【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例及び比較例を示すことにより本発明の効果を明確にする。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0071】
<実施例1>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造)
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末2gと硫黄(キシダ化学製、99%)7gを混合して原料とした。
【0072】
2.装置
アルミナタンマン管(SSA-S、ニッカトー製、内径50mmφ、外径60mmφ、長さ180mm)を反応容器として用いた。このタンマン管の底に原料を入れ、水冷機能のあるステンレス製フランジにOリングを用いて締め付けることにより気密が維持できるように接続した。このフランジは、3本のアルミナ管を気密にOリングで締め付けて気密に保持できる開口を有しており、別途ガスを導入及び排気するために利用できるスエジロック規格の開口(スエジロック口)を2つ有している。スエジロック口には、窒素ガスを送り込む管を接続し、もう一方のスエジロック口には圧力計を取り付けた。アルミナ管の口の2つにはアルミナ管(SSA-S、ニッカトー製、外径6.3mmφ、内径4mmφ、長さ80mm)を取り付け、別に端の閉じたアルミナ管(SSA-S、ニッカトー製、外径6.3mmφ、内径4mmφ、長さ200mm)に熱電対(K種)を挿通して原料に接触させた。
フッ素樹脂管(外径6.3mm、内径3mm、長さ150mm)を2本ずつ、シリコーンゴム栓に2つの孔を穿孔して取り付け、これを3組、3つの三角フラスコ(各容量250ml)にそれぞれ取り付けた。水酸化ナトリウム3gを水280mlに溶かしたアルカリ水溶液を各々の三角フラスコに約70mlずつ注いだ。反応容器に接続されたアルミナ管2つにそれぞれポリエチレン配管(外径8mm、内径6mm、長さ500mm)をつなぎ、Y字管を用いて2本のポリエチレン管を合流させた。Y字管からポリエチレン管を1m延長し、三角フラスコに取り付けた2つあるフッ素樹脂管の一方につなぎ、もう一方のフッ素樹脂管から別の三角フラスコにポリエチレン管をつないで、3つの三角フラスコをガスが直列に通過するようにポリエチレン管を配管した。3つの三角フラスコのうち最初の1つは、フッ素樹脂管をアルカリ水溶液に漬けず、残り2つの三角フラスコでは、ガスが入ってくる管をアルカリ水溶液に浸して、排気ガスがバブリングすることで硫化水素を捕集できるようにした。
【0073】
3.硫化熱処理工程
内部に窒素ガス100ml/分を送り込んだ反応容器を電気炉にセットし、反応容器の下から100mmまでの部分を加熱した。
窒素ガスが3連の三角フラスコの最後列でバブリングすること、すなわち系全体の気密を確認してから電気炉による昇温を開始した。途中、原料温度200℃を超えたあたりでガス発生が激しくなることが2つめの三角フラスコの気泡発生の頻度で見て取れた。実験を通して硫化水素検知器の表示は0ppmのままだった。
40分かけて原料温度380℃まで加熱し、電気炉の加温を停止した後、原料温度が420℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0074】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に3時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は3.2gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0075】
<実施例2>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造)
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末20gと硫黄(細井化学工業 200メッシュ、99.9%)70gをビニール袋に計り取り、手で揉んで混合したものを原料とした。
【0076】
2.装置
下部が半球状に閉じた石英管(内径180mmφ、長さ380mm)を反応容器として用い、この石英管の底に原料を入れた。ガラス管(パイレックス(登録商標)製、外径6mmφ、内径4mmφ)を4本気密にOリングを用いて保持できる蓋をOリングで石英管開口部に取り付けた。ガラス管のうち1本を窒素ガス導入管として用いた。ガラス管の口の2つは排気ガス口とし、別に端の閉じたアルミナ管(SSA-S、ニッカトー製、外径8mmφ、内径4mmφ、長さ200mm)に熱電対(K種)を入れて原料に接触させた。
フッ素樹脂管(外径6.3mmφ、内径3mmφ、長さ150mm)を2本ずつ、シリコーンゴム栓に2つの孔を穿孔して取り付け、これを3組、3つの三角フラスコ(各容量500ml)に取り付けた。水酸化ナトリウム40gを水300mlに溶かしたアルカリ水溶液を各々の三角フラスコに約100mlずつ注いだ。反応容器から突出する排気ガス口の2つにそれぞれポリエチレン配管(外径8mmφ、内径6mmφ、長さ500mm)をつなぎ、Y字管を用いて2本のポリエチレン管を合流させた。Y字管からポリエチレン管を1m延長し、三角フラスコの2つあるフッ素樹脂管の一方につなぎ、もう一方のフッ素樹脂管から別の三角フラスコにポリエチレン管をつないで、3つの三角フラスコをガスが直列に通過するようにポリエチレン管を配管した。3つの三角フラスコのうち最初の1つは、フッ素樹脂管をアルカリ水溶液に漬けず、のこりの2つの三角フラスコでは、ガスが入ってくる管をアルカリ水溶液に浸して、排気ガスがバブリングすることで硫化水素を捕集できるようにした。
【0077】
3.硫化熱処理工程
反応容器の内部に窒素ガス100ml/分を送り込んで電気炉にセットし、反応容器の下から350mmまでの部分を加熱した。
40分かけて原料温度380℃まで加熱し、電気炉の加温を停止した後、原料温度が420℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0078】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は32gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0079】
<実施例3>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造)
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末100gと硫黄(細井化学工業 200メッシュ、99.9%)350gをビニール袋に計り取り、手で揉んで混合したものを原料とした。
【0080】
2.装置
図1〜3及び
図5〜7に示す構成を備えた装置を使用した(以下の符号は図と対応)。但し、後段容器(41)に相当する三角フラスコは2つとした。
ムライト反応容器(内径113mmφ、長さ410mm)を反応容器(1)として用い、この反応容器の底に原料を入れた。気密な雰囲気となる水冷フランジを備えたステンレス容器(内径120mmφ、長さ450mm)(1a)にムライト反応容器(1)をいれた(
図2参照)。
スエジロックの口が4つと、熱電対を取り付ける10mmφの口のついたステンレス製の蓋(外径6mmφ、厚さ10mmt)(12)を8本のボルトでステンレス容器に取り付けた。熱電対が格納できる一端が閉じたアルミナ管(SSA-S、ニッカトー製、外径10mmφ、内径6mmφ、長さ750mm)に熱電対(K種)(20)を入れ原料(M)に接触させ、アルミナ管をOリングとステンレスリングでステンレス蓋に締め付けて固定した。スエジロック口4つのうち1つに窒素ガス導入管(8)を取り付けた。別の口に真空排気ラインと圧力計(10)を取り付けた。残りの口2つは排気ガス出口(内径4.5mmφ)(排出管(2))とした。4つの口にはそれぞれストップコックを設けた。
フッ素樹脂管(外径6.3mmφ、内径3mmφ、長さ150mm)を2本ずつ、シリコーンゴム栓に2つの孔を穿孔して取り付け、これを3組、捕集容器となる3つの三角フラスコ(各容量1000ml)に取り付けた。水酸化ナトリウム200gを水1200mlに溶かしたアルカリ水溶液を各々の三角フラスコに約300mlずつ注いだ。
反応容器から突出する排気ガス口2つにそれぞれポリエチレン管(外径8mm、内径6mm、長さ500mm)(排出管(2))をつなぎ、Y字管を用いて2本のポリエチレン管を合流させた。Y字管からポリエチレン管を1m延長し、1つの三角フラスコ(前段容器(30))に取り付けられた2つあるフッ素樹脂管の一方につなぎ、もう一方のフッ素樹脂管から別の三角フラスコ(後段容器(31))にポリエチレン管(連結管(32)(33))をつないで、3つの三角フラスコをガスが直列に通過するようにポリエチレン管を配管した。3つの三角フラスコのうち最初の1つ(前段容器(30))は、フッ素樹脂管(排出管(2))をアルカリ水溶液に漬けず、残りの2つの三角フラスコ(後段容器(31))では、ガスが入ってくる管(連結管(32)(33))をアルカリ水溶液に浸して、排気ガスがバブリングすることで硫化水素を捕集できるようにした。
【0081】
3.硫化熱処理工程
反応容器(1)を、内部を真空引きして窒素ガスに置換後、窒素ガス100ml/分を送り込んで、電気炉(5)にセットし、下から300mmまでの部分(加熱部(6))を加熱した(
図1参照)。
180分かけて原料温度400℃まで加熱し、電気炉(5)の加温を停止した後、原料温度が420℃以上に上がらなくなった時点で起伏機構(11)を利用して電気炉(5)と共に反応容器(1)を倒した。
【0082】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器(1)を、容器内に生成した粗生成物(C)を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した(
図3参照)。この傾斜状態にて、粗生成物の温度が400℃から低下するに任せて冷ましたのち、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は159gであった。
温度が400℃から低下している最中、粗生成物(C)から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して非加熱部(7)で凝結した。凝結物は単体硫黄(S)であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0083】
<実施例4>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(多量合成))
実施例3において原料のポリアクリロニトリル粉末を150gに増やして合成を行った際に、内径4.5mmφの排気ガス出口(排出管(2))に硫黄の閉塞が起きたため、ガス出口を10mmφに拡張して原料の量を増やして実験を行った。
【0084】
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末647.9gと硫黄(細井化学工業 200メッシュ、99.9%)925.0gをビニール袋に計り取り、手で揉んで混合したものを原料とした。
【0085】
2.装置
図1〜3及び
図5〜7に示す構成を備えた装置を使用した(以下の符号は図と対応)。但し、後段容器(41)に相当する三角フラスコは2つとした。
ムライト反応容器(内径113mmφ、長さ410mm)を反応容器(1)として用い、この反応容器の底に原料(M)を入れた。気密な雰囲気となる水冷フランジを備えたステンレス容器(内径120mmφ、長さ450mm)にムライト反応容器をいれた(
図2参照)。スエジロックの口が4つと、内径10mmφの排気ガス出口(排出管(2))を取り付けたステンレス製の蓋(外径6mmφ、厚さ10mmt)(12)を8本のボルトでステンレス容器に取り付けた。熱電対が格納できる一端が閉じたアルミナ管(SSA-S、ニッカトー製、外径4mmφ、内径2mmφ、長さ500mm)に熱電対(K種)(20)を入れて原料に接触させ、フッ素樹脂管とスエジロック製ステンレスフェルールによりスエジロックの口1に締め付けて固定した。スエジロック口2に窒素ガス導入管(8)を取り付けた。さらにスエジロック口3に真空排気ラインと圧力計(10)を取り付けた。残りのスエジロック口4に予備の排気ガス口とした。熱電対以外のスエジロック口にはストップコックを設けた。
排気ガス出口に内径20mmφのフッ素樹脂線で補強したビニールホース(排出管(2))を取り付け、ステンレス製ホースバンドで締めた。ホースのもう一方の先をアルミナ管(外径20mmφ、長さ100mm)にステンレス製ホースバンドで締めて取り付け、アルミナ管を16号のシリコーンゴム栓にあけた孔に入れた。シリコーンゴム栓にはフッ素樹脂管(外径6.3mmφ、内径3mmφ、長さ150mm)2本を通した。このシリコーンゴム栓を、500gの水酸化ナトリウムを水に溶かして1000mlにしたアルカリ水溶液と攪拌装置(34)にて駆動される40mmの攪拌子を入れた容積2Lの三角フラスコ(主フラスコ)(前段容器(30))に取り付けた。シリコーンゴム栓のフッ素樹脂管2本のうち1本はガスの出口とし、もう一本はスエジロック口4の予備排気口とビニールパイプ(外径8mmφ、内径6mmφ、長さ1000mm)で接続した。
水酸化ナトリウム50gを水300mlに溶かしたアルカリ水溶液を捕集容器となる三角フラスコ(容量1000ml)にいれた。フッ素樹脂管(外径6.3mm、内径2mm、長さ150mm)2本を、シリコーンゴム栓に2つの孔を穿孔してフラスコに取り付け、うち1本の先端は内部の水溶液に5mm浸し、ガス導入管とし、水溶液に浸していないもう1本の管をガス出口管とした。このフラスコとゴム栓およびフッ素樹脂管を3組用意し、これら3つのフラスコをフラスコA、B、Cとした。反応容器から突出する排気ガス出口(排出管(2))とフラスコAのガス導入管をポリエチレン配管(10mmφ、内径8mmφ、長さ50cm)(排出管(2))でつなぎ、接続部分を銅線で縛って補強した。フラスコAのガス出口管(連結管(32))とフラスコBのガス導入管(連結管(33))、およびフラスコBのガス出口管(連結管(33))とフラスコCのガス導入管(連結管(33))を同様に接続し、フラスコCのガス出口管を外への排気管に接続した。
反応容器(1)内部に窒素ガス100ml/分を送り込んで、フラスコA、B、Cのバブリングにより排気に漏れがないことを確認した。
【0086】
3.硫化熱処理工程
反応容器(1)を収容したステンレス容器を電気炉(5)に入れて下から400mmまでの部分(加熱部(6))を加熱した(
図1参照)。180分かけて原料温度400℃まで過熱し、電気炉(5)の加温を停止した後、原料温度が420℃以上に上がらなくなった時点で起伏機構(11)を利用して電気炉(5)と共に反応容器(1)を倒した。
【0087】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物(C)を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した(
図3参照)。この傾斜状態にて粗生成物の加熱を続けて粗生成物の温度を400℃に2時間保った後、電気炉(5)の電源を切った。この状態のまま温度を低下させた後、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1021.9gであった。
加熱中、粗生成物(C)から蒸気が発生し、蒸気は反応容器(1)の口に向けて流下して加熱されていない低温部分(非加熱部(7))で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0088】
<実施例5>
(粗生成物からの未反応硫黄の除去(精製))
1.粗生成物の生成
ポリアクリロニトリル粉末100.5gと硫黄(細井化学工業 200メッシュ、99.9%)350.6gをビニール袋に計り取り、手で揉んで混合したものを原料とし、実施例3と同じ方法により粗生成物を合成した後、電気炉と反応容器を倒さずに全体を冷却し、単体の硫黄を含んだ264.5gの粗生成物を得た。
【0089】
2.装置
未反応硫黄除去装置として、
図4に示す構成を備えた装置を使用した。
以下、使用した未反応硫黄除去装置の構成を説明する(以下の符号は図と対応)。
アルミ箔で作成した長さ300mmのボート(船形容器)(56)に、カーボンペーパー(東レ、TGP-H-030、250mmL×25mmW)3枚をボートの底面、および2つの側面に置いて中敷とし、その上に、上記生成した粗生成物(C)104.0gを均一な厚さに盛った。ボートを石英管(外径50mmφ、内径45mmφ、長さ600mm)(処理容器(40))内に入れ、硫黄ガスの逆流と凝結を防ぐために、サンプルビン(外径40mmφ、長さ90mm)(逆流防止部材(55))を入れた。窒素ガスの入口を持つシリコーンゴム栓(No15)(蓋(49))を、サンプルビンを入れた側にはめ込んだ。一方の口には、熱電対(K種)(52)を入れたアルミナ保護管(ニッカトー製、SSA-S、外径4mmφ、内径2mmφ、長さ400mm)とガスの出口となるフッ素樹脂管(外径6.3mm、内径3mm、長さ150mm)(排出管(46))を入れたシリコーンゴム栓(蓋(48))を取り付けた。
【0090】
3.精製工程(単体硫黄除去工程)
粗生成物を入れた石英管(反応容器(1))を、3度傾けた管状電気炉(モトヤマ製、型式MTKW540)(45)に据え付けることにより、蓋(48)が蓋(49)より低位置となるように傾斜させた。供給管(50)から窒素ガスを毎分200ml流し、加熱部(42)内の温度を300℃とし、4時間保温した。ガスの出口(排出管(46))からポリエチレン管を延ばして捕集容器(47)に接続し、出てくるガスを捕集容器(47)に導いて、水酸化ナトリウム10gを200mlの水に溶かしたアルカリ水溶液にバブリングさせ、粗生成物に取り込まれていた硫化水素を捕集した。
石英管を電気炉(5)から取り出し、室温まで冷却後、黒い霧状に飛散しやすい微粉末の有機硫黄系正極材料68.1gを得た。
【0091】
<実施例6>
(粗生成物の合成時に発生する硫化水素の捕集)
実施例3と同様にしてポリアクリロニトリル100.5gと硫黄350.6gから粗生成物を合成した際、反応容器(1)外に放出される硫化水素を3つの三角フラスコ(捕集容器)を用いて捕集した。排気ガスの最初に入るフラスコから順にA、B、Cとし、それぞれの三角フラスコに水300mlと水酸化ナトリウム86.2g、30.1g、12.3gを入れ、それぞれ三角フラスコと内部の溶液を含めた全体の質量を記録した。シリコーンゴム栓に2箇所6mmφの貫通孔を穿孔し、それぞれの孔に長さ200mm、外径6.3mmφ、内径3mmφのフッ素樹脂チューブ(排出管(2))を通した。反応容器(1)からの排気ガスを最初に導く三角フラスコ(前段容器(30))には攪拌子を入れ、前述のシリコーンゴム栓をはめこみ、栓が抜けないように銅線で三角フラスコにしばりつけた。反応容器(1)からの排気ガスはポリエチレンチューブ(10mmφ、内径8mmφ、長さ800mm)(排出管(2))により三角フラスコ(前段容器(30))に導き、ポリエチレンチューブをフッ素樹脂チューブの外側にはめ込んで、接続部を銅線で縛り付けた。シリコーンゴム栓を通るフッ素樹脂チューブの長さを調整し、最初の三角フラスコ(前段容器(30))は液面より上に開口部を位置決めして、排気ガスを水酸化ナトリウム水溶液に吹き付けるようにした。シリコーン栓に取り付けたもう一本のフッ素樹脂チューブをガスの出口として、二つ目の三角フラスコのフッ素樹脂チューブとの間をポリエチレンチューブ(外径8mmφ、内径6mmφ、長さ400mm)(連結管(33))でつなぎ、接続部を銅線で縛り付けた。三つ目の三角フラスコも二つ目の三角フラスコから同様に接続した。三つ目と二つ目の三角フラスコ(後段容器(31))では、シリコーンゴム栓を通るフッ素樹脂チューブ(連結管(33))の長さを調整し、液面より下に開口部を位置決めして、排気ガスを水酸化ナトリウム水溶液にくぐらせる(バブリングさせる)ようにした。
【0092】
ポリアクリロニトリルの組成式はC
3NH
3(式量53)であり、硫黄により水素原子が引き抜かれてC
3NHに変化すると考えられる。約100gのポリアクリロニトリルから約60gの硫化水素が発生すると予想された。
最初の三角フラスコの重量増加は75.4gであり、2つめが4.2g、3つ目が0.5gであった。重量増加の合計は予想より大きく、アンモニア臭等もしたことから、アンモニアや硫化水素以外の硫黄化合物も排気され捕集されたと考えられる。硫化水素の発生予想量は約2モルであり、フラスコAの水酸化ナトリウムも約2モルであって、大半の硫化水素がフラスコAで捕集されたことを考えると、次の反応が起きていると考えられる。
H
2S+NaOH=NaHS +H
2O
【0093】
フラスコAからはNaHSと考えられる透明柱状結晶が多数析出した。このことから、予想される硫化水素発生量1モルに対し、1モルの水酸化ナトリウムが捕集に最低必要な量であることがわかった。さらに、ポリアクリロニトリルについては、C
3NH
3+S=C
3NH+H
2Sの反応が起きていると推察され、これにNaOHを含めた式、C
3NH
3+S+NaOH=C
3NH+NaHS+H
2Oから、ポリアクリロニトリル:水酸化ナトリウム=53:40という比率で硫化水素の捕集のための水酸化ナトリウムを用意する必要があることがわかった。
また、フラスコAの捕集量が多く、3つ目のフラスコでの捕集量が低いことから、捕集量に合わせて水酸化ナトリウムの量をAで硫化水素の予想量程度に多く、B、Cで少なく加減できることがわかった。ガスの発生状況を見るに、反応が最も激しい時点での2つ目のフラスコで比較的激しく気泡が見られるため、外部への硫化水素のわずかな漏洩をも防ぐためには3つ目のフラスコを設けることが好ましいと考えられる。
【0094】
<実施例7>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(活性炭−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル3.0069gと炭酸ナトリウム(関東化学製99%)9.0819gをN, N-ジメチルホルムアミド(キシダ化学)40mlを加えて混合後、乾燥機中115℃で13時間溶媒を飛ばし、ベークライト樹脂のようになったものを粉砕した。アルミナ坩堝(ニッカトー製P-6)にいれアルゴン100ml/分を通じ、750℃で2時間熱処理を行った。生成物を水と混合後ろ過し、活性炭を得た。この活性炭1.1994gに硫黄5.0596gを加え、乳鉢で混合したものを原料とした。
【0095】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0096】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が400℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0097】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を400℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1.6051gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0098】
<実施例8>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(活性炭−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
活性炭(関西熱化学社製、マックスソープ(mSC-30))1.007gに硫黄5.0002gを加え、乳鉢で混合したものを原料とした。
【0099】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0100】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が400℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0101】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を400℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は4.454gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0102】
<実施例9>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(アセチレンブラック−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
アセチレンブラック(電気化学製、デンカブラック)1.0112gに硫黄5.0103gを加え、乳鉢で混合したものを原料とした。
【0103】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0104】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が411℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0105】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を400℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1.7023gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0106】
<実施例10>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(瀝青−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
瀝青(大阪ガスケミカル)2.2479gに硫黄10.4630gを加え、乳鉢で混合したものを原料とした。
【0107】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0108】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度320℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が367℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0109】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は3.1466gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0110】
<実施例11>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(ゼラチン−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
ゼラチン(ハウス食品工業)1.5078gに硫黄5.0063gを加え、チャック式ビニール袋内で混合したものを原料とした。
【0111】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0112】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が412℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0113】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に3時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1.2309gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0114】
<実施例12>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(ポリエチレン−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
ラップフィルムから切り出したポリエチレンフィルム1.0055gと硫黄5.0058gを原料とした。
【0115】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0116】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が411℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0117】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に3時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1.5522gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0118】
<実施例13>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(アクリル−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
細かく切ったアクリル繊維1.0023gと硫黄4.93178gを原料とした。
【0119】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0120】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が415℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0121】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に3時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は0.8499gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0122】
<実施例14>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(木炭−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
乳鉢ですり潰した木炭0.9896gと硫黄4.3824gを原料とした。
【0123】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0124】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が416℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0125】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は0.5462gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0126】
<実施例15>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(パラフィン−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
ロウソクのロウ1.0022gと硫黄5.0004gを原料とした。
【0127】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0128】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が402℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0129】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1.2334gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0130】
<比較例1>
(石英管を用いた合成)
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末20gと硫黄(アルドリッチ、99.9%)70gを乳鉢で混合したものを原料とした。
【0131】
2.装置
下部が半球状に閉じた石英管(内径60mmφ、長さ380mm)を反応容器として用い、この反応容器の底に原料を入れた。この容器の蓋に、シリコーンゴム栓(No15)にコルクボーラーで8mmφの穴2つと6mmφの穴1つをあけたものを取り付けた。これに端の閉じたアルミナ管(ニッカトー製、材質SSA-S、外6mmφ、内径4mmφ、長さ400mm)を取り付け、このアルミナ管の内部にK種熱電対をいれ、原料温度を測定し、電気炉を温度制御に用いた。別にアルミナ管(ニッカトー製、材質SSA-S、外8mmφ、内径5mmφ、長さ80mm)2本を上述のシリコーンゴム栓に刺し、それぞれ窒素導入管および排気管とした。
フッ素樹脂管(外径8mm、内径6mm、長さ150mm)を2本ずつ、シリコーンゴム栓に2つの孔を穿孔して取り付け、これを3組、3本の三角フラスコ(各容量500ml)に取り付けた。水酸化ナトリウム20gを水300mlに溶かしたアルカリ水溶液を各々の三角フラスコに約100mlずつ注いだ。反応容器から突出する排気口にシリコーンゴム配管(10mmφ、内径8mmφ、長さ50cm)をつなぎ、もう一端を三角フラスコの2つあるフッ素樹脂管につなぎ、もう一方のフッ素樹脂管から別の三角フラスコにシリコーンゴム管をつないで、3つの三角フラスコをガスが直列に通過するようにシリコーンゴム管を配管した。3つの三角フラスコは、それぞれガスが入ってくる管をアルカリ水溶液に浸して、排気ガスがバブリングすることで硫化水素を捕集できるようにした。
【0132】
3.硫化熱処理工程
反応容器内部に2時間窒素ガス100ml毎分を送り込んでガス置換を行い、窒素流入管をピンチコックホフマン式で閉じた。反応容器を電気炉に入れ、反応容器の底から250mmまでを加熱した。
加熱から20分後原料温度が180℃に達した時点から硫化水素ガスが多く生じ、臭気がしはじめた。シリコーンゴム管を硫化水素は透過し、検知器を近づけるとその表面で10ppmを示した。240℃で硫化水素ガスの発生が顕著になり、反応容器上部に硫黄の付着が多くみられた。直後硫黄が出口配管を閉塞し、反応容器内部に溜まった硫化水素ガスの圧力でシリコーンゴム栓が反応容器から外れて硫化水素が漏洩し、硫化水素検知器が20ppmを超えた警報を鳴らした。防毒マスクをして閉塞部分の硫黄を除去し、シリコーンゴム栓を反応容器にはめ込んで作業を継続した。室内に漏れ出した硫化水素はダクトで吸引して屋外に排気した。380℃で電気炉の加温を停止した後、原料温度が420℃以上に上がらなくなった時点で電気炉から反応容器を取り出し、石英綿の上に横にして寝かして冷まし、凝結した硫黄が粗生成物に流れ下らないように、粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口が下になるよう傾けて冷ました。得られた粗生成物は、脆い塊60gであった。
【0133】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
得られた粗生成物は、合成直後に反応容器と電気炉を傾斜して加温することで行う硫黄の除去を行わなかったため単体の硫黄を多く含み、そのままでは正極材料として用いることができない。このため塊を粉砕し、2gずつ真空処理容器中で真空下250℃2時間加熱して硫黄を除去した。2gの粗生成物からは約1gの有機硫黄系正極材料が得られた。
【0134】
<比較例2>
(ロータリーキルンを用いた合成)
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末5gと硫黄(キシダ化学、99%)17.5gを混合したものを原料とした。
【0135】
2.装置
原料を回転しながらむらなく焼成する一般的な合成手法に用いられるロータリーキルンを使用した。
石英管容器(円筒形、内径74mmφ、外径80mmφ、長さ180mm、両端をそれぞれ30mmφの開口をもつ石英板を貼り付けてある)を反応容器として用い、この容器に原料を入れた。この容器を水平に毎分1回転する石英炉心管に2箇所の開口部が炉心管と同じ方向になるように入れた。炉心間のガスの出口にビニール管を接続し、この管を40gの水酸化ナトリウムを300mlの水に溶かしたアルカリ水溶液の入った三角フラスコに浸し、排気ガスをバブリングさせるようにした。三角フラスコの出口に活性炭吸収装置の吸引口を設置し、捕集し切れなかった硫化水素を捕集し、排気を屋外に送るようにした。
【0136】
3.硫化熱処理工程
反応容器内に窒素ガスを100ml/分で流し、温度を1時間かけて400℃まで上げた。
温度が400℃に達した後、温度を下げ生成物を取り出した。得られた生成物は6.4gであった。十分に硫黄を含んだ正極活物質であれば8gの質量が期待できるが、生成物は硫黄不足であり、性状が本来の微粉末とは異なっており、粒子が凝集していた。用いた硫黄が反応に適当な温度である350℃より前に多くが飛び去ってしまったためと考えられる。さらに、反応後硫黄が付着した炉心管の清掃が困難であった。
【0137】
<実施例及び比較例のまとめ>
上記したように、実施例(本発明)によれば、有機硫黄系正極材料製造時に発生する危険な硫化水素を確実に捕集して漏洩を完全に防ぐことができた。また、未反応硫黄が除去された高容量な有機硫黄系正極材料を効率良く合成することができた。
一方、比較例では、硫化水素の漏洩が発生し或いは装置系にて充分に捕集することができなかった。また、未反応硫黄の除去のためには真空下での加熱処理が別途必要となり、高容量な有機硫黄系正極材料を効率良く合成することはできなかった。
【0138】
以下、実施例1〜5及び7〜15と、比較例1及び2で得られた有機硫黄系正極材料について、リチウムイオン二次電池の正極活物質としての性能を確認した試験例を示す。
【0139】
<試験例>
1.電極作製
得られた有機硫黄系正極材料3.0mgとPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)2.7mgとアセチレンブラック0.3mgを、メノウ乳鉢を用いてシート状になるまで手で混練し、直径が10mm程度の円板状となるように形状を整えた。得られた円板状の電極シートを、アルミニウムメッシュ(#100メッシュ)を直径13mmの円形に打ち抜いたものの上に乗せて、卓上ハンドプレス機で、20MPaの圧力で加圧して圧着し一体化することにより、正極用電極を作製した。アルミニウムメッシュは、電極の集電性を高める役割を担う集電体である。一方、負極には、直径13mm、厚さ0.5mmの金属リチウムを用いた。
【0140】
2.電池作製
評価用の電池として2032型コイン電池を組み立てた。セパレータにはポリプロピレン製微多孔膜(Celgard2400、Celgard社製)を用いた。電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比で1:1に混合したものに、1mol/Lの濃度になるようにLiPF
6(六フッ化リン酸リチウム)を溶解させたものを用いた。
常法に従い、上記した有機硫黄系正極材料を用いた正極とリチウム金属負極とを対向させ、両者が直接接触しないように、その間に電解液をしみ込ませたセパレータを挟み、ステンレス鋼製の平板と板バネと合わせて、電池缶内に配置させ、蓋をのせ、電池缶と蓋をかしめて密封することにより、電池を作製した。
【0141】
3.充放電試験
作製された電池について充放電試験を行った。充放電試験時の電流密度は60mA/gとした。これは、有機硫黄系正極材料が600mAh/gの電気容量を有する場合に、10時間かけて充電又は放電することになる、十分に速度の遅い充放電速度での試験とするためであった。電流値を大きくすると、抵抗が大きい場合に、本来の電気容量を発現できない場合があるため、遅い充放電速度での試験を行った。電圧範囲は1.0から3.0V vs.Li
+/Liで試験を行った。試験温度は30℃とした。
充放電試験の結果を表1に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
4.電池評価結果
表1に示すように、本発明の装置及び方法により得られた有機硫黄系正極材料を用いた殆どの実施例において、リチウムイオン二次電池の正極材料として、従来の遷移金属酸化物正極では実現困難な250mAh/g以上の大きな電気容量が得られた。
尚、比較例1の方法により得られた有機硫黄系正極材料を用いた場合にも大きな電気容量が得られたが、上述した通り、比較例1の方法では多量の硫化水素ガスが発生するため、危険性が非常に高い。また比較例2の方法は、未反応硫黄の除去のために真空下での加熱処理が別途必要であるため、有機硫黄系正極材料を多量に合成するには不向きである。
このことから、本発明の装置及び方法は、大きな充放電容量が得られる有機硫黄系正極材料を、安全かつ環境に配慮して迅速かつ多量に合成することができる点において、従来技術に比して優れた方法及び装置であるといえる。