ポリオレフィン構造(a1)と酸性基(a2)とからなることもできるが、これらの構造の他に、例えば、(メタ)アクリル酸エステルによって形成される構造((メタ)アクリル酸エステル単位)を分子構造中に有することもできる。
【0055】
酸変性ポリオレフィン(A)は、分子構造中に、ポリオレフィン構造(a1)と、酸性基(a2)とを有していればよく、その含有形態は特に限定されない。この酸変性ポリオレフィン(A)は、例えば、ポリオレフィン(a1−1)と、酸(a2−1)との共重合体、具体的には、ランダム共重合体や、ブロック共重合体や、グラフト共重合体(グラフト)であることができる。
【0056】
酸変性ポリオレフィン(A)の製造方法は特に制限されないが、例えば、ポリオレフィン構造(a1)を形成するポリオレフィン(a1−1)と、酸性基(a2)を形成する酸(a2−1)とを溶融混練する方法や有機溶媒等の溶液中で反応させる方法等が挙げられる。なお、これらの方法においては必要に応じ、有機過酸化物やアゾ化合物等の重合開始剤を用いてもよい。更には、ポリオレフィン(a1−1)の製造の際に、酸性基(a2)を形成する酸(a2−1)を共重合させることにより、酸変性ポリオレフィン(A)を製造してもよい。
【0057】
・酸変性ポリオレフィン(A)の重量平均分子量
酸変性ポリオレフィン(A)のGPC(Gel Permeation Chromatography)で測定し、標準ポリスチレンの検量線で換算した重量平均分子量(Mw)は、優れた分散性を重合体(AB)に付与する観点から、500,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましい。
【0058】
また、酸変性ポリオレフィン(A)の重量平均分子量(Mw)は、10,000以上であることが好ましい。これにより、炭素繊維と熱可塑性樹脂マトリックス(すなわち、後述する炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物に含まれる、熱可塑性樹脂)との接着性や、炭素繊維束自身の集束性が優れる。また、水性樹脂分散体を用いて、サイジング剤を炭素繊維に付着させる場合に、該水性樹脂分散体中で該サイジング剤を容易に乳化することができ、水性樹脂分散体中の粒子径が大きくなることを容易に抑制することができる。
【0059】
(親水性高分子(B))
本発明に用いる親水性高分子(親水性高分子化合物)(B)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特にその種類は限定されず、例えば、合成高分子、半合成高分子、及び天然高分子のいずれも用いることができる。これらの中でも親水性度合いの制御がしやすく、特性も安定しやすいことから、親水性高分子として、合成高分子を用いることが好ましい。なお、親水性高分子(B)とは、25℃の水に10質量%の濃度で溶解させたときの不溶分が1質量%以下である高分子化合物を意味する。本発明では、重量平均分子量(Mw)が450以上の親水性高分子(B)を使用する。親水性高分子(B)のMwが450以上であれば、重合体(AB)をエマルジョンと形態した際の乳化安定性が良好となる。
【0060】
本発明に用いる親水性高分子(B)は、酸変性ポリオレフィン(A)と反応しうるものであれば限定されないが、この親水性高分子(B)は、反応性基(例えば、水酸基、エポキシ基、1級〜3級アミノ基、イソシアナート基及び(メタ)アクリロイル基)を有していてもよい。
【0061】
上記合成高分子としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル樹脂などのアクリル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、及びポリエーテル樹脂が挙げられる。親水性高分子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、得られる重合体(AB)を水に容易に安定に分散できることから、親水性高分子として、ポリエーテルアミン(PEA)を用いることが好ましい。このポリエーテルアミンは、ポリエーテル構造と、アミノ基(1級〜3級アミノ基)とを有していればよく、特に限定されない。これらの中でもポリエーテル骨格を例えば主骨格(主鎖)として有する樹脂の片末端または両末端に、反応性基としての1級アミノ基(−NH2)を有するポリエーテルアミンが、親水性が高く特に好ましい。具体的に、ポリエーテルアミンとしては、例えば、メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミンや、メトキシポリ(オキシエチレン/オキシブテン)−2−プロピルアミンを挙げることができる。
【0062】
また、重合体(AB)の乳化安定性、並びに樹脂強化用炭素繊維束の耐水性の観点から、GPCで測定し、標準ポリスチレンの検量線で換算したポリエーテルアミンの重量平均分子量(Mw)は500以上3000以下であることが好ましい。
【0063】
なお、ポリエーテルアミンの市販品の例としてはハンツマン社製ジェファーミン(登録商標)Mシリーズ、ジェファーミン(登録商標)EDシリーズを挙げることができ、これらを適宜選択して用いることができる。
【0064】
(重合体(AB))
本発明に用いる重合体(AB)は、上記酸変性ポリオレフィン(A)と、親水性高分子(B)との反応生成物であり、重合体(AB)において、酸変性ポリオレフィン(A)と、親水性高分子(B)とは化学結合している。なお、酸変性ポリオレフィン(A)と、親水性高分子(B)との質量比(A):(B)は、100:1〜100:100とする。この質量比であれば、炭素繊維の熱可塑性樹脂マトリクスへの接着性と、重合体(AB)の水分散性を両立することが出来る。特に、親水性高分子(B)の質量比を上記上限値以下とすることにより、重合体(AB)中の酸変性ポリオレフィン(A)の量が相対的に多くなるため、より少ない重合体(AB)の量でも熱可塑性樹脂マトリクスへの接着性を発現するという効果を得ることができる。
【0065】
また、この質量比は、上記と同様の観点から、100:2〜100:30とすることが好ましい。
【0066】
なお、酸変性ポリオレフィン(A)と親水性高分子(B)の質量比は、重合体(AB)につき、1H−NMR及び13C−NMR測定を行うことにより親水性高分子由来の水素原子、炭素原子を同定することにより求めることができる。
【0067】
なお、重合体(AB)は、特定の質量比で得られる、酸変性ポリオレフィン(A)由来の構造と、親水性高分子(B)由来の構造とを有していればよく、重合体(AB)における、酸変性ポリオレフィン(A)と、親水性高分子(B)との結合形態や結合位置は特に限定されない。この結合形態は、例えば、イオン結合や共有結合等であることができ、重合体(AB)は、酸変性ポリオレフィン(A)に親水性高分子(B)がグラフト結合したグラフト共重合体であることが好ましい。重合体(AB)が、このグラフト共重合体であれば、製造上、効率的に酸変性ポリオレフィン(A)に親水性高分子(B)を結合させて、重合体(AB)(結合体)を得ることができる。
【0068】
なお、上記重合体(AB)を、酸変性ポリオレフィン(A)と、親水性高分子(B)とから得る合成方法も特に限定されず、種々の反応方法を用いることができる。例えば、酸変性ポリオレフィン(A)の酸性基(a2)と、親水性高分子(B)の反応性基とを利用した反応を用いることができる。この反応は、酸変性ポリオレフィン(A)が有する酸性基と、親水性高分子(B)が有する反応性基とを反応させて結合させるものであり、これにより両者の間に、共有結合またはイオン結合が形成される。この反応としては、例えば、酸性基であるカルボキシ基と、反応性基であるヒドロキシル基とのエステル化反応、酸性基であるカルボキシ基と、反応性基であるエポキシ基との開環反応、酸性基であるカルボキシ基と、反応性基である1級又は2級アミノ基とのアミド化反応、酸性基であるカルボキシ基と、反応性基である3級アミノ基の4級アンモニウム化反応、酸性基であるカルボキシ基と、反応性基であるイソシアナート基とのウレタン化反応、等が挙げられる。各反応の反応率は1〜100%の間で任意に選べばよく、重合体(AB)の分散性の観点から、好ましくは10〜100%、さらに好ましくは50〜100%である。なお、本発明では、酸変性ポリオレフィン(A)の酸性基(a2)を形成する酸(a2−1)が、二塩基酸もしくはその無水物である場合は、その二塩基酸のうちの1つの酸性基のみが親水性高分子(B)と反応していてもよいし、2つの酸性基が反応していてもよい。
【0069】
(重合体(AB)のpH)
炭素繊維束に付着させる重合体(AB)を固形分濃度30質量%で水に分散させた水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHは、6.0以上10.0以下であることが望ましい。このpHが6.0以上であると、容易に安定な重合体(AB)の水性樹脂分散体を得ることができ、凝集物の発生を容易に抑制することができる。また、pHが10.0以下であると、重合体(AB)の分散液が増粘傾向となることを容易に防ぐことができ、作業性の低下を容易に防ぐことができる。なお、酸変性ポリオレフィン(A)と、親水性高分子(B)との反応によって、酸性基(a2)が消費され、重合体(AB)の段階で酸性基(a2)を有さない場合は、通常、上記pHは6.0〜10.0の範囲内となる。しかし、重合体(AB)の段階での酸性基(a2)の有無に関係なく、上記pHが6.0〜10.0の範囲内にない場合は、以下の塩基性物質(C)を用いて、炭素繊維束に付着させる重合体(AB)のpHをこの範囲内に調整することが好ましい。
【0070】
・重合体(AB)のpHの調整
本発明では、上述したように、炭素繊維束に付着させる重合体(AB)の上記水性樹脂分散体におけるpHを塩基性物質(C)を用いて調整することができる。即ち、本発明の樹脂強化用炭素繊維束は、重合体(AB)と、塩基性物質(C)とが付着した炭素繊維束であることができる。この際、重合体(AB)と塩基性物質(C)とは塩を形成した状態で炭素繊維束に付着していてもよいし、重合体(AB)と塩基性物質(C)とが反応した状態で炭素繊維束に付着していてもよい。
【0071】
なお、上述したように、重合体(AB)の段階で酸性基(a2)を有さない場合は、通常、上記pHは6.0〜10.0の範囲内となるため、以下においては重合体(AB)の段階で酸性基(a2)を有する場合について説明する。
【0072】
この場合、重合体(AB)中の酸性基(a2)は、塩基性物質(C)で中和されるか、または塩基性物質(C)と反応することになり、本発明の樹脂強化用炭素繊維束は、この塩基性物質(C)で中和された、または塩基性物質(C)と反応した重合体(AB)が付着した炭素繊維束となる。この塩基性物質(C)の添加量は、重合体(AB)中に残存する酸性基(a2)の少なくとも一部を中和できる量またはその量以上とすることができる。この際、炭素繊維束に付着する上記塩基性物質(C)で中和された、または塩基性物質(C)と反応した重合体(AB)を、固形分濃度30質量%で水に分散させた水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHが、6.0以上10.0以下となるように塩基性物質(C)の付着量(添加量)を調整する。
【0073】
・塩基性物質(C)
塩基性物質(塩基性化合物)(C)は、重合体(AB)のpHを調整することができるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−メチル−2−アミノ−プロパノール、モルホリンを使用することができる。これらの塩基性物質の中でも、分子量100以下の塩基性物質を用いることが望ましく、これにより、該塩基性物質(C)のブリードアウトによる耐水性の低下を容易に抑制することができる。塩基性物質(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書において、塩基性物質(C)の分子量は式量を含む概念として用いることとし、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等、分子として存在しないものについてはその式量の値を分子量とみなすこととする。また、前記親水性高分子(B)の中には、塩基性物質(C)と解されうるものも存在するが、本明細書においては親水性高分子(B)であることとする。
【0074】
(樹脂組成物(D))
本発明の樹脂強化用炭素繊維束は、上記重合体(AB)以外に、他の樹脂が付着した炭素繊維束であることができる。この他の樹脂としては、例えば、後述する樹脂組成物(D)を用いることができる。なお、この樹脂組成物(D)は、サイジング剤として機能することができる。樹脂組成物(D)と、重合体(AB)とは、それぞれ炭素繊維束に付着させてもよいし、予め混合し、該混合物を炭素繊維束に付着させてもよい。
【0075】
また重合体(AB)及び樹脂組成物(D)は、これらは、順次炭素繊維束に付着させてもよいし、予め各々の水性樹脂分散体を調製した後これらを混合し、該混合液を炭素繊維束に付着させてもよい。
【0076】
予め各々水性樹脂分散体を調製し、これらを混合した混合液を炭素繊維束に付着させる方法が、両成分が炭素繊維束に均一に付着し、また付着量の割合を制御しやすい点から好ましい。
【0077】
樹脂組成物(D)は、エポキシ樹脂を主成分として含む。
エポキシ樹脂という用語は熱硬化性樹脂の一つのカテゴリーの名称、および分子内に複数の1,2−エポキシ基を有する化合物という化学物質のカテゴリーの名称として用いられるが、本発明においては後者の意味で用いられる。
【0078】
なお、この主成分とは、この樹脂組成物中に含まれる成分のうち、最も多い含有割合(質量%)で含む成分のことを意味する。また、樹脂組成物(D)は、必要に応じてエポキシ樹脂以外の樹脂(酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂など)やシランカップリング剤、帯電防止剤、潤滑剤、平滑剤を含むことができる。但し、炭素繊維表面との反応性、及び重合体(AB)との反応性の観点より、樹脂組成物(D)の固形分中のエポキシ樹脂の含有割合は、50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上がより好ましい。含有割合に上限はないが、後述の水性樹脂分散体の状態で炭素繊維束に付与する場合には、エポキシ樹脂の含有割合の上限は100質量%から分散液製造に必要な乳化剤の量を除いた割合であり、通常は95質量%以下である。
【0079】
この樹脂組成物(D)の炭素繊維束への付着方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物(D)をそのまま炭素繊維束に付着させてもよいし、この樹脂組成物を溶液または水性樹脂分散体にして炭素繊維束に付与してもよい。しかし、炭素繊維束へ付与する際の管理の容易さや安全性などの観点から、樹脂組成物(D)は水性樹脂分散体の状態で炭素繊維束に付与することが好ましい。従って、樹脂組成物(D)に含有するエポキシ樹脂は、水溶性、あるいは水分散性であることが望ましい。
【0080】
水溶性のエポキシ樹脂としては、例えば、エチレングリコール鎖の両端にグリシジル基を有するものや、A型、F型、S型等のビスフェノールの両端にエチレンオキサイドが付加されその両端にグリシジル基を有するものなどが挙げられる。また、グリシジル基の代わりに、脂環式エポキシ基を有するものを用いることもできる。
【0081】
水分散性のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(例えば、三菱化学(株)製、jER(登録商標)W2821R70(商品名))、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格型エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(例えば、大日本インキ化学工業(株)製、HP7200(商品名))、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、DPPノボラック型エポキシ樹脂(例えば、三菱化学(株)製、jER(登録商標)157S65(商品名))等が挙げられる。また、グリシジル基の代わりに、脂環式エポキシ基を有するものを用いることもできる。
【0082】
また、重合体(AB)と樹脂組成物(D)を含む樹脂強化用炭素繊維束の耐熱性の観点から、樹脂組成物(D)に含まれるエポキシ樹脂は、芳香族エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0083】
なお、樹脂組成物(D)の水性樹脂分散体とは、少なくとも樹脂組成物(D)と水とを含む分散液であり、この樹脂組成物(D)と水とからなってもよいし、水性樹脂分散体の安定性を損ねない限り、他の成分が含まれてもよい。水分散性のエポキシ樹脂を含む樹脂組成物(D)を炭素繊維束に付着させる場合には、この樹脂組成物(D)には、通常、乳化剤が含まれる。乳化剤としては、特に限定されるものではないが、アニオン系、カチオン系、ノニオン系乳化剤などを用いることができる。これらの中でも、乳化性能が良好で、また低価格であることから、アニオン系又はノニオン系乳化剤が好ましい。なお、樹脂組成物(D)中の乳化剤の含有量は、樹脂組成物(D)中のエポキシ樹脂の効果を阻害しない程度の、1重量%〜70重量%が好ましい。
【0084】
(樹脂組成物の含有量と粘度)
本発明の樹脂強化用炭素繊維束に、前記樹脂組成物(D)を使用することの効果としては、炭素繊維と、炭素繊維表面のサイジング剤層との接着性を向上させることが挙げられる。
【0085】
重合体(AB)の後述するマトリックス樹脂に対する接着性と、樹脂組成物(D)の炭素繊維表面に対する接着性との両立の観点から、重合体(AB)と樹脂組成物(D)の質量比は1:9〜9.5:0.5であることが望ましく、2:8〜9:1がより望ましい。
【0086】
なお、重合体(AB)と樹脂組成物(D)中のエポキシ樹脂との質量比も、1:9〜9.5:0.5であることが望ましく、2:8〜9:1がより望ましい。
【0087】
さらに、後述するように、本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂が、ポリプロピレンと酸変性ポリプロピレンを含む場合には、重合体(AB)と樹脂組成物(D)の質量比は1:9〜8:2であることが好ましく、2:8〜6:4であることがより好ましい。上記範囲とすることで、該熱可塑性樹脂組成物中のポリプロピレンおよび酸変性ポリプロピレンの双方と炭素繊維との接着性が良好となる。
【0088】
また、前記樹脂組成物(D)を含有することの効果として、本発明の炭素繊維束の取り扱い性を向上させることも挙げられる。本発明の樹脂強化用炭素繊維束の柔軟性や開繊性の観点から、樹脂組成物(D)の粘度は45℃で20000ポイズ以下であることが望ましい。
【0089】
(炭素繊維束(重合体(AB)を付着させる前の炭素繊維束))
上記重合体(AB)を付着させるための炭素繊維束としては、炭素繊維の分野で公知の炭素繊維束を用いることができ、特に限定されない。通常の炭素繊維束は、平均直径が5μm以上15μm以下の単繊維を、1000本以上60000本以下束ねた形態を有している。この炭素繊維束を構成する単繊維は、例えば、アクリロニトリル系重合体(PAN系重合体)や、石油、石炭から得られるピッチ、レイヨン、リグニン等を繊維化し、炭素化することで得られる。特に、PAN系重合体を原料としたPAN系炭素繊維が、工業規模における生産性及び機械的特性に優れており好ましい。なお、PAN系重合体は、分子構造中にアクリロニトリル単位を有していればよく、アクリロニトリルの単独重合体や、アクリロニトリルと他のモノマー(例えば、メタクリル酸等)との共重合体であることができる。共重合体中のアクリロニトリル単位と他のモノマー単位との含有割合は、作製する炭素繊維束の性質に応じて適宜設定することができる。
【0090】
なお、重合体(AB)や樹脂組成物(D)を付着する前の炭素繊維束を構成する単繊維は、表面に皺を有することができる。単繊維の表面の皺とは、ある方向に1μm以上の長さを有する凹凸の形態を有するものである。またその皺の方向には特に限定はなく、繊維軸方向に平行、あるいは垂直、あるいはある角度を有するものであってもよい。
【0091】
特に本発明では、該炭素繊維束が、円周長さ2μm×繊維軸方向長さ1μmの領域、言い換えると、単繊維の円周方向の長さ2μmと繊維軸方向の長さ1μmとで画定される面領域における最高部と最低部の高低差が40nm以上となる皺を複数表面に有する単繊維を、複数束ねた炭素繊維束であることが好ましい。さらに、最高部と最低部の高低差は、炭素繊維束の製造プロセスの安定性の観点から単繊維の平均直径の10%以下であることが好ましく、より具体的には、1.5μm以下であることが好ましい。これらの条件を満たす炭素繊維束として、例えば、三菱レイヨン社製のTR 50S、TR 30S、TRH50、TR 40、及びMR 60H(以上、いずれも商品名)などが挙げられる。
【0092】
なお、上記皺を測定する際は、炭素繊維表面から、無作為に上記面領域を選択することができ、炭素繊維表面のどの部分を測定してもよい。
【0093】
上記重合体(AB)でサイジング処理される前の炭素繊維束は、炭素化処理後のもの、電解酸化処理を施して表面に酸素含有官能基(例えば、カルボキシル基)を導入したものや、あらかじめ他のサイジング剤(プレサイジング剤)が付与された状態のものも使用できる。プレサイジング剤としては、反応性の観点からエポキシ樹脂を主成分(最も多く含有する成分)とするサイジング剤が好ましい。
【0094】
(重合体(AB)及び樹脂組成物(D)の炭素繊維束への付着量)
本発明の樹脂強化用炭素繊維束中の重合体(AB)(塩基性物質(C)を用いた場合は、塩基性物質(C)も含む。以下同様)の含有量(付着量)は、目的とする複合材料の成形法や用途等に応じて設定することができるが、0.1質量%以上8.0質量%以下とする。重合体(AB)の含有量が0.1質量%以上8.0質量%以下であれば、炭素繊維束の適度な集束性が得られるため、成形加工時の工程通過性が低下することがない。また、この重合体(AB)の含有量は、同様の観点から、0.3質量%以上4.0質量%以下とすることが好ましい。
【0095】
重合体(AB)に樹脂組成物(D)を併用する場合は、該重合体(AB)および該樹脂組成物(D)の合計含有量が0.1質量%以上8.0質量%以下であることが好ましく、0.2〜5.0質量%であることがより好ましい。また該樹脂組成物(D)に含まれるエポキシ樹脂の量についても、該重合体(AB)とエポキシ樹脂との合計含有量が0.1質量%以上8.0質量%以下であることが好ましく、0.2〜5.0質量%であることがより好ましい。
【0096】
該重合体(AB)および該樹脂組成物(D)の合計含有量を上記範囲とすることにより、過剰な集束性や集束性の不足による、成形加工時の工程通過性の低下が生じ難くなるために好ましい。
【0097】
本発明の樹脂強化用炭素繊維束中の重合体(AB)、樹脂組成物(D)およびエポキシ樹脂の含有量は、重合体を含む炭素繊維束の質量と、重合体を除去した後の炭素繊維束の質量を比較することで測定することが出来る。重合体を除去する方法としては、重合体を高温下で熱分解させる方法や、溶剤に溶解させて除去する方法がある。
【0098】
(付与(サイジング剤付着方法))
本発明の樹脂強化用炭素繊維束は、サイジング剤付着前の炭素繊維束に、サイジング剤として、少なくとも重合体(AB)を付着させることにより得ることができる。また重合体(AB)と樹脂組成物(D)を付着させてもよい。このサイジング剤付着方法としては、特に限定されないが、例えば、重合体(AB)を水性樹脂分散体または溶液(以降、サイジング液と称することがある)にし、炭素繊維束に接触させる方法が好ましい。
【0099】
具体的には、このサイジング液にロールの一部を浸漬させ表面転写した後、このロールに炭素繊維束を接触させてサイジング液を付与するタッチロール方式や、炭素繊維束を直接サイジング液中に浸漬させる浸漬方式等を用いることができる。炭素繊維束へのサイジング剤の付与量の調節は、サイジング液中の重合体(AB)や樹脂組成物(D)の濃度調整や絞り量調整によって行うことができる。サイジング液は、工程管理の容易さや安全性などの観点から、水性樹脂分散体であることがより好ましい。なお、サイジング剤の製造方法は限定されないが、例えば、水性樹脂分散体として用いる場合は、水中にサイジング剤を添加した状態でこのサイジング剤の融点以上の温度に加熱し、高せん断の条件下で攪拌して、さらに冷却する等の方法が挙げられる。
【0100】
サイジング処理の後は、乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理には、熱風式乾燥機、パネルヒーター乾燥機、マッフル炉、ロール式乾燥機などを用いることができる。加熱乾燥の方法としては、例えば、サイジング液を付与した炭素繊維束を連続で上記乾燥機に通して行う方法や、管状の部材にサイジング液を付与した炭素繊維束を巻きつけ、これらを熱風乾燥機やパネル乾燥機にてバッチ処理を行う方法を挙げることができる。乾燥処理する際は、均一な熱処理が可能な連続処理を行うことが好ましい。
【0101】
<重合体(AB)が付着した炭素繊維束の製造方法>
本発明の樹脂強化用炭素繊維束は、前記の通り、少なくとも重合体(AB)を含む水性樹脂分散体を炭素繊維束に付与して乾燥する工程(付着工程)を含む製造方法によって製造することができる。なお、この付着工程では、この乾燥より得られる樹脂強化用炭素繊維束中の重合体(AB)(塩基性物質(C)を用いた場合は、塩基性物質(C)も含む)の含有量を、0.1質量%以上8.0質量%以下とする。
【0102】
オレフィン系高分子化合物をサイジング剤として使用する場合、該オレフィン系高分子化合物が微細に分散された水性樹脂分散液に、炭素繊維束を接触させ乾燥させることにより、該サイジング剤が均一に付着した樹脂強化用炭素繊維束が得られるため好ましい。具体的には該水性樹脂分散液において、該高分子化合物が50%粒子径0.5μm以下で分散していることが好ましく、0.3μm以下で分散していることがより好ましく、0.2μm(200nm)以下で分散していることが特に好ましい。ここで50%粒子径とは、液中に分散している樹脂粒子の粒径につき、体積換算で、細かい方から累積で50%の粒子径(50%粒子径、50%平均粒子径、又は体積平均粒子径とも称する。)を意味する。
【0103】
特に、本発明の重合体(AB)は水への分散性に非常に優れため、該重合体(AB)を含む水性樹脂分散体は、分散粒子径が細かく、かつ樹脂の分散状態が長期間安定している。このような水性樹脂分散体を用いると、炭素繊維の表面に樹脂が均一に付着した樹脂強化用炭素繊維束を、容易に得ることができる。
同じく90%粒子径を求めた場合、更に好ましくは90%粒子径を1μm以下とすることができ、特に好ましくは0.5μm以下とすることができる。分散粒子径を小さくすることで、分散安定性を向上させ、凝集が起きにくく、より安定に分散できる。また90%粒子径と50%粒子径の比が小さくなることは、粒度分布が狭くなることを意味し結果として分散安定性が向上する。
【0104】
なお、本発明において分散とは、分散粒子が極めて小さく単分子で分散している状態、実質的には溶解と言えるような状態を含む概念である。従って、分散粒子径の下限値については特に制限はない。
【0105】
本発明に用いる水性樹脂分散体の固形分濃度は、得られる樹脂強化用炭素繊維束に含まれる重合体(AB)の量が所望の量となるよう、適宜調整すればよいが、通常30重量%以下である。
【0106】
また、この製造方法は、この付着工程の前に、以下の工程を含むことができる。
【0107】
ポリオレフィン構造(a1)と、酸性基(a2)とを質量比(a1):(a2)で100:0.1〜100:10で有する酸変性ポリオレフィン(A)を得る工程。
【0108】
酸変性ポリオレフィン(A)に、重量平均分子量(Mw)が450以上の親水性高分子(B)を、質量比(A):(B)で100:1〜100:100の割合で反応させて、重合体(AB)を得る工程。
【0109】
さらに、この製造方法は、必要に応じて以下の工程を含むことができる。
【0110】
塩基性物質(C)によって重合体(AB)のpHを調整して、pH調整後の重合体(AB)を固形分濃度30質量%で水に分散させた水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHを6.0以上10.0以下とする工程(pH調整工程)。
【0111】
なお、pH調整工程の後に付着工程を行う場合は、付着工程に用いられる水性樹脂分散体は、pH調整後の重合体(AB)を水に分散させた水性樹脂分散体となる。また、酸変性ポリオレフィン(A)は、ポリオレフィン(a1−1)と酸(a2−1)とを用いて、1段階で作製してもよいし、後述する実施例のように前駆体を経て2段階で作製してもよい。
【0112】
<重合体(AB)と樹脂組成物(D)が付着した炭素繊維束の製造方法>
また、重合体(AB)に加え、樹脂組成物(D)も炭素繊維束に付着させる場合には、本発明の樹脂強化用炭素繊維束は、例えば重合体(AB)及び樹脂組成物(D)を水に分散させた水性樹脂分散体を炭素繊維束に付与して乾燥する工程(付着工程)を含む製造方法によって製造することができる。なお、この付着工程では、この乾燥より得られる樹脂強化用炭素繊維束中の重合体(AB)(塩基性物質(C)を用いた場合は、塩基性物質(C)も含む)及び樹脂組成物(D)の含有量の合計を、0.1質量%以上8.0質量%以下とする。
【0113】
また、この製造方法は、この付着工程の前に、<重合体(AB)が付着した炭素繊維束の製造方法>の項に記載した各種工程に加えて、以下の工程を含むことができる。
【0114】
樹脂組成物(D)の水性樹脂分散体を製造する工程。
【0115】
樹脂組成物(D)の水性樹脂分散体と重合体(AB)の水性樹脂分散体を混合する工程。
【0116】
<炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物>
本発明の樹脂強化用炭素繊維束は、熱可塑性樹脂組成物中の強化繊維として好適に用いることができる。この熱可塑樹脂としては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66など)、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。この中でも、樹脂の機械特性や熱特性、質量の観点から、熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン(ポリプロピレン樹脂)を用いることが好ましい。
【0117】
熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いる場合には、本発明の樹脂強化用炭素繊維束において、炭素繊維に付着する樹脂は、重合体(AB)のみ、又は重合体(AB)と樹脂組成物(D)の両方であることが好ましい。
【0118】
また熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンと酸変性ポリプロピレンを併用することも好ましく、この場合には、本発明の樹脂強化用炭素繊維束において、炭素繊維に付着する樹脂は、重合体(AB)と樹脂組成物(D)の両方であることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂組成物中の酸成分の含有量が、無水マレイン酸換算で0.015質量%以上0.20質量%以下であることが好ましく、この場合、重合性(AB):樹脂組成物(D)の質量比は、1:9〜8:2であることが好ましく、2:8〜6:4であることがより好ましい。酸成分の含有量を上記の範囲とすることで、炭素繊維とこれに付着する樹脂との接着性が向上し、かつ該炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形する際に、金属型や離型紙などとの離型性が良好となる。また、該樹脂強化用炭素繊維束は、マトリックス樹脂中のポリプロピレン成分および酸変性ポリプロピレン成分両者と接着性が良好となる。
【0119】
本発明の樹脂強化用炭素繊維束と、熱可塑性樹脂とを含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物における炭素繊維束の含有量は、炭素繊維束の形態や、複合材料の成形方法、用途等によって異なるが、コストパフォーマンスの観点から、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物全体に対し、3.0質量%以上80.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以上70.0質量%以下がより好ましい。
【0120】
本発明の樹脂強化用炭素繊維束を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、短繊維コンパウンド、長繊維ペレット、ランダムマット、バルクモールディングコンパウンド、一方向強化プリプレグ等の公知の形態で使用することが好ましい。
【0121】
<成形品>
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、公知の成形法によって成形することにより、任意の形状の成形品(炭素繊維強化複合成形品)を提供することができる。本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品は、機械特性に優れると共に、生産性、経済性に優れる。
【実施例】
【0122】
以下、本発明の樹脂強化用炭素繊維束について、より具体的に実施例に基づいて説明するが、これは本発明の内容を限定するものではない。
【0123】
[製造例1:無水マレイン酸変性プロピレン系共重合体前駆体の製造]
メタロセン触媒によって重合されたプロピレン−ブテン共重合体(ポリオレフィン(a1−1)に相当)であるタフマー(登録商標)XM−7070(商品名、三井化学社製、融点75℃、プロピレン単位の含有量74モル%、重量平均分子量[Mw]240,000(ポリプロピレン換算)、分子量分布[Mw/Mn]2.2)200kgと、無水マレイン酸(MAH)(酸(a2−1)に相当)5kgとをスーパーミキサーでドライブレンドした。その後、2軸押出機(日本製鋼所社製、商品名:TEX54αII)を用いて、このプロピレン−ブテン共重合体100質量部に対して1質量部となるように、パーブチル(登録商標)I(日本油脂社製、重合開始剤)を液添ポンプで途中フィードしながら、ニーディング部のシリンダー温度200℃、スクリュー回転数125rpm、吐出量80kg/時間の条件下で混練し、ペレット状の無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体を得た。
【0124】
このようにして得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体中の無水マレイン酸由来基のグラフト率は0.8質量%(無水マレイン酸由来基として0.08mmol/g、カルボン酸由来基として0.16mmol/g)であった。また、この前駆体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は156,000、数平均分子量[Mn]は84,000であった。
【0125】
[製造例2:無水マレイン酸変性プロピレン系共重合体前駆体の製造]
メタロセン触媒によって重合されたプロピレン−ブテン共重合体を、タフマー(登録商標)XM−7080(商品名、三井化学社製、融点75℃、プロピレン単位の含有量74モル%、重量平均分子量[Mw]306600(ポリプロピレン換算)、分子量分布[Mw/Mn]2.0)に変更した以外は、製造例1と同様にして、ペレット状の無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体を得た。
【0126】
このようにして得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体中の無水マレイン酸由来基のグラフト率は0.7質量%(無水マレイン酸由来基として0.07mmol/g、カルボン酸由来基として0.14mmol/g)であった。また、この前駆体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は167000、数平均分子量[Mn]は58000であった。
【0127】
[製造例3:水性樹脂分散体の製造]
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体100gと、トルエン150gとを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温してこの前駆体を溶解した。その後、この溶液に、無水マレイン酸を1.5g、パーブチル(登録商標)Iを1.0g加え、7時間同温度(110℃)で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、室温(25℃)まで冷却し、アセトンを加えて、沈殿した樹脂を濾別した。さらに、アセトンで洗浄・濾別を行い、得られた樹脂を乾燥することで、酸変性ポリオレフィン(A)に相当する、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体を得た。
【0128】
次いで、この変性共重合体100gとトルエン100gとを入れ、70℃に昇温してこの変性共重合体を溶解した。次いで、この溶液に、親水性高分子(B)として、ハンツマン社製、商品名:ジェファーミン(登録商標)M−1000(メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン(重量平均分子量[Mw]1000))15g(15mmol;上記で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体100質量部に対し15質量部に相当)をイソプロパノール(IPA)280gに溶解した溶液を滴下して、70℃で1時間反応させ、重合体(AB)に相当する重合体(反応生成物)液を得た。
【0129】
なお、このメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミンは、25℃の水に10質量%の濃度で溶解させたときの不溶分が1質量%以下であり、親水性高分子である。
【0130】
続いて、この重合体液に、塩基性物質(C)として、アミノメチルプロパノール(AMP)1.4g(15.6mmol:無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体100質量部に対して1.0質量部に相当)を添加した。その後、温度を70℃に保ち、攪拌しながら水280gを滴下し、減圧下にてトルエンとIPAを除くことにより、樹脂(重合体)固形分濃度が30質量%の乳白色の水性樹脂分散体を得た。この水性樹脂分散体を日機装(株)社製、商品名:マイクロトラック UPA(モデル9340 バッチ型 動的光散乱法)にて体積換算として粒径が細かい方から累積で50%粒子径を測定した結果、50%粒子径は0.10μm、90%粒子径は0.2μmであった。また、この水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHは、8.0であった。
【0131】
なお、表1中に、作製した重合体から水性樹脂分散体を得ることができた(水分散性が良好な)場合を○、水性樹脂分散体を得ることができなかった(水分散性に劣る)場合を×として記載した。
【0132】
なお、親水性高分子(B)と反応させる前の無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体溶液にアセトンを加えて、沈殿したこの共重合体を濾別し、さらに得られた共重合体をアセトンで洗浄した。そして、得られた共重合体を減圧乾燥することにより、白色粉末状の変性共重合体(酸変性ポリオレフィン)を得た。この共重合体の赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸由来基のグラフト率は、1.5質量%(0.15mmol/g)であった。なお、このグラフト率は、以下の式より求められる値である。
【0133】
(グラフト率G)=100×(W−W0)/W0
(上記式中、Wは、酸変性ポリオレフィン(A)の質量を表し、W0は、ポリオレフィン(a1−1)の質量を表す。)
【0134】
即ち、この共重合体における、プロピレン−ブテン共重合体構造(ポリオレフィン構造(a1)に相当)と、無水マレイン酸由来基(酸性基(a2)に相当)との質量比(a1):(a2)は、100:1.5であった。
【0135】
また、この共重合体(酸変性ポリオレフィン)の重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は、135000であった。
【0136】
[製造例4:水性樹脂分散体の製造]
製造例3に用いた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体100gを、製造例2で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体100gに変更した以外は、製造例3と同様にして水性樹脂分散体を得た。なお、製造例4で作製した変性共重合体(酸変性ポリオレフィン)の重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は、145000であった。また、この水性樹脂分散体の分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は0.2μm、90%粒子径は0.3μmであった。さらに、この水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHは、6.9であった。
【0137】
[製造例5:水性樹脂分散体の製造]
製造例3に用いた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体100gを、製造例2で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体50gと、プロピレン−ブテン共重合体(商品名:タフマー(登録商標)XM−7080)50gとに変更した。また、製造例3で塩基性物質(C)として用いたアミノメチルプロパノールの添加量を1.4gから0.7gに変更した。それら以外は製造例3と同様にして水性樹脂分散体を得た。なお、製造例5で作製した変性共重合体(酸変性ポリオレフィン)の重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は、242000であった。また、この水性樹脂分散体の分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は0.09μm、90%粒子径は0.13μmであった。さらに、この水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHは、6.9であった。
【0138】
[製造例6:水性樹脂分散体の製造]
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体100gとトルエン50gとを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温してこの前駆体を溶解した。その後、この溶液に、無水マレイン酸を6.0g、パーブチル(登録商標)Iを2.0g加え、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、反応液にアセトンを加えて、沈殿した共重合体を濾別し、さらに得られた共重合体をアセトンで洗浄した。洗浄後の共重合体を減圧乾燥することにより、白色粉末状の無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体を得た。この変性共重合体(酸変性ポリオレフィン)の赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸由来基のグラフト率は、3.0質量%(0.30mmol/g)であった。また、この変性共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は、140000であった。
【0139】
続いて、還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、得られた変性共重合体100gとトルエン100gとを入れ、70℃に昇温してこの共重合体を溶解した。次いで、この溶液に、親水性高分子(B)として、ハンツマン社製、商品名:ジェファーミン(登録商標)M−1000メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン(重量平均分子量[Mw]1000))10g(10mmol:得られた白色粉末状の変性共重合体100質量部に対し10.0質量部に相当)をイソプロパノール(IPA)120gに溶解した溶液を滴下して、70℃で1時間反応させ、重合体(反応生成物)液を得た。
【0140】
その後、この重合体液の温度を70℃に保ち、攪拌しながらIPA20gと水70gを滴下し、さらに、水241gと25質量%アンモニア水4.2g(アンモニア61mmol:得られた白色粉末状の変性共重合体に対し1.0質量%に相当)を滴下し、減圧下にてトルエンとIPAを除くことにより樹脂固形分濃度が30質量%の乳白色の水性樹脂分散体を得た。この水性樹脂分散体の分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は0.09μm、90%粒子径は0.15μmであった。また、この水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHは、8.5であった。
【0141】
[製造例7:水性樹脂分散体の製造]
製造例6に用いたメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン(重量平均分子量[Mw]1000)10gのうちの5.0gを25質量%アンモニア水5.0gに変更した以外は製造例6と同様に水性樹脂分散体を得た。なお、製造例7で作製した変性共重合体(酸変性ポリオレフィン)の重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は、140000であった。また、この水性樹脂分散体の分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は0.15μm、90%粒子径は0.26μmであった。さらに、この水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHは、7.7であった。
【0142】
[製造例8:水性樹脂分散体の製造]
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、プロピレン−エチレン共重合体(商品名:リコセンPP1302、クラリアント社製)100gとトルエン50gとを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温してこの共重合体を溶解した。その後、この溶液に、無水マレイン酸を6.0g、パーブチル(登録商標)Iを2.0g加え、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、室温(25℃)まで冷却し、アセトンを加えて、沈殿した樹脂を濾別した。さらに、アセトンで洗浄・濾別を行い、得られた樹脂を乾燥することで、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体を得た。この共重合体100gとトルエン100gとを入れ、70℃に昇温してこの共重合体を溶解した。次いで、この溶液に、ハンツマン社製、商品名:ジェファーミン(登録商標)M−1000(メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン(重量平均分子量[Mw]1000))10g(10mmol:得られた無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体100質量部に対し10質量部に相当)をイソプロパノール(IPA)75gに溶解した溶液を滴下して、70℃で1時間反応させた。
【0143】
その後、この反応液の温度を70℃に保ち、攪拌しながら水136gを滴下し、さらにアミノメチルプロパノール8gと水184gを添加した。減圧下にてトルエンとIPAを除くことにより樹脂固形分濃度が30重量%の乳白色の水性樹脂分散体を得た。この水性樹脂分散体の分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は0.21μm、90%粒子径は0.50μmであった。また、この水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHは、9.0であった。
【0144】
なお、親水性高分子(B)を反応させる前の無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体溶液にアセトンを加えて、沈殿した変性共重合体を濾別し、さらに得られた変性共重合体をアセトンで洗浄した。洗浄後に得られた変性共重合体を減圧乾燥することにより、白色粉末状の変性重合体が得られた。この変性重合体の赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸由来基のグラフト率は、4.0質量%(0.40mmol/g)であった。また、この変性共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は、13000であった。
【0145】
[製造例9:水性樹脂分散体の製造]
製造例8に用いたアミノメチルプロパノール8gを、25質量%アンモニア水6.3gに変更した以外は、製造例8と同様にして水性樹脂分散体を得た。なお、製造例9で作製した変性共重合体(酸変性ポリオレフィン)の重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は、13000であった。また、この水性樹脂分散体の分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は0.18μm、90%粒子径は0.26μmであった。さらに、この水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHは、7.9であった。
【0146】
[製造例10:水性樹脂分散体の製造]
製造例6に用いた、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体100gを、プロピレン−エチレン共重合体(商品名:リコセンPP1302、クラリアント社製)100gに変更した以外は、製造例6と同様にして水性樹脂分散体を得た。なお、製造例10で作製した変性共重合体(酸変性ポリオレフィン)の重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は、13000であった。また、この水性樹脂分散体の分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は0.09μm、90%粒子径は0.22μmであった。さらに、この水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHは、8.4であった。
【0147】
[製造例11:水性樹脂分散体の製造]
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、プロピレン−エチレン共重合体(商品名:リコセンPP1302、クラリアント社製)100gとトルエン50gとを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温してこの共重合体を溶解した。その後、この溶液に、無水マレイン酸を6.0g、パーブチル(登録商標)Iを2.0g加え、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、室温(25℃)まで冷却し、アセトンを加えて、沈殿した樹脂を濾別した。さらに、アセトンで洗浄・濾別を行い、得られた樹脂を乾燥することで、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体溶液を得た。この共重合体溶液に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液13.1g(水酸化ナトリウム82mmol:得られた無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体100質量部に対し3.3質量部に相当)をイソプロパノール(IPA)30gと水70gに溶解した溶液を滴下して、70℃で1時間反応させた。
【0148】
その後、この反応液の温度を70℃に保ち、攪拌しながら水50gとイソプロパノール80gを滴下し、さらに水20gを添加した。減圧下にてトルエンとIPAを除くことにより樹脂固形分濃度が30質量%の乳白色の水性樹脂分散体を得た。この水性樹脂分散体の分散粒子径を測定した結果、50%粒子径は0.20μm、90%粒子径は0.38μmであった。また、この水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHは、8.2であった。
【0149】
なお、水酸化ナトリウム水溶液と反応させる前の無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体溶液にアセトンを加えて、沈殿した変性共重合体を濾別し、さらに得られた変性共重合体をアセトンで洗浄した。洗浄後に得られた変性共重合体を減圧乾燥することにより、白色粉末状の変性共重合体が得られた。この変性重合体の赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸由来基のグラフト率は、4.0質量%(0.40mmol/g)であった。また、この変性共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は、13000であった。
【0150】
[製造例12:水性樹脂分散体の製造]
製造例6に用いたメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン10gを、25質量%アンモニア水5.0gに変更し、その後の、重合体(反応生成物)液への25質量%アンモニア水4.2gの添加を省略した以外は製造例6と同様にして操作を行った。しかし、この重合体を水に分散させることはできず、水性樹脂分散体は得られなかった。
【0151】
[製造例13:水性樹脂分散体の製造]
製造例6に用いたメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン10gを、水酸化ナトリウム3.3gに変更し、その後の、重合体(反応生成物)液への25質量%アンモニア水4.2gの添加を省略した以外は製造例6と同様にして操作を行った。しかし、この重合体を水に分散させることはできず、水性樹脂分散体は得られなかった。
【0152】
[製造例14:水性樹脂分散体の製造]
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体100gと、トルエン50gとを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温してこの前駆体を溶解した。その後、この溶液に、無水マレイン酸を6.0g、パーブチル(登録商標)Iを2.0g加え、7時間同温度(110℃)で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、トルエン92gを加え、希釈を行った。次いで、70℃温水750gを加え、30分間撹拌を行い、その後、30分間静置し、分離した水相を抜出した。次いで、この溶液に、親水性高分子(B)として、ハンツマン社製、商品名:ジェファーミン(登録商標)M−1000(メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン(重量平均分子量[Mw]1000))5g(5mmol;上記で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体100質量部に対し5質量部に相当)をイソプロパノール(IPA)50gに溶解した溶液を滴下して、70℃で1時間反応させ、重合体(AB)に相当する重合体(反応生成物)液を得た。
【0153】
続いて、この重合体液に、塩基性物質(C)として、ジメチルエタノールアミン(DMEA)6.4g(6.4mmol:無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体に対して1.0質量%に相当)を蒸留水120gとIPA140gに溶解させて添加した。
【0154】
その後、温度を70℃に保ち、攪拌しながら水155gを滴下し、減圧下にてトルエンとIPAを除くことにより、樹脂(重合体)固形分濃度が30質量%の乳白色の水性樹脂分散体を得た。この水性樹脂分散体を日機装(株)社製、商品名:マイクロトラック UPA(モデル9340 バッチ型 動的光散乱法)にて体積換算として粒径が細かい方から累積で50%粒子径を測定した結果、50%粒子径は0.10μm、90%粒子径は0.18μmであった。また、この水性樹脂分散体の温度25℃におけるpHは、8.2であった。
【0155】
なお、親水性高分子(B)と反応させる前の無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体溶液にアセトンを加えて、沈殿したこの共重合体を濾別し、さらに得られた共重合体をアセトンで洗浄した。そして、得られた共重合体を減圧乾燥することにより、白色粉末状の変性共重合体(酸変性ポリオレフィン)を得た。この共重合体の赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸由来基のグラフト率は、3.0質量%(0.30mmol/g)であった。
【0156】
[製造例15:エポキシ樹脂分散体の製造]
ミキサー(特殊機化工業(株)製、商品名:ハイビスディスパーミックス、ホモミキサー仕様:型式3D−5型)を用い、以下の手順で、転相乳化することでサイジング液を調製した。
【0157】
エポキシ樹脂jER(登録商標)157S70(商品名、三菱化学株式会社製)80質量部、界面活性剤NC−723−SF(商品名、日本乳化剤工業製)20質量部の混合物を、90℃にてプラネタリーミキサーとホモミキサーで混練、混合し、樹脂組成物(固形分中のエポキシ樹脂の含有量は80質量%)を得た。次に、この樹脂組成物に脱イオン水を少量ずつ滴下して転相点を通過した後、滴下する水量を増加した。最終的に樹脂組成物濃度40質量%のエポキシ樹脂分散体を得た。
【0158】
[製造例16:水性樹脂分散体の製造]
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体100gと、トルエン50gとを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温してこの前駆体を溶解した。その後、この溶液に、無水マレイン酸を5.0g、パーブチル(登録商標)Iを2.0g加え、7時間同温度(110℃)で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、トルエン92gを加え、希釈を行った。次いで、70℃温水750gを加え、30分間撹拌を行い、その後、30分間静置し、分離した水相を抜出した。得られたマレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体の酸価は26であった。
【0159】
次いで、この溶液に、親水性高分子(B)として、ハンツマン社製、商品名:ジェファーミン(登録商標)M−1000(メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン(重量平均分子量[Mw]1000))200g(200mmol;上記で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体前駆体100質量部に対し5質量部に相当)をイソプロパノール(IPA)50gに溶解した溶液を滴下して、70℃で1時間反応させ、重合体(反応生成物)溶液を得た。
【0160】
続いて、得られた重合体溶液に蒸留水120gとIPA140gを添加し、30分間攪拌した。その後、温度を70℃に保ち、攪拌しながら水155gを滴下し、減圧下にてトルエンとIPAを除くことにより、樹脂(重合体)固形分濃度が70質量%の黄色の水性樹脂水溶液を得た。
【0161】
(実施例1)
サイジング剤が付着していない炭素繊維束(三菱レイヨン社製、商品名:パイロフィル(登録商標)TR 50S15L(フィラメント数15000本、ストランド強度5000MPa、ストランド弾性率242GPa))を、製造例3より得られる水性樹脂分散体を固形分濃度6.0質量%に調製した水性樹脂分散体に浸漬させ、ニップロールを通過させた。その後、この炭素繊維束を、表面の温度を140℃とした加熱ロールに10秒間接触させることにより乾燥し、サイジング剤が付着した炭素繊維束(樹脂強化用炭素繊維束)を得た。
【0162】
<炭素繊維束の単繊維表面の皺の深さ>
サイジング剤が付着していない炭素繊維束の単繊維表面に存在する皺の深さは、円周長さ2μm×繊維軸方向長さ1μmの領域での最高部と最低部の高低差によって規定される。高低差は、走査型原子間力顕微鏡(AFM)を用いて単繊維の表面を走査して得られる表面形状を基に測定した。具体的には以下の通りである。
【0163】
サイジング剤が付与されていない炭素繊維束の単繊維を数本試料台上にのせ、両端を固定し、さらに周囲にドータイトを塗り測定サンプルとした。原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製、SPI3700/SPA−300(商品名))によりシリコンナイトライド製のカンチレバーを使用し、AFMモードにて単繊維の円周方向に2〜7μm(この長さは、繊維軸と平行な面に投影された長さにて定義される)の範囲を、繊維軸方向長さ1μmに渡り少しずつずらしながら繰り返し走査し、得られた測定画像を二次元フーリエ変換にて低周波成分をカットしたのち逆変換を行った。そうして得られた単繊維の曲率を除去した断面の平面画像より、円周長さ2μm×繊維軸方向長さ1μmの領域での最高部と最低部の高低差を読み取って評価した。
【0164】
なお、実施例1で使用したサイジング剤が付着していない炭素繊維束(商品名:TR 50S15L)は、深さが100nmの皺を複数有していた。
【0165】
<サイジング剤の含有量測定>
サイジング剤が付着した炭素繊維束を約2g採取し質量(W1)を測定した。その後、この炭素繊維束を50リットル(1気圧、25℃における体積)/分の窒素気流中、温度450℃に設定したマッフル炉(ヤマト科学株式会社製、商品名:FP410)に15分間静置し、サイジング剤を完全に熱分解させた。そして、20リットル(1気圧、25℃における体積)/分の乾燥窒素気流中の容器に移して、15分間冷却し、得られた炭素繊維束を秤量(W2)して、次式より、サイジング剤が付着した炭素繊維束中のサイジング剤の含有量を求めた。
(サイジング剤含有量(質量%))=(W1−W2)/W1×100
【0166】
<炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の作製及び物性測定>
得られたサイジング剤が付着した炭素繊維束をロービングカッターで6mmの長さ(繊維軸方向の長さ)に切断して炭素繊維チョップドストランドを作製した。得られた炭素繊維チョップドストランド200gと十分に乾燥したポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名:ノバテック(登録商標)MA3)800gとの計1kgをドライブレンドしたものを押出機のホッパーに供給し、溶融混練してストランド状に押し出し、水中で冷却後切断して炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物ペレットを得た。
【0167】
上記ペレットを乾燥させた後、射出成形機にて230℃で幅10.0mm、長さ80mm、厚さ4mmの短冊形テストピースを作製し、ISO178試験法により、三点曲げ試験を行い、曲げ強度を測定した。
【0168】
(実施例2〜8)
製造例3より得られる水性樹脂分散体の代わりに、製造例4〜10より得られる水性樹脂分散体をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、サイジング剤が付着した炭素繊維束、及び炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を作製し、評価した。
【0169】
(比較例1)
製造例3より得られる水性樹脂分散体の代わりに、製造例11より得られる水性樹脂分散体を使用した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤が付着した炭素繊維束、及び炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を作製し、評価した。
【0170】
(比較例2〜3)
製造例3より得られる水性樹脂分散体の代わりに、製造例12及び13より得られる水性樹脂分散体をそれぞれ使用しようとしたが、上述した通り、これらの例では、水性樹脂分散体を得ることが出来なかったため、それ以降の操作は行わなかった。
【0171】
実施例1〜8、比較例1〜3の結果を表1に示す。実施例の成形品は比較例の成形品に比べて、曲げ強度に優れている。以上の結果より、本発明によって、炭素繊維束及び熱可塑性樹脂のいずれに対しても良好な界面接着性を有するサイジング剤が付着した炭素繊維束、その製造方法、それを用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂及びその成形品が得られることが分かった。
【0172】
【表1】
【0173】
(実施例9)
サイジング剤が付着していない炭素繊維束(三菱レイヨン社製、商品名:パイロフィル(登録商標)TR 50S15L(フィラメント数15000本、ストランド強度5000MPa、ストランド弾性率242GPa))を、製造例3より得られる水性樹脂分散体を固形分濃度2.0質量%に調製した水性樹脂分散体に浸漬させ、ニップロールを通過させた。その後、この炭素繊維束を、表面の温度を140℃とした加熱ロールに10秒間接触させることにより乾燥し、サイジング剤が付着した炭素繊維束(樹脂強化用炭素繊維束)を得た。
【0174】
<炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の作製及び物性測定2>
(炭素繊維シート及びプリプレグの作製)
製造した樹脂強化用炭素繊維束をドラムワインドにて巻き付け、炭素繊維の目付(FAW:単位面積当たりの質量)が145g/m2の一方向の炭素繊維シートを作製した。
【0175】
作製した炭素繊維シートに適度に張力を掛け、炭素繊維シートに両面から、ポリプロピレン樹脂SA06GA(商品名、日本ポリプロ株式会社製)を40μmの厚みに成形したフィルム、フッ素樹脂製フィルム(日東電工社製、商品名:ニトフロンフィルム970−4UL)、及びアルミ製の平板の順に挟み、前記加熱冷却二段プレスの加熱盤で230〜240℃、5分、20kPa、さらに、冷却盤で5分、20kPaの条件で、炭素繊維が単一方向(UD)に配向している半含浸プリプレグ(連続繊維強化シート)を作製した。ここで、このプリプレグの目付(TAW)は、218g/m2であった。
【0176】
(一方向炭素繊維複合材料成形板(12ply)の成形)
得られた一方向プリプレグを、長さ(0°方向(炭素繊維の繊維軸方向に対して平行な方向)の長さ)150mm×幅(90°方向(炭素繊維の繊維軸方向に直交する方向)の長さ)150mmにパターンカットした。次いで、パターンカットした一方向プリプレグを、0°方向に揃えて12枚積層(12ply)し、バギングした後、0.7MPaの窒素圧下、図1に示す昇降温度条件でオートクレーブ成形を行い、厚み約2mmの一方向炭素繊維複合材料成形板を得た。
【0177】
(90°曲げ試験)
上記で得られた一方向炭素繊維複合材料成形板を湿式ダイヤモンドカッターにより長さ(90°方向の長さ)60mm×幅(10°方向の長さ)12.7mmの寸法に切断して試験片を作製した。万能試験機(Instron社製商品名:Instron5565)と、解析ソフト(商品名:Bluehill)とを用いて、ASTM D790に準拠(圧子R=5.0、L/D=16)した方法で得られた試験片に対して3点曲げ試験を行い、90°曲げ強度を算出した。
【0178】
(開繊性の評価)
製造した樹脂強化用炭素繊維束を図2に示す糸道で硬質クロムメッキ#200梨地加工、直径45mmのバーと擦過させた後に周長2mのドラムワインドにて巻き付け、炭素繊維の目付(FAW:単位面積当たりの質量)が145g/m2の一方向の炭素繊維シートを幅300mmになるまで作製した。梨地のバーと接触する前の炭素繊維束の張力は炭素繊維束の目付け1gあたり6.5Nに設定した。
【0179】
このとき、作製したシート全体にわたって、炭素繊維束の間に隙間が見られなかった場合、開繊性を◎とし、1m以上の長さの隙間が1本から3本の場合開繊性を○とし、1m以上の長さの隙間が4本以上の場合を開繊性が△であるとした。
【0180】
(実施例10、11)
製造例3で得られた水性樹脂分散体の代わりに製造例14、製造例5で得られた水性樹脂分散体をそれぞれ用いた以外は実施例9と同様にしてサイジング剤が付着した炭素繊維束、及び炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を作製し、評価した。
【0181】
(実施例12)
製造例3で得られた水性樹脂分散体を固形分濃度2.0質量%に調製した水性樹脂分散体の代わりに、製造例3で得られた水性樹脂分散体とjER(登録商標)W2821R70(商品名、三菱化学社製エポキシ樹脂エマルジョン、45℃における固形分の粘度15poise、複数のエポキシ基を持つ化合物を最も多く含有する成分として含む。固形分中のエポキシ樹脂の含有量は85.7質量%)を固形分の質量比が9:1になるように混合し、全体の固形分濃度を2.0質量%に調製した水性樹脂分散体を用いた以外は実施例9と同様にしてサイジング剤が付着した炭素繊維束、及び炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を作製し、評価した。
【0182】
(実施例13、14)
製造例3で得られた水性樹脂分散体とjER(登録商標)W2821R70を混合して調整した水性樹脂分散体の代わりに、製造例14、製造例5で得られた水性樹脂分散体とW2821R70を混合して調整した水性樹脂分散体をそれぞれ用いた以外は、実施例12と同様にしてサイジング剤が付着した炭素繊維束、及び炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を作製し、評価した。
【0183】
(実施例15、16、17)
製造例14で得られた水性樹脂分散体と、jER(登録商標)W2821R70の固形分の質量比を8:2、6:4及び4:6にそれぞれ変更した以外は、実施例13と同様にしてサイジング剤が付着した炭素繊維束、及び炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を作製し、評価した。
【0184】
(実施例18)
jER(登録商標)W2821R70を製造例15で得られたエポキシ樹脂分散体に変更した以外は、実施例13と同様にしてサイジング剤が付着した炭素繊維束、及び炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を作製し、評価した。なお、製造例15で得られたエポキシ樹脂分散体の固形分の粘度は、45℃において23000poiseであった。
【0185】
(比較例4)
製造例3で得られた水性樹脂分散体の代わりに、jER(登録商標)W2821R70を用いた以外は、実施例9と同様にしてサイジング剤が付着した炭素繊維束、及び炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を作製し、評価した。
【0186】
(比較例5)
製造例3で得られた水性樹脂分散体の代わりに、製造例16より得られる水性樹脂分散体を使用した以外は、実施例9と同様にしてサイジング剤が付着した炭素繊維束、及び炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を作製し、評価した。
【0187】
以上実施例9〜18、比較例4、5の結果を表2に示す。なお、一方向炭素繊維複合材料成形板の90度曲げ強度はマトリクス樹脂と炭素繊維束の接着性の指標である。
【0188】
実施例9〜11は、比較例4、5との比較によって、実施例1〜8で示したのと同様に炭素繊維束及び熱可塑性樹脂のいずれに対しても良好な界面接着性を有するサイジング剤が付着した炭素繊維束が得られたことを示している。
【0189】
実施例12〜17は、実施例9〜11との比較で、重合体(AB)と樹脂組成物(D)の混合物を用いることで、開繊性を向上させ、また、組み合わせによっては界面接着性をさらに向上させることが出来ることを示している。
【0190】
実施例18は、樹脂組成物(D)の粘度が高かったことによって、接着性は発現しているが、開繊性を向上させる効果は不十分であったことを示している。
【0191】
以上の結果より、樹脂組成物(D)を用いることで、炭素繊維束及び熱可塑性樹脂のいずれに対してもさらに良好な界面接着性を有し(及び/または)、良好な開繊性を有するサイジング剤が付着した炭素繊維束、その製造方法、それを用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂及びその成形品が得られることが分かった。
【0192】
【表2】
【0193】
(実施例19〜29)
酸変性プロピレン系樹脂「モディックP958V」(商品名、三菱化学(株)社製 酸変性含有量:0.14質量%)と、ポリプロピレン樹脂「SA06GA」(商品名、日本ポリプロ株式会社製)を、表3に示す質量比にて2軸押出機で混合し、混合ペレットを得た。
【0194】
得られたペレットを単軸押出機(IKG(株)社製、製品名「PMS30」)に投入し、厚み40μmの樹脂フィルムを得た。
【0195】
実施例15〜17と同様の方法にて、製造例14で得られた水性樹脂分散体とjER(登録商標)W2821R70を用い、これらの固形分の質量比が8:2、6:4及び4:6であるサイジング剤が付着した炭素繊維束を、実施例9と同様の方法で作製した。
【0196】
次いで、前記<炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の作製及び物性測定2>の(炭素繊維シート及びプリプレグの作製)に従ってプリプレグを作製し、前記(一方向炭素繊維複合材料成形板(12ply)の成形)に従って一方向炭素繊維複合材料成形板を作製した。
【0197】
得られた一方向炭素繊維複合材料成形板を用い、前記(90°曲げ試験)に従って試験を行なった。結果を表3に示した。
【0198】
【表3】
図1
図2