特許第5713162号(P5713162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5713162二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713162
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20150416BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 A
【請求項の数】7
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2012-70443(P2012-70443)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-201100(P2013-201100A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】390008431
【氏名又は名称】高砂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】小島 敏勝
(72)【発明者】
【氏名】幸 琢寛
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
(72)【発明者】
【氏名】籠橋 章
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基晴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竜昭
(72)【発明者】
【氏名】中村 寿樹
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/044437(WO,A1)
【文献】 特開平07−004858(JP,A)
【文献】 特開昭63−174672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
B01L 1/00− 1/04
B01L 7/00− 7/04
B01L 9/00− 9/06
C07B 61/00
C07B 63/00−63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄と有機物とを含む原料を収容する反応容器と、
前記反応容器を加熱する加熱源と、
前記反応容器内で発生した硫化水素を外部に取り出すための排出管と、
前記反応容器及び前記加熱源を一体的に起伏させる起伏機構と、
前記反応容器内に生成された粗生成物に含まれる未反応硫黄を除去するための未反応硫黄除去装置を備えており、
前記反応容器は、前記原料が前記加熱源により加熱される加熱部と、前記加熱部における加熱により生じた硫黄蒸気を凝結させる非加熱部を有し、
前記起伏機構は、前記加熱部が前記非加熱部より低位置となる起立状態と、前記非加熱部が前記加熱部より低位置となる傾斜状態と、を切り換え可能であり、
前記未反応硫黄除去装置は、前記粗生成物を収容する処理容器と、
前記処理容器を加熱する加熱源と、
前記処理容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段を有し、
前記処理容器は、前記粗生成物が前記加熱源により加熱される加熱部と、前記加熱部における加熱により生じた硫黄蒸気を凝結させる非加熱部を有するとともに、前記非加熱部が前記加熱部よりも低位置となるように傾斜して配置され、
前記不活性ガス供給手段は、前記加熱部から非加熱部に向けて不活性ガスが流れるように前記処理容器内に不活性ガスを供給する、
二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置。
【請求項2】
前記排出管から取り出した硫化水素を捕集する捕集装置を備えており、
前記捕集装置は、硫化水素を吸収可能な液体を収容した複数の捕集容器を備え、
前記捕集容器は、前記排出管の端部が内部に配置される前段容器と、該前段容器にて捕集されなかった硫化水素を捕集する後段容器を有し、
前記排出管の端部は、前記前段容器に収容された液体と接触していない、
請求項1記載の二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置。
【請求項3】
前記前段容器と前記後段容器は、前記前段容器にて捕集されなかった硫化水素を前記後段容器へと導く連結管により連結されており、
前記連結管の一方の端部は、前記前段容器に収容された液体と接触しておらず、
前記連結管の他方の端部は、前記後段容器内に収容された液体と接触している、
請求項記載の二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置。
【請求項4】
前記前段容器内に収容された液体を攪拌するための攪拌装置を備えている、請求項又は記載の二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置。
【請求項5】
前記排出管は、前記反応容器に接続された端部の内径が10mm以上である、請求項1乃至いずれかに記載の二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置。
【請求項6】
前記反応容器は、下方に前記加熱部を、上方に前記非加熱部をそれぞれ有し、
前記非加熱部における前記排出管の下方には、前記原料の加熱により発生した硫黄蒸気を接触させて凝結させるための障害物が配設されている、請求項1乃至いずれかに記載の二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置。
【請求項7】
硫黄と有機物とを含む原料を反応容器内の下方部に収容し、該下方部を加熱することにより、前記反応容器内にて硫黄と有機物との硫化反応を生じさせて粗生成物を生成する硫化熱処理工程と、
前記生成された粗生成物に含まれる未反応硫黄を除去する精製工程と、を含み、
前記精製工程は、
前記生成された粗生成物を収容した反応容器を、その上方部が前記下方部よりも低位置となるように傾斜させる段階と、
前記傾斜した反応容器の高位置にある前記下方部を加熱することにより、前記粗生成物から未反応硫黄を硫黄蒸気として取り出し、取り出された硫黄蒸気を低位置にある前記上方部において凝結させる段階、とを含む、
二次電池用有機硫黄系正極材料製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてリチウムイオンまたはナトリウムイオン二次電池用の正極活物質として有用な有機硫黄系活物質の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、小型でエネルギー密度が高いため、ポータブル電子機器の電源として広く用いられている。その正極活物質としては、主としてLiCoO2などの層状化合物が使用されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、これらの化合物は満充電状態において、高温に晒されると酸素が脱離しやすく、これが非水電解液の酸化発熱反応を引き起こしやすいという問題点がある。近年、電気自動車用の用途への要求が高まり、より安全で、要求される使用温度範囲が広く(−30℃から60℃)、容量、出力および耐久性の全てが大きな正極材料が求められている。
このような正極活物質として、Co以外にFe、Mn、Niや、種々の添加物を加えた酸化物系正極や、リン酸オリビン系化合物LiMPO4(LiMnPO4、LiFePO4、LiCoPO4など)が提案されている。しかしながら、これら例示した材料は、いずれも容量が安定して250mAh/g以上を示すものではなく、自動車等に要求される使用可能温度範囲、安全性と大容量、大出力特性を兼ね備えた電池となる材料はこれまで存在しなかった。
【0003】
一方、安価で資源量が多く、環境負荷が低く、高いリチウムイオンの理論充放電容量を有し、かつ高温時に酸素を放出しない正極活物質として、硫黄が注目されてきた。しかし、硫黄単体では電気抵抗が高く、さらには導電助剤を加えて電極として動作させた場合、電解液への溶出が顕著で、サイクル特性が劣悪であった。
近年、この硫黄を有機物と加熱してコンポジット化したものが高い容量と良好なサイクル特性、レート特性を示すことがわかってきた。
本出願人らは、これらの有機硫黄系正極材料を組み込んだ電池を製作し、この電池は、自動車に用いる二次電池としての使用可能温度範囲、安全性と大容量、大出力特性を兼ね備えた実電池であることを確認している。
【0004】
非特許文献1には、中国科学アカデミーのWangらが、ポリアクリロニトリル(以下、PANと記載)に硫黄を300℃で反応させて、Liを出し入れできるカソード材料を合成し、13CNMR、FTIR、XPSなどでキャラクタリゼーションを行ったことが記載されている。本文献では、硫黄は有機物と結合を持って化合するような記述になっている。
非特許文献2には、中国Nankai大学のC.Laiらが、Ar雰囲気750℃においてPANを炭酸ナトリウムで熱処理して1473m2/gの表面積を持つ活性炭を作成し、これに硫黄を混ぜて150℃で熱処理し、57%の硫黄を含む有機硫黄コンポジットを作製しており、この材料はリチウムイオン電池正極材料として容量1155 mAh/gを示し、84サイクル後でも745 mAh/gの容量を持つことが記載されている。
非特許文献3には、中国Nankai大のB.Zhangらが、硫黄アセチレンブラック混合物を149℃で6時間、300℃まで昇温したコンポジットを作製し、ボールミルで混合したものとSEM、XRD、細孔径分布、CV、インピーダンス法により比較を行ったこと、及び、熱処理したコンポジットは、50サイクル後500mAh/gの容量を示したが熱処理しなかったものは低い容量にとどまったことが記載されている。
非特許文献4には、イラクのMosul大のShahabらが、瀝青と硫黄を400℃で反応させ得られた有機硫黄コンポジットについて種々の温度での硫黄の量を調べた結果が記載されている。
非特許文献5には、北京化学大学のSunらが、リチウム硫黄2次電池の正極材料である硫黄のバインダーとしてこれまでのPEOに代わりゼラチンを用いることで充放電特性とサイクル特性が向上することを見出したこと、及び、ゼラチンは電解質の有機溶媒では膨潤せず、サイクル試験後のSEM観察などで粒子の租粒化が抑えられるなどの効果が見出されたことが記載されている。
非特許文献6においては、ロシア科学アカデミーのシベリア支部のTrofimovが、ポリマーの硫黄化と充放電をレビューしている。ポリエチレンを含む種々のポリマーの硫黄化により生成する化合物の構造が示され、ESRによるラジカルの数、CVが報告されている。
非特許文献7においては、上海交通大学のWeiらが、92 wt.% acrylonitrile and 8 wt.% methylacrylate(安価な市販品)をこれまでのPANの代わりに使用し、MWCNT(多壁カーボンナノチューブ)を導電助剤として加え、繊維1g 、MWCNT0.1g、硫黄10gをエタノール中でボールミル混合し、300℃4時間窒素中で熱処理した35wt%の硫黄を含むコンポジットを得たこと、及び、このコンポジットが、容量560mAh/g、0.5C100 cycle後96.5%、7Cで387mAh/gを出したことが記載されている。
【0005】
上記した如く、近年、有機硫黄系正極材料に関する研究が数多く報告されている。
このことからも分かるように、有機硫黄系正極材料は、安価で、資源量が豊富かつ無害な硫黄と有機物のみからなるために環境負荷が低く、高いリチウムイオンの充放電容量を有し、かつ高温で安定かつ酸素を放出しない材料であることから、次世代リチウムイオン二次電池正極材料のみならずナトリウムイオン二次電池正極材料として大変有望視されている。
【0006】
有機硫黄系正極材料はこのように魅力的な材料である反面、その合成・製造には、種々の困難がある。具体的には、これまでもっぱら焼成法や水熱合成法等により行われてきた酸化物系の正極材料の合成とは異なり、有機物と硫黄とを加熱して反応させる硫化反応工程が必要となる。さらに本発明者らの多年の検討により、生成物に十分な容量を付与するためには、硫黄が蒸散しやすい350℃から400℃の温度において有機物に十分な量の硫黄が存在する状態で処理する必要があることがわかった。この処理過程で、硫黄による有機物からの水素引き抜きにより猛毒の硫化水素が発生する。硫化水素は、0.1%の濃度のガスを吸い込むと即死する恐れのある危険なガスであるため、厳重な管理が求められている。
【0007】
従来、反応容器内で発生した硫化水素ガスの処理方法として、反応容器出口に接続された排出管を通して硫化水素ガスを容器外部に排出し、排出した硫化水素ガスを別容器に収容されたアルカリ水溶液にバブリングさせて吸収させる方法が知られている。しかし、この方法は、反応容器内部が偶発的に負圧となった場合、排出管を通じてアルカリ水溶液が高温の反応容器に逆流し、熱衝撃による容器の破損や水蒸気爆発が生じる危険性があった。また、アルカリ水溶液と硫化水素との反応で生成した塩が固体となって析出して排出管を閉塞し、反応容器と排出管が硫化水素により加圧され、排出管の脱離などが生じることで硫化水素の漏洩が生じる危険性があった。更に、大量の硫化水素ガスが急激に発生することにより、バブリングによる排出管内部の圧力抵抗が生じ、排出管内部が加圧され、硫化水素の漏洩が生じる危険性もあった。
また、発生する硫化水素の流れに乗って硫黄蒸気も反応容器から出ようとして出口で冷やされることにより硫黄が析出し、析出した硫黄が反応容器のガス出口の閉塞を引き起こす場合があった。この場合、加圧された硫化水素が反応容器内に溜まることになるが、加圧貯留された硫化水素は、容器の開放処置時に安全な処理が困難であり、偶発的に一気に噴出して外界に漏れ出す恐れがあるため大変危険であった。
【0008】
また、反応容器で合成された有機硫黄系正極材料には、電池内部で電解液に溶け出して電池の寿命を低下させる未反応の硫黄が含まれており、その十分な除去を行うための精製処理が必要となり、硫黄除去の際も硫化水素が発生する場合がある。このように、有機硫黄系正極材料を得るためには、合成と精製の両方で困難が伴うため、これら一連の合成・精製操作を安全かつ環境に配慮し、迅速かつ多量に行える装置及び方法が必要とされているが、従来そのような装置及び方法は存在していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−252630号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. Wang, J. Yang, C. Wan, K. Du, J. Xie, and N. Xu, Adv. Funct. Mater., 13, 487-492 (2003).
【非特許文献2】C. Lai, X. P. Gao, B. Zhang, T. Y. Yan and Z. Zhou, J. Phys. Chem. C 113, 4712-4716 (2009).
【非特許文献3】B.Zhang, C. Lai, Z. Zhou, and X.P. Gao, Electrochim. Acta, 54, 3708-3713 (2009).
【非特許文献4】Y. A. Shahab, A. A. Siddiq, and K. S. Tawfiq, Carbon, 26, 801-802 (1988).
【非特許文献5】J. Sun, Y. Huang, W. Wang, Z. Yu, A. Wang, K. Yuan, Electrochim. Acta, 53, 7084-7088 (2008).
【非特許文献6】B. A. Trofimov, Sulfur Reports, 24, 283-305 (2003).
【非特許文献7】W. Wei, J. Wang, L. Zhou, J. Yang, B. Schumann, Y. NuLi, Electrochem. Comm., 13, 399-402 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、有機硫黄系正極材料の製造において、有機硫黄系正極材料の容量を十分に引き出しつつ、猛毒の硫化水素ガスを確実に捕集し、その漏洩を防ぎ、反応系の硫黄による閉塞、および生成物からの未反応の硫黄の除去を可能にすることができるとともに、有機硫黄系正極材料の製造を、安全かつ環境に配慮し、迅速かつ多量に行える装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を提供する。
請求項1に係る発明では、
硫黄と有機物とを含む原料を収容する反応容器と、
前記反応容器を加熱する加熱源と、
前記反応容器内で発生した硫化水素を外部に取り出すための排出管と、
前記反応容器及び前記加熱源を一体的に起伏させる起伏機構を備えており、
前記反応容器は、前記原料が前記加熱源により加熱される加熱部と、前記加熱部における加熱により生じた硫黄蒸気を凝結させる非加熱部を有し、
前記起伏機構は、前記加熱部が前記非加熱部より低位置となる起立状態と、前記非加熱部が前記加熱部より低位置となる傾斜状態と、を切り換え可能である、
二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置、を提供する。
【0013】
この装置によれば、起立状態とした反応容器内で硫黄と有機物とを反応させて粗生成物(粗有機硫黄系正極材料)を生成することができるとともに、粗生成物の生成後において反応容器及び加熱源を傾斜状態として更に粗生成物を加熱することにより、粗生成物に含まれる未反応硫黄を除去することができる。また、反応容器及び加熱源を傾斜状態とする作業を、起伏機構を利用して迅速且つ容易にしかも安全に行うことができる。そのため、有機硫黄系正極材料の合成・精製処理を、安全かつ環境に配慮し、迅速かつ多量に行える装置が提供される。また、必要に応じて、粗生成物の生成後において反応容器を傾斜状態とせずに、粗生成物を別の容器に移し替えて未反応硫黄の除去処理を行うこともできるため、汎用性及び利便性が高く、実験室規模の数gの試作製造から、工業的規模の製造までを装置のスケールを変えるだけで行うことができる。
【0014】
発明では、
前記反応容器及び前記加熱源は、該反応容器内に生成された粗生成物に含まれる未反応硫黄を除去するための未反応硫黄除去装置を兼ねており、
前記粗生成物の生成後において、前記起伏機構を利用して前記反応容器及び前記加熱源を傾斜状態とすることにより未反応硫黄除去装置として使用される二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置、を提供する。
【0015】
この装置によれば、反応容器及び加熱源が未反応硫黄除去装置を兼ねることにより、未反応硫黄除去装置を別装置として用意する必要がなく、装置の小型化と設備コストの削減を実現することができる。加えて、反応容器内に生成した粗生成物を別の容器に移し替えて未反応硫黄の除去処理を行う必要がないため、有機硫黄系正極材料の合成・精製操作を一連の操作として効率良く且つ安全に行うことができ、高容量な有機硫黄系正極材料を大量生産することが可能となる。
【0016】
請求項に係る発明では、
前記反応容器内に生成された粗生成物に含まれる未反応硫黄を除去するための未反応硫黄除去装置を備えており、
前記未反応硫黄除去装置は、前記粗生成物を収容する処理容器と、
前記処理容器を加熱する加熱源と、
前記処理容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段を有し、
前記処理容器は、前記粗生成物が前記加熱源により加熱される加熱部と、前記加熱部における加熱により生じた硫黄蒸気を凝結させる非加熱部を有するとともに、前記非加熱部が前記加熱部よりも低位置となるように傾斜して配置され、
前記不活性ガス供給手段は、前記加熱部から非加熱部に向けて不活性ガスが流れるように前記処理容器内に不活性ガスを供給する二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置、を提供する。
【0017】
この装置によれば、未反応硫黄除去装置の処理容器内に粗生成物を収容し、処理容器を非加熱部が加熱部よりも低位置となるように傾斜して配置して加熱しながら、加熱部から非加熱部に向けて不活性ガスが流れるように処理容器内に不活性ガスを供給することにより、粗生成物に含まれる未反応の硫黄が蒸気となり、この硫黄蒸気が不活性ガスの流れに乗って運ばれて非加熱部において凝結する。そのため、処理容器内にて粗有機硫黄系正極材料から未反応の硫黄が除去されることとなり、精製された有機硫黄系正極材料を確実に回収することができる。
また、原料としてゴムなどの有機物を用いた場合、硫化反応により生じる粗生成物が硬くなるため、内部に不要な硫黄(未反応の硫黄)が閉じ込められていると、反応容器内での合成反応直後にこの硫黄を除去しようとしても十分に除去できない場合がある。このような場合であっても、この装置によれば、粗生成物を粉砕してから別容器(処理容器)に移して除去作業を行うことが可能となる。
【0018】
請求項に係る発明は、
前記排出管から取り出した硫化水素を捕集する捕集装置を備えており、
前記捕集装置は、硫化水素を吸収可能な液体を収容した複数の捕集容器を備え、
前記捕集容器は、前記排出管の端部が内部に配置される前段容器と、該前段容器にて捕集されなかった硫化水素を捕集する後段容器を有し、
前記排出管の端部は、前記前段容器に収容された液体と接触していない、
請求項1記載の二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置、を提供する。
【0019】
この装置によれば、排出管を通して反応容器から取り出した硫化水素は、先ず前段容器に送られて捕集され、その後で後段容器に送られて捕集される。ここで、排出管の端部が前段容器に収容された液体と接触していないことにより、反応容器内部が偶発的に負圧となったとしても、排出管を通じて前段容器内の液体(アルカリ水溶液)が高温の反応容器に逆流することが防がれる。また、前記液体と硫化水素との反応で生成した塩が固体となって析出して排出管を閉塞することも防がれる。また、大量の硫化水素ガスが急激に発生することにより、バブリングによる排出管内部の圧力抵抗が生じ、排出管内部が加圧されることも防がれる。これらのことから、硫化水素の漏洩が生じる危険性を大幅に低減することができ、環境に配慮された安全な装置となる。
【0020】
請求項に係る発明は、
前記前段容器と前記後段容器は、前記前段容器にて捕集されなかった硫化水素を前記後段容器へと導く連結管により連結されており、
前記連結管の一方の端部は、前記前段容器に収容された液体と接触しておらず、
前記連結管の他方の端部は、前記後段容器内に収容された液体と接触している、
請求項記載の二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置、を提供する。
【0021】
この装置によれば、排出管を通して反応容器から取り出した硫化水素を、先ず前段容器においてバブリングさせずに安全に大部分を捕集し、前段容器にて捕集できなかった硫化水素は後段容器においてバブリングさせて確実に捕集することができる。
【0022】
請求項に係る発明によれば、
前記前段容器内に収容された液体を攪拌するための攪拌装置を備えている、請求項又は記載の二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置、を提供する。
【0023】
この装置によれば、前段容器内に収容された液体を攪拌することにより、排出管を通して前段容器内に導入された硫化水素が前段容器内の液体に接触する時に、硫化水素が接触する液面が移動し、常に新しい液面が硫化水素と接触することとなる。そのため、大量の硫化水素を迅速に吸収することが可能となる。
【0024】
請求項に係る発明は、
前記排出管は、前記反応容器に接続された端部の内径が10mm以上である、請求項1乃至いずれかに記載の二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置、を提供する。
【0025】
この装置によれば、反応容器内で発生する硫化水素の流れに乗って反応混合物から硫黄が蒸散した時に、反応容器のガス出口(排出管の反応容器に接続された端部)が硫黄により閉塞することが防がれ、硫化水素の漏洩が生じる危険性を低減することができる。
【0026】
請求項に係る発明は、
前記反応容器は、下方に前記加熱部を、上方に前記非加熱部をそれぞれ有し、
前記非加熱部における前記排出管の下方には、前記原料の加熱により発生した硫黄蒸気を接触させて凝結させるための障害物が配設されている、請求項1乃至いずれかに記載の二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置、を提供する。
【0027】
この装置によれば、原料の加熱により発生した硫黄蒸気が、排出管に達する前に、障害物に接触することにより凝結するので、反応容器のガス出口(排出管)の硫黄による閉塞が起こる現象が発生することが防止され、硫化水素の漏洩が生じる危険性をより低減することができる。
【0028】
請求項に係る発明は、
硫黄と有機物とを含む原料を反応容器内の下方部に収容し、該下方部を加熱することにより、前記反応容器内にて硫黄と有機物との硫化反応を生じさせて粗生成物を生成する硫化熱処理工程と、
前記生成された粗生成物に含まれる未反応硫黄を除去する精製工程と、を含み、
前記精製工程は、
前記生成された粗生成物を収容した反応容器を、その上方部が前記下方部よりも低位置となるように傾斜させる段階と、
前記傾斜した反応容器の高位置にある前記下方部を加熱することにより、前記粗生成物から未反応硫黄を硫黄蒸気として取り出し、取り出された硫黄蒸気を低位置にある前記上方部において凝結させる段階、とを含む、
二次電池用有機硫黄系正極材料製造方法、を提供する。
【0029】
この方法によれば、反応容器内に粗生成物を生成した後に、反応容器をそのまま傾けて未反応硫黄除去処理を行うため、反応容器内の粗生成物を別の容器に移し替えて未反応硫黄の除去処理を行う必要がなく、有機硫黄系正極材料の合成・精製操作を一連の操作として効率良く且つ安全に行うことができ、高容量な有機硫黄系正極材料を大量生産することが可能となる。加えて、未反応硫黄除去装置を別装置として用意する必要がなく、装置の小型化と設備コストの低減を実現することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置及び製造方法によれば、有機硫黄系正極材料製造時に発生する危険な硫化水素の漏洩を防ぐことができるとともに、高容量な有機硫黄系正極材料の多量合成と未反応硫黄の脱離・精製を確実且つ容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る製造装置の全体構成を示す概略図である。
図2図1に示された反応容器を拡大抽出して示す図である。
図3】反応容器を傾斜状態として、粗生成物から未反応硫黄を除去している状態を示す図である。
図4】反応容器及び加熱源と別装置として設ける未反応硫黄除去装置を使用して、粗生成物から未反応硫黄を除去している状態を示す図である。
図5】起伏機構の構成及び作用を示す側面図である。
図6】反応容器を正立状態としている様子を示す部分断面側面図である。
図7】容器固定バンドの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る二次電池用有機硫黄系正極材料製造装置及び製造方法の好適な実施形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
図1は本発明に係る製造装置の全体構成を示す概略図であり、図2図1に示された反応容器を拡大抽出して示す図である。
【0033】
本発明に係る製造装置は、硫黄と有機物とを含む原料(M)を収容する反応容器(1)と、反応容器(1)を加熱する加熱源(5)と、反応容器(1)内で加熱により発生した硫化水素を外部に取り出すための排出管(2)と、排出管(2)から取り出した硫化水素を捕集する捕集装置(3)と、反応容器(1)内に生成された粗有機硫黄系正極材料に含まれる未反応硫黄を除去するための未反応硫黄除去装置(4)を備えている。
【0034】
本発明において、未反応硫黄除去装置(4)は、図1に示す反応容器(1)及び加熱源(5)を兼用させることもできるし(図3参照)、反応容器(1)及び加熱源(5)とは別装置として設けることもできる(図4参照)。
尚、加熱源(5)の種類は特に限定されないが、図示例の如く電気炉が好適に使用されるため、以下の説明では加熱源を電気炉(5)として説明する場合がある。
【0035】
反応容器(1)は、縦長の有底円筒形状であって、前記原料が加熱源となる電気炉(5)により加熱される加熱部(6)を下方に有し、加熱部(6)における加熱により生じた硫黄蒸気を凝結させる非加熱部(7)を上方に有している。反応容器(1)の長さと直径(内径)の比は7:1〜3:1が好ましく、6:1〜4:1であることがより好ましい。
【0036】
加熱部(6)は、反応容器(1)の下方部(高さ全体のうち下から2分の1から3分の2の範囲)に設けられ、原料が収容されて電気炉(5)のヒータ(5a)により加熱される部分である。加熱温度は、原料に含まれる硫黄と有機物とが硫化反応をするのに充分な温度(好ましくは300〜450℃、より好ましくは350〜420℃)に設定される。加熱部(6)の温度の上昇速度は、450℃までの昇温にかかる時間が、原料が50gまでであれば40分、50g以上であれば3時間程度であることが望ましい。
非加熱部(7)は、反応容器(1)の上方部(高さ全体のうち加熱部(6)を除く範囲)に設けられ、電気炉(5)の断熱材(5b)または外気に触れる冷却可能な場所にあることが望ましい。非加熱部(7)の温度は、加熱部(6)における加熱により発生して上昇してきた硫黄蒸気が凝結して落下し得る温度(好ましくは100℃以下、より好ましくは50℃以下)とされる。
尚、反応容器(1)内の温度は、熱電対(20)により測定され、この測定値に基づいて温度調節器(21)で電気炉(5)を制御することにより調整される。
【0037】
反応容器(1)の材質は、液体の硫黄が存在する原料に触れる部分は、ムライト、アルミナ、石英、アルミニウムを用いるのが好ましく、硫黄蒸気の通気性や原料との剥離容易性の面から表面の粗いムライトやアルミニウムがより好ましい。セラミック容器や石英容器は、機械的衝撃に弱いため、大きな容器を作成する場合、気密性や耐破損性の観点から、ステンレス製の気密容器(1a)を外側に配し、その内部にムライト製またはアルミニウム製の反応容器(1)を収容することが好ましい(図2参照)。
【0038】
反応容器(1)に収容される原料は、ポリアクリロニトリル(PAN)、石炭ピッチ、ゴム、パラフィン類、活性炭、アセチレンブラック、瀝青、ゼラチン、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂等の有機物100質量部に対し、硫黄120〜600質量部(好ましくは140〜400質量部)を混合したものである。混合方法は特に限定されないが、例えば、乳鉢やボールミル等の一般的な混合装置を使用して混合することができる。また、必要に応じて、二次電池の正極活物質に配合可能な一般的な材料(導電助剤等)を配合してもよい。原料の形態は、粉末状でもよいし、ペレット状等に成形したものでもよく、特に限定されない。
この原料を、加熱部(6)に収容して250〜500℃、好ましくは300〜450℃、より好ましくは350〜420℃で加熱することにより、硫黄と有機物との硫化反応を生じさせる。この硫化反応(硫化熱処理工程)を非酸化性雰囲気下で行わせると、有機物がPANである場合、PANの閉環反応と同時に、蒸気形態の硫黄がPANと反応して、硫黄によって変性されたPANが得られる。ここで、非酸化性雰囲気とは、酸化反応が進行しない程度の低酸素濃度である減圧状態、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気、硫黄ガス雰囲気等を含む。
【0039】
上記した硫黄と有機物との硫化反応時において、反応温度が硫黄の蒸発する温度より十分に高いため、多量の硫黄蒸気が発生する。
工業的に用いられている移動床反応装置や、ロータリーキルンのような通常の加熱反応容器では、硫黄が反応系外に速やかに逃げ出してしまい有機物と十分反応させることができない。また長さと直径の比率が3:1以下の坩堝等に混合原料を入れ雰囲気炉中で反応させた場合でも、蒸発した硫黄が反応系に戻ってこないため硫黄不足となり良好な特性を有する有機硫黄系正極材料を確実に得ることが困難である。
一方、本発明に係る製造装置によれば、反応容器(1)の上部に温度が低い非加熱部(7)が設けられていることにより、加熱部(6)における加熱により発生して上昇してきた硫黄蒸気が非加熱部(7)にて凝結して加熱部(6)に落下し、再び原料として硫化反応に供される(即ち、蒸発した硫黄が液体として原料に還流される)こととなるため、硫黄不足の問題が生じることがない。
【0040】
反応容器(1)を収容する気密容器(1a)の上部にはフランジが形成され、このフランジに対して反応容器(1)を密閉するための蓋(12)がボルトにて固定されている。この蓋(12)には、反応容器(1)内で加熱により発生した硫化水素を外部に取り出すための排出管(2)の一端部が気密に挿通固定されている。フランジの下方には水冷管(15)が配設されている。
【0041】
排出管(2)の本数は1本でもよいが、複数本(図示例では2本)設けることが好ましい。これは、仮に1本の排出管(2)が硫黄蒸気の固化により閉塞したとしても、残りの排出管(2)を通して硫化水素を容器外へと排出することが可能となるためである。複数本の排出管は、いずれも捕集装置(3)に接続され、各排出管を通って反応容器外に出た硫化水素は捕集装置(3)により捕集される。
排出管(2)は、通常、長さ方向に複数の管を接続したものが使用され、例えば、ガラス管とポリエチレンチューブとフッ素樹脂管とを長さ方向に接続したものが使用される。後述する連結管(32)(33)についても同様である。
反応容器(1)の上部には、排出管(2)の閉塞を検知するために、反応容器内部の圧力を測定する圧力計(10)が取り付けられている。
【0042】
硫黄の固化による排出管(2)の閉塞を防ぐための別の方法として、排出管(2)の内径を大きくする方法が挙げられる。本発明者らは、排出管(2)の内径(反応容器(1)に接続された排出管(2)の端部の内径)を10mm以上とすればよいことを確認している。但し、排出管(2)の内径が10mm未満であっても、排出管(2)の内部で固化した硫黄を掻き取る機構や、排出管(2)の内部で固化した硫黄を溶融させる加熱機構を設けることにより、硫黄の固化による排出管(2)の閉塞を防ぐことができる。
また、更に別の方法として、反応容器(1)に排出管(2)とは別の管(8)を接続し、この管(8)から窒素などの分子量の低い不活性ガスを、反応容器(1)の蓋の面積200cm2あたり50〜200ml/分、より好ましくは75〜150ml/分の流量で流して、反応容器(1)上部(非加熱部(7))の気体の密度を下げ、気体の密度が大きい分子量の大きな硫黄蒸気(S、分子量256)が下に沈むようにする方法や、反応容器(1)の上部を空冷または水冷により積極的に冷却して排出管(2)に達する硫黄蒸気を減らす方法、非加熱部(7)における排出管(2)の手前(下方)にアルミニウム箔などの障害物(9)を設けて障害物表面において硫黄を凝結させて付着させる方法、反応容器(1)の内部に硫黄捕集冷却器を設けることで排気から硫黄蒸気を除去する方法、などを例示することができる。
【0043】
本発明に係る製造装置は、反応容器(1)と加熱源(電気炉(5))とを一体的に起伏させる起伏機構(11)を備えている。起伏機構(11)は、図1では省略されている。
図5は、起伏機構(11)の構成及び作用を示す図である。
起伏機構(11)は、電気炉(5)に収容された反応容器(1)の加熱部(6)が非加熱部(7)より低位置となる起立状態(図1参照)と、非加熱部(7)が加熱部(6)より低位置となる傾斜状態(図3参照)とを切り換え可能な起伏機構(11)を有している。図5において、実線は起立状態を示し、二点鎖線は傾斜状態を示している。
【0044】
起伏機構(11)は、図5に示すように、反応容器(1)を収容した電気炉(5)の両側面に固定された蝶番(12)と、反応容器(1)及び電気炉(5)が取り付けられる基台(13)と、基台(13)に固定された蝶番(14)と、蝶番(12)と蝶番(14)とを連結するロータリーステー(16)とから構成されている。蝶番(12)は電気炉(5)の上下方向にスライド可能となっており、起立状態では電気炉(5)の上方に位置し、傾斜状態では電気炉(5)の下方に位置する。
このような起伏機構(11)を備えていることによって、作業者は、反応容器(1)と電気炉(5)の起立状態(図5の実線位置)と傾斜位置(図5の二点鎖線位置)とを簡単に切り換えることが可能となる。また、反応容器(1)と電気炉(5)の位置は、起立状態と傾斜状態のそれぞれにおいて、フック等の固定具(図示略)を用いて固定することができる。
【0045】
反応容器(1)の中心軸と水平軸とのなす角度は、起立状態では90°であり、傾斜状態では水平軸から下方向に5°以下、好ましくは2〜3°である。傾斜角度が小さすぎる(2°未満)と、後述する未反応硫黄(単体硫黄)の除去作業において凝集した単体硫黄の液滴が粗生成物に向けて流下する恐れがあり、大きすぎる(5°超)と、多量の硫黄蒸気が排出管(2)に達して固化することで排出管を閉塞する恐れがあり、いずれの場合も好ましくない。傾斜角度は、ロータリーステー(16)の長さを調節することにより設定することができる。
【0046】
起伏機構(11)は、反応容器(1)を傾斜状態とした時に、反応容器(1)が電気炉(5)から外れることを防ぐための容器固定バンド(17)を備えている。
図7は、容器固定バンド(17)の平面図である。
容器固定バンド(17)は、2つの半円環状の部材をボルト(17a)及びナット(17b)で結合することにより、全体として平面視円環状に形成されている。
2つの半円環状の部材は、それぞれ、半円弧状の鍔状部(17e)と、鍔状部(17e)の内周側において垂直上向きに立ち上がる立ち上がり部(17f)とを有しており、鍔状部(17e)には切り欠き部(17c)が形成されている。
容器固定バンド(17)は、2つの半円環状の部材の対向する立ち上がり部(17f)の間に、電気炉(5)から上方に突出した反応容器(1)の上方部の側面を挟み、ボルト(17a)に対してナット(17b)を締め付けることにより、反応容器(1)に固定される。この状態で、鍔状部(17e)の切り欠き部(17c)にボルト(17d)を挿通して当該ボルトを電気炉(5)の上面に対して固定することにより、反応容器(1)が電気炉(5)に対して固定される。(図6参照)
容器固定バンド(17)は、バネ性を有する金属材料から形成されており、これにより熱膨張係数が異なる様々な異質材料の反応容器(1)を確実に固定することが可能となっている。
【0047】
捕集装置(3)は、排出管(2)を通して反応容器(1)から取り出された硫化水素を捕集するために設けられており、硫化水素を吸収可能な液体(L)を収容した複数の捕集容器を備えている。
複数の捕集容器は、反応容器(1)と接続された排出管(2)の端部が内部に配置される前段容器(30)と、この前段容器(30)にて捕集されなかった硫化水素を捕集する後段容器(31)とから構成されている。
【0048】
硫化水素を吸収可能な液体(L)としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、などのアルカリ性物質を水に溶かした水溶液が好適に使用される。炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムは、硫化水素の吸収により炭酸水素塩のような難溶性の塩を生じ、硫化水素の吸収能力が低下するばかりでなく、ガスを液中に導く管(バブリング管)の閉塞を招くため、硫化水素吸収剤としての使用は避けなければならない。従って、これらの炭酸塩は、後述するように、硫化水素を含むガスをバブリングする後段容器(31)においては使用することができないが、ガスをバブリングしない前段容器(30)においては使用することができる。
【0049】
硫化水素を吸収可能な液体(L)の具体例としては、硫化反応に用いた有機物100質量部に対し、水酸化ナトリウムの場合、90質量部以上120質量部未満、より好ましくは100質量部以上110質量部未満、水酸化カリウムの場合、120質量部以上170質量部未満、好ましくは130質量部以上150質量部未満を水300質量部以上10000質量部未満、より好ましくは400質量部以上5000質量部未満に溶かした水溶液を使用することができる。
【0050】
反応容器(1)と接続された排出管(2)の端部は、図1に示すように、前段容器(30)に収容された液体(L)と接触しておらず、液体(L)の液面より上方に位置している。
これにより、反応容器内部が偶発的に負圧となったとしても、排出管を通じてアルカリ水溶液が高温の反応容器に逆流することがないため、逆流による熱衝撃で容器の破損や水蒸気爆発が生じることが防止できる。また、アルカリ水溶液と硫化水素との反応で生成した塩が固体となって析出して排出管を閉塞することもないため、反応容器と排出管が硫化水素により加圧され硫化水素の漏洩が生じることも防止できる。更に、大量の硫化水素ガスが急激に発生した場合でも、バブリングによる排出管内部の圧力抵抗が生じないため、排出管内部が加圧されて、硫化水素の漏洩が生じることも防止できる。
【0051】
前段容器(30)内に収容された液体(L)は、マグネチックスターラー等からなる攪拌装置(34)により攪拌される。これにより、排出管(2)を通して前段容器内(30)に導入された硫化水素を含むガスが液体(L)に接触する時に、当該ガスが接触する液面が常に移動して変化することとなる。そのため、見掛け上、ガスと液面との接触面積が増加し、硫化水素を迅速に吸収することが可能となる。
【0052】
前段容器(30)と後段容器(31)は、前段容器(30)にて捕集されなかった硫化水素を後段容器(31)へと導く連結管(32)により連結されている。
後段容器(31)は少なくとも1つ以上設ければよいが、硫化水素を確実に全て吸収するためには複数設けることが好ましく、3つ以上設けることが好ましい。図示例では3つ設けられている。後段容器(31)を複数設ける場合は、図示のように、複数の後段容器(31)を互いに連結管(33)を介して直列に連結し、そのうちの1つの後段容器(31)を、前段容器(30)と連結管(32)により連結する。
【0053】
前段容器(30)と後段容器(31)を連結する連結管(32)の一方の端部は、上述した通り、前段容器(30)に収容された液体(L)と接触していないが、他方の端部は後段容器(31)内に収容された液体(L)と接触している。
前段容器(30)内の液体にて吸収されなかった硫化水素を含むガスは、連結管(32)を通って1つ目の後段容器(31)内に導入され、後段容器(31)内に収容された液体(L)にバブリングされることにより、当該液体に硫化水素が吸収される。
後段容器(31)において硫化水素を含むガスを液体に対してバブリングさせるのは、硫化水素の大部分(約9割)は前段容器(30)内の液体に吸収されるため、後段容器(31)においては上述したようなバブリングさせることによる弊害が生じないためである。
硫化水素の大部分が前段容器(30)内の液体に吸収されるため、前段容器(30)には予想される硫化水素の発生量に対応した液体を収容し、後段容器(31)にはそれぞれ前段容器(30)の1割ないし2割程度の量の液体を収容すれば足りる。
【0054】
1つ目の後段容器(31)に導入された硫化水素を含むガスは、連結管(33)を通して2つ目の後段容器及び3つ目の後段容器に順次導入される。1つ目の後段容器(31)内の液体により吸収できなかった硫化水素は、2つ目以降の後段容器内の液体にバブリングされて吸収される。
【0055】
反応容器(1)内に収容された硫黄と有機物を含む原料は、加熱されることにより硫化反応を起こし、粗生成物が生成(合成)される。
この粗生成物は、有機物由来の物質重量100部に対し、50部以上200部程度の硫黄を含んでいる。このうち、有機物の構造内部に閉じ込められている硫黄は電極として電池に用いた際に充電放電により電解液に溶け出さないが、粉末X回折により硫黄結晶特有の反射ピークを与えるような硫黄(以下、単体硫黄という)が存在する場合はこれが電解液に溶け出し、電池の劣化を引き起こす。そのため、このような単体硫黄は、生成された粗生成物から除去しなくてはならない。
硫黄は加熱すると蒸気となる性質がある。また、空気中で加温すると300℃程度で青い炎を伴って発火し、ゆっくりと燃える性質がある。合成した過剰な硫黄を含む粗生成物から電極として不要な硫黄(単体硫黄)を除去するためには、不活性ガス気流中または真空中で加熱により分子状の硫黄として揮発させ、粗生成物から除去するのが望ましい。
【0056】
以下、反応容器(1)内に生成された粗生成物に含まれる未反応硫黄(単体硫黄)を除去するための未反応硫黄除去装置(4)について説明する。
上述した如く、未反応硫黄除去装置(4)は、反応容器(1)及び加熱源(5)を兼用させることもできるし(図3参照)、反応容器(1)及び加熱源(5)とは別装置として設けることもできる(図4参照)。
【0057】
先ず、反応容器(1)及び加熱源(5)を未反応硫黄除去装置(4)と兼用する場合について説明する。
この場合、反応容器(1)内に粗生成物が生成した後、起伏機構(11)を利用して反応容器(1)及び加熱源(5)を非加熱部(7)が加熱部(6)より低位置となる傾斜状態とする(図3参照)。これにより、反応容器(1)及び加熱源(5)を未反応硫黄除去装置(4)として使用することが可能となる。
【0058】
反応容器(1)及び加熱源(5)を図3に示す如く傾斜状態とした後、反応容器(1)の加熱部(6)内に収容されている粗生成物(C)を更に加熱する。加熱温度は、200〜450℃とすることが好ましく、250〜400℃とすることがより好ましい。加熱温度が200℃未満であると、硫黄の蒸散が極めて遅く、工業的に実用性が乏しい。450℃を超えると(或いは300℃以上での長時間加熱であると)、充放電に関与する硫黄まで粗生成物中から除去されてしまう恐れがあるため望ましくない。
具体的には、反応容器(1)を起立状態(図1参照)としての硫化反応の終了後、反応容器(1)及び加熱源(5)を傾斜状態として、350〜400℃の温度に30分〜2時間、より好ましくは45分〜90分保ち、その後自然冷却させつつ、余熱を用いて硫黄の除去を行うとよい。
【0059】
反応容器(1)及び加熱源(5)を傾斜状態として粗生成物を200〜450℃で加熱することにより、粗生成物に含まれる単体硫黄(未反応硫黄)が蒸気となって粗生成物から取り出される。硫黄蒸気は空気より重いため、傾斜した反応容器(1)内を斜め下方に向けて流れ(図3の一点鎖線矢印参照)、温度が低い非加熱部(7)において凝集して液体又は固体の硫黄(S)となる。
ここで、反応容器(1)が、非加熱部(7)が加熱部(6)より低位置となる傾斜状態とされているため、加熱部(6)にて粗生成物から除去されて非加熱部(7)において凝集した単体硫黄の液滴が、粗生成物(C)に向けて流下することが防がれる。
加熱により発生した硫化水素は、排出管(2)を通して捕集装置(3)へと導かれ、前段容器(30)及び後段容器(31)により捕集される。
【0060】
加熱時においては、反応容器(1)に接続された管(8)から窒素などの分子量の低い不活性ガスを流して、傾斜状態の反応容器(1)上部の気体の密度を下げ、気体の密度が大きい分子量の大きな硫黄蒸気が試料から流れ下るようにすることが好ましい。
【0061】
次に、未反応硫黄除去装置(4)を、反応容器(1)及び加熱源(5)と別装置として設ける場合について説明する。
原料としてゴムなどの有機物を用いた場合、生成物(粗生成物)が硬くなり、内部に不要な硫黄(未反応の硫黄)が閉じ込められていると、反応容器(1)内での合成反応直後に反応容器(1)を傾斜状態としてこの硫黄を除去しようとしても十分に除去できない場合がある。このような場合、生成物(粗生成物)を粉砕してから別容器に移して除去作業を行うことが必要となる。
未反応硫黄除去装置(4)を反応容器(1)及び加熱源(5)と別装置として設けることにより、反応容器(1)内で合成された粗生成物を、一旦取り出して粉砕してから、未反応硫黄除去装置(4)に移し替えて硫黄の除去作業を行うことができる。
【0062】
図4は、反応容器(1)及び加熱源(5)と別装置として設ける未反応硫黄除去装置(4)の全体構成を示す概略図である。
未反応硫黄除去装置(4)は、粗生成物を収容して加熱する筒状の処理容器(40)と、
この処理容器(40)を加熱する加熱源(45)と、処理容器(40)内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段(41)を有している。
加熱源(45)の種類は特に限定されないが、図示例の如く電気炉が好適に使用されるため、以下の説明では加熱源を電気炉(45)として説明する場合がある。
【0063】
処理容器(40)の材質は、ムライト、アルミナ、石英、アルミニウム、ステンレス鋼を用いるのが好ましく、硫黄蒸気の通気性や原料との剥離容易性の面から表面の粗いムライト、アルミナ、石英がより好ましい。
【0064】
処理容器(40)の両端部は蓋(48)(49)により閉塞されている。
処理容器(40)の一端側(傾斜の低い側)に設けられた蓋(48)には、処理容器(40)内にて発生した硫化水素を含むガスを外部に排出するための排出管(46)の一端が接続されており、排出管(46)の他端は硫化水素を吸収可能な液体を収容した捕集容器(47)に接続されている。
処理容器(40)の他端側(傾斜の高い側)に設けられた蓋(49)には、処理容器(40)内に窒素等の不活性ガスを供給するための供給管(50)の一端が接続されており、供給管(50)の他端は不活性ガスを貯蔵したガス容器(51)に接続されている。供給管(50)及びガス容器(51)は不活性ガス供給手段(41)を構成している。
【0065】
処理容器(40)は、内部に収容された粗生成物(C)が電気炉(45)のヒータ(45a)により加熱される加熱部(42)と、加熱部(42)における加熱により発生した硫黄蒸気を凝結させる非加熱部(43)を有するとともに、非加熱部(43)が加熱部(42)よりも低位置となるように傾斜して配置されている。
傾斜の角度は、水平軸に対して5°以下、好ましくは2〜3°に設定される。傾斜角度が小さすぎる(2°未満)と、後述する未反応硫黄(単体硫黄)の除去作業において凝集した単体硫黄の液滴が粗生成物に向けて流下する恐れがあり、大きすぎる(5°超)と、多量の硫黄蒸気が排出管(46)に達して固化することで排出管を閉塞する恐れがあり、いずれの場合も好ましくない。
【0066】
加熱部(42)内の温度は、熱電対(52)により測定され、この測定値に基づいて温度調節器(53)で電気炉(45)を制御することにより調整される。
【0067】
処理容器(40)の一端側において、加熱部(42)と蓋(48)の間の非加熱部(43)には、硫黄蒸気を捕集するための捕集紙(54)が配設されている。
処理容器(40)の他端側において、加熱部(42)と蓋(49)の間には、硫黄蒸気の逆流を防止するための円筒状の逆流防止部材(55)が配設されている。尚、逆流防止部材(55)と処理容器(40)との間には不活性ガスが流通可能な隙間が存在しており、逆流防止部材(55)が配設された部分は加熱されていない。
【0068】
以下、図4に示す未反応硫黄除去装置(4)を使用して粗生成物に含まれる未反応硫黄(単体硫黄)を除去する方法について説明する。
処理容器(40)内に収容されている粗生成物(C)を電気炉(45)により200〜450℃、好ましくは250〜400℃で加熱すると、粗生成物に含まれる未反応の硫黄が蒸気となる。
そして、粗生成物を加熱しながら、不活性ガス供給手段(41)により、高位置の加熱部(42)から低位置の非加熱部(43)に向けて不活性ガスが流れるように処理容器内に不活性ガスを供給することにより、発生した硫黄蒸気が不活性ガスの流れに乗って運ばれて温度が低い非加熱部(43)において凝集して液体又は固体の硫黄(S)となる。
図4において、不活性ガスの流れを点線矢印で示し、硫黄蒸気の流れを一点鎖線矢印で示し、凝集した硫黄の流れ(滴下)を実線矢印で示している。
【0069】
ここで、処理容器(40)が、非加熱部(43)が加熱部(42)より低位置となるように傾斜して配置されているため、加熱部(42)において粗生成物(C)から除去され、非加熱部(43)において凝集した単体硫黄の液滴が、粗生成物に向けて流下することが防がれる。
加熱により発生した硫化水素は、排出管(46)を通して捕集容器(47)へと導かれて捕集される。図4において硫化水素を含むガスの流れを二点鎖線矢印で示している。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例及び比較例を示すことにより本発明の効果を明確にする。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0071】
<実施例1>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造)
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末2gと硫黄(キシダ化学製、99%)7gを混合して原料とした。
【0072】
2.装置
アルミナタンマン管(SSA-S、ニッカトー製、内径50mmφ、外径60mmφ、長さ180mm)を反応容器として用いた。このタンマン管の底に原料を入れ、水冷機能のあるステンレス製フランジにOリングを用いて締め付けることにより気密が維持できるように接続した。このフランジは、3本のアルミナ管を気密にOリングで締め付けて気密に保持できる開口を有しており、別途ガスを導入及び排気するために利用できるスエジロック規格の開口(スエジロック口)を2つ有している。スエジロック口には、窒素ガスを送り込む管を接続し、もう一方のスエジロック口には圧力計を取り付けた。アルミナ管の口の2つにはアルミナ管(SSA-S、ニッカトー製、外径6.3mmφ、内径4mmφ、長さ80mm)を取り付け、別に端の閉じたアルミナ管(SSA-S、ニッカトー製、外径6.3mmφ、内径4mmφ、長さ200mm)に熱電対(K種)を挿通して原料に接触させた。
フッ素樹脂管(外径6.3mm、内径3mm、長さ150mm)を2本ずつ、シリコーンゴム栓に2つの孔を穿孔して取り付け、これを3組、3つの三角フラスコ(各容量250ml)にそれぞれ取り付けた。水酸化ナトリウム3gを水280mlに溶かしたアルカリ水溶液を各々の三角フラスコに約70mlずつ注いだ。反応容器に接続されたアルミナ管2つにそれぞれポリエチレン配管(外径8mm、内径6mm、長さ500mm)をつなぎ、Y字管を用いて2本のポリエチレン管を合流させた。Y字管からポリエチレン管を1m延長し、三角フラスコに取り付けた2つあるフッ素樹脂管の一方につなぎ、もう一方のフッ素樹脂管から別の三角フラスコにポリエチレン管をつないで、3つの三角フラスコをガスが直列に通過するようにポリエチレン管を配管した。3つの三角フラスコのうち最初の1つは、フッ素樹脂管をアルカリ水溶液に漬けず、残り2つの三角フラスコでは、ガスが入ってくる管をアルカリ水溶液に浸して、排気ガスがバブリングすることで硫化水素を捕集できるようにした。
【0073】
3.硫化熱処理工程
内部に窒素ガス100ml/分を送り込んだ反応容器を電気炉にセットし、反応容器の下から100mmまでの部分を加熱した。
窒素ガスが3連の三角フラスコの最後列でバブリングすること、すなわち系全体の気密を確認してから電気炉による昇温を開始した。途中、原料温度200℃を超えたあたりでガス発生が激しくなることが2つめの三角フラスコの気泡発生の頻度で見て取れた。実験を通して硫化水素検知器の表示は0ppmのままだった。
40分かけて原料温度380℃まで加熱し、電気炉の加温を停止した後、原料温度が420℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0074】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に3時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は3.2gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0075】
<実施例2>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造)
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末20gと硫黄(細井化学工業 200メッシュ、99.9%)70gをビニール袋に計り取り、手で揉んで混合したものを原料とした。
【0076】
2.装置
下部が半球状に閉じた石英管(内径180mmφ、長さ380mm)を反応容器として用い、この石英管の底に原料を入れた。ガラス管(パイレックス(登録商標)製、外径6mmφ、内径4mmφ)を4本気密にOリングを用いて保持できる蓋をOリングで石英管開口部に取り付けた。ガラス管のうち1本を窒素ガス導入管として用いた。ガラス管の口の2つは排気ガス口とし、別に端の閉じたアルミナ管(SSA-S、ニッカトー製、外径8mmφ、内径4mmφ、長さ200mm)に熱電対(K種)を入れて原料に接触させた。
フッ素樹脂管(外径6.3mmφ、内径3mmφ、長さ150mm)を2本ずつ、シリコーンゴム栓に2つの孔を穿孔して取り付け、これを3組、3つの三角フラスコ(各容量500ml)に取り付けた。水酸化ナトリウム40gを水300mlに溶かしたアルカリ水溶液を各々の三角フラスコに約100mlずつ注いだ。反応容器から突出する排気ガス口の2つにそれぞれポリエチレン配管(外径8mmφ、内径6mmφ、長さ500mm)をつなぎ、Y字管を用いて2本のポリエチレン管を合流させた。Y字管からポリエチレン管を1m延長し、三角フラスコの2つあるフッ素樹脂管の一方につなぎ、もう一方のフッ素樹脂管から別の三角フラスコにポリエチレン管をつないで、3つの三角フラスコをガスが直列に通過するようにポリエチレン管を配管した。3つの三角フラスコのうち最初の1つは、フッ素樹脂管をアルカリ水溶液に漬けず、のこりの2つの三角フラスコでは、ガスが入ってくる管をアルカリ水溶液に浸して、排気ガスがバブリングすることで硫化水素を捕集できるようにした。
【0077】
3.硫化熱処理工程
反応容器の内部に窒素ガス100ml/分を送り込んで電気炉にセットし、反応容器の下から350mmまでの部分を加熱した。
40分かけて原料温度380℃まで加熱し、電気炉の加温を停止した後、原料温度が420℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0078】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は32gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0079】
<実施例3>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造)
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末100gと硫黄(細井化学工業 200メッシュ、99.9%)350gをビニール袋に計り取り、手で揉んで混合したものを原料とした。
【0080】
2.装置
図1〜3及び図5〜7に示す構成を備えた装置を使用した(以下の符号は図と対応)。但し、後段容器(41)に相当する三角フラスコは2つとした。
ムライト反応容器(内径113mmφ、長さ410mm)を反応容器(1)として用い、この反応容器の底に原料を入れた。気密な雰囲気となる水冷フランジを備えたステンレス容器(内径120mmφ、長さ450mm)(1a)にムライト反応容器(1)をいれた(図2参照)。
スエジロックの口が4つと、熱電対を取り付ける10mmφの口のついたステンレス製の蓋(外径6mmφ、厚さ10mmt)(12)を8本のボルトでステンレス容器に取り付けた。熱電対が格納できる一端が閉じたアルミナ管(SSA-S、ニッカトー製、外径10mmφ、内径6mmφ、長さ750mm)に熱電対(K種)(20)を入れ原料(M)に接触させ、アルミナ管をOリングとステンレスリングでステンレス蓋に締め付けて固定した。スエジロック口4つのうち1つに窒素ガス導入管(8)を取り付けた。別の口に真空排気ラインと圧力計(10)を取り付けた。残りの口2つは排気ガス出口(内径4.5mmφ)(排出管(2))とした。4つの口にはそれぞれストップコックを設けた。
フッ素樹脂管(外径6.3mmφ、内径3mmφ、長さ150mm)を2本ずつ、シリコーンゴム栓に2つの孔を穿孔して取り付け、これを3組、捕集容器となる3つの三角フラスコ(各容量1000ml)に取り付けた。水酸化ナトリウム200gを水1200mlに溶かしたアルカリ水溶液を各々の三角フラスコに約300mlずつ注いだ。
反応容器から突出する排気ガス口2つにそれぞれポリエチレン管(外径8mm、内径6mm、長さ500mm)(排出管(2))をつなぎ、Y字管を用いて2本のポリエチレン管を合流させた。Y字管からポリエチレン管を1m延長し、1つの三角フラスコ(前段容器(30))に取り付けられた2つあるフッ素樹脂管の一方につなぎ、もう一方のフッ素樹脂管から別の三角フラスコ(後段容器(31))にポリエチレン管(連結管(32)(33))をつないで、3つの三角フラスコをガスが直列に通過するようにポリエチレン管を配管した。3つの三角フラスコのうち最初の1つ(前段容器(30))は、フッ素樹脂管(排出管(2))をアルカリ水溶液に漬けず、残りの2つの三角フラスコ(後段容器(31))では、ガスが入ってくる管(連結管(32)(33))をアルカリ水溶液に浸して、排気ガスがバブリングすることで硫化水素を捕集できるようにした。
【0081】
3.硫化熱処理工程
反応容器(1)を、内部を真空引きして窒素ガスに置換後、窒素ガス100ml/分を送り込んで、電気炉(5)にセットし、下から300mmまでの部分(加熱部(6))を加熱した(図1参照)。
180分かけて原料温度400℃まで加熱し、電気炉(5)の加温を停止した後、原料温度が420℃以上に上がらなくなった時点で起伏機構(11)を利用して電気炉(5)と共に反応容器(1)を倒した。
【0082】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器(1)を、容器内に生成した粗生成物(C)を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した(図3参照)。この傾斜状態にて、粗生成物の温度が400℃から低下するに任せて冷ましたのち、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は159gであった。
温度が400℃から低下している最中、粗生成物(C)から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して非加熱部(7)で凝結した。凝結物は単体硫黄(S)であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0083】
<実施例4>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(多量合成))
実施例3において原料のポリアクリロニトリル粉末を150gに増やして合成を行った際に、内径4.5mmφの排気ガス出口(排出管(2))に硫黄の閉塞が起きたため、ガス出口を10mmφに拡張して原料の量を増やして実験を行った。
【0084】
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末647.9gと硫黄(細井化学工業 200メッシュ、99.9%)925.0gをビニール袋に計り取り、手で揉んで混合したものを原料とした。
【0085】
2.装置
図1〜3及び図5〜7に示す構成を備えた装置を使用した(以下の符号は図と対応)。但し、後段容器(41)に相当する三角フラスコは2つとした。
ムライト反応容器(内径113mmφ、長さ410mm)を反応容器(1)として用い、この反応容器の底に原料(M)を入れた。気密な雰囲気となる水冷フランジを備えたステンレス容器(内径120mmφ、長さ450mm)にムライト反応容器をいれた(図2参照)。スエジロックの口が4つと、内径10mmφの排気ガス出口(排出管(2))を取り付けたステンレス製の蓋(外径6mmφ、厚さ10mmt)(12)を8本のボルトでステンレス容器に取り付けた。熱電対が格納できる一端が閉じたアルミナ管(SSA-S、ニッカトー製、外径4mmφ、内径2mmφ、長さ500mm)に熱電対(K種)(20)を入れて原料に接触させ、フッ素樹脂管とスエジロック製ステンレスフェルールによりスエジロックの口1に締め付けて固定した。スエジロック口2に窒素ガス導入管(8)を取り付けた。さらにスエジロック口3に真空排気ラインと圧力計(10)を取り付けた。残りのスエジロック口4に予備の排気ガス口とした。熱電対以外のスエジロック口にはストップコックを設けた。
排気ガス出口に内径20mmφのフッ素樹脂線で補強したビニールホース(排出管(2))を取り付け、ステンレス製ホースバンドで締めた。ホースのもう一方の先をアルミナ管(外径20mmφ、長さ100mm)にステンレス製ホースバンドで締めて取り付け、アルミナ管を16号のシリコーンゴム栓にあけた孔に入れた。シリコーンゴム栓にはフッ素樹脂管(外径6.3mmφ、内径3mmφ、長さ150mm)2本を通した。このシリコーンゴム栓を、500gの水酸化ナトリウムを水に溶かして1000mlにしたアルカリ水溶液と攪拌装置(34)にて駆動される40mmの攪拌子を入れた容積2Lの三角フラスコ(主フラスコ)(前段容器(30))に取り付けた。シリコーンゴム栓のフッ素樹脂管2本のうち1本はガスの出口とし、もう一本はスエジロック口4の予備排気口とビニールパイプ(外径8mmφ、内径6mmφ、長さ1000mm)で接続した。
水酸化ナトリウム50gを水300mlに溶かしたアルカリ水溶液を捕集容器となる三角フラスコ(容量1000ml)にいれた。フッ素樹脂管(外径6.3mm、内径2mm、長さ150mm)2本を、シリコーンゴム栓に2つの孔を穿孔してフラスコに取り付け、うち1本の先端は内部の水溶液に5mm浸し、ガス導入管とし、水溶液に浸していないもう1本の管をガス出口管とした。このフラスコとゴム栓およびフッ素樹脂管を3組用意し、これら3つのフラスコをフラスコA、B、Cとした。反応容器から突出する排気ガス出口(排出管(2))とフラスコAのガス導入管をポリエチレン配管(10mmφ、内径8mmφ、長さ50cm)(排出管(2))でつなぎ、接続部分を銅線で縛って補強した。フラスコAのガス出口管(連結管(32))とフラスコBのガス導入管(連結管(33))、およびフラスコBのガス出口管(連結管(33))とフラスコCのガス導入管(連結管(33))を同様に接続し、フラスコCのガス出口管を外への排気管に接続した。
反応容器(1)内部に窒素ガス100ml/分を送り込んで、フラスコA、B、Cのバブリングにより排気に漏れがないことを確認した。
【0086】
3.硫化熱処理工程
反応容器(1)を収容したステンレス容器を電気炉(5)に入れて下から400mmまでの部分(加熱部(6))を加熱した(図1参照)。180分かけて原料温度400℃まで過熱し、電気炉(5)の加温を停止した後、原料温度が420℃以上に上がらなくなった時点で起伏機構(11)を利用して電気炉(5)と共に反応容器(1)を倒した。
【0087】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物(C)を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した(図3参照)。この傾斜状態にて粗生成物の加熱を続けて粗生成物の温度を400℃に2時間保った後、電気炉(5)の電源を切った。この状態のまま温度を低下させた後、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1021.9gであった。
加熱中、粗生成物(C)から蒸気が発生し、蒸気は反応容器(1)の口に向けて流下して加熱されていない低温部分(非加熱部(7))で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0088】
<実施例5>
(粗生成物からの未反応硫黄の除去(精製))
1.粗生成物の生成
ポリアクリロニトリル粉末100.5gと硫黄(細井化学工業 200メッシュ、99.9%)350.6gをビニール袋に計り取り、手で揉んで混合したものを原料とし、実施例3と同じ方法により粗生成物を合成した後、電気炉と反応容器を倒さずに全体を冷却し、単体の硫黄を含んだ264.5gの粗生成物を得た。
【0089】
2.装置
未反応硫黄除去装置として、図4に示す構成を備えた装置を使用した。
以下、使用した未反応硫黄除去装置の構成を説明する(以下の符号は図と対応)。
アルミ箔で作成した長さ300mmのボート(船形容器)(56)に、カーボンペーパー(東レ、TGP-H-030、250mmL×25mmW)3枚をボートの底面、および2つの側面に置いて中敷とし、その上に、上記生成した粗生成物(C)104.0gを均一な厚さに盛った。ボートを石英管(外径50mmφ、内径45mmφ、長さ600mm)(処理容器(40))内に入れ、硫黄ガスの逆流と凝結を防ぐために、サンプルビン(外径40mmφ、長さ90mm)(逆流防止部材(55))を入れた。窒素ガスの入口を持つシリコーンゴム栓(No15)(蓋(49))を、サンプルビンを入れた側にはめ込んだ。一方の口には、熱電対(K種)(52)を入れたアルミナ保護管(ニッカトー製、SSA-S、外径4mmφ、内径2mmφ、長さ400mm)とガスの出口となるフッ素樹脂管(外径6.3mm、内径3mm、長さ150mm)(排出管(46))を入れたシリコーンゴム栓(蓋(48))を取り付けた。
【0090】
3.精製工程(単体硫黄除去工程)
粗生成物を入れた石英管(反応容器(1))を、3度傾けた管状電気炉(モトヤマ製、型式MTKW540)(45)に据え付けることにより、蓋(48)が蓋(49)より低位置となるように傾斜させた。供給管(50)から窒素ガスを毎分200ml流し、加熱部(42)内の温度を300℃とし、4時間保温した。ガスの出口(排出管(46))からポリエチレン管を延ばして捕集容器(47)に接続し、出てくるガスを捕集容器(47)に導いて、水酸化ナトリウム10gを200mlの水に溶かしたアルカリ水溶液にバブリングさせ、粗生成物に取り込まれていた硫化水素を捕集した。
石英管を電気炉(5)から取り出し、室温まで冷却後、黒い霧状に飛散しやすい微粉末の有機硫黄系正極材料68.1gを得た。
【0091】
<実施例6>
(粗生成物の合成時に発生する硫化水素の捕集)
実施例3と同様にしてポリアクリロニトリル100.5gと硫黄350.6gから粗生成物を合成した際、反応容器(1)外に放出される硫化水素を3つの三角フラスコ(捕集容器)を用いて捕集した。排気ガスの最初に入るフラスコから順にA、B、Cとし、それぞれの三角フラスコに水300mlと水酸化ナトリウム86.2g、30.1g、12.3gを入れ、それぞれ三角フラスコと内部の溶液を含めた全体の質量を記録した。シリコーンゴム栓に2箇所6mmφの貫通孔を穿孔し、それぞれの孔に長さ200mm、外径6.3mmφ、内径3mmφのフッ素樹脂チューブ(排出管(2))を通した。反応容器(1)からの排気ガスを最初に導く三角フラスコ(前段容器(30))には攪拌子を入れ、前述のシリコーンゴム栓をはめこみ、栓が抜けないように銅線で三角フラスコにしばりつけた。反応容器(1)からの排気ガスはポリエチレンチューブ(10mmφ、内径8mmφ、長さ800mm)(排出管(2))により三角フラスコ(前段容器(30))に導き、ポリエチレンチューブをフッ素樹脂チューブの外側にはめ込んで、接続部を銅線で縛り付けた。シリコーンゴム栓を通るフッ素樹脂チューブの長さを調整し、最初の三角フラスコ(前段容器(30))は液面より上に開口部を位置決めして、排気ガスを水酸化ナトリウム水溶液に吹き付けるようにした。シリコーン栓に取り付けたもう一本のフッ素樹脂チューブをガスの出口として、二つ目の三角フラスコのフッ素樹脂チューブとの間をポリエチレンチューブ(外径8mmφ、内径6mmφ、長さ400mm)(連結管(33))でつなぎ、接続部を銅線で縛り付けた。三つ目の三角フラスコも二つ目の三角フラスコから同様に接続した。三つ目と二つ目の三角フラスコ(後段容器(31))では、シリコーンゴム栓を通るフッ素樹脂チューブ(連結管(33))の長さを調整し、液面より下に開口部を位置決めして、排気ガスを水酸化ナトリウム水溶液にくぐらせる(バブリングさせる)ようにした。
【0092】
ポリアクリロニトリルの組成式はC3NH3(式量53)であり、硫黄により水素原子が引き抜かれてC3NHに変化すると考えられる。約100gのポリアクリロニトリルから約60gの硫化水素が発生すると予想された。
最初の三角フラスコの重量増加は75.4gであり、2つめが4.2g、3つ目が0.5gであった。重量増加の合計は予想より大きく、アンモニア臭等もしたことから、アンモニアや硫化水素以外の硫黄化合物も排気され捕集されたと考えられる。硫化水素の発生予想量は約2モルであり、フラスコAの水酸化ナトリウムも約2モルであって、大半の硫化水素がフラスコAで捕集されたことを考えると、次の反応が起きていると考えられる。
H2S+NaOH=NaHS +H2O
【0093】
フラスコAからはNaHSと考えられる透明柱状結晶が多数析出した。このことから、予想される硫化水素発生量1モルに対し、1モルの水酸化ナトリウムが捕集に最低必要な量であることがわかった。さらに、ポリアクリロニトリルについては、C3NH3+S=C3NH+H2Sの反応が起きていると推察され、これにNaOHを含めた式、C3NH3+S+NaOH=C3NH+NaHS+H2Oから、ポリアクリロニトリル:水酸化ナトリウム=53:40という比率で硫化水素の捕集のための水酸化ナトリウムを用意する必要があることがわかった。
また、フラスコAの捕集量が多く、3つ目のフラスコでの捕集量が低いことから、捕集量に合わせて水酸化ナトリウムの量をAで硫化水素の予想量程度に多く、B、Cで少なく加減できることがわかった。ガスの発生状況を見るに、反応が最も激しい時点での2つ目のフラスコで比較的激しく気泡が見られるため、外部への硫化水素のわずかな漏洩をも防ぐためには3つ目のフラスコを設けることが好ましいと考えられる。
【0094】
<実施例7>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(活性炭−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル3.0069gと炭酸ナトリウム(関東化学製99%)9.0819gをN, N-ジメチルホルムアミド(キシダ化学)40mlを加えて混合後、乾燥機中115℃で13時間溶媒を飛ばし、ベークライト樹脂のようになったものを粉砕した。アルミナ坩堝(ニッカトー製P-6)にいれアルゴン100ml/分を通じ、750℃で2時間熱処理を行った。生成物を水と混合後ろ過し、活性炭を得た。この活性炭1.1994gに硫黄5.0596gを加え、乳鉢で混合したものを原料とした。
【0095】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0096】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が400℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0097】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を400℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1.6051gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0098】
<実施例8>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(活性炭−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
活性炭(関西熱化学社製、マックスソープ(mSC-30))1.007gに硫黄5.0002gを加え、乳鉢で混合したものを原料とした。
【0099】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0100】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が400℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0101】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を400℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は4.454gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0102】
<実施例9>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(アセチレンブラック−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
アセチレンブラック(電気化学製、デンカブラック)1.0112gに硫黄5.0103gを加え、乳鉢で混合したものを原料とした。
【0103】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0104】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が411℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0105】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を400℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1.7023gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0106】
<実施例10>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(瀝青−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
瀝青(大阪ガスケミカル)2.2479gに硫黄10.4630gを加え、乳鉢で混合したものを原料とした。
【0107】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0108】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度320℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が367℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0109】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は3.1466gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0110】
<実施例11>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(ゼラチン−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
ゼラチン(ハウス食品工業)1.5078gに硫黄5.0063gを加え、チャック式ビニール袋内で混合したものを原料とした。
【0111】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0112】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が412℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0113】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に3時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1.2309gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0114】
<実施例12>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(ポリエチレン−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
ラップフィルムから切り出したポリエチレンフィルム1.0055gと硫黄5.0058gを原料とした。
【0115】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0116】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が411℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0117】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に3時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1.5522gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0118】
<実施例13>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(アクリル−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
細かく切ったアクリル繊維1.0023gと硫黄4.93178gを原料とした。
【0119】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0120】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が415℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0121】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に3時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は0.8499gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0122】
<実施例14>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(木炭−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
乳鉢ですり潰した木炭0.9896gと硫黄4.3824gを原料とした。
【0123】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0124】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が416℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0125】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は0.5462gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0126】
<実施例15>
(二次電池用有機硫黄系正極材料の製造(パラフィン−硫黄コンポジットの合成と脱硫黄))
1.原料の調製
ロウソクのロウ1.0022gと硫黄5.0004gを原料とした。
【0127】
2.装置
実施例1と同様の装置を使用した。
【0128】
3.硫化熱処理工程
原料を反応容器に入れ、窒素100ml/分を通じ、電気炉により約40分かけて原料温度380℃まで加温した。電気炉の加温を停止した後、原料温度が402℃以上に上がらなくなった時点で電気炉と共に反応容器を倒した。
【0129】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
倒した反応容器を、容器内に生成した粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口(反応容器の上方部)が下になるように傾斜状態で固定した。この傾斜状態にて、粗生成物が収容された部分を加熱し、粗生成物の温度を300℃に2時間保った後、温度を下げて、反応容器内の生成物を取り出した。得られた生成物(二次電池用有機硫黄系正極材料)は1.2334gであった。
加熱中、粗生成物から蒸気が発生し、蒸気は反応容器の口に向けて流下して加熱されていない低温部分で凝結した。凝結物は単体硫黄であった。反応容器を粗生成物が高い位置にあるように傾斜させていたことにより、凝結した硫黄が反応容器内に生成した粗生成物に流れ下ることはなかった。
【0130】
<比較例1>
(石英管を用いた合成)
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末20gと硫黄(アルドリッチ、99.9%)70gを乳鉢で混合したものを原料とした。
【0131】
2.装置
下部が半球状に閉じた石英管(内径60mmφ、長さ380mm)を反応容器として用い、この反応容器の底に原料を入れた。この容器の蓋に、シリコーンゴム栓(No15)にコルクボーラーで8mmφの穴2つと6mmφの穴1つをあけたものを取り付けた。これに端の閉じたアルミナ管(ニッカトー製、材質SSA-S、外6mmφ、内径4mmφ、長さ400mm)を取り付け、このアルミナ管の内部にK種熱電対をいれ、原料温度を測定し、電気炉を温度制御に用いた。別にアルミナ管(ニッカトー製、材質SSA-S、外8mmφ、内径5mmφ、長さ80mm)2本を上述のシリコーンゴム栓に刺し、それぞれ窒素導入管および排気管とした。
フッ素樹脂管(外径8mm、内径6mm、長さ150mm)を2本ずつ、シリコーンゴム栓に2つの孔を穿孔して取り付け、これを3組、3本の三角フラスコ(各容量500ml)に取り付けた。水酸化ナトリウム20gを水300mlに溶かしたアルカリ水溶液を各々の三角フラスコに約100mlずつ注いだ。反応容器から突出する排気口にシリコーンゴム配管(10mmφ、内径8mmφ、長さ50cm)をつなぎ、もう一端を三角フラスコの2つあるフッ素樹脂管につなぎ、もう一方のフッ素樹脂管から別の三角フラスコにシリコーンゴム管をつないで、3つの三角フラスコをガスが直列に通過するようにシリコーンゴム管を配管した。3つの三角フラスコは、それぞれガスが入ってくる管をアルカリ水溶液に浸して、排気ガスがバブリングすることで硫化水素を捕集できるようにした。
【0132】
3.硫化熱処理工程
反応容器内部に2時間窒素ガス100ml毎分を送り込んでガス置換を行い、窒素流入管をピンチコックホフマン式で閉じた。反応容器を電気炉に入れ、反応容器の底から250mmまでを加熱した。
加熱から20分後原料温度が180℃に達した時点から硫化水素ガスが多く生じ、臭気がしはじめた。シリコーンゴム管を硫化水素は透過し、検知器を近づけるとその表面で10ppmを示した。240℃で硫化水素ガスの発生が顕著になり、反応容器上部に硫黄の付着が多くみられた。直後硫黄が出口配管を閉塞し、反応容器内部に溜まった硫化水素ガスの圧力でシリコーンゴム栓が反応容器から外れて硫化水素が漏洩し、硫化水素検知器が20ppmを超えた警報を鳴らした。防毒マスクをして閉塞部分の硫黄を除去し、シリコーンゴム栓を反応容器にはめ込んで作業を継続した。室内に漏れ出した硫化水素はダクトで吸引して屋外に排気した。380℃で電気炉の加温を停止した後、原料温度が420℃以上に上がらなくなった時点で電気炉から反応容器を取り出し、石英綿の上に横にして寝かして冷まし、凝結した硫黄が粗生成物に流れ下らないように、粗生成物を高い位置に保てるよう反応容器の口が下になるよう傾けて冷ました。得られた粗生成物は、脆い塊60gであった。
【0133】
4.精製工程(単体硫黄除去工程)
得られた粗生成物は、合成直後に反応容器と電気炉を傾斜して加温することで行う硫黄の除去を行わなかったため単体の硫黄を多く含み、そのままでは正極材料として用いることができない。このため塊を粉砕し、2gずつ真空処理容器中で真空下250℃2時間加熱して硫黄を除去した。2gの粗生成物からは約1gの有機硫黄系正極材料が得られた。
【0134】
<比較例2>
(ロータリーキルンを用いた合成)
1.原料の調製
ポリアクリロニトリル粉末5gと硫黄(キシダ化学、99%)17.5gを混合したものを原料とした。
【0135】
2.装置
原料を回転しながらむらなく焼成する一般的な合成手法に用いられるロータリーキルンを使用した。
石英管容器(円筒形、内径74mmφ、外径80mmφ、長さ180mm、両端をそれぞれ30mmφの開口をもつ石英板を貼り付けてある)を反応容器として用い、この容器に原料を入れた。この容器を水平に毎分1回転する石英炉心管に2箇所の開口部が炉心管と同じ方向になるように入れた。炉心間のガスの出口にビニール管を接続し、この管を40gの水酸化ナトリウムを300mlの水に溶かしたアルカリ水溶液の入った三角フラスコに浸し、排気ガスをバブリングさせるようにした。三角フラスコの出口に活性炭吸収装置の吸引口を設置し、捕集し切れなかった硫化水素を捕集し、排気を屋外に送るようにした。
【0136】
3.硫化熱処理工程
反応容器内に窒素ガスを100ml/分で流し、温度を1時間かけて400℃まで上げた。
温度が400℃に達した後、温度を下げ生成物を取り出した。得られた生成物は6.4gであった。十分に硫黄を含んだ正極活物質であれば8gの質量が期待できるが、生成物は硫黄不足であり、性状が本来の微粉末とは異なっており、粒子が凝集していた。用いた硫黄が反応に適当な温度である350℃より前に多くが飛び去ってしまったためと考えられる。さらに、反応後硫黄が付着した炉心管の清掃が困難であった。
【0137】
<実施例及び比較例のまとめ>
上記したように、実施例(本発明)によれば、有機硫黄系正極材料製造時に発生する危険な硫化水素を確実に捕集して漏洩を完全に防ぐことができた。また、未反応硫黄が除去された高容量な有機硫黄系正極材料を効率良く合成することができた。
一方、比較例では、硫化水素の漏洩が発生し或いは装置系にて充分に捕集することができなかった。また、未反応硫黄の除去のためには真空下での加熱処理が別途必要となり、高容量な有機硫黄系正極材料を効率良く合成することはできなかった。
【0138】
以下、実施例1〜5及び7〜15と、比較例1及び2で得られた有機硫黄系正極材料について、リチウムイオン二次電池の正極活物質としての性能を確認した試験例を示す。
【0139】
<試験例>
1.電極作製
得られた有機硫黄系正極材料3.0mgとPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)2.7mgとアセチレンブラック0.3mgを、メノウ乳鉢を用いてシート状になるまで手で混練し、直径が10mm程度の円板状となるように形状を整えた。得られた円板状の電極シートを、アルミニウムメッシュ(#100メッシュ)を直径13mmの円形に打ち抜いたものの上に乗せて、卓上ハンドプレス機で、20MPaの圧力で加圧して圧着し一体化することにより、正極用電極を作製した。アルミニウムメッシュは、電極の集電性を高める役割を担う集電体である。一方、負極には、直径13mm、厚さ0.5mmの金属リチウムを用いた。
【0140】
2.電池作製
評価用の電池として2032型コイン電池を組み立てた。セパレータにはポリプロピレン製微多孔膜(Celgard2400、Celgard社製)を用いた。電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比で1:1に混合したものに、1mol/Lの濃度になるようにLiPF(六フッ化リン酸リチウム)を溶解させたものを用いた。
常法に従い、上記した有機硫黄系正極材料を用いた正極とリチウム金属負極とを対向させ、両者が直接接触しないように、その間に電解液をしみ込ませたセパレータを挟み、ステンレス鋼製の平板と板バネと合わせて、電池缶内に配置させ、蓋をのせ、電池缶と蓋をかしめて密封することにより、電池を作製した。
【0141】
3.充放電試験
作製された電池について充放電試験を行った。充放電試験時の電流密度は60mA/gとした。これは、有機硫黄系正極材料が600mAh/gの電気容量を有する場合に、10時間かけて充電又は放電することになる、十分に速度の遅い充放電速度での試験とするためであった。電流値を大きくすると、抵抗が大きい場合に、本来の電気容量を発現できない場合があるため、遅い充放電速度での試験を行った。電圧範囲は1.0から3.0V vs.Li/Liで試験を行った。試験温度は30℃とした。
充放電試験の結果を表1に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
4.電池評価結果
表1に示すように、本発明の装置及び方法により得られた有機硫黄系正極材料を用いた殆どの実施例において、リチウムイオン二次電池の正極材料として、従来の遷移金属酸化物正極では実現困難な250mAh/g以上の大きな電気容量が得られた。
尚、比較例1の方法により得られた有機硫黄系正極材料を用いた場合にも大きな電気容量が得られたが、上述した通り、比較例1の方法では多量の硫化水素ガスが発生するため、危険性が非常に高い。また比較例2の方法は、未反応硫黄の除去のために真空下での加熱処理が別途必要であるため、有機硫黄系正極材料を多量に合成するには不向きである。
このことから、本発明の装置及び方法は、大きな充放電容量が得られる有機硫黄系正極材料を、安全かつ環境に配慮して迅速かつ多量に合成することができる点において、従来技術に比して優れた方法及び装置であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明は、主としてリチウムイオンまたはナトリウムイオン二次電池用の正極活物質として有用な有機硫黄系活物質を製造するために利用される。
【符号の説明】
【0145】
1 反応容器
2 排出管
3 捕集装置
4 未反応硫黄除去装置
5 加熱源(電気炉)
6 加熱部
7 非加熱部
9 障害物
11 起伏機構
30 前段容器
31 後段容器
32 連結管
34 攪拌装置
40 処理容器
41 不活性ガス供給手段
42 加熱部
43 非加熱部
45 加熱源(電気炉)
C 粗生成物
L 硫化水素を吸収可能な液体
M 原料
S 硫黄(単体硫黄)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7